JP2004175577A - 球状炭素および球状黒鉛の製造法 - Google Patents

球状炭素および球状黒鉛の製造法 Download PDF

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Abstract

【課題】歪みやストレスに対して抵抗力のある球状炭素や球状黒鉛を効率的に製造する方法を提供する。
【解決手段】所定の温度領域Aに設定された不活性ガス雰囲気からなる反応帯に、気体の原料炭化水素を導入し、前記原料炭化水素を前記反応帯に浮遊させながら炭化させることにより、放射状に配列した炭素骨格からなる球状炭素を成長させる工程、および所定の温度領域Bに設定された不活性ガス雰囲気中に前記球状炭素を導入し、前記球状炭素を黒鉛化させる工程、を有する球状黒鉛の製造法。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明が属する技術分野】
本発明は、球状炭素および球状黒鉛の製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、球状炭素としては、メソカーボンマイクロビーズ(以下、MCMBという。)が知られており、その製造法には溶媒抽出法が採用されている。球状炭素の用途は様々であるが、例えば、電池材料、カラム充填材料、触媒、マイクロベアリング材料などに用いられている。MCMBは、そのまま使用されることもあるが、黒鉛化して用いられることも多い。MCMBを黒鉛化するには高温で加熱する必要があるが、あまりに高温で加熱すると、粒子が破砕され、微細化する傾向がある。一方、黒鉛化度を高めるには、かなりの高温でMCMBを加熱しなければならないため、黒鉛化度の高い球状黒鉛を効率良く得ることは困難である。温度を段階的に上昇させれば、ある程度までは微細化を防ぐことができるが、生産効率は著しく低下する。
【0003】
また、MCMBを黒鉛化した球状黒鉛は、近年、リチウム二次電池の負極活物質として用いられている(例えば、特許文献1参照)。この球状黒鉛は、300mAh/gという比較的高い容量密度を有する。しかし、MCMBを黒鉛化した球状黒鉛からなる負極を用いて電池を構成し、その充放電を繰り返すと、次第に球状黒鉛が微細化する傾向がある。このような微細化の原因は、MCMBを構成する炭素骨格の配列にあると考えられる(非特許文献1参照)。例えば、MCMBは、球状ではあるが、層状のラメラ構造を呈しているという報告がある(例えば、特許文献2参照)。ラメラ構造は、黒鉛層の劈開面と平行な方向の力によって崩壊しやすい。従って、MCMBを高温に曝すと、破壊され易く、MCMBを黒鉛化したラメラ構造の球状黒鉛も、歪みやストレスで破壊されやすい。
上記観点から、破壊されにくい球状炭素や球状黒鉛を得るには、これらを構成する炭素骨格や黒鉛結晶の配列を、歪みやストレスに対して抵抗力のある配列とする必要がある。
【0004】
一方、炭素繊維の製造法としては、気相成長法が知られている。気相成長法では、揮発性の炭化水素を350〜450℃の比較的低温に保たれた反応室に誘導し、遷移金属などの触媒の存在下で、炭化水素を接触分解させつつ繊維状の炭素を生成させる方法である。このような炭素繊維も、電池材料などに活用されている(例えば、特許文献3参照 )。
【0005】
【特許文献1】
特開平4−237971号公報
【特許文献2】
特開平4−190555号公報
【特許文献3】
特開平6−146117号公報
【非特許文献1】
Bruks Taylor、 Carbon 3、 1965年、p.185
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、歪みやストレスに対して抵抗力のある球状炭素や球状黒鉛を効率的に製造する方法を提供するものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、所定の温度領域Aに設定された不活性ガス雰囲気からなる反応帯に、気体の原料炭化水素を導入し、前記原料炭化水素を前記反応帯に浮遊させながら炭化させることにより、放射状に配列した炭素骨格からなる球状炭素を成長させる工程、を有する球状炭素の製造法に関する。
