JP2004207017A - 負極材料、その製造方法及び用途 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】炭素質粉体からなる核の表面に結晶質に富んだ炭素層を形成してなり、前記結晶質炭素層は透過型電子顕微鏡における明視野像に結晶質炭素部分と非晶質炭素部分とを有し、前記結晶質炭素層のレーザーラマンスペクトルによる1580cm-1のピーク強度に対する1360cm-1のピーク強度比が0.3以下である負極材料、その製造方法、及びその負極材料を用いた二次電池。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、充放電容量が大きく、充放電サイクル特性、大電流負荷特性に優れた非水電解質二次電池用の電極材料、それを用いた電極及び非水電解質二次電池に関し、特にリチウム二次電池の負極材、それを用いた負極及びリチウム二次電池に関する。
【0002】
【従来の技術】
携帯機器の小型軽量化及び高性能化に伴い、高いエネルギー密度を有するリチウムイオン二次電池、すなわちリチウムイオン二次電池の高容量化が益々求められている。リチウムイオン二次電池に使用する負極材料としては、主にリチウムイオンを層間に挿入可能な材料である黒鉛微粉が用いられている。黒鉛は結晶性が発達しているものほど高い放電容量を示すため、天然黒鉛を頂点とする結晶性の高い材料をリチウムイオン二次電池の負極材に使用する検討がなされている。黒鉛材料を使用したときの放電容量の理論容量は372mAh/gであるが、近年では実用領域での放電容量が350〜360mAh/gという理論容量に近い材料も開発されている。
【0003】
しかし、黒鉛の結晶性が高くなるに伴い電解液の分解によると思われるクーロン効率(「1回目の放電容量/充電容量」)の低下、不可逆容量の増加が問題視されていた(非特許文献1)。そこでこの問題を解決すべく、結晶性の高い炭素材料の表面を非晶質炭素で覆うことにより、電解液の分解によると思われるクーロン効率の低下や不可逆容量の増加、サイクル特性の低下が抑えられ、結晶性の高い炭素材料を使用した負極材料が提案されている(特許文献1、特許文献2)。しかしながら、特許文献1の技術によれば、結晶性の高い炭素材料の表面にCVD法(気相法)により非晶質炭素層を形成するため、コスト面、量産性などの面で、実用上大きな問題がある。特許文献2などには、コスト面及び量産性からは有望である液相炭素化を利用した手法が記載されているが、液相の有機化合物と黒鉛粒子とを混合して焼成するのみでは、炭素化の際に黒鉛微粒子同士が融着・凝集するため粉砕する必要が生じ、粉砕により新たな結晶性の高い炭素材料の面が露出するため、クーロン効率の低下やサイクル特性の低下を招くことになる。
【0004】
【非特許文献1】
J. Electrochem. Soc., 117巻, 1970年, 222頁
【特許文献1】
特許第2643035号公報
【特許文献2】
特許第2976299号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、比較的簡単な方法で炭素材料の表面に炭素質層を形成することにより、放電容量が大きく、クーロン効率、サイクル特性に優れ、不可逆容量の小さいリチウムイオン二次電池用負極材料を得ることを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、従来技術の問題点に鑑みて上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、炭素質粉体が透過型電子顕微鏡における明視野像で高結晶性炭素部分と非結晶性炭素部分の両者を有する炭素材料を核として、表面に非結晶性炭素層を含んだ結晶性の炭素層とすることにより、放電容量が大きく、クーロン効率、サイクル特性に優れ、不可逆容量の小さいリチウムイオン二次電池用負極材料が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち本発明は、
1.炭素質粉体からなる核の表面に炭素層を形成してなり、前記炭素層は透過型電子顕微鏡における明視野像に結晶質炭素部分と非晶質炭素部分とを有し、前記炭素層のレーザーラマンスペクトルによる1580cm-1のピーク強度に対する1360cm-1のピーク強度比が0.3以下であることを特徴とする負極材料。
2.炭素質粉体からなる核の透過型電子顕微鏡における明視野像から算出される結晶質炭素部分と非晶質炭素部分の比率が、面積比で95〜50:5〜50である前項1に記載の負極材料。
3.表面の炭素層の透過型電子顕微鏡における明視野像で算出される結晶質炭素部分と非晶質炭素部分の比率が、面積比で99〜60:1〜40である前項1記載の負極材料。
【0008】
4.表面の炭素層のc軸方向の結晶子サイズLc1と、核の炭素質粉体のc軸方向の結晶子サイズLc2が式(1)
【数3】
Lc1<Lc2 (1)
の関係を充たす前項1記載の負極材料。
5.表面の炭素層のa軸方向の結晶子サイズLa1と、核の炭素質粉末のa軸方向の結晶子サイズLa2が式(2)
【数4】
La1<La2 (2)
の関係を充たす前項1記載の負極材料。
6.表面の炭素層の透過型電子顕微鏡における明視野像において、結晶質炭素部分に非結晶炭素部分がランダムに分散して存在している前項1乃至5のいずれかひとつに記載の負極材料。
7.表面の炭素層が、乾性油またはその脂肪酸及びフェノール樹脂を含む組成物を水の存在下で核の炭素質粉体に付着させたものを非酸化性雰囲気下で2500℃以上の温度で熱処理することにより得られるものである前項1記載の負極材料。
【0009】
8.表面の炭素層が、乾性油またはその脂肪酸及びフェノール樹脂を含む組成物を水の存在下で核の炭素質粉体に付着させたもの及び気相法炭素繊維の混合物を非酸化性雰囲気下で2500℃以上の温度で熱処理することにより得られるものである前項1記載の負極材料。
9.炭素質粉体からなる核のフロー式粒子像解析装置によって測定される平均円形度が0.85〜0.99である前項1乃至8のいずれかひとつに記載の負極材料。
10.核の炭素質粉体粒子のフロー式粒子像解析装置によって測定される円形度の値が、0.90未満の粒子の含有率が2〜20個数%の範囲にある前項9に記載の負極材料。
