JP2004195559A - ドリル - Google Patents
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Abstract
【解決手段】刃先部12を軸線O方向の先端側から見たときに、第2マージン部54における最もドリル回転方向T前方側に位置する点54Aと軸線Oとを結ぶ直線Xと、先端逃げ面13とシンニング部40との交差稜線42におけるランド部50に位置する外周端42Aと軸線Oとを結ぶ直線Yとの交差角度θを、前記直線Xが前記直線Yよりもドリル回転方向前方側に位置するときを正として、−5゜〜10゜の範囲に設定する。
【選択図】 図2
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、被削材に対して高水準の穴位置精度で加工穴を形成するための穴明け加工に用いられるドリルに関し、例えば深穴の加工穴を形成するためのドリルに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
このようなドリルの一例としてダブルマージンタイプのものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
これは、図9〜図10に示すように、軸線O回りに回転される刃先部1の外周に後端側に向けて延びる一対の切屑排出溝2,2が形成され、これら切屑排出溝2,2のドリル回転方向T前方側を向く内壁面2A,2Aと刃先部1の先端逃げ面1Aとの交差稜線部に切刃3,3が形成され、かつ、刃先部1のランド部1Bに、切屑排出溝2のドリル回転方向T後方側及び前方側に隣接する第1,第2マージン部4,5がそれぞれ形成されたものであり、これら第1,第2マージン部4,5に対して、形成される加工穴の内壁面に接触させて刃先部1をガイドする役割をもたせている。
また、切屑排出溝2の内壁面の先端側には、切刃3の内周端側に連なるとともに、刃先部1のヒール部1Cを含むランド部1Bに達する部分までの大きな領域が切り欠かれてなるシンニング部6が形成されており、これにより、切刃3にて生成される切屑をカールさせて切屑排出性を良好に維持することを狙っている。
【0003】
【特許文献1】
特開平7−40117号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ここで、従来のダブルマージンタイプのドリルでは、軸線O方向の先端側から見て、図9に示すように、刃先部1のランド部1Bにおいて切屑排出溝2のドリル回転方向T前方側に隣接するように形成された第2マージン部5が、刃先部1のヒール部1Cからドリル回転方向T前方側へ向かうわずかな領域にしか形成されていない。
そのため、上述したようなヒール部1Cを含むランド部1Bにまで達するような大きなシンニング部6を形成した場合には、図10に示すように、このシンニング部6が形成されている分だけ、第2マージン部5における軸線O方向での先端の位置が、軸線O方向の後端側へ向かって大きく後退し、第1マージン部4の先端と第2マージン部5の先端との軸線O方向での距離hが非常に大きくなっている。
【0005】
ところで、このようなダブルマージンタイプのドリルを用いた穴明け加工としては、例えば、図11(a)〜(b)に示すように、予め被削材に形成されたクロス穴Cに対して、形成すべき加工穴Kがクロス穴Cの中心C1からずれた位置に向かって斜めに抜けるようにする穴明け加工があるが、このような場合には、刃先部1がクロス穴Cの内壁面へ抜けるときに、刃先部1の先端部分に対して軸線Oに交差する横方向(図中X方向)への力が加わることとなる。
しかしながら、従来のダブルマージンタイプのドリルにおいては、その第2マージン部5が、シンニング部6の存在によって軸線O方向の後端側へ大きく後退させられているため、刃先部1がクロス穴Cの内壁面へ抜けてからしばらくの間(刃先部1に与えられる軸線O方向の先端側への送り量が、上記の距離hとなるまでの間)は、形成した加工穴Kの出口部分の内壁面に対して第2マージン部5を接触させることができなかった。
【0006】
つまり、刃先部1の安定したガイド性を得るために第1,第2マージン部4,5を形成したのにもかかわらず、刃先部1がクロス穴Cへ抜けてからしばらくの間は、加工穴Kの出口部分の内壁面に対して第2マージン部5が接触せず、第1マージン部4のみによる刃先部1の不安定なガイドしかできなくなっているのである。
このため、図11におけるX方向での力に対しても安定した刃先部1のガイド性を得るということができなくなって、刃先部1の振れを生じさせるのであり、形成した加工穴Kの内壁面粗さの低下や、刃先部1の先端に形成された切刃3の他の壁面との接触による欠損(ひどい場合には刃先部1の折損)などを招いてしまっていた。