本発明は、また、所定の温度領域Aに設定された不活性ガス雰囲気からなる反応帯に、気体の原料炭化水素を導入し、前記原料炭化水素を前記反応帯に浮遊させながら炭化させることにより、放射状に配列した炭素骨格からなる球状炭素を成長させる工程、および所定の温度領域Bに設定された不活性ガス雰囲気中に前記球状炭素を導入し、前記球状炭素を黒鉛化させる工程、を有する球状黒鉛の製造法に関する。
【0008】
前記温度領域Aは、580℃以上700℃以下であることが好ましい。
前記温度領域Bは、2800℃以上3000℃以下であることが好ましい。
上記製造法では、不活性ガスを、前記反応帯の下部から上部に向けて流通させ、成長した球状粒子を前記反応帯の下部に沈降させることが好ましい。また、前記反応帯の上部で、原料炭化水素および成長途中の球状炭素が混在する不活性ガスを回収し、回収したガスを前記反応帯の下部に導入して循環させることが好ましい。
上記製造法では、少なくとも前記反応帯よりも下部に、前記温度領域Aよりも低温の温度領域Cに設定された不活性ガス雰囲気からなる低温帯を設け、成長した球状炭素を前記低温帯に沈降させることが好ましい。
【0009】
前記原料炭化水素には、複数のベンゼン環を有する分子量252以上の炭化水素を用いることが好ましい。具体的には、前記原料炭化水素として、ペリレンおよびペリレン誘導体よりなる群から選ばれた少なくとも1種を用いることが好ましい。ペリレン誘導体としては、例えば、メチルペリレンなどを好ましく用いることができる。
ペリレンの構造は、式:
【0010】
【化1】
Figure 2004175577
【0011】
で表される。また、メチルペリレンの構造は、式:
【0012】
【化2】
Figure 2004175577
【0013】
で表される。なお、メチルペリレンのメチル基は、矢印で示した位置に容易に転移することが知られている。
本発明は、従来の気相成長法よりも高温に設定された不活性雰囲気中において、触媒を用いずに炭素を成長させることにより、放射状に配列した炭素骨格からなる球状炭素が得られるという発見に基づいている。この球状炭素は、歪みやストレスを受けても破壊されにくく、黒鉛化工程においても破砕されにくい。従って、本発明によれば、例えば、黒鉛化度の高い球状黒鉛を効率良く得ることができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態の一例について説明する。
図1には、本発明の製造法を実施するための装置の一例を示す。
図1の装置は、気化させた原料炭化水素を球状炭素へと気相成長させる筒状の反応容器9を具備する。反応容器の上部および下部は、上部封口体14および下部封口体15により塞がれている。反応容器の中程には反応容器を取り囲むように、電熱線10aとそれを包囲する断熱材10bからなる加熱装置10が配設されている。断熱材には、ガラス繊維やモルタルが用いられる。
【0015】
反応容器内の境界面PおよびQで挟まれた空間は、加熱装置で囲まれており、所定の温度範囲に制御可能である。ここが球状炭素を気相成長させる反応帯11となる。境界面Pよりも上部および境界面Qよりも下部には、それぞれ反応帯よりも低温の上部空間12および下部空間13が形成される。なお、装置の構造は図1に限定されるわけではなく、例えば反応容器は水平に設置されていても良い。
【0016】
反応帯の長さ(境界面Pと境界面Qとの距離)は、球状炭素の収率と成長の度合いに影響を与える。反応帯が短すぎると、球状炭素の成長に必要な浮遊状態を確保できず、低温の上部空間に未成長成分が多く放出され、収率が低下する。例えば、1〜50μmの球状炭素を効率良く得るには、反応帯の長さは、少なくとも50mm以上であることが好ましい。
【0017】
