JP2004338259A - インクジェット記録方法及びインクセット - Google Patents

インクジェット記録方法及びインクセット Download PDF

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Takashi Imai
貴志 今井
Yasuhiro Nito
康弘 仁藤
Shinya Mishina
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Abstract

【目的】多孔質インク受容層を有する光透過媒体上に画像を形成した場合に、耐湿性に優れ、マイグレーションによる画像にじみが生じない、高い階調性を有する高品質画像が得られ、医療用の診断画像や参照画像に適した記録物の形成が可能なインクジェット記録方法、及び該方法に用いるインクセットの提供。
【構成】色材を含むインクを被記録媒体上に付与する工程(I)と、該色材との反応性を有する物質を含む液体組成物を被記録媒体上に付与する工程(II)とを有するインクジェット記録方法であって、該被記録媒体が基材上に多孔質のインク受容層が形成されてなる光透過媒体であり、上記液体組成物のみによる100%デューティの記録部と未記録部とのCIELAB色空間における色差ΔEが3以下であるインクジェット記録方法、及び該方法に用いるインクセット。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、特に、耐湿性に優れた透過画像を簡易に得る技術に関し、とりわけ、医療分野における診断用及び参照画像等のように、高階調性のモノトーン透過画像の提供が要求されるシステムに好適に利用できる、インクを光透過媒体に吐出して画像形成を行なうインクジェット記録方法、及び該記録方法に用いるインクセットに関する。
【0002】
【従来の技術】
インクジェット記録方法は、インクの小滴を飛翔させ、紙等の被記録媒体にインクを付着させて記録を行うものである。これらの中でも、吐出エネルギー供給手段として電気熱変換体を用い、熱エネルギーをインクに与えて気泡を発生させることにより液滴を発生させる方式のインクジェット記録方法(以下、サーマルインクジェット記録方法という)によれば、記録へッドの高密度マルチオリフィス化を容易に実現することができ、高解像度及び高品位の画像を高速で記録することができる(例えば、特許文献1〜3参照)。かかるインクジェット記録方法が各種記録の出力手段として普及するに伴い、近年では、インクジェット記録物に対して、銀塩写真と同レベルの、より高い画質を求める要求が強くなっており、インクジェット記録画像の画像濃度を高めること、色再現領域を広げること、更には、記録物の色の均一性を向上させること、に対する技術的な要求が非常に高くなっている。
【0003】
そのような状況の中、インクジェット記録方法によって得られる記録物の品質の更なる向上を図るために、被記録媒体についての開発も進んでおり、その一つに基紙表面に、充填材やサイズ剤を塗工する方法の提案がある。例えば、充填材として色材を吸着する多孔質微粒子を基紙に塗工し、この多孔質微粒子を含有してなるインク受容層を形成する技術が開示されており、これらの技術を用いた被記録媒体として、インクジェット用コート紙や透過シートが発売され、使用されている。
【0004】
これに対して、従来のインクジェット記録方法に用いられるインクとしては、色材に水溶性染料を使用し、更に、ノズル内でのインクの乾燥防止、ノズルの目詰まり防止等の目的で、インク中に、グリコール等の水溶性高沸点溶剤が含有されているものが一般的である。このような水性染料インクを用い、上記したようなインク受容層が形成された被記録媒体上に記録を行った場合には、記録後に印刷物を高湿度下に放置しておくと、インク中に含まれる水溶性高沸点溶剤がインク受容層に残った状態となるので、水溶性染料が被記録媒体中で移動する現象、即ち、マイグレーションが発生し、記録画像が滲んでしまうという問題を生じる場合がある。特に、上記したようなインク受容層が非吸収性の基材上に形成されてなる被記録媒体に記録を行なった場合には、インク受容層が充分に厚く塗工されていない限りは、インクが横方向に広がりやすくなるため、マイグレーションはより顕著に現れる。
【0005】
