JP2004298011A - インターフェロンの治療効果を予測するための新規多型マーカー、プライマー、プローブおよびインターフェロンの治療効果を予測する方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】IRF−1遺伝子のプロモーター領域の−597位に存在するインターフェロンの治療効果を予測するための多型マーカーおよびIRF−1遺伝子のプロモーター領域の−723位に存在するインターフェロンの治療効果を予測するための多型マーカー。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、インターフェロンの治療効果を予測するための新規多型マーカー、プライマー、プローブおよびインターフェロンの治療効果を予測する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
C型肝炎ウイルス(以下「HCV」と記す)の感染により生じるC型肝炎の多くは、やがて慢性C型肝炎を引き起こし、その一部は肝硬変を経て肝細胞癌へ進展する。このような進展を阻止するために、現在インターフェロン(以下「IFN」と記す)療法が用いられている。しかしながら、IFN療法によって完全著効を示す患者は全体の極僅かでしかなく、その一方で、IFN療法は高価であり、またその治療には重篤な副作用が存在する。従って、IFNによる治療を開始する前に、その対象となる患者におけるIFN療法の効果を予測しておくことが重要である。
【0003】
IFN療法の効果を左右する因子は既に幾つかが明らかとなっている。例えば、ウイルス側の因子は、血中ウイルス量およびHCV遺伝子型のタイプなどであり、宿主側の因子は、IFN受容体遺伝子、MxA遺伝子およびMBL遺伝子の遺伝子多型のタイプや、患者の年齢および性別、罹患している期間並びに肝繊維化など肝臓病変の程度などである。
【0004】
【非特許文献1】
齋藤英胤、多田慎一郎、石井裕正著「インターフェロン治療の最前線の知見」、株式会社メディカルレビュー社発行、2002年1月30日、p71−77
【0005】
【非特許文献2】
Hidetsugu Saito, Shinichiro Tada, Hirotoshi Ebinuma, Kanji Wakabayashi, Tamako Takagi, Yoshimasa Saito, Nobuhiro Nakamoto, Satoshi Kurita, and Hiromasa Ishii, Journal of Cellular Biochemistry Supplement 36:191−200, (2001)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上述のIFN療法の効果を左右する因子を各患者において特定しても、なお充分な予測ができないのが現状である。
【0007】
従って、本発明の目的は、インターフェロンの治療効果を予測するための新規多型マーカー、プライマー、プローブおよびインターフェロンの治療効果を予測する方法を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上述の課題を解決するための手段は、本発明の側面に従うと、インターフェロン調節因子−1遺伝子のプロモーター領域の−597位に存在するIFNの治療効果を予測するための多型マーカー;
インターフェロン調節因子−1遺伝子のプロモーター領域の−723位に存在するIFNの治療効果を予測するための多型マーカー;
インターフェロン調節因子−1遺伝子のプロモーター領域の−597位または−723位に存在するIFNの治療効果を予測するための多型マーカーの遺伝子型を決定するためのプライマーまたはプローブ;並びに、
HCV2型感染者においてIFN療法の有効性を予測する方法であって、
(1)前記個体に由来するサンプルを得ること、
(2)(1)のサンプルについて、インターフェロン調節因子−1遺伝子プロモーター領域の少なくとも1のSNPの遺伝子型を決定すること、および
(3)(2)で決定された遺伝子型からIFN療法の有効性の予測を行うこと、
を具備するHCV2型感染者においてIFN療法の有効性を予測する方法;
である。
【0009】
【発明の実施の形態】
1.IRF−1遺伝子のプロモーター領域の多型
本発明は、本発明者らがIFN療法の効果に影響を与える新規遺伝子多型、即ち、IRF−1遺伝子のプロモーター領域の−597位および−723位に存在する一塩基多型(以下「SNP」と記す)を発見したことに基づく。これらの多型の型に依存して、特に、2型HCV感染者におけるIFNの治療効果を予測することが可能である。ここで用いる「インターフェロン」とは、インターフェロンαおよびβ(以下「IFNα/β」とも記す)を指す。
【0010】
インターフェロン調節因子−1(以下「IRF−1」と記す)は、対象におけるIFNの作用に影響を与える重要な因子である。対象に投与されたIFNは、一般的にウイルスに対して二相性に作用すると考えられている。即ち、投与されたIFN自身によるウイルスへの作用と、続いて生じる宿主細胞性免疫賦活作用によるウイルスへの作用である。双方の作用が充分であって初めてIFNはウイルス学的に著効となる。IRF−1は、これらの作用の何れにおいても重要な役割を担っている。
【0011】
対象に投与されたIFNは、細胞表面上の受容体に結合する。この結合により、Jak kinaseによるSTAT1のリン酸化が生じ、これにより転写因子であるGAF(gamma−activated factor)とISGF3(IFN stimulated gene factor 3)が形成される。ISGF3は、IFN誘導遺伝子のISREに結合し、IFN誘導遺伝子の転写を活性化する。また、GAFは、IFN誘導遺伝子とIRF−1遺伝子の転写調節領域のGASに夫々結合し、IFN誘導遺伝子の転写を活性化すると同時に、IRF−1によるIFN誘導因子発現の増強を引き起こす。また、IRF−1は、細胞障害性T細胞の賦活化作用にも重要な働きをしていると考えられている(非特許文献1を参照されたい)。
【0012】
実施例において詳しく述べるように、本発明者らにより新たに見出されたIRF−1遺伝子プロモーター領域の−597位および−723位に存在するSNPは、上述のようなIRF−1の効果に大きな影響を与える多型である。
【0013】
また、このIRF−1遺伝子プロモーター領域の−597位および−723位に存在するSNPは、公知のIRF−1遺伝子プロモーターの他の部位に存在する3つのSNP(Saito H. et al., J. Cell. Biochem.36, 191−200, 2001)と連鎖していることも本発明者らの解析により明らかになった。当該公知のIRF−1遺伝子プロモーター領域の多型部位とは、以下の実施例に記載した本研究の−297位(当該Saito H.らの文献の−300位に相当する)、−407位(当該Saito H.らの文献の−410位に相当する)、および−412位(当該Saito H.らの文献の−415位に相当する)である。
