JP4093048B2 - 成形加工性に優れた熱可塑性セルロースエステル組成物およびそれから得られる繊維 - Google Patents
成形加工性に優れた熱可塑性セルロースエステル組成物およびそれから得られる繊維 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、成形加工性に優れた熱可塑性セルロースエステル組成物およびそれらを溶融紡糸して得られる繊維に関する。さらに詳しくは、溶融させたセルロースアセテートプロピオネートにあらかじめ可塑剤に粒子を分散処理させたスラリーとして添加するため繊維化した場合、粗大粒子による糸切れの発生がなく工程通過性がよく製糸可能な熱可塑性セルロースエステル繊維に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
セルロースおよびセルロースエステル、セルロースエーテル等のセルロース誘導体は、地球上で最も大量に生産されるバイオマス系材料として、また、環境中にて生分解可能な材料として昨今の大きな注目を集めつつある。現在商業的に利用されているセルロースエステルの代表例としては、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート等が挙げられ、プラスチック、フィルター、塗料など幅広い分野に利用されている。
【0003】
セルロースの繊維としての利用に関しては、自然界中で産生する綿や麻などの短繊維をそのまま紡績して使用することが古くから行われてきた。短繊維ではなく、フィラメント材料を得るためには、レーヨンのようにセルロースを二硫化炭素等の特殊な溶媒系で溶解させ湿式紡糸法での製糸を行うか、セルロースアセテートのようにセルロースを誘導体化して、塩化メチレンやアセトン等の有機溶媒に溶解させた後、この溶媒を蒸発させながら紡糸する乾式紡糸法での製糸を行うしか方法がなかった。
【0004】
しかし、これらの湿式紡糸法あるいは乾式紡糸法では、紡糸速度が遅いため生産性が低いという問題があるだけでなく、使用する二硫化炭素、アセトン、塩化メチレン等の有機溶剤が環境に対して悪影響を及ぼす懸念が強いため、環境との調和を考える場合には、決して良好な製糸方法とはいえない。さらには、多量の有機溶媒を除去して得られるため製造段階で粒子の凝集が発生し糸切れなどを起こすという問題もある。
【0005】
一方、生分解性が良好なセルロース繊維に酸化チタン粒子を含有する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この場合、酸化チタン粒子は光分解を促進させるために用いているため粒子の一次粒径が微細であり凝集を発生しやすかったり、乾式紡糸法では溶媒に粒子を分散するため製造段階で溶媒を蒸発させる段階で微細な粒子をさらに凝集させてしまったり生産性が劣っている問題を有している。
【0006】
さらにセルロースアセテートに微粒酸化チタンをを含有し、透明性に優れた布帛についても知られている(例えば、特許文献2参照)。この場合、透明性に優れた布帛を得るためには含有される酸化チタン粒子は微細であり、上述と同様な問題がある。さらには、セルロースアセテートは、溶融時の粘度が非常に高く熱成形性に劣るという問題も有している。
【0007】
【特許文献1】
特開平8−157644号公報(第2頁)
【0008】
【特許文献2】
特開平7−292518号公報(第2頁)
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は上記のような問題点を克服し、バイオマス系材料であるセルロースアセテートプロピオネートおよび生分解性を有する可塑剤、酸化チタンを主成分とする環境負荷の小さい成分からなる熱可塑性セルロースエステル組成物と、それらからなる溶融紡糸性に優れ、粒子分散性、工程通過性、強伸度特性のみならず繊度の均一性にも優れた熱可塑性セルロースエステル組成物およびその製造方法並びに熱可塑性セルロースエステル繊維を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上述した本発明の課題は、エステル置換度が2.5〜3.0であるセルロースアセテートプロピオネート70〜95重量%と、可塑剤2〜20重量%と、一次粒子径0.08〜2.0μmの酸化チタン粒子0.01〜10重量%とを少なくとも含んでなることを特徴とする熱可塑性セルロースエステル組成物、および、溶融状態のセルロースアセテートプロピオネートに可塑剤と酸化チタン粒子を分散処理したスラリーとして添加することを特徴とする熱可塑性セルロースエステル組成物の製造方法によって解決することができる。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の熱可塑性セルロースエステル組成物、製造方法、繊維について詳細に説明する。
【0012】
本発明における熱可塑性セルロースエステル組成物は、エステル置換度が2.5〜3.0であるセルロースアセテートプロピオネートと、可塑剤と、特定の一次粒子径を有する酸化チタンとを少なくとも含んでなる熱可塑性セルロースエステル組成物よりなる。
