JP2004196932A - 吸湿熱可塑性セルロースエステル組成物およびそれから得られる繊維 - Google Patents
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Abstract
【課題】バイオマス系材料であるセルロースエステルを主成分とする環境負荷の少ない成分からなる熱可塑性セルロースエステル組成物と、それらからなる溶融紡糸性、吸湿性に優れた熱可塑性セルロースエステル繊維を提供すること。
【解決手段】エステル置換度が2.5〜3.0であるセルロースエステル70〜95重量%と、多価アルコールエステル可塑剤2〜20重量%と、シリカ系無機粒子とを少なくとも含む熱可塑性セルロースエステル組成物およびそれから得られる繊維。
【選択図】なし
【解決手段】エステル置換度が2.5〜3.0であるセルロースエステル70〜95重量%と、多価アルコールエステル可塑剤2〜20重量%と、シリカ系無機粒子とを少なくとも含む熱可塑性セルロースエステル組成物およびそれから得られる繊維。
【選択図】なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、吸湿性に優れ、熱可塑化成形性を有するセルロースエステル組成物およびそれらを溶融紡糸して得られる繊維に関する。さらに詳しくは、衣類とした場合の着用快適性に優れたセルロースエステル繊維に関する。
【0002】
【従来の技術】
セルロースエステル、セルロースエーテルなどのセルロース系材料は、光合成により再生可能なバイオマス材料として、また生分解可能な材料として昨今の大きな注目を集めている。
【0003】
セルロースジアセテートやセルローストリアセテートに代表されるセルロースエステル繊維は、アルカリ処理により脂肪酸エステルを加水分解し、水酸基を復活する、すなわちケン化することによりセルロース化する技術が検討されており、それにより元のアセテートに比べ吸湿性を改善することができる。
【0004】
しかし、完全にケン化する場合、ケン化に伴い、セルロースは収縮、硬化し強度低下する傾向があり、これを抑制する方法として、芯成分にポリエステルを用い鞘成分にセルロースエステルを用いた複合繊維の技術がある(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、複合繊維のためセルロースの比率が低く、吸湿性としては低い結果となる問題を有している。さらには、完全にケン化した場合でもセルロースの吸湿性を上回る効果は期待できないことになる。
【0005】
一方、シリカ粒子を配合して耐熱性、表面硬度および剛性などの物性を向上させたセルロース誘導体熱可塑性樹脂組成物の技術がある(例えば、特許文献2参照)。耐熱性、表面硬度に着目されたシリカ粒子であり吸湿性向上には効果がなく、目的効果が異なるものである。
【0006】
このようにセルロースエステルの吸湿性を向上させる技術としては加水分解によるケン化が主流であり強度低下を避けられないのが現状である。
【0007】
【特許文献1】
特開昭52−85518(第1〜2頁)
【0008】
【特許文献2】
特開昭63−215744(第1頁)
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、吸湿性の優れた熱可塑性セルロースエステル組成物およびそれから得られる繊維を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
前述した本発明の課題は、エステル置換度が2.5〜3.0であるセルロースエステル70〜95重量%と、多価アルコールエステル可塑剤2〜20重量%とを少なくとも含んでなるセルロースエステル組成物に、下記A〜Dの要件を満足するシリカ系無機粒子を1〜20重量%含有することを特徴とする熱可塑性セルロースエステル組成物によって解決することができる。
【0011】
A.シリカ系無機粒子の細孔容積V(ml/g)が0.9以上であり、かつ該粒子の比表面積S(m2/g)との関係が 次式を満足すること。
【0012】
300≦(S/V)≦1500
B.シリカ系無機粒子の平均粒径(μm)が0.01〜10であること。
【0013】
C.シリカ系無機粒子の表面に存在するシラノール基の数が3個/nm2以上であること。
【0014】
D.シリカ系無機粒子の吸湿パラメーター(ΔMR)が7%以上であること。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のセルロースエステル繊維について詳細に説明する。
【0016】
本発明におけるセルロースエステル繊維は、エステル置換度が2.5〜3.0であるセルロースエステルと、多価アルコールエステル可塑剤と、特定のシリカ系無機粒子とを少なくとも含んでなる熱可塑性セルロースエステル組成物よりなる。
【0017】
本発明におけるセルロースエステルのエステル置換度は2.5〜3.0である。セルロースエステルのエステル置換度が2.5未満の場合、未置換水酸基が多すぎるため、十分な熱可塑化効果を得ることができない。なおセルロースのグルコース単位中に含まれる水酸基の数は3個であるため、エステル置換度の上限は3.0である。エステル置換度は2.6〜2.9であることが好ましい。
【0018】
熱可塑性セルロースエステル組成物中のセルロースエステルの含有量は70〜95重量%である。含有量を95重量%以下にすることにより、多価アルコールエステル可塑剤を加えたことによる熱可塑化効果が増し、溶融成形性が良好になる。含有量を70重量%以上にすることで、セルロースエステルの有する特徴である強度が増し、機械的特性の優れた成形物が得られる。
【0019】
本発明におけるセルロースエステルは、アシル部の炭素数が3個以上であるエステルを、グルコース単位あたり平均1個以上含んでなるものであることが好ましい。ここでいうグルコース単位あたり平均1個以上とは、アシル部の炭素数が3個以上であるエステルの置換度が平均1以上であることを意味する。具体的にはセルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースバリレートなどの1種の長鎖アシル基を有するセルロースエステル類や、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートバリレート、セルロースアセテートラウレート、セルロースアセテートステアレート、セルロースアセテートオレート、セルロースプロピオネートブチレートなど2種のアシル基を有するセルロース混合エステルが例示でき、アシル部の炭素数が18以下であるものが好ましい。なかでもセルロースアセテートプロピオネートは、適度な吸放湿特性を有しており得られた組成物の吸湿性をさらに高めることができるばかりか、製造も容易である。そのためセルロースエステルとしてはセルロースアセテートプロピオネートが好ましい。
【0020】
本発明におけるセルロースアセテートプロピオネートは、アセチル基の置換度が0.1〜1.0で、かつプロピオニル基の置換度が1.5〜2.9であることが好ましい。湿潤時の強度低下を抑制するためには、この範囲の置換度を有したセルロースアセテートプロピオネートが好ましいものである。
【0021】
セルロースエステルに対して可塑化作用を有する多価アルコールエステル可塑剤の含有量は、熱可塑性セルロースエステル組成物に対して2〜20重量%である。多価アルコールエステル可塑剤の含有量を熱可塑性セルロースエステル組成物に対して2〜20重量%とすることで、セルロースアセテートプロピオネートに十分な熱可塑性を付与でき、生産効率の高い溶融紡糸法で生産できるだけでなく、繊維断面を任意に制御することや、複合繊維も可能となる。さらには後工程として繊維の延伸、仮撚加工などを容易にする。また繊度斑、染め斑なく、ヌメリ感等のない風合いの良好な品位を有した繊維を得ることができる。セルロースエステルに対して可塑化作用を有する多価アルコールエステル可塑剤の含有量は、好ましくは熱可塑性セルロースエステルに対して5〜15重量%、より好ましくは熱可塑性セルロースエステルに対して7〜13重量%である。
【0022】
本発明で具体的に用いることができる多価アルコールエステル可塑剤としては、セルロースエステルとの相溶性が良く、また熱可塑化効果が顕著に表れるグリセリンエステル、ジグリセリンエステルなどグリセリン系のエステル化合物やポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコールのエステル化合物などである。
【0023】
具体的なグリセリンのエステルとして、グリセリンジアセテートステアレート、グリセリンジアセテートパルミテート、グリセリンジアセテートミスチレート、グリセリンジアセテートラウレート、グリセリンジアセテートカプレート、グリセリンジアセテートノナネート、グリセリンジアセテートオクタノエート、グリセリンジアセテートヘプタノエート、グリセリンジアセテートヘキサノエート、グリセリンジアセテートペンタノエート、グリセリンジアセテートオレート、グリセリンアセテートジカプレート、グリセリンアセテートジノナネート、グリセリンアセテートジオクタノエート、グリセリンアセテートジヘプタノエート、グリセリンアセテートジカプロエート、グリセリンアセテートジバレレート、グリセリンアセテートジブチレート、グリセリンジプロピオネートカプレート、グリセリンジプロピオネートラウレート、グリセリンジプロピオネートミスチレート、グリセリンジプロピオネートパルミテート、グリセリンジプロピオネートステアレート、グリセリンジプロピオネートオレート、グリセリントリブチレート、グリセリントリペンタノエート、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリンプロピオネートラウレート、グリセリンオレートプロピオネートなどが挙げられるがこれに限定されない。
【0024】
この中でも、グリセリンジアセテートカプリレート、グリセリンジアセテートペラルゴネート、グリセリンジアセテートカプレート、グリセリンジアセテートラウレート、グリセリンジアセテートミリステート、グリセリンジアセテートパルミテート、グリセリンジアセテートステアレート、グリセリンジアセテートオレートが好ましい。
【0025】
