JP4942015B2 - リガンド固定化用基材および細胞選択吸着材 - Google Patents

リガンド固定化用基材および細胞選択吸着材 Download PDF

Info

Publication number
JP4942015B2
JP4942015B2 JP2005361156A JP2005361156A JP4942015B2 JP 4942015 B2 JP4942015 B2 JP 4942015B2 JP 2005361156 A JP2005361156 A JP 2005361156A JP 2005361156 A JP2005361156 A JP 2005361156A JP 4942015 B2 JP4942015 B2 JP 4942015B2
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
cell
ligand
group
selective adsorbent
nonwoven fabric
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Expired - Fee Related
Application number
JP2005361156A
Other languages
English (en)
Other versions
JP2007159874A (ja
Inventor
靖清 仲野
尚子 石原
雅典 鶴田
さくら 坂野
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Asahi Kasei Corp
Original Assignee
Asahi Kasei Corp
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Asahi Kasei Corp filed Critical Asahi Kasei Corp
Priority to JP2005361156A priority Critical patent/JP4942015B2/ja
Publication of JP2007159874A publication Critical patent/JP2007159874A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP4942015B2 publication Critical patent/JP4942015B2/ja
Expired - Fee Related legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Landscapes

  • Micro-Organisms Or Cultivation Processes Thereof (AREA)
  • External Artificial Organs (AREA)
  • Solid-Sorbent Or Filter-Aiding Compositions (AREA)
  • Peptides Or Proteins (AREA)