【0007】
また、従来のドリルでは、刃先部1の表面(刃先部1の先端逃げ面1A、ランド部1B及び切屑排出溝2の内壁面などの表面)に対して、硬質皮膜を被覆することにより、その耐摩耗性を向上させることがある。
しかしながら、形成される加工穴Kの内壁面に接触することになるマージン部(第1,第2マージン部4,5)が、このような比較的面粗さの粗い硬質皮膜によって被覆されていると、加工穴の内壁面粗さの悪化を招いてしまうのであり、とくに、加工穴の内壁面との摩擦によってマージン部(第1,第2マージン部4,5)の表面粗さが小さくなるという現象が生じていない切削初期段階での、加工穴の内壁面粗さの悪化が顕著であるという問題があった。
【0008】
さらに、従来のドリルでは、形成される加工穴Kの内壁面に接触することになるマージン部(第1,第2マージン部4,5)について、その内壁面との接触面積を減少させて切削抵抗の低減を図るために、刃先部1の外径が軸線O方向の後端側に向かうにしたがい一定の割合で漸次縮径するように、この刃先部1にバックテーパを付けることがある。
しかしながら、このようなバックテーパは刃先部1の全長に亘って付けられるため、刃先部1の外周面に対して十分な逃げを与えようとして大きなバックテーパを付けたときには、この軸線O方向の後端側へ向かって漸次外径が縮径する刃先部1は、その軸線O方向の後端側部分において必要以上に外径を小さくしてしまい、刃先部1の剛性低下を招くという問題があった。このような傾向は、とくに深穴の加工穴を形成するのに用いられるドリル、すなわち刃先部1の軸線O方向での長さが長く設定されたドリルにおいて顕著になってしまう。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、シンニング部を大きく形成したダブルマージンタイプのドリルであっても、第1,第2マージン部による刃先部のガイド作用を安定して奏することができるドリルを提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明は、軸線回りに回転されるドリル本体の先端側部分である刃先部の外周に後端側に向けて延びる切屑排出溝が形成され、この切屑排出溝のドリル回転方向前方側を向く内壁面と前記刃先部の先端逃げ面との交差稜線部に切刃が形成され、かつ、前記刃先部のランド部に、前記切屑排出溝のドリル回転方向後方側に隣接する第1マージン部と、前記切屑排出溝のドリル回転方向前方側に隣接する第2マージン部とが形成されたドリルにおいて、前記切屑排出溝の内壁面の先端側には、前記切刃の内周端側に連なるとともに前記ランド部にまで達するシンニング部が形成され、前記刃先部を前記軸線方向の先端側から見たときに、前記第2マージン部における最もドリル回転方向前方側に位置する点と前記軸線とを結ぶ直線Xと、前記先端逃げ面と前記シンニング部との交差稜線における前記ランド部に位置する外周端と前記軸線とを結ぶ直線Yとの交差角度が、前記直線Xが前記直線Yよりもドリル回転方向前方側に位置するときを正として、−5゜〜10゜の範囲に設定されていることを特徴とするものである。
このような本発明によれば、軸線方向の先端側から見たときの第2マージン部を、その最もドリル回転方向前方側に位置する点が上記のような範囲を満たすように位置させたことにより、シンニング部を刃先部のランド部に達するまでに亘る大きな領域で形成しても、その第2マージン部の軸線方向での先端を第1マージン部の軸線方向での先端に近づけることができて、これら第1マージン部の先端と第2マージン部の先端との軸線方向での距離を小さくすることが可能となっている。
これにより、たとえ、クロス穴の内壁面に対して斜めに抜けるような加工穴を形成する場合であっても、刃先部のクロス穴への抜け際において、第1マージン部と第2マージン部との両方を、形成される加工穴の出口部分の内壁面に接触させることができるので、これら第1,第2マージン部による刃先部の安定したガイド作用を呈することができる。
【0011】
また、前記刃先部の表面に硬質皮膜が被覆されているとともに、少なくとも前記第1マージン部及び前記第2マージン部の表面に対してポリッシュ加工が施されていることが好ましい。
このような構成とすると、比較的粗い面粗さとなる硬質皮膜を刃先部の表面に被覆して、その耐摩耗性の向上を図りつつも、形成される加工穴の内壁面に接触することとなるマージン部の表面に対してポリッシュ加工を施して、その表面粗さを小さく維持していることから、加工穴の内壁面粗さを不用意に悪化させてしまうことがない。