反応容器の下部壁面には、不活性ガス導入管16が設けられており、ここから窒素、Arなどの不活性ガスが反応容器内に送り込まれる。不活性ガスは、矢印A〜Cに沿って反応容器内を流通するが、その際に反応帯に適度な対流が起こり、球状炭素の気相成長が促される。不活性ガスは、その後、反応容器の上部封口体に設けられた排気管17から外部へ排出される。不活性ガス導入管、排出管には、流量調整弁19A、19Bがそれぞれ設けられており、不活性ガスの流通量を調整できるようになっている。
【0018】
気化させた炭化水素は、反応容器内の反応帯下部に設けられた気体原料導入管7のノズル8から反応容器内に導入される。気体原料導入管7は、炭化水素を気化させる気化容器2に通じている。気化容器には、原料容器1から、液体原料導入管4を通って、原料炭化水素5が送られてくる。気化容器は、加熱器3を備えており、炭化水素を加熱することができる。また、気化容器内部の液体原料の液面下には、混合ガス導入管6の先端が位置しており、ここから窒素、Arなどの不活性ガスが導入される。ガスのバブリングによって炭化水素は攪拌されるため、気化は効率的に進行する。気化された炭化水素は、気体原料導入管7を通過し、ノズル8から反応容器内に導入される。気体原料導入管、液体原料導入管、混合ガス導入管には、それぞれ流量調整弁19C、19D、19Eが設けられており、反応容器に導入される炭化水素の量や気化容器に導入される液体原料を増減することができるようになっている。
【0019】
球状炭素の成長速度やサイズは、炭化水素や成長中の球状炭素が、反応帯で浮遊する時間に大きく影響される。炭化水素や成長中の球状炭素の浮遊時間は、反応帯の温度分布、気流、輻射状況などの条件により制御される。また、これらの条件は、加熱装置10の設定や流量調整弁19A、19B、19C、19Dの操作、反応容器9の形状、加熱装置10の位置などにより制御される。
【0020】
反応帯の温度は、580℃以上700℃以下が好ましい。580℃未満では、炭化水素の炭化が効率的に進行せず、700℃を超えると、微細な炭素粒子の割合が増加し、望むサイズの球状炭素を効率的に得ることが困難になる。ただし、反応帯の温度は、必ずしも均一である必要はない。従来から行われている炭素繊維の製造においては、350〜450℃という比較的低温が採用され、触媒が用いられるが、球状炭素の製造においては、触媒を用いない。触媒を用いると、炭素を球状に成長させることができない。
【0021】
反応帯の長さ(境界面Pと境界面Qとの距離)は、球状炭素の収率と成長の度合いに影響を与える。反応帯が短すぎると、球状炭素の成長に必要な浮遊状態を確保できず、低温の上部空間に未成長成分が多く放出され、球状炭素の収率が低下する。反応帯が長くても特に問題はないが、設備が大きくなる点で不便である。例えば、5〜100μmの球状炭素を効率良く得るには、反応帯の長さは、少なくとも50mm以上であることが好ましい。
【0022】
ノズル8から導入された炭化水素は、反応帯を浮遊する間に、重縮合を通じて炭化されて、微細な炭素粒子の核21を形成する。微細な炭素粒子の核は、詳細なメカニズムは現状では不明であるが、以下のような過程で次第に大きな球状炭素に成長すると考えられる。例えば、核同士が凝集を起こしたり、炭化水素分子が核に吸着した後に炭化したり、球状炭素に吸着した状態で炭化水素分子が重合し、その後、重合体が炭化したりする。このような過程により、放射状に成長した炭素骨格からなる球状炭素が形成される。
【0023】
ある程度の大きさまで成長し、重量が大きくなった球状炭素22は、上昇気流に乗ることができなくなり、下部空間13に沈降してくる。下部空間13は、反応帯11よりも低温であるため、気相成長は自動的に停止し、捕集容器18によって受け止められる。低温の下部空間は、気相成長を停止させ、過剰に成長した炭素の生成を抑制するのに重要な役割を果たす。
【0024】
反応容器の内壁面には、フィルム状炭素が形成されることがあり、それが剥離して捕集容器18に落下することがある。しかし、落下物はサイズが大きいため、篩で分別除去することが可能である。また、捕集容器の上部を網目シートで覆ったり、捕集容器と壁面との間に十分な間隔を設けたりして、落下物の混入を防ぐこともできる。