ジグリセリンのエステルの具体的な例としてはジグリセリンテトラアセテート、ジグリセリンテトラプロピオネート、ジグリセリンテトラブチレート、ジグリセリンテトラバレレート、ジグリセリンテトラヘキサノエート、ジグリセリンテトラヘプタノエート、ジグリセリンテトラカプリレート、ジグリセリンテトラペラルゴネート、ジグリセリンテトラカプレート、ジグリセリンテトララウレート、ジグリセリンテトラミスチレート、ジグリセリンテトラパルミテート、ジグリセリントリアセテートプロピオネート、ジグリセリントリアセテートブチレート、ジグリセリントリアセテートバレレート、ジグリセリントリアセテートヘキサノエート、ジグリセリントリアセテートヘプタノエート、ジグリセリントリアセテートカプリレート、ジグリセリントリアセテートペラルゴネート、ジグリセリントリアセテートカプレート、ジグリセリントリアセテートラウレート、ジグリセリントリアセテートミスチレート、ジグリセリントリアセテートパルミテート、ジグリセリントリアセテートステアレート、ジグリセリントリアセテートオレート、ジグリセリンジアセテートジプロピオネート、ジグリセリンジアセテートジブチレート、ジグリセリンジアセテートジバレレート、ジグリセリンジアセテートジヘキサノエート、ジグリセリンジアセテートジヘプタノエート、ジグリセリンジアセテートジカプリレート、ジグリセリンジアセテートジペラルゴネート、ジグリセリンジアセテートジカプレート、ジグリセリンジアセテートジラウレート、ジグリセリンジアセテートジミスチレート、ジグリセリンジアセテートジパルミテート、ジグリセリンジアセテートジステアレート、ジグリセリンジアセテートジオレート、ジグリセリンアセテートトリプロピオネート、ジグリセリンアセテートトリブチレート、ジグリセリンアセテートトリバレレート、ジグリセリンアセテートトリヘキサノエート、ジグリセリンアセテートトリヘプタノエート、ジグリセリンアセテートトリカプリレート、ジグリセリンアセテートトリペラルゴネート、ジグリセリンアセテートトリカプレート、ジグリセリンアセテートトリラウレート、ジグリセリンアセテートトリミスチレート、ジグリセリンアセテートトリパルミテート、ジグリセリンアセテートトリステアレート、ジグリセリンアセテートトリオレート、ジグリセリンラウレート、ジグリセリンステアレート、ジグリセリンカプリレート、ジグリセリンミリステート、ジグリセリンオレートなどのジグリセリンの混酸エステルなどが挙げられるが限定されない。
【0026】
この中でも、ジグリセリンテトラアセテート、ジグリセリンテトラプロピオネート、ジグリセリンテトラブチレート、ジグリセリンテトラカプリレート、ジグリセリンテトララウレートが好ましい。
【0027】
ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどポリアルキレングリコールの水酸基にアシル基が結合した化合物の具体的な例として、ポリオキシエチレンジアセテート、ポリオキシエチレンジプロピオネート、ポリオキシエチレンジブチレート、ポリオキシエチレンジバリレート、ポリオキシエチレンジカプロエート、ポリオキシエチレンジヘプタノエート、ポリオキシエチレンジオクタノエート、ポリオキシエチレンジノナネート、ポリオキシエチレンジカプレート、ポリオキシエチレンジラウレート、ポリオキシエチレンジミリスチレート、ポリオキシエチレンジパルミテート、ポリオキシエチレンジステアレート、ポリオキシエチレンジオレート、ポリオキシエチレンジリノレート、ポリオキシエチレンモノアセテート、ポリオキシエチレンモノプロピオネート、ポリオキシエチレンモノブチレート、ポリオキシエチレンモノバリレート、ポリオキシエチレンモノカプロエート、ポリオキシエチレンモノヘプタノエート、ポリオキシエチレンモノオクタノエート、ポリオキシエチレンモノノナネート、ポリオキシエチレンモノカプレート、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノミリスチレート、ポリオキシエチレンモノパルミテート、ポリオキシエチレンモノステアレート、ポリオキシエチレンモノオレート、ポリオキシエチレンモノリノレート、ポリオキシプロピレンジアセテート、ポリオキシプロピレンジプロピオネート、ポリオキシプロピレンジブチレート、ポリオキシプロピレンジバリレート、ポリオキシプロピレンジカプロエート、ポリオキシプロピレンジヘプタノエート、ポリオキシプロピレンジオクタノエート、ポリオキシプロピレンジノナネート、ポリオキシプロピレンジカプレート、ポリオキシプロピレンジラウレート、ポリオキシプロピレンジミリスチレート、ポリオキシプロピレンジパルミテート、ポリオキシプロピレンジステアレート、ポリオキシプロピレンジオレート、ポリオキシプロピレンジリノレート、ポリオキシプロピレンモノアセテート、ポリオキシプロピレンモノプロピオネート、ポリオキシプロピレンモノブチレート、ポリオキシプロピレンモノバリレート、ポリオキシプロピレンモノカプロエート、ポリオキシプロピレンモノヘプタノエート、ポリオキシプロピレンモノオクタノエート、ポリオキシプロピレンモノノナネート、ポリオキシプロピレンモノカプレート、ポリオキシプロピレンモノラウレート、ポリオキシプロピレンモノミリスチレート、ポリオキシプロピレンモノパルミテート、ポリオキシプロピレンモノステアレート、ポリオキシプロピレンモノオレート、ポリオキシプロピレンモノリノレートなどが挙げられるがこれに限定されず、これらを単独もしくは併用して使用することができる。
【0028】
本発明において、シリカ系無機粒子はセルロースエステル繊維の吸湿性をさらに向上させるための重要な成分である。具体的には粒子の50%以上がSiO2で構成される無機粒子であり、ホワイトカーボン、シリカゾル、シリカゲル等が挙げられるが、好ましくはSiO2含有量が95%以上の湿式シリカ、乾式シリカが好ましい。
【0029】
ここで、シリカ系無機粒子の吸湿特性については、低湿度環境下ては粒子の比表面積に依存し、比表面積が高いと吸湿率も高くなる。一方、高湿度環境下においては、粒子の細孔容積および比表面積の関係を特定の値に制御することで初めて高い吸湿率を付与することが可能となる。すなわち、シリカ系無機粒子の細孔容積V(ml/g)が0.9以上であり、かつ該粒子の比表面積S(m2/g)との関係が 次式を満足することで目的とする吸湿特性を繊維に付与することが可能である。
【0030】
300≦(S/V)≦1500
高い吸湿性を付与するといった観点から400〜1000が好ましく、500〜800がさらに好ましい。この値が300未満であると目的使用範囲(高湿度環境下)での吸湿性が満足に発現せず、また1500を越えると低湿度環境下での吸湿率が高くなりすぎるため、目的とした吸湿特性を付与することができない。
【0031】
本発明で用いられるシリカ系無機粒子はその細孔容積Vが0.9(ml/g)以上であることが重要である。この細孔容積が小さい場合には吸湿性能、放湿性能ともに不十分なものしかえられない。細孔容積Vは2.0(ml/g)以下が好ましい。
【0032】
本発明において用いられるシリカ系無機粒子の平均粒径は0.01〜10μmである。0.01μmよりも小さい場合には配合の段階での溶融粘度高くなり好ましくない。また、10μmよりも大きな粒子は溶融成型時にフィルター圧力の急激な上昇を引き起こす原因となるばかりでなく、繊維に成形する際、粗大粒子として振るまうので糸切れの原因となり好ましくない。より好ましい無機微粒子の平均粒径は0.1〜5μmである。
【0033】
また本発明で用いるシリカ系無機粒子は、吸湿性という観点から3個/nm2以上のシラノール基が粒子表面に存在することが重要である。表面のシラノール基の数がこれより少ないと満足する吸湿性を期待できない。シラノール基の数は10個/nm2以下が好ましい。
【0034】
また、シリカ系無機粒子の吸湿特性を示す吸湿パラメーター(以下ΔMRと記す)は、これを用いた繊維の吸湿性を高めるため、高ければ高い方が好ましいが、7%以上であることが重要である。好ましくは15.0%以上、特に好ましくは20.0%以上である。吸湿パラメーターは、150%以下が好まし。
【0035】
ここでΔMRとは、30℃×90%RHでの吸湿率(MR2)から20℃×65%RHでの吸湿率(MR1)を引いた差である(ΔMR(%)=MR2−MR1)。ここでΔMRは衣服着用時の衣服内の湿気を外気に放出することにより快適性を得るためのドライビングフォ―スであり、軽〜中作業あるいは軽〜中運動を行った際の30℃×90%RHに代表される衣服内温度と20℃×65%RHに代表される外気温湿度との吸湿率差である。本発明では吸湿性評価の尺度としてこのΔMRをパラメーターとして用いている。ΔMRは大きければ大きいほど吸放湿能力が高く着用時の快適性が良好であることに対応する。
【0036】
本発明で用いられるシリカ系無機粒子の含有量は1〜20重量%である。含有量が1重量%に満たないと熱可塑性セルロースエステル組成物の吸放湿性が不十分となり、また、20重量%を越えると組成物の溶融粘度が著しく高くなるため成形が困難となる。より好ましい添加量は5〜15重量%である。
【0037】
実用上の着用快適性を得るためには繊維のΔMRは経時変化が問題とならない範囲で高いほど好ましく、4.0%以上あるものであり、さらに好ましくは5.0%以上である。
【0038】
本発明で用いるシリカ系無機粒子の平均細孔径は1〜15nmであることが好ましい。平均細孔径が1nm未満であると吸湿性に劣る。また、平均細孔径が15nmを越えると高湿度下での吸湿性には優れるものの低湿度下での吸湿性に劣るために本発明が目的としている吸放湿性を付与することができない。より好ましい平均細孔径は3〜10nm、さらに好ましくは4〜7nmである。
【0039】
本発明の熱可塑性セルロースエステル組成物に含有するシリカ系無機粒子は、1〜20nmまでの径を持つ細孔で全細孔容積の90%以上を占めることが好ましい。本発明のシリカ系無機粒子は細孔を持つことで周りの水蒸気が毛管凝縮を繰り返すことによって吸放湿するが、本発明が目的としている吸放湿性付与に関与する細孔径は1〜20nmまでであり、この範囲でより多くの細孔容積を占めるほうが水を保持できる空間が大きくなるために吸放湿の効率が良くなる。上記細孔径範囲で全細孔容積の95%以上を占めることがより好ましい。