【0012】
また、前記刃先部は、その外径が前記軸線方向の後端側へ向かうにしたがい漸次縮径するバックテーパ部と、このバックテーパ部の後端に連なるとともに、その外径が前記軸線方向に沿って略一定とされたストレート部とから構成されていることが好ましい。
このような構成とすると、刃先部の先端側部分をなすバックテーパ部については、その外周面に対する逃げを十分に確保できるバックテーパを付けることが可能でありながらも、バックテーパ部の後端側に連なるとともに刃先部の後端側部分をなすストレート部については、その外径を略一定に維持して、バックテーパ部の後端における外径よりも小さくなることがないので、刃先部の剛性を不用意に低下させることがない。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を添付した図面を参照しながら説明する。
本実施形態によるドリルのドリル本体10は、図1に示すように、超硬合金等の硬質材料により軸線Oを中心とした略円柱状に形成されており、その後端側部分が工作機械の回転軸に把持されるシャンク部11とされるとともに、先端側部分が刃先部12とされている。
刃先部12は、その外径が軸線O方向の後端側へ向かうにしたがい一定の割合で漸次縮径するバックテーパ部12Aと、このバックテーパ部12Aの後端に滑らかに連なるとともに、その外径が軸線O方向に沿って略一定とされたストレート部12Bとから構成されている。このとき、バックテーパ部12Aの軸線O方向に沿った長さL1と、ストレート部12Bの軸線O方向に沿った長さL2との比L1:L2は、例えば、1:1〜1:6に設定されている。
【0014】
この刃先部12の外周には、先端逃げ面13から軸線O方向の後端側に向かうにしたがい一定のねじれ角でドリル回転方向T後方側にねじれる一対の切屑排出溝20,20が軸線Oに対して対称に形成されていて、これら切屑排出溝20,20のドリル回転方向T前方側を向く内壁面21,21と先端逃げ面13との交差稜線部にそれぞれ切刃30,30が形成されている。
【0015】
刃先部12の先端逃げ面13は、図2に示すように、切屑排出溝20,20が交差することによって切刃30,30がドリル回転方向T前方側の稜線部に形成された第一逃げ面13A,13Aと、これら第一逃げ面13A,13Aのドリル回転方向T後方側に連なる第二逃げ面13B,13Bとから構成された多段面状をなしていて、切刃30,30には、後述するシンニング部40,40も含めてドリル回転方向T後方側に向かうにしたがい多段的に大きくなるような逃げが与えられている。
さらに、この先端逃げ面13は、内周側から外周側に向かうにしたがい刃先部12の後端側に向けて傾斜させられており、切刃30,30に所定の先端角が付されるようになっている。
【0016】
なお、先端逃げ面13における第二逃げ面13B,13Bには、ドリル本体10の内部で、シャンク部11から軸線O方向の先端側へ向かって、切屑排出溝20と同様に、軸線O回りにねじれつつ延びる一対のクーラント穴10A,10Aがそれぞれ開口させられており、切削加工の際には、このクーラント穴10A,10Aから切削部位にクーラントが供給される。
【0017】
また、切屑排出溝20のドリル回転方向T前方側を向く内壁面21は、その外周側に位置して刃先部12のランド部50に交差し、軸線Oに直交する断面において、図5に示すように、ドリル回転方向T前方側に凸となる凸曲線状をなす第1凸曲面部22と、この第1凸曲面部22の内周側に位置して、同じく軸線Oに直交する断面において、ドリル回転方向T後方側に凹む凹曲線状をなす第1凹曲面部23とから構成されている。
【0018】
さらに、切屑排出溝20のドリル回転方向T後方側を向く内壁面24は、その外周側に位置してヒール部51に達し(刃先部12のランド部50に交差し)、軸線Oに直交する断面において、ドリル回転方向T後方側に凸となる凸曲線状をなす第2凸曲面部25と、この第2凸曲面部25の内周側に位置して、同じく軸線Oに直交する断面において、ドリル回転方向T前方側に凹む凹曲線状をなす第2凹曲面部26とから構成されている。
【0019】
そして、この切屑排出溝20は、そのドリル回転方向T前方側を向く内壁面21の第1凸凹曲面部22,23の断面がなす凸凹曲線同士が滑らかに接するように連ねられるとともに、ドリル回転方向T後方側を向く内壁面24の第2凸凹曲面部25,26の断面がなす凸凹曲線が滑らかに接するように連ねられ、かつ、両内壁面21,24の第1,第2凹曲面部23,26の断面がなす凹曲線同士が切屑排出溝20の溝底で滑らかに接するように連ねられている。
