JP2004237704A - インクジェット記録用紙およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】生産性が高く、インク吸収性が良好で、皮膜のひび割れが少なく、印字濃度が高く、高い光沢性を有するインクジェット記録用紙およびその製造方法を提供する。
【解決手段】支持体上に少なくとも2層以上のインク受容層を有するインクジェット記録用紙において、最上層のインク受容層がBET式比表面積が200〜350m2/g、平均凝集粒子径が1.0〜2.8μmの湿式法シリカを粉砕分散したシリカ微粒子とバインダーを含有してなり、最上層以外のインク受容層のいずれかがBET式比表面積が100〜250m2/g、平均凝集粒子径が1.0〜2.8μmの湿式法シリカを粉砕分散したシリカ微粒子とバインダーを含有してなることを特徴とするインクジェット記録用紙及びその製造方法。
【選択図】 なし
【解決手段】支持体上に少なくとも2層以上のインク受容層を有するインクジェット記録用紙において、最上層のインク受容層がBET式比表面積が200〜350m2/g、平均凝集粒子径が1.0〜2.8μmの湿式法シリカを粉砕分散したシリカ微粒子とバインダーを含有してなり、最上層以外のインク受容層のいずれかがBET式比表面積が100〜250m2/g、平均凝集粒子径が1.0〜2.8μmの湿式法シリカを粉砕分散したシリカ微粒子とバインダーを含有してなることを特徴とするインクジェット記録用紙及びその製造方法。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、インクジェット記録用紙に関し、特に生産性が高く、インク吸収性が良好で、皮膜のひび割れが改善され、印字濃度が高く、高い光沢性を有するインクジェット記録用紙およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、インクジェット記録は急速に画質が向上してきており、写真画質に迫りつつある。このような写真画質をインクジェット記録で達成するために、インクジェット記録用紙の面でも改善が進んでおり、高平滑性の支持体上に微粒子と親水性ポリマーを含み、微小な空隙を有する層を設けた空隙型のインクジェット記録用紙は、高光沢であって、鮮やかな発色を示し、インク吸収性及び乾燥性に優れていることから最も写真画質に近いものの一つになりつつある。特に非吸水性支持体を使用した場合は、吸水性支持体に見られるようなプリント後のコックリング(しわ)がなく、高平滑な表面を維持できるためより高品位なプリントを得ることができる。
【0003】
ところで、高平滑性支持体として一般的に用いられるのは、ポリエステルフィルムやポリオレフィンフィルム、あるいはポリオレフィンで被覆した紙支持体など、インクを吸収しない支持体である。このような非インク吸収性支持体にインク吸収性の空隙層を設けるに当たっては、十分な量のインクを吸収するに足る膜厚の空隙層を設ける必要がある。
【0004】
一般的に空隙型のインクジェット記録用紙は水系塗布液を支持体上に塗布してから乾燥することにより得られるが、湿潤膜厚が厚いと膜面にひびわれを起こしやすくなったり、乾燥に時間がかかるなどの問題が発生する。そのため膜厚を厚くすることには限界があり、単位膜厚当りのインク吸収容量を高くする必要がある。もしくは水系塗布液の固形分濃度を高くすることにより、湿潤膜厚を変えずに乾燥膜厚を厚くする必要がある。
【0005】
インクジェット記録用紙に用いられるシリカは、その製造方法により湿式法シリカと乾式法シリカがあるが、一般的に湿式法シリカを用いた場合の方が固形分濃度を高くすることが可能である。湿式法シリカを用いて、高いインク吸収容量を確保するためには、一般的に沈殿法もしくはゲル法で製造されたシリカが用いられるが、これらのシリカは数μm〜数10μmの凝集粒子径をもつ粉体であることから、インクジェット記録用紙に要求されるような高光沢や高印字濃度が得られないという問題がある。
【0006】
これらの課題のうち光沢度を高める技術として、光沢発現層を設け、更に加熱鏡面処理を行うことが開示されて(例えば、特許文献1参照。)いるが、この方法では製造工程が複雑になる上、インク吸収性を劣化させることがわかっている。
【0007】
また、シリカの平均粒子径を規定した技術が開示されて(例えば、特許文献2参照。)いるが、平均粒子径のみでは高光沢を得るには不十分である上、高光沢を得ようとすることによりインク吸収量が低下するという問題があることがわかった。
【0008】
これらの問題を解決するために、下層の1次粒子の平均粒径を上層の1次粒子の平均粒径よりも大きくするという技術が開示されて(例えば、特許文献3参照。)いるが、この技術では十分な効果は得られていない。また、シリカの粉砕分散方法として圧力式を開示しているが、高濃度の粉砕分散には適さず、所望の粒径まで分散するのに多大な時間を必要とし、生産性が悪い。
【0009】
【特許文献1】
特開平11−91240号公報
【0010】
【特許文献2】
特開平9−286165号公報
【0011】
【特許文献3】
特開平10−315610号公報
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記の実態に鑑みてなされたものであって、その目的は、特に生産性が高く、インク吸収性が良好で、皮膜のひび割れが少なく、印字濃度が高く、高い光沢性を有するインクジェット記録用紙とその製造方法を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明の上記目的は、以下の構成によって達成された。
【0014】
1.支持体上に少なくとも2層以上のインク受容層を有するインクジェット記録用紙において、最上層のインク受容層が湿式法で製造したシリカ(湿式法シリカ)を粉砕分散したシリカ微粒子とバインダーを含有してなり、該湿式法シリカがBET式比表面積が200〜350m2/gで且つコールターカウンターで測定した平均凝集粒子径が1.0〜2.8μmであることを特徴とするインクジェット記録用紙。
【0015】
2.支持体上に少なくとも2層以上のインク受容層を有するインクジェット記録用紙において、最上層以外のインク受容層のいずれかが湿式法シリカを粉砕分散したシリカ微粒子とバインダーを含有してなり、該湿式法シリカがBET式比表面積が100〜250m2/gで且つコールターカウンターで測定した平均凝集粒子径が1.0〜2.8μmであることを特徴とするインクジェット記録用紙。
【0016】
3.前記粉砕分散したシリカ微粒子の平均粒子径が150〜350nmであることを特徴とする前記1または2記載のインクジェット記録用紙。
【0017】
4.前記湿式法シリカが沈降法で製造したシリカであることを特徴とする前記1〜3のいずれか1項記載のインクジェット記録用紙。
【0018】
5.前記湿式法シリカを粉砕分散したシリカ微粒子とバインダーを含有してなるインク受容層のシリカ微粒子質量が、バインダー樹脂の固形分質量の5〜9倍の範囲であることを特徴とする前記1〜4のいずれか1項記載のインクジェット記録用紙。
【0019】
6.最上層のインク受容層が前記1または3〜5のいずれか1項記載のインク受容層であり、最上層以外のインク受容層が前記2〜5のいずれか1項記載のインク受容層であることを特徴とするインクジェット記録用紙。
【0020】
7.最上層のインク受容層が前記1または3〜5のいずれか1項記載のインク受容層であり、最上層以外のインク受容層が前記2〜5のいずれか1項記載のインク受容層であるインク受容層を同時に重層塗布することにより製造されたことを特徴とするインクジェット記録用紙。
【0021】
8.インク受容層を塗布した後に、光沢度を高くするための後処理を行うことなく乾燥して製造されたインクジェット記録用紙であることを特徴とする前記1〜7のいずれか1項記載のインクジェット記録用紙。
【0022】
9.インクジェット記録用紙の表面光沢度(JIS Z−8741;75°測定)が45%以上であることを特徴とする前記1〜8のいずれか1項記載のインクジェット記録用紙。
【0023】
10.前記1〜9のいずれか1項記載のインクジェット記録用紙が、湿式法シリカと水性媒体を分散機に連続的に供給しながら粉砕分散処理すると同時に、該分散機内で製造した分散物を連続的に該分散機より吐出し、粗分散物を得る工程を経て製造した水性分散物を含有する塗布液を支持体に塗布して製造されたことを特徴とするインクジェット記録用紙の製造方法。
【0024】
11.水性分散物が、粗分散物を少なくともサンドミル分散機を用いて分散することにより得られたものであることを特徴とする前記10記載のインクジェット記録用紙の製造方法。
【0025】
本発明を更に詳しく説明する。本発明のインクジェット記録用紙は、支持体上に少なくとも2層以上のインク受容層を有するインクジェット記録用紙であり、湿式法で製造されたシリカを、水性媒体中で粉砕分散して得た湿式法シリカ微粒子と、バインダーを含有するインク受容層を有するものである。本発明により、表面光沢度が75°の測定で45%以上の光沢度を有し、インク吸収性が良好で、皮膜のひび割れが少なく、印字濃度が高いインクジェット記録用紙を高い生産性で得ることができる。