【0014】
図1および図2には、受付番号AC079320でGenBankに登録されているIRF−1遺伝子のプロモーター領域の配列と、それに存在するSNPs、即ち、本発明に従う新規SNPと上記公知のSNPの存在する位置を示した。また図1および図2には、受付番号AC079320のIRF−1遺伝子のプロモーター領域と、今回解析した3つの異なるタイプの遺伝子型を有する個体から得た塩基配列、IRF−004G、IRF−012AおよびIRF001Rを並べて示した。配列の左に示した記号は、サンプル番号であり、プロモーターSNPsをタイプ分けしたG、A、R文字を列記した。
【0015】
図1および図2において「−723」と「−597」と付した位置は、転写開始部位を1とした場合のその上流723番目と597番目の位置であり、この位置が本発明に従う新規多型部位である。−723位の多型の取り得る塩基は、アデニン(以下「a」と記す)またはグアニン(以下「g」と記す)である。−597位の多型の取り得る塩基は、チミン(以下「t」と記す)またはシトシン(以下「c」と記す)である。また、「−412」、「−407」および「−297」と付した位置は、転写開始部位を1とした場合のその上流412番目、407番目および297番目の位置であり、これらは何れも従来公知の多型部位である。−412位の多型の取り得る塩基はcまたはaである。−407位の多型の取り得る塩基はaまたはgである。−297位の多型の取り得る塩基はaまたはgである。図1および図2の配列表において「r」と記載した場合、その位置の対立遺伝子の一方がaであり他方がgであることを示す。同様に「y」と記載した場合、その位置の対立遺伝子の一方がtであり他方がcであることを示し、「m」と記載した場合には、対立遺伝子の一方がcであり他方がaであることを示す。
【0016】
ここで「遺伝子型」とは、全対立遺伝子、あるいは、注目している遺伝子座の遺伝子の存在状態を指す。「遺伝子座」とは、染色体、もしくは遺伝子地図上での遺伝子の位置を指す。例えば、互いに対立遺伝子である遺伝子の場合は同一の遺伝子座にある。「対立遺伝子」とは、相同染色体の相同な場所に位置し、機能的にも相同な遺伝子をいう。
【0017】
本発明者らは、慢性C型肝炎の患者157人から得たDNAを解析し、前述したように当該5つの多型は連鎖の関係にあり、それらの遺伝子型は3つのタイプに分類できることを明らかにした。ここでは便宜上、転写開始点から一番近い位置のSNPである−297位の塩基に従ってタイプを表記すると、当該遺伝子型は、G型(GGホモ)、A型(AAホモ)およびR型(AGヘテロ)の3種である。当該5つのSNPが互いに連鎖する様子は図3に示す通りである。即ち、G型の場合の夫々の対立遺伝子の塩基は、−297位ではGG、−407位ではGG、−412位ではAA,−597位ではCC、−723位ではGGである。R型の場合の夫々の対立遺伝子の塩基は、−297位ではGA、−407位ではGA、−412位ではAC,−597位ではCT、−723位ではGAである。A型の場合の夫々の対立遺伝子の塩基は、−297位ではAA、−407位ではAA、−412位ではCC,−597位ではTT、−723位ではAAである。ここで図3中の「検体数」はサンプルを採取した患者157人における該当数である。
【0018】
157例全体で見た場合は、IRF−1の遺伝子型とIFNの治療効果の間に有意な相互関係は認められなかった(図4を参照されたい)。図4に示す「SR」は著効、「NR」は非著効を示す。著効および非著効の何れの治療効果の場合も、Rタイプが最も多く、ついでGタイプ、Aタイプの順であり、治療効果別のSNPsの特徴は認められなかった。
【0019】
2.IRF−1遺伝子プロモーター領域の遺伝子型とIFN治療効果との関係
当該5つのSNPの遺伝子型とIFN治療効果との関係を、C型肝炎ウイルス(以下「HCV」と記す)の遺伝子型別に図5に示す。図5は、慢性C型肝炎の患者157人について感染しているウイルス遺伝子型とIRF−1遺伝子プロモーター領域の当該5つのSNPの遺伝子型を調べた結果である。HCV遺伝子型2型におけるIFN療法の効果は、完全著効例がG型で10例(29%)、R型で19例(56%)およびA型で5例(15%)であった。一方、非著効例はG型で14例(66%)、R型で5例(24%)およびA型で2例(10%)であった。それに対して、HCV遺伝子型1型においては、IRF−1の遺伝子型とIFNの治療効果の間に有意な相互関係は認められなかった(図5を参照されたい)。
【0020】
また、HCV遺伝子型1型に比して、HCV遺伝子型2型はR型が少なくG型が多いという傾向も認められた(図5を参照されたい)。図5に示す通り、HCV1型の著効も非著効もRタイプが最も多く次いでGタイプ、Aタイプの順であり、それはHCV2型の著効例も同様の傾向を示した。ただ、HCV2型の非著効においては、最も多いタイプがGタイプで、ついでRタイプ、Aタイプの順であり、他とは異なる傾向を示した。この差を検証するために、G型かまたはそれ以外(R型かA型)という分類をして、HCV遺伝子型別にカイ2乗検定を行なった(図6を参照されたい)。その結果、一方のHCV遺伝子型2型においては、完全著効例はG型が10例(29%)、R型もしくはA型が24例(71%)であり、非著効例はG型が14例(66%)、R型もしくはA型が7例(34%)であること分かった。これは明らかに統計学的に有意な差である(p=0.0067972)。
【0021】
これらの結果から、HCV遺伝子型2型が感染した患者は、G型であればIFN治療が効かない可能性が高く、R型やA型であれば著効する可能性が高いと判定することが可能である。即ち、IRF−1遺伝子プロモーターにおける互いに連鎖した5つの何れかのSNPsを調べることにより、遺伝子型2型のHCVが感染した患者においけるIFN療法の治療効果が予測することが可能となった。
【0022】
これまでの報告から、宿主側のIRF−1遺伝子のプロモーター領域のSNP、即ち、−297位、−407位および−412位のSNPの遺伝子型の違いによって、IRF−1遺伝子のプロモーター領域の二次構造に違いが生じ、それによって生じるプロモーター活性の違いによって、リンパ球からのIFN−γ、IL−10の分泌に違いがあることは明かとなっている(Saito H. et al., J. Cell. Biochem.36, 191−200, 2001)。しかしながら、実際のIFN治療の結果として、患者の遺伝子型と治療効果の相関を示したデータはなかった。また、宿主側のIRF−1遺伝子のプロモーター領域のSNPの遺伝子型の違いばかりではなく、更に感染しているHCVの遺伝子型が明かとなって初めてIFNの治療効果を予測できることが、本発明者らの研究から明らかとなった。このような知見は、IFNの治療効果を予測するための手段として非常に重要である。