【0020】
このような切屑排出溝20のドリル回転方向T前方側を向く内壁面21と先端逃げ面13との交差稜線部に形成される切刃30においては、この内壁面21が第1凸凹曲面部22,23から構成されているため、図2に示すように、その外周側に、ドリル回転方向T前方側に凸となる曲線状をなす凸曲線状切刃部31が形成されて、その後端側に第1凸曲面部22が連なるとともに、この凸曲線状切刃部31の内周側に、ドリル回転方向T後方側に凹となる曲線状をなして凸曲線状切刃部31に滑らかに接して連なる凹曲線状切刃部32が形成されて、その後端側に第1凹曲面部23が連なっている。
これにより、これら凸凹曲線状切刃部31,32間で切刃30は軸線O方向の先端側から見て緩やかに湾曲するS字状を呈することとなる。なお、切刃30は、その外周側部分が凸曲線状切刃部31とされているため、切刃30がその外周端30Aにおいてなす径方向すくい角は負角側に設定される。
【0021】
また、切屑排出溝20のドリル回転方向T前方側及び後方側を向く内壁面21,24の先端側には、第1凹曲面部23の内周側から第2凹曲面部26及び第2凸曲面部25までの先端逃げ面13(第一逃げ面13A及び第二逃げ面13B)との交差稜線部分を、刃先部12の後端側に向かうにしたがい切屑排出溝20の内側に向けて切り欠くようにして、ヒール部51を含むランド部50にまで達するようなシンニング部40が形成されている。
【0022】
したがって、切刃30の内周端側は、このシンニング部40と第一逃げ面13Aとの交差稜線部に形成されて、凹曲面状切刃部32の内周端から先端逃げ面13の中心に位置する軸線Oに向けて延びるシンニング切刃部33とされている。
なお、切刃30において、このシンニング切刃部33と凹曲線状切刃部32とが交差する部分は、軸線O方向の先端側から見てドリル回転方向T前方側に凸となる曲線または直線によって滑らかに接続されている。
【0023】
この切屑排出溝20の内壁面21,24に交差して先端側に延びるシンニング部40において、切屑排出溝20におけるドリル回転方向T後方側を向く内壁面24と交差してランド部50(ヒール部51を含む)にまで達するように延在する部分は、ドリル回転方向T後方側に向かうにしたがい軸線O方向の後端側に向かって傾斜するような平面状に形成された平面状部分43とされている。
【0024】
一方、このシンニング部40において、切屑排出溝20におけるドリル回転方向T前方側及び後方側を向く内壁面21,24とが交差する部分、すなわち切屑排出溝20の溝底(第1,第2凹曲面部23,26同士が交差する部分)から先端逃げ面13の中心に位置する軸線Oに向けて延びる部分は、凹曲面状の谷形をなすように形成されており、その凹曲する谷底部41は、両内壁面21,24に対して刃先部12の内周側に後退するように傾斜しつつ、切刃30の内周端、すなわちシンニング切刃部33の内周端に向けて先端側に延びるように形成されている。
【0025】
ここで、刃先部12のバックテーパ部12Aにおける一対の切屑排出溝20,20を除く外周面、すなわちバックテーパ部12Aにおけるランド部50は、軸線Oに直交する断面で見たとき、図5に示すように、切屑排出溝20のドリル回転方向T前方側を向く内壁面21における第1凸曲面部22の外周側稜線部に交差して、軸線Oを中心とした略円弧状をなす第1マージン部52と、この第1マージン部52のドリル回転方向T後方側に連なり、第1マージン部52がなす円弧よりも一段小さい外径を有する軸線Oを中心とした略円弧状をなす二番取り面53と、この二番取り面53のドリル回転方向T後方側に連なり、切屑排出溝20のドリル回転方向T後方側を向く内壁面24における第2凸曲面部25の外周側稜線部(ヒール部51)と交差して、第1マージン部52がなす円弧と同一の外径を有する軸線Oを中心とした略円弧状をなす第2マージン部54とから構成されている。
【0026】
また、これら第1,第2マージン部52,54と二番取り面53は、切屑排出溝20と同様に、先端逃げ面13に交差する部分から軸線O方向の後端側に向かうにしたがいドリル回転方向T後方側にねじれるようにして、バックテーパ部12Aの軸線O方向での略全長に亘って形成されている。
さらに、第1,第2マージン部52,54及び二番取り面53のうち、切屑排出溝20のドリル回転方向T後方側に隣接する第1マージン部52とこのドリル回転方向T後方側に連なる二番取り面53とは、バックテーパ部12Aの略全長に亘って、軸線O回りの周方向での幅を略一定に維持しているのに対して、切屑排出溝20のドリル回転方向前方側に隣接する第2マージン部54は、バックテーパ部12Aの後端から軸線O方向の先端側へ向かう途中部分において、その周方向での幅を一段増大させている。
