JP2004144787A - トナーの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】超臨界流体あるいは亜臨界流体を利用したトナーの製造方法において、トナー中に顔料粒子を高分散させることができるトナーの製造方法を提供する。
【解決手段】まず、顔料前処理装置7にて、顔料粒子に対して、顔料粒子の分散性を向上させる前処理を施す。次いで、前処理した顔料粒子を処理バルブ8を介して反応容器9中に導入すると共に結着樹脂成分を反応容器9中に導入し、ガスボンベ1に充填されたガスを加圧ポンプ2により加圧して超臨界流体として反応容器9中に供給する。そして、結着樹脂成分を、超臨界流体中あるいは亜臨界流体中にて溶解した後、上記超臨界流体中あるいは亜臨界流体中における結着樹脂成分の溶解度を低下せしめて、結着樹脂成分を顔料粒子上に析出させてトナーを得る。得られたトナーは、ノズル12を介して、粒子捕集箱13にて採取する。
【選択図】 図1
【解決手段】まず、顔料前処理装置7にて、顔料粒子に対して、顔料粒子の分散性を向上させる前処理を施す。次いで、前処理した顔料粒子を処理バルブ8を介して反応容器9中に導入すると共に結着樹脂成分を反応容器9中に導入し、ガスボンベ1に充填されたガスを加圧ポンプ2により加圧して超臨界流体として反応容器9中に供給する。そして、結着樹脂成分を、超臨界流体中あるいは亜臨界流体中にて溶解した後、上記超臨界流体中あるいは亜臨界流体中における結着樹脂成分の溶解度を低下せしめて、結着樹脂成分を顔料粒子上に析出させてトナーを得る。得られたトナーは、ノズル12を介して、粒子捕集箱13にて採取する。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明が属する技術分野】
本発明は、電子写真プロセスやイオンフロー方式により、像担持体上に形成された静電潜像を現像するためのトナーの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
レーザープリンター、LED(Light Emitting Diode)プリンターやデジタル複写機の電子写真方式を用いた画像形成装置は、感光体表面を一様に帯電させ、画像情報に対してレーザービームやLED等により光照射して所望の静電潜像を形成し、現像部により、この静電潜像をトナー(現像剤)によって可視化して可視画像を形成し、これを記録材に固定して画像を得るものである。
【0003】
近年、画像形成装置に対する小型化の要求はますます高まってきている。電子写真方式の画像形成装置においては、小型化を達成する上で、画像形成装置中におけるトナーの占める割合がかなり大きい。特に、近年のネットワーク環境においては、複数の人間が1台の画像形成装置を使用し、その印字量も膨大であるため、使用者の使い勝手の良さを配慮した場合、トナーを大容量にて内蔵する必要がある。
【0004】
近年、カラー画像出力に対する要求も増加しており、カラー画像形成装置では、3色または4色のトナーを使用するため、トナーの占める容積は画像形成装置中において、より大きなものとなる。更には、カラー画像の場合、多色の重ね合わせにより色再現を行うが、このとき、記録材(例えば紙やOHP(OverHead Projector)シート等)上のトナー量が多くなり、これを熱定着させる場合、モノクロ画像に比べて、多量の熱量を必要とするため、定着部の大型化が必要となる。
【0005】
また、トナーの製造方法については、より省エネルギーで、環境に対する影響の小さい手法が要求されている。現在のトナーの製造方法としては、従来からの溶融混練粉砕法や、近年では液体溶媒中での重合法(懸濁法、乳化法、分散法、等)によるものが主流である。
【0006】
例えば、乾式現像法に用いられるトナーは熱可塑性樹脂(結着樹脂)、顔料(着色剤)、離型剤などを主成分とし、これに必要に応じて、磁性粉、帯電荷制御剤、流動性向上剤などを添加して製造される。そして、これらのトナーの製造方法としては、特許文献1に代表されるように、原料を全て一度に混合して混練機などにより加熱、溶融、分散を行い均一な組成物とした後、これを冷却して、粉砕、分級することにより体積平均粒径10μm程度のトナーを製造する方法が一般的に採用されている。
【0007】
特にカラー画像の形成に用いられる電子写真用カラートナーは、一般に、結着樹脂中に各種の有彩色顔料を分散含有させて構成される。この場合、使用するトナーに要求される性能は、黒色画像を得る場合に比べ厳しいものとなる。即ち、トナーとしては、衝撃や湿度等の外的要因に対する機械的電気的安定性に加え、適正な色彩の発現(着色度)やオーバーヘッドプロジェクター(OHP)に用いたときの光透過性(透明性)が必要となる。
【0008】
着色剤として有彩色顔料を用いるものとしては、特許文献2や特許文献3に記載のものがある。
【0009】
しかしながら、上記従来の顔料系のカラートナーは、耐光性については優れているものの、反面、結着樹脂に対する顔料の分散性が悪いため、着色度(発色性)や透明性が劣るという問題がある。
【0010】
結着樹脂に対する顔料の分散性を向上するための顔料の前処理方法としては、以下の方法が提案されている。
【0011】
(1)バインダー樹脂としてポリエステル樹脂(樹脂A)を用い、当該樹脂Aよりも高い分子量のポリエステル樹脂(樹脂B)により顔料をあらかじめ被覆し、この被覆された顔料を樹脂A中に分散させてカラートナーを得る技術(特許文献4参照)。
【0012】
(2)樹脂と樹脂とを溶融混練して得られる加工顔料が結着樹脂中に分散含有されてなり、前記顔料用樹脂の重量平均分子量が前記結着樹脂の重量平均分子量よりも小さく、前記結着樹脂の重量平均分子量が10万以上であるカラートナー(特許文献5参照)。
【0013】
(3)結着樹脂と顔料との混合物をあらかじめ有機溶剤と共に結着樹脂の溶融温度よりも低い温度で1段目の混練を行い、さらに結着樹脂、帯電制御剤を加えて2段目の加熱溶融混練してカラートナーを得る技術(特許文献6参照)。
【0014】
(4)トナーに用いられる顔料において、トナーの主構成成分である結着樹脂よりも融点が低く、かつ溶融粘度の小さな低分子物質を顔料に吸油(吸収)させる顔料の前処理方法およびそれを用いたトナーの製造方法(特許文献7参照)。
【0015】
しかしながら、前記特許文献4〜7記載のトナーの製造方法でも、いずれも十分な顔料の分散は得られず、着色度、透明性が劣っているのが現状である。
【0016】
さらに、モノクロ用の黒トナーにおいては、黒色着色剤としてカーボンブラック7〜15重量%用いるのが通常であり、その製造方法は、混練前にカーボンの粉体を他の原材料と混合した後、溶融混練する方法が一般的である。黒トナーはカラートナーと違い、透明性は要求されないため、着色度を上げるためにはカーボン量を増加するという方法が採用される。しかしながら、この導電性のカーボンを増加することは、トナーの体積固有抵抗値を低下することになるため、帯電量の安定上好ましくない。したがって、カーボンブラックを十分に分散させて、トナーの体積固有抵抗値を高くする必要がある。
【0017】
カーボンブラックの分散性を向上させる方法としては、前記カラートナーのような2段混練はコスト高になるため行われず、(5)混練時の処理量を下げる方法が一般的であるが、その他、(6)混練時の樹脂温度を下げる方法や、(7)混練後の圧廷冷却方法を規定するものが提案されている。しかしながら、(5)、(6)、(7)は、いずれも処理量が少なくなるためコストが高くなるという問題がある。
【0018】
また、カーボンブラックの分散性を向上させる処理剤としては、カーボンブラックの再凝集を防ぐ高分子分散剤や、有機媒体中へのカーボンブラックの分散を向上させるアルミネート系カップリング剤等が用いられている。しかしながら、これらの処理剤を用いて前処理したカーボンブラックを用いてトナーを製造しても、十分な顔料の分散は得られず、着色度、透明性が劣っているのが現状である。
【0019】
超臨界流体は、近年、物質の分離・抽出・精製等の分野で盛んに研究がされている。例として、コーヒーにおけるカフェイン抽出や、廃棄物の分離・抽出等が挙げられる。
【0020】
また、超臨界流体中に、所望の物質を溶解し、急速膨張〔RESS(Rapid Expansion of Supercritical Solution)法〕させたり、貧溶媒や界面活性剤を添加したりすることで、超臨界流体中における溶質分の溶解度が大幅に低下し、この作用によって溶解していた物質が析出することを利用した微粒子の作製等も行われている。
【0021】
超臨界流体を用いて、微粒子を作製する方法としては、例えば、特許文献8や非特許文献1に記載されている技術がある。特許文献8に記載の方法は、あくまでトナーに外添される微粒子の製造方法に関するものであり、トナー自身の製造方法については、何ら記載されていない。
【0022】
特許文献9には、超臨界流体あるいは亜臨界流体を利用して、トナー中の着色剤(カーボンブラックや有彩色顔料)の含有量を増加しつつ、その分散性を維持し、少量のトナーで所望の画像品位を達成できると共に、省エネルギー化も達成できるトナー及びその製造する技術が開示されている。
【0023】
【特許文献1】
特開平1−304467号公報
【0024】
【特許文献2】
特開昭49−46951号公報
【0025】
【特許文献3】
特開昭52−17023号公報
【0026】
【特許文献4】
特開昭62−280755号公報(公開日:1987年12月5日)
【0027】
【特許文献5】
特開平2−66561号公報(公開日:1990年3月6日)
【0028】
【特許文献6】
特開平9−101632号公報(公開日:1997年4月15日)
【0029】
【特許文献7】
特開2000−81736号公報(公開日:2000年3月21日)
【0030】
【特許文献8】
特開平10−133417号公報(公開日:1998年5月22日)
【0031】
【特許文献9】
特開2001−312098号公報(公開日:2001年11月9日)
【0032】
【非特許文献1】
新井邦夫、「超臨界流体の材料への応用」、ニューセラミックス、No. 1,1995年、p.7〜13
【0033】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献9に開示されている技術は、トナー中の着色剤の分散性を一次粒子レベルまで高分散させることは難しかった。
【0034】
本発明は、上記従来の問題に鑑みなされたものであり、その目的は、超臨界流体あるいは亜臨界流体を利用したトナーの製造方法において、トナー中に顔料粒子を高分散させることができるトナーの製造方法を提供することにある。
【0035】
【課題を解決するための手段】
本発明のトナーの製造方法は、上記の課題を解決するために、結着樹脂成分を、超臨界流体中あるいは亜臨界流体中にて溶解して、顔料粒子と混合する混合工程と、上記混合工程の後に、上記超臨界流体中あるいは亜臨界流体中における結着樹脂成分の溶解度を低下せしめて、上記結着樹脂成分の内部に顔料粒子を分散させながら結着樹脂成分を顔料粒子上に析出させる析出工程とを含むトナーの製造方法において、上記混合工程の前に、顔料粒子に対して、顔料粒子の分散性を向上させる処理を施す前処理工程を含むことを特徴としている。
【0036】
上記方法によれば、前記特許文献9に記載のトナーの製造方法と同様に、顔料粒子上に結着樹脂成分を粒子状に析出させることで、粒子状に析出した結着樹脂成分内に顔料粒子が分散したトナーを作製することができる。
【0037】
ここで、前記特許文献9に記載のトナーの製造方法、すなわち顔料粒子の分散性を向上させる処理(前処理)を施していない顔料粒子を用いる方法では、トナー内の顔料粒子の分散性が低く、組成の均一でないトナーが生成することがある。例えば、一部のトナー粒子が、過剰の顔料粒子を含有し、他のトナー粒子中における顔料粒子の含有量が少なすぎることがある。よって、顔料粒子の分散性を向上させる技術を使用する必要が生じる。
【0038】
本発明の製造方法によれば、以下のような作用・効果が生まれる。
即ち、本発明の製造方法によれば、上記混合工程の前に、顔料粒子に対して、顔料粒子の分散性を向上させる処理(前処理)を施すことで、結着樹脂成分が溶解した超臨界流体中あるいは亜臨界流体中における前記顔料粒子の分散性が向上する。その結果、より一層均一な組成(顔料粒子の含有量等)を有し、顔料粒子の含有率が高いトナーを製造することができる。
【0039】
さらに、本発明の製造方法によれば、顔料粒子の前処理と超臨界法によるトナーの製造法との組み合わせにより、超臨界中において、顔料粒子を前処理していないものと比較して、顔料同士の凝集の低減及び顔料と超臨界流体との相溶性が向上し、粒子粒子の均一な分散が可能となる。
【0040】
前記前処理工程では、カップリング剤を前記顔料粒子表面に反応させることが好ましい。
【0041】
