JP2004292967A - アクリル系合成繊維 - Google Patents
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Abstract
【課題】優れた吸湿性を有していて、かつ紡糸時にポリビニルピロリドンの脱落を防ぎ、肌着、レッグ等の素材として最適な、吸湿率差△MRに優れたアクリル系合成繊維とその製造方法を提供すること。
【解決手段】アクリロニトリルとポリビニルピロリドンからなるポリマーを、アクリル系合成繊維に含有することを特徴とするアクリル系合成繊維であり、アクリロニトリルとポリビニルピロリドンからなるポリマーを、アクリル系重合体にブレンドし湿式紡糸後、湿熱処理を行なうことを特徴とするアクリル系合成繊維の製造方法である。
【選択図】なし
【解決手段】アクリロニトリルとポリビニルピロリドンからなるポリマーを、アクリル系合成繊維に含有することを特徴とするアクリル系合成繊維であり、アクリロニトリルとポリビニルピロリドンからなるポリマーを、アクリル系重合体にブレンドし湿式紡糸後、湿熱処理を行なうことを特徴とするアクリル系合成繊維の製造方法である。
【選択図】なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、快適な肌着、レッグ等の素材として最適な高吸湿性アクリル系合成繊維に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来よりアクリル系繊維はその優れた風合い、染色性等の特徴を活かし、主に短繊維となされて肌着、セーター、ジャージ、ニット、レッグ等の衣料分野、ハイパイル、モケット等のインテリア分野、毛布等の寝装分野で幅広く用いられていた。
【0003】
一方、綿や羊毛等に代表される天然繊維はその風合いや着心地の良さが好まれ、特に、肌に直接当たる肌着や中衣には適度な吸湿性を有する綿が多く用いられている。
【0004】
しかし、綿の肌着は、しなやかさ、ドレープ性、光沢感等の審美性に欠けると共に、表面のなめらかなタッチ、着用時のひんやり感等についても不十分であり、特に女性の肌着には不向きであった。
【0005】
これに対し、合成繊維であるアクリル系合成繊維は、染色性などに優れた特性を有するものの、天然繊維に比べ吸湿性が劣っている。そのため、着用により生じた水蒸気は十分吸湿されないので衣服外に放出されず、特に夏の高温多湿時の蒸れ感は大きく不快を感じるものであった。
【0006】
そのため、アクリル系合成繊維の吸湿性の改善については、繊維のボイドに吸湿剤を把持させ吸湿性を向上させる方法が検討されているが(特許文献1)、表面処理においては風合いや耐久性、特に発色性に劣るといった欠点があった。
【0007】
また、ポリビニルピロリドンを含有するアクリル系合成繊維に関しては、ポリビニルピロリドンをアクリル繊維に含有させることを提案されているが(特許文献2)、いまだ実用的な吸湿性、繊維の特性を得る発明に至っていなく、特に特許文献2ではポリビニルピロリドンに対してピロリドンの含有率が0.2%程度と大きく、一般に、原綿の黄色度b値が高くなり、未染色で使われる衣料分野で使用できる製品まで至ってない。
【0008】
また、異形芯鞘複合繊維中の芯部にビニルピロリドンを含有させ凝固速度を遅め緻密性に優れた異型断面原綿も提案されているが(特許文献3)、吸湿性については芯部にビニルピロリドンを入れているため、充分な吸湿性が得られるものになっていない。
【0009】
また、先に本発明者らは、アクリル系合成繊維中ポリビニルピロリドンが5〜30wt%含有され、かつ、該アクリル系合成繊維中のピロリドンの含有率がポリビニルピロリドン含有量の0.1wt%以下であることを特徴とするアクリル系合成繊維と、ピロリドン含有率が0.1wt%以下であるポリビニルピロリドンを、アクリルニトリル系重合体に5〜30wt%の割合で混合させ、湿式紡糸した後、延伸することを特徴とするアクリル系合成繊維の製造方法についての提案を行った(特許文献4)。しかし、この提案になるものは、ポリビニルピロリドンをアクリルニトリル系重合体に単純に練り込み紡糸するとアクリル繊維独特の湿式紡糸や乾湿式紡糸において、凝固浴の糸状が形成される過程で練り込んだポリビニルピロリドンが脱落し、その性能を満足させるためにはたくさん入れる必要があった。
