JP2004208644A - 新規メタノール資化性菌およびそれを用いたl−セリン製造方法 - Google Patents

新規メタノール資化性菌およびそれを用いたl−セリン製造方法 Download PDF

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早苗 瀧本
Yoshio Kimoto
佳夫 木本
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Abstract

【課題】効率的なL−セリン製造方法の提供、および当該方法に用いることができる新規メタノール資化性菌の提供。
【解決手段】メチロバクテリウム属に属し、セリン経路を有する細菌またはその破砕物を用いて、グリシンとメタノールとのモル比が1:0.8〜1:5.5であるグリシンとメタノールからL−セリンを製造する。土壌より分離したメチロバクテリウム属に属し、セリン経路を有する新規メタノール資化性菌であるメチロバクテリウム エスピー RFS−10129株を提供する。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規メタノール資化性菌およびそれを用いたL−セリン製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
L−セリンは、皮膚保湿因子として存在する非必須アミノ酸(分子量105.09)である。L−セリンは反応性に富む光学活性体で、輸液用途や光学活性体・医薬の合成原料・化粧品等に用いられている。
【0003】
L−セリンの製造方法として、L−セリンを多量に含むタンパク質(例えば絹)を加水分解し抽出する方法が知られている。しかし、効率が悪く、またL−セリンが反応性に富む為、加水分解中にラセミ化する問題がある。
【0004】
また、コリネ型細菌を使用した糖からの直接発酵法によるL−セリンの製造法が開示されているが効率的ではない(特許文献1参照)。さらに、メタノール資化性の微生物をメタノールとグリシンの存在下に培養し培養液中に蓄積したL−セリンを回収する発酵法が開示されているが、いずれも効率的な方法ではない(特許文献2、3参照)。また発酵法では、後の精製が煩雑となる問題がある。
【0005】
そこで、酵素法による変換反応による効率のよいL−セリン製造法が種々研究され、例えばi)ホルムアルデヒドとグリシン(および補酵素葉酸)からのL−セリンの製造法、ii)シュードモナス(Pseudomonas)属に属する細菌を使用したグリシンと5,10−メチレンテトラヒドロ葉酸(またはグリシンとホルムアルデヒドとテトラヒドロ葉酸)からのL−セリンの製造法(特許文献4参照)が開発されている。
しかし、i)の方法は、近年のシックハウス症候群の原因物質であるホルムアルデヒドを使用する点で問題があり、また、ホルムアルデヒドは微生物に対して有害であるので、ホルムアルデヒドを低濃度で制御する必要があり工業的な大量生産には適さない。ii)の方法は、ホルムアルデヒドを用いる点で上記と同様の問題があり、また葉酸を添加しない場合にはL−セリンの生産量が著しく減少するという問題がある。
【0006】
さらに、酵素法による変換反応として、iii)L−セリン分解活性を抑制した条件下で、ヒポミクロビウム エスピー NCIB10099(Hyphomicrobium sp. NCIB10099)株の休止細胞を用いたメタノールとグリシンからのL−セリン合成、(非特許文献1参照)、iv)メチロバクテリウム エスピー MN43(Methylobacterium sp. MN43)株の休止細胞を用いたメタノールとグリシンからのL−セリン製造(非特許文献2参照)が開示されている。
しかし、iii)、iv)には、本発明のグリシンとメタノールのモル比による効果は開示されていない。
【0007】
これらの従来技術の問題点を勘案すると、1)ラセミ化することを防ぐため加水分解等の化学合成手法を用いず、微生物およびその酵素により光学活性な状態でL−セリンを得ることができること、2)発酵法ではなく、酵素手法によるグリシンからセリンへの変換反応を用いて効率化、後の精製の簡易化を図ることができること、3)ホルムアルデヒドを実質的に添加せずに、メタノール等を炭素源として培養した微生物による、メタノールとグリシンからL−セリンに変換する反応を用いることができること(すなわちホルムアルデヒドは微生物に必要な分だけ作らせることができること)、および4)効率化を図ることができる新規メタノール資化性・セリン経路を有する微生物の発見がL−セリンの製造のためには望まれる。