上記方法によれば、カップリング剤を前記顔料粒子表面に反応させることで、前記顔料粒子表面に低い表面活性を持つ疎水性の有機基が存在することとなる。これにより、顔料粒子の凝集を防止することができる。それゆえ、上記方法によれば、本発明の製造方法によるトナーの中でも、結着樹脂中での顔料粒子の分散性に優れたトナーを製造できる。
【0042】
なお、カップリング剤とは、無機物の表面に化学的に結合する反応性基と、疎水性の有機基とを有し、無機物の表面と反応して無機物表面を疎水化できる物質である。
【0043】
また、前記前処理工程では、前記顔料粒子に対して、顔料粒子の表面活性を下げる表面処理剤を吸着させることも好ましい。
【0044】
上記方法によれば、顔料粒子表面の活性を下げる表面処理剤を前記顔料粒子に吸着させることで、前記顔料粒子表面に、低い表面活性(小さい表面張力)を持つ表面処理剤層(吸着層)が形成される。これにより、立体障害が生まれ、顔料粒子の凝集が防止されるので、前記顔料粒子の分散単位を小さくすることができる。それゆえ、上記方法によれば、本発明の製造方法によるトナーの中でも、結着樹脂中での顔料粒子の分散性に優れたトナーを製造できる。
【0045】
表面処理剤を用いる場合、(1)前記顔料粒子として酸性顔料粒子を用い、前記前処理工程では、上記酸性顔料粒子を塩基性表面処理剤で処理するか、(2)前記顔料粒子として塩基性顔料粒子を用い、前記前処理工程では、上記塩基性顔料粒子を酸性表面処理剤で処理することが好ましい。
【0046】
上記(1)の方法によれば、前記酸性顔料粒子と前記塩基性表面処理剤との間に酸−塩基反応を生起させることで、前記酸性顔料粒子表面に前記塩基性表面処理剤が強固に、そして均一に分散した状態となり、したがって、前記塩基性表面処理剤が、剥がれ難く、高い安定性を持つ。それによって、前記酸性顔料粒子の表面活性をより一層下げ、超臨界流体あるいは亜臨界流体中への前記酸性顔料粒子の分散能もより一層向上させることができ、より一層安定な分散を実現することができる。
【0047】
上記(2)の方法によれば、前記塩基性顔料粒子と前記酸性表面処理剤との間に酸−塩基反応を生起させることで、前記塩基性顔料粒子表面に前記酸性表面処理剤が強固に、そして均一に分散した状態となり、したがって、前記酸性表面処理剤が、剥がれ難く、高い安定性を持つ。それによって、前記塩基性顔料粒子の表面活性をより一層下げ、超臨界流体あるいは亜臨界流体中への前記塩基性顔料粒子の分散能もより一層向上させることができ、より一層安定な分散を実現することができる。
【0048】
また、上記(1)(2)の方法によれば、一次粒子の細かい顔料粒子をできるだけ弱い分散力で短い時間で超臨界流体あるいは亜臨界流体中に分散させることができるので、トナーに加わる衝撃も緩和できる。その結果、製造装置内の分散媒体などの磨耗を防ぐことができると共に、トナーの物性(帯電安定性等)を向上させることができる。
【0049】
また、前記表面処理剤による前処理工程においては、前記顔料粒子の酸価あるいは塩基価をk1(mgKOH/g)、前記顔料粒子の使用量をX(g)とし、前記表面処理剤の塩基価あるいは酸価をk2(mgKOH/g)、前記表面処理剤の使用量をY(g)としたとき、
Y×k2>X×k1 …(1)
の関係を満たすように、前記表面処理剤を使用することが好ましい。
【0050】
表面処理剤の吸着層では、その密度(あるいは被覆率)が疎の場合と密の場合とがある。上記不等式を満たさない場合、表面処理剤の吸着層が疎となるため、前記表面処理剤が接近しても一方の前記顔料粒子上の前記表面処理剤は妨害を受けずに他方の顔料粒子表面の裸の部分に近づき、この部分に吸着する。こうして、前記表面処理剤が二つの粒子に橋架けする橋架け凝集を起こす。
【0051】
これに対し、上記方法では、上記不等式を満たすように条件設定を行うことにより、表面処理剤の吸着層が密となる。密な吸着層をもった二つの粒子が接近すると、ループの先の方(表面処理剤の分子の先端部)が絡まり始める。そこでは、前記表面処理剤のセグメント濃度が高まり、浸透圧が上昇して反発力を生じ、顔料粒子の分散を助けることができる。
【0052】
本発明の製造方法では、前記顔料粒子としてカーボンブラックを用い、前記前処理工程では、前処理後のカーボンブラックのpHが4より大きく10未満となるようにカーボンブラックに処理を施すことが好ましい。
【0053】
前処理後のカーボンブラックのpHが4以下か、あるいは10以上であるときには、製造されるトナーは、十分に帯電させることができないものとなる。そのため、製造されるトナーが正帯電トナーである場合には正帯電トナー中に負帯電トナーが発生し易くなり、製造されるトナーが負帯電トナーである場合には負帯電トナー中に正帯電トナーが発生しやすくなる。そのため、製造されるトナーは、画像形成時に、カブリ、トナー飛散、画像濃度の低下等の問題を生じるものとなる。
【0054】
これに対し、上記方法では、前処理後のカーボンブラックのpHが4より大きく10未満となるようにすることにより、十分に帯電できるトナーを製造することができる。その結果、製造されるトナーは、画像形成時における、カブリ、トナー飛散、画像濃度の低下等の問題を解決することができる。
【0055】
前記前処理工程では、少なくとも顔料粒子および液体溶剤を、粉砕媒体が内部に充填された攪拌ミルに入れ、該攪拌ミルにより内容物を撹拌することで湿式粉砕処理してもよい。
【0056】
上記方法によれば、少なくとも顔料粒子を含む(カップリング剤や表面処理剤を含んでいてもよい)被処理物を液体溶剤中に分散させた状態で、攪拌ミルによる湿式粉砕処理によって分散媒体間に生じる剪断作用や摩擦作用等により機械的な剪断力を被処理物に与え、前記顔料粒子を微粒子化して分散することができる。
【0057】
上記湿式粉砕処理では、容器の内部に攪拌羽根を回転可能に設けた撹拌ミルを使用し、上記容器の内部に少なくとも前記顔料粒子および液体溶剤を供給し、上記攪拌羽根を周速25m/s以上の速度で回転させることが好ましい。
【0058】
前記湿式粉砕処理は、顔料粒子を液体溶剤中に分散させた状態で顔料粒子に対して剪断力を機械的に与えることによって顔料粒子を微粒子化するものであるため、処理時間がかかると、液体溶剤が揮発してしまうことが懸念される。
【0059】
上記方法では、容器の内部に攪拌羽根を回転可能に設けた撹拌ミル(撹拌槽型撹拌ミル等)を使用し、攪拌羽根の周速を25m/s以上にしたことで、より大きい遠心力を発生し、顔料粒子及び液体溶剤を遠心力で容器の内壁に押付け混合することができる。これにより、処理時間を短くし、効率的に前記顔料粒子を微粒子化して分散させることができる。
【0060】
また、カップリング剤または表面処理剤を用いる前記前処理工程では、顔料粒子と前記カップリング剤または表面処理剤とを超臨界流中あるいは亜臨界流体中で混合した後、上記超臨界流体あるいは上記亜臨界流体を気化させることが好ましい。
【0061】
表面処理剤を用いた湿式粉砕処理等のような液体溶剤を用いた表面処理剤による前処理では、液体溶剤が前記表面処理剤の前記顔料粒子への輸送を容易にするが、最終的に処理した顔料粒子から液体溶剤を分離する必要がある。従って、コストのかかる面倒な液体溶剤を分離するステップが必要となる。また、表面処理剤を用いた湿式粉砕処理等のような液体溶剤を用いた表面処理剤による前処理では、前記顔料粒子が、液体溶剤中に分散した分散液の状態でカップリング剤または表面処理剤と混合され、この分散液は粘性が高くなるため、顔料粒子とカップリング剤との反応速度や、顔料粒子への表面処理剤の吸着速度が多少遅くなる。その結果、反応時間や吸着時間が長くなるため、前処理を更に面倒なものにしている。また、液体溶剤を使用することは、取扱い及び保存に関して幾つかの衛生及び安全上の問題をもたらす。また、表面処理剤を用いた湿式粉砕処理等のような液体溶剤を用いた表面処理剤による前処理では、前処理された顔料粒子から液体溶剤を除去した後でさえも、前記顔料粒子の表面状態及び形態が悪くなる場合がある。更に、前記顔料粒子が、液体溶剤との接触によって凝集を起こし、粒子サイズ及びサイズ分布を大幅に大きくすることがある。従って、トナーの表面上に適切に分散することができるさらさらした粉末の形で、前処理された顔料粒子を得るために、湿式粉砕処理等の前処理の後に、粉砕及び処理工程が必要となり、これらの設備が必要となることがある。
【0062】
これに対し、上記方法では、顔料粒子と前記カップリング剤あるいは表面処理剤とを超臨界流体中あるいは亜臨界流体中で混合することで、液体溶剤を用いることなく前記カップリング剤あるいは表面処理剤を充分に分散させて、前記カップリング剤あるいは表面処理剤の前記顔料粒子への輸送を容易にすることができる。したがって、顔料粒子とカップリング剤との反応や、顔料粒子への表面処理剤の吸着を速やかに行うことができ、前処理を高速に行うことが可能となる。
【0063】
さらに、カップリング剤あるいは表面処理剤を分散させるために使用した超臨界流体あるいは亜臨界流体は、顔料粒子と前記カップリング剤との反応(表面処理反応)あるいは顔料粒子への表面処理剤の吸着が完了した後に、乾燥空気中に放出する等の操作により気化させることで、低コストで容易にかつ速やかにほぼ完全に除去することができる。したがって、溶剤廃棄物を全く生じないか又は殆ど生じない前処理顔料粒子を低コストで容易にかつ速やかに生成することができる。また、液体溶剤によって顔料粒子が凝集したり、顔料粒子の表面状態及び形態が悪くなったりする現象も回避できる。
【0064】
【発明の実施の形態】
〔基本形態〕
まず、本発明に係るトナーの製造方法の基本形態について説明する。
本発明の製造方法は、結着樹脂成分を、超臨界流体中あるいは亜臨界流体中にて溶解して、顔料粒子と混合し、上記超臨界流体中あるいは亜臨界流体中における結着樹脂成分の溶解度を低下せしめて、上記結着樹脂成分の内部に顔料粒子を分散させながら結着樹脂成分を粒子状に顔料粒子上に析出させる方法である。
【0065】
物質の温度・圧力をある一定条件(臨界点)以上に設定すると、気相と液相とでの密度が等しい状態の流体となる。この臨界点以上の温度・圧力下での流体が超臨界流体(超臨界ガス)と呼ばれている。すなわち、超臨界流体は、臨界温度、臨界圧力を超えた状態のガスである。また、超臨界点未満であっても、臨界点に近い条件でも超臨界流体に近い状態となり、このような流体を亜臨界流体と呼ぶ。
【0066】
超臨界流体あるいは亜臨界流体(以下の記載では、特に断らないかぎり、「超臨界流体」は亜臨界流体も含むものとする)中では、気体の性質と液体の性質が共に現れる。例えば、密度は液体に近く(気体の数100倍程度)、粘度は気体に近く(液体の1/10ないし1/100程度)、拡散係数も液体の1/10ないし1/100程度、熱伝導度は液体に近い(気体の100倍程度)とすることができる。
【0067】
超臨界流体は、一般的に非常に物を溶かす力が大きく、温度・圧力の変化により物質の溶解力を大幅に変化させることができる性質を有している。これは、反応溶媒や抽出溶媒としては非常に優れたものである。
【0068】
本願発明者らは、超臨界流体に関する前述のような性質に着目し、これをトナー作製への適用を種々試み、本発明を見出した。すなわち、前述したようにトナーを用いる電子写真方式の画像形成装置における小型化を達成するのに、トナーの着色力を高めることが重要である。この場合に、トナー中の顔料粒子の量を増加させる際に顔料粒子の分散性を向上させなければならない。
【0069】
ここで、結着樹脂成分を、超臨界流体中あるいは亜臨界流体中にて溶解して、前処理された顔料粒子と混合する(混合工程)。前処理された顔料粒子と結着樹脂成分とを超臨界流体中に混合する。これにより、超臨界流体の特徴である物質を良く溶かす性質、および、大きな拡散係数と、前処理された顔料粒子の優れた分散性とにより、溶解した結着樹脂成分およびこれに混合した顔料粒子が、上記の顔料粒子の凝集を防止しながら、均一に分散する。この作用により、顔料粒子は、超臨界流体中において良好な分散状態となる。
【0070】
この混合工程の後、上記超臨界流体中における結着樹脂成分の溶解度を低下させ、上記結着樹脂成分の内部に顔料粒子を分散させながら、溶解していた結着樹脂成分を顔料粒子上に析出させる(析出工程)。このとき、RESS法等の方法によって、超臨界流体中における結着樹脂成分の溶解度を急速に低下させると、溶解していた結着樹脂成分が微粒子状となって析出する。この際、超臨界流体中で顔料粒子が良好な分散状態となるため、結着樹脂成分の微粒子中に顔料粒子が均一に分散された状態で、微粒子状のトナーを得ることができる。
【0071】
上記超臨界流体として使用可能な物質としては、例えば、二酸化炭素(CO2)、N2、CH4、C2H6、CF3H、NH3 、CF3Cl、CH3OH、C2H5OH、H2O等が挙げられる。これらのうち、二酸化炭素(CO2)が、常温に近い臨界温度(31℃)を有し、かつ、無極性、不燃性、無害、安全、安価などの利点を有することから、特に好ましい。
【0072】
