JP2004199816A - 磁気ヘッド - Google Patents
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Abstract
【解決手段】磁気記録媒体に対向するための先端部を有する主磁極と前記主磁極を励磁するコイルとを備える垂直磁気記録用薄膜磁気ヘッドを備える磁気ヘッドにおいて、主磁極の先端部もしくは少なくとも一部を、第1の強磁性膜と第2の強磁性膜と前記第1の強磁性膜及び第2の強磁性膜の間に形成される反平行結合層とを有する積層体を含有する軟磁性多層膜とし、反平行結合層が、前記第1の強磁性膜及び第2の強磁性膜を反強磁性的に層間結合せしめる構成とする。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は磁気ヘッドに関し、特に垂直磁気記録型の磁気ヘッドに関する。
【0002】
【従来の技術】
特許文献1には、反平行に結合した磁性膜を用いた磁場センサの記述がある。非特許文献1には、Fe/Cr、Fe/Cu、Co/Cr、Co/Ruなどの多層膜もしくはサンドイッチ膜で反平行結合が生じることが記載されている。特許文献2には、軟磁性膜を多層に積層した磁性多層膜と、これを磁極あるいはヨーク部に用いた磁気ヘッドの記載がある。特許文献3には、反強磁性的結合膜を用いたスピンバルブセンサの記載がある。
【0003】
【特許文献1】
特開平2-61572号公報
【特許文献2】
特開平7-135111号公報
【特許文献3】
特開平7-169026号公報
【特許文献4】
特開平2-61572号公報
【非特許文献1】
ジャーナルオブマグネティズムアンドマグネティックマテリアルス誌、93巻、(1991)、58から66頁(J. Magn. Mag. Matt., 93, pp58-66(1991))
【0004】
【発明が解決しようとする課題】従来の技術では、記録密度の充分に高い磁気記録装置、特にサブミクロンの磁気記録を行い、それを正確に再生する十分に特性の良い磁気ヘッドを得ることが出来ず、記憶装置としての機能を実現することが困難であった。その理由は軟磁性膜の特性と、その反磁界にある。磁気的な動作を高い周波数と十分な感度と安定性で実行させるには、高い透磁率を持ついわゆる軟磁性薄膜が必須であった。
【0005】
しかしながら、磁気記録の記録密度が極めて向上し、記録ビットがサブミクロンになりつつある昨今では、軟磁性薄膜の安定動作が困難に成りつつある。より小さい磁気回路を作製した軟磁性膜において、その端部が軟磁性膜自体の反磁界によって磁区構造を生じ、磁気記録の特性に影響してしまうからである。特に垂直記録型薄膜磁気ヘッドにおいては、記録動作を行った後に磁極が磁区構造を持つことにより、磁極に生じた残留磁化が記録媒体に記録された磁化情報を消去もしくは撹乱するという問題があった。
【0006】
従来から、このような反磁界の影響を低減する方法として、軟磁性膜を非磁性膜で多層化し、端部における静磁結合によって単磁区化をはかる技術が知られているが、静磁結合による単磁区化は、端部の静磁界結合によるために結果的に結合力が弱く、十分な効果が得られていない。
【0007】
近年、非磁性金属層を介して強磁性金属層を積層した多層膜において、強磁性膜が非磁性金属層を介して反強磁性的に結合する現象が見出されている。ここで、「反強磁性的に結合」とは、非磁性金属層を介して、隣接した強磁性層の磁化が互いに反平行に向こうとする結合力が発生することである。以下、この現象を応用して、特許文献4に代表されるように、磁気センサなどが提案されている。
【0008】
このような多層膜の磁化が互いに反平行に結合する現象の物理的原因はあまり明らかでないが、実験的に特定の材料と厚さのときに発生することが知られている。たとえば非特許文献1には、Fe/Cr、Fe/Cu、Co/Cr、Co/Ruなどの多層膜もしくはサンドイッチ膜で反平行結合が生じることが記載されている。
【0009】
より詳細には、非磁性膜、例えばCrの厚さによって上記反平行結合の大きさはあたかも振動するように増減もしくは発生消滅し、Crなどの非磁性層の厚さが1ナノメートル近辺および2〜3ナノメートル近辺で反平行結合が安定して発生することが知られている。このような現象を磁気抵抗効果型センサに応用する提案として、特許文献3には、反強磁性的結合膜を用いたスピンバルブセンサの記載がある。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明では高記録密度に対応した磁気ヘッドを提供するために、上記磁気ヘッドに用いる軟磁性膜、特に垂直記録用記録ヘッドの主磁極を、反強磁性的に結合した軟磁性強磁性多層膜で形成する。
【0011】
即ち、磁気記録媒体に対向するための先端部を有する主磁極と前記主磁極を励磁するコイルとを備える垂直磁気記録用薄膜磁気ヘッドを備える磁気ヘッドにおいて、主磁極の先端部もしくは少なくとも一部を、第1の強磁性膜と第2の強磁性膜と第1の強磁性膜及び第2の強磁性膜の間に形成される反平行結合層とを有する積層体を含有する軟磁性多層膜とし、反平行結合層が、第1の強磁性膜及び第2の強磁性膜を反強磁性的に層間結合させる構成とすることを主な特徴とする。
【0012】
反強磁性的に結合した軟磁性多層膜を実現するために、上記多層膜は、強磁性膜/反平行結合膜/強磁性膜の最小ユニットを有し、強磁性膜および反平行結合膜を所定の材料と厚さで平坦に形成する。
【0013】
また、副磁極、磁気シールドを反強磁性的に結合した軟磁性多層膜で形成してもよい。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明を適用した磁気ヘッドとして、例えば磁気記録媒体に対向するための先端部を有する主磁極と前記主磁極を励磁するコイルとを備える垂直磁気記録用薄膜磁気ヘッドを備える磁気ヘッドにおいて、主磁極の先端部もしくは少なくとも一部は、第1の強磁性膜と第2の強磁性膜と第1の強磁性膜及び第2の強磁性膜の間に形成される反平行結合層とを有する積層体を含有する軟磁性多層膜であり、反平行結合層は、第1の強磁性膜及び第2の強磁性膜を反強磁性的に層間結合させることを特徴とする。