【0010】
【特許文献1】特開昭47−77193号公報
【0011】
【特許文献2】特開昭51−37981号公報
【0012】
【特許文献3】特開平8−337926号公報
【0013】
【特許文献4】特願2003−56716号
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明者らは、アクリル系合成繊維の吸湿性を向上すべく、ポリビニルピロリドン含有するアクリル系合成繊維について鋭意検討したところ、本発明に至ったのである。
【0015】
すなわち本発明は、紡糸時にポリビニルピロリドンの脱落量を防ぎ吸湿率差に優れたアクリル系合成繊維とその製造方法を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
この目的を達成するため、本発明のアクリル系合成繊維は、アクリロニトリルとポリビニルピロリドンからなるポリマーを、アクリル系合成繊維に含有せしめてなることを特徴とする。
【0017】
ポリビニルピロリドンとアクリロニトリルから構成されるポリマーは、アクリロニトリルが加わることにより、アクリル系合成繊維を形成するアクリロニトリル系重合体との相容性が良く、湿式紡糸特有の凝固浴液中での脱落が少なくなる。
【0018】
また、本発明のアクリル系合成繊維の製造方法は、アクリロニトリルとポリビニルピロリドンからなるポリマーを、アクリル系重合体にブレンドし湿式紡糸後、湿熱処理を行うことを特徴とするアクリル系合成繊維の製造方法である。
【0019】
本発明のアクリル系合成繊維は、所定の吸湿性能を有することが必要であるが、湿熱処理を実施することにより、吸水性のあるポリビニルピロリドンが活性化されその性能が向上する。
【0020】
かかる本発明のアクリル系合成繊維の製造方法において、好ましくは、延伸を3倍以上7倍以下の延伸倍率、より好ましくは4倍以上6倍以下の延伸倍率で行うものである。更に好ましくは、該延伸後、アクリル系合成繊維を水洗して後、油剤を付与するものである。
【0021】
油剤の付与については、できるだけ単糸(単繊維)間に均一に含浸させるためスプレー付与、タッチローラ付与、浴中での付与が好ましいが、中でも一般的な水洗機であるバイブロウォッシャー機内に油剤を入れ、含浸するのが好ましい。
【0022】
また、油剤としては、均一に付着させるため、水分散系の油剤より水溶性のある油剤が好ましい。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、更に詳しく本発明について説明をする。
【0024】
本発明の吸湿性アクリル系合成繊維は、アクリロニトリルとポリビニルピロリドンからなるポリマーを、アクリル系合成繊維に含有するものである。
【0025】
ポリビニルピロリドンとアクリロニトリルから構成されるポリマーは、アクリロニトリルが加わることにより、アクリル系合成繊維を形成するアクリロニトリル系重合体との相容性が良く、湿式紡糸特有の凝固浴液中での脱落が少なくなる。
【0026】
更に、ポリビニルピロリドンは、所望の高吸湿特性を繊維に付与するために、アクリロニトリル系重合体に対し5〜30wt%含有させることが好ましく、特に5〜20wt%が好ましい。ポリビニルピロリドンの含有率が5wt%未満と少な過ぎると十分な吸湿性が得られない。吸湿率差△MRが概して2%未満となるからである。
【0027】
また、30wt%を越えるほどに多すぎるとべたつき感が発現し感触不良となり、しかも、製糸性が不良となって安定して生産することができなくなる。
【0028】
好ましく製造された本発明のアクリル系合成繊維は、吸湿率差△MRが2%以上5%以下、単糸(単繊維)の強度が2cN/dtex以上5cN/dtex以下、伸度が20%以上、45%以下という特性を有する。このことは、吸湿性をもたらすとともに、従来と同様の糸の強さ、柔軟さを持っているので、次工程である紡績工程での通過性についても問題ないという効果をもたらすものである。
【0029】
