JP2004196931A - 溶融成形用熱可塑性セルロースエステル組成物およびそれからなる繊維 - Google Patents
溶融成形用熱可塑性セルロースエステル組成物およびそれからなる繊維 Download PDFInfo
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Abstract
【課題】バイオマス系材料であるセルロースエステルを主成分とする環境負荷の少ない成分からなる溶融成形用セルロースエステル組成物と、それからなる溶融紡糸性に優れ、強伸度特性のみならず繊度の均一性、熱収縮性にも優れたセルロースエステル繊維を提供すること。
【解決手段】(I)少なくとも下記一般式(1)の構造を側鎖に含むセルロースエステルと、(II)下記一般式(1)の構造を含むオリゴマーおよび/またはポリマーと、(III)グリセリンおよび/またはジグリセリンからなる分子量250以上の脂肪酸エステルを5〜20重量%とを含んでなることを特徴とする溶融成形用熱可塑性セルロースエステル組成物およびそれからなる繊維。
【化1】
【選択図】なし
【解決手段】(I)少なくとも下記一般式(1)の構造を側鎖に含むセルロースエステルと、(II)下記一般式(1)の構造を含むオリゴマーおよび/またはポリマーと、(III)グリセリンおよび/またはジグリセリンからなる分子量250以上の脂肪酸エステルを5〜20重量%とを含んでなることを特徴とする溶融成形用熱可塑性セルロースエステル組成物およびそれからなる繊維。
【化1】
【選択図】なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、溶融成形用セルロースエステル組成物およびそれらを溶融紡糸して得られる繊維に関するものである。より詳しくは、特定のエステル構造をセルロースエステルの側鎖部分、および含有されるオリゴマーおよび/またはポリマー中に有する組成物およびグリセリンおよび/またはジグリセリンから選ばれる脂肪酸エステルを含んでなるセルロースエステル組成物および繊維である。
【0002】
【従来の技術】
セルロースおよびセルロースエステル、セルロースエーテル等のセルロース誘導体は、地球上で最も大量に生産されるバイオマス系材料として、また、環境中にて生分解可能な材料として昨今の大きな注目を集めつつある。現在商業的に利用されているセルロースエステルの代表例としては、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート等が挙げられ、プラスチック、フィルター、塗料など幅広い分野に利用されている。
【0003】
セルロースの繊維としての利用に関しては、自然界中で産生する綿や麻などの短繊維をそのまま紡績して使用することが古くから行われてきた。短繊維ではなく、フィラメント材料を得るためには、レーヨンの様にセルロースを二硫化炭素等の特殊な溶媒系で溶解させ湿式紡糸法での製糸を行うか、セルロースアセテートの様にセルロースを誘導体化して、塩化メチレンやアセトン等の有機溶媒に溶解させた後、この溶媒を蒸発させながら紡糸する乾式紡糸法での製糸を行うしか方法がない。
【0004】
しかし、これらの湿式紡糸法あるいは乾式紡糸法では、紡糸速度が遅いため生産性が低いという問題があるだけでなく、使用する二硫化炭素、アセトン、塩化メチレン等の有機溶剤が環境に対して悪影響を及ぼす懸念が強いため、環境との調和を考える場合には、決して良好な製糸方法とは言えない。
【0005】
一方、溶融紡糸法を用いる方法としてはセルロースアセテートにポリエチレングリコールのような水溶性可塑剤を配合して溶融紡糸を行い、中空糸用の繊維を製造するものがある(例えば、特開昭51−70816号公報参照)が、平均分子量200〜1000のポリエチレングリコールを単独で使用しても紡糸の際に断糸率が高いことから、低い紡糸ドラフトでないと溶融紡糸は困難である。さらに、ポリエチレングリコールのような吸湿性の強い可塑剤を単独で使用することは用途の点から制限が大きい。
【0006】
セルロースエステル樹脂は、汎用合成樹脂のように熱可塑成形によって溶融加工して成型品とするにはいくつかの問題を有している。例えば、セルロースアセテート樹脂の融点は、分解点より高い280℃近傍であり、融点を下げて溶融加工に適した温度とするために可塑剤を混合しなければならない。
【0007】
そこで、押出、射出成形用に用いられているセルロースエステルの可塑剤として、フタル酸エステルであるジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ブチルベンジルフタレート、エチルフタリルエチルグリコレート等、トリメリット酸エステルであるトリメチルトリメリテート、トリエチルトリメリテート等が知られている。前記可塑剤を含有した脂肪酸セルロースエステル系組成物は、軟化温度が低下して加工しやすくなり、例えばシート、フィルム、パルプ、棒、印材、装飾品、眼鏡枠、工具柄、食器具柄、玩具、雑貨等とに広範囲に使用されている。
【0008】
しかしながら、これらの可塑剤を用いたセルロース脂肪酸エステル組成物では、例えば溶融紡糸のように長時間にわたる連続成形加工を行う場合には可塑剤の揮発が激しいという問題が発生する。具体的な弊害としては作業環境の悪化および得られた糸から可塑剤が揮発して表面に付着することによって布帛にしたときに風合いが低下することが挙げられる。また、フタル酸エステルに代表される化合物は環境ホルモンのおそれが懸念される。
【0009】
一方、外部可塑剤を添加するのではなく、セルロース誘導体に直接グラフト反応を行うことによって内部可塑化を行う方法として、特開昭58−225101号公報、特開昭59−86621号公報、特開平7−179662号公報、特開平11−255801号公報などに記載が見られるようにセルロースアセテート主鎖に対してεカプロラクトンを主体に開環グラフト重合したポリマーおよびその製造方法が知られている。これらのポリマーではブリードアウトの懸念がないものの、主鎖が主としてポリカプロラクトンからなるため、60℃程度の低い温度で側鎖の流動が生じてしまい、繊維として最低限必要となる耐熱性を満足できるものではなかった。また、他の方法として、セルロースエステルの存在下で、多塩基酸又はその無水物と、モノエポキシド化合物又は多価アルコールとを混練練り混み反応させて、フィルム用熱可塑性セルロース誘導体組成物に製造方法が開示されている(特許文献1参照)。また、該組成物にさらにクエン酸トリエステルなどのセルロースエステル用可塑剤として既知の可塑剤を添加することで、熱可塑性セルロース誘導体組成物を得る方法が開示されている(非特許文献1参照)。しかし、内部可塑化だけでは十分な熱可塑化効果を得られないため、可塑剤としてクエン酸トリエチルなどを用いているが、生分解性、側鎖に多塩基酸またはその無水物あるいは多価アルコールの反応物が付加したセルロースエステルとの相溶性が低い。そのため、クエン酸トリエチルなどの既存の可塑剤を用いた場合には溶融紡糸など長時間にわたる連続成形加工を行う場合には可塑剤の揮発が激しいという問題が発生する。そのため、溶融紡糸に必要な熱流動性および低揮発性を有するセルロースアセテートの内部可塑化と外部可塑化の組み合わせがないというのが現状である。
【0010】
また、生分解性を有する可塑剤としてグリセリン骨格を有する化合物を用いた例が開発されている。セルロースアセテートに可塑剤としてグリセリンエステルまたはジグリセリンエステルを用いた押出・射出成形が開示され、溶融成形の成形材料に用いられることが開示されている(特開昭54−8654号公報、特開2000−30182号公報)。しかし、セルロースアセテートに対して、溶融紡糸に必要な高い熱流動性を付与するためにはポリマー全体の40〜67重量%の可塑剤を添加する必要があり、長時間にわたる連続成形加工を行う場合には可塑剤の揮発が激しいという問題が発生するため、セルロースアセテートとグリセリン、ジグリセリンエステルを用いた組み合わせでは、溶融紡糸可能な流動性を得られる熱可塑化効果を十分に満足できない。
【0011】
【特許文献1】
特開平6−207045号公報(第1頁)
【0012】
【非特許文献1】
J.Appl.Polym.Sci,vol.81,p243−250(2001)
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は上記のような問題点を克服し、バイオマス系材料であるセルロースエステルおよび生分解性を有するグリセリンの脂肪酸エステル、ジグリセリンの脂肪酸エステルを主成分とする環境負荷の小さい成分からなる溶融成形用セルロースエステル組成物と、それらからなる溶融紡糸性に優れ、強伸度特性のみならず繊度の均一性にも優れたセルロースエステル繊維を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上述した本発明の課題は、特定のエステル構造をセルロースエステルの側鎖部分および含有されるオリゴマーおよび/またはポリマー中に有する組成物とグリセリンおよび/またはジグリセリンから選ばれる分子量250以上の脂肪酸エステルからなるセルロースエステル組成物によって解決することができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明におけるセルロースエステル組成物は、(I)下記一般式(1)の構造を側鎖に含むセルロースエステルと、(II)下記一般式(1)の構造を含むオリゴマーおよび/またはポリマーと、(III)グリセリンおよび/またはジグリセリンから選ばれる分子量250以上の脂肪酸エステル5〜20重量%とを含んでなる組成物よりなる。
【0016】
【化10】
【0017】
本発明におけるセルロースエステル(I)の側鎖は、下記一般式(1)の構造を含有することが必要である。下記一般式(1)の構造を有することで良好な熱可塑性が得られる。
【0018】
【化11】
【0019】
具体的にはAとして下記一般式(2)、(3)、(4)から選ばれる。
【0020】
【化12】
【0021】
【化13】
【0022】
【化14】
【0023】
上記化合物を有するセルロースエステルの側鎖は、分子間相互作用も強く熱収縮が小さいため、これを含有してなる溶融成形物の熱収縮率が小さくなるため好ましい。より好ましくは下記一般式(2)である。
【0024】
【化15】
【0025】
Bとして下記一般式(5)である。
【0026】
【化16】
【0027】
上記化合物を有するセルロースエステルの側鎖は良好な熱流動性を与えるため好ましい。
【0028】
本発明のセルロースエステル組成物は、セルロースエステルIの一般式(1)の構造を有する側鎖を除いたセルロースエステル主鎖の割合が、組成物全体の50〜90重量%であることが好ましい。50重量%以上であることで、セルロース誘導体の有する特徴である強度が増し、機械的特性の優れた成形物が得られる。また、90重量%以下であることで、熱可塑性の付与が大きく、溶融成形性が良好になる。セルロースエステル主鎖の割合は好ましくは組成物全体の60〜80重量%であり、さらに好ましくは65〜75重量%である。