【0015】
さて、強磁性膜および反平行結合膜の材料は、所定の組み合わせで決まる。強磁性膜が体心立方構造を取っている場合、反平行結合膜はCr、Ruを主成分とすることが望ましい。Ruの代わりにOs、Ir、Re、Rhを用いても同様の効果が得られる。適宜、Cr、Ruなどに他の元素、例えばFeなどを添加して反強磁性的な結合力を低減させても良いが、他元素の添加量としては20原子%以下が望ましい。
【0016】
強磁性膜が面心立方構造を取っている場合、反平行結合膜はRuを主成分とすることが望ましい。Ruの代わりにOs、Ir、Re、Rh、Cuを用いても同様の効果が得られる。適宜、Ruなどに他の元素、例えばFeなどを添加して反強磁性的な結合力を低減させても良いが、他元素の添加量としては20原子%以下が望ましい。
【0017】
いずれの場合も、反平行結合膜の厚さを0.5〜1.2ナノメートル、もしくは1.8〜3ナノメートルにすると安定した反強磁性的な結合力が得られる。
【0018】
上記反強磁性的に結合した軟磁性多層膜は凹凸を低減した平坦な構造として、反強磁性的な結合を妨害するいわゆるオレンジピール効果が発生しないようにする。これには軟磁性多層膜の作製条件を最適化するほかに、強磁性膜の厚さを厚くしすぎない、具体的には、1ミクロン以下とする。さらに、軟磁性多層膜の結晶粒が粗大になりすぎないように、NiCrなどの下地を5ナノメートル程度下地部分に形成すると良い。
【0019】
また、垂直記録用磁気ヘッドに本発明の強磁性多層膜を用いる場合、外部磁界に対し磁極の磁化が容易に反転する必要がある。そのため強磁性多層膜の反強磁性的な層間結合が適切な値となる構成とすることが必要である。具体的には、強磁性膜と反平行結合膜の材料および厚さを適切な組み合わせとする。さらに強磁性多層膜の厚さを10ナノメートル以上とし、反平行結合膜への他元素添加量を20原子%以下とする。このような構成により、軟磁性多層膜の反強磁性的な結合力を数十から数百エルステッドにすることができ、透磁率の高くかつ安定に動作する磁気ヘッドを実現することができる。
【0020】
以下、本発明を適用した磁気ヘッドについて、図面を参照して詳細に説明する。
【0021】
本発明の軟磁性積層膜を構成する薄膜は、高周波マグネトロンスパッタリング装置により以下のように作製した。
【0022】
アルゴン1から6ミリトールの雰囲気中にて、セラミックス基板に以下の材料を順次積層して作製した。スパッタリングターゲットとしてニッケル−20at%Cr合金、銅、鉄-30at%コバルト、クロム、ルテニウム各ターゲットを用いた。鉄−コバルトターゲット上には適宜Niなどの1 cm角のチップを配置してFe-Co-Ni膜の作製を行った。積層膜は、各ターゲットを配置したカソードに各々高周波電力を印加して装置内にプラズマを発生させておき、各カソードに配置されたシャッターを一つずつ開閉して順次各層を形成した。一部の成膜ではクロムターゲットと鉄−コバルトターゲットを同時に放電させてコスパッタし、クロムと鉄−コバルトの合金層を形成した。
【0023】
膜形成時には永久磁石を用いて基板に平行におよそ6.4kA/m(80エルステッド)の磁界を印加して、一軸異方性をもたせた。基体上の素子の形成はフォトレジスト工程によってパターニングした。その後、基体はスライダー加工し、磁気記録装置に搭載した。以下に本発明の具体的な実施例を、図を追って説明する。
【0024】
図1は、本発明の磁気ヘッドに用いられる軟磁性積層膜の構成例である。反強磁性結合軟磁性積層膜10は、基体50上に下地膜14、強磁性膜(第1の強磁性膜)15、反平行結合膜153、強磁性膜(第2の強磁性膜)15、以下繰り返して順次積層されて成る。反平行結合膜153を介して隣接する強磁性膜15は互いの磁化が反平行になるような反強磁性的な結合力が働くように、反平行結合膜の材料と厚さ、作製方法を調整する。その具体的な構成は後述する。
【0025】
このように反強磁性的に結合した積層膜を用いることで、反平行な磁区状態を安定して達成することができる。例えば、磁気ヘッドの浮上面からスピンSEMや磁気力顕微鏡(MFM)で磁区状態を観察すると、反平行で閉磁路的であることが確認できる。単純に多層化した積層膜においても、部分的に閉磁路状態をとることはあり得るが、本発明によれば安定して閉磁路状態を実現することができるのである。
【0026】
図2には本発明に用いられる軟磁性積層膜の磁気特性を通常の軟磁性膜と比較して示す。図2a)は本発明に用いられる軟磁性積層膜の容易軸の磁化曲線である。強磁性膜としてFeCo膜を用い、2層のFeCo膜をCr 1 nmの反平行結合膜を介して反強磁性的に結合せしめてなる。磁化曲線は2層のFeCo膜の磁化が互いに反平行に配列しようとする反強磁性的結合力によって、あたかも二つのループに分離したかのように磁界の正負の領域に引き伸ばされた形態となっていることがわかる。
【0027】
この磁化曲線に見られる飽和磁界の増大は、いわゆる一軸異方性による異方性磁界のように強磁性膜自体に固有の物理量ではなく、強磁性膜と反平行結合膜、および両者の厚さと構造によってきまる別個の値である。反強磁性的結合を精密に評価するには磁化曲線の積分などを行うべきだが、ここでは簡便に図2a)に示したように磁化曲線を概略近似した直線を引いて、その飽和する磁界を飽和磁界Hs*として扱うことにする。
【0028】
なんとなれば、この飽和磁界Hs*は概略本発明に用いられる軟磁性積層膜の磁化曲線を記述している値であって、例えば飽和磁束密度Bs(単位:テスラ)を用いると、飽和磁界Hs*(エルステッド)である軟磁性積層膜の実効的な透磁率は「透磁率〜Bs×10000/Hs*」で近似的に示されるからである。
