JP4942015B2 - リガンド固定化用基材および細胞選択吸着材 - Google Patents
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Description
ところがこのような白血球除去療法は、免疫機能を担当する白血球系細胞を非選択的に全吸着除去しようとするものであるため、患者の免疫機能が必要以上に低下してしまうという懸念があり、最近では各疾患において特に大きな影響を与えると考えられる細胞のみを選択的に除去しようとする動きも活発化してきている。
その他、活性化マクロファージ、活性化白血球、炎症性白血球、腫瘍細胞、癌細胞などをターゲットとした選択的な細胞吸着材の開発に関する技術開示もなされており、血液のみならず、種々の細胞浮遊液からの種々の細胞をターゲットとする選択的な細胞吸着材の開発が今後も活発化すると考えられる(例えば、特許文献1参照)。
一般に細胞吸着材に用いる吸着基材の形状として、ビーズ状と繊維状が使用されることが多い。
これに対し、高い細胞選択吸着性を得るために目的細胞の細胞表面に存在するタンパクおよび/または糖鎖に特異的な親和性を有するアフィニティーリガンドを用い、これを基材に固定化する方法は効果的である。特に細胞表面のタンパクおよび/または糖鎖に強い親和性を発現するアミノ酸配列を有した抗体や、抗体の抗原結合部位を含む抗体断片(F(ab)’、Fab、Fab’等)、さらにそのようなアミノ酸配列を有する合成ペプチド、またはそれらの修飾ペプチドが効果的であり、これらを吸着基材に共有結合にて固定化する方法が好ましいと考えられる。さらに血液中から選択的に細胞を除去または回収する細胞選択吸着材を製造する場合には、リガンドの安全性が高いこと、具体的にはリガンドの抗原性などは低いことが好ましいので、リガンドは相対的に分子量の小さなペプチド型のリガンドが好ましいと言える。
ところが抗体やペプチド型リガンドを吸着基材に固定化して細胞選択吸着材を作成する場合、リガンド分子中のアフィニティー発現部位(すなわち抗原結合部位)がリガンド分子の特定部位に局在している場合が一般的であるため、固定化方法によってはリガンドのアフィニティー発現部位をつぶしてしまうことで細胞選択吸着機能が全く発現しなくなることが起こることが多く、特にペプチドのような比較的小さなリガンドを固定化する場合、そのような現象が起こりやすい。すなわち、ペプチドリガンドの固定化に使用可能な官能基が単に基材不織布上に多数存在するだけではリガンド固定化用基材として十分とは言えず、そのような基材へのペプチドリガンド固定化後のリガンドアフィニティーの低下(言い換えれば目的細胞の吸着率低下)が起こらないように工夫されたリガンド固定化用基材を用いることが必要である。
すなわちリガンドの安全性やリガンド生産コストなどにおいて好ましい、分子量の比較的小さなペプチドを細胞選択吸着材のリガンドに用いて細胞選択吸着材を製造する場合には、リガンド固定化後も本来有するアフィニティーが失われることのないようにエポキシ基を含む不織布表面の化学構造が予め設計されたリガンド固定化用基材を使用することが好ましく、そのようなリガンド固定化用基材、およびそれを用いた細胞選択吸着材の開発が望まれている。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
1)多孔膜の少なくとも表面部分に、エポキシ基および窒素原子を含む式(1)で示される化学構造基の少なくとも1種が化学的に結合していることを特徴とするリガンド固定化用基材。
3)リガンド固定化用基材1gに含まれるエポキシ基の含有量が1〜500(μmol/g)であり、同じく窒素原子の含有量が10〜2000(μmol/g)であることを特徴とする上記1)又は2)に記載のリガンド固定化用基材。
4)多孔膜が、平均繊維径0.1μm〜50μmの不織布であることを特徴とする上記1)〜3)のいずれかに記載のリガンド固定化用基材。