【0029】
また本発明におけるセルロースエステルIは、一般式(1)の構造以外のアシル基を含有することができる。具体的には、アセチル基、プロピオニル基、ブチル基、フタリル基等を単独もしくは混合して含有するものであってもよい。汎用性の点からアセチル基を含有するものであることが好ましい。
【0030】
セルロースエステルIの一般式(1)の構造以外のアシル基の置換度は、グルコース単位あたり0〜2.9であることが好ましい。また、良好な生分解性を得るためには、置換された水酸基の数で表す置換度が比較的低い値、例えば0〜2.2であることが好ましく、0.5〜2.0であることがより好ましい。良好な流動性を得るためには、比較的高い置換度、例えば2.2〜2.9であることが好ましいので、目的によって適宜決めることができる。また、得られたセルロースエステル組成物の熱可塑性の点から置換度は2.5〜2.9であることがより好ましい。
【0031】
また、本発明のセルロースエステル組成物は、(II)下記一般式(1)の構造を含有するオリゴマーおよび/またはポリマーを含有する。セルロースエステルIの側鎖と同じ構造を有することで、セルロースエステルとの親和性が向上し、加熱したときのブリードアウトを防ぐことができる。なお、下記一般式(1)のA、BはセルロースエステルIと同じであることが親和性の点から好ましいが限定されない。
【0032】
【化17】
【0033】
該組成物の製造方法に関しては、未置換水酸基を有するセルロース、またはアセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、フタリル基等のアシル基によってすでに一部の水酸基が置換されているセルロースエステルの存在下で、多塩基酸又はその無水物と、多価アルコールとのエステル化反応を、二軸押出機などを用いて混練練りこみ反応により行い、一方ではホモオリゴエステルないしホモポリエステルを生じせしめ、その一部は外部可塑剤として残存させるとともに、他方では、オリゴエステル鎖ないしポリエステル鎖を前記セルロース誘導体中に、エステル基として導入することによって得られることが知られており、これら従来公知の方法にて行えばよく、特に限定されない。
【0034】
エステル化反応に用いる多塩基酸無水物として、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水フマル酸が挙げられるが特に限定されない。
【0035】
エステル化反応に用いることができる多価アルコールとして、グリセリンなどが挙げられるが特に限定されない。
【0036】
エステル化反応に用いる触媒としては、無触媒で反応をすることもできるが、公知のルイス酸触媒などを用いることができる。使用できる触媒としてはスズ、亜鉛、チタン、ビスマス、ジルコニウム、ゲルマニウム、アンチモン、ナトリウム、カリウム、アルミニウムなどの金属およびその誘導体が挙げられ、特に誘導体については金属有機化合物、炭酸塩、酸化物、ハロゲン化物が好ましい。具体的にはオクチルスズ、塩化スズ、塩化亜鉛、塩化チタン、アルコキシチタン、酸化ゲルマニウム、酸化ジルコニウム、三酸化アンチモン、アルキルアルミニウムなどを例示することができる。また、触媒としてパラトルエンスルホン酸に代表される酸触媒を用いることもできる。
【0037】
また、カルボン酸とアルコールとの脱水反応を促進するためにカルボジイミド、ジメチルアミノピリジンなど公知の化合物を添加してもよい。
【0038】
本発明のセルロースエステル組成物は、(III)分子量250以上のグリセリンの脂肪酸エステルおよび/またはジグリセリンの脂肪酸エステルを生分解性を有する可塑剤として含有する。これは、グリセリン骨格と下記一般式(1)を側鎖に有するセルロースエステルIとが類似の骨格を有するために相溶性が向上し、揮発が抑えられる、さらに熱可塑化効果が顕著に表れる。下記一般式(1)のAが下記一般式(5)のグリセリン骨格を有するため、上記の効果がより顕著に表れる。また分子量が250以上であることで脂肪酸エステルIIIの揮発が抑えられる。脂肪酸エステルIIIの分子量は320以上がより好ましい。
【0039】
【化18】
【0040】
【化19】
【0041】
また、生分解性の低いフェニル基、アルキルフェニル基、アリールフェニル基などの芳香族で置換されていない脂肪酸のエステル化合物を用いることで生分解性が良好になる。本発明における全ての水酸基がアシル化されたグリセリンの脂肪酸エステルIIIは下記一般式(6)で表されるものであり、R1、R2、R3で示されたアシル基の炭素数の合計が7〜26であることが好ましい。R1、R2、R3で示されたアシル基の炭素数の合計が14以上であるのがより好ましく、22以下であるのがより好ましい。
【0042】
また、R1、R2、R3の少なくとも1つのアシル基の炭素数が10〜18であるのが好ましく、16以下であるのがより好ましい。
【0043】
具体的なグリセリンの脂肪酸エステルIIIとして、グリセリンジアセテートステアレート、グリセリンジアセテートパルミテート、グリセリンジアセテートミスチレート、グリセリンジアセテートラウレート、グリセリンジアセテートカプレート、グリセリンジアセテートノナネート、グリセリンジアセテートオクタノエート、グリセリンジアセテートヘプタノエート、グリセリンジアセテートヘキサノエート、グリセリンジアセテートペンタノエート、グリセリンジアセテートオレート、グリセリンアセテートジカプレート、グリセリンアセテートジノナネート、グリセリンアセテートジオクタノエート、グリセリンアセテートジヘプタノエート、グリセリンアセテートジカプロエート、グリセリンアセテートジバレレート、グリセリンアセテートジブチレート、グリセリンジプロピオネートカプレート、グリセリンジプロピオネートラウレート、グリセリンジプロピオネートミスチレート、グリセリンジプロピオネートパルミテート、グリセリンジプロピオネートステアレート、グリセリンジプロピオネートオレート、グリセリントリブチレート、グリセリントリペンタノエート、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリンプロピオネートラウレート、グリセリンオレートプロピオネートなどが挙げられるがこれに限定されない。
【0044】
この中でも、グリセリンジアセテートカプリレート、グリセリンジアセテートペラルゴネート、グリセリンジアセテートカプレート、グリセリンジアセテートラウレート、グリセリンジアセテートミリステート、グリセリンジアセテートパルミテート、グリセリンジアセテートステアレート、グリセリンジアセテートオレートが好ましい。
【0045】
【化20】
【0046】
また、本発明で用いる未置換水酸基を有するグリセリンの脂肪酸エステルは下記一般式(6)で表されるものであり、R1、R2、R3の少なくとも1つが水素であることが好ましい。
【0047】
具体的な例としてはグリセリンステアレート、グリセリンパルミテート、グリセリンミスチレート、グリセリンラウレート、グリセリンカプレート、グリセリンノナネート、グリセリンオクタノエート、グリセリンオレート、グリセリンアセテートステアレート、グリセリンアセテートパルミテート、グリセリンアセテートミスチレート、グリセリンアセテートラウレート、グリセリンアセテートカプレート、グリセリンアセテートノナネート、グリセリンアセテートオクタノエート、グリセリンアセテートヘプタノエート、グリセリンアセテートオレートが挙げられるがこれに限定されない。
【0048】
【化21】
【0049】
また、ジグリセリンの脂肪酸エステルIIIは下記一般式(7)で表されるものであり、R4〜R7の炭素数の合計が8〜64のアシル基であるものが、セルロースアセテートプロピオネートとの相溶性および可塑剤の揮発性の点から好ましい。また、R4〜R7の炭素数の合計が40以下のアシル基であるものがより好ましい。
【0050】
また、ジグリセリンの脂肪酸エステルIIIのR4〜R7の少なくとも1つのアシル基の炭素数が8〜18であるのが好ましい。
【0051】
ジグリセリンの脂肪酸エステルIIIの具体的な例としてはジグリセリンテトラアセテート、ジグリセリンテトラプロピオネート、ジグリセリンテトラブチレート、ジグリセリンテトラバレレート、ジグリセリンテトラヘキサノエート、ジグリセリンテトラヘプタノエート、ジグリセリンテトラカプリレート、ジグリセリンテトラペラルゴネート、ジグリセリンテトラカプレート、ジグリセリンテトララウレート、ジグリセリンテトラミスチレート、ジグリセリンテトラパルミテート、ジグリセリントリアセテートプロピオネート、ジグリセリントリアセテートブチレート、ジグリセリントリアセテートバレレート、ジグリセリントリアセテートヘキサノエート、ジグリセリントリアセテートヘプタノエート、ジグリセリントリアセテートカプリレート、ジグリセリントリアセテートペラルゴネート、ジグリセリントリアセテートカプレート、ジグリセリントリアセテートラウレート、ジグリセリントリアセテートミスチレート、ジグリセリントリアセテートパルミテート、ジグリセリントリアセテートステアレート、ジグリセリントリアセテートオレート、ジグリセリンジアセテートジプロピオネート、ジグリセリンジアセテートジブチレート、ジグリセリンジアセテートジバレレート、ジグリセリンジアセテートジヘキサノエート、ジグリセリンジアセテートジヘプタノエート、ジグリセリンジアセテートジカプリレート、ジグリセリンジアセテートジペラルゴネート、ジグリセリンジアセテートジカプレート、ジグリセリンジアセテートジラウレート、ジグリセリンジアセテートジミスチレート、ジグリセリンジアセテートジパルミテート、ジグリセリンジアセテートジステアレート、ジグリセリンジアセテートジオレート、ジグリセリンアセテートトリプロピオネート、ジグリセリンアセテートトリブチレート、ジグリセリンアセテートトリバレレート、ジグリセリンアセテートトリヘキサノエート、ジグリセリンアセテートトリヘプタノエート、ジグリセリンアセテートトリカプリレート、ジグリセリンアセテートトリペラルゴネート、ジグリセリンアセテートトリカプレート、ジグリセリンアセテートトリラウレート、ジグリセリンアセテートトリミスチレート、ジグリセリンアセテートトリパルミテート、ジグリセリンアセテートトリステアレート、ジグリセリンアセテートトリオレート、ジグリセリンラウレート、ジグリセリンステアレート、ジグリセリンカプリレート、ジグリセリンミリステート、ジグリセリンオレートなどのジグリセリンの混酸エステルが挙げられるが限定されない。
【0052】
この中でも、ジグリセリンテトラアセテート、ジグリセリンテトラプロピオネート、ジグリセリンテトラブチレート、ジグリセリンテトラカプリレート、ジグリセリンテトララウレートが好ましい。
【0053】
【化22】
【0054】
分子量250以上の脂肪酸エステルIIIの含有量は、5〜20重量%である。配合量を20重量%以下とすることにより、機械的特性が良好となり、加熱時の脂肪酸エステルIIIの揮発が抑えられる。また、溶融紡糸性の点から強度が高くなり紡糸断糸率が低下する。一方、含有量を5重量%以上とすることにより、熱流動性の点から、成形温度を低くすることができ、組成物の熱分解が抑制される。