Description

本発明は血液等の細胞浮遊液から、吸着材に固定されたアフィニティーリガンドによってターゲット細胞を選択的に吸着、除去あるいは回収するために用いられる細胞選択吸着材およびその製造方法に関する。さらに本発明は、特にペプチド型のアフィニティーリガンドを固定化して細胞選択吸着材を作成する場合に使用すると、リガンドの固定化後もリガンド本来のアフィニティーを失うことなく、リガンド性能が効果的に発現するリガンド固定化用基材、およびその製造方法に関する。
近年、潰瘍性大腸炎やリウマチ等の自己免疫疾患の治療を目指し、患者の血液から白血球系細胞(主にリンパ球や顆粒球)を除去する「白血球除去療法」が用いられるようになってきた。この治療方法は、白血球系細胞を非選択的に吸着しうる水不溶性の吸着材を充填したカラムに患者の血液を通過させ、血液中の白血球系細胞を吸着除去することで免疫機能を制御しようとする血液体外循環法の一種である。
ところがこのような白血球除去療法は、免疫機能を担当する白血球系細胞を非選択的に全吸着除去しようとするものであるため、患者の免疫機能が必要以上に低下してしまうという懸念があり、最近では各疾患において特に大きな影響を与えると考えられる細胞のみを選択的に除去しようとする動きも活発化してきている。
例えば、免疫応答の調整に主として関与しているのはCD4陽性細胞(CD4抗原をマーカーとして細胞表面に有する細胞)であるヘルパーT細胞と、CD8陽性細胞であるサプレッサーT細胞の2つであり、正常人ではこれらCD4陽性細胞とCD8陽性細胞の両者がバランスよく存在することで生体における免疫反応が適当な状態に保たれている。ところが何らかの原因で、血液中の両者の数比に大きな変動が生じると、生体内の免疫系制御システムに異常が発生し、人体に様々な悪影響を及ぼすという報告がなされるようになったことから、最近ではこれらを踏まえ、CD4陽性細胞を血液中より選択的に吸着除去しようとする細胞吸着材の開発が行われている。
また再生医療分野では、造血幹細胞移植療法が、従来からの急性骨髄性白血病治療や再生不良性貧血治療だけでなく、最重症の末梢動脈閉塞性疾患(バージャー病、閉塞性動脈硬化症、糖尿病性壊疽等)に対しても血管新生治療としての有効性が示されてきたことから、十分な量の造血幹細胞を確保するための種々の技術開発も盛んに行われており、その一つの方法として患者本人の末梢血からCD34陽性細胞を選択的に吸着回収しようとする細胞吸着材開発も行われている。
その他、活性化マクロファージ、活性化白血球、炎症性白血球、腫瘍細胞、癌細胞などをターゲットとした選択的な細胞吸着材の開発に関する技術開示もなされており、血液のみならず、種々の細胞浮遊液からの種々の細胞をターゲットとする選択的な細胞吸着材の開発が今後も活発化すると考えられる(例えば、特許文献1参照)。
一般に細胞吸着材に用いる吸着基材の形状として、ビーズ状と繊維状が使用されることが多い。
吸着基材に選択的な細胞吸着性能を付与する方法としては、基材表面にカチオン性官能基(例えば1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、4級アンモニウム基)やアニオン性官能基(例えば硫酸エステル基、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸エステル基)をバランスよく固定化して細胞の選択吸着を行う技術が従来から知られているが、このような方法では目標とする高い細胞選択性を発現させることが困難な場合が多い。
これに対し、高い細胞選択吸着性を得るために目的細胞の細胞表面に存在するタンパクおよび/または糖鎖に特異的な親和性を有するアフィニティーリガンドを用い、これを基材に固定化する方法は効果的である。特に細胞表面のタンパクおよび/または糖鎖に強い親和性を発現するアミノ酸配列を有した抗体や、抗体の抗原結合部位を含む抗体断片(F(ab)’、Fab、Fab’等)、さらにそのようなアミノ酸配列を有する合成ペプチド、またはそれらの修飾ペプチドが効果的であり、これらを吸着基材に共有結合にて固定化する方法が好ましいと考えられる。さらに血液中から選択的に細胞を除去または回収する細胞選択吸着材を製造する場合には、リガンドの安全性が高いこと、具体的にはリガンドの抗原性などは低いことが好ましいので、リガンドは相対的に分子量の小さなペプチド型のリガンドが好ましいと言える。
不織布等の吸着基材にペプチド型リガンドを固定化する場合、ペプチドが分子鎖末端やアミノ酸残基に有する官能基、例えばアミノ基、カルボキシル基、水酸基などを利用した共有結合にて基材に固定化することが好都合である。従って、吸着基材は、アミノ基、カルボキシル基、水酸基などと反応する官能基を少なくとも表面に有していれば良いことになる。
ところが抗体やペプチド型リガンドを吸着基材に固定化して細胞選択吸着材を作成する場合、リガンド分子中のアフィニティー発現部位(すなわち抗原結合部位)がリガンド分子の特定部位に局在している場合が一般的であるため、固定化方法によってはリガンドのアフィニティー発現部位をつぶしてしまうことで細胞選択吸着機能が全く発現しなくなることが起こることが多く、特にペプチドのような比較的小さなリガンドを固定化する場合、そのような現象が起こりやすい。すなわち、ペプチドリガンドの固定化に使用可能な官能基が単に基材不織布上に多数存在するだけではリガンド固定化用基材として十分とは言えず、そのような基材へのペプチドリガンド固定化後のリガンドアフィニティーの低下(言い換えれば目的細胞の吸着率低下)が起こらないように工夫されたリガンド固定化用基材を用いることが必要である。
不織布を基材とする選択的な細胞吸着材として、例えば特許文献2には表面に式:−CO−(CH)n−X(XはCl、Br、Iの何れかの原子、nは1ないし10の整数を表す)で示されるような官能基の導入された、平均繊維径が1ないし30μmである不織布にCD4タンパクにアフィニティーを有するペプチドまたはその修飾ペプチドを固定化したことを特徴とするCD4陽性細胞捕集材が、また特許文献3には、表面にエポキシ基を有している平均繊維径が1ないし30μmである不織布にCD4タンパクにアフィニティーを有するペプチドまたはその修飾ペプチドを固定化したことを特徴とするCD4陽性細胞捕集材が開示されている。確かにこのような官能基はペプチド型リガンドの固定化は可能であるが、これら官能基を含めた基材の化学的な表面設計が特に工夫されていないので、このままではペプチド型のリガンド固定化用基材としては十分とはいえない可能性が考えられる。
特にエポキシ基は、ポリオレフィン系不織布やセルロース系不織布への導入が比較的容易である上、ペプチド残基が有する官能基(主にアミノ基)との共有結合も可能であり、さらに必要であれば種々の官能基への変換も可能であるため、エポキシ基が固定化された不織布型のリガンド固定化用基材は、細胞選択吸着材の作成には非常に有効であると考えられる。しかしながら、特許文献3に記載されているような、グリシジルメタクリレートやその誘導体(エポキシ基とエステル基を結ぶメチレン基の数が2〜5のもの)を放射線照射グラフト重合法にて不織布(例えばポリエチレンやポリプロピレン不織布)へ固定化する方法でエポキシ基を導入したものは、これに抗体(免疫グロブリン、分子量は約150kDa)を固定化した場合は、抗体が有する本来の高いアフィニティーを問題なく発現して目的細胞を十分に捕捉する細胞選択吸着材を得ることが可能なケースが多いが、不思議な事にその抗原結合部位を有する抗体断片である分子量が50kDa程度のFab’をリガンドとして用いるとアフィニティー機能が大きく低下し、目的細胞の除去が殆どできないケースが多い。
すなわちリガンドの安全性やリガンド生産コストなどにおいて好ましい、分子量の比較的小さなペプチドを細胞選択吸着材のリガンドに用いて細胞選択吸着材を製造する場合には、リガンド固定化後も本来有するアフィニティーが失われることのないようにエポキシ基を含む不織布表面の化学構造が予め設計されたリガンド固定化用基材を使用することが好ましく、そのようなリガンド固定化用基材、およびそれを用いた細胞選択吸着材の開発が望まれている。
一方、エポキシ基を含めた基材の化学的な表面設計が工夫されたものとして、特許文献4にはスチレン−グリシジルメタクリレート重合体にスペーサー(特にエチレングリコールジグリシジルエーテル誘導体)を介して生理活性を有する物質を結合したミクロスフィア、およびこのミクロスフィアを用いて当該生理活性を有する物質に付着し得る物質、例えば特定のタンパク質を、当該物質を含有する混合物中(例えば細胞膜の破砕後、いくつかの処理工程を経て得られた細胞抽出液中)から分離する方法が開示されている。しかしこのようなミクロスフィアが、特定の細胞の吸着材としても優れた性能を発現するかに関しては全く知られておらず、特許文献4にもこのような概念に関する示唆も教示もなされていない。当然、通常のタンパク質と細胞ではサイズにおいて100〜1000倍程度も違うため要求される捕捉能力も異なるのであるから、吸着材の設計は、吸着基材の形状も含め対象に応じてそれぞれ行わなければならない。
特開2000−217909号公報 特開平06−269663号公報 特開平06−218051号公報 特開平10−195099号公報
本発明は、ペプチド型リガンド等のアフィニティリガンドを固定化して細胞選択吸着材を作成する際に、リガンド固定化後も本来のアフィニティーが低下することのないように基材表面の化学構造の設計が施され、しかもエポキシ基を固定化用官能基として有する多孔膜型のリガンド固定化用基材およびその製造方法を提供することである。さらに本発明は、本発明のリガンド固定化用基材にペプチド型リガンド等のアフィニティリガンドを固定化することで、ターゲット細胞の優れた選択吸着性能を発現し、しかも安全性やコストパフォーマンスにも優れた多孔膜型の細胞選択吸着材およびその製造方法を提供することである。
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意検討を行った結果、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
1)多孔膜の少なくとも表面部分に、エポキシ基および窒素原子を含む式(1)で示される化学構造基の少なくとも1種が化学的に結合していることを特徴とするリガンド固定化用基材。
Figure 0004942015
[ここで式(1)中のRは、H、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルキル基が有する1つ以上の水素原子をOH基で置換した化学構造基、および下記式(2)で示される化学構造基から選ばれ、式(1)および式(2)のnは1〜4の整数である。]
Figure 0004942015
2)式(1)で示される化学構造基をZとする時、Zの多孔膜の表面での結合が、膜成分であるアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル系重合体に含まれる式(3)で示されるモノマーユニット構造の一部としての結合である、上記1)に記載のリガンド固定化用基材。
Figure 0004942015
[ここで式(3)中のRはHまたはCHである]
3)リガンド固定化用基材1gに含まれるエポキシ基の含有量が1〜500(μmol/g)であり、同じく窒素原子の含有量が10〜2000(μmol/g)であることを特徴とする上記1)又は2)に記載のリガンド固定化用基材。
4)多孔膜が、平均繊維径0.1μm〜50μmの不織布であることを特徴とする上記1)〜3)のいずれかに記載のリガンド固定化用基材。
5)上記1)〜4)のいずれかに記載のリガンド固定化用基材に、特定の細胞表面に親和性を有するアフィニティーリガンドの少なくとも1種を固定化したことを特徴とする細胞選択吸着材。
6)特定の細胞がCD4陽性細胞である上記5)に記載の細胞選択吸着材。
7)アフィニティーリガンドがペプチド型リガンドであることを特徴とする上記5)又は6)に記載の細胞選択吸着材。
8)ペプチド型リガンドの分子量が0.5〜130kDaである上記7)に記載の細胞選択吸着材。
9)多孔膜の少なくとも表面部分に化学的に結合されたエポキシ基にアンモニアおよび/または1級アミン化合物を反応させる工程、および該工程によって生成する1級アミノ基および/または2級アミノ基を少なくとも表面部分に有する多孔膜にジグリシジル化合物の少なくとも1種を反応させる工程を含むことを特徴とするリガンド固定化用基材の製造方法。
10)ジグリシジル化合物が、式(4)で示される化学構造から選ばれることを特徴とする上記9)に記載のリガンド固定化用基材の製造方法。
Figure 0004942015
[ここで式(4)のnは1〜4の整数である。]
11)多孔膜の少なくとも表面部分に化学的に結合されたエポキシ基が、エポキシ基を有する重合性モノマーを少なくとも用いた放射線照射グラフト重合法によって得られた重合体に由来するものであることを特徴とする上記9)または10)に記載のリガンド固定化用基材の製造方法。
12)上記5)〜8)のいずれかに記載の細胞選択吸着材を充填してなることを特徴とする細胞選択吸着カラム。
13)上記12)に記載の細胞選択吸着カラムを用いて細胞浮遊液中のターゲット細胞を吸着する方法。
一般にペプチド型リガンド等のアフィニティリガンドを基材に固定化した場合、リガンドが本来有するアフィニティーを十分に発現しなくなってしまうという問題点があったが、本発明のリガンド固定化用基材を用いると、固定化後もペプチド型リガンドのアフィニティー活性が維持されるので、血液等の細胞浮遊液からターゲット細胞を効果的に選択吸着できる。しかも、本発明のリガンド固定化用基材の製造方法は非常に簡便である。従って本発明のリガンド固定化用基材を用いれば、安全性や製造コストに優れたペプチド型リガンドが固定化されている上、ターゲット細胞に対する高い選択吸着性を有し、しかも製造が容易であってコストパフォーマンスにも優れた細胞選択吸着材を提供することが可能となる。
以下、本発明を詳細に説明する。
リガンド固定化用基材および細胞選択吸着材
本発明のリガンド固定化用基材は、多孔膜の少なくとも表面部分に式(1)で示される化学構造基の少なくとも1種が化学的に結合していることを特徴とする。
Figure 0004942015
式(1)中のRは、H、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルキル基が有する1つ以上の水素原子をOH基で置換した化学構造基、および下記式(2)で示される化学構造基から選ばれる。
Figure 0004942015
がアルキル基の場合、それを構成する炭素数は1〜5個であり、1〜3個が好ましく、1〜2個が特に好ましい。アルキル基としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−アミル基等が挙げられるが、これらには限定されない。炭素数が6個以上になると表面疎水性が高くなるため、細胞選択吸着材として使用する際に細胞の非特異吸着が起こりやすくなり選択性が低下することがあり、またリガンド固定化における立体障害にもなる可能性があるので好ましくない。
炭素数1〜5のアルキル基が有する1つ以上の水素原子をOH基で置換した化学構造基としては、例えばメチル基の1つの水素がOH基で置換されたものであるメチロール基、エチル基の1つの水素がOH基で置換されたものである2−ヒドロキシエチル基等が挙げられるが、これらには限定されない。この場合の炭素数は1〜5であるが、1〜3が好ましく、1〜2が特に好ましい。炭素数が6以上であると、リガンド固定化における立体障害となる場合があるので好ましくない。
