JP2004189627A - リガンドの脱離可能なリガンド−カチオン性ポリマー複合体および、該ポリマー複合体を固定化させた材料およびそれを用いたカラム - Google Patents
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Abstract
【課題】特定の細胞を簡単、大量に回収するためのリガンド−カチオン性ポリマー複合体およびそれを用いた材料を提供する。
【解決手段】カチオン性ポリマーとリガンドを含むリガンド−カチオン性ポリマー複合体であって、複合化したリガンドを外部刺激によって脱離できるリガンド−カチオン性ポリマー複合体。
【選択図】なし
【解決手段】カチオン性ポリマーとリガンドを含むリガンド−カチオン性ポリマー複合体であって、複合化したリガンドを外部刺激によって脱離できるリガンド−カチオン性ポリマー複合体。
【選択図】なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、血液中の病因物質や有用物質を除去回収したり、あるいは幹細胞やリンパ球系の細胞などの特定の細胞を分離回収する材料のために利用でき、さらに該材料を再利用するため、外部刺激により材料に固定化されたリガンドが脱離することを特徴とするリガンド−カチオン性ポリマー複合体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、リガンド、特に抗体を用いて抗体と相互作用する細胞を選択的に分離する試みがなされている。かかる試みは抗体を担体に固定化した材料を用い、ここに血液細胞などの細胞群を流すことにより、抗体と相互作用するある特定の細胞だけを除去する技術が検討されている。例えば、ヒト表面抗原を認識する抗体を不織布に固定化し、特定の血球成分を除去することを試みている。しかし、このような技術では、抗体と相互作用する細胞が除去されるだけであり、それらの細胞を担体表面から回収し、さらに利用することは困難である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特定の細胞を回収する技術としては、フローサイトメトリーによる方法や最近では磁気ビーズ法(例えば、非特許文献1参照))などがあげられるが、いずれも少量の細胞を対象としており、細胞と標識抗体とを反応させた後、分離作業をするという非常に煩雑な操作が必要であり、特定の細胞を大量に回収する際は、時間、コストがかかることが問題であった。
【0004】
また、これら担体になんらかの物質を固定化する際は、臭化シアンで活性基を表面に導入したり、スクシンイミド基、α−クロロアセトアミドメチル基などの活性基を表面に導入したり、担体官能基と物質の官能基を結合させてやるためにカルボジイミドなどを利用したりして、物質を共有結合などにより固定化してやる必要があった(例えば、非特許文献1参照)。これらの手法は研究用途などでは頻繁に用いられているが、医療用途などに用いる場合は、製造コストがかかってしまう問題があった。さらに医療用途の場合は製品を滅菌しなければならないが、抗体などのリガンドは、放射線や熱による滅菌により失活してしまうため、抗体などのリガンドを固定化したような医療用具を製造する場合が、製造プロセスをすべて無菌状態にして製造するなどされており、莫大な製造コストを必要としている。
【0005】
【非特許文献1】
ポール・T・シャープ(P.T.Sharpe),「生化学実験法13−細胞分離法−」,第1版,1991年,東京化学同人,p.151〜190
【0006】
【特許文献1】
国際公開第97/027878号パンフレット
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明では、上記従来技術の問題に対し、特定の細胞を簡単、大量に回収するためのリガンド−カチオン性ポリマー複合体およびそれを用いた材料を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明は主として下記構成を有する。
「外部刺激によりリガンドが脱離できるリガンド−カチオン性ポリマー複合体または該ポリマー複合体を固定化させた材料およびそれを用いたカラム」
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明は、カチオン性ポリマーとリガンドを含むリガンド−カチオン性ポリマー複合体であって、複合化したリガンドを外部刺激によって脱離できるリガンド−カチオン性ポリマー複合体を固定化した材料である。
【0010】
本発明において使用するカチオン性ポリマーとしては、カチオン性を有するポリマーであればいずれのポリマーも利用できるが、特に、アミノ基を含有するポリマーがリガンドへの反応性や取り扱い易さの点から好適である。アミノ基含有ポリマーの例としては、ポリアルキレンイミン、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ジアルキルアミノアルキルデキストラン、ポリリシン、ポリオルニチン、ポリヒスチジン、ポリアルギニン、アジリジン(エチレンイミン)化合物を有するポリマー、ポリアルキレンイミン誘導体、キチン、キトサン、およびそれらに置換基の導入されたもの、およびこれらを構成するモノマー単位からなる共重合体などがあげられる。アミノ基含有ポリマーのなかでもポリアルキレンイミンおよびその誘導体が好ましい。
【0011】
ポリアルキレンイミンには、分子量600以上の直鎖状、分岐状のものが好ましく用いられる。
【0012】
また、ポリアルキレンイミン誘導体としては、ポリアルキレンイミンをアルキル化、カルボキシル化、フェニル化、リン酸化、スルホン化など、所望の割合で誘導体化したものがあげられる。
【0013】
カチオン性ポリマーの中でも毒性の低さ、入手のしやすさ、取り扱いのしやすさなどから、分岐状のポリエチレンイミンやジエチルアミノエチルデキストランが特に好適に用いられる。
【0014】
本発明に使用するリガンドは、細胞や病因物質などのターゲット物質と相互作用をもつものであれば、合成品でも天然物でもよいが、特異性の点から抗体あるいはレセプターであることが望ましい。用いる抗体は、例えば、抗CD1a抗体、抗CD1b抗体、抗CD1c抗体、抗CD2抗体、抗CD3抗体、抗CD4抗体、抗CD8抗体、抗CD10抗体、抗CD11a抗体、抗CD11b抗体、抗CD11c抗体、抗CDw12抗体、抗CD13抗体、抗CD14抗体、抗CD15抗体、抗CD16a抗体、抗CD16b抗体、抗CD18抗体、抗CD19抗体、抗CD20抗体、抗CD22抗体、抗CD23抗体、抗CD24抗体、抗CD25抗体、抗CD26抗体、抗CD27抗体、抗CD28抗体、抗CD30抗体、抗CD31抗体、抗CD32抗体、抗CD33抗体、抗CD34抗体、抗CD38抗体、抗CD40抗体、抗CD42a抗体、抗CD44抗体、抗CD45抗体、抗CD45RA抗体、抗CD45RO抗体、抗CD49d抗体、抗CD50抗体、抗CD54抗体、抗CD56抗体、抗CD57抗体、抗CD58抗体、抗CD61抗体、抗CD62L抗体、抗CD62P抗体、抗CD66抗体、抗CD69抗体、抗CD70抗体、抗CD71抗体、抗CD80抗体、抗CD81抗体、抗CD86抗体、抗CD95抗体、抗CD102抗体、抗CD105抗体、抗CD106抗体、抗CD109抗体、抗CDw119抗体、抗CD120a抗体、抗CD120b抗体、抗CD121a抗体、抗CDw121b抗体、抗CD122抗体、抗CD123抗体、抗CD126抗体、抗CDw128a抗体、抗CD130抗体、抗CDw131抗体、抗CD132抗体、抗CD133抗体、抗CD134抗体、抗CD105抗体、抗CD138抗体、CD152抗体、抗CD154抗体、抗CD199抗体、抗低比重リポ蛋白質(LDL)抗体、抗酸化LDL抗体、抗β2ミクログロブリン抗体、抗CCR1抗体、抗CCR2抗体、抗CCR3抗体、抗CCR4抗体、抗CCR5抗体、抗CCR7抗体、抗CXCR3抗体、抗CX3CR1抗体、抗CXCR5抗体、抗CXCR1抗体などが挙げられるが、これらに限定されない。また 、レセプターとしては例えば、CCR1、CCR2、CCR3、CCR4、CCR5、CCR7、CXCR1、CXCR3、CX3CR1、CXCR5等のサイトカインレセプターやFcγ,Fcε等のイムノグロブリンレセプター、RAGE,LDLレセプター等のスカベンジャ−レセプター等,T細胞レセプターや主要組織適合性抗原等の細胞認識レセプター等が挙げられるが、これらに限定されない。これらの抗体やレセプターは単独で固定化しても良いし、複数の抗体やレセプターを組み合わせても良い。抗体は、アフィニティーの高さからモノクローナル抗体が好ましい。
【0015】