ここで、医療分野における、レントゲン写真等の診断画像や、その参照画像のハードコピーを得る方式としては、従来より、現像液による現像工程を含むウェット処理方式による銀塩写真が主流である。しかしながら、ウェット処理方式では現像処理過程で廃液が生じるため、その廃液の回収や減量、更には、その再資源化が課題となっている。そのため、近年では、ウェット処理方式から現像工程が不要であるドライ処理へのニーズの高まりが顕著となり、レーザー露光熱現像方式やサーマルヘッド方式、レーザーヒートモード方式といったドライ処理の方式が急速に普及してきている。
【0006】
これに伴い、医療分野において利用されているレントゲン写真等のモノトーン画像の形成に、インクジェット記録方式を適用することについての提案が数多くなされており、例えば、同一色相で色材濃度の異なる複数のインクからなる濃淡インクを用い、従来の面積階調に加えて濃度階調を用いることで、高い階調性を出すことについての提案がある。その一つとして、被記録媒体上に濃度の異なる2種以上の黒色インクを用いることを特徴とするインクジェット記録方法に関する発明が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0007】
上記の場合においても、前記した、非吸収性の基材上に多孔質微粒子を含むインク受容層が形成されてなる光透過媒体を用いることは、より高品位の画像が得られるため好ましい。しかし、先に述べたように、この場合には、記録後に印刷物を高湿度下に放置すると前記したマイグレーションが顕著に現れるという問題がある。
【0008】
更に、医療用の、レントゲン写真等の診断画像や参照画像については、シャウカステンといわれる、バックライトで画像を明るく照らし、透過画像により患部を診断することが行なわれている。このため、一般的な、反射光で観察される紙等へのインクジェット印字物よりも、マイグレーションによる画像のにじみ等がより視認されやすい、という医療分野に特有な事情もある。これに対して、画像のにじみは、医療分野においては、誤診に繋がることも考えられるため、特に、形成された画像の耐湿性、即ち、マイグレーションの抑制が重要視されている。
【0009】
【特許文献1】
特公昭61−59911号公報
【特許文献2】
特公昭61−59912号公報
【特許文献3】
特公昭61−59914号公報
【特許文献4】
特開平11−048502号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、多孔質のインク受容層を有する光透過媒体上に画像を形成した場合に、画像の耐湿性に優れ、マイグレーションによる画像のにじみ等が生じない、高い階調性を有する高品質の画像が得られ、特に、医療用の診断画像や参照画像に適したインクジェット記録物の形成が可能なインクジェット記録方法、及び該方法に使用できるインクセットを提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記した目的は、下記の本発明によって達成される。即ち、本発明は、[1]色材を含むインクを被記録媒体上に付与する工程(I)と、該色材との反応性を有する物質を含む液体組成物を被記録媒体上に付与する工程(II)と、を有し、前記工程(I)及び(II)が、該被記録媒体上で該インクと該液体組成物とが接するように行われるインクジェット記録方法において、該被記録媒体が、基材上に多孔質のインク受容層が形成されてなる光透過媒体であり、該光透過媒体に上記液体組成物のみを、インクジェット記録方式で、体積4〜5plの滴として解像度1,200dpi、100%のデューティで付与したときの記録部と、上記光透過媒体の未記録部とのCIELAB色空間表示系における色差ΔEが、3以下であることを特徴とするインクジェット記録方法である。
【0012】
上記したインクジェット記録方法の好ましい形態としては、下記の[2]〜[5]が挙げられる。[2]前記色材を含むインクに、色材濃度の異なる複数の濃淡インクを用い、前記液体組成物は、上記濃インク中の色材とのみ反応性を有する物質を含むものであり、且つ、該液体組成物が少なくとも上記濃インクと液体状態で接するようにインク及び液体組成物の付与が行なわれる上記[1]の構成のインクジェット記録方法。[3]前記濃インクは、インク中の色材濃度が2質量%以上であり、前記淡インクは、色材濃度が2質量%未満である上記[2]の構成のインクジェット記録方法。[4]濃淡インクが黒色である上記[1]〜[3]の何れかの構成のインクジェット記録方法。[5]前記工程(I)を行った後に、前記工程(II)を行う上記[1]〜[4]の何れか構成のインクジェット記録方法。[6]前記工程(II)を行った後に、前記工程(I)を行う上記[1]〜[4]の何れか構成のインクジェット記録方法。