【0040】
本発明の熱可塑性セルロースエステル組成物は、220℃、1000sec-1における溶融粘度が20〜200Pa・secであることが好ましい。220℃、1000sec-1における溶融粘度を20Pa・sec以上とすることにより、溶融紡糸に供した際には、紡出後の固化が十分に進み、収束しても繊維同士が膠着することがない。また、この場合、口金背面圧が十分に得られるため、分配性も良好となり、繊度の均一性が確保される。一方、溶融粘度を200Pa・sec以下とすることにより、紡出糸条の製糸性が良好であり、十分な配向が得られて機械特性の優れた繊維となる。また、配管圧力の異常な上昇によるトラブルが生じることもない。良好な流動性の観点から、220℃、1000sec-1における溶融粘度は50〜190Pa・secであることがより好ましく、80〜180Pa・secであることが最も好ましい。
【0041】
本発明の熱可塑性セルロースエステル組成物は、220℃における加熱減量率が5重量%以下である。ここで、加熱減量率とは窒素下において室温から10℃/分の昇温度速度で試料を昇温した時の、220℃における重量減少率をいう。加熱減量率を5重量%以下にするということは、低分子可塑剤を大量に含むなどによって成形加工時に発煙が生じることがないことである。例えば、溶融紡糸の際に発煙が生じることはなく、製糸性の良い、良好な物性を有する繊維が得られる。220℃における加熱減量率は好ましくは3重量%以下である。このように、本発明の加熱減量率の低い熱可塑性セルロースエステル組成物は溶融紡糸に適している。
【0042】
本発明で用いられるセルロースエステルと多価アルコールエステル可塑剤、シリカ系無機粒子の混合は、公知の共溶媒を用いるキャスト法を用いても良いし、エクストルーダー、ニーダー、ロールミル、バンバリーミキサー等の通常使用されている公知の混合機を特に制限無く用いても良い。なお、混合する場合には混合を容易にするために粉砕機により予めセルロースエステルの粒子を50メッシュ以上に細かく粉砕しておいても良い。また、セルロースエステル合成時に多価アルコールエステル可塑剤、シリカ系無機粒子を添加し、セルロースエステルの製造と同時に多価アルコールエステル可塑剤、シリカ系無機粒子を含むセルロースエステルを得ても良い。
【0043】
本発明の熱可塑性セルロースエステル組成物の製造方法としては、粒子分散性を高度に満足させるため、多価アルコールエステル可塑剤とシリカ系無機粒子とをあらかじめ分散処理したスラリーとして50〜150℃に加熱されたセルロースエステルに添加する方法が好ましい。可塑剤への粒子の分散方法としては、従来公知の方法を採用することができる。例えば、サンドミル、ボールミル、高速撹拌型分散機、超音波分散機などを挙げることができ、中でもサンドミル、高速撹拌型分散機が短時間で均一に粒子を分散でき好ましい。50〜150℃に加熱されたセルロースエステルへの添加方法としては、合成反応などで使用する反応缶で行ってもいいし、一軸混練機、二軸混練機、ニーダーなどで行っても構わない。セルロースエステルへの熱履歴を抑制し、粒子分散性を高くできる二軸混練機、ニーダーが好ましい。
【0044】
本発明の組成物は熱流動性が良好であり、溶融紡糸法によって繊維化することができる。
【0045】
本発明の熱可塑性セルロースエステル組成物からなる繊維の強度は、0.5〜2cN/dtexであることが好ましい。強度を0.5cN/dtex以上とすることで、製織や製編時など高次加工工程の通過性が良好であり、また最終製品の強力も不足することがないので好ましい。また、2cN/dtex以下では伸度が低下せず、毛羽立ちを抑えられ糸切れが少ないため好ましい。良好な強度特性の観点から、強度は0.7cN/dtex以上であることが好ましく、1.0cN/dtex以上であることが最も好ましい。
【0046】
本発明の熱可塑性セルロースエステル組成物からなる繊維の伸度は、2〜50%であることが好ましい。伸度を2%以上とすることにより、製織や製編時など高次加工工程において糸切れが多発することがない。また、50%以下では低い応力であれば変形することがなく、製織時の緯ひけなどにより最終製品の染色欠点を生じることがないため好ましい。良好な伸度としては、5〜45%であることがより好ましく、10〜40%であることが最も好ましい。
【0047】
また、本発明の熱可塑性セルロースエステル組成物からなる繊維のU%(ウースターノーマル%)は、3%以下であることが好ましい。U%が3%以下である場合には、繊度の均一性に優れた繊維が得られる。良好なU%としては2%以下が好ましく、最も好ましくは1%以下である。
【0048】
本発明で用いる溶融紡糸法は、前記した組成物を公知の溶融紡糸機において、加熱溶融した後に口金から押出し、紡糸し、必要に応じて延伸し巻取ることができる。この際紡糸温度は190℃〜250℃が好ましく、さらに好ましくは200℃〜240℃である。紡糸温度を190℃以上とすることにより、溶融粘度が低くなり溶融紡糸性が向上するので好ましい。また250℃以下にすることにより、組成物の熱分解が抑制されるため好ましい。
【0049】
また、組成物は気泡の混入をできるだけ少なくするために、溶融紡糸機に供給する前にエクストルーダーを用いてペレット化しておくか、エクストルーダーが配管によって溶融紡糸機と結合されていることが望ましい。また、ペレット化した溶融成形用熱可塑性セルロースエステル組成物は溶融紡糸に先立ち、溶融時の加水分解や気泡の発生を防止するために含水率を0.1重量%以下に乾燥することが好ましい。
【0050】
本発明においては必要に応じて要求される性能を損なわない範囲内で、熱劣化防止用、着色防止用の安定剤として、エポキシ化合物、弱有機酸、ホスフェイト、チオフォスフェイト等を単独または2種類以上混合して添加してもよい。また、その他有機酸系の生分解促進剤、滑剤、帯電防止剤、染料、顔料、潤滑剤、艶消剤等の添加剤を配合することは何らさしつかえない。
【0051】
本発明の熱可塑性セルロースエステル組成物からなる繊維の断面形状は丸ばかりでなく、三角、偏平、多葉型などの異形断面でも良い、さらに高い吸湿性を有し快適性、生分解性に優れており、前記繊維を製造する際に熱流動性が良好となる。また得られた繊維は、衣料用フィラメント、衣料用ステープル、産業用フィラメント、産業用ステープル、医療用フィラメントとすることが可能であり、またメルトブロー法、スパンボンド法による不織布用繊維とすることも好ましく採用できる。
【0052】
【実施例】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお実施例中の各特性値は次の方法で求めたものである。
A.エステル置換度
80℃で8時間の真空乾燥により絶乾状態としたセルロースエステル0.9gを秤量し、アセトン35mlとジメチルスルホキシド15mlを加え溶解した後、さらにアセトン50mlを加えた。撹拌しながら0.5N−水酸化ナトリウム水溶液30mlを加え、2時間ケン化した。熱水50mlを加え、フラスコ側面を洗浄した後、フェノールフタレインを指示薬として0.5N−硫酸で滴定した。別に試料と同じ方法で空試験を行った。滴定が終了した溶液の上澄み液を100倍に希釈し、イオンクロマトグラフを用いて、有機酸の組成を測定した。測定結果とイオンクロマトグラフによる酸組成分析結果から、下記式により置換度を計算した。なおエステル置換度とは、アセチル基の置換度とアシル基の置換度の和である。
【0053】
TA=(B−A)×F/(1000×W)
DSace=(162.14×TA)/[1−(Mwace−(16.00+1.01)×TA+{1−(Mwacy−(16.00+1.01)×TA}×Acy/Ace]
DSacy=DSace×(Acy/Ace)
TA:全有機酸量(ml)
A:試料滴定量(ml)
B:空試験滴定量(ml)
F:硫酸の力価
W:試料重量(g)
DSace:アセチル基の置換度
DSacy:アシル基の置換度
Mwace:酢酸の分子量
Mwacy:他の有機酸の分子量
Acy/Ace:酢酸(Ace)と他の有機酸(Acy)とのモル比
162.14:セルロースの繰り返し単位の分子量
16.00:酸素の原子量
1.01:水素の原子量
B.粒子およびそれを含有した繊維の吸湿性パラメーター(ΔMR)
吸湿率は粒子の場合、粒子1gを用い、また繊維の場合には原糸または布帛1〜3gを用い、絶乾時の重量と20℃×65%RHあるいは30℃×90%RHの雰囲気下、恒温恒湿器(タバイ製PR−2G)中に24時間放置後の重量との重量変化から、次式で求めた。
吸湿率(%)={(吸湿後の重量−絶乾時の重量)/絶乾時の重量}×100
上記測定した20℃×65%RHおよび30℃×90%RHの条件での吸湿率(それぞれMR1およびMR2とする)から、吸湿率差ΔMR(%)=MR2−MR1を求めた。同条件で3回測定を行った平均値である。
C.粒子の平均粒径
粒子の平均粒径はHORIBA製粒径分析装置(LA−700)にて3回測定し、その平均値である。
D.粒子の比表面積、細孔容積、平均細孔径
窒素吸着法により温度77Kで測定し、比表面積についてはBET法で、細孔容積と平均細孔径についてはDH法で解析した。
E.細孔容積占有率の計算
粒子の全細孔容積に対する1〜20nmまでの径を持つ細孔の容積の総和の割合から求めた。
F.表面のシラノール基の定量
微粉末シリカを圧力0.1kPa以下、温度120℃で乾燥した後ジオキサン中で水素化リチウムアルミニウムと反応させ水素量を測定して求めた。
G.溶融粘度
東洋精機(株)製キャピラリーレオメーター(登録商標:キャピログラフ1B、L=10mm、D=1.0mmのダイ使用)を用い、測定温度220℃、シェアレート1000sec-1で粘度を3回測定し平均値を、溶融粘度とした。
H.加熱減量率
(株)マック・サイエンス社製TG−DTA2000Sを用い、窒素下において室温から400℃まで10℃/分の昇温度速度で試料を加熱した時、220℃におけるサンプル10mgの重量変化を3回測定し平均値を加熱減量率とした。
I.強度、伸度
JIS−L−1013に基づいて測定を行った。オリエンテック社製テンシロンUCT−100型を用い、試料長20cm、引張速度20mm/minの条件で引張試験を行って、最大荷重を示した点の応力を繊維の強度(cN/dtex)とした。また、破断時の伸度を繊維の伸度(%)とした。