式(1)および式(2)のnは1〜4の整数であるが、nは1〜3であることが好ましく、nは1〜2であることがさらに好ましく、nは1であることが特に好ましい。nが5以上であると、リガンド固定化用基材の表面親水性が高くなってタンパク等の吸着を抑制する構造になってしまうし、またリガンド固定化用官能基であるエポキシ基が基材の最表面に存在する確率も低下してしまうため、いずれもペプチド型リガンドの固定化を十分に行うことが困難になるので好ましくない。
本発明のリガンド固定化用基材は、多孔膜の少なくとも表面部分に式(1)で示される化学構造基の少なくとも1種が化学的に結合していることが特徴であるが、その化学構造基がどのような様式にて多孔膜の少なくとも表面部分に結合しているかについては特に限定されない。ただし、式(1)で示される化学構造基をZとする時、Zの多孔膜の表面での結合が、少なくとも多孔膜の表面部分を構成する膜成分であるアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル系重合体に含まれる式(3)で示されるモノマーユニット構造の一部としての結合であることが好ましい。
Figure 0004942015
[ここで式(3)中のRはHまたはCHである]
ここでアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル系重合体とは、式(3)で示されるモノマーユニット構造だけからなるものでも良いが、他の重合性モノマー(アクリル酸エステルやメタクリル酸エステルに限定されない)を共重合成分として含有する共重合体であっても構わない。ただし、アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル系重合体を構成する全モノマーユニット数をM1とし、その中に含まれる式(3)で示されるモノマーユニット構造数をM2とすれば、M2/M1の値は、0.05〜1が好ましく、0.2〜1がより好ましく、0.5〜1がさらに好ましく、0.8〜1が特に好ましく、1が最も好ましい。M2/M1の値が0.05未満であると本発明のリガンド固定化用基材が有するエポキシ基の量が少なくなるのでリガンドが十分に固定できなくなり好ましくない。
ここで他の重合性モノマーは特に限定されず、どのようなものでも構わないが、例えば(メタ)アクリル酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート類、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート類や、(メタ)アクリルアミド、N−1置換(メタ)アクリルアミド、N,N−2置換(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類のような親水性モノマーの他、(メタ)アクリル酸メチル、酢酸ビニルなどが代表的なものとして挙げられる。
なお、式(1)〜(3)の化学構造基は、官能基特有の化学反応を利用した化学分析、およびいくつかの高分子固体表面解析機器を使用した総合的な解析技術によって確認することができる。例えば、エポキシ基の定性および定量分析は、公知のチオ硫酸ナトリウム試験法(J.Chem.Soc.,1950,2857参照)を用いれば可能である。また高分子固体表面解析機器としては、例えばフーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)、X線光電子分光分析装置(XPS)、オージェ電子分光装置(AES)、二次イオン質量分析装置(SIMS)、飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)、固体高分解能核磁気共鳴分析装置(solid−state NMR)等が挙げられる。
本発明のリガンド固定化用基材の1gに含まれるエポキシ基の含有量は、1〜500(μmol/g)であることが好ましい。さらに5〜400(μmol/g)であることがより好ましく、10〜300(μmol/g)であることが特に好ましい。エポキシ基の含有量が、1(μmol/g)未満であると、リガンドの固定化が十分に行われない可能性があるし、500(μmol/g)を超えると過剰のエポキシ基(またはそれを変換して得られる別種の固定化用官能基)が立体障害となり逆にリガンドの、特にペプチド型リガンドの固定化反応を阻害する可能性があるため、いずれも好ましくない。
本発明に言うリガンド固定化用基材1gに含まれるエポキシ基の含有量とは、公知のチオ硫酸ナトリウム試験法(J.Chem.Soc.,1950,2857参照)に準じて測定される値である。具体的には、得られた多孔膜の所定量を充分な量のチオ硫酸ナトリウム水溶液に浸漬し、80℃で1時間保った後、フェノールフタレインを少量加え、エポキシ基とチオ硫酸ナトリウムの反応で発生したOH基量を塩酸水溶液にて滴定する方法であり、あくまでも水中にて測定される値である。
また本発明のリガンド固定化用基材が有する窒素原子の含有量は、10〜2000(μmol/g)であることが好ましい。さらに50〜1500(μmol/g)であることがより好ましく、80〜1000(μmol/g)であることが特に好ましい。窒素原子量が10(μmol/g)未満であると必然的にエポキシ基の含有量(導入量)が小さいので好ましくないし、また2000(μmol/g)を超えても逆にエポキシ基の含有量(導入量)が低いという傾向が見られるため好ましくない。基材が有する窒素原子の含有量は、市販のパイロ発光法窒素分析装置(例えばANTEK社製 ANTEK7000)にて測定することが可能である。
本発明に用いる多孔膜は、細胞浮遊液を通過させる連通孔を有し、しかも細胞浮遊液が連通孔を通過中に、連通孔の少なくとも表面部分に存在するアフィニティーリガンドとの接触によってターゲット細胞が吸着されるのであればどのような構造であっても構わず特に限定されない。連通孔とは、支持多孔膜の一方の膜面から反対側の膜面にかけて連通した孔のことであって、その連通孔を通して液体が通過するとこができるのであれば、その孔の膜表面の形状や膜内部の構造はどのようなものであってもよい。
多孔膜を形成する素材としては、天然高分子、合成高分子、再生高分子等の有機高分子化合物、ガラスや金属に代表される無機化合物、さらに有機/無機ハイブリッド化合物などが挙げられるが特に限定されない。多孔膜としては、これらの素材から得られる繊維状物(中実繊維や中空繊維)を用いて製造される不織布、織布、編布、メッシュ等が挙げられる。また、有機高分子素材や無機高分子素材を熱溶融した状態、溶媒によって溶解した溶液状態、可塑剤を用いて可塑化した状態等から、発泡法、相分離法(熱誘起相分離法や湿式相分離法)、延伸法、焼結法等によって得ることができるシート状膜(平膜)や中空糸膜も使用できる。特に本発明で用いられる多孔膜として好ましいものとしては、細胞浮遊液の透過性、および細胞捕捉性の観点から、各種繊維状物から製造される不織布、織布、編布、メッシュ等が挙げられ、特に不織布は好ましく用いられる多孔膜である。
多孔膜に用いられる素材としては、有機高分子素材が特に加工性の面から好ましく、例えばポリアルキレンテレフタレート類、ポリカーボネート類、ポリウレタン類、ポリ(メタ)アクリル酸エステル類、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、エチレン/ビニルアルコール共重合体(エバール)、エチレン/ビニルアセテート共重合体、ポリビニルアセタール、ポリスチレン、ポリスルホン類、セルロース及びセルロース誘導体類、ポリフェニレンエーテル類、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン等、及びこれらを構成するモノマーの共重合体、更には上記高分子の1種又は2種以上のアロイ、ブレンド等が挙げられる。
本発明のリガンド固定化用基材は、既述の式(1)〜(3)で示される構造が多孔膜の内部から表面までほぼ均一に分布していても構わないし、表面付近に偏在した構造であっても構わない。しかし、式(1)〜(3)の構造が多孔膜の内部にまで存在していても、リガンド固定化用基材の性能には殆ど無関係である上、逆に多孔膜の機械的強度低下にも繋がる可能性があるので、式(1)〜(3)の構造は多孔膜の表面付近に偏在した構造であることが好ましい。なお、式(1)〜(3)の構造が多孔膜の表面付近に偏在した構造は、後述の「リガンド固定化用基材の製造方法」の項にて述べるように、予め製造された多孔膜材料(不織布等)の表面を利用した表面化学反応法(高分子反応やグラフト重合反応)やコーティング法によって得ることができる。
なお本発明に言う「多孔膜の表面部分」とは、例えば平膜の場合にはその表裏のみを意味するのではなく、平膜内部に存在する微細孔内部の表面(連通孔の表面)をも含むものである。特に多孔膜が不織布の場合は、それを構成する繊維の全表面(繊維交絡部は除く)が多孔膜の表面部分である。すなわち、多孔膜のうち、対象となる細胞浮遊液と接する部分をいう。
本発明の細胞選択吸着材は、特定の細胞表面に選択的親和性を有するアフィニティーリガンドの少なくとも1種を本発明のリガンド固定化用基材に固定化したものである。
本発明においてリガンド固定化用基材に固定化されるアフィニティーリガンドは、特定の細胞表面に対して選択的アフィニティー(選択的親和性)を発現する分子であれば特に制限されず、例えば分子量が500以下程度の低分子化合物リガンド、金属イオンが配位したような有機金属錯体リガンドや、糖鎖リガンド、またはRNAアプタマ−やDNAアプタマ−と呼ばれる核酸リガンド等が挙げられる。ただし優れた細胞吸着能を発現させるのであれば、ターゲット細胞の表面に特有のタンパクに極めて高いアフィニティーを有する抗体やキメラ抗体、抗体が有する重鎖または軽鎖の可変領域を構成しているアミノ酸配列中の相補性決定領域を形成しうるアミノ酸配列を有するF(ab’)、Fab、Fab’、およびその他ペプチドまたはその修飾ペプチド型のリガンドの使用が好ましい。特に本発明の細胞選択吸着材を体外血液循環法にて血液中の特定細胞を吸着除去または回収するために用いる場合、人体への安全性を考慮すれば抗原性の小さいものが好ましく、さらに製造コストもできるだけ低いものが好ましいため、抗体よりも分子量の小さい合成ペプチドおよびその修飾ペプチド類をリガンドとすることは好ましい。またこのようなペプチド型リガンドを用いた場合に本発明のリガンド固定化用基材の優れた効果が顕著となるので、このような観点からもペプチド型のリガンドが好ましいと言える。
合成ペプチドおよびその修飾ペプチド類とは、主に蛋白工学もしくは分子生物学および遺伝子工学的手法を用いて作成した人工的な分子である。これらは人工的な分子であることから、熱安定性の優れたものを大量生産により低価格で供給できるメリットがある。こうした分子は対象分子に対して特異的に結合することから人工抗体と呼ばれることもある。人工抗体は、通常、抗体V領域の3次構造と類似の構造分子を利用してそのループ形成部分をランダム化もしくは抗体V遺伝子のCDR3を組み込むことにより作製する。例えばProtein Aを抗体化したAffibody(K.Nord,O.Nord,M.Uhlen,et al.,Eur.J.Biochem.,268,4269(2001).)、GFPを抗体化した光る抗体であるFluorobody(I.S.Kim,J.H.Shim,Y.T.Suh,et al.,Biosci.Biotechnol.Biochem.,66,1148(2002).)、フィブロネクチンのドメイン10を抗体化したMinibody(V.Batori、A.Koide、S.Koide、Protein Eng.,15,1015(2002).)、ペプチドミミック分子と抗体の融合分子であるPepbody(E.Lunde,V.Lauvrak,I.B.Rasmussen,et al.,Biochem.Soc.Trans.,30,500(2002).)、ラクダ抗体の構造を利用した一本鎖抗体であるNanobody(A.Muruganandam,J.Tanha,S.Narang,D.Stanimirovic,The FASEB J.,16,240(2002).)などが挙げられる。
ペプチド型リガンドを用いる場合、安全性を考慮すれば、その分子量は0.5〜130kDaが好ましく、さらに好ましくは0.5〜100kDa、特に好ましくは0.5〜60kDa、特に好ましくは0.5〜40kDaである。
本発明の細胞選択吸着材が選択的に捕捉するターゲット細胞は特に限定されないが、例えば血液中のCD4陽性細胞が挙げられ、この場合では細胞の表面マーカーであるCD4タンパク(マーカー)をリガンドのターゲットとする。このような細胞選択除去の際にターゲットとなる細胞表面のマーカーは何れのものでも良好に用いられるが、その他例をあげると、リンパ球の表面マーカーであるCD4、CD3、CD2、CD1a、CD1b、CD1c、CD2、CD2R、CD5、CD6、CD7、CD8、CD9、CD11a、CD18、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD24、CD37、CD40、CD72、CD77、CD79b、CD80、CD81等の各タンパク、その他CD13、CD14、CD15、CD16、CD32、CD33、CD34、CD35、CD64、CD65、CDw65、CD66b、CD66e、CD89、CDw90、CD56、CD57、CD94、CD105、CD106、CD46、CD9、CD31、CD36、CD41、CD42a、CD42b、CD63、CD11a、CD11b、CD11c、CD1829、CD44、CD48、CD49a、CD49b、CD49c、CD49d、CD49e、CD49f、CD50、CD51、CD54、CD58、CD61、CD62E、CD62L、CD62P、CD103、CD26、CD30、CD69、CD70、CD71、CD95、CD25、CD117、CD122、CDw124、CD126、CD127等の各タンパクが挙げられる。
本発明のリガンド固定化用基材および細胞選択吸着材の平均気孔径は、血液中にて使用される細胞選択吸着材の場合において血球の目詰まりや圧力損失の増大などの点から1μm以上が好ましく、また細胞捕捉性の点から30μm以下が好ましい。より好ましくは1〜20μm、特に好ましくは2〜10μmである。ここで平均気孔径とは、ASTM−F316−86に記載されているバブルポイント法に準じてPROFIL液(COULTER ELECTRONICS社製)中にて測定される値である。
また、本発明のリガンド固定化用基材および細胞選択吸着材の膜厚は、大きすぎると濾過速度が著しく低下したり濾過後の残液量も多くなるため、好ましくは5mm以下、より好ましくは3mm以下、最も好ましくは1mm以下である。一方膜厚が薄すぎると、強度低下による膜破れ等に繋がるため、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上、最も好ましくは10μm以上である。
本発明のリガンド固定化用基材および細胞選択吸着材が不織布形状の場合、その平均繊維径(平均繊維直径)は0.1μm〜50μmが好ましい。さらに平均繊維径は0.5μm〜40μmであることが好ましく、1μm〜30μmであることがより好ましく、1μm〜20μmであることが特に好ましく、2μm〜10μmであることが最も好ましい。平均繊維径が0.1μm未満であると、リガンド固定化用基材や細胞選択吸着材の機械的強度が低下するため好ましくない。また50μmを超えると細胞選択吸着材とした場合の吸着表面積が小さくなり細胞捕捉性が低下するので好ましくない。なお本発明にいう不織布の平均繊維径は、走査型電子顕微鏡を用い、繊維の直径が測定可能な倍率においてリガンド固定化用基材や細胞選択吸着材の写真撮影を行い、撮影画面上に分散している繊維の直径をランダムに100個以上測定して、その平均値から求められる値である。