上記結着樹脂成分としては、トナーに用いられる樹脂であれば特に限定されないが、例えば、ポリスチレン、スチレン/ブタジエン共重合体、スチレン/アクリル共重合体(スチレンとアクリル酸誘導体との共重合体)などのスチレン系樹脂や、ポリエチレン、ポリエチレン/酢酸ビニル共重合体、ポリエチレン/ビニルアルコール共重合体などのエチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系樹脂、また、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、アリルフタレート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、マレイン酸系樹脂等を用いることができる。上記結着樹脂成分の重量平均分子量は、103以上106以下の範囲内が望ましい。
【0073】
また、上記結着樹脂成分には、離型剤としてワックス成分を添加してもよい。上記ワックス成分としては、ポリエチレンワックス(低分子量ポリエチレン)、ポリプロピレンワックス(低分子量ポリプロピレン)等を用いることができる。
【0074】
上記顔料粒子としては、有機顔料粒子や無機顔料粒子が含まれる。上記顔料粒子は、無彩色の顔料粒子でもよく、有彩色の顔料粒子でもよい。また、無彩色の顔料粒子としては、例えば、カーボンブラックが挙げられる。また、有彩色の顔料粒子としては、例えば、アニリンブルー、カルコオイルブルー、クロームイエロー、ウルトラマリンイエロー、メチレンブルー、デュポンオイルレッド、キノリンイエロー、メチレンブルークロライド、フタロシアニンブルー、ローズベンガル、ジスアゾイエロー、カーミン6B、キナクリドン系顔料等が挙げられる。上記顔料粒子の粒子径(1次粒子)は、40nm〜400nm、好ましくは、100nm〜200nmである。
【0075】
なお、上記混合工程における混合方法については、特に限定されるものではないが、例えば、前処理された顔料粒子と結着樹脂成分とを反応容器中にて超臨界流体中に混合すればよい。また、上記析出工程で超臨界流体中における結着樹脂成分の溶解度を低下させる方法としては、反応容器内の超臨界流体を減圧する方法が好適である。
【0076】
また、超臨界流体に混合する上記の結着樹脂成分や前処理された顔料粒子に加え、超臨界流体と溶質(結着樹脂成分)との間との親和力を高め、超臨界流体に対する溶質(結着樹脂成分)の溶解度を向上させるために、エントレーナー(添加助剤)を超臨界流体に加えてもよい。
【0077】
上記エントレーナー(添加助剤)としては、超臨界流体として使用する物質と、超臨界流体に溶解させる溶質(結着樹脂成分)との組み合わせにもよるが、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等)や、ケトン類(メチルエチルケトン、アセトン、シクロヘキサノン等)や、エーテル類(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等)、炭化水素類(トルエン、ベンゼン、シクロヘキサン等)や、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルアセテート、アルキルカルボン酸エステル等)や、ハロゲン化炭化水素類(クロロベンゼン、ジクロロメタン等)や、水、アンモニア等が挙げられる。ただし、水やアンモニアをエントレーナーとして用いる場合は、水、アンモニアを超臨界流体として用いないときである。
【0078】
本発明の製造方法は、上述した製造方法において、溶解した結着樹脂成分を顔料粒子と混合する混合工程の前に、顔料粒子に対して、顔料粒子の分散性を向上させる処理を施す前処理工程を含むことを特徴としている。
【0079】
顔料粒子の分散性を向上させる処理としては、顔料粒子表面の性質を改良する表面改質処理、少なくとも顔料粒子および液体溶剤を、粉砕媒体が内部に充填された攪拌ミルに入れ、該攪拌ミルにより内容物を撹拌することで顔料粒子を湿式粉砕する湿式粉砕処理等が挙げられるが、少なくとも表面改質処理を顔料粒子に施すことがより好ましい。
【0080】
上記表面改質処理は、顔料粒子表面層の物理的性質および化学的性質の少なくとも一方を改良できる処理であればよく、例えば、カップリング剤を顔料粒子表面に反応させる処理等の顔料粒子表面層の化学的性質を改良する処理;顔料粒子表面の活性を下げる表面処理剤(分散剤)を顔料粒子に吸着させることによって分散性を上げる処理、親油物質の安定なO/W(oil/water;水中油型)エマルジョンにより処理することで粒子表面に親油層を設け親油化させる処理、顔料粒子表面への樹脂皮膜形成などの顔料粒子表面層の物理的性質を改良する処理などがある。また、これら処理の複数を組み合わせてもよい。例えば、カップリング剤で処理した後、親油物質の安定なO/Wエマルジョンで処理することで粒子表面に親油層を設け、親油化させる処理を行ってもよい。
【0081】
上記表面改質処理としては、カップリング剤を顔料粒子表面に反応させる表面処理、および顔料粒子表面の活性を下げる表面処理剤を顔料粒子に吸着させる処理が特に好適であり、この中でも、表面処理剤を吸着させる前処理を施した顔料粒子が、結着樹脂中での分散性に最も優れている。なお、湿式粉砕処理については、後段で述べる。
【0082】
以上のように、本発明のトナーの製造方法は、結着樹脂成分を、超臨界流体中あるいは亜臨界流体中にて溶解して、顔料粒子と混合する混合工程と、上記混合工程の後に、上記超臨界流体中あるいは亜臨界流体中における結着樹脂成分の溶解度を低下せしめて、上記結着樹脂成分の内部に顔料粒子を分散させながら結着樹脂成分を顔料粒子上に析出させる析出工程とを含むトナーの製造方法において、上記混合工程の前に、顔料粒子に対して、顔料粒子の分散性を向上させる処理を施す前処理工程を含む方法である。
【0083】
上記方法によれば、前記特許文献9に記載のトナーの製造方法と同様に、顔料粒子上に結着樹脂成分を粒子状に析出させることで、粒子状に析出した結着樹脂成分内に顔料粒子が分散したトナーを作製することができる。
【0084】
ここで、前記特許文献9に記載のトナーの製造方法、すなわち顔料粒子の分散性を向上させる処理(前処理)を施していない顔料粒子を用いる方法では、トナー内の顔料粒子の分散性が低く、組成の均一でないトナーが生成することがある。例えば、一部のトナー粒子が、過剰の顔料粒子を含有し、他のトナー粒子中における顔料粒子の含有量が少なすぎることがある。よって、顔料粒子の分散性を向上させる技術を使用する必要が生じる。
【0085】
本発明の製造方法によれば、以下のような作用・効果が生まれる。
即ち、本発明の製造方法によれば、上記混合工程の前に、顔料粒子に対して、顔料粒子の分散性を向上させる処理(前処理)を施すことで、結着樹脂成分が溶解した超臨界流体中あるいは亜臨界流体中における前記顔料粒子の分散性が向上する。その結果、より一層均一な組成(顔料粒子の含有量等)を有し、顔料粒子の含有率が高いトナーを製造することができる。
【0086】
本発明にかかるトナーは、電子写真プロセスやイオンフロー方式により、像担持体上に形成された静電潜像を現像するために使用でき、特に電子写真プロセス用のトナーとして好適である。本発明にかかるトナーは、そのまま一成分現像剤として用いてもよく、フェライトキャリアと混合して二成分現像剤として用いてもよい。
【0087】
〔実施の形態1〕
次に、本発明にかかるトナーの製造方法の実施の一形態について図面に基づいて説明する。なお、ここでは、ガスを加圧して超臨界流体(超臨界ガス)とする場合について説明する。
【0088】
本発明のトナーを作製するための製造装置としては、例えば図1に示すような構成の製造装置が挙げられる。この製造装置は、図1に示すように、超臨界流体とするガスが充填されたガスボンベ1、上記ガスを加圧するための加圧ポンプ2、顔料粒子に対して、顔料粒子の分散性を向上させる処理を施すための顔料前処理装置7、超臨界状態となった超臨界流体と、エントレーナーと、結着樹脂成分と、前処理された顔料粒子とを混合するための反応容器9、トナー粒子を捕集するための粒子捕集箱13等を備えている。
【0089】
上記製造装置を用いた本発明の製造方法では、まず、顔料粒子を反応容器9へ導入する前に、顔料粒子を顔料前処理装置7において処理(前処理)する。この顔料前処理装置7において処理された顔料粒子を処理バルブ8を介して反応容器9中に導入する。また、次いで、顔料粒子を導入するのと同時、あるいはその前後に、結着樹脂成分を反応容器9中に導入する。
【0090】
次に、超臨界流体とするガスが充填されたガスボンベ1より、反応容器9に向けガスが供給される。このガスは、加圧ポンプ2により所望の圧力に加圧され、超臨界流体とされる。また、エントレーナー(添加助剤)3も、同様に、加圧ポンプ4で所望の圧力まで加圧される。これら超臨界流体およびエントレーナー3はそれぞれ、バルブ5およびバルブ6を介して反応容器9に送られる。このとき、ガスの臨界温度が常温に近い場合(例えば、臨界温度が31℃である二酸化炭素の場合)にはガスを加熱することなく、超臨界流体となるが、高圧にしたガスを予熱コイル(図示しない)等で所望の温度に温調(温度調節)して、超臨界流体としてもよい。また、反応容器9へ導入する前に、超臨界流体とエントレーナー3とを、予め別の容器(図示していない)中で混合しておいてもよい。
【0091】
この反応容器9内の温度は、例えばヒーター10あるいは恒温水槽(図示していない)等で所望の温度(臨界温度近くの温度、あるいは臨界温度以上の温度)となるよう調整される。また、前記のバルブ5・6により、反応容器9内の圧力は、所望の圧力(臨界圧力に近い圧力、あるいは臨界圧力以上の圧力)となるように調整される。これら温度、圧力は温度計14、圧力計15によりモニターされる。
【0092】
このようにして、反応容器9中には超臨界状態となった超臨界流体、エントレーナー、結着樹脂成分、前処理された顔料粒子が混合された状態となる。このとき、必要に応じて、図示していないが、攪拌装置(例えば、プロペラ状の攪拌装置等)にて反応容器9内を攪拌してもよい。
【0093】
このような状態を維持し、図1に示す減圧バルブ11を開くことによって、反応容器9内の超臨界流体が急速膨張する。このとき、超臨界流体中に溶解していた各溶質の溶解度は、それぞれ著しく低下し、その結果、各溶質が微粒子状にそれぞれ析出する。
【0094】
この工程において、前処理された顔料粒子および結着樹脂成分と、エントレーナーおよび超臨界流体との間での親和性、および、反応容器9の圧力調整条件を適切に設定することで、微粒子状に析出した結着樹脂成分中に、さらに前処理された顔料粒子がほぼ均一に分散した状態にて抱埋された状態となっているトナー微粒子を得ることができる。これらトナー微粒子は、ノズル12を介して、粒子捕集箱13にて採取され、3μm〜7μmの体積平均粒子径を有するものである。
【0095】
上記工程においては、急速膨張に代えて、上記粒子捕集箱13中へ、超臨界流体中に溶解している溶質成分に対して貧溶媒として作用する溶媒(例えば、溶質としての結着樹脂成分に対して不活性なガス等)を満たし、または、界面活性剤〔非特許文献1参照〕を注入し、この中に前記超臨界流体を導入することによって、溶質成分を急速に析出させ、トナー微粒子を生成せしめた後、これら超臨界流体や貧溶媒成分または界面活性剤を除去し、トナーを作製してもよい。
【0096】
この後、このようなトナーに対し、必要に応じて、流動性等を調整するために、シリカ等の微粉体等の外添剤を公知の手法(例えば、乾式のミキサー等)により外添処理し、最終のトナーを作製してもよい。
【0097】
本実施形態の製造方法によれば、基本形態の項で詳述した通り、より一層均一な組成(顔料粒子の含有量等)を有し、顔料粒子の含有率が高いトナーを製造することができる。
【0098】
本実施形態の製造方法(後述する実施例2)により製造したトナーと粉砕法により製造したトナーの粒径分布をレーザー回折測定装置により測定した。その結果を図2に示す。前処理した顔料粒子を用いて超臨界流体あるいは亜臨界流体を用いて作製したトナー粒径は小粒径かつ分布の狭いものになった。さらに、TEM(透過型電子顕微鏡)観察により、粉砕法により製造したトナーと本実施形態の製造方法(後述する実施例2)により製造したトナーそれぞれの内部を観察した。その概念図を図3に示す。粉砕法に比べて超臨界流体を用いたトナー製造では、ワックス成分18を含んだ結着樹脂19中に顔料粒子20が一次粒子の状態で均一に高分散されていることが分かった。
【0099】
〔実施の形態2〕
次に、本発明の実施の一形態として、前記顔料粒子を表面処理剤により前処理する方法について説明する。
【0100】
本実施形態にかかるトナーの製造方法では、前記基本形態の製造方法において、前処理工程にて、顔料粒子に対して、顔料粒子の表面活性を下げる表面処理剤を吸着させる表面改質処理(前処理)を施す。
【0101】
