JP2004010844A - 熱可塑性セルロースエステル組成物およびそれからなる繊維 - Google Patents
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Abstract
【課題】バイオマス系材料であるセルロースエステルを主成分とする環境負荷の少ない成分からなる熱可塑性セルロースエステル組成物と、それらからなる溶融紡糸性に優れ、強伸度特性のみならず繊度の均一性にも優れた熱可塑性セルロースエステル組成物繊維を提供すること。
【解決手段】セルロースエステル50〜95重量%と、可塑剤として分子鎖内にアミド基を有する分子量が800以下の非環式化合物5〜50重量%含むことを特徴とする熱可塑性セルロースエステル組成物およびそれからなる繊維。
【選択図】なし
【解決手段】セルロースエステル50〜95重量%と、可塑剤として分子鎖内にアミド基を有する分子量が800以下の非環式化合物5〜50重量%含むことを特徴とする熱可塑性セルロースエステル組成物およびそれからなる繊維。
【選択図】なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、セルロースエステルと可塑剤として分子鎖内にアミド基を有する分子量が800以下の非環式化合物を主成分とする熱可塑性セルロースエステル組成物およびそれらを溶融紡糸して得られる繊維に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
セルロースおよびセルロースエステル、セルロースエーテル等のセルロース誘導体は、地球上で最も大量に生産されるバイオマス材料として、また、環境中にて生分解可能な材料として昨今の大きな注目を集めつつある。現在商業的に利用されているセルロースエステルの代表例としては、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート等が挙げられ、繊維、プラスチック、フィルター、塗料など幅広い分野に利用されている。
【0003】
セルロースの繊維としての利用に関しては、自然界中で産生する綿や麻などの短繊維をそのまま紡績して使用することが古くから行われてきた。短繊維ではなく、フィラメント材料を得るためには、レーヨンの様にセルロースを二硫化炭素等の特殊な溶媒系で溶解させ湿式紡糸法での製糸を行うか、セルロースアセテートの様にセルロースを誘導体化して、塩化メチレンやアセトン等の有機溶媒に溶解させた後、この溶媒を蒸発させながら紡糸する乾式紡糸法での製糸を行うしか方法がなかった。
【0004】
しかし、これらの湿式紡糸法あるいは乾式紡糸法では、紡糸速度が遅いため生産性が低いという問題があるだけでなく、使用する二硫化炭素、アセトン、塩化メチレン等の有機溶剤が環境に対して悪影響を及ぼす懸念が強いため、環境との調和を考える場合には、決して良好な製糸方法とは言えない。
【0005】
一方、溶融紡糸法を用いる方法としては、例えば、特公昭53−11564号公報が挙げられる。これはセルロースアセテートにポリエチレングリコールのような水溶性可塑剤を配合して溶融紡糸を行い、中空糸用の繊維を製造するものであるが、平均分子量が200〜1000のポリエチレングリコールを単独で使用しても紡糸の際の断糸率の点から、低い紡糸ドラフトでないと溶融紡糸は困難である。さらに、ポリエチレングリコールのような吸湿性の強い可塑剤を単独で使用することは用途の点から制限が大きい。
【0006】
また、押出、射出成形用に用いられているセルロースエステルの可塑剤として、フタル酸エステルであるジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ブチルベンジルフタレート、エチルフタリルエチルグリコレート等、トリメリット酸エステルであるトリメチルトリメリテート、トリエチルトリメリテートが知られている。前記可塑剤を含有した脂肪酸セルロースエステル系組成物は、軟化温度が低下して加工しやすくなり、例えばシート、フィルム、パルプ、棒、印材、装飾品、眼鏡枠、工具柄、食器具柄、玩具、雑貨等に広範囲に使用されている。
【0007】
しかしながら、これらの可塑剤を用いたセルロース脂肪酸エステル組成物では、例えば溶融紡糸のように長時間にわたる連続成形加工を行う場合には可塑剤の揮発が激しいという問題が発生する。このことによる具体的な弊害として作業環境の悪化および得られた糸から可塑剤が揮発して表面に付着することによって布帛にしたときに風合いが低下することが挙げられる。
【0008】
上記可塑剤の他に極性の強いアミド化合物を可塑剤に用いた例が知られており、特開平12−212224号公報ではアミド結合を有するビニルポリマー、またはビニル共重合ポリマーが用いられている。しかし、これらの例では可塑剤が高分子量になるためセルロースエステルとの相溶性が低分子より低く、熱可塑化したセルロースエステル組成物の溶融粘度が高くなる問題がある。また、これらの例では可塑剤自体の汎用性に乏しく、高コストになる問題点がある。
【0009】
また、特開平12−297180号公報ではピロリドンカルボン酸エステルを可塑剤として用い、組成物の可塑性を高める提案が見られる。可塑剤が環状の化合物であるため、相互作用するセルロースエステルとの相互作用が小さくなるため揮発しやすい。
【0010】
上記で述べたように可塑剤を含有させたセルロース誘導体樹脂組成物は、押出、射出成形には広範囲に使用されている。しかし、溶融紡糸を行うセルロースエステルの可塑剤として求められている性能である相溶性があり溶融紡糸可能な流動性を得られる熱可塑化効果が顕著であること、セルロースエステルとの相互作用が強く揮発性が低いこと、また汎用性が高いことを全てを十分に満足するものがないというのが現状である。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は上記のような問題点を克服し、バイオマス系材料であるセルロースエステルおよび最適な可塑剤を主成分とする環境負荷の小さい成分からなる熱可塑性セルロースエステル組成物と、それらからなる溶融紡糸性に優れ、強伸度特性のみならず繊度の均一性にも優れた熱可塑性セルロースエステル組成物繊維を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上述した本発明の課題は、セルロースエステル50〜95重量%と、可塑剤として分子鎖内にアミド基を有する分子量が800以下の非環式化合物5〜50重量%含むことを特徴とする熱可塑性セルロースエステル組成物によって解決することができる。この場合、熱可塑性セルロースエステル組成物の220℃における加熱減量率が5重量%以下であり、220℃、1000sec−1における溶融粘度が50〜500Pa・secであることが好ましい態様である。
【0013】
また、本発明の別の課題は、上記熱可塑性セルロースエステル組成物からなり、強度が0.5〜4cN/dtex、伸度が2〜50%、U%が5%以下であることを特徴とする繊維によって解決することができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明におけるセルロースエステルとは、セルロースの水酸基がアシル基によって置換されているものを言う。具体的なアシル化剤としては、酸塩化物、酸無水物、カルボン酸化合物、カルボン酸化合物誘導体、環状エステルなどが挙げられるが特に限定されない。具体的なセルロースエステルの種類としては、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートが挙げられ、可塑剤との相溶性、強度の観点からセルロースアセテートプロピオネートが好ましい。