【0027】
そして、軸線O方向の先端側に向かって周方向の幅を一段増大させて延びてきた第2マージン部54は、その軸線O方向の先端部分において、シンニング部40におけるヒール部51を含むランド部50に達する平面状部分43と交差することになる。
このとき、バックテーパ部12Aを軸線O方向の先端側から見ると、図2に示すように、第1マージン部52は、その周方向での幅を軸線O方向で略一定に維持しているため、切刃30の外周端30Aからドリル回転方向T後方側へ向かって、第一逃げ面13Aと第二逃げ面13Bとの交差稜線部13Cの外周端13Dに至るまでのわずかの部分に形成されているのに対して、第2マージン部54は、シンニング部40が交差するヒール部51(ヒール部51における軸線O方向の先端51A)からドリル回転方向T前方側へ向かって、第二逃げ面13Bとシンニング部40との交差稜線部42の外周端42A付近に至るまでの大きな部分に形成されている。
【0028】
より具体的に言うと、この第2マージン部54は、軸線O方向の先端側から見たときに、第2マージン部54における最もドリル回転方向T前方側に位置する点54Aと軸線Oとを結ぶ直線Xと、第二逃げ面13B(先端逃げ面13)とシンニング部40との交差稜線部42の外周端42Aと軸線Oとを結ぶ直線Yとがなす交差角度θが、上記の直線Xが上記の直線Yよりもドリル回転方向T前方側に位置するときを正として、−5゜〜10゜の範囲に設定されているのである。
なお、本実施形態においては、軸線O方向の先端側から見たときに、第2マージン部54における最もドリル回転方向T前方側に位置する点54Aが、第二逃げ面13Bとシンニング部40との交差稜線部42の外周端42Aと略一致させられており、上記の直線X,Yがなす交差角度θは、0゜に設定されている。
【0029】
ここで、第2マージン部54がその軸線O方向の先端部分で交差するシンニング部40の平面状部分43は、ドリル回転方向T後方側に向かうにしたがい軸線O方向の後端側に傾斜していることから、この第2マージン部54の先端部分は、そのドリル回転方向T後方側の部分が、シンニング部40の平面状部分43によって幅方向に交差する斜め方向に切り欠かれている。
したがって、軸線O方向の先端側へ向かって周方向での幅を一段増大させて延びてきた第2マージン部54は、シンニング部40の平面状部分43と交差する部分にさしかかる領域、つまり、ヒール部51における軸線O方向での先端51Aよりも軸線O方向の先端側の領域では、その周方向での幅を軸線O方向の先端側へ向かうにしたがい漸次減少させてゆき、第2マージン部54における軸線O方向の最も先端側に位置する点に至るのである。
【0030】
そして、この第2マージン部54における軸線O方向の最も先端側に位置する点は、軸線O方向の先端側から見たときの第2マージン部54における最もドリル回転方向T前方側に位置する点54Aと一致させられるため、この点54A付近において、第2マージン部54における周方向での幅が約0となる。
なお、本実施形態では、軸線O方向の先端側から見て、第2マージン部54における最もドリル回転方向T前方側に位置する点54Aが、第二逃げ面13Bとシンニング部40との交差稜線部42の外周端42Aと略一致させられているため、第2マージン部54の周方向での幅は、この点54Aにおいて0となる。
【0031】
また、このバックテーパ部12Aは、その外径が軸線O方向の後端側へ向かうにしたがい一定の割合で漸次縮径している(例えば、0.35/100〜0.40/100)、すなわち、ランド部50を構成する第1,第2マージン部52,54の軸線Oに直交する断面を円弧とする仮想の円の外径が、軸線O方向の後端側へ向かうにしたがい一定の割合で漸次縮径していくようになっている。
これにともない、バックテーパ部12Aにおける第1,第2マージン部52,54同士の間に位置する二番取り面53の、軸線Oに直交する断面を円弧とする仮想の円の外径も、このバックテーパ部12Aの軸線O方向の後端側へ向かうにしたがい一定の割合で漸次縮径していくようになっている。そのため、二番取り面53の二番取り深さaは、バックテーパ部12Aの略全長に亘って、一定の値(例えば0.05mm〜0.10mm)に設定されることとなる。
【0032】
そして、このバックテーパ部12Aの後端側に連なるストレート部12Bは、そのランド部50が、図示はしないが軸線Oに直交する断面で見たとき、切屑排出溝20のドリル回転方向T前方側を向く内壁面21における第1凸曲面部22の外周側稜線部に交差する部分から、ドリル回転方向T後方側に向かって、切屑排出溝20におけるドリル回転方向T後方側を向く内壁面24における第2凸曲面部25の外周側稜線部(ヒール部51)に交差する部分までに亘って、軸線Oを中心とした略円弧状をなすマージン部55とされている。