なお本発明のリガンド固定化用基材や細胞選択吸着材は、細胞の捕捉性アップや目詰まり防止のために、繊維径や気孔径が多孔膜内で(または不織布内で)均一である必要はなく、例えば傾斜構造になっていても構わない。
次に本発明のリガンド固定化用基材および細胞吸着材の製造方法について記述する。
リガンド固定化用基材の製造方法
本発明のリガンド固定化用基材は、多孔膜の少なくとも表面部分に化学的に結合されたエポキシ基にアンモニアおよび/または1級アミン化合物を反応させる工程、および該工程によって生成する1級アミノ基および/または2級アミノ基を少なくとも表面部分に有する多孔膜にジグリシジル化合物の少なくとも1種を反応させる工程を含む製造方法にて作成することができる。
以下、多孔膜として不織布を用いる製造方法を例として、順を追って説明するが、この製造方法は不織布を用いた場合のみに限定されるものではない。
(製造工程1)
本発明では、まず繊維の少なくとも表面部分にエポキシ基が化学的に結合された不織布を製造する工程が必要であるが、その製造方法は特に限定されず、どのような方法を用いても構わない。
例えば、1)メルトブロー法やフラッシュ紡糸法、短繊維を交互に絡ませるニードルパンチ法、繊維を形成させると同時に不織布を製造するスパンボンド法等の既存の方法にて予め製造された不織布材料に、繊維表面の化学反応を用いた共有結合にて繊維の少なくとも表面部分にエポキシ基を化学的に結合させた不織布を製造する方法が挙げられる。その他、2)エポキシ基を有する高分子化合物を用い、それ自体で適当な不織布を作成する方法、3)エポキシ基を有する高分子化合物を適当な溶媒に溶解して溶液を作成し、これを予め製造された不織布材料にコーティングする方法、4)反応性官能基を有する高分子化合物、例えばセルロース誘導体、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体等といった多数のOH基を有する高分子の溶液を調整し、予め製造された不織布材料(例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステルのような反応性官能基を持たない不織布)にコーティングした後、そのコーティング層にエピクロロヒドリン等を反応させてエポキシ基を導入するといった方法も例示される。
なお方法2)や3)のエポキシ基を有する高分子化合物とは、例えばセルロース誘導体、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体等の多数のOH基を有する高分子に、アルカリ存在下にてエピクロロヒドリンを反応させてエポキシ基を導入したものや、グリシジルメタクリレートのようなエポキシ基を有する重合性モノマーを単独もしくは別種モノマーと共重合したものが挙げられる。
上記の中で特に方法1)は、共有結合にてエポキシ基が繊維に結合されるため、エポキシ基だけでなく次の製造工程以降にエポキシ基を基点として結合される官能基の脱落の心配がない。従って、本発明のリガンド固定化用基材の製造においては最も好ましい製造方法と言える。
繊維の少なくとも表面部分にエポキシ基が化学的に結合された不織布を製造するにあたり、予め製造された不織布材料に表面化学反応(共有結合)によってエポキシ基を導入する方法を用いる場合、その導入方法は特に限定されず種々の公知の方法を用いることができる。その代表的な方法としては、セルロース、セルロース誘導体、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体等の多数のOH基を有する高分子素材からなる不織布に、アルカリ性溶液中にてエピクロロヒドリンを付加反応させるような高分子反応法、および不織布繊維にγ線、X線、電子線、紫外線等を照射して繊維表面や内部にラジカルを発生させ、これを基点としてグリシジルメタクリレートのようなエポキシ基を有する反応性モノマーのグラフト重合を行ってエポキシ基を導入する放射線照射グラフト重合法が挙げられる。このうち放射線照射グラフト重合法は、不織布繊維表面に十分な量のエポキシ基を共有結合によって導入することが容易である上、エポキシ基を持たない異種モノマーとの共重合において共重合比を変えたり、グラフト率を制御することで、エポキシ基の導入量を調節することも可能なので、本発明のリガンド固定化用基材の製造方法においては特に好ましく用いられる。
本発明のリガンド固定化用基材の製造方法において、コーティング法、高分子反応法、および放射線照射グラフト重合法等を用いて少なくとも繊維表面へエポキシ基を導入する場合、使用される原料不織布は特に限定されず、例えばガラスに代表される無機高分子化合物や、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、セルロース、セルロース誘導体、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン/ビニルアルコール共重合体(エバール)、エチレン/ビニルアセテート共重合体等に代表される有機高分子化合物、および両者からなる有機/無機複合体高分子などからなる不織布が挙げられる。ただし不織布形状への成形性や表面化学修飾の容易さから有機高分子素材が好ましく、中でもポリプロピレン、ポリエチレン、ポリフッ化ビニリデン、セルロース、ポリビニルアルコール、エチレン/ビニルアルコール共重合体(エバール)は表面化学修飾が容易であるため好ましく、放射線照射グラフト重合法を行うにあたってはポリプロピレン、ポリエチレン、ポリフッ化ビニリデンがより好ましく、さらに不織布製品としての入手の容易さやグレード(平均繊維径や平均気孔径)の幅広さを考慮すればポリプロピレンやポリエチレンが特に好ましい。
上記で使用される原料不織布の平均繊維径(平均繊維直径)は、最終的に得られる本発明のリガンド固定化用基材および細胞選択吸着材の平均繊維径が0.1μm〜50μmの範囲内になるのであれば特に限定されない。また原料不織布の平均気孔径も、最終的に得られるリガンド固定化用基材および細胞選択吸着材の平均気孔径が1μm〜30μmの範囲内になるのであれば特に限定されない。
本発明のリガンド固定化用基材の製造方法において、放射線照射グラフト重合法を用いて原料不織布繊維の少なくとも表面へエポキシ基を導入する場合、グラフト重合に使用されるエポキシ基を有する重合性モノマーは特に限定されないが、ラジカル重合が可能なモノマーが適しており、さらに入手の容易さ、コスト、取り扱いの容易さからグリシジルメタクリレートが最適である。放射線照射グラフト重合においては、グリシジルメタクリレートに代表されるエポキシ基を有する重合性モノマーは単独で用いても構わないし、必要に応じて別種の重合性モノマー(エポキシ基が結合していても結合していなくても構わない)と共重合しても構わない。但し、次の製造工程を考慮すればエポキシ基は繊維表面に十分に導入されていることが好ましいので、グラフト共重合においては仕込みモノマーにおけるグリシジルメタクリレートの仕込み比は、5〜100mol%が好ましく、20〜100mol%がより好ましく、50〜100mol%がさらに好ましく、80〜100mol%が特に好ましく、100mol%が最も好ましい。5mol%未満であると、本発明のリガンド固定化用基材が有するエポキシ基の量が少なくなるのでリガンドが十分に固定できなくなり好ましくない。
ここで別種の重合性モノマーは特に限定されず、どのようなものでも構わないが、例えば(メタ)アクリル酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート類、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート類や、(メタ)アクリルアミド、N−1置換(メタ)アクリルアミド、N,N−2置換(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類のような親水性モノマーの他、スチレン、(メタ)アクリル酸メチル、アクリロニトリル、酢酸ビニルなどが代表的なものとして挙げられる。
また放射線照射グラフト重合法を用いる場合、原料不織布へのグラフト率(G)は5〜300%が好ましく、20〜200%がさらに好ましく、50〜150%が特に好ましい。グラフト率が5%未満であると、繊維表面のエポキシ基による被覆が不十分となってしまうため、次の製造工程2以降の官能基導入量や、最終的なリガンドの固定化量も不十分となってしまうため好ましくない。またグラフト率が300%を超えると、平均繊維径や平均気孔径といった不織布自体の物理特性が原料不織布とは次第に異なってくるため吸着材の設計上好ましくない。
なお、ここに言うグラフト率(G)は、式(5)で表される値である。
G(%)=[(グラフト後不織布重量−グラフト前不織布重量)/(グラフト前不織布重量)]×100 (5)
不織布への放射線照射グラフト重合は、常法によって実施することができるが(例えば、膜(MEMBRANE),Vol.27,No4,P196(2002).参照)、代表的な手順は、簡単に以下のように既述できる。
不織布への放射線の照射は、酸素フリーの条件下、具体的には窒素雰囲気下で行う。放射線としては、γ線、X線、電子線、さらには紫外線なども用いることが可能であるが、γ線は高いエネルギーを有しているためラジカル発生効率が高く、高いグラフト率を得るためには好ましい。また電子線は、エネルギーレベルは低いが、安全性が高く、装置も汎用的であるのでこれも好ましく使用される。
グラフト重合は、放射線照射後の不織布(グラフト重合を行うまでは酸素フリーの雰囲気下で保存する)を、重合性モノマーと適当な反応溶媒からなるモノマー溶液(窒素バブリング法等にて予め脱酸素しておく)に浸漬して行われる。モノマー溶液におけるモノマー濃度は、通常5〜20vol%の範囲が適当であるが、この範囲に限定されるものではなく適宜選択される。溶媒は、グラフト重合にて不織布繊維表面に形成されるグラフト高分子鎖を溶解するものが一般的に好ましく、例えば重合性モノマーとしてグリシジルメタクリレートを用いる場合にはN−メチルピロリドンやN,N−ジメチルホルムアミド等が好ましく用いられる。グラフト率は重合時間(すなわち不織布のモノマー溶液への浸漬時間)によって制御できるが、モノマーの種類や原料不織布素材が異なると反応性(重合性)も大きく異なるので適宜設定する必要がある。反応温度は20〜40℃程度で行われることが多いが、この範囲に限定されるものではなく、適宜設定すればよい。重合反応後は、過剰のモノマーや連鎖移動反応にて生成したグラフトされていないホモポリマーを適当な溶剤にて十分洗浄除去した後、乾燥して次の製造工程2に用いる。
なお本製造工程で導入された不織布が有するエポキシ基のmol数は、エポキシ基の導入反応前後における不織布重量の増加から見積もることが可能である。また重量増加が少ない場合には、公知のチオ硫酸ナトリウム試験法(J.Chem.Soc.,1950,2857.参照)に準じ、測定用の溶媒として水や、必要に応じて水に可溶な有機溶媒(エタノールやジメチルスルホキシド等)、およびそれらの混合溶媒を用いて測定することができる。
(製造工程2)
次に、製造工程1にて得られた不織布の、繊維の少なくとも表面部分に化学的に結合されたエポキシ基に、アンモニアおよび/または1級アミン化合物を反応させることで、1級および/または2級アミノ基を生成させる。
この反応の方法は特に制限されず、いかなる方法を用いても構わないが、例えばアンモニアや1級アミン化合物を溶解した溶液に、製造工程1で得られた不織布を浸漬する方法が簡便であるため本発明の製造方法では好ましく用いられる。
アンモニアを反応させる場合には、製造工程1で得られた不織布を水、アルコール(メタノールやエタノールなど)、ジオキサンなどの十分な量の適当な溶媒に浸漬したのち、アンモニアガスをその溶媒に吹き込んで反応を行っても構わないが、アンモニアを十分に溶解した市販のアンモニア溶液を用いれば、それに製造工程1の不織布を浸漬するだけでよく、危険なアンモニアガスを扱う必要がないので好ましい方法と言える。アンモニア溶液としては、水溶液、メタノール溶液、エタノール溶液、ジオキサン溶液などが挙げられる。例えばアンモニア水溶液を用いる場合は、アンモニア水溶液の濃度は特に限定されないが、高濃度の方が反応速度も大きくなるので、25〜28wt%程度のものが好ましい。アンモニア水溶液に上記の有機溶媒を加えたような混合溶媒として反応を行っても構わない。
1級アミン化合物を反応させる場合には、製造工程1で得られた不織布を、1級アミン化合物そのものか、それを適当な溶媒に溶解した溶液に浸漬する方法が簡便であるため好ましい。1級アミン化合物とは、RNHで表される化合物であり、Rは本発明のリガンド固定化用基材および細胞選択吸着材の表面親疎水性等に影響を与えるため、必要に応じて種々のものを用いることが可能であり特に限定されることはない。ただし、Rの疎水性が高くなりすぎると最終的な細胞選択吸着材の表面疎水性も高くなるため、細胞の非特異吸着が起こりやすくなり細胞選択性が低下することがあるし、またRの分子量が大きくなリ過ぎると次の製造工程におけるジグリシジル化合物の付加反応における立体障害にもなる可能性があるのでいずれも好ましくない。従ってRは、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルキル基が有する1つ以上の水素原子をOH基で置換した構造から選ばれることが好ましい。
Rがアルキル基の場合、それを構成する炭素数は1〜5個が好ましいが、1〜3個がより好ましく、1〜2個が特に好ましい。そのようなアルキル基としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−アミル基等が挙げられるが、これらには限定されない。炭素数1〜5のアルキル基が有する1つ以上の水素原子をOH基で置換した構造としては、例えばメチル基の1つの水素がOH基で置換されたものであるメチロール基、エチル基の1つの水素がOH基で置換されたものである2−ヒドロキシエチル基等が挙げられる。
またRがOHであるヒドロキシルアミンを1級アミン化合物として反応させても良いが、この場合は最終的にはアンモニアを反応させた場合と同じ構造が得られる。
1級アミン化合物が常温で液体の場合は、1級アミン化合物100%の液体に不織布を浸漬しても構わないが、少なくとも1種以上の適当な溶媒で1級アミン化合物を希釈して、この溶液に不織布を浸漬する方法がアミン化合物の無駄も少なく好ましい。
1級アミン化合物を希釈する溶媒は、浸漬する不織布表面をある程度濡らし、しかも1級アミン化合物とエポキシ基の反応を阻害しないものであれば特に限定されず、不織布表面の親疎水性の程度や1級アミン化合物の構造に応じて適宜選択すればよい。使用可能な溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、酢酸エチルなどのエステル類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカリンなどの脂肪族炭化水素類、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素類、ジメチルスルホキシドなどの含硫黄系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類などが挙げられるが、アルコール類は取り扱いの容易であり、また一般的にエポキシ基やアミン化合物との親和性が高いといった特徴があるため好ましい溶媒であり、なかでも人体への毒性が少ないエタノールは実用上特に好ましい。なお必要であれば、これら溶媒に親疎水性の微調整を行う目的で水を予め混合していても構わない。
エポキシ基を有する不織布を浸漬させるために使用するアンモニアおよび/または1級アミン化合物を含む溶液の量は、浸漬する不織布が完全に浸る量があれば問題ない。反応中(浸漬中)は、均一な反応を進めるために溶液を対流(攪拌)することが好ましく、超音波照射を行っても構わない。