【0015】
セルロースエステルの置換度は、グルコース単位あたり0.5〜2.9であることが好ましい。また、良好な生分解性を得るためには、セルロースエステルの置換度は比較的低置換度、例えば、0.5〜2.2であることが好ましく、良好な流動性を得るためには、例えば2.2〜2.9であることが好ましいので、目的によって適宜決定することができる。
【0016】
また、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートを用いた時、合計の置換度が上記であることが好ましく、可塑剤との相溶性、得られる繊維の強度の点からアセチル基の置換度(DSace)プロピオニル基あるいはブチリル基の置換度(DSacy)は下記の式を満たすことが好ましいが特に限定されない。
(I) 0.5≦DSace+DSacy≦2.9
(II) 0.1≦DSace≦1.0
(III) 0.4≦DSacy≦2.8
本発明において用いられるセルロースエステルの製造方法に関しては、従来公知の方法にて行えばよく、特に限定されない。
【0017】
熱可塑性セルロースエステル組成物中のセルロースエステルの含有量は50〜95重量%である。含有量を95重量%以下にすることにより、可塑剤を加えたことにより熱可塑化効果が増し、溶融成形性が良好になる。含有量を50重量%以上にすることで、セルロースエステルの有する特徴である強度が増し、機械的特性の優れた成形物が得られる。
【0018】
本発明に使用される可塑剤としては、分子鎖内にアミド基を有する化合物を用いる。これは、極性の強いセルロースエステルと可塑剤のアミド結合部分との相互作用が大きいため可塑剤の揮発を抑えられるためである。
【0019】
本発明の可塑剤として用いられる非環式化合物とはアミド結合が環式部位に含まれない化合物である。一方、アミド結合を有する環式化合物としてはピロリドン化合物が挙げられるが、非環式のアミド化合物に比べてセルロースエステルとの相互作用が小さく揮発が大きい。直鎖状のアミド化合物では、環式部位にあるアミド結合に比べ、アミド結合周辺の立体障害が少なく、セルロースエステルに近づきやすく、セルロースエステルと可塑剤の相互作用が強くなり可塑剤の揮発を抑えられる。
【0020】
また、可塑剤は分子量が800以下の化合物を用いる。分子量が800以下の低分子量可塑剤はセルロースエステルの分子鎖間に入りやすく、相溶性が高いことから、熱可塑性が増大する。また、分子量を200以上とすることで可塑剤の揮発性をより抑えることができるため、分子量は200〜800が好ましい。
【0021】
分子鎖内にアミド基を有する化合物の中でもセルロースエステルとの相互作用を高めるため、セルロースエステルの側鎖に導入されているアルキル基と相互作用の大きい疎水性基であるアルキル基を有するものが好ましい。また、溶融紡糸等の溶融成形を行う際に可塑剤が揮発しないため沸点が200℃以上であるのが好ましく、250℃以上であるのがより好ましい。具体的には可塑剤としてステアリン酸アミド、パルミチン酸アミドが好ましいが、この限りではない。
【0022】
可塑剤の配合量は、得られる熱可塑性セルロースエステルの合計重量当たり5〜50重量%である。前記配合量を50重量%以下とすることにより、機械的特性が良好となる。また、溶融紡糸性の点から強度が高くなり紡糸断糸率が低下する。一方、前記配合量を5重量%以上とすることにより、熱流動性の点から、成形温度を低くすることができ、組成物の熱分解が抑制される。
【0023】
本発明においては必要に応じて要求される性能を損なわない範囲内で、熱劣化防止用、着色防止用の安定剤として、エポキシ化合物、弱有機酸、フォスフェイト、チオフォスフェイト等を単独または2種類以上混合して添加してもよい。また、その他有機酸系の生分解促進剤、滑剤、帯電防止剤、染料、顔料、潤滑剤、艶消剤等の添加剤を配合することは何らさしつかえない。
【0024】
本発明における熱可塑性セルロースエステル組成物は、220℃における加熱減量率が5重量%以下であることが好ましい。ここで、加熱減量率とは窒素下において室温から10℃/分の昇温度速度で試料を昇温した時の、220℃における重量減少率をいう。加熱減量率が5重量%以下の場合には、低分子可塑剤を大量に含むなどによって成形加工時に発煙が生じることがなく好ましい。例えば、溶融紡糸の際に発煙が生じることはなく、製糸性の良い、良好な物性を有する繊維が得られるので好ましい。220℃における加熱減量率は最も好ましくは3重量%以下である。
【0025】
本発明における熱可塑性セルロースエステル組成物は、220℃、1000sec−1における溶融粘度が50〜500Pa・secであることが好ましい。220℃、1000sec−1における溶融粘度が50Pa・sec以上である場合には、例えば溶融紡糸に供した時には、紡出後の固化が十分に進み、収束しても繊維同士が膠着することがないため好ましい。また、この場合、口金背面圧が十分に得られるため、分配性が良好となり、繊度の均一性が担保されるという利点も有している。一方、溶融粘度が500Pa・sec以下である場合には、紡出糸条の製糸性が良好であり、十分な配向が得られて機械特性の優れた繊維となるため好ましい。また、配管圧力の異常な上昇によるトラブルが生じることもない。
【0026】
良好な流動性の観点から、220℃、1000sec−1における溶融粘度は70〜250Pa・secであることが好ましく、80〜200Pa・secであることが最も好ましい。
【0027】
本発明で用いられるセルロースエステルと可塑剤の混合に際して、公知の共溶媒を用いるキャスト法を用いても良いし、ニーダー、ロールミル、バンバリーミキサー等の通常使用されている公知の混合機を特に制限無く用いても良い。なお、混合する場合には混合を容易にするために粉砕機により予めセルロースエステルの粒子を50メッシュ以上に細かく粉砕しておいても良い。また、セルロースエステル合成時に可塑剤を添加し、セルロースエステルの製造と同時に可塑剤を含むセルロースエステルを得ても良い。
【0028】
本発明の組成物は熱流動性が良好であり、溶融紡糸法によって繊維化することができる。
【0029】
本発明における熱可塑性セルロースエステル組成物繊維の強度は、0.5〜4cN/dtexであることが好ましい。強度が0.5cN/dtex以上であれば、製織や製編時など高次加工工程の通過性が良好であり、また最終製品の強力も不足することがないので好ましく、4cN/dtex以下では伸度が低下せず、毛羽立ちを抑えられ糸切れが少ないため好ましい。良好な強度特性の観点から、強度は0.7cN/dtex以上であることが好ましく、1.0cN/dtex以上であることが最も好ましい。
【0030】
本発明における熱可塑性セルロースエステル組成物繊維の伸度は、2〜50%であることが好ましい。伸度が2%以上である場合には製織や製編時など高次加工工程において糸切れが多発することがない。また、50%以下の繊維は低い応力であれば変形することがなく、製織時の緯ひけなどにより最終製品の染色欠点を生じることがないため好ましい。良好な伸度としては、5〜45%であることがより好ましく、10〜40%であることが最も好ましい。
【0031】
また、本発明における熱可塑性セルロースエステル組成物繊維のU%は5%以下であることが好ましい。U%が5%以下であると、繊度の均一性に優れた繊維が得られる。良好なU%としては2%以下が好ましく、最も好ましくは1%以下である。
【0032】