【0055】
(III)グリセリンおよび/またはジグリセリンの脂肪酸エステルは、一例としてセルロースエステル組成物への混練は未置換セルロースまたはセルロースエステルの多塩基酸および/またはその無水物と多価アルコールとの混練反応の時に同時に添加することが好ましいが、繊維化の前に添加するならばいずれの段階でもよく限定されない。
【0056】
本発明のセルロースエステル組成物は、220℃における加熱減量率が5重量%以下であることが好ましい。ここで、加熱減量率とは窒素下において室温から300℃まで、10℃/分の昇温速度で試料を昇温した時の、220℃における重量減少率をいう。低分子可塑剤を大量に含むこと等がなく、加熱減量率が5重量%以下である場合には、溶融紡糸の際に発煙が生じて製糸性不良となることがなく、得られる繊維の機械的特性も良好となるたえ好ましい。良好な耐熱性の観点からは、3重量%以下であることがより好ましい。
【0057】
本発明のセルロースエステル組成物は、220℃、1000sec-1における溶融粘度が20〜200Pa・secであることが好ましい。溶融粘度が20Pa・sec以上である場合には、紡糸後の固化が十分に進み、収束しても繊維同士が膠着することがないため好ましい。また、この場合、口金背面圧が十分に得られるため、分配性が良好となり、繊度の均一性が担保されるという利点も有している。一方溶融粘度が200Pa・sec以下である場合には、紡出糸条の曳糸性が良好であり、十分な配向が得られて機械特性の優れた繊維となるため好ましい。また、配管圧力の異常な上昇によるトラブルが生じることもない。良好な流動性の観点から、220℃、1000sec-1における溶融粘度が20〜200Pa・secであることがより好ましく、50〜190Pa・secであることが最も好ましい。
【0058】
本発明の(I)少なくとも下記一般式(1)の構造を側鎖に含むセルロースエステルと、(II)下記一般式(1)の構造を含むオリゴマーおよび/またはポリマーと、(III)グリセリンおよび/またはジグリセリンの分子量250以上の脂肪酸エステルからなる組成物は熱流動性が良好であり、溶融紡糸法によって繊維化することができる。
【0059】
【化23】
【0060】
繊維の強度は0.5〜3cN/dtexであることが好ましい。0.5cN/dtex以上とすることにより、製織や製編時などの高次加工工程通過性が良好になり、また最終製品の強力も十分となり好ましく、3cN/dtex以下では伸度が低下せず、毛羽立ちを抑えられ糸切れが少ないため好ましい。強度は0.7cN/dtex以上が好ましく、1.0cN/dtex以上がより好ましい。
【0061】
伸度は2〜50%が好ましい。伸度を2%以上とすることにより、製織や製編時など高次加工工程において糸切れし難くなる。また、伸度を50%以下とすることにより、繊維は低い応力であれば変形することがなく、製織時の緯ひけなどによる最終製品の染色欠点を生じることがない。伸度は5〜45%が好ましく、10〜40%がより好ましい。
【0062】
本発明のセルロースエステル繊維は、繊維の長さ方向の繊度斑を表すU%(ウースターノーマル%)が5%以下であることが好ましい。U%が5%以下であることは、繊度の均一性に優れることから好ましく、より好ましくは3%以下、更に好ましくは2%以下である。
【0063】
本発明のセルロースエステル繊維は、70℃温水中における収縮率が40%以下であることが好ましい。70℃温水中における収縮率とは、繊維を70℃温水中に5分浸した後に、前と比べて収縮している長さの割合である。40%以下であることで、布帛の染色などの後加工において加熱を行う時に収縮することがなく好ましい。15%以下であることがさらに好ましい。
【0064】
また、本発明のセルロースエステル繊維は、艶消し剤、消臭剤、難燃剤、糸摩擦低減剤、抗酸化剤、着色顔料等として、無機粒子や有機化合物を必要に応じて含有することができる。
【0065】
本発明におけるセルロースエステル繊維は、衣料用フィラメント、衣料用ステープル、産業用フィラメント、産業用ステープル、医療用フィラメントとすることが可能であり、また不織布用繊維とすることも好ましく採用できる。
【0066】
本発明におけるセルロースエステル繊維の製造方法は限定されないが、本発明のセルロースエステル組成物を溶融紡糸することにより得ることができる。
【0067】
また、組成物は気泡の混入をできるだけ少なくするために、溶融紡糸機に供給する前にエクストルーダーを用いてペレット化しておくか、エクストルーダーが配管によって溶融紡糸機と結合されていることが望ましい。また、ペレット化したセルロースエステル組成物は溶融紡糸に先立ち、溶融時の加水分解や気泡の発生を防止するために含水率を0.1重量%以下に乾燥することが好ましい。
【0068】
本発明のセルロースエステル繊維は、優れた機械的特性および繊度の均一性を有し、生分解性に優れており、前記繊維を製造する際に熱流動性が優れるため紡糸時の断糸率が極めて少なく、生産性に優れている。また得られた長繊維は織物、編物等の繊維構造物や、メルトブロー法、スパンボンド法による不織布として用いても良い。
【0069】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0070】
なお、実施例中の各特性値は次の方法で求めた。
【0071】
(1)溶融粘度
東洋精機(株)製キャピラリーレオメーター(商標:キャピログラフ1B、L=10mm、D=1.0mmのダイ使用)を用い、測定温度220℃、シェアレート1000sec-1で粘度を測定し、溶融粘度とした。
【0072】
(2)加熱減量率
(株)マック・サイエンス社製TG−DTA2000Sを用い、窒素下において室温から400℃まで10℃/分の昇温度速度で試料を加熱した時、220℃におけるサンプル10mgの重量変化を加熱減量率とした。
【0073】
(3)強伸度
オリエンテック社製テンシロンUCT−100型を用い、試料長20cm、引張速度20cm/minの条件で引張試験を行って、最大荷重を示した点の応力を繊維の強度(cN/dtex)とした。また、破断時の伸度を繊維の伸度(%)とした。
【0074】
(4)単糸繊度
溶融紡糸により得られたマルチフィラメントの繊度を口金ホール数で除した値である。
【0075】
(5)U%
ツェルベガーウースター社製ウースターテスター4−CXにて給糸速度25m/minで1分間の測定を行い、得られた値をU%とした。
【0076】
(6)風合い
得られた繊維を用いて27ゲージの丸編みを作成し、官能検査によって風合いを評価した。十分なドライ感のある物を○、ドライ感のない物を△、著しいヌメリ感のある物を×とした。なお、○は好ましく、△は許容できる範囲であるが、×は問題がある。以下、(7)〜(10)においても同様である。
【0077】
(7)口金の汚れ
溶融紡糸後に口金の汚れを評価した。化合物の付着がない場合を○、若干の付着が見られる場合を△、著しい付着がある場合を×とした。
【0078】
(8)流動性
溶融紡糸を行う条件での流動性を評価した。流動性が良く口金から紡出糸がでてくる場合を○、流動性が低く口金から紡出糸が出てこない場合を×とした。
【0079】
(9)曳糸性
溶融紡糸法による繊維化を行うにあたり、糸切れなく安定して製糸が可能なものを○、走行糸条が安定せず、糸切れが発生するようなものを×とした。なお、○は好ましく、×は問題がある。
【0080】
(10)可塑剤の揮発
溶融紡糸を行う条件において、可塑剤の揮発が見られないものを○とした。若干揮発する場合を△、揮発が著しく発煙している場合を×とした。
【0081】
(11)製糸性
上記(6)〜(10)の要件を総合して、製糸性を評価した。製糸性は(6)〜(10)の全てが○の場合を製糸性が良好である○とした。また、(6)〜(10)に×はないが、一つ以上△のある場合を若干の問題がある△、(6)〜(10)に一つ以上×がある場合を製糸性が不良である×とした。
【0082】
実施例1
60℃、24時間の真空乾燥により絶乾状態としたセルロースジアセテート(ダイセル化学工業(株)製、L−40、酢化度55%(置換度2.5))70重量部、無水マレイン酸(アルドリッチ製)10重量部、グリセリン(アルドリッチ製)10重量部、可塑剤としてグリセリンジアセテートモノオレート(理研ビタミン製)10重量部を量りとり、室温でプレブレンドした。その後、この混合物を予め140℃に昇温したラボプラストミル(東洋精機(株)製、バッチ式混練ニーダー)中に30rpmで回転させた状態で5分間かけて投入した。引き続き、回転数を90rpmまで上げた後20分間加熱混練し反応を行った。得られたポリマーをP1とする。
【0083】
ポリマーP1の220℃における加熱減量率を測定したところ、2.8%と耐熱が十分に優れていた。また、溶融粘度は70Pa・secと良好な流動性を示した。
【0084】
ポリマーP1を60℃にて24時間乾燥して絶乾状態とした後、単軸エクストルーダー式溶融紡糸機で、溶融温度220℃、パック部温度220℃にて溶融し、0.20mmφ−0.30mmLの口金孔を36ホール有する口金より紡出した。また、口金からの流動性も良く、口金に汚れは付着しなかった。また、紡出糸からは発煙は認められなかった。紡出糸は25℃のチムニー風により冷却した後、500m/minの速度でゴデットローラーにより引き取り、ワインダーにて巻き取ったところ、紡糸糸切れは認めらず曳糸性もよかった。
【0085】
得られた繊維は、強度が0.9cN/dtex、伸度が28%であり、機械的特性に優れていた。また、U%は0.8%であり、繊維長手方向における繊度の均一性が優れたものであった。また、70℃温水中における収縮率は4.5%と低かった。
【0086】
得られた繊維を用いて筒編み機(丸善産業(株)製筒編み機MR1型、27ゲージ)にて、編み地の作製を試みたところ、編み立て性は良好であり、風合いを評価したところ、ヌメリ感は全く認められず、ソフトかつドライな望ましい風合いを有するものであった。また、生分解性も高かった。
【0087】
総合的にみて、実施例1のセルロースエステル組成物の製糸性は非常に良好であった。
【0088】
実施例2
セルロースジアセテートの代わりにセルロースアセテートプロピオネート(イーストマンケミカル製、CAP482−20、DSAc=0.2、DSPr=2.5)を75重量部、可塑剤を5重量部用いた以外は実施例1と同様にポリマーを合成し、ポリマーP2を得た。
【0089】
ポリマーP2の220℃における加熱減量率を測定したところ、2.5%と耐熱が十分に優れていた。また、溶融粘度は50Pa・secと良好な流動性を示した。
【0090】