【0054】
なお、強伸度はマルチフィラメント糸で測定したものであり、n=5の平均値である。
【0055】
合成例1
セルロース(日本製紙(株)製溶解パルプ、α−セルロース93%)30gに酢酸20gとプロピオン酸90gを加え、50℃で30分混合した。混合物を室温まで冷却した後、氷浴中で冷却した無水酢酸10g、無水プロピオン酸140g、硫酸1.2gを加えてアシル化を行った。アシル化において、40℃を超える時は水浴で冷却した。撹拌を150分間行った後、反応停止剤として酢酸30gと水10gの混合溶液を30分間かけて添加して、過剰の無水物を加水分解した。その後、酢酸100gと水30gを加え60℃で70分間加熱撹拌した。反応終了後、炭酸ナトリウム2g含む水溶液を加えて析出したセルロースエステルを濾別、続いて水で洗浄した後、60℃で4時間乾燥した。得られたセルロースエステルの置換度は2.6(アセチル基0.2、プロピオニル基2.4)であった。
【0056】
分散例1
多価アルコールエステル可塑剤としてポリエチレングリコール{分子量600(三洋化成製 PEG600)}70重量%とシリカ系無機粒子として平均粒径2.8μm、細孔容積Vが0.9ml/g、S/Vの関係が620、シラノール基を5個/nm2、吸湿性パラメーター(ΔMR=61.8%)30重量%を高速撹拌型分散機を用いて3000回転、5時間処理を行い可塑剤/シリカ系無機粒子スラリーを得た。
【0057】
実施例1
合成例1で得られたセルロースエステルをニーダー((株)栗本鐵工所製)の原料フィダーより9.0kg/hrとなるように投入し、60℃に加熱した後、分散例1で得られた多価アルコールエステル可塑剤/シリカ系無機粒子スラリーを1.0kg/hrとなるようにプランジャー式ポンプで添加した。ニーダーのジャケットの温度は200℃とし、連続的に口金を取り付けた先端より押し出し、水冷後、カッターに導入してペレットとした。このペレットを80℃に加熱した真空乾燥機中で8時間乾燥させた後、220℃、1000sec-1での溶融粘度を測定した。溶融粘度は167.1Pa・secであった。また、加熱減量率は0.9%であった。
【0058】
得られたペレットを単軸エクストルーダー式溶融紡糸機で、溶融温度220℃、パック部温度220℃にて溶融し、0.23mmφ−0.30mmLの口金孔を36ホール有する口金より紡出した。紡出糸は25℃のチムニー風により冷却した後、750m/minの速度でゴデットローラーにより引き取り、ワインダーにて巻き取った。この繊維を筒編みとし、吸放湿特性を測定したところΔMR=10.2%であり、強伸度特性も良好であった。
【0059】
実施例2
セルロースエステル(合成例1)8.5kg/hrと多価アルコールエステル可塑剤/シリカ系無機粒子スラリーとしてグリセリンジアセテートオレート/シリカ系無機粒子(平均粒径3.0μm、細孔容積V=1.6ml/g、S/Vの関係が320、シラノール基を4個/nm2、吸湿性パラメーター(ΔMR=50.2%))1.5kg/hrを用いる以外は実施例1と同様にして、ペレットを作成し、溶融粘度および加熱減量率を測定した。溶融粘度は127.2Pa・sec、加熱減量率1.2%であった。
【0060】
得られたペレットを実施例1と同様にして紡糸し筒編みとし吸放湿特性を測定したところΔMR=12.1%であり、強伸度特性も良好であった。
【0061】
実施例3
セルロースエステル(合成例1)9.0kg/hrと多価アルコールエステル可塑剤/シリカ系無機粒子スラリーとしてポリオキシモノラウレート/シリカ系無機粒子(平均粒径2.5μm、細孔容積V=1.0ml/g、S/Vの関係が800、シラノール基を5個/nm2、吸湿性パラメーター(ΔMR=55.9%))1.0kg/hrを用いる以外は実施例1と同様にして、ペレットを作成し、溶融粘度および加熱減量率を測定した。溶融粘度は137.2Pa・sec、加熱減量率1.1%であった。
【0062】
得られたペレットを実施例1と同様にして紡糸し筒編みとし吸放湿特性を測定したところΔMR=9.5%であり、強伸度特性も良好であった。
【0063】
合成例2
無水酢酸5g、無水プロピオン酸120g用いた以外は合成例1と同様に反応してセルロースエステルを得た。得られたセルロースエステルの置換度2.5(アセチル基0.1、プロピオニル基2.4)であった。
【0064】
実施例4
セルロースエステル(合成例2)9kg/hrと多価アルコールエステル可塑剤/シリカ系無機粒子スラリーとしてジグレセリンテトラアセテート/シリカ系無機粒子(平均粒径2.0μm、細孔容積V=1.2ml/g、S/Vの関係が650、シラノール基を5個/nm2、吸湿性パラメーター(ΔMR=45.2%))1.0kg/hrを用いる以外は実施例1と同様にして、ペレットを作成し、溶融粘度および加熱減量率を測定した。溶融粘度は141.9Pa・sec、加熱減量率1.3%であった。
【0065】
得られたペレットを実施例1と同様にして紡糸し筒編みとし吸放湿特性を測定したところΔMR=8.2%であり、強伸度特性も良好であった。
【0066】
比較例1
セルロースアセテートとしてセルロースジアセテート置換度2.5(ダイセル化学工業(株)製 L40)を用い、分散例1のシリカ系無機粒子として平均一次粒子径を0.005μmとした以外は実施例1と同様にして、ペレットを作成し、溶融粘度および加熱減量率を測定した。加熱減量率は1.1%と低いが、溶融粘度は258.3Pa・secと著しく高い値であった。
【0067】
得られたペレットを実施例1と同様にして紡糸したところ溶融粘度が高すぎて流動性が悪く紡出糸の細化が起こらず、引き取ることができなかった。吐出された樹脂表面は粒子の凝集による凹凸が多数あった。樹脂として吸放湿特性を測定したところΔMR=3.2%であり、強伸度特性も悪いものであった。
【0068】
比較例2
シリカ系無機粒子を用いない以外は実施例1と同様にして、ペレットを作成し、溶融粘度および加熱減量率を測定した。加熱減量率は1.1%、溶融粘度は154.1Pa・secであった。
【0069】
得られたペレットを実施例1と同様にして紡糸し筒編みとし吸放湿特性を測定したところΔMR=3.0%であり吸湿性が低い物であった。強伸度特性は良好であった。
【0070】
比較例3
セルロースエステル(合成例1)を98重量%、多価アルコールエステル可塑剤/シリカ系無機粒子スラリー(分散例1)2重量%をニーダー中220℃で混合し、混合ポリマーを得た以外は実施例1と同様にして、ペレットを作成し、溶融粘度および加熱減量率を測定した。加熱減量率は0.8%と低いが、溶融粘度は297.1Pa・secと著しく高い値であった。
【0071】
得られたペレットを実施例1と同様にして紡糸したところ溶融粘度が高すぎて流動性が悪く紡出糸の細化が起こらず、引き取ることができなかった。
【0072】
比較例4
合成例1で合成したセルロースエステルを60重量%、多価アルコールエステル可塑剤としてポリエチレングリコール分子量400を25重量%、シリカ系無機粒子(平均粒径0.5μm、細孔容積V=0.9ml/g、S/Vの関係が630、シラノール基を4個/nm2、吸湿性パラメーター(ΔMR=51.9%))を15重量%を用いた以外は比較例3と同様にして、ペレットを作成し、溶融粘度および加熱減量率を測定した。溶融粘度は15.8Pa・secであった。加熱減量率は14.7%と高い値であった。
【0073】
得られたペレットを用いて実施例1と同様に紡糸を試みたが、流動性は非常に高かった。また、紡糸速度500m/minではシリカ系無機粒子の凝集粒子による糸切れが多発して引き取りができなかっため、紡糸速度を200m/minと低速にして紡糸を行った。紡出糸からは可塑剤の揮発に伴う激しい発煙が認められ、走行糸条は安定しなかった。
【0074】
得られた繊維を筒編みしたところ、ΔMR=7%と吸湿性はあるが可塑剤のブリードが激しく品位が著しく劣っていた。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
【発明の効果】
本発明により、多価アルコールエステル可塑剤、シリカ系無機粒子を添加したバイオマス系材料であるセルロースエステルを主成分とする環境負荷の小さい成分からなる吸湿性に優れた熱可塑性セルロースエステル組成物が得られ、それからなる溶融紡糸性、生産性に優れた繊維を提供することが可能となる。得られる組成物および繊維は、吸湿性が高く着用快適性が良好になるため衣料用などに好適に用いることができる。
【発明の属する技術分野】
本発明は、吸湿性に優れ、熱可塑化成形性を有するセルロースエステル組成物およびそれらを溶融紡糸して得られる繊維に関する。さらに詳しくは、衣類とした場合の着用快適性に優れたセルロースエステル繊維に関する。
【0002】
【従来の技術】
セルロースエステル、セルロースエーテルなどのセルロース系材料は、光合成により再生可能なバイオマス材料として、また生分解可能な材料として昨今の大きな注目を集めている。
【0003】
セルロースジアセテートやセルローストリアセテートに代表されるセルロースエステル繊維は、アルカリ処理により脂肪酸エステルを加水分解し、水酸基を復活する、すなわちケン化することによりセルロース化する技術が検討されており、それにより元のアセテートに比べ吸湿性を改善することができる。
【0004】
しかし、完全にケン化する場合、ケン化に伴い、セルロースは収縮、硬化し強度低下する傾向があり、これを抑制する方法として、芯成分にポリエステルを用い鞘成分にセルロースエステルを用いた複合繊維の技術がある(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、複合繊維のためセルロースの比率が低く、吸湿性としては低い結果となる問題を有している。さらには、完全にケン化した場合でもセルロースの吸湿性を上回る効果は期待できないことになる。
【0005】
一方、シリカ粒子を配合して耐熱性、表面硬度および剛性などの物性を向上させたセルロース誘導体熱可塑性樹脂組成物の技術がある(例えば、特許文献2参照)。耐熱性、表面硬度に着目されたシリカ粒子であり吸湿性向上には効果がなく、目的効果が異なるものである。
【0006】
