JP2004188522A - ワイヤ放電加工用電極線の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】製造コストが安価で、かつ所望のZn濃度を有するCu−Zn合金層を確実に得ることができ、さらに放電加工性及び伸線加工性が非常に優れるワイヤ放電加工用電極線の製造方法を提供することにある。
【解決手段】CuまたはCu合金からなる心材31の外周に、めっきによってZn層21を形成し、そのZn層21の外周にCu−Zn合金層22を被覆して被覆線材20を形成し、その直後、あるいは被覆線材20に縮径加工を施した後に、その被覆線材20に熱処理を施してZn層21中のZnをCu−Zn合金層22中に拡散させ、高Zn濃度のCu−Zn合金層を形成する方法である。
【選択図】 図2
【解決手段】CuまたはCu合金からなる心材31の外周に、めっきによってZn層21を形成し、そのZn層21の外周にCu−Zn合金層22を被覆して被覆線材20を形成し、その直後、あるいは被覆線材20に縮径加工を施した後に、その被覆線材20に熱処理を施してZn層21中のZnをCu−Zn合金層22中に拡散させ、高Zn濃度のCu−Zn合金層を形成する方法である。
【選択図】 図2
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ワイヤ放電加工用電極線の製造方法に係り、特に、被覆型のワイヤ放電加工用電極線の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ワイヤ放電加工用電極線は、通電しながら走行させることで、電極線と被加工物間の放電による溶融作用を利用して、被加工物を加工するワイヤ放電加工に使用される電極線である。
【0003】
一般的なワイヤ放電加工用電極線として、Cu−Zn合金単体からなる電極線が活用されている。この電極線は、加工速度、加工精度などの放電特性に優れていると共に、コスト的にも有利な特質を有している。このタイプの電極線の放電加工速度を向上させるには、電極線をZn濃度が高いCu−Zn合金で形成することが望ましい。しかしながら、Cu−Zn合金中のZn濃度が40重量%を超えると、伸線加工性が著しく低下し、電極線の製造が困難となる。このため、このタイプの電極線の構成材として、一般的に、32〜36重量%のZnを含むCu−Zn合金、すなわちCu−35重量%Zn合金(65/35黄銅線)が使用されてきた。
【0004】
近年、ワイヤ放電加工用電極線の高速加工性が重視されるようになっている。
このため、例えば、Cu−2.0重量%Sn合金、Cu−0.3重量%Sn合金などのCu合金からなる心材の周りに、従来よりもZn濃度が高いCu−Zn合金層を被覆した被覆型の放電加工用電極線が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1に記載された被覆型の放電加工用電極線の製造方法は、心材の周りに、Cu−38〜49重量%ZnからなるCu−Zn合金層を押出被覆するものである。
【0006】
また、被覆型の放電加工用電極線の他の製造方法としては、例えば、心材の周りにZn層を被覆してなる被覆線材を加熱炉中に通して拡散熱処理を施すことで、電極線の表層にZn濃度の高いCu−Zn合金層を形成する方法が挙げられ、この他にも種々の方法が提案されている。
【0007】
【特許文献1】
特開平5−339664号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題 】
しかしながら、特開平5−339664号公報に記載の製造方法では、Cu−Zn合金層のZn濃度が38〜49重量%と高いことから、Cu−Zn合金層の単一層を形成するには、熱間押出被覆を行う必要があり、製造コストが非常に高くなるという問題があった。また、Cu−Zn合金層のZn濃度が38〜49重量%と高いことから、伸線加工性が著しく悪く、その結果、生産性が良好でないという問題があった。
【0009】
また、後者の拡散熱処理による製造方法では、拡散熱処理に非常に長い時間を要することから、生産性が低いという問題があった。
【0010】
生産性向上のために熱処理時間を高くすることも考えられるが、高温中ではZnが蒸発してしまい、所望のZn濃度を得ることができないという問題がある。
あるいは、生産性を向上させるために、大量の被覆線材をボビンに巻きつけて一括して熱処理をする方法が考えられるが、一括して熱処理する場合、線材同士が隣接して接触しているため、熱処理によって外周のZnが拡散し、線材同士が融着してしまい、その後の加工が困難になるという問題がある。
【0011】
そこで、本発明の目的は、製造コストが安価で、かつ所望のZn濃度を有するCu−Zn合金層を確実に得ることができ、さらに放電加工性及び伸線加工性が非常に優れるワイヤ放電加工用電極線の製造方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、請求項1の発明は、CuまたはCu合金からなる心材の外周に、めっきによってZn層を形成し、そのZn層の外周にCu−Zn合金層を被覆して被覆線材を形成し、その直後、あるいは上記被覆線材に縮径加工を施した後に、その被覆線材に熱処理を施して上記Zn層中のZnを上記Cu−Zn合金層中に拡散させ、高Zn濃度のCu−Zn合金層を形成するワイヤ放電加工用電極線の製造方法である。
【0013】
請求項2の発明は、CuまたはCu合金からなる心材の外周に、めっきによってZn層を形成し、そのZn層の外周にCu−Zn合金テープを縦添えし、そのCu−Zn合金テープの突き合わせ部を溶接して被覆線材を形成し、その直後、あるいは上記被覆線材に縮径加工を施した後に、その被覆線材に熱処理を施して上記Zn層中のZnを上記Cu−Zn層中に拡散させ、高Zn濃度のCu−Zn合金層を形成するワイヤ放電加工用電極線の製造方法である。
【0014】
請求項3の発明は、上記心材を430〜480℃の溶融亜鉛浴中に少なくとも一回浸しながら通過させ、あるいは上記心材に電気亜鉛めっきを施して上記心材の外周にZn層を形成する請求項1または2記載のワイヤ放電加工用電極線の製造方法である。
【0015】
請求項4の発明は、上記心材を構成する合金として、
Cu−0.02〜0.2重量%Zr合金、
Cu−0.15〜0.25重量%Sn−0.15〜0.25重量%In合金、
Cu−0.15〜0.70重量%Sn合金、
Cu−5〜30重量%Zn合金、
Cu−5〜30重量%Zn合金に、Zr、Cr、Si、Mg、Al、Fe、P、Ni、Ag、Snの元素のうちの少なくとも1種を添加した合金、
Fe系Cu合金、
またはCu−0.2〜20重量%Ag合金
