JP2004169199A - 熱可塑性セルロースエステル組成物からなる繊維 - Google Patents
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Abstract
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、セルロースエステル組成物からなる繊維に関する。より詳しくは、特定のエステル構造をセルロースエステルの側鎖部分、および含有されるオリゴマーおよび/またはポリマー中に有する組成物からなる繊維である。
【0002】
【従来の技術】
セルロースおよびセルロースエステル、セルロースエーテル等のセルロース誘導体は、地球上で最も大量に生産されるバイオマス系材料として、また、環境中にて生分解可能な材料として昨今の大きな注目を集めつつある。現在商業的に利用されているセルロースエステルの代表例としては、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート等が挙げられ、プラスチック、フィルター、塗料など幅広い分野に利用されている。
【0003】
セルロースの繊維としての利用に関しては、自然界中で産生する綿や麻などの短繊維をそのまま紡績して使用することが古くから行われてきた。短繊維ではなく、フィラメント材料を得るためには、レーヨンの様にセルロースを二硫化炭素等の特殊な溶媒系で溶解させ湿式紡糸法での製糸を行うか、セルロースアセテートの様にセルロースを誘導体化して、塩化メチレンやアセトン等の有機溶媒に溶解させた後、この溶媒を蒸発させながら紡糸する乾式紡糸法での製糸を行うしか方法がない。
【0004】
これらの製法で得られたセルロース系繊維は、熱可塑性を有していないため、熱軟化挙動を利用しての延伸、仮撚加工などは困難であった。また湿式紡糸法あるいは乾式紡糸法を用いた場合には、溶媒除去が必要などの制約があり、繊維の断面を任意に設計することが困難であった。
【0005】
さらに、これらの湿式紡糸法あるいは乾式紡糸法では、紡糸速度が遅いため生産性が低いという問題があるだけでなく、使用する二硫化炭素、アセトン、塩化メチレン等の有機溶剤が環境に対して悪影響を及ぼす懸念が強いため、環境との調和を考える場合には、決して良好な製糸方法とは言えない。
【0006】
一方、溶融紡糸法を用いる方法としてはセルロースアセテートにポリエチレングリコールのような水溶性可塑剤を配合して溶融紡糸を行い、中空糸用の繊維を製造するものがある(例えば、特開昭51−70816号公報参照)が、平均分子量200〜1000のポリエチレングリコールを単独で使用しても紡糸の際の断糸率が高いことから、低い紡糸ドラフトでないと溶融紡糸は困難である。さらに、ポリエチレングリコールのような吸湿性の強い可塑剤を単独で使用することは用途の点から制限が大きい。
【0007】
セルロースエステル樹脂は、汎用合成樹脂のように熱可塑成形によって溶融加工して成型品とするにはいくつかの問題を有している。例えば、セルロースアセテート樹脂の融点は、分解点より高い280℃近傍であり、融点を下げて溶融加工に適した温度とするために可塑剤を混合しなければならない。
【0008】
そこで、押出、射出成形用に用いられているセルロースエステルの可塑剤として、フタル酸エステルであるジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ブチルベンジルフタレート、エチルフタリルエチルグリコレート等、トリメリット酸エステルであるトリメチルトリメリテート、トリエチルトリメリテート等が知られている。前記可塑剤を含有した脂肪酸セルロースエステル系組成物は、軟化温度が低下して加工しやすくなり、例えばシート、フィルム、パルプ、棒、印材、装飾品、眼鏡枠、工具柄、食器具柄、玩具、雑貨等とに広範囲に使用されている。
【0009】
しかしながら、これらの可塑剤を用いたセルロース脂肪酸エステル組成物では、例えば溶融紡糸のように長時間にわたる連続成形加工を行う場合には可塑剤の揮発が激しいという問題が発生する。具体的な弊害としては、作業環境の悪化および得られた糸から可塑剤が揮発して表面に付着することによって布帛にしたときに風合いが低下することが挙げられる。また、フタル酸エステルに代表される化合物は環境ホルモンのおそれが懸念される。
【0010】
一方、外部可塑剤を添加するのではなく、セルロース誘導体に直接グラフト反応を行うことによって内部可塑化を行う方法として、特開昭58−225101号公報、特開昭59−86621号公報、特開平7−179662号公報、特開平11−255801号公報などに記載が見られるようにセルロースアセテート主鎖に対してεカプロラクトンを主体に開環グラフト重合したポリマーおよびその製造方法が知られている。これらのポリマーではブリードアウトの懸念がないものの、主鎖が主としてポリカプロラクトンからなるため、60℃程度の低い温度で側鎖の流動が生じてしまい、繊維として最低限必要となる耐熱性を満足できるものではなかった。また、他の方法として、セルロースエステルの存在下で、多塩基酸又はその無水物と、モノエポキシド化合物又は多価アルコールとを混練練り混み反応させて、フィルム用熱可塑性セルロース誘導体組成物に製造方法が開示されている(特許文献1参照)。
また、該組成物にさらにクエン酸トリエステルなどのセルロースエステル用可塑剤として既知の可塑剤を添加することで、熱可塑性セルロース誘導体組成物を得る方法が開示されている(非特許文献1参照)。しかし、該組成物を用いた繊維としての利用は全く知られていない。
【0011】
【特許文献1】
特開平6−207045号公報(第1頁)
【0012】
【非特許文献1】
J. Appl. Polym. Sci, vol.81, P243−250(2001)
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、従来技術の課題を解決し、長繊維として利用が可能な汎用性を持ち、かつ良好な機械的特性を備えたセルロースエステル組成物繊維を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上述した本発明の課題は、少なくとも下記一般式(1)の構造を側鎖に含むセルロースエステルIと下記一般式(1)の構造を含むオリゴマーおよび/またはポリマーIIとを含んでなる組成物からなることを特徴とする熱可塑性セルロースエステル組成物からなる繊維によって達成できる。
【0015】
【化7】
【0016】
但し、上記一般式(1)のAは下記一般式(2)、(3)、(4)から選ばれる一種以上であり、Bは下記一般式(5)、(6)から選ばれる一種以上である。
【0017】
【化8】
【0018】
【化9】
【0019】
【化10】
【0020】
【化11】
【0021】
【化12】
【0022】
【発明の実施の形態】
本発明におけるセルロースエステル組成物繊維は下記一般式(1)の構造を側鎖に含むセルロースエステルIと下記一般式(1)の構造を含むオリゴマーおよび/またはポリマーIIとを含んでなる組成物よりなる。
【0023】
【化13】
【0024】
本発明におけるセルロースエステルIの側鎖は下記一般式(1)の構造を含有することが必要である。下記一般式(1)の構造を有することで良好な熱可塑性が得られる。
【0025】
【化14】
【0026】
具体的にはAとして下記一般式(2)、(3)、(4)から選ばれる一種以上をとる。
【0027】
【化15】
【0028】
【化16】
【0029】
【化17】
【0030】
上記化合物を有するセルロースエステルIの側鎖は分子間相互作用も強く熱収縮が小さいため、これを含有してなる繊維の熱収縮率が小さくなるため好ましい。より好ましくは下記一般式(2)をとることである。
【0031】
【化18】
【0032】
Bとして下記一般式(5)、(6)から選ばれる一種以上をとる。
【0033】
【化19】
【0034】
【化20】
【0035】
上記化合物からなるセルロースエステルIの側鎖はセルロースエステルIに良好な熱可塑性を与え、これを含有するセルロースエステル組成物からなる繊維の物性が優れた物になるため好ましい。一般式(6)中のnは1〜5をとるのが得られる繊維の熱収縮性を小さくするため好ましい。
【0036】
本発明におけるセルロースエステル組成物におけるセルロースエステルIの一般式(1)の構造を含む側鎖を除いたセルロースエステル主鎖の割合は組成物全体の50〜90重量%であるのが好ましい。50重量%以上であることで、セルロース誘導体の好ましい特性が発現しやすくなるため好ましい。また、90重量%以下であることで、熱可塑性の付与が大きく、溶融紡糸が容易となって得られる繊維の物性が優れたものになるため好ましい。セルロースエステル主鎖の割合は好ましくは組成物全体の60〜80重量%であり、さらに好ましくは65〜75重量%である。
【0037】