上記方法によれば、顔料粒子表面の活性を下げる表面処理剤を前記顔料粒子に吸着させることで、前記顔料粒子表面に、低い表面活性(小さい表面張力)を持つ表面処理剤層(吸着層)が形成される。これにより、立体障害が生まれ、顔料粒子の凝集が防止されるので、前記顔料粒子の分散単位を小さくすることができる。それゆえ、上記方法によれば、本発明の製造方法によるトナーの中でも、結着樹脂中での顔料粒子の分散性に優れたトナーを製造できる。
【0102】
本実施形態の製造方法は、実施の形態1の製造方法と組み合わせることが好ましい。すなわち、本実施形態の製造方法は、好ましくは、顔料前処理装置7にて前記顔料粒子に表面処理剤を吸着させる表面改質処理(前処理)を施した後、処理された顔料粒子を反応容器9に供給する方法である。
【0103】
上記表面処理剤としては、例えば、塩基性表面処理剤や酸性表面処理剤が挙げられる。塩基性表面処理剤としては、変性ポリウレタン溶液等の塩基性高分子分散剤;変性ポリウレタン溶液等の塩基性低分子分散剤等が挙げられる。酸性の表面処理剤としては、変性ポリアクリレート等の酸性高分子分散剤;変性ポリアクリレート等の酸性低分子分散剤等が挙げられる。顔料粒子が酸性顔料粒子である場合には、上記表面処理剤として塩基性表面処理剤を用いることが好ましく、上記表面処理剤として変性ポリウレタンを用いることが好ましく。顔料粒子が塩基性顔料粒子である場合には、上記表面処理剤として塩基性表面処理剤を用いることが好ましく、上記表面処理剤として変性ポリウレタンを用いることが特に好ましい。
【0104】
本実施形態にかかるトナーの製造方法では、前処理される顔料粒子が酸性顔料粒子である場合、前記表面処理剤による前処理工程において、塩基性表面処理剤で前処理を行うことで、前記酸性顔料粒子及び前記塩基性表面処理剤の間に酸−塩基反応を生起させることが好ましい。
【0105】
上記方法によれば、前記酸性顔料粒子と前記塩基性表面処理剤との間に酸−塩基反応を生起させることで、前記酸性顔料粒子表面に前記塩基性表面処理剤が強固に、そして均一に分散した状態となり、したがって、前記塩基性表面処理剤が、剥がれ難く、高い安定性を持つ。それによって、前記酸性顔料粒子の表面活性をより一層下げ、超臨界流体あるいは亜臨界流体中への前記酸性顔料粒子の分散能もより一層向上させることができ、より一層安定な分散を実現することができる。
【0106】
また、上記方法によれば、一次粒子の細かい顔料粒子をできるだけ弱い分散力で短い時間で超臨界流体あるいは亜臨界流体中に分散させることができるので、トナーに加わる衝撃も緩和できる。その結果、製造装置内の分散媒体などの磨耗を防ぐことができると共に、トナーの物性(帯電安定性等)を向上させることができる。
【0107】
なお、上記酸性顔料粒子としては、酸性のカーボンブラック、青色顔料等が挙げられる。
【0108】
また、本実施形態にかかるトナーの製造方法では、前記顔料粒子が塩基性顔料粒子である場合、前記表面処理剤による前処理工程において酸性表面処理剤で前処理を行うことで、前記塩基性顔料粒子及び前記酸性表面処理剤の間に酸−塩基反応を生起させることが好ましい。
【0109】
上記方法によれば、前記塩基性顔料粒子と前記酸性表面処理剤との間に酸−塩基反応を生起させることで、前記塩基性顔料粒子表面に前記酸性表面処理剤が強固に、そして均一に分散した状態となり、したがって、前記酸性表面処理剤が、剥がれ難く、高い安定性を持つ。それによって、前記塩基性顔料粒子の表面活性をより一層下げ、超臨界流体あるいは亜臨界流体中への前記塩基性顔料粒子の分散能もより一層向上させることができ、より一層安定な分散を実現することができる。
【0110】
また、上記方法によれば、一次粒子の細かい顔料粒子をできるだけ弱い分散力で短い時間で超臨界流体あるいは亜臨界流体中に分散させることができるので、トナーに加わる衝撃も緩和できる。その結果、製造装置内の分散媒体などの磨耗を防ぐことができると共に、トナーの物性(帯電安定性等)を向上させることができる。
【0111】
なお、上記塩基性顔料粒子としては、塩基性のカーボンブラック、青色顔料等が挙げられる。
【0112】
さらに、本実施形態にかかるトナーの製造方法では、前記塩基性表面処理剤により酸性顔料粒子を処理する前処理工程において、前記酸性顔料粒子の酸価をk1(mgKOH/g)、前記酸性顔料粒子の使用量(投入量)をX(g)とし、前記塩基性表面処理剤の塩基価をk2(mgKOH/g)、前記塩基性表面処理剤の使用量(投入量)をY(g)としたとき、
Y×k2>X×k1
の関係を満たすように、前記表面処理剤を使用することが好ましい。また、本実施形態にかかるトナーの製造方法では、前記酸性表面処理剤により塩基性顔料粒子を処理する前処理工程において、前記塩基性顔料粒子の塩基価をk1(mgKOH/g)、前記塩基性顔料粒子の使用量(投入量)をX(g)とし、前記酸性表面処理剤の酸価をk2(mgKOH/g)、前記酸性表面処理剤の使用量(投入量)をY(g)としたとき、
Y×k2>X×k1 …(1)
の関係を満たすように、前記表面処理剤を使用することが好ましい。
【0113】
表面処理剤の吸着層では、その密度(あるいは被覆率)が疎の場合と密の場合とがある。上記不等式を満たさない場合、表面処理剤の吸着層が疎となるため、前記表面処理剤が接近しても一方の前記顔料粒子上の前記表面処理剤は妨害を受けずに他方の顔料粒子表面の裸の部分に近づき、この部分に吸着する。こうして、前記表面処理剤が二つの粒子に橋架けする橋架け凝集を起こす。
【0114】
これに対し、上記方法では、上記不等式を満たすように条件設定を行うことにより、表面処理剤の吸着層が密となる。密な吸着層をもった二つの粒子が接近すると、ループの先の方(表面処理剤の分子の先端部)が絡まり始める。そこでは、前記表面処理剤のセグメント濃度が高まり、浸透圧が上昇して反発力を生じ、顔料粒子の分散を助けることができる。
【0115】
さらに、本実施形態にかかるトナーの製造方法では、前記顔料粒子がカーボンブラックである場合には、前処理後のカーボンブラックのpHが4より大きく10未満となるようにカーボンブラックに表面処理剤による処理を施すことが好ましい。
【0116】
前処理後のカーボンブラックのpHが4以下か、あるいは10以上であるときには、製造されるトナーは、十分に帯電させることができないものとなる。そのため、製造されるトナーが正帯電トナーである場合には正帯電トナー中に負帯電トナーが発生し易くなり、製造されるトナーが負帯電トナーである場合には負帯電トナー中に正帯電トナーが発生しやすくなる。そのため、製造されるトナーは、画像形成時に、カブリ、トナー飛散、画像濃度の低下等の問題を生じるものとなる。
【0117】
これに対し、上記方法では、前処理後のカーボンブラックのpHが4より大きく10未満となるようにすることにより、十分に帯電できるトナーを製造することができる。その結果、製造されるトナーは、画像形成時における、カブリ、トナー飛散、画像濃度の低下等の問題を解決することができる。
【0118】
なお、前処理後のカーボンブラックのpHが4より大きく10未満となるようにするには、処理前のカーボンブラックのpHが4より大きく10未満である場合には、pHが4以下とならない使用量で酸性の表面処理剤を用いてもよく、pHが10を超えない使用量で塩基性の表面処理剤を用いてもよく、中性の表面処理剤を用いてもよい。また、処理前のカーボンブラックのpHが4以下、あるいは10より大きい場合には、pHが4より大きく10未満となるように塩基性の表面処理剤あるいは酸性の表面処理剤を適量用いればよい。
【0119】
また、前処理後のカーボンブラックのpHが4より大きく10未満となるようにカーボンブラックに前処理を施す製造方法は、表面処理剤を用いた前処理以外の前処理を行う場合にも有効である。
【0120】
〔実施の形態3〕
本実施形態にかかるトナーの製造方法では、前記基本形態の製造方法において、前処理工程にて、カップリング剤を前記顔料粒子表面に反応させる。
【0121】
上記方法によれば、カップリング剤を前記顔料粒子表面に反応させることで、前記顔料粒子表面に低い表面活性を持つ疎水基が存在することとなる。これにより、顔料粒子の凝集を防止することができる。それゆえ、上記方法によれば、本発明の製造方法によるトナーの中でも、結着樹脂中での顔料粒子の分散性に優れたトナーを製造できる。
【0122】
上記カップリング剤としては、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤、シランカップリング剤等を用いることができるが、チタネート系カップリング剤が特に好ましい。
【0123】
〔実施の形態4〕
本実施形態にかかるトナーの製造方法では、実施の形態1の製造方法において、顔料前処理装置7として、粉砕媒体が内部に充填された攪拌ミルを用い、この攪拌ミルに少なくとも顔料粒子および液体溶剤を入れ、該攪拌ミルにより内容物を撹拌することで湿式粉砕処理する。
【0124】
上記方法によれば、少なくとも顔料粒子を含む被処理物を液体溶剤中に分散させた状態で、攪拌ミルによる湿式粉砕処理によって分散媒体間に生じる剪断作用や摩擦作用等により機械的な剪断力を被処理物に与え、前記顔料粒子を微粒子化して分散することができる。
【0125】
上記攪拌ミルとしては、図4に示すように、顔料粒子を含む被処理物と液体溶剤とを収容する容器16と、容器の内部に設けられた、容器16の内容物を撹拌するための回転可能な攪拌羽根17とを備える撹拌ミルを用いることができる。また、上記粉砕媒体としては、ボールやビーズを用いることができるが、ビーズを用いることがより好ましい。
【0126】
さらに、本実施形態にかかるトナーの製造方法では、少なくとも前記顔料粒子および液体溶剤を顔料前処理装置7(媒体攪拌ミル)の容器16内部に供給し、図4に示す顔料前処理装置7の容器16内部に回転可能に設けられる攪拌羽根17を、周速25m/s以上の速度で回転させて遠心力を発生し、前記顔料粒子及び液体溶剤を遠心力で容器16の内壁に押付け混合することが好ましい。
【0127】
前記湿式粉砕処理は、顔料粒子を液体溶剤中に分散させた状態で顔料粒子に対して剪断力を機械的に与えることによって顔料粒子を微粒子化するものであるため、処理時間がかかると、液体溶剤が揮発してしまうことが懸念される。
【0128】
上記方法では、容器の内部に攪拌羽根を回転可能に設けた撹拌ミル(撹拌槽型撹拌ミル等)を使用し、攪拌羽根の周速を25m/s以上にしたことで、より大きい遠心力を発生し、顔料粒子及び液体溶剤を遠心力で容器の内壁に押付け混合することができる。これにより、処理時間を短くし、効率的に前記顔料粒子を微粒子化して分散させることができる。
【0129】
本実施形態の製造方法は、実施の形態2または実施の形態3の方法と組み合わせることがより好ましい。すなわち、上記湿式粉砕処理においては、前記顔料粒子および液体溶剤と共に前記表面処理剤を顔料前処理装置7(攪拌ミル)に入れ、混合・分散させることがより好ましい。これにより、前記顔料粒子の分散性をより一層向上させることができる。また、攪拌羽根を周速25m/s以上の速度で回転させる方法においては、前記顔料粒子および液体溶剤と共に前記表面処理剤も容器16の内壁に押付け混合することができ、前記顔料粒子の分散性をより一層向上させることができる。
【0130】
〔実施の形態5〕
本実施形態にかかるトナーの製造方法は、実施の形態1と実施の形態2とを組み合わせた方法、あるいは実施の形態1と実施の形態3とを組み合わせた方法において、顔料前処理装置7にて、前記顔料粒子と前記カップリング剤または前記表面処理剤とを超臨界流体中あるいは亜臨界流体中において攪拌混合し顔料粒子を分散させた後、上記超臨界流体あるいは前記亜臨界流体を気化させると共に、分散された前記顔料粒子を反応容器9に供給する。
【0131】
上記超臨界流体あるいは前記亜臨界流体の気化は、例えば、前記顔料粒子と前記カップリング剤または前記表面処理剤とを超臨界流体中あるいは亜臨界流体中において攪拌混合して超臨界流体あるいは亜臨界流体分散液とし、この超臨界流体あるいは亜臨界流体分散液を乾燥空気中に放出して乾燥空気と接触させる方法で前処理を行うことで、容易に実現できる。
【0132】
その後は、実施の形態1と同様であり、反応容器9において、結着樹脂成分と超臨界流体中あるいは亜臨界流体中にて溶解して、上記超臨界流体中あるいは亜臨界流体中における結着樹脂成分の溶解度を低下せしめて、上記結着樹脂成分を結着樹脂成分の内部に前記顔料粒子を分散させながら粒子状に析出させる。
【0133】