本発明で用いる溶融紡糸法は、前記した組成物を公知の溶融紡糸機において、加熱溶融した後口金から押出し、紡糸し、必要に応じて延伸し巻取ることができる。この際紡糸温度は190℃〜240℃が好ましく、さらに好ましくは200℃〜220℃である。紡糸温度を190℃以上とすることにより、溶融粘度が低くなり溶融紡糸性が向上するので好ましい。また240℃以下にすることにより、組成物の熱分解が抑制されるため好ましい。
【0033】
また、混合物は気泡の混入をできるだけ少なくするために、溶融紡糸機に供給する前にエクストルーダーを用いてペレット化しておくか、エクストルーダーが配管によって溶融紡糸機と結合されていることが望ましい。また、ペレット化した熱可塑性セルロースエステル組成物は溶融紡糸に先立ち、溶融時の加水分解や気泡の発生を防止するために含水率を0.1重量%以下に乾燥することが好ましい。
【0034】
本発明によれば、得られるセルロースエステル組成物から得られる繊維は、優れた機械的特性および繊度の均一性を有し、生分解性に優れており、前記繊維を製造する際に熱流動性が優れるため紡糸時の断糸率が極めて少なく、生産性に優れている。また得られた長繊維は織物、編物等の繊維構造物や、メルトブロー法、スパンボンド法による不織布として用いても良い。
【0035】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、勿論本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
なお、セルロースエステルの置換度、溶融粘度、加熱減量率、強伸度、U%は以下の方法で評価した。
評価方法
(1)セルロースエステルの置換度
乾燥したセルロースエステル0.9gを秤量し、アセトン35mlとジメチルスルホキシド15mlを加え溶解した後、さらにアセトン50mlを加えた。撹拌しながら0.5N−水酸化ナトリウム水溶液30mlを加え、2時間ケン化した。熱水50mlを加え、フラスコ側面を洗浄した後、フェノールフタレインを指示薬として0.5N−硫酸で滴定した。別に試料と同じ方法で空試験を行った。滴定が終了した溶液の上澄み液を100倍に希釈し、イオンクロマトグラフを用いて、有機酸の組成を測定した。測定結果とイオンクロマトグラフによる酸組成分析結果から、下記式により置換度を計算した。
【0037】
TA=(B−A)×F/(1000×W)
DSace=(162.14×TA)/[1−(Mwace−(16.00+1.01)×TA+{1−(Mwacy−(16.00+1.01)×TA}×Acy/Ace]
DSacy=DSace×(Acy/Ace)
TA:全有機酸量(ml)
A:試料滴定量(ml)
B:空試験滴定量(ml)
F:硫酸の力価
W:試料重量(g)
DSace:アセチル基の置換度
DSacy:アシル基の置換度
Mwace:酢酸の分子量
Mwacy:他の有機酸の分子量
Acy/Ace:酢酸(Ace)と他の有機酸(Acy)とのモル比
162.14:セルロースの繰り返し単位の分子量
16.00:酸素の原子量
1.01:水素の原子量
(2)溶融粘度
東洋精機(株)製キャピラリーレオメーター(商標:キャピログラフ1B、L=10mm、D=1.0mmのダイ使用)を用い、測定温度220℃、シェアレート1000sec−1で粘度を測定し、溶融粘度とした。
(3)加熱減量率
(株)マック・サイエンス社製TG−DTA2000Sを用い、窒素下において室温から400℃まで10℃/分の昇温度速度で試料を加熱した時、220℃におけるサンプル10mgの重量変化を加熱減量率とした。
(4)強伸度
オリエンテック社製テンシロンUCT−100型を用い、試料長20cm、引張速度20mm/minの条件で引張試験を行って、最大荷重を示した点の応力を繊維の強度(cN/dtex)とした。また、破断時の伸度を繊維の伸度(%)とした。
(5)U%
ツェルベガーウースター社製ウースターテスター4−CXにて給糸速度25m/minで1分間の測定を行い、得られた値をU%とした。
(6)風合い
得られた繊維を用いて27ゲージの丸編みを作成し、官能検査によって風合いを評価した。十分なドライ感のある物を○、ドライ感のない物を△、著しいヌメリ感のある物を×とした。なお、○は好ましく、△は許容できる範囲であるが、×は問題がある。以下、(7)〜(10)においても同様である。
(7)口金の汚れ
溶融紡糸後に口金の汚れを評価した。化合物の付着がない場合を○、若干の付着が見られる場合を△、著しい付着がある場合を×とした。
(8)流動性
溶融紡糸を行う条件での流動性を評価した。流動性が良く口金から紡出糸がでてくる場合を○、流動性が低く口金から紡出糸が出てこない場合を×とした。
(9)可塑剤の揮発
溶融紡糸を行う条件において、可塑剤の揮発が見られないものを○とした。可塑剤が若干揮発する場合を△、可塑剤の揮発が著しく発煙している場合を×とした。
(10)製糸性
上記(6)〜(9)の要件を総合して、製糸性を評価した。製糸性は(6)〜(9)の全てが○の場合を製糸性が良好である○とした。また、(6)〜(9)に×はないが、一つ以上△のある場合を若干の問題がある△、(6)〜(9)に一つ以上×がある場合を製糸性が不良である×とした。
【0038】
合成例1
セルロース(日本製紙(株)製溶解パルプ)30gに酢酸20gとプロピオン酸90gを加え、55℃で30分混合した。混合物を室温まで冷却した後、氷浴中で冷却した無水酢酸10g、無水プロピオン酸140g、硫酸1.2gおよびプロピオン酸1gを加えてアシル化を行った。アシル化において、40℃を超える時は水浴で冷却した。撹拌を150分間行った後、反応停止剤として酢酸30gと水10gの混合溶液を20分間かけて添加して、過剰の無水物を加水分解した。その後、酢酸100gと水30gを加え60℃で1時間加熱撹拌した。反応終了後、炭酸ナトリウム2g含む水溶液を加えて析出したセルロースエステルを濾別、続いて水で洗浄した後、60℃で4時間乾燥した。得られたセルロースアセテートプロピオネートの置換度はアセチル基0.3、プロピオニル基2.4であった。
【0039】
実施例1
合成例1で得られたセルロースアセテートプロピオネート70重量%と可塑剤としてのステアリン酸アミド30重量%をニーダー中220℃で混合し、混合ポリマーを得た。これを5mm角程度にカッティングし熱可塑性セルロースエステル組成物のペレットとした。このペレットは80℃に加熱した熱風乾燥機中で10時間乾燥させた後220℃、1000sec−1での溶融粘度を測定した。溶融粘度は140.3Pa・secであった。また、加熱減量率は2.2%であった。
【0040】
得られたペレットを単軸エクストルーダー式溶融紡糸機で、溶融温度220℃、パック部温度220℃にて溶融し、0.20mmφ−0.30mmLの口金孔を36ホール有する口金より紡出した。また、口金からの流動性も良く、口金に汚れは付着しなかった。また、紡出糸からは発煙は認められなかった。紡出糸は25℃のチムニー風により冷却した後、500m/minの速度でゴデットローラーにより引き取り、ワインダーにて巻き取ったところ、紡糸糸切れは認められなかった。
【0041】
得られた繊維は、強度が1.5cN/dtex、伸度が19%であり、機械的特性に優れていた。また、U%は0.8%であり、繊維長手方向における繊度の均一性が優れたものであった。
【0042】
得られた繊維を用いて編み地を作成し、風合いを評価したところ、ヌメリ感は全く認められず、ソフトかつドライな望ましい風合いを有するものであった。
【0043】
総合的にみて、実施例1のセルロースエステル誘導体組成物の製糸性は非常に良好であった。