【0013】
本発明におけるセルロースアセテートプロピオネートのエステル置換度は2.5〜3.0である。セルロースアセテートプロピオネートのエステル置換度が2.5未満の場合、未置換水酸基が多すぎるため、十分な熱可塑化効果を得ることができない。なおセルロースのグルコース単位中に含まれる水酸基の数は3個であるため、エステル置換度の上限は3.0である。エステル置換度は2.6〜2.9であることが好ましい。
【0014】
熱可塑性セルロースエステル組成物中のセルロースアセテートプロピオネートの含有量は70〜95重量%である。含有量を95重量%以下にすることにより、可塑剤を加えたことによる熱可塑化効果が増し、溶融成形性が良好になる。含有量を70重量%以上にすることで、セルロースアセテートプロピオネートの有する特徴である強度が増し、機械的特性の優れた成形物が得られる。
【0015】
本発明におけるセルロースアセテートプロピオネートは、アシル部の炭素数が3個であるエステルを、グルコース単位あたり平均1個以上含んでなるものであることが好ましい。ここでいうグルコース単位あたり平均1個以上とは、アシル部の炭素数が3個であるエステルの置換度が平均1以上であることを意味する。セルロースアセテートプロピオネートは、適度な熱可塑性を有しており、製造も容易であるため好ましい。
【0016】
本発明におけるセルロースアセテートプロピオネートは、アセチル基の置換度が0.1〜1.0で、かつプロピオニル基の置換度が1.5〜2.9であることが好ましい。良好な熱流動性を有するためには、この範囲の置換度を有したセルロースアセテートプロピオネートが好ましいものである。
【0017】
セルロースアセテートプロピオネートに対して可塑化作用を有する可塑剤の含有量は、熱可塑性セルロースエステル組成物に対して2〜20重量%である。可塑剤の含有量を熱可塑性セルロースエステル組成物に対して2〜20重量%とすることで、セルロースアセテートプロピオネートに十分な熱可塑性を付与でき、生産効率の高い溶融紡糸法で生産できるだけでなく、繊維断面を任意に制御することや、複合繊維も可能となる。さらには後工程として繊維の延伸、仮撚加工などを容易にする。
また繊度斑、染め斑なく、ヌメリ感等のない風合いの良好な品位を有した繊維を得ることができる。セルロースエステルに対して可塑化作用を有
【0018】
本発明で具体的に用いることができる可塑剤としては、セルロースアセテートプロピオネートとの相溶性が良く、また熱可塑化効果が顕著に表れるグリセリンエステル、ジグリセリンエステルなどグリセリン系のエステル化合物やポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコールのエステル化合物などである。さらに、可塑剤の分子量を250以上とすることにより、可塑剤の揮発による紡糸時の発煙を抑えることができるので好ましい。可塑剤の分子量は310以上がより好ましい。
【0019】
具体的なグリセリンのエステルとして、グリセリンジアセテートステアレート、グリセリンジアセテートパルミテート、グリセリンジアセテートミスチレート、グリセリンジアセテートラウレート、グリセリンジアセテートカプレート、グリセリンジアセテートノナネート、グリセリンジアセテートオクタノエート、グリセリンジアセテートヘプタノエート、グリセリンジアセテートヘキサノエート、グリセリンジアセテートペンタノエート、グリセリンジアセテートオレート、グリセリンアセテートジカプレート、グリセリンアセテートジノナネート、グリセリンアセテートジオクタノエート、グリセリンアセテートジヘプタノエート、グリセリンアセテートジカプロエート、グリセリンアセテートジバレレート、グリセリンアセテートジブチレート、グリセリンジプロピオネートカプレート、グリセリンジプロピオネートラウレート、グリセリンジプロピオネートミスチレート、グリセリンジプロピオネートパルミテート、グリセリンジプロピオネートステアレート、グリセリンジプロピオネートオレート、グリセリントリブチレート、グリセリントリペンタノエート、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリンプロピオネートラウレート、グリセリンオレートプロピオネートなどが挙げられるがこれに限定されない。
【0020】
この中でも、グリセリンジアセテートカプリレート、グリセリンジアセテートペラルゴネート、グリセリンジアセテートカプレート、グリセリンジアセテートラウレート、グリセリンジアセテートミリステート、グリセリンジアセテートパルミテート、グリセリンジアセテートステアレート、グリセリンジアセテートオレートが好ましい。
【0021】