11.気相法炭素繊維の含有量が、0.01〜20質量%の範囲である前項8に記載の負極材料。
12.気相法炭素繊維が、内部に中空構造を有し、外径2〜1000nm、アスペクト比10〜15000の繊維である前項8に記載の負極材料。
【0010】
13.気相法炭素繊維が、分岐状繊維である前項11または12に記載の負極材料。
14.気相法炭素繊維が、X線回折法による(002)面の平均面間隔d002が0.344nm以下の炭素からなる前項11乃至13のいずれかひとつに記載の負極材料。
15.炭素質粉体からなる核の表面の高結晶性の炭素質材料が、フェノール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、フラン樹脂、セルロース樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含む重合体を含む組成物を焼成して得られるものである前項1乃至14のいずれかひとつに記載の負極材料。
【0011】
16.重合体を含む組成物を水の存在下で核となる炭素質粉体の表面の少なくとも一部に付着させる工程、前記炭素質粉体に気相法炭素繊維を混合する工程、次いで重合体を含む組成物が付着した該炭素質粉体を非酸化性雰囲気で熱処理する工程を含むことを特徴とする負極材料の製造方法。
17.熱処理する工程が、2500℃以上の温度で行う焼成工程である前項16に記載の負極材料の製造方法。
18.前項1乃至15のいずれかひとつに記載の負極材料とバインダーを含む電極ペースト。
19.前項18に記載の電極ペーストの成形体からなる電極。
20.前項19に記載の電極を構成要素として含む二次電池。
21.非水電解液及び電解質を用い、前記非水電解液がエチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート及びプロピレンカーボネートからなる群から選ばれる少なくとも1種である前項20に記載の二次電池。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
[炭素質粉体]
本発明において母材である核として使用するリチウムイオンの挿入可能な炭素質粉体は、透過型電子顕微鏡における明視野像で結晶質炭素部分と非晶質炭素部分の両者を有するものを使用する。透過型電子顕微鏡の技術は古くから炭素材料の構造解析に使用されてきた。なかでも結晶面を格子像として特に六角網面を002格子像として観察できる高分解能技術によって約40万倍以上に拡大することにより炭素の積層構造を直接観察できる。そのため炭素のキャラクタリゼーションの有力な手法として、結晶質炭素部分と非晶質炭素部分を透過型電子顕微鏡により解析することができる。
【0014】
具体的には、明視野画像の中の判別すべき領域について、制限視野電子回折(SAD)を実施し、そのパターンから判別を行う。詳細は、「最新の炭素材料実験技術(分析・解析編)」,炭素材料学会編(サイペック(株)),18-26頁,44-50頁、稲垣道夫他,「改訂 炭素材料入門」,炭素材料学会編,29-40頁に記載されている。
【0015】
結晶質の領域とは、例えば易黒鉛化炭素の2800℃処理における回折パターンの特徴を示すものを指し、非晶質とは、例えば難黒鉛化炭素の1200〜2800℃処理における回折パターンの特徴示すものを指す。
【0016】
核となる炭素質粉体は、透過型電子顕微鏡における明視野像で結晶質炭素部分と非晶質炭素部分の比率が面積比で95〜50:5〜50の範囲のものが好ましい。より好ましくは、90〜50:10〜50の範囲である。核となる炭素質粉体の結晶質炭素部分と非晶質炭素部分の比率が50:50より小さいと、負極材として高い放電容量が得られない。また、結晶質炭素部分と非晶質炭素部分の比率が95:5より大きいと、結晶質の炭素部分が多いため表面を完全に炭素層で覆い尽くさないとクーロン効率、サイクル特性が低下する。
【0017】
核となる炭素質粉体の粒子の形状は、塊状、鱗片状、球状、繊維状等の形状を有するものでよく、好ましくは球状、塊状がよい。
この核となる炭素質粉体はフロー式粒子像解析装置によって測定される平均円形度が0.85〜0.99であることが好ましい。平均円形度が0.85より小さいと電極成形時の充填密度が上がらないため体積当たりの放電容量が低下する。また、平均円形度が0.99より大きい場合は、微粉部分は円形度が低いため微粉部分がほとんど含まれないことになり、電極成形時の放電容量が上がらない。更に該円形度の値は、0.90未満の粒子の含有率が2〜20個数%の範囲に制御されていることが好ましい。平均円形度は、例えば、メカノフージョン(表面融合)処理のような粒子形状制御装置を使用して調整することができる。
【0018】
母材(核)である炭素質粉体の粒子の粒度分布は、フロー式粒子像解析装置による体積基準の粒度分布により中心粒径D50が1〜80μm程度であることが好ましい、より好ましくは5〜40μmであり、さらに好ましくは10〜30μmである。また、1μm以下及び/または80μm以上の粒子を実質的に含まない粒度分布がよい。これは粒度が大きいと充放電反応によって微粒子化が生じ、サイクル特性が低下するからである。また、粒度が小さいとリチウムイオンと電気化学的な反応に効率よく関与できない粒子となり、容量、サイクル特性が低下する。
【0019】
粒度分布を調整するためには公知の粉砕方法、分級方法を利用することができる。粉砕装置としては、具体的にはハンマーミル、ジョークラッシャー、衝突式粉砕器等が挙げられる。また、分級方法としては、気流分級、篩による分級が可能である。気流分級装置としては例えばターボクライファイヤー、ターボプレックス等が挙げられる。
【0020】
[表面炭素層]
母材(核)の表面を被覆する炭素層としては、乾性油またはその脂肪酸を混合したフェノール樹脂を用いて焼成することにより得られる緻密な炭素質材料が適している。これは、フェノール樹脂と乾性油中の不飽和脂結合の部分が化学反応を起こして、いわゆる乾性油変性フェノール樹脂となるが、これが熱処理(または焼成)過程において分解を和らげ、発泡を防ぐことによると推測される。また、乾性油は単に二重結合があると言うだけではなく、かなり長いアルキル基とエステル結合を有しており、これらも焼成過程におけるガスの抜け易さ等の面で関与していることが考えられる。
