JP2004263129A - 難燃性樹脂組成物 - Google Patents

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Abstract

【課題】ポリエチレンテレフタレート樹脂への難燃性付与。
【解決手段】ポリエチレンテレフタレート樹脂に対し、タンニンを0.0002〜2.0重量%、水酸化マグネシウムを0.1〜4重量%を添加する。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はポリエチレンテレフタレート樹脂に難燃性を与えることに関する。
【0002】
【従来の技術】
家電製品において製品に使用される樹脂は、米国内においてはUL規格(Under Writers Laboratories Inc., standerd)におけるUL−94の難燃規格によって定められた難燃性をもたなければならない。また最近においては米国だけではなく、ほとんどの国でこの規格を求めるようになってきた。我が国においても、義務ではないがこのUL−94規格に適合する難燃材料が使用されている。現在、このような難燃材料に用いられる樹脂に難燃性を付与する方法としてはおおむね3種類の原理が考えられている。1つにはハロゲン系化合物を10数%添加することによって、燃焼した炎に対し負触媒として働き燃焼を止め、これによって難燃性を付与するものである。2つめはシリコーン化合物を数〜十数%程度添加するか、またはリン酸系化合物を数〜数十%し、燃焼中に樹脂の表面にブリードさせることによって表面にチャー(炭化層)を生成させ、燃焼を止めようとするものである。3つめは水酸化マグネシウムあるいは水酸化アルミニウムなどの金属塩を30〜50%程度混入し、樹脂の燃焼によってこれらの化合物が吸熱分解し、かつ水を生成するため、この水で全体を冷却し燃焼の継続を止めようというものである。尚、上述の従来技術は、発明者が文献情報によらずに知得したものである。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし1つめの手法は廃棄物として燃焼させるとハロゲン化合物によるダイオキシンの発生が問題視される。2つめの場合は燃焼灰によるリン酸の水質汚染などが廃棄プラスチックによって引き起こされるし、またシリコーン化合物を大量に添加するため、樹脂本来の物性を変えてしまい、強度が低下したりすることも多い。また3つめに至っては多量の無機塩を入れるため、樹脂が加水分解したり機械的物性が脆くなったりする欠点があった。
【0004】
上述のような問題を起こすことなく、例えばリサイクルPETのような熱可塑性樹脂に対して、厳格な難燃規格に適合する難燃性を付与する方法はこれまで知られていなかった。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは熱安定剤が高分子材料に与える影響について、鋭意、研究を続けた結果、樹脂を高度に熱安定化すれば樹脂に対し難燃性を付与できることを見出し、かつ難燃剤を有効に働かせるために、燃焼温度である600〜700℃のときにごく少量の水分が存在すれば、きわめて有効な難燃効果を発揮することを見いだしたのである。即ち、少量の多価フェノールと少量の水酸化マグネシウムを樹脂中に入れることによって、樹脂の燃焼性をきわめて効果的に抑制することが出来るのである。
【0006】
本発明に用いられる多価フェノールとしてはタンニンが好ましい。タンニンは、タンニン酸類、カテキン類、ロイコアントシアン類、クロロゲン酸類を包括する多価フェノールの総称であり、広く自然界の植物に含まれる。大きく分けてタンニン酸やカテキンには加水分解型と縮合型の2種類に分けられるが、いずれも天然化合物であるため構造の異なる化合物が多数存在する。加水分解型にはチャイナタンニン、エラグタンニン、カフェ酸やキナ酸等のデプシドからなるクロロゲン酸などがあり、このうちチャイナタンニンは没食子酸、およびその誘導体がエステル結合したものである。一方の縮合型タンニンには、ケプラコタンニン、ワットルタンニン、ガンビルタンニン、カッチタンニン、フラバタンニンなどがあり、更にカテキン類、ロイコアントシアンやロイコアントシアニジン類がある(村上孝夫、岡本敏彦:天然物化学.p98(1983)廣川書店)。本発明で用いられるタンニンはいずれであってもかまわない。また、タンニン酸はタンニンとも呼ばれており本発明では特に区別はしない。