【0008】
【特許文献1】
特開平11−266881号公報
【特許文献2】
特公昭58−16878号公報
【特許文献3】
特公昭57−37320号公報
【特許文献4】
特開昭62−96092号公報
【非特許文献1】
T.YOSHIDAら、「ジャーナル オブ ファーメンテイションアンド バイオエンジニアリング(Journal of Fermentation and Bioengineering)」、第79巻、第2号、1995年、p181−183
【非特許文献2】
T.HAGISHITAら、「バイオサイエンス バイオテクノロジー アンド バイオケミストリー(Bioscience Biotechnology,and Biochemistry)」、第60巻、第10号、1996年、p1604−1607
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、効率的なL−セリン製造方法の提供および、それに用いることができる新規メタノール資化性菌の提供を目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、上記1)〜3)の要件を満たす微生物である、メチロバクテリウム属に属し、セリン経路を有する細菌またはその破砕物を用いて、かつ原料とするグリシンとメタノールのモル比を特定の範囲内とすることで効率的なL−セリンの製造が可能となることを見出した。また、本発明者らは、土壌より上記1)〜3)の要件を満たすメチロバクテリウム属に属し、セリン経路を有する新規微生物(新規メタノール資化性菌)を発見し、この微生物を用いることで効率的なL−セリンの製造が可能となることを見出し、さらに研究を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)メチロバクテリウム属に属し、セリン経路を有する細菌またはその破砕物を用いて、グリシンとメタノールとのモル比が1:0.8〜1:5.5であるグリシンとメタノールからL−セリンを製造するL−セリン製造方法、
(2)細菌の破砕物を用いる、上記(1)記載の方法、
(3)細菌がメチロバクテリウム エスピー RFS−10129株である、上記(1)または(2)記載の方法、
(4)細菌がメタノールを炭素源として培養した細菌である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法、
(5)メチロバクテリウム エスピー RFS−10129株。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳述する。
本発明では、メタノールとグリシンから以下に説明する微生物を用いてL−セリンを製造する。まず、メタノールとグリシンからL−セリンを生じる反応を図1に表した概念図で説明する。メタノールはメタノールデヒドロゲナーゼによる脱水素反応(図1中、▲1▼で表す反応系)によりホルムアルデヒドとなり、当該ホルムアルデヒドとグリシンとが補酵素テトラヒドロ葉酸を介したセリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼによる反応(図1中、▲2▼で表す反応系)によりL−セリンとなる。このように上記一連の酵素反応によりメタノールとグリシンからL−セリンが生じる。図1中▲1▼または▲2▼で示す一方の系のみを持つものは他にも多数存在するが、このような経路を有するのはメタノール資化性菌の中でもセリン経路を有する限られた微生物のみである。
【0013】
本発明に用いられる微生物は、メチロバクテリウム(Methylobacterium)属に属する細菌であって、かつセリン経路を有する細菌であれば特に限定されないが、例えば、後述のメチロバクテリウム エスピー RFS−10129(Methylobacterium sp. RFS−10129)株、上記メチロバクテリウム エスピー MN43(Methylobacterium sp. MN43)株等が挙げられる。このうち、メチロバクテリウム エスピー RFS−10129株が好ましい。