【0013】
本発明の別の好ましい実施形態は、[7]基材上に多孔質のインク受容層を有する光透過媒体へのインクジェット記録に用いられるインクセットであって、色材を含むインクと、該色材との反応性を有する物質を含む液体組成物と、を含み、該液体組成物は、該光透過媒体上に該液体組成物のみを、インクジェット記録方式で、体積4〜5plの滴として解像度1,200dpi、100%のデューティで付与したときの記録部と未記録部とのCIELAB色空間表示系における色差ΔEが、3以下であるものであることを特徴とするインクセットである。
【0014】
本発明の別の好ましい実施形態は、[8]上記インクとして色材濃度の異なる濃インク、淡インクの少なくとも2種のインクを独立に有し、上記液体組成物は、上記濃インク中の色材とのみ反応性を有する物質を含むものである上記[7]の構成のインクセットである。上記したインクセットの好ましい形態としては、[9]前記濃インクは、インク中の色材濃度が2質量%以上であり、前記淡インクは、インク中の色材濃度が1質量%以上2質量%未満であり、且つ、前記極淡インクは、インク中の色材濃度が1質量%未満である上記[8]の構成のインクセットが挙げられる。
【0015】
【発明の実施の形態】
次に、好ましい実施の形態を挙げて本発明を更に詳しく説明する。本発明者らは上記した従来技術の課題を解決すべく、多孔質のインク受容層を有する光透過媒体を用いた場合におけるインクジェット記録画像の耐湿性向上について種々の検討を重ねた結果、複数の色材濃度の異なる濃淡インクを用いてトーンの異なる画像を形成する場合において、インクに用いた色材と、該色材と反応性を有する物質を併存させ、これらが反応し得る状態になるように(例えば、液−液状態で接触させる)構成とすれば、形成された画像を高湿度下に放置した場合においても、マイグレーションによるにじみの発生が抑制された画像となることを見出した。この理由は、画像形成の際に、インク中の色材と、該色材と反応する物質(以下、反応性物質という)とが、例えば、液−液状態で接触すると、色材が光透過媒体のインク受容層中で凝集し、この結果、高湿度下においても色材が被記録媒体中を移動し難くなるためであると推測される。
【0016】
更に、本発明者らの検討によれば、光透過媒体への記録画像形成において、上記した反応性物質を含む液体組成物を使用すると、該光透過媒体の、特に色材を含むインクが付与されない未記録部へ液体組成物が付与された場合に、紙等の光反射媒体上へ記録を行なった場合よりも白濁等の色味変化が目立ちやすいという問題があることがわかった。これに対しては、使用する液体組成物を設計する場合に、画像形成に使用する光透過媒体上に液体組成物のみを、インクジェット記録方式で、体積4〜5plの滴として解像度1,200dpi、100%のデューティで記録した記録部と、未記録部との、CIELAB色空間表示系における色差ΔEが3以下となるようにすることが有効であることを見出した。
【0017】
以上の知見から、本発明では、先ず、色材を含むインクを被記録媒体上に付与する工程(I)と、反応性物質を含む液体組成物を被記録媒体上に付与する工程(II)と、を有するインクジェット記録方法において、該被記録媒体が、基材上に多孔質インク受容層を有する光透過媒体である場合に、上記液体組成物のみによる記録部と未記録部とのCIELAB色空間表示系における色差ΔEが3以下となるように構成する。そして、より好ましくは、上記構成において、更に、色材を含むインクに、色材濃度の異なった複数の濃淡インクを用い、且つ、液体組成物に含有させる反応性物質として、複数のインクのうちの濃インクに用いられている色材とのみ反応性を有するものを用いる。本発明者らの検討によれば、この際に、インク中の色材濃度が2質量%以上のものを濃インク、インク中の色材濃度が2質量%未満のものを淡インクに分類し、この濃インクによって形成された画像部分において選択的に、該インク中の色材と反応性物質とを反応させて色材を凝集させる構成とすれば、マイグレーションの抑制に対して十分な効果が得られることがわかった。これは、色材濃度が2質量%以上のインクの100%デューティのベタ印字部のOD値は、概して1.0以上と高く、後述するように、マイグレーションがより顕著に確認される箇所であるので、該濃インク画像の部分において選択的にマイグレーションの発生を抑制することで、有効な手段となり得たものと考えられる。