ジグリセリンのエステルの具体的な例としてはジグリセリンテトラアセテート、ジグリセリンテトラプロピオネート、ジグリセリンテトラブチレート、ジグリセリンテトラバレレート、ジグリセリンテトラヘキサノエート、ジグリセリンテトラヘプタノエート、ジグリセリンテトラカプリレート、ジグリセリンテトラペラルゴネート、ジグリセリンテトラカプレート、ジグリセリンテトララウレート、ジグリセリンテトラミスチレート、ジグリセリンテトラパルミテート、ジグリセリントリアセテートプロピオネート、ジグリセリントリアセテートブチレート、ジグリセリントリアセテートバレレート、ジグリセリントリアセテートヘキサノエート、ジグリセリントリアセテートヘプタノエート、ジグリセリントリアセテートカプリレート、ジグリセリントリアセテートペラルゴネート、ジグリセリントリアセテートカプレート、ジグリセリントリアセテートラウレート、ジグリセリントリアセテートミスチレート、ジグリセリントリアセテートパルミテート、ジグリセリントリアセテートステアレート、ジグリセリントリアセテートオレート、ジグリセリンジアセテートジプロピオネート、ジグリセリンジアセテートジブチレート、ジグリセリンジアセテートジバレレート、ジグリセリンジアセテートジヘキサノエート、ジグリセリンジアセテートジヘプタノエート、ジグリセリンジアセテートジカプリレート、ジグリセリンジアセテートジペラルゴネート、ジグリセリンジアセテートジカプレート、ジグリセリンジアセテートジラウレート、ジグリセリンジアセテートジミスチレート、ジグリセリンジアセテートジパルミテート、ジグリセリンジアセテートジステアレート、ジグリセリンジアセテートジオレート、ジグリセリンアセテートトリプロピオネート、ジグリセリンアセテートトリブチレート、ジグリセリンアセテートトリバレレート、ジグリセリンアセテートトリヘキサノエート、ジグリセリンアセテートトリヘプタノエート、ジグリセリンアセテートトリカプリレート、ジグリセリンアセテートトリペラルゴネート、ジグリセリンアセテートトリカプレート、ジグリセリンアセテートトリラウレート、ジグリセリンアセテートトリミスチレート、ジグリセリンアセテートトリパルミテート、ジグリセリンアセテートトリステアレート、ジグリセリンアセテートトリオレート、ジグリセリンラウレート、ジグリセリンステアレート、ジグリセリンカプリレート、ジグリセリンミリステート、ジグリセリンオレートなどのジグリセリンの混酸エステルなどが挙げられるが限定されない。
【0022】
この中でも、ジグリセリンテトラアセテート、ジグリセリンテトラプロピオネート、ジグリセリンテトラブチレート、ジグリセリンテトラカプリレート、ジグリセリンテトララウレートが好ましい。
【0023】
ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどポリアルキレングリコールの水酸基にアシル基が結合した化合物の具体的な例として、ポリオキシエチレンジアセテート、ポリオキシエチレンジプロピオネート、ポリオキシエチレンジブチレート、ポリオキシエチレンジバリレート、ポリオキシエチレンジカプロエート、ポリオキシエチレンジヘプタノエート、ポリオキシエチレンジオクタノエート、ポリオキシエチレンジノナネート、ポリオキシエチレンジカプレート、ポリオキシエチレンジラウレート、ポリオキシエチレンジミリスチレート、ポリオキシエチレンジパルミテート、ポリオキシエチレンジステアレート、ポリオキシエチレンジオレート、ポリオキシエチレンジリノレート、ポリオキシエチレンモノアセテート、ポリオキシエチレンモノプロピオネート、ポリオキシエチレンモノブチレート、ポリオキシエチレンモノバリレート、ポリオキシエチレンモノカプロエート、ポリオキシエチレンモノヘプタノエート、ポリオキシエチレンモノオクタノエート、ポリオキシエチレンモノノナネート、ポリオキシエチレンモノカプレート、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノミリスチレート、ポリオキシエチレンモノパルミテート、ポリオキシエチレンモノステアレート、ポリオキシエチレンモノオレート、ポリオキシエチレンモノリノレート、ポリオキシプロピレンジアセテート、ポリオキシプロピレンジプロピオネート、ポリオキシプロピレンジブチレート、ポリオキシプロピレンジバリレート、ポリオキシプロピレンジカプロエート、ポリオキシプロピレンジヘプタノエート、ポリオキシプロピレンジオクタノエート、ポリオキシプロピレンジノナネート、ポリオキシプロピレンジカプレート、ポリオキシプロピレンジラウレート、ポリオキシプロピレンジミリスチレート、ポリオキシプロピレンジパルミテート、ポリオキシプロピレンジステアレート、ポリオキシプロピレンジオレート、ポリオキシプロピレンジリノレート、ポリオキシプロピレンモノアセテート、ポリオキシプロピレンモノプロピオネート、ポリオキシプロピレンモノブチレート、ポリオキシプロピレンモノバリレート、ポリオキシプロピレンモノカプロエート、ポリオキシプロピレンモノヘプタノエート、ポリオキシプロピレンモノオクタノエート、ポリオキシプロピレンモノノナネート、ポリオキシプロピレンモノカプレート、ポリオキシプロピレンモノラウレート、ポリオキシプロピレンモノミリスチレート、ポリオキシプロピレンモノパルミテート、ポリオキシプロピレンモノステアレート、ポリオキシプロピレンモノオレート、ポリオキシプロピレンモノリノレートなどが挙げられるがこれに限定されず、これらを単独もしくは併用して使用することができる。
【0024】