【0029】
一方、比較のため反平行結合膜を用いないFeCo単層膜の磁化曲線を図2b)に示した。磁化曲線には図2a)とは異なって大きな飽和磁界などは認められない。これは単層膜では一軸異方性に起因する異方性磁界などが認められるにしてもその大きさは20エルステッド以下程度であることが一般的であるからである。
【0030】
反平行結合膜を用いて反強磁性的な結合を生じているかどうかは、図2に示したように磁化曲線の形状で知ることができるが、磁化曲線が測定できない場合にはその構造から識別することもできるだろう。以下適切な反平行結合を得るための構成について説明する。
【0031】
図3にCrの膜厚をかえた場合のFeCo/Cr/FeCo膜の磁化曲線を示す。Crの膜厚を0.9から1.1 nmまで変えた場合、磁化曲線は大きく変化していることがわかる。Crが0.9 nmの磁化曲線は残留磁化成分が大きく、反平行結合が均一でないことがわかる。Crが0.95から1 と厚くなると残留磁化成分はほぼゼロとなり、Hs*が増大している。さらにCrが厚くなるとHs*はむしろ低下している。
【0032】
図4にはCrおよびFeCoNi膜厚と残留磁化比、および飽和磁界Hs*の関係を示した。図4a)はCr膜厚を変化させた場合の結果を示す。反平行結合層として用いた場合、Crは厚さ0.95から1.1 nmがよく、特に1.0 nmがよいことがわかる。
【0033】
同様にFeCoNi膜の厚さを変えた場合のFeCoNi/Cr/FeCoNi膜の結果を図4b)に示す。FeCoNi膜が10 nmと薄いと、Hs*は300エルステッドと大きいが、FeCo膜が厚くなるとHs*は低下していく。FeCoNi膜が30 nmまでは残留磁化は小さく、反平行結合状態が得られているが、FeCoNi膜が40 nm以上ではHs*はほぼゼロとなり、残留磁化比がほぼ1、すなわちまったく反平行結合していない状態になっている。
【0034】
本来、反平行結合のエネルギーは強磁性膜および反平行結合膜の組み合わせ及び構造で決まるものである。ここでは2つの要因が働いており、ひとつは強磁性膜の厚さが厚くなると反平行結合エネルギーは一定であるとすると反平行結合の磁界は反比例して低下することである。これはすなわち反平行結合のエネルギーが強磁性膜の磁化の量=飽和磁束密度×膜厚と、飽和磁界の積になるからである。
【0035】
もうひとつの要因は積層膜の厚さが増大すると、積層膜の凹凸が増大し、隣接する強磁性膜間に、いわゆるオレンジピール効果、といわれるような静磁気的結合が生じ、これが反平行結合を打ち消してしまう効果が発生することである。このような凹凸の効果は、積層膜の作製条件などを最適化すればある程度緩和できるが、われわれの実験では強磁性膜の厚さが40〜60 nm以上、積層膜の合計厚さが0.1から0.2μm以上になると反平行結合が消失する結果が得られた。
【0036】
図5は、FeCo/Cr/FeCo膜およびFeCo/Ru/FeCo膜の磁化曲線である。FeCo膜の厚さは10 nm、Crの厚さは1。0 nm、Ruの厚さは0。8 nmとした。Crを用いた場合、Hs*はおよそ300エルステッド、Ruの場合にはおよそ600エルステッドであって、Ruを反平行結合膜に用いるとCrを用いた場合と比較しておよそ2倍の反平行結合力が得られることがわかった。
【0037】
図6にRu膜の厚さを変えた場合の反平行結合エネルギーの関係を示した。Ru膜が0.6から1.0 nmの間で反平行結合が得られるが、Ru膜が0.7から0.9 nm、特に0.8 nmの時がもっとも良好な特性が得られた。また、Ru膜の厚さが2 nm付近にも弱い結合力が認められた。ここでわかるように反平行結合膜の厚さも当然飽和磁界の大きさを変える因子であるわけだが、反平行結合膜の厚さは図3、4、6、7などに述べたように大変厚さに対して敏感であるので、実際には反平行結合膜の厚さは結合の大きく安定になるピークの厚さで作製することが望ましい。したがって反平行結合膜の種類によってその厚さは規定されていることがわかる。
【0038】
図7にはNiFe/Cr/NiFe膜の反平行結合力とCrの膜厚の関係を示した。Crの厚さが1 nmで反平行結合力が最大になる点はFeCoNi/Cr/FeCoNi膜と同様だが、飽和磁界が20エルステッドとかなり小さい点が異なっている。このように強磁性膜、反平行結合膜の種類と厚さ、によって大きく反平行結合の大きさは異なり、飽和磁界の大きさが変わるのである。したがって、望ましい特性の反平行結合軟磁性積層膜を得るには、これらの構成を特性の組み合わせにする必要がある。
【0039】
図8に強磁性膜と反平行結合膜を組み合わせた場合の飽和磁界と強磁性膜の磁化量の関係を示した。強磁性膜の磁化量は強磁性膜の厚さと飽和磁束密度の積で表した。
【0040】
飽和磁界は強磁性膜の厚さとともに減少するが、強磁性膜の種類と反平行結合膜の種類でその値は異なる。したがって、飽和磁界を適切に設定した軟磁性積層膜を得るには、上記の強磁性膜と反平行結合膜の種類、および強磁性膜の厚さを適切に選択することが必要である。
【0041】
図8には各強磁性膜と反平行結合膜の組み合わせの実験値と、その値から予想される飽和磁界の値を示してある。一方で最適な飽和磁界の値は、軟磁性の観点から決めることができる。既に述べたように軟磁性膜の透磁率は単純に言って10000×飽和磁束密度(テスラ)/飽和磁界(エルステッド)できまるわけだが、強磁性膜の飽和磁束密度はFeCo膜で最大2.4 T、NiFe膜では1 Tであるので、他に比べて大きく異なる因子ではない。
【0042】
必要な透磁率の下限を50とすると軟磁性薄膜としての下限になるだろう。同様に飽和磁界の下限値を20エルステッドと考える。これはCoNiFe合金薄膜の異方性磁界が20エルステッド程度であるので、これより小さな飽和磁界では異方性磁界が優性となって反平行結合が実現しない恐れがあるからである。
【0043】