【0044】
合成例2
無水酢酸20g、無水プロピオン酸90g用いた以外はは合成例1と同様に反応してセルロースアセテートプロピオネートを得た。得られたセルロースアセテートプロピオネートの置換度はアセチル基0.8、プロピオニル基1.5であった。
【0045】
上記の方法によって、セルロースアセテートプロピオネートを得た。
【0046】
実施例2
セルロースアセテートプロピオネート(合成例2)90重量%と可塑剤としてステアリン酸アミド10重量%を用いる以外は実施例1と同様にして、ペレットを作成し、溶融粘度および加熱減量率を測定した。溶融粘度は230.1Pa・sec、加熱減量率0.9%であった。
【0047】
得られたペレットを実施例1と同様にして紡糸したところ、口金からの流動性が良く、口金には汚れは付着しなかった。また、紡出糸からの発煙は認められず、紡糸糸切れは認めらなかった。
【0048】
得られた繊維は、強度が0.8cN/dtex、伸度が24%であり、機械的特性に優れていた。また、U%は1.1%であり、繊度の均一性に優れていた。
【0049】
得られた繊維を用いて編み地を作成し、風合いを評価したところ、ヌメリ感は全く認められず、ソフトかつドライな望ましい風合いを有するものであった。また、得られた編み地の生分解性が高かった。
【0050】
総合的にみて、実施例2のセルロースエステル誘導体組成物の製糸性は非常に良好であった。
【0051】
合成例3
セルロース(日本製紙(株)製溶解パルプ)30gに酢酸20gと酪酸110gを加え、55℃で30分混合した。混合物を室温まで冷却した後、氷浴中で冷却した無水酢酸10g、無水酪酸160g、硫酸1.2gおよび酪酸1gを加えてアシル化を行った。アシル化において、40℃を超える時は水浴で冷却した。撹拌を150分間行った後、反応停止剤として酢酸30gと水10gの混合溶液を20分間かけて添加して、過剰の無水物を加水分解した。その後、酢酸100gと水30gを加え60℃で1時間加熱撹拌した。反応終了後、炭酸ナトリウム2g含む水溶液を加えて析出したセルロースエステルを濾別した後、水で洗浄した後、60℃で4時間乾燥した。得られたセルロースアセテートブチレートの置換度はアセチル基0.3、ブチリル基2.4であった。
【0052】
実施例3
セルロースアセテートブチレート(合成例3)60重量%と可塑剤としてパルミチン酸アミド40重量%を用いる以外は実施例1と同様にして、ペレットを作成し、溶融粘度および加熱減量率を測定した。溶融粘度は102.4Pa・sec、加熱減量率は4.5%であった。
【0053】
得られたペレットを実施例1と同様にして紡糸したところ、紡出糸からの発煙は若干認められた。また、口金からの流動性は良好であった。口金の汚れも多少があったが、問題はない程度であった。また、紡糸糸切れは認めらなかった。
【0054】
得られた繊維は、強度が0.7cN/dtex、伸度が30%であり、機械的特性に優れていた。また、U%は1.1%であり、繊度の均一性に優れていた。
【0055】
得られた繊維を用いて編み地を作成し、風合いを評価したところ、ヌメリ感は若干感じられたものの、許容できる範囲のものであった。
【0056】
総合的にみて、実施例3のセルロースエステル組成物は製糸性に問題のないものであった。
【0057】
比較例1
合成例1で合成したセルロースアセテートプロピオネート100重量%用いる以外は実施例1と同様にして、ペレットを作成し、溶融粘度および加熱減量率を測定した。溶融粘度は620.1Pa・secと著しく高い値であった。加熱減量率は0.1%であった。
【0058】
得られたペレットを用いて実施例1と同様に紡糸を試みたところ、紡出糸からの発煙がなく、口金の汚れもみられなかった。しかし、溶融粘度が高すぎて流動性が悪く紡出糸の細化が起こらず、引き取ることができなかった。総合的にみて、非常に製糸性が悪いものであった。
【0059】
比較例2
可塑剤として分子量2100のポリビニルピロリドンを用いた以外は実施例1と同様にして、ペレットを作成し、溶融粘度および加熱減量率を測定した。加熱減量率は0.3%と非常に低いが、溶融粘度は550.0Pa・secと著しく高い値であった。
【0060】
得られたペレットを用いて実施例1と同様に紡糸を試みたところ、紡出糸からの発煙がなく、口金の汚れもみられなかった。しかし、溶融粘度が高すぎて流動性が悪く紡出糸の細化が起こらず、引き取ることができなかった。総合的にみて、非常に製糸性が悪いものであった。
【0061】
比較例3
合成例1で合成したセルロースアセテートプロピオネートを40重量%、可塑剤としてステアリン酸アミドを60重量%用いた以外は実施例1と同様にして、ペレットを作成し、溶融粘度および加熱減量率を測定した。溶融粘度は20.6Pa・secであった。加熱減量率は30.1%と著しく高い値であった。
【0062】
得られたペレットを用いて実施例1と同様に紡糸を試みたが、流動性は非常に高かった。また、紡糸速度500m/minでは糸切れが多発して引き取りができなかったため、紡糸速度を200m/minと低速にして紡糸を行った。紡出糸からは可塑剤の揮発に伴う激しい発煙が認められ、走行糸条は安定しなかった。また、口金の汚れがひどく、1時間後掃除が必要であった。
【0063】
得られた繊維は強度が0.2cN/dtexと低く、伸度は31%であった。また、U%は6.6%と繊度の均一性に劣るものであった。
【0064】
得られた繊維を用いて編み地を作成し、風合いを評価したところ、非常にヌメリ感の強いものであり、布帛としての利用ができないものであった。総合的にみて、比較例3のセルロースエステル組成物の製糸性は非常に悪いものであった。
【0065】
比較例4
合成例1で合成したセルロースアセテートプロピオネートを70重量%、可塑剤としてN−シクロヘキシル−2−ピロリジノンを30重量%用いた以外は実施例1と同様にして、ペレットを作成し、溶融粘度および加熱減量率を測定した。溶融粘度は70.4Pa・secであった。加熱減量率は10.0%と高い値であった。
【0066】
得られたペレットを用いて実施例1と同様に紡糸を試みたが、流動性は非常に高かった。また、紡糸速度500m/minでは糸切れが多発して引き取りができなかったたため、紡糸温度を300m/minと低速にして紡糸を行った。紡出糸からは可塑剤の揮発に伴う激しい発煙が認められ、走行糸条は安定しなかった。また、口金の汚れはあるものの問題となるほどではなかった。
【0067】
得られた繊維は強度が0.4cN/dtexと低く、伸度は23%であった。また、U%は6.1%と繊度の均一性に劣るものであった。
【0068】
得られた繊維を用いて編み地を作成し、風合いを評価したところ、非常にヌメリ感の強いものであり、布帛としての利用ができないものであった。総合的にみて、比較例4のセルロースエステル組成物の製糸性は非常に悪いものであった。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
【発明の効果】
本発明により、可塑剤を添加したバイオマス系材料であるセルロースエステルを主成分とする環境負荷の小さい成分からなる熱可塑性セルロースエステル組成物が得られ、それからなる溶融紡糸性に優れた繊維を提供することが可能となる。得られる組成物および繊維は、生分解性を活かした分野、すなわち、農業用資材、林業用資材、水産資材、土木資材、衛生資材、日用品、衣料用繊維、産業用繊維、不織布などとして好適に用いることができる。
【発明の属する技術分野】