これら抗体やレセプターは目的によって種々選定することができ、血液中の有用物質や病因物質を特異的に除去、回収する場合は細胞、無機物、タンパク質、DNA、脂質、糖、ウィルスなどがターゲットとして挙げられる。例えば、抗CD2抗体を用いればT細胞およびNK細胞を分離でき、抗CD3抗体を用いればT細胞をを分離でき、抗CD4抗体を用いればヘルパーT細胞を分離でき、抗CD8抗体を用いればサイトトキシックT細胞を分離でき、抗CD11aを用いれば白血球を分離でき、抗CD11bを用いれば単球を分離でき、抗CD14抗体を用いれば単球やマクロファージを分離でき、抗CD15抗体を用いれば顆粒球やミエロイド細胞を分離でき、抗CD16細胞を用いれば好中球あるいは休止期NK細胞を分離でき、抗CD19抗体を用いればB細胞を分離でき、抗CD22抗体を用いればB細胞を分離でき、抗CD27抗体を用いればナイーブB細胞やメモリーB細胞を分離でき、抗CD30抗体を用いれば活性化B細胞および活性化T細胞を分離でき、抗CD33細胞を用いれば単球、顆粒球およびミエロイド細胞を分離でき、抗CD34抗体を用いれば造血幹細胞を分離でき、抗CD45抗体を用いれば白血球を分離でき、抗CD56抗体を用いればNK細胞を分離でき、抗CD61抗体を用いれば巨核球及びその前駆細胞を分離でき、抗CD66抗体を用いれば顆粒球を分離でき、抗CD69抗体を用いれば活性化T細胞や活性化B細胞やNK細胞を分離でき、抗CD71抗体を用いれば赤芽球や活性化されたリンパ芽球を分離でき、抗CD105抗体を用いれば内皮細胞、抗CD133抗体を用いれば神経幹細胞を分離できる。
【0016】
カチオン性ポリマーに複合化したリガンドを脱離させる外部刺激としては光、熱、pH、塩濃度、化学反応などがあるが、リガンドの安定性などから化学反応により化学結合を切断してリガンドが脱離される方法が好ましく、化学的な結合が切断される反応として、加水分解反応、酸化反応、還元反応、酵素反応などがあげられる。このなかでも、水中での反応の安定性の点から、還元反応が好ましく、特に、ジスルフィド結合を還元剤による還元反応により切断させる反応は、タンパク質のリフォールディングなど生体内で良く行われる反応であり、リガンドを脱離する反応として好適である。また、この還元反応で使用する還元剤としてはジチオスレイトール、メルカプトエタノール、システイン、還元型グルタチオンなどがあげられる。
【0017】
次にリガンドをカチオン性ポリマーに結合し、複合体とする方法について説明する。
【0018】
リガンドがタンパク質である場合は、タンパク質自身もジスルフィド結合を有することもあるので、リガンドを直接カチオン性ポリマーに複合化しても良いが、架橋剤を利用してカチオン性ポリマーにジスルフィド結合を介してリガンドを固定化してもよい。固定化の反応としては、メルカプト基同士の酸化反応やあるいはジスルフィド交換反応を利用してジスルフィド結合を形成させる反応が利用できる。
【0019】
また、架橋剤を利用する場合には、ポリマー同士あるいはリガンド同士の結合を防ぐため二種類の違った官能基と反応する活性化基をもつ架橋剤を使用することが好ましく、活性化基としてアミノ基と反応するN−ヒドロキシスクシンイミド基、イミドエステル基、ニトロアリールハライド基、イミダゾリルカルバミン酸基、メルカプト基と反応するマレイミド基、ピリジルジスルフィド基、チオフタルイミド基、活性化ハロゲン基、光化学反応により架橋をするフェニルアジド基、ジアゾカルベン基などを持つような架橋剤を利用することができる。
【0020】
なかでもアミノ基とpH7〜9で反応性があるN−ヒドロキシスクシンイミド基をもつ架橋剤はカチオン性ポリマーとリガンドとの結合に好適であり、また、ピリジンジスルフィド基をもつ架橋剤はジスルフィド交換反応による架橋によりジスルフィド結合を形成することから本発明に好適に用いることができる。このような二つの活性化基をもつ架橋剤として、N−スクシンイミジル 3−(2−ピリジルジチオ)−プロピオネート、スルフォスクシンイミジル6−[3’(2−ピリジルジチオ)−プロピオンアミド]ヘキサノエート、スクシンイミジル6−[3’(2−ピリジルジチオ)−プロピオンアミド]ヘキサノエート、N−((2−ピリジルジチオ)エチル)−4−アジドサリシルアミドなどがあげられる。
【0021】
また、ピリジンジスルフィド基をもつようなカチオン性ポリマーとリガンドのメルカプト基を反応させる場合には、リガンドにピリジンジスルフィド基を導入して、還元し、メルカプト基を導入することができる。この際、リガンドが抗体である場合は、抗体自体の還元を防ぐために酢酸緩衝液中などで還元することにより抗体自身の還元を抑えることができ、この際、限外ろ過膜やゲルろ過カラムにより使用した還元剤を除くことが可能である。また、リガンドが抗体である場合は、抗体をペプシンなどの分解酵素で消化し、抗体の可変部位のみに精製した後、生成するメルカプト基を用いることができる。
【0022】
逆に、メルカプト基をもつカチオン性ポリマーを用いる場合には、リガンドにピリジンジスルフィド基を導入したものと反応させればよい。
【0023】
メルカプト基を導入する場合は、イミノチオランを利用すれば、一段階でメルカプト基を導入できる。
【0024】
カチオン性ポリマーに結合させるリガンド密度は高い方が望ましいが、反応に用いる架橋剤の濃度や反応時間により制御することができるので、適宜選ぶことができる。例えば、上記方法でのリガンドへのピリジルジスルフィド基の導入率は1以上であることが必要であるが、導入率を上げるためにピリジルジスルフィド化剤の仕込量を上げるとリガンドがタンパク質の場合は失活したり、凝集したりするおそれがある。この場合、仕込量はリガンド1モルあたり10モル以下が望ましい。
【0025】
また、N−ヒドロキシスクシンイミド基を有する架橋剤を用いる場合は、アミノ基を持つカチオン性ポリマーを使用する必要があり、カチオン性ポリマーにアミノ基がない場合は、ポリマー内にアミノ基を導入する必要があり、官能基をアミノ基に変換する反応、アミノ基をもつ低分子物質を結合させる反応、あるいは、アミノ基を持つモノマーを共重合させることにより達成できる。
【0026】
また、N−ヒドロキシスクシンイミド基とピリジルジスルフィド基を持つような架橋剤は、ポリスルホン系のポリマーを使用する際に吸着しやすいため、メタノール、エチレングリコール、グリセリンなどで架橋剤を溶解し、反応後ポリスルホン系材料を溶解しない有機溶媒でポリマーを洗浄することが望ましい。
【0027】
以上のような反応を例として、ジスルフィド結合を介してカチオン性ポリマーにリガンドを結合できるが、この反応に限定されない。
【0028】
【化1】
【0029】
本発明のリガンド−カチオン性ポリマー複合体は、この物質そのものを細胞分離剤として用いることができる。赤血球表面は陰性荷電の状態で血液中に浮遊しており、陽性荷電であるカチオン性ポリマーを添加すると赤血球同士が架橋し、沈降する。本発明のリガンド−カチオン性ポリマー複合体を添加すると、リガンドと相互作用をもつ細胞や病因物質(ターゲット物質)といっしょに赤血球が沈降する。この沈降物を分離した後、外部刺激を用いて沈降物中の複合体を脱離させるとターゲット物質と赤血球は分離され、赤血球を比重遠心法や溶血により除去してやれば、ターゲット物質を回収できる。
【0030】
本発明のリガンド−カチオン性ポリマー複合体は、透析膜や繊維をはじめとして種々の分離膜やフィルムなどの材料に固定化させて利用することが出来る。この際用いる材料の素材は、特に限定しないが、医療用に用いられている素材が好ましく、例えば、ポリ塩化ビニル、セルロース系ポリマー、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリウレタンおよびそれらの誘導体やブレンド体などが挙げられるが、カチオン性ポリマー複合体を固定化させるには、素材がアニオン性を帯びている方がカチオン性ポリマーとの静電相互作用により固定化し易い。このため、アニオン性物質自体を素材として使用したり、あるいはアニオン物質をブレンドした素材、アニオン物質を浸漬または付着させ、放射線照射などにより固定化した素材、素材に活性基を導入しておき、アニオン物質を固定化した素材などが用いられる。アニオン性物質は低分子であっても、高分子であってもよい。これらの用途で使用されるアニオン性材料の官能基としては、側鎖あるいは主鎖にカルボキシ基、硫酸基、硫酸水素基、リン酸基、ニトロ基などであり、例えば、ポリマーとしては、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、DNA、RNA、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、デキストラン硫酸、アルギン酸、コロミン酸、ペクチン酸、グリコサミノグリカンを有するポリマーなどがあげられる。
【0031】