飽和磁束密度を2 Tとすると、以上の関係から飽和磁界の上限と下限を規定することができ飽和磁界は400以下とすることが望ましいことがわかる。すなわち、飽和磁界が400以上ではたとえ飽和磁束密度が2 Tあっても透磁率が実質50以下になってしまうため、軟磁性膜の機能を果たさなくなってしまうのである。また、図4b)に見られるように強磁性膜が50 nm以上に厚くなると残留磁化成分が増加し、これも軟磁性膜の機能を果たさないことになってしまう。
【0044】
逆に軟磁性膜の厚さが5 nm以下では軟磁性膜としての体積が不足し、十分に磁束の伝導体としての機能を果たせない。これは5 nm以下の厚さの強磁性膜を多数積層することである程度カバーできるが、その際には反平行結合膜の数も増大して全体としての磁束密度を低下させると共に、多数回積層するコストも増加する。
【0045】
したがって以上の条件をみたすために、本発明に用いられる軟磁性積層膜は図8中の太い四角部分の範囲、すなわち飽和磁界が20以上、400以下、強磁性膜の厚さが5 nmから50 nmとすることが望ましいのである。
【0046】
さらに反平行結合膜の種類によって上記規定範囲を満たす条件は限定されている。強磁性膜がFeCoNi膜、反平行結合膜がCr(1 nm)の場合、強磁性膜の厚さがおよそ20 nmから50 nmにおいて規定範囲を満たしている。
【0047】
一方、強磁性膜がCoFe、反平行結合膜がRu(0.8 nm)の場合、強磁性膜の厚さを変えても規定範囲を満たす領域はないのである。上記規定範囲を満たす組み合わせを表1にまとめた。表には強磁性膜の飽和磁束密度Bsおよび結晶構造も併記した。これは、強磁性膜の組成や添加元素を多少変化させても、Bsや結晶構造が大きく変わらないかぎり、ほぼ同じような特性を示すからである。
【表1】
【0048】
一方で、反平行結合膜に他の元素を添加することで反強磁性的な結合力を若干制御することができる。図9は反平行結合膜としてCrにFe-Coを添加したFeCo 25nm/Cr-(Fe、 Co)1 nm/FeCo 25 nm膜の磁化曲線である。添加量がゼロでは飽和磁界が約200エルステッドであるが、Fe-CoをCrに添加してくと次第に飽和磁界が減少した磁化曲線と成っていることがわかる。Fe-Co添加量が20 at%になると、反強磁性的な結合はほぼ認められない磁化曲線になり、残留磁化が増大している。
【0049】
図10はCrへのFe-Co添加量と、FeCo 25 nm/Cr-(Fe、 Co)1 nm/FeCo 25 nm膜の飽和磁界および残留磁化比の関係を示した図である。添加量と共に飽和磁界は低下し、添加量ゼロの場合の半分程度までは制御可能であることがわかる。しかしながら、添加量が増大して飽和磁界が当初の値よりかなり小さい領域では、飽和磁界の添加量に対する低下の度合いが大きく、また、残留磁化比が増大するので適切な特性が得られない恐れがある。したがって図10の結果から適切な添加量は20 at%以下であって、飽和磁界を添加なしの場合の半分程度まで低下させることができることがわかった。
【0050】
さらに、本発明に用いられる軟磁性積層膜の下地膜について述べる。図1では本発明の軟磁性積層膜に下地膜14を配置している。図11に下地膜としてNiCr膜を用いた場合および下地膜無しの場合の磁化曲線を示した。下地膜を用いた軟磁性積層膜の磁化曲線は、図2の説明でも述べたように反強磁性的な結合を明確に反映した磁化曲線になっているが、下地膜なしの磁化曲線は保磁力が増大し、反強磁性的結合がさほど明確でなくなっている。これは保磁力が飽和磁界に匹敵する程度に大きいためであって、反強磁性的結合がある程度あっても保磁力のために残留磁化成分が発生してしまい、十分な軟磁気特性が得られない。したがってNiCrなどの適切な下地膜を用いることが望ましく、NiCr膜のほかにも、Ti、Cr、Ruなどでもある程度同様の効果が得られる。
【0051】
上記の反平行結合した軟磁性積層膜を用いた磁気ヘッドの実施例を以下に示す。図12は本発明の反強磁性的に結合した軟磁性積層膜を主磁極に用いた垂直記録用磁気ヘッドの構成例である。スライダーをかねる基体50上に下部磁気シールド35、電極40、磁気抵抗効果積層膜101が形成されてなり、さらに電極40、上部磁気シールド36を形成して、再生信号を検出する再生ギャップ43を形成してなる。ここで再生部として膜厚方向に電流を印加する、TMRもしくはCPP-GMR型の再生センサを図示したが、面内方向に電流を流す型のGMR再生センサなど、他の再生センサであっても本発明の主旨を損なうものではない。
【0052】
記録ヘッド部は、さらに副磁極84、コイル42、主磁極83で磁路を形成してなる。図12では主磁極83を反平行結合軟磁性積層膜10で形成してなる。すなわち、下地膜14上に強磁性膜15、反平行結合膜153、強磁性膜15を順次積層してなる。主磁極全体で強磁性膜15が4〜12層程度とするとよいが、積層数が少ないと端部での磁極の打ち消し合いが不充分となる懸念があり、積層数が多すぎると記録能力が低下するので特に6から8層が望ましい。反平行に配列した強磁性膜の磁化が互いにうまく打ち消し合うように、強磁性膜の層数は偶数が望ましい。磁気ヘッドは対向面63を形成して磁気記録媒体に近接して磁気記録を記録、再生を行う。
【0053】
図13は本発明の反強磁性的に結合した軟磁性積層膜を主磁極に用いた垂直記録用磁気ヘッドの別の構成例である。スライダーをかねる基体50上に下部磁気シールド35、電極40、磁気抵抗効果積層膜101が形成されてなり、さらに電極40、上部磁気シールド36を形成して、再生信号を検出する再生ギャップ43を形成してなる。ここで再生部として膜厚方向に電流を印加する、TMRもしくはCPP-GMR型の再生センサを図示したが、面内方向に電流を流す型のGMR再生センサなど、他の再生センサであっても本発明の主旨を損なうものではない。
【0054】