このようにセルロースエステルの吸湿性を向上させる技術としては加水分解によるケン化が主流であり強度低下を避けられないのが現状である。
【0007】
【特許文献1】
特開昭52−85518(第1〜2頁)
【0008】
【特許文献2】
特開昭63−215744(第1頁)
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、吸湿性の優れた熱可塑性セルロースエステル組成物およびそれから得られる繊維を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
前述した本発明の課題は、エステル置換度が2.5〜3.0であるセルロースエステル70〜95重量%と、多価アルコールエステル可塑剤2〜20重量%とを少なくとも含んでなるセルロースエステル組成物に、下記A〜Dの要件を満足するシリカ系無機粒子を1〜20重量%含有することを特徴とする熱可塑性セルロースエステル組成物によって解決することができる。
【0011】
A.シリカ系無機粒子の細孔容積V(ml/g)が0.9以上であり、かつ該粒子の比表面積S(m2/g)との関係が 次式を満足すること。
【0012】
300≦(S/V)≦1500
B.シリカ系無機粒子の平均粒径(μm)が0.01〜10であること。
【0013】
C.シリカ系無機粒子の表面に存在するシラノール基の数が3個/nm2以上であること。
【0014】
D.シリカ系無機粒子の吸湿パラメーター(ΔMR)が7%以上であること。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のセルロースエステル繊維について詳細に説明する。
【0016】
本発明におけるセルロースエステル繊維は、エステル置換度が2.5〜3.0であるセルロースエステルと、多価アルコールエステル可塑剤と、特定のシリカ系無機粒子とを少なくとも含んでなる熱可塑性セルロースエステル組成物よりなる。
【0017】
本発明におけるセルロースエステルのエステル置換度は2.5〜3.0である。セルロースエステルのエステル置換度が2.5未満の場合、未置換水酸基が多すぎるため、十分な熱可塑化効果を得ることができない。なおセルロースのグルコース単位中に含まれる水酸基の数は3個であるため、エステル置換度の上限は3.0である。エステル置換度は2.6〜2.9であることが好ましい。
【0018】
熱可塑性セルロースエステル組成物中のセルロースエステルの含有量は70〜95重量%である。含有量を95重量%以下にすることにより、多価アルコールエステル可塑剤を加えたことによる熱可塑化効果が増し、溶融成形性が良好になる。含有量を70重量%以上にすることで、セルロースエステルの有する特徴である強度が増し、機械的特性の優れた成形物が得られる。
【0019】
本発明におけるセルロースエステルは、アシル部の炭素数が3個以上であるエステルを、グルコース単位あたり平均1個以上含んでなるものであることが好ましい。ここでいうグルコース単位あたり平均1個以上とは、アシル部の炭素数が3個以上であるエステルの置換度が平均1以上であることを意味する。具体的にはセルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースバリレートなどの1種の長鎖アシル基を有するセルロースエステル類や、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートバリレート、セルロースアセテートラウレート、セルロースアセテートステアレート、セルロースアセテートオレート、セルロースプロピオネートブチレートなど2種のアシル基を有するセルロース混合エステルが例示でき、アシル部の炭素数が18以下であるものが好ましい。なかでもセルロースアセテートプロピオネートは、適度な吸放湿特性を有しており得られた組成物の吸湿性をさらに高めることができるばかりか、製造も容易である。そのためセルロースエステルとしてはセルロースアセテートプロピオネートが好ましい。
【0020】
本発明におけるセルロースアセテートプロピオネートは、アセチル基の置換度が0.1〜1.0で、かつプロピオニル基の置換度が1.5〜2.9であることが好ましい。湿潤時の強度低下を抑制するためには、この範囲の置換度を有したセルロースアセテートプロピオネートが好ましいものである。
【0021】
セルロースエステルに対して可塑化作用を有する多価アルコールエステル可塑剤の含有量は、熱可塑性セルロースエステル組成物に対して2〜20重量%である。多価アルコールエステル可塑剤の含有量を熱可塑性セルロースエステル組成物に対して2〜20重量%とすることで、セルロースアセテートプロピオネートに十分な熱可塑性を付与でき、生産効率の高い溶融紡糸法で生産できるだけでなく、繊維断面を任意に制御することや、複合繊維も可能となる。さらには後工程として繊維の延伸、仮撚加工などを容易にする。また繊度斑、染め斑なく、ヌメリ感等のない風合いの良好な品位を有した繊維を得ることができる。セルロースエステルに対して可塑化作用を有する多価アルコールエステル可塑剤の含有量は、好ましくは熱可塑性セルロースエステルに対して5〜15重量%、より好ましくは熱可塑性セルロースエステルに対して7〜13重量%である。
【0022】
本発明で具体的に用いることができる多価アルコールエステル可塑剤としては、セルロースエステルとの相溶性が良く、また熱可塑化効果が顕著に表れるグリセリンエステル、ジグリセリンエステルなどグリセリン系のエステル化合物やポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコールのエステル化合物などである。
【0023】
具体的なグリセリンのエステルとして、グリセリンジアセテートステアレート、グリセリンジアセテートパルミテート、グリセリンジアセテートミスチレート、グリセリンジアセテートラウレート、グリセリンジアセテートカプレート、グリセリンジアセテートノナネート、グリセリンジアセテートオクタノエート、グリセリンジアセテートヘプタノエート、グリセリンジアセテートヘキサノエート、グリセリンジアセテートペンタノエート、グリセリンジアセテートオレート、グリセリンアセテートジカプレート、グリセリンアセテートジノナネート、グリセリンアセテートジオクタノエート、グリセリンアセテートジヘプタノエート、グリセリンアセテートジカプロエート、グリセリンアセテートジバレレート、グリセリンアセテートジブチレート、グリセリンジプロピオネートカプレート、グリセリンジプロピオネートラウレート、グリセリンジプロピオネートミスチレート、グリセリンジプロピオネートパルミテート、グリセリンジプロピオネートステアレート、グリセリンジプロピオネートオレート、グリセリントリブチレート、グリセリントリペンタノエート、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリンプロピオネートラウレート、グリセリンオレートプロピオネートなどが挙げられるがこれに限定されない。
【0024】
この中でも、グリセリンジアセテートカプリレート、グリセリンジアセテートペラルゴネート、グリセリンジアセテートカプレート、グリセリンジアセテートラウレート、グリセリンジアセテートミリステート、グリセリンジアセテートパルミテート、グリセリンジアセテートステアレート、グリセリンジアセテートオレートが好ましい。
【0025】
ジグリセリンのエステルの具体的な例としてはジグリセリンテトラアセテート、ジグリセリンテトラプロピオネート、ジグリセリンテトラブチレート、ジグリセリンテトラバレレート、ジグリセリンテトラヘキサノエート、ジグリセリンテトラヘプタノエート、ジグリセリンテトラカプリレート、ジグリセリンテトラペラルゴネート、ジグリセリンテトラカプレート、ジグリセリンテトララウレート、ジグリセリンテトラミスチレート、ジグリセリンテトラパルミテート、ジグリセリントリアセテートプロピオネート、ジグリセリントリアセテートブチレート、ジグリセリントリアセテートバレレート、ジグリセリントリアセテートヘキサノエート、ジグリセリントリアセテートヘプタノエート、ジグリセリントリアセテートカプリレート、ジグリセリントリアセテートペラルゴネート、ジグリセリントリアセテートカプレート、ジグリセリントリアセテートラウレート、ジグリセリントリアセテートミスチレート、ジグリセリントリアセテートパルミテート、ジグリセリントリアセテートステアレート、ジグリセリントリアセテートオレート、ジグリセリンジアセテートジプロピオネート、ジグリセリンジアセテートジブチレート、ジグリセリンジアセテートジバレレート、ジグリセリンジアセテートジヘキサノエート、ジグリセリンジアセテートジヘプタノエート、ジグリセリンジアセテートジカプリレート、ジグリセリンジアセテートジペラルゴネート、ジグリセリンジアセテートジカプレート、ジグリセリンジアセテートジラウレート、ジグリセリンジアセテートジミスチレート、ジグリセリンジアセテートジパルミテート、ジグリセリンジアセテートジステアレート、ジグリセリンジアセテートジオレート、ジグリセリンアセテートトリプロピオネート、ジグリセリンアセテートトリブチレート、ジグリセリンアセテートトリバレレート、ジグリセリンアセテートトリヘキサノエート、ジグリセリンアセテートトリヘプタノエート、ジグリセリンアセテートトリカプリレート、ジグリセリンアセテートトリペラルゴネート、ジグリセリンアセテートトリカプレート、ジグリセリンアセテートトリラウレート、ジグリセリンアセテートトリミスチレート、ジグリセリンアセテートトリパルミテート、ジグリセリンアセテートトリステアレート、ジグリセリンアセテートトリオレート、ジグリセリンラウレート、ジグリセリンステアレート、ジグリセリンカプリレート、ジグリセリンミリステート、ジグリセリンオレートなどのジグリセリンの混酸エステルなどが挙げられるが限定されない。
【0026】
この中でも、ジグリセリンテトラアセテート、ジグリセリンテトラプロピオネート、ジグリセリンテトラブチレート、ジグリセリンテトラカプリレート、ジグリセリンテトララウレートが好ましい。
【0027】
ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどポリアルキレングリコールの水酸基にアシル基が結合した化合物の具体的な例として、ポリオキシエチレンジアセテート、ポリオキシエチレンジプロピオネート、ポリオキシエチレンジブチレート、ポリオキシエチレンジバリレート、ポリオキシエチレンジカプロエート、ポリオキシエチレンジヘプタノエート、ポリオキシエチレンジオクタノエート、ポリオキシエチレンジノナネート、ポリオキシエチレンジカプレート、ポリオキシエチレンジラウレート、ポリオキシエチレンジミリスチレート、ポリオキシエチレンジパルミテート、ポリオキシエチレンジステアレート、ポリオキシエチレンジオレート、ポリオキシエチレンジリノレート、ポリオキシエチレンモノアセテート、ポリオキシエチレンモノプロピオネート、ポリオキシエチレンモノブチレート、ポリオキシエチレンモノバリレート、ポリオキシエチレンモノカプロエート、ポリオキシエチレンモノヘプタノエート、ポリオキシエチレンモノオクタノエート、ポリオキシエチレンモノノナネート、ポリオキシエチレンモノカプレート、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノミリスチレート、ポリオキシエチレンモノパルミテート、ポリオキシエチレンモノステアレート、ポリオキシエチレンモノオレート、ポリオキシエチレンモノリノレート、ポリオキシプロピレンジアセテート、ポリオキシプロピレンジプロピオネート、ポリオキシプロピレンジブチレート、ポリオキシプロピレンジバリレート、ポリオキシプロピレンジカプロエート、ポリオキシプロピレンジヘプタノエート、ポリオキシプロピレンジオクタノエート、ポリオキシプロピレンジノナネート、ポリオキシプロピレンジカプレート、ポリオキシプロピレンジラウレート、ポリオキシプロピレンジミリスチレート、ポリオキシプロピレンジパルミテート、ポリオキシプロピレンジステアレート、ポリオキシプロピレンジオレート、ポリオキシプロピレンジリノレート、ポリオキシプロピレンモノアセテート、ポリオキシプロピレンモノプロピオネート、ポリオキシプロピレンモノブチレート、ポリオキシプロピレンモノバリレート、ポリオキシプロピレンモノカプロエート、ポリオキシプロピレンモノヘプタノエート、ポリオキシプロピレンモノオクタノエート、ポリオキシプロピレンモノノナネート、ポリオキシプロピレンモノカプレート、ポリオキシプロピレンモノラウレート、ポリオキシプロピレンモノミリスチレート、ポリオキシプロピレンモノパルミテート、ポリオキシプロピレンモノステアレート、ポリオキシプロピレンモノオレート、ポリオキシプロピレンモノリノレートなどが挙げられるがこれに限定されず、これらを単独もしくは併用して使用することができる。
【0028】
本発明において、シリカ系無機粒子はセルロースエステル繊維の吸湿性をさらに向上させるための重要な成分である。具体的には粒子の50%以上がSiO2で構成される無機粒子であり、ホワイトカーボン、シリカゾル、シリカゲル等が挙げられるが、好ましくはSiO2含有量が95%以上の湿式シリカ、乾式シリカが好ましい。
【0029】
ここで、シリカ系無機粒子の吸湿特性については、低湿度環境下ては粒子の比表面積に依存し、比表面積が高いと吸湿率も高くなる。一方、高湿度環境下においては、粒子の細孔容積および比表面積の関係を特定の値に制御することで初めて高い吸湿率を付与することが可能となる。すなわち、シリカ系無機粒子の細孔容積V(ml/g)が0.9以上であり、かつ該粒子の比表面積S(m2/g)との関係が 次式を満足することで目的とする吸湿特性を繊維に付与することが可能である。
【0030】
300≦(S/V)≦1500
高い吸湿性を付与するといった観点から400〜1000が好ましく、500〜800がさらに好ましい。この値が300未満であると目的使用範囲(高湿度環境下)での吸湿性が満足に発現せず、また1500を越えると低湿度環境下での吸湿率が高くなりすぎるため、目的とした吸湿特性を付与することができない。
【0031】
本発明で用いられるシリカ系無機粒子はその細孔容積Vが0.9(ml/g)以上であることが重要である。この細孔容積が小さい場合には吸湿性能、放湿性能ともに不十分なものしかえられない。細孔容積Vは2.0(ml/g)以下が好ましい。
【0032】
本発明において用いられるシリカ系無機粒子の平均粒径は0.01〜10μmである。0.01μmよりも小さい場合には配合の段階での溶融粘度高くなり好ましくない。また、10μmよりも大きな粒子は溶融成型時にフィルター圧力の急激な上昇を引き起こす原因となるばかりでなく、繊維に成形する際、粗大粒子として振るまうので糸切れの原因となり好ましくない。より好ましい無機微粒子の平均粒径は0.1〜5μmである。
【0033】
また本発明で用いるシリカ系無機粒子は、吸湿性という観点から3個/nm2以上のシラノール基が粒子表面に存在することが重要である。表面のシラノール基の数がこれより少ないと満足する吸湿性を期待できない。シラノール基の数は10個/nm2以下が好ましい。
【0034】
また、シリカ系無機粒子の吸湿特性を示す吸湿パラメーター(以下ΔMRと記す)は、これを用いた繊維の吸湿性を高めるため、高ければ高い方が好ましいが、7%以上であることが重要である。好ましくは15.0%以上、特に好ましくは20.0%以上である。吸湿パラメーターは、150%以下が好まし。
【0035】
ここでΔMRとは、30℃×90%RHでの吸湿率(MR2)から20℃×65%RHでの吸湿率(MR1)を引いた差である(ΔMR(%)=MR2−MR1)。ここでΔMRは衣服着用時の衣服内の湿気を外気に放出することにより快適性を得るためのドライビングフォ―スであり、軽〜中作業あるいは軽〜中運動を行った際の30℃×90%RHに代表される衣服内温度と20℃×65%RHに代表される外気温湿度との吸湿率差である。本発明では吸湿性評価の尺度としてこのΔMRをパラメーターとして用いている。ΔMRは大きければ大きいほど吸放湿能力が高く着用時の快適性が良好であることに対応する。
【0036】
本発明で用いられるシリカ系無機粒子の含有量は1〜20重量%である。含有量が1重量%に満たないと熱可塑性セルロースエステル組成物の吸放湿性が不十分となり、また、20重量%を越えると組成物の溶融粘度が著しく高くなるため成形が困難となる。より好ましい添加量は5〜15重量%である。
【0037】
実用上の着用快適性を得るためには繊維のΔMRは経時変化が問題とならない範囲で高いほど好ましく、4.0%以上あるものであり、さらに好ましくは5.0%以上である。
【0038】
本発明で用いるシリカ系無機粒子の平均細孔径は1〜15nmであることが好ましい。平均細孔径が1nm未満であると吸湿性に劣る。また、平均細孔径が15nmを越えると高湿度下での吸湿性には優れるものの低湿度下での吸湿性に劣るために本発明が目的としている吸放湿性を付与することができない。より好ましい平均細孔径は3〜10nm、さらに好ましくは4〜7nmである。
【0039】
本発明の熱可塑性セルロースエステル組成物に含有するシリカ系無機粒子は、1〜20nmまでの径を持つ細孔で全細孔容積の90%以上を占めることが好ましい。本発明のシリカ系無機粒子は細孔を持つことで周りの水蒸気が毛管凝縮を繰り返すことによって吸放湿するが、本発明が目的としている吸放湿性付与に関与する細孔径は1〜20nmまでであり、この範囲でより多くの細孔容積を占めるほうが水を保持できる空間が大きくなるために吸放湿の効率が良くなる。上記細孔径範囲で全細孔容積の95%以上を占めることがより好ましい。
【0040】
本発明の熱可塑性セルロースエステル組成物は、220℃、1000sec-1における溶融粘度が20〜200Pa・secであることが好ましい。220℃、1000sec-1における溶融粘度を20Pa・sec以上とすることにより、溶融紡糸に供した際には、紡出後の固化が十分に進み、収束しても繊維同士が膠着することがない。また、この場合、口金背面圧が十分に得られるため、分配性も良好となり、繊度の均一性が確保される。一方、溶融粘度を200Pa・sec以下とすることにより、紡出糸条の製糸性が良好であり、十分な配向が得られて機械特性の優れた繊維となる。また、配管圧力の異常な上昇によるトラブルが生じることもない。良好な流動性の観点から、220℃、1000sec-1における溶融粘度は50〜190Pa・secであることがより好ましく、80〜180Pa・secであることが最も好ましい。
【0041】
本発明の熱可塑性セルロースエステル組成物は、220℃における加熱減量率が5重量%以下である。ここで、加熱減量率とは窒素下において室温から10℃/分の昇温度速度で試料を昇温した時の、220℃における重量減少率をいう。加熱減量率を5重量%以下にするということは、低分子可塑剤を大量に含むなどによって成形加工時に発煙が生じることがないことである。例えば、溶融紡糸の際に発煙が生じることはなく、製糸性の良い、良好な物性を有する繊維が得られる。220℃における加熱減量率は好ましくは3重量%以下である。このように、本発明の加熱減量率の低い熱可塑性セルロースエステル組成物は溶融紡糸に適している。
【0042】
本発明で用いられるセルロースエステルと多価アルコールエステル可塑剤、シリカ系無機粒子の混合は、公知の共溶媒を用いるキャスト法を用いても良いし、エクストルーダー、ニーダー、ロールミル、バンバリーミキサー等の通常使用されている公知の混合機を特に制限無く用いても良い。なお、混合する場合には混合を容易にするために粉砕機により予めセルロースエステルの粒子を50メッシュ以上に細かく粉砕しておいても良い。また、セルロースエステル合成時に多価アルコールエステル可塑剤、シリカ系無機粒子を添加し、セルロースエステルの製造と同時に多価アルコールエステル可塑剤、シリカ系無機粒子を含むセルロースエステルを得ても良い。
【0043】
本発明の熱可塑性セルロースエステル組成物の製造方法としては、粒子分散性を高度に満足させるため、多価アルコールエステル可塑剤とシリカ系無機粒子とをあらかじめ分散処理したスラリーとして50〜150℃に加熱されたセルロースエステルに添加する方法が好ましい。可塑剤への粒子の分散方法としては、従来公知の方法を採用することができる。例えば、サンドミル、ボールミル、高速撹拌型分散機、超音波分散機などを挙げることができ、中でもサンドミル、高速撹拌型分散機が短時間で均一に粒子を分散でき好ましい。50〜150℃に加熱されたセルロースエステルへの添加方法としては、合成反応などで使用する反応缶で行ってもいいし、一軸混練機、二軸混練機、ニーダーなどで行っても構わない。セルロースエステルへの熱履歴を抑制し、粒子分散性を高くできる二軸混練機、ニーダーが好ましい。