本発明のリガンド−カチオン性ポリマー複合体を固定化させることができる材料の形状としては、フィルム状、粒子状、中空糸状、繊維状、平膜状、スポンジ状、カットファイバーなど何でもよいが、閉鎖系で圧力損失を伴わず、細胞を傷つけず体外循環できる利点から、中空糸あるいは平膜が望ましい。また、表面積を確保する点からこれらは多孔質であることがのぞましく、多孔質材料を用いる場合は、透析やろ過機能を付与することができ、血液浄化、細胞分離用途のみならず、バイオリアクターなどの細胞培養用材料としても用いることができる。また、多孔質材料の場合は、製造条件を制御することにより孔の制御も可能である。
【0032】
本発明のカラム内には上記材料が充填されており、血液や細胞などが通過、循環が可能である。
【0033】
材料をカラムとして利用する場合、特に中空糸を用いる場合は公知の方法にて製造され、特に限定されるものではないが、一例を示すと次の通りである。まず、中空糸膜を必要な長さに切断し、必要本数を束ねた後、筒状ケースに入れる。その後両端に仮のキャップをし、中空糸膜両端部にポッティング剤を入れる。このとき遠心機でモジュールを回転させながらポッティング剤を入れる方法は、ポッティング剤が均一に充填されるために好ましい方法である。ポッティング剤が固化した後、中空糸膜の両端が開口するように両端部を切断し、中空糸膜モジュールを得る。
【0034】
リガンドが蛋白質のような失活しやすいものであれば、リガンド−カチオン性ポリマー複合体を材料に固定化する際に、リガンド−カチオン性ポリマー複合体の溶液を溶液状態で無菌ろ過滅菌した後、無菌状態の材料に固定化させれば、簡単に無菌状態の材料が作製できる。
【0035】
また、リガンド−カチオン性ポリマー複合体を材料に固定化したあとに放射線や熱処理することにより、リガンド−カチオン性ポリマー固定化材料を作製しても良い。放射線処理としては、γ線・電子線などを照射すればよい。
【0036】
本発明のリガンド−カチオン性ポリマー複合体を材料に固定化した材料は、体外循環用カラムとして利用することにより、血液中の有用物質や病因物質を特異的に除去、回収する目的で使用することができ、無機物、タンパク質、DNA、脂質、糖、細胞、ウィルスなどがターゲットとして挙げられ、細胞分離カラムや体液浄化カラムに利用することができる。
【0037】
また、本発明の材料を利用して目的とする物質を除去、回収する際は、カラムなどとして目的物質をリガンドで捕捉した後、還元反応などの外部刺激により、リガンドを脱離させることにより、目的とする有用物質や病因物質を回収し、分析することが可能である。
【0038】
また、回収目的とするものが細胞の場合は、分析だけでなく、回収した細胞を培養して増やしたり、活性化させたりすることができるため、細胞が血液幹細胞、神経幹細胞、T細胞であれば、癌あるいは自己免疫疾患などの治療などに利用できる。この際、細胞を回収するために本発明の材料を全血と作用させてやってもよいし、血漿分画や単核球分画などにした後、作用させてやってもよい。
【0039】
また、抗体脱離後の材料は再利用することも可能である。
【0040】
本発明のリガンド−カチオン性ポリマー複合体を利用すれば、上記で示したようなターゲットとなる有用物質や病因物質をリガンドにより捕捉でき、さらに、外部刺激によりリガンドを材料から脱離させることにより、捕捉した有用物質や病因物質を回収することが可能であるが、ターゲット物質を捕捉あるいは回収する際に使用する溶媒として、様々なpH値のリン酸、酢酸、クエン酸などの緩衝液を用いることができ、さらに緩衝液の中にウシ血清アルブミンや抗体などのタンパク質あるいはカチオン性、アニオン性などのポリマーなどを含有していても良い。
【0041】
細胞を回収する際は全血と作用させてもよいし、血漿分画や単核球分画などにした後、作用させてもよい。
【0042】
以上のような方法で、回収した有用物質、病因物質を分析に用いることが可能である。また、細胞の場合はそれを培養し、分析や治療などに利用できる。例えば、リガンドとして抗CD4抗体を使用し、このリガンドを固定化した本発明の材料に血液を通してCD4陽性のT細胞を捕捉し、ジチオスレイトールなどの還元剤でリガンドを脱離することにより、捕捉した細胞を大量に回収し、この細胞に様々な刺激を加えて活性化させ体内に戻すことにより、癌、アレルギー、感染症、臓器移植、神経疾患、血管再生、糖尿病、肝再生、皮膚再生あるいは自己免疫疾患の治療やワクチンとしてもちいることができる。
【0043】
また、例えば、リガンドとして抗CD34抗体を使用し、このリガンドを固定化した本発明の材料に臍帯血を通して、造血幹細胞を捕捉し、ジチオスレイトールなどの還元剤でリガンドを脱離することにより、造血幹細胞を大量に回収し、回収した造血幹細胞を培養して輸血医療に用いたり、様々な組織幹細胞に分化させることにより、肝疾患や神経疾患、血管傷害などの細胞療法に用いることができる。
【0044】
また、例えば、リガンドとして抗CD133抗体を使用し、このリガンドを固定化した本発明の材料に臍帯血を通して、神経幹細胞を捕捉し、ジチオスレイトールなどの還元剤でリガンドを脱離することにより、神経幹細胞を大量に回収し、回収した神経幹細胞を培養して神経幹細胞移植に用いたり、様々な神経細胞に分化させることにより、パーキンソン病やアルツハイマー病など神経疾患、脳梗塞により壊死した神経細胞の修復などの細胞療法に用いることができる。
【0045】
【実施例】
以下に実施例を用いて詳細に説明を加えるが、発明の内容は実施例に限定されるものではない。
【0046】
<実施例1>
1.メルカプト基を持つポリエチレンイミン誘導体の作製
150mMのNaCl、1mMのエチレンジアミン三酢酸(EDTA)を含む20mMリン酸緩衝液(pH7.5)にポリエチレンイミン(和光純薬製、数平均分子量10000)を5mg/mlとなるように溶解した。この溶液3mlに、N−スクシンイミジル 3−(2−ピリジルジチオ)−プロピオネート(ピアース社製、以下SPDP)を20mMになるように溶解したジメチルスルホキシド溶液を0.5ml添加し、室温で30時間撹拌した。反応させた溶液をPD−10カラム(ファルマシア社製)で高分子量分画に精製した。
【0047】
合成したSPDP化ポリエチレンイミンを25mMのジチオスレイトール(以下DTT)を含むリン酸緩衝液中で還元反応を行い、メルカプト基を有するポリエチレンイミン誘導体(以下、HS−PEI)を合成した。還元反応について、反応により生成するピリジン−2−チオンの吸収(343nm)を測定することにより、メルカプト基の導入量を測定したところ、ポリエチレンイミン1分子当たり5モルのメルカプト基が導入されていることが分かった。
【0048】
2.ヒト免疫グロブリンGのSPDP化
NaClを0.15mM含む20mMリン酸緩衝液(pH7.5)に5mg/mlに溶解した精製ヒト免疫グロブリンG(シグマ社製)にSPDPを20mMに溶解したジメチルスルホキシド溶液をヒト免疫グロブリンG1モルに対して10モル添加し、室温で30分反応させた後、PD−10カラム(ファルマシア社製)で高分子量分画に精製した。ヒト免疫グロブリンG1モルあたりのSPDP導入量は4.2モルであった。
3.ジスルフィド基を介してヒト免疫グロブリンGを複合化したポリエチレンイミンの合成
1.で得られたHS−PEIを2.1mg/ml含むリン酸緩衝液と2.で得られたSPDP化ヒト免疫グロブリンGを1mg/ml含むリン酸緩衝液をモル比で1:1となるように混合し、室温で14時間反応させ、ヒト免疫グロブリンGをポリエチレンイミンにジスルフィド結合を介して複合化した。複合化は反応液を高速液体クロマトグラフィー(以下HPLC、測定条件は、カラム:東ソーTSKgelG3000SWXL、溶出液:0.5M酢酸バッファー、流速:0.5ml/min)を用いて分析し、高分子量側にシフトすることにより確認した。さらに、ヒト免疫グロブリンG−ポリエチレンイミン複合体の溶液にDTTを25mMとなるように添加し、複合体を還元すると、複合体は分離し、もとのヒト免疫グロブリンGとポリエチレンイミンのピークになることをHPLCにより確認した。
【0049】
<比較例1>
150mMのNaCl、1mMのEDTAを含む20mMリン酸緩衝液(pH7.5)にポリエチレンイミン(和光純薬製、数平均分子量10000)を5mg/mlとなるように溶解した。この溶液3mlに、スクシンイミジル−4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボン酸(ピアース社製)を20mMになりるように溶解したジメチルスルホキシド溶液を0.5ml添加し、室温で30時間撹拌した。反応させた溶液をPD−10カラム(ファルマシア社製)で高分子量分画に精製した。
【0050】
上記で得られたマレイミド化ポリエチレンイミンを2.1mg/ml含むリン酸緩衝液とヒト免疫グロブリンGを1mg/ml含むリン酸緩衝液をモル比で1:1となるように混合し、室温で14時間反応させ混合し、ヒト免疫グロブリンGをポリエチレンイミンと複合化した。複合化は反応液をHPLCを用いて分析し、高分子量側にシフトすることにより確認した。得られた複合体を25mMのDTTを含むリン酸緩衝液中で還元反応を行い、複合体を還元しても、複合体は分離されなかった。
