JP2004181596A - ワイヤ放電加工用電極線の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】拡散熱処理時間を従来と比べて著しく短縮でき、しかも放電加工性及び伸線加工性が良好なワイヤ放電加工用電極線を安価に製造可能な製造方法を提供することにある。
【解決手段】CuまたはCu合金からなる心材11の外周に、Zn層とCu−Zn合金層とを交互に積層してなる被覆層を被覆して被覆線材を形成し、その直後、あるいは上記被覆線材に圧延加工を施した後に、その被覆線材に熱処理を施して上記各Zn層中のZnを上記各Cu−Zn合金層中に拡散させ、上記被覆層を均一な高Zn濃度のCu−Zn合金層12にする製造方法である。
【選択図】 図1
【解決手段】CuまたはCu合金からなる心材11の外周に、Zn層とCu−Zn合金層とを交互に積層してなる被覆層を被覆して被覆線材を形成し、その直後、あるいは上記被覆線材に圧延加工を施した後に、その被覆線材に熱処理を施して上記各Zn層中のZnを上記各Cu−Zn合金層中に拡散させ、上記被覆層を均一な高Zn濃度のCu−Zn合金層12にする製造方法である。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ワイヤ放電加工用電極線の製造方法に係り、特に、被覆型のワイヤ放電加工用電極線の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ワイヤ放電加工用電極線は、通電しながら走行させることで、電極線と被加工物間の放電による溶融作用を利用して、被加工物を加工するワイヤ放電加工に使用される電極線である。
【0003】
一般的なワイヤ放電加工用電極線として、Cu−Zn合金単体からなる電極線が活用されている。この電極線は、加工速度、加工精度などの放電特性に優れていると共に、コスト的にも有利な特質を有している。このタイプの電極線の放電加工速度を向上させるには、電極線をZn濃度が高いCu−Zn合金で形成することが望ましい。しかしながら、Cu−Zn合金中のZn濃度が40重量%を超えると、伸線加工性が著しく低下し、電極線の製造が困難となる。このため、このタイプの電極線の構成材として、一般的に、32〜36重量%のZnを含むCu−Zn合金、すなわちCu−35重量%Zn合金(65/35黄銅線)が使用されてきた。
【0004】
近年、ワイヤ放電加工用電極線の高速加工性が重視されるようになっている。このため、例えば、Cu−2.0重量%Sn合金、Cu−0.3重量%Sn合金などのCu合金からなる心材の周りに、従来よりもZn濃度が高いCu−Zn合金層を被覆した被覆型の放電加工用電極線が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
この特開平5−339664号公報に記載された被覆型の放電加工用電極線の製造方法は、心材の周りに、Cu−38〜49重量%ZnからなるCu−Zn合金層を押出被覆するものである。
【0006】
また、被覆型の放電加工用電極線の他の製造方法としては、例えば、心材の周りにZn層を被覆してなる被覆線材を加熱炉中に通して拡散熱処理を施すことで、電極線の表層にZn濃度の高いCu−Zn合金層を形成する方法が挙げられ、この他にも種々の方法が提案されている。
【0007】
【特許文献1】
特開平5−339664号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特開平5−339664号公報に記載の製造方法では、Cu−Zn合金層のZn濃度が38〜49重量%と高いことから、Cu−Zn合金層の単一層を形成するには、熱間押出被覆を行う必要があり、製造コストが非常に高くなるという問題があった。また、Cu−Zn合金層のZn濃度が38〜49重量%と高いことから、伸線加工性が著しく悪く、その結果、生産性が良好でないという問題があった。
【0009】
また、後者の拡散熱処理による製造方法では、拡散熱処理に非常に長い時間を要することから、生産性が低いという問題があった。
【0010】
以上の事情を考慮して創案された本発明の目的は、拡散熱処理時間を従来と比べて著しく短縮でき、しかも放電加工性及び伸線加工性が良好なワイヤ放電加工用電極線を安価に製造可能な製造方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、請求項1の発明は、CuまたはCu合金からなる心材の外周に、Zn層とCu−Zn合金層とを交互に積層してなる被覆層を被覆して被覆線材を形成し、その直後、あるいは上記被覆線材に縮径加工を施した後に、その被覆線材に熱処理を施して上記各Zn層中のZnを上記各Cu−Zn合金層中に拡散させ、上記被覆層を均一な高Zn濃度のCu−Zn合金層にするワイヤ放電加工用電極線の製造方法である。
【0012】
請求項2の発明は、CuまたはCu合金からなる心材の外周に、上記Zn層としてのZn条と、上記Cu−Zn合金層としてのCu−Zn合金条とを交互に積層した積層体を圧延してなる積層テープを縦添えし、その積層テープの突き合わせ部を溶接して被覆線材を形成する請求項1記載のワイヤ放電加工用電極線の製造方法である。
【0013】
請求項3の発明は、上記被覆層の最外層がCu−Zn合金層となるように、Zn層とCu−Zn合金層とを交互に積層する請求項1または2記載のワイヤ放電加工用電極線の製造方法である。
【0014】
請求項4の発明は、上記被覆層を四層以上となるように形成する請求項1〜3いずれかに記載のワイヤ放電加工用電極線の製造方法である。
【0015】
請求項5の発明は、上記Zn層を純Znで形成し、上記Cu−Zn合金層をCu−32〜40重量%Zn合金で形成する請求項1〜4いずれかに記載のワイヤ放電加工用電極線の製造方法である。
【0016】
請求項6の発明は、上記心材を構成する合金として、
Cu−0.02〜0.2重量%Zr合金、
Cu−0.15〜0.25重量%Sn−0.15〜0.25重量%In合金、
Cu−0.15〜0.70重量%Sn合金、
Cu−5〜30重量%Zn合金、
Cu−0.2〜20重量%Ag合金、
Cu−5〜30重量%Zn合金に、Zr、Cr、Si、Mg、Al、Fe、P、Ni、Ag、Snの元素のうちの少なくとも1種を添加した合金、
またはFe系Cu合金
のうちいずれかを用いる請求項1〜5いずれかに記載のワイヤ放電加工用電極線の製造方法である。
【0017】