【0021】
フェノール類とアルデヒド類との反応によりつくられるフェノール樹脂としては、ノボラック、レゾール等の未変性フェノール樹脂や一部変性されたフェノール樹脂が使用できる。また、必要に応じてニトリルゴム等のゴムをフェノール樹脂に混合して使用できる。原料フェノール類としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、C20以下のアルキル基を有するアルキルフェノール等が挙げられる。
【0022】
本発明の乾性油またはその脂肪酸を混合したフェノール樹脂には、先にフェノール類と乾性油とを強酸触媒存在下に付加反応させ、その後に塩基性触媒を加えて系を塩基性とし、ホルマリンを付加反応させたもの、またはフェノール類とホルマリンを反応させ、その後に乾性油を加えたものでよい。
【0023】
乾性油は薄膜にして空気中に放置すると比較的短時間に固化乾燥する性質を有する植物油であり、通常知られている桐油、アマニ油、脱水ヒマシ油、大豆油、カシューナッツ油等であり、これらはその脂肪酸でもよい。
【0024】
フェノール樹脂に対する乾性油またはその脂肪酸の割合は、例えば、フェノールとホルマリンのと縮合物100質量部に対し、乾性油またはその脂肪酸5〜50質量部が適する。50質量部より多くなると、核となる炭素質粉体及び繊維状炭素に対する接着性が下がる。
【0025】
この重合体を水、アセトン、エタノール、トルエン等で希釈して粘度を調整した溶液とし、水の存在下で付着させることが好ましい。
付着時の雰囲気としては、大気圧下、加圧下、減圧下のいずれであっても良いが、炭素質粉体と重合体の親和性が向上することから減圧下で付着させる方法が好ましい。
【0026】
本発明の表面炭素層を形成するための重合体は、核となる炭素質粉体及び繊維状炭素に接着性を有する重合体であることが好ましい。接着性を有する重合体とは、炭素質粉体及び繊維状炭素を離れないように接触させた状態に着けるためにその両物体の間に介在することで共有結合、ファンデルワールス力、水素結合等の化学接着、アンカー効果などの物理的吸着を含めて両物体を一体化した状態にするものである。混合、撹拌、溶媒除去、熱処理等の処理において、実質的に剥離が起きない程度に圧縮、曲げ、剥離、衝撃、引っ張り、引き裂き等の力に対して抵抗力を示すものであれば重合体として適用できる。例えば、重合体としては、フェノール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、フラン樹脂、セルロース樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも1種がよい。好ましくは、フェノール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂である。
【0027】
本発明における表面炭素層は、炭素表面層の状態を示すレーザーラマンスペクトルにおける、1580cm-1のピーク強度に対する1360cm-1のピーク強度比が0.3以下である結晶質に富んだ炭素層である。該ピーク強度比が0.3以上であると、表面炭素層の結晶性が充分でなく被覆炭素材料の放電容量、クーロン効率が低くなり好ましくない。
【0028】
本発明における表面炭素の被覆層の厚さは1〜30000nm、好ましくは1000〜10000nmである。被覆層の厚さが1nmより小さいと核となる炭素質粉体を均一に被覆することができずクーロン効率、サイクル特性が低下する。被覆層の厚さが30000nmより大きいと、リチウムイオン二次電池用の負極材として要求されている電極膜厚が70〜100μmであるため、核となる炭素質粉体の好ましい粒子径が0.1〜80μmであることを考慮すると被覆後の粒子径が大きくなり過ぎて好ましくない。
【0029】
黒鉛結晶のa軸方向の結晶子の大きさLa、及びc軸方向の結晶子の厚さLcは、既知の方法により粉末X線回折(XRD)法を用いて測定することができる(野田稲吉、稲垣道夫,日本学術振興会,第117委員会試料,117-71-A-1(1963)、稲垣道夫他,日本学術振興会,第117委員会試料,117-121-C-5(1972)、稲垣道夫,「炭素」,1963,No.36,25-34頁参照。)。
ただし、本発明のように核となる炭素粒子の表面に数nmから数μm程度の炭素層をコーティングし、その局所的な構造の結晶パラメータを算出することは上記の方法では難しい場合がある。その場合には、透過型電子顕微鏡(TEM)像を用いて、その画像から算出することもできる。なお、XRDによる算出値とTEMによる算出値はほぼ近い値になることが知られている(稲垣道夫他,「改訂炭素材料入門」,炭素材料学会編,33頁参照。)。
【0030】
一般に黒鉛化した難黒鉛化性カーボンのLaは70〜80Å以下、Lcは30〜40Å以下である。本発明における炭素材料は結晶性の比較的良いカーボンとアモルファスの部分が局在化した非均一な組織からなるところに特徴があり、結晶性の良い組織は一般的な黒鉛化難黒鉛化性カーボンのLa、Lcより大きいことが好ましい。具体的には、Laは100Å以上、Lcは50Å以上である。
【0031】
本発明における表面炭素層のLc1と核の炭素質粉体のLc2は、式(1)
【数5】
Lc1<Lc2 (1)
の関係であることが好ましく、また、本発明における表面炭素層のLa1と核の炭素粉体のLa2は、式(2)
【数6】
La1<La2 (2)
の関係であることが好ましい。Lc1≧Lc2またはLa1≧La2では、放電容量が低くなり好ましくない。
【0032】
[混合方法]
本発明においては、核となる炭素質粉体に重合体が付着した炭素質粉と、気相法炭素繊維を含む混合物を含有する粒子を混合し、撹拌処理させることで気相法炭素繊維を分散させることができる。撹拌方法は特に限定されないが、例えば、リボンミキサー、スクリュー型ニーダー、スパルタンリューザー、レディゲミキサー、プラネタリーミキサー、万能ミキサー等の装置を使用することができる。
【0033】