上記溶液に含まれるアンモニアや1級アミン化合物の量は、製造工程1にて得られた不織布が有するエポキシ基の1.5倍mol以上が好ましく、3倍mol以上がさらに好ましく、5倍mol以上が特に好ましい。この量がエポキシ基の1.5倍mol未満であると、エポキシ基との反応が十分進まなかったり、高い反応率を達成するために非常に長い時間を要したりするので好ましくない。なお、エポキシ基とアンモニアおよび/または1級アミン化合物の大きな反応速度や高い反応率を得るためには、溶液に含まれるアンモニアや1級アミン化合物の量は多いほど好ましく上限はないが、必要以上に加えても無駄になるし、製造作業における危険性(アミン類は一般的に刺激物である)も高くなるので、適宜判断が必要である。
上記エポキシ基とアンモニアおよび1級アミン化合物との反応温度は、特に限定されないが、例えば20〜80℃の温度範囲が適当である。反応温度が高すぎると一旦生成した1級アミノ基や2級アミノ基がさらに近傍のエポキシ基と反応して、次の製造工程3におけるジグリシジル化合物との反応に使用されるアミン性プロトンが非常に少なくなる可能性があるので好ましくない。なお、この反応を抑制するためにも、エポキシ基に対するアンモニアや1級アミノ化合物の添加量は多いほど好ましい。
また上記エポキシ基とアンモニアおよび1級アミン化合物との反応時間(浸漬時間)も特に限定されないが、例えば25wt%アンモニア水溶液中にエポキシ基を有する不織布を浸漬して反応を行う場合は、1〜24時間程度が適当である。反応後は、過剰のアンモニアや1級アミン化合物を適当な溶剤にて十分洗浄除去した後、乾燥して次の製造工程に用いる。
なお得られた不織布の1gが有する窒素原子のmol数(N1(μmol/g))は、市販のパイロ発光法窒素分析装置(ANTEK社製 ANTEK7000)にて測定することが可能であるので、同じ装置を用いてアンモニアや1級アミン化合物を反応させる前の不織布(製造工程1にて作成)の1gが有する窒素原子のmol数(N2(μmol/g))を測定し、N1からN2を差し引けば、本製造工程にて得られたアンモニアおよび/または1級アミン化合物との反応によって生成した1級アミノ基および/または2級アミノ基に由来する不織布中の窒素原子のmol数を算出することができる。
(製造工程3)
最後に、製造工程2で得られた1級および/または2級アミノ基を有する不織布に、ジグリシジル化合物の少なくとも1種を反応させることで、本発明のリガンド固定化用基材を製造する。
本発明のリガンド固定化用基材の製造方法に用いるジグリシジル化合物とは、分子中に2つのグリシジル基を有する化合物であれば、その構造は特に限定されない。但し、第一のグリシジル基が製造工程2にて作成した不織布の1級および/または2級アミノ基と反応した後は、第二のグリシジル基は未反応のまま残存し、後述する本発明の細胞選択吸着材の製造においてリガンド固定化反応に使用されることが好ましいので、2つのグリシジル基は分子内で互いに離れた位置に存在することが好ましく、例えば2つのグリシジル基を連結する化学構造が脂肪族直鎖状の場合、直鎖の両末端にグリシジル基を有する構造が好ましい。
2つのグリシジル基を連結する化学構造は特に限定されないが、脂肪族直鎖状構造は好ましい構造であり、その両末端にグリシジル基を有する構造が好ましい。脂肪族直鎖状の化学構造は特に限定されないが、代表的な構造として−CH−単位の繰り返し構造を有するアルキレン構造、および−CHCHO−単位の繰り返し構造を有するポリエチレングリコール構造が挙げられる。特にポリエチレングリコール構造はタンパクや細胞の非特異吸着を抑制する構造として知られるため、本発明で用いられるジグリシジル化合物を構成する化学構造としては好ましい。
ジグリシジル化合物が両末端にグリシジル基を有する直鎖状構造の場合、両末端の2つのグリシジル基を連結する直鎖を構成する主鎖原子数は3個〜50個が好ましく、さらに3個〜30個が好ましく、特に4個〜13個が好ましく、4個〜7個が最も好ましい。ここで2つのグリシジル基を連結する直鎖を構成する主鎖原子数とは、例えばジグリシジル化合物が下記式(4)におけるn=1のエチレングリコールジグリシジルエーテルである場合、その値は4個である。主鎖原子数が50個を超えると、リガンド固定化に用いたいエポキシ基が脂肪族直鎖構造に埋もれてしまってリガンド固定化に有効に使用されなくなるので好ましくない。
すなわち製造工程3で用いられるジグリシジル化合物として好ましい構造は、式(4)で示される。ここで式(4)のnは1〜4の整数であり、n=1〜3が好ましく、1〜2がさらに好ましく、1が特に好ましい。
Figure 0004942015
製造工程3では、製造工程2で得られた不織布をジグリシジル化合物の少なくとも1種と反応させる。反応の方法は、不織布上の1級および/または2級アミノ基と、ジグリシジル化合物のエポキシ基を十分に反応させることができれば特に限定されないが、製造工程2で得られた不織布をジグリシジル化合物の少なくとも1種を含有する液体に浸漬する方法は特に簡便であるため、本発明の製造方法において好ましく用いられる。この場合、浸漬する液体に含まれるジグリシジル化合物の量は、製造工程2のアンモニアおよび/または1級アミン化合物との反応にて生成した該不織布が有する1級および/または2級アミノ基に由来する窒素原子量の2倍mol以上であることが好ましい。
但し、アミノ基とジグリシジル化合物のエポキシ基を十分に反応させ、しかもジグリシジル化合物の1つのグリシジル基は後のリガンド固定化に使用するため未反応にて残存する必要があるので、不織布を浸漬させる液体に含有されるジグリシジル化合物は1級および/または2級アミノ基に由来する窒素原子量に対して過剰量であることが好ましく、アンモニアおよび/または1級アミノ基由来の窒素原子量の5倍mol以上が好ましく、10倍mol以上がさらに好ましく、30倍mol以上が特に好ましい。さらにジグリシジル化合物が常温で液体の場合は、ジグリシジル化合物100%の液体に不織布を浸漬しても構わない。
一方、1種または2種以上の適当な溶媒でジグリシジル化合物を希釈し、この溶液に不織布を浸漬する方法はジグリシジル化合物の無駄も少なく、反応の制御も容易であるので好ましい。
ジグリシジル化合物を希釈する溶媒は、浸漬する不織布表面をある程度濡らし、しかも1級および/または2級アミノ基とエポキシ基の反応を阻害しないものであれば特に限定されず、不織布表面の親疎水性の程度やジグリシジル化合物の構造に応じて適宜選択すればよい。使用可能な溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、酢酸エチルなどのエステル類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカリンなどの脂肪族炭化水素類、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素類、ジメチルスルホキシドなどの含硫黄系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類などが挙げられるが、アルコール類は取り扱いの容易であり、また一般的にエポキシ基やアミン化合物との親和性が高いといった特徴があるため好ましい溶媒であり、なかでも人体への毒性が少ないエタノールは実用上特に好ましい。なお必要であれば、これら溶媒に親疎水性の微調整を行う目的で水を予め混合していても構わない。
ジグリシジル化合物を含有する液体の量は、浸漬する不織布が完全に浸る量があれば問題ない。反応中(浸漬中)は、均一な反応を進めるために溶液を対流(攪拌)することが好ましく、超音波照射を行っても構わない。
上記不織布とジグリシジル化合物の反応温度は特に限定されないが、例えば20〜80℃の温度範囲が適当である。また反応時間(不織布の浸漬時間)は特に限定されないが、例えばエチレングリコールジグリシジルエーテル100%の液体に不織布を浸漬して反応を行う場合は、1〜24時間程度が適当である。反応後は、過剰のジグリシジル化合物をアルコールや水等の適当な溶剤にて十分洗浄除去した後、乾燥する。
細胞選択吸着材の製造方法
本発明の細胞選択吸着材は、既述の製造工程1〜3にて作成された本発明のリガンド固定化用基材に、特定の細胞表面に親和性を有するアフィニティーリガンドの少なくとも1種を固定化することで製造される。
本発明の細胞選択吸着材の製造方法において使用されるアフィニティーリガンド、およびアフィニティーリガンドとして好ましく使用されるペプチド型リガンドに関しては、「リガンド固定化用基材および細胞選択吸着材」の項にて説明した。
リガンドの固定化方法は特に限定されないが、固定化したいリガンドを溶解した溶液に、本発明の製造方法(上記製造方法1〜3)にて得られたリガンド固定化用基材を浸漬し、リガンドが有する特定の官能基(例えばアミノ基やチオール基)とリガンド固定化用基材のエポキシ基の反応にて共有結合を形成させる方法が好ましい。なおリガンドが、アミノ基やチオール基などエポキシ基との高い反応性を有する官能基を持たない場合または付与できない場合には、リガンドが有する他の官能基を使って基材に共有結合させる必要があるので、リガンド固定化用基材のエポキシ基を必要に応じて予め他の官能基に変換してからリガンド固定化に用いても構わない。エポキシ基を変換して得られる官能基としては、例えばアミノ基、チオール基、トシル基、ハロアセトアミド基(ハロとはクロロ、ブロモ、ヨード等のハロゲンを示す)、スクシンイミドで活性化されたカルボキシル基などが挙げられる。
リガンドを溶解した溶液の体積は、リガンド固定化用基材が完全に浸漬する体積以上あれば問題ないが、多すぎてもリガンド濃度低下に起因する反応率の低下や反応速度の低下が懸念され、また単にリガンドが無駄になったりするので好ましくなく、リガンド固定化用基材が浸漬する体積よりやや多い程度が好ましい。リガンドとしては低分子化合物型リガンド、有機金属錯体型リガンド、タンパクやペプチド型リガンドなど、いくつかのケースが考えられるため、反応溶媒(リガンド溶解溶媒)はリガンドの官能基と基材のエポキシ基との反応、または必要に応じてエポキシ基から変換された官能基との反応を阻害しなければどのような溶媒を用いても構わず適宜選択すればよい。また反応温度(浸漬温度)や反応時間(浸漬時間)なども特に限定されず、共有結合を形成する官能基種と反応の種類に応じて適宜設定する。
本発明の製造方法にて好ましく使用されるペプチド型リガンドを固定化する場合は、リガンドの官能基としてはアミノ基を想定し、基材のエポキシ基と反応させることができる。なおリガンドのアフィニティーをより高く発現させるために、リガンドが有する他の官能基(例えばカルボキシル基、水酸基、チオール基など)を基材の固定化に用いても構わず、必要に応じてリガンド固定化用基材のエポキシ基を他の官能基に予め変換していても構わない。反応溶媒(リガンド溶解溶媒)は水が好ましく、特にpH7.4のリン酸緩衝液(PBS)を用いることが好ましい。PBSとは、例えば7.6gのNaHPOと1.8gのKHPOを1Lの蒸留水に溶解したものである。
ペプチド型リガンドの固定化における反応温度は、ペプチドの溶解性を高く保ちつつ、一方で熱変性によるアフィニティーの失活を避けることを考慮すれば10〜40℃が好ましい。また反応時間(浸漬時間)は、1〜48時間が好ましい。反応時間が1時間未満であると、固定化反応が不十分になる場合があり好ましくない。一方、反応時間を48時間より長くしても固定化量は特に増えることもないので、特に必要ない。
設定した反応条件にてリガンド固定化を終了したら、リガンド固定化用基材を反応溶液から取り出し、界面活性剤を含む水溶液(例えば0.2%ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートをPBSに溶解したもの;関東化学製Tween20溶液)にて十分洗浄することで単純に基材に物理吸着した(共有結合していない)余分なリガンドを洗い落とし、続いてPBSにて十分洗浄する。製造された細胞吸着材を保存する場合は、例えばPBS中やPBSにて湿潤させた状態で、好ましくは冷蔵庫中にて保存できるが、早めに使用することが好ましい。
細胞選択吸着カラム
本発明の細胞選択吸着カラムは、例えば、本発明の細胞選択吸着材を入口と出口を有する容器に充填したものである。カラム入口から入った細胞浮遊液は、吸着材の連通孔を通過しながら多孔膜表面に固定されたリガンドと直接接触した後、カラム出口から出て行く。この間に、リガンドとアフィニティーを有するターゲット細胞が選択的に吸着される。細胞浮遊液をカラムに通過させる方法は、液体の自重による自然通過(液体を高い位置の入口から入れて低い位置の出口から自重によって出す方法)でも構わないが、ポンプ等で一定量を循環通過する方法も好ましい。吸着材のカラムへの充填方法は、カラム入口から入った細胞浮遊液が吸着材の表面に十分接触した後、カラム出口から出て行くように配置されていれば特に限定されず、一定の形状(例えば正方形や円形)に切り取った多孔膜吸着材を複数枚積層して充填しても構わないし、ロール状に巻いた状態で充填しても構わないし、プリーツ状にして充填しても構わない。なお多孔膜吸着材を複数枚積層して充填する場合、同一の吸着材を積層充填しても構わないし、吸着材の平均気孔径や平均繊維径、またはリガンドの種類や表面官能基の種類等がそれぞれ必要に応じて異なっているものを積層充填しても構わない。
細胞選択吸着カラムに通過させる細胞浮遊液は特に限定されず、例えばある種の細胞に有用物質を生産させるバイオリアクターなどで得られる細胞浮遊液や、血液、リンパ球、腹水、胸水、骨髄液などの体液または体液を含む液体が挙げられる。特に細胞浮遊液が血液の場合は、ポンプ等の駆動力を用いて、患者の血液を体外循環する回路に本発明の細胞選択吸着カラムを組み込めば、特定の細胞除去による疾患治療法(特に自己免疫疾患)として有効であり、これは本発明の細胞選択吸着カラムの好ましい使用法である。
本発明の細胞選択吸着カラムを血液体外循環治療に適用する場合は、カラムの容積、通気抵抗、さらには患者の体重、状態等にもよるが、血液の循環流速は5〜100ml/minが好ましく、20〜80ml/minがより好ましく、30〜60ml/minが特に好ましい。流速が5ml/minよりも低いと治療に時間が掛かるため患者の負担が大きく好ましくないし、一方で流速が100ml/minよりも高いと細胞選択吸着が十分に行われないため好ましくない。また同じく血液体外循環治療に適用する場合のカラム内容量は、50〜500mlが好ましく、100〜400mlがさらに好ましく、150〜300mlがより好ましい。カラムの内容量が50ml未満であると、細胞吸着容量が不十分なため治療の途中にカラムを新しいものに交換する必要が生じるので患者の負担が大きくなる上、被治療サイドのコストアップにも繋がるため好ましくない。一方、カラム内容量が500mlを超えると、体外に取り出す血液量が常に500mlを超えるため、これも患者の身体的負担が大きく好ましくない。
以下に、本発明を実施例及び比較例に基づき具体的に説明する。但し、本発明はこれらによってなんら限定されるものではない。
〔実施例1〕
<1.リガンド固定化用基材の製造>
1−1)エポキシ基が導入された不織布の製造
ポリプロピレン製不織布(以下PP不織布と略す、TAPYRUS社製 P080HW−00F、平均繊維径3.5μm)に窒素雰囲気下にてγ線を100kGy照射した後(線源は60Coを使用)、窒素バブリング法にて脱酸素処理を行ったグリシジルメタクリレート(以下GMAと略す、和光純薬(株)製、試薬1級)のメタノール(和光純薬(株)製 特級試薬)溶液(10vol%)に浸漬した。この溶液を40℃で25分間保った後、不織布を取り出し、ジメチルホルムアミド(和光純薬(株)製、特級試薬)中で充分洗浄し(ジメチルホルムアミドは3回交換した)、さらにメタノール(和光純薬(株)製、特級試薬)による洗浄を行った。12時間の風乾と、40℃での減圧乾燥を10時間行うことで、GMAがグラフト重合されたPP不織布(以下PP/PGMA不織布と略す)を得た。γ線照射前からの重量増加より算出されるグラフト率(G)は137%であった。ここでG(%)は以下の式(5)で示される値である。