また、本発明の吸湿性アクリル系合成繊維を製造する方法は、アクリロニトリルとポリビニルピロリドンからなるポリマーを、アクリル系重合体にブレンドし湿式紡糸後、湿熱処理を行うものである。かかる構成を有することにより、湿式紡糸特有の凝固浴液中でポリビニルピロリドンを含有するポリマーの脱落が少なく吸湿性のあるアクリル系合成繊維を得ることができる。
【0030】
さらに詳細に本発明を説明すると、アクリル系合成繊維において湿式紡糸するまでの何れかの工程で、ポリビニルピロリドンとアクリロニトリルから構成されたポリマーをアクリル系重合体溶液にブレンドする。ブレンド方法は従来から知られている混合ミキサー等、均一にブレンドできるものなら何でもかまわない。
【0031】
ブレンド量は、ポリビニルピロリドンがアクリロニトリル系重合体に5〜30wt%均一にブレンドすることが好ましい。
【0032】
また、本発明で用いるポリビニルピロリドンは、そのK値が20以上70以下が好ましい。
【0033】
K値が低過ぎるポリビニルピロリドンはいくらアクリロニトリルと重合してもアクリルニトリル系重合体の分子鎖との絡み合いが弱く、湿式紡糸溶液やその後の延伸浴、水洗浴中でその多くが溶出しやすいので、所望の高吸湿特性を得るには多くのポリビニルピロリドンを練り込まねばならず生産効率が低下する。またK値が高すぎると、ポリマの粘度が上昇しやすく、安定したポリマが得られにくく、製糸性が悪くなる。K値はその平均分子量と対応したパラメーターであり、K値が低いと平均分子量の低く、K値が大きいと平均分子量も大きくK=30で平均分子量は約40000、K=90で約700000である。
【0034】
凝固浴中の溶媒については、有機溶媒系のジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキサイトや無機溶媒系の硝酸、ロダン塩、塩化亜鉛などの水溶液などが好ましい。
【0035】
延伸は、3倍以上7倍以下の延伸倍率で行うことが好ましい。これは、糸の強度、伸度をもたらすためだからである。さらに、延伸した後、アクリル系合成繊維に油剤を付与すること好ましい。これは単糸間の接着が起こらないようにするからである。油剤としては、水溶性の油剤などを使用することができる。また、その付着量は、0.02〜0.2%とするのが好ましい。
【0036】
湿熱処理においては無緊張加圧下で飽和水蒸気で100℃〜130℃で処理するのが好ましい。このように、湿熱処理を実施することにより、吸水性のあるポリビニルピロリドンが活性化され、同じ添加量でも吸湿性能が向上する。
<K値>
ポリビニルピロリドンを濃度1%の水溶液とし、その相対粘度を測定し、Fikentscherの式により求める。
【0037】
logZ=C[75k2 /(1+1.5kC)+k]
但し、Z:濃度Cの水溶液の相対粘度、k:K値×10ー3、C:水溶液濃度(W/V%)である。
【0038】
なお、市販のポリビニルピロリドンにおいては、K値が明示されて市販されているのが通常であるので、一般的にはその値に従えばよい。
<黄色度>
JIS規格 L1015 8.17の白色度測定におけるハンターの方法のb値を黄色度とする。
<吸湿率差;△MR>
試験に供する原綿約1gの試験綿を3つ用意する。該試験綿を重さが既知の秤量瓶に入れ60℃に設定した熱風乾燥機に蓋をとって30分間予備乾燥を行う。
予備乾燥後、20℃×65%RHに設定した恒温恒湿機内で24時間調湿する。
秤量瓶の蓋をした後、恒温恒湿機から取り出し、直ちに重量を測り秤量瓶の重量を差し引き試験綿の重量を算出する(小数点以下4桁まで算出。これをW1とする。)。次に30℃×90%RHに設定した恒温恒湿機内で秤量瓶の蓋をとって24時間調湿する。
【0039】
秤量瓶の蓋をした後、恒温恒湿機から取り出し、直ちに重量を測り秤量瓶の重量を差し引き試験綿の重量を算出する(小数点以下4桁まで算出する。これをW2とする。)。105℃で2時間熱風乾燥機で秤量瓶の蓋を取り乾燥し乾燥後、直ちに秤量瓶の蓋をした後、デシケータの中に入れて室温で30分間放冷する。
【0040】
その後、デシケータから秤量瓶を取り出し重量を測り、秤量瓶の重量を差し引き試験綿の絶重量乾重量を求める。(小数点4桁まで算出する。これをW3とする。)。