【0051】
<実施例2>
1.ポリスルホン(テイジンアモコ社製”ユーデル”(登録商標)P−3500)18重量部、ポリビニルピロリドン(BASF社製”K30”(登録商標))9重量部をN,N−ジメチルアセトアミド72重量部、水1重量部に加え、90℃、14時間加熱溶解した。この溶液を0.1mmスペーサー付きのガラス板に塗布し、ドクターブレードにて溶液を引き延ばしたものを水中にいれて、凝固させ、ポリスルホン/ポリビニルピロリドンブレンドからなる平膜状の材料を作製した。
【0052】
2.上記、ポリスルホン/ポリビニルピロリドンブレンド材料を十分水洗した後、1wt%のデキストラン硫酸(分子量50万、和光純薬製)水溶液に浸漬して、25kGyにてγ線照射して、表面に硫酸基をもつ平膜を作製した。放射線処理した平膜は、十分水洗した。
3.平膜へのリガンド−カチオン性ポリマー複合体の固定化
2.で作製したアニオン性平膜1cm2を、実施例1で合成したジスルフィド基を介してヒト免疫グロブリンGを複合化したポリエチレンイミンを0.2mg/ml含むリン酸緩衝液に、室温で2時間浸漬させた。2時間後のリン酸緩衝液に含まれるヒト免疫グロブリンGの吸光度(280nm)を測定したところ、吸光度が減少し、ヒト免疫グロブリンG−ポリエチレンイミン複合体がアニオン性平膜に固定化されていることが確認された。また、この膜を25mMのジチオスレイトールを含むリン酸緩衝液で還元反応し、脱離されたヒト免疫グロブリン量をHPLCおよび吸光度で測定したところ、還元処理により7.7μg/cm2ヒト免疫グロブリンGがアニオン性平膜から脱離されたことが確認できた。
【0053】
<比較例2>
実施例2の1.で得られた表面にポリビニルピロリドン層を有するポリスルホン製平膜に、実施例1で合成したジスルフィド基を介してヒト免疫グロブリンGを複合化したポリエチレンイミンを0.2mg/ml含むリン酸緩衝液に室温で2時間浸漬させたが、ヒト免疫グロブリンGは平膜に固定化されなかった。
【0054】
<比較例3>
実施例2の2.で作製したアニオン性平膜に、ヒト免疫グロブリンGを0.2mg/ml含むリン酸緩衝液に室温で2時間浸漬させたが、ヒト免疫グロブリンGは平膜に固定化されなかった。
【0055】
<実施例3>
表面に硫酸基をもつ東レ製繊維状イオン交換体“アイオネックス”0.1gを実施例1で合成したジスルフィド基を介してヒト免疫グロブリンGを複合化したポリエチレンイミンを0.2mg/ml含むリン酸緩衝液に室温で2時間浸漬させた。2時間後のリン酸緩衝液に含まれるヒト免疫グロブリンGの吸光度(280nm)を測定したところ、吸光度が減少し、ヒト免疫グロブリンG−ポリエチレンイミン複合体が繊維に固定化されていることが確認された。また、この繊維を25mMのジチオスレイトールを含むリン酸緩衝液で還元反応し、脱離されたヒト免疫グロブリン量をHPLCおよび吸光度で測定したところ、還元処理により10μg/0.1g繊維のヒト免疫グロブリンGが繊維から脱離された。
【0056】
<実施例4>
25kGyでγ線滅菌された表面に硫酸基を有するポリメチルメタクリレート中空糸膜からなる東レ製“フィルトライザー”人工腎臓(BG)を解体して中空糸膜を取り出し、中空糸膜を36本束ね、中空糸膜中空部を閉塞しないようにエポキシ系ポッティング剤で両末端をモジュールケースに固定し、ミニモジュールを作製した。該ミニモジュールの直径は約7mm、長さは約10cmである。作製したミニモジュールの中空糸内部に実施例1で合成したジスルフィド基を介してヒト免疫グロブリンGを複合化したポリエチレンイミンを0.2mg/ml含むリン酸緩衝液1.5mlを室温で2時間灌流した。2時間後のリン酸緩衝液に含まれるヒト免疫グロブリンGの吸光度(280nm)を測定したところ、吸光度が減少し、ヒト免疫グロブリンG−ポリエチレンイミン複合体が中空糸内部に固定化されていることが確認された。また、この中空糸内部を25mMのジチオスレイトールを含むリン酸緩衝液で灌流して中空糸内表面を還元し、脱離されたヒト免疫グロブリン量をHPLCおよび吸光度で測定したところ、還元処理により10μgヒト免疫グロブリンGがミニモジュールから脱離された。
【0057】
<実施例5>
ヘパリン固定化ビーズ(アマシャム製)0.1gを実施例1で合成したジスルフィド基を介してヒト免疫グロブリンGを複合化したポリエチレンイミンを0.2mg/ml含むリン酸緩衝液に室温で2時間浸漬させた。、2時間後のリン酸緩衝液に含まれるヒト免疫グロブリンGの吸光度(280nm)を測定したところ、吸光度が減少し、ヒト免疫グロブリンG−ポリエチレンイミン複合体がヘパリンビーズに固定化されていることが確認された。また、このビーズを25mMのジチオスレイトールを含むリン酸緩衝液で還元反応し、脱離されたヒト免疫グロブリン量をHPLCおよび吸光度で測定したところ、還元処理により10μg/0.1gビーズのヒト免疫グロブリンGがビーズから脱離された。
【0058】
<実施例6>
1.NaClを0.15mM含む20mMリン酸緩衝液(pH7.5)に5mg/mlに溶解したOKT3(抗CD3抗体、ヤンセンファーマ社製)にN−スクシンイミジル 3−(2−ピリジルジチオ)−プロピオネート(ピアス社製、SPDP)を20mMに溶解したジメチルスルホキシド溶液を抗体1モルに対して10倍モル量添加し、室温で30分反応させた後、PD−10カラム(ファルマシア社製)で高分子量分画に精製した。OKT3が1モルに対してSPDP導入量は3.8モルであった。
【0059】
実施例1の1.で得られたHS−PEIを2.1mg/ml含むリン酸緩衝液と得られたSPDP化OKT3を1mg/ml含むリン酸緩衝液をモル比で1:1となるように混合し、室温で14時間反応させ混合し、OKT3をポリエチレンイミンにジスルフィド結合を介して複合化した。複合化は反応液をHPLCを用いて分析し、高分子量側にシフトすることにより確認した。
2.実施例2で作製したアニオン性平膜1cm2を合成したジスルフィド基を介してOKT3を複合化したポリエチレンイミン体を0.2mg/ml含むリン酸緩衝液に室温で2時間浸漬させた。、2時間後のリン酸緩衝液に含まれるOKT3の吸光度(280nm)を測定したところ、吸光度が減少し、OKT3−ポリエチレンイミン複合体がアニオン性平膜に固定化されていることが確認された。
【0060】
こうして得られたOKT3−ポリエチレンイミン複合体固定化平膜1cm^2に健常者血液から得た単核球からなる細胞懸濁液を5×105個添加して20分後、洗浄した材料に5mMのジチオスレイトールを含むリン酸緩衝液(pH7.5)を添加して、ジスルフィド結合を還元することによりOKT3に結合したCD3陽性細胞を脱離させた。フローサイトメトリーにより求められる細胞懸濁液中のCD3陽性細胞の比率は60%から80%になり、CD3陽性細胞を分離することができた。
【0061】
<実施例7>
実施例6の1.で得られたOKT3− ポリエチレンイミン複合体を健常者血液に添加し、沈降した赤血球をリン酸緩衝液で洗浄した後、5mMのDTTを含むリン酸緩衝液で還元した細胞懸濁液を比重遠心法にて、単核球分画を取り出したところ、CD3陽性細胞の比率は10%から80%となり、CD3陽性細胞を分離することができた。
【0062】
【発明の効果】
本発明により、特定の細胞を簡単、大量に回収するための材料に使用できるリガンド−カチオン性ポリマー複合体および該ポリマー複合体を固定化させた材料およびそれを用いたカラムを提供することができる。
【発明の属する技術分野】
本発明は、血液中の病因物質や有用物質を除去回収したり、あるいは幹細胞やリンパ球系の細胞などの特定の細胞を分離回収する材料のために利用でき、さらに該材料を再利用するため、外部刺激により材料に固定化されたリガンドが脱離することを特徴とするリガンド−カチオン性ポリマー複合体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、リガンド、特に抗体を用いて抗体と相互作用する細胞を選択的に分離する試みがなされている。かかる試みは抗体を担体に固定化した材料を用い、ここに血液細胞などの細胞群を流すことにより、抗体と相互作用するある特定の細胞だけを除去する技術が検討されている。例えば、ヒト表面抗原を認識する抗体を不織布に固定化し、特定の血球成分を除去することを試みている。しかし、このような技術では、抗体と相互作用する細胞が除去されるだけであり、それらの細胞を担体表面から回収し、さらに利用することは困難である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特定の細胞を回収する技術としては、フローサイトメトリーによる方法や最近では磁気ビーズ法(例えば、非特許文献1参照))などがあげられるが、いずれも少量の細胞を対象としており、細胞と標識抗体とを反応させた後、分離作業をするという非常に煩雑な操作が必要であり、特定の細胞を大量に回収する際は、時間、コストがかかることが問題であった。