のうちいずれかを用いる請求項1〜3いずれかに記載のワイヤ放電加工用電極線の製造方法である。
【0016】
請求項5の発明は、上記熱処理後のCu−Zn合金層のZn濃度が38〜50重量%となるように、上記被覆線材に熱処理を施す請求項1〜4いずれかに記載のワイヤ放電加工用電極線の製造方法である。
【0017】
請求項6の発明は、上記熱処理後のCu−Zn合金層のZn濃度が外層で38重量%未満であり、その内層で38〜50重量%となるように、上記被覆線材に熱処理を施す請求項1〜5いずれかに記載のワイヤ放電加工用電極線の製造方法である。
【0018】
請求項7の発明は、上記熱処理後のCu−Zn合金層の外周に、さらにZn層を形成する請求項1〜6いずれかに記載のワイヤ放電加工用電極線の製造方法である。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0020】
図3は、本発明の好適実施の形態であるワイヤ放電加工用電極線の製造方法を用いて製造したワイヤ放電加工用電極線の一例を示す横断面図である。
【0021】
図3に示すように、ワイヤ放電加工用電極線30は、心材31の外周に均一な高Zn濃度のCu−Zn合金層32を形成した二層構造の電極線である。本発明に係るワイヤ放電加工用電極線の製造方法は、このような電極線30を製造するための方法である。
【0022】
図2に示すように、本発明に係るワイヤ放電加工用電極線の製造方法は、CuまたはCu合金からなる心材31の外周に、めっきによってZn層21を形成し、そのZn層21の外周にCu−Zn合金層22を被覆して被覆線材20を形成し、その直後、あるいは被覆線材20に縮径加工を施した後に、その被覆線材20に熱処理を施してZn層21中のZnをCu−Zn合金層22中に拡散させ、図3に示した高Zn濃度のCu−Zn合金層32を形成する製造方法である。電極線30は、さらに縮径加工(冷間伸線加工)が施されて所望径の最終製品になる。
【0023】
より詳細に説明すると、心材31を構成するCu合金としては、被覆型のワイヤ放電加工用電極線の心材に慣用的に用いられているものであれば特に限定するものではない。
【0024】
例えば、
Cu−0.02〜0.2重量%Zr合金、
Cu−0.15〜0.25重量%Sn−0.15〜0.25重量%In合金、
Cu−0.15〜0.70重量%Sn合金、
Cu−5〜30重量%Zn合金、
Cu−5〜30重量%Zn合金に、Zr、Cr、Si、Mg、Al、Fe、P、Ni、Ag、Snの元素のうちの少なくとも1種を添加した合金、
Fe系Cu合金、
またはCu−0.2〜20重量%Ag合金
のうちいずれかを用いればよい。
【0025】
心材31としてこのようなCu合金を用いたのは、上記Cu合金が高い導電率、高い引張強度及び高温耐熱性を有するからである。
【0026】
心材31の外周にめっきによってZn層21を形成する方法としては、例えば、心材31を430〜480℃の溶融亜鉛浴中に少なくとも一回浸しながら通過させる方法(いわゆる溶融めっき法)を使用できる。この方法は、溶融亜鉛浴中のZn濃度に依存しない方法なので、心材31の溶融亜鉛浴中の通過回数に応じて、心材31の外周に所望厚さのZn層21を形成できる。
【0027】
また、上記の方法の他にも、心材31を電解浴中に浸しながら心材31と電解浴とに電圧を印加することにより、心材31に電気亜鉛めっきを施して心材31の外周にZn層21を形成する方法(いわゆる電気めっき法)を用いてもよい。
この方法は、印加する電圧に依存する方法なので、電圧を調整すれば、心材31の外周に所望厚さのZn層21を形成できる。
【0028】
心材31の外周にめっきによってZn層21を形成したのは、心材31の外周にZn条を縦添えする方法に比べてZn層21を容易かつ低コストで形成できるからである。しかも、めっきの場合、縦添えする方法に比べると心材31とZn層21との密着性が高いという利点もある。
【0029】
心材31の外周にZn層21を形成した後、そのZn層21の外周にCu−Zn合金層22を形成する。具体的には、図1に示すように、Zn層21の外周にCu−Zn合金層としてのCu−Zn合金条11を心材31の長さ方向に沿って縦添えする。
【0030】
Cu−Zn合金条11は、Cu−32〜40重量%Zn合金(好ましくはCu−32〜38重量%Zn合金、特に好ましくはCu−35重量%前後Zn合金)で構成されている。
【0031】
Cu−Zn合金条11のZn濃度を32〜40重量%としたのは、Zn濃度が32重量%未満だと放電加工速度を向上させる効果が十分に得られないためであり、Zn濃度が40重量%を超えると伸線加工性が著しく低下するためである。
【0032】
Zn層21の外周にCu−Zn合金条11を縦添えした後、Cu−Zn合金条11の突き合わせ部12に溶接処理を施す。すると、図2に示すように、心材31の外周に形成されたZn層21と、そのZn層21の外周に形成されたCu−Zn合金層22(Cu−Zn合金条11)と、突き合わせ溶接部23とを有する被覆線材20が形成される。
【0033】
その後、被覆線材20の微小隙間Sを無くすべく、被覆線材20に圧延ロールによる圧延加工あるいはダイス引抜き加工を施し、心材31とCu−Zn合金条11とを密着させる。この圧延加工あるいはダイス引抜き加工は次工程である熱処理後に行ってもよい。
【0034】
被覆線材20には、さらに熱処理が施され、Zn層21中のZnをCu−Zn合金層22(Cu−Zn条11)中に拡散させると共に、突き合わせ溶接部23及びその近傍の均一化処理を行う。
【0035】
この熱処理は、熱処理後のCu−Zn合金層32(図3参照)のZn濃度が38〜50重量%となるように、被覆線材20に施すようにしている。これは、熱処理後のCu−Zn合金層32のZn濃度が38重量%未満であると放電加工性の向上が望めず、50重量%を超えると伸線加工性が著しく低下するためである。
【0036】
熱処理条件は、例えば、400℃×0.5hr〜650℃×10hrとなるようにしている。
【0037】
その結果、図3に示したように、心材31の外周に均一な高Zn濃度のCu−Zn合金層32が形成されたワイヤ放電加工用電極線30が得られる。得られた電極線30を伸線ダイスに通し、電極線30に適宜縮径加工(冷間伸線加工)を施して所望の線径に形成することで、最終製品が得られる。
【0038】
ここで、縮径加工によって所望の線径が得られるまで、電極線30を複数台の伸線ダイスに通す。また、縮径加工の減面率は、75〜95%以上、好ましくは75〜98%以上、特に好ましくは75〜99.5%以上である。
【0039】
なお、本発明に係る製造方法においては、熱処理後に縮径加工を行う場合について説明を行ったが、熱処理前の被覆線材20に対して縮径加工を行ってもよく、その場合、縮径後の被覆線材20に熱処理を施す。