G(%)=[(グラフト後不織布重量−グラフト前不織布重量)/(グラフト前不織布重量)]×100 (5)
なおグラフト率から単純に計算されるPP不織布へのエポキシ基導入量は、不織布1gあたり4.07(mmol/g)である。ただし、この不織布の所定量を充分な量のチオ硫酸ナトリウム水溶液に浸漬し、約80℃で1時間保った後、フェノールフタレインを加え、発生したOH基量を塩酸水溶液にて滴定することでエポキシ基含有量を測定したところ、PP/PGMA不織布1gあたりのエポキシ基のモル数として65(μmol/g)という値を得た。すなわち水を溶媒とする反応にて有効に使用される不織布上のエポキシ基のモル数は、計算から見積もられる値よりはかなり少ないと考えられる。
1−2)PP/PGMA不織布のアミノ化
上記1−1)で得たPP/PGMA不織布の1gを、エタノール(和光純薬(株)製 特級試薬)に浸漬し、続いて水にて浸漬洗浄することで親水化前処理した後、25wt%アンモニア水(和光純薬(株)製 特級試薬)の30mlに浸漬した(アンモニアの含有量は約440mmol)。そのまま25℃で4時間浸漬した後、不織布を取り出し、蒸留水(和光純薬(株)製)にて洗浄水が中性となるまで洗浄を行い、乾燥してアミノ化されたPP/PGMA不織布を得た(以下PP/PGMA(NH3)不織布と略す)。
PP/PGMA(NH3)不織布の窒素含有量、およびアンモニアを反応させる前の不織布(PP/PGMA不織布)の窒素含有量をパイロ発光法窒素分析装置(ANTEK社製 ANTEK7000)にて測定したところ、それらの値の差からアンモニアによって導入された窒素含有量(これはアミノ基量とほぼ同量に相当)は不織布1gあたり188(μmol/g)であった。
1−3)PP/PGMA(NH3)不織布のエポキシ化(リガンド固定化用基材の製造)
上記1−2)で得たPP/PGMA(NH3)不織布の1gを、既述の式(4)においてn=1であるエチレングリコールジグリシジルエーテル(以下EGDEと略す、和光純薬(株)製 電子顕微鏡用)の30ml(0.20mol)に25℃にて浸漬し、その状態で反応容器全体をゆるやかに振とうしながら25℃で22時間保った。その後、不織布を取り出し、蒸留水で10回洗浄を行い、減圧乾燥(40℃、12時間)して、PP/PGMA(NH3)不織布にEGDEを導入した不織布(以下PP/PGMA(NH3)/EGDE不織布と略す)を得た。
得られた不織布の所定量を充分な量のチオ硫酸ナトリウム水溶液に浸漬し、約80℃で1時間保った。その後、フェノールフタレインを加え、発生したOH基量を塩酸水溶液にて滴定することでエポキシ基含有量を測定したところ、得られた不織布(リガンド固定化用基材)1gあたりのエポキシ基のモル数は136(μmol/g)であった(表1に記載)。
また、得られた不織布1gあたりの窒素原子のモル数は、パイロ発光法窒素分析装置(ANTEK社製 ANTEK7000)にて測定したところ、175(μmol/g)の値が得られた(表1に記載)。
<2.細胞選択吸着材の製造>
ここではターゲット細胞をヒト末梢血中のCD4陽性細胞とし、ペプチド型リガンドとしてモノクローナル抗体より人工的に作成した4H5抗ヒトCD4−Fab’抗体断片(以下Fab’と略す)を用いた。
2−1)Fab’の作製
元になるマウス抗ヒトCD4抗体は市販品のclone:4H5((株)医学生物学研究所)を用いた。このマウス抗体を蛋白分解酵素であるペプシンで一定時間消化し、F(ab’)部位とFc部位由来の断片に切断した。これをゲル濾過クロマトグラフィー精製することによって、4H5抗ヒトCD4−F(ab’)抗体断片(以下単にF(ab’)と略す)を得た。F(ab’)の標的蛋白質分子結合部位数は2価であり、分子量は約100kDaであった。
次に作製したF(ab’)を2−メルカプトエタノールを用いて、EDTA存在下の温和な条件にて、F(ab’)のヒンジ部位と呼ばれる部分のジスルフィド結合のみを選択的に還元した。次に末端にSH基を有するアルキルチオール分子を反応させることによって、遊離の状態のSH基を塞ぐことによって、標的蛋白質結合部位数が1価のFab’を得た。Fab’の分子量は約50kDaであった。
2−2)リガンド固定化用基材へのFab’の固定化(細胞選択吸着材の製造)
上記の「リガンド固定化用基材の製造」にて得られたPP/PGMA(NH3)/EGDE不織布から、直径7mmの円形状不織布を複数枚打ち抜き、これらの4枚を予めエタノールで親水化処理し、pH7.4のリン酸緩衝液(以下PBSと略す)でエタノールを充分置換した後、PBSに溶解したFab’溶液の400μL(濃度は16μg/400μL)に完全に浸漬し(容器はタンパク低吸着チューブ((株)ハイテック社製 M−50081を使用)、この状態を37℃で48時間保ち、Fab’の固定化を行った。その後、0.2%ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートのPBS溶液(以下Tween20溶液(関東化学製))にて、続いてPBSで充分洗浄して、CD4陽性細胞をターゲットとする細胞選択吸着材を得た。
2−3)Fab’固定化量の定量
Fab’の固定化における固定化量は、PP/PGMA(NH3)/EGDE不織布浸漬前のFab’溶液の濃度(16μg/400μL)から、前記不織布浸漬後のFab’溶液の濃度を差し引いた値として算出した結果、不織布4枚あたり11μgであった。なお不織布浸漬前後のFab’溶液濃度は、BCAタンパク質定量試薬(PIERCE社製 Micro BCA(登録商標) Protein Assay Reagent Kit 23235)を用い、マイクロプレート分光光度計(Molecular Devices社製 SPECTRA MAX190、解析ソフトSOFT max PRO version3.0)によって吸光度測定を行い、定量した。
<3.CD4陽性細胞の選択吸着性の評価>
3−1)血液濾過操作
Fab’を固定化した細胞選択吸着材(直径7mmの円形状の不織布4枚)を、1mlサイズのフィルターホルダー(モビコールポリエチレンカラム、MoBiTec,独国)に積層充填した。このカラムに後述する方法で調製したヒト新鮮全血を、シリンジポンプを用いて一定の流速1ml/minで流し、その初期フラクション3mlを濾過後の血液として回収した。ヒト新鮮全血は、採血した血液100mlに対し、抗凝固剤としてACD−A溶液(クエン酸三ナトリウム二水和物22g、クエン酸一水和物8g、グルコース22gを注射用蒸留水1000mlに溶解させ、孔径0.2μmのフィルターで濾過した溶液)を12.5ml加えて混和し調製した。
3−2)CD4およびCD8陽性細胞の吸着率定量操作
細胞選択吸着性を評価するため、CD4陽性細胞だけでなく、CD8陽性細胞も含め吸着率を測定した。
白血球濃度の測定は、自動血球計数装置MAX A/L−Retic(BECKMANCOULTER、米国)を用いて行った。
濾過前および濾過後の血液について、それぞれ一定量の血液を採取し濾過前後のCD4およびCD8陽性細胞の存在比率を解析した。各種抗体には、Peridinin chlorophyll protein標識マウス抗ヒトCD45(クローン2D1)抗体、およびPhycoerythrin標識マウス抗ヒトCD8(クローンSK1)抗体(以上、BD Biosciences、米国)、マウス抗Allophycocyanin標識ヒトCD3(クローンUCHT1)抗体、およびFluoresecin isothiocyanateマウス抗ヒトCD4(クローン13B8.2)抗体(以上、BECKMANCOULTER、米国)を用いた。細胞表面解析はフローサイトメーターFACSCalibur、および解析ソフトCELL Quest(以上、BD Bioscience、米国)を用いた。機器の調整は、ソフトウェアFACS Comp(同上)を実行した後、単一標識した濾過前液にてコンペンセーションの調整を行った。各抗体のコントロールには、それぞれ標識抗体のアイソタイプコントロールを用いた。
CD4およびCD8陽性細胞の吸着率は、血液の濾過前後の白血球濃度と、CD4およびCD8陽性細胞の存在比率の結果から算出した結果、CD4陽性細胞の吸着率が80%、CD8陽性細胞の吸着率は13%であった。
〔実施例2〕
実施例1の1−3)にて使用したEGDEの代わりに、既述の式(4)で示される構造においてn=2のジグリシジル化合物(ナガセケムテックス(株)製、デナコールEX−851)を用いる以外は実施例1と同様の手順にて、リガンド固定化用基材および細胞選択吸着材を作製し、ヒト末梢血からの細胞選択吸着率の測定を行った。その結果、CD4陽性細胞の吸着率は45%、CD8陽性細胞の吸着率は9%であった。これらの値を含め、得られた結果を表1に記載した。
〔実施例3〕
実施例1の1−3)にて使用したEGDEの代わりに、既述の式(4)で示される構造においてn=4のジグリシジル化合物(ナガセケムテックス(株)製、デナコールEX−821)を用いる以外は実施例1と同様の手順にて、リガンド固定化用基材および細胞選択吸着材を作製し、ヒト末梢血からの細胞選択吸着率の測定を行った。その結果、CD4陽性細胞の吸着率は44%、CD8陽性細胞の吸着率は10%であった。これらの値を含め、得られた結果を表1に記載した。
〔実施例4〕
実施例1の1−2)にて使用した25wt%アンモニア水の30mlの代わりに、モノエタノールアミン(和光純薬(株)製、特級)のエタノール溶液(30wt%、モノエタノールアミンの含有量は約130mmol)の30mlを用い、これにPP/PGMA不織布を浸漬する以外は実施例1と同様の手順にて、リガンド固定化用基材および細胞選択吸着材を作製し、ヒト末梢血からの細胞選択吸着率の測定を行った。その結果、CD4陽性細胞の吸着率は74%、CD8陽性細胞の吸着率は12%であった。これらの値を含め、得られた結果を表1に記載した。
〔実施例5〕
実施例1の1−2)にて使用した25wt%アンモニア水の30mlの代わりに、n−プロピルアミン(和光純薬(株)製、特級)のエタノール溶液30ml(n−プロピルアミンの濃度は30wt%、その含有量は約140mmol)を用い、これにPP/PGMA不織布を浸漬する以外は実施例1と同様の手順にて、リガンド固定化用基材および細胞選択吸着材を作製し、ヒト末梢血からの細胞選択吸着率の測定を行った。その結果、CD4陽性細胞の吸着率は78%、CD8陽性細胞の吸着率は15%であった。これらの値を含め、得られた結果を表1に記載した。
〔比較例1〕
実施例1の2−2)において、PP/PGMA(NH3)/EGDE不織布の代わりに1−1)で作製したPP/PGMA不織布(チオ硫酸ナトリウム法を用い水中にて測定されたエポキシ基のモル数は65(μmol/g))を用いる他は、実施例1と同様の手順にて細胞選択吸着材を作製し、ヒト末梢血からの細胞選択吸着率の測定を行った。その結果、CD4陽性細胞の吸着率は僅か32%、CD8陽性細胞の吸着率は11%であり、Fab’のアフィニティーの発現が不十分であることが分かった。これらの値を含め、得られた結果を表1に記載した。
〔比較例2〕
Fab’固定化用ビーズの作製
2.0g(サクションゲルとしての値;以下ビーズの重量とはサクションゲルの重量を意味する)のセルロースビーズ(チッソ(株)製、セルロファインCPB−06−uc、粒子径400μm、排除限界分子量200万)を、40mlのエピクロロヒドリン(和光純薬(株)製 特級試薬)と130mlの0.1N−NaOH水溶液からなる混合溶液に加え、25℃の恒温振とう槽中でゆるやかに振とうした。24時間後、ビーズを吸引濾過し、蒸留水で洗浄液が中性になるまで十分に洗浄した。得られたエポキシ化ビーズ1gあたりのエポキシ基含有量は、実施例1の1−1)に示したチオ硫酸ナトリウム水溶液法にて測定すると280(μmol/g)であった。
次に得られたエポキシ化ビーズの1.5gを、25wt%アンモニア水(和光純薬(株)製 特級試薬)の30mlに加えた(アンモニアの含有量は約440mmol)。そのまま25℃で2時間ゆるやかに振とうした後、吸引濾過にてビーズを取り出し、蒸留水にて洗浄水が中性となるまで洗浄を行った。得られたアミノ化ビーズの一部を乾燥した後、そのビーズの窒素含有量、およびアンモニアを反応させる前のエポキシ化ビーズの窒素含有量をパイロ発光法窒素分析装置(ANTEK社製 ANTEK7000)にて測定し、それらの値の差からアンモニアによって導入された窒素の含有量はビーズ1gあたり370(μmol/g)であった。
さらに得られたアミノ化ビーズの1.0gを、EGDEの30ml(0.20mol)に25℃にて浸漬し、その状態で反応容器全体をゆるやかに振とうしながら25℃で22時間保った。その後、ビーズを吸引濾過にて取り出し、蒸留水で10回洗浄を行って、EGDEを導入したビーズ(EGDE化ビーズ)を得た。
得られたEGDE化ビーズのエポキシ基含有量は、1gあたり268(μmol/g)であった。またビーズ1gあたりの窒素原子のモル数は、345(μmol/g)であった(表1に記載)。
Fab’の固定化とCD4陽性細胞の選択吸着性評価
上記のEGDE化ビーズの0.50gを1mLサイズのフィルターホルダー(モビコールポリエチレンカラム、MoBiTec,独国)に充填し、液体出口にキャップを取り付け、PBSに溶解したFab’溶液の400μL(濃度は16μg/400μL)を加えてに完全に浸漬し、この状態を37℃で48時間保った。その後、Tween20溶液、続いてPBSをフィルターホルダーに通液して充分洗浄した。実施例1の2−3)と同様の方法にて見積もられたFab’の固定化量は、ビーズ0.50gあたり9μgであった。
以上の操作にて得られたEGDE化ビーズが充填されたフィルターホルダーを用い、実施例1の3−1)記載の血液濾過操作および3−2)記載の吸着率定量操作と同様の操作を行った結果、CD4陽性細胞の吸着率は28%、CD8陽性細胞の吸着率は10%であり、選択吸着性は不十分であった。
Figure 0004942015
本発明のリガンド固定化用基材は、特定のターゲット細胞の表面に特異的親和性を有するアフィニティーリガンドを固定化することで優れた細胞選択吸着材となり、これを入口と出口を有する容器に充填することで、各種の細胞浮遊液からの細胞選択吸着カラムとして使用することができる。特にペプチド型リガンドを固定しても本来のアフィニティーの低下が起こらないので、細胞選択吸着性だけでなくコストパフォーマンスにも優れ、さらに医療用途に使用する場合には安全性にも優れた細胞選択吸着カラムとして利用可能である。
細胞選択吸着の対象となる細胞浮遊液としては、特定の細胞に有用医薬物質等を生産させるバイオリアクターなどで使用される細胞浮遊液や、血液、リンパ液、腹水、胸水、骨髄液、尿などの体液またはこれら体液を含む液体が挙げられる。
細胞浮遊液が血液の場合、ポンプ等の駆動力を用いて患者の血液を体外循環する回路に本発明の細胞選択吸着カラムを組み込めば、特定の細胞除去(例えばCD4陽性細胞)による疾患治療(例えば多発性硬化症などの自己免疫疾患)に有効であり、選択的細胞吸着による体外免疫調節治療システムの開発に有用である。また造血幹細胞移植治療を目的とする、血液(末梢血)や骨髄液からのCD34陽性細胞回収にも使用可能である。その他、体液や体液を含む液体からの癌細胞、腫瘍細胞、活性化リンパ球、炎症性白血球、赤芽球等の選択的吸着除去や回収によって治療用途や診断用途に使用することも可能である。