請求項7の発明は、上記被覆層を、その層厚と電極線全体の外径との比が0.06〜0.2となるように形成する請求項1〜6いずれかに記載のワイヤ放電加工用電極線の製造方法である。
【0018】
請求項8の発明は、上記被覆層を、その全体のZn濃度が43〜49重量%となるように形成する請求項1〜7いずれかに記載のワイヤ放電加工用電極線の製造方法である。
【0019】
これによって、拡散熱処理時間を従来と比べて著しく短縮でき、しかも内層の心材は導電率が高く、外層のCu−Zn合金層は均一でZn濃度が高く、かつ、伸線加工性が良好となるので、放電加工性及び伸線加工性が良好なワイヤ放電加工用電極線を安価に製造できる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適一実施の形態を添付図面に基いて説明する。
【0021】
図1は、本発明の好適実施の形態であるワイヤ放電加工用電極線の製造方法を用いて製造したワイヤ放電加工用電極線の横断面図である。
【0022】
図1に示すように、本発明に係るワイヤ放電加工用電極線の製造方法は、CuまたはCu合金からなる心材11の外周に、被覆層を被覆して被覆線材を形成し(後述する図3参照)、その直後、あるいは被覆線材に縮径加工を施した後に、その被覆線材に高温の熱処理を施し、短時間で被覆層を均一な高Zn濃度のCu−合金層12にして二層構造のワイヤ放電加工用電極線10を製造する方法である。電極線10は、さらに縮径加工(冷間伸線加工)が施されて所望径の最終製品になる。
【0023】
より詳細に説明すると、心材11を構成するCu合金としては、被覆型のワイヤ放電加工用電極線の心材に慣用的に用いられているものであれば特に限定するものではない。
【0024】
例えば、
Cu−0.02〜0.2重量%Zr合金、
Cu−0.15〜0.25重量%Sn−0.15〜0.25重量%In合金、
Cu−0.15〜0.70重量%Sn合金、
Cu−5〜30重量%Zn合金、
Cu−0.2〜20重量%Ag合金、
Cu−5〜30重量%Zn合金に、Zr、Cr、Si、Mg、Al、Fe、P、Ni、Ag、Snの元素のうちの少なくとも1種を添加した合金、
またはFe系Cu合金
のうちいずれかを用いればよい。
【0025】
心材11としてこのようなCu合金を用いたのは、上記Cu合金が高い導電率、高い引張強度及び高温耐熱性を有するからである。
【0026】
被覆層は、Zn層とCu−Zn合金層とを交互に積層してなる層である。具体的には、図2に示すように、心材11の外周に、Zn層としてのZn条21と、Cu−Zn合金層としてのCu−Zn合金条22とを交互に四層(好ましくは六層)に積層した積層体を圧延してなる積層テープ23(図3においては被覆層31となる)を、心材11の長さ方向に沿って縦添えする。
【0027】
このとき、積層テープ23は、心材11の外周に縦添えされた際、最外層がCu−Zn合金条22となるように、Zn条21とCu−Zn合金条22とが交互に四層に積層されている。
【0028】
最外層がCu−Zn合金条22となるようにしたのは、最外層がZn条21になっていると、拡散熱処理時にZnが蒸発してしまい、所望のZn濃度を得ることができないので、これを防止するためである。
【0029】
本実施の形態では、Zn層とCu−Zn合金層とを交互に四層に積層した場合について説明するが、層数は四層(好ましくは六層)以上であればよい。ここで、偶数層に積層する際の積層順序は、Zn層、…Cu−Zn合金層とする。また、奇数層に積層する際の積層順序は、Cu−Zn合金層、Zn層、…Cu−Zn合金層とする。
【0030】
層数を四層(好ましくは六層)以上にするのは、Zn層とCu−Zn合金層とを交互に多層積層することにより、拡散熱処理時にZnを拡散させるために必要な拡散距離を短くでき、その結果、拡散熱処理時間を大幅に短縮できるためである。
【0031】
Zn条21は純Znで構成され、また、Cu−Zn合金条22は、Cu−32〜40重量%Zn合金(好ましくはCu−32〜38重量%Zn合金、特に好ましくはCu−35重量%前後Zn合金)で構成されている。
【0032】
Cu−Zn合金条21のZn濃度を32〜40重量%としたのは、Zn濃度が32重量%未満だと放電加工速度を向上させる効果が十分に得られないためであり、Zn濃度が40重量%を超えると伸線加工性が著しく低下するためである。
【0033】
図2に示すように、心材11の外周に積層テープ23を縦添えした後、積層テープ23の突き合わせ部24に溶接処理を施す。すると、図3に示すように、心材11の外周にZn層(Zn条21)とCu−Zn合金層(Cu−Zn合金条22)とが交互に四層に積層してなる被覆層31と、突き合わせ溶接部32とを有する被覆線材30が形成される。
【0034】
本実施の形態では、被覆層31を、被覆層31全体のZn濃度が43〜49重量%(好ましくは45〜49重量%、特に好ましくは48重量%前後)となるようにしている。
【0035】
また、被覆層31の層厚tと被覆線材30(図1では電極線10)全体の外径Dとの比(t/D)は、0.06〜0.2(好ましくは0.10〜0.16、特に好ましくは0.14前後)となるようにしている。被覆層31全体のZn濃度及びt/Dは、Zn層およびCu−Zn合金層の各層厚を調整することで、自在に調整することができる。
【0036】
ここで、被覆層31全体のZn濃度を43〜49重量%と規定したのは、Zn濃度が43重量%未満だと放電加工速度を向上させる効果が十分に得られないためであり、Zn濃度が49重量%を超えるとZnの占める割合が多くなり、電極線10自体の引張強度が低下するためである。
【0037】
また、層厚tと外径Dとの比t/Dを0.06〜0.2と規定したのは、t/Dが0.06%未満だと放電加工時に被覆層31が瞬時に消耗してしまい、放電加工速度を向上させる効果が十分に得られないためである。また、t/Dが0.2を超えると電極線10全体に占める被覆層31の断面積割合が増加することから、電極線10自体の引張強度の低下及び導電率の低下を招き、放電加工速度の向上が望めないためである。
【0038】
その後、被覆線材30の微小隙間Sを無くすべく、被覆線材30に圧延ロールによる圧延加工を施し、心材11と積層テープ23とを密着させる。この圧延加工は次工程である熱処理後に行ってもよい。
【0039】
被覆線材30には、さらに熱処理が施され、各Zn層(各Zn条21)中のZnを各Cu−Zn合金層(各Cu−Zn条22)中に拡散させると共に、突き合わせ溶接部32及びその近傍の均一化処理を行う。