可塑剤として用いるポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコールのエステル化合物としては、一般式(1)で表されるポリエーテル化合物を用いると酸化チタン粒子との分散性が良好になり好ましい。
R1−O−{(CH2)nO}m−R2 ・・・(1)
(但し、R1、R2はH、アルキル基、アシル基よりなる群から選ばれた同一または異なる基を表す。nは2〜5の整数、mは3〜30の整数)
これは、一般式(1)で示されるポリエーテル化合物がセルロースエステルとの相溶性に優れるばかりか酸化チタン粒子の分散安定性にも優れ熱可塑化効果が顕著に表れる。さらに、ポリエーテル化合物自身の耐熱性が良好なため、添加したポリマーの色調も良好になる効果を有するからである。さらには、一般式(1)で示されるポリエーテル化合物は製造時の揮発性も非常に低く抑えることができ結果、粒子分散性を向上することが可能となる特徴も有している。
【0025】
具体的なポリエーテル化合物としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンジメチルエーテル、ポリオキシエチレンモノステアレート、ポリオキシエチレンモノオレート、ポリオキシエチレンジラウレート、ポリオキシエチレンジステアレート、ポリオキシエチレンジオレートなどが挙げられるがこれに限定されない。
【0026】
この中でも、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンジラウレートが好ましい。
【0027】
ポリエーテル化合物の分子量としては、200〜1000であることでポリエーテル化合物の揮発が抑えられ、セルロースエステルとの相溶性も良好となるため好ましい。300〜800がより好ましい。
【0028】
本発明の熱可塑性セルロースエステル組成物は、220℃における加熱減量率が5重量%以下であることが好ましい。ここで、加熱減量率とは窒素下において室温から10℃/分の昇温度速度で試料を昇温した時の、220℃における重量減少率をいう。加熱減量率を5重量%以下にするということは、低分子可塑剤を大量に含むなどによって成形加工時に発煙が生じることがないことである。例えば、溶融紡糸の際に発煙が生じることはなく、製糸性の良い、良好な物性を有する繊維が得られる。220℃における加熱減量率は好ましくは3重量%以下である。このように、本発明の加熱減量率の低い熱可塑性セルロースエステル組成物は溶融紡糸に適している。
【0029】
本発明の熱可塑性セルロースエステル組成物に含まれる酸化チタン粒子は、一次粒子径が0.08〜2.0μmのものである。酸化チタンの一次粒子径を0.08〜2.0μmとすることで可塑剤中で安定した分散性を示す。さらに、熱可塑性セルロースエルテル組成物を溶融紡糸した後も分散性を維持できるばかりか、工程通過時のローラー、ガイドとの接触による摩擦係数を低減することが可能となり、糸切れを抑制し安定した生産ができる。好ましい一次粒子径としては0.1〜1.5μm、さらに好ましくは、0.2〜1.0μmである。
【0030】
本発明の熱可塑性セルロースエステルに含まれる酸化チタン粒子の含有量は0.01〜10重量%である。酸化チタンの含有量を0.01〜10重量%とすることで摩擦係数を低減し、良好な工程通過性を有する成形品を得ることが可能となる。好ましい含有量としては0.05〜8重量%、さらに好ましくは、0.1〜5重量%である。
【0031】
本発明の熱可塑性セルロースエステル組成物は、220℃、1000sec-1における溶融粘度が20〜200Pa・secであることが好ましい。220℃、1000sec-1における溶融粘度を20Pa・sec以上とすることにより、溶融紡糸に供した際には、紡出後の固化が十分に進み、収束しても繊維同士が膠着することがない。また、この場合、口金背面圧が十分に得られるため、分配性も良好となり、繊度の均一性が確保される。一方、溶融粘度を200Pa・sec以下とすることにより、紡出糸条の製糸性が良好であり、十分な配向が得られて機械特性の優れた繊維となる。また、配管圧力の異常な上昇によるトラブルが生じることもない。良好な流動性の観点から、220℃、1000sec-1における溶融粘度は50〜190Pa・secであることがより好ましく、80〜180Pa・secであることが最も好ましい。
【0032】
本発明で用いられるセルロースアセテートプロピオネートと可塑剤、酸化チタン粒子の混合は、公知の共溶媒を用いるキャスト法を用いても良いし、エクストルーダー、ニーダー、ロールミル、バンバリーミキサー等の通常使用されている公知の混合機を特に制限無く用いても良い。なお、混合する場合には混合を容易にするために粉砕機により予めセルロースアセテートプロピオネートの粒子を50メッシュ以上に細かく粉砕しておいても良い。また、セルロースアセテートプロピオネート合成時に可塑剤、酸化チタン粒子を添加し、セルロースエステルの製造と同時に可塑剤、酸化チタンを含むセルロースアセテートプロピオネートを得ても良い。
【0033】