また、このマージン部55は、切屑排出溝20と同様に、バックテーパ部12Aの後端と接続されるストレート部12Bの先端から軸線O方向の後端側に向かうにしたがいドリル回転方向T後方側にねじれるようにして、ストレート部12Bの軸線O方向の略全長に亘って形成されている。
【0033】
ここで、ストレート部12Bの外径、すなわち、ランド部50を構成するマージン部55の断面がなす円弧の外径は、バックテーパ部12Aのランド部50を構成する二番取り面53の断面がなす円弧の外径よりもわずかに小さく設定されており、ストレート部12Bの先端は、バックテーパ部12Aの後端に対して、わずかな段差を介して連なっている。
【0034】
すなわち、刃先部12において、そのストレート部12Bのランド部50を構成しているマージン部55が、ストレート部12Bの後端から軸線O方向の先端側へ向かって延びていくと、ストレート部12Bの先端(バックテーパ部12Aの後端)にさしかかるにあたって、バックテーパ部12Aのランド部50における第1,第2マージン部52,54及び二番取り面53にわずかな段差を介して連なるのである。
【0035】
また、本実施形態においては、ドリル本体10における刃先部12の表面、すなわち、刃先部12の外周面であるランド部50、先端逃げ面13、切屑排出溝20の内壁面21,24及びシンニング部40などの表面に対して、TiN、TiCN、TiAlN等の硬質皮膜が被覆されている。
そして、硬質皮膜が被覆された刃先部12の表面の全面に亘って、例えばダイヤモンド粒子等の硬質粒子を含んだペーストをブラシに塗布して磨いたりすることにより、ポリッシュ加工が施されており、これによって、その表面粗さRa(JIS B 0601−1994に規定される算術平均粗さ)が、Ra=0.1μm〜0.3μmの範囲に設定されている(ポリッシュ加工を施す前の状態では、Ra=0.5μm〜1.0μm)。
なお、表面粗さRaに代えて、表面粗さRz(JIS B 0601−2001に規定される十点平均粗さ)によって表現した場合には、ポリッシュ加工を施した後の表面粗さRzが、Rz=0.4μm〜1.2μmの範囲に設定されていることになる(ポリッシュ加工を施す前の状態では、Rz=2.0μm〜4.0μm)。
【0036】
以上のような構成とされた本実施形態によるドリルにおいては、その刃先部12のバックテーパ部12Aのランド部50に形成された第2マージン部54が、軸線O方向の先端側から見たときには、その最もドリル回転方向T前方側に位置する点を、第二逃げ面13Bとシンニング部40との交差稜線部42の外周端42A付近に位置させるようにして、ヒール部51からドリル回転方向T前方側に向かって大きな範囲に亘って形成されている。
このため、第2マージン部54における軸線O方向の先端(点54A)も、第二逃げ面13Bとシンニング部40との交差稜線部42の外周端42A付近に位置させられることになり、これにともない、第1マージン部52における軸線O方向の先端と第2マージン部54における軸線O方向の先端との軸線O方向に沿う距離hが、従来のダブルマージンタイプのドリルの場合よりもはるかに小さくなっている(例えば、上記の距離hは、刃先部12の最大外径D(刃先部12の先端での外径)に対して、0.07D〜0.20Dの範囲に設定される)。
【0037】
したがって、例えば、図6(a)〜(c)に示すように、予め被削材に形成されたクロス穴Cに対して、形成すべき加工穴Kをクロス穴Cの中心C1からずれた位置に向けて斜めに抜けるような穴明け加工を施す場合であっても、刃先部12がクロス穴Cの内壁面へ抜けると、ただちに第1,第2マージン部52,54の両方が、加工穴Kにおけるクロス穴Cの内壁面への開口部を構成する出口部分の内壁面に接触することとなり、これら第1,第2マージン部52,54によって、刃先部12を安定してガイドすることが可能となる。
【0038】
それゆえ、刃先部12がクロス穴Cの内壁面への抜けるときに、刃先部12の先端部分に対して軸線O方向に交差する横方向(図中X方向)へ力が加わったとしても、第1,第2マージン部52,54によるガイド作用により、刃先部12の振れを生じにくくすることが可能となり、形成した加工穴Kの内壁面粗さを良好に保つことができるとともに、切刃30が他の壁面との接触することによって生じる欠損や、刃先部12の折損などが生じてしまうおそれを低減することができる。
【0039】