【0025】
なお、成長中の球状炭素が反応容器上部の排気管17から多く放出されると、球状炭素の収率が低下する。その場合には、排気管17から放出される原料炭化水素および成長途中の球状炭素が混在する不活性ガスを回収し、回収したガスを反応帯の下部にある不活性ガス導入管16に導入して循環させれば良い。
【0026】
上記のような気相成長で得られた球状炭素は、その中心部から表面に向かって放射状に成長した炭素骨格を有している。
図2に、球状炭素の断面を模式的に示す。図2に、球状炭素の断面を模式的に示す。図1中の放射状の線は、炭素骨格の配列方向を示している。このような放射状の炭素骨格配列を有する球状炭素は、内部の歪みやストレスに対して強い抵抗力を有し、破砕されにくい。従って、黒鉛化工程における球状炭素の破砕を回避することができる。黒鉛化のために高い温度を採用しても、球状炭素の微細化は大きく抑制される。具体的には、2800〜3000℃の高温を適用することができる。その結果、例えば、(002)面の面間隔d002が0.337Å以下の高い黒鉛化度を有する球状黒鉛を得ることができる。
なお、溶媒抽出法で得られた従来のMCMBの場合には、上記のような高温で黒鉛化を行うと、MCMBの微細化を抑制することは困難である。
【0027】
球状炭素は、その炭素骨格の配列を反映して黒鉛化されるため、中心部から表面に向かって放射状に配列した黒鉛結晶からなる球状黒鉛が得られる。
図3に、球状黒鉛の断面を模式的に示す。図3中の放射状の線は、黒鉛結晶の配列方向を示している。上記のような放射状の黒鉛結晶配列を有する球状黒鉛では、黒鉛の劈開面が放射状に配列していると考えられ、内部の歪みやストレスに対して強い抵抗力を有し、破砕されにくい。従って、このような球状黒鉛を非水電解質二次電池の負極活物質として用いた場合、充放電に伴う黒鉛の破壊が抑制され、優れた電池特性が得られる。
【0028】
上記のような放射状の炭素骨格配列もしくは黒鉛結晶配列は、例えば、電子顕微鏡や、偏光顕微鏡で確認することができる。
本発明に用いる球状黒鉛の断面を偏光顕微鏡で観察すると、図4に模式的に示すような円形偏光画像が得られる。円形偏光画像は、4つの扇形領域にほぼ等分される。そして、第1象限と第3象限にはブルーの色調が現れ、第2象限と第4象限はイエローの色調が現れる。円形偏光画像の色調は、偏光顕微鏡のステージをどの角度に回転させても基本的に変化しない。
【0029】
これに対し、黒鉛結晶配列が、MCMBに見られるようなオニオン構造を有する場合、イエローの領域とブルーの領域の位置が逆転する。また、黒鉛結晶配列がラメラ構造の場合には、両極部にブルーの領域、中間部にはレッドの領域を有する円形偏光画像が見られ、ステージを回転させると様々な模様に変化する。
【0030】
次に、球状炭素の原料炭化水素について説明する。
原料炭化水素には、反応帯の設定温度で炭化されるものを特に限定なく用いることができる。炭化水素は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、球状炭素の収率を高めるとともに構造の安定な球状炭素を得る観点から、低温で揮発し、反応帯の設定温度で重合可能な炭化水素を用いることが好ましい。
【0031】
黒鉛結晶が発達した球状炭素を得るには、複数のベンゼン環を有する分子量の大きな平面分子の炭化水素を用いることが好ましい。このような炭化水素として、例えば、ペリレン、メチルペリレン、ベンゾアントロン、ベンゾピレンなどを挙げることができる。なかでも5個のベンゼン環を有する分子量252のペリレン、メチルペリレン等のペリレン誘導体が特に好ましい。
【0032】
また、それ自体の分子量は小さくても、反応帯に浮遊する間に重合して大きな分子を生成し、その後、炭化されるような炭化水素も好ましく用いることができる。このような分子量の小さな炭化水素として、例えば、ナフタレン、メチルナフタレン、ジメチルナフタレン、アントラセン、ベンゼンなどのベンゼン環を1〜3個有する芳香族化合物などを挙げることができる。