記録ヘッド部は、さらに副磁極84、コイル42、第一の主磁極831、および第二の主磁極832で磁路を形成してなる。図14では第一主磁極831を反平行結合軟磁性積層膜10で形成してなる。すなわち、下地膜14上に強磁性膜15、反平行結合膜153、強磁性膜15を順次積層してなる。主磁極全体で強磁性膜15が4〜12層程度とするとよいが、積層数が少ないと端部での磁極の打ち消し合いが不充分となる懸念があり、積層数が多すぎると記録能力が低下するので特に6から8層が望ましい。反平行に配列した強磁性膜の磁化が互いにうまく打ち消し合うように、強磁性膜の層数は偶数が望ましい。磁気ヘッドは対向面63を形成して磁気記録媒体に近接して磁気記録を記録、再生を行う。
【0055】
図14は本発明の磁気ヘッドを用いた磁気記録再生装置の構成例である。磁気的に情報を記録する記録媒体91を保持するディスク95をスピンドルモーター93にて回転させ、アクチュエーター92によってヘッドスライダー90をディスク95のトラック上に誘導する。即ち磁気ディスク装置においてはヘッドスライダー90上に形成した再生ヘッド、及び記録ヘッドがこの機構に依ってディスク95上の所定の記録位置に近接して相対運動し、信号を順次書き込み、及び読み取るのである。
【0056】
アクチュエーター92はロータリーアクチュエーターであることが望ましい。記録信号は信号処理系94を通じて記録ヘッドにて媒体上に記録し、再生ヘッドの出力を、信号処理系94を経て信号として得る。さらに再生ヘッドを所望の記録トラック上へ移動せしめるに際して、本再生ヘッドからの高感度な出力を用いてトラック上の位置を検出し、アクチュエーターを制御して、ヘッドスライダーの位置決めを行うことができる。本図ではヘッドスライダー90、ディスク95を各1個示したが、これらは複数であっても構わない。またディスク95は両面に記録媒体91を有して情報を記録してもよい。情報の記録がディスク両面の場合ヘッドスライダー90はディスクの両面に配置する。
【0057】
図15は、本発明の反強磁性的に結合した軟磁性積層膜を主磁極に用いた垂直記録用磁気ヘッドを用いて測定した、記録後消去による不良の発生率を示した図である。図15a)では反平行結合層であるべきCrの膜厚0.5nmから5 nmまで変化させ、反強磁性的な結合力を変化・消失させた磁気ヘッド、およびCr膜厚が0 nm、すなわち単層の主磁極を用いた磁気ヘッドを作製して測定を行った。
【0058】
単層主磁極の磁気ヘッドでは不良率はほぼ100 %近く、これでは磁気記録を達成できない。Cr膜厚を0.5 nm以上1.3 nm以下としたヘッドでは、不良率は50 %以下に減少し、特にCr膜厚を1 nmとしたヘッドでは25 %以下に低下した。これは反強磁性的結合を生じた軟磁性膜を主磁極に用いることで、記録後消去抑制に著しい効果があることを示している。さらにCr膜厚を1.3 nm以上に厚くしていくと不良率は増加する傾向が見られる。Cr膜厚2 nm以上の反強磁性的な結合を生じない厚さで多層膜にした主磁極の磁気ヘッドでは、不良率は80 %程度となり不良率改善に若干の効果はあるが、正常な記録が行えていないことが分かる。
【0059】
図15b)では積層膜全体における磁性膜(FeCoNi)の総膜厚を200 nmで一定として、一層あたりのFeCoNi膜厚および層数を変化させたヘッドを作製し、不良発生率を測定した結果を示す。すなわち、FeCoNi膜一層あたりの厚さを25 nmとした場合は8層積層し、33 nmとした場合は6層積層してヘッドを作製している。このときCr膜厚を1 nmとして反強磁性的結合が最大となるようにした。FeCoNi膜厚を40 nm付近まで増加させても、すべてのヘッドで不良率は25 %以下であるが、50 nm以上に厚くすると不良率は100 %近くなることが分かる。つまり、一層あたりの磁性層の膜厚は50 nm以下とすることが必要である。
【0060】
一方、図4b)で示したように、磁性層の膜厚が薄くなると飽和磁界が大きくなる傾向が見られる結果が得られていることから考えて、ヘッドに適用した際にはオーバーライトが低下する懸念がある。図15b)ではFeCoNi膜厚を10 nmとしても十分なオーバーライト特性を得ており、以上の結果を総合すると、反強磁性結合を有する多層主磁極における磁性膜厚は10 nm以上50 nm以下とするのが良いのである。
【0061】
図16は本発明の効果の概念図である。垂直磁気記録ヘッドの主磁極が単層の強磁性膜の場合、記録動作後の主磁極の磁化が磁気記録媒体に向かう成分を有する磁区状態になってしまう図16a)のように記録媒体方向への磁化が存在する磁化状態が記録誤消去の原因と考えられる。
【0062】
主磁極を多層の強磁性膜に分割することで、図16b)の様に互いに磁化が反平行になりうる構成とし、記録媒体への磁束の侵入を減らすことが考えられるが、単純に多層にしただけでは主磁極端部の反磁界だけで反平行配列の磁化状態を実現しなければならない。垂直磁気記録では記録媒体の裏打ち層として軟磁性膜を配置しているために主磁極端部の磁束は裏打ち層へ透過する(図16c))ことも可能であり、主磁極端部の反磁界だけで所望の閉じた磁化状態を実現することは難しい。
【0063】
本発明の反強磁性結合した軟磁性膜を用いた磁気ヘッドでは、軟磁性積層膜内に反平行な磁化を実現するための磁気特性、すなわち反強磁性的な磁気結合を有することで、図16d)のように垂直磁気記録ヘッドの主磁極に所望の磁化状態を安定に実現することができるのである。この場合、積層膜の強磁性膜間には、主磁極端部の静磁気的な結合に加えて反強磁性的な結合エネルギーが存在し、図16d)のような記録後消去の発生する磁区状態を実現させない効果があるのである。
【0064】
このように本発明に用いられる反強磁性的に結合した軟磁性膜は、互いに反平行に磁化を配列される磁化状態を安定に実現する効果を有し、したがって、パターニングした端部を有する軟磁性膜にしばしば見られる反磁界による好ましくない磁区状態の発生を防止する効果がある。この効果は、垂直磁気記録ヘッドの主磁極以外にも応用することが可能である。