本発明は、セルロースエステルと可塑剤として分子鎖内にアミド基を有する分子量が800以下の非環式化合物を主成分とする熱可塑性セルロースエステル組成物およびそれらを溶融紡糸して得られる繊維に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
セルロースおよびセルロースエステル、セルロースエーテル等のセルロース誘導体は、地球上で最も大量に生産されるバイオマス材料として、また、環境中にて生分解可能な材料として昨今の大きな注目を集めつつある。現在商業的に利用されているセルロースエステルの代表例としては、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート等が挙げられ、繊維、プラスチック、フィルター、塗料など幅広い分野に利用されている。
【0003】
セルロースの繊維としての利用に関しては、自然界中で産生する綿や麻などの短繊維をそのまま紡績して使用することが古くから行われてきた。短繊維ではなく、フィラメント材料を得るためには、レーヨンの様にセルロースを二硫化炭素等の特殊な溶媒系で溶解させ湿式紡糸法での製糸を行うか、セルロースアセテートの様にセルロースを誘導体化して、塩化メチレンやアセトン等の有機溶媒に溶解させた後、この溶媒を蒸発させながら紡糸する乾式紡糸法での製糸を行うしか方法がなかった。
【0004】
しかし、これらの湿式紡糸法あるいは乾式紡糸法では、紡糸速度が遅いため生産性が低いという問題があるだけでなく、使用する二硫化炭素、アセトン、塩化メチレン等の有機溶剤が環境に対して悪影響を及ぼす懸念が強いため、環境との調和を考える場合には、決して良好な製糸方法とは言えない。
【0005】
一方、溶融紡糸法を用いる方法としては、例えば、特公昭53−11564号公報が挙げられる。これはセルロースアセテートにポリエチレングリコールのような水溶性可塑剤を配合して溶融紡糸を行い、中空糸用の繊維を製造するものであるが、平均分子量が200〜1000のポリエチレングリコールを単独で使用しても紡糸の際の断糸率の点から、低い紡糸ドラフトでないと溶融紡糸は困難である。さらに、ポリエチレングリコールのような吸湿性の強い可塑剤を単独で使用することは用途の点から制限が大きい。
【0006】
また、押出、射出成形用に用いられているセルロースエステルの可塑剤として、フタル酸エステルであるジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ブチルベンジルフタレート、エチルフタリルエチルグリコレート等、トリメリット酸エステルであるトリメチルトリメリテート、トリエチルトリメリテートが知られている。前記可塑剤を含有した脂肪酸セルロースエステル系組成物は、軟化温度が低下して加工しやすくなり、例えばシート、フィルム、パルプ、棒、印材、装飾品、眼鏡枠、工具柄、食器具柄、玩具、雑貨等に広範囲に使用されている。
【0007】
しかしながら、これらの可塑剤を用いたセルロース脂肪酸エステル組成物では、例えば溶融紡糸のように長時間にわたる連続成形加工を行う場合には可塑剤の揮発が激しいという問題が発生する。このことによる具体的な弊害として作業環境の悪化および得られた糸から可塑剤が揮発して表面に付着することによって布帛にしたときに風合いが低下することが挙げられる。
【0008】
上記可塑剤の他に極性の強いアミド化合物を可塑剤に用いた例が知られており、特開平12−212224号公報ではアミド結合を有するビニルポリマー、またはビニル共重合ポリマーが用いられている。しかし、これらの例では可塑剤が高分子量になるためセルロースエステルとの相溶性が低分子より低く、熱可塑化したセルロースエステル組成物の溶融粘度が高くなる問題がある。また、これらの例では可塑剤自体の汎用性に乏しく、高コストになる問題点がある。
【0009】
また、特開平12−297180号公報ではピロリドンカルボン酸エステルを可塑剤として用い、組成物の可塑性を高める提案が見られる。可塑剤が環状の化合物であるため、相互作用するセルロースエステルとの相互作用が小さくなるため揮発しやすい。
【0010】
上記で述べたように可塑剤を含有させたセルロース誘導体樹脂組成物は、押出、射出成形には広範囲に使用されている。しかし、溶融紡糸を行うセルロースエステルの可塑剤として求められている性能である相溶性があり溶融紡糸可能な流動性を得られる熱可塑化効果が顕著であること、セルロースエステルとの相互作用が強く揮発性が低いこと、また汎用性が高いことを全てを十分に満足するものがないというのが現状である。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は上記のような問題点を克服し、バイオマス系材料であるセルロースエステルおよび最適な可塑剤を主成分とする環境負荷の小さい成分からなる熱可塑性セルロースエステル組成物と、それらからなる溶融紡糸性に優れ、強伸度特性のみならず繊度の均一性にも優れた熱可塑性セルロースエステル組成物繊維を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上述した本発明の課題は、セルロースエステル50〜95重量%と、可塑剤として分子鎖内にアミド基を有する分子量が800以下の非環式化合物5〜50重量%含むことを特徴とする熱可塑性セルロースエステル組成物によって解決することができる。この場合、熱可塑性セルロースエステル組成物の220℃における加熱減量率が5重量%以下であり、220℃、1000sec−1における溶融粘度が50〜500Pa・secであることが好ましい態様である。
【0013】
また、本発明の別の課題は、上記熱可塑性セルロースエステル組成物からなり、強度が0.5〜4cN/dtex、伸度が2〜50%、U%が5%以下であることを特徴とする繊維によって解決することができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明におけるセルロースエステルとは、セルロースの水酸基がアシル基によって置換されているものを言う。具体的なアシル化剤としては、酸塩化物、酸無水物、カルボン酸化合物、カルボン酸化合物誘導体、環状エステルなどが挙げられるが特に限定されない。具体的なセルロースエステルの種類としては、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートが挙げられ、可塑剤との相溶性、強度の観点からセルロースアセテートプロピオネートが好ましい。
【0015】
セルロースエステルの置換度は、グルコース単位あたり0.5〜2.9であることが好ましい。また、良好な生分解性を得るためには、セルロースエステルの置換度は比較的低置換度、例えば、0.5〜2.2であることが好ましく、良好な流動性を得るためには、例えば2.2〜2.9であることが好ましいので、目的によって適宜決定することができる。
【0016】
また、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートを用いた時、合計の置換度が上記であることが好ましく、可塑剤との相溶性、得られる繊維の強度の点からアセチル基の置換度(DSace)プロピオニル基あるいはブチリル基の置換度(DSacy)は下記の式を満たすことが好ましいが特に限定されない。
(I) 0.5≦DSace+DSacy≦2.9
(II) 0.1≦DSace≦1.0
(III) 0.4≦DSacy≦2.8
本発明において用いられるセルロースエステルの製造方法に関しては、従来公知の方法にて行えばよく、特に限定されない。
【0017】