5)上記1)〜4)のいずれかに記載のリガンド固定化用基材に、特定の細胞表面に親和性を有するアフィニティーリガンドの少なくとも1種を固定化したことを特徴とする細胞選択吸着材。
6)特定の細胞がCD4陽性細胞である上記5)に記載の細胞選択吸着材。
7)アフィニティーリガンドがペプチド型リガンドであることを特徴とする上記5)又は6)に記載の細胞選択吸着材。
8)ペプチド型リガンドの分子量が0.5〜130kDaである上記7)に記載の細胞選択吸着材。
9)多孔膜の少なくとも表面部分に化学的に結合されたエポキシ基にアンモニアおよび/または1級アミン化合物を反応させる工程、および該工程によって生成する1級アミノ基および/または2級アミノ基を少なくとも表面部分に有する多孔膜にジグリシジル化合物の少なくとも1種を反応させる工程を含むことを特徴とするリガンド固定化用基材の製造方法。
10)ジグリシジル化合物が、式(4)で示される化学構造から選ばれることを特徴とする上記9)に記載のリガンド固定化用基材の製造方法。
11)多孔膜の少なくとも表面部分に化学的に結合されたエポキシ基が、エポキシ基を有する重合性モノマーを少なくとも用いた放射線照射グラフト重合法によって得られた重合体に由来するものであることを特徴とする上記9)または10)に記載のリガンド固定化用基材の製造方法。
12)上記5)〜8)のいずれかに記載の細胞選択吸着材を充填してなることを特徴とする細胞選択吸着カラム。
13)上記12)に記載の細胞選択吸着カラムを用いて細胞浮遊液中のターゲット細胞を吸着する方法。
リガンド固定化用基材および細胞選択吸着材
本発明のリガンド固定化用基材は、多孔膜の少なくとも表面部分に式(1)で示される化学構造基の少なくとも1種が化学的に結合していることを特徴とする。
なお本発明に言う「多孔膜の表面部分」とは、例えば平膜の場合にはその表裏のみを意味するのではなく、平膜内部に存在する微細孔内部の表面(連通孔の表面)をも含むものである。特に多孔膜が不織布の場合は、それを構成する繊維の全表面(繊維交絡部は除く)が多孔膜の表面部分である。すなわち、多孔膜のうち、対象となる細胞浮遊液と接する部分をいう。
本発明の細胞選択吸着材は、特定の細胞表面に選択的親和性を有するアフィニティーリガンドの少なくとも1種を本発明のリガンド固定化用基材に固定化したものである。
なお本発明のリガンド固定化用基材や細胞選択吸着材は、細胞の捕捉性アップや目詰まり防止のために、繊維径や気孔径が多孔膜内で(または不織布内で)均一である必要はなく、例えば傾斜構造になっていても構わない。
次に本発明のリガンド固定化用基材および細胞吸着材の製造方法について記述する。
本発明のリガンド固定化用基材は、多孔膜の少なくとも表面部分に化学的に結合されたエポキシ基にアンモニアおよび/または1級アミン化合物を反応させる工程、および該工程によって生成する1級アミノ基および/または2級アミノ基を少なくとも表面部分に有する多孔膜にジグリシジル化合物の少なくとも1種を反応させる工程を含む製造方法にて作成することができる。
以下、多孔膜として不織布を用いる製造方法を例として、順を追って説明するが、この製造方法は不織布を用いた場合のみに限定されるものではない。
本発明では、まず繊維の少なくとも表面部分にエポキシ基が化学的に結合された不織布を製造する工程が必要であるが、その製造方法は特に限定されず、どのような方法を用いても構わない。