撹拌処理時の温度及び時間は、粒子に炭素質材料を被覆させる場合には、粒子及び重合体の成分及び粘度等に応じて適宜選択されるが、通常0℃〜50℃程度、好ましくは10℃〜30℃程度の範囲とする。
あるいは混合物の粘度が混合温度下で500Pa・s以下になるように混合時間及び組成物の溶媒希釈を行う。この場合溶媒としては重合体または繊維状炭素との親和性が良好なものであれば使用できるが、水、アルコール類、ケトン類、芳香族炭化水素、エステル類等が挙げられる。好ましくは水、メタノール、エタノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、トルエン、酢酸エチル、酢酸ブチル等がよい。
【0034】
撹拌後、溶剤の一部もしくは全部を除去することが好ましい。除去方法は、熱風乾燥、真空乾燥等公知の方法が使用できる。
また、乾燥温度は使用した溶媒の沸点、蒸気圧等によるが、具体的には50℃以上、好ましくは100℃以上1000℃以下、さらに好ましくは150℃以上500℃以下である。
【0035】
加熱硬化には公知の加熱装置のほとんどが使用できる。しかし、製造プロセスとしては連続処理が可能なロータリーキルンやベルト式連続炉などが生産性の点で好ましい。
例えば、フェノール樹脂添加量は、好ましくは2質量%〜30質量%、さらに好ましくは4質量%〜25質量%、さらに好ましくは6質量%〜18質量%である。
【0036】
[熱処理条件]
リチウムイオン等の挿入による充放電容量を高める為には炭素材料の結晶性を向上させることが必要である。炭素の結晶性は一般的に最高熱履歴と共に向上するため、電池性能を向上させるためには熱処理温度は高い方が好ましい。2500℃以上の熱処理温度が良いが、好ましくは2800℃以上、さらに好ましくは3000℃以上である。
【0037】
核となる炭素質粉体が一度熱処理を実施した人造黒鉛や天然黒鉛などすでに炭素の結晶性が発達した母材である場合については、中心部までに最高温度が到達していなくてもよい。但し、その場合にも表面炭素層の結晶性を発達させるためある程度の熱処理は必要である。好ましくは2500℃以上の熱処理温度が良いが、好ましくは2800℃以上、さらに好ましくは3000℃以上である。熱処理温度が2500℃より低い場合には、表面炭素層の結晶性が十分に発達しないため、放電容量が低くなりクーロン効率も低下する。
【0038】
熱処理のための昇温速度については、公知の装置における最速昇温速度及び最低昇温速度の範囲内では特に性能に大きく影響しない。しかし、粉体であるため、成形材等のようにひび割れの問題などが殆どないため、コスト的な観点からも昇温速度は早いほうがよい。常温から最高到達温度までの到達時間は好ましくは12時間以下、さらに好ましくは6時間以下、特に好ましくは2時間以下である。
【0039】
焼成のための熱処理装置は、アチソン炉、直接通電加熱炉など公知の装置が利用できる。また、これらの装置はコスト的にも有利である。しかし、窒素ガスの存在が粉体の抵抗を低下させたり、酸素による酸化によって炭素質材料の強度が低下することがあるため、好ましくは炉内雰囲気をアルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスに保持できるような構造の炉が好ましい。例えば容器自体を真空引き後ガス置換可能なバッチ炉や、管状炉で炉内雰囲気をコントロール可能なバッチ炉あるいは連続炉などである。
【0040】
[気相法炭素繊維]
本発明に使用する気相法炭素繊維は導電性に優れている必要があるので、結晶化度の高いものが望ましい。また、当該炭素材料を電極化し、リチウムイオン二次電池に組み込んだ場合、負極全体に素早く電流を流すことが必要であるので、気相法炭素繊維繊維の結晶成長方向は繊維軸に平行であり、繊維が枝分かれ(分岐状)をしていることが好ましい。また、分岐状繊維であれば炭素粒子間が繊維によって電気的に接合し易くなり、導電性が向上する。
【0041】
本発明の目的を達成するためには、繊維軸方向に結晶が成長し、繊維が枝分かれをしている気相成長炭素繊維が適している。気相成長炭素繊維は、例えば、高温雰囲気下に、触媒となる鉄と共にガス化された有機化合物を吹き込むことで製造することができる。
【0042】
気相成長炭素繊維は、製造した状態のままのもの、例えば800〜1500℃で熱処理したもの、例えば2000〜3000℃で黒鉛化処理したもののいずれも使用可能であるが、製造した状態のままのもの、あるいは1500℃程度で熱処理されたものがより好適である。
【0043】
また、本発明の気相成長炭素繊維の好ましい形態として、分岐状繊維があるが、分岐部分はその部分を含めて繊維全体が互いに連通した中空構造を有している箇所があってもよい。そのため繊維の円筒部分を構成している炭素層が連続している。中空構造とは炭素層が円筒状に巻いている構造であって、完全な円筒でないもの、部分的な切断箇所を有するもの、積層した2層の炭素層が1層に結合したものなどを含む。また、円筒の断面は完全な円に限らず楕円や多角化のものを含む。なお、炭素層の結晶性について炭素層の面間隔d002は限定されない。因みに、好ましいものはX線回折法によるd002が0.344nm以下、好ましくは、0.339nm以下、より好ましくは0.338nm以下であって、結晶のC軸方向の厚さLcが40nm以下のものである。
【0044】
本発明で使用する気相成長炭素繊維は、繊維外径2〜1000nm、アスペクト比10〜15000の炭素繊維であって、好ましくは繊維外径10〜500nm、繊維長1〜100μm(アスペクト比2〜2000)、あるいは繊維外径2〜50nmであって繊維長0.5〜50μm(アスペクト比10〜25000)のものである。
【0045】
気相炭素繊維製造後、2000℃以上の熱処理を行うことでさらに結晶化度を上げ、導電性を増すことができる。また、この場合においても、黒鉛化度を促進させる働きのあるホウ素などを熱処理前に添加しておくことが有効である。
【0046】
負極における気相法炭素繊維の含有量は、0.01〜20質量%の範囲がよく、好ましくは0.1〜15質量%、より好ましくは0.5〜10質量%である。含有量が20質量%を超えると電気容量が小さくなり、0.01質量%未満では低温(例えば、−35℃)における内部抵抗の値が大きくなってしまう。