【0040】
このように、本発明に係るワイヤ放電加工用電極線の製造方法は、心材31の外周にめっきによってZn層21を形成しているので、心材31の外周にZn条を縦添えする方法に比べてZn層21を容易かつ低コストで形成できる。しかも、めっきの場合、縦添えする方法に比べると心材31とZn層21との密着性を高くできる。
【0041】
本発明に係る製造方法を用いて製造されたワイヤ放電加工用電極線30では、内層の心材31は導電率が高く、外層のCu−Zn合金層32は均一でZn濃度が高く、かつ、伸線加工性が良好となるので、放電加工性及び伸線加工性が非常に優れている。
【0042】
また、熱処理前の被覆線材20の最外層はCu−Zn合金層22なので、被覆線材20をボビンなどに巻きつけて線材同士が接触している状態で一括で熱処理しても、線材同士の融着を確実に防止できるので、低コストな熱処理が可能となり、優れた生産性を発揮できる。
【0043】
さらに、熱処理に際してCu−Zn合金層22の内層であるZn層21からのZnの蒸発を確実に防止できるため、均一な所望のZn濃度のCu−Zn合金層32を確実に得ることができ、効率的にかつ安定した品質の電極線30を得ることができる。
【0044】
したがって、本発明に係る製造方法を用いれば、放電加工性及び伸線加工性が非常に優れた電極線30を安価に製造でき、しかも優れた生産性を発揮できる。
【0045】
次に、本発明に係る製造方法の他の実施の形態を説明する。
【0046】
図4は、本発明に係る製造方法を用いて製造したワイヤ放電加工用電極線の他の一例を示す横断面図である。
【0047】
図4に示すように、ワイヤ放電加工用電極線40は、図3で説明した電極線30の外周に、すなわち熱処理後のCu−Zn合金層32の外周に、さらにZn層21を形成したものである。このZn層21は、上述と同様、溶融めっき法や電気めっき法によって形成すればよい。最外層にZn層21を形成することで、放電加工性をさらに向上できる。
【0048】
また、図5は本発明に係る製造方法を製造したワイヤ放電加工用電極線の別例を示す横断面図である。
【0049】
図5に示すように、ワイヤ放電加工用電極線50は、図2で説明した被覆線材20に熱処理を施し、Zn濃度が38重量%未満の低Zn濃度層である外層51oと、Zn濃度が38〜50重量%の高Zn濃度層である内層51iとの二層構造からなるCu−Zn合金層51を形成したものである。
【0050】
外層51oのZn濃度を38重量%未満とし、内層51iのZn濃度を38〜50重量%としたのは、最外層のZn濃度が38重量%未満であると、その内層にZn濃度の高い層が存在しても、伸線加工性が著しく向上するためである。
【0051】
このような二層構造のCu−Zn合金層51を心材31の外周に形成するには、図2で説明した被覆線材20に熱処理を施す際、熱処理条件を適宜調整すればよい。熱処理条件は、例えば、350℃×0.5hr〜600℃×5hrとなるようにしている。
【0052】
また、この電極線50の外周に、すなわち、図6に示すように熱処理後のCu−Zn合金層51の外周に、さらにZn層21を形成してワイヤ放電加工用電極線60を製造すれば、放電加工性をさらに向上できる。
【0053】
【実施例】
(実施例1)
線径がφ4.0mmでCu−0.19Sn−0.2Inからなる心材を、450℃の溶融亜鉛浴中に数回通過させて厚さ0.2mmのZn層を心材に被覆する。その後、厚さ0.50mmの黄銅テープ(Cu−35Zn)を縦添えし、その突き合わせ部を溶接して線径がφ5.4mmの被覆線材を形成する。この被覆線材に600℃×4hrの熱処理を施してCu−46Zn合金層を形成した後、圧延ロールによる圧延加工を施し、電極線母材を作製した。この母材を複数台の伸線ダイスに通して冷間で縮径加工を施し、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製した。
【0054】
(実施例2)
線径がφ4.0mmでCu−0.19Sn−0.2Inからなる心材を、450℃の溶融亜鉛浴中に数回通過させて厚さ0.2mmのZn層を心材に被覆する。その後、厚さ0.50mmの黄銅テープ(Cu−35Zn)を縦添えし、その突き合わせ部を溶接して線径がφ5.4mmの被覆線材を形成する。この被覆線材に、600℃×2hrの熱処理を施して最外層にCu−35Zn合金層を形成すると共に、その内層にCu−46Zn合金層を形成した後、圧延ロールによる圧延加工を施し、電極線母材を作製した。この母材を複数台の伸線ダイスに通して冷間で縮径加工を施し、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製した。
【0055】
(実施例3)
線径がφ4.0mmでCu−0.19Sn−0.2Inからなる心材を、450℃の溶融亜鉛浴中に数回通過させて厚さ0.2mmのZn層を心材に被覆する。その後、厚さ0.50mmの黄銅テープ(Cu−35Zn)を縦添えし、その突き合わせ部を溶接して線径がφ5.4mmの被覆線材を形成する。この被覆線材に、600℃×4hrの熱処理を施してCu−46Zn合金層を形成し、その外周に厚さ0.1mmのZn層を被覆した後、圧延ロールによる圧延加工を施し、電極線母材を作製した。この母材を複数台の伸線ダイスに通して冷間で縮径加工を施し、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製した。
【0056】
(実施例4)
心材の組成がCu−0.16Zrである以外は実施例1と同様にし、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製した。
【0057】
(実施例5)
心材の組成がCu−0.16Zrである以外は実施例2と同様にし、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製した。
【0058】
(実施例6)
心材の組成がCu−0.16Zrである以外は実施例3と同様にし、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製した。
【0059】
(実施例7)
心材の組成がCu−10Znである以外は実施例1と同様にし、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製した。
【0060】
(実施例8)
心材の組成がCu−10Znである以外は実施例2と同様にし、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製した。
【0061】
(実施例9)