例えば、1)メルトブロー法やフラッシュ紡糸法、短繊維を交互に絡ませるニードルパンチ法、繊維を形成させると同時に不織布を製造するスパンボンド法等の既存の方法にて予め製造された不織布材料に、繊維表面の化学反応を用いた共有結合にて繊維の少なくとも表面部分にエポキシ基を化学的に結合させた不織布を製造する方法が挙げられる。その他、2)エポキシ基を有する高分子化合物を用い、それ自体で適当な不織布を作成する方法、3)エポキシ基を有する高分子化合物を適当な溶媒に溶解して溶液を作成し、これを予め製造された不織布材料にコーティングする方法、4)反応性官能基を有する高分子化合物、例えばセルロース誘導体、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体等といった多数のOH基を有する高分子の溶液を調整し、予め製造された不織布材料(例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステルのような反応性官能基を持たない不織布)にコーティングした後、そのコーティング層にエピクロロヒドリン等を反応させてエポキシ基を導入するといった方法も例示される。
なお、ここに言うグラフト率(G)は、式(5)で表される値である。
G(%)=[(グラフト後不織布重量−グラフト前不織布重量)/(グラフト前不織布重量)]×100 (5)
不織布への放射線の照射は、酸素フリーの条件下、具体的には窒素雰囲気下で行う。放射線としては、γ線、X線、電子線、さらには紫外線なども用いることが可能であるが、γ線は高いエネルギーを有しているためラジカル発生効率が高く、高いグラフト率を得るためには好ましい。また電子線は、エネルギーレベルは低いが、安全性が高く、装置も汎用的であるのでこれも好ましく使用される。
次に、製造工程1にて得られた不織布の、繊維の少なくとも表面部分に化学的に結合されたエポキシ基に、アンモニアおよび/または1級アミン化合物を反応させることで、1級および/または2級アミノ基を生成させる。
この反応の方法は特に制限されず、いかなる方法を用いても構わないが、例えばアンモニアや1級アミン化合物を溶解した溶液に、製造工程1で得られた不織布を浸漬する方法が簡便であるため本発明の製造方法では好ましく用いられる。
アンモニアを反応させる場合には、製造工程1で得られた不織布を水、アルコール(メタノールやエタノールなど)、ジオキサンなどの十分な量の適当な溶媒に浸漬したのち、アンモニアガスをその溶媒に吹き込んで反応を行っても構わないが、アンモニアを十分に溶解した市販のアンモニア溶液を用いれば、それに製造工程1の不織布を浸漬するだけでよく、危険なアンモニアガスを扱う必要がないので好ましい方法と言える。アンモニア溶液としては、水溶液、メタノール溶液、エタノール溶液、ジオキサン溶液などが挙げられる。例えばアンモニア水溶液を用いる場合は、アンモニア水溶液の濃度は特に限定されないが、高濃度の方が反応速度も大きくなるので、25〜28wt%程度のものが好ましい。アンモニア水溶液に上記の有機溶媒を加えたような混合溶媒として反応を行っても構わない。
またRがOHであるヒドロキシルアミンを1級アミン化合物として反応させても良いが、この場合は最終的にはアンモニアを反応させた場合と同じ構造が得られる。
最後に、製造工程2で得られた1級および/または2級アミノ基を有する不織布に、ジグリシジル化合物の少なくとも1種を反応させることで、本発明のリガンド固定化用基材を製造する。
本発明のリガンド固定化用基材の製造方法に用いるジグリシジル化合物とは、分子中に2つのグリシジル基を有する化合物であれば、その構造は特に限定されない。但し、第一のグリシジル基が製造工程2にて作成した不織布の1級および/または2級アミノ基と反応した後は、第二のグリシジル基は未反応のまま残存し、後述する本発明の細胞選択吸着材の製造においてリガンド固定化反応に使用されることが好ましいので、2つのグリシジル基は分子内で互いに離れた位置に存在することが好ましく、例えば2つのグリシジル基を連結する化学構造が脂肪族直鎖状の場合、直鎖の両末端にグリシジル基を有する構造が好ましい。
一方、1種または2種以上の適当な溶媒でジグリシジル化合物を希釈し、この溶液に不織布を浸漬する方法はジグリシジル化合物の無駄も少なく、反応の制御も容易であるので好ましい。