【0007】
代表的な加水分解型タンニンであるチャイナタンニンを
【化1】の(1)式に示した。チャイナタンニンは、没食子酸基8個がブドウ糖残基の周囲に配座し、更に2つの没食子酸基を垂直方向に結合させた(*部に配置される)ものであることが明らかになっている。しかし化合物中心は必ずしもブドウ糖に限られることもなく、セルローズ系の化合物であってもよい。また、タンニン酸の加水分解で得られる(2)式で示した没食子酸のジデプシドなども使用することが出来る。このようにタンニン酸は広く自然界の植物に含まれる化合物であるため、部分的に化学構造が異なることは容易に類推できる。本発明ではこうしたタンニン酸とカテキンなどを区別しないで多価フェノールの同意語として用いることが出来る。(3)式と(4)式と(5)式に化学構造が異なる多価フェノールとしてそれぞれカテキン、ケプロタンニン、及びトルコタンニンを例示する。
【0008】
なお、染料固定効果や皮の鞣し効果を持つ多価フェノール化合物を「合成タンニン」または「シンタン」と呼んでいるが、本発明ではこの合成タンニンも使用することが出来る。現在タンニンは日用品としてはインク、医薬品としては止血剤、工業用としては皮の鞣し剤や染色時の媒染剤として用いられ、最近においては食品添加剤として用いられている。
【0009】
本発明で用いられる縮合型タンニンは、タンニンを70〜230℃に数分から数時間加熱することによって作ることが出来る。加熱されたタンニンは、分子量が平均して1.6分子程度が脱水反応を伴いながら結合する。この結合はおおむね、タンニン分子間によるものもあるが、分子内のとなり合った水酸基2個より、1分子の水が脱水されると考えられ、本発明で用いる多価フェノールは70〜230℃まで加熱、脱水し、いくつかのタンニンが脱水縮重合しているのが望ましいが、この場合タンニンがある程度脱水されていることが重要であり、必ずしも縮重合されてなくてもよい。
【0010】
更に本発明で用いられる共重合タンニンは、ポリビニルアルコール(PVA)またはポリエチレングリコール(PEG)を、水または低級アルコールの溶液にして、これにタンニンまたはタンニン溶液を加えることにより生じる共重合物の沈殿を、濾過することにより作ることが出来る。このときPVAやPEG、タンニンの溶液濃度の影響はほとんどないが、PVAやPEGの分子量は、適切に選定する必要がある。すなわち、PVAやPEGは分子量が小さすぎると室温で液状であったり、生成した共重合タンニンの耐熱性が低かったりする。一方PVAやPEGの分子量が100万付近よりも大きくなると、反応のため水溶液とする際、水で膨潤し均一な溶液となりにくく、その結果、均一な共重合タンニンを得にくい。従ってPVAやPEGの重量平均分子量でおおむね、800〜900,000位が望ましく、更に好ましくは、1000〜100000が好都合に用いられる。こうして、共重合されたタンニンは水や低級アルコールに不溶となるが、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等には相溶性が見られ、PETに添加しても、透明性が得られる。もちろん、PVC、PEGは混合して用いることも出来、また、こうして出来た各共重合タンニンを混合して樹脂に添加してもよい。更に共重合反応をする際の溶媒としては水や低級アルコールが好ましく用いられるが、アセトニトリルなど、PVA又はタンニンのいずれかを溶解することの出来る溶媒であれば本発明に用いることが出来る。
【0011】
更にこうして作った共重合化合物を70〜230℃まで加熱し、水分をあらかじめ除去しておくことも好ましい。
【0012】
タンニンとPVAやPEGとの反応はいずれか一方の量が少なければその量に比例してグラフト化合物が得られるため、あまり厳密に考慮する必要はない。経済的に言えば、未反応物を捨てるのは好ましくないため、概ね等モル量で反応させるのが好ましい。
【0013】
PVCやPEGと共重合されたタンニンは熱可塑性樹脂に添加された場合、この樹脂が成形される際に受ける熱により、タンニンが熱分解してしまうことを防ぐことが出来る。おおむね、280℃付近より、タンニンが放出され、後述するように樹脂の熱安定剤として働くのに好都合な状態となる。
【0014】
このようにして得られた各種タンニンを熱安定剤として使用することにより、PETの燃焼を抑制することができる。