【0026】
本発明で使用する湿式法シリカについて詳細に説明する。シリカ粒子はその製造方法によって気相法シリカと湿式法シリカに大別でき、さらに湿式法シリカはゲル法で製造されたシリカ(以下、ゲル法シリカと称す)と沈降法で製造されたシリカ(以下、沈降法シリカと称す)に細分化される。気相法シリカは、四塩化珪素を酸素と水素で燃焼して作られる、平均1次粒径が5〜50nmの球状無水シリカである。気相法シリカは、見かけ比重が小さく、高比表面積であるが、球状粒子が網目状に凝集しやすいため、高濃度で水分散するのが困難であるのに加え、分散液の経時安定性が低く、塗膜にしたときにクラック(ひび割れ)が発生しやすく好ましくない。
【0027】
これに対し、ゲル法シリカは例えば、高純度珪砂を原料としたケイ酸ソーダと硫酸を混合しケイ酸ゾルを生成する。ケイ酸ゾルは、次第に重合し、1次粒子を形成し、更に三次元的に凝集体を形成し、ゲル化する。このシリカを気流粉砕等の一般的な方法で粉砕して微粉化する。すなわちゲル法では、酸性サイドで反応重合させ、ゲル状になるまで静置し、水洗して乾燥しゲル法シリカを得る。沈降法シリカは、アルカリサイドで反応重合させ、そのまま、沈降させ乾燥して得ることができる。これら湿式法シリカは、1次粒子内に内部細孔を持つため、内部細孔を持たない気相法シリカに比べてインク吸収容量的に有利である。更に粒子に含有する水分が気相法に比べて多いため、水性媒体中に分散しやすく高濃度の分散物が得られる利点がある。
【0028】
また、湿式法シリカは高濃度で分散できるため、塗布する際の、塗布液中の含水量も少なくでき、乾燥に有利であり、結果として塗布速度も上げられる利点がある。更に、乾燥時の膜の収縮率も少なく、膜にかかる応力が少なくなり、クラック(ひび割れ)等の塗布故障が低減できる。
【0029】
本発明の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、インクジェット記録用紙の最上層のインク受容層に用いる湿式法シリカとしては、BET式比表面積が200〜350m2/gであることが好ましいことがわかった。比表面積が200m2/gより低いと満足な印字濃度が得られず、比表面積が350m2/gより高いとインク吸収容量が低くなる。より好ましくは、比表面積が230〜280m2/gであれば、印字濃度、インク吸収容量とも満足するインクジェット記録用紙が得られる。
【0030】
また、本発明の課題を解決するためには、最上層以外のインク受容層のいずれかに、BET式比表面積が100〜250m2/gである湿式法シリカを粉砕分散したシリカ微粒子を含むことが好ましい。われわれの検討の結果、比表面積がこの範囲より高い場合にも低い場合にも、満足なインク吸収容量が得られないことがわかった。より好ましくは、インク吸収容量と光沢度の関係から、最上層以外のインク受容層に用いられる湿式法シリカのBET式比表面積は170〜230m2/gである。
【0031】
本発明で用いる湿式法シリカは、粉砕分散して微粒子として用いるため、粉砕分散前の平均凝集粒子径は1.0〜2.8μmであることが好ましい。平均凝集粒子径が2.8μmより大きいと、フォトライクレベルの75°測定で45%以上の光沢を出すために多大な時間と、エネルギーを掛け平均粒径を小さくしなければいけないのが現状であり、これにより光沢は出るが、逆にインク吸収性を劣化させることになり、満足できる記録用紙は得られない。一方、平均凝集粒子径が1.0μmより小さい場合、粉体のハンドリングが難しくなる。インク吸収性と光沢度を両立するために、平均凝集粒子径が1.0〜1.8μmであることは、より好ましい。湿式法シリカの平均凝集粒子径は、当該技術分野において一般的なコールターカウンター法により測定でき、装置はコールターカウンターTA−II(Coulter Electronics Ins.社製)等を使用して測定することができる。
【0032】
本発明で用いられる湿式法シリカとしては、トクヤマ(株)、日本シリカ工業(株)等より市販されている湿式法シリカを適宜用いることができる。
【0033】
本発明の粉砕分散されたシリカ微粒子の平均粒子径は150nm〜350nmであることが好ましい。平均粒子径が150nmより小さいとインク吸収性が劣化し、350nmより大きいと光沢度が悪くなる。ここでの平均粒子径は、malvern社製、光子相関法ゼータサイザー1000HSで測定した値であり、湿式法シリカ微粒子分散液をシリカ微粒子の質量濃度で約0.5%に希釈した後、超音波洗浄器で100W、28kHzの条件で5分間超音波処理を行った直後に測定した時のZAve.の値である。
【0034】
粉砕分散方法としては、予備分散工程と本分散工程を有し、予備分散工程で粉砕分散粒径として1000nm以下にすることが好ましい、これより大きいと本分散工程で多くの時間とエネルギーを要す。予備分散に用いる分散機としては、連続式が生産効率上好ましく、ローラミルタイプ、ニーダータイプ、ピンミキサータイプ、連続式攪拌型分散機が好ましい。必要に応じて複数の分散機を用いてもよい。本分散工程では、最終的な平均粒径を決定する工程であり、用いることのできる分散機として、高圧ホモジナイザー、湿式メディア型粉砕機(サンドミル、ボールミル)、連続式高速撹拌型分散機、超音波分散機等があげられる。中でもサンドミルが好ましく、高濃度の予備分散液を短時間で効率よく粉砕分散でき、粗大粒子を低減させるのに効果が大きい。サンドミルに用いるメディアとしてはジルコニア製が好ましく、大きさは0.1〜1.0mmが好ましい。周速としては、5〜15m/secが好ましい。
【0035】
粉砕分散する際のシリカ濃度として、生産効率とハンドリング性を考え20%以上50%以下が好ましく、更に好ましくは25%以上40%以下である。
【0036】
粉砕分散された湿式法シリカ微粒子は、粗大粒子数を制御する工程を経る。方法としては、遠心分離による方法、フィルターによる方法等を用いることができる。遠心分離の方法としてクレテック社製、マイクロカット等が利用できる。フィルターとしては、日本ポール(株)製のプロファイル、アドバンテック東洋(株)製のTCPD等が挙げられる。
【0037】
前記処理工程を経た後、バインダーと混合し支持体上に塗布・乾燥されインク受容層が形成される。
【0038】
前記湿式法シリカ微粒子をバインダーと混合した後、フィルターで再度処理するのが好ましい。
【0039】
粉砕分散する際にシリカと混合する水性媒体としては、少なくとも、シリカ表面をカチオン処理するためのカチオン表面変性剤が含有されていることが好ましい。更に好ましくは、硬膜剤も含有していることである。
【0040】
前記カチオン表面変性剤としては、無機金属塩やカチオン性ポリマー等が挙げられる。無機金属塩の具体例としては、酸化アルミニウム水和物、酸化ジルコニウム水和物、酸化スズ水和物等の無機金属酸化物水和物や、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、酢酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸ジルコニウム、塩化ジルコニウム、塩化スズ等の水溶性無機金属塩が挙げられる。前記カチオン性ポリマーとしては、好ましくは第4級アンモニウム塩基を有するポリマーであり、特に好ましくは第4級アンモニウム塩基を有するモノマーの単独重合体または他の共重合し得る1または2以上のモノマーとの共重合体である。
【0041】
第4級アンモニウム塩基を有するモノマーの例としては例えば以下の例を挙げることが出来る。
【0042】
【化1】
【0043】
【化2】
【0044】
上記第4級アンモニウム塩基と共重合し得るモノマーはエチレン性不飽和基を有する化合物であり、例えば以下の具体例を挙げることが出来る。
【0045】
【化3】
【0046】
特に第4級アンモニウム塩基を有するカチオン性ポリマーが共重合体である場合、カチオン性モノマーの比率は10モル%以上が好ましく、より好ましくは20モル%以上、特に好ましくは30モル%以上である。
【0047】
第4級アンモニウム塩基を有するモノマーは単一でも2種類以上であっても良い。
【0048】
以下に本発明に用いることができるカチオン性ポリマーの具体例を挙げるが、これらに限定されるものではない。
【0049】
【化4】
【0050】
【化5】
【0051】
【化6】
【0052】
【化7】
【0053】
上記第4級アンモニウム塩基を有するカチオン性ポリマーは第4級アンモニウム塩基のために水溶性が一般に高い。共重合する第4級アンモニウム塩基を含まないモノマーの組成や比率によっては、水に充分に溶解しないことはあるが、水混和性有機溶媒と水との混合溶媒に溶解させることにより、溶解し得るもので有れば本発明に使用できる。
【0054】