このような微生物は、例えば以下のスクリーニング方法によって、自然界から分離・取得、あるいは既存の保存菌株から選定・取得することができる。
【0014】
スクリーニング方法
自然界から採取した土壌サンプルを、単一炭素源としてメタノールを含む液体培地(例えば培地A(pH7):メタノール0.8%(w/v)、KHPO1g/l、(NHPO2g/l、NaCl 1g/l、MgSO・7HO 0.05g/l、FeSO・7HO 0.05g/l、MnSO・4−6HO 0.02g/l、ビタミン混合液(塩酸チアミン5mg/l、リボフラビン10mg/l、パントテン酸カルシウム6mg/l、塩酸ピリドキシン8mg/l、ビオチン0.2mg/l、p−アミノ安息香酸3mg/l、ニコチン酸4mg/l)0.05%(v/v))に加え、25〜30℃で2〜4日間集積培養を数度行い生育の確認をする(1次スクリーニング:メタノール資化性)。
生育のあった菌株については同培地組成の寒天培地で25〜30℃、2〜6日間培養し、単菌分離を行い、同培地スラントに保存する。
1次スクリーニングにおける生育株を、単一炭素源としてメタノールを含む液体培地(例えば上記培地A)で25〜30℃で2〜6日間振とう培養を行い、次いで、同じ組成の培地で25〜30℃で2〜4日間、振とう培養を行った後、集菌する。得られた菌体と、メタノールおよびグリシンを含む反応液(例えば反応液1ml中最終濃度メタノール4.7%(w/v)、グリシン5.1%(w/v)、Tris−HCl緩衝液(pH8)50mM、菌懸濁液10%PCV(v/v)を含む)を25〜30℃で1〜7日間振とうし反応させる。反応後の溶液についてL−セリン濃度を例えばHPLC等で測定してL−セリン生産性を確認する(2次スクリーニング:L−セリン生産性)。生産性のあったサンプルを選択・単菌化し保存する。このようにして、メタノール資化性でセリン経路を有する微生物を選択することができ、特にこれらの中からL−セリン高生産性のメチロバクテリウム エスピー RFS−10129株を選択することができる。
なお、略号PCV(Packed Cell Volume)は、培養液中に含まれる菌体量を容積%で表したものである。
【0015】
このようにして、本発明者らにより福井県内の土壌より新たに分離されたメチロバクテリウム エスピー RFS−10129株の菌学的諸性質を以下に示す。なお、各記号は、+:陽性、−:陰性、W:反応弱を示す。
【0016】
1.形態学的性質
培養条件:Nutrient Agar(Oxoid, England, UK)培地、30℃において、細胞の形態:桿菌(0.8×1.5〜2.0μm)、細胞の多形性の有無:−、運動性(鞭毛の着生状態):+(極毛)、胞子の有無:−である。
【0017】
2.培養的性質
培養条件:培地メタノール0.8%(w/v)を含む合成培地A(下記表1および表2)、培養時間48hrにおいて、コロニー形態:円形、全縁滑らか、低凸状、光沢あり、オレンジ色である。培養条件:Nutrient Agar(Oxoid, England, UK)培地、30℃において、色:オレンジ色→赤色(増殖期→定常期でのコロニーの色の変化)、光択:+、色素産生:+である。培養条件:Nutrient broth(Oxoid, England, UK)培地、30℃において、表面発育の有無:+、培地の混濁の有無:+である。培養条件:ゼラチン穿刺培養、30℃において、生育状態:+、ゼラチン液化:−である。培養条件:リトマス・ミルク、30℃において、凝固:−、液化:−である。
【0018】
3.生理学的性質