本発明の熱可塑性セルロースエステル組成物の製造方法としては、粒子分散性を高度に満足させるため、可塑剤と酸化チタン粒子とをあらかじめ分散処理したスラリーとして50〜150℃に加熱されたセルロースアセテートプロピオネートに添加する方法が好ましい。可塑剤への粒子の分散方法としては、従来公知の方法を採用することができる。例えば、サンドミル、ボールミル、高速撹拌型分散機、超音波分散機などを挙げることができ、中でもサンドミル、高速撹拌型分散機が短時間で均一に粒子を分散でき好ましい。50〜150℃に加熱されたセルロースアセテートプロピオネートへの添加方法としては、合成反応などで使用する反応缶で行ってもいいし、一軸混練機、二軸混練機、ニーダーなどで行っても構わない。セルロースアセテートプロピオネートへの熱履歴を抑制し、粒子分散性を高くできる二軸混練機、ニーダーが好ましい。
【0034】
本発明の組成物は熱流動性が良好であり、溶融紡糸法によって繊維化することができる。
【0035】
本発明の熱可塑性セルロースエステル組成物からなる繊維の強度は、0.5〜2cN/dtexであることが好ましい。強度を0.5cN/dtex以上とすることで、製織や製編時など高次加工工程の通過性が良好であり、また最終製品の強力も不足することがないので好ましい。また、2cN/dtex以下では伸度が低下せず、毛羽立ちを抑えられ糸切れが少ないため好ましい。良好な強度特性の観点から、強度は0.7cN/dtex以上であることが好ましく、1.0cN/dtex以上であることが最も好ましい。
【0036】
本発明の熱可塑性セルロースエステル組成物からなる繊維の伸度は、2〜50%であることが好ましい。伸度を2%以上とすることにより、製織や製編時など高次加工工程において糸切れが多発することがない。また、50%以下では低い応力であれば変形することがなく、製織時の緯ひけなどにより最終製品の染色欠点を生じることがないため好ましい。良好な伸度としては、5〜45%であることがより好ましく、10〜40%であることが最も好ましい。
【0037】
また、本発明の熱可塑性セルロースエステル組成物からなる繊維のU%(ウースターノーマル%)は、3%以下であることが好ましい。U%が3%以下である場合には、繊度の均一性に優れた繊維が得られる。良好なU%としては2%以下が好ましく、最も好ましくは1%以下である。
【0038】
また、本発明の熱可塑性セルロースエステル組成物からなる繊維の摩擦係数は、実施例に記載した方法に従って測定した値として1.5以下であることが好ましい。摩擦係数が1.5以下である場合には、紡糸時や、製織や製編時など高次加工工程において走行性に優れ、糸切れが多発することがない。良好な摩擦係数としては1.3以下が好ましく、最も好ましくは1以下である。
【0039】
本発明で用いる溶融紡糸法は、前記した組成物を公知の溶融紡糸機において、加熱溶融した後に口金から押出し、紡糸し、必要に応じて延伸し巻取ることができる。この際紡糸温度は190℃〜250℃が好ましく、さらに好ましくは200℃〜240℃である。紡糸温度を190℃以上とすることにより、溶融粘度が低くなり溶融紡糸性が向上するので好ましい。また250℃以下にすることにより、組成物の熱分解が抑制されるため好ましい。
【0040】
また、組成物は気泡の混入をできるだけ少なくするために、溶融紡糸機に供給する前にエクストルーダーを用いてペレット化しておくか、エクストルーダーが配管によって溶融紡糸機と結合されていることが望ましい。また、ペレット化した溶融成形用熱可塑性セルロースエステル組成物は溶融紡糸に先立ち、溶融時の加水分解や気泡の発生を防止するために含水率を0.1重量%以下に乾燥することが好ましい。
【0041】
本発明においては必要に応じて要求される性能を損なわない範囲内で、熱劣化防止用、着色防止用の安定剤として、エポキシ化合物、弱有機酸、ホスフェイト、チオフォスフェイト等を単独または2種類以上混合して添加してもよい。また、その他有機酸系の生分解促進剤、滑剤、帯電防止剤、染料、顔料、潤滑剤、艶消剤等の添加剤を配合することは何らさしつかえない。
【0042】
本発明の熱可塑性セルロースエステル組成物からなる繊維は、優れた機械的特性および繊度の均一性を有し、生分解性に優れており、前記繊維を製造する際に熱流動性、工程通過時のローラー、ガイドとの接触による摩擦を低減することが可能となり、糸切れを抑制し安定した生産ができる。また得られた繊維は、衣料用フィラメント、衣料用ステープル、産業用フィラメント、産業用ステープル、医療用フィラメントとすることが可能であり、またメルトブロー法、スパンボンド法による不織布用繊維とすることも好ましく採用できる。
【0043】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
なお、セルロースアセテートプロピオネートの置換度、酸化チタン粒子の一次粒子径、溶融粘度、加熱減量率、強伸度、U%は以下の方法で評価した。
【0045】
(1)セルロースアセテートプロピオネートの置換度
乾燥したセルロースアセテートプロピオネート0.9gを秤量し、アセトン35mlとジメチルスルホキシド15mlを加え溶解した後、さらにアセトン50mlを加えた。撹拌しながら0.5N−水酸化ナトリウム水溶液30mlを加え、2時間ケン化した。熱水50mlを加え、フラスコ側面を洗浄した後、フェノールフタレインを指示薬として0.5N−硫酸で滴定した。別に試料と同じ方法で空試験を行った。滴定が終了した溶液の上澄み液を100倍に希釈し、イオンクロマトグラフを用いて、有機酸の組成を測定した。測定結果とイオンクロマトグラフによる酸組成分析結果から、下記式により置換度を計算した。