原料炭化水素が高粘度の液体もしくは固体である場合には、その炭化水素の気化を容易にするために、液状の溶媒と混合して用いることが好ましい。
【0033】
【実施例】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
《実施例1》
図4の装置と同様の原理を有する簡略化された装置を用い、原料炭化水素にはペリレンを用いて、球状炭素を気相成長させた。具体的には、円筒状の縦形加熱炉の中空部に、反応管として石英管を配置し、反応管内部を窒素ガスで置換するとともに、反応管内部に所定温度の反応帯を形成した。反応管の内径は30mm、長さは300mmとした。縦形加熱炉の長さは80mmとし、反応管の底部30mmが縦形加熱炉から突出するようにした。従って、縦形加熱炉で囲まれない反応管上部の長さは190mmとなった。反応帯の中心温度は、650℃に設定した。また、反応帯内における温度差範囲を±20℃に制御した。その結果、縦形加熱炉から突出している反応帯下部の低温空間の中心温度は300℃以下となった。
【0034】
反応容器の下部壁面に設けられた不活性ガス導入管16からは、不活性ガスとして室温の窒素を0.1リットル/分の速度で供給した。また、反応帯下部に設けられた気体原料導入管7のノズル8からは、気化したペリレンと窒素の混合気体を供給した。この混合気体は、気化容器で450℃に加熱された液状のペリレンに窒素をバブリングさせることにより発生させた。ある程度のサイズに成長した球状炭素は、反応管の底部に堆積した。こうして得られた球状炭素は、平均粒径10μm、比表面積4.0m/gであった。
続いて、球状炭素を、アルゴン雰囲気下に、2400〜3000℃の温度で1時間保持し、黒鉛化させ、球状黒鉛を得た。このとき昇温速度は5℃/分とした。
【0035】
《比較例1》
溶媒抽出法で作製された市販のMCMB(平均粒径20μm、BET比表面積3m/g)を、実施例1と同様の条件で黒鉛化し、MCMBを原料とする球状黒鉛を作製した。
【0036】
[評価1]
(イ)球状炭素のSEM観察
実施例1で得られた球状炭素の外観をSEMで観察したところ、真球に近い形状であった。球状炭素の拡大SEM写真を図5に示す。また、実施例1で得られた球状炭素を2800℃で黒鉛化した球状黒鉛の拡大SEM写真を図6に示す。
【0037】
(ロ)偏光顕微鏡観察
実施例1の球状黒鉛の断面を偏光顕微鏡で観察したところ、図4に示したような、4つの扇形領域にほぼ等分され、第1象限と第3象限がブルーの色調を有し、第2象限と第4象限がイエローの色調を有する円形偏向画像が得られた。このことから、実施例1の球状黒鉛は、その中心部から表面に向かって放射状に配列した黒鉛結晶からなることが確認できた。
一方、比較例1の球状黒鉛の断面を観察したところ、黒鉛結晶がオニオン状に配列していることが確認できた。
【0038】
(ハ)球状炭素の収率
反応容器内に導入された原料炭化水素の総重量に占める炭素成分の重量をW、得られた球状炭素の重量をwとして、式:(w/W)×100から、球状炭素の収率を百分率で求めた。その結果、球状炭素の収率は50重量%以上であった。
【0039】
(ニ)X線回折
球状黒鉛のX線回折測定をCuKα線により行ったところ、実施例1の球状黒鉛のX線回折パターンからは、いずれも発達した黒鉛結晶の存在が確認できた。特に、2800〜3000℃の温度で黒鉛化した炭素の(002)面の面間隔d002は、いずれも0.3362nm以下であることが確認できた。
【0040】
(ホ)黒鉛化した球状炭素の球状維持率
黒鉛化する前の球状炭素をSEMで観察し、球状粒子と、黒鉛化する前に既に破砕している粒子との個数の比率を調べた。
次いで、その球状炭素を所定温度で黒鉛化した。得られた球状黒鉛をSEMで観察し、球状粒子と、黒鉛化後に破砕している粒子との個数の比率を調べた。
そして、黒鉛化する前の球状粒子の比率(S)と、黒鉛化後の球状粒子の比率(S)から、式:
M=(S/S)×100