【0040】
熱処理条件(熱処理温度×熱処理時間)は、例えば、300〜700℃×0.5〜4hr、好ましくは400〜600℃×1〜3hr、特に好ましくは450〜550℃×1.5〜2.5hrとなるようにしている。
【0041】
熱処理条件を上記のように限定したのは、上記の熱処理温度より低かったり、熱処理時間が短かったりすると、Znの拡散が十分に行われないので、均一な放電が得られず、かつ伸線性が低下するためである。また、上記の熱処理温度より高かったり、熱処理時間が長かったりすると、Znが蒸発してしまうので、所望のZn濃度を得ることができず、放電加工速度の向上が期待できないからである。
【0042】
その結果、図1に示したように、心材11の外周に均一な高Zn濃度のCu−Zn合金層12が形成されたワイヤ放電加工用電極線10が得られる。得られた電極線10を伸線ダイスに通し、電極線10に適宜縮径加工(冷間伸線加工)を施して所望の線径に形成することで、最終製品が得られる。
【0043】
ここで、縮径加工によって所望の線径が得られるまで、電極線10を複数台の伸線ダイスに通す。また、縮径加工の減面率は、75〜95%以上、好ましくは75〜98%以上、特に好ましくは75〜99.5%以上である。
【0044】
なお、本発明に係る製造方法においては、熱処理後に縮径加工を行う場合について説明を行ったが、熱処理前の被覆線材30に対して縮径加工を行ってもよく、その場合、縮径後の被覆線材30に熱処理を施す。
【0045】
従来、高Zn濃度、例えば、Zn濃度が40重量%以上のCu−Zn合金からなるワイヤ放電加工用電極線は、高速の放電加工が可能である(優れた放電加工性を有する)ものの、伸線加工性が悪く、その製造に関しても、コストが高い熱間押出被覆による方法や、長時間の拡散熱処理を行う方法を用いていたことから、これまで実用に供し得なかった。
【0046】
そこで、本発明に係る製造方法では、Cu又はCu合金からなる心材11の外周に、Zn層とCu−Zn合金層とを交互に複数層に積層してなる被覆層31を被覆して被覆線材30を形成した後、その被覆線材30に高温の熱処理を施すことにより、被覆層31を、短時間で電極線10の外層である均一な高Zn濃度のCu−Zn合金層12にしているので、拡散熱処理時間を従来と比べて著しく短縮できる。
【0047】
電極線10の内層である心材11は、Cu又はCu合金、好ましくは高い導電率、高い引張強度、高温耐熱性を有するCu合金で構成しているため、放電加工速度の向上を図ることができる。
【0048】
また、被覆層31は、導電率及び引張強度の低下を避けるべく、全体のZn濃度が43〜49重量%となるように、かつ、t/Dが0.06〜0.2となるように調整しているため、十分な導電率及び引張強度を確保したまま放電加工速度の向上を図ることができる。また、被覆層31は、その最外層に、Zn層ではなく、伸線加工性が良好なCu−32〜40重量%Zn合金からなるCu−Zn合金層(図2および図3中ではCu−Zn合金条22)を配置形成していることから、被覆層31全体での伸線加工性は良好である。
【0049】
これらの結果、電極線10は、放電加工速度の向上(良好な放電加工性)と良好な伸線加工性の両方を図ることができる。
【0050】
また、電極線10は良好な伸線加工性を有していることから、伸線加工時(縮径加工時)において、熱間加工と比較して安価な冷間加工による伸線加工が可能となり、その結果、最終製品を安価に製造することが可能となる。
【0051】
以上、本発明の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、他にも種々のものが想定されることは言うまでもない。
【0052】
【実施例】
次に、本発明について、実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0053】
(試料1)
線径がφ4.0mmで、Cu−0.19Sn−0.2Inからなる心材に、純Zn条とCu−35重量%Zn合金条とを交互に四層に積層した積層体を圧延してなる積層テープを縦添えする。その後、積層テープの突き合わせ部に溶接処理を施し、線径がφ5.52mmの被覆線材を形成する。積層テープは、厚さ0.76mm、幅13mmであり、各純Zn層の層厚は0.08mm、各Cu−35重量%Zn合金層の層厚は0.3mmである。
【0054】
次に、この被覆線材に熱処理温度600℃で1hrの拡散処理を施した後、圧延ロールによる圧延加工を施し、電極線母材を作製した。この母材を複数台の伸線ダイスに通して冷間で減面率が75%の縮径加工を施し、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製した。
【0055】
(試料2)
心材の組成がCu−0.16Zrである以外は試料1と同様にし、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製した。
【0056】
(試料3)
心材の組成がCu−10Znである以外は試料1と同様にし、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製した。
【0057】
(試料4)
心材の組成がCu−5Agである以外は試料1と同様にし、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製した。
【0058】
(試料5)
線径がφ4.0mmで、Cu−0.19Sn−0.2Inからなる心材に、純Zn条とCu−35重量%Zn合金条とを二層に積層した積層体を圧延してなる積層テープを縦添えする。その後、積層テープの突き合わせ部に溶接処理を施し、線径がφ5.52mmの被覆線材を形成する。積層テープは、厚さ0.76mm、幅13mmであり、各純Zn層の層厚は0.16mm、Cu−35重量%Zn合金層の層厚は0.6mmである。それ以外は試料1と同様にし、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製した。
【0059】
(試料6)
被覆線材に熱処理温度600℃で4hrの拡散処理を施す以外は試料5と同様にし、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製した。
【0060】
試料1〜6における各電極線の、心材組成(重量%)、被覆層全体のZn濃度(重量%)、t/D、及び放電加工試験時の放電加工速度を表1に示す。