【0046】
TA=(B−A)×F/(1000×W)
DSac=(162.14×TA)/
[[1−(Mwac−(16.00+1.01))×TA]+[1−(Mwpr−(16.00+1.01))×TA]×(Pr/Ac)]]
DSpr=DSac×(Pr/Ac)
TA:全有機酸量(ml)
A:試料滴定量(ml)
B:空試験滴定量(ml)
F:硫酸の力価
W:試料重量(g)
DSac:アセチル基の置換度
DSpr:プロピオニル基の置換度
Mwac:酢酸の分子量
Mwpr:プロピオン酸の分子量
Pr/Ac:酢酸(Ac)とプロピオン酸(Pr)とのモル比
162.14:セルロースの繰り返し単位の分子量
16.00:酸素の原子量
1.01:水素の原子量。
【0047】
(2)酸化チタン粒子の一次粒子径
透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて酸化チタン粒子粉末をエポキシ樹脂に分散し超薄切片法にて観察、50個の粒子を測定し、平均粒子径とした。
【0048】
(3)溶融粘度
東洋精機(株)製キャピラリーレオメーター(登録商標:キャピログラフ1B、L=10mm、D=1.0mmのダイ使用)を用い、測定温度220℃、シェアレート1000sec-1で粘度を測定し、溶融粘度とした。
【0049】
(4)加熱減量率
(株)マック・サイエンス社製TG−DTA2000Sを用い、窒素下において室温から400℃まで10℃/分の昇温度速度で試料を加熱した時、220℃におけるサンプル10mgの重量変化を加熱減量率とした。
【0050】
(5)強伸度
JIS−L−1013に基づいて測定を行った。オリエンテック社製テンシロンUCT−100型を用い、試料長20cm、引張速度20mm/minの条件で引張試験を行って、最大荷重を示した点の応力を繊維の強度(cN/dtex)とした。また、破断時の伸度を繊維の伸度(%)とした。
【0051】
なお、強伸度はマルチフィラメント糸で測定したものであり、n=5の平均値である。
【0052】
(6)U%
ツェルベガーウースター社製ウースターテスター4−CXにより、下記条件にて測定して求めた。
【0053】
測定速度:200m/分
測定時間:1分
撚り :S撚り、12000/分
なお、U%はマルチフィラメント糸で測定したものであり、n=1である。
【0054】
(7)摩擦係数
走行速度2.5m/min、初期張力(T1)10gで鏡面クロムの円柱(40mmφ)状の摩擦抵抗体に接触角90℃で試料を走行させた時の走行張力(T2)を測定し、摩擦係数を下記式より算出した。
摩擦係数=(T2−T1)/(T1+T2)
(8)製糸性
溶融紡糸を行う条件において、可塑剤の揮発が見られず、かつ紡出糸の細化変形性が良好なものを○とした。逆に可塑剤の揮発もしくは紡出糸の細化変形性不良により製糸困難なものを×とした。また、製糸は可能だが可塑剤の揮発および糸切れが少なく合格レベルにあるものを△とした。
【0055】
(9)編み立て性
得られた繊維を用いて27ゲージの丸編みを作成し、編み立て性を評価した。問題なく丸編みができるものを○、丸編みができないものを×とした。なお、○は好ましく、×は問題がある。
【0056】
合成例1
セルロース(日本製紙(株)製溶解パルプ、α−セルロース93%)30gに酢酸20gとプロピオン酸90gを加え、50℃で30分混合した。混合物を室温まで冷却した後、氷浴中で冷却した無水酢酸10g、無水プロピオン酸140g、硫酸1.2gを加えてアシル化を行った。アシル化において、40℃を超える時は水浴で冷却した。撹拌を150分間行った後、反応停止剤として酢酸30gと水10gの混合溶液を30分間かけて添加して、過剰の無水物を加水分解した。その後、酢酸100gと水30gを加え60℃で70分間加熱撹拌した。反応終了後、炭酸ナトリウム2g含む水溶液を加えて析出したセルロースエステルを濾別、続いて水で洗浄した後、60℃で4時間乾燥した。得られたセルロースアセテートプロピオネートの置換度は2.7(アセチル基0.3、プロピオニル基2.4)であった。
【0057】
分散例1
可塑剤としてポリエチレングリコール{分子量600(三洋化成工業(株)製PEG600)}97重量%と酸化チタン粒子(富士チタン工業(株)製 アナターゼ型 酸化チタンTA100 平均一次粒子径0.15μm)3重量%を高速撹拌型分散機を用いて3000回転、3時間処理を行い可塑剤/酸化チタンスラリーを得た。
【0058】
実施例1
合成例1で得られたセルロースアセテートプロピオネートをニーダー((株)栗本鐵工所製KRCニーダー)の原料フィダーより9.3kg/hrとなるように投入し、50℃に加熱した後、分散例1で得られた可塑剤/酸化チタン粒子スラリーを0.7kg/hrとなるようにプランジャー式ポンプで添加した。ニーダーのジャケットの温度は200℃とし、連続的に口金を取り付けた先端より押し出し、水冷後、カッターに導入してペレットとした。このペレットを80℃に加熱した真空乾燥機中で8時間乾燥させた後、220℃、1000sec−1での溶融粘度を測定した。溶融粘度は151.9Pa・secであった。また、加熱減量率は0.8%であった。