上記不織布とジグリシジル化合物の反応温度は特に限定されないが、例えば20〜80℃の温度範囲が適当である。また反応時間(不織布の浸漬時間)は特に限定されないが、例えばエチレングリコールジグリシジルエーテル100%の液体に不織布を浸漬して反応を行う場合は、1〜24時間程度が適当である。反応後は、過剰のジグリシジル化合物をアルコールや水等の適当な溶剤にて十分洗浄除去した後、乾燥する。
本発明の細胞選択吸着材は、既述の製造工程1〜3にて作成された本発明のリガンド固定化用基材に、特定の細胞表面に親和性を有するアフィニティーリガンドの少なくとも1種を固定化することで製造される。
本発明の細胞選択吸着材の製造方法において使用されるアフィニティーリガンド、およびアフィニティーリガンドとして好ましく使用されるペプチド型リガンドに関しては、「リガンド固定化用基材および細胞選択吸着材」の項にて説明した。
本発明の細胞選択吸着カラムは、例えば、本発明の細胞選択吸着材を入口と出口を有する容器に充填したものである。カラム入口から入った細胞浮遊液は、吸着材の連通孔を通過しながら多孔膜表面に固定されたリガンドと直接接触した後、カラム出口から出て行く。この間に、リガンドとアフィニティーを有するターゲット細胞が選択的に吸着される。細胞浮遊液をカラムに通過させる方法は、液体の自重による自然通過(液体を高い位置の入口から入れて低い位置の出口から自重によって出す方法)でも構わないが、ポンプ等で一定量を循環通過する方法も好ましい。吸着材のカラムへの充填方法は、カラム入口から入った細胞浮遊液が吸着材の表面に十分接触した後、カラム出口から出て行くように配置されていれば特に限定されず、一定の形状(例えば正方形や円形)に切り取った多孔膜吸着材を複数枚積層して充填しても構わないし、ロール状に巻いた状態で充填しても構わないし、プリーツ状にして充填しても構わない。なお多孔膜吸着材を複数枚積層して充填する場合、同一の吸着材を積層充填しても構わないし、吸着材の平均気孔径や平均繊維径、またはリガンドの種類や表面官能基の種類等がそれぞれ必要に応じて異なっているものを積層充填しても構わない。
〔実施例1〕
<1.リガンド固定化用基材の製造>
1−1)エポキシ基が導入された不織布の製造
ポリプロピレン製不織布(以下PP不織布と略す、TAPYRUS社製 P080HW−00F、平均繊維径3.5μm)に窒素雰囲気下にてγ線を100kGy照射した後(線源は60Coを使用)、窒素バブリング法にて脱酸素処理を行ったグリシジルメタクリレート(以下GMAと略す、和光純薬(株)製、試薬1級)のメタノール(和光純薬(株)製 特級試薬)溶液(10vol%)に浸漬した。この溶液を40℃で25分間保った後、不織布を取り出し、ジメチルホルムアミド(和光純薬(株)製、特級試薬)中で充分洗浄し(ジメチルホルムアミドは3回交換した)、さらにメタノール(和光純薬(株)製、特級試薬)による洗浄を行った。12時間の風乾と、40℃での減圧乾燥を10時間行うことで、GMAがグラフト重合されたPP不織布(以下PP/PGMA不織布と略す)を得た。γ線照射前からの重量増加より算出されるグラフト率(G)は137%であった。ここでG(%)は以下の式(5)で示される値である。
G(%)=[(グラフト後不織布重量−グラフト前不織布重量)/(グラフト前不織布重量)]×100 (5)
なおグラフト率から単純に計算されるPP不織布へのエポキシ基導入量は、不織布1gあたり4.07(mmol/g)である。ただし、この不織布の所定量を充分な量のチオ硫酸ナトリウム水溶液に浸漬し、約80℃で1時間保った後、フェノールフタレインを加え、発生したOH基量を塩酸水溶液にて滴定することでエポキシ基含有量を測定したところ、PP/PGMA不織布1gあたりのエポキシ基のモル数として65(μmol/g)という値を得た。すなわち水を溶媒とする反応にて有効に使用される不織布上のエポキシ基のモル数は、計算から見積もられる値よりはかなり少ないと考えられる。