ポリマーP2を60℃にて24時間乾燥して絶乾状態とした後、単軸エクストルーダー式溶融紡糸機で、溶融温度220℃、パック部温度220℃にて溶融し、0.20mmφ−0.30mmLの口金孔を36ホール有する口金より紡出した。また、口金からの流動性も良く、口金に汚れは付着しなかった。また、紡出糸からは発煙は認められなかった。紡出糸は25℃のチムニー風により冷却した後、500m/minの速度でゴデットローラーにより引き取り、ワインダーにて巻き取ったところ、紡糸糸切れは認めらず曳糸性もよかった。
【0091】
得られた繊維は、強度が0.6cN/dtex、伸度が29%であり、機械的特性に優れていた。また、U%は1.2%であり、繊維長手方向における繊度の均一性が優れたものであった。また、70℃温水中における収縮率は5.8%と低かった。
【0092】
得られた繊維を用いて筒編み機(丸善産業(株)製筒編み機MR1型、27ゲージ)にて、編み地の作製を試みたところ、編み立て性は良好であり、風合いを評価したところ、ヌメリ感は全く認められず、ソフトかつドライな望ましい風合いを有するものであった。また、生分解性も高かった。
【0093】
総合的にみて、実施例2のセルロースエステル組成物の製糸性は非常に良好であった。
【0094】
実施例3
可塑剤としてジグリセリンテトラアセテート(阪本薬品製)を用いた以外は実施例1と同様にポリマーを合成し、ポリマーP3を得た。
【0095】
ポリマーP3の220℃における加熱減量率を測定したところ、3.0%と耐熱が十分に優れていた。また、溶融粘度は65Pa・secと良好な流動性を示した。
【0096】
ポリマーP3を60℃にて24時間乾燥して絶乾状態とした後、単軸エクストルーダー式溶融紡糸機で、溶融温度220℃、パック部温度220℃にて溶融し、0.20mmφ−0.30mmLの口金孔を36ホール有する口金より紡出した。また、口金からの流動性も良く、口金に汚れは付着しなかった。また、紡出糸からは発煙は認められなかった。紡出糸は25℃のチムニー風により冷却した後、500m/minの速度でゴデットローラーにより引き取り、ワインダーにて巻き取ったところ、紡糸糸切れは認めらず曳糸性もよかった。
【0097】
得られた繊維は、強度が0.9cN/dtex、伸度が30%であり、機械的特性に優れていた。また、U%は0.7%であり、繊維長手方向における繊度の均一性が優れたものであった。また、70℃温水中における収縮率は3.8%と低かった。
【0098】
得られた繊維を用いて筒編み機(丸善産業(株)製筒編み機MR1型、27ゲージ)にて、編み地の作製を試みたところ、編み立て性は良好であり、風合いを評価したところ、ヌメリ感は全く認められず、ソフトかつドライな望ましい風合いを有するものであった。また、生分解性も高かった。
【0099】
総合的にみて、実施例3のセルロースエステル組成物の製糸性は非常に良好であった。
【0100】
実施例4
可塑剤としてグリセリンパルミテート(理研ビタミン製)を用いた以外は実施例1と同様にポリマーを合成し、ポリマーP4を得た。
【0101】
ポリマーP4の220℃における加熱減量率を測定したところ、2.8%と耐熱が十分に優れていた。また、溶融粘度は80Pa・secと良好な流動性を示した。
【0102】
ポリマーP4を60℃にて24時間乾燥して絶乾状態とした後、単軸エクストルーダー式溶融紡糸機で、溶融温度220℃、パック部温度220℃にて溶融し、0.20mmφ−0.30mmLの口金孔を36ホール有する口金より紡出した。また、口金からの流動性も良く、口金に汚れは付着しなかった。また、紡出糸からは発煙は認められなかった。紡出糸は25℃のチムニー風により冷却した後、500m/minの速度でゴデットローラーにより引き取り、ワインダーにて巻き取ったところ、紡糸糸切れは認めらず曳糸性もよかった。
【0103】
得られた繊維は、強度が0.8cN/dtex、伸度が27%であり、機械的特性に優れていた。また、U%は0.9%であり、繊維長手方向における繊度の均一性が優れたものであった。また、70℃温水中における収縮率は3.9%と低かった。
【0104】
得られた繊維を用いて筒編み機(丸善産業(株)製筒編み機MR1型、27ゲージ)にて、編み地の作製を試みたところ、編み立て性は良好であり、風合いを評価したところ、ヌメリ感は全く認められず、ソフトかつドライな望ましい風合いを有するものであった。また、生分解性も高かった。
【0105】
総合的にみて、実施例4のセルロースエステル組成物の製糸性は非常に良好であった。
【0106】
比較例1
可塑剤としてクエン酸トリエチル(関東化学製)を用いた以外は実施例1と同様にポリマーを合成し、ポリマーP5を得た。
【0107】
ポリマーP5の220℃における加熱減量率を測定したところ、4.5%と耐熱が十分に優れていた。また、溶融粘度は70Pa・secと良好な流動性を示した。
【0108】
ポリマーP5を60℃にて24時間乾燥して絶乾状態とした後、単軸エクストルーダー式溶融紡糸機で、溶融温度220℃、パック部温度220℃にて溶融し、0.20mmφ−0.30mmLの口金孔を36ホール有する口金より紡出した。また、口金からの流動性も良かったが、口金に汚れが見られた。また、紡出糸からは可塑剤の揮発に伴う激しい発煙が認められた。紡出糸は25℃のチムニー風により冷却した後、500m/minの速度でゴデットローラーにより引き取り、ワインダーにて巻き取ったところ、紡糸糸切れは認めらず曳糸性もよかった。
【0109】
得られた繊維は、強度が0.8cN/dtex、伸度が24%であり、機械的特性に優れていた。また、U%は0.8%であり、繊維長手方向における繊度の均一性が優れたものであった。また、70℃温水中における収縮率は4.0%と低かった。
【0110】
得られた繊維を用いて筒編み機(丸善産業(株)製筒編み機MR1型、27ゲージ)にて、編み地の作製を試みたところ、編み立て性は良好であり、風合いを評価したところ、ヌメリ感は全く認められず、ソフトかつドライな望ましい風合いを有するものであった。
【0111】
総合的にみて、比較例1のセルロースエステル組成物の製糸性は可塑剤の揮発が大きく問題のあるものであった。
【0112】
比較例2
セルロースアセテートを50重量部、可塑剤を30重量部用いた以外は実施例1と同様にポリマーP6を得た。
【0113】
ポリマーP6の220℃における加熱減量率を測定したところ、9.2と%と高い値であった。また、溶融粘度は230Pa・secと良好な流動性を示した。
【0114】
ポリマーP6を60℃にて24時間乾燥して絶乾状態とした後、得られたペレットを用いて実施例1と同様に紡糸を試みたが、流動性は非常に高かった。また、紡糸速度500m/minでは糸切れが多発して引き取りができなかったため、紡糸温度を300m/minと低速にして紡糸を行った。紡出糸からは可塑剤の揮発に伴う激しい発煙が認められ、走行糸条は安定しなかった。また、口金の汚れはあったが問題となるほどではなかった。
【0115】
得られた繊維は強度が0.3cN/dtexと低く、伸度は40%であった。また、U%は6.0%と繊度の均一性に劣るものであった。70℃の温水中における収縮率は6%と低かった。
【0116】
得られた繊維を用いて編み地を作成し、風合いを評価したところ、非常にヌメリ感の強いものであり、布帛としての利用ができないものであった。総合的にみて、比較例2のセルロースエステル組成物の製糸性は非常に悪いものであった。
【0117】
比較例3
60℃、24時間の真空乾燥により絶乾状態としたセルロースジアセテート(ダイセル化学工業(株)製、L−40、酢化度55%(置換度2.5))50重量部と60℃、24時間の真空乾燥により絶乾状態としたL−ラクチド(ピュラック社製)50重量部を、室温でプレブレンドした。その後、この混合物を予め140℃に昇温したラボプラストミル(東洋精機(株)製、バッチ式混練ニーダー)中に30rpmで回転させた状態で5分間かけて投入した。触媒としてオクチル酸スズを0.1重量部添加後、引き続き、回転数を90rpmまで上げた後20分間加熱混練し反応を行った。得られたポリマーをP7とする。
【0118】
ポリマーP7の220℃における加熱減量率を測定したところ、4.0%と耐熱が十分に優れていた。また、溶融粘度は180Pa・secと良好な流動性を示した。
【0119】
ポリマーP7を60℃にて24時間乾燥して絶乾状態とした後、得られたペレットを用いて実施例1と同様に紡糸を試みたが、流動性は非常に高かった。また、紡糸速度500m/minでは糸切れが多発して引き取りができなかったため、紡糸速度を450m/minと低速にして紡糸を行った。口金からの流動性はよく、紡出糸からは発煙は認められなかったが、走行糸条は安定しなかった。また、口金の汚れはあった。
【0120】
得られた繊維は強度が0.4cN/dtexと低く、伸度は29%であった。また、U%は1.4%であった。また、繊維の70℃温水中における収縮率は45%と非常に高く、染色などの後加工に問題のあるものであった。得られた繊維を用いて編み地を作成し、風合いを評価したところ編み立て性は良好であり、ソフトな風合いを有する編地が得られた。総合的にみて、比較例3のセルロースエステル組成物の製糸性は非常に悪いものであった。
【0121】
比較例4
60℃、24時間の真空乾燥により絶乾状態としたセルロースジアセテート(ダイセル化学工業(株)製、L−40、酢化度55%(置換度2.5))70重量部と60℃、ジエチルフタレート30重量部を、室温でプレブレンドした。その後、この混合物を予め200℃に昇温したラボプラストミル(東洋精機(株)製、バッチ式混練ニーダー)中に30rpmで回転させた状態で5分間かけて投入した。引き続き、回転数を90rpmまで上げた後10分間加熱混練し反応を行った。得られたポリマーをP8とする。
【0122】
ポリマーP8の220℃における加熱減量率を測定したところ、7.8%と高かった。また、溶融粘度は240Pa・secと非常に高かった。
【0123】
ポリマーP8を60℃にて24時間乾燥して絶乾状態とした後、単軸型溶融紡糸を用いて、実施例1と同様に製糸化を試みたが溶融粘度が低いためmメルター温度250℃にて溶融させ、0.23mmφ−0.30mmLの口金孔を6ホール有するパック部温度250℃の口金より紡出させた。紡糸速度500m/minでは糸切れが多発して引き取りができなかったため、紡糸速度を450m/minと低速にして紡糸を行ったが、糸切れが多発して製糸化はできなかった。
【0124】
【表1】
【0125】
【表2】
【0126】
【発明の効果】
本発明により、可塑剤を添加したバイオマス系材料であるセルロースエステル主成分とする環境負荷の小さい成分からなる溶融成形用セルロースエステル組成物が得られ、それからなる溶融紡糸性に優れた繊維を提供することが可能となる。得られる組成物および繊維は、生分解性を生かした分野、すなわち、農業用資材、林業用資材、水産資材、土木資材、衛生資材、日用品、衣料用繊維、産業用繊維、不織布などとして好適に用いることができる。
【発明の属する技術分野】
本発明は、溶融成形用セルロースエステル組成物およびそれらを溶融紡糸して得られる繊維に関するものである。より詳しくは、特定のエステル構造をセルロースエステルの側鎖部分、および含有されるオリゴマーおよび/またはポリマー中に有する組成物およびグリセリンおよび/またはジグリセリンから選ばれる脂肪酸エステルを含んでなるセルロースエステル組成物および繊維である。