【0065】
図17は、本発明の反強磁性的に結合した軟磁性膜を副磁極に用いた垂直磁気記録ヘッドの構成例である。スライダーをかねる基体50上に下部磁気シールド35、電極40、磁気抵抗効果積層膜101が形成されてなり、さらに電極40、上部磁気シールド36を形成して、再生信号を検出する再生ギャップ43を形成してなる。ここで再生部として膜厚方向に電流を印加する、TMRもしくはCPP-GMR型の再生センサを図示したが、面内方向に電流を流す型のGMR再生センサなど、他の再生センサであっても本発明の主旨を損なうものではない。
【0066】
記録ヘッド部は、さらに副磁極84、コイル42、主磁極83で磁路を形成してなる。図17では副磁極84を反平行結合軟磁性積層膜10で形成してなる。すなわち、強磁性膜15、反平行結合膜153、を順次積層してなる。副磁極全体で強磁性膜15が2〜12層程度とするとよい。反平行に配列した強磁性膜の磁化が互いにうまく打ち消し合うように、強磁性膜の層数は偶数が望ましい。磁気ヘッドは対向面63を形成して磁気記録媒体に近接して磁気記録を記録、再生を行う。
【0067】
図18は、本発明の反強磁性的に結合した軟磁性膜を磁気シールドに用いた垂直磁気記録ヘッドの構成例である。スライダーをかねる基体50上に下部磁気シールド35、電極40、磁気抵抗効果積層膜101が形成されてなり、さらに電極40、上部磁気シールド36を形成して、再生信号を検出する再生ギャップ43を形成してなる。
【0068】
ここで再生部として膜厚方向に電流を印加する、TMRもしくはCPP-GMR型の再生センサを図示したが、面内方向に電流を流す型のGMR再生センサなど、他の再生センサであっても本発明の主旨を損なうものではない。記録ヘッド部は、さらに副磁極84、コイル42、主磁極83で磁路を形成してなる。
【0069】
図18では下部磁気シールド35および上部磁気シールド36を反平行結合軟磁性積層膜10で形成してなる。すなわち、強磁性膜15、反平行結合膜153、を順次積層してなる。上部あるいは下部の磁気シールド全体で強磁性膜15が2〜12層程度とするとよい。上部シールド、あるいは下部シールドのどちらか、あるいはそれらの一部分だけに用いても本発明の主旨に背くものではない。
【0070】
反平行に配列した強磁性膜の磁化が互いにうまく打ち消し合うように、強磁性膜の層数は偶数が望ましい。磁気ヘッドは対向面63を形成して磁気記録媒体に近接して磁気記録を記録、再生を行う。このように磁気シールドを反強磁性的に結合した軟磁性積層膜で構成すると、磁気シールドに起因する再生ヘッドの出力変動を低減することができる。
【0071】
図19は本発明の反強磁性的に結合した軟磁性膜を上部磁気コアの先端部に用いた面内磁気記録ヘッドの構成例である。スライダーをかねる基体50上に下部磁気シールド35、電極40、磁気抵抗効果積層膜101が形成されてなり、さらに電極40、上部磁気シールド36を形成して、再生信号を検出する再生ギャップ43を形成してなる。
【0072】
ここで再生部として膜厚方向に電流を印加する、TMRもしくはCPP-GMR型の再生センサを図示したが、面内方向に電流を流す型のGMR再生センサなど、他の再生センサであっても本発明の主旨を損なうものではない。記録ヘッド部は、さらに下部磁気コア85、コイル42、第一の上部磁気コア833および第二の上部磁気コア834で磁路を形成してなる。
【0073】
ここで上部磁気コアを第一及び第二の上部磁気コアから構成する図で示したが、上部磁気コアを一つ、もしくは3つ以上のユニットから構成しても本発明の主旨に反するものではない。このように磁気コアを反強磁性的に結合した軟磁性積層膜とすると、端部における磁区状態を安定化し、記録後ノイズの低減および記録磁界の端部形状の改善効果がある。
【0074】
図19では第一の上部磁気コア833を反平行結合軟磁性積層膜10で形成してなる。すなわち、強磁性膜15、反平行結合膜153、を順次積層してなる。上部あるいは下部の磁気コア全体で強磁性膜15が2〜12層程度とするとよい。上部磁気コア、あるいは下部磁気コアのどちらか、あるいはそれらの一部分だけに用いても本発明の主旨に背くものではないが、上部磁気コアの先端部に用いることが望ましい。反平行に配列した強磁性膜の磁化が互いにうまく打ち消し合うように、強磁性膜の層数は偶数が望ましい。磁気ヘッドは対向面63を形成して磁気記録媒体に近接して磁気記録を記録、再生を行う。
【0075】
図20は本発明の磁気ヘッドに用いられる軟磁性積層膜の別の構成例である。反強磁性結合軟磁性積層膜10は、基体50上に下地膜14、強磁性膜15、反平行結合膜153、強磁性膜15、非平行結合膜154…、以下繰り返して順次積層されて成る。反平行結合膜153を介して隣接する強磁性膜15は互いの磁化が反平行になるような反強磁性的な結合力が働くように、反平行結合膜の材料と厚さ、作製方法を調整する。
【0076】
一方、非平行結合膜154は、非平行結合膜154を介して隣接する強磁性膜15の磁化が互いに反平行に結合しないように分離する膜で、平行結合膜153とは異なる材料で構成するか、平行結合膜153と同一の材料で反強磁性的な結合を生じないような厚さで構成する。例えば、反平行結合膜153をCr 1 nmとし、非平行結合膜154をNiCr 1 nmとする、あるいは反平行結合膜153をCr 1 nmとし、非平行結合膜154をCr 3 nmとする、などの構成が例としてあげられる。
【0077】
図20の構成例のように個々の強磁性膜15が、片側の界面を平行結合膜153を介して隣接する強磁性膜15と反強磁性的に結合し、他方の界面を非平行結合膜154を介して隣接する強磁性膜15と反強磁性的に結合しない状態に形成することで、飽和磁界の適度に低下した透磁率の高い軟磁性積層膜を得ることができる。