また本発明におけるセルロースエステルIは、一般式(1)の構造以外のアシル基を含有することができる。具体的には、アセチル基、プロピオニル基、ブチル基、フタリル基等を単独もしくは混合して含有するものであってもよい。汎用性の点からアセチル基を含有するものであることが好ましい。
【0038】
セルロースエステルIの一般式(1)の構造以外のアシル基の置換度は、グルコース単位あたり0〜2.9であることが好ましい。また、良好な生分解性を得るためには、単位グルコースあたりの置換された水酸基の数で表す置換度が比較的低い値、例えば0〜2.2であることが好ましく、0.5〜2.2がより好ましい。良好な流動性を得るためには、比較的高い値、例えば2.2〜2.9であることが好ましいので、目的によって適宜決めることができる。また、得られたセルロースエステルIの熱可塑性の点から置換度は2.5〜2.9であることがより好ましい。
【0039】
また、本発明におけるセルロースエステル組成物は、下記一般式(1)の構造を含有するオリゴマーおよび/またはポリマーIIを含有する。セルロースエステルIの側鎖と同じ構造を有することで、セルロースエステルIとの親和性が向上し、加熱したときのブリードアウトを防ぐことができる。なお、下記一般式(1)のA、BはセルロースエステルIと同じであることが親和性の点から好ましいが限定されない。
【0040】
【化21】
【0041】
該組成物の製造方法に関しては、未置換水酸基を有するセルロース、またはアセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、フタリル基等のアシル基によってすでに一部の水酸基が置換されているセルロースエステルの存在下で、多塩基酸又はその無水物と、多価アルコールとのエステル化反応を、二軸押出機などを用いて混練練りこみ反応により行い、一方ではホモオリゴエステルないしホモポリエステルを生じせしめ、その一部は外部可塑剤として残存させるとともに、他方では、オリゴエステル鎖ないしポリエステル鎖を前記セルロース誘導体中に、エステル基として導入することによって得られることが知られており、これら従来公知の方法にて行えばよく、特に限定されない。
【0042】
エステル化反応に用いる多塩基酸無水物として、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水フマル酸が挙げられるが特に限定されない。
【0043】
エステル化反応に用いることができる多価アルコールとして、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコールなどが挙げられるが特に限定されない。
【0044】
エステル化反応に用いる触媒としては、無触媒で反応をすることもできるが、公知のルイス酸触媒などを用いることができる。使用できる触媒としてはスズ、亜鉛、チタン、ビスマス、ジルコニウム、ゲルマニウム、アンチモン、ナトリウム、カリウム、アルミニウムなどの金属およびその誘導体が挙げられ、特に誘導体については金属有機化合物、炭酸塩、酸化物、ハロゲン化物が好ましい。具体的にはオクチルスズ、塩化スズ、塩化亜鉛、塩化チタン、アルコキシチタン、酸化ゲルマニウム、酸化ジルコニウム、三酸化アンチモン、アルキルアルミニウムなどを例示することができる。また、触媒としてパラトルエンスルホン酸に代表される酸触媒を用いることもできる。
【0045】
また、カルボン酸とアルコールとの脱水反応を促進するためにカルボジイミド、ジメチルアミノピリジンなど公知の化合物を添加してもよい。
【0046】
また、本発明において、一般式(1)の構造を含むオリゴマーおよび/またはポリマーII以外の可塑剤IIIをさらに含むことができる。可塑剤IIIを加えることで溶融成形性が良好になるため好ましい。可塑剤IIIはセルロースエステルの可塑剤として公知のものを用いることができる。具体的には低分子量可塑剤としては、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジヘキシルフタレート、ジオクチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、エチルフタリルエチルグルコレート、ブチルフタリルブチルグリコレートなどのフタル酸エステル類、テトラオクチルピロメリテート、トリオクチルトリメリテートなどの芳香族多価カルボン酸エステル類、ジブチルアジペート、ジオクチルアジペート、ジブチルセバケート、ジオクチルセバケート、ジエチルアゼレート、ジブチルアゼレート、ジオクチルアゼレートなどの脂肪族多価カルボン酸エステル類、グリセリントリアセテート、ジグリセリンテトラアセテート、アセチル化グリセライド、モノグリセライド、ジグリセライドなどの多価アルコールの脂肪酸エステル類、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェートなどのリン酸エステル類などを挙げることができる。
【0047】
可塑剤IIIはセルロースエステル組成物を溶融成形する際に可塑剤の揮発を抑える点から、分子量が320以上であるのが好ましい。具体的にはジオクチルフタレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、ジオクチルアジペート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェートなどが好ましい。
【0048】
また高分子量の可塑剤としては、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートなどのグリコールと二塩基酸とからなる脂肪族ポリエステル類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸などのオキシカルボン酸からなる脂肪族ポリエステル類、ポリカプロラクトン、ポリプロピオラクトン、ポリバレロラクトンなどのラクトンからなる脂肪族ポリエステル類、ポリビニルピロリドンなどのビニルポリマー類などが挙げられる。可塑剤IIIはこれらを単独もしくは併用して使用することができる。
【0049】
本発明のセルロースエステル組成物繊維に含まれる上記可塑剤IIIの含有量は繊維全体の1〜20重量%含有することが好ましい。1重量%以上の可塑剤IIIを含有することで、熱可塑性を付与し、繊維の延伸、仮撚加工などを可能にする。20重量%以下にすることで、可塑剤IIIの繊維表面へのブリードアウトを防止して、繊度斑、染め斑なく、ヌメリ感のない風合いの良好な品位に優れた繊維が得られる。可塑剤IIIの含有量は、好ましくは4〜18重量%、より好ましくは5〜15重量%である。
【0050】
該可塑剤IIIは一例としてセルロースエステル組成物への混練は未置換セルロースまたはセルロースエステルの多塩基酸および/またはその無水物と多価アルコールとの混練反応の時に同時に添加することが好ましいが、繊維化の前に添加するならばいずれの段階でもよく限定されない。
【0051】
本発明におけるセルロースエステル組成物は、220℃における加熱減量率が5wt%以下であることが好ましい。ここで、加熱減量率とは窒素下において室温から300℃まで、10℃/分の昇温速度で試料を昇温した時の、220℃における重量減少率をいう。低分子可塑剤を大量に含むこと等がなく、加熱減量率が5wt%以下である場合には、溶融紡糸の際に発煙が生じて製糸性不良となることがなく、得られる繊維の機械的特性も良好となるたえ好ましい。良好な耐熱性の観点からは、3wt%以下であることがより好ましい。
【0052】
本発明におけるセルロースエステル組成物は、220℃、1000sec−1における溶融粘度が20〜200Pa・secであることが好ましい。220℃、1000sec−1における溶融粘度が20Pa・sec以上である場合には、紡糸後の固化が十分に進み、収束しても繊維同士が膠着することがないため好ましい。また、この場合、口金背面圧が十分に得られるため、分配性が良好となり、繊度の均一性が担保されるという利点も有している。一方溶融粘度が200Pa・sec以下である場合には、紡出糸条の曳糸性が良好であり、十分な配向が得られて機械特性の優れた繊維となるため好ましい。また、配管圧力の異常な上昇によるトラブルが生じることもない。良好な流動性の観点から、220℃、1000sec−1における溶融粘度が20〜200Pa・secであることがより好ましく、50〜190Pa・secであることが最も好ましい。
【0053】
本発明における繊維は、上述の少なくとも下記一般式(1)の構造を側鎖に含むセルロースエステルIと下記一般式(1)の構造を含むオリゴマーおよび/またはポリマーIIとを含んでなるセルロースエステル組成物からなる。
【0054】
【化22】
【0055】