【0061】
ここで、t/Dは、被覆層の層厚tと電極線全体の外径Dとの比であるが、実際には積層テープの厚さと被覆線材の外径との比で代用した。また、放電加工速度は、後述する従来例1における電極線の放電加工速度を1.00とした時の相対速度で評価した。
【0062】
【表1】
【0063】
表1に示すように、試料5は伸線中に断線が生じてしまった。これは積層したZn条とCu−Zn合金条がそれぞれ一層なので、熱処理条件が600℃×1hrではZnの拡散が十分でなく、Zn濃度の非常に高い脆い合金層が形成されたことに起因する。
【0064】
また、試料6は熱処理条件が600℃×4hrなので、Zn拡散は十分であったものの、拡散時間が非常に長いので、生産効率が低下する結果となった。
【0065】
そこで、試料1〜4を実施例1〜4とし、その特性を以下に説明する比較例1〜4および従来例1と比較して評価した。
【0066】
(比較例1)
積層テープ全体の厚さが0.79mm(各純Zn層の層厚が0.025mm、各Cu−35重量%Zn合金層の層厚が0.37mm)、被覆線材の線径がφ5.58mmである以外は試料1(実施例1)と同様にし、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製した。
【0067】
(比較例2)
積層テープ全体の厚さが0.79mm(各純Zn層の層厚が0.125mm、各Cu−35重量%Zn合金層の層厚が0.27mm)、被覆線材の線径がφ5.58mmである以外は実施例1と同様にし、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製した。
【0068】
(比較例3)
積層テープ全体の厚さが0.24mm(各純Zn層の層厚が0.02mm、各Cu−35重量%Zn合金層の層厚が0.1mm)、被覆線材の線径がφ4.48mmである以外は実施例1と同様にし、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製した。
【0069】
(比較例4)
積層テープ全体の厚さが1.5mm(各純Zn層の層厚が0.15mm、各Cu−35重量%Zn合金層の層厚が0.6mm)、被覆線材の線径がφ7.0mmである以外は実施例1と同様にし、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製した。
【0070】
(従来例1)
連続鋳造機を用いて、Cu−35重量%Zn合金からなる電極線母材を作製した。この母材を複数台の伸線ダイスに通して冷間で縮径加工を施し、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製した。
【0071】
実施例1〜4、比較例1〜4および従来例1の各特性を表1と同様にして表2に示す。
【0072】
【表2】
【0073】
表2に示すように、実施例1〜4の各電極線の放電加工速度は1.32、1.35、1.25、1.36であり、比較例1と比べて放電加工速度が30%前後(25〜36%)も高速であった。また、各電極線は、いずれも伸線加工性が容易であった。
【0074】
これに対して、比較例1の電極線は、被覆層全体のZn濃度が規定範囲(43〜49重量%)より低い39重量%であるため、放電加工速度を向上させる効果が十分に得られなかった。このため、放電加工速度が1.21しか得られず、生産性及び製造コストを考慮すると、放電加工性はあまり良好とは言えなかった。
【0075】
また、比較例2の電極線は、被覆層全体のZn濃度が規定範囲(43〜49重量%)より高い55重量%であるため、電極線全体において十分な引張強度が得られなかった。このため、放電加工速度が1.15しか得られず、生産性及び製造コストを考慮すると、放電加工性はあまり良好とは言えなかった。
【0076】
また、比較例3の電極線は、t/Dが規定範囲(0.06〜0.2)より小さい0.05であり、被覆層の層厚が薄すぎるため、放電加工速度を向上させる効果が十分に得られず、放電加工速度は1.10であった。
【0077】
また、比較例4の電極線は、t/Dが規定範囲(0.06〜0.2)より大きい0.21であり、被覆層の層厚が厚すぎるため、電極線全体の引張強度が低かった。このため、放電加工時に断線が生じてしまい、放電加工試験を行うことができなかった。
【0078】
なお、伸線性は、実施例1〜4、比較例1〜4および従来例1のいずれについても良好であった。
【0079】
【発明の効果】
以上要するに本発明によれば、次のような優れた効果を発揮する。
(1)拡散熱処理時間を従来と比べて著しく短縮できる。
(2)内層の心材は導電率が高く、外層のCu−Zn合金層は均一でZn濃度が高く、かつ、伸線加工性が良好となるので、放電加工性及び伸線加工性が良好なワイヤ放電加工用電極線を安価に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る製造方法を用いて製造したワイヤ放電加工用電極線の横断面図である。
【図2】心材に積層テープを縦添えした状態を示す横断面図である。
【図3】熱処理前の被覆線材の横断面図である。
【符号の説明】
10 ワイヤ放電加工用電極線
11 心材
12 高Zn濃度のCu−Zn合金層
【発明の属する技術分野】
本発明は、ワイヤ放電加工用電極線の製造方法に係り、特に、被覆型のワイヤ放電加工用電極線の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ワイヤ放電加工用電極線は、通電しながら走行させることで、電極線と被加工物間の放電による溶融作用を利用して、被加工物を加工するワイヤ放電加工に使用される電極線である。
【0003】
一般的なワイヤ放電加工用電極線として、Cu−Zn合金単体からなる電極線が活用されている。この電極線は、加工速度、加工精度などの放電特性に優れていると共に、コスト的にも有利な特質を有している。このタイプの電極線の放電加工速度を向上させるには、電極線をZn濃度が高いCu−Zn合金で形成することが望ましい。しかしながら、Cu−Zn合金中のZn濃度が40重量%を超えると、伸線加工性が著しく低下し、電極線の製造が困難となる。このため、このタイプの電極線の構成材として、一般的に、32〜36重量%のZnを含むCu−Zn合金、すなわちCu−35重量%Zn合金(65/35黄銅線)が使用されてきた。
【0004】