【0044】
本発明の組成物は熱流動性が良好であり、溶融紡糸法によって繊維化することができる。
【0045】
本発明の熱可塑性セルロースエステル組成物からなる繊維の強度は、0.5〜2cN/dtexであることが好ましい。強度を0.5cN/dtex以上とすることで、製織や製編時など高次加工工程の通過性が良好であり、また最終製品の強力も不足することがないので好ましい。また、2cN/dtex以下では伸度が低下せず、毛羽立ちを抑えられ糸切れが少ないため好ましい。良好な強度特性の観点から、強度は0.7cN/dtex以上であることが好ましく、1.0cN/dtex以上であることが最も好ましい。
【0046】
本発明の熱可塑性セルロースエステル組成物からなる繊維の伸度は、2〜50%であることが好ましい。伸度を2%以上とすることにより、製織や製編時など高次加工工程において糸切れが多発することがない。また、50%以下では低い応力であれば変形することがなく、製織時の緯ひけなどにより最終製品の染色欠点を生じることがないため好ましい。良好な伸度としては、5〜45%であることがより好ましく、10〜40%であることが最も好ましい。
【0047】
また、本発明の熱可塑性セルロースエステル組成物からなる繊維のU%(ウースターノーマル%)は、3%以下であることが好ましい。U%が3%以下である場合には、繊度の均一性に優れた繊維が得られる。良好なU%としては2%以下が好ましく、最も好ましくは1%以下である。
【0048】
本発明で用いる溶融紡糸法は、前記した組成物を公知の溶融紡糸機において、加熱溶融した後に口金から押出し、紡糸し、必要に応じて延伸し巻取ることができる。この際紡糸温度は190℃〜250℃が好ましく、さらに好ましくは200℃〜240℃である。紡糸温度を190℃以上とすることにより、溶融粘度が低くなり溶融紡糸性が向上するので好ましい。また250℃以下にすることにより、組成物の熱分解が抑制されるため好ましい。
【0049】
また、組成物は気泡の混入をできるだけ少なくするために、溶融紡糸機に供給する前にエクストルーダーを用いてペレット化しておくか、エクストルーダーが配管によって溶融紡糸機と結合されていることが望ましい。また、ペレット化した溶融成形用熱可塑性セルロースエステル組成物は溶融紡糸に先立ち、溶融時の加水分解や気泡の発生を防止するために含水率を0.1重量%以下に乾燥することが好ましい。
【0050】
本発明においては必要に応じて要求される性能を損なわない範囲内で、熱劣化防止用、着色防止用の安定剤として、エポキシ化合物、弱有機酸、ホスフェイト、チオフォスフェイト等を単独または2種類以上混合して添加してもよい。また、その他有機酸系の生分解促進剤、滑剤、帯電防止剤、染料、顔料、潤滑剤、艶消剤等の添加剤を配合することは何らさしつかえない。
【0051】
本発明の熱可塑性セルロースエステル組成物からなる繊維の断面形状は丸ばかりでなく、三角、偏平、多葉型などの異形断面でも良い、さらに高い吸湿性を有し快適性、生分解性に優れており、前記繊維を製造する際に熱流動性が良好となる。また得られた繊維は、衣料用フィラメント、衣料用ステープル、産業用フィラメント、産業用ステープル、医療用フィラメントとすることが可能であり、またメルトブロー法、スパンボンド法による不織布用繊維とすることも好ましく採用できる。
【0052】
【実施例】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお実施例中の各特性値は次の方法で求めたものである。
A.エステル置換度
80℃で8時間の真空乾燥により絶乾状態としたセルロースエステル0.9gを秤量し、アセトン35mlとジメチルスルホキシド15mlを加え溶解した後、さらにアセトン50mlを加えた。撹拌しながら0.5N−水酸化ナトリウム水溶液30mlを加え、2時間ケン化した。熱水50mlを加え、フラスコ側面を洗浄した後、フェノールフタレインを指示薬として0.5N−硫酸で滴定した。別に試料と同じ方法で空試験を行った。滴定が終了した溶液の上澄み液を100倍に希釈し、イオンクロマトグラフを用いて、有機酸の組成を測定した。測定結果とイオンクロマトグラフによる酸組成分析結果から、下記式により置換度を計算した。なおエステル置換度とは、アセチル基の置換度とアシル基の置換度の和である。
【0053】
TA=(B−A)×F/(1000×W)
DSace=(162.14×TA)/[1−(Mwace−(16.00+1.01)×TA+{1−(Mwacy−(16.00+1.01)×TA}×Acy/Ace]
DSacy=DSace×(Acy/Ace)
TA:全有機酸量(ml)
A:試料滴定量(ml)
B:空試験滴定量(ml)
F:硫酸の力価
W:試料重量(g)
DSace:アセチル基の置換度
DSacy:アシル基の置換度
Mwace:酢酸の分子量
Mwacy:他の有機酸の分子量
Acy/Ace:酢酸(Ace)と他の有機酸(Acy)とのモル比
162.14:セルロースの繰り返し単位の分子量
16.00:酸素の原子量
1.01:水素の原子量
B.粒子およびそれを含有した繊維の吸湿性パラメーター(ΔMR)
吸湿率は粒子の場合、粒子1gを用い、また繊維の場合には原糸または布帛1〜3gを用い、絶乾時の重量と20℃×65%RHあるいは30℃×90%RHの雰囲気下、恒温恒湿器(タバイ製PR−2G)中に24時間放置後の重量との重量変化から、次式で求めた。
吸湿率(%)={(吸湿後の重量−絶乾時の重量)/絶乾時の重量}×100
上記測定した20℃×65%RHおよび30℃×90%RHの条件での吸湿率(それぞれMR1およびMR2とする)から、吸湿率差ΔMR(%)=MR2−MR1を求めた。同条件で3回測定を行った平均値である。
C.粒子の平均粒径
粒子の平均粒径はHORIBA製粒径分析装置(LA−700)にて3回測定し、その平均値である。
D.粒子の比表面積、細孔容積、平均細孔径
窒素吸着法により温度77Kで測定し、比表面積についてはBET法で、細孔容積と平均細孔径についてはDH法で解析した。
E.細孔容積占有率の計算
粒子の全細孔容積に対する1〜20nmまでの径を持つ細孔の容積の総和の割合から求めた。
F.表面のシラノール基の定量
微粉末シリカを圧力0.1kPa以下、温度120℃で乾燥した後ジオキサン中で水素化リチウムアルミニウムと反応させ水素量を測定して求めた。
G.溶融粘度
東洋精機(株)製キャピラリーレオメーター(登録商標:キャピログラフ1B、L=10mm、D=1.0mmのダイ使用)を用い、測定温度220℃、シェアレート1000sec-1で粘度を3回測定し平均値を、溶融粘度とした。
H.加熱減量率
(株)マック・サイエンス社製TG−DTA2000Sを用い、窒素下において室温から400℃まで10℃/分の昇温度速度で試料を加熱した時、220℃におけるサンプル10mgの重量変化を3回測定し平均値を加熱減量率とした。
I.強度、伸度
JIS−L−1013に基づいて測定を行った。オリエンテック社製テンシロンUCT−100型を用い、試料長20cm、引張速度20mm/minの条件で引張試験を行って、最大荷重を示した点の応力を繊維の強度(cN/dtex)とした。また、破断時の伸度を繊維の伸度(%)とした。
【0054】
なお、強伸度はマルチフィラメント糸で測定したものであり、n=5の平均値である。
【0055】
合成例1
セルロース(日本製紙(株)製溶解パルプ、α−セルロース93%)30gに酢酸20gとプロピオン酸90gを加え、50℃で30分混合した。混合物を室温まで冷却した後、氷浴中で冷却した無水酢酸10g、無水プロピオン酸140g、硫酸1.2gを加えてアシル化を行った。アシル化において、40℃を超える時は水浴で冷却した。撹拌を150分間行った後、反応停止剤として酢酸30gと水10gの混合溶液を30分間かけて添加して、過剰の無水物を加水分解した。その後、酢酸100gと水30gを加え60℃で70分間加熱撹拌した。反応終了後、炭酸ナトリウム2g含む水溶液を加えて析出したセルロースエステルを濾別、続いて水で洗浄した後、60℃で4時間乾燥した。得られたセルロースエステルの置換度は2.6(アセチル基0.2、プロピオニル基2.4)であった。
【0056】
分散例1
多価アルコールエステル可塑剤としてポリエチレングリコール{分子量600(三洋化成製 PEG600)}70重量%とシリカ系無機粒子として平均粒径2.8μm、細孔容積Vが0.9ml/g、S/Vの関係が620、シラノール基を5個/nm2、吸湿性パラメーター(ΔMR=61.8%)30重量%を高速撹拌型分散機を用いて3000回転、5時間処理を行い可塑剤/シリカ系無機粒子スラリーを得た。
【0057】
実施例1
合成例1で得られたセルロースエステルをニーダー((株)栗本鐵工所製)の原料フィダーより9.0kg/hrとなるように投入し、60℃に加熱した後、分散例1で得られた多価アルコールエステル可塑剤/シリカ系無機粒子スラリーを1.0kg/hrとなるようにプランジャー式ポンプで添加した。ニーダーのジャケットの温度は200℃とし、連続的に口金を取り付けた先端より押し出し、水冷後、カッターに導入してペレットとした。このペレットを80℃に加熱した真空乾燥機中で8時間乾燥させた後、220℃、1000sec-1での溶融粘度を測定した。溶融粘度は167.1Pa・secであった。また、加熱減量率は0.9%であった。
【0058】
得られたペレットを単軸エクストルーダー式溶融紡糸機で、溶融温度220℃、パック部温度220℃にて溶融し、0.23mmφ−0.30mmLの口金孔を36ホール有する口金より紡出した。紡出糸は25℃のチムニー風により冷却した後、750m/minの速度でゴデットローラーにより引き取り、ワインダーにて巻き取った。この繊維を筒編みとし、吸放湿特性を測定したところΔMR=10.2%であり、強伸度特性も良好であった。
【0059】
実施例2