繊維の強度は0.5〜3cN/dtexであることが好ましい。0.5cN/dtex以上とすることにより、製織や製編時などの高次加工工程通過性が良好になり、また最終製品の強力も十分となり好ましく、3cN/dtex以下では伸度が低下せず、毛羽立ちを抑えられ糸切れが少ないため好ましい。強度は0.7cN/dtex以上が好ましく、1.0cN/dtex以上がより好ましい。
【0056】
伸度は2〜50%が好ましい。伸度を2%以上とすることにより、製織や製編時など高次加工工程において糸切れし難くなる。また、伸度を50%以下とすることにより、繊維は低い応力であれば変形することがなく、製織時の緯ひけなどによる最終製品の染色欠点を生じることがない。伸度は5〜45%が好ましく、10〜40%がより好ましい。
【0057】
本発明におけるセルロースエステル組成物よりなる繊維は、繊維の長さ方向の繊度斑を表すU%(ウースターノーマル%)が5%以下であることが好ましい。U%が5%以下であることは、繊度の均一性に優れることから好ましく、より好ましくは3%以下、更に好ましくは2%以下である。
【0058】
本発明におけるセルロースエステル組成物よりなる繊維の70℃温水中における収縮率が40%以下であることが好ましい。70℃温水中における収縮率と繊維を70℃温水中に5分浸した後に、前と比べて収縮している長さの割合である。40%以下であることで、布帛の染色などの後加工において加熱を行う時に収縮することがなく好ましい。15%以下であることがさらに好ましい。
【0059】
単糸繊度は0.5〜100dtexであることが好ましい。単糸繊度が0.5dtex以上であれば、溶融紡糸において製糸性よく繊維を得ることができる。また、単糸繊度が100dtex以下であれば、繊維構造物の曲げ剛性が大きすぎることなく、ソフトさが要求される衣料用布帛などにも適用することができる。単糸繊度はより好ましくは2〜50dtexであり、更に好ましくは3〜25dtexである。
【0060】
繊維断面形状に関しては特に制限がなく、真円状の円形断面であっても良いし、また、多葉形、扁平形、楕円形、W字形、S字形、X字形、H字形、C字形、田字形、井桁形、中空などの異形断面糸でも良い。
【0061】
また、本発明のセルロースエステル組成物繊維は、艶消し剤、消臭剤、難燃剤、糸摩擦低減剤、抗酸化剤、着色顔料等として、無機粒子や有機化合物を必要に応じて含有することができる。
【0062】
本発明におけるセルロースエステル組成物繊維は、衣料用フィラメント、衣料用ステープル、産業用フィラメント、産業用ステープル、医療用フィラメントとすることが可能であり、また不織布用繊維とすることも好ましく採用できる。
【0063】
本発明におけるセルロースエステル組成物繊維の製造方法は限定されないがセルロースエステル組成物を溶融紡糸することにより得ることができる。
【0064】
本発明で用いる溶融紡糸法としては、前記した組成物を公知の溶融紡糸機において、加熱溶融した後に口金から押出し、紡糸し、必要に応じて延伸し巻取る方法を用いることができる。この際、紡糸温度は190℃〜240℃が好ましく、さらに好ましくは200℃〜230℃である。紡糸温度を190℃以上とすることにより、溶融粘度が低くなり溶融紡糸性が向上するので好ましい。また240℃以下にすることにより、組成物の熱分解が抑制されるため好ましい。
【0065】
また、混合物は気泡の混入をできるだけ少なくするために、溶融紡糸機に供給する前にエクストルーダーを用いてペレット化しておくか、エクストルーダーが配管によって溶融紡糸機と結合されていることが望ましい。また、ペレット化したセルロースエステル組成物は溶融紡糸に先立ち、溶融時の加水分解や気泡の発生を防止するために含水率を0.1重量%以下に乾燥することが好ましい。
【0066】
本発明のセルロースエステル組成物からなる繊維は、優れた機械的特性および繊度の均一性を有し、生分解性に優れており、前記繊維を製造する際に熱流動性が優れるため紡糸時の断糸率が極めて少なく、生産性に優れている。また得られた長繊維は織物、編物等の繊維構造物や、メルトブロー法、スパンボンド法による不織布として用いても良い。
【0067】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0068】
なお、実施例中の各特性値は次の方法で求めた。
【0069】
(1)溶融粘度
東洋精機(株)製キャピラリーレオメーター(商標:キャピログラフ1B、L=10mm、D=1.0mmのダイ使用)を用い、測定温度220℃、シェアレート1000sec−1で粘度を測定し、溶融粘度とした。
【0070】
(2)加熱減量率
(株)マック・サイエンス社製TG−DTA2000Sを用い、窒素下において室温から400℃まで10℃/分の昇温度速度で試料を加熱した時、220℃におけるサンプル10mgの重量変化を加熱減量率とした。
【0071】
(3)強伸度
オリエンテック社製テンシロンUCT−100型を用い、試料長20cm、引張速度20cm/minの条件で引張試験を行って、最大荷重を示した点の応力を繊維の強度(cN/dtex)とした。また、破断時の伸度を繊維の伸度(%)とした。
【0072】
(4)単糸繊度
溶融紡糸により得られたマルチフィラメントの繊度を口金ホール数で除した値である。
【0073】
(5)U%
ツェルベガーウースター社製ウースターテスター4−CXにて給糸速度25m/minで1分間の測定を行い、得られた値をU%とした。
【0074】
(6)風合い
得られた繊維を用いて27ゲージの丸編みを作成し、官能検査によって風合いを評価した。十分なドライ感のある物を○、著しいヌメリ感のある物を×とした。なお、○は好ましく、×は問題がある。
【0075】
(7)製糸性
溶融紡糸法による繊維化を行うにあたり、糸切れなく安定して製糸が可能なものを○、走行糸条が安定せず、糸切れが発生するようなものを×とした。なお、○は好ましく、×は問題がある。
【0076】
実施例1
60℃、24時間の真空乾燥により絶乾状態としたセルロースジアセテート(ダイセル化学工業(株)製、L−40、酢化度55%(置換度2.5))70重量部、無水マレイン酸(アルドリッチ製)10重量部、グリセリン(アルドリッチ製)10重量部、可塑剤としてアジピン酸ジオクチル(関東化学製)10重量部を量りとり、室温でプレブレンドした。その後、この混合物を予め140℃に昇温したラボプラストミル(東洋精機(株)製、バッチ式混練ニーダー)中に30rpmで回転させた状態で5分間かけて投入した。引き続き、回転数を90rpmまで上げた後20分間加熱混練し反応を行った。得られたポリマーをP1とする。
【0077】
ポリマーP1の220℃における加熱減量率を測定したところ、4.0%と耐熱が十分に優れていた。また、溶融粘度は、70Pa・secと良好な流動性を示した。
【0078】
ポリマーP1を60℃にて24時間乾燥して絶乾状態とした後、単軸型溶融紡糸を用いて、メルター温度230℃にて溶融させ、吐出量5.9g/minの条件で、0.23mmφ−0.30mmLの口金孔を6ホール有するパック部温度230℃の口金より紡出させた。紡出糸条は25℃のチムニー風によって冷却し、油剤を付与して収束した後、450m/分で回転する第1ゴデットローラーにて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して、巻き取り張力が0.1cN/dtexとなる速度で回転するワインダーにて巻き取った。製糸性は極めて良好であり、糸切れは全く認められなかった。得られた繊維は、強度が0.9cN/dtex、伸度が26%、単糸繊度が21.9dtex、U%が0.7%、70℃温水中における収縮率は4.0%であった。得られた繊維を筒編み機(丸善産業(株)製筒編み機MR1型、27ゲージ)にて、編み地の作製を試みたところ、編み立て性は良好であり、ソフトな風合いを有する編み地が得られた。
【0079】
実施例2
セルロースジアセテートの代わりにセルロースアセテートプロピオネート(イーストマンケミカル製、CAP482−20、DSAc=0.2、DSPr=2.5)を75重量部、可塑剤としてアジピン酸ジオクチルを5重量部用いた以外は実施例1と同様にポリマーを合成し、ポリマーP2を得た。
【0080】
ポリマーP2の220℃における加熱減量率を測定したところ、3.2%と耐熱性が十分に優れていた。また、溶融粘度は、52Pa・secと良好な流動性を示した。
【0081】
ポリマーP2を60℃にて24時間乾燥して絶乾状態とした後、単軸型溶融紡糸機を用いて、メルター温度230℃にて溶融させ、吐出量6.2g/minの条件で、0.23mmφ−0.30mmLの口金孔を12ホール有するパック部温度230℃の口金より紡出させた。紡出糸条は25℃のチムニー風によって冷却し、油剤を付与して収束した後、1000m/分で回転する第1ゴデットローラーにて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して、巻き取り張力が0.1cN/dtexとなる速度で回転するワインダーにて巻き取った。製糸性は極めて良好であり、糸切れは全く認められなかった。得られた繊維は、強度が0.7cN/dtex、伸度が28%、単糸繊度が5.2dtex、U%は1.3%、70℃温水中における収縮率は6.0%であった。また編み地の作製を試みたところ、編み立て性は良好であり、ソフトな風合いを有する編み地が得られた。