心材の組成がCu−10Znである以外は実施例3と同様にし、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製した。
【0062】
(比較例1)
線径がφ4.0mmでCu−0.19Sn−0.2Inからなる心材に、厚さ0.80mmの黄銅テープ(Cu−35Zn)を縦添えし、その突き合わせ部を溶接して線径がφ5.6mmの被覆線材を形成する。この被覆線材にZnを被覆し、850℃の加熱炉中を通過させる熱処理を施してCu−43Zn合金層を形成した後、圧延ロールによる圧延加工を施し、電極線母材を作製した。この母材を複数台の伸線ダイスに通して冷間で縮径加工を施し、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製した。
【0063】
(比較例2)
線径がφ4.0mmでCu−0.19Sn−0.2Inからなる心材に、厚さ0.80mmの黄銅テープ(Cu−35Zn)を縦添えし、その突き合わせ部を溶接して線径がφ5.6mmの被覆線材を形成する。この被覆線材にZnを被覆し、850℃の加熱炉中を通過させる熱処理を施してCu−43Zn合金層を形成し、さらにその外周に厚さ0.1mmのZn層を被覆した後、圧延ロールによる圧延加工を施し、電極線母材を作製した。この母材を複数台の伸線ダイスに通して冷間で縮径加工を施し、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製した。
【0064】
(従来例1)
連続鋳造機を用いて、Cu−35Zn合金からなる電極線母材を作製した。この母材を複数台の伸線ダイスに通して冷間で縮径加工を施し、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製した。
【0065】
(従来例2)
電極線母材の組成がCu−40Znである以外は従来例1と同様にし、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製した。
【0066】
実施例1〜9、比較例1,2、従来例1,2における各電極線の、心材組成(重量%)、被覆層の組成(重量%)、伸線加工性、放電加工試験時の放電加工速度および生産性を表1に示す。
【0067】
ここで、伸線加工性は容易なものを○、やや難があるものを△とした。放電加工速度は、従来例1における電極線の放電加工速度を1.00としたの相対速度で評価した。生産性は、比較例1における電極線の生産性を1.0としたときの相対値で評価した。
【0068】
【表1】
【0069】
表1に示すように、実施例1〜3の各電極線の放電加工速度は、1.31、1.29、1.43であり、従来例1,2に比べて約30〜40%も高速であった。比較例1,2に比べても約10〜20%も高速であった。実施例1〜3の各電極線は、生産性についても、比較例1に比べて3〜6倍も高い生産性を示し、比較例2に比べて5〜10倍もの高い生産性を示した。
【0070】
また、実施例1〜3の各電極線についてより詳細に評価すると、実施例3の電極線は、熱処理後のCu−Zn合金層の外周に、さらに最外層となるZn層が形成されているので、実施例1,2に比べると放電加工速度が最も高速であった。
実施例2の電極線は、熱処理後のCu−Zn合金層が高Zn濃度の内層と低Zn濃度の外層からなっており、実施例1,3に比べると熱処理時間を半分にできるので、生産性が最も高かった。実施例1の電極線は、熱処理後のCu−Zn合金層が均一な高Zn濃度の層のみなので、実施例2,3に比べると伸線加工性がやや劣るが、放電加工速度および生産性は実施例2と実施例3の中間の値を示した。
【0071】
これに対して比較例1の電極線は、熱処理時の最外層がZn層となっており、熱処理中にZnが蒸発してしまうので、熱処理後のCu−Zn合金層のZn濃度を所望濃度まで高くすることができず、しかも電極線の引張強度が低いので、放電加工速度が1.21しか得られず、生産性も低い。
【0072】
比較例2の電極線は、比較例1と同様の理由から放電加工速度が1.20しか得られない。この電極線は最外層にZn層が形成されているので、比較例1に比べると伸線加工性が容易であるものの、生産性が0.6とさらに低下する。
【0073】
また、実施例1〜3における心材の組成を変えた実施例4〜6、および実施例7〜9の各電極線についても、従来例1,2および比較例1,2に比べて、実施例1〜3とほぼ同等の放電加工速度、生産性および伸線加工性が得られた。実施例4〜6および実施例7〜9における各特性の比較についても同様である。
【0074】
したがって、本発明に係るワイヤ放電加工用電極線の製造方法は、優れた放電加工性及び伸線加工性を有するワイヤ放電加工用電極線を低コストで製造できることがわかる。
【0075】
【発明の効果】
以上説明したことから明らかなように、本発明によれば、次のような優れた効果を発揮する。
【0076】
(1)優れた放電加工性及び伸線加工性を有するワイヤ放電加工用電極線を低コストで製造できる。
【0077】
(2)熱処理前の被覆線材の最外層がCu−Zn合金層なので、熱処理時にZn層からのZnの蒸発を確実に防止でき、均一な所望のZn濃度を有するCu−Zn合金層を確実に得ることができる。
【0078】
(3)熱処理前の被覆線材をボビンなどに巻きつけて線材同士が接触している状態で一括で熱処理しても、線材同士の融着を確実に防止できるので、効率的な一括した熱処理が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る製造方法の一工程を示す横断面図である。
【図2】熱処理前の被覆線材の横断面図である。
【図3】本発明に係る製造方法を用いて製造したワイヤ放電加工用電極線の一例を示す横断面図である。
【図4】本発明に係る製造方法を用いて製造したワイヤ放電加工用電極線の他の一例を示す横断面図である。
【図5】本発明に係る製造方法を用いて製造したワイヤ放電加工用電極線の別例を示す横断面図である。
【図6】本発明に係る製造方法を用いて製造したワイヤ放電加工用電極線のさらに別例を示す横断面図である。
【符号の説明】
11 Cu−Zn合金条
20 被覆線材
21 Zn層
22 Cu−Zn合金層
31 心材
【発明の属する技術分野】
本発明は、ワイヤ放電加工用電極線の製造方法に係り、特に、被覆型のワイヤ放電加工用電極線の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ワイヤ放電加工用電極線は、通電しながら走行させることで、電極線と被加工物間の放電による溶融作用を利用して、被加工物を加工するワイヤ放電加工に使用される電極線である。
【0003】