【0023】
3.多型マーカー
上述したようにIRF−1遺伝子プロモーターにおける互いに連鎖した5つのSNPsは、HCVに感染した患者、特に遺伝子型2型のHCVに感染した患者においてIFN療法の治療効果を予測するための多型マーカーとして使用することが可能である。このような多型マーカーも本発明の範囲内である。本発明の多型マーカーは、IRF−1遺伝子プロモーター領域の−597位、−723位、−297位、−407位および−412位に存在する。
【0024】
ここで使用される「多型マーカー」とは、問題となる位置に存在する多型の遺伝子型からIFNの治療効果を予測するための指標として使用されるマーカーである。具体的には、対象より採取されたサンプル中に含まれる特定の核酸の特定の部位を示すが、当該部位を含む核酸断片であってもよい。また、当該多型部位を特定するために使用されるプローブおよびプライマーなどの核酸断片からなる検出手段も本発明の範囲内である。当該プローブおよびプライマーは、当該多型マーカーの遺伝子型を決定するために使用される手段である。当該プローブは、標的核酸とのハイブリダイゼーションを検出することにより、当該多型マーカーの遺伝子型を決定できる核酸断片であればよく、詳細な条件は、それ自身公知の何れかの方法を利用して当業者が容易に選択することが可能である。当該プライマーは、標的核酸を鋳型として伸長または増幅反応を利用して当該多型マーカーの遺伝子型を決定できる核酸断片であればよく、詳細な条件は、それ自身公知の何れかの方法を利用して当業者が容易に選択することが可能である。また、これらのマーカーおよび検出手段は、IFNの治療効果を予測するために使用することが可能である。
【0025】
4.インターフェロン療法の効果を予測する方法
本発明に従うと、IFNを投与されるべき個体においてIFN療法の有効性を予測する方法も提供される。
【0026】
本発明によれば、IFN療法の実施に先立って、INFを投与されるべき個体、特に、HCV感染者、より詳しくはHCV2型感染者において、IRF−1遺伝子プロモーター領域の−597位、−723位、−297位、−407位および−412位に存在する多型の少なくとも1の遺伝子型を決定することによって、当該個体においてIFN療法が有効であるかどうかを予測することができる。
【0027】
即ち、本発明に従うと、HCV2型感染者においてIFN療法の有効性を予測する方法であって、
(1)前記個体に由来するサンプルを得ること、
(2)(1)のサンプルについて、IRF−1遺伝子プロモーター領域の少なくとも1のSNPの遺伝子型を決定すること、および
(3)(2)で決定された遺伝子型からIFN療法の有効性の予測を行うこと、
を具備するHCV2型感染者においてIFN療法の有効性を予測する方法が提供される。
【0028】
また、本発明の態様に従うと、HCV2型感染者においてIRF−1遺伝子プロモーター領域の多型マーカーの遺伝子型がG型であればIFN治療が非著効である可能性が高いと予測され、R型やA型であれば著効する可能性が高いと予測されるHCV感染者においてIFN療法の有効性を予測する方法が提供される。
【0029】
基本的には、当該HCV2型感染者においてIFN療法の有効性を予測する方法は、次のように行ってもよい。
【0030】
まず、実施者が、IFNを投与されるべき個体から血液サンプル等のサンプルを採取して予測を開始する。採取されたサンプルは、必要に応じて精製および抽出などの処理がなされた後で、IRF−1遺伝子プロモーター領域の多型マーカーの遺伝子型を少なくとも1つ決定する。このときに、IFNの治療効果を予測可能な他の多型マーカーや、感染しているHCVの遺伝子型も決定してもよい。
【0031】
次に、決定されたIRF−1遺伝子プロモーター領域の多型マーカーの遺伝子型と当該個体の感染しているHCVの遺伝子型から、IFNを投与されるべき個体におけるIFNの治療効果を予測する。即ち、HCV2型感染者においてIRF−1遺伝子プロモーター領域の多型マーカーの遺伝子型がG型であればIFN治療が非著効である可能性が高いと予測され、R型やA型であれば著効する可能性が高いと予測される。
【0032】
また、IRF−1遺伝子プロモーター領域の多型マーカーの遺伝子型を決定すると共に、IFNの治療効果を予測可能な他の多型マーカーの遺伝子型およびウイルスの遺伝子型を決定してもよい。それらを基にHCV2型感染者ばかりではなく、感染しているHCVの遺伝子型が不明なHCV感染者においてIFNの治療効果を予測してもよい。
【0033】
IFNの治療効果を予測可能な他の多型マーカーの例は、以下の通りである。ウイルス側の因子は、血中のHCV量、罹患しているHCVの遺伝子型である。HCVの血中量が多い患者ほどIFNの効果は低く、1型より2型のHCVに感染している患者の方が治療効果は高い(A.Tsubota et al., Hepatology 19, 1088−1094 1994)。宿主側の因子として、MBL遺伝子の2箇所のSNPや、MxA遺伝子プロモーター領域のSNPが知られている。マンノース結合レクチンをコードするMBL遺伝子の2箇所のSNPがXBタイプの遺伝子型の患者はYAタイプの遺伝子型の患者より、IFNα/βの効き目が悪い(M.Matsushita et al.,J. Hepatology 29,695−700, 1998)。また、MxAタンパクをコードするMxA遺伝子プロモーター内に存在するSNPもC型慢性肝炎患者のIFN治療の有効性に關係している(M. Hijikata et al., Intervirology 43, 124−127, 2000)。本発明の態様に従うと、これら従来のIFNの治療効果を予測可能な多型マーカーの遺伝子型およびHCVの遺伝子型の情報を、本発明のIRF−1遺伝子のプロモーター領域の多型マーカーの遺伝子型の情報と共に考慮することによって、IFNを投与されるべき個体においてIFN療法の有効性を予測する方法も提供される。
【0034】
IFNの治療効果を予測可能な多型マーカーの遺伝子型を決定する手段は、それ自身公知の何れの手段を用いておこなってよい。例えば、対象となる個体から得たサンプル、より、目的の核酸断片を含む核酸を調製し、塩基配列を決定すればよい。
【0035】
本発明の態様に従う方法の対象となる「個体」は、ヒト、イヌ、ネコ、ウシ、ヤギ、ブタ、ヒツジ、及びサルを含む任意の哺乳動物であり得るが、ヒトが最も好適な個体である。
【0036】
ここで使用される「サンプル」とは、生物個体から採取した血液、血清、リンパ液および組織などの生物試料をいう。また、「サンプル」必要に応じて、生物試料をホモジネートおよび抽出等の必要な任意の前処理を行って得た試料であってもよい。このような前処理は、対象となる生物試料に応じて当業者によって選択され得るであろう。
【0037】