【0004】
また、これら担体になんらかの物質を固定化する際は、臭化シアンで活性基を表面に導入したり、スクシンイミド基、α−クロロアセトアミドメチル基などの活性基を表面に導入したり、担体官能基と物質の官能基を結合させてやるためにカルボジイミドなどを利用したりして、物質を共有結合などにより固定化してやる必要があった(例えば、非特許文献1参照)。これらの手法は研究用途などでは頻繁に用いられているが、医療用途などに用いる場合は、製造コストがかかってしまう問題があった。さらに医療用途の場合は製品を滅菌しなければならないが、抗体などのリガンドは、放射線や熱による滅菌により失活してしまうため、抗体などのリガンドを固定化したような医療用具を製造する場合が、製造プロセスをすべて無菌状態にして製造するなどされており、莫大な製造コストを必要としている。
【0005】
【非特許文献1】
ポール・T・シャープ(P.T.Sharpe),「生化学実験法13−細胞分離法−」,第1版,1991年,東京化学同人,p.151〜190
【0006】
【特許文献1】
国際公開第97/027878号パンフレット
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明では、上記従来技術の問題に対し、特定の細胞を簡単、大量に回収するためのリガンド−カチオン性ポリマー複合体およびそれを用いた材料を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明は主として下記構成を有する。
「外部刺激によりリガンドが脱離できるリガンド−カチオン性ポリマー複合体または該ポリマー複合体を固定化させた材料およびそれを用いたカラム」
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明は、カチオン性ポリマーとリガンドを含むリガンド−カチオン性ポリマー複合体であって、複合化したリガンドを外部刺激によって脱離できるリガンド−カチオン性ポリマー複合体を固定化した材料である。
【0010】
本発明において使用するカチオン性ポリマーとしては、カチオン性を有するポリマーであればいずれのポリマーも利用できるが、特に、アミノ基を含有するポリマーがリガンドへの反応性や取り扱い易さの点から好適である。アミノ基含有ポリマーの例としては、ポリアルキレンイミン、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ジアルキルアミノアルキルデキストラン、ポリリシン、ポリオルニチン、ポリヒスチジン、ポリアルギニン、アジリジン(エチレンイミン)化合物を有するポリマー、ポリアルキレンイミン誘導体、キチン、キトサン、およびそれらに置換基の導入されたもの、およびこれらを構成するモノマー単位からなる共重合体などがあげられる。アミノ基含有ポリマーのなかでもポリアルキレンイミンおよびその誘導体が好ましい。
【0011】
ポリアルキレンイミンには、分子量600以上の直鎖状、分岐状のものが好ましく用いられる。
【0012】
また、ポリアルキレンイミン誘導体としては、ポリアルキレンイミンをアルキル化、カルボキシル化、フェニル化、リン酸化、スルホン化など、所望の割合で誘導体化したものがあげられる。
【0013】
カチオン性ポリマーの中でも毒性の低さ、入手のしやすさ、取り扱いのしやすさなどから、分岐状のポリエチレンイミンやジエチルアミノエチルデキストランが特に好適に用いられる。
【0014】
本発明に使用するリガンドは、細胞や病因物質などのターゲット物質と相互作用をもつものであれば、合成品でも天然物でもよいが、特異性の点から抗体あるいはレセプターであることが望ましい。用いる抗体は、例えば、抗CD1a抗体、抗CD1b抗体、抗CD1c抗体、抗CD2抗体、抗CD3抗体、抗CD4抗体、抗CD8抗体、抗CD10抗体、抗CD11a抗体、抗CD11b抗体、抗CD11c抗体、抗CDw12抗体、抗CD13抗体、抗CD14抗体、抗CD15抗体、抗CD16a抗体、抗CD16b抗体、抗CD18抗体、抗CD19抗体、抗CD20抗体、抗CD22抗体、抗CD23抗体、抗CD24抗体、抗CD25抗体、抗CD26抗体、抗CD27抗体、抗CD28抗体、抗CD30抗体、抗CD31抗体、抗CD32抗体、抗CD33抗体、抗CD34抗体、抗CD38抗体、抗CD40抗体、抗CD42a抗体、抗CD44抗体、抗CD45抗体、抗CD45RA抗体、抗CD45RO抗体、抗CD49d抗体、抗CD50抗体、抗CD54抗体、抗CD56抗体、抗CD57抗体、抗CD58抗体、抗CD61抗体、抗CD62L抗体、抗CD62P抗体、抗CD66抗体、抗CD69抗体、抗CD70抗体、抗CD71抗体、抗CD80抗体、抗CD81抗体、抗CD86抗体、抗CD95抗体、抗CD102抗体、抗CD105抗体、抗CD106抗体、抗CD109抗体、抗CDw119抗体、抗CD120a抗体、抗CD120b抗体、抗CD121a抗体、抗CDw121b抗体、抗CD122抗体、抗CD123抗体、抗CD126抗体、抗CDw128a抗体、抗CD130抗体、抗CDw131抗体、抗CD132抗体、抗CD133抗体、抗CD134抗体、抗CD105抗体、抗CD138抗体、CD152抗体、抗CD154抗体、抗CD199抗体、抗低比重リポ蛋白質(LDL)抗体、抗酸化LDL抗体、抗β2ミクログロブリン抗体、抗CCR1抗体、抗CCR2抗体、抗CCR3抗体、抗CCR4抗体、抗CCR5抗体、抗CCR7抗体、抗CXCR3抗体、抗CX3CR1抗体、抗CXCR5抗体、抗CXCR1抗体などが挙げられるが、これらに限定されない。また 、レセプターとしては例えば、CCR1、CCR2、CCR3、CCR4、CCR5、CCR7、CXCR1、CXCR3、CX3CR1、CXCR5等のサイトカインレセプターやFcγ,Fcε等のイムノグロブリンレセプター、RAGE,LDLレセプター等のスカベンジャ−レセプター等,T細胞レセプターや主要組織適合性抗原等の細胞認識レセプター等が挙げられるが、これらに限定されない。これらの抗体やレセプターは単独で固定化しても良いし、複数の抗体やレセプターを組み合わせても良い。抗体は、アフィニティーの高さからモノクローナル抗体が好ましい。
【0015】
これら抗体やレセプターは目的によって種々選定することができ、血液中の有用物質や病因物質を特異的に除去、回収する場合は細胞、無機物、タンパク質、DNA、脂質、糖、ウィルスなどがターゲットとして挙げられる。例えば、抗CD2抗体を用いればT細胞およびNK細胞を分離でき、抗CD3抗体を用いればT細胞をを分離でき、抗CD4抗体を用いればヘルパーT細胞を分離でき、抗CD8抗体を用いればサイトトキシックT細胞を分離でき、抗CD11aを用いれば白血球を分離でき、抗CD11bを用いれば単球を分離でき、抗CD14抗体を用いれば単球やマクロファージを分離でき、抗CD15抗体を用いれば顆粒球やミエロイド細胞を分離でき、抗CD16細胞を用いれば好中球あるいは休止期NK細胞を分離でき、抗CD19抗体を用いればB細胞を分離でき、抗CD22抗体を用いればB細胞を分離でき、抗CD27抗体を用いればナイーブB細胞やメモリーB細胞を分離でき、抗CD30抗体を用いれば活性化B細胞および活性化T細胞を分離でき、抗CD33細胞を用いれば単球、顆粒球およびミエロイド細胞を分離でき、抗CD34抗体を用いれば造血幹細胞を分離でき、抗CD45抗体を用いれば白血球を分離でき、抗CD56抗体を用いればNK細胞を分離でき、抗CD61抗体を用いれば巨核球及びその前駆細胞を分離でき、抗CD66抗体を用いれば顆粒球を分離でき、抗CD69抗体を用いれば活性化T細胞や活性化B細胞やNK細胞を分離でき、抗CD71抗体を用いれば赤芽球や活性化されたリンパ芽球を分離でき、抗CD105抗体を用いれば内皮細胞、抗CD133抗体を用いれば神経幹細胞を分離できる。
【0016】
カチオン性ポリマーに複合化したリガンドを脱離させる外部刺激としては光、熱、pH、塩濃度、化学反応などがあるが、リガンドの安定性などから化学反応により化学結合を切断してリガンドが脱離される方法が好ましく、化学的な結合が切断される反応として、加水分解反応、酸化反応、還元反応、酵素反応などがあげられる。このなかでも、水中での反応の安定性の点から、還元反応が好ましく、特に、ジスルフィド結合を還元剤による還元反応により切断させる反応は、タンパク質のリフォールディングなど生体内で良く行われる反応であり、リガンドを脱離する反応として好適である。また、この還元反応で使用する還元剤としてはジチオスレイトール、メルカプトエタノール、システイン、還元型グルタチオンなどがあげられる。
【0017】
次にリガンドをカチオン性ポリマーに結合し、複合体とする方法について説明する。
【0018】