近年、ワイヤ放電加工用電極線の高速加工性が重視されるようになっている。このため、例えば、Cu−2.0重量%Sn合金、Cu−0.3重量%Sn合金などのCu合金からなる心材の周りに、従来よりもZn濃度が高いCu−Zn合金層を被覆した被覆型の放電加工用電極線が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
この特開平5−339664号公報に記載された被覆型の放電加工用電極線の製造方法は、心材の周りに、Cu−38〜49重量%ZnからなるCu−Zn合金層を押出被覆するものである。
【0006】
また、被覆型の放電加工用電極線の他の製造方法としては、例えば、心材の周りにZn層を被覆してなる被覆線材を加熱炉中に通して拡散熱処理を施すことで、電極線の表層にZn濃度の高いCu−Zn合金層を形成する方法が挙げられ、この他にも種々の方法が提案されている。
【0007】
【特許文献1】
特開平5−339664号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特開平5−339664号公報に記載の製造方法では、Cu−Zn合金層のZn濃度が38〜49重量%と高いことから、Cu−Zn合金層の単一層を形成するには、熱間押出被覆を行う必要があり、製造コストが非常に高くなるという問題があった。また、Cu−Zn合金層のZn濃度が38〜49重量%と高いことから、伸線加工性が著しく悪く、その結果、生産性が良好でないという問題があった。
【0009】
また、後者の拡散熱処理による製造方法では、拡散熱処理に非常に長い時間を要することから、生産性が低いという問題があった。
【0010】
以上の事情を考慮して創案された本発明の目的は、拡散熱処理時間を従来と比べて著しく短縮でき、しかも放電加工性及び伸線加工性が良好なワイヤ放電加工用電極線を安価に製造可能な製造方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、請求項1の発明は、CuまたはCu合金からなる心材の外周に、Zn層とCu−Zn合金層とを交互に積層してなる被覆層を被覆して被覆線材を形成し、その直後、あるいは上記被覆線材に縮径加工を施した後に、その被覆線材に熱処理を施して上記各Zn層中のZnを上記各Cu−Zn合金層中に拡散させ、上記被覆層を均一な高Zn濃度のCu−Zn合金層にするワイヤ放電加工用電極線の製造方法である。
【0012】
請求項2の発明は、CuまたはCu合金からなる心材の外周に、上記Zn層としてのZn条と、上記Cu−Zn合金層としてのCu−Zn合金条とを交互に積層した積層体を圧延してなる積層テープを縦添えし、その積層テープの突き合わせ部を溶接して被覆線材を形成する請求項1記載のワイヤ放電加工用電極線の製造方法である。
【0013】
請求項3の発明は、上記被覆層の最外層がCu−Zn合金層となるように、Zn層とCu−Zn合金層とを交互に積層する請求項1または2記載のワイヤ放電加工用電極線の製造方法である。
【0014】
請求項4の発明は、上記被覆層を四層以上となるように形成する請求項1〜3いずれかに記載のワイヤ放電加工用電極線の製造方法である。
【0015】
請求項5の発明は、上記Zn層を純Znで形成し、上記Cu−Zn合金層をCu−32〜40重量%Zn合金で形成する請求項1〜4いずれかに記載のワイヤ放電加工用電極線の製造方法である。
【0016】
請求項6の発明は、上記心材を構成する合金として、
Cu−0.02〜0.2重量%Zr合金、
Cu−0.15〜0.25重量%Sn−0.15〜0.25重量%In合金、
Cu−0.15〜0.70重量%Sn合金、
Cu−5〜30重量%Zn合金、
Cu−0.2〜20重量%Ag合金、
Cu−5〜30重量%Zn合金に、Zr、Cr、Si、Mg、Al、Fe、P、Ni、Ag、Snの元素のうちの少なくとも1種を添加した合金、
またはFe系Cu合金
のうちいずれかを用いる請求項1〜5いずれかに記載のワイヤ放電加工用電極線の製造方法である。
【0017】
請求項7の発明は、上記被覆層を、その層厚と電極線全体の外径との比が0.06〜0.2となるように形成する請求項1〜6いずれかに記載のワイヤ放電加工用電極線の製造方法である。
【0018】
請求項8の発明は、上記被覆層を、その全体のZn濃度が43〜49重量%となるように形成する請求項1〜7いずれかに記載のワイヤ放電加工用電極線の製造方法である。
【0019】
これによって、拡散熱処理時間を従来と比べて著しく短縮でき、しかも内層の心材は導電率が高く、外層のCu−Zn合金層は均一でZn濃度が高く、かつ、伸線加工性が良好となるので、放電加工性及び伸線加工性が良好なワイヤ放電加工用電極線を安価に製造できる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適一実施の形態を添付図面に基いて説明する。
【0021】
図1は、本発明の好適実施の形態であるワイヤ放電加工用電極線の製造方法を用いて製造したワイヤ放電加工用電極線の横断面図である。
【0022】
図1に示すように、本発明に係るワイヤ放電加工用電極線の製造方法は、CuまたはCu合金からなる心材11の外周に、被覆層を被覆して被覆線材を形成し(後述する図3参照)、その直後、あるいは被覆線材に縮径加工を施した後に、その被覆線材に高温の熱処理を施し、短時間で被覆層を均一な高Zn濃度のCu−合金層12にして二層構造のワイヤ放電加工用電極線10を製造する方法である。電極線10は、さらに縮径加工(冷間伸線加工)が施されて所望径の最終製品になる。
【0023】
より詳細に説明すると、心材11を構成するCu合金としては、被覆型のワイヤ放電加工用電極線の心材に慣用的に用いられているものであれば特に限定するものではない。
【0024】
例えば、
Cu−0.02〜0.2重量%Zr合金、
Cu−0.15〜0.25重量%Sn−0.15〜0.25重量%In合金、
Cu−0.15〜0.70重量%Sn合金、
Cu−5〜30重量%Zn合金、
Cu−0.2〜20重量%Ag合金、
Cu−5〜30重量%Zn合金に、Zr、Cr、Si、Mg、Al、Fe、P、Ni、Ag、Snの元素のうちの少なくとも1種を添加した合金、
またはFe系Cu合金
のうちいずれかを用いればよい。
【0025】
心材11としてこのようなCu合金を用いたのは、上記Cu合金が高い導電率、高い引張強度及び高温耐熱性を有するからである。
【0026】