一般的なワイヤ放電加工用電極線として、Cu−Zn合金単体からなる電極線が活用されている。この電極線は、加工速度、加工精度などの放電特性に優れていると共に、コスト的にも有利な特質を有している。このタイプの電極線の放電加工速度を向上させるには、電極線をZn濃度が高いCu−Zn合金で形成することが望ましい。しかしながら、Cu−Zn合金中のZn濃度が40重量%を超えると、伸線加工性が著しく低下し、電極線の製造が困難となる。このため、このタイプの電極線の構成材として、一般的に、32〜36重量%のZnを含むCu−Zn合金、すなわちCu−35重量%Zn合金(65/35黄銅線)が使用されてきた。
【0004】
近年、ワイヤ放電加工用電極線の高速加工性が重視されるようになっている。
このため、例えば、Cu−2.0重量%Sn合金、Cu−0.3重量%Sn合金などのCu合金からなる心材の周りに、従来よりもZn濃度が高いCu−Zn合金層を被覆した被覆型の放電加工用電極線が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1に記載された被覆型の放電加工用電極線の製造方法は、心材の周りに、Cu−38〜49重量%ZnからなるCu−Zn合金層を押出被覆するものである。
【0006】
また、被覆型の放電加工用電極線の他の製造方法としては、例えば、心材の周りにZn層を被覆してなる被覆線材を加熱炉中に通して拡散熱処理を施すことで、電極線の表層にZn濃度の高いCu−Zn合金層を形成する方法が挙げられ、この他にも種々の方法が提案されている。
【0007】
【特許文献1】
特開平5−339664号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題 】
しかしながら、特開平5−339664号公報に記載の製造方法では、Cu−Zn合金層のZn濃度が38〜49重量%と高いことから、Cu−Zn合金層の単一層を形成するには、熱間押出被覆を行う必要があり、製造コストが非常に高くなるという問題があった。また、Cu−Zn合金層のZn濃度が38〜49重量%と高いことから、伸線加工性が著しく悪く、その結果、生産性が良好でないという問題があった。
【0009】
また、後者の拡散熱処理による製造方法では、拡散熱処理に非常に長い時間を要することから、生産性が低いという問題があった。
【0010】
生産性向上のために熱処理時間を高くすることも考えられるが、高温中ではZnが蒸発してしまい、所望のZn濃度を得ることができないという問題がある。
あるいは、生産性を向上させるために、大量の被覆線材をボビンに巻きつけて一括して熱処理をする方法が考えられるが、一括して熱処理する場合、線材同士が隣接して接触しているため、熱処理によって外周のZnが拡散し、線材同士が融着してしまい、その後の加工が困難になるという問題がある。
【0011】
そこで、本発明の目的は、製造コストが安価で、かつ所望のZn濃度を有するCu−Zn合金層を確実に得ることができ、さらに放電加工性及び伸線加工性が非常に優れるワイヤ放電加工用電極線の製造方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、請求項1の発明は、CuまたはCu合金からなる心材の外周に、めっきによってZn層を形成し、そのZn層の外周にCu−Zn合金層を被覆して被覆線材を形成し、その直後、あるいは上記被覆線材に縮径加工を施した後に、その被覆線材に熱処理を施して上記Zn層中のZnを上記Cu−Zn合金層中に拡散させ、高Zn濃度のCu−Zn合金層を形成するワイヤ放電加工用電極線の製造方法である。
【0013】
請求項2の発明は、CuまたはCu合金からなる心材の外周に、めっきによってZn層を形成し、そのZn層の外周にCu−Zn合金テープを縦添えし、そのCu−Zn合金テープの突き合わせ部を溶接して被覆線材を形成し、その直後、あるいは上記被覆線材に縮径加工を施した後に、その被覆線材に熱処理を施して上記Zn層中のZnを上記Cu−Zn層中に拡散させ、高Zn濃度のCu−Zn合金層を形成するワイヤ放電加工用電極線の製造方法である。
【0014】
請求項3の発明は、上記心材を430〜480℃の溶融亜鉛浴中に少なくとも一回浸しながら通過させ、あるいは上記心材に電気亜鉛めっきを施して上記心材の外周にZn層を形成する請求項1または2記載のワイヤ放電加工用電極線の製造方法である。
【0015】
請求項4の発明は、上記心材を構成する合金として、
Cu−0.02〜0.2重量%Zr合金、
Cu−0.15〜0.25重量%Sn−0.15〜0.25重量%In合金、
Cu−0.15〜0.70重量%Sn合金、
Cu−5〜30重量%Zn合金、
Cu−5〜30重量%Zn合金に、Zr、Cr、Si、Mg、Al、Fe、P、Ni、Ag、Snの元素のうちの少なくとも1種を添加した合金、
Fe系Cu合金、
またはCu−0.2〜20重量%Ag合金
のうちいずれかを用いる請求項1〜3いずれかに記載のワイヤ放電加工用電極線の製造方法である。
【0016】
請求項5の発明は、上記熱処理後のCu−Zn合金層のZn濃度が38〜50重量%となるように、上記被覆線材に熱処理を施す請求項1〜4いずれかに記載のワイヤ放電加工用電極線の製造方法である。
【0017】
請求項6の発明は、上記熱処理後のCu−Zn合金層のZn濃度が外層で38重量%未満であり、その内層で38〜50重量%となるように、上記被覆線材に熱処理を施す請求項1〜5いずれかに記載のワイヤ放電加工用電極線の製造方法である。
【0018】
請求項7の発明は、上記熱処理後のCu−Zn合金層の外周に、さらにZn層を形成する請求項1〜6いずれかに記載のワイヤ放電加工用電極線の製造方法である。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0020】
図3は、本発明の好適実施の形態であるワイヤ放電加工用電極線の製造方法を用いて製造したワイヤ放電加工用電極線の一例を示す横断面図である。
【0021】
図3に示すように、ワイヤ放電加工用電極線30は、心材31の外周に均一な高Zn濃度のCu−Zn合金層32を形成した二層構造の電極線である。本発明に係るワイヤ放電加工用電極線の製造方法は、このような電極線30を製造するための方法である。
【0022】
図2に示すように、本発明に係るワイヤ放電加工用電極線の製造方法は、CuまたはCu合金からなる心材31の外周に、めっきによってZn層21を形成し、そのZn層21の外周にCu−Zn合金層22を被覆して被覆線材20を形成し、その直後、あるいは被覆線材20に縮径加工を施した後に、その被覆線材20に熱処理を施してZn層21中のZnをCu−Zn合金層22中に拡散させ、図3に示した高Zn濃度のCu−Zn合金層32を形成する製造方法である。電極線30は、さらに縮径加工(冷間伸線加工)が施されて所望径の最終製品になる。