上記1−1)で得たPP/PGMA不織布の1gを、エタノール(和光純薬(株)製 特級試薬)に浸漬し、続いて水にて浸漬洗浄することで親水化前処理した後、25wt%アンモニア水(和光純薬(株)製 特級試薬)の30mlに浸漬した(アンモニアの含有量は約440mmol)。そのまま25℃で4時間浸漬した後、不織布を取り出し、蒸留水(和光純薬(株)製)にて洗浄水が中性となるまで洗浄を行い、乾燥してアミノ化されたPP/PGMA不織布を得た(以下PP/PGMA(NH3)不織布と略す)。
PP/PGMA(NH3)不織布の窒素含有量、およびアンモニアを反応させる前の不織布(PP/PGMA不織布)の窒素含有量をパイロ発光法窒素分析装置(ANTEK社製 ANTEK7000)にて測定したところ、それらの値の差からアンモニアによって導入された窒素含有量(これはアミノ基量とほぼ同量に相当)は不織布1gあたり188(μmol/g)であった。
上記1−2)で得たPP/PGMA(NH3)不織布の1gを、既述の式(4)においてn=1であるエチレングリコールジグリシジルエーテル(以下EGDEと略す、和光純薬(株)製 電子顕微鏡用)の30ml(0.20mol)に25℃にて浸漬し、その状態で反応容器全体をゆるやかに振とうしながら25℃で22時間保った。その後、不織布を取り出し、蒸留水で10回洗浄を行い、減圧乾燥(40℃、12時間)して、PP/PGMA(NH3)不織布にEGDEを導入した不織布(以下PP/PGMA(NH3)/EGDE不織布と略す)を得た。
得られた不織布の所定量を充分な量のチオ硫酸ナトリウム水溶液に浸漬し、約80℃で1時間保った。その後、フェノールフタレインを加え、発生したOH基量を塩酸水溶液にて滴定することでエポキシ基含有量を測定したところ、得られた不織布(リガンド固定化用基材)1gあたりのエポキシ基のモル数は136(μmol/g)であった(表1に記載)。
また、得られた不織布1gあたりの窒素原子のモル数は、パイロ発光法窒素分析装置(ANTEK社製 ANTEK7000)にて測定したところ、175(μmol/g)の値が得られた(表1に記載)。
<2.細胞選択吸着材の製造>
ここではターゲット細胞をヒト末梢血中のCD4陽性細胞とし、ペプチド型リガンドとしてモノクローナル抗体より人工的に作成した4H5抗ヒトCD4−Fab’抗体断片(以下Fab’と略す)を用いた。
元になるマウス抗ヒトCD4抗体は市販品のclone:4H5((株)医学生物学研究所)を用いた。このマウス抗体を蛋白分解酵素であるペプシンで一定時間消化し、F(ab’)2部位とFc部位由来の断片に切断した。これをゲル濾過クロマトグラフィー精製することによって、4H5抗ヒトCD4−F(ab’)2抗体断片(以下単にF(ab’)2と略す)を得た。F(ab’)2の標的蛋白質分子結合部位数は2価であり、分子量は約100kDaであった。
次に作製したF(ab’)2を2−メルカプトエタノールを用いて、EDTA存在下の温和な条件にて、F(ab’)2のヒンジ部位と呼ばれる部分のジスルフィド結合のみを選択的に還元した。次に末端にSH基を有するアルキルチオール分子を反応させることによって、遊離の状態のSH基を塞ぐことによって、標的蛋白質結合部位数が1価のFab’を得た。Fab’の分子量は約50kDaであった。
上記の「リガンド固定化用基材の製造」にて得られたPP/PGMA(NH3)/EGDE不織布から、直径7mmの円形状不織布を複数枚打ち抜き、これらの4枚を予めエタノールで親水化処理し、pH7.4のリン酸緩衝液(以下PBSと略す)でエタノールを充分置換した後、PBSに溶解したFab’溶液の400μL(濃度は16μg/400μL)に完全に浸漬し(容器はタンパク低吸着チューブ((株)ハイテック社製 M−50081を使用)、この状態を37℃で48時間保ち、Fab’の固定化を行った。その後、0.2%ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートのPBS溶液(以下Tween20溶液(関東化学製))にて、続いてPBSで充分洗浄して、CD4陽性細胞をターゲットとする細胞選択吸着材を得た。