【0041】
このように求めた絶乾前後の試験綿の重さから次の式によって20℃×65%RHと30℃×90%RHの吸湿率差(△MR)を算出する。測定は、この試験をn数3回として行い、その3回の平均値で表す。(小数点以下1桁まで求める)
△MR=MR2−MR1
MR1=(W1−W3)/W3×100(%)
MR2=(W2−W3)/W3×100(%)
【0042】
【実施例】
実施例1、2、3
ポリビニルピロリドンとして、通常の方法で合成されたK値が30の市販のポリビニルピロリドン(BASF社製“LUVITEC”K30 POWDER:以下、K30と略記する)を用いた。このポリビニルピロリドン(K30)中のピロリドン含有量は0.02wt%であった。
【0043】
このポリビニルピロリドンをヂメチルスルホキサイド(DMSO)に溶解し、アクリロニトリルをポリビニルピロリドンに対して24%、メチルメタクリレートをポリビニルピロリドンに対して6%入れ、シュウ酸二水和物、過硫酸アンモニウム、純粋、ドデシルメルカプタンを入れ、55℃で11時間重合したポリマーを、アクリロニトリル(AN)/アクリル酸メチル(MEA)/メタクリルスルホン酸ナトリウム(SMAS)=95.5/4.2/0.3(モル比)からなるアクリル系共重合体のジメチルスルホキシド(DMSO)溶液にアクリルニトリル系重合体にたいしポリビニルピロリドンがそれぞれ5%、10%、20%となるように混ぜ、57%DMSO水溶液中に湿式紡糸した。
【0044】
その後、延伸、水洗し油剤を付与後160℃の熱風乾燥で乾燥緻密化し油剤を付与後捲縮をかけ乾燥したものをそれぞれ実施例1、2、3とする。
実施例4、5、6、7
実施例1、2において得られた繊維を102℃、115℃で湿熱処理を実施したものをそれぞれ実施例4、5、6、7とする。
比較例1、2
ポリビニルピロリドンとして、通常の方法で合成されたK値が30の市販のポリビニルピロリドン(BASF社製“LUVITEC”K30 POWDER:以下K30と略記する)を用いた。このポリビニルピロリドン(K30)中のピロリドン含有量は0.02wt%であった。
このポリビニルピロリドンをヂメチルスルホキサイド(DMSO)に溶解し、アクリロニトリル(AN)/アクリル酸メチル(MEA)/メタクリルスルホン酸ナトリウム(SMAS)=95.5/4.2/0.3(モル比)からなるアクリル系共重合体のジメチルスルホキシド(DMSO)溶液にアクリルニトリル系重合体にたいしポリビニルピロリドンがそれぞれ5%、10%、となるように混ぜ、57%DMSO水溶液中に湿式紡糸した。その後、延伸、水洗し油剤を付与後160℃の熱風乾燥で乾燥緻密化し油剤を付与後捲縮をかけ乾燥したものをそれぞれ比較例1、2とする。
【0045】
各実施例、比較例の繊維について評価した結果を表1に示した。
【0046】
本発明にかかる実施例1〜3は、ポリビニルピロリドンとアクリロニトリルを重合したポリマーを用いたアクリル系合成繊維であり吸湿率差があることがわかる。また実施例4〜7により湿熱処理を施すことにより吸湿率差が向上することわかる。
【0047】
一方、比較例1〜2は、ポリビニルピロリドンをアクリロニトリル系重合体に単純にブレンドしたものであるが、吸湿率差はあるものの実施例のものより吸湿率差が悪いことがわかる。
【0048】
【表1】
【0049】
【発明の効果】
本発明によれば、ポリビニルピロリドンにアクリロニトリルをグラフト重合することにより、より高吸湿化したアクリル系合成繊維を得られ、また湿熱処理を実施することによりさらに優れた高吸湿性アクリル繊維を提供できる。
【0050】
従って、吸湿性、色調等がともに優れ、着用感に優れたアクリル系合成繊維製の衣料用布帛製品とすることができ、特に、吸湿性とともに審美性も要求される各種衣料用アクリル系合成繊維製品として、例えば、肌に直接着用されるインナーウェアや靴下として、また、スポーツウェアとして好適である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、快適な肌着、レッグ等の素材として最適な高吸湿性アクリル系合成繊維に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来よりアクリル系繊維はその優れた風合い、染色性等の特徴を活かし、主に短繊維となされて肌着、セーター、ジャージ、ニット、レッグ等の衣料分野、ハイパイル、モケット等のインテリア分野、毛布等の寝装分野で幅広く用いられていた。