を用いて、球状維持率(M)を百分率で求めた。前記式から明らかなように、黒鉛化工程において破砕される球状炭素の割合が大きいほど、球状維持率は小さくなる。
【0041】
実施例1の球状炭素の球状維持率は、黒鉛化温度に依存せず、いずれも99%以上であり、黒鉛化工程で破砕される球状炭素の割合が極めて小さいことが確認できた。一方、比較例1のMCMBを黒鉛化した場合には、黒鉛化温度の上昇とともに、球状維持率が小さくなったことから、MCMBの破砕が激しく起こったことが確認できた。
【0042】
図8に、実施例1の球状炭素の黒鉛化温度と球状維持率との関係(グラフA)および、比較例1のMCMBの黒鉛化温度と球状維持率との関係(グラフB)を示す。
図8から明らかなように、実施例1の球状炭素の球状維持率は、いずれの黒鉛化温度においても100%近くを維持しているのに対し、比較例1のMCMBの球状維持率は、黒鉛化温度が2800〜3000℃では激しく低下している。
なお、MCMBを2400℃で黒鉛化した場合には、得られた球状黒鉛の比表面積は3m/gであり、ほぼ100%の球状維持率を示したが、MCMBを3000℃で黒鉛化した場合には、得られた球状黒鉛の比表面積は5〜6m/gであった。
【0043】
なお、上記実施例では、黒鉛化温度の上限を3000℃までとしたが、黒鉛化を行う装置の耐熱温度がさらに高い場合には、黒鉛化温度を3000℃以上にすることも可能であり、同様に高い球状維持率が得られると考えられる。
【0044】
[評価2]
次に、実施例1の球状黒鉛または比較例1の球状黒鉛を活物質に用いて、試験電極を作製し、それらの評価を行なった。
(イ)試験電極の作製
10重量%のポリフッ化ビニリデン(PVDF)を溶解したN−メチル−2−ピロリドン溶液を調製した。この溶液と所定の球状黒鉛とを、PVDFと球状炭素との重量比が6:100になるように混合し、撹拌・混合し、ペースト状の電極合剤を得た。この電極合剤を、集電体となる厚さ15μmの銅箔の両面に塗布し、乾燥後、圧延し、所定寸法に裁断して、試験電極を得た。
【0045】
(ロ)容量密度
図9の曲線Aは、満充電状態の実施例1の球状黒鉛を用いた試験電極の放電カーブであり、縦軸は金属Liからなる正極(対極)に対する負極(試験電極)の電位を、横軸は球状黒鉛の容量密度を示している。一方、図9の曲線Bは、満充電状態の比較例1の球状黒鉛を用いた試験電極の放電カーブである。なお、各試験電極に含まれる球状黒鉛は、実施例1の球状炭素およびMCMBを、それぞれ2800℃および2500℃で黒鉛化したものである。
図9から明らかなように、MCMBを黒鉛化した球状黒鉛の容量密度は300mAh/gであるが、実施例1において気相成長で得られた球状炭素を黒鉛化した球状黒鉛の容量密度は350mAh/gと高くなっている。
【0046】
図10のグラフAは、実施例1の球状炭素の黒鉛化温度と得られた球状黒鉛からなる試験電極を用いた電池の容量維持率との関係を示す。また、グラフBは、MCMBの黒鉛化温度と得られた球状黒鉛からなる試験電極を用いた電池の容量維持率との関係を示す。
図10から明らかなように、実施例1の球状黒鉛を用いた電池では、球状炭素の黒鉛化温度にかかわらず、高い容量維持率が得られたのに対し、比較例1の球状黒鉛を用いた電池では、MCMBの黒鉛化温度が上昇するとともに容量維持率が顕著に低下した。
なお、上記電池においては、試験電極を負極とし、以下の正極を対極として用いた。
【0047】
正極は、以下の要領で作製した。
まず、100重量部の正極活物質(LiCoO)に、導電材として3重量部のアセチレンブラックと、結着剤として7重量部のポリテトラフルオロエチレンと、カルボキシメチルセルロースを1重量%含む水溶液100重量部とを加え、撹拌・混合し、ペースト状の正極合剤を得た。この正極合剤を、正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の両面に塗布し、乾燥後、全体を圧延し、所定寸法に裁断して、正極を得た。なお、負極の特性を明らかにするために、負極の設計容量に対して正極の設計容量を10%以上過剰にした。