【0002】
【従来の技術】
セルロースおよびセルロースエステル、セルロースエーテル等のセルロース誘導体は、地球上で最も大量に生産されるバイオマス系材料として、また、環境中にて生分解可能な材料として昨今の大きな注目を集めつつある。現在商業的に利用されているセルロースエステルの代表例としては、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート等が挙げられ、プラスチック、フィルター、塗料など幅広い分野に利用されている。
【0003】
セルロースの繊維としての利用に関しては、自然界中で産生する綿や麻などの短繊維をそのまま紡績して使用することが古くから行われてきた。短繊維ではなく、フィラメント材料を得るためには、レーヨンの様にセルロースを二硫化炭素等の特殊な溶媒系で溶解させ湿式紡糸法での製糸を行うか、セルロースアセテートの様にセルロースを誘導体化して、塩化メチレンやアセトン等の有機溶媒に溶解させた後、この溶媒を蒸発させながら紡糸する乾式紡糸法での製糸を行うしか方法がない。
【0004】
しかし、これらの湿式紡糸法あるいは乾式紡糸法では、紡糸速度が遅いため生産性が低いという問題があるだけでなく、使用する二硫化炭素、アセトン、塩化メチレン等の有機溶剤が環境に対して悪影響を及ぼす懸念が強いため、環境との調和を考える場合には、決して良好な製糸方法とは言えない。
【0005】
一方、溶融紡糸法を用いる方法としてはセルロースアセテートにポリエチレングリコールのような水溶性可塑剤を配合して溶融紡糸を行い、中空糸用の繊維を製造するものがある(例えば、特開昭51−70816号公報参照)が、平均分子量200〜1000のポリエチレングリコールを単独で使用しても紡糸の際に断糸率が高いことから、低い紡糸ドラフトでないと溶融紡糸は困難である。さらに、ポリエチレングリコールのような吸湿性の強い可塑剤を単独で使用することは用途の点から制限が大きい。
【0006】
セルロースエステル樹脂は、汎用合成樹脂のように熱可塑成形によって溶融加工して成型品とするにはいくつかの問題を有している。例えば、セルロースアセテート樹脂の融点は、分解点より高い280℃近傍であり、融点を下げて溶融加工に適した温度とするために可塑剤を混合しなければならない。
【0007】
そこで、押出、射出成形用に用いられているセルロースエステルの可塑剤として、フタル酸エステルであるジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ブチルベンジルフタレート、エチルフタリルエチルグリコレート等、トリメリット酸エステルであるトリメチルトリメリテート、トリエチルトリメリテート等が知られている。前記可塑剤を含有した脂肪酸セルロースエステル系組成物は、軟化温度が低下して加工しやすくなり、例えばシート、フィルム、パルプ、棒、印材、装飾品、眼鏡枠、工具柄、食器具柄、玩具、雑貨等とに広範囲に使用されている。
【0008】
しかしながら、これらの可塑剤を用いたセルロース脂肪酸エステル組成物では、例えば溶融紡糸のように長時間にわたる連続成形加工を行う場合には可塑剤の揮発が激しいという問題が発生する。具体的な弊害としては作業環境の悪化および得られた糸から可塑剤が揮発して表面に付着することによって布帛にしたときに風合いが低下することが挙げられる。また、フタル酸エステルに代表される化合物は環境ホルモンのおそれが懸念される。
【0009】
一方、外部可塑剤を添加するのではなく、セルロース誘導体に直接グラフト反応を行うことによって内部可塑化を行う方法として、特開昭58−225101号公報、特開昭59−86621号公報、特開平7−179662号公報、特開平11−255801号公報などに記載が見られるようにセルロースアセテート主鎖に対してεカプロラクトンを主体に開環グラフト重合したポリマーおよびその製造方法が知られている。これらのポリマーではブリードアウトの懸念がないものの、主鎖が主としてポリカプロラクトンからなるため、60℃程度の低い温度で側鎖の流動が生じてしまい、繊維として最低限必要となる耐熱性を満足できるものではなかった。また、他の方法として、セルロースエステルの存在下で、多塩基酸又はその無水物と、モノエポキシド化合物又は多価アルコールとを混練練り混み反応させて、フィルム用熱可塑性セルロース誘導体組成物に製造方法が開示されている(特許文献1参照)。また、該組成物にさらにクエン酸トリエステルなどのセルロースエステル用可塑剤として既知の可塑剤を添加することで、熱可塑性セルロース誘導体組成物を得る方法が開示されている(非特許文献1参照)。しかし、内部可塑化だけでは十分な熱可塑化効果を得られないため、可塑剤としてクエン酸トリエチルなどを用いているが、生分解性、側鎖に多塩基酸またはその無水物あるいは多価アルコールの反応物が付加したセルロースエステルとの相溶性が低い。そのため、クエン酸トリエチルなどの既存の可塑剤を用いた場合には溶融紡糸など長時間にわたる連続成形加工を行う場合には可塑剤の揮発が激しいという問題が発生する。そのため、溶融紡糸に必要な熱流動性および低揮発性を有するセルロースアセテートの内部可塑化と外部可塑化の組み合わせがないというのが現状である。
【0010】
また、生分解性を有する可塑剤としてグリセリン骨格を有する化合物を用いた例が開発されている。セルロースアセテートに可塑剤としてグリセリンエステルまたはジグリセリンエステルを用いた押出・射出成形が開示され、溶融成形の成形材料に用いられることが開示されている(特開昭54−8654号公報、特開2000−30182号公報)。しかし、セルロースアセテートに対して、溶融紡糸に必要な高い熱流動性を付与するためにはポリマー全体の40〜67重量%の可塑剤を添加する必要があり、長時間にわたる連続成形加工を行う場合には可塑剤の揮発が激しいという問題が発生するため、セルロースアセテートとグリセリン、ジグリセリンエステルを用いた組み合わせでは、溶融紡糸可能な流動性を得られる熱可塑化効果を十分に満足できない。
【0011】
【特許文献1】
特開平6−207045号公報(第1頁)
【0012】
【非特許文献1】
J.Appl.Polym.Sci,vol.81,p243−250(2001)
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は上記のような問題点を克服し、バイオマス系材料であるセルロースエステルおよび生分解性を有するグリセリンの脂肪酸エステル、ジグリセリンの脂肪酸エステルを主成分とする環境負荷の小さい成分からなる溶融成形用セルロースエステル組成物と、それらからなる溶融紡糸性に優れ、強伸度特性のみならず繊度の均一性にも優れたセルロースエステル繊維を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上述した本発明の課題は、特定のエステル構造をセルロースエステルの側鎖部分および含有されるオリゴマーおよび/またはポリマー中に有する組成物とグリセリンおよび/またはジグリセリンから選ばれる分子量250以上の脂肪酸エステルからなるセルロースエステル組成物によって解決することができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明におけるセルロースエステル組成物は、(I)下記一般式(1)の構造を側鎖に含むセルロースエステルと、(II)下記一般式(1)の構造を含むオリゴマーおよび/またはポリマーと、(III)グリセリンおよび/またはジグリセリンから選ばれる分子量250以上の脂肪酸エステル5〜20重量%とを含んでなる組成物よりなる。
【0016】
【化10】
【0017】
本発明におけるセルロースエステル(I)の側鎖は、下記一般式(1)の構造を含有することが必要である。下記一般式(1)の構造を有することで良好な熱可塑性が得られる。
【0018】
【化11】
【0019】
具体的にはAとして下記一般式(2)、(3)、(4)から選ばれる。
【0020】
【化12】
【0021】
【化13】
【0022】
【化14】
【0023】
上記化合物を有するセルロースエステルの側鎖は、分子間相互作用も強く熱収縮が小さいため、これを含有してなる溶融成形物の熱収縮率が小さくなるため好ましい。より好ましくは下記一般式(2)である。
【0024】
【化15】
【0025】
Bとして下記一般式(5)である。
【0026】
【化16】
【0027】
上記化合物を有するセルロースエステルの側鎖は良好な熱流動性を与えるため好ましい。
【0028】
本発明のセルロースエステル組成物は、セルロースエステルIの一般式(1)の構造を有する側鎖を除いたセルロースエステル主鎖の割合が、組成物全体の50〜90重量%であることが好ましい。50重量%以上であることで、セルロース誘導体の有する特徴である強度が増し、機械的特性の優れた成形物が得られる。また、90重量%以下であることで、熱可塑性の付与が大きく、溶融成形性が良好になる。セルロースエステル主鎖の割合は好ましくは組成物全体の60〜80重量%であり、さらに好ましくは65〜75重量%である。
【0029】
また本発明におけるセルロースエステルIは、一般式(1)の構造以外のアシル基を含有することができる。具体的には、アセチル基、プロピオニル基、ブチル基、フタリル基等を単独もしくは混合して含有するものであってもよい。汎用性の点からアセチル基を含有するものであることが好ましい。
【0030】
セルロースエステルIの一般式(1)の構造以外のアシル基の置換度は、グルコース単位あたり0〜2.9であることが好ましい。また、良好な生分解性を得るためには、置換された水酸基の数で表す置換度が比較的低い値、例えば0〜2.2であることが好ましく、0.5〜2.0であることがより好ましい。良好な流動性を得るためには、比較的高い置換度、例えば2.2〜2.9であることが好ましいので、目的によって適宜決めることができる。また、得られたセルロースエステル組成物の熱可塑性の点から置換度は2.5〜2.9であることがより好ましい。
【0031】
また、本発明のセルロースエステル組成物は、(II)下記一般式(1)の構造を含有するオリゴマーおよび/またはポリマーを含有する。セルロースエステルIの側鎖と同じ構造を有することで、セルロースエステルとの親和性が向上し、加熱したときのブリードアウトを防ぐことができる。なお、下記一般式(1)のA、BはセルロースエステルIと同じであることが親和性の点から好ましいが限定されない。
【0032】
【化17】
【0033】
該組成物の製造方法に関しては、未置換水酸基を有するセルロース、またはアセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、フタリル基等のアシル基によってすでに一部の水酸基が置換されているセルロースエステルの存在下で、多塩基酸又はその無水物と、多価アルコールとのエステル化反応を、二軸押出機などを用いて混練練りこみ反応により行い、一方ではホモオリゴエステルないしホモポリエステルを生じせしめ、その一部は外部可塑剤として残存させるとともに、他方では、オリゴエステル鎖ないしポリエステル鎖を前記セルロース誘導体中に、エステル基として導入することによって得られることが知られており、これら従来公知の方法にて行えばよく、特に限定されない。