熱可塑性セルロースエステル組成物中のセルロースエステルの含有量は50〜95重量%である。含有量を95重量%以下にすることにより、可塑剤を加えたことにより熱可塑化効果が増し、溶融成形性が良好になる。含有量を50重量%以上にすることで、セルロースエステルの有する特徴である強度が増し、機械的特性の優れた成形物が得られる。
【0018】
本発明に使用される可塑剤としては、分子鎖内にアミド基を有する化合物を用いる。これは、極性の強いセルロースエステルと可塑剤のアミド結合部分との相互作用が大きいため可塑剤の揮発を抑えられるためである。
【0019】
本発明の可塑剤として用いられる非環式化合物とはアミド結合が環式部位に含まれない化合物である。一方、アミド結合を有する環式化合物としてはピロリドン化合物が挙げられるが、非環式のアミド化合物に比べてセルロースエステルとの相互作用が小さく揮発が大きい。直鎖状のアミド化合物では、環式部位にあるアミド結合に比べ、アミド結合周辺の立体障害が少なく、セルロースエステルに近づきやすく、セルロースエステルと可塑剤の相互作用が強くなり可塑剤の揮発を抑えられる。
【0020】
また、可塑剤は分子量が800以下の化合物を用いる。分子量が800以下の低分子量可塑剤はセルロースエステルの分子鎖間に入りやすく、相溶性が高いことから、熱可塑性が増大する。また、分子量を200以上とすることで可塑剤の揮発性をより抑えることができるため、分子量は200〜800が好ましい。
【0021】
分子鎖内にアミド基を有する化合物の中でもセルロースエステルとの相互作用を高めるため、セルロースエステルの側鎖に導入されているアルキル基と相互作用の大きい疎水性基であるアルキル基を有するものが好ましい。また、溶融紡糸等の溶融成形を行う際に可塑剤が揮発しないため沸点が200℃以上であるのが好ましく、250℃以上であるのがより好ましい。具体的には可塑剤としてステアリン酸アミド、パルミチン酸アミドが好ましいが、この限りではない。
【0022】
可塑剤の配合量は、得られる熱可塑性セルロースエステルの合計重量当たり5〜50重量%である。前記配合量を50重量%以下とすることにより、機械的特性が良好となる。また、溶融紡糸性の点から強度が高くなり紡糸断糸率が低下する。一方、前記配合量を5重量%以上とすることにより、熱流動性の点から、成形温度を低くすることができ、組成物の熱分解が抑制される。
【0023】
本発明においては必要に応じて要求される性能を損なわない範囲内で、熱劣化防止用、着色防止用の安定剤として、エポキシ化合物、弱有機酸、フォスフェイト、チオフォスフェイト等を単独または2種類以上混合して添加してもよい。また、その他有機酸系の生分解促進剤、滑剤、帯電防止剤、染料、顔料、潤滑剤、艶消剤等の添加剤を配合することは何らさしつかえない。
【0024】
本発明における熱可塑性セルロースエステル組成物は、220℃における加熱減量率が5重量%以下であることが好ましい。ここで、加熱減量率とは窒素下において室温から10℃/分の昇温度速度で試料を昇温した時の、220℃における重量減少率をいう。加熱減量率が5重量%以下の場合には、低分子可塑剤を大量に含むなどによって成形加工時に発煙が生じることがなく好ましい。例えば、溶融紡糸の際に発煙が生じることはなく、製糸性の良い、良好な物性を有する繊維が得られるので好ましい。220℃における加熱減量率は最も好ましくは3重量%以下である。
【0025】
本発明における熱可塑性セルロースエステル組成物は、220℃、1000sec−1における溶融粘度が50〜500Pa・secであることが好ましい。220℃、1000sec−1における溶融粘度が50Pa・sec以上である場合には、例えば溶融紡糸に供した時には、紡出後の固化が十分に進み、収束しても繊維同士が膠着することがないため好ましい。また、この場合、口金背面圧が十分に得られるため、分配性が良好となり、繊度の均一性が担保されるという利点も有している。一方、溶融粘度が500Pa・sec以下である場合には、紡出糸条の製糸性が良好であり、十分な配向が得られて機械特性の優れた繊維となるため好ましい。また、配管圧力の異常な上昇によるトラブルが生じることもない。
【0026】
良好な流動性の観点から、220℃、1000sec−1における溶融粘度は70〜250Pa・secであることが好ましく、80〜200Pa・secであることが最も好ましい。
【0027】
本発明で用いられるセルロースエステルと可塑剤の混合に際して、公知の共溶媒を用いるキャスト法を用いても良いし、ニーダー、ロールミル、バンバリーミキサー等の通常使用されている公知の混合機を特に制限無く用いても良い。なお、混合する場合には混合を容易にするために粉砕機により予めセルロースエステルの粒子を50メッシュ以上に細かく粉砕しておいても良い。また、セルロースエステル合成時に可塑剤を添加し、セルロースエステルの製造と同時に可塑剤を含むセルロースエステルを得ても良い。
【0028】
本発明の組成物は熱流動性が良好であり、溶融紡糸法によって繊維化することができる。
【0029】
本発明における熱可塑性セルロースエステル組成物繊維の強度は、0.5〜4cN/dtexであることが好ましい。強度が0.5cN/dtex以上であれば、製織や製編時など高次加工工程の通過性が良好であり、また最終製品の強力も不足することがないので好ましく、4cN/dtex以下では伸度が低下せず、毛羽立ちを抑えられ糸切れが少ないため好ましい。良好な強度特性の観点から、強度は0.7cN/dtex以上であることが好ましく、1.0cN/dtex以上であることが最も好ましい。
【0030】
本発明における熱可塑性セルロースエステル組成物繊維の伸度は、2〜50%であることが好ましい。伸度が2%以上である場合には製織や製編時など高次加工工程において糸切れが多発することがない。また、50%以下の繊維は低い応力であれば変形することがなく、製織時の緯ひけなどにより最終製品の染色欠点を生じることがないため好ましい。良好な伸度としては、5〜45%であることがより好ましく、10〜40%であることが最も好ましい。
【0031】
また、本発明における熱可塑性セルロースエステル組成物繊維のU%は5%以下であることが好ましい。U%が5%以下であると、繊度の均一性に優れた繊維が得られる。良好なU%としては2%以下が好ましく、最も好ましくは1%以下である。
【0032】
本発明で用いる溶融紡糸法は、前記した組成物を公知の溶融紡糸機において、加熱溶融した後口金から押出し、紡糸し、必要に応じて延伸し巻取ることができる。この際紡糸温度は190℃〜240℃が好ましく、さらに好ましくは200℃〜220℃である。紡糸温度を190℃以上とすることにより、溶融粘度が低くなり溶融紡糸性が向上するので好ましい。また240℃以下にすることにより、組成物の熱分解が抑制されるため好ましい。
【0033】
また、混合物は気泡の混入をできるだけ少なくするために、溶融紡糸機に供給する前にエクストルーダーを用いてペレット化しておくか、エクストルーダーが配管によって溶融紡糸機と結合されていることが望ましい。また、ペレット化した熱可塑性セルロースエステル組成物は溶融紡糸に先立ち、溶融時の加水分解や気泡の発生を防止するために含水率を0.1重量%以下に乾燥することが好ましい。
【0034】
本発明によれば、得られるセルロースエステル組成物から得られる繊維は、優れた機械的特性および繊度の均一性を有し、生分解性に優れており、前記繊維を製造する際に熱流動性が優れるため紡糸時の断糸率が極めて少なく、生産性に優れている。また得られた長繊維は織物、編物等の繊維構造物や、メルトブロー法、スパンボンド法による不織布として用いても良い。