ここで水混和性有機溶媒とは、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノールなどのアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリンなどのグリコール類、酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド類など、水に対して通常10%以上溶解し得る有機溶媒を言う。この場合、有機溶媒の使用量は水の使用量以下であることが好ましい。
【0055】
本発明に用いるカチオン性ポリマーは数平均分子量が10万以下であることが好ましい。ここで数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーから求められたポリエチレングリコール値に換算した値である。
【0056】
数平均分子量が10万を越える場合には、カチオン性ポリマーの溶液を表面がアニオン性である湿式法シリカ微粒子を含有する分散液に添加した際に凝集物の発生が激しく、またその後分散処理を施しても均一な分散液に成りにくく、粗大粒子が多数存在して均一な分散液に成りにくい。このようなカチオン性ポリマーと湿式法シリカ微粒子を含有する複合微粒子分散液を使用してインクジェット記録用紙を作製した場合、高い光沢性が得られにくい。特に好ましい数平均分子量は5万以下である。また数平均分子量の下限はインクの耐水性の点から通常2000以上である。
【0057】
上記湿式法シリカ微粒子とカチオン性ポリマーの比率は、湿式法シリカ微粒子の種類や粒径、あるいはカチオン性ポリマーの種類や数平均分子量で変わり得る。
【0058】
本発明において、上記比率は湿式法シリカ微粒子の表面がカチオン性に置き換わって安定化させる必要があることから、1:0.01〜1:1であることが好ましい。
【0059】
上記の分散液を調製する際には、各種の添加剤を添加することが出来る。
例えば、ノニオン性またはカチオン性の各種の界面活性剤(但し、アニオン性界面活性剤は凝集物を形成するために好ましくない)、消泡剤、ノニオン性の親水性ポリマー(ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリルアミド、各種の糖類、ゼラチン、プルラン等)、ノニオン性またはカチオン性のラテックス分散液、水混和性有機溶媒(酢酸エチル、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、アセトンなど)、無機塩類、pH調整剤など、必要に応じて適宜使用することが出来る。
【0060】
特に水混和性有機溶媒は、湿式法シリカ微粒子とカチオン性ポリマーを混合した際の微小なダマの形成が抑制されるために好ましい。そのような水混和性有機溶媒は、分散液中に好ましくは0.1〜20質量%、特に好ましくは0.5〜10質量%使用される。
【0061】
カチオン性分散液を調製する際のpHは湿式法シリカ微粒子の種類やカチオン性ポリマーの種類、各種の添加剤等により広範に変化し得るが、一般的にはpHが1〜8であり、特に2〜7が好ましい。
【0062】
本発明に係るバインダーとしては、水溶性ポリマーが好ましく、例えばゼラチン(酸処理ゼラチンが好ましい)、ポリビニルピロリドン(平均分子量が約20万以上が好ましい)、プルラン、ポリビニルアルコールまたはその誘導体、カチオン変性ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール(平均分子量が10万以上が好ましい)、ヒドロキシエチルセルロース、デキストラン、デキストリン、水溶性ポリビニルブチラールを挙げることができ、これらの水溶性ポリマーはインク受容層の親水性バインダーとして機能し、単独で使用しても良く、2種以上を併用しても良い。
【0063】
特に好ましい親水性バインダーは、ポリビニルアルコールまたはカチオン変性ポリビニルアルコールである。
【0064】
本発明に用いられるポリビニルアルコールは平均重合度が300〜4000のものが好ましく、特に平均重合度が1000以上のものから得られる皮膜は、脆弱性が良好であることからより好ましい。
【0065】
また、ポリビニルアルコールのケン化度は70〜100%のものが好ましく、80〜100%のものが特に好ましい。
【0066】
また、カチオン変性ポリビニルアルコールは、カチオン性基を有するエチレン性不飽和単量体と酢酸ビニルとの共重合体をケン化することにより得られる。
【0067】
カチオン性基を有するエチレン性不飽和単量体としては、例えばトリメチル−(2−アクリルアミド−2,2−ジメチルエチル)アンモニウムクロライド、トリメチル−(3−アクリルアミド−3,3−ジメチルプロピル)アンモニウムクロライド、N−ビニルイミダゾール、N−ビニル−2−メチルイミダゾール、N−(3−ジメチルアミノプロピル)メタクリルアミド、ヒドロキシルエチルジメチル(3−メタクリルアミド)アンモニウムクロライド、トリメチル−(3−メタクリルアミドプロピル)アンモニウムクロライド、N−(1,1−ジメチル−3−ジメチルアミノプロピル)アクリルアミド等が挙げられる。
【0068】
カチオン変性ポリビニルアルコールのカチオン変性基含有単量体の比率は、酢酸ビニルに対して0.1〜10モル%が好ましく、より好ましくは0.2〜5モル%である。またカチオン変性ポリビニルアルコールの重合度は通常500〜4000、好ましくは1000〜4000である。更に、カチオン変性ポリビニルアルコールのケン化度は通常60〜100モル%、好ましくは70〜99モル%である。
【0069】
本発明に係るインクジェット記録用紙において、高光沢性で高い空隙率を皮膜の脆弱性を劣化させずに得るために、前記水溶性ポリマーが硬膜剤により硬膜されていることが好ましい。
【0070】
硬膜剤は、一般的には前記水溶性ポリマーと反応し得る基を有する化合物あるいは水溶性ポリマーが有する異なる基同士の反応を促進するような化合物であり、水溶性ポリマーの種類に応じて適宜選択して用いられる。
【0071】
硬膜剤の具体例としては、例えば、エポキシ系硬膜剤(ジグリシジルエチルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ジグリシジルシクロヘキサン、N,N−ジグリシジル−4−グリシジルオキシアニリン、ソルビトールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル等)、アルデヒド系硬膜剤(ホルムアルデヒド、グリオキザール等)、活性ハロゲン系硬膜剤(2,4−ジクロロ−4−ヒドロキシ−1,3,5−s−トリアジン等)、活性ビニル系化合物(1,3,5−トリスアクリロイル−ヘキサヒドロ−s−トリアジン、ビスビニルスルホニルメチルエーテル等)、ほう酸、その塩、ほう砂、アルミ明礬等が挙げられる。
【0072】
水溶性ポリマーとしてポリビニルアルコールまたはカチオン変成ポリビニルアルコールを使用する場合には、ほう酸、その塩またはエポキシ系硬膜剤から選ばれる硬膜剤を使用するのが好ましい。
【0073】
最も好ましいのはほう酸またはその塩から選ばれる硬膜剤である。ほう酸またはその塩としては、硼素原子を中心原子とする酸素酸およびその塩のことを示し、具体的にはオルトほう酸、二ほう酸、メタほう酸、四ほう酸、五ほう酸、八ほう酸またはそれらの塩が挙げられる。
【0074】
上記硬膜剤の使用量は水溶性ポリマーの種類、硬膜剤の種類、シリカ粒子の種類、水溶性ポリマーに対する比率等により変化するが、通常水溶性ポリマー1g当たり5〜500mg、好ましくは10〜300mgである。
【0075】
上記硬膜剤は、空隙層を形成する塗布液を塗布する際に、空隙層を形成する塗布液中及び/または空隙層に隣接するその他の層を形成する塗布液中に添加してもよく、あるいは予め硬膜剤を含有する塗布液を塗布してある支持体上に、該空隙層を形成する塗布液を塗布する。さらには空隙層を形成する硬膜剤非含有の塗布液を塗布乾燥後に硬膜剤溶液をオーバーコートするなどして空隙層に硬膜剤を供給することもできる。好ましくは製造上の効率の観点から、空隙層を形成する塗布液またはこれに隣接する層を形成する塗布液中に硬膜剤を添加して、空隙層を形成するのと同時に硬膜剤を供給するのが好ましい。
【0076】
本発明で特に好ましいのは微粒子シリカを1次粒子として使用し、親水性バインダーとしてポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコールを用いる場合である。この場合、微粒子シリカ表面のシラノール基とビニルアルコールの水酸基が弱い水素結合を行い、軟凝集体が形成されて空隙率が高く成りやすい。
【0077】
本発明で用いられる上記親水性バインダーとシリカ微粒子の比率は、シリカ微粒子質量が、バインダー樹脂の固形分質量の5〜9倍の範囲であることが好ましい。この比率よりもバインダー樹脂が多い場合、インク吸収容量が低くなりインク溢れが問題となる。この比率よりもバインダー樹脂が少ない場合にはひびわれが発生しやすくなる。
【0078】
水溶性ポリマーを前記分散液に添加混合する方法は、水溶性ポリマーの水溶液を分散液に攪拌しながらバッチ内で添加する方法や、前記分散液と水溶性ポリマーを連続的にスタチックミキサー等の混合機で混合する方法があげられる。
【0079】