【0015】
【化1】
Figure 2004263129
【0016】
本発明においてこれらのタンニンは、1種又は2種以上複数を混合して用いることもできる。また、タンニンやこれらの縮重合タンニン、共重合タンニンを混合して用いることもできる。
【0017】
本発明で特に重要なことは、水酸化マグネシウムが同時に存在し、樹脂の燃焼時に微量の水分を放出し酸化分解反応で生成する炭化水素を抑制することが、結果として燃焼を抑制する。
【0018】
ここで用いられる水酸化マグネシウムはドロマイトと呼ばれる天然鉱物から得た粉末でも、酸化マグネシウム(マグネシア)やマグネシウムイオンから合成された、合成水酸化マグネシウムでも、更にはこれらの混合物であってもよい。
【0019】
本発明のポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)は、他の熱可塑性樹脂のブレンドとして用いられてもよい。もちろん、これらの樹脂の中に無機繊維であるガラス繊維やカーボン繊維あるいはウィスカーなどが含まれてもよく、有機繊維としてはケブラー繊維などが含まれてもよい。さらには鉱物であるシリカやタルク、マイカ、ウォラストナイト、クレー、炭酸カルシウムなどの無機粒子が含まれてもよく、さらにこれらのものが複数混合されてもよい。
【0020】
本発明におけるタンニンの添加法としては粉末状のタンニン、または縮重合タンニン、または共重合タンニンを直接樹脂に加えてもよいし、あるいは対象となる樹脂にあらかじめ混合したりしてこれを樹脂に加えてもよい。
【0021】
樹脂のポリマーが熱やせん断応力などによって切断された場合、切断箇所は当然ラジカル分子となる。本発明者らは、引用する特許出願公開公報2000−226471号、2000−226473号及び2000−230123号に記載されているように、タンニンが熱可塑性樹脂の中に生成したラジカルを補足するため熱安定効果が高いことを先に発明したが、樹脂の燃焼は、樹脂が分解することによって発生する燃焼性ガスが空気中の酸素と反応することによって継続される。このとき、微量の水分が燃焼性ガスの発生を抑制することがわかり、この微量の水分は水酸化マグネシウムによって供給される。即ち、水酸化マグネシウムを難燃剤に使用することは、従来から行われていたが、それらは水酸化マグネシウムのもつ水分を多量に放出することによって、冷却効果を得るという作用に基くものである。そのため当然のことながら、30〜50%もの大量の水酸化マグネシウムを樹脂に添加していたのである。しかし本発明では、水酸化マグネシウムからの水分は冷却のためではなく酸化分解反応抑制触媒として使用するのであるから、少量の添加でポリエチレンテレフタレートに難燃性を付与するのに十分であり、かつ、少量のため樹脂の物性変化もわずかで済むという特徴を有する。このように本発明は、優れた熱安定剤である多価フェノールと水酸化マグネシウムを同時に添加することによってなされたのである。
【0022】
こうした理論の整合性を確認することは非常に困難な作業を余儀なくされるが、もちろん本発明がこの理論によって左右されるものではない。
【0023】
本発明の方法は、PET樹脂に、該樹脂の重量に基づいて多価フェノールを0.0002〜2.0重量%、水酸化マグネシウムを0.1〜4.0重量%の割合で添加すればよい。
【0024】
好ましくは多価フェノールを0.02〜0.3重量%、水酸化マグネシウムを0.2〜1.0重量%添加する。多価フェノールや水酸化マグネシウムが少なければ難燃性が発揮されなく、過剰であれば樹脂のポリマー分子間に多価フェノールや水酸化マグネシウムが存在し、熱的特性や機械的強度が低下する原因となる。このようにして得られた多価フェノールと水酸化マグネシウムが添加されたPET樹脂は、燃焼が抑制され添加剤が微量であるため樹脂の基本的な物性を損なわず、ハロゲン元素、リン元素を含まない環境や人体に影響を与えない難燃剤となる。
【0025】
以下さらに実施例および比較例により、本発明をさらに詳しく説明する。
実施例1
PET樹脂は(株)クラレ製 クラペットKS750RCを用い、水酸化マグネシウムは、宇部マテリアルズ(株)製 水酸化マグネシウム・UD650、チャイナタンニンは、ナカライテスク(株)製 試薬1級を用いた。このときのPETに対する各添加材の組成は表1のようにした。