【0034】
エステル化反応に用いる多塩基酸無水物として、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水フマル酸が挙げられるが特に限定されない。
【0035】
エステル化反応に用いることができる多価アルコールとして、グリセリンなどが挙げられるが特に限定されない。
【0036】
エステル化反応に用いる触媒としては、無触媒で反応をすることもできるが、公知のルイス酸触媒などを用いることができる。使用できる触媒としてはスズ、亜鉛、チタン、ビスマス、ジルコニウム、ゲルマニウム、アンチモン、ナトリウム、カリウム、アルミニウムなどの金属およびその誘導体が挙げられ、特に誘導体については金属有機化合物、炭酸塩、酸化物、ハロゲン化物が好ましい。具体的にはオクチルスズ、塩化スズ、塩化亜鉛、塩化チタン、アルコキシチタン、酸化ゲルマニウム、酸化ジルコニウム、三酸化アンチモン、アルキルアルミニウムなどを例示することができる。また、触媒としてパラトルエンスルホン酸に代表される酸触媒を用いることもできる。
【0037】
また、カルボン酸とアルコールとの脱水反応を促進するためにカルボジイミド、ジメチルアミノピリジンなど公知の化合物を添加してもよい。
【0038】
本発明のセルロースエステル組成物は、(III)分子量250以上のグリセリンの脂肪酸エステルおよび/またはジグリセリンの脂肪酸エステルを生分解性を有する可塑剤として含有する。これは、グリセリン骨格と下記一般式(1)を側鎖に有するセルロースエステルIとが類似の骨格を有するために相溶性が向上し、揮発が抑えられる、さらに熱可塑化効果が顕著に表れる。下記一般式(1)のAが下記一般式(5)のグリセリン骨格を有するため、上記の効果がより顕著に表れる。また分子量が250以上であることで脂肪酸エステルIIIの揮発が抑えられる。脂肪酸エステルIIIの分子量は320以上がより好ましい。
【0039】
【化18】
【0040】
【化19】
【0041】
また、生分解性の低いフェニル基、アルキルフェニル基、アリールフェニル基などの芳香族で置換されていない脂肪酸のエステル化合物を用いることで生分解性が良好になる。本発明における全ての水酸基がアシル化されたグリセリンの脂肪酸エステルIIIは下記一般式(6)で表されるものであり、R1、R2、R3で示されたアシル基の炭素数の合計が7〜26であることが好ましい。R1、R2、R3で示されたアシル基の炭素数の合計が14以上であるのがより好ましく、22以下であるのがより好ましい。
【0042】
また、R1、R2、R3の少なくとも1つのアシル基の炭素数が10〜18であるのが好ましく、16以下であるのがより好ましい。
【0043】
具体的なグリセリンの脂肪酸エステルIIIとして、グリセリンジアセテートステアレート、グリセリンジアセテートパルミテート、グリセリンジアセテートミスチレート、グリセリンジアセテートラウレート、グリセリンジアセテートカプレート、グリセリンジアセテートノナネート、グリセリンジアセテートオクタノエート、グリセリンジアセテートヘプタノエート、グリセリンジアセテートヘキサノエート、グリセリンジアセテートペンタノエート、グリセリンジアセテートオレート、グリセリンアセテートジカプレート、グリセリンアセテートジノナネート、グリセリンアセテートジオクタノエート、グリセリンアセテートジヘプタノエート、グリセリンアセテートジカプロエート、グリセリンアセテートジバレレート、グリセリンアセテートジブチレート、グリセリンジプロピオネートカプレート、グリセリンジプロピオネートラウレート、グリセリンジプロピオネートミスチレート、グリセリンジプロピオネートパルミテート、グリセリンジプロピオネートステアレート、グリセリンジプロピオネートオレート、グリセリントリブチレート、グリセリントリペンタノエート、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリンプロピオネートラウレート、グリセリンオレートプロピオネートなどが挙げられるがこれに限定されない。
【0044】
この中でも、グリセリンジアセテートカプリレート、グリセリンジアセテートペラルゴネート、グリセリンジアセテートカプレート、グリセリンジアセテートラウレート、グリセリンジアセテートミリステート、グリセリンジアセテートパルミテート、グリセリンジアセテートステアレート、グリセリンジアセテートオレートが好ましい。
【0045】
【化20】
【0046】
また、本発明で用いる未置換水酸基を有するグリセリンの脂肪酸エステルは下記一般式(6)で表されるものであり、R1、R2、R3の少なくとも1つが水素であることが好ましい。
【0047】
具体的な例としてはグリセリンステアレート、グリセリンパルミテート、グリセリンミスチレート、グリセリンラウレート、グリセリンカプレート、グリセリンノナネート、グリセリンオクタノエート、グリセリンオレート、グリセリンアセテートステアレート、グリセリンアセテートパルミテート、グリセリンアセテートミスチレート、グリセリンアセテートラウレート、グリセリンアセテートカプレート、グリセリンアセテートノナネート、グリセリンアセテートオクタノエート、グリセリンアセテートヘプタノエート、グリセリンアセテートオレートが挙げられるがこれに限定されない。
【0048】
【化21】
【0049】
また、ジグリセリンの脂肪酸エステルIIIは下記一般式(7)で表されるものであり、R4〜R7の炭素数の合計が8〜64のアシル基であるものが、セルロースアセテートプロピオネートとの相溶性および可塑剤の揮発性の点から好ましい。また、R4〜R7の炭素数の合計が40以下のアシル基であるものがより好ましい。
【0050】
また、ジグリセリンの脂肪酸エステルIIIのR4〜R7の少なくとも1つのアシル基の炭素数が8〜18であるのが好ましい。
【0051】
ジグリセリンの脂肪酸エステルIIIの具体的な例としてはジグリセリンテトラアセテート、ジグリセリンテトラプロピオネート、ジグリセリンテトラブチレート、ジグリセリンテトラバレレート、ジグリセリンテトラヘキサノエート、ジグリセリンテトラヘプタノエート、ジグリセリンテトラカプリレート、ジグリセリンテトラペラルゴネート、ジグリセリンテトラカプレート、ジグリセリンテトララウレート、ジグリセリンテトラミスチレート、ジグリセリンテトラパルミテート、ジグリセリントリアセテートプロピオネート、ジグリセリントリアセテートブチレート、ジグリセリントリアセテートバレレート、ジグリセリントリアセテートヘキサノエート、ジグリセリントリアセテートヘプタノエート、ジグリセリントリアセテートカプリレート、ジグリセリントリアセテートペラルゴネート、ジグリセリントリアセテートカプレート、ジグリセリントリアセテートラウレート、ジグリセリントリアセテートミスチレート、ジグリセリントリアセテートパルミテート、ジグリセリントリアセテートステアレート、ジグリセリントリアセテートオレート、ジグリセリンジアセテートジプロピオネート、ジグリセリンジアセテートジブチレート、ジグリセリンジアセテートジバレレート、ジグリセリンジアセテートジヘキサノエート、ジグリセリンジアセテートジヘプタノエート、ジグリセリンジアセテートジカプリレート、ジグリセリンジアセテートジペラルゴネート、ジグリセリンジアセテートジカプレート、ジグリセリンジアセテートジラウレート、ジグリセリンジアセテートジミスチレート、ジグリセリンジアセテートジパルミテート、ジグリセリンジアセテートジステアレート、ジグリセリンジアセテートジオレート、ジグリセリンアセテートトリプロピオネート、ジグリセリンアセテートトリブチレート、ジグリセリンアセテートトリバレレート、ジグリセリンアセテートトリヘキサノエート、ジグリセリンアセテートトリヘプタノエート、ジグリセリンアセテートトリカプリレート、ジグリセリンアセテートトリペラルゴネート、ジグリセリンアセテートトリカプレート、ジグリセリンアセテートトリラウレート、ジグリセリンアセテートトリミスチレート、ジグリセリンアセテートトリパルミテート、ジグリセリンアセテートトリステアレート、ジグリセリンアセテートトリオレート、ジグリセリンラウレート、ジグリセリンステアレート、ジグリセリンカプリレート、ジグリセリンミリステート、ジグリセリンオレートなどのジグリセリンの混酸エステルが挙げられるが限定されない。
【0052】
この中でも、ジグリセリンテトラアセテート、ジグリセリンテトラプロピオネート、ジグリセリンテトラブチレート、ジグリセリンテトラカプリレート、ジグリセリンテトララウレートが好ましい。
【0053】
【化22】
【0054】
分子量250以上の脂肪酸エステルIIIの含有量は、5〜20重量%である。配合量を20重量%以下とすることにより、機械的特性が良好となり、加熱時の脂肪酸エステルIIIの揮発が抑えられる。また、溶融紡糸性の点から強度が高くなり紡糸断糸率が低下する。一方、含有量を5重量%以上とすることにより、熱流動性の点から、成形温度を低くすることができ、組成物の熱分解が抑制される。
【0055】
(III)グリセリンおよび/またはジグリセリンの脂肪酸エステルは、一例としてセルロースエステル組成物への混練は未置換セルロースまたはセルロースエステルの多塩基酸および/またはその無水物と多価アルコールとの混練反応の時に同時に添加することが好ましいが、繊維化の前に添加するならばいずれの段階でもよく限定されない。
【0056】
本発明のセルロースエステル組成物は、220℃における加熱減量率が5重量%以下であることが好ましい。ここで、加熱減量率とは窒素下において室温から300℃まで、10℃/分の昇温速度で試料を昇温した時の、220℃における重量減少率をいう。低分子可塑剤を大量に含むこと等がなく、加熱減量率が5重量%以下である場合には、溶融紡糸の際に発煙が生じて製糸性不良となることがなく、得られる繊維の機械的特性も良好となるたえ好ましい。良好な耐熱性の観点からは、3重量%以下であることがより好ましい。
【0057】
本発明のセルロースエステル組成物は、220℃、1000sec-1における溶融粘度が20〜200Pa・secであることが好ましい。溶融粘度が20Pa・sec以上である場合には、紡糸後の固化が十分に進み、収束しても繊維同士が膠着することがないため好ましい。また、この場合、口金背面圧が十分に得られるため、分配性が良好となり、繊度の均一性が担保されるという利点も有している。一方溶融粘度が200Pa・sec以下である場合には、紡出糸条の曳糸性が良好であり、十分な配向が得られて機械特性の優れた繊維となるため好ましい。また、配管圧力の異常な上昇によるトラブルが生じることもない。良好な流動性の観点から、220℃、1000sec-1における溶融粘度が20〜200Pa・secであることがより好ましく、50〜190Pa・secであることが最も好ましい。