生理学的性質は、グラム染色性:−、硝酸塩の還元:−、脱窒反応:−、MRテスト:−、VPテスト:−、インドール産生:−、硫化水素の生成:−、デンプンの加水分解:−、クエン酸の利用(Koser):−、クエン酸の利用(Christensen):−、無機窒素源の利用(硝酸塩):+、無機窒素源の利用(アンモニウム塩):+、ウレア−ゼ活性:+、オキシダーゼ:+、カタラーゼ:+、生育の範囲(pH):(pH5+、pH6+、pH8+)、生育の範囲(温度(℃)):(20+、25+、30+、37+、42−、45−)、生育条件(好気性、嫌気性):好気、O−Fテスト(グルコース酸化/発酵):−/−、糖類からの酸産生/ガス産生:(L−アラビノース−/−、D−グルコース−/−、D−フラクトース−/−、マルトース−/−、ラクトース−/−、D−ソルビトール−/−、イノシトール−/−、D−キシロース−/−、D−マンノース−/−、D−ガラクトース−/−、サークロース−/−、トレハロース−/−、D−マンニトール−/−、グリセリン+/−)、β−ガラクトシダーゼ活性:−、アルギニンジヒドロラーゼ活性:−、リジンデカルボキシラーゼ活性:−、トリプトファンデアミナーゼ活性:−、ゼラチナーゼ活性:−、ブドウ糖酸性化:−、エスクリン加水分解:−、ゼラチン加水分解:−、ブドウ糖資化性:−、L−アラビノース資化性:−、D−マンノース資化性:−、D−マンニトール資化性:−、N−アセチル−D−グルコサミン資化性:−、マルトース資化性:−、グルコン酸カリウム資化性:−、n−カプリン酸資化性:−、アジピン酸資化性:−、dl−リンゴ酸資化性:+、クエン酸ナトリウム資化性:−、酢酸フェニル資化性:−、チトクロームオキシダーゼ:+である。
【0019】
各試験の実施方法は、(i)[BARROW, (G.I.) and FELTHAM,(R.K.A.): Cowan and Steel’s Manual for the Identification of Medical Bacteria. 3rd edition. 1993, Cambridge University Press.]、(ii)[HOLT,(J.G.), KRIEG,(N.R.),SNEATH, (P.H.A.), STALEY, (J.T.) and WILLIAMS, (S.T.): Bergey’s manual of Determinative Bacteriology. 9 Edition. 1994. Baltimore, Williams and Wilkins]、(iii)[KRIEG,(N.R.) and HOLT,(J.G.): Bergey’s manual of Systematic Bacteriology. Vol. 1. Williams and Wilkins, Baltimore. 1984]、(iv)[坂崎利一・吉崎悦郎・三木寛二:新 細菌培地学講座・下(第二版). 1988, 近大出版, 東京]、(v)細菌同定キットAPI20NE(bioMerieux, France)の各文献の記載に従った。
【0020】
上記硝酸塩の還元、インドール産生、ブドウ糖酸性化、アルギニンジヒドロラーゼ活性、ウレア−ゼ活性、エスクリン加水分解、ゼラチン加水分解、β−ガラクトシダーゼ活性、ブドウ糖資化性、L−アラビノース資化性、D−マンノース資化性、D−マンニトール資化性、N−アセチル−D−グルコサミン資化性、マルトース資化性、グルコン酸カリウム資化性、n−カプリン酸資化性、アジピン酸資化性、dl−リンゴ酸資化性、クエン酸ナトリウム資化性、酢酸フェニル資化性、チトクロームオキシダーゼについては、上記(v)細菌同定キットAPI20NE(bioMerieux, France)を使用し、その測定方法に従った。
上記脱窒反応、VPテスト、硫化水素の生成、リジンデカルボキシラーゼ活性、トリプトファンデアミナーゼ活性、ゼラチナーゼ活性については、上記文献(v)に従い、上記ゼラチン液化、グラム染色性については上記文献(i)に従い、上記リトマス・ミルク培養、MRテスト、デンプンの加水分解、クエン酸の利用(Koser、Christensen)、無機窒素源の利用(硝酸塩、アンモニウム塩)、オキシダーゼ、カタラーゼ、O−Fテスト、糖類からの酸産生/ガス産生については、上記文献(iv)に従った。
【0021】
以上の細菌学的諸性質、特にオレンジ色のコロニー色彩を示し、グラム染色陰性、運動性、カタラーゼ反応陽性、オキシダーゼ反応陽性を示す好気性桿菌であること、およびメタノール資化能を有することから判断し、メチロバクテリウムエスピー(Methylobacterium sp.)に属する細菌であることが確認された(参考文献:上記文献(ii))。
しかしながら、RFS−10129株はこれまでに報告されている同属細菌(上記メチロバクテリウム エスピー MN43株)とブドウ糖の資化性およびクエン酸ナトリウム資化性が違うことから、新菌株と設定することが妥当であるとの結論に達した。