【0003】
一方、綿や羊毛等に代表される天然繊維はその風合いや着心地の良さが好まれ、特に、肌に直接当たる肌着や中衣には適度な吸湿性を有する綿が多く用いられている。
【0004】
しかし、綿の肌着は、しなやかさ、ドレープ性、光沢感等の審美性に欠けると共に、表面のなめらかなタッチ、着用時のひんやり感等についても不十分であり、特に女性の肌着には不向きであった。
【0005】
これに対し、合成繊維であるアクリル系合成繊維は、染色性などに優れた特性を有するものの、天然繊維に比べ吸湿性が劣っている。そのため、着用により生じた水蒸気は十分吸湿されないので衣服外に放出されず、特に夏の高温多湿時の蒸れ感は大きく不快を感じるものであった。
【0006】
そのため、アクリル系合成繊維の吸湿性の改善については、繊維のボイドに吸湿剤を把持させ吸湿性を向上させる方法が検討されているが(特許文献1)、表面処理においては風合いや耐久性、特に発色性に劣るといった欠点があった。
【0007】
また、ポリビニルピロリドンを含有するアクリル系合成繊維に関しては、ポリビニルピロリドンをアクリル繊維に含有させることを提案されているが(特許文献2)、いまだ実用的な吸湿性、繊維の特性を得る発明に至っていなく、特に特許文献2ではポリビニルピロリドンに対してピロリドンの含有率が0.2%程度と大きく、一般に、原綿の黄色度b値が高くなり、未染色で使われる衣料分野で使用できる製品まで至ってない。
【0008】
また、異形芯鞘複合繊維中の芯部にビニルピロリドンを含有させ凝固速度を遅め緻密性に優れた異型断面原綿も提案されているが(特許文献3)、吸湿性については芯部にビニルピロリドンを入れているため、充分な吸湿性が得られるものになっていない。
【0009】
また、先に本発明者らは、アクリル系合成繊維中ポリビニルピロリドンが5〜30wt%含有され、かつ、該アクリル系合成繊維中のピロリドンの含有率がポリビニルピロリドン含有量の0.1wt%以下であることを特徴とするアクリル系合成繊維と、ピロリドン含有率が0.1wt%以下であるポリビニルピロリドンを、アクリルニトリル系重合体に5〜30wt%の割合で混合させ、湿式紡糸した後、延伸することを特徴とするアクリル系合成繊維の製造方法についての提案を行った(特許文献4)。しかし、この提案になるものは、ポリビニルピロリドンをアクリルニトリル系重合体に単純に練り込み紡糸するとアクリル繊維独特の湿式紡糸や乾湿式紡糸において、凝固浴の糸状が形成される過程で練り込んだポリビニルピロリドンが脱落し、その性能を満足させるためにはたくさん入れる必要があった。
【0010】
【特許文献1】特開昭47−77193号公報
【0011】
【特許文献2】特開昭51−37981号公報
【0012】
【特許文献3】特開平8−337926号公報
【0013】
【特許文献4】特願2003−56716号
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明者らは、アクリル系合成繊維の吸湿性を向上すべく、ポリビニルピロリドン含有するアクリル系合成繊維について鋭意検討したところ、本発明に至ったのである。
【0015】
すなわち本発明は、紡糸時にポリビニルピロリドンの脱落量を防ぎ吸湿率差に優れたアクリル系合成繊維とその製造方法を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
この目的を達成するため、本発明のアクリル系合成繊維は、アクリロニトリルとポリビニルピロリドンからなるポリマーを、アクリル系合成繊維に含有せしめてなることを特徴とする。
【0017】
ポリビニルピロリドンとアクリロニトリルから構成されるポリマーは、アクリロニトリルが加わることにより、アクリル系合成繊維を形成するアクリロニトリル系重合体との相容性が良く、湿式紡糸特有の凝固浴液中での脱落が少なくなる。
【0018】