Claims (12)

  1. 多孔膜の少なくとも表面部分に、エポキシ基および窒素原子を含む式(1)で示される化学構造基の少なくとも1種が化学的に結合していることを特徴とするリガンド固定化用基材に、特定の細胞表面に親和性を有するアフィニティーリガンドの少なくとも1種を固定化したことを特徴とする細胞選択吸着材
    Figure 0004942015
    [ここで式(1)中のR1は、H、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルキル基が有する1つ以上の水素原子をOH基で置換した化学構造基、および下記式(2)で示される化学構造基から選ばれ、式(1)および式(2)のnは1〜4の整数である。]
    Figure 0004942015
  2. 式(1)で示される化学構造基をZとする時、Zの多孔膜の表面での結合が、膜成分であるアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル系重合体に含まれる式(3)で示されるモノマーユニット構造の一部としての結合である、請求項1に記載の細胞選択吸着材。
    Figure 0004942015
    [ここで式(3)中のR2はHまたはCH3である]
  3. リガンド固定化用基材1gに含まれるエポキシ基の含有量が1〜500(μmol/g)であり、同じく窒素原子の含有量が10〜2000(μmol/g)であることを特徴とする請求項1又は2に記載の細胞選択吸着材
  4. 多孔膜が、平均繊維径0.1μm〜50μmの不織布であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の細胞選択吸着材
  5. 特定の細胞がCD4陽性細胞である請求項4に記載の細胞選択吸着材。
  6. アフィニティーリガンドがペプチド型リガンドであることを特徴とする請求項5に記載の細胞選択吸着材。
  7. ペプチド型リガンドの分子量が0.5〜130kDaである請求項6に記載の細胞選択吸着材。
  8. 請求項1〜7のいずれかに記載の細胞選択吸着材の製造方法であって、多孔膜の少なくとも表面部分に化学的に結合されたエポキシ基にアンモニアおよび/または1級アミン化合物を反応させる工程、および該工程によって生成する1級アミノ基および/または2級アミノ基を少なくとも表面部分に有する多孔膜にジグリシジル化合物の少なくとも1種を反応させる工程、特定の細胞表面に親和性を有するアフィニティーリガンドの少なくとも1種を固定化する工程を含むことを特徴とする細胞選択吸着材の製造方法。
  9. ジグリシジル化合物が、式(4)で示される化学構造から選ばれることを特徴とする請求項に記載の細胞選択吸着材の製造方法。
    Figure 0004942015
    [ここで式(4)のnは1〜4の整数である。]
  10. 多孔膜の少なくとも表面部分に化学的に結合されたエポキシ基が、エポキシ基を有する重合性モノマーを少なくとも用いた放射線照射グラフト重合法によって得られた重合体に由来するものであることを特徴とする請求項又はに記載の細胞選択吸着材の製造方法。
  11. 請求項のいずれかに記載の細胞選択吸着材を充填してなることを特徴とする細胞選択吸着カラム。
  12. 請求項11に記載の細胞選択吸着カラムを用いて細胞浮遊液中のターゲット細胞を吸着する方法。