【0018】
上記濃淡インクを用いる構成の本発明にかかるインクジェット記録方法を実施する場合には、下記に挙げる構成を有するインクセットを用いることが好ましい。先ず、第一の形態のインクセットとしては、色材を含むインクとして複数の濃淡インクを用い、これらと併用する液体組成物として、これらの濃淡インクとは別に、色材を含まない液体組成物であって、上記濃淡インクのうちの濃インク中の色材とのみ反応する物質を含む構成のものが挙げられる。又、第二の形態のインクセットでは、色材を含むインクとして、濃インク、淡インク及び極淡インクの少なくとも3種の濃淡インクを用い、その中の極淡インクを、本発明で使用する液体組成物となるように構成する。即ち、極淡インクの色材に、上記濃インクに用いる色材と異なるものを用い、且つ、該極淡インク中に、濃インク中の色材とのみ反応する物質を含有させた構成とする。第二の形態のインクセットにおいては、インク中の色材濃度が2質量%以上のものを濃インクとし、インク中の色材濃度が1質量%以上2質量%未満であるものを淡インクとし、且つ、インク中の色材濃度が1質量%未満であるインクを極淡インクとすることが好ましい。
【0019】
上記に挙げた第一及び第二の形態のインクセットを用いた、多孔質インク受容層を有する光透過媒体に記録画像を形成するインクジェット記録方法によれば、濃淡インクを使用することによって高い階調性を有する画像を形成することができると同時に、形成された画像は、高湿度下に放置した場合においてもマイグレーションによる画像にじみを発生することがなく、インクジェット記録による光透過画像の耐湿性の向上の達成ができる。
【0020】
即ち、複数の色材濃度の異なる濃淡インクを用いて、トーンの異なる透過画像を形成する際に、濃インクに用いた色材と反応性物質とを併存させ、これらが反応し得る状態になるようにすれば(例えば、濃インク中の色材と、該色材と反応する物質とが液−液状態で接触させる)、先に述べたように、上記色材が光透過媒体のインク受容層中で凝集し、高湿度下においても色材が被記録媒体中を移動し難くなるため、マイグレーションによるにじみの発生が抑制された画像となる。又、この場合に、マイグレーションは、画像濃度の高い箇所に目立って生じるため、画像にじみの発生を抑制する手段としては、上記したように、この画像濃度の高い箇所に主に用いられる濃インク中の色材に対してのみ反応する物質を併存させた状態で画像を形成すれば、十分な効果が得られる。
【0021】
又、上記した第一の形態のインクセットを用い、基材上に多孔質のインク受容層が形成されてなる光透過媒体に画像を形成した場合は、画像の耐湿性を向上させることができると同時に、得られる画像の粒状感を低減し、画質向上を実現することも可能となる。レントゲン写真等の医療用診断及び参照画像は、光透過画像であり、特に、淡インク印字部における粒状感が目立ち、これにより画質が損なわれる場合がある。ここで、粒状感というのは、被記録媒体上に印刷を行ったときに、インク液滴の粒が見えることをいう。本発明者らの検討によれば、色材を含まない液体組成物を用い、淡インク印字部の同画素位置に液体組成物を印字する構成とすることで、粒状感を低減でき、画質向上の実現が可能となる。
【0022】
又、上記した第二の形態のインクセットを用い、基材上に多孔質のインク受容層が形成されてなる光透過媒体に画像を形成した場合は、画像の耐湿性を向上させることができると同時に、特に、画像低濃度部において、インクの打ち込み量の増加によって生じる恐れのあるインク受容層の白濁を防止でき、画質劣化が生じることを抑制することができる。即ち、第二の形態のインクセットを用いた場合には、濃インク、淡インク、及び極淡インクの、少なくとも3種類のインクを有する濃淡インクで画像形成が行なわれ、且つ、濃インクが付与される画素にのみ極淡インクが付与される構成となっている。この場合には、淡インクが付与されて形成された画素には極淡インクは付与されないので、画像低濃度部の打ち込み量増加によるインク受容層の白濁が有効に防止でき、画質劣化を抑制することができる。第二の形態のインクセットにおいては、極淡インク中の色材の濃度は非常に低いため、濃インク中の色材と、極淡インク中の色材は同じであっても構わないが、本発明では、極淡インク中に含有させる色材は、反応性物質との反応性がないか、若しくは反応性が低い色材を選択することが好ましい。このようにすれば、反応性物質及び色材の使用量の幅を広げることができ、好ましい。