本発明に好ましく用いられる水溶性ポリマー、特にポリビニールアルコールは、重合度が高い為、溶解性が悪く、ダマが出来やすい、更に溶解時間がかかるため、生産効率上、品質上問題がある。
【0080】
溶解温度を100℃以上にすることで、溶解時間が短縮できてダマがなくなる。溶解温度は、100℃以上150℃以下が好ましく、更に好ましくは110℃以上130℃以下である。あまり温度を上げると、構造が破壊され、強いては、空隙率をダウンさせる。100℃以上での溶解は、熱源として、電気、オイル、加圧蒸気等を用いることが出来る。生産効率上、連続的に溶解するのが好ましく、例えばノリタケ製溶解システムを用いることが出来る。溶解温度が低いと、ダマが完全に溶解しきれず、ひび割れの原因になる。
【0081】
本発明のインクジェット記録用紙の支持体としては、従来公知の紙支持体、プラスチック支持体(透明支持体)、複合支持体など適宜使用できるが、より高い濃度で鮮明な画像を得るためには支持体中にインク液が浸透しない疎水性支持体を用いるのが好ましい。
【0082】
透明支持体としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ジアセテート系樹脂、トリアセテート系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリイミド系樹脂、セロハン、セルロイド等の材料からなるフィルム等が挙げられ、中でもOHPとして使用されたときの輻射熱に耐える性質のものが好ましく、ポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。このような透明な支持体の厚さとしては、10〜200μmが好ましい。透明支持体のインク受容層側およびバッキング層側には公知の下引き層を設けることが、インク受容層やバック層と支持体の接着性の観点から好ましい。
【0083】
また、透明である必要のない場合に用いる支持体としては、例えば、基紙の少なくとも一方に白色顔料等を添加したポリオレフィン樹脂被覆層を有する樹脂被覆紙(いわゆるRCペーパー)、ポリエチレンテレフタレートに白色顔料を添加してなるいわゆるホワイトペットが好ましい。
【0084】
支持体上に塗布する方法は公知の方法から適宜選択して行うことが出来る。好ましい方法は、塗布液を支持体上に塗設して乾燥して得られる。この場合、2層以上を同時に塗布することもでき、特に全ての親水性バインダー層を1回の塗布で済ます同時塗布が好ましい。
【0085】
塗布方式としては、ロールコーティング法、ロッドバーコーティング法、エアナイフコーティング法、スプレーコーティング法、カーテン塗布法あるいは米国特許第2,681,294号公報記載のホッパーを使用するエクストルージョンコート法が好ましく用いられる。
【0086】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の実施態様はこれらに限定されるものではない。なお、実施例中で「%」は特に断りのない限り絶乾(水分無しの状態)質量%を示す。
【0087】
(分散液1の調製)
市販湿式法シリカ(トクヤマ(株)社製、商品名:X−37、比表面積275m2/g、平均凝集粒子径2.6μm、沈降法シリカ)を水性媒体と一緒に連続式ピンミキサー(粉研パウテック社製、フロージェットミキサー300型、以下FJMと称す)で連続的に分散した。その後、高速回転式連続分散機(太平洋機工社製、フローファインミルFM25、以下FMと称す)で分散して予備分散液を連続的に得た。FJM、FMの周速は30m/secで行った。上記水性媒体とは、水にホウ酸とP−9を含有させたものをいう。ホウ酸はシリカ質量に対して2.7%、P−9は12%になるようにした。予備分散液中のシリカ濃度は30%にした。
【0088】
上記の方法で得られた予備分散液をサンドミル分散機(アシザワ社製、RL−125)で分散した。サンドミルの分散条件は0.5mmジルコニアビーズ、充填率80%、周速7m/secで滞留時間5minで1パスで処理し分散した。このときのシリカ微粒子の平均粒子径は170nmであった。
【0089】
(分散液2の調製)
分散液1で用いた市販湿式法シリカを、シリカ(トクヤマ(株)社製、商品名:T−32、比表面積202g/m2、平均凝集粒子径1.5μm、沈降法シリカ)にし、P−9がシリカ質量に対して4%になるようにした以外は、分散液1と同様にして作製した。得られた分散液のシリカ微粒子の平均粒子径は200nmであった。
【0090】
(分散液3の調製)
サンドミルの分散条件を、同条件で1パス処理から2パス処理に変えた以外は分散液2と同様に作製した。得られた分散液のシリカ微粒子の平均粒子径は160nmであった。
【0091】
(分散液4の調製)
分散液1で用いた市販湿式法シリカを、シリカ(日本シリカ工業(株)社製、商品名:HD−2、比表面積280g/m2、平均凝集粒子径3.5μm、沈降法シリカ)にした以外は、分散液1と同様にして作製した。得られた分散液のシリカ微粒子の平均粒子径は270nmであった。
【0092】
(分散液5の調製)
分散液1で用いた市販湿式法シリカを、シリカ(日本シリカ工業(株)社製、商品名:E−220A、比表面積150g/m2、平均凝集粒子径1.5μm、沈降法シリカ)にした以外は、分散液1と同様にして作製した。得られた分散液のシリカ微粒子の平均粒子径は190nmであった。
【0093】
(分散液6の調製)
分散液1で用いた市販湿式法シリカを、シリカ(日本シリカ工業(株)社製、商品名:E−743、比表面積45g/m2、平均凝集粒子径1.7μm、沈降法シリカ)にした以外は、分散液1と同様にして作製した。得られた分散液のシリカ微粒子の平均粒子径は210nmであった。
【0094】
(塗布液1〜6の調製)
分散液1〜6のそれぞれにポリビニールアルコール溶液(10%、クラレ社製:PVA235)を、シリカ質量がポリビニルアルコールの固形分質量の6倍になるように混合して、塗布液1〜6を作製した。
【0095】
(記録用紙1〜8の作製)
両面をポリエチレンで被覆した紙支持体(厚みが220μmでインク受容層面のポリエチレン中にはポリエチレンに対して13質量%のアナターゼ型酸化チタンを含有)に、表1に示す塗布液を2層同時塗布して、記録用紙1〜8を作製した。表1において、支持体に近い層を下層、支持体から離れた層を上層とし、各層ともシリカ付量が8g/m2になるように塗布した。なお塗布はそれぞれの塗布液を40℃でカーテンコーターを用いて行い、塗布直後に0℃に保たれた冷却ゾーンで20秒間冷却した後、25℃の風(相対湿度が15%)で60秒間、45℃の風(相対湿度が25%)で60秒間、50℃の風(相対湿度が25%)で60秒間順次乾燥し、20〜25℃、相対湿度が40〜60%の雰囲気下で、2分間調湿した。塗布速度は300m/minで行った。
【0096】
得られた記録用紙1〜8について、以下の項目を評価した。
ひび割れ
塗布面の0.3m2当たりのひび割れ点数を目視でカウントした。ひび割れ点数は、通常10点以下であれば実用上問題ないと考えられる。
【0097】
インク溢れ
セイコーエプソン社製のインクジェットプリンター、PM750Cを使用して、マゼンタのベタ印字を行い、目視にてインク溢れの状態を観察し、
○ 溢れ無し
△ 若干溢れはあるが実用上問題なし
× 実用上問題有り
で評価した。この評価は、インク吸収少量(空隙量)の評価となる。
【0098】
光沢度
日本電色工業株式会社製変角光度計(VGS−1001DP)を用いて、75°光沢度を測定した。この値が45%以上で有ればフォトライクなインクジェット記録用紙として有効である。
【0099】
発色濃度
セイコーエプソン社製のインクジェットプリンター、PM950Cを使用して、ブラックのベタ印字を行い、その反射濃度を測定した。
【0100】
以上の結果を表1に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
表1から、本発明の試料は、ひび割れが少なく、インク吸収性が良好で、印字濃度が高く、かつ光沢が高いインクジェット記録用紙であることが分かる。
【0103】
【発明の効果】
本発明により、生産性が高く、インク吸収性が良好で、皮膜のひび割れが改善され、印字濃度が高く、高い光沢性を有するインクジェット記録用紙とその製造方法を提供することができた。
【発明の属する技術分野】
本発明は、インクジェット記録用紙に関し、特に生産性が高く、インク吸収性が良好で、皮膜のひび割れが改善され、印字濃度が高く、高い光沢性を有するインクジェット記録用紙およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、インクジェット記録は急速に画質が向上してきており、写真画質に迫りつつある。このような写真画質をインクジェット記録で達成するために、インクジェット記録用紙の面でも改善が進んでおり、高平滑性の支持体上に微粒子と親水性ポリマーを含み、微小な空隙を有する層を設けた空隙型のインクジェット記録用紙は、高光沢であって、鮮やかな発色を示し、インク吸収性及び乾燥性に優れていることから最も写真画質に近いものの一つになりつつある。特に非吸水性支持体を使用した場合は、吸水性支持体に見られるようなプリント後のコックリング(しわ)がなく、高平滑な表面を維持できるためより高品位なプリントを得ることができる。