【0078】
これは図1に示した構造で、個々の強磁性膜15が上下端の一対をのぞいて2つの界面で平行結合膜153を介して隣接する強磁性膜15と反強磁性的に結合しているために、寄与する結合界面が多く、結果的に大きな飽和磁界を得られるのに対し、図20では反強磁性的に結合する界面をおよそ半分にできる、いわばひとつおきの界面構造とすることで、飽和磁界を低めに調節することができる構造である。本構成の軟磁性積層膜も、図1の構成と同様に上述したさまざまの磁気ヘッド部分に適用できる。
【0079】
上述したような構成について、本発明の磁気ヘッドおよびこれを搭載した磁気記録再生装置を試験した結果、充分な出力と、良好な記録再生特性を示し、また動作の信頼性も良好であった。
【0080】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明によれば磁化状態を安定化させた磁気ヘッドを得ることができ、特に垂直磁気記録ヘッドにおいて記録後消去が抑制された磁気ヘッドを得ることができる。
【0081】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の磁気ヘッドに用いられる軟磁性積層膜の構成例である。
【図2】本発明に用いられる軟磁性積層膜の磁気特性を通常の軟磁性膜と比較して示した図である。
【図3】Crの膜厚を変えた場合のFeCo/Cr/FeCo膜の磁化曲線である。
【図4】Cr膜厚およびFeCoNi膜厚を変えた場合の、残留磁化比および飽和磁界Hs*の関係を示した図である。
【図5】FeCo/Cr/FeCo膜およびFeCo/Ru/FeCo膜の磁化曲線である。
【図6】Ru膜の厚さを変えた場合の反平行結合エネルギーの関係を示した図である。
【図7】NiFe/Cr/NiFe膜の反平行結合力とCrの膜厚の関係を示した図である。
【図8】強磁性膜と反平行結合膜を組み合わせた場合の飽和磁界と強磁性膜の磁化量の関係を示した図である。
【図9】反平行結合膜としてCrにFe-Coを添加したFeCo 25 nm/Cr-(Fe, Co)1 nm/FeCo 25 nm膜の磁化曲線である。
【図10】CrへのFe-Co添加量と、FeCo 25 nm/Cr-(Fe, Co)1 nm/FeCo 25 nm膜の飽和磁界および残留磁化比の関係を示した図である。
【図11】下地膜としてNiCr膜を用いた場合および下地膜無しの場合の磁化曲線を示した図である。
【図12】本発明の反強磁性的に結合した軟磁性積層膜を主磁極に用いた垂直記録用磁気ヘッドの構成例である。
【図13】本発明の反強磁性的に結合した軟磁性積層膜を主磁極に用いた垂直記録用磁気ヘッドの別の構成例である。
【図14】本発明の磁気ヘッドを用いた磁気記録再生装置の構成例である。
【図15】本発明の反強磁性的に結合した軟磁性積層膜を主磁極に用いた垂直記録用磁気ヘッドを用いて測定した記録後消去による不良の発生率を示した図である。
【図16】本発明の効果および原理を示した垂直磁気記録ヘッドの主磁極の磁化状態の概念図である。
【図17】本発明の反強磁性的に結合した軟磁性膜を副磁極に用いた垂直磁気記録ヘッドの構成例である。
【図18】本発明の反強磁性的に結合した軟磁性膜を磁気シールドに用いた垂直磁気記録ヘッドの構成例である。
【図19】本発明の反強磁性的に結合した軟磁性膜を上部磁気コアの先端部に用いた面内磁気記録ヘッドの構成例である。
【図20】本発明の磁気ヘッドに用いられる軟磁性積層膜の別の構成例である。
【符号の説明】
10…反強磁性的結合軟磁性積層膜、101…磁気抵抗効果積層膜、14…下地膜、15…強磁性膜、153…反平行結合膜、154…非平行結合膜、35…下部磁気シールド、36…上部磁気シールド、40…電極、42…コイル、43…再生ギャップ、50…基体、63…対向面、71…下部ギャップ膜、72…上部ギャップ膜、83…主磁極、831…第一の主磁極、832…第二の主磁極、833…第一の上部磁気コア、834…第二の上部磁気コア、84…副磁極、90…ヘッドスライダー、91…記録媒体、92…アクチュエーター、93…スピンドル、94…信号処理系、95…磁気ディスク。
Claims (19)
- 磁気記録媒体に対向するための先端部を有する主磁極と前記主磁極を励磁するコイルとを備える垂直磁気記録用薄膜磁気ヘッドを備える磁気ヘッドにおいて、前記主磁極の先端部もしくは少なくとも一部は、第1の強磁性膜と第2の強磁性膜と前記第1の強磁性膜及び第2の強磁性膜の間に形成される反平行結合層とを有する積層体を含有する軟磁性多層膜であり、
前記反平行結合層は、前記第1の強磁性膜及び第2の強磁性膜を反強磁性的に層間結合させることを特徴とする磁気ヘッド。 - 前記主磁極は、前記積層体が磁気記録媒体に対向する面に対して平行方向に積層された軟磁性多層膜であることを特徴とする請求項1記載の磁気ヘッド。
- 前記軟磁性多層膜は、反平行結合層を介して前記積層体が積層されていることを特徴とする請求項1記載の磁気ヘッド。
- 前記軟磁性多層膜は、非磁性の非平行結合膜を介して前記積層体が積層されていることを特徴とする請求項1記載の磁気ヘッド。
- 前記第1の強磁性膜および第2の強磁性膜は、Co,Ni又はFeのうち少なくとも一種を含有することを特徴とする請求項1記載の磁気ヘッド。
- 前記反平行結合層は、Cr,Ru,Os,Re,RhまたはCuのうち少なくとも一種を含有することを特徴とする請求項1記載の磁気ヘッド。
- 前記反平行結合層の厚みは、0.5nm以上、1.2nm以下の範囲であることを特徴とする請求項1記載の磁気ヘッド。
- 前記反平行結合層の厚みは、1.8nm以上、3nm以下の範囲であることを特徴とする請求項1記載の磁気ヘッド。
- 前記第1の強磁性層における磁化の向きと第2の強磁性層における磁化の向きとは、前記反平行結合層を挟んで反平行に向いていることを特徴とする請求項1記載の磁気ヘッド。