【0082】
実施例3
セルロースジアセテート60重量部、可塑剤としてアジピン酸ジオクチルを20重量部用いた以外は実施例1と同様にポリマーを合成しポリマーP3を得た。
【0083】
ポリマーP3の220℃における加熱減量率を測定したところ、5.0%と耐熱性が十分に優れていた。また、溶融粘度は、55Pa・secと良好な流動性を示した。
【0084】
ポリマーP3を60℃にて24時間乾燥して絶乾状態とした後、単軸型溶融紡糸機を用いて、メルター温度220℃にて溶融させ、吐出量6.1g/minの条件で、0.23mmφ−0.30mmLの口金孔を24ホール有するパック部温度220℃の口金より紡出させた。紡出糸条は25℃のチムニー風によって冷却し、油剤を付与して収束した後、750m/分で回転する第1ゴデットローラーにて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して、巻き取り張力が0.1cN/dtexとなる速度で回転するワインダーにて巻き取った。製糸性は極めて良好であり、糸切れは全く認められなかった。得られた繊維は、強度が0.6cN/dtex、伸度が40%、単糸繊度が3.4dtex、U%は1.8%、70℃温水中における収縮率は10.0%であった。また編み地の作製を試みたところ、編み立て性は良好であり、ソフトな風合いを有する編み地が得られた。
【0085】
実施例4
グリセリンに変えてエチレングリコールを用い、可塑剤としてクエン酸トリエチルに変えてジオクチルフタレートを用いた以外は実施例1と同様の方法によりポリマーP4を得た。
【0086】
ポリマーP2の220℃における加熱減量率を測定したところ、3.8%と耐熱性が十分に優れていた。また、溶融粘度は、57Pa・secと良好な流動性を示した。
【0087】
ポリマーP4を60℃にて24時間乾燥して絶乾状態とした後、単軸型溶融紡糸機を用いて、メルター温度220℃にて溶融させ、吐出量6.2g/minの条件で、0.23mmφ−0.30mmLの口金孔を12ホール有するパック部温度230℃の口金より紡出させた。紡出糸条は25℃のチムニー風によって冷却し、油剤を付与して収束した後、1000m/分で回転する第1ゴデットローラーにて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して、巻き取り張力が0.1cN/dtexとなる速度で回転するワインダーにて巻き取った。製糸性は極めて良好であり、糸切れは全く認められなかった。得られた繊維は、強度が0.5cN/dtexと若干低いが問題のないレベルであった。伸度が27%、単糸繊度が5.2dtex、U%は1.2%、70℃温水中における収縮率は3.9%であった。また編み地の作製を試みたところ、編み立て性は良好であり、ソフトな風合いを有する編み地が得られた。
【0088】
比較例1
60℃、24時間の真空乾燥により絶乾状態としたセルロースジアセテート(ダイセル化学工業(株)製、L−40、酢化度55%(置換度2.5))50重量部と60℃、24時間の真空乾燥により絶乾状態としたL−ラクチド(ピュラック社製)50重量部を、室温でプレブレンドした。その後、この混合物を予め140℃に昇温したラボプラストミル(東洋精機(株)製、バッチ式混練ニーダー)中に30rpmで回転させた状態で5分間かけて投入した。触媒としてオクチル酸スズを0.1重量部添加後、引き続き、回転数を90rpmまで上げた後20分間加熱混練し反応を行った。得られたポリマーをP5とする。
【0089】
ポリマーP5の220℃における加熱減量率を測定したところ、4.0%と耐熱が十分に優れていた。また、溶融粘度は、180Pa・secと良好な流動性を示した。
【0090】
ポリマーP5を60℃にて24時間乾燥して絶乾状態とした後、単軸型溶融紡糸を用いて、メルター温度230℃にて溶融させ、吐出量5.9g/minの条件で、0.23mmφ−0.30mmLの口金孔を6ホール有するパック部温度230℃の口金より紡出させた。紡出糸条は25℃のチムニー風によって冷却し、油剤を付与して収束した後、450m/分で回転する第1ゴデットローラーにて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して、巻き取り張力が0.1cN/dtexとなる速度で回転するワインダーにて巻き取った。製糸性は悪く、糸切れが多発した。得られた繊維は、強度が0.4cN/dtex、伸度が29%、単糸繊度が21.9dtex、U%が1.4%であった。また、繊維の70℃温水中における収縮率は45%と非常に高く、染色などの後加工に問題のあるものであった。得られた繊維を筒編み機にて、編み地の作製を試みたところ、編み立て性は良好であり、ソフトな風合いを有する編み地が得られた。
【0091】
比較例2
60℃、24時間の真空乾燥により絶乾状態としたセルロースジアセテート(ダイセル化学工業(株)製、L−40、酢化度55%(置換度2.5))50重量部とεカプロラクトン(和光純薬社製)50重量部を、室温でプレブレンドした。その後、この混合物を予め140℃に昇温したラボプラストミル(東洋精機(株)製、バッチ式混練ニーダー)中に30rpmで回転させた状態で5分間かけて投入した。触媒としてオクチル酸スズを0.1重量部添加後、引き続き、回転数を90rpmまで上げた後20分間加熱混練し反応を行った。得られたポリマーをP6とする。
【0092】
ポリマーP6の220℃における加熱減量率を測定したところ、3.8%と耐熱が十分に優れていた。また、溶融粘度は、40Pa・secと良好な流動性を示した。
【0093】
ポリマーP6を60℃にて24時間乾燥して絶乾状態とした後、単軸型溶融紡糸を用いて、メルター温度220℃にて溶融させ、吐出量5.9g/minの条件で、0.23mmφ−0.30mmLの口金孔を6ホール有するパック部温度220℃の口金より紡出させた。紡出糸条は25℃のチムニー風によって冷却し、油剤を付与して収束した後、450m/分で回転する第1ゴデットローラーにて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して、巻き取り張力が0.1cN/dtexとなる速度で回転するワインダーにて巻き取った。製糸性は悪く、糸切れが多発した。得られた繊維は、強度が0.4cN/dtex、伸度が70%と非常に高く、単糸繊度が21.9dtex、U%が2.0%であった。また、繊維の70℃温水中における収縮率は60%と非常に高く、染色などの後加工に問題のあるものであった。得られた繊維を筒編み機にて、編み地の作製を試みたが、摩擦加熱による軟化も見られ、編み立て性が不良であった。得られた編み地もヌメリ感が強く、衣料用としては不適なものであった。
【0094】
比較例3
60℃、24時間の真空乾燥により絶乾状態としたセルロースジアセテート(ダイセル化学工業(株)製、L−40、酢化度55%(置換度2.5))70重量部と60℃、ジオクチルフタレート30重量部を、室温でプレブレンドした。その後、この混合物を予め200℃に昇温したラボプラストミル(東洋精機(株)製、バッチ式混練ニーダー)中に30rpmで回転させた状態で5分間かけて投入した。引き続き、回転数を90rpmまで上げた後10分間加熱混練し反応を行った。得られたポリマーをP7とする。
【0095】
ポリマーP7の220℃における加熱減量率を測定したところ、7.8%と高かった。また、溶融粘度は、240Pa・secと非常に高かった。
【0096】
ポリマーP7を60℃にて24時間乾燥して絶乾状態とした後、単軸型溶融紡糸を用いて、メルター温度250℃にて溶融させ、吐出量5.9g/minの条件で、0.23mmφ−0.30mmLの口金孔を6ホール有するパック部温度250℃の口金より紡出させた。紡出糸条は25℃のチムニー風によって冷却し、油剤を付与して収束した後、450m/分で回転する第1ゴデットローラーにて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して、巻き取り張力が0.1cN/dtexとなる速度で回転するワインダーにて巻き取ることを試みたが、糸切れが多発して製糸化はできなかった。
【0097】
【表1】
【0098】
【表2】
【0099】
【発明の効果】
本発明の熱可塑性セルロースエステル組成物繊維は、セルロース由来ながら溶融紡糸性に優れた繊維を提供することが可能となる。また、温水中における熱収縮率も小さいことから得られる繊維は、生分解性を活かした分野、すなわち、農業用資材、林業用資材、水産資材、土木資材、衛生資材、日用品、衣料用繊維、産業用繊維、不織布などとして好適に用いることができる。