【0003】
ところで、高平滑性支持体として一般的に用いられるのは、ポリエステルフィルムやポリオレフィンフィルム、あるいはポリオレフィンで被覆した紙支持体など、インクを吸収しない支持体である。このような非インク吸収性支持体にインク吸収性の空隙層を設けるに当たっては、十分な量のインクを吸収するに足る膜厚の空隙層を設ける必要がある。
【0004】
一般的に空隙型のインクジェット記録用紙は水系塗布液を支持体上に塗布してから乾燥することにより得られるが、湿潤膜厚が厚いと膜面にひびわれを起こしやすくなったり、乾燥に時間がかかるなどの問題が発生する。そのため膜厚を厚くすることには限界があり、単位膜厚当りのインク吸収容量を高くする必要がある。もしくは水系塗布液の固形分濃度を高くすることにより、湿潤膜厚を変えずに乾燥膜厚を厚くする必要がある。
【0005】
インクジェット記録用紙に用いられるシリカは、その製造方法により湿式法シリカと乾式法シリカがあるが、一般的に湿式法シリカを用いた場合の方が固形分濃度を高くすることが可能である。湿式法シリカを用いて、高いインク吸収容量を確保するためには、一般的に沈殿法もしくはゲル法で製造されたシリカが用いられるが、これらのシリカは数μm〜数10μmの凝集粒子径をもつ粉体であることから、インクジェット記録用紙に要求されるような高光沢や高印字濃度が得られないという問題がある。
【0006】
これらの課題のうち光沢度を高める技術として、光沢発現層を設け、更に加熱鏡面処理を行うことが開示されて(例えば、特許文献1参照。)いるが、この方法では製造工程が複雑になる上、インク吸収性を劣化させることがわかっている。
【0007】
また、シリカの平均粒子径を規定した技術が開示されて(例えば、特許文献2参照。)いるが、平均粒子径のみでは高光沢を得るには不十分である上、高光沢を得ようとすることによりインク吸収量が低下するという問題があることがわかった。
【0008】
これらの問題を解決するために、下層の1次粒子の平均粒径を上層の1次粒子の平均粒径よりも大きくするという技術が開示されて(例えば、特許文献3参照。)いるが、この技術では十分な効果は得られていない。また、シリカの粉砕分散方法として圧力式を開示しているが、高濃度の粉砕分散には適さず、所望の粒径まで分散するのに多大な時間を必要とし、生産性が悪い。
【0009】
【特許文献1】
特開平11−91240号公報
【0010】
【特許文献2】
特開平9−286165号公報
【0011】
【特許文献3】
特開平10−315610号公報
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記の実態に鑑みてなされたものであって、その目的は、特に生産性が高く、インク吸収性が良好で、皮膜のひび割れが少なく、印字濃度が高く、高い光沢性を有するインクジェット記録用紙とその製造方法を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明の上記目的は、以下の構成によって達成された。
【0014】
1.支持体上に少なくとも2層以上のインク受容層を有するインクジェット記録用紙において、最上層のインク受容層が湿式法で製造したシリカ(湿式法シリカ)を粉砕分散したシリカ微粒子とバインダーを含有してなり、該湿式法シリカがBET式比表面積が200〜350m2/gで且つコールターカウンターで測定した平均凝集粒子径が1.0〜2.8μmであることを特徴とするインクジェット記録用紙。
【0015】
2.支持体上に少なくとも2層以上のインク受容層を有するインクジェット記録用紙において、最上層以外のインク受容層のいずれかが湿式法シリカを粉砕分散したシリカ微粒子とバインダーを含有してなり、該湿式法シリカがBET式比表面積が100〜250m2/gで且つコールターカウンターで測定した平均凝集粒子径が1.0〜2.8μmであることを特徴とするインクジェット記録用紙。
【0016】
3.前記粉砕分散したシリカ微粒子の平均粒子径が150〜350nmであることを特徴とする前記1または2記載のインクジェット記録用紙。
【0017】
4.前記湿式法シリカが沈降法で製造したシリカであることを特徴とする前記1〜3のいずれか1項記載のインクジェット記録用紙。
【0018】
5.前記湿式法シリカを粉砕分散したシリカ微粒子とバインダーを含有してなるインク受容層のシリカ微粒子質量が、バインダー樹脂の固形分質量の5〜9倍の範囲であることを特徴とする前記1〜4のいずれか1項記載のインクジェット記録用紙。
【0019】
6.最上層のインク受容層が前記1または3〜5のいずれか1項記載のインク受容層であり、最上層以外のインク受容層が前記2〜5のいずれか1項記載のインク受容層であることを特徴とするインクジェット記録用紙。
【0020】
7.最上層のインク受容層が前記1または3〜5のいずれか1項記載のインク受容層であり、最上層以外のインク受容層が前記2〜5のいずれか1項記載のインク受容層であるインク受容層を同時に重層塗布することにより製造されたことを特徴とするインクジェット記録用紙。
【0021】
8.インク受容層を塗布した後に、光沢度を高くするための後処理を行うことなく乾燥して製造されたインクジェット記録用紙であることを特徴とする前記1〜7のいずれか1項記載のインクジェット記録用紙。
【0022】
9.インクジェット記録用紙の表面光沢度(JIS Z−8741;75°測定)が45%以上であることを特徴とする前記1〜8のいずれか1項記載のインクジェット記録用紙。
【0023】
10.前記1〜9のいずれか1項記載のインクジェット記録用紙が、湿式法シリカと水性媒体を分散機に連続的に供給しながら粉砕分散処理すると同時に、該分散機内で製造した分散物を連続的に該分散機より吐出し、粗分散物を得る工程を経て製造した水性分散物を含有する塗布液を支持体に塗布して製造されたことを特徴とするインクジェット記録用紙の製造方法。
【0024】
11.水性分散物が、粗分散物を少なくともサンドミル分散機を用いて分散することにより得られたものであることを特徴とする前記10記載のインクジェット記録用紙の製造方法。
【0025】
本発明を更に詳しく説明する。本発明のインクジェット記録用紙は、支持体上に少なくとも2層以上のインク受容層を有するインクジェット記録用紙であり、湿式法で製造されたシリカを、水性媒体中で粉砕分散して得た湿式法シリカ微粒子と、バインダーを含有するインク受容層を有するものである。本発明により、表面光沢度が75°の測定で45%以上の光沢度を有し、インク吸収性が良好で、皮膜のひび割れが少なく、印字濃度が高いインクジェット記録用紙を高い生産性で得ることができる。
【0026】
本発明で使用する湿式法シリカについて詳細に説明する。シリカ粒子はその製造方法によって気相法シリカと湿式法シリカに大別でき、さらに湿式法シリカはゲル法で製造されたシリカ(以下、ゲル法シリカと称す)と沈降法で製造されたシリカ(以下、沈降法シリカと称す)に細分化される。気相法シリカは、四塩化珪素を酸素と水素で燃焼して作られる、平均1次粒径が5〜50nmの球状無水シリカである。気相法シリカは、見かけ比重が小さく、高比表面積であるが、球状粒子が網目状に凝集しやすいため、高濃度で水分散するのが困難であるのに加え、分散液の経時安定性が低く、塗膜にしたときにクラック(ひび割れ)が発生しやすく好ましくない。
【0027】
これに対し、ゲル法シリカは例えば、高純度珪砂を原料としたケイ酸ソーダと硫酸を混合しケイ酸ゾルを生成する。ケイ酸ゾルは、次第に重合し、1次粒子を形成し、更に三次元的に凝集体を形成し、ゲル化する。このシリカを気流粉砕等の一般的な方法で粉砕して微粉化する。すなわちゲル法では、酸性サイドで反応重合させ、ゲル状になるまで静置し、水洗して乾燥しゲル法シリカを得る。沈降法シリカは、アルカリサイドで反応重合させ、そのまま、沈降させ乾燥して得ることができる。これら湿式法シリカは、1次粒子内に内部細孔を持つため、内部細孔を持たない気相法シリカに比べてインク吸収容量的に有利である。更に粒子に含有する水分が気相法に比べて多いため、水性媒体中に分散しやすく高濃度の分散物が得られる利点がある。
【0028】
また、湿式法シリカは高濃度で分散できるため、塗布する際の、塗布液中の含水量も少なくでき、乾燥に有利であり、結果として塗布速度も上げられる利点がある。更に、乾燥時の膜の収縮率も少なく、膜にかかる応力が少なくなり、クラック(ひび割れ)等の塗布故障が低減できる。
【0029】
本発明の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、インクジェット記録用紙の最上層のインク受容層に用いる湿式法シリカとしては、BET式比表面積が200〜350m2/gであることが好ましいことがわかった。比表面積が200m2/gより低いと満足な印字濃度が得られず、比表面積が350m2/gより高いとインク吸収容量が低くなる。より好ましくは、比表面積が230〜280m2/gであれば、印字濃度、インク吸収容量とも満足するインクジェット記録用紙が得られる。