【0023】
以下、本発明で使用する色材を有する複数のインク、インク中の色材との反応性を有する物質(反応性物質)を有する液体組成物、これらを用いて画像を形成する際に用いるインクジェット記録方式、基材上に多孔質のインク受容層が形成されてなる光透過媒体、及び、該光透過媒体の、上記液体組成物のみによる記録部と未記録部とのCIELAB色空間表示系における色差ΔEについて詳細に説明する。
【0024】
<色材を有するインク>
本発明かかるインクセットを構成する各インクは、色材としてアニオン性基を含有する水溶性染料を用いた水性インクであることが好ましい。本発明では、インクセットに使用する反応性物質として、濃インク中に含有させた色材とのみ反応性を有するものを使用することが好ましいため、先に述べたように、濃インク中に含有させた色材と、該濃インクと併用する淡インク或いは極淡インクとは異なるものを使用することが好ましい。又、本発明で使用するインクは、上記色材を、水、或いは水と水溶性有機溶剤との混合溶媒からなる水系液媒体に溶解或いは分散してなるが、必要に応じてその他の成分、例えば、粘度調整剤、pH調整剤、防腐剤、界面活性剤、酸化防止剤等を含有して構成される。以下、これらのインクの各構成成分について説明する。
【0025】
(水溶性染料)
本発明に用いる各インクに使用できるアニオン性基を有する水溶性染料としては、例えば、カラーインデックス(Color Index)に記載されている水溶性の、酸性染料、直接染料、反応性染料であれば使用することができ、特に限定されない。又、カラーインデックスに記載のないものであっても、アニオン性基、例えば、スルホン基、カルボキシル基等を有するものであれば、使用することができる。ここでいう水溶性染料の中には、溶解度のpH依存性があるものも含まれる。
【0026】
(液媒体)
本発明で用いるインク中に含有させる上記色材を溶解又は分散する液媒体は、水と水溶性有機溶剤との混合溶媒であることが好ましい。この際に用いることのできる水溶性有機溶剤としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の炭素数1〜4のアルキルアルコール類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類、アセトン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−へキサントリオール、チオジグリコール、へキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類、グリセリン、エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホラン、ジメチルサルフォオキサイド、2−ピロリドン、ε−カプロラクタム等の環状アミド化合物及びスクシンイミド等のイミド化合物等が挙げられる。
【0027】
上記に挙げたような水溶性有機溶剤の含有量は、一般には、インクの全量に対して、質量基準で、1〜40%であることが好ましく、更には、3〜30%の範囲であることがより好ましい。又、インク中の水の含有量は、30〜95質量%の範囲とした場合に、色材の溶解性等も良好であり、インクの粘度が高くなることを抑えることができ、且つ固着特性を十分に満足させることができるものとなる。本発明で使用する水性インクは、インクジェット記録に用いるものであるが、特に、熱エネルギーによるインクの発泡現象によりインクを吐出させるタイプのインクジェット記録方法に適用した場合に顕著な効果が得られる。但し、この場合には、インクを調製する際に、熱的な物性値(例えば、比熱、熱膨張係数、熱伝導率)を調整する場合もある。
【0028】
<液体組成物>