ここで、軸線O方向の先端側から見たときの第2マージン部54における最もドリル回転方向T前方側に位置する点54Aについて、上記の交差角度θが−5゜よりも小さくなるように位置させられていると、第1マージン部54の先端と第2マージン部54の先端(点54A)との軸線O方向での距離hを十分に小さく設定することができなくなってしまうおそれがある。
一方、上記の点54Aについて、上記の交差角度θが10゜よりも大きくなるように位置させられていると、加工穴Kの内壁面に接触するマージン部54の面積が大きくなり、穴明け加工において生じる切削抵抗の増大を招いてしまうおそれがある。
【0040】
また、本実施形態によるドリルにおいては、刃先部12が、その先端側部分を構成するバックテーパ部12Aと後端側部分を構成するストレート部12Bとから構成されていることから、そのうちのバックテーパ部12Aについては、ランド部50に形成された第1,第2マージン部52,54に対して、軸線O方向の後端側に向かうにしたがい大きくなるような逃げを与えることによって、これら第1,第2マージン部52,54における軸線O方向の先端側部分のみを加工穴Kの内壁面に接触させて、穴明け加工の際の切削抵抗の増大を抑制することができている。
【0041】
そして、このバックテーパ部12Aの外径が一番小さくなって十分な逃げが与えられたバックテーパ部12Aの後端よりも、軸線O方向の後端側に位置する刃先部12、つまり、バックテーパ部12Aの後端に滑らかに接続されたストレート部12Bは、バックテーパ部12Aの後端での外径と略同一の外径を軸線O方向で略一定に維持していることから、刃先部12の剛性を必要以上に低めてしまうことがない。
このように、刃先部12をバックテーパ部12Aとストレート部12Bとから構成すると、刃先部12の略全長に亘ってバックテーパを付けたときにとくに剛性の低下を招きやすくなる深穴加工用のドリル、すなわち、刃先部12の軸線O方向に沿った長さLが長く設定されたドリルにおいて、顕著な効果を発揮することができる。
なお、深穴加工用のドリルとは、例えば、図1に示すように、刃先部12の軸線O方向に沿った長さL(=L1+L2)と、刃先部12の最大外径D(刃先部12の先端での外径)との比L/Dが、5〜30の範囲に設定されたような場合のことをいう。
【0042】
また、本実施形態によるドリルにおいては、刃先部12の表面に対して硬質皮膜が被覆された後に、少なくとも第1,第2マージン部52,54の表面(本実施形態では、刃先部12の表面全体)に対してポリッシュ加工が施されて、その表面粗さが小さく設定されている(Ra=0.1μm〜0.3μm)ことから、形成される加工穴Kの内壁面に接触することになるこれら第1,第2マージン部52,54によって加工穴Kの内壁面を荒らしてしまうことを防止できる。
つまり、刃先部12の表面に硬質皮膜を被覆して耐摩耗性の向上を図りつつも、この硬質皮膜によって比較的面粗さが大きくなりがちとなる第1,第2マージン部52,54に対してポリッシュ加工を施すことにより、加工穴Kの内壁面を荒らさないようにしているのであり、加工穴Kの内壁面との摩擦によって第1,第2マージン部52,54の表面粗さが小さくなるという現象が生じていない切削初期段階においても、加工穴Kの内壁面粗さを良好に保つことができる。
【0043】
さらに、本実施形態では、硬質皮膜が被覆された刃先部12の表面全体に対してポリッシュ加工を施していることから、その切屑排出溝20の内壁面21,24についても、ポリッシュ加工が施されてその表面粗さRaが0.1μm〜0.3μmと小さく設定されている。
このため、切刃30にて生成される切屑が、切屑排出溝20によって刃先部12の後端側へ誘導されていく際に、この切屑排出溝20の内壁面21,24に摺接するときの摩擦抵抗を少なくすることが可能となり、切屑のスムーズな排出を促して切屑詰まりが生じるのを抑制でき、刃先部12の折損等の防止につながるのである。
【0044】
ここで、ポリッシュ加工が施された後の第1,第2マージン部52,54の表面粗さRaについて、0.1μmよりも小さく設定するようにすると、このポリッシュ加工を施すために多大な労力と時間を要するおそれがあり、逆に、0.3μmよりも大きく設定したのであれば、形成される加工穴Kの内壁面粗さを良好に保つことができなくなってしまうおそれがある。
【0045】