【0047】
気相法炭素繊維は、繊維表面の凹凸、乱れがあるものが多いが、核となる炭素質粉体粒子との密着性が向上し、充放電を繰り返しても負極活物質と導電性補助剤としての役割も兼ねている気相法炭素繊維が解離せず密着している状態を保つことができ、電子伝導性が保持できサイクル特性が向上する。
また、気相法炭素繊維が分岐状繊維を多く含む場合は、効率よくネットワークを形成することができ、高い電子伝導性や熱伝導性を得やすい。また、活物質を包むように分散することができ、負極の強度を高め、粒子間の接触も良好に保てる。
また、粒子間に気相法炭素繊維が入ることで、電解液の保液性が大きくなり、低温環境時でもスムーズにリチウムイオンのドープ・脱ドープが行われる。
【0048】
[被覆炭素材料]
本発明における表面に結晶質に富んだ炭素層を被覆した炭素質粉体は、フロー式粒子像解析装置によって測定される平均円形度(算出方法は後述の実施例の項参照)が0.85〜0.99であることが好ましい。平均円形度が0.85より小さいと電極成形時の充填密度が上がらないため体積当たりの放電容量が低下する。また、平均円形度が0.99より大きい場合は、微粉部分は円形度が低いため微粉部分がほとんど含まれないことになり、電極成形時の放電容量が上がらない。更に該円形度の値が0.90未満の粒子の含有率が2〜20個数%の範囲に制御されていることが好ましい。
【0049】
表面に結晶質に富んだ炭素層を被覆した炭素質粉体の粒度は、フロー式粒子像解析装置による体積基準の粒度分布により中心粒径D50が1〜80μm程度であることが好ましい。より好ましくは5〜40μmであり、さらに好ましくは10〜30μmである。
【0050】
平均粒径が1μmより小さいとアスペクト比が大きくなりやすく、比表面積が大きくなりやすい。また、例えば、電池の電極を作製する場合、一般に負極材料をバインダーによりペーストとし、それを塗布する方法が採られている。負極材料の平均粒径が1μm未満の場合だと、1μmより小さい微粉がかなり含まれていることになり、ペーストの粘度が上がり塗布性も悪くなる。
【0051】
さらに、平均粒径80μm以上のような大きな粒子が混入していると電極表面に凹凸が多くなり、電池に使用されるセパレータを傷つける原因ともなる。例えば、1μm以下の粒子及び80μm以上の粒子を実質的に含まないものが好適に使用できる。
【0052】
[二次電池の作製]
本発明の炭素材料を用いて公知の方法によりリチウム二次電池を作製することができる。
リチウム電池の電極では炭素材料の比表面積は小さい方がよい。本発明の炭素材料の比表面積(BET法)は3m2/g以下である。比表面積が3m2/gを超えると粒子の表面活性が高くなり、電解液の分解等によって、クーロン効率が低下する。さらに、電池の容量を高めるためには粒子の充填密度を上げることが重要である。そのためにもできるだけ球状に近いものが好ましい。この粒子の形状をアスペクト比(長軸の長さ/短軸の長さ)で表すとアスペクト比は6以下、好ましくは5以下である。アスペクト比は顕微鏡写真等から求めることができるが、レーザー回折散乱法で算出した平均粒子径Aと電気的検知法(コールタ・カウンタ法)により算出した平均粒子径Bから粒子を円板と仮定し、この円板の底面直径をA、体積を4/3×(B/2)3π=Cとした場合、円板の厚みT=C/(A/2)2πで算出できる。従って、アスペクト比はA/Tとして得られる。
リチウム電池の電極では炭素材料の充填性がよい、嵩密度が高い方が単位体積当たりの放電容量は高くなる。
【0053】
電極は、通常のように結合材(バインダー)を溶媒で希釈して負極材料と混練し、集電体(基材)に塗布することで作製できる。
バインダーについては、ポリフッ化ビニリデンやポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系ポリマーや、SBR(スチレンブタジエンラバー)等のゴム系等公知のものが使用できる。溶媒には、各々のバインダーに適した公知のもの、例えばフッ素系ポリマーならトルエン、N−メチルピロリドン等、SBRなら水等、公知のものが使用できる。
【0054】
バインダーの使用量は、負極材料を100質量部とした場合、1〜30質量部が適当であるが、特に3〜20質量部程度が好ましい。
負極材料とバインダーとの混錬には、リボンミキサー、スクリュー型ニーダー、スパルタンリューザー、レディゲミキサー、プラネタリーミキサー、万能ミキサー等公知の装置が使用できる。
【0055】
混錬後の集電体への塗布は、公知の方法により実施できるが、例えばドクターブレードやバーコーターなどで塗布後、ロールプレス等で成形する方法等が挙げられる。
集電体としては、銅、アルミニウム、ステンレス、ニッケル及びそれらの合金など公知の材料が使用できる。
セパレーターは公知のものが使用できるが、特にポリエチレンやポリプロピレン性の不織布が好ましい。
【0056】
本発明におけるリチウム二次電池における電解液及び電解質は公知の有機電解液、無機固体電解質、高分子固体電解質が使用できる。好ましくは、電気伝導性の観点から有機電解液が好ましい。
【0057】
有機電解液としては、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル等のエーテル;ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−エチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルプロピオンアミド、ヘキサメチルホスホリルアミド等のアミド;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄化合物;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のジアルキルケトン;エチレンオキシド、プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン、2−メトキシテトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジオキソラン等の環状エーテル;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート;γ−ブチロラクトン;N−メチルピロリドン;アセトニトリル、ニトロメタン等の有機溶媒の溶液が好ましい。