セルロースエステル(合成例1)8.5kg/hrと多価アルコールエステル可塑剤/シリカ系無機粒子スラリーとしてグリセリンジアセテートオレート/シリカ系無機粒子(平均粒径3.0μm、細孔容積V=1.6ml/g、S/Vの関係が320、シラノール基を4個/nm2、吸湿性パラメーター(ΔMR=50.2%))1.5kg/hrを用いる以外は実施例1と同様にして、ペレットを作成し、溶融粘度および加熱減量率を測定した。溶融粘度は127.2Pa・sec、加熱減量率1.2%であった。
【0060】
得られたペレットを実施例1と同様にして紡糸し筒編みとし吸放湿特性を測定したところΔMR=12.1%であり、強伸度特性も良好であった。
【0061】
実施例3
セルロースエステル(合成例1)9.0kg/hrと多価アルコールエステル可塑剤/シリカ系無機粒子スラリーとしてポリオキシモノラウレート/シリカ系無機粒子(平均粒径2.5μm、細孔容積V=1.0ml/g、S/Vの関係が800、シラノール基を5個/nm2、吸湿性パラメーター(ΔMR=55.9%))1.0kg/hrを用いる以外は実施例1と同様にして、ペレットを作成し、溶融粘度および加熱減量率を測定した。溶融粘度は137.2Pa・sec、加熱減量率1.1%であった。
【0062】
得られたペレットを実施例1と同様にして紡糸し筒編みとし吸放湿特性を測定したところΔMR=9.5%であり、強伸度特性も良好であった。
【0063】
合成例2
無水酢酸5g、無水プロピオン酸120g用いた以外は合成例1と同様に反応してセルロースエステルを得た。得られたセルロースエステルの置換度2.5(アセチル基0.1、プロピオニル基2.4)であった。
【0064】
実施例4
セルロースエステル(合成例2)9kg/hrと多価アルコールエステル可塑剤/シリカ系無機粒子スラリーとしてジグレセリンテトラアセテート/シリカ系無機粒子(平均粒径2.0μm、細孔容積V=1.2ml/g、S/Vの関係が650、シラノール基を5個/nm2、吸湿性パラメーター(ΔMR=45.2%))1.0kg/hrを用いる以外は実施例1と同様にして、ペレットを作成し、溶融粘度および加熱減量率を測定した。溶融粘度は141.9Pa・sec、加熱減量率1.3%であった。
【0065】
得られたペレットを実施例1と同様にして紡糸し筒編みとし吸放湿特性を測定したところΔMR=8.2%であり、強伸度特性も良好であった。
【0066】
比較例1
セルロースアセテートとしてセルロースジアセテート置換度2.5(ダイセル化学工業(株)製 L40)を用い、分散例1のシリカ系無機粒子として平均一次粒子径を0.005μmとした以外は実施例1と同様にして、ペレットを作成し、溶融粘度および加熱減量率を測定した。加熱減量率は1.1%と低いが、溶融粘度は258.3Pa・secと著しく高い値であった。
【0067】
得られたペレットを実施例1と同様にして紡糸したところ溶融粘度が高すぎて流動性が悪く紡出糸の細化が起こらず、引き取ることができなかった。吐出された樹脂表面は粒子の凝集による凹凸が多数あった。樹脂として吸放湿特性を測定したところΔMR=3.2%であり、強伸度特性も悪いものであった。
【0068】
比較例2
シリカ系無機粒子を用いない以外は実施例1と同様にして、ペレットを作成し、溶融粘度および加熱減量率を測定した。加熱減量率は1.1%、溶融粘度は154.1Pa・secであった。
【0069】
得られたペレットを実施例1と同様にして紡糸し筒編みとし吸放湿特性を測定したところΔMR=3.0%であり吸湿性が低い物であった。強伸度特性は良好であった。
【0070】
比較例3
セルロースエステル(合成例1)を98重量%、多価アルコールエステル可塑剤/シリカ系無機粒子スラリー(分散例1)2重量%をニーダー中220℃で混合し、混合ポリマーを得た以外は実施例1と同様にして、ペレットを作成し、溶融粘度および加熱減量率を測定した。加熱減量率は0.8%と低いが、溶融粘度は297.1Pa・secと著しく高い値であった。
【0071】
得られたペレットを実施例1と同様にして紡糸したところ溶融粘度が高すぎて流動性が悪く紡出糸の細化が起こらず、引き取ることができなかった。
【0072】
比較例4
合成例1で合成したセルロースエステルを60重量%、多価アルコールエステル可塑剤としてポリエチレングリコール分子量400を25重量%、シリカ系無機粒子(平均粒径0.5μm、細孔容積V=0.9ml/g、S/Vの関係が630、シラノール基を4個/nm2、吸湿性パラメーター(ΔMR=51.9%))を15重量%を用いた以外は比較例3と同様にして、ペレットを作成し、溶融粘度および加熱減量率を測定した。溶融粘度は15.8Pa・secであった。加熱減量率は14.7%と高い値であった。
【0073】
得られたペレットを用いて実施例1と同様に紡糸を試みたが、流動性は非常に高かった。また、紡糸速度500m/minではシリカ系無機粒子の凝集粒子による糸切れが多発して引き取りができなかっため、紡糸速度を200m/minと低速にして紡糸を行った。紡出糸からは可塑剤の揮発に伴う激しい発煙が認められ、走行糸条は安定しなかった。
【0074】
得られた繊維を筒編みしたところ、ΔMR=7%と吸湿性はあるが可塑剤のブリードが激しく品位が著しく劣っていた。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
【発明の効果】
本発明により、多価アルコールエステル可塑剤、シリカ系無機粒子を添加したバイオマス系材料であるセルロースエステルを主成分とする環境負荷の小さい成分からなる吸湿性に優れた熱可塑性セルロースエステル組成物が得られ、それからなる溶融紡糸性、生産性に優れた繊維を提供することが可能となる。得られる組成物および繊維は、吸湿性が高く着用快適性が良好になるため衣料用などに好適に用いることができる。
Claims (9)
- エステル置換度が2.5〜3.0であるセルロースエステル70〜95重量%と、多価アルコールエステル可塑剤2〜20重量%とを少なくとも含んでなるセルロースエステル組成物に、下記A〜Dの要件を満足するシリカ系無機粒子を1〜20重量%含有することを特徴とする熱可塑性セルロースエステル組成物。
A.シリカ系無機粒子の細孔容積V(ml/g)が0.9以上であり、かつ該粒子の比表面積S(m2/g)との関係が 次式を満足すること。
300≦(S/V)≦1500
B.シリカ系無機粒子の平均粒径(μm)が0.01〜10であること。
C.シリカ系無機粒子の表面に存在するシラノール基の数が3個/nm2以上であること。
D.シリカ系無機粒子の吸湿パラメーター(ΔMR)が7%以上であること。 - セルロースエステルが、アシル部の炭素数が3以上であるエステルをグルコース単位あたり平均1個以上含んでなるものであることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性セルロースエステル組成物。
- セルロースエステルがセルロースアセテートプロピオネートであることを特徴とする請求項1または2に記載の吸湿熱可塑性セルロースエステル組成物。
- セルロースエステルのアセチル基の置換度が0.1〜1.0、プロピオニル基の置換度が1.5〜2.9であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性セルロースエステル組成物。
- シリカ系無機粒子において、平均細孔径が1〜15nmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱可塑性セルロースエステル組成物。
- シリカ系無機粒子において、1〜20nmまでの径を持つ細孔の容積の積算値が全細孔容積の90%以上を占めることを特徴とする請求項1〜5いずれか1項に記載の熱可塑性セルロースエステル組成物。
- 組成物の220℃における加熱減量率が5重量%以下、220℃、1000sec-1における溶融粘度が20〜200Pa・secであることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の熱可塑性セルロースエステル組成物。
- 50〜150℃に加熱されたセルロースエステルに多価アルコールエステル可塑剤とシリカ系無機粒子を分散処理したスラリーとして添加することを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の熱可塑性セルロースエステル組成物の製造方法。
- 請求項1から7のいずれか1項に記載の熱可塑性セルロースエステル組成物からなる、繊維の吸湿パラメーター(ΔMR)が4%以上であることを特徴とする熱可塑性セルロースエステル繊維。
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JP2002366289A JP2004196932A (ja) | 2002-12-18 | 2002-12-18 | 吸湿熱可塑性セルロースエステル組成物およびそれから得られる繊維 |
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JP2002366289A JP2004196932A (ja) | 2002-12-18 | 2002-12-18 | 吸湿熱可塑性セルロースエステル組成物およびそれから得られる繊維 |
Publications (1)
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JP (1) | JP2004196932A (ja) |
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2006028219A (ja) * | 2004-07-12 | 2006-02-02 | Fuji Chemical Kk | 生分解性樹脂組成物 |
-
2002
- 2002-12-18 JP JP2002366289A patent/JP2004196932A/ja active Pending
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JP2006028219A (ja) * | 2004-07-12 | 2006-02-02 | Fuji Chemical Kk | 生分解性樹脂組成物 |
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