そこで本発明者らは、メチロバクテリウム エスピー RFS−10129株と命名し、保存サンプルを平成14年12月11日付で独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託した(受託番号:FERM P−19149)。
【0022】
以下に、メチロバクテリウム属に属し、セリン経路を有する細菌(以下単に本発明のメタノール資化性菌ともいう。)、特にメチロバクテリウム エスピー RFS−10129株を用いた本発明のL−セリン製造方法(培養法、反応法)の一実施態様を説明する。
【0023】
培養法
本発明のメタノール資化性菌の培養は、炭素源、窒素源等を含む通常の栄養培地で行うことができる。
炭素源としては、例えばメタノール、メチルアミン、モノクロロメタン等のC化合物等が挙げられる。特にメタノールから変換されるホルムアルデヒドは、セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼの活性発現・維持、活性化が期待される等の理由から、メタノールが好ましい。炭素源(特にメタノール)の培地中の濃度は、通常0.1〜3.0%(w/v)、好ましくは0.5〜1.5%(w/v)である。
【0024】
窒素源としては、無機窒素、有機窒素のいずれを用いることもできるが、無機窒素が好ましい。無機窒素としては、例えば燐安、硫安、硝安等が挙げられる。有機窒素としては、例えばコーン・スティープ・リカー、酵母エキス等が挙げられる。窒素源の培地中の濃度は、通常0.01〜1.0%(w/v)、好ましくは0.1〜0.5%(w/v)である。
【0025】
培地にはその他微量成分として、マグネシウム、鉄、マンガン、硫黄等の金属塩、リボフラビン等のビタミン類、ピロロキノリンキノン、葉酸等の補酵素類、グリシン等のアミノ酸類等も適宜使用することができる。これらの微量成分の培地中の濃度は、微生物の生育を害しない濃度であれば特に制限はない。
【0026】
培地には、培養途中に上記炭素源、窒素源、微量成分等を途中添加することもできる。特に限定されないが、グリシンの添加はこれらの中でもL−セリン生産性向上に非常に有効である。
【0027】
培養条件は、振とう培養・通気培養等の好気培養であればよく、培養温度、培地のpH、培養時間等は、L−セリンが大量に生産されるように適宜選択することができる。培養温度は通常25〜40℃、好ましくは25〜30℃であり、培地のpHは通常pH5〜9、好ましくはpH6〜8であり、培養時間は通常1〜7日間、好ましくは2〜4日間である。
【0028】
反応法
上記のように培養した菌体、グリシンおよびメタノールを含む反応液中で反応させてL−セリンを製造する。
本発明のL−セリン製造方法は、反応液中のグリシンとメタノールの組成モル比が1:0.8〜1:5.5であり、好ましくは1:1〜1:5であり、特に好ましくは1:2〜1:5であることを特徴とする。組成モル比がグリシン1に対してメタノールが0.8未満のときは、セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼの活性が低くなってしまい、セリン生成量が低くなり、グリシン1に対してメタノールが5.5を越えるときは、メタノールによるセリン生成反応阻害が著しくなる。
【0029】
菌体は、培養液をそのまま、または濃縮して用いることができる。また、非破砕の菌体または菌体の破砕物のいずれも用いることもできるが、基質であるメタノールやグリジン等が、より酵素と接触しやすくなること、反応性が高くなる等の理由から、菌体の破砕物を用いることが好ましい。菌体の破砕処理方法は酵素を失活させることがなければどのような方法でも良いが、例えば、超音波破砕、浸透ショック破砕、ホモジナイザー破砕、ミル破砕、高圧破砕、凍結破砕等が挙げられる。破砕時の温度は、通常20℃以下であり、好ましくは10℃以下である。
非破砕菌体調製及び破砕処理菌体調製時の溶媒は特に限定されず、例えば水、生理食塩水、緩衝液等が使用可能であり、緩衝液が好ましい。
【0030】
反応液中、メタノール濃度は、通常0.2〜15%(w/v)、好ましくは2〜7%(w/v)であり、グリシン濃度は、通常0.1〜15%(w/v)、好ましくは2〜6%(w/v)である。