さらに、好ましくはエチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、γ−ブチロラクトン等のエステル類、ジオキソラン、ジエチルエーテル、ジエトキシエタン等のエーテル類、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、テトラヒドロフラン等が挙げられ、特に好ましくはエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系非水溶媒を用いることができる。これらの溶媒は、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0058】
これらの溶媒の溶質(電解質)には、リチウム塩が使用される。一般的に知られているリチウム塩にはLiClO4、LiBF4、LiPF6、LiAlCl4、LiSbF6、LiSCN、LiCl、LiCF3SO3、LiCF3CO2、LiN(CF3SO2)2等がある。
【0059】
高分子固体電解質としては、ポリエチレンオキサイド誘導体及び該誘導体を含む重合体、ポリプロピレンオキサイド誘導体及び該誘導体を含む重合体、リン酸エステル重合体、ポリカーボネート誘導体及び該誘導体を含む重合体等が挙げられる。
【0060】
本発明における負極材料を使用したリチウム二次電池において、用いられる正極材料はリチウム含有遷移金属酸化物である。好ましくは、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素とリチウムとを主として含有する酸化物であって、リチウムと遷移金属のモル比が0.3乃至2.2の化合物である。より好ましくは、V、Cr、Mn、Fe、Co及びNiから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素とリチウムとを主として含有する酸化物であって、リチウムと遷移金属のモル比が0.3乃至2.2の化合物である。なお、主として存在する遷移金属に対し30モルパーセント未満の範囲でAl、Ga、In、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Si、P、Bなどを含有していても良い。上記の正極活物質の中で、一般式LixMO2(MはCo、Ni、Fe、Mnの少なくとも1種、x=0〜1.2。)、またはLiyN2O4(Nは少なくともMnを含む。y=0〜2。)で表されるスピネル構造を有する材料の少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0061】
さらに、正極活物質はLiyMaD1-aO2(MはCo、Ni、Fe、Mnの少なくとも1種、DはCo、Ni、Fe、Mn、Al、Zn、Cu、Mo、Ag、W、Ga、In、Sn、Pb、Sb、Sr、B、Pの中のM以外の少なくとも1種、y=0〜1.2、a=0.5〜1。)を含む材料、またはLiz(NbE1-b)2O4(NはMn、EはCo、Ni、Fe、Mn、Al、Zn、Cu、Mo、Ag、W、Ga、In、Sn、Pb、Sb、Sr、B、Pの少なくとも1種、b=1〜0.2z=0〜2。)で表されるスピネル構造を有する材料の少なくとも1種を用いることが特に好ましい。
【0062】
具体的には、LixCoO2、LixNiO2、LixMnO2、LixCoaNi1-aO2、LixCobV1-bOz、LixCobFe1-bO2、LixMn2O4、LixMncCo2-cO4、LixMncNi2-cO4、LixMncV2-cO4、LixMncFe2-cO4(ここでx=0.02〜1.2、a=0.1〜0.9、b=0.8〜0.98、c=1.6〜1.96、z=2.01〜2.3。)が挙げられる。最も好ましいリチウム含有遷移金属酸化物としては、LixCoO2、LixNiO2、LixMnO2、LixCoaNi1-aO2、LixMn2O4、LixCobV1-bOz(x=0.02〜1.2、a=0.1〜0.9、b=0.9〜0.98、z=2.01〜2.3。)が挙げられる。なお、xの値は充放電開始前の値であり、充放電により増減する。
【0063】
正極活物質の平均粒子サイズは特に限定されないが、0.1〜50μmが好ましい。0.5〜30μmの粒子の体積が95%以上であることが好ましい。粒径3μm以下の粒子群の占める体積が全体積の18%以下であり、かつ15μm以上25μm以下の粒子群の占める体積が、全体積の18%以下であることが更に好ましい。比表面積は特に限定されないが、BET法で0.01〜50m2/gが好ましく、特に0.2m2/g〜1m2/gが好ましい。また正極活物質5gを蒸留水100mlに溶かした時の上澄み液のpHとしては7以上12以下が好ましい。
【0064】
上記以外の電池構成上必要な部材の選択についてはなんら制約を受けるものではない。
【0065】
【実施例】
以下に本発明について代表的な例を示し、さらに具体的に説明する。なお、これらは説明のための単なる例示であって、本発明はこれらに何等制限されるものではない。
【0066】
付着用フェノール樹脂作成方法:
付着材には桐油で一部変性したフェノール樹脂(ワニス)を用いた。桐油100質量部とフェノール150質量部、ノニルフェノール150質量部を混合して50℃に保持する。これに0.5質量部の硫酸を加えて撹拌し、徐々に昇温して120℃で1時間保持し、桐油とフェノール類との付加反応を行った。その後温度を60℃以下に下げ、ヘキサメチレンテトラミンを6質量部と37質量%ホルマリン100質量部を加え、90℃で約2時間反応し、その後真空脱水した後、メタノール100質量部、アセトン100質量部を加えて希釈し、粘度20mPa・s(20℃)のワニスを得た。以下、本ワニスをワニスAという。
【0067】
平均円形度、体積基準の粒子径の測定方法:
本発明における炭素材料の平均円形度、体積基準の粒子径は、フロー式粒子像分析装置FPIA−2100(シスメックス社製)を用いて以下のように測定した。