【0023】
より詳細に説明すると、心材31を構成するCu合金としては、被覆型のワイヤ放電加工用電極線の心材に慣用的に用いられているものであれば特に限定するものではない。
【0024】
例えば、
Cu−0.02〜0.2重量%Zr合金、
Cu−0.15〜0.25重量%Sn−0.15〜0.25重量%In合金、
Cu−0.15〜0.70重量%Sn合金、
Cu−5〜30重量%Zn合金、
Cu−5〜30重量%Zn合金に、Zr、Cr、Si、Mg、Al、Fe、P、Ni、Ag、Snの元素のうちの少なくとも1種を添加した合金、
Fe系Cu合金、
またはCu−0.2〜20重量%Ag合金
のうちいずれかを用いればよい。
【0025】
心材31としてこのようなCu合金を用いたのは、上記Cu合金が高い導電率、高い引張強度及び高温耐熱性を有するからである。
【0026】
心材31の外周にめっきによってZn層21を形成する方法としては、例えば、心材31を430〜480℃の溶融亜鉛浴中に少なくとも一回浸しながら通過させる方法(いわゆる溶融めっき法)を使用できる。この方法は、溶融亜鉛浴中のZn濃度に依存しない方法なので、心材31の溶融亜鉛浴中の通過回数に応じて、心材31の外周に所望厚さのZn層21を形成できる。
【0027】
また、上記の方法の他にも、心材31を電解浴中に浸しながら心材31と電解浴とに電圧を印加することにより、心材31に電気亜鉛めっきを施して心材31の外周にZn層21を形成する方法(いわゆる電気めっき法)を用いてもよい。
この方法は、印加する電圧に依存する方法なので、電圧を調整すれば、心材31の外周に所望厚さのZn層21を形成できる。
【0028】
心材31の外周にめっきによってZn層21を形成したのは、心材31の外周にZn条を縦添えする方法に比べてZn層21を容易かつ低コストで形成できるからである。しかも、めっきの場合、縦添えする方法に比べると心材31とZn層21との密着性が高いという利点もある。
【0029】
心材31の外周にZn層21を形成した後、そのZn層21の外周にCu−Zn合金層22を形成する。具体的には、図1に示すように、Zn層21の外周にCu−Zn合金層としてのCu−Zn合金条11を心材31の長さ方向に沿って縦添えする。
【0030】
Cu−Zn合金条11は、Cu−32〜40重量%Zn合金(好ましくはCu−32〜38重量%Zn合金、特に好ましくはCu−35重量%前後Zn合金)で構成されている。
【0031】
Cu−Zn合金条11のZn濃度を32〜40重量%としたのは、Zn濃度が32重量%未満だと放電加工速度を向上させる効果が十分に得られないためであり、Zn濃度が40重量%を超えると伸線加工性が著しく低下するためである。
【0032】
Zn層21の外周にCu−Zn合金条11を縦添えした後、Cu−Zn合金条11の突き合わせ部12に溶接処理を施す。すると、図2に示すように、心材31の外周に形成されたZn層21と、そのZn層21の外周に形成されたCu−Zn合金層22(Cu−Zn合金条11)と、突き合わせ溶接部23とを有する被覆線材20が形成される。
【0033】
その後、被覆線材20の微小隙間Sを無くすべく、被覆線材20に圧延ロールによる圧延加工あるいはダイス引抜き加工を施し、心材31とCu−Zn合金条11とを密着させる。この圧延加工あるいはダイス引抜き加工は次工程である熱処理後に行ってもよい。
【0034】
被覆線材20には、さらに熱処理が施され、Zn層21中のZnをCu−Zn合金層22(Cu−Zn条11)中に拡散させると共に、突き合わせ溶接部23及びその近傍の均一化処理を行う。
【0035】
この熱処理は、熱処理後のCu−Zn合金層32(図3参照)のZn濃度が38〜50重量%となるように、被覆線材20に施すようにしている。これは、熱処理後のCu−Zn合金層32のZn濃度が38重量%未満であると放電加工性の向上が望めず、50重量%を超えると伸線加工性が著しく低下するためである。
【0036】
熱処理条件は、例えば、400℃×0.5hr〜650℃×10hrとなるようにしている。
【0037】
その結果、図3に示したように、心材31の外周に均一な高Zn濃度のCu−Zn合金層32が形成されたワイヤ放電加工用電極線30が得られる。得られた電極線30を伸線ダイスに通し、電極線30に適宜縮径加工(冷間伸線加工)を施して所望の線径に形成することで、最終製品が得られる。
【0038】
ここで、縮径加工によって所望の線径が得られるまで、電極線30を複数台の伸線ダイスに通す。また、縮径加工の減面率は、75〜95%以上、好ましくは75〜98%以上、特に好ましくは75〜99.5%以上である。
【0039】
なお、本発明に係る製造方法においては、熱処理後に縮径加工を行う場合について説明を行ったが、熱処理前の被覆線材20に対して縮径加工を行ってもよく、その場合、縮径後の被覆線材20に熱処理を施す。
【0040】
このように、本発明に係るワイヤ放電加工用電極線の製造方法は、心材31の外周にめっきによってZn層21を形成しているので、心材31の外周にZn条を縦添えする方法に比べてZn層21を容易かつ低コストで形成できる。しかも、めっきの場合、縦添えする方法に比べると心材31とZn層21との密着性を高くできる。
【0041】
本発明に係る製造方法を用いて製造されたワイヤ放電加工用電極線30では、内層の心材31は導電率が高く、外層のCu−Zn合金層32は均一でZn濃度が高く、かつ、伸線加工性が良好となるので、放電加工性及び伸線加工性が非常に優れている。
【0042】
また、熱処理前の被覆線材20の最外層はCu−Zn合金層22なので、被覆線材20をボビンなどに巻きつけて線材同士が接触している状態で一括で熱処理しても、線材同士の融着を確実に防止できるので、低コストな熱処理が可能となり、優れた生産性を発揮できる。
【0043】
さらに、熱処理に際してCu−Zn合金層22の内層であるZn層21からのZnの蒸発を確実に防止できるため、均一な所望のZn濃度のCu−Zn合金層32を確実に得ることができ、効率的にかつ安定した品質の電極線30を得ることができる。
【0044】
したがって、本発明に係る製造方法を用いれば、放電加工性及び伸線加工性が非常に優れた電極線30を安価に製造でき、しかも優れた生産性を発揮できる。
【0045】
次に、本発明に係る製造方法の他の実施の形態を説明する。
【0046】
図4は、本発明に係る製造方法を用いて製造したワイヤ放電加工用電極線の他の一例を示す横断面図である。
【0047】
図4に示すように、ワイヤ放電加工用電極線40は、図3で説明した電極線30の外周に、すなわち熱処理後のCu−Zn合金層32の外周に、さらにZn層21を形成したものである。このZn層21は、上述と同様、溶融めっき法や電気めっき法によって形成すればよい。最外層にZn層21を形成することで、放電加工性をさらに向上できる。