生物試料から調製される目的の核酸断片を含む核酸は、DNAおよびRNAなどから調製すればよい。例えば、対象からゲノムDNAサンプルを準備する手段は、対象から得た末梢血中の白血球、単球、リンパ球および顆粒球等の血球細胞からフェノールクロロホルム法、塩析法または市販のキット等を用いて抽出する方法等、一般的に使用される何れの手段を用いて行うことが可能である。また、mRNAを抽出する場合には、オリゴdTカラムにかけてもよい。
【0038】
目的とする核酸断片の量が少ないときには、必要に応じて核酸断片を増幅する操作を行ってもよい。増幅操作は、例えば、逆転写ポリメラーゼ反応(RT−PCR)を含むポリメラーゼ連鎖反応(以下PCRと略記する)によって行い得る。
【0039】
必要に応じて、抽出操作及び/又は増幅操作を行った後に、目的とする多型部位の遺伝子型を決定する。遺伝子型を決定する手段は、直接シークエンス法、SSCP法、オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーション法、特異的プライマー法および塩基配列検出用チップ等の一般的に使用される何れの手段を使用してもよい。
【0040】
その他、多型の遺伝子型を決定する方法としては、PCR−SSP(PCR−specific sequence primers)法、ドットプロット法とPCRを組み合わせたPCR−SSO(PCR−sequence specific oligonucleotide)法、及びPCR−SSCP法等の周知の方法を使用することもできるが、これらに限定されない。
【0041】
なお、ドットブロット法とは、配列が既知のプローブを用いて、試料中に含まれる特定の配列をもった核酸鎖を検出する一つの方法である。この方法では、例えば基板上の有機薄膜に一本鎖核酸の試料を固定化し、次に蛍光物質等で標識した一本鎖のプローブの溶液をこの薄膜上の試料に接触させる。試料がプローブと相補的な配列を有していれば、プローブとハイブリダイズして二本鎖を形成するので、基板上に固定される。したがって、洗浄により未反応の核酸鎖を除去した後、プローブに付された標識を検出することにより、プローブに対して相補的な配列を有する試料核酸鎖を検出することができる。このようなドットプロット法において使用されるプローブであり、且つ本発明のIFNの治療効果を予測するための多型マーカーの遺伝子型を検出するためのプローブも本発明として提供される。また、そのようなプローブを用いて、本発明のIFNの治療効果を予測するための多型マーカーの遺伝子型を検出する方法も本発明の範囲に含まれる。更に、そのような核酸断片からなるプローブを具備することを特徴とする、IFNを投与すべき個体に対してIFN療法が有効であるかどうかを予測するための試験薬および塩基配列検出用チップも本発明の範囲に含まれる。
【0042】
5.IFN療法の有効性の判定の応用
また、IFN療法の有効性の判定には、以下に説明するような手段を利用してもよい。即ち、本発明の方法は、本発明の新規多型とIFNの治療効果との関係を数値化し、遺伝子の存在状態に基づき治療法の有効性を予測するための手段を利用してもよい。遺伝子の存在状態に基づき治療法の有効性を予測するための方法とは、本発明者らが既に提案している方法であり、詳しくは以下に説明する。
【0043】
図7は本発明において使用され得る治療法有効性予測装置の全体構成を示す図である。図7に示すように、治療法有効性予測装置100は、コンピュータ10と、このコンピュータ10と通信ネットワーク11を介して接続された検体統計データベース12から構成される。
【0044】
コンピュータ10は、入力装置1と、この入力装置1に接続された処理装置2と、この処理装置2に接続された有効性判定データベース3と、処理装置2に接続された出力装置4及び記憶媒体読取装置5から構成される。このコンピュータ10は例えばパーソナルコンピュータにより実現される。コンピュータ10は通信インタフェース(不図示)を介して通信ネットワーク11に接続される。コンピュータ10は、この通信インタフェースを介して通信ネットワーク11との間でデータを送受信することができる。
【0045】
処理装置2は、例えば処理装置に接続された記憶媒体読取装置5からCD−ROMやDVD、磁気ディスクなどの記憶媒体6に記憶されたデータベース生成プログラムや有効性判定プログラムを読み取り、それらプログラムを実行する。これにより、処理装置2が前述した生成処理を行うデータベース生成手段21や有効性判定処理を行う有効性判定手段22として機能する。
【0046】
データベース生成手段21は、著効率算出処理、オッズ算出処理、χ2値算出処理、重み係数算出処理などを実行する。有効性判定手段22は、遺伝子型情報入力処理、有効性判定処理などを実行する。
【0047】
出力装置4は、処理装置2で処理された結果を表示し、あるいは処理結果を印字出力する。
【0048】
図8を参照されたい。図8は、当該装置において使用される検体統計データベース(DB)の例を示した。検体統計データベース(DB)12は、検体番号、複数のヒト遺伝子型識別情報及び有効性情報の各々がデータベースの各フィールドに検体毎に関連づけて、ウィルス遺伝子型毎に格納されている。検体番号は、検体としての患者を識別するための検体識別情報として用いられる番号である。ヒト遺伝子型識別情報は、患者の遺伝子型を識別する情報である。有効性情報は、その患者への治療の有効性(薬剤の投与であれば薬剤の有効性)を示す情報である。当該検体統計DB12には、上述の本発明に従う新規多型マーカーを含むIRF−1遺伝子のプロモーター領域に存在するSNPに関する情報は含まれていないが、他の遺伝子と同様に当該検体統計DB12に含ませることも、更なる検体統計DB12を作成することも可能である。
【0049】
図9を参照されたい。図9は、有効性判定データベース13の例を示す。有効性情報は、「著効」あるいは「非著効」のいずれかで示される。
【0050】
ヒト遺伝子型情報は、それぞれ2つあるいはそれ以上の情報で区別される。ウィルス遺伝子型情報も同様に、2つあるいはそれ以上の情報で区別される。例えばヒト遺伝子型のMxA−88は、G/T、T/T及びG/Gの3種類の対立遺伝子型のいずれかに分類される。なお、対立遺伝子型による分類の他に対立ハプロタイプにより分類してもよい。図9に示す有効性判定データベース13の例では、上述の本発明に従う新規多型マーカーを含むIRF−1遺伝子のプロモーター領域に存在するSNPに関する情報は当該含まれていないが、他の遺伝子と同様に当該有効性判定データベース13に含ませることも、更なる有効性判定データベース13を作成することも可能である。
【0051】
有効性判定データベースは、複数のヒト遺伝子型重み係数の各々がデータベースの各フィールドに格納されている。以下の実施形態で、重み係数とは、治療の有効性に対してある遺伝子型が与える影響、すなわち治療の有効性に対する相関度を数値化したものである。
【0052】
次に、データベース生成手段21による有効性判定データベース3の作成方法について図10のフローチャートに沿って説明する。
【0053】