測定用試料は106μmのフィルターを通して微細なゴミを取り除いて精製した。試料0.1gを20mlのイオン交換水中に添加し、陰・非イオン界面活性剤0.1〜0.5質量%加えることによって均一に分散させて調整した。分散方法としては、超音波洗浄機UT−105S(シャープマニファクチャリングシステム社製)を用い、5分間処理し測定用試料分散液を調整した。
測定原理等の概略は、「粉体と工業」, VOL.32, No.2, 2000、特開平8-136439号公報などに記載されているが、以下の通りである。
測定試料の分散液がフラットで透明なフローセル(厚み約200μm)の流路を通過したときにストロボ光が1/30秒間隔で照射されCCDカメラで撮像される。1/30秒毎の静止画像は常に一定容積になることから、その静止画像を一定枚数撮像し画像解析することにより、単位体積当たりの粒子数を大きさ別に定量的に算出することができ体積基準の粒度分布を測定することができる。
また、円形度は下記式によって算出される。
【数7】
円形度=(円相当径から求めた円の周囲長)/(粒子投影像の周囲長)
円相当径とは実際に撮像された粒子の周囲長さと同じ投影面積を持つ真円の直径であり、この円相当径から求めた円の周囲長を実際に撮像された粒子の周囲長で割った値である。例えば真円で1、形状が複雑になるほど小さい値となる。
平均円形度は、測定された粒子個々に円形度の平均値である。
【0068】
電池評価方法:
(1)ペースト作成
負極材料1質量部に呉羽化学製KFポリマーL1320(ポリビニリデンフルオライド(PVDF)を12質量%含有したN−メチルピロリドン(NMP)溶液品)0.1質量部を加え、プラネタリーミキサーにて混練し主剤原液とした。
【0069】
(2)電極作製
主剤原液にNMPを加え、粘度を調整した後、高純度銅箔上でドクターブレードを用いて250μm厚に塗布した。これを120℃、1時間真空乾燥し、18mmφに打ち抜いた。さらに、打ち抜いた電極を超鋼製プレス板で挟み、プレス圧が電極に対して1×103〜3×103kg/cm2となるようにプレスした。その後、真空乾燥器で120℃、12時間乾燥後し、評価用電極とした。
【0070】
(3)電池作成
下記のようにして3極セルを作製した。なお以下の操作は露点−80℃以下の乾燥アルゴン雰囲気下で実施した。
ポリプロピレン製のねじ込み式フタ付きのセル(内径約18mm)内において、上記(2)で作製の銅箔付き炭素電極(正極)と金属リチウム箔(負極)をセパレーター(ポリプロピレン製マイクロポ−ラスフィルム(セルガ−ド2400))で挟み込んで積層した。さらにリファレンス用の金属リチウムを同様に積層した。これに電解液を加えて試験用セルとした。
【0071】
(4)電解液
(i)EC系:EC(エチレンカーボネート)8質量部及びDEC(ジエチルカーボネート)12質量部の混合品で、電解質としてLiPF6を1モル/リットル溶解した。
【0072】
(5)充放電サイクル試験
電流密度0.2mA/cm2(0.1C相当)で定電流低電圧充放電試験を行った。
充電(炭素へのリチウムの挿入)はレストポテンシャルから0.002Vまで0.2mA/cm2でCC(コンスタントカレント:定電流)充電を行った。次に0.002VでCV(コンスタントボルト:定電圧)充電に切り替え、電流値が25.4μAに低下した時点で停止させた。
放電(炭素からの放出)は0.2mA/cm2(0.1C相当)でCC放電を行い、電圧1.5Vでカットオフした。
【0073】
実施例1:
核となる炭素材料として、体積基準の平均粒径(D50)20μm、平均円形度0.88に調整し、透過型電子顕微鏡における明視野像で結晶質炭素部分と非晶質炭素部分の面積の比率が80:20である炭素質粉体(100g)を使用し、これにワニスAの樹脂固形分換算で5.5質量部に水5.0質量部を加えて撹拌し、十分に溶解させた溶液を変成フェノール樹脂固形分が炭素質粉体に対して10質量%となるように加え、プラネタリーミキサーにて30分間混練した。この混合物を真空乾燥機にて80℃で2時間乾燥した。次にこの混合物を加熱炉にて、この内部を真空置換してアルゴン雰囲気下とした後、アルゴンガスを流しつつ昇温した。2900℃で10分間保持してその後冷却した。室温まで冷却後、得られた熱処理品を目開き63μmの篩により篩分けし、篩下を負極材料サンプルとした。このようにして実施例1の負極材料を得た。この材料の透過型電子顕微鏡写真(×25,000)を図1に示す。この材料の表面の炭素層のレザーラマンスペクトルによる1580cm-1のピーク強度に対する1360cm-1のピーク強度比は、1580cm-1ピーク強度/1360cm-1ピーク強度=0.24であった。
この試料を電池評価電解液としてEC系を使用した単セル式の電池評価装置にかけた。
充放電サイクル試験1サイクル目の容量・クーロン効率、50サイクル目の容量を調べた。結果を表1に示す。
【0074】
実施例2:
実施例1の混合物に2800℃で黒鉛化した気相法炭素繊維(繊維径150nm、アスペクト比100)を1質量%加えて撹拌、混合した以外は、実施例1と同様の方法で得た。これら試料を実施例1の試料と同様に電池評価電解液としてEC系を使用した単セル式の電池評価装置にかけた。充放電サイクル試験1サイクル目の容量・クーロン効率、50サイクル目の容量を調べた。結果を表1に示す。
【0075】
実施例3:
気相法炭素繊維の添加量を10質量%とした以外は、実施例2と同様の方法で得た。これら試料を実施例2の試料と同様に電池評価電解液としてEC系を使用した単セル式の電池評価装置にかけた。充放電サイクル試験1サイクル目の容量・クーロン効率、50サイクル目の容量を調べた。結果を表1に示す。
【0076】
実施例4:
核となる炭素材料として、体積基準の平均粒径(D50)25μm、平均円形度0.93に調整し、透過型電子顕微鏡における明視野像で結晶質炭素部分と非晶質炭素部分の比率が50:50である炭素質粉体を使用した以外は、実施例1と同様の方法で得た。これら試料を実施例1の試料と同様に電池評価電解液としてEC系を使用した単セル式の電池評価装置にかけた。充放電サイクル試験1サイクル目の容量・クーロン効率、50サイクル目の容量を調べた。結果を表1に示す。