上記した色材を有するインクと併用する液体組成物は、色材を含まないものであってもよいし、濃インク、淡インク、及び極淡インクの少なくとも3種類の色材を有する濃淡インクを用いる場合にあっては、極淡インクを、本発明で用いる液体組成物として構成してもよい。
【0029】
(反応性物質)
本発明で使用する液体組成物に含有させる反応性物質としては、濃インクの色材に、アニオン性基を有する染料を用いた場合は、カチオン性物質を用いることが好ましい。カチオン性物質としては、分子中にカチオン性基を持つものであれば特に制限はないが、例えば、カチオン性の界面活性剤や、カチオン性のオリゴマー、ポリマー等を用いることが好ましい。
【0030】
下記に、本発明で好適に使用することのできるカチオン性界面活性剤について、具体的化合物を列挙する。例えば、1級、2級及び3級アミンの塩の化合物、具体的には、ラウリルアミン、ヤシアミン、ステアリルアミン、ロジンアミン等の塩酸塩;第4級アンモニウム型の化合物、具体的には、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ラウリルトリブチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、塩化ベンザルコニウム等;あるpH領域においてカチオン性を示す両性界面活性剤、具体的には、アミノ酸型両性界面活性剤、ベタイン型化合物等を等電点以下に調整したもの等が挙げられる。本発明は、勿論、これらに限定されるものではない。そして、これらの化合物の中でも特に第4級アンモニウム型化合物が好適である。
【0031】
次に、本発明において反応性物質として用いることのできるカチオン性のオリゴマー、ポリマーの、具体的なモノマーユニットとしては、ビニルアミン、アリルアミン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、N,N−ジメチルアミノアクリルアミド、エチレンイミン、2−オキサゾリン等が挙げられるが、本発明は、勿論、これらに限定されるものではない。更に、上記したようなカチオン性のモノマーユニットの単独重合体だけでなく、非イオン性モノマーユニットとの共重合体、非イオン性オリゴマー、ポリマーの一部を高分子化したものでも使用可能である。本発明においては、これらの化合物の中でも、特にアリルアミンをユニットとしたオリゴマー、ポリマーが好適である。
【0032】
<インクジェット記録方法>
次に、上記で説明したような、色材を含むインク及び液体組成物を用いる本発明にかかるインクジェット記録方法について説明する。本発明にかかるインクジェット記録方法は、色材を含むインクを被記録媒体に付与する工程(I)、及び反応性物質を含む液体組成物を被記録媒体に付与する工程(II)とを有し、該被記録媒体が、基材上に多孔質のインク受容層が形成されてなる光透過媒体であり、上記液体組成物のみによる100%デューティの記録部と未記録部とのCIELAB色空間表示系における色差ΔEが、3以下であることを特徴とする。上記において、被記録媒体の表面において、色材含有インクが付与される画素に液体組成物が付与されるように構成することが好ましい。特に、色材濃度の異なった複数の濃淡インクを用い、該複数のインクの中の少なくとも濃インクと液体組成物とが、液−液状態で接するように各インク及び液体組成物の付与が行なわれるように構成することが好ましい。
【0033】
(インクと反応性物質との付与方法)
上記において、インクと液体組成物のいずれを先に被記録媒体上に付与するかは問題ではない。例えば、工程(II)を行なった後に工程(I)を行なってもよいし、工程(I)を行なった後に工程(II)を行なってもよい。又、前述のインク及び液体組成物を被記録媒体上に付与させるまでの時間については特に制限されるものではない。しかし、互いに液体状態で接するようにするためには、ほぼ同時或いは数秒以内に、インクと液体組成物とを被記録媒体上に付与させることが好ましい。
【0034】
工程(II)を行った後に工程(I)を行う記録方法で、インク受容層を有する光透過媒体に記録を行なう場合は、液体組成物中の反応性物質と色材との反応が強過ぎると、色材が被記録媒体のインク受容層中に浸透する前に色材が凝集することが生じ、印字部の光沢感が損なわれる恐れがある。このため、工程(II)の後に工程(I)を行う記録方法を用いる場合には、色材と反応性物質との反応性をある程度抑制するように構成することが好ましい。
【0035】
(被記録媒体)