まず、検体統計データベース12のヒト遺伝子型の各々に対する治療の著効率を算出する著効率算出処理を実行する(s1)。具体的には、あるヒト遺伝子型に着目し、その遺伝子型の対立遺伝子型あるいは対立ハプロタイプの各々について、著効率を算出する。
【0054】
例えばMxA−88という遺伝子型に着目すると、その対立遺伝子型はG/T、T/T及びG/Gが存在する。この3種類の対立遺伝子型をG/T及びT/Tの第1の型と、G/Gの第2の型に類型化した場合、第1の型に属する全検体データのうち、著効であった検体データの割合を算出する。第1の型に属する検体のうちXa個が著効(SR)でYa個が非著効(NR)であった場合には、第1の型の著効率(SRrate1)は、
SRrate1=100×Xa/(Xa+Ya)(%)
となる。同様に、第2の型に属する検体のうちXb個が著効(SR)でYb個が非著効(NR)であった場合には、第2の型の著効率(SRrate2)は、
SRrate2=100×Xb/(Xb+Yb)(%)
により求められる。このように、検体統計データベース12の対立遺伝子型が2つ以上の型に分類されている場合、2つの型1,2に分類し、その型毎に著効率SRrate1及びSRrate2を算出する。2つの型への分類は、治療の有効性に対する相関度が互いに差が生じるように分類するのが望ましい。より具体的には、2つの型の各々に対する著効率の差が大きくなるように分類するのが望ましい。以下では、この2つの型をそれぞれ「第1の型」及び「第2の型」と呼ぶ。
【0055】
以上はMxA−88を例に説明したが、他の遺伝子型、すなわちMxA−123、MBL、LMP7、IFNAR1(GT)n、IFNAR1 C/Tなどについても同様の2つの型への分類、各型に対する著効率の算出を実行する。
【0056】
また、本発明に従うIRF−1の場合も、同様に治療の著効率を算出する著効率算出処理を実行すればよい(例として実施例2を参照されたい)。
【0057】
得られた著効率は、その型毎に図示しないデータベース(有効性判定データベース3でもよい)に格納される。
【0058】
次に、オッズ算出処理を実行する(s2)。オッズOkとは、2つの型の著効率のうち、大きい方の著効率を小さな方の著効率で除した数値であり、以下の式で示される。なお、kは、遺伝子型毎に付与される識別番号を示す。
【0059】
Ok=SRrate1/SRrate2 (SRrate1>SRrate2の場合)
Ok=SRrate2/SRrate1 (SRrate1<SRrate2の場合)
SRrate1=SRrate2の場合は、上記2式のいずれで定義してもよい。
【0060】
以上の式により、すべての遺伝子型についてオッズOkを算出し、得られたオッズOkは図示しないデータベース(有効性判定データベース3でもよい)に格納される。
【0061】
次に、χ2値算出処理を実行する(s3)。以下、ck=χ2と定義する。χ2値ckは以下の式により算出される。
【0062】
ck=χ2=(n−1)s2/σ2
ここで、確率変数はXa,Ya,Xb,Yb、nは標本の大きさ、σ2は分散で、s2は標本分散である。より具体的には、Xa,Ya,Xb,Ybの各数値をカイ二乗検定の2×2分割表に代入することによりカイ二乗値χ2を得ることができる。
【0063】
次に、オッズOk及びχ2値に基づき、重み係数Skを算出する重み係数算出処理を実行する(s4)。重み係数Skは、以下の式により算出される。
【0064】
Sk=(Ok−1)ck/20。
【0065】
次に、得られた重み係数Skに対する2つの型への符号割り当て処理を実行する(s5)。重み係数Skは正の値をとる。正の符号+は、著効率(SRrate)の高い型に割り当てられ、負の符号は、著効率(SRrate)の低い型に割り当てられる。具体的には、各遺伝子型における2つの型の著効率を比較し、大きな著効率を有する型に正の符号を割り当て、小さな著効率を有する型に負の符号を割り当てる。
【0066】
このように符号割り当て処理を各遺伝子型について実行し、得られた重み係数Sk、−Skを有効性判定データベース3に格納する。
【0067】
以上により、有効性判定データベース3の作成が終了する。
【0068】
次に、有効性判定手段22による有効性判定データベース3を用いた有効性判定処理について図11のフローチャートに沿って説明する。
【0069】
まず、被検体としての患者から、ヒト遺伝子型情報及びウィルス遺伝子型情報を得る(s61)。具体的には、個体に由来するサンプルを取得し、得られたサンプルをDNAチップのセル内に注入し、セル内に固定化されたDNAプローブとのハイブリダイゼーション反応を行わせる。ハイブリダイゼーション反応の後、バッファや挿入剤をセル内に充填し、セル内に固定された電極からの電気化学信号を検出する。この電気化学信号を信号処理することにより、ヒト遺伝子型情報及びウィルス遺伝子型情報を得ることができる。もちろん、他の手法によりこの被検体からの情報を取得してもよい。
【0070】
次に、得られた被検体のヒト遺伝子型情報及びウィルス遺伝子型情報からなる被検体データを入力装置1を用いて入力する(s62)。
【0071】
処理装置2は、入力された遺伝子型情報及びウィルス遺伝子型情報に基づき有効性の判定を行う(s63)。
【0072】
具体的には、有効性判定プログラムが記憶媒体6から記憶媒体読取装置5により読み取られ、これにより処理装置2は有効性判定手段22として機能する。有効性判定手段22は、まず入力されたウィルス遺伝子型情報に対応するデータテーブルを有効性判定データベース3から読み出す(s63a)。そして、入力された遺伝子型に対応付けられた符号と重み係数を乗算することにより各々の遺伝子型についてヒト有効性予測個別値を得る(s63b)。そして、得られた各々の遺伝子型についての有効性予測個別値を加算し、有効性予測加算値を算出する(s63c)。
【0073】
この有効性予測加算値の算出概念図を図12に示す。図12に示すように、入力された被検体データがMxA−88、MxA−123、MBL、LMP7、IFNAR1(GT)n、IFNAR1 C/Tの順にG/T、C/C、YA、A/A、5/5、T/Tである場合、各々についてMxA−88、MBL、LMP7、IFNAR1(GT)n、IFNAR1 C/Tについては重み係数Skに+1を乗算した値が割り当てられ、MxA−123については重み係数Skに−1が乗算した値が割り当てられる。その結果、重み係数は図12の通りとなる。この重み係数(有効性予測個別値)を加算すると、有効性個別加算値は(+0.41)+(−0.40)+(+0.28)+(+0.02)+(+0.28)+(+0.00)=0.59となる。また、IRF−1についても同様に被検体データとして入力してよく、それによって重み係数が割り当てられ、更に有効性個別加算値が得られる(例として実施例2を参照されたい)。しかし、重み係数は本数値に限定するものではなく、各因子の有効性の度合い(p値等)や、新しく発見されたより有効な因子の加算等により随時変更することができる。