【0059】
得られたペレットを単軸エクストルーダー式溶融紡糸機で、溶融温度225℃、パック部温度225℃にて溶融し、0.20mmφ−0.30mmLの口金孔を24ホール有する口金より紡出した。紡出糸の細化変形性は良好であり、口金に汚れは付着しなかった。また、紡出糸からは発煙は認められなかった。紡出糸は25℃のチムニー風により冷却した後、750m/minの速度でゴデットローラーにより引き取り、ワインダーにて巻き取ったところ、紡糸糸切れは認められなかった。本組成物の製糸性は非常に良好であった。
【0060】
得られた繊維は、強度が1.2cN/dtex、伸度が25%、摩擦係数0.8であり、機械的特性、走行性に優れていた。また、U%は1.0%であり、繊維長手方向における繊度の均一性が優れたものであった。
【0061】
得られた繊維を用いて丸編みを作成し、編み立て性を評価したところ、問題なく編み物が得られた。
【0062】
実施例2
セルロースアセテートプロピオネート(合成例1)9kg/hrと可塑剤/酸化チタンスラリーとしてグリセリンジアセテートラウレート/酸化チタン粒子(平均一次粒子径0.3μm)1kg/hrを用いる以外は実施例1と同様にして、ペレットを作成し、溶融粘度および加熱減量率を測定した。溶融粘度は122.1Pa・sec、加熱減量率1.1%であった。
【0063】
得られたペレットを実施例1と同様にして紡糸したところ、紡出糸の細化変形性は良好であり、口金には汚れは付着しなかった。また、紡出糸からの発煙は認められず、紡糸糸切れは認めらなかった。本組成物の製糸性は非常に良好であった。
【0064】
得られた繊維は、強度が1.1cN/dtex、伸度が23%、摩擦係数0.7であり、機械的特性、走行性に優れていた。また、U%は1.1%であり、繊度の均一性に優れていた。
【0065】
得られた繊維を用いて丸編みを作成し、編み立て性を評価したところ、問題なく編み物が得られた。
【0066】
実施例3
セルロースアセテートプロピオネート(合成例1)8.5kg/hrと可塑剤/酸化チタンスラリーとしてジグリセリンテトラカプリレート/酸化チタン粒子(平均一次粒子径0.5μm)1.5kg/hrを用いる以外は実施例1と同様にして、ペレットを作成し、溶融粘度および加熱減量率を測定した。溶融粘度は97.6Pa・sec、加熱減量率1.6%であった。
【0067】
得られたペレットを実施例1と同様にして紡糸したところ、紡出糸の細化変形性は良好であり、口金には汚れは付着しなかった。また、紡出糸からの発煙は若干認められたが、紡糸糸切れは認めらなかった。本組成物の製糸性は良好であった。
【0068】
得られた繊維は、強度が1.0cN/dtex、伸度が27%、摩擦係数0.5であり、機械的特性、走行性に優れていた。また、U%は1.0%であり、繊度の均一性に優れていた。
【0069】
得られた繊維を用いて丸編みを作成し、編み立て性を評価したところ、問題なく編み物が得られた。
【0070】
合成例2
無水酢酸5g、無水プロピオン酸120g用いた以外は合成例1と同様に反応してセルロースアセテートプロピオネートを得た。得られたセルロースアセテートプロピオネートの置換度2.5(アセチル基0.1、プロピオニル基2.4)であった。
【0071】
実施例4
セルロースアセテートプロピオネート(合成例2)9kg/hrと可塑剤/酸化チタンスラリーとしてポリプロピレングリコール/酸化チタン粒子(平均一次粒子径1.0μm)1kg/hrを用いる以外は実施例1と同様にして、ペレットを作成し、溶融粘度および加熱減量率を測定した。溶融粘度は124.1Pa・sec、加熱減量率は1.3%であった。
【0072】
得られたペレットを実施例1と同様にして紡糸したところ、紡出糸の細化変形性は良好であり、口金には汚れは付着しなかった。また、紡出糸からの発煙は若干認められたが、紡糸糸切れは認めらなかった。本組成物の製糸性は良好であった。
【0073】
得られた繊維は、強度が0.9cN/dtex、伸度が22%、摩擦係数0.6であり、機械的特性、走行性に優れていた。また、U%は1.2%であり、繊度の均一性に優れていた。
【0074】
得られた繊維を用いて丸編みを作成し、編み立て性を評価したところ、問題なく編み物が得られた。
【0075】
比較例1
セルロースアセテートとしてセルロースジアセテート置換度2.5(ダイセル化学工業(株)製 L40)を用い、分散例1の酸化チタン粒子の平均一次粒子径を0.05μmとした以外は実施例1と同様にして、ペレットを作成し、溶融粘度および加熱減量率を測定した。加熱減量率は1.2%と低いが、溶融粘度は262.8Pa・secと著しく高い値であった。
【0076】
得られたペレットを用いて実施例1と同様に紡糸を試みたところ、紡出糸からの発煙がなく、口金の汚れもみられなかった。しかし、溶融粘度が高すぎて流動性が悪く紡出糸の細化が起こらず、引き取ることができなかった。吐出された樹脂表面は酸化チタン粒子の凝集による凹凸が多数あった。本組成物は非常に製糸性が悪いものであった。