本発明にかかるインクジェット記録方法においては、基材上に多孔質のインク受容層が形成されてなる光透過媒体を用いるが、特に、シリカ又はアルミナ等から構成される多孔質のインク受容層を有するものが好ましい。インク受容層としてアルミナを使用している例としては、例えば、特開平02−276670号公報が挙げられる。又、インク受容層としてシリカを使用している例としては、例えば、特開2001−150803公報が挙げられる。本発明は、上記構成を有する光透過媒体にインクジェット記録画像を形成する場合に、特に効果的である。
【0036】
<色差>
本発明では、インクの未記録部へ液体組成物を付与した場合、又は、色材濃度の低い極淡インクを用いた場合において、良好な記録画像を得るために、液体組成物のみの記録部と未記録部との色差ΔEを規定している。本発明で用いられる色差は、例えば、CIELABのような色空間を使って表すことができる。CIELAB色空間においては、色は3つの項、L、a、bを使って表示される。Lは、色の明るさを定義し、0(黒色)から100(白色)の範囲にある。a及びbは、色の色相及び色度特性を定義している。
【0037】
本発明における色差ΔEは、CIELAB色空間表示系における、100%デューティの記録部と未記録部との色の差を示すものである。色差ΔEは、以下の式で表される。
Figure 2004338259
この色差ΔEが小さければ良好な記録画像が得られるが、本発明では、ΔEのの値が3以下となるように構成する。
【0038】
【実施例】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。尚、文中、%とあるのは特に断りのない限り質量基準である。
【0039】
<<実施例1〜3及び比較例1>>
先ず、下記に示した各組成を混合し、充分攪拌して溶解後、ポアサイズが0.2μmのフロロポアフィルター(住友電工(株)製)にて加圧濾過して、実施例及び比較例で用いる色材濃度の異なるブラックインクBk1〜3、及び液体組成物Aを作製した。尚、下記のアセチレノールE100は、アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物である。
【0040】
<色材を含むインクの調製>
[ブラックインクBk1(濃インク)の組成]
・C.I.フードブラック2 5.0%
・グリセリン 25.0%
・アセチレノールE100(川研ファインケミカル
社製) 0.4%
・水 69.6%
【0041】
[ブラックインクBk2(淡インク)の組成]
・C.I.フードブラック2 1.0%
・グリセリン 25.0%
・アセチレノールE100(川研ファインケミカル
社製) 0.4%
・水 73.6%
【0042】
[ブラックインクBk3(淡インク)の組成]
・Kayacel Black CN(日本化薬社製) 1.0%
・グリセリン 25.0%
・アセチレノールE100(川研ファインケミカル
社製) 0.4%
・水 73.6%
【0043】
<液体組成物の調製>
[液体組成物Aの組成]
・エチレングリコール 20.0%
・アセチレノールE100(川研ファインケミカル
社製) 0.4%
・ポリアリルアミン 0.1%
・水 79.5%
【0044】
<インクセットの組み合わせ>
上記で調製したブラックインクBk1〜3及び液体組成物Aを使用し、下記表1に示したように組み合わせて、実施例及び比較例のインクセットとした。
【0045】
Figure 2004338259
【0046】
表1に示した組み合わせからなる実施例及び比較例の各インクセットを用いて、光透過媒体にインクジェット記録を行った。この際、光透過媒体として、キヤノン製CF−301透過シートを用いた。該シートは、PETフィルム上に、アルミナを主成分とする多孔質インク受容層が形成されてなるものである。又、インクジェット記録装置には、キヤノン(株)製BJF−870の改造機を用いた。又、ここで用いた記録ヘッドは、1,200dpiの記録密度を有し、駆動条件としては、駆動周波数22kHzとした。1,200dpiのヘッドを使用したときの1ドット当たりの吐出量は5ngのヘッドを使用した。
【0047】