【発明の属する技術分野】
本発明は、セルロースエステル組成物からなる繊維に関する。より詳しくは、特定のエステル構造をセルロースエステルの側鎖部分、および含有されるオリゴマーおよび/またはポリマー中に有する組成物からなる繊維である。
【0002】
【従来の技術】
セルロースおよびセルロースエステル、セルロースエーテル等のセルロース誘導体は、地球上で最も大量に生産されるバイオマス系材料として、また、環境中にて生分解可能な材料として昨今の大きな注目を集めつつある。現在商業的に利用されているセルロースエステルの代表例としては、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート等が挙げられ、プラスチック、フィルター、塗料など幅広い分野に利用されている。
【0003】
セルロースの繊維としての利用に関しては、自然界中で産生する綿や麻などの短繊維をそのまま紡績して使用することが古くから行われてきた。短繊維ではなく、フィラメント材料を得るためには、レーヨンの様にセルロースを二硫化炭素等の特殊な溶媒系で溶解させ湿式紡糸法での製糸を行うか、セルロースアセテートの様にセルロースを誘導体化して、塩化メチレンやアセトン等の有機溶媒に溶解させた後、この溶媒を蒸発させながら紡糸する乾式紡糸法での製糸を行うしか方法がない。
【0004】
これらの製法で得られたセルロース系繊維は、熱可塑性を有していないため、熱軟化挙動を利用しての延伸、仮撚加工などは困難であった。また湿式紡糸法あるいは乾式紡糸法を用いた場合には、溶媒除去が必要などの制約があり、繊維の断面を任意に設計することが困難であった。
【0005】
さらに、これらの湿式紡糸法あるいは乾式紡糸法では、紡糸速度が遅いため生産性が低いという問題があるだけでなく、使用する二硫化炭素、アセトン、塩化メチレン等の有機溶剤が環境に対して悪影響を及ぼす懸念が強いため、環境との調和を考える場合には、決して良好な製糸方法とは言えない。
【0006】
一方、溶融紡糸法を用いる方法としてはセルロースアセテートにポリエチレングリコールのような水溶性可塑剤を配合して溶融紡糸を行い、中空糸用の繊維を製造するものがある(例えば、特開昭51−70816号公報参照)が、平均分子量200〜1000のポリエチレングリコールを単独で使用しても紡糸の際の断糸率が高いことから、低い紡糸ドラフトでないと溶融紡糸は困難である。さらに、ポリエチレングリコールのような吸湿性の強い可塑剤を単独で使用することは用途の点から制限が大きい。
【0007】
セルロースエステル樹脂は、汎用合成樹脂のように熱可塑成形によって溶融加工して成型品とするにはいくつかの問題を有している。例えば、セルロースアセテート樹脂の融点は、分解点より高い280℃近傍であり、融点を下げて溶融加工に適した温度とするために可塑剤を混合しなければならない。
【0008】
そこで、押出、射出成形用に用いられているセルロースエステルの可塑剤として、フタル酸エステルであるジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ブチルベンジルフタレート、エチルフタリルエチルグリコレート等、トリメリット酸エステルであるトリメチルトリメリテート、トリエチルトリメリテート等が知られている。前記可塑剤を含有した脂肪酸セルロースエステル系組成物は、軟化温度が低下して加工しやすくなり、例えばシート、フィルム、パルプ、棒、印材、装飾品、眼鏡枠、工具柄、食器具柄、玩具、雑貨等とに広範囲に使用されている。
【0009】
しかしながら、これらの可塑剤を用いたセルロース脂肪酸エステル組成物では、例えば溶融紡糸のように長時間にわたる連続成形加工を行う場合には可塑剤の揮発が激しいという問題が発生する。具体的な弊害としては、作業環境の悪化および得られた糸から可塑剤が揮発して表面に付着することによって布帛にしたときに風合いが低下することが挙げられる。また、フタル酸エステルに代表される化合物は環境ホルモンのおそれが懸念される。
【0010】
一方、外部可塑剤を添加するのではなく、セルロース誘導体に直接グラフト反応を行うことによって内部可塑化を行う方法として、特開昭58−225101号公報、特開昭59−86621号公報、特開平7−179662号公報、特開平11−255801号公報などに記載が見られるようにセルロースアセテート主鎖に対してεカプロラクトンを主体に開環グラフト重合したポリマーおよびその製造方法が知られている。これらのポリマーではブリードアウトの懸念がないものの、主鎖が主としてポリカプロラクトンからなるため、60℃程度の低い温度で側鎖の流動が生じてしまい、繊維として最低限必要となる耐熱性を満足できるものではなかった。また、他の方法として、セルロースエステルの存在下で、多塩基酸又はその無水物と、モノエポキシド化合物又は多価アルコールとを混練練り混み反応させて、フィルム用熱可塑性セルロース誘導体組成物に製造方法が開示されている(特許文献1参照)。
また、該組成物にさらにクエン酸トリエステルなどのセルロースエステル用可塑剤として既知の可塑剤を添加することで、熱可塑性セルロース誘導体組成物を得る方法が開示されている(非特許文献1参照)。しかし、該組成物を用いた繊維としての利用は全く知られていない。
【0011】
【特許文献1】
特開平6−207045号公報(第1頁)
【0012】
【非特許文献1】
J. Appl. Polym. Sci, vol.81, P243−250(2001)
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、従来技術の課題を解決し、長繊維として利用が可能な汎用性を持ち、かつ良好な機械的特性を備えたセルロースエステル組成物繊維を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上述した本発明の課題は、少なくとも下記一般式(1)の構造を側鎖に含むセルロースエステルIと下記一般式(1)の構造を含むオリゴマーおよび/またはポリマーIIとを含んでなる組成物からなることを特徴とする熱可塑性セルロースエステル組成物からなる繊維によって達成できる。
【0015】
【化7】
【0016】
但し、上記一般式(1)のAは下記一般式(2)、(3)、(4)から選ばれる一種以上であり、Bは下記一般式(5)、(6)から選ばれる一種以上である。
【0017】
【化8】
【0018】
【化9】
【0019】
【化10】
【0020】
【化11】
【0021】
【化12】
【0022】
【発明の実施の形態】
本発明におけるセルロースエステル組成物繊維は下記一般式(1)の構造を側鎖に含むセルロースエステルIと下記一般式(1)の構造を含むオリゴマーおよび/またはポリマーIIとを含んでなる組成物よりなる。
【0023】
【化13】
【0024】
本発明におけるセルロースエステルIの側鎖は下記一般式(1)の構造を含有することが必要である。下記一般式(1)の構造を有することで良好な熱可塑性が得られる。
【0025】
【化14】
【0026】
具体的にはAとして下記一般式(2)、(3)、(4)から選ばれる一種以上をとる。
【0027】
【化15】
【0028】
【化16】
【0029】
【化17】
【0030】
上記化合物を有するセルロースエステルIの側鎖は分子間相互作用も強く熱収縮が小さいため、これを含有してなる繊維の熱収縮率が小さくなるため好ましい。より好ましくは下記一般式(2)をとることである。
【0031】
【化18】
【0032】
Bとして下記一般式(5)、(6)から選ばれる一種以上をとる。
【0033】
【化19】
【0034】
【化20】
【0035】
上記化合物からなるセルロースエステルIの側鎖はセルロースエステルIに良好な熱可塑性を与え、これを含有するセルロースエステル組成物からなる繊維の物性が優れた物になるため好ましい。一般式(6)中のnは1〜5をとるのが得られる繊維の熱収縮性を小さくするため好ましい。
【0036】
本発明におけるセルロースエステル組成物におけるセルロースエステルIの一般式(1)の構造を含む側鎖を除いたセルロースエステル主鎖の割合は組成物全体の50〜90重量%であるのが好ましい。50重量%以上であることで、セルロース誘導体の好ましい特性が発現しやすくなるため好ましい。また、90重量%以下であることで、熱可塑性の付与が大きく、溶融紡糸が容易となって得られる繊維の物性が優れたものになるため好ましい。セルロースエステル主鎖の割合は好ましくは組成物全体の60〜80重量%であり、さらに好ましくは65〜75重量%である。
【0037】
また本発明におけるセルロースエステルIは、一般式(1)の構造以外のアシル基を含有することができる。具体的には、アセチル基、プロピオニル基、ブチル基、フタリル基等を単独もしくは混合して含有するものであってもよい。汎用性の点からアセチル基を含有するものであることが好ましい。