【0048】
上記正極と負極(試験電極)を用い、アルミニウム製角型電池ケースを用いて、非水電解質二次電池を組み立てた。
まず、正極と負極とを、厚さ25μmの微多孔性ポリエチレン樹脂製セパレータを介して捲回して、電極群を構成した。正極と負極には、それぞれアルミニウム製正極リードおよびニッケル製負極リードを溶接した。電極群の上部にポリエチレン樹脂製の絶縁リングを装着し、電池ケース内に収容した。正極リードの他端は、封口板の所定箇所にスポット溶接した。また、負極リードの他端は、封口板の中心部にあるニッケル製負極端子の下部にスポット溶接した。電池ケースの開口端部と封口板の周縁部とをレーザ溶接してから、封口板に設けてある注入口から所定量の非水電解質を注液した。最後に注入口をアルミニウム製の封栓で塞ぎ、レーザー溶接で密封して電池を完成させた。
非水電解質には、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとの体積比1:3の混合溶媒に、1.0mol/Lの濃度でLiPFを溶解したものを用いた。
【0049】
図10の結果は、中心部から表面に向かって放射状に配列した黒鉛結晶からなる球状黒鉛を負極活物質として用いることにより、容量密度とサイクル特性に優れた非水電解質二次電池が得られることを示している。
【0050】
《実施例2》
反応帯中心部の温度を560〜720℃の範囲で変化させたこと以外、実施例1と同様の条件で球状炭素を製造した。そして、実施例1と同様に、球状炭素の収率を百分率で求めた。収率と反応帯中心部の温度との関係を図7に示す。
図7から明らかなように、反応帯中心部の温度を580℃以上700℃以下に設定した場合には、球状炭素の収率は50重量%以上であった。一方、560℃、720℃では、収率は顕著に低下した。
【0051】
《実施例3》
原料炭化水素として、ペリレンの代わりに、メチルペリレン、ベンゾアントロン、ベンゾピレン、アントラセン、またはナフタレンを用いたこと以外、実施例1と同様の条件で球状炭素を製造した。
その結果、メチルペリレンを用いた場合には、平均粒径10μm、比表面積4.0m/gの球状炭素が得られた。これを球状炭素Bとした。
また、ベンゾアントロンを用いた場合には、平均粒径9.5μm、比表面積4.3m/gの球状炭素が得られた。これを球状炭素Cとした。
また、ベンゾピレンを用いた場合には、平均粒径9.8μm、比表面積4.1m/gの球状炭素が得られた。これを球状炭素Dとした。
また、アントラセンを用いた場合には、平均粒径9.0μm、比表面積4.7m/gの球状炭素が得られた。これを球状炭素Eとした。
また、ナフタレンを用いた場合には、平均粒径9.5μm、比表面積4.2m/gの球状炭素が得られた。これを球状炭素Fとした。
【0052】
次に、球状炭素B〜Fを、それぞれアルゴン雰囲気下に、2400〜3000℃の温度で1時間保持し、黒鉛化させ、球状黒鉛B〜Fを得た。このとき昇温速度は5℃/分とした。
球状黒鉛B〜FのSEM観察を行ったところ、いずれの黒鉛も図6に示したように真球に近い形状であることが確認できた。
また、球状黒鉛B〜Fの球状黒鉛の断面を偏光顕微鏡で観察したところ、いずれの黒鉛でも、図4に示したような、4つの扇形領域にほぼ等分され、第1象限と第3象限がブルーの色調を有し、第2象限と第4象限がイエローの色調を有する円形偏向画像が得られた。
また、球状炭素B〜Fの球状維持率を求めたところ、いずれも99%以上の球状維持率を示した。
以上より、本発明の製造法が原料炭化水素の種類によらず有効であることが確認できた。
【0053】
【発明の効果】
以上のように、本発明の製造法によれば、放射状の炭素骨格配列を有する球状炭素を得ることができ、これを黒鉛化することによって、黒鉛結晶が放射状に配列した球状黒鉛を効率的に得ることができる。しかも、本発明の製造法で得られた球状炭素は、球状維持率および黒鉛化度に優れており、かつ、充放電サイクルで与えられる歪みやストレスに対して強い抵抗力を有する。従って、本発明によれば、高容量で容量維持率に優れた非水電解質二次電池を実現可能である。上記球状炭素は、マイクロベアリング材料などの高い黒鉛化度と球形度を必要とする電池以外の用途にも展開が可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】気相成長により球状炭素を製造する装置の一例の構造を示す図である。