Fab’の固定化における固定化量は、PP/PGMA(NH3)/EGDE不織布浸漬前のFab’溶液の濃度(16μg/400μL)から、前記不織布浸漬後のFab’溶液の濃度を差し引いた値として算出した結果、不織布4枚あたり11μgであった。なお不織布浸漬前後のFab’溶液濃度は、BCAタンパク質定量試薬(PIERCE社製 Micro BCA(登録商標) Protein Assay Reagent Kit 23235)を用い、マイクロプレート分光光度計(Molecular Devices社製 SPECTRA MAX190、解析ソフトSOFT max PRO version3.0)によって吸光度測定を行い、定量した。
3−1)血液濾過操作
Fab’を固定化した細胞選択吸着材(直径7mmの円形状の不織布4枚)を、1mlサイズのフィルターホルダー(モビコールポリエチレンカラム、MoBiTec,独国)に積層充填した。このカラムに後述する方法で調製したヒト新鮮全血を、シリンジポンプを用いて一定の流速1ml/minで流し、その初期フラクション3mlを濾過後の血液として回収した。ヒト新鮮全血は、採血した血液100mlに対し、抗凝固剤としてACD−A溶液(クエン酸三ナトリウム二水和物22g、クエン酸一水和物8g、グルコース22gを注射用蒸留水1000mlに溶解させ、孔径0.2μmのフィルターで濾過した溶液)を12.5ml加えて混和し調製した。
細胞選択吸着性を評価するため、CD4陽性細胞だけでなく、CD8陽性細胞も含め吸着率を測定した。
白血球濃度の測定は、自動血球計数装置MAX A/L−Retic(BECKMANCOULTER、米国)を用いて行った。
濾過前および濾過後の血液について、それぞれ一定量の血液を採取し濾過前後のCD4およびCD8陽性細胞の存在比率を解析した。各種抗体には、Peridinin chlorophyll protein標識マウス抗ヒトCD45(クローン2D1)抗体、およびPhycoerythrin標識マウス抗ヒトCD8(クローンSK1)抗体(以上、BD Biosciences、米国)、マウス抗Allophycocyanin標識ヒトCD3(クローンUCHT1)抗体、およびFluoresecin isothiocyanateマウス抗ヒトCD4(クローン13B8.2)抗体(以上、BECKMANCOULTER、米国)を用いた。細胞表面解析はフローサイトメーターFACSCalibur、および解析ソフトCELL Quest(以上、BD Bioscience、米国)を用いた。機器の調整は、ソフトウェアFACS Comp(同上)を実行した後、単一標識した濾過前液にてコンペンセーションの調整を行った。各抗体のコントロールには、それぞれ標識抗体のアイソタイプコントロールを用いた。
CD4およびCD8陽性細胞の吸着率は、血液の濾過前後の白血球濃度と、CD4およびCD8陽性細胞の存在比率の結果から算出した結果、CD4陽性細胞の吸着率が80%、CD8陽性細胞の吸着率は13%であった。
実施例1の1−3)にて使用したEGDEの代わりに、既述の式(4)で示される構造においてn=2のジグリシジル化合物(ナガセケムテックス(株)製、デナコールEX−851)を用いる以外は実施例1と同様の手順にて、リガンド固定化用基材および細胞選択吸着材を作製し、ヒト末梢血からの細胞選択吸着率の測定を行った。その結果、CD4陽性細胞の吸着率は45%、CD8陽性細胞の吸着率は9%であった。これらの値を含め、得られた結果を表1に記載した。