【0038】
セルロースエステルIの一般式(1)の構造以外のアシル基の置換度は、グルコース単位あたり0〜2.9であることが好ましい。また、良好な生分解性を得るためには、単位グルコースあたりの置換された水酸基の数で表す置換度が比較的低い値、例えば0〜2.2であることが好ましく、0.5〜2.2がより好ましい。良好な流動性を得るためには、比較的高い値、例えば2.2〜2.9であることが好ましいので、目的によって適宜決めることができる。また、得られたセルロースエステルIの熱可塑性の点から置換度は2.5〜2.9であることがより好ましい。
【0039】
また、本発明におけるセルロースエステル組成物は、下記一般式(1)の構造を含有するオリゴマーおよび/またはポリマーIIを含有する。セルロースエステルIの側鎖と同じ構造を有することで、セルロースエステルIとの親和性が向上し、加熱したときのブリードアウトを防ぐことができる。なお、下記一般式(1)のA、BはセルロースエステルIと同じであることが親和性の点から好ましいが限定されない。
【0040】
【化21】
【0041】
該組成物の製造方法に関しては、未置換水酸基を有するセルロース、またはアセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、フタリル基等のアシル基によってすでに一部の水酸基が置換されているセルロースエステルの存在下で、多塩基酸又はその無水物と、多価アルコールとのエステル化反応を、二軸押出機などを用いて混練練りこみ反応により行い、一方ではホモオリゴエステルないしホモポリエステルを生じせしめ、その一部は外部可塑剤として残存させるとともに、他方では、オリゴエステル鎖ないしポリエステル鎖を前記セルロース誘導体中に、エステル基として導入することによって得られることが知られており、これら従来公知の方法にて行えばよく、特に限定されない。
【0042】
エステル化反応に用いる多塩基酸無水物として、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水フマル酸が挙げられるが特に限定されない。
【0043】
エステル化反応に用いることができる多価アルコールとして、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコールなどが挙げられるが特に限定されない。
【0044】
エステル化反応に用いる触媒としては、無触媒で反応をすることもできるが、公知のルイス酸触媒などを用いることができる。使用できる触媒としてはスズ、亜鉛、チタン、ビスマス、ジルコニウム、ゲルマニウム、アンチモン、ナトリウム、カリウム、アルミニウムなどの金属およびその誘導体が挙げられ、特に誘導体については金属有機化合物、炭酸塩、酸化物、ハロゲン化物が好ましい。具体的にはオクチルスズ、塩化スズ、塩化亜鉛、塩化チタン、アルコキシチタン、酸化ゲルマニウム、酸化ジルコニウム、三酸化アンチモン、アルキルアルミニウムなどを例示することができる。また、触媒としてパラトルエンスルホン酸に代表される酸触媒を用いることもできる。
【0045】
また、カルボン酸とアルコールとの脱水反応を促進するためにカルボジイミド、ジメチルアミノピリジンなど公知の化合物を添加してもよい。
【0046】
また、本発明において、一般式(1)の構造を含むオリゴマーおよび/またはポリマーII以外の可塑剤IIIをさらに含むことができる。可塑剤IIIを加えることで溶融成形性が良好になるため好ましい。可塑剤IIIはセルロースエステルの可塑剤として公知のものを用いることができる。具体的には低分子量可塑剤としては、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジヘキシルフタレート、ジオクチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、エチルフタリルエチルグルコレート、ブチルフタリルブチルグリコレートなどのフタル酸エステル類、テトラオクチルピロメリテート、トリオクチルトリメリテートなどの芳香族多価カルボン酸エステル類、ジブチルアジペート、ジオクチルアジペート、ジブチルセバケート、ジオクチルセバケート、ジエチルアゼレート、ジブチルアゼレート、ジオクチルアゼレートなどの脂肪族多価カルボン酸エステル類、グリセリントリアセテート、ジグリセリンテトラアセテート、アセチル化グリセライド、モノグリセライド、ジグリセライドなどの多価アルコールの脂肪酸エステル類、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェートなどのリン酸エステル類などを挙げることができる。
【0047】
可塑剤IIIはセルロースエステル組成物を溶融成形する際に可塑剤の揮発を抑える点から、分子量が320以上であるのが好ましい。具体的にはジオクチルフタレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、ジオクチルアジペート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェートなどが好ましい。
【0048】
また高分子量の可塑剤としては、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートなどのグリコールと二塩基酸とからなる脂肪族ポリエステル類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸などのオキシカルボン酸からなる脂肪族ポリエステル類、ポリカプロラクトン、ポリプロピオラクトン、ポリバレロラクトンなどのラクトンからなる脂肪族ポリエステル類、ポリビニルピロリドンなどのビニルポリマー類などが挙げられる。可塑剤IIIはこれらを単独もしくは併用して使用することができる。
【0049】
本発明のセルロースエステル組成物繊維に含まれる上記可塑剤IIIの含有量は繊維全体の1〜20重量%含有することが好ましい。1重量%以上の可塑剤IIIを含有することで、熱可塑性を付与し、繊維の延伸、仮撚加工などを可能にする。20重量%以下にすることで、可塑剤IIIの繊維表面へのブリードアウトを防止して、繊度斑、染め斑なく、ヌメリ感のない風合いの良好な品位に優れた繊維が得られる。可塑剤IIIの含有量は、好ましくは4〜18重量%、より好ましくは5〜15重量%である。
【0050】
該可塑剤IIIは一例としてセルロースエステル組成物への混練は未置換セルロースまたはセルロースエステルの多塩基酸および/またはその無水物と多価アルコールとの混練反応の時に同時に添加することが好ましいが、繊維化の前に添加するならばいずれの段階でもよく限定されない。
【0051】
本発明におけるセルロースエステル組成物は、220℃における加熱減量率が5wt%以下であることが好ましい。ここで、加熱減量率とは窒素下において室温から300℃まで、10℃/分の昇温速度で試料を昇温した時の、220℃における重量減少率をいう。低分子可塑剤を大量に含むこと等がなく、加熱減量率が5wt%以下である場合には、溶融紡糸の際に発煙が生じて製糸性不良となることがなく、得られる繊維の機械的特性も良好となるたえ好ましい。良好な耐熱性の観点からは、3wt%以下であることがより好ましい。
【0052】
本発明におけるセルロースエステル組成物は、220℃、1000sec−1における溶融粘度が20〜200Pa・secであることが好ましい。220℃、1000sec−1における溶融粘度が20Pa・sec以上である場合には、紡糸後の固化が十分に進み、収束しても繊維同士が膠着することがないため好ましい。また、この場合、口金背面圧が十分に得られるため、分配性が良好となり、繊度の均一性が担保されるという利点も有している。一方溶融粘度が200Pa・sec以下である場合には、紡出糸条の曳糸性が良好であり、十分な配向が得られて機械特性の優れた繊維となるため好ましい。また、配管圧力の異常な上昇によるトラブルが生じることもない。良好な流動性の観点から、220℃、1000sec−1における溶融粘度が20〜200Pa・secであることがより好ましく、50〜190Pa・secであることが最も好ましい。
【0053】
本発明における繊維は、上述の少なくとも下記一般式(1)の構造を側鎖に含むセルロースエステルIと下記一般式(1)の構造を含むオリゴマーおよび/またはポリマーIIとを含んでなるセルロースエステル組成物からなる。
【0054】
【化22】
【0055】
繊維の強度は0.5〜3cN/dtexであることが好ましい。0.5cN/dtex以上とすることにより、製織や製編時などの高次加工工程通過性が良好になり、また最終製品の強力も十分となり好ましく、3cN/dtex以下では伸度が低下せず、毛羽立ちを抑えられ糸切れが少ないため好ましい。強度は0.7cN/dtex以上が好ましく、1.0cN/dtex以上がより好ましい。