【0074】
次に、処理装置2は、出力装置4に有効性判定結果として有効性予測加算値を出力する(s64)。主治医あるいは患者は、出力された有効性予測加算値に基づき、治療の有効性を予測し、その治療方法を選択するか否かを判断する際の参考に供することができる。一般に有効性予測加算値が高いほど、治療の有効性が高いが、感染したHCVの遺伝子型等ヒトゲノムSNPs以外の要因をも加味した判断基準を設けることが重要である。
【0075】
よって、有効性の判定は、有効性予測加算値の算出に限定されない。例えば、有効性予測加算値に対応する各要因別の著効率を算出してもよい。
【0076】
以上により、有効性判定データベース3の生成及びそれを用いた有効性判定は終了する。
【0077】
以上のような治療法の有効性を予測するためのプログラム、データベース、システム及び方法は、本発明に好ましく利用することが可能である。
【0078】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【0079】
【実施例】
1.IRF−1遺伝子とIFN療法の治療効果との関連性の確認
個々の患者について、感染しているHCVの遺伝子型、IRF−1遺伝子のプロモーターSNPsのタイプを決定し、これらの要因とIFN治療効果の関係を調べた。
【0080】
1)概要
157例のHCV感染患者より採取した血液から、DNAおよびRNAを抽出してサンプルとした。RNA画分を用いてウイルスの遺伝子型判定を行ない、DNA画分を用いてIRF−1遺伝子のプロモーターSNPsの解析を行なった。そして、これらの要因とIFN治療効果との関連性を調べた。
【0081】
2)患者
患者の血液および肝組織による血液生化学的・組織学的な検査、さらに画像診断的検査によりC型慢性肝炎であると診断され、さらにIFN治療を経験しその治療効果が明らかとなった157例の患者の血液サンプルを本研究に使用した。なお、すべての患者に本研究の対象となることに関してのインフォームドコンセントを行なった。IFN治療効果判定は、IFN投与終了後6ヶ月の間に、血中のトランスアミナーゼが正常範囲にあり且つHCV RNAが陰性であった患者を完全著効と判定した。一方、治療によってHCVの排除が起こらなかった、もしくは排除されたが投与終了後6ヶ月の間に再燃した、或いはHCVの排除は起こったが投与終了後6ヶ月の間に血中のトランスアミナーゼが異常値を示した患者はすべて非著効と判定した。以上の判定基準により、全157例の患者は、完全著効50例、非著効107例に判別された。
【0082】
3)HCV遺伝子型、およびIRF−1遺伝子プロモーターSNPsの解析
上述した157例のIFN治療前の血清を用いて、HCV遺伝子型の解析を行なった。HCV RNAの抽出にはSepaGeneRV−R(三光純薬社製)を用いた。その後、M−MLV 逆転写酵素(Invitrogen社製)を用いてcDNAを合成した。その後の増幅には、一定方向のプライマーを各遺伝子型に特異的な配列を持つ箇所に位置をずらして設計することにより、増幅する産物の長さに差を持たせ、電気泳動の移動度で遺伝子型判定が可能となるPCR法(Okamoto H. et al., J. Gen. Virol.73, 673−679, 1992, Chayama K. et al., J. Gastroenterol. Hepatol. 8, 150−156, 1993)を用いて行なった。
【0083】
また、全血より抽出したヒトゲノムDNAを用いてIRF−1遺伝子のプロモーターSNPs解析を行なった。ヒトゲノムDNAの抽出には、QIAamp DNA Blood Kit(QIAGEN社製)を用いた。
【0084】
遺伝子解析を行なうための増幅には、GenBank受け付け番号AC079320の配列に基づいてプライマ−を作成して用いた。解析する範囲は、プロモーター領域と考えられる範囲を網羅したおよそ950塩基の領域について行なった。プロモーター領域を予測する際の翻訳開始部位は、GenBank受け付け番号X53095に記載されたmajor transcriptional start位置を参考にした。より上流の配列を増幅するためのプライマ−はIRF−06(5’−gtatatctcccgaacgcagg−3’)
とIRF−04(5’−gcttctctgaaccccttctc−3’)を用い、下流の配列にはIRF−01(5’−cacgtcttgcctcgactaag−3’)とIRF−03(5’−aggactgaaaccctcccttc−3’)を用いた。増幅にはFastStart Taq DNA Polymerase(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)を用いた。なお、PCRは94℃で30秒、56℃で30秒、72℃で1分を40サイクル行い、その前に94℃で4分、後に72℃7分の処理を行なった。
【0085】
増幅が終了したサンプルは、その一部を電気泳動して生成産物のサイズなどの確認を終えた後、ExoSap(Amersham Biosciences社製)にて精製した。シークエンスの反応はMegaBACE ET Terminator(Amersham Biosciences社製)を用いて行い、解析にはMegaBACE1000 DNA Sequencing System(Amersham Biosciences社製)を用いて行なった。
【0086】
4)結果
157サンプルすべてについて解析を行い、結果を図1にまとめた。IRF−1遺伝子のプロモーター領域には、6箇所のSNPsが発見された。そのうちの1箇所(−385位)は、157サンプルの約90%がGGホモで、残りの約10%の患者でAGヘテロ、AAホモが見られたのみであった。このSNPは治療効果と関連が見られなかったため除外した。残りの5SNPsはすべて連鎖しており、図1に示す3種のタイプに分けられることがわかった。転写開始点から一番近い位置のSNPである−297位の塩基によって表記すると、G型(GGホモ)、A型(AAホモ)、R型(AGヘテロ)の3種がある。5つのSNPsが互いに連鎖する様子は図3に示した。
【0087】
このうち3つのSNPsを報告している文献(Saito H. et al., J. Cell. Biochem.36, 191−200, 2001)とは、SNPsの表記が異なっているが、本研究の−297位が文献の−300位と、−407位が−410位と、−412位が−415位と、それぞれ対応するものと考えられる。さらに、同じ文献には述べられていないさらに上流の2SNPs(−597位、−723位)を新たに発見することができた。
【0088】
次にこれら5つのSNPsとIFN治療効果との関係を調べ、結果を図4に示した。その結果、157例全体で見た場合には、R型(AGヘテロ)が最も多く81例(52%)、ついでG型(GGホモ)が57例(36%)、少ない型はA型(AAホモ)で19例(12%)であった。これを、IFN治療効果別に示すと、完全著効例ではG型15例(30%)、R型29例(58%)、A型6例(12%)、であり非著効例ではG型42例(39%)、R型52例(49%)、A型13例(12%)であった。完全著効例と非著効例の間に有意な差は認められなかった。