被覆層は、Zn層とCu−Zn合金層とを交互に積層してなる層である。具体的には、図2に示すように、心材11の外周に、Zn層としてのZn条21と、Cu−Zn合金層としてのCu−Zn合金条22とを交互に四層(好ましくは六層)に積層した積層体を圧延してなる積層テープ23(図3においては被覆層31となる)を、心材11の長さ方向に沿って縦添えする。
【0027】
このとき、積層テープ23は、心材11の外周に縦添えされた際、最外層がCu−Zn合金条22となるように、Zn条21とCu−Zn合金条22とが交互に四層に積層されている。
【0028】
最外層がCu−Zn合金条22となるようにしたのは、最外層がZn条21になっていると、拡散熱処理時にZnが蒸発してしまい、所望のZn濃度を得ることができないので、これを防止するためである。
【0029】
本実施の形態では、Zn層とCu−Zn合金層とを交互に四層に積層した場合について説明するが、層数は四層(好ましくは六層)以上であればよい。ここで、偶数層に積層する際の積層順序は、Zn層、…Cu−Zn合金層とする。また、奇数層に積層する際の積層順序は、Cu−Zn合金層、Zn層、…Cu−Zn合金層とする。
【0030】
層数を四層(好ましくは六層)以上にするのは、Zn層とCu−Zn合金層とを交互に多層積層することにより、拡散熱処理時にZnを拡散させるために必要な拡散距離を短くでき、その結果、拡散熱処理時間を大幅に短縮できるためである。
【0031】
Zn条21は純Znで構成され、また、Cu−Zn合金条22は、Cu−32〜40重量%Zn合金(好ましくはCu−32〜38重量%Zn合金、特に好ましくはCu−35重量%前後Zn合金)で構成されている。
【0032】
Cu−Zn合金条21のZn濃度を32〜40重量%としたのは、Zn濃度が32重量%未満だと放電加工速度を向上させる効果が十分に得られないためであり、Zn濃度が40重量%を超えると伸線加工性が著しく低下するためである。
【0033】
図2に示すように、心材11の外周に積層テープ23を縦添えした後、積層テープ23の突き合わせ部24に溶接処理を施す。すると、図3に示すように、心材11の外周にZn層(Zn条21)とCu−Zn合金層(Cu−Zn合金条22)とが交互に四層に積層してなる被覆層31と、突き合わせ溶接部32とを有する被覆線材30が形成される。
【0034】
本実施の形態では、被覆層31を、被覆層31全体のZn濃度が43〜49重量%(好ましくは45〜49重量%、特に好ましくは48重量%前後)となるようにしている。
【0035】
また、被覆層31の層厚tと被覆線材30(図1では電極線10)全体の外径Dとの比(t/D)は、0.06〜0.2(好ましくは0.10〜0.16、特に好ましくは0.14前後)となるようにしている。被覆層31全体のZn濃度及びt/Dは、Zn層およびCu−Zn合金層の各層厚を調整することで、自在に調整することができる。
【0036】
ここで、被覆層31全体のZn濃度を43〜49重量%と規定したのは、Zn濃度が43重量%未満だと放電加工速度を向上させる効果が十分に得られないためであり、Zn濃度が49重量%を超えるとZnの占める割合が多くなり、電極線10自体の引張強度が低下するためである。
【0037】
また、層厚tと外径Dとの比t/Dを0.06〜0.2と規定したのは、t/Dが0.06%未満だと放電加工時に被覆層31が瞬時に消耗してしまい、放電加工速度を向上させる効果が十分に得られないためである。また、t/Dが0.2を超えると電極線10全体に占める被覆層31の断面積割合が増加することから、電極線10自体の引張強度の低下及び導電率の低下を招き、放電加工速度の向上が望めないためである。
【0038】
その後、被覆線材30の微小隙間Sを無くすべく、被覆線材30に圧延ロールによる圧延加工を施し、心材11と積層テープ23とを密着させる。この圧延加工は次工程である熱処理後に行ってもよい。
【0039】
被覆線材30には、さらに熱処理が施され、各Zn層(各Zn条21)中のZnを各Cu−Zn合金層(各Cu−Zn条22)中に拡散させると共に、突き合わせ溶接部32及びその近傍の均一化処理を行う。
【0040】
熱処理条件(熱処理温度×熱処理時間)は、例えば、300〜700℃×0.5〜4hr、好ましくは400〜600℃×1〜3hr、特に好ましくは450〜550℃×1.5〜2.5hrとなるようにしている。
【0041】
熱処理条件を上記のように限定したのは、上記の熱処理温度より低かったり、熱処理時間が短かったりすると、Znの拡散が十分に行われないので、均一な放電が得られず、かつ伸線性が低下するためである。また、上記の熱処理温度より高かったり、熱処理時間が長かったりすると、Znが蒸発してしまうので、所望のZn濃度を得ることができず、放電加工速度の向上が期待できないからである。
【0042】
その結果、図1に示したように、心材11の外周に均一な高Zn濃度のCu−Zn合金層12が形成されたワイヤ放電加工用電極線10が得られる。得られた電極線10を伸線ダイスに通し、電極線10に適宜縮径加工(冷間伸線加工)を施して所望の線径に形成することで、最終製品が得られる。
【0043】
ここで、縮径加工によって所望の線径が得られるまで、電極線10を複数台の伸線ダイスに通す。また、縮径加工の減面率は、75〜95%以上、好ましくは75〜98%以上、特に好ましくは75〜99.5%以上である。
【0044】
なお、本発明に係る製造方法においては、熱処理後に縮径加工を行う場合について説明を行ったが、熱処理前の被覆線材30に対して縮径加工を行ってもよく、その場合、縮径後の被覆線材30に熱処理を施す。
【0045】
従来、高Zn濃度、例えば、Zn濃度が40重量%以上のCu−Zn合金からなるワイヤ放電加工用電極線は、高速の放電加工が可能である(優れた放電加工性を有する)ものの、伸線加工性が悪く、その製造に関しても、コストが高い熱間押出被覆による方法や、長時間の拡散熱処理を行う方法を用いていたことから、これまで実用に供し得なかった。
【0046】
そこで、本発明に係る製造方法では、Cu又はCu合金からなる心材11の外周に、Zn層とCu−Zn合金層とを交互に複数層に積層してなる被覆層31を被覆して被覆線材30を形成した後、その被覆線材30に高温の熱処理を施すことにより、被覆層31を、短時間で電極線10の外層である均一な高Zn濃度のCu−Zn合金層12にしているので、拡散熱処理時間を従来と比べて著しく短縮できる。
【0047】