また、本発明のアクリル系合成繊維の製造方法は、アクリロニトリルとポリビニルピロリドンからなるポリマーを、アクリル系重合体にブレンドし湿式紡糸後、湿熱処理を行うことを特徴とするアクリル系合成繊維の製造方法である。
【0019】
本発明のアクリル系合成繊維は、所定の吸湿性能を有することが必要であるが、湿熱処理を実施することにより、吸水性のあるポリビニルピロリドンが活性化されその性能が向上する。
【0020】
かかる本発明のアクリル系合成繊維の製造方法において、好ましくは、延伸を3倍以上7倍以下の延伸倍率、より好ましくは4倍以上6倍以下の延伸倍率で行うものである。更に好ましくは、該延伸後、アクリル系合成繊維を水洗して後、油剤を付与するものである。
【0021】
油剤の付与については、できるだけ単糸(単繊維)間に均一に含浸させるためスプレー付与、タッチローラ付与、浴中での付与が好ましいが、中でも一般的な水洗機であるバイブロウォッシャー機内に油剤を入れ、含浸するのが好ましい。
【0022】
また、油剤としては、均一に付着させるため、水分散系の油剤より水溶性のある油剤が好ましい。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、更に詳しく本発明について説明をする。
【0024】
本発明の吸湿性アクリル系合成繊維は、アクリロニトリルとポリビニルピロリドンからなるポリマーを、アクリル系合成繊維に含有するものである。
【0025】
ポリビニルピロリドンとアクリロニトリルから構成されるポリマーは、アクリロニトリルが加わることにより、アクリル系合成繊維を形成するアクリロニトリル系重合体との相容性が良く、湿式紡糸特有の凝固浴液中での脱落が少なくなる。
【0026】
更に、ポリビニルピロリドンは、所望の高吸湿特性を繊維に付与するために、アクリロニトリル系重合体に対し5〜30wt%含有させることが好ましく、特に5〜20wt%が好ましい。ポリビニルピロリドンの含有率が5wt%未満と少な過ぎると十分な吸湿性が得られない。吸湿率差△MRが概して2%未満となるからである。
【0027】
また、30wt%を越えるほどに多すぎるとべたつき感が発現し感触不良となり、しかも、製糸性が不良となって安定して生産することができなくなる。
【0028】
好ましく製造された本発明のアクリル系合成繊維は、吸湿率差△MRが2%以上5%以下、単糸(単繊維)の強度が2cN/dtex以上5cN/dtex以下、伸度が20%以上、45%以下という特性を有する。このことは、吸湿性をもたらすとともに、従来と同様の糸の強さ、柔軟さを持っているので、次工程である紡績工程での通過性についても問題ないという効果をもたらすものである。
【0029】
また、本発明の吸湿性アクリル系合成繊維を製造する方法は、アクリロニトリルとポリビニルピロリドンからなるポリマーを、アクリル系重合体にブレンドし湿式紡糸後、湿熱処理を行うものである。かかる構成を有することにより、湿式紡糸特有の凝固浴液中でポリビニルピロリドンを含有するポリマーの脱落が少なく吸湿性のあるアクリル系合成繊維を得ることができる。
【0030】
さらに詳細に本発明を説明すると、アクリル系合成繊維において湿式紡糸するまでの何れかの工程で、ポリビニルピロリドンとアクリロニトリルから構成されたポリマーをアクリル系重合体溶液にブレンドする。ブレンド方法は従来から知られている混合ミキサー等、均一にブレンドできるものなら何でもかまわない。
【0031】
ブレンド量は、ポリビニルピロリドンがアクリロニトリル系重合体に5〜30wt%均一にブレンドすることが好ましい。
【0032】
また、本発明で用いるポリビニルピロリドンは、そのK値が20以上70以下が好ましい。
【0033】
K値が低過ぎるポリビニルピロリドンはいくらアクリロニトリルと重合してもアクリルニトリル系重合体の分子鎖との絡み合いが弱く、湿式紡糸溶液やその後の延伸浴、水洗浴中でその多くが溶出しやすいので、所望の高吸湿特性を得るには多くのポリビニルピロリドンを練り込まねばならず生産効率が低下する。またK値が高すぎると、ポリマの粘度が上昇しやすく、安定したポリマが得られにくく、製糸性が悪くなる。K値はその平均分子量と対応したパラメーターであり、K値が低いと平均分子量の低く、K値が大きいと平均分子量も大きくK=30で平均分子量は約40000、K=90で約700000である。