【0026】
【表1】
Figure 2004263129
【0027】
PET樹脂を、除湿乾燥機((株)松井製作所製、PO−200型)で90℃10時間乾燥後、これにタンニンや水酸化マグネシウムを所定量加えタンブラー(日水加工(株)製、タンブルミキサーTM−50型、8枚羽)にて攪拌羽回転速度約300rpmで4分間、攪拌・混合した。これを射出成形機(東芝機械(株)製IS−170F型,型締め圧力170ton)を用い、UL−94で規定される各厚みの燃焼試験片が共取りできるように設計された金型を用い成形を行った。
燃焼結果を表2に記載した。試験片のロット番号は表1のロット番号と同じである。なおこのときの燃焼性試験はUL94HB法である。
【0028】
【表2】
Figure 2004263129
【0029】
比較例1
表−1記載の組成にて試験片を作製したこと以外は実施例1と同様にして試験を行った。結果を表2のロット番号3に記載した。
比較例2
実施例1の中でタンニンを添加せず水酸化マグネシウムのみ1.0重量%を添加しそれ以外は実施例1と同様にした。結果を表2のロット番号4として記載した。
比較例3
実施例1の中でタンニンを2.5重量%添加し、水酸化マグネシウムを無添加として、それ以外は実施例1と同様にした。結果を表2のロット番号5として記載した。
比較例4
実施例1の中でタンニンを0.0001重量%を添加し、水酸化マグネシウムを無添加として、それ以外は実施例1と同様にした。結果を表2のロット番号6として記載した。
実施例2
ポリビニルアルコール(ナカライテスク(株)製 試薬1級 重量平均分子量400)を10gビーカーに採取し、純水100mlを加え攪拌、溶解した。次に実施例1で用いたタンニン200gを同様にして純水100mlに溶解した。これを500mlのビーカーに同時に注ぎ、ガラス棒で攪拌すると、茶色の浮遊物が生成した。これを室内で24時間放置し、デカンテーション法で沈殿物を液層から分離し、さらに純水で数回洗浄した。このまま60℃、24時間乾燥し、茶褐色のPVC/タンニン共重合物(cA)を得た。重量を測定したところ27.5gであり、収率は約92%であった。さらに全く同様にしてポリエチレングリコール(ナカライテスク(株)製 試薬1級 重量平均分子量6000)を共重合させたもの(gA)を作製した。この場合収率は約94%であった。チャイナタンニンをこのcAまたはgAに替えた以外は実施例1と全く同様に行った。結果を表2に併せて記載した。
実施例3
実施例1で用いたチャイナタンニンの代わりにカテキン(ナカライテスク(株)製 試薬1級)を用い、実施例1と全く同様に行った。結果を表2に併せて記載した。
実施例4
タンニンと水酸化マグネシウムを重量比1:2として混合し、この混合物の添加量を変えた以外は実施例1と全く同様に行った。燃焼試験を垂直燃焼にして、燃焼が継続している時間を測定し、図1にプロットした。このように、燃焼時間が明らかに短縮し、難燃剤の働きが顕著に現れた。
【0030】
【発明の効果】
多価フェノールと、水酸化マグネシウムを同時に添加すると、PET樹脂あるいはこれらのアロイに添加することにより燃焼性を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】タンニン:水酸化マグネシウム混合物の添加量が樹脂の燃焼性に及ぼす影響。

Claims (3)

  1. ポリエチレンテレフタレート樹脂に対し、該ポリエチレンテレフタレート樹脂の重量に基づいて多価フェノールを0.0002〜2.0重量%および水酸化マグネシウムを0.1〜4.0重量%添加することを特徴とするポリエチレンテレフタレート樹脂に難燃性を付与する方法。
  2. 多価フェノールが、カテキン類、ロイコアントシアン類、クロロゲン酸類を含むタンニン、脱水縮重合されたタンニン、ポリエチレングリコール若しくはポリビニルアルコールと共重合されたタンニン、またはこれらの混合物であることを特徴とする請求項1記載の方法。
  3. ポリエチレンテレフタレート樹脂に、該ポリエチレンテレフタレート樹脂の重量に基づいて多価フェノールを0.0002〜2.0重量%および水酸化マグネシウムを0.1〜4.0重量%配合することを特徴とする、難燃性樹脂組成物。
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