【0077】
比較例2
酸化チタン粒子を用いない以外は実施例1と同様にして、ペレットを作成し、溶融粘度および加熱減量率を測定した。加熱減量率は0.9%、溶融粘度は161.3Pa・secであった。
【0078】
得られたペレットを用いて実施例1と同様に紡糸を試みたところ、紡出糸からの発煙がなく、口金の汚れもみられなかった。しかし、紡糸段階で糸切れが起こり不安定であった。本組成物は製糸性が悪いものであった。
【0079】
得られた繊維は、強度が1.1cN/dtex、伸度が23%、摩擦係数1.6であり、機械的特性は満足できるものの、走行性に劣り、編み立て性が不良であった。
【0080】
比較例3
セルロースアセテートプロピオネート(合成例1)を97重量%、可塑剤/酸化チタンスラリー(分散例1)3重量%をニーダー中220℃で混合し、混合ポリマーを得た以外は実施例1と同様にして、ペレットを作成し、溶融粘度および加熱減量率を測定した。加熱減量率は0.8%と低いが、溶融粘度は281.6Pa・secと著しく高い値であった。
【0081】
得られたペレットを用いて実施例1と同様に紡糸を試みたところ、紡出糸からの発煙がなく、口金の汚れもみられなかった。しかし、溶融粘度が高すぎて流動性が悪く紡出糸の細化が起こらず、引き取ることができなかった。本組成物は非常に製糸性が悪いものであった。
【0082】
比較例4
合成例1で合成したセルロースアセテートプロピオネートを60重量%、可塑剤としてポリエチレングリコール分子量800を25重量%、酸化チタン粒子(平均一次粒子径1.0μm)を15重量%を用いた以外は比較例3と同様にして、ペレットを作成し、溶融粘度および加熱減量率を測定した。溶融粘度は17.8Pa・secであった。加熱減量率は12.1%と高い値であった。
【0083】
得られたペレットを用いて実施例1と同様に紡糸を試みたが、流動性は非常に高かった。また、紡糸速度500m/minでは酸化チタンの凝集粒子による糸切れが多発して引き取りができなかっため、紡糸速度を300m/minと低速にして紡糸を行った。紡出糸からは可塑剤の揮発に伴う激しい発煙が認められ、走行糸条は安定しなかった。本組成物は発煙、糸切れ多発の観点から製糸性の悪いものであった。
【0084】
得られた繊維は強度が0.4cN/dtexと低く、伸度は18%、摩擦係数は0.3であった。また、U%は3.1%と繊度の均一性に劣るものであった。
【0085】
得られた繊維を用いて丸編みを作成し、編み立て性を評価したところ、可塑剤のブリードが激しく編み立て性が不良であった。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【0088】
【発明の効果】
本発明により、可塑剤、酸化チタン粒子を添加したバイオマス系材料であるセルロースアセテートプロピオネートを主成分とする環境負荷の小さい成分からなる熱可塑性セルロースエステル組成物が得られ、それからなる溶融紡糸性、生産性に優れた繊維を提供することが可能となる。得られる組成物および繊維は、生分解性を活かした分野、すなわち、農業用資材、林業用資材、水産資材、土木資材、衛生資材、日用品、衣料用繊維、産業用繊維、不織布などとして好適に用いることができる。
Claims (5)
- エステル置換度が2.5〜3.0であるセルロースアセテートプロピオネート70〜95重量%と、可塑剤2〜20重量%と、一次粒子径0.08〜2.0μmの酸化チタン粒子0.01〜10重量%とを少なくとも含んでなることを特徴とする熱可塑性セルロースエステル組成物。
- 前記熱可塑性セルロースエステル組成物に含まれる可塑剤が、ポリエーテル化合物、分子量250以上のグリセリンエステル、および分子量250以上のジグリセリンエステルから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性セルロースエステル組成物。
- 前記熱可塑性セルロースエステル組成物に含まれる可塑剤が下記一般式(1)で表されるポリエーテル化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の熱可塑性セルロースエステル組成物。
R1−O−{(CH2)nO}m−R2 ・・・(1)
(但し、R1、R2はH、アルキル基、アシル基よりなる群から選ばれた同一または異なる基を表す。nは2〜5の整数、mは3〜30の整数) - 50〜150℃に加熱されたセルロースアセテートプロピオネートに可塑剤と酸化チタン粒子を分散処理したスラリーとして添加することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の熱可塑性セルロースエステル組成物の製造方法。
- 請求項1から3のいずれか1項に記載の熱可塑性セルロースエステル組成物からなる、強度0.5〜2cN/dtex、伸度2〜50%、U%が3%以下であることを特徴とする熱可塑性セルロースエステル繊維。
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