実施の形態4の表面処理剤を用いた湿式粉砕処理等のような液体溶剤を用いた表面処理剤による前処理では、液体溶剤が前記表面処理剤の前記顔料粒子への輸送を容易にするが、最終的に処理した顔料粒子から液体溶剤を分離する必要がある。従って、コストのかかる面倒な液体溶剤を分離するステップが必要となる。また、表面処理剤を用いた湿式粉砕処理等のような液体溶剤を用いた表面処理剤による前処理では、前記顔料粒子が、液体溶剤中に分散した分散液の状態でカップリング剤または表面処理剤と混合され、この分散液は粘性が高くなるため、顔料粒子とカップリング剤との反応速度や、顔料粒子への表面処理剤の吸着速度が多少遅くなる。その結果、反応時間や吸着時間が長くなるため、前処理を更に面倒なものにしている。また、液体溶剤を使用することは、取扱い及び保存に関して幾つかの衛生及び安全上の問題をもたらす。また、表面処理剤を用いた湿式粉砕処理等のような液体溶剤を用いた表面処理剤による前処理では、前処理された顔料粒子から液体溶剤を除去した後でさえも、前記顔料粒子の表面状態及び形態が悪くなる場合がある。更に、前記顔料粒子が、液体溶剤との接触によって凝集を起こし、粒子サイズ及びサイズ分布を大幅に大きくすることがある。従って、トナーの表面上に適切に分散することができるさらさらした粉末の形で、前処理された顔料粒子を得るために、湿式粉砕処理等の前処理の後に、粉砕及び処理工程が必要となり、これらの設備が必要となることがある。
【0134】
これに対し、上記方法では、顔料粒子と前記カップリング剤あるいは表面処理剤とを超臨界流体中あるいは亜臨界流体中で混合することで、液体溶剤を用いることなく前記カップリング剤あるいは表面処理剤を充分に分散させて、前記カップリング剤あるいは表面処理剤の前記顔料粒子への輸送を容易にすることができる。したがって、顔料粒子とカップリング剤との反応や、顔料粒子への表面処理剤の吸着を速やかに行うことができ、前処理を高速に行うことが可能となる。
【0135】
さらに、カップリング剤あるいは表面処理剤を分散させるために使用した超臨界流体あるいは亜臨界流体は、顔料粒子と前記カップリング剤との反応(表面処理反応)あるいは顔料粒子への表面処理剤の吸着が完了した後に、前述した乾燥空気中に放出して乾燥空気と接触させる方法等により気化させることで、低コストで容易にかつ速やかに顔料前処理装置7の容器16内からほぼ完全に除去することができる。したがって、溶剤廃棄物を全く生じないか又は殆ど生じない前処理顔料粒子を低コストで容易にかつ速やかに生成することができる。また、液体溶剤によって顔料粒子が凝集したり、顔料粒子の表面状態及び形態が悪くなったりする現象も回避できる。
【0136】
【実施例】
以下、本発明について具体的な実施例および比較例に基づき説明するが、本発明は、以下の各実施例に限定されるものではない。
【0137】
〔実施例1〕
本実施例に関わるトナーの製造方法には、図1に示すトナー製造装置を用いた。反応容器9としては、容積が1000cm3のものを用いた。本実施例では、超臨界流体とするガスとして二酸化炭素(CO2)を用いた。また、エントレーナーとしては、エタノール(一般的な試薬用の市販品である)を用いた。
【0138】
まず、顔料前処理装置7において、顔料粒子としての酸性のカーボンブラック(三菱化学株式会社製、商品名:MA100、酸価3.5mgKOH/g、pH=3.5)表面に対してチタネート系カップリング剤(味の素ファインテクノ株式会社製、商品名:KR TTS)を反応させる前処理を施し、前処理されたカーボンブラックを得た。
【0139】
次いで、結着樹脂成分としてはポリエステル系樹脂(三洋化成工業株式会社製、商品名:EP208)を50g、反応容器9内に投入した。また、前処理されたカーボンブラックを2.5g(ポリエステル系樹脂の重量を100重量部とした場合に5重量部となる量)、反応容器9内に投入した。なお、常温・常圧条件下において、上記エントレーナーは、結着樹脂成分と非相溶な関係のものである。なお、前処理されたカーボンブラックの使用量は、ポリエステル系樹脂の重量を100重量部とした場合に2重量部以上30重量部以下となるように設定するとよい。
【0140】
次に、二酸化炭素ガスを、ガスボンベ1より供給し、加圧ポンプ2にて昇圧し、バルブ6を介して反応容器9に導入した。エントレーナー3であるエタノールも、加圧ポンプ4を介して反応容器9に200ml導入した。
【0141】
ここで、排出用の減圧バルブ11は閉じたままであり、高圧状態の二酸化炭素導入により、反応容器9内の圧力が上昇する。また、ヒーター10にて反応容器9内の温度を320Kに調整した。
【0142】
反応容器9内の圧力が7.3MPa以上にて、反応容器9内は超臨界状態となる。また、各バルブ5、6を調整して反応容器9内の圧力を20MPaに設定し、反応容器9内の、少なくとも結着樹脂成分を溶解させた状態に設定した。
【0143】
この状態を、例えば20分間維持した後、減圧バルブ11を開けて、反応容器9内の混合溶液をノズル12より粒子捕集箱13内に排出することで急速膨張させると、略球状に析出した結着樹脂成分中に顔料粒子がほぼ均一に分散されて含有されたトナー微粒子は粒子捕集箱13内に堆積して捕集される。
【0144】
このとき、上記混合溶液に含まれている超臨界流体としての二酸化炭素と、エントレーナーとしてのエタノールは、図示していない回収機構により二酸化炭素とエタノールとに互いに分離され、それぞれ再利用される。
【0145】
本実施例1では、常温・常圧条件下において、結着樹脂成分と非相溶なエントレーナーを使用しているため、仮に、得られたトナー微粒子の表面にエントレーナーが微量付着していても、各トナー微粒子同士の合一(つまり相互間での結合)が発生せず、微細な状態のままでトナー微粒子を得ることができる。この後、流動性等を調整するために、トナー微粒子100重量部に対し0.1重量部のシリカ(日本エアロジル株式会社製、商品名:R742)を公知の手法(例えば、乾式のミキサー等)により外添処理し、最終のトナーを得た。
【0146】
〔比較例1〕
実施例1の製造装置における顔料前処理装置7を省いた点、およびカーボンブラックをカップリング剤で前処理する工程を省いた点以外は、実施例1と同様の製造装置および方法によりトナーを製造した。
【0147】
〔実施例2〕
前記の酸性のカーボンブラックをカップリング剤で前処理するのに代えて、前記の酸性のカーボンブラック(商品名:MA100)に塩基性高分子分散剤(エフカアディティブズ(商品名:EFKA(登録商標)−4047)を吸着させる前処理を行った点以外は、前記実施例1と同様の製造装置および方法にて、トナーを作製した。
【0148】
なお、上記の塩基性高分子分散剤は、有効成分として変性ポリウレタンを34〜36重量%含み、液体溶剤として酢酸ブチル/酢酸メトキシプロピル/sec−ブタノールを含む変性ポリウレタン溶液である。
【0149】
次いで、前記塩基性高分子分散剤による前処理工程において、前記の酸性カーボンブラック(酸価3.5mgKOH/g)の投入量を5(g)とし、前記塩基性高分子分散剤(塩基価17mgKOH/g)の投入量を5(g)となるように設定した。したがって、この場合、前記不等式(1)における左辺(Y×k2)は、
5×17=85
前記式(1)における右辺(X×k1)は、
5×3.5=17.5
となり、前記不等式を満足する。
【0150】
〔実施例3〕
前記塩基性高分子分散剤による前処理工程において、前記の酸性カーボンブラック(商品名:MA100、酸価3.5mgKOH/g)の投入量を5(g)に変更し、前記塩基性高分子分散剤(商品名:EFKA(登録商標)−4047、塩基価17mgKOH/g)の投入量を1(g)に変更した点以外は、前記実施例2と同様の製造装置および方法にて、トナーを作製した。
【0151】
したがって、この場合、前記不等式(1)における左辺(Y×k2)は、
1×17=17
前記式(1)における右辺(X×k1)は、
5×3.5=17.5
となり、前記不等式を満足しない。
【0152】
〔実施例4〕
前記の酸性のカーボンブラック(商品名:MA100、pH=3.5)6gに前記の塩基性高分子分散剤(商品名:EFKA(登録商標)−4047)6gを吸着させて、吸着後のカーボンブラックのpHが8となるように設定した点以外は、前記実施例3と同様の製造装置および方法にて、トナーを作製した。
【0153】
〔実施例5〕
前記の酸性のカーボンブラック(商品名:MA100、pH=3.5)6gに前記の酸性高分子分散剤(商品名:マリアリムAAB−0851)4gを吸着させて、吸着後のカーボンブラックのpHが1となるように設定した点以外は、前記実施例3と同様の製造装置および方法にて、トナーを作製した。
【0154】
〔実施例6〕
前記の酸性のカーボンブラック(商品名:MA100、pH=3.5)6gに前記の酸性高分子分散剤(商品名:マリアリムAAB−0851)6gを吸着させて、吸着後のカーボンブラックのpHが0.5となるように設定した点以外は、前記実施例3と同様の製造装置および方法にて、トナーを作製した。
【0155】
〔実施例7〕
前記の酸性のカーボンブラック(商品名:MA100、pH=3.5)6gに前記の塩基性高分子分散剤(商品名:EFKA(登録商標)−4047)8gを吸着させて、吸着後のカーボンブラックのpHが10となるように設定した点以外は、前記実施例3と同様の製造装置および方法にて、トナーを作製した。
【0156】
〔実施例8〕
前記の酸性のカーボンブラック(商品名:MA100、pH=3.5)8gに前記の塩基性高分子分散剤(商品名:EFKA(登録商標)−4047)10gを吸着させて、吸着後のカーボンブラックのpHが11となるように設定した点以外は、前記実施例3と同様の製造装置および方法にて、トナーを作製した。
【0157】
〔実施例9〕
顔料前処理装置7として、容器16の内部に粉砕媒体としてのビーズが充填され、かつ、攪拌羽根17が回転可能に設けられた攪拌ミル(図4参照)を用い、該攪拌ミルにより顔料粒子を湿式粉砕処理した。
【0158】
本実施例では、顔料粒子としての前記の酸性のカーボンブラック(商品名:MA100)6g、前記の塩基性高分子分散剤(商品名:EFKA(登録商標)−4047)6g、及び液体溶剤としてのトルエン 40mlを容器16内に入れ、攪拌羽根17を、周速30m/sの速度で回転させて遠心力を発生し、カーボンブラック、塩基性高分子分散剤、および液体溶剤を遠心力で容器16の内壁に押付け混合することによって、前処理されたカーボンブラックを得た。その後は、前述の実施例1と同様に操作してトナーを作製した。
【0159】
〔実施例10〕
攪拌羽根17の周速10m/sに変更する点以外は実施例9と同様にして、前記カーボンブラック、前記塩基性高分子分散剤、及び溶剤を遠心力で反応容器の内壁に押付け混合することによって、トナーを作製した。
【0160】
こうして実施例1〜10および比較例1で作製されたトナーは、顔料粒子の含有量が高く、かつ、顔料粒子の分散性が優れていることから、少量でも所望の印字濃度が得られ、所定の印字枚数を得るのに必要なトナー量も、超臨界法以外の従来公知の方法(例えば公知の溶融混練粉砕法)で作製されたトナーに比べ、数分の1で済み、トナー交換サイクルを短くすることなく、使い勝手の良い、小型の画像形成装置を提供することができた。
【0161】
超臨界法以外の従来公知の方法(例えば公知の溶融混練粉砕法)で、実施例1〜10および比較例1のような高濃度の顔料粒子を含有させて作製したトナーの場合、画像品位としては地カブリの発生や、使用環境によりトナー帯電量の不安定さが増し、良好な画像形成装置が阻害される。また、超臨界法以外の従来公知の方法(例えば公知の溶融混練粉砕法)では、長期使用によりトナー粒子が粉砕して微紛が発生したり、粒径分布が変化し、画像品位が劣化するという不具合を生じる。しかしながら、実施例1〜10および比較例1の製造方法(超臨界法)により作製されたトナーでは、上記のような不具合を防止でき、良好な画像形成が安定して得られた。
【0162】
実施例1〜10および比較例1で作成した各トナー4質量部に対し、平均粒径80μmのフェライトキャリア100質量部を配合し、トナー濃度4%の二成分現像剤を作成した。得られた現像剤を、電子写真複写機(型番「AR−450M」、シャープ(株)製)によって、初期および原稿濃度6%の原稿を10000枚連続複写したのちに、50mm×50mmのべた画像の画像出力を行い、その画像部および非画像部の濃度を濃度計(型番「RD−918」、マクベス社製)にて測定を行った。また、上記初期および10000枚連続複写した後の現像剤を電子写真複写機の現像器内よりサンプリングし、その帯電量をブローオフ法によって測定した。さらに、帯電安定性とは初期および10000枚連続複写後における帯電量の変化率の少なさを示した。
【0163】
画像濃度については、1.4以上を「◎」(極めて良好)、1.2以上1.4未満「○」(良好)、1.2未満を「×」(不良)として3段階で評価した。また、カブリについても、0.8未満を「◎」(極めて良好)、0.8以上1.2未満を「○」(良好)、1.2以上を「×」(不良)として3段階で評価した。さらに、帯電安定性については、1万枚目の帯電量が初期の帯電量の80%以上100%以下の場合を「◎」(極めて良好)、80%未満60%以上を「○」(良好)、60%未満を「×」(不良)とし、3段階で評価した。
【0164】
トナーの製造方法と画像品位との関係を表1にまとめた。