【0030】
また、本発明の課題を解決するためには、最上層以外のインク受容層のいずれかに、BET式比表面積が100〜250m2/gである湿式法シリカを粉砕分散したシリカ微粒子を含むことが好ましい。われわれの検討の結果、比表面積がこの範囲より高い場合にも低い場合にも、満足なインク吸収容量が得られないことがわかった。より好ましくは、インク吸収容量と光沢度の関係から、最上層以外のインク受容層に用いられる湿式法シリカのBET式比表面積は170〜230m2/gである。
【0031】
本発明で用いる湿式法シリカは、粉砕分散して微粒子として用いるため、粉砕分散前の平均凝集粒子径は1.0〜2.8μmであることが好ましい。平均凝集粒子径が2.8μmより大きいと、フォトライクレベルの75°測定で45%以上の光沢を出すために多大な時間と、エネルギーを掛け平均粒径を小さくしなければいけないのが現状であり、これにより光沢は出るが、逆にインク吸収性を劣化させることになり、満足できる記録用紙は得られない。一方、平均凝集粒子径が1.0μmより小さい場合、粉体のハンドリングが難しくなる。インク吸収性と光沢度を両立するために、平均凝集粒子径が1.0〜1.8μmであることは、より好ましい。湿式法シリカの平均凝集粒子径は、当該技術分野において一般的なコールターカウンター法により測定でき、装置はコールターカウンターTA−II(Coulter Electronics Ins.社製)等を使用して測定することができる。
【0032】
本発明で用いられる湿式法シリカとしては、トクヤマ(株)、日本シリカ工業(株)等より市販されている湿式法シリカを適宜用いることができる。
【0033】
本発明の粉砕分散されたシリカ微粒子の平均粒子径は150nm〜350nmであることが好ましい。平均粒子径が150nmより小さいとインク吸収性が劣化し、350nmより大きいと光沢度が悪くなる。ここでの平均粒子径は、malvern社製、光子相関法ゼータサイザー1000HSで測定した値であり、湿式法シリカ微粒子分散液をシリカ微粒子の質量濃度で約0.5%に希釈した後、超音波洗浄器で100W、28kHzの条件で5分間超音波処理を行った直後に測定した時のZAve.の値である。
【0034】
粉砕分散方法としては、予備分散工程と本分散工程を有し、予備分散工程で粉砕分散粒径として1000nm以下にすることが好ましい、これより大きいと本分散工程で多くの時間とエネルギーを要す。予備分散に用いる分散機としては、連続式が生産効率上好ましく、ローラミルタイプ、ニーダータイプ、ピンミキサータイプ、連続式攪拌型分散機が好ましい。必要に応じて複数の分散機を用いてもよい。本分散工程では、最終的な平均粒径を決定する工程であり、用いることのできる分散機として、高圧ホモジナイザー、湿式メディア型粉砕機(サンドミル、ボールミル)、連続式高速撹拌型分散機、超音波分散機等があげられる。中でもサンドミルが好ましく、高濃度の予備分散液を短時間で効率よく粉砕分散でき、粗大粒子を低減させるのに効果が大きい。サンドミルに用いるメディアとしてはジルコニア製が好ましく、大きさは0.1〜1.0mmが好ましい。周速としては、5〜15m/secが好ましい。
【0035】
粉砕分散する際のシリカ濃度として、生産効率とハンドリング性を考え20%以上50%以下が好ましく、更に好ましくは25%以上40%以下である。
【0036】
粉砕分散された湿式法シリカ微粒子は、粗大粒子数を制御する工程を経る。方法としては、遠心分離による方法、フィルターによる方法等を用いることができる。遠心分離の方法としてクレテック社製、マイクロカット等が利用できる。フィルターとしては、日本ポール(株)製のプロファイル、アドバンテック東洋(株)製のTCPD等が挙げられる。
【0037】
前記処理工程を経た後、バインダーと混合し支持体上に塗布・乾燥されインク受容層が形成される。
【0038】
前記湿式法シリカ微粒子をバインダーと混合した後、フィルターで再度処理するのが好ましい。
【0039】
粉砕分散する際にシリカと混合する水性媒体としては、少なくとも、シリカ表面をカチオン処理するためのカチオン表面変性剤が含有されていることが好ましい。更に好ましくは、硬膜剤も含有していることである。
【0040】
前記カチオン表面変性剤としては、無機金属塩やカチオン性ポリマー等が挙げられる。無機金属塩の具体例としては、酸化アルミニウム水和物、酸化ジルコニウム水和物、酸化スズ水和物等の無機金属酸化物水和物や、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、酢酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸ジルコニウム、塩化ジルコニウム、塩化スズ等の水溶性無機金属塩が挙げられる。前記カチオン性ポリマーとしては、好ましくは第4級アンモニウム塩基を有するポリマーであり、特に好ましくは第4級アンモニウム塩基を有するモノマーの単独重合体または他の共重合し得る1または2以上のモノマーとの共重合体である。
【0041】
第4級アンモニウム塩基を有するモノマーの例としては例えば以下の例を挙げることが出来る。
【0042】
【化1】
【0043】
【化2】
【0044】
上記第4級アンモニウム塩基と共重合し得るモノマーはエチレン性不飽和基を有する化合物であり、例えば以下の具体例を挙げることが出来る。
【0045】
【化3】
【0046】
特に第4級アンモニウム塩基を有するカチオン性ポリマーが共重合体である場合、カチオン性モノマーの比率は10モル%以上が好ましく、より好ましくは20モル%以上、特に好ましくは30モル%以上である。
【0047】
第4級アンモニウム塩基を有するモノマーは単一でも2種類以上であっても良い。
【0048】
以下に本発明に用いることができるカチオン性ポリマーの具体例を挙げるが、これらに限定されるものではない。
【0049】
【化4】
【0050】
【化5】
【0051】
【化6】
【0052】
【化7】
【0053】
上記第4級アンモニウム塩基を有するカチオン性ポリマーは第4級アンモニウム塩基のために水溶性が一般に高い。共重合する第4級アンモニウム塩基を含まないモノマーの組成や比率によっては、水に充分に溶解しないことはあるが、水混和性有機溶媒と水との混合溶媒に溶解させることにより、溶解し得るもので有れば本発明に使用できる。
【0054】
ここで水混和性有機溶媒とは、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノールなどのアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリンなどのグリコール類、酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド類など、水に対して通常10%以上溶解し得る有機溶媒を言う。この場合、有機溶媒の使用量は水の使用量以下であることが好ましい。
【0055】
本発明に用いるカチオン性ポリマーは数平均分子量が10万以下であることが好ましい。ここで数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーから求められたポリエチレングリコール値に換算した値である。
【0056】
数平均分子量が10万を越える場合には、カチオン性ポリマーの溶液を表面がアニオン性である湿式法シリカ微粒子を含有する分散液に添加した際に凝集物の発生が激しく、またその後分散処理を施しても均一な分散液に成りにくく、粗大粒子が多数存在して均一な分散液に成りにくい。このようなカチオン性ポリマーと湿式法シリカ微粒子を含有する複合微粒子分散液を使用してインクジェット記録用紙を作製した場合、高い光沢性が得られにくい。特に好ましい数平均分子量は5万以下である。また数平均分子量の下限はインクの耐水性の点から通常2000以上である。
【0057】
上記湿式法シリカ微粒子とカチオン性ポリマーの比率は、湿式法シリカ微粒子の種類や粒径、あるいはカチオン性ポリマーの種類や数平均分子量で変わり得る。
【0058】
本発明において、上記比率は湿式法シリカ微粒子の表面がカチオン性に置き換わって安定化させる必要があることから、1:0.01〜1:1であることが好ましい。
【0059】
上記の分散液を調製する際には、各種の添加剤を添加することが出来る。
例えば、ノニオン性またはカチオン性の各種の界面活性剤(但し、アニオン性界面活性剤は凝集物を形成するために好ましくない)、消泡剤、ノニオン性の親水性ポリマー(ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリルアミド、各種の糖類、ゼラチン、プルラン等)、ノニオン性またはカチオン性のラテックス分散液、水混和性有機溶媒(酢酸エチル、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、アセトンなど)、無機塩類、pH調整剤など、必要に応じて適宜使用することが出来る。
【0060】