【0056】
伸度は2〜50%が好ましい。伸度を2%以上とすることにより、製織や製編時など高次加工工程において糸切れし難くなる。また、伸度を50%以下とすることにより、繊維は低い応力であれば変形することがなく、製織時の緯ひけなどによる最終製品の染色欠点を生じることがない。伸度は5〜45%が好ましく、10〜40%がより好ましい。
【0057】
本発明におけるセルロースエステル組成物よりなる繊維は、繊維の長さ方向の繊度斑を表すU%(ウースターノーマル%)が5%以下であることが好ましい。U%が5%以下であることは、繊度の均一性に優れることから好ましく、より好ましくは3%以下、更に好ましくは2%以下である。
【0058】
本発明におけるセルロースエステル組成物よりなる繊維の70℃温水中における収縮率が40%以下であることが好ましい。70℃温水中における収縮率と繊維を70℃温水中に5分浸した後に、前と比べて収縮している長さの割合である。40%以下であることで、布帛の染色などの後加工において加熱を行う時に収縮することがなく好ましい。15%以下であることがさらに好ましい。
【0059】
単糸繊度は0.5〜100dtexであることが好ましい。単糸繊度が0.5dtex以上であれば、溶融紡糸において製糸性よく繊維を得ることができる。また、単糸繊度が100dtex以下であれば、繊維構造物の曲げ剛性が大きすぎることなく、ソフトさが要求される衣料用布帛などにも適用することができる。単糸繊度はより好ましくは2〜50dtexであり、更に好ましくは3〜25dtexである。
【0060】
繊維断面形状に関しては特に制限がなく、真円状の円形断面であっても良いし、また、多葉形、扁平形、楕円形、W字形、S字形、X字形、H字形、C字形、田字形、井桁形、中空などの異形断面糸でも良い。
【0061】
また、本発明のセルロースエステル組成物繊維は、艶消し剤、消臭剤、難燃剤、糸摩擦低減剤、抗酸化剤、着色顔料等として、無機粒子や有機化合物を必要に応じて含有することができる。
【0062】
本発明におけるセルロースエステル組成物繊維は、衣料用フィラメント、衣料用ステープル、産業用フィラメント、産業用ステープル、医療用フィラメントとすることが可能であり、また不織布用繊維とすることも好ましく採用できる。
【0063】
本発明におけるセルロースエステル組成物繊維の製造方法は限定されないがセルロースエステル組成物を溶融紡糸することにより得ることができる。
【0064】
本発明で用いる溶融紡糸法としては、前記した組成物を公知の溶融紡糸機において、加熱溶融した後に口金から押出し、紡糸し、必要に応じて延伸し巻取る方法を用いることができる。この際、紡糸温度は190℃〜240℃が好ましく、さらに好ましくは200℃〜230℃である。紡糸温度を190℃以上とすることにより、溶融粘度が低くなり溶融紡糸性が向上するので好ましい。また240℃以下にすることにより、組成物の熱分解が抑制されるため好ましい。
【0065】
また、混合物は気泡の混入をできるだけ少なくするために、溶融紡糸機に供給する前にエクストルーダーを用いてペレット化しておくか、エクストルーダーが配管によって溶融紡糸機と結合されていることが望ましい。また、ペレット化したセルロースエステル組成物は溶融紡糸に先立ち、溶融時の加水分解や気泡の発生を防止するために含水率を0.1重量%以下に乾燥することが好ましい。
【0066】
本発明のセルロースエステル組成物からなる繊維は、優れた機械的特性および繊度の均一性を有し、生分解性に優れており、前記繊維を製造する際に熱流動性が優れるため紡糸時の断糸率が極めて少なく、生産性に優れている。また得られた長繊維は織物、編物等の繊維構造物や、メルトブロー法、スパンボンド法による不織布として用いても良い。
【0067】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0068】
なお、実施例中の各特性値は次の方法で求めた。
【0069】
(1)溶融粘度
東洋精機(株)製キャピラリーレオメーター(商標:キャピログラフ1B、L=10mm、D=1.0mmのダイ使用)を用い、測定温度220℃、シェアレート1000sec−1で粘度を測定し、溶融粘度とした。
【0070】
(2)加熱減量率
(株)マック・サイエンス社製TG−DTA2000Sを用い、窒素下において室温から400℃まで10℃/分の昇温度速度で試料を加熱した時、220℃におけるサンプル10mgの重量変化を加熱減量率とした。
【0071】
(3)強伸度
オリエンテック社製テンシロンUCT−100型を用い、試料長20cm、引張速度20cm/minの条件で引張試験を行って、最大荷重を示した点の応力を繊維の強度(cN/dtex)とした。また、破断時の伸度を繊維の伸度(%)とした。
【0072】
(4)単糸繊度
溶融紡糸により得られたマルチフィラメントの繊度を口金ホール数で除した値である。
【0073】
(5)U%
ツェルベガーウースター社製ウースターテスター4−CXにて給糸速度25m/minで1分間の測定を行い、得られた値をU%とした。
【0074】
(6)風合い
得られた繊維を用いて27ゲージの丸編みを作成し、官能検査によって風合いを評価した。十分なドライ感のある物を○、著しいヌメリ感のある物を×とした。なお、○は好ましく、×は問題がある。
【0075】
(7)製糸性
溶融紡糸法による繊維化を行うにあたり、糸切れなく安定して製糸が可能なものを○、走行糸条が安定せず、糸切れが発生するようなものを×とした。なお、○は好ましく、×は問題がある。
【0076】
実施例1
60℃、24時間の真空乾燥により絶乾状態としたセルロースジアセテート(ダイセル化学工業(株)製、L−40、酢化度55%(置換度2.5))70重量部、無水マレイン酸(アルドリッチ製)10重量部、グリセリン(アルドリッチ製)10重量部、可塑剤としてアジピン酸ジオクチル(関東化学製)10重量部を量りとり、室温でプレブレンドした。その後、この混合物を予め140℃に昇温したラボプラストミル(東洋精機(株)製、バッチ式混練ニーダー)中に30rpmで回転させた状態で5分間かけて投入した。引き続き、回転数を90rpmまで上げた後20分間加熱混練し反応を行った。得られたポリマーをP1とする。
【0077】
ポリマーP1の220℃における加熱減量率を測定したところ、4.0%と耐熱が十分に優れていた。また、溶融粘度は、70Pa・secと良好な流動性を示した。
【0078】
ポリマーP1を60℃にて24時間乾燥して絶乾状態とした後、単軸型溶融紡糸を用いて、メルター温度230℃にて溶融させ、吐出量5.9g/minの条件で、0.23mmφ−0.30mmLの口金孔を6ホール有するパック部温度230℃の口金より紡出させた。紡出糸条は25℃のチムニー風によって冷却し、油剤を付与して収束した後、450m/分で回転する第1ゴデットローラーにて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して、巻き取り張力が0.1cN/dtexとなる速度で回転するワインダーにて巻き取った。製糸性は極めて良好であり、糸切れは全く認められなかった。得られた繊維は、強度が0.9cN/dtex、伸度が26%、単糸繊度が21.9dtex、U%が0.7%、70℃温水中における収縮率は4.0%であった。得られた繊維を筒編み機(丸善産業(株)製筒編み機MR1型、27ゲージ)にて、編み地の作製を試みたところ、編み立て性は良好であり、ソフトな風合いを有する編み地が得られた。
【0079】
実施例2
セルロースジアセテートの代わりにセルロースアセテートプロピオネート(イーストマンケミカル製、CAP482−20、DSAc=0.2、DSPr=2.5)を75重量部、可塑剤としてアジピン酸ジオクチルを5重量部用いた以外は実施例1と同様にポリマーを合成し、ポリマーP2を得た。
【0080】
ポリマーP2の220℃における加熱減量率を測定したところ、3.2%と耐熱性が十分に優れていた。また、溶融粘度は、52Pa・secと良好な流動性を示した。
【0081】
ポリマーP2を60℃にて24時間乾燥して絶乾状態とした後、単軸型溶融紡糸機を用いて、メルター温度230℃にて溶融させ、吐出量6.2g/minの条件で、0.23mmφ−0.30mmLの口金孔を12ホール有するパック部温度230℃の口金より紡出させた。紡出糸条は25℃のチムニー風によって冷却し、油剤を付与して収束した後、1000m/分で回転する第1ゴデットローラーにて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して、巻き取り張力が0.1cN/dtexとなる速度で回転するワインダーにて巻き取った。製糸性は極めて良好であり、糸切れは全く認められなかった。得られた繊維は、強度が0.7cN/dtex、伸度が28%、単糸繊度が5.2dtex、U%は1.3%、70℃温水中における収縮率は6.0%であった。また編み地の作製を試みたところ、編み立て性は良好であり、ソフトな風合いを有する編み地が得られた。