【0165】
【表1】
【0166】
表1に示すように、顔料粒子を前処理した実施例1の方が、顔料粒子を前処理しなかった比較例1と比較して、画像濃度、カブリ、帯電安定性について極めて良好であった。
【0167】
顔料粒子の酸価及び表面処理剤の塩基価と画像品位との関係を表2にまとめた。
【0168】
【表2】
【0169】
表2に示すように、実施例3に比べて実施例2で作成したトナーのほうが画像濃度、カブリ、帯電安定性について極めて良好であった。
【0170】
前処理後のカーボンブラックのpHと画像品位との関係を表3にまとめた。
【0171】
【表3】
【0172】
表3に示すように、前処理後のカーボンブラックのpHが1より大きく7未満の場合(実施例4)、画像濃度、カブリ、帯電安定性の全てについて極めて良好であった。
【0173】
攪拌羽根の周速と画像品位との関係を表4にまとめた。
【0174】
【表4】
【0175】
表4に示すように、攪拌羽根の周速を10m/sで行って作成した実施例10のトナーよりも、攪拌羽根の周速を30m/sで行って作成した実施例9のトナーの方が、画像濃度、カブリ、帯電安定性の全てについて優れていた。
【0176】
【発明の効果】
以上のように、本発明のトナーの製造方法は、結着樹脂成分を、超臨界流体中あるいは亜臨界流体中にて溶解して、顔料粒子と混合する混合工程と、上記混合工程の後に、上記超臨界流体中あるいは亜臨界流体中における結着樹脂成分の溶解度を低下せしめて、上記結着樹脂成分の内部に顔料粒子を分散させながら結着樹脂成分を顔料粒子上に析出させる析出工程とを含むトナーの製造方法において、上記混合工程の前に、顔料粒子に対して、顔料粒子の分散性を向上させる処理を施す前処理工程を含む方法である。
【0177】
上記方法によれば、結着樹脂成分が溶解した超臨界流体中あるいは亜臨界流体中における前記顔料粒子の分散性が向上する。また、超臨界中において、顔料粒子同士の凝集の低減及び顔料粒子と超臨界流体との相溶性が向上し、顔料粒子の均一な分散が可能となる。その結果、より一層均一な組成を有するトナーを製造することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るトナーの製造方法に用いるトナー製造装置の一例を示す模式図である。
【図2】本発明の製造方法により製造したトナーと粉砕法により製造したトナーとの粒径分布の比較を示すグラフである。
【図3】本発明の実施の一例(実施例3)に係る製造方法により製造したトナーと粉砕法により製造したトナーとをTEM観察した結果を示す概略図であって、(a)は粉砕法により製造したトナーの場合、(b)は本発明の実施の一例に係る製造方法(超臨界法)により製造したトナーの場合を示す。
【図4】本発明に係るトナーの製造方法に用いる顔料前処理装置の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
1 ガスボンベ
2 加圧ポンプ
3 エントレーナー
4 加圧ポンプ
5・6 バルブ
7 顔料前処理装置
8 処理バルブ
9 反応容器
10 ヒーター
11 減圧バルブ
12 ノズル
13 粒子捕集箱
14 温度計
15 圧力計
16 容器
17 攪拌羽根
18 ワックス成分
19 結着樹脂
20 顔料粒子
【発明が属する技術分野】
本発明は、電子写真プロセスやイオンフロー方式により、像担持体上に形成された静電潜像を現像するためのトナーの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
レーザープリンター、LED(Light Emitting Diode)プリンターやデジタル複写機の電子写真方式を用いた画像形成装置は、感光体表面を一様に帯電させ、画像情報に対してレーザービームやLED等により光照射して所望の静電潜像を形成し、現像部により、この静電潜像をトナー(現像剤)によって可視化して可視画像を形成し、これを記録材に固定して画像を得るものである。
【0003】
近年、画像形成装置に対する小型化の要求はますます高まってきている。電子写真方式の画像形成装置においては、小型化を達成する上で、画像形成装置中におけるトナーの占める割合がかなり大きい。特に、近年のネットワーク環境においては、複数の人間が1台の画像形成装置を使用し、その印字量も膨大であるため、使用者の使い勝手の良さを配慮した場合、トナーを大容量にて内蔵する必要がある。
【0004】
近年、カラー画像出力に対する要求も増加しており、カラー画像形成装置では、3色または4色のトナーを使用するため、トナーの占める容積は画像形成装置中において、より大きなものとなる。更には、カラー画像の場合、多色の重ね合わせにより色再現を行うが、このとき、記録材(例えば紙やOHP(OverHead Projector)シート等)上のトナー量が多くなり、これを熱定着させる場合、モノクロ画像に比べて、多量の熱量を必要とするため、定着部の大型化が必要となる。
【0005】
また、トナーの製造方法については、より省エネルギーで、環境に対する影響の小さい手法が要求されている。現在のトナーの製造方法としては、従来からの溶融混練粉砕法や、近年では液体溶媒中での重合法(懸濁法、乳化法、分散法、等)によるものが主流である。
【0006】
例えば、乾式現像法に用いられるトナーは熱可塑性樹脂(結着樹脂)、顔料(着色剤)、離型剤などを主成分とし、これに必要に応じて、磁性粉、帯電荷制御剤、流動性向上剤などを添加して製造される。そして、これらのトナーの製造方法としては、特許文献1に代表されるように、原料を全て一度に混合して混練機などにより加熱、溶融、分散を行い均一な組成物とした後、これを冷却して、粉砕、分級することにより体積平均粒径10μm程度のトナーを製造する方法が一般的に採用されている。
【0007】
特にカラー画像の形成に用いられる電子写真用カラートナーは、一般に、結着樹脂中に各種の有彩色顔料を分散含有させて構成される。この場合、使用するトナーに要求される性能は、黒色画像を得る場合に比べ厳しいものとなる。即ち、トナーとしては、衝撃や湿度等の外的要因に対する機械的電気的安定性に加え、適正な色彩の発現(着色度)やオーバーヘッドプロジェクター(OHP)に用いたときの光透過性(透明性)が必要となる。
【0008】
着色剤として有彩色顔料を用いるものとしては、特許文献2や特許文献3に記載のものがある。
【0009】
しかしながら、上記従来の顔料系のカラートナーは、耐光性については優れているものの、反面、結着樹脂に対する顔料の分散性が悪いため、着色度(発色性)や透明性が劣るという問題がある。
【0010】
結着樹脂に対する顔料の分散性を向上するための顔料の前処理方法としては、以下の方法が提案されている。
【0011】
(1)バインダー樹脂としてポリエステル樹脂(樹脂A)を用い、当該樹脂Aよりも高い分子量のポリエステル樹脂(樹脂B)により顔料をあらかじめ被覆し、この被覆された顔料を樹脂A中に分散させてカラートナーを得る技術(特許文献4参照)。
【0012】
(2)樹脂と樹脂とを溶融混練して得られる加工顔料が結着樹脂中に分散含有されてなり、前記顔料用樹脂の重量平均分子量が前記結着樹脂の重量平均分子量よりも小さく、前記結着樹脂の重量平均分子量が10万以上であるカラートナー(特許文献5参照)。
【0013】
(3)結着樹脂と顔料との混合物をあらかじめ有機溶剤と共に結着樹脂の溶融温度よりも低い温度で1段目の混練を行い、さらに結着樹脂、帯電制御剤を加えて2段目の加熱溶融混練してカラートナーを得る技術(特許文献6参照)。
【0014】
(4)トナーに用いられる顔料において、トナーの主構成成分である結着樹脂よりも融点が低く、かつ溶融粘度の小さな低分子物質を顔料に吸油(吸収)させる顔料の前処理方法およびそれを用いたトナーの製造方法(特許文献7参照)。
【0015】
しかしながら、前記特許文献4〜7記載のトナーの製造方法でも、いずれも十分な顔料の分散は得られず、着色度、透明性が劣っているのが現状である。
【0016】
さらに、モノクロ用の黒トナーにおいては、黒色着色剤としてカーボンブラック7〜15重量%用いるのが通常であり、その製造方法は、混練前にカーボンの粉体を他の原材料と混合した後、溶融混練する方法が一般的である。黒トナーはカラートナーと違い、透明性は要求されないため、着色度を上げるためにはカーボン量を増加するという方法が採用される。しかしながら、この導電性のカーボンを増加することは、トナーの体積固有抵抗値を低下することになるため、帯電量の安定上好ましくない。したがって、カーボンブラックを十分に分散させて、トナーの体積固有抵抗値を高くする必要がある。
【0017】
カーボンブラックの分散性を向上させる方法としては、前記カラートナーのような2段混練はコスト高になるため行われず、(5)混練時の処理量を下げる方法が一般的であるが、その他、(6)混練時の樹脂温度を下げる方法や、(7)混練後の圧廷冷却方法を規定するものが提案されている。しかしながら、(5)、(6)、(7)は、いずれも処理量が少なくなるためコストが高くなるという問題がある。
【0018】
また、カーボンブラックの分散性を向上させる処理剤としては、カーボンブラックの再凝集を防ぐ高分子分散剤や、有機媒体中へのカーボンブラックの分散を向上させるアルミネート系カップリング剤等が用いられている。しかしながら、これらの処理剤を用いて前処理したカーボンブラックを用いてトナーを製造しても、十分な顔料の分散は得られず、着色度、透明性が劣っているのが現状である。
【0019】
超臨界流体は、近年、物質の分離・抽出・精製等の分野で盛んに研究がされている。例として、コーヒーにおけるカフェイン抽出や、廃棄物の分離・抽出等が挙げられる。
【0020】
また、超臨界流体中に、所望の物質を溶解し、急速膨張〔RESS(Rapid Expansion of Supercritical Solution)法〕させたり、貧溶媒や界面活性剤を添加したりすることで、超臨界流体中における溶質分の溶解度が大幅に低下し、この作用によって溶解していた物質が析出することを利用した微粒子の作製等も行われている。
【0021】
超臨界流体を用いて、微粒子を作製する方法としては、例えば、特許文献8や非特許文献1に記載されている技術がある。特許文献8に記載の方法は、あくまでトナーに外添される微粒子の製造方法に関するものであり、トナー自身の製造方法については、何ら記載されていない。
【0022】
特許文献9には、超臨界流体あるいは亜臨界流体を利用して、トナー中の着色剤(カーボンブラックや有彩色顔料)の含有量を増加しつつ、その分散性を維持し、少量のトナーで所望の画像品位を達成できると共に、省エネルギー化も達成できるトナー及びその製造する技術が開示されている。
【0023】
【特許文献1】
特開平1−304467号公報
【0024】
【特許文献2】
特開昭49−46951号公報
【0025】
【特許文献3】
特開昭52−17023号公報
【0026】
【特許文献4】
特開昭62−280755号公報(公開日:1987年12月5日)
【0027】
【特許文献5】
特開平2−66561号公報(公開日:1990年3月6日)
【0028】
【特許文献6】
特開平9−101632号公報(公開日:1997年4月15日)
【0029】
【特許文献7】
特開2000−81736号公報(公開日:2000年3月21日)
【0030】
【特許文献8】
特開平10−133417号公報(公開日:1998年5月22日)
【0031】
【特許文献9】
特開2001−312098号公報(公開日:2001年11月9日)
【0032】
【非特許文献1】
新井邦夫、「超臨界流体の材料への応用」、ニューセラミックス、No. 1,1995年、p.7〜13
【0033】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献9に開示されている技術は、トナー中の着色剤の分散性を一次粒子レベルまで高分散させることは難しかった。
【0034】
本発明は、上記従来の問題に鑑みなされたものであり、その目的は、超臨界流体あるいは亜臨界流体を利用したトナーの製造方法において、トナー中に顔料粒子を高分散させることができるトナーの製造方法を提供することにある。
【0035】
【課題を解決するための手段】
本発明のトナーの製造方法は、上記の課題を解決するために、結着樹脂成分を、超臨界流体中あるいは亜臨界流体中にて溶解して、顔料粒子と混合する混合工程と、上記混合工程の後に、上記超臨界流体中あるいは亜臨界流体中における結着樹脂成分の溶解度を低下せしめて、上記結着樹脂成分の内部に顔料粒子を分散させながら結着樹脂成分を顔料粒子上に析出させる析出工程とを含むトナーの製造方法において、上記混合工程の前に、顔料粒子に対して、顔料粒子の分散性を向上させる処理を施す前処理工程を含むことを特徴としている。
【0036】
上記方法によれば、前記特許文献9に記載のトナーの製造方法と同様に、顔料粒子上に結着樹脂成分を粒子状に析出させることで、粒子状に析出した結着樹脂成分内に顔料粒子が分散したトナーを作製することができる。