電極線10の内層である心材11は、Cu又はCu合金、好ましくは高い導電率、高い引張強度、高温耐熱性を有するCu合金で構成しているため、放電加工速度の向上を図ることができる。
【0048】
また、被覆層31は、導電率及び引張強度の低下を避けるべく、全体のZn濃度が43〜49重量%となるように、かつ、t/Dが0.06〜0.2となるように調整しているため、十分な導電率及び引張強度を確保したまま放電加工速度の向上を図ることができる。また、被覆層31は、その最外層に、Zn層ではなく、伸線加工性が良好なCu−32〜40重量%Zn合金からなるCu−Zn合金層(図2および図3中ではCu−Zn合金条22)を配置形成していることから、被覆層31全体での伸線加工性は良好である。
【0049】
これらの結果、電極線10は、放電加工速度の向上(良好な放電加工性)と良好な伸線加工性の両方を図ることができる。
【0050】
また、電極線10は良好な伸線加工性を有していることから、伸線加工時(縮径加工時)において、熱間加工と比較して安価な冷間加工による伸線加工が可能となり、その結果、最終製品を安価に製造することが可能となる。
【0051】
以上、本発明の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、他にも種々のものが想定されることは言うまでもない。
【0052】
【実施例】
次に、本発明について、実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0053】
(試料1)
線径がφ4.0mmで、Cu−0.19Sn−0.2Inからなる心材に、純Zn条とCu−35重量%Zn合金条とを交互に四層に積層した積層体を圧延してなる積層テープを縦添えする。その後、積層テープの突き合わせ部に溶接処理を施し、線径がφ5.52mmの被覆線材を形成する。積層テープは、厚さ0.76mm、幅13mmであり、各純Zn層の層厚は0.08mm、各Cu−35重量%Zn合金層の層厚は0.3mmである。
【0054】
次に、この被覆線材に熱処理温度600℃で1hrの拡散処理を施した後、圧延ロールによる圧延加工を施し、電極線母材を作製した。この母材を複数台の伸線ダイスに通して冷間で減面率が75%の縮径加工を施し、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製した。
【0055】
(試料2)
心材の組成がCu−0.16Zrである以外は試料1と同様にし、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製した。
【0056】
(試料3)
心材の組成がCu−10Znである以外は試料1と同様にし、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製した。
【0057】
(試料4)
心材の組成がCu−5Agである以外は試料1と同様にし、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製した。
【0058】
(試料5)
線径がφ4.0mmで、Cu−0.19Sn−0.2Inからなる心材に、純Zn条とCu−35重量%Zn合金条とを二層に積層した積層体を圧延してなる積層テープを縦添えする。その後、積層テープの突き合わせ部に溶接処理を施し、線径がφ5.52mmの被覆線材を形成する。積層テープは、厚さ0.76mm、幅13mmであり、各純Zn層の層厚は0.16mm、Cu−35重量%Zn合金層の層厚は0.6mmである。それ以外は試料1と同様にし、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製した。
【0059】
(試料6)
被覆線材に熱処理温度600℃で4hrの拡散処理を施す以外は試料5と同様にし、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製した。
【0060】
試料1〜6における各電極線の、心材組成(重量%)、被覆層全体のZn濃度(重量%)、t/D、及び放電加工試験時の放電加工速度を表1に示す。
【0061】
ここで、t/Dは、被覆層の層厚tと電極線全体の外径Dとの比であるが、実際には積層テープの厚さと被覆線材の外径との比で代用した。また、放電加工速度は、後述する従来例1における電極線の放電加工速度を1.00とした時の相対速度で評価した。
【0062】
【表1】
【0063】
表1に示すように、試料5は伸線中に断線が生じてしまった。これは積層したZn条とCu−Zn合金条がそれぞれ一層なので、熱処理条件が600℃×1hrではZnの拡散が十分でなく、Zn濃度の非常に高い脆い合金層が形成されたことに起因する。
【0064】
また、試料6は熱処理条件が600℃×4hrなので、Zn拡散は十分であったものの、拡散時間が非常に長いので、生産効率が低下する結果となった。
【0065】
そこで、試料1〜4を実施例1〜4とし、その特性を以下に説明する比較例1〜4および従来例1と比較して評価した。
【0066】
(比較例1)
積層テープ全体の厚さが0.79mm(各純Zn層の層厚が0.025mm、各Cu−35重量%Zn合金層の層厚が0.37mm)、被覆線材の線径がφ5.58mmである以外は試料1(実施例1)と同様にし、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製した。
【0067】
(比較例2)
積層テープ全体の厚さが0.79mm(各純Zn層の層厚が0.125mm、各Cu−35重量%Zn合金層の層厚が0.27mm)、被覆線材の線径がφ5.58mmである以外は実施例1と同様にし、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製した。
【0068】
(比較例3)
積層テープ全体の厚さが0.24mm(各純Zn層の層厚が0.02mm、各Cu−35重量%Zn合金層の層厚が0.1mm)、被覆線材の線径がφ4.48mmである以外は実施例1と同様にし、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製した。
【0069】
(比較例4)
積層テープ全体の厚さが1.5mm(各純Zn層の層厚が0.15mm、各Cu−35重量%Zn合金層の層厚が0.6mm)、被覆線材の線径がφ7.0mmである以外は実施例1と同様にし、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製した。