【0077】
比較例1:
核となる炭素材料として、体積基準の平均粒径(D50)23μm、平均円形度0.93であり、透過型電子顕微鏡における明視野像で結晶質炭素部分と非晶質炭素部分の面積の比率が97:3であるメソカーボンマイクロビーズ黒鉛化品(大阪ガス製)を使用した以外は、実施例1と同様の方法で得た。これら試料を実施例1の試料と同様に電池評価電解液としてEC系を使用した単セル式の電池評価装置にかけた。充放電サイクル試験1サイクル目の容量・クーロン効率、50サイクル目の容量を調べた。結果を表1に示す。
【0078】
比較例2:
実施例1の核となる炭素質粉体(体積基準の平均粒径(D50)20μm、平均円形度0.88に調整し、透過型電子顕微鏡における明視野像で高結晶性炭素部分と非晶質炭素部分の比率が80:20)を表面炭素層をつけずに使用した。この材料の透過型電子顕微鏡写真(×25,000)を図2に示す。この材料の表面の炭素層のレザーラマンスペクトルによる1580cm-1のピーク強度に対する1360cm-1のピーク強度比は、1580cm-1ピーク強度/1360cm-1ピーク強度=0.39であった。
これら試料を実施例1の試料と同様に電池評価電解液としてEC系を使用した単セル式の電池評価装置にかけた。充放電サイクル試験1サイクル目の容量・クーロン効率、50サイクル目の容量を調べた。結果を表1に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
【発明の効果】
本発明によれば、透過型電子顕微鏡における明視野像で結晶質炭素部分と非結晶質炭素部分の両者を有する炭素材料を核として、表面に結晶質に富んだ炭素層を形成することにより、リチウムイオン二次電池用負極材料として放電容量が大きく、クーロン効率、サイクル特性に優れ、不可逆容量が小さく有用な炭素材料を得ることができる。また、本発明の炭素材料の製造方法は、経済性、量産性に優れ、使用する被覆材は取扱い易く、安全性も改善された方法である。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1の負極材料の透過型電子顕微鏡写真(25,000倍)である。
【図2】比較例2の負極材料の透過型電子顕微鏡写真(25,000倍)である。
Claims (21)
- 炭素質粉体からなる核の表面に炭素層を形成してなり、前記結晶質炭素層は透過型電子顕微鏡における明視野像に結晶質炭素部分と非晶質炭素部分とを有し、前記炭素層のレーザーラマンスペクトルによる1580cm-1のピーク強度に対する1360cm-1のピーク強度比が0.3以下であることを特徴とする負極材料。
- 炭素質粉体からなる核の透過型電子顕微鏡における明視野像から算出される結晶質炭素部分と非晶質炭素部分の比率が、面積比で95〜50:5〜50である請求項1に記載の負極材料。
- 表面の炭素層の透過型電子顕微鏡における明視野像で算出される結晶質炭素部分と非晶質炭素部分の比率が、面積比で99〜60:1〜40である請求項1記載の負極材料。
- 表面の炭素層の透過型電子顕微鏡における明視野像において、結晶質炭素部分に非結晶炭素部分がランダムに分散して存在している請求項1乃至5のいずれかひとつに記載の負極材料。
- 表面の炭素層が、乾性油またはその脂肪酸及びフェノール樹脂を含む組成物を水の存在下で核の炭素質粉体に付着させたものを非酸化性雰囲気下で2500℃以上の温度で熱処理することにより得られるものである請求項1記載の負極材料。
- 表面の炭素層が、乾性油またはその脂肪酸及びフェノール樹脂を含む組成物を水の存在下で核の炭素質粉体に付着させたもの及び気相法炭素繊維の混合物を非酸化性雰囲気下で2500℃以上の温度で熱処理することにより得られるものである請求項1記載の負極材料。
- 炭素質粉体からなる核のフロー式粒子像解析装置によって測定される平均円形度が0.85〜0.99である請求項1記載の負極材料。
- 核の炭素質粉体粒子のフロー式粒子像解析装置によって測定される円形度の値が、0.90未満の粒子の含有率が2〜20個数%の範囲にある請求項9に記載の負極材料。
- 気相法炭素繊維の含有量が、0.01〜20質量%の範囲である請求項8に記載の負極材料。
- 気相法炭素繊維が、内部に中空構造を有し、外径2〜1000nm、アスペクト比10〜15000の繊維である請求項8に記載の負極材料。
- 気相法炭素繊維が、分岐状繊維である請求項11または12に記載の負極材料。
- 気相法炭素繊維が、X線回折法による(002)面の平均面間隔d002が0.344nm以下の炭素からなる請求項11乃至13のいずれかひとつに記載の負極材料。
- 炭素質粉体からなる核の表面の高結晶性の炭素質材料が、フェノール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、フラン樹脂、セルロース樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含む重合体を含む組成物を焼成して得られるものである請求項1乃至14のいずれかひとつに記載の負極材料。
- 重合体を含む組成物を水の存在下で核となる炭素質粉体の表面の少なくとも一部に付着させる工程、前記炭素質粉体に気相法炭素繊維を混合する工程、次いで重合体を含む組成物が付着した該炭素質粉体を非酸化性雰囲気で熱処理する工程を含むことを特徴とする負極材料の製造方法。
- 熱処理する工程が、2500℃以上の温度で行う焼成工程である請求項16に記載の負極材料の製造方法。
- 請求項1乃至15のいずれかひとつに記載の負極材料とバインダーを含む電極ペースト。
- 請求項18に記載の電極ペーストの成形体からなる電極。
- 請求項19に記載の電極を構成要素として含む二次電池。
- 非水電解液及び電解質を用い、前記非水電解液がエチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート及びプロピレンカーボネートからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項20に記載の二次電池。
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