JP2005361156A 2005-12-15 2005-12-15 リガンド固定化用基材および細胞選択吸着材 Expired - Fee Related JP4942015B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2005361156A JP4942015B2 (ja) 2005-12-15 2005-12-15 リガンド固定化用基材および細胞選択吸着材

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2005361156A JP4942015B2 (ja) 2005-12-15 2005-12-15 リガンド固定化用基材および細胞選択吸着材

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2007159874A JP2007159874A (ja) 2007-06-28
JP4942015B2 true JP4942015B2 (ja) 2012-05-30

Family

ID=38243443

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2005361156A Expired - Fee Related JP4942015B2 (ja) 2005-12-15 2005-12-15 リガンド固定化用基材および細胞選択吸着材

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP4942015B2 (ja)

Families Citing this family (8)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
KR101239541B1 (ko) * 2007-07-02 2013-03-06 아사히 가세이 메디컬 가부시키가이샤 미조리빈을 함유하는 궤양성 대장염 치료약
JP2011016036A (ja) 2007-11-26 2011-01-27 Asahi Kasei Chemicals Corp タンパク吸着材料およびその製造方法
JP2012139142A (ja) * 2010-12-28 2012-07-26 Kaneka Corp 造血幹細胞分離材または分離方法
JP5682916B2 (ja) * 2011-01-12 2015-03-11 旭化成メディカル株式会社 水不溶性担体及びエンドトキシン吸着材
JP5784132B2 (ja) * 2011-09-28 2015-09-24 旭化成株式会社 リガンド固定化用基材及びその製造方法、特異的細胞分離材並びに血液処理器
JPWO2014014089A1 (ja) * 2012-07-20 2016-07-07 Dic株式会社 ウイルス除去用高分子基材、ウイルス除去装置及びウイルス除去装置の作動方法
CN106460027B (zh) * 2014-03-24 2020-07-31 日东纺绩株式会社 使用阳离子性接枝聚合物的目标物分离浓缩方法
WO2021221050A1 (ja) * 2020-04-27 2021-11-04 株式会社カネカ 構造物及びその製造方法、それを用いた吸着体、並びに生体粒子の精製方法

Family Cites Families (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JPH05345022A (ja) * 1992-06-17 1993-12-27 Toyobo Co Ltd 生理活性物質固定化担体とその製法

Also Published As

Publication number Publication date
JP2007159874A (ja) 2007-06-28

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP4942015B2 (ja) リガンド固定化用基材および細胞選択吸着材
CN1662569A (zh) 生物相容性聚合物和使用它的白细胞选择除去过滤材料
JP6589993B2 (ja) 血液浄化用の材料
JP2009018177A (ja) ウイルス及び白血球選択除去材およびその使用
JP7085533B2 (ja) 官能化コポリマー及びその使用
CN1268893A (zh) 除白细胞的过滤介质
EP3636297B1 (en) Material for removing activated leukocyte-activated platelet complex
JPWO2019049962A1 (ja) 免疫抑制性白血球吸着材料及び吸着カラム
JP5784008B2 (ja) リガンド固定化用基材及びその製造方法
JP5784132B2 (ja) リガンド固定化用基材及びその製造方法、特異的細胞分離材並びに血液処理器
JP3533541B2 (ja) 細胞選択フィルター
JP5940788B2 (ja) 選択的分離材及びその製造方法、並びに血液処理器
JP2007089788A (ja) CD49d強陽性細胞除去材料
JP2004180569A (ja) 細胞分離カラム
WO2023074729A1 (ja) 細胞吸着材料、及び細胞吸着カラム
JP4953295B2 (ja) 特定細胞吸着器
JPH07113799A (ja) 細胞の選択的分離方法
JP4443309B2 (ja) フィブリノゲン吸着剤iii
WO2000041718A1 (en) Method and apparatus for selectively removing xenoreactive antibodies from blood, serum or plasma
JPH0623758B2 (ja) Bリンパ球分離材、分離方法および分離器
JP2006346096A (ja) 血液処理用基材
JPH07120452A (ja) 細胞の選択的分離方法

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20081212

RD02 Notification of acceptance of power of attorney

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A7422

Effective date: 20100319

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20110628

A977 Report on retrieval

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007

Effective date: 20110630

A521 Written amendment

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20110824

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20120222

A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20120223

R150 Certificate of patent or registration of utility model

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20150309

Year of fee payment: 3

S531 Written request for registration of change of domicile

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R313531

R350 Written notification of registration of transfer

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R350

LAPS Cancellation because of no payment of annual fees