【0058】
本発明の(I)少なくとも下記一般式(1)の構造を側鎖に含むセルロースエステルと、(II)下記一般式(1)の構造を含むオリゴマーおよび/またはポリマーと、(III)グリセリンおよび/またはジグリセリンの分子量250以上の脂肪酸エステルからなる組成物は熱流動性が良好であり、溶融紡糸法によって繊維化することができる。
【0059】
【化23】
【0060】
繊維の強度は0.5〜3cN/dtexであることが好ましい。0.5cN/dtex以上とすることにより、製織や製編時などの高次加工工程通過性が良好になり、また最終製品の強力も十分となり好ましく、3cN/dtex以下では伸度が低下せず、毛羽立ちを抑えられ糸切れが少ないため好ましい。強度は0.7cN/dtex以上が好ましく、1.0cN/dtex以上がより好ましい。
【0061】
伸度は2〜50%が好ましい。伸度を2%以上とすることにより、製織や製編時など高次加工工程において糸切れし難くなる。また、伸度を50%以下とすることにより、繊維は低い応力であれば変形することがなく、製織時の緯ひけなどによる最終製品の染色欠点を生じることがない。伸度は5〜45%が好ましく、10〜40%がより好ましい。
【0062】
本発明のセルロースエステル繊維は、繊維の長さ方向の繊度斑を表すU%(ウースターノーマル%)が5%以下であることが好ましい。U%が5%以下であることは、繊度の均一性に優れることから好ましく、より好ましくは3%以下、更に好ましくは2%以下である。
【0063】
本発明のセルロースエステル繊維は、70℃温水中における収縮率が40%以下であることが好ましい。70℃温水中における収縮率とは、繊維を70℃温水中に5分浸した後に、前と比べて収縮している長さの割合である。40%以下であることで、布帛の染色などの後加工において加熱を行う時に収縮することがなく好ましい。15%以下であることがさらに好ましい。
【0064】
また、本発明のセルロースエステル繊維は、艶消し剤、消臭剤、難燃剤、糸摩擦低減剤、抗酸化剤、着色顔料等として、無機粒子や有機化合物を必要に応じて含有することができる。
【0065】
本発明におけるセルロースエステル繊維は、衣料用フィラメント、衣料用ステープル、産業用フィラメント、産業用ステープル、医療用フィラメントとすることが可能であり、また不織布用繊維とすることも好ましく採用できる。
【0066】
本発明におけるセルロースエステル繊維の製造方法は限定されないが、本発明のセルロースエステル組成物を溶融紡糸することにより得ることができる。
【0067】
また、組成物は気泡の混入をできるだけ少なくするために、溶融紡糸機に供給する前にエクストルーダーを用いてペレット化しておくか、エクストルーダーが配管によって溶融紡糸機と結合されていることが望ましい。また、ペレット化したセルロースエステル組成物は溶融紡糸に先立ち、溶融時の加水分解や気泡の発生を防止するために含水率を0.1重量%以下に乾燥することが好ましい。
【0068】
本発明のセルロースエステル繊維は、優れた機械的特性および繊度の均一性を有し、生分解性に優れており、前記繊維を製造する際に熱流動性が優れるため紡糸時の断糸率が極めて少なく、生産性に優れている。また得られた長繊維は織物、編物等の繊維構造物や、メルトブロー法、スパンボンド法による不織布として用いても良い。
【0069】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0070】
なお、実施例中の各特性値は次の方法で求めた。
【0071】
(1)溶融粘度
東洋精機(株)製キャピラリーレオメーター(商標:キャピログラフ1B、L=10mm、D=1.0mmのダイ使用)を用い、測定温度220℃、シェアレート1000sec-1で粘度を測定し、溶融粘度とした。
【0072】
(2)加熱減量率
(株)マック・サイエンス社製TG−DTA2000Sを用い、窒素下において室温から400℃まで10℃/分の昇温度速度で試料を加熱した時、220℃におけるサンプル10mgの重量変化を加熱減量率とした。
【0073】
(3)強伸度
オリエンテック社製テンシロンUCT−100型を用い、試料長20cm、引張速度20cm/minの条件で引張試験を行って、最大荷重を示した点の応力を繊維の強度(cN/dtex)とした。また、破断時の伸度を繊維の伸度(%)とした。
【0074】
(4)単糸繊度
溶融紡糸により得られたマルチフィラメントの繊度を口金ホール数で除した値である。
【0075】
(5)U%
ツェルベガーウースター社製ウースターテスター4−CXにて給糸速度25m/minで1分間の測定を行い、得られた値をU%とした。
【0076】
(6)風合い
得られた繊維を用いて27ゲージの丸編みを作成し、官能検査によって風合いを評価した。十分なドライ感のある物を○、ドライ感のない物を△、著しいヌメリ感のある物を×とした。なお、○は好ましく、△は許容できる範囲であるが、×は問題がある。以下、(7)〜(10)においても同様である。
【0077】
(7)口金の汚れ
溶融紡糸後に口金の汚れを評価した。化合物の付着がない場合を○、若干の付着が見られる場合を△、著しい付着がある場合を×とした。
【0078】
(8)流動性
溶融紡糸を行う条件での流動性を評価した。流動性が良く口金から紡出糸がでてくる場合を○、流動性が低く口金から紡出糸が出てこない場合を×とした。
【0079】
(9)曳糸性
溶融紡糸法による繊維化を行うにあたり、糸切れなく安定して製糸が可能なものを○、走行糸条が安定せず、糸切れが発生するようなものを×とした。なお、○は好ましく、×は問題がある。
【0080】
(10)可塑剤の揮発
溶融紡糸を行う条件において、可塑剤の揮発が見られないものを○とした。若干揮発する場合を△、揮発が著しく発煙している場合を×とした。
【0081】
(11)製糸性
上記(6)〜(10)の要件を総合して、製糸性を評価した。製糸性は(6)〜(10)の全てが○の場合を製糸性が良好である○とした。また、(6)〜(10)に×はないが、一つ以上△のある場合を若干の問題がある△、(6)〜(10)に一つ以上×がある場合を製糸性が不良である×とした。
【0082】
実施例1
60℃、24時間の真空乾燥により絶乾状態としたセルロースジアセテート(ダイセル化学工業(株)製、L−40、酢化度55%(置換度2.5))70重量部、無水マレイン酸(アルドリッチ製)10重量部、グリセリン(アルドリッチ製)10重量部、可塑剤としてグリセリンジアセテートモノオレート(理研ビタミン製)10重量部を量りとり、室温でプレブレンドした。その後、この混合物を予め140℃に昇温したラボプラストミル(東洋精機(株)製、バッチ式混練ニーダー)中に30rpmで回転させた状態で5分間かけて投入した。引き続き、回転数を90rpmまで上げた後20分間加熱混練し反応を行った。得られたポリマーをP1とする。
【0083】
ポリマーP1の220℃における加熱減量率を測定したところ、2.8%と耐熱が十分に優れていた。また、溶融粘度は70Pa・secと良好な流動性を示した。
【0084】
ポリマーP1を60℃にて24時間乾燥して絶乾状態とした後、単軸エクストルーダー式溶融紡糸機で、溶融温度220℃、パック部温度220℃にて溶融し、0.20mmφ−0.30mmLの口金孔を36ホール有する口金より紡出した。また、口金からの流動性も良く、口金に汚れは付着しなかった。また、紡出糸からは発煙は認められなかった。紡出糸は25℃のチムニー風により冷却した後、500m/minの速度でゴデットローラーにより引き取り、ワインダーにて巻き取ったところ、紡糸糸切れは認めらず曳糸性もよかった。
【0085】
得られた繊維は、強度が0.9cN/dtex、伸度が28%であり、機械的特性に優れていた。また、U%は0.8%であり、繊維長手方向における繊度の均一性が優れたものであった。また、70℃温水中における収縮率は4.5%と低かった。
【0086】
得られた繊維を用いて筒編み機(丸善産業(株)製筒編み機MR1型、27ゲージ)にて、編み地の作製を試みたところ、編み立て性は良好であり、風合いを評価したところ、ヌメリ感は全く認められず、ソフトかつドライな望ましい風合いを有するものであった。また、生分解性も高かった。
【0087】
総合的にみて、実施例1のセルロースエステル組成物の製糸性は非常に良好であった。
【0088】
実施例2
セルロースジアセテートの代わりにセルロースアセテートプロピオネート(イーストマンケミカル製、CAP482−20、DSAc=0.2、DSPr=2.5)を75重量部、可塑剤を5重量部用いた以外は実施例1と同様にポリマーを合成し、ポリマーP2を得た。
【0089】
ポリマーP2の220℃における加熱減量率を測定したところ、2.5%と耐熱が十分に優れていた。また、溶融粘度は50Pa・secと良好な流動性を示した。
【0090】
ポリマーP2を60℃にて24時間乾燥して絶乾状態とした後、単軸エクストルーダー式溶融紡糸機で、溶融温度220℃、パック部温度220℃にて溶融し、0.20mmφ−0.30mmLの口金孔を36ホール有する口金より紡出した。また、口金からの流動性も良く、口金に汚れは付着しなかった。また、紡出糸からは発煙は認められなかった。紡出糸は25℃のチムニー風により冷却した後、500m/minの速度でゴデットローラーにより引き取り、ワインダーにて巻き取ったところ、紡糸糸切れは認めらず曳糸性もよかった。
【0091】
得られた繊維は、強度が0.6cN/dtex、伸度が29%であり、機械的特性に優れていた。また、U%は1.2%であり、繊維長手方向における繊度の均一性が優れたものであった。また、70℃温水中における収縮率は5.8%と低かった。
【0092】
得られた繊維を用いて筒編み機(丸善産業(株)製筒編み機MR1型、27ゲージ)にて、編み地の作製を試みたところ、編み立て性は良好であり、風合いを評価したところ、ヌメリ感は全く認められず、ソフトかつドライな望ましい風合いを有するものであった。また、生分解性も高かった。
【0093】
総合的にみて、実施例2のセルロースエステル組成物の製糸性は非常に良好であった。
【0094】
実施例3
可塑剤としてジグリセリンテトラアセテート(阪本薬品製)を用いた以外は実施例1と同様にポリマーを合成し、ポリマーP3を得た。
【0095】
ポリマーP3の220℃における加熱減量率を測定したところ、3.0%と耐熱が十分に優れていた。また、溶融粘度は65Pa・secと良好な流動性を示した。
【0096】
ポリマーP3を60℃にて24時間乾燥して絶乾状態とした後、単軸エクストルーダー式溶融紡糸機で、溶融温度220℃、パック部温度220℃にて溶融し、0.20mmφ−0.30mmLの口金孔を36ホール有する口金より紡出した。また、口金からの流動性も良く、口金に汚れは付着しなかった。また、紡出糸からは発煙は認められなかった。紡出糸は25℃のチムニー風により冷却した後、500m/minの速度でゴデットローラーにより引き取り、ワインダーにて巻き取ったところ、紡糸糸切れは認めらず曳糸性もよかった。