【0082】
実施例3
セルロースジアセテート60重量部、可塑剤としてアジピン酸ジオクチルを20重量部用いた以外は実施例1と同様にポリマーを合成しポリマーP3を得た。
【0083】
ポリマーP3の220℃における加熱減量率を測定したところ、5.0%と耐熱性が十分に優れていた。また、溶融粘度は、55Pa・secと良好な流動性を示した。
【0084】
ポリマーP3を60℃にて24時間乾燥して絶乾状態とした後、単軸型溶融紡糸機を用いて、メルター温度220℃にて溶融させ、吐出量6.1g/minの条件で、0.23mmφ−0.30mmLの口金孔を24ホール有するパック部温度220℃の口金より紡出させた。紡出糸条は25℃のチムニー風によって冷却し、油剤を付与して収束した後、750m/分で回転する第1ゴデットローラーにて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して、巻き取り張力が0.1cN/dtexとなる速度で回転するワインダーにて巻き取った。製糸性は極めて良好であり、糸切れは全く認められなかった。得られた繊維は、強度が0.6cN/dtex、伸度が40%、単糸繊度が3.4dtex、U%は1.8%、70℃温水中における収縮率は10.0%であった。また編み地の作製を試みたところ、編み立て性は良好であり、ソフトな風合いを有する編み地が得られた。
【0085】
実施例4
グリセリンに変えてエチレングリコールを用い、可塑剤としてクエン酸トリエチルに変えてジオクチルフタレートを用いた以外は実施例1と同様の方法によりポリマーP4を得た。
【0086】
ポリマーP2の220℃における加熱減量率を測定したところ、3.8%と耐熱性が十分に優れていた。また、溶融粘度は、57Pa・secと良好な流動性を示した。
【0087】
ポリマーP4を60℃にて24時間乾燥して絶乾状態とした後、単軸型溶融紡糸機を用いて、メルター温度220℃にて溶融させ、吐出量6.2g/minの条件で、0.23mmφ−0.30mmLの口金孔を12ホール有するパック部温度230℃の口金より紡出させた。紡出糸条は25℃のチムニー風によって冷却し、油剤を付与して収束した後、1000m/分で回転する第1ゴデットローラーにて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して、巻き取り張力が0.1cN/dtexとなる速度で回転するワインダーにて巻き取った。製糸性は極めて良好であり、糸切れは全く認められなかった。得られた繊維は、強度が0.5cN/dtexと若干低いが問題のないレベルであった。伸度が27%、単糸繊度が5.2dtex、U%は1.2%、70℃温水中における収縮率は3.9%であった。また編み地の作製を試みたところ、編み立て性は良好であり、ソフトな風合いを有する編み地が得られた。
【0088】
比較例1
60℃、24時間の真空乾燥により絶乾状態としたセルロースジアセテート(ダイセル化学工業(株)製、L−40、酢化度55%(置換度2.5))50重量部と60℃、24時間の真空乾燥により絶乾状態としたL−ラクチド(ピュラック社製)50重量部を、室温でプレブレンドした。その後、この混合物を予め140℃に昇温したラボプラストミル(東洋精機(株)製、バッチ式混練ニーダー)中に30rpmで回転させた状態で5分間かけて投入した。触媒としてオクチル酸スズを0.1重量部添加後、引き続き、回転数を90rpmまで上げた後20分間加熱混練し反応を行った。得られたポリマーをP5とする。
【0089】
ポリマーP5の220℃における加熱減量率を測定したところ、4.0%と耐熱が十分に優れていた。また、溶融粘度は、180Pa・secと良好な流動性を示した。
【0090】
ポリマーP5を60℃にて24時間乾燥して絶乾状態とした後、単軸型溶融紡糸を用いて、メルター温度230℃にて溶融させ、吐出量5.9g/minの条件で、0.23mmφ−0.30mmLの口金孔を6ホール有するパック部温度230℃の口金より紡出させた。紡出糸条は25℃のチムニー風によって冷却し、油剤を付与して収束した後、450m/分で回転する第1ゴデットローラーにて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して、巻き取り張力が0.1cN/dtexとなる速度で回転するワインダーにて巻き取った。製糸性は悪く、糸切れが多発した。得られた繊維は、強度が0.4cN/dtex、伸度が29%、単糸繊度が21.9dtex、U%が1.4%であった。また、繊維の70℃温水中における収縮率は45%と非常に高く、染色などの後加工に問題のあるものであった。得られた繊維を筒編み機にて、編み地の作製を試みたところ、編み立て性は良好であり、ソフトな風合いを有する編み地が得られた。
【0091】
比較例2
60℃、24時間の真空乾燥により絶乾状態としたセルロースジアセテート(ダイセル化学工業(株)製、L−40、酢化度55%(置換度2.5))50重量部とεカプロラクトン(和光純薬社製)50重量部を、室温でプレブレンドした。その後、この混合物を予め140℃に昇温したラボプラストミル(東洋精機(株)製、バッチ式混練ニーダー)中に30rpmで回転させた状態で5分間かけて投入した。触媒としてオクチル酸スズを0.1重量部添加後、引き続き、回転数を90rpmまで上げた後20分間加熱混練し反応を行った。得られたポリマーをP6とする。
【0092】
ポリマーP6の220℃における加熱減量率を測定したところ、3.8%と耐熱が十分に優れていた。また、溶融粘度は、40Pa・secと良好な流動性を示した。
【0093】
ポリマーP6を60℃にて24時間乾燥して絶乾状態とした後、単軸型溶融紡糸を用いて、メルター温度220℃にて溶融させ、吐出量5.9g/minの条件で、0.23mmφ−0.30mmLの口金孔を6ホール有するパック部温度220℃の口金より紡出させた。紡出糸条は25℃のチムニー風によって冷却し、油剤を付与して収束した後、450m/分で回転する第1ゴデットローラーにて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して、巻き取り張力が0.1cN/dtexとなる速度で回転するワインダーにて巻き取った。製糸性は悪く、糸切れが多発した。得られた繊維は、強度が0.4cN/dtex、伸度が70%と非常に高く、単糸繊度が21.9dtex、U%が2.0%であった。また、繊維の70℃温水中における収縮率は60%と非常に高く、染色などの後加工に問題のあるものであった。得られた繊維を筒編み機にて、編み地の作製を試みたが、摩擦加熱による軟化も見られ、編み立て性が不良であった。得られた編み地もヌメリ感が強く、衣料用としては不適なものであった。
【0094】
比較例3
60℃、24時間の真空乾燥により絶乾状態としたセルロースジアセテート(ダイセル化学工業(株)製、L−40、酢化度55%(置換度2.5))70重量部と60℃、ジオクチルフタレート30重量部を、室温でプレブレンドした。その後、この混合物を予め200℃に昇温したラボプラストミル(東洋精機(株)製、バッチ式混練ニーダー)中に30rpmで回転させた状態で5分間かけて投入した。引き続き、回転数を90rpmまで上げた後10分間加熱混練し反応を行った。得られたポリマーをP7とする。
【0095】
ポリマーP7の220℃における加熱減量率を測定したところ、7.8%と高かった。また、溶融粘度は、240Pa・secと非常に高かった。
【0096】
ポリマーP7を60℃にて24時間乾燥して絶乾状態とした後、単軸型溶融紡糸を用いて、メルター温度250℃にて溶融させ、吐出量5.9g/minの条件で、0.23mmφ−0.30mmLの口金孔を6ホール有するパック部温度250℃の口金より紡出させた。紡出糸条は25℃のチムニー風によって冷却し、油剤を付与して収束した後、450m/分で回転する第1ゴデットローラーにて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して、巻き取り張力が0.1cN/dtexとなる速度で回転するワインダーにて巻き取ることを試みたが、糸切れが多発して製糸化はできなかった。
【0097】
【表1】
【0098】
【表2】
【0099】
【発明の効果】
本発明の熱可塑性セルロースエステル組成物繊維は、セルロース由来ながら溶融紡糸性に優れた繊維を提供することが可能となる。また、温水中における熱収縮率も小さいことから得られる繊維は、生分解性を活かした分野、すなわち、農業用資材、林業用資材、水産資材、土木資材、衛生資材、日用品、衣料用繊維、産業用繊維、不織布などとして好適に用いることができる。
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