実施例1の1−3)にて使用したEGDEの代わりに、既述の式(4)で示される構造においてn=4のジグリシジル化合物(ナガセケムテックス(株)製、デナコールEX−821)を用いる以外は実施例1と同様の手順にて、リガンド固定化用基材および細胞選択吸着材を作製し、ヒト末梢血からの細胞選択吸着率の測定を行った。その結果、CD4陽性細胞の吸着率は44%、CD8陽性細胞の吸着率は10%であった。これらの値を含め、得られた結果を表1に記載した。
実施例1の1−2)にて使用した25wt%アンモニア水の30mlの代わりに、モノエタノールアミン(和光純薬(株)製、特級)のエタノール溶液(30wt%、モノエタノールアミンの含有量は約130mmol)の30mlを用い、これにPP/PGMA不織布を浸漬する以外は実施例1と同様の手順にて、リガンド固定化用基材および細胞選択吸着材を作製し、ヒト末梢血からの細胞選択吸着率の測定を行った。その結果、CD4陽性細胞の吸着率は74%、CD8陽性細胞の吸着率は12%であった。これらの値を含め、得られた結果を表1に記載した。
実施例1の1−2)にて使用した25wt%アンモニア水の30mlの代わりに、n−プロピルアミン(和光純薬(株)製、特級)のエタノール溶液30ml(n−プロピルアミンの濃度は30wt%、その含有量は約140mmol)を用い、これにPP/PGMA不織布を浸漬する以外は実施例1と同様の手順にて、リガンド固定化用基材および細胞選択吸着材を作製し、ヒト末梢血からの細胞選択吸着率の測定を行った。その結果、CD4陽性細胞の吸着率は78%、CD8陽性細胞の吸着率は15%であった。これらの値を含め、得られた結果を表1に記載した。
実施例1の2−2)において、PP/PGMA(NH3)/EGDE不織布の代わりに1−1)で作製したPP/PGMA不織布(チオ硫酸ナトリウム法を用い水中にて測定されたエポキシ基のモル数は65(μmol/g))を用いる他は、実施例1と同様の手順にて細胞選択吸着材を作製し、ヒト末梢血からの細胞選択吸着率の測定を行った。その結果、CD4陽性細胞の吸着率は僅か32%、CD8陽性細胞の吸着率は11%であり、Fab’のアフィニティーの発現が不十分であることが分かった。これらの値を含め、得られた結果を表1に記載した。
Fab’固定化用ビーズの作製
2.0g(サクションゲルとしての値;以下ビーズの重量とはサクションゲルの重量を意味する)のセルロースビーズ(チッソ(株)製、セルロファインCPB−06−uc、粒子径400μm、排除限界分子量200万)を、40mlのエピクロロヒドリン(和光純薬(株)製 特級試薬)と130mlの0.1N−NaOH水溶液からなる混合溶液に加え、25℃の恒温振とう槽中でゆるやかに振とうした。24時間後、ビーズを吸引濾過し、蒸留水で洗浄液が中性になるまで十分に洗浄した。得られたエポキシ化ビーズ1gあたりのエポキシ基含有量は、実施例1の1−1)に示したチオ硫酸ナトリウム水溶液法にて測定すると280(μmol/g)であった。
次に得られたエポキシ化ビーズの1.5gを、25wt%アンモニア水(和光純薬(株)製 特級試薬)の30mlに加えた(アンモニアの含有量は約440mmol)。そのまま25℃で2時間ゆるやかに振とうした後、吸引濾過にてビーズを取り出し、蒸留水にて洗浄水が中性となるまで洗浄を行った。得られたアミノ化ビーズの一部を乾燥した後、そのビーズの窒素含有量、およびアンモニアを反応させる前のエポキシ化ビーズの窒素含有量をパイロ発光法窒素分析装置(ANTEK社製 ANTEK7000)にて測定し、それらの値の差からアンモニアによって導入された窒素の含有量はビーズ1gあたり370(μmol/g)であった。
さらに得られたアミノ化ビーズの1.0gを、EGDEの30ml(0.20mol)に25℃にて浸漬し、その状態で反応容器全体をゆるやかに振とうしながら25℃で22時間保った。その後、ビーズを吸引濾過にて取り出し、蒸留水で10回洗浄を行って、EGDEを導入したビーズ(EGDE化ビーズ)を得た。