以上説明した実施形態では、ドリル本体10の内部を貫通形成されたクーラント穴10Aについて、その先端逃げ面13における第二逃げ面13Bへの開口部は、単に丸穴状をなしているだけであるが、例えば、図7に示すように、クーラント穴10Aの丸穴状の開口部から、ドリル回転方向T後方側に向かって、切屑排出溝20のドリル回転方向T後方側を向く内壁面24における第2凹曲面部26に交差するまでの部分(第二逃げ面13B及びシンニング部40の平面状部分43)を切り欠くことにより、断面凹溝状の切欠面10Bを形成してもよく、クーラント穴10Aから供給されるクーラントを効率よく切屑排出溝20内まで導入することが可能となる。
【0046】
【実施例】
本発明の一例によるダブルマージンタイプのドリルを実施例とし、従来のダブルマージンタイプのドリルを従来例として切削試験を行った。その結果を図8に示す。
本発明の一例である実施例においては、加工穴の入口部分及び出口部分の内壁面粗さを小さく良好に維持できているのに対し、従来例においては、加工穴の入口部分及び出口部分の内壁面粗さが悪化していることが分かる。
【0047】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、シンニング部を刃先部のランド部に達するまでの大きな領域に亘って形成したとしても、軸線方向の先端側から見たときの第2マージン部が大きな範囲で形成されることから、この第2マージン部の軸線方向での先端と第1マージン部の先端との軸線方向での距離を小さく設定することができる。
これにより、例えばクロス穴の内壁面に対して斜めに抜けるような加工穴を形成するときの、刃先部のクロス穴への抜け際においても、第1マージン部と第2マージン部との両方を加工穴の出口部分の内壁面に接触させ、これら第1,第2マージン部による安定したガイド作用を奏させて、刃先部の振れを抑制することが可能となるので、加工穴の内壁面粗さを良好に保つことができるとともに、切刃の欠損や刃先部の折損などが生じるおそれも低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態によるドリルを示す側面図である。
【図2】本発明の実施形態によるドリルの刃先部の先端面図である。
【図3】図2におけるA方向矢視図である。
【図4】図2におけるB方向矢視図である。
【図5】図1におけるC−C線断面図である。
【図6】本発明の実施形態によるドリルを用いた穴明け加工の様子を示す説明図である。
【図7】本発明の実施形態によるドリルの刃先部の変形例を示す先端面図である。
【図8】本発明の一例によるドリルと従来のドリルとを用いた切削試験のデータである。
【図9】従来のドリルの刃先部を示す先端面図である。
【図10】従来のドリルの刃先部を示す側面図である。
【図11】従来のドリルを用いた穴明け加工の様子を示す説明図である。
【符号の説明】
10 ドリル本体
12 刃先部
12A バックテーパ部
12B ストレート部
13 先端逃げ面
20 切屑排出溝
30 切刃
40 シンニング部
42 交差稜線部
42A 外周端
50 ランド部
51 ヒール部
52 第1マージン部
54 第2マージン部
Claims (3)
- 軸線回りに回転されるドリル本体の先端側部分である刃先部の外周に後端側に向けて延びる切屑排出溝が形成され、この切屑排出溝のドリル回転方向前方側を向く内壁面と前記刃先部の先端逃げ面との交差稜線部に切刃が形成され、かつ、前記刃先部のランド部に、前記切屑排出溝のドリル回転方向後方側に隣接する第1マージン部と、前記切屑排出溝のドリル回転方向前方側に隣接する第2マージン部とが形成されたドリルにおいて、
前記切屑排出溝の内壁面の先端側には、前記切刃の内周端側に連なるとともに前記ランド部にまで達するシンニング部が形成され、
前記刃先部を前記軸線方向の先端側から見たときに、
前記第2マージン部における最もドリル回転方向前方側に位置する点と前記軸線とを結ぶ直線Xと、前記先端逃げ面と前記シンニング部との交差稜線における前記ランド部に位置する外周端と前記軸線とを結ぶ直線Yとの交差角度が、前記直線Xが前記直線Yよりもドリル回転方向前方側に位置するときを正として、−5゜〜10゜の範囲に設定されていることを特徴とするドリル。 - 請求項1に記載のドリルにおいて、
前記刃先部の表面に硬質皮膜が被覆されているとともに、少なくとも前記第1マージン部及び前記第2マージン部の表面に対してポリッシュ加工が施されていることを特徴とするドリル。 - 請求項1または請求項2に記載のドリルにおいて、
前記刃先部は、その外径が前記軸線方向の後端側へ向かうにしたがい漸次縮径するバックテーパ部と、このバックテーパ部の後端に連なるとともに、その外径が前記軸線方向に沿って略一定とされたストレート部とから構成されていることを特徴とするドリル。
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