特に水混和性有機溶媒は、湿式法シリカ微粒子とカチオン性ポリマーを混合した際の微小なダマの形成が抑制されるために好ましい。そのような水混和性有機溶媒は、分散液中に好ましくは0.1〜20質量%、特に好ましくは0.5〜10質量%使用される。
【0061】
カチオン性分散液を調製する際のpHは湿式法シリカ微粒子の種類やカチオン性ポリマーの種類、各種の添加剤等により広範に変化し得るが、一般的にはpHが1〜8であり、特に2〜7が好ましい。
【0062】
本発明に係るバインダーとしては、水溶性ポリマーが好ましく、例えばゼラチン(酸処理ゼラチンが好ましい)、ポリビニルピロリドン(平均分子量が約20万以上が好ましい)、プルラン、ポリビニルアルコールまたはその誘導体、カチオン変性ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール(平均分子量が10万以上が好ましい)、ヒドロキシエチルセルロース、デキストラン、デキストリン、水溶性ポリビニルブチラールを挙げることができ、これらの水溶性ポリマーはインク受容層の親水性バインダーとして機能し、単独で使用しても良く、2種以上を併用しても良い。
【0063】
特に好ましい親水性バインダーは、ポリビニルアルコールまたはカチオン変性ポリビニルアルコールである。
【0064】
本発明に用いられるポリビニルアルコールは平均重合度が300〜4000のものが好ましく、特に平均重合度が1000以上のものから得られる皮膜は、脆弱性が良好であることからより好ましい。
【0065】
また、ポリビニルアルコールのケン化度は70〜100%のものが好ましく、80〜100%のものが特に好ましい。
【0066】
また、カチオン変性ポリビニルアルコールは、カチオン性基を有するエチレン性不飽和単量体と酢酸ビニルとの共重合体をケン化することにより得られる。
【0067】
カチオン性基を有するエチレン性不飽和単量体としては、例えばトリメチル−(2−アクリルアミド−2,2−ジメチルエチル)アンモニウムクロライド、トリメチル−(3−アクリルアミド−3,3−ジメチルプロピル)アンモニウムクロライド、N−ビニルイミダゾール、N−ビニル−2−メチルイミダゾール、N−(3−ジメチルアミノプロピル)メタクリルアミド、ヒドロキシルエチルジメチル(3−メタクリルアミド)アンモニウムクロライド、トリメチル−(3−メタクリルアミドプロピル)アンモニウムクロライド、N−(1,1−ジメチル−3−ジメチルアミノプロピル)アクリルアミド等が挙げられる。
【0068】
カチオン変性ポリビニルアルコールのカチオン変性基含有単量体の比率は、酢酸ビニルに対して0.1〜10モル%が好ましく、より好ましくは0.2〜5モル%である。またカチオン変性ポリビニルアルコールの重合度は通常500〜4000、好ましくは1000〜4000である。更に、カチオン変性ポリビニルアルコールのケン化度は通常60〜100モル%、好ましくは70〜99モル%である。
【0069】
本発明に係るインクジェット記録用紙において、高光沢性で高い空隙率を皮膜の脆弱性を劣化させずに得るために、前記水溶性ポリマーが硬膜剤により硬膜されていることが好ましい。
【0070】
硬膜剤は、一般的には前記水溶性ポリマーと反応し得る基を有する化合物あるいは水溶性ポリマーが有する異なる基同士の反応を促進するような化合物であり、水溶性ポリマーの種類に応じて適宜選択して用いられる。
【0071】
硬膜剤の具体例としては、例えば、エポキシ系硬膜剤(ジグリシジルエチルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ジグリシジルシクロヘキサン、N,N−ジグリシジル−4−グリシジルオキシアニリン、ソルビトールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル等)、アルデヒド系硬膜剤(ホルムアルデヒド、グリオキザール等)、活性ハロゲン系硬膜剤(2,4−ジクロロ−4−ヒドロキシ−1,3,5−s−トリアジン等)、活性ビニル系化合物(1,3,5−トリスアクリロイル−ヘキサヒドロ−s−トリアジン、ビスビニルスルホニルメチルエーテル等)、ほう酸、その塩、ほう砂、アルミ明礬等が挙げられる。
【0072】
水溶性ポリマーとしてポリビニルアルコールまたはカチオン変成ポリビニルアルコールを使用する場合には、ほう酸、その塩またはエポキシ系硬膜剤から選ばれる硬膜剤を使用するのが好ましい。
【0073】
最も好ましいのはほう酸またはその塩から選ばれる硬膜剤である。ほう酸またはその塩としては、硼素原子を中心原子とする酸素酸およびその塩のことを示し、具体的にはオルトほう酸、二ほう酸、メタほう酸、四ほう酸、五ほう酸、八ほう酸またはそれらの塩が挙げられる。
【0074】
上記硬膜剤の使用量は水溶性ポリマーの種類、硬膜剤の種類、シリカ粒子の種類、水溶性ポリマーに対する比率等により変化するが、通常水溶性ポリマー1g当たり5〜500mg、好ましくは10〜300mgである。
【0075】
上記硬膜剤は、空隙層を形成する塗布液を塗布する際に、空隙層を形成する塗布液中及び/または空隙層に隣接するその他の層を形成する塗布液中に添加してもよく、あるいは予め硬膜剤を含有する塗布液を塗布してある支持体上に、該空隙層を形成する塗布液を塗布する。さらには空隙層を形成する硬膜剤非含有の塗布液を塗布乾燥後に硬膜剤溶液をオーバーコートするなどして空隙層に硬膜剤を供給することもできる。好ましくは製造上の効率の観点から、空隙層を形成する塗布液またはこれに隣接する層を形成する塗布液中に硬膜剤を添加して、空隙層を形成するのと同時に硬膜剤を供給するのが好ましい。
【0076】
本発明で特に好ましいのは微粒子シリカを1次粒子として使用し、親水性バインダーとしてポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコールを用いる場合である。この場合、微粒子シリカ表面のシラノール基とビニルアルコールの水酸基が弱い水素結合を行い、軟凝集体が形成されて空隙率が高く成りやすい。
【0077】
本発明で用いられる上記親水性バインダーとシリカ微粒子の比率は、シリカ微粒子質量が、バインダー樹脂の固形分質量の5〜9倍の範囲であることが好ましい。この比率よりもバインダー樹脂が多い場合、インク吸収容量が低くなりインク溢れが問題となる。この比率よりもバインダー樹脂が少ない場合にはひびわれが発生しやすくなる。
【0078】
水溶性ポリマーを前記分散液に添加混合する方法は、水溶性ポリマーの水溶液を分散液に攪拌しながらバッチ内で添加する方法や、前記分散液と水溶性ポリマーを連続的にスタチックミキサー等の混合機で混合する方法があげられる。
【0079】
本発明に好ましく用いられる水溶性ポリマー、特にポリビニールアルコールは、重合度が高い為、溶解性が悪く、ダマが出来やすい、更に溶解時間がかかるため、生産効率上、品質上問題がある。
【0080】
溶解温度を100℃以上にすることで、溶解時間が短縮できてダマがなくなる。溶解温度は、100℃以上150℃以下が好ましく、更に好ましくは110℃以上130℃以下である。あまり温度を上げると、構造が破壊され、強いては、空隙率をダウンさせる。100℃以上での溶解は、熱源として、電気、オイル、加圧蒸気等を用いることが出来る。生産効率上、連続的に溶解するのが好ましく、例えばノリタケ製溶解システムを用いることが出来る。溶解温度が低いと、ダマが完全に溶解しきれず、ひび割れの原因になる。
【0081】
本発明のインクジェット記録用紙の支持体としては、従来公知の紙支持体、プラスチック支持体(透明支持体)、複合支持体など適宜使用できるが、より高い濃度で鮮明な画像を得るためには支持体中にインク液が浸透しない疎水性支持体を用いるのが好ましい。
【0082】
透明支持体としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ジアセテート系樹脂、トリアセテート系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリイミド系樹脂、セロハン、セルロイド等の材料からなるフィルム等が挙げられ、中でもOHPとして使用されたときの輻射熱に耐える性質のものが好ましく、ポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。このような透明な支持体の厚さとしては、10〜200μmが好ましい。透明支持体のインク受容層側およびバッキング層側には公知の下引き層を設けることが、インク受容層やバック層と支持体の接着性の観点から好ましい。
【0083】
また、透明である必要のない場合に用いる支持体としては、例えば、基紙の少なくとも一方に白色顔料等を添加したポリオレフィン樹脂被覆層を有する樹脂被覆紙(いわゆるRCペーパー)、ポリエチレンテレフタレートに白色顔料を添加してなるいわゆるホワイトペットが好ましい。
【0084】
支持体上に塗布する方法は公知の方法から適宜選択して行うことが出来る。好ましい方法は、塗布液を支持体上に塗設して乾燥して得られる。この場合、2層以上を同時に塗布することもでき、特に全ての親水性バインダー層を1回の塗布で済ます同時塗布が好ましい。
【0085】