【0037】
ここで、前記特許文献9に記載のトナーの製造方法、すなわち顔料粒子の分散性を向上させる処理(前処理)を施していない顔料粒子を用いる方法では、トナー内の顔料粒子の分散性が低く、組成の均一でないトナーが生成することがある。例えば、一部のトナー粒子が、過剰の顔料粒子を含有し、他のトナー粒子中における顔料粒子の含有量が少なすぎることがある。よって、顔料粒子の分散性を向上させる技術を使用する必要が生じる。
【0038】
本発明の製造方法によれば、以下のような作用・効果が生まれる。
即ち、本発明の製造方法によれば、上記混合工程の前に、顔料粒子に対して、顔料粒子の分散性を向上させる処理(前処理)を施すことで、結着樹脂成分が溶解した超臨界流体中あるいは亜臨界流体中における前記顔料粒子の分散性が向上する。その結果、より一層均一な組成(顔料粒子の含有量等)を有し、顔料粒子の含有率が高いトナーを製造することができる。
【0039】
さらに、本発明の製造方法によれば、顔料粒子の前処理と超臨界法によるトナーの製造法との組み合わせにより、超臨界中において、顔料粒子を前処理していないものと比較して、顔料同士の凝集の低減及び顔料と超臨界流体との相溶性が向上し、粒子粒子の均一な分散が可能となる。
【0040】
前記前処理工程では、カップリング剤を前記顔料粒子表面に反応させることが好ましい。
【0041】
上記方法によれば、カップリング剤を前記顔料粒子表面に反応させることで、前記顔料粒子表面に低い表面活性を持つ疎水性の有機基が存在することとなる。これにより、顔料粒子の凝集を防止することができる。それゆえ、上記方法によれば、本発明の製造方法によるトナーの中でも、結着樹脂中での顔料粒子の分散性に優れたトナーを製造できる。
【0042】
なお、カップリング剤とは、無機物の表面に化学的に結合する反応性基と、疎水性の有機基とを有し、無機物の表面と反応して無機物表面を疎水化できる物質である。
【0043】
また、前記前処理工程では、前記顔料粒子に対して、顔料粒子の表面活性を下げる表面処理剤を吸着させることも好ましい。
【0044】
上記方法によれば、顔料粒子表面の活性を下げる表面処理剤を前記顔料粒子に吸着させることで、前記顔料粒子表面に、低い表面活性(小さい表面張力)を持つ表面処理剤層(吸着層)が形成される。これにより、立体障害が生まれ、顔料粒子の凝集が防止されるので、前記顔料粒子の分散単位を小さくすることができる。それゆえ、上記方法によれば、本発明の製造方法によるトナーの中でも、結着樹脂中での顔料粒子の分散性に優れたトナーを製造できる。
【0045】
表面処理剤を用いる場合、(1)前記顔料粒子として酸性顔料粒子を用い、前記前処理工程では、上記酸性顔料粒子を塩基性表面処理剤で処理するか、(2)前記顔料粒子として塩基性顔料粒子を用い、前記前処理工程では、上記塩基性顔料粒子を酸性表面処理剤で処理することが好ましい。
【0046】
上記(1)の方法によれば、前記酸性顔料粒子と前記塩基性表面処理剤との間に酸−塩基反応を生起させることで、前記酸性顔料粒子表面に前記塩基性表面処理剤が強固に、そして均一に分散した状態となり、したがって、前記塩基性表面処理剤が、剥がれ難く、高い安定性を持つ。それによって、前記酸性顔料粒子の表面活性をより一層下げ、超臨界流体あるいは亜臨界流体中への前記酸性顔料粒子の分散能もより一層向上させることができ、より一層安定な分散を実現することができる。
【0047】
上記(2)の方法によれば、前記塩基性顔料粒子と前記酸性表面処理剤との間に酸−塩基反応を生起させることで、前記塩基性顔料粒子表面に前記酸性表面処理剤が強固に、そして均一に分散した状態となり、したがって、前記酸性表面処理剤が、剥がれ難く、高い安定性を持つ。それによって、前記塩基性顔料粒子の表面活性をより一層下げ、超臨界流体あるいは亜臨界流体中への前記塩基性顔料粒子の分散能もより一層向上させることができ、より一層安定な分散を実現することができる。
【0048】
また、上記(1)(2)の方法によれば、一次粒子の細かい顔料粒子をできるだけ弱い分散力で短い時間で超臨界流体あるいは亜臨界流体中に分散させることができるので、トナーに加わる衝撃も緩和できる。その結果、製造装置内の分散媒体などの磨耗を防ぐことができると共に、トナーの物性(帯電安定性等)を向上させることができる。
【0049】
また、前記表面処理剤による前処理工程においては、前記顔料粒子の酸価あるいは塩基価をk1(mgKOH/g)、前記顔料粒子の使用量をX(g)とし、前記表面処理剤の塩基価あるいは酸価をk2(mgKOH/g)、前記表面処理剤の使用量をY(g)としたとき、
Y×k2>X×k1 …(1)
の関係を満たすように、前記表面処理剤を使用することが好ましい。
【0050】
表面処理剤の吸着層では、その密度(あるいは被覆率)が疎の場合と密の場合とがある。上記不等式を満たさない場合、表面処理剤の吸着層が疎となるため、前記表面処理剤が接近しても一方の前記顔料粒子上の前記表面処理剤は妨害を受けずに他方の顔料粒子表面の裸の部分に近づき、この部分に吸着する。こうして、前記表面処理剤が二つの粒子に橋架けする橋架け凝集を起こす。
【0051】
これに対し、上記方法では、上記不等式を満たすように条件設定を行うことにより、表面処理剤の吸着層が密となる。密な吸着層をもった二つの粒子が接近すると、ループの先の方(表面処理剤の分子の先端部)が絡まり始める。そこでは、前記表面処理剤のセグメント濃度が高まり、浸透圧が上昇して反発力を生じ、顔料粒子の分散を助けることができる。
【0052】
本発明の製造方法では、前記顔料粒子としてカーボンブラックを用い、前記前処理工程では、前処理後のカーボンブラックのpHが4より大きく10未満となるようにカーボンブラックに処理を施すことが好ましい。
【0053】
前処理後のカーボンブラックのpHが4以下か、あるいは10以上であるときには、製造されるトナーは、十分に帯電させることができないものとなる。そのため、製造されるトナーが正帯電トナーである場合には正帯電トナー中に負帯電トナーが発生し易くなり、製造されるトナーが負帯電トナーである場合には負帯電トナー中に正帯電トナーが発生しやすくなる。そのため、製造されるトナーは、画像形成時に、カブリ、トナー飛散、画像濃度の低下等の問題を生じるものとなる。
【0054】
これに対し、上記方法では、前処理後のカーボンブラックのpHが4より大きく10未満となるようにすることにより、十分に帯電できるトナーを製造することができる。その結果、製造されるトナーは、画像形成時における、カブリ、トナー飛散、画像濃度の低下等の問題を解決することができる。
【0055】
前記前処理工程では、少なくとも顔料粒子および液体溶剤を、粉砕媒体が内部に充填された攪拌ミルに入れ、該攪拌ミルにより内容物を撹拌することで湿式粉砕処理してもよい。
【0056】
上記方法によれば、少なくとも顔料粒子を含む(カップリング剤や表面処理剤を含んでいてもよい)被処理物を液体溶剤中に分散させた状態で、攪拌ミルによる湿式粉砕処理によって分散媒体間に生じる剪断作用や摩擦作用等により機械的な剪断力を被処理物に与え、前記顔料粒子を微粒子化して分散することができる。
【0057】
上記湿式粉砕処理では、容器の内部に攪拌羽根を回転可能に設けた撹拌ミルを使用し、上記容器の内部に少なくとも前記顔料粒子および液体溶剤を供給し、上記攪拌羽根を周速25m/s以上の速度で回転させることが好ましい。
【0058】
前記湿式粉砕処理は、顔料粒子を液体溶剤中に分散させた状態で顔料粒子に対して剪断力を機械的に与えることによって顔料粒子を微粒子化するものであるため、処理時間がかかると、液体溶剤が揮発してしまうことが懸念される。
【0059】
上記方法では、容器の内部に攪拌羽根を回転可能に設けた撹拌ミル(撹拌槽型撹拌ミル等)を使用し、攪拌羽根の周速を25m/s以上にしたことで、より大きい遠心力を発生し、顔料粒子及び液体溶剤を遠心力で容器の内壁に押付け混合することができる。これにより、処理時間を短くし、効率的に前記顔料粒子を微粒子化して分散させることができる。
【0060】
また、カップリング剤または表面処理剤を用いる前記前処理工程では、顔料粒子と前記カップリング剤または表面処理剤とを超臨界流中あるいは亜臨界流体中で混合した後、上記超臨界流体あるいは上記亜臨界流体を気化させることが好ましい。
【0061】
表面処理剤を用いた湿式粉砕処理等のような液体溶剤を用いた表面処理剤による前処理では、液体溶剤が前記表面処理剤の前記顔料粒子への輸送を容易にするが、最終的に処理した顔料粒子から液体溶剤を分離する必要がある。従って、コストのかかる面倒な液体溶剤を分離するステップが必要となる。また、表面処理剤を用いた湿式粉砕処理等のような液体溶剤を用いた表面処理剤による前処理では、前記顔料粒子が、液体溶剤中に分散した分散液の状態でカップリング剤または表面処理剤と混合され、この分散液は粘性が高くなるため、顔料粒子とカップリング剤との反応速度や、顔料粒子への表面処理剤の吸着速度が多少遅くなる。その結果、反応時間や吸着時間が長くなるため、前処理を更に面倒なものにしている。また、液体溶剤を使用することは、取扱い及び保存に関して幾つかの衛生及び安全上の問題をもたらす。また、表面処理剤を用いた湿式粉砕処理等のような液体溶剤を用いた表面処理剤による前処理では、前処理された顔料粒子から液体溶剤を除去した後でさえも、前記顔料粒子の表面状態及び形態が悪くなる場合がある。更に、前記顔料粒子が、液体溶剤との接触によって凝集を起こし、粒子サイズ及びサイズ分布を大幅に大きくすることがある。従って、トナーの表面上に適切に分散することができるさらさらした粉末の形で、前処理された顔料粒子を得るために、湿式粉砕処理等の前処理の後に、粉砕及び処理工程が必要となり、これらの設備が必要となることがある。
【0062】
これに対し、上記方法では、顔料粒子と前記カップリング剤あるいは表面処理剤とを超臨界流体中あるいは亜臨界流体中で混合することで、液体溶剤を用いることなく前記カップリング剤あるいは表面処理剤を充分に分散させて、前記カップリング剤あるいは表面処理剤の前記顔料粒子への輸送を容易にすることができる。したがって、顔料粒子とカップリング剤との反応や、顔料粒子への表面処理剤の吸着を速やかに行うことができ、前処理を高速に行うことが可能となる。
【0063】
さらに、カップリング剤あるいは表面処理剤を分散させるために使用した超臨界流体あるいは亜臨界流体は、顔料粒子と前記カップリング剤との反応(表面処理反応)あるいは顔料粒子への表面処理剤の吸着が完了した後に、乾燥空気中に放出する等の操作により気化させることで、低コストで容易にかつ速やかにほぼ完全に除去することができる。したがって、溶剤廃棄物を全く生じないか又は殆ど生じない前処理顔料粒子を低コストで容易にかつ速やかに生成することができる。また、液体溶剤によって顔料粒子が凝集したり、顔料粒子の表面状態及び形態が悪くなったりする現象も回避できる。
【0064】
【発明の実施の形態】
〔基本形態〕
まず、本発明に係るトナーの製造方法の基本形態について説明する。
本発明の製造方法は、結着樹脂成分を、超臨界流体中あるいは亜臨界流体中にて溶解して、顔料粒子と混合し、上記超臨界流体中あるいは亜臨界流体中における結着樹脂成分の溶解度を低下せしめて、上記結着樹脂成分の内部に顔料粒子を分散させながら結着樹脂成分を粒子状に顔料粒子上に析出させる方法である。
【0065】
物質の温度・圧力をある一定条件(臨界点)以上に設定すると、気相と液相とでの密度が等しい状態の流体となる。この臨界点以上の温度・圧力下での流体が超臨界流体(超臨界ガス)と呼ばれている。すなわち、超臨界流体は、臨界温度、臨界圧力を超えた状態のガスである。また、超臨界点未満であっても、臨界点に近い条件でも超臨界流体に近い状態となり、このような流体を亜臨界流体と呼ぶ。
【0066】
超臨界流体あるいは亜臨界流体(以下の記載では、特に断らないかぎり、「超臨界流体」は亜臨界流体も含むものとする)中では、気体の性質と液体の性質が共に現れる。例えば、密度は液体に近く(気体の数100倍程度)、粘度は気体に近く(液体の1/10ないし1/100程度)、拡散係数も液体の1/10ないし1/100程度、熱伝導度は液体に近い(気体の100倍程度)とすることができる。
【0067】
超臨界流体は、一般的に非常に物を溶かす力が大きく、温度・圧力の変化により物質の溶解力を大幅に変化させることができる性質を有している。これは、反応溶媒や抽出溶媒としては非常に優れたものである。
【0068】
本願発明者らは、超臨界流体に関する前述のような性質に着目し、これをトナー作製への適用を種々試み、本発明を見出した。すなわち、前述したようにトナーを用いる電子写真方式の画像形成装置における小型化を達成するのに、トナーの着色力を高めることが重要である。この場合に、トナー中の顔料粒子の量を増加させる際に顔料粒子の分散性を向上させなければならない。
【0069】