【0048】
また、図5は本発明に係る製造方法を製造したワイヤ放電加工用電極線の別例を示す横断面図である。
【0049】
図5に示すように、ワイヤ放電加工用電極線50は、図2で説明した被覆線材20に熱処理を施し、Zn濃度が38重量%未満の低Zn濃度層である外層51oと、Zn濃度が38〜50重量%の高Zn濃度層である内層51iとの二層構造からなるCu−Zn合金層51を形成したものである。
【0050】
外層51oのZn濃度を38重量%未満とし、内層51iのZn濃度を38〜50重量%としたのは、最外層のZn濃度が38重量%未満であると、その内層にZn濃度の高い層が存在しても、伸線加工性が著しく向上するためである。
【0051】
このような二層構造のCu−Zn合金層51を心材31の外周に形成するには、図2で説明した被覆線材20に熱処理を施す際、熱処理条件を適宜調整すればよい。熱処理条件は、例えば、350℃×0.5hr〜600℃×5hrとなるようにしている。
【0052】
また、この電極線50の外周に、すなわち、図6に示すように熱処理後のCu−Zn合金層51の外周に、さらにZn層21を形成してワイヤ放電加工用電極線60を製造すれば、放電加工性をさらに向上できる。
【0053】
【実施例】
(実施例1)
線径がφ4.0mmでCu−0.19Sn−0.2Inからなる心材を、450℃の溶融亜鉛浴中に数回通過させて厚さ0.2mmのZn層を心材に被覆する。その後、厚さ0.50mmの黄銅テープ(Cu−35Zn)を縦添えし、その突き合わせ部を溶接して線径がφ5.4mmの被覆線材を形成する。この被覆線材に600℃×4hrの熱処理を施してCu−46Zn合金層を形成した後、圧延ロールによる圧延加工を施し、電極線母材を作製した。この母材を複数台の伸線ダイスに通して冷間で縮径加工を施し、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製した。
【0054】
(実施例2)
線径がφ4.0mmでCu−0.19Sn−0.2Inからなる心材を、450℃の溶融亜鉛浴中に数回通過させて厚さ0.2mmのZn層を心材に被覆する。その後、厚さ0.50mmの黄銅テープ(Cu−35Zn)を縦添えし、その突き合わせ部を溶接して線径がφ5.4mmの被覆線材を形成する。この被覆線材に、600℃×2hrの熱処理を施して最外層にCu−35Zn合金層を形成すると共に、その内層にCu−46Zn合金層を形成した後、圧延ロールによる圧延加工を施し、電極線母材を作製した。この母材を複数台の伸線ダイスに通して冷間で縮径加工を施し、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製した。
【0055】
(実施例3)
線径がφ4.0mmでCu−0.19Sn−0.2Inからなる心材を、450℃の溶融亜鉛浴中に数回通過させて厚さ0.2mmのZn層を心材に被覆する。その後、厚さ0.50mmの黄銅テープ(Cu−35Zn)を縦添えし、その突き合わせ部を溶接して線径がφ5.4mmの被覆線材を形成する。この被覆線材に、600℃×4hrの熱処理を施してCu−46Zn合金層を形成し、その外周に厚さ0.1mmのZn層を被覆した後、圧延ロールによる圧延加工を施し、電極線母材を作製した。この母材を複数台の伸線ダイスに通して冷間で縮径加工を施し、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製した。
【0056】
(実施例4)
心材の組成がCu−0.16Zrである以外は実施例1と同様にし、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製した。
【0057】
(実施例5)
心材の組成がCu−0.16Zrである以外は実施例2と同様にし、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製した。
【0058】
(実施例6)
心材の組成がCu−0.16Zrである以外は実施例3と同様にし、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製した。
【0059】
(実施例7)
心材の組成がCu−10Znである以外は実施例1と同様にし、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製した。
【0060】
(実施例8)
心材の組成がCu−10Znである以外は実施例2と同様にし、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製した。
【0061】
(実施例9)
心材の組成がCu−10Znである以外は実施例3と同様にし、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製した。
【0062】
(比較例1)
線径がφ4.0mmでCu−0.19Sn−0.2Inからなる心材に、厚さ0.80mmの黄銅テープ(Cu−35Zn)を縦添えし、その突き合わせ部を溶接して線径がφ5.6mmの被覆線材を形成する。この被覆線材にZnを被覆し、850℃の加熱炉中を通過させる熱処理を施してCu−43Zn合金層を形成した後、圧延ロールによる圧延加工を施し、電極線母材を作製した。この母材を複数台の伸線ダイスに通して冷間で縮径加工を施し、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製した。
【0063】
(比較例2)
線径がφ4.0mmでCu−0.19Sn−0.2Inからなる心材に、厚さ0.80mmの黄銅テープ(Cu−35Zn)を縦添えし、その突き合わせ部を溶接して線径がφ5.6mmの被覆線材を形成する。この被覆線材にZnを被覆し、850℃の加熱炉中を通過させる熱処理を施してCu−43Zn合金層を形成し、さらにその外周に厚さ0.1mmのZn層を被覆した後、圧延ロールによる圧延加工を施し、電極線母材を作製した。この母材を複数台の伸線ダイスに通して冷間で縮径加工を施し、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製した。
【0064】
(従来例1)
連続鋳造機を用いて、Cu−35Zn合金からなる電極線母材を作製した。この母材を複数台の伸線ダイスに通して冷間で縮径加工を施し、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製した。
【0065】
(従来例2)