【0034】
凝固浴中の溶媒については、有機溶媒系のジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキサイトや無機溶媒系の硝酸、ロダン塩、塩化亜鉛などの水溶液などが好ましい。
【0035】
延伸は、3倍以上7倍以下の延伸倍率で行うことが好ましい。これは、糸の強度、伸度をもたらすためだからである。さらに、延伸した後、アクリル系合成繊維に油剤を付与すること好ましい。これは単糸間の接着が起こらないようにするからである。油剤としては、水溶性の油剤などを使用することができる。また、その付着量は、0.02〜0.2%とするのが好ましい。
【0036】
湿熱処理においては無緊張加圧下で飽和水蒸気で100℃〜130℃で処理するのが好ましい。このように、湿熱処理を実施することにより、吸水性のあるポリビニルピロリドンが活性化され、同じ添加量でも吸湿性能が向上する。
<K値>
ポリビニルピロリドンを濃度1%の水溶液とし、その相対粘度を測定し、Fikentscherの式により求める。
【0037】
logZ=C[75k2 /(1+1.5kC)+k]
但し、Z:濃度Cの水溶液の相対粘度、k:K値×10ー3、C:水溶液濃度(W/V%)である。
【0038】
なお、市販のポリビニルピロリドンにおいては、K値が明示されて市販されているのが通常であるので、一般的にはその値に従えばよい。
<黄色度>
JIS規格 L1015 8.17の白色度測定におけるハンターの方法のb値を黄色度とする。
<吸湿率差;△MR>
試験に供する原綿約1gの試験綿を3つ用意する。該試験綿を重さが既知の秤量瓶に入れ60℃に設定した熱風乾燥機に蓋をとって30分間予備乾燥を行う。
予備乾燥後、20℃×65%RHに設定した恒温恒湿機内で24時間調湿する。
秤量瓶の蓋をした後、恒温恒湿機から取り出し、直ちに重量を測り秤量瓶の重量を差し引き試験綿の重量を算出する(小数点以下4桁まで算出。これをW1とする。)。次に30℃×90%RHに設定した恒温恒湿機内で秤量瓶の蓋をとって24時間調湿する。
【0039】
秤量瓶の蓋をした後、恒温恒湿機から取り出し、直ちに重量を測り秤量瓶の重量を差し引き試験綿の重量を算出する(小数点以下4桁まで算出する。これをW2とする。)。105℃で2時間熱風乾燥機で秤量瓶の蓋を取り乾燥し乾燥後、直ちに秤量瓶の蓋をした後、デシケータの中に入れて室温で30分間放冷する。
【0040】
その後、デシケータから秤量瓶を取り出し重量を測り、秤量瓶の重量を差し引き試験綿の絶重量乾重量を求める。(小数点4桁まで算出する。これをW3とする。)。
【0041】
このように求めた絶乾前後の試験綿の重さから次の式によって20℃×65%RHと30℃×90%RHの吸湿率差(△MR)を算出する。測定は、この試験をn数3回として行い、その3回の平均値で表す。(小数点以下1桁まで求める)
△MR=MR2−MR1
MR1=(W1−W3)/W3×100(%)
MR2=(W2−W3)/W3×100(%)
【0042】
【実施例】
実施例1、2、3
ポリビニルピロリドンとして、通常の方法で合成されたK値が30の市販のポリビニルピロリドン(BASF社製“LUVITEC”K30 POWDER:以下、K30と略記する)を用いた。このポリビニルピロリドン(K30)中のピロリドン含有量は0.02wt%であった。
【0043】
このポリビニルピロリドンをヂメチルスルホキサイド(DMSO)に溶解し、アクリロニトリルをポリビニルピロリドンに対して24%、メチルメタクリレートをポリビニルピロリドンに対して6%入れ、シュウ酸二水和物、過硫酸アンモニウム、純粋、ドデシルメルカプタンを入れ、55℃で11時間重合したポリマーを、アクリロニトリル(AN)/アクリル酸メチル(MEA)/メタクリルスルホン酸ナトリウム(SMAS)=95.5/4.2/0.3(モル比)からなるアクリル系共重合体のジメチルスルホキシド(DMSO)溶液にアクリルニトリル系重合体にたいしポリビニルピロリドンがそれぞれ5%、10%、20%となるように混ぜ、57%DMSO水溶液中に湿式紡糸した。