リガンドがタンパク質である場合は、タンパク質自身もジスルフィド結合を有することもあるので、リガンドを直接カチオン性ポリマーに複合化しても良いが、架橋剤を利用してカチオン性ポリマーにジスルフィド結合を介してリガンドを固定化してもよい。固定化の反応としては、メルカプト基同士の酸化反応やあるいはジスルフィド交換反応を利用してジスルフィド結合を形成させる反応が利用できる。
【0019】
また、架橋剤を利用する場合には、ポリマー同士あるいはリガンド同士の結合を防ぐため二種類の違った官能基と反応する活性化基をもつ架橋剤を使用することが好ましく、活性化基としてアミノ基と反応するN−ヒドロキシスクシンイミド基、イミドエステル基、ニトロアリールハライド基、イミダゾリルカルバミン酸基、メルカプト基と反応するマレイミド基、ピリジルジスルフィド基、チオフタルイミド基、活性化ハロゲン基、光化学反応により架橋をするフェニルアジド基、ジアゾカルベン基などを持つような架橋剤を利用することができる。
【0020】
なかでもアミノ基とpH7〜9で反応性があるN−ヒドロキシスクシンイミド基をもつ架橋剤はカチオン性ポリマーとリガンドとの結合に好適であり、また、ピリジンジスルフィド基をもつ架橋剤はジスルフィド交換反応による架橋によりジスルフィド結合を形成することから本発明に好適に用いることができる。このような二つの活性化基をもつ架橋剤として、N−スクシンイミジル 3−(2−ピリジルジチオ)−プロピオネート、スルフォスクシンイミジル6−[3’(2−ピリジルジチオ)−プロピオンアミド]ヘキサノエート、スクシンイミジル6−[3’(2−ピリジルジチオ)−プロピオンアミド]ヘキサノエート、N−((2−ピリジルジチオ)エチル)−4−アジドサリシルアミドなどがあげられる。
【0021】
また、ピリジンジスルフィド基をもつようなカチオン性ポリマーとリガンドのメルカプト基を反応させる場合には、リガンドにピリジンジスルフィド基を導入して、還元し、メルカプト基を導入することができる。この際、リガンドが抗体である場合は、抗体自体の還元を防ぐために酢酸緩衝液中などで還元することにより抗体自身の還元を抑えることができ、この際、限外ろ過膜やゲルろ過カラムにより使用した還元剤を除くことが可能である。また、リガンドが抗体である場合は、抗体をペプシンなどの分解酵素で消化し、抗体の可変部位のみに精製した後、生成するメルカプト基を用いることができる。
【0022】
逆に、メルカプト基をもつカチオン性ポリマーを用いる場合には、リガンドにピリジンジスルフィド基を導入したものと反応させればよい。
【0023】
メルカプト基を導入する場合は、イミノチオランを利用すれば、一段階でメルカプト基を導入できる。
【0024】
カチオン性ポリマーに結合させるリガンド密度は高い方が望ましいが、反応に用いる架橋剤の濃度や反応時間により制御することができるので、適宜選ぶことができる。例えば、上記方法でのリガンドへのピリジルジスルフィド基の導入率は1以上であることが必要であるが、導入率を上げるためにピリジルジスルフィド化剤の仕込量を上げるとリガンドがタンパク質の場合は失活したり、凝集したりするおそれがある。この場合、仕込量はリガンド1モルあたり10モル以下が望ましい。
【0025】
また、N−ヒドロキシスクシンイミド基を有する架橋剤を用いる場合は、アミノ基を持つカチオン性ポリマーを使用する必要があり、カチオン性ポリマーにアミノ基がない場合は、ポリマー内にアミノ基を導入する必要があり、官能基をアミノ基に変換する反応、アミノ基をもつ低分子物質を結合させる反応、あるいは、アミノ基を持つモノマーを共重合させることにより達成できる。
【0026】
また、N−ヒドロキシスクシンイミド基とピリジルジスルフィド基を持つような架橋剤は、ポリスルホン系のポリマーを使用する際に吸着しやすいため、メタノール、エチレングリコール、グリセリンなどで架橋剤を溶解し、反応後ポリスルホン系材料を溶解しない有機溶媒でポリマーを洗浄することが望ましい。
【0027】
以上のような反応を例として、ジスルフィド結合を介してカチオン性ポリマーにリガンドを結合できるが、この反応に限定されない。
【0028】
【化1】
【0029】
本発明のリガンド−カチオン性ポリマー複合体は、この物質そのものを細胞分離剤として用いることができる。赤血球表面は陰性荷電の状態で血液中に浮遊しており、陽性荷電であるカチオン性ポリマーを添加すると赤血球同士が架橋し、沈降する。本発明のリガンド−カチオン性ポリマー複合体を添加すると、リガンドと相互作用をもつ細胞や病因物質(ターゲット物質)といっしょに赤血球が沈降する。この沈降物を分離した後、外部刺激を用いて沈降物中の複合体を脱離させるとターゲット物質と赤血球は分離され、赤血球を比重遠心法や溶血により除去してやれば、ターゲット物質を回収できる。
【0030】
本発明のリガンド−カチオン性ポリマー複合体は、透析膜や繊維をはじめとして種々の分離膜やフィルムなどの材料に固定化させて利用することが出来る。この際用いる材料の素材は、特に限定しないが、医療用に用いられている素材が好ましく、例えば、ポリ塩化ビニル、セルロース系ポリマー、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリウレタンおよびそれらの誘導体やブレンド体などが挙げられるが、カチオン性ポリマー複合体を固定化させるには、素材がアニオン性を帯びている方がカチオン性ポリマーとの静電相互作用により固定化し易い。このため、アニオン性物質自体を素材として使用したり、あるいはアニオン物質をブレンドした素材、アニオン物質を浸漬または付着させ、放射線照射などにより固定化した素材、素材に活性基を導入しておき、アニオン物質を固定化した素材などが用いられる。アニオン性物質は低分子であっても、高分子であってもよい。これらの用途で使用されるアニオン性材料の官能基としては、側鎖あるいは主鎖にカルボキシ基、硫酸基、硫酸水素基、リン酸基、ニトロ基などであり、例えば、ポリマーとしては、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、DNA、RNA、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、デキストラン硫酸、アルギン酸、コロミン酸、ペクチン酸、グリコサミノグリカンを有するポリマーなどがあげられる。
【0031】
本発明のリガンド−カチオン性ポリマー複合体を固定化させることができる材料の形状としては、フィルム状、粒子状、中空糸状、繊維状、平膜状、スポンジ状、カットファイバーなど何でもよいが、閉鎖系で圧力損失を伴わず、細胞を傷つけず体外循環できる利点から、中空糸あるいは平膜が望ましい。また、表面積を確保する点からこれらは多孔質であることがのぞましく、多孔質材料を用いる場合は、透析やろ過機能を付与することができ、血液浄化、細胞分離用途のみならず、バイオリアクターなどの細胞培養用材料としても用いることができる。また、多孔質材料の場合は、製造条件を制御することにより孔の制御も可能である。
【0032】
本発明のカラム内には上記材料が充填されており、血液や細胞などが通過、循環が可能である。
【0033】
材料をカラムとして利用する場合、特に中空糸を用いる場合は公知の方法にて製造され、特に限定されるものではないが、一例を示すと次の通りである。まず、中空糸膜を必要な長さに切断し、必要本数を束ねた後、筒状ケースに入れる。その後両端に仮のキャップをし、中空糸膜両端部にポッティング剤を入れる。このとき遠心機でモジュールを回転させながらポッティング剤を入れる方法は、ポッティング剤が均一に充填されるために好ましい方法である。ポッティング剤が固化した後、中空糸膜の両端が開口するように両端部を切断し、中空糸膜モジュールを得る。
【0034】
リガンドが蛋白質のような失活しやすいものであれば、リガンド−カチオン性ポリマー複合体を材料に固定化する際に、リガンド−カチオン性ポリマー複合体の溶液を溶液状態で無菌ろ過滅菌した後、無菌状態の材料に固定化させれば、簡単に無菌状態の材料が作製できる。
【0035】
また、リガンド−カチオン性ポリマー複合体を材料に固定化したあとに放射線や熱処理することにより、リガンド−カチオン性ポリマー固定化材料を作製しても良い。放射線処理としては、γ線・電子線などを照射すればよい。
【0036】
本発明のリガンド−カチオン性ポリマー複合体を材料に固定化した材料は、体外循環用カラムとして利用することにより、血液中の有用物質や病因物質を特異的に除去、回収する目的で使用することができ、無機物、タンパク質、DNA、脂質、糖、細胞、ウィルスなどがターゲットとして挙げられ、細胞分離カラムや体液浄化カラムに利用することができる。
【0037】
また、本発明の材料を利用して目的とする物質を除去、回収する際は、カラムなどとして目的物質をリガンドで捕捉した後、還元反応などの外部刺激により、リガンドを脱離させることにより、目的とする有用物質や病因物質を回収し、分析することが可能である。
【0038】