- 前記反強磁性的な層間結合の大きさは、数十から数百エルステッド相当であることを特徴とする請求項1記載の磁気ヘッド。
- 上記第1の強磁性膜及び第2の起用磁性膜は真空薄膜形成手法で作製され、かつ、同一の真空形成過程においてNiCrなどからなる5ナノメートル程度の下地膜上に形成されてなり、反平行結合層膜部における平坦性が、上記反平行結合層の厚さに比較して小さい程度の平坦性を有することを特徴とする請求項1記載の磁気ヘッド。
- 更に、磁界を検知する再生ヘッドを備えることを特徴とする請求項1記載の磁気ヘッド。
- 磁気記録媒体に対向するための先端部を有する主磁極と、上記主磁極と磁気回路を形成する副磁極と、上記主磁極を励磁するコイルとを備える垂直磁気記録用薄膜磁気ヘッドにおいて、
上記副磁極の少なくとも一部は、第1の強磁性膜と第2の強磁性膜と前記第1の強磁性膜及び第2の強磁性膜の間に形成される反平行結合層とを有する積層体を含有する軟磁性多層膜であり、
前記反平行結合層は、前記第1の強磁性膜及び第2の強磁性膜を反強磁性的に層間結合させることを特徴とする磁気ヘッド。 - 磁気的に情報を記録した磁気記録媒体に対向して上記記録媒体から漏洩する磁界を検知し、かつ上記記録媒体に磁気的に記録を行う磁気ヘッドにおいて、基体上に、下部磁気シールド、下部ギャップ、再生素子部、上部ギャップ、上部磁気シールドを形成してなり、上記下部磁気シールドと上記上部磁気シールドが所定の間隔の磁気的な再生ギャップを形成してなる磁気ヘッドであって、
上記下部磁気シールドおよび上部磁気シールドの少なくとも一部は、第1の強磁性膜と第2の強磁性膜と前記第1の強磁性膜及び第2の強磁性膜の間に形成される反平行結合層とを有する積層体を含有する軟磁性多層膜であり、
前記反平行結合層は、前記第1の強磁性膜及び第2の強磁性膜を反強磁性的に層間結合させることを特徴とする磁気ヘッド。 - 磁気的に情報を記録した磁気記録媒体に対向して上記記録媒体から漏洩する磁界を検知し、かつ上記記録媒体に磁気的に記録を行う磁気ヘッドにおいて、基体上に、磁気ヨーク部と再生素子部を形成してなり、記録媒体対向面からの磁界を上記磁気ヨーク部が上記再生素子部に誘導する磁気回路を形成してなる磁気ヘッドであって、
上記下部磁気シールドおよび上部磁気シールドの少なくとも一部は、第1の強磁性膜と第2の強磁性膜と前記第1の強磁性膜及び第2の強磁性膜の間に形成される反平行結合層とを有する積層体を含有する軟磁性多層膜であり、
前記反平行結合層は、前記第1の強磁性膜及び第2の強磁性膜を反強磁性的に層間結合させることを特徴とする磁気ヘッド。 - 磁気記録媒体に対向するための先端部を有する主磁極と前記主磁極を励磁するコイルとを備える垂直磁気記録用薄膜磁気ヘッドを備える磁気ヘッドにおいて、
前記主磁極の先端部もしくは少なくとも一部は、第1の強磁性膜と第2の強磁性膜と前記第1の強磁性膜及び第2の強磁性膜の間に形成される反平行結合層とを有する積層体を含有する軟磁性多層膜であり、
前記第1の強磁性層および第2の強磁性層は、Fe及びCoを主成分とする体心立方構造の結晶構造を有し、
前記反平行結合層は、前記第1の強磁性膜及び第2の強磁性膜を反強磁性的に層間結合させ、CrもしくはRuを主成分とした金属層もしくは適宜20原子%以下の他の元素を加えた合金層であり、
上記反平行結合層の厚みは、0.5nm以上、1.2nm以下の範囲、又は1.8nm以上、3nm以下の範囲であることを特徴とする磁気ヘッド。 - 磁気的に情報を記録した磁気記録媒体に対向して上記記録媒体から漏洩する磁界を検知し、かつ上記記録媒体に磁気的に記録を行う磁気ヘッドにおいて、
上記磁気ヘッドの磁気コアもしくは磁気シールドの少なくとも一部は、第1の強磁性膜と第2の強磁性膜と前記第1の強磁性膜及び第2の強磁性膜の間に形成される反平行結合層とを有する積層体を含有する軟磁性多層膜であり、
前記第1の強磁性膜および第2の強磁性膜は、体心立方構造を有するFe-CoもしくはFe-Co-Ni合金であって、
前記反平行結合層は、前記第1の強磁性膜及び第2の強磁性膜を反強磁性的に層間結合させ、且つCr、RuもしくはCr合金、Ru合金からなり、
前記反平行結合層の厚みは、0.5nm以上、1.2nm以下の範囲であることを特徴とする磁気ヘッド。 - 磁気的に情報を記録した磁気記録媒体に対向して上記記録媒体から漏洩する磁界を検知し、かつ上記記録媒体に磁気的に記録を行う磁気ヘッドにおいて、
上記磁気ヘッドの磁気コアもしくは磁気シールドの少なくとも一部は、第1の強磁性膜と第2の強磁性膜と前記第1の強磁性膜及び第2の強磁性膜の間に形成される反平行結合層とを有する積層体を含有する軟磁性多層膜であり、
前記第1の強磁性膜および第2の強磁性膜は、体心立方構造を有するFe-CoもしくはFe-Co-Ni合金であって、
前記反平行結合層は、前記第1の強磁性膜及び第2の強磁性膜を反強磁性的に層間結合させ、RuもしくはRu合金からなり、
前記反平行結合層の厚みは、1.8nm以上、3nm以下の範囲であることを特徴とする磁気ヘッド。 - 磁気的に情報を記録した磁気記録媒体に対向して上記記録媒体から漏洩する磁界を検知し、かつ上記記録媒体に磁気的に記録を行う磁気ヘッドにおいて、
上記磁気ヘッドの磁気コアもしくは磁気シールドの少なくとも一部は、第1の強磁性膜と第2の強磁性膜と前記第1の強磁性膜及び第2の強磁性膜の間に形成される反平行結合層とを有する積層体を含有する軟磁性多層膜であり、
前記第1の強磁性膜および第2の強磁性膜は、上記強磁性膜が面心立方構造を有するNi-Fe、Co-FeもしくはCo-Ni-Fe合金であって、
前記反平行結合層は、前記第1の強磁性膜及び第2の強磁性膜を反強磁性的に層間結合させ、RuもしくはRu合金からなり、
前記反平行結合層の厚みは、0.5nm以上、1.2nm以下の範囲であることを特徴とする磁気ヘッド。
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