【0035】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、勿論本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
なお、セルロースエステルの置換度、溶融粘度、加熱減量率、強伸度、U%は以下の方法で評価した。
評価方法
(1)セルロースエステルの置換度
乾燥したセルロースエステル0.9gを秤量し、アセトン35mlとジメチルスルホキシド15mlを加え溶解した後、さらにアセトン50mlを加えた。撹拌しながら0.5N−水酸化ナトリウム水溶液30mlを加え、2時間ケン化した。熱水50mlを加え、フラスコ側面を洗浄した後、フェノールフタレインを指示薬として0.5N−硫酸で滴定した。別に試料と同じ方法で空試験を行った。滴定が終了した溶液の上澄み液を100倍に希釈し、イオンクロマトグラフを用いて、有機酸の組成を測定した。測定結果とイオンクロマトグラフによる酸組成分析結果から、下記式により置換度を計算した。
【0037】
TA=(B−A)×F/(1000×W)
DSace=(162.14×TA)/[1−(Mwace−(16.00+1.01)×TA+{1−(Mwacy−(16.00+1.01)×TA}×Acy/Ace]
DSacy=DSace×(Acy/Ace)
TA:全有機酸量(ml)
A:試料滴定量(ml)
B:空試験滴定量(ml)
F:硫酸の力価
W:試料重量(g)
DSace:アセチル基の置換度
DSacy:アシル基の置換度
Mwace:酢酸の分子量
Mwacy:他の有機酸の分子量
Acy/Ace:酢酸(Ace)と他の有機酸(Acy)とのモル比
162.14:セルロースの繰り返し単位の分子量
16.00:酸素の原子量
1.01:水素の原子量
(2)溶融粘度
東洋精機(株)製キャピラリーレオメーター(商標:キャピログラフ1B、L=10mm、D=1.0mmのダイ使用)を用い、測定温度220℃、シェアレート1000sec−1で粘度を測定し、溶融粘度とした。
(3)加熱減量率
(株)マック・サイエンス社製TG−DTA2000Sを用い、窒素下において室温から400℃まで10℃/分の昇温度速度で試料を加熱した時、220℃におけるサンプル10mgの重量変化を加熱減量率とした。
(4)強伸度
オリエンテック社製テンシロンUCT−100型を用い、試料長20cm、引張速度20mm/minの条件で引張試験を行って、最大荷重を示した点の応力を繊維の強度(cN/dtex)とした。また、破断時の伸度を繊維の伸度(%)とした。
(5)U%
ツェルベガーウースター社製ウースターテスター4−CXにて給糸速度25m/minで1分間の測定を行い、得られた値をU%とした。
(6)風合い
得られた繊維を用いて27ゲージの丸編みを作成し、官能検査によって風合いを評価した。十分なドライ感のある物を○、ドライ感のない物を△、著しいヌメリ感のある物を×とした。なお、○は好ましく、△は許容できる範囲であるが、×は問題がある。以下、(7)〜(10)においても同様である。
(7)口金の汚れ
溶融紡糸後に口金の汚れを評価した。化合物の付着がない場合を○、若干の付着が見られる場合を△、著しい付着がある場合を×とした。
(8)流動性
溶融紡糸を行う条件での流動性を評価した。流動性が良く口金から紡出糸がでてくる場合を○、流動性が低く口金から紡出糸が出てこない場合を×とした。
(9)可塑剤の揮発
溶融紡糸を行う条件において、可塑剤の揮発が見られないものを○とした。可塑剤が若干揮発する場合を△、可塑剤の揮発が著しく発煙している場合を×とした。
(10)製糸性
上記(6)〜(9)の要件を総合して、製糸性を評価した。製糸性は(6)〜(9)の全てが○の場合を製糸性が良好である○とした。また、(6)〜(9)に×はないが、一つ以上△のある場合を若干の問題がある△、(6)〜(9)に一つ以上×がある場合を製糸性が不良である×とした。
【0038】
合成例1
セルロース(日本製紙(株)製溶解パルプ)30gに酢酸20gとプロピオン酸90gを加え、55℃で30分混合した。混合物を室温まで冷却した後、氷浴中で冷却した無水酢酸10g、無水プロピオン酸140g、硫酸1.2gおよびプロピオン酸1gを加えてアシル化を行った。アシル化において、40℃を超える時は水浴で冷却した。撹拌を150分間行った後、反応停止剤として酢酸30gと水10gの混合溶液を20分間かけて添加して、過剰の無水物を加水分解した。その後、酢酸100gと水30gを加え60℃で1時間加熱撹拌した。反応終了後、炭酸ナトリウム2g含む水溶液を加えて析出したセルロースエステルを濾別、続いて水で洗浄した後、60℃で4時間乾燥した。得られたセルロースアセテートプロピオネートの置換度はアセチル基0.3、プロピオニル基2.4であった。
【0039】
実施例1
合成例1で得られたセルロースアセテートプロピオネート70重量%と可塑剤としてのステアリン酸アミド30重量%をニーダー中220℃で混合し、混合ポリマーを得た。これを5mm角程度にカッティングし熱可塑性セルロースエステル組成物のペレットとした。このペレットは80℃に加熱した熱風乾燥機中で10時間乾燥させた後220℃、1000sec−1での溶融粘度を測定した。溶融粘度は140.3Pa・secであった。また、加熱減量率は2.2%であった。
【0040】
得られたペレットを単軸エクストルーダー式溶融紡糸機で、溶融温度220℃、パック部温度220℃にて溶融し、0.20mmφ−0.30mmLの口金孔を36ホール有する口金より紡出した。また、口金からの流動性も良く、口金に汚れは付着しなかった。また、紡出糸からは発煙は認められなかった。紡出糸は25℃のチムニー風により冷却した後、500m/minの速度でゴデットローラーにより引き取り、ワインダーにて巻き取ったところ、紡糸糸切れは認められなかった。
【0041】
得られた繊維は、強度が1.5cN/dtex、伸度が19%であり、機械的特性に優れていた。また、U%は0.8%であり、繊維長手方向における繊度の均一性が優れたものであった。
【0042】
得られた繊維を用いて編み地を作成し、風合いを評価したところ、ヌメリ感は全く認められず、ソフトかつドライな望ましい風合いを有するものであった。
【0043】
総合的にみて、実施例1のセルロースエステル誘導体組成物の製糸性は非常に良好であった。
【0044】
合成例2
無水酢酸20g、無水プロピオン酸90g用いた以外はは合成例1と同様に反応してセルロースアセテートプロピオネートを得た。得られたセルロースアセテートプロピオネートの置換度はアセチル基0.8、プロピオニル基1.5であった。
【0045】
上記の方法によって、セルロースアセテートプロピオネートを得た。
【0046】
実施例2
セルロースアセテートプロピオネート(合成例2)90重量%と可塑剤としてステアリン酸アミド10重量%を用いる以外は実施例1と同様にして、ペレットを作成し、溶融粘度および加熱減量率を測定した。溶融粘度は230.1Pa・sec、加熱減量率0.9%であった。
【0047】
得られたペレットを実施例1と同様にして紡糸したところ、口金からの流動性が良く、口金には汚れは付着しなかった。また、紡出糸からの発煙は認められず、紡糸糸切れは認めらなかった。
【0048】
得られた繊維は、強度が0.8cN/dtex、伸度が24%であり、機械的特性に優れていた。また、U%は1.1%であり、繊度の均一性に優れていた。
【0049】
得られた繊維を用いて編み地を作成し、風合いを評価したところ、ヌメリ感は全く認められず、ソフトかつドライな望ましい風合いを有するものであった。また、得られた編み地の生分解性が高かった。