【0044】
その後、延伸、水洗し油剤を付与後160℃の熱風乾燥で乾燥緻密化し油剤を付与後捲縮をかけ乾燥したものをそれぞれ実施例1、2、3とする。
実施例4、5、6、7
実施例1、2において得られた繊維を102℃、115℃で湿熱処理を実施したものをそれぞれ実施例4、5、6、7とする。
比較例1、2
ポリビニルピロリドンとして、通常の方法で合成されたK値が30の市販のポリビニルピロリドン(BASF社製“LUVITEC”K30 POWDER:以下K30と略記する)を用いた。このポリビニルピロリドン(K30)中のピロリドン含有量は0.02wt%であった。
このポリビニルピロリドンをヂメチルスルホキサイド(DMSO)に溶解し、アクリロニトリル(AN)/アクリル酸メチル(MEA)/メタクリルスルホン酸ナトリウム(SMAS)=95.5/4.2/0.3(モル比)からなるアクリル系共重合体のジメチルスルホキシド(DMSO)溶液にアクリルニトリル系重合体にたいしポリビニルピロリドンがそれぞれ5%、10%、となるように混ぜ、57%DMSO水溶液中に湿式紡糸した。その後、延伸、水洗し油剤を付与後160℃の熱風乾燥で乾燥緻密化し油剤を付与後捲縮をかけ乾燥したものをそれぞれ比較例1、2とする。
【0045】
各実施例、比較例の繊維について評価した結果を表1に示した。
【0046】
本発明にかかる実施例1〜3は、ポリビニルピロリドンとアクリロニトリルを重合したポリマーを用いたアクリル系合成繊維であり吸湿率差があることがわかる。また実施例4〜7により湿熱処理を施すことにより吸湿率差が向上することわかる。
【0047】
一方、比較例1〜2は、ポリビニルピロリドンをアクリロニトリル系重合体に単純にブレンドしたものであるが、吸湿率差はあるものの実施例のものより吸湿率差が悪いことがわかる。
【0048】
【表1】
【0049】
【発明の効果】
本発明によれば、ポリビニルピロリドンにアクリロニトリルをグラフト重合することにより、より高吸湿化したアクリル系合成繊維を得られ、また湿熱処理を実施することによりさらに優れた高吸湿性アクリル繊維を提供できる。
【0050】
従って、吸湿性、色調等がともに優れ、着用感に優れたアクリル系合成繊維製の衣料用布帛製品とすることができ、特に、吸湿性とともに審美性も要求される各種衣料用アクリル系合成繊維製品として、例えば、肌に直接着用されるインナーウェアや靴下として、また、スポーツウェアとして好適である。
Claims (2)
- アクリロニトリルとポリビニルピロリドンからなるポリマーを、アクリル系合成繊維に含有せしめてなることを特徴とするアクリル系合成繊維。
- アクリロニトリルとポリビニルピロリドンからなるポリマーを、アクリル系重合体にブレンドし湿式紡糸後、湿熱処理を行なうことを特徴とするアクリル系合成繊維の製造方法。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
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JP2003084689A JP2004292967A (ja) | 2003-03-26 | 2003-03-26 | アクリル系合成繊維 |
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Cited By (1)
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JP2019060066A (ja) * | 2017-09-22 | 2019-04-18 | 日本エクスラン工業株式会社 | 吸湿性アクリロニトリル系繊維、該繊維の製造方法および該繊維を含有する繊維構造体 |
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2003
- 2003-03-26 JP JP2003084689A patent/JP2004292967A/ja active Pending
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