【0089】
同様に、IFN治療効果に大きく影響を与えるとされているHCV遺伝子型別に、5つのSNPsとIFN治療効果との関係を調べた(図5)。HCV遺伝子型1型においては、完全著効例ではG型5例(31%)、R型10例(63%)、A型1例(6%)、であり非著効例ではG型27例(32%)、R型47例(55%)、A型11例(13%)で、157例全体で見た場合と同様に有意な傾向は認められなかった。対するHCV遺伝子型2型においては、完全著効例ではG型10例(29%)、R型19例(56%)、A型5例(15%)、であり非著効例ではG型14例(66%)、R型5例(24%)、A型2例(10%)であった。HCV遺伝子型1型に比して、2型はR型が少なくG型が多いという傾向が認められた。
【0090】
この差を検証するために、G型かまたはそれ以外(R型かA型)という分類をして、HCV遺伝子型別にカイ2乗検定を行なった(図6)。HCV遺伝子型1型においては、完全著効例ではG型5例(31%)、RもしくはA型が11例(69%)、であり非著効例ではG型27例(32%)、RもしくはA型が58例(68%)で、両者に有意な差は見られなかった(p=0.8008255)。
【0091】
一方のHCV遺伝子型2型においては、完全著効例ではG型10例(29%)、R型もしくはA型24例(71%)、であり非著効例ではG型14例(66%)、R型もしくはA型7例(34%)で、明らかに有意な差が認められた(p=0.0067972)。即ち、HCV遺伝子型2型が感染した患者は、G型であればIFN治療が効かない可能性がたかく、R型やA型であれば著効する可能性が高いと考えられる。
【0092】
以上の結果より、IRF−1遺伝子プロモーターにおける互いに連鎖した5つのSNPsを調べることで、遺伝子型2型のHCVが感染した患者においては、IFN療法の治療効果が予測可能であると示唆された。
【0093】
2.IRF−1遺伝子プロモーターSNPsによるIFN療法の治療効果判定の実際
測定したヒトゲノムSNPs情報を、より効果的にかつ簡便にIFN治療効果予測に役立てるために、測定結果の数値化し判別関数によって結果の処理を行なうためのスコアリングシステムを構築した。
【0094】
1)概要
IFN治療効果を治療前に予め予測するために、本発明者はIRF−1以外にも、これまでにMxA遺伝子のプロモーター領域にある2SNPs(−123位、−88位)他を報告してきた。それによると、MxA−123位はCCホモであると非著効になりやすく、CAヘテロかAAホモであれば完全著効になりやすい。また、MxA−88位は、GGであると非著効になりやすく、GTへテロかTTホモであると完全著効になりやすかった。
【0095】
また、これらのSNPs情報を数値化し、判別関数に代入することによって、簡便に治療効果予測をするスコアリング法も構築してきた。この方法に、今回のIRF−1の要因を加えることにより、判定効率がさらに高まるかどうかを調べた。
【0096】
2)患者
患者の血液および肝組織による血液生化学的・組織学的な検査、さらに画像診断的検査により慢性C型肝炎であると診断され、さらにIFN治療を経験しその治療効果が明らかとなった157例のうち、HCV遺伝子型2型が感染していた55例を対象とし、患者の血液サンプルを本研究に使用した。なお、すべての患者に本研究の対象となることに関してのインフォームドコンセントを行なった。治療効果判定は、IFN投与終了後6ヶ月の間に、血中のトランスアミナーゼが正常範囲にあり且つHCV RNAが陰性であった患者を完全著効と判定した。一方、治療によってHCVの排除が起こらなかった、もしくは排除されたが投与終了後6ヶ月の間に再燃した、或いはHCVの排除は起こったが投与終了後6ヶ月の間に血中のトランスアミナーゼが異常値を示した患者はすべて非著効と判定した。以上の判定基準により、全55例のHCV2型の患者は、完全著効34例、非著効21例に判別された。
【0097】
3)IRF−1遺伝子プロモーターSNPsの遺伝子解析
遺伝子解析を行なうための増幅には、GenBank受け付け番号AC079320の配列に基づいてプライマ−を作成して用いた。解析する範囲は、プロモーター領域と考えられる範囲を網羅したおよそ950塩基領域について行なった。プロモーター領域を予測する際の翻訳開始部位は、GenBank受け付け番号X53095に記載されたmajor transcriptional start位置を参考にした。より上流の配列を増幅するためのプライマ−はIRF−06(5’−gtatatctcccgaacgcagg−3’;配列番号4)とIRF−04(5’−gcttctctgaaccccttctc−3’;配列番号5)を用い、下流の配列にはIRF−01(5’−cacgtcttgcctcgactaag−3’;配列番号6)とIRF−03(5’−aggactgaaaccctcccttc−3’;配列番号7)を用いた。増幅にはFastStart Taq DNA Polymerase(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)を用いた。なお、PCRは94℃で30秒、56℃で30秒、72℃で1分を40サイクル行い、その前に94℃で4分、後に72℃7分の処理を行なった。
【0098】
増幅が終了したサンプルは、その一部を電気泳動して生成産物のサイズなどの確認を終えた後、ExoSap(Amersham Biosciences社製)にて精製した。シークエンスの反応はMegaBACE ET Terminator(Amersham Biosciences社製)を用いて行い、解析にはMegaBACE1000 DNA Sequencing System(Amersham Biosciences社製)を用いて行なった。
【0099】
4)結果
遺伝子を解析した結果、HCV2型の完全著効例ではG型10例(29%)、R型19例(56%)、A型5例(15%)、であり非著効例ではG型14例(66%)、R型5例(24%)、A型2例(10%)であった。また、IRF−1遺伝子プロモーターを2タイプに分類して解析すると、完全著効例ではG型10例(29%)、R型もしくはA型24例(71%)、であり非著効例ではG型14例(66%)、R型もしくはA型7例(34%)で、明らかに有意な差が認められた(p=0.0067972)。
【0100】
これを既存のスコアリングシステムに応用した。本発明者らが構築したスコアリングシステムにおいては、各SNPsは数値化される。例えば、MxA(−123)では、(CC,CA,AA)=(−1、1、1)であり、MxA(−88)では、(GG,GT,TT)=(−1、1、1)という数値化が可能である。各症例におけるこれらの数値と、IFN治療効果を基に判別関数を作成した。判別関数の係数は通常の統計学の手法に従って決定した(参考文献:栗原孝次著「データの科学」放送大学教育振興会)。計算値が0以上であれば「完全著効する」、0以下であれば「非著効となる」と判定する。