得られたEGDE化ビーズのエポキシ基含有量は、1gあたり268(μmol/g)であった。またビーズ1gあたりの窒素原子のモル数は、345(μmol/g)であった(表1に記載)。
上記のEGDE化ビーズの0.50gを1mLサイズのフィルターホルダー(モビコールポリエチレンカラム、MoBiTec,独国)に充填し、液体出口にキャップを取り付け、PBSに溶解したFab’溶液の400μL(濃度は16μg/400μL)を加えてに完全に浸漬し、この状態を37℃で48時間保った。その後、Tween20溶液、続いてPBSをフィルターホルダーに通液して充分洗浄した。実施例1の2−3)と同様の方法にて見積もられたFab’の固定化量は、ビーズ0.50gあたり9μgであった。
以上の操作にて得られたEGDE化ビーズが充填されたフィルターホルダーを用い、実施例1の3−1)記載の血液濾過操作および3−2)記載の吸着率定量操作と同様の操作を行った結果、CD4陽性細胞の吸着率は28%、CD8陽性細胞の吸着率は10%であり、選択吸着性は不十分であった。
細胞選択吸着の対象となる細胞浮遊液としては、特定の細胞に有用医薬物質等を生産させるバイオリアクターなどで使用される細胞浮遊液や、血液、リンパ液、腹水、胸水、骨髄液、尿などの体液またはこれら体液を含む液体が挙げられる。
細胞浮遊液が血液の場合、ポンプ等の駆動力を用いて患者の血液を体外循環する回路に本発明の細胞選択吸着カラムを組み込めば、特定の細胞除去(例えばCD4陽性細胞)による疾患治療(例えば多発性硬化症などの自己免疫疾患)に有効であり、選択的細胞吸着による体外免疫調節治療システムの開発に有用である。また造血幹細胞移植治療を目的とする、血液(末梢血)や骨髄液からのCD34陽性細胞回収にも使用可能である。その他、体液や体液を含む液体からの癌細胞、腫瘍細胞、活性化リンパ球、炎症性白血球、赤芽球等の選択的吸着除去や回収によって治療用途や診断用途に使用することも可能である。
Claims (12)
- リガンド固定化用基材1gに含まれるエポキシ基の含有量が1〜500(μmol/g)であり、同じく窒素原子の含有量が10〜2000(μmol/g)であることを特徴とする請求項1又は2に記載の細胞選択吸着材。
- 多孔膜が、平均繊維径0.1μm〜50μmの不織布であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の細胞選択吸着材。
- 特定の細胞がCD4陽性細胞である請求項4に記載の細胞選択吸着材。
- アフィニティーリガンドがペプチド型リガンドであることを特徴とする請求項5に記載の細胞選択吸着材。
- ペプチド型リガンドの分子量が0.5〜130kDaである請求項6に記載の細胞選択吸着材。
- 請求項1〜7のいずれかに記載の細胞選択吸着材の製造方法であって、多孔膜の少なくとも表面部分に化学的に結合されたエポキシ基にアンモニアおよび/または1級アミン化合物を反応させる工程、および該工程によって生成する1級アミノ基および/または2級アミノ基を少なくとも表面部分に有する多孔膜にジグリシジル化合物の少なくとも1種を反応させる工程、特定の細胞表面に親和性を有するアフィニティーリガンドの少なくとも1種を固定化する工程を含むことを特徴とする細胞選択吸着材の製造方法。
- 多孔膜の少なくとも表面部分に化学的に結合されたエポキシ基が、エポキシ基を有する重合性モノマーを少なくとも用いた放射線照射グラフト重合法によって得られた重合体に由来するものであることを特徴とする請求項8又は9に記載の細胞選択吸着材の製造方法。
- 請求項1〜7のいずれかに記載の細胞選択吸着材を充填してなることを特徴とする細胞選択吸着カラム。
- 請求項11に記載の細胞選択吸着カラムを用いて細胞浮遊液中のターゲット細胞を吸着する方法。
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