【0070】
(従来例1)
連続鋳造機を用いて、Cu−35重量%Zn合金からなる電極線母材を作製した。この母材を複数台の伸線ダイスに通して冷間で縮径加工を施し、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製した。
【0071】
実施例1〜4、比較例1〜4および従来例1の各特性を表1と同様にして表2に示す。
【0072】
【表2】
【0073】
表2に示すように、実施例1〜4の各電極線の放電加工速度は1.32、1.35、1.25、1.36であり、比較例1と比べて放電加工速度が30%前後(25〜36%)も高速であった。また、各電極線は、いずれも伸線加工性が容易であった。
【0074】
これに対して、比較例1の電極線は、被覆層全体のZn濃度が規定範囲(43〜49重量%)より低い39重量%であるため、放電加工速度を向上させる効果が十分に得られなかった。このため、放電加工速度が1.21しか得られず、生産性及び製造コストを考慮すると、放電加工性はあまり良好とは言えなかった。
【0075】
また、比較例2の電極線は、被覆層全体のZn濃度が規定範囲(43〜49重量%)より高い55重量%であるため、電極線全体において十分な引張強度が得られなかった。このため、放電加工速度が1.15しか得られず、生産性及び製造コストを考慮すると、放電加工性はあまり良好とは言えなかった。
【0076】
また、比較例3の電極線は、t/Dが規定範囲(0.06〜0.2)より小さい0.05であり、被覆層の層厚が薄すぎるため、放電加工速度を向上させる効果が十分に得られず、放電加工速度は1.10であった。
【0077】
また、比較例4の電極線は、t/Dが規定範囲(0.06〜0.2)より大きい0.21であり、被覆層の層厚が厚すぎるため、電極線全体の引張強度が低かった。このため、放電加工時に断線が生じてしまい、放電加工試験を行うことができなかった。
【0078】
なお、伸線性は、実施例1〜4、比較例1〜4および従来例1のいずれについても良好であった。
【0079】
【発明の効果】
以上要するに本発明によれば、次のような優れた効果を発揮する。
(1)拡散熱処理時間を従来と比べて著しく短縮できる。
(2)内層の心材は導電率が高く、外層のCu−Zn合金層は均一でZn濃度が高く、かつ、伸線加工性が良好となるので、放電加工性及び伸線加工性が良好なワイヤ放電加工用電極線を安価に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る製造方法を用いて製造したワイヤ放電加工用電極線の横断面図である。
【図2】心材に積層テープを縦添えした状態を示す横断面図である。
【図3】熱処理前の被覆線材の横断面図である。
【符号の説明】
10 ワイヤ放電加工用電極線
11 心材
12 高Zn濃度のCu−Zn合金層
Claims (8)
- CuまたはCu合金からなる心材の外周に、Zn層とCu−Zn合金層とを交互に積層してなる被覆層を被覆して被覆線材を形成し、その直後、あるいは上記被覆線材に縮径加工を施した後に、その被覆線材に熱処理を施して上記各Zn層中のZnを上記各Cu−Zn合金層中に拡散させ、上記被覆層を均一な高Zn濃度のCu−Zn合金層にすることを特徴とするワイヤ放電加工用電極線の製造方法。
- CuまたはCu合金からなる心材の外周に、上記Zn層としてのZn条と、上記Cu−Zn合金層としてのCu−Zn合金条とを交互に積層した積層体を圧延してなる積層テープを縦添えし、その積層テープの突き合わせ部を溶接して被覆線材を形成する請求項1記載のワイヤ放電加工用電極線の製造方法。
- 上記被覆層の最外層がCu−Zn合金層となるように、Zn層とCu−Zn合金層とを交互に積層する請求項1または2記載のワイヤ放電加工用電極線の製造方法。
- 上記被覆層を四層以上となるように形成する請求項1〜3いずれかに記載のワイヤ放電加工用電極線の製造方法。
- 上記Zn層を純Znで形成し、上記Cu−Zn合金層をCu−32〜40重量%Zn合金で形成する請求項1〜4いずれかに記載のワイヤ放電加工用電極線の製造方法。
- 上記心材を構成する合金として、
Cu−0.02〜0.2重量%Zr合金、
Cu−0.15〜0.25重量%Sn−0.15〜0.25重量%In合金、
Cu−0.15〜0.70重量%Sn合金、
Cu−5〜30重量%Zn合金、
Cu−0.2〜20重量%Ag合金、
Cu−5〜30重量%Zn合金に、Zr、Cr、Si、Mg、Al、Fe、P、Ni、Ag、Snの元素のうちの少なくとも1種を添加した合金、
またはFe系Cu合金
のうちいずれかを用いる請求項1〜5いずれかに記載のワイヤ放電加工用電極線の製造方法。 - 上記被覆層を、その層厚と電極線全体の外径との比が0.06〜0.2となるように形成する請求項1〜6いずれかに記載のワイヤ放電加工用電極線の製造方法。
- 上記被覆層を、その全体のZn濃度が43〜49重量%となるように形成する請求項1〜7いずれかに記載のワイヤ放電加工用電極線の製造方法。
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JP (1) | JP2004181596A (ja) |
Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
KR101468203B1 (ko) * | 2011-04-22 | 2014-12-01 | 충남대학교산학협력단 | 고강도, 고탄성, 고내식성, 내마모성 및 고전도도를 동시에 구현하는 구리계 하이브리드 합금 및 그 제조방법 |
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2002
- 2002-12-05 JP JP2002353587A patent/JP2004181596A/ja active Pending
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
KR101468203B1 (ko) * | 2011-04-22 | 2014-12-01 | 충남대학교산학협력단 | 고강도, 고탄성, 고내식성, 내마모성 및 고전도도를 동시에 구현하는 구리계 하이브리드 합금 및 그 제조방법 |
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