電極線母材の組成がCu−40Znである以外は従来例1と同様にし、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製した。
【0066】
実施例1〜9、比較例1,2、従来例1,2における各電極線の、心材組成(重量%)、被覆層の組成(重量%)、伸線加工性、放電加工試験時の放電加工速度および生産性を表1に示す。
【0067】
ここで、伸線加工性は容易なものを○、やや難があるものを△とした。放電加工速度は、従来例1における電極線の放電加工速度を1.00としたの相対速度で評価した。生産性は、比較例1における電極線の生産性を1.0としたときの相対値で評価した。
【0068】
【表1】
【0069】
表1に示すように、実施例1〜3の各電極線の放電加工速度は、1.31、1.29、1.43であり、従来例1,2に比べて約30〜40%も高速であった。比較例1,2に比べても約10〜20%も高速であった。実施例1〜3の各電極線は、生産性についても、比較例1に比べて3〜6倍も高い生産性を示し、比較例2に比べて5〜10倍もの高い生産性を示した。
【0070】
また、実施例1〜3の各電極線についてより詳細に評価すると、実施例3の電極線は、熱処理後のCu−Zn合金層の外周に、さらに最外層となるZn層が形成されているので、実施例1,2に比べると放電加工速度が最も高速であった。
実施例2の電極線は、熱処理後のCu−Zn合金層が高Zn濃度の内層と低Zn濃度の外層からなっており、実施例1,3に比べると熱処理時間を半分にできるので、生産性が最も高かった。実施例1の電極線は、熱処理後のCu−Zn合金層が均一な高Zn濃度の層のみなので、実施例2,3に比べると伸線加工性がやや劣るが、放電加工速度および生産性は実施例2と実施例3の中間の値を示した。
【0071】
これに対して比較例1の電極線は、熱処理時の最外層がZn層となっており、熱処理中にZnが蒸発してしまうので、熱処理後のCu−Zn合金層のZn濃度を所望濃度まで高くすることができず、しかも電極線の引張強度が低いので、放電加工速度が1.21しか得られず、生産性も低い。
【0072】
比較例2の電極線は、比較例1と同様の理由から放電加工速度が1.20しか得られない。この電極線は最外層にZn層が形成されているので、比較例1に比べると伸線加工性が容易であるものの、生産性が0.6とさらに低下する。
【0073】
また、実施例1〜3における心材の組成を変えた実施例4〜6、および実施例7〜9の各電極線についても、従来例1,2および比較例1,2に比べて、実施例1〜3とほぼ同等の放電加工速度、生産性および伸線加工性が得られた。実施例4〜6および実施例7〜9における各特性の比較についても同様である。
【0074】
したがって、本発明に係るワイヤ放電加工用電極線の製造方法は、優れた放電加工性及び伸線加工性を有するワイヤ放電加工用電極線を低コストで製造できることがわかる。
【0075】
【発明の効果】
以上説明したことから明らかなように、本発明によれば、次のような優れた効果を発揮する。
【0076】
(1)優れた放電加工性及び伸線加工性を有するワイヤ放電加工用電極線を低コストで製造できる。
【0077】
(2)熱処理前の被覆線材の最外層がCu−Zn合金層なので、熱処理時にZn層からのZnの蒸発を確実に防止でき、均一な所望のZn濃度を有するCu−Zn合金層を確実に得ることができる。
【0078】
(3)熱処理前の被覆線材をボビンなどに巻きつけて線材同士が接触している状態で一括で熱処理しても、線材同士の融着を確実に防止できるので、効率的な一括した熱処理が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る製造方法の一工程を示す横断面図である。
【図2】熱処理前の被覆線材の横断面図である。
【図3】本発明に係る製造方法を用いて製造したワイヤ放電加工用電極線の一例を示す横断面図である。
【図4】本発明に係る製造方法を用いて製造したワイヤ放電加工用電極線の他の一例を示す横断面図である。
【図5】本発明に係る製造方法を用いて製造したワイヤ放電加工用電極線の別例を示す横断面図である。
【図6】本発明に係る製造方法を用いて製造したワイヤ放電加工用電極線のさらに別例を示す横断面図である。
【符号の説明】
11 Cu−Zn合金条
20 被覆線材
21 Zn層
22 Cu−Zn合金層
31 心材
Claims (7)
- CuまたはCu合金からなる心材の外周に、めっきによってZn層を形成し、そのZn層の外周にCu−Zn合金層を被覆して被覆線材を形成し、その直後、あるいは上記被覆線材に縮径加工を施した後に、その被覆線材に熱処理を施して上記Zn層中のZnを上記Cu−Zn合金層中に拡散させ、高Zn濃度のCu−Zn合金層を形成することを特徴とするワイヤ放電加工用電極線の製造方法。
- CuまたはCu合金からなる心材の外周に、めっきによってZn層を形成し、そのZn層の外周にCu−Zn合金テープを縦添えし、そのCu−Zn合金テープの突き合わせ部を溶接して被覆線材を形成し、その直後、あるいは上記被覆線材に縮径加工を施した後に、その被覆線材に熱処理を施して上記Zn層中のZnを上記Cu−Zn層中に拡散させ、高Zn濃度のCu−Zn合金層を形成することを特徴とするワイヤ放電加工用電極線の製造方法。
- 上記心材を430〜480℃の溶融亜鉛浴中に少なくとも一回浸しながら通過させ、あるいは上記心材に電気亜鉛めっきを施して上記心材の外周にZn層を形成する請求項1または2記載のワイヤ放電加工用電極線の製造方法。
- 上記心材を構成する合金として、
Cu−0.02〜0.2重量%Zr合金、
Cu−0.15〜0.25重量%Sn−0.15〜0.25重量%In合金、
Cu−0.15〜0.70重量%Sn合金、
Cu−5〜30重量%Zn合金、
Cu−5〜30重量%Zn合金に、Zr、Cr、Si、Mg、Al、Fe、P、Ni、Ag、Snの元素のうちの少なくとも1種を添加した合金、
Fe系Cu合金、
またはCu−0.2〜20重量%Ag合金
のうちいずれかを用いる請求項1〜3いずれかに記載のワイヤ放電加工用電極線の製造方法。 - 上記熱処理後のCu−Zn合金層のZn濃度が38〜50重量%となるように、上記被覆線材に熱処理を施す請求項1〜4いずれかに記載のワイヤ放電加工用電極線の製造方法。
- 上記熱処理後のCu−Zn合金層のZn濃度が外層で38重量%未満であり、その内層で38〜50重量%となるように、上記被覆線材に熱処理を施す請求項1〜5いずれかに記載のワイヤ放電加工用電極線の製造方法。
- 上記熱処理後のCu−Zn合金層の外周に、さらにZn層を形成する請求項1〜6いずれかに記載のワイヤ放電加工用電極線の製造方法。
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