記録に際して、実施例1及び2では、液体組成物を先打ちして光透過媒体上に付着させ後、濃淡インクを付着させた。これに対して、実施例3では、濃淡インクを先打ちして光透過媒体上に付着させた後、液体組成物を後打ちした。具体的には、印字領域を8回の走査で印字する8パス印字を行った。又、液体組成物は、実施例1及び3では、各パス毎に濃淡インクが印字される画素位置に液体組成物を付与し、実施例2では、各パス毎に濃インクが印字される画素位置にのみ液体組成物を付与した。
【0048】
<色差ΔE測定>
又、実施例で使用した液体組成物について、上記で使用した光透過媒体に対する記録部と未記録部の色差ΔEを下記の方法で測定した。上記した各記録画像の形成の際に、液体組成物Aのみを用いて、画像形成に使用した光透過媒体上に、一辺が3cm角の100%デューティベタパッチを印字した。液体組成物Aを用いて得られた記録画像を24時間自然乾燥させた。そして、光透過媒体上の、液体組成物のみの記録部と、何も印字されていない未記録部のL、a、bを、分光測色計((株)村上色彩技術研究所製CMS−500)で測定した。その結果、色差ΔEは1.15であった。
【0049】
<マイグレーション評価>
実施例1〜3及び比較例1の各インクセットを用い、前記したようにして得られた各記録画像を24時間自然乾燥させた後、各画像を、槽内温度30℃、相対湿度80%の条件の恒温槽中に7日間放置した。そして、試験後及び試験前画像のにじみ具合を目視で観察し、下記の基準で評価した。表2に、評価結果をまとめて示した。
○:マイグレーションは殆ど確認されない。
×:マイグレーションが激しく、画像ににじみがある。
【0050】
Figure 2004338259
【0051】
<粒状感評価>
又、実施例1〜3及び比較例1の各インクセットを用い、X線胸部画像を前記条件にて印字した。得られた各記録画像を24時間自然乾燥させた後、目視にて粒状感を観察したところ、実施例1に係るインクセットによる画像は、目視では粒状感は殆ど認められず、極めて高品位な画像であった。
【0052】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、多孔質のインク受容層を有する光透過媒体上に画像を形成した場合に、画像の耐湿性に優れ、マイグレーションによる画像のにじみ等が生じない、高い階調性を有する高品質の画像が得られ、特に、医療用の診断画像や参照画像に適したインクジェット記録物の形成が可能なインクジェット記録方法、及び該方法に使用できるインクセットが提供される。

Claims (4)

  1. 色材を含むインクを被記録媒体上に付与する工程(I)と、該色材との反応性を有する物質を含む液体組成物を被記録媒体上に付与する工程(II)と、を有し、前記工程(I)及び(II)が、該被記録媒体上で該インクと該液体組成物とが接するように行われるインクジェット記録方法において、該被記録媒体が、基材上に多孔質のインク受容層が形成されてなる光透過媒体であり、該光透過媒体に上記液体組成物のみを、インクジェット記録方式で、体積4〜5plの滴として解像度1,200dpi、100%のデューティで付与したときの記録部と、上記光透過媒体の未記録部とのCIELAB色空間表示系における色差ΔEが、3以下であることを特徴とするインクジェット記録方法。
  2. 前記色材を含むインクに、色材濃度の異なる複数の濃淡インクを用い、前記液体組成物は上記濃インク中の色材とのみ反応性を有する物質を含むものであり、且つ、該液体組成物が少なくとも上記濃インクと液体状態で接するようにインク及び液体組成物の付与が行なわれる請求項1に記載のインクジェット記録方法。
  3. 基材上に多孔質のインク受容層を有する光透過媒体へのインクジェット記録に用いられるインクセットであって、色材を含むインクと、該色材との反応性を有する物質を含む液体組成物と、を含み、
    該液体組成物は、該光透過媒体上に該液体組成物のみを、インクジェット記録方式で、体積4〜5plの滴として解像度1,200dpi、100%のデューティで付与したときの記録部と未記録部とのCIELAB色空間表示系における色差ΔEが、3以下であるものであることを特徴とするインクセット。
  4. 前記インクとして色材濃度の異なる濃インク、淡インクの少なくとも2種のインクを独立に有し、上記液体組成物は、上記濃インク中の色材とのみ反応性を有する物質を含むものである請求項3に記載のインクセット。
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