反応液中、非破砕菌体または菌体の破砕物の濃度は、通常1〜30%(v/v)、好ましくは2〜15%(v/v)である。
反応液には、さらに緩衝液等を添加することもでき、用いられる緩衝液の濃度は通常5〜500mM、好ましくは20〜200mMである。また、反応液には、セリン産生活性を抑制させるものでなければ、その他の添加物を添加することもでき、例えば、無機金属塩、ビタミン類、補酵素類等を添加することができる。
本発明では、補酵素葉酸を添加せずに、グリシンとメタノールからL−セリンを製造することもできる。
【0031】
反応は、静置、攪拌、振とうのいずれでもよいが、攪拌または振とうして行うことが好ましい。反応温度は、通常25〜40℃、好ましくは25〜35℃である。反応pHは、通常pH5〜10、好ましくはpH7〜10である。反応時間は、通常1〜7日間、好ましくは2〜5日間である。
【0032】
上記の方法で生成したL−セリンは、イオン交換樹脂法、その他の公知の方法を組み合わせることにより採取できる。
【0033】
【実施例】
以下、本発明を詳細に説明するために実施例を記載するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0034】
実施例1 土壌からの新規L−セリン生産微生物のスクリーニング
(1)1次スクリーニング(メタノール資化性)
福井県内36箇所より採取した土壌サンプルを、滅菌水にて懸濁し、上清を微生物サンプルとした。当該微生物サンプルを単一炭素源としてメタノールを含む合成培地A(表1および表2)液体培地に一白金耳加え、30℃で3日間培養を数度行って生育の確認をし、生育株を得た。
生育株は同培地組成の寒天培地で30℃3日間培養し、単菌分離を行った。
(2)2次スクリーニング(L−セリン生産性)
1次スクリーニングで得られた生育株を単一炭素源としてメタノールを含む合成培地A(表1および表2)液体培地5 mlで30℃3日間振とう培養を行った。次いで、同じ組成の培地100 mlにて30℃3日間、数度集積培養を行った。生育した菌を集菌・生理食塩水で洗菌し、再懸濁した。得られた懸濁液を超音波破砕処理し、菌体の破砕物を得た。当該菌体の破砕物を含む菌懸濁液とグリシン・メタノールを含むL−セリン生産反応液B(表3) 1 mlを30℃3日間、振とうし反応させた。得られた溶液について、HPLCにてL−セリンの濃度を測定し、L−セリン生産性を確認した。
生産性のあったサンプルを選択・単菌化し保存した。これらの中からL−セリン高生産性の微生物1株RFS−10129を選択した。この分離菌株について前記の如く更に菌学的諸性質を調べた結果、新規菌株であることが判明しメチロバクテリウム エスピー RFS−10129株と命名した。
【0035】
【表1】
Figure 2004208644
【0036】
【表2】
Figure 2004208644
【0037】
【表3】
Figure 2004208644
【0038】
実施例2(培養法)
0.8%(w/v)メタノールを含む合成培地A(表1および表2)20 mlを入れた100ml三角フラスコに同培地組成の保存寒天培地からメチロバクテリウム エスピー RFS−10129株を一白金耳植菌し、30℃で3日間、150 rpmで振とう培養(種培養)を行った。次いで、種培養と同じ培地100 mlを入れた500 ml三角フラスコに種培養から1%植菌し、30℃で2日間、150 rpmで振とう培養(本培養)を行った。
【0039】
実施例3(培養液をそのまま使用した反応法)
実施例2の本培養終了後、得られた培養液に対し最終0.3%(w/v)となるようにグリシンを注加した。メタノールは添加しないが培養液中に最終0.55%(w/v)となる量残っている。当該溶液を30℃で2日間、150 rpmで振とうし反応させ、L−セリンを製造した。菌体分離後の上清をHPLCで測定した。結果を表4に示す。
【0040】
実施例4(濃縮非破砕菌体使用時の反応法)
実施例2の本培養終了後、得られた培養液を、8000 rpmで10分間遠心分離し、沈殿を回収した(集菌)。得られた沈殿を20 mM Tris−HCl(pH8)で最終20%PCVになるように再懸濁した。当該懸濁液0.5 mlに、グリシンを最終5%(w/v)、メタノールを最終4.7%(w/v)となるように添加し、最終1 mlとして、30℃で3日間、150rpmで振とうして反応させ、L−セリンを製造した。菌体分離後の上清をHPLCで測定した。結果を表4に示す。