塗布方式としては、ロールコーティング法、ロッドバーコーティング法、エアナイフコーティング法、スプレーコーティング法、カーテン塗布法あるいは米国特許第2,681,294号公報記載のホッパーを使用するエクストルージョンコート法が好ましく用いられる。
【0086】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の実施態様はこれらに限定されるものではない。なお、実施例中で「%」は特に断りのない限り絶乾(水分無しの状態)質量%を示す。
【0087】
(分散液1の調製)
市販湿式法シリカ(トクヤマ(株)社製、商品名:X−37、比表面積275m2/g、平均凝集粒子径2.6μm、沈降法シリカ)を水性媒体と一緒に連続式ピンミキサー(粉研パウテック社製、フロージェットミキサー300型、以下FJMと称す)で連続的に分散した。その後、高速回転式連続分散機(太平洋機工社製、フローファインミルFM25、以下FMと称す)で分散して予備分散液を連続的に得た。FJM、FMの周速は30m/secで行った。上記水性媒体とは、水にホウ酸とP−9を含有させたものをいう。ホウ酸はシリカ質量に対して2.7%、P−9は12%になるようにした。予備分散液中のシリカ濃度は30%にした。
【0088】
上記の方法で得られた予備分散液をサンドミル分散機(アシザワ社製、RL−125)で分散した。サンドミルの分散条件は0.5mmジルコニアビーズ、充填率80%、周速7m/secで滞留時間5minで1パスで処理し分散した。このときのシリカ微粒子の平均粒子径は170nmであった。
【0089】
(分散液2の調製)
分散液1で用いた市販湿式法シリカを、シリカ(トクヤマ(株)社製、商品名:T−32、比表面積202g/m2、平均凝集粒子径1.5μm、沈降法シリカ)にし、P−9がシリカ質量に対して4%になるようにした以外は、分散液1と同様にして作製した。得られた分散液のシリカ微粒子の平均粒子径は200nmであった。
【0090】
(分散液3の調製)
サンドミルの分散条件を、同条件で1パス処理から2パス処理に変えた以外は分散液2と同様に作製した。得られた分散液のシリカ微粒子の平均粒子径は160nmであった。
【0091】
(分散液4の調製)
分散液1で用いた市販湿式法シリカを、シリカ(日本シリカ工業(株)社製、商品名:HD−2、比表面積280g/m2、平均凝集粒子径3.5μm、沈降法シリカ)にした以外は、分散液1と同様にして作製した。得られた分散液のシリカ微粒子の平均粒子径は270nmであった。
【0092】
(分散液5の調製)
分散液1で用いた市販湿式法シリカを、シリカ(日本シリカ工業(株)社製、商品名:E−220A、比表面積150g/m2、平均凝集粒子径1.5μm、沈降法シリカ)にした以外は、分散液1と同様にして作製した。得られた分散液のシリカ微粒子の平均粒子径は190nmであった。
【0093】
(分散液6の調製)
分散液1で用いた市販湿式法シリカを、シリカ(日本シリカ工業(株)社製、商品名:E−743、比表面積45g/m2、平均凝集粒子径1.7μm、沈降法シリカ)にした以外は、分散液1と同様にして作製した。得られた分散液のシリカ微粒子の平均粒子径は210nmであった。
【0094】
(塗布液1〜6の調製)
分散液1〜6のそれぞれにポリビニールアルコール溶液(10%、クラレ社製:PVA235)を、シリカ質量がポリビニルアルコールの固形分質量の6倍になるように混合して、塗布液1〜6を作製した。
【0095】
(記録用紙1〜8の作製)
両面をポリエチレンで被覆した紙支持体(厚みが220μmでインク受容層面のポリエチレン中にはポリエチレンに対して13質量%のアナターゼ型酸化チタンを含有)に、表1に示す塗布液を2層同時塗布して、記録用紙1〜8を作製した。表1において、支持体に近い層を下層、支持体から離れた層を上層とし、各層ともシリカ付量が8g/m2になるように塗布した。なお塗布はそれぞれの塗布液を40℃でカーテンコーターを用いて行い、塗布直後に0℃に保たれた冷却ゾーンで20秒間冷却した後、25℃の風(相対湿度が15%)で60秒間、45℃の風(相対湿度が25%)で60秒間、50℃の風(相対湿度が25%)で60秒間順次乾燥し、20〜25℃、相対湿度が40〜60%の雰囲気下で、2分間調湿した。塗布速度は300m/minで行った。
【0096】
得られた記録用紙1〜8について、以下の項目を評価した。
ひび割れ
塗布面の0.3m2当たりのひび割れ点数を目視でカウントした。ひび割れ点数は、通常10点以下であれば実用上問題ないと考えられる。
【0097】
インク溢れ
セイコーエプソン社製のインクジェットプリンター、PM750Cを使用して、マゼンタのベタ印字を行い、目視にてインク溢れの状態を観察し、
○ 溢れ無し
△ 若干溢れはあるが実用上問題なし
× 実用上問題有り
で評価した。この評価は、インク吸収少量(空隙量)の評価となる。
【0098】
光沢度
日本電色工業株式会社製変角光度計(VGS−1001DP)を用いて、75°光沢度を測定した。この値が45%以上で有ればフォトライクなインクジェット記録用紙として有効である。
【0099】
発色濃度
セイコーエプソン社製のインクジェットプリンター、PM950Cを使用して、ブラックのベタ印字を行い、その反射濃度を測定した。
【0100】
以上の結果を表1に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
表1から、本発明の試料は、ひび割れが少なく、インク吸収性が良好で、印字濃度が高く、かつ光沢が高いインクジェット記録用紙であることが分かる。
【0103】
【発明の効果】
本発明により、生産性が高く、インク吸収性が良好で、皮膜のひび割れが改善され、印字濃度が高く、高い光沢性を有するインクジェット記録用紙とその製造方法を提供することができた。
Claims (11)
- 支持体上に少なくとも2層以上のインク受容層を有するインクジェット記録用紙において、最上層のインク受容層が湿式法で製造したシリカ(湿式法シリカ)を粉砕分散したシリカ微粒子とバインダーを含有してなり、該湿式法シリカがBET式比表面積が200〜350m2/gで且つコールターカウンターで測定した平均凝集粒子径が1.0〜2.8μmであることを特徴とするインクジェット記録用紙。
- 支持体上に少なくとも2層以上のインク受容層を有するインクジェット記録用紙において、最上層以外のインク受容層のいずれかが湿式法シリカを粉砕分散したシリカ微粒子とバインダーを含有してなり、該湿式法シリカがBET式比表面積が100〜250m2/gで且つコールターカウンターで測定した平均凝集粒子径が1.0〜2.8μmであることを特徴とするインクジェット記録用紙。
- 前記粉砕分散したシリカ微粒子の平均粒子径が150〜350nmであることを特徴とする請求項1または2記載のインクジェット記録用紙。
- 前記湿式法シリカが沈降法で製造したシリカであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のインクジェット記録用紙。
- 前記湿式法シリカを粉砕分散したシリカ微粒子とバインダーを含有してなるインク受容層のシリカ微粒子質量が、バインダー樹脂の固形分質量の5〜9倍の範囲であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のインクジェット記録用紙。
- 最上層のインク受容層が請求項1または3〜5のいずれか1項記載のインク受容層であり、最上層以外のインク受容層が請求項2〜5のいずれか1項記載のインク受容層であることを特徴とするインクジェット記録用紙。
- 最上層のインク受容層が請求項1または3〜5のいずれか1項記載のインク受容層であり、最上層以外のインク受容層が請求項2〜5のいずれか1項記載のインク受容層であるインク受容層を同時に重層塗布することにより製造されたことを特徴とするインクジェット記録用紙。
- インク受容層を塗布した後に、光沢度を高くするための後処理を行うことなく乾燥して製造されたインクジェット記録用紙であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載のインクジェット記録用紙。
- インクジェット記録用紙の表面光沢度(JIS Z−8741;75°測定)が45%以上であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項記載のインクジェット記録用紙。
- 請求項1〜9のいずれか1項記載のインクジェット記録用紙が、湿式法シリカと水性媒体を分散機に連続的に供給しながら粉砕分散処理すると同時に、該分散機内で製造した分散物を連続的に該分散機より吐出し、粗分散物を得る工程を経て製造した水性分散物を含有する塗布液を支持体に塗布して製造されたことを特徴とするインクジェット記録用紙の製造方法。
- 水性分散物が、粗分散物を少なくともサンドミル分散機を用いて分散することにより得られたものであることを特徴とする請求項10記載のインクジェット記録用紙の製造方法。
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