また、回収目的とするものが細胞の場合は、分析だけでなく、回収した細胞を培養して増やしたり、活性化させたりすることができるため、細胞が血液幹細胞、神経幹細胞、T細胞であれば、癌あるいは自己免疫疾患などの治療などに利用できる。この際、細胞を回収するために本発明の材料を全血と作用させてやってもよいし、血漿分画や単核球分画などにした後、作用させてやってもよい。
【0039】
また、抗体脱離後の材料は再利用することも可能である。
【0040】
本発明のリガンド−カチオン性ポリマー複合体を利用すれば、上記で示したようなターゲットとなる有用物質や病因物質をリガンドにより捕捉でき、さらに、外部刺激によりリガンドを材料から脱離させることにより、捕捉した有用物質や病因物質を回収することが可能であるが、ターゲット物質を捕捉あるいは回収する際に使用する溶媒として、様々なpH値のリン酸、酢酸、クエン酸などの緩衝液を用いることができ、さらに緩衝液の中にウシ血清アルブミンや抗体などのタンパク質あるいはカチオン性、アニオン性などのポリマーなどを含有していても良い。
【0041】
細胞を回収する際は全血と作用させてもよいし、血漿分画や単核球分画などにした後、作用させてもよい。
【0042】
以上のような方法で、回収した有用物質、病因物質を分析に用いることが可能である。また、細胞の場合はそれを培養し、分析や治療などに利用できる。例えば、リガンドとして抗CD4抗体を使用し、このリガンドを固定化した本発明の材料に血液を通してCD4陽性のT細胞を捕捉し、ジチオスレイトールなどの還元剤でリガンドを脱離することにより、捕捉した細胞を大量に回収し、この細胞に様々な刺激を加えて活性化させ体内に戻すことにより、癌、アレルギー、感染症、臓器移植、神経疾患、血管再生、糖尿病、肝再生、皮膚再生あるいは自己免疫疾患の治療やワクチンとしてもちいることができる。
【0043】
また、例えば、リガンドとして抗CD34抗体を使用し、このリガンドを固定化した本発明の材料に臍帯血を通して、造血幹細胞を捕捉し、ジチオスレイトールなどの還元剤でリガンドを脱離することにより、造血幹細胞を大量に回収し、回収した造血幹細胞を培養して輸血医療に用いたり、様々な組織幹細胞に分化させることにより、肝疾患や神経疾患、血管傷害などの細胞療法に用いることができる。
【0044】
また、例えば、リガンドとして抗CD133抗体を使用し、このリガンドを固定化した本発明の材料に臍帯血を通して、神経幹細胞を捕捉し、ジチオスレイトールなどの還元剤でリガンドを脱離することにより、神経幹細胞を大量に回収し、回収した神経幹細胞を培養して神経幹細胞移植に用いたり、様々な神経細胞に分化させることにより、パーキンソン病やアルツハイマー病など神経疾患、脳梗塞により壊死した神経細胞の修復などの細胞療法に用いることができる。
【0045】
【実施例】
以下に実施例を用いて詳細に説明を加えるが、発明の内容は実施例に限定されるものではない。
【0046】
<実施例1>
1.メルカプト基を持つポリエチレンイミン誘導体の作製
150mMのNaCl、1mMのエチレンジアミン三酢酸(EDTA)を含む20mMリン酸緩衝液(pH7.5)にポリエチレンイミン(和光純薬製、数平均分子量10000)を5mg/mlとなるように溶解した。この溶液3mlに、N−スクシンイミジル 3−(2−ピリジルジチオ)−プロピオネート(ピアース社製、以下SPDP)を20mMになるように溶解したジメチルスルホキシド溶液を0.5ml添加し、室温で30時間撹拌した。反応させた溶液をPD−10カラム(ファルマシア社製)で高分子量分画に精製した。
【0047】
合成したSPDP化ポリエチレンイミンを25mMのジチオスレイトール(以下DTT)を含むリン酸緩衝液中で還元反応を行い、メルカプト基を有するポリエチレンイミン誘導体(以下、HS−PEI)を合成した。還元反応について、反応により生成するピリジン−2−チオンの吸収(343nm)を測定することにより、メルカプト基の導入量を測定したところ、ポリエチレンイミン1分子当たり5モルのメルカプト基が導入されていることが分かった。
【0048】
2.ヒト免疫グロブリンGのSPDP化
NaClを0.15mM含む20mMリン酸緩衝液(pH7.5)に5mg/mlに溶解した精製ヒト免疫グロブリンG(シグマ社製)にSPDPを20mMに溶解したジメチルスルホキシド溶液をヒト免疫グロブリンG1モルに対して10モル添加し、室温で30分反応させた後、PD−10カラム(ファルマシア社製)で高分子量分画に精製した。ヒト免疫グロブリンG1モルあたりのSPDP導入量は4.2モルであった。
3.ジスルフィド基を介してヒト免疫グロブリンGを複合化したポリエチレンイミンの合成
1.で得られたHS−PEIを2.1mg/ml含むリン酸緩衝液と2.で得られたSPDP化ヒト免疫グロブリンGを1mg/ml含むリン酸緩衝液をモル比で1:1となるように混合し、室温で14時間反応させ、ヒト免疫グロブリンGをポリエチレンイミンにジスルフィド結合を介して複合化した。複合化は反応液を高速液体クロマトグラフィー(以下HPLC、測定条件は、カラム:東ソーTSKgelG3000SWXL、溶出液:0.5M酢酸バッファー、流速:0.5ml/min)を用いて分析し、高分子量側にシフトすることにより確認した。さらに、ヒト免疫グロブリンG−ポリエチレンイミン複合体の溶液にDTTを25mMとなるように添加し、複合体を還元すると、複合体は分離し、もとのヒト免疫グロブリンGとポリエチレンイミンのピークになることをHPLCにより確認した。
【0049】
<比較例1>
150mMのNaCl、1mMのEDTAを含む20mMリン酸緩衝液(pH7.5)にポリエチレンイミン(和光純薬製、数平均分子量10000)を5mg/mlとなるように溶解した。この溶液3mlに、スクシンイミジル−4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボン酸(ピアース社製)を20mMになりるように溶解したジメチルスルホキシド溶液を0.5ml添加し、室温で30時間撹拌した。反応させた溶液をPD−10カラム(ファルマシア社製)で高分子量分画に精製した。
【0050】
上記で得られたマレイミド化ポリエチレンイミンを2.1mg/ml含むリン酸緩衝液とヒト免疫グロブリンGを1mg/ml含むリン酸緩衝液をモル比で1:1となるように混合し、室温で14時間反応させ混合し、ヒト免疫グロブリンGをポリエチレンイミンと複合化した。複合化は反応液をHPLCを用いて分析し、高分子量側にシフトすることにより確認した。得られた複合体を25mMのDTTを含むリン酸緩衝液中で還元反応を行い、複合体を還元しても、複合体は分離されなかった。
【0051】
<実施例2>
1.ポリスルホン(テイジンアモコ社製”ユーデル”(登録商標)P−3500)18重量部、ポリビニルピロリドン(BASF社製”K30”(登録商標))9重量部をN,N−ジメチルアセトアミド72重量部、水1重量部に加え、90℃、14時間加熱溶解した。この溶液を0.1mmスペーサー付きのガラス板に塗布し、ドクターブレードにて溶液を引き延ばしたものを水中にいれて、凝固させ、ポリスルホン/ポリビニルピロリドンブレンドからなる平膜状の材料を作製した。
【0052】
2.上記、ポリスルホン/ポリビニルピロリドンブレンド材料を十分水洗した後、1wt%のデキストラン硫酸(分子量50万、和光純薬製)水溶液に浸漬して、25kGyにてγ線照射して、表面に硫酸基をもつ平膜を作製した。放射線処理した平膜は、十分水洗した。
3.平膜へのリガンド−カチオン性ポリマー複合体の固定化
2.で作製したアニオン性平膜1cm2を、実施例1で合成したジスルフィド基を介してヒト免疫グロブリンGを複合化したポリエチレンイミンを0.2mg/ml含むリン酸緩衝液に、室温で2時間浸漬させた。2時間後のリン酸緩衝液に含まれるヒト免疫グロブリンGの吸光度(280nm)を測定したところ、吸光度が減少し、ヒト免疫グロブリンG−ポリエチレンイミン複合体がアニオン性平膜に固定化されていることが確認された。また、この膜を25mMのジチオスレイトールを含むリン酸緩衝液で還元反応し、脱離されたヒト免疫グロブリン量をHPLCおよび吸光度で測定したところ、還元処理により7.7μg/cm2ヒト免疫グロブリンGがアニオン性平膜から脱離されたことが確認できた。
【0053】
<比較例2>
実施例2の1.で得られた表面にポリビニルピロリドン層を有するポリスルホン製平膜に、実施例1で合成したジスルフィド基を介してヒト免疫グロブリンGを複合化したポリエチレンイミンを0.2mg/ml含むリン酸緩衝液に室温で2時間浸漬させたが、ヒト免疫グロブリンGは平膜に固定化されなかった。
【0054】
<比較例3>
実施例2の2.で作製したアニオン性平膜に、ヒト免疫グロブリンGを0.2mg/ml含むリン酸緩衝液に室温で2時間浸漬させたが、ヒト免疫グロブリンGは平膜に固定化されなかった。
【0055】
<実施例3>