【0041】
実施例5(濃縮破砕処理菌体使用時の反応法)
実施例2の本培養終了後、得られた培養液を、8000 rpmで10分間遠心分離し、沈殿を回収した(集菌)。得られた沈殿を20 mM Tris−HCl(pH8)で最終20%PCVになるように再懸濁した。当該懸濁液を、0.5秒×10回照射(使用機器「POWER SONIC Model 50」(ヤマト科学(株)))を2サイクル行って超音波破砕し、菌体の破砕物を得た。当該菌体の破砕物を含む懸濁液0.5 mlに、グリシンを最終5%(w/v)、メタノールを最終2.1%(w/v)となるように添加し、最終1 mlとして、30℃で3日間、150 rpmで振とうして反応させ、L−セリンを製造した。菌体分離後の上清をHPLCで測定した。結果を表4に示す。
【0042】
実施例6〜12(濃縮破砕処理菌体使用時の反応法)
グリシンおよびメタノールを表4に示す各最終濃度となるように添加した以外は実施例5と同様にしてL−セリンを製造した。菌体分離後の上清をHPLCで測定した。結果を表4に示す。
【0043】
実施例13(濃縮破砕処理菌体使用時の反応法)
グリシンおよびメタノールを表4に示す各最終濃度となるように添加し、テトラヒドロ葉酸(THF)が1 mMとなるように反応液に添加した以外は実施例5と同様にしてL−セリンを製造した。菌体分離後の上清をHPLCで測定した。結果を表4に示す。
【0044】
実施例14(濃縮破砕処理菌体使用時の反応法)
グリシンおよびメタノールを表4に示す各最終濃度となるように添加し、ピリドキサール5’−リン酸(P−5’−P)が0.5 mMとなるように反応液に添加した以外は実施例5と同様にしてL−セリンを製造した。菌体分離後の上清をHPLCで測定した。結果を表4に示す。
【0045】
比較例1(培養液をそのまま使用した反応法)
グリシンおよびメタノールを表4に示す最終濃度となるように添加した以外は実施例3と同様にしてL−セリンを製造した。菌体分離後の上清をHPLCで測定した。結果を表4に示す。
【0046】
比較例2〜3(濃縮破砕処理菌体使用時の反応法)
グリシンおよびメタノールを表4に示す各最終濃度となるように添加した以外は実施例5と同様にしてL−セリンを製造した。菌体分離後の上清をHPLCで測定した。結果を表4に示す。
【0047】
【表4】
Figure 2004208644
【0048】
【発明の効果】
本発明によれば、効率的なL−セリン製造方法が提供でき、また、当該方法に用いることができる新規メタノール資化性菌を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】メタノールとグリシンからL−セリンを生じる反応を表した概念図である。

Claims (5)

  1. メチロバクテリウム属に属し、セリン経路を有する細菌またはその破砕物を用いて、グリシンとメタノールとのモル比が1:0.8〜1:5.5であるグリシンとメタノールからL−セリンを製造するL−セリン製造方法。
  2. 細菌の破砕物を用いる、請求項1記載の方法。
  3. 細菌がメチロバクテリウム エスピー RFS−10129株である、請求項1または2記載の方法。
  4. 細菌がメタノールを炭素源として培養した細菌である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
  5. メチロバクテリウム エスピー RFS−10129株。
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Cited By (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
CN101165172B (zh) * 2007-10-15 2010-11-10 广西大学 一种重组甲基营养杆菌及其应用
JP2015059110A (ja) * 2013-09-19 2015-03-30 ホーユー株式会社 染毛剤組成物

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