【図2】気相成長で得られた球状炭素の断面を模式的に示す図である。
【図3】気相成長で得られた球状炭素を黒鉛化した球状黒鉛の断面を模式的に示す図である。
【図4】気相成長で得られた球状炭素を黒鉛化して得られた球状黒鉛の断面の円形偏光画像を模式的に示す図である。
【図5】気相成長で得られた球状炭素の一例の拡大SEM写真である。
【図6】気相成長で得られた球状炭素を黒鉛化した球状黒鉛の一例の拡大SEM写真である。
【図7】反応帯中心部の温度と球状炭素の収率との関係を示す図である。
【図8】気相成長で得られた球状炭素の黒鉛化温度と球状維持率との関係(グラフA)およびMCMBの黒鉛化温度と球状維持率との関係(グラフB)を示す図である。
【図9】気相成長で得られた球状炭素を黒鉛化した球状黒鉛の容量密度とそれを用いた負極電位との関係を示す曲線AおよびMCMBを黒鉛化した球状黒鉛の容量密度とそれを用いた負極電位との関係を示す曲線Bである。
【図10】気相成長で得られた球状炭素の黒鉛化温度と得られた球状黒鉛からなる負極を用いた電池の容量維持率との関係を示すグラフAおよびMCMBの黒鉛化温度と得られた球状黒鉛からなる負極を用いた電池の容量維持率との関係を示すグラフBである。
【符号の説明】
1 原料容器
2 気化容器
3 加熱器
4 液体原料導入管
5 原料炭化水素
6 混合ガス導入管
7 気体原料導入管
8 ノズル
9 反応容器
10 加熱装置
11 反応帯
12 上部空間
13 下部空間
14 上部封口体
15 下部封口体
16 不活性ガス導入管
17 排気管
18 捕集容器
19 流量調整弁
21 炭素粒子の核
22 球状炭素

Claims (9)

  1. 所定の温度領域Aに設定された不活性ガス雰囲気からなる反応帯に、気体の原料炭化水素を導入し、前記原料炭化水素を前記反応帯に浮遊させながら炭化させることにより、放射状に配列した炭素骨格からなる球状炭素を成長させる工程、を有する球状炭素の製造法。
  2. 所定の温度領域Aに設定された不活性ガス雰囲気からなる反応帯に、気体の原料炭化水素を導入し、前記原料炭化水素を前記反応帯に浮遊させながら炭化させることにより、放射状に配列した炭素骨格からなる球状炭素を成長させる工程、および
    所定の温度領域Bに設定された不活性ガス雰囲気中に前記球状炭素を導入し、前記球状炭素を黒鉛化させる工程、を有する球状黒鉛の製造法。
  3. 前記温度領域Aが、580℃以上700℃以下である請求項1記載の球状炭素の製造法。
  4. 前記温度領域Bが、2800℃以上3000℃以下である請求項2記載の球状黒鉛の製造法。
  5. 不活性ガスを、前記反応帯の下部から上部に向けて流通させ、成長した球状炭素を前記反応帯の下部に沈降させる請求項1記載の球状炭素の製造法。
  6. 不活性ガスを、前記反応帯の下部から上部に向けて流通させ、前記反応帯の上部で、原料炭化水素および成長途中の球状炭素が混在する不活性ガスを回収し、回収したガスを前記反応帯の下部に導入して循環させる請求項1記載の球状炭素の製造法。
  7. 少なくとも前記反応帯よりも下部に、前記温度領域Aよりも低温の温度領域Cに設定された不活性ガス雰囲気からなる低温帯を設け、成長した球状炭素を前記低温帯に沈降させる請求項1記載の球状炭素の製造法。
  8. 前記原料炭化水素は、複数のベンゼン環を有する分子量252以上の炭化水素である請求項1記載の球状炭素の製造法。
  9. 前記原料炭化水素は、ペリレンおよびペリレン誘導体よりなる群から選ばれた少なくとも1種である請求項1記載の球状炭素の製造法。
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