表面に硫酸基をもつ東レ製繊維状イオン交換体“アイオネックス”0.1gを実施例1で合成したジスルフィド基を介してヒト免疫グロブリンGを複合化したポリエチレンイミンを0.2mg/ml含むリン酸緩衝液に室温で2時間浸漬させた。2時間後のリン酸緩衝液に含まれるヒト免疫グロブリンGの吸光度(280nm)を測定したところ、吸光度が減少し、ヒト免疫グロブリンG−ポリエチレンイミン複合体が繊維に固定化されていることが確認された。また、この繊維を25mMのジチオスレイトールを含むリン酸緩衝液で還元反応し、脱離されたヒト免疫グロブリン量をHPLCおよび吸光度で測定したところ、還元処理により10μg/0.1g繊維のヒト免疫グロブリンGが繊維から脱離された。
【0056】
<実施例4>
25kGyでγ線滅菌された表面に硫酸基を有するポリメチルメタクリレート中空糸膜からなる東レ製“フィルトライザー”人工腎臓(BG)を解体して中空糸膜を取り出し、中空糸膜を36本束ね、中空糸膜中空部を閉塞しないようにエポキシ系ポッティング剤で両末端をモジュールケースに固定し、ミニモジュールを作製した。該ミニモジュールの直径は約7mm、長さは約10cmである。作製したミニモジュールの中空糸内部に実施例1で合成したジスルフィド基を介してヒト免疫グロブリンGを複合化したポリエチレンイミンを0.2mg/ml含むリン酸緩衝液1.5mlを室温で2時間灌流した。2時間後のリン酸緩衝液に含まれるヒト免疫グロブリンGの吸光度(280nm)を測定したところ、吸光度が減少し、ヒト免疫グロブリンG−ポリエチレンイミン複合体が中空糸内部に固定化されていることが確認された。また、この中空糸内部を25mMのジチオスレイトールを含むリン酸緩衝液で灌流して中空糸内表面を還元し、脱離されたヒト免疫グロブリン量をHPLCおよび吸光度で測定したところ、還元処理により10μgヒト免疫グロブリンGがミニモジュールから脱離された。
【0057】
<実施例5>
ヘパリン固定化ビーズ(アマシャム製)0.1gを実施例1で合成したジスルフィド基を介してヒト免疫グロブリンGを複合化したポリエチレンイミンを0.2mg/ml含むリン酸緩衝液に室温で2時間浸漬させた。、2時間後のリン酸緩衝液に含まれるヒト免疫グロブリンGの吸光度(280nm)を測定したところ、吸光度が減少し、ヒト免疫グロブリンG−ポリエチレンイミン複合体がヘパリンビーズに固定化されていることが確認された。また、このビーズを25mMのジチオスレイトールを含むリン酸緩衝液で還元反応し、脱離されたヒト免疫グロブリン量をHPLCおよび吸光度で測定したところ、還元処理により10μg/0.1gビーズのヒト免疫グロブリンGがビーズから脱離された。
【0058】
<実施例6>
1.NaClを0.15mM含む20mMリン酸緩衝液(pH7.5)に5mg/mlに溶解したOKT3(抗CD3抗体、ヤンセンファーマ社製)にN−スクシンイミジル 3−(2−ピリジルジチオ)−プロピオネート(ピアス社製、SPDP)を20mMに溶解したジメチルスルホキシド溶液を抗体1モルに対して10倍モル量添加し、室温で30分反応させた後、PD−10カラム(ファルマシア社製)で高分子量分画に精製した。OKT3が1モルに対してSPDP導入量は3.8モルであった。
【0059】
実施例1の1.で得られたHS−PEIを2.1mg/ml含むリン酸緩衝液と得られたSPDP化OKT3を1mg/ml含むリン酸緩衝液をモル比で1:1となるように混合し、室温で14時間反応させ混合し、OKT3をポリエチレンイミンにジスルフィド結合を介して複合化した。複合化は反応液をHPLCを用いて分析し、高分子量側にシフトすることにより確認した。
2.実施例2で作製したアニオン性平膜1cm2を合成したジスルフィド基を介してOKT3を複合化したポリエチレンイミン体を0.2mg/ml含むリン酸緩衝液に室温で2時間浸漬させた。、2時間後のリン酸緩衝液に含まれるOKT3の吸光度(280nm)を測定したところ、吸光度が減少し、OKT3−ポリエチレンイミン複合体がアニオン性平膜に固定化されていることが確認された。
【0060】
こうして得られたOKT3−ポリエチレンイミン複合体固定化平膜1cm^2に健常者血液から得た単核球からなる細胞懸濁液を5×105個添加して20分後、洗浄した材料に5mMのジチオスレイトールを含むリン酸緩衝液(pH7.5)を添加して、ジスルフィド結合を還元することによりOKT3に結合したCD3陽性細胞を脱離させた。フローサイトメトリーにより求められる細胞懸濁液中のCD3陽性細胞の比率は60%から80%になり、CD3陽性細胞を分離することができた。
【0061】
<実施例7>
実施例6の1.で得られたOKT3− ポリエチレンイミン複合体を健常者血液に添加し、沈降した赤血球をリン酸緩衝液で洗浄した後、5mMのDTTを含むリン酸緩衝液で還元した細胞懸濁液を比重遠心法にて、単核球分画を取り出したところ、CD3陽性細胞の比率は10%から80%となり、CD3陽性細胞を分離することができた。
【0062】
【発明の効果】
本発明により、特定の細胞を簡単、大量に回収するための材料に使用できるリガンド−カチオン性ポリマー複合体および該ポリマー複合体を固定化させた材料およびそれを用いたカラムを提供することができる。
Claims (19)
- カチオン性ポリマーとリガンドを含むリガンド−カチオン性ポリマー複合体であって、複合化したリガンドを外部刺激によって脱離できるリガンド−カチオン性ポリマー複合体。
- カチオン性ポリマーがアミノ基を有することを特徴とする請求項1に記載のリガンド−カチオン性ポリマー複合体。
- カチオン性ポリマーがポリエチレンイミンまたはジエチルアミノエチルデキストランを含むことを特徴とする請求項2に記載のリガンド−カチオン性ポリマー複合体。
- 外部刺激により化学結合が切断されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のリガンド−カチオン性ポリマー複合体。
- 外部刺激が還元剤による還元反応であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のリガンド−カチオン性ポリマー複合体。
- リガンドとカチオン性ポリマーがジスルフィド結合を介して結合されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載リガンド−カチオン性ポリマー複合体。
- カチオン性ポリマーがアミノ基を有し、かつリガンドがメルカプト基を有するものであり、前記カチオン性ポリマーのアミノ基と前記リガンドのメルカプト基を外部刺激により切断可能な架橋剤を利用してリガンドをカチオン性ポリマーに複合化したことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のリガンド−カチオン性ポリマー複合体。
- カチオン性ポリマーがメルカプト基を有し、かつリガンドがアミノ基を有するものであり、前記カチオン性ポリマーのメルカプト基と前記リガンドのアミノ基を外部刺激により切断可能な架橋剤を利用してリガンドをカチオン性ポリマーに複合化したことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のリガンド−カチオン性ポリマー複合体。
- N−ヒドロキシスクシンイミド基とピリジルジスルフィド基および/またはN−ヒドロキシスクシンイミド基とマレイミド基を有する架橋剤を利用してリガンドがカチオン性ポリマーに複合化したことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のリガンド−カチオン性ポリマー複合体。
- 架橋剤がN−スクシンイミジル 3−(2−ピリジルジチオ)−プロピオネートである請求項9記載のリガンド−カチオン性ポリマー複合体。
- リガンドが抗体あるいはレセプターであることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載のリガンド−カチオン性ポリマー複合体。
- 細胞分離剤に用いる請求項1〜11のいずれかに記載のリガンド−カチオン性ポリマー複合体。
- 請求項1〜11のいずれかに記載のリガンド−カチオン性ポリマー複合体を固定化させた材料。
- 請求項13の材料を用いた体外循環に使用可能な細胞分離カラム。
- 請求項13の材料を用いた体外循環に使用可能な血液浄化カラム。
- 請求項1〜11のいずれかに記載のリガンド−カチオン性ポリマー複合体を含む疾患治療用カラムであって、該疾患治療用カラムで得られた細胞が癌または自己免疫疾患または脳梗塞またはパーキンソン病またはアルツハイマー病または糖尿病または心筋梗塞または血管再生の治療に用いられる疾患治療用カラム。
- 細胞が造血幹細胞であることを特徴とする請求項16に記載の疾患治療用カラム。
- 細胞が神経幹細胞であることを特徴とする請求項16に記載の疾患治療用カラム。
- 細胞がT細胞であることを特徴とする請求項16に記載の疾患治療用カラム。
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