【0050】
総合的にみて、実施例2のセルロースエステル誘導体組成物の製糸性は非常に良好であった。
【0051】
合成例3
セルロース(日本製紙(株)製溶解パルプ)30gに酢酸20gと酪酸110gを加え、55℃で30分混合した。混合物を室温まで冷却した後、氷浴中で冷却した無水酢酸10g、無水酪酸160g、硫酸1.2gおよび酪酸1gを加えてアシル化を行った。アシル化において、40℃を超える時は水浴で冷却した。撹拌を150分間行った後、反応停止剤として酢酸30gと水10gの混合溶液を20分間かけて添加して、過剰の無水物を加水分解した。その後、酢酸100gと水30gを加え60℃で1時間加熱撹拌した。反応終了後、炭酸ナトリウム2g含む水溶液を加えて析出したセルロースエステルを濾別した後、水で洗浄した後、60℃で4時間乾燥した。得られたセルロースアセテートブチレートの置換度はアセチル基0.3、ブチリル基2.4であった。
【0052】
実施例3
セルロースアセテートブチレート(合成例3)60重量%と可塑剤としてパルミチン酸アミド40重量%を用いる以外は実施例1と同様にして、ペレットを作成し、溶融粘度および加熱減量率を測定した。溶融粘度は102.4Pa・sec、加熱減量率は4.5%であった。
【0053】
得られたペレットを実施例1と同様にして紡糸したところ、紡出糸からの発煙は若干認められた。また、口金からの流動性は良好であった。口金の汚れも多少があったが、問題はない程度であった。また、紡糸糸切れは認めらなかった。
【0054】
得られた繊維は、強度が0.7cN/dtex、伸度が30%であり、機械的特性に優れていた。また、U%は1.1%であり、繊度の均一性に優れていた。
【0055】
得られた繊維を用いて編み地を作成し、風合いを評価したところ、ヌメリ感は若干感じられたものの、許容できる範囲のものであった。
【0056】
総合的にみて、実施例3のセルロースエステル組成物は製糸性に問題のないものであった。
【0057】
比較例1
合成例1で合成したセルロースアセテートプロピオネート100重量%用いる以外は実施例1と同様にして、ペレットを作成し、溶融粘度および加熱減量率を測定した。溶融粘度は620.1Pa・secと著しく高い値であった。加熱減量率は0.1%であった。
【0058】
得られたペレットを用いて実施例1と同様に紡糸を試みたところ、紡出糸からの発煙がなく、口金の汚れもみられなかった。しかし、溶融粘度が高すぎて流動性が悪く紡出糸の細化が起こらず、引き取ることができなかった。総合的にみて、非常に製糸性が悪いものであった。
【0059】
比較例2
可塑剤として分子量2100のポリビニルピロリドンを用いた以外は実施例1と同様にして、ペレットを作成し、溶融粘度および加熱減量率を測定した。加熱減量率は0.3%と非常に低いが、溶融粘度は550.0Pa・secと著しく高い値であった。
【0060】
得られたペレットを用いて実施例1と同様に紡糸を試みたところ、紡出糸からの発煙がなく、口金の汚れもみられなかった。しかし、溶融粘度が高すぎて流動性が悪く紡出糸の細化が起こらず、引き取ることができなかった。総合的にみて、非常に製糸性が悪いものであった。
【0061】
比較例3
合成例1で合成したセルロースアセテートプロピオネートを40重量%、可塑剤としてステアリン酸アミドを60重量%用いた以外は実施例1と同様にして、ペレットを作成し、溶融粘度および加熱減量率を測定した。溶融粘度は20.6Pa・secであった。加熱減量率は30.1%と著しく高い値であった。
【0062】
得られたペレットを用いて実施例1と同様に紡糸を試みたが、流動性は非常に高かった。また、紡糸速度500m/minでは糸切れが多発して引き取りができなかったため、紡糸速度を200m/minと低速にして紡糸を行った。紡出糸からは可塑剤の揮発に伴う激しい発煙が認められ、走行糸条は安定しなかった。また、口金の汚れがひどく、1時間後掃除が必要であった。
【0063】
得られた繊維は強度が0.2cN/dtexと低く、伸度は31%であった。また、U%は6.6%と繊度の均一性に劣るものであった。
【0064】
得られた繊維を用いて編み地を作成し、風合いを評価したところ、非常にヌメリ感の強いものであり、布帛としての利用ができないものであった。総合的にみて、比較例3のセルロースエステル組成物の製糸性は非常に悪いものであった。
【0065】
比較例4
合成例1で合成したセルロースアセテートプロピオネートを70重量%、可塑剤としてN−シクロヘキシル−2−ピロリジノンを30重量%用いた以外は実施例1と同様にして、ペレットを作成し、溶融粘度および加熱減量率を測定した。溶融粘度は70.4Pa・secであった。加熱減量率は10.0%と高い値であった。
【0066】
得られたペレットを用いて実施例1と同様に紡糸を試みたが、流動性は非常に高かった。また、紡糸速度500m/minでは糸切れが多発して引き取りができなかったたため、紡糸温度を300m/minと低速にして紡糸を行った。紡出糸からは可塑剤の揮発に伴う激しい発煙が認められ、走行糸条は安定しなかった。また、口金の汚れはあるものの問題となるほどではなかった。
【0067】
得られた繊維は強度が0.4cN/dtexと低く、伸度は23%であった。また、U%は6.1%と繊度の均一性に劣るものであった。
【0068】
得られた繊維を用いて編み地を作成し、風合いを評価したところ、非常にヌメリ感の強いものであり、布帛としての利用ができないものであった。総合的にみて、比較例4のセルロースエステル組成物の製糸性は非常に悪いものであった。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
【発明の効果】
本発明により、可塑剤を添加したバイオマス系材料であるセルロースエステルを主成分とする環境負荷の小さい成分からなる熱可塑性セルロースエステル組成物が得られ、それからなる溶融紡糸性に優れた繊維を提供することが可能となる。得られる組成物および繊維は、生分解性を活かした分野、すなわち、農業用資材、林業用資材、水産資材、土木資材、衛生資材、日用品、衣料用繊維、産業用繊維、不織布などとして好適に用いることができる。
Claims (5)
- セルロースエステル50〜95重量%と、可塑剤として分子鎖内にアミド基を有する分子量が800以下の非環式化合物5〜50重量%を含んでなることを特徴とする熱可塑性セルロースエステル組成物。
- セルロースエステルがセルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートよりなる群より選ばれる少なくとも一種のセルロースエステルであることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性セルロースエステル組成物。
- 220℃における加熱減量率が5重量%以下であることを特徴とする請求項1または2記載の熱可塑性セルロースエステル組成物。
- 220℃、1000sec−1における溶融粘度が50〜500Pa・secであることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項記載の熱可塑性セルロースエステル組成物。
- 請求項1から4のいずれか一項記載のセルロースエステル組成物であって、かつ強度が0.5〜4cN/dtex、伸度が2〜50%、U%が5%以下であることを特徴とする繊維。
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