【0101】
遺伝子型2型のHCVが感染した55例のIFN治療効果とSNPsの関係から、MxA(−123)では、次のような判別関数が導き出された;
0.79(MxA−123) + 0.05。
【0102】
この判別関数によって0以上の数値を示し、「完全著効する」と判定された症例は22例であり、実際に完全著効した症例の34例のうち12例の判定が誤りであった。よって誤り率は35%ということになる。同様に同じ判別関数によって0以上の数値を示し、「非著効となる」と判定された症例は15例であり、実際に非著効であった21例のうち6例の判定が誤りであった。よって誤り率は29%ということになる。
【0103】
同様に、MxA(−88)では、次のような判別関数が導き出された;
0.75(MxA−88) −0.01。
【0104】
この判別関数によって、「完全著効する」と判定された症例は23例であり、実際に完全著効した症例34例のうち11例の判定が誤りであった。よって誤り率は32%ということになる。同様に、「非著効となる」と判定された症例は14例であり、実際に非著効であった症例21例のうち7例の判定が誤りであった。よって誤り率は32%ということになる。
【0105】
これら2要因を加えると、次のような判別関数が導き出された;
0.67(MxA−123) + 0.14(MxA−88) + 0.04。
【0106】
この判別関数によって、「完全著効する」と判定された症例は22例であり、実際に完全著効した34例のうち12例の判定が誤りであった。よって誤り率は35%ということになる。同様に、「非著効となる」と判定された症例は15例であり、実際に非著効であった21例のうち6例の判定が誤りであった。よって誤り率は29%ということになる。
【0107】
同じことを、IRF−1でも行なった。IRF−1での数値化は、(CC,CT,TT)=(−1、1、1)であった。これらの結果と各症例の治療効果との関係から、次のような判別関数が導き出された;
0.842(IRF−1) −0.0033。
【0108】
この判別関数によって、「完全著効する」と判定された症例は24例であり、実際に完全著効した34例のうち10例の判定が誤りであった。よって誤り率は30%ということになる。同様に、「非著効となる」と判定された症例は14例であり、実際に非著効であった21例のうち7例の判定が誤りであった。よって誤り率は33%ということになる。
【0109】
同じ数値化により、MxAの2SNPsとIRF−1を組み合わせると以下のような結果になった;
0.703(MxA−123)+0.754(IRF−1)+0.0177
0.661(MxA−88)+0.761(IRF−1)−0.0363
0.602(MxA−123)+0.109(MxA−88)+0.753(IRF−1)+0.0098。
【0110】
これらの3種の判別関数を用いた場合は、すべて同じ結果になった。即ち、「完全著効する」と判定された症例は24例であり、実際に完全著効した34例のうち10例の判定が誤りであった。よって誤り率は30%ということになる。同様に、「非著効となる」と判定された症例は14例であり、実際に非著効であった21例のうち7例の判定が誤りであった。よって誤り率は33%ということになる。
【0111】
このような方法で、IRF−1遺伝子のプロモーターSNPsを測定し、単独で又は既知の遺伝子からの情報と共に判別関数に代入することにより、簡便に治療効果予測に役立てることができる。
【0112】
【発明の効果】
本発明により、IFN療法の有効性を予測するための新規多型、IFN療法の有効性の予測方法が提供された。当該多型は、特に2型HCV感染者におけるIFNの治療効果を予測するために有用である。
【0113】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、IRF−1遺伝子プロモーター配列を示す図。
【図2】図2は、図1の続きでありIRF−1遺伝子プロモーター配列を示す図。
【図3】IRF−1遺伝子のプロモーター領域に見つかった互いに連鎖する5SNPsと157例の内訳を示す図。
【図4】IRF−1遺伝子プロモーターSNPsのタイプとIFN治療効果との関係を示す図。
【図5】HCV遺伝子型別にみたIRF−1遺伝子のプロモーターSNPsのタイプとIFN治療効果との関係を示す図。
【図6】HCV遺伝子型別にみたIRF−1遺伝子のプロモーターSNPsのタイプとIFN治療効果との関係を示す図。
【図7】本発明において使用され得る治療法有効性予測装置の全体構成を示す図。
【図8】本発明において使用され得る検体統計データベース(DB)の一例を示す図。
【図9】本発明において使用され得る有効性判定データベースの一例を示す図。
【図10】本発明における有効性判定データベースの作成方法のフローチャートを示す図。
【図11】本発明における有効性判定処理のフローチャートを示す図。
【図12】本発明における有効性予測加算値の算出概念図。
【符号の説明】
1…入力装置、2…処理装置、3…有効性判定データベース、4…出力装置、5…記憶媒体読取装置、6…記憶媒体、10…コンピュータ、11…通信ネットワーク、12…検体統計データベース
Claims (6)
- インターフェロン調節因子−1遺伝子のプロモーター領域の−597位に存在するインターフェロンの治療効果を予測するための多型マーカー。
- インターフェロン調節因子−1遺伝子のプロモーター領域の−723位に存在するインターフェロンの治療効果を予測するための多型マーカー。
- 請求項1または請求項2に記載の多型マーカーの遺伝子型を決定するためのプライマー。
- 請求項1または請求項2に記載の多型マーカーの遺伝子型を決定するためのプローブ。
- C型肝炎ウイルス2型感染者においてインターフェロン療法の有効性を予測する方法であって、
(1)前記個体に由来するサンプルを得ること、
(2)(1)のサンプルについて、インターフェロン調節因子−1遺伝子プロモーター領域の少なくとも1の一塩基多型の遺伝子型を決定すること、および
(3)(2)で決定された遺伝子型からインターフェロン療法の有効性の予測を行うこと、
を具備するC型肝炎ウイルス2型感染者においてインターフェロン療法の有効性を予測する方法。 - 前記インターフェロン調節因子−1遺伝子プロモーター領域の少なくとも1の一塩基多型が、インターフェロン調節因子−1遺伝子プロモーター領域の−597位、−723位、−297位、−407位および−412位からなる群より選択される一塩基多型である請求項5に記載のC型肝炎ウイルス2型感染者においてインターフェロン療法の有効性を予測する方法。
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