【0097】
得られた繊維は、強度が0.9cN/dtex、伸度が30%であり、機械的特性に優れていた。また、U%は0.7%であり、繊維長手方向における繊度の均一性が優れたものであった。また、70℃温水中における収縮率は3.8%と低かった。
【0098】
得られた繊維を用いて筒編み機(丸善産業(株)製筒編み機MR1型、27ゲージ)にて、編み地の作製を試みたところ、編み立て性は良好であり、風合いを評価したところ、ヌメリ感は全く認められず、ソフトかつドライな望ましい風合いを有するものであった。また、生分解性も高かった。
【0099】
総合的にみて、実施例3のセルロースエステル組成物の製糸性は非常に良好であった。
【0100】
実施例4
可塑剤としてグリセリンパルミテート(理研ビタミン製)を用いた以外は実施例1と同様にポリマーを合成し、ポリマーP4を得た。
【0101】
ポリマーP4の220℃における加熱減量率を測定したところ、2.8%と耐熱が十分に優れていた。また、溶融粘度は80Pa・secと良好な流動性を示した。
【0102】
ポリマーP4を60℃にて24時間乾燥して絶乾状態とした後、単軸エクストルーダー式溶融紡糸機で、溶融温度220℃、パック部温度220℃にて溶融し、0.20mmφ−0.30mmLの口金孔を36ホール有する口金より紡出した。また、口金からの流動性も良く、口金に汚れは付着しなかった。また、紡出糸からは発煙は認められなかった。紡出糸は25℃のチムニー風により冷却した後、500m/minの速度でゴデットローラーにより引き取り、ワインダーにて巻き取ったところ、紡糸糸切れは認めらず曳糸性もよかった。
【0103】
得られた繊維は、強度が0.8cN/dtex、伸度が27%であり、機械的特性に優れていた。また、U%は0.9%であり、繊維長手方向における繊度の均一性が優れたものであった。また、70℃温水中における収縮率は3.9%と低かった。
【0104】
得られた繊維を用いて筒編み機(丸善産業(株)製筒編み機MR1型、27ゲージ)にて、編み地の作製を試みたところ、編み立て性は良好であり、風合いを評価したところ、ヌメリ感は全く認められず、ソフトかつドライな望ましい風合いを有するものであった。また、生分解性も高かった。
【0105】
総合的にみて、実施例4のセルロースエステル組成物の製糸性は非常に良好であった。
【0106】
比較例1
可塑剤としてクエン酸トリエチル(関東化学製)を用いた以外は実施例1と同様にポリマーを合成し、ポリマーP5を得た。
【0107】
ポリマーP5の220℃における加熱減量率を測定したところ、4.5%と耐熱が十分に優れていた。また、溶融粘度は70Pa・secと良好な流動性を示した。
【0108】
ポリマーP5を60℃にて24時間乾燥して絶乾状態とした後、単軸エクストルーダー式溶融紡糸機で、溶融温度220℃、パック部温度220℃にて溶融し、0.20mmφ−0.30mmLの口金孔を36ホール有する口金より紡出した。また、口金からの流動性も良かったが、口金に汚れが見られた。また、紡出糸からは可塑剤の揮発に伴う激しい発煙が認められた。紡出糸は25℃のチムニー風により冷却した後、500m/minの速度でゴデットローラーにより引き取り、ワインダーにて巻き取ったところ、紡糸糸切れは認めらず曳糸性もよかった。
【0109】
得られた繊維は、強度が0.8cN/dtex、伸度が24%であり、機械的特性に優れていた。また、U%は0.8%であり、繊維長手方向における繊度の均一性が優れたものであった。また、70℃温水中における収縮率は4.0%と低かった。
【0110】
得られた繊維を用いて筒編み機(丸善産業(株)製筒編み機MR1型、27ゲージ)にて、編み地の作製を試みたところ、編み立て性は良好であり、風合いを評価したところ、ヌメリ感は全く認められず、ソフトかつドライな望ましい風合いを有するものであった。
【0111】
総合的にみて、比較例1のセルロースエステル組成物の製糸性は可塑剤の揮発が大きく問題のあるものであった。
【0112】
比較例2
セルロースアセテートを50重量部、可塑剤を30重量部用いた以外は実施例1と同様にポリマーP6を得た。
【0113】
ポリマーP6の220℃における加熱減量率を測定したところ、9.2と%と高い値であった。また、溶融粘度は230Pa・secと良好な流動性を示した。
【0114】
ポリマーP6を60℃にて24時間乾燥して絶乾状態とした後、得られたペレットを用いて実施例1と同様に紡糸を試みたが、流動性は非常に高かった。また、紡糸速度500m/minでは糸切れが多発して引き取りができなかったため、紡糸温度を300m/minと低速にして紡糸を行った。紡出糸からは可塑剤の揮発に伴う激しい発煙が認められ、走行糸条は安定しなかった。また、口金の汚れはあったが問題となるほどではなかった。
【0115】
得られた繊維は強度が0.3cN/dtexと低く、伸度は40%であった。また、U%は6.0%と繊度の均一性に劣るものであった。70℃の温水中における収縮率は6%と低かった。
【0116】
得られた繊維を用いて編み地を作成し、風合いを評価したところ、非常にヌメリ感の強いものであり、布帛としての利用ができないものであった。総合的にみて、比較例2のセルロースエステル組成物の製糸性は非常に悪いものであった。
【0117】
比較例3
60℃、24時間の真空乾燥により絶乾状態としたセルロースジアセテート(ダイセル化学工業(株)製、L−40、酢化度55%(置換度2.5))50重量部と60℃、24時間の真空乾燥により絶乾状態としたL−ラクチド(ピュラック社製)50重量部を、室温でプレブレンドした。その後、この混合物を予め140℃に昇温したラボプラストミル(東洋精機(株)製、バッチ式混練ニーダー)中に30rpmで回転させた状態で5分間かけて投入した。触媒としてオクチル酸スズを0.1重量部添加後、引き続き、回転数を90rpmまで上げた後20分間加熱混練し反応を行った。得られたポリマーをP7とする。
【0118】
ポリマーP7の220℃における加熱減量率を測定したところ、4.0%と耐熱が十分に優れていた。また、溶融粘度は180Pa・secと良好な流動性を示した。
【0119】
ポリマーP7を60℃にて24時間乾燥して絶乾状態とした後、得られたペレットを用いて実施例1と同様に紡糸を試みたが、流動性は非常に高かった。また、紡糸速度500m/minでは糸切れが多発して引き取りができなかったため、紡糸速度を450m/minと低速にして紡糸を行った。口金からの流動性はよく、紡出糸からは発煙は認められなかったが、走行糸条は安定しなかった。また、口金の汚れはあった。
【0120】
得られた繊維は強度が0.4cN/dtexと低く、伸度は29%であった。また、U%は1.4%であった。また、繊維の70℃温水中における収縮率は45%と非常に高く、染色などの後加工に問題のあるものであった。得られた繊維を用いて編み地を作成し、風合いを評価したところ編み立て性は良好であり、ソフトな風合いを有する編地が得られた。総合的にみて、比較例3のセルロースエステル組成物の製糸性は非常に悪いものであった。
【0121】
比較例4
60℃、24時間の真空乾燥により絶乾状態としたセルロースジアセテート(ダイセル化学工業(株)製、L−40、酢化度55%(置換度2.5))70重量部と60℃、ジエチルフタレート30重量部を、室温でプレブレンドした。その後、この混合物を予め200℃に昇温したラボプラストミル(東洋精機(株)製、バッチ式混練ニーダー)中に30rpmで回転させた状態で5分間かけて投入した。引き続き、回転数を90rpmまで上げた後10分間加熱混練し反応を行った。得られたポリマーをP8とする。
【0122】
ポリマーP8の220℃における加熱減量率を測定したところ、7.8%と高かった。また、溶融粘度は240Pa・secと非常に高かった。
【0123】
ポリマーP8を60℃にて24時間乾燥して絶乾状態とした後、単軸型溶融紡糸を用いて、実施例1と同様に製糸化を試みたが溶融粘度が低いためmメルター温度250℃にて溶融させ、0.23mmφ−0.30mmLの口金孔を6ホール有するパック部温度250℃の口金より紡出させた。紡糸速度500m/minでは糸切れが多発して引き取りができなかったため、紡糸速度を450m/minと低速にして紡糸を行ったが、糸切れが多発して製糸化はできなかった。
【0124】
【表1】
【0125】
【表2】
【0126】
【発明の効果】
本発明により、可塑剤を添加したバイオマス系材料であるセルロースエステル主成分とする環境負荷の小さい成分からなる溶融成形用セルロースエステル組成物が得られ、それからなる溶融紡糸性に優れた繊維を提供することが可能となる。得られる組成物および繊維は、生分解性を生かした分野、すなわち、農業用資材、林業用資材、水産資材、土木資材、衛生資材、日用品、衣料用繊維、産業用繊維、不織布などとして好適に用いることができる。
Claims (7)
- 220℃における加熱減量率が5重量%以下、220℃、1000sec-1における溶融粘度が20〜200Pa・secであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の溶融成形用熱可塑性セルロースエステル組成物。
- 溶融紡糸で得られた、請求項1〜6のいずれか1項記載の熱可塑性セルロースエステル組成物からなる、強度0.5〜3cN/dtex、U%が5%以下であることを特徴とするセルロースエステル繊維。
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JP2002366285A JP2004196931A (ja) | 2002-12-18 | 2002-12-18 | 溶融成形用熱可塑性セルロースエステル組成物およびそれからなる繊維 |
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Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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WO2022085120A1 (ja) * | 2020-10-21 | 2022-04-28 | 株式会社ダイセル | セルロース混合脂肪酸エステル及びセルロース混合脂肪酸エステル組成物 |
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2002
- 2002-12-18 JP JP2002366285A patent/JP2004196931A/ja active Pending
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WO2022085120A1 (ja) * | 2020-10-21 | 2022-04-28 | 株式会社ダイセル | セルロース混合脂肪酸エステル及びセルロース混合脂肪酸エステル組成物 |
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