ここで、結着樹脂成分を、超臨界流体中あるいは亜臨界流体中にて溶解して、前処理された顔料粒子と混合する(混合工程)。前処理された顔料粒子と結着樹脂成分とを超臨界流体中に混合する。これにより、超臨界流体の特徴である物質を良く溶かす性質、および、大きな拡散係数と、前処理された顔料粒子の優れた分散性とにより、溶解した結着樹脂成分およびこれに混合した顔料粒子が、上記の顔料粒子の凝集を防止しながら、均一に分散する。この作用により、顔料粒子は、超臨界流体中において良好な分散状態となる。
【0070】
この混合工程の後、上記超臨界流体中における結着樹脂成分の溶解度を低下させ、上記結着樹脂成分の内部に顔料粒子を分散させながら、溶解していた結着樹脂成分を顔料粒子上に析出させる(析出工程)。このとき、RESS法等の方法によって、超臨界流体中における結着樹脂成分の溶解度を急速に低下させると、溶解していた結着樹脂成分が微粒子状となって析出する。この際、超臨界流体中で顔料粒子が良好な分散状態となるため、結着樹脂成分の微粒子中に顔料粒子が均一に分散された状態で、微粒子状のトナーを得ることができる。
【0071】
上記超臨界流体として使用可能な物質としては、例えば、二酸化炭素(CO2)、N2、CH4、C2H6、CF3H、NH3 、CF3Cl、CH3OH、C2H5OH、H2O等が挙げられる。これらのうち、二酸化炭素(CO2)が、常温に近い臨界温度(31℃)を有し、かつ、無極性、不燃性、無害、安全、安価などの利点を有することから、特に好ましい。
【0072】
上記結着樹脂成分としては、トナーに用いられる樹脂であれば特に限定されないが、例えば、ポリスチレン、スチレン/ブタジエン共重合体、スチレン/アクリル共重合体(スチレンとアクリル酸誘導体との共重合体)などのスチレン系樹脂や、ポリエチレン、ポリエチレン/酢酸ビニル共重合体、ポリエチレン/ビニルアルコール共重合体などのエチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系樹脂、また、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、アリルフタレート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、マレイン酸系樹脂等を用いることができる。上記結着樹脂成分の重量平均分子量は、103以上106以下の範囲内が望ましい。
【0073】
また、上記結着樹脂成分には、離型剤としてワックス成分を添加してもよい。上記ワックス成分としては、ポリエチレンワックス(低分子量ポリエチレン)、ポリプロピレンワックス(低分子量ポリプロピレン)等を用いることができる。
【0074】
上記顔料粒子としては、有機顔料粒子や無機顔料粒子が含まれる。上記顔料粒子は、無彩色の顔料粒子でもよく、有彩色の顔料粒子でもよい。また、無彩色の顔料粒子としては、例えば、カーボンブラックが挙げられる。また、有彩色の顔料粒子としては、例えば、アニリンブルー、カルコオイルブルー、クロームイエロー、ウルトラマリンイエロー、メチレンブルー、デュポンオイルレッド、キノリンイエロー、メチレンブルークロライド、フタロシアニンブルー、ローズベンガル、ジスアゾイエロー、カーミン6B、キナクリドン系顔料等が挙げられる。上記顔料粒子の粒子径(1次粒子)は、40nm〜400nm、好ましくは、100nm〜200nmである。
【0075】
なお、上記混合工程における混合方法については、特に限定されるものではないが、例えば、前処理された顔料粒子と結着樹脂成分とを反応容器中にて超臨界流体中に混合すればよい。また、上記析出工程で超臨界流体中における結着樹脂成分の溶解度を低下させる方法としては、反応容器内の超臨界流体を減圧する方法が好適である。
【0076】
また、超臨界流体に混合する上記の結着樹脂成分や前処理された顔料粒子に加え、超臨界流体と溶質(結着樹脂成分)との間との親和力を高め、超臨界流体に対する溶質(結着樹脂成分)の溶解度を向上させるために、エントレーナー(添加助剤)を超臨界流体に加えてもよい。
【0077】
上記エントレーナー(添加助剤)としては、超臨界流体として使用する物質と、超臨界流体に溶解させる溶質(結着樹脂成分)との組み合わせにもよるが、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等)や、ケトン類(メチルエチルケトン、アセトン、シクロヘキサノン等)や、エーテル類(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等)、炭化水素類(トルエン、ベンゼン、シクロヘキサン等)や、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルアセテート、アルキルカルボン酸エステル等)や、ハロゲン化炭化水素類(クロロベンゼン、ジクロロメタン等)や、水、アンモニア等が挙げられる。ただし、水やアンモニアをエントレーナーとして用いる場合は、水、アンモニアを超臨界流体として用いないときである。
【0078】
本発明の製造方法は、上述した製造方法において、溶解した結着樹脂成分を顔料粒子と混合する混合工程の前に、顔料粒子に対して、顔料粒子の分散性を向上させる処理を施す前処理工程を含むことを特徴としている。
【0079】
顔料粒子の分散性を向上させる処理としては、顔料粒子表面の性質を改良する表面改質処理、少なくとも顔料粒子および液体溶剤を、粉砕媒体が内部に充填された攪拌ミルに入れ、該攪拌ミルにより内容物を撹拌することで顔料粒子を湿式粉砕する湿式粉砕処理等が挙げられるが、少なくとも表面改質処理を顔料粒子に施すことがより好ましい。
【0080】
上記表面改質処理は、顔料粒子表面層の物理的性質および化学的性質の少なくとも一方を改良できる処理であればよく、例えば、カップリング剤を顔料粒子表面に反応させる処理等の顔料粒子表面層の化学的性質を改良する処理;顔料粒子表面の活性を下げる表面処理剤(分散剤)を顔料粒子に吸着させることによって分散性を上げる処理、親油物質の安定なO/W(oil/water;水中油型)エマルジョンにより処理することで粒子表面に親油層を設け親油化させる処理、顔料粒子表面への樹脂皮膜形成などの顔料粒子表面層の物理的性質を改良する処理などがある。また、これら処理の複数を組み合わせてもよい。例えば、カップリング剤で処理した後、親油物質の安定なO/Wエマルジョンで処理することで粒子表面に親油層を設け、親油化させる処理を行ってもよい。
【0081】
上記表面改質処理としては、カップリング剤を顔料粒子表面に反応させる表面処理、および顔料粒子表面の活性を下げる表面処理剤を顔料粒子に吸着させる処理が特に好適であり、この中でも、表面処理剤を吸着させる前処理を施した顔料粒子が、結着樹脂中での分散性に最も優れている。なお、湿式粉砕処理については、後段で述べる。
【0082】
以上のように、本発明のトナーの製造方法は、結着樹脂成分を、超臨界流体中あるいは亜臨界流体中にて溶解して、顔料粒子と混合する混合工程と、上記混合工程の後に、上記超臨界流体中あるいは亜臨界流体中における結着樹脂成分の溶解度を低下せしめて、上記結着樹脂成分の内部に顔料粒子を分散させながら結着樹脂成分を顔料粒子上に析出させる析出工程とを含むトナーの製造方法において、上記混合工程の前に、顔料粒子に対して、顔料粒子の分散性を向上させる処理を施す前処理工程を含む方法である。
【0083】
上記方法によれば、前記特許文献9に記載のトナーの製造方法と同様に、顔料粒子上に結着樹脂成分を粒子状に析出させることで、粒子状に析出した結着樹脂成分内に顔料粒子が分散したトナーを作製することができる。
【0084】
ここで、前記特許文献9に記載のトナーの製造方法、すなわち顔料粒子の分散性を向上させる処理(前処理)を施していない顔料粒子を用いる方法では、トナー内の顔料粒子の分散性が低く、組成の均一でないトナーが生成することがある。例えば、一部のトナー粒子が、過剰の顔料粒子を含有し、他のトナー粒子中における顔料粒子の含有量が少なすぎることがある。よって、顔料粒子の分散性を向上させる技術を使用する必要が生じる。
【0085】
本発明の製造方法によれば、以下のような作用・効果が生まれる。
即ち、本発明の製造方法によれば、上記混合工程の前に、顔料粒子に対して、顔料粒子の分散性を向上させる処理(前処理)を施すことで、結着樹脂成分が溶解した超臨界流体中あるいは亜臨界流体中における前記顔料粒子の分散性が向上する。その結果、より一層均一な組成(顔料粒子の含有量等)を有し、顔料粒子の含有率が高いトナーを製造することができる。
【0086】
本発明にかかるトナーは、電子写真プロセスやイオンフロー方式により、像担持体上に形成された静電潜像を現像するために使用でき、特に電子写真プロセス用のトナーとして好適である。本発明にかかるトナーは、そのまま一成分現像剤として用いてもよく、フェライトキャリアと混合して二成分現像剤として用いてもよい。
【0087】
〔実施の形態1〕
次に、本発明にかかるトナーの製造方法の実施の一形態について図面に基づいて説明する。なお、ここでは、ガスを加圧して超臨界流体(超臨界ガス)とする場合について説明する。
【0088】
本発明のトナーを作製するための製造装置としては、例えば図1に示すような構成の製造装置が挙げられる。この製造装置は、図1に示すように、超臨界流体とするガスが充填されたガスボンベ1、上記ガスを加圧するための加圧ポンプ2、顔料粒子に対して、顔料粒子の分散性を向上させる処理を施すための顔料前処理装置7、超臨界状態となった超臨界流体と、エントレーナーと、結着樹脂成分と、前処理された顔料粒子とを混合するための反応容器9、トナー粒子を捕集するための粒子捕集箱13等を備えている。
【0089】
上記製造装置を用いた本発明の製造方法では、まず、顔料粒子を反応容器9へ導入する前に、顔料粒子を顔料前処理装置7において処理(前処理)する。この顔料前処理装置7において処理された顔料粒子を処理バルブ8を介して反応容器9中に導入する。また、次いで、顔料粒子を導入するのと同時、あるいはその前後に、結着樹脂成分を反応容器9中に導入する。
【0090】
次に、超臨界流体とするガスが充填されたガスボンベ1より、反応容器9に向けガスが供給される。このガスは、加圧ポンプ2により所望の圧力に加圧され、超臨界流体とされる。また、エントレーナー(添加助剤)3も、同様に、加圧ポンプ4で所望の圧力まで加圧される。これら超臨界流体およびエントレーナー3はそれぞれ、バルブ5およびバルブ6を介して反応容器9に送られる。このとき、ガスの臨界温度が常温に近い場合(例えば、臨界温度が31℃である二酸化炭素の場合)にはガスを加熱することなく、超臨界流体となるが、高圧にしたガスを予熱コイル(図示しない)等で所望の温度に温調(温度調節)して、超臨界流体としてもよい。また、反応容器9へ導入する前に、超臨界流体とエントレーナー3とを、予め別の容器(図示していない)中で混合しておいてもよい。
【0091】
この反応容器9内の温度は、例えばヒーター10あるいは恒温水槽(図示していない)等で所望の温度(臨界温度近くの温度、あるいは臨界温度以上の温度)となるよう調整される。また、前記のバルブ5・6により、反応容器9内の圧力は、所望の圧力(臨界圧力に近い圧力、あるいは臨界圧力以上の圧力)となるように調整される。これら温度、圧力は温度計14、圧力計15によりモニターされる。
【0092】
このようにして、反応容器9中には超臨界状態となった超臨界流体、エントレーナー、結着樹脂成分、前処理された顔料粒子が混合された状態となる。このとき、必要に応じて、図示していないが、攪拌装置(例えば、プロペラ状の攪拌装置等)にて反応容器9内を攪拌してもよい。
【0093】
このような状態を維持し、図1に示す減圧バルブ11を開くことによって、反応容器9内の超臨界流体が急速膨張する。このとき、超臨界流体中に溶解していた各溶質の溶解度は、それぞれ著しく低下し、その結果、各溶質が微粒子状にそれぞれ析出する。
【0094】
この工程において、前処理された顔料粒子および結着樹脂成分と、エントレーナーおよび超臨界流体との間での親和性、および、反応容器9の圧力調整条件を適切に設定することで、微粒子状に析出した結着樹脂成分中に、さらに前処理された顔料粒子がほぼ均一に分散した状態にて抱埋された状態となっているトナー微粒子を得ることができる。これらトナー微粒子は、ノズル12を介して、粒子捕集箱13にて採取され、3μm〜7μmの体積平均粒子径を有するものである。
【0095】
上記工程においては、急速膨張に代えて、上記粒子捕集箱13中へ、超臨界流体中に溶解している溶質成分に対して貧溶媒として作用する溶媒(例えば、溶質としての結着樹脂成分に対して不活性なガス等)を満たし、または、界面活性剤〔非特許文献1参照〕を注入し、この中に前記超臨界流体を導入することによって、溶質成分を急速に析出させ、トナー微粒子を生成せしめた後、これら超臨界流体や貧溶媒成分または界面活性剤を除去し、トナーを作製してもよい。
【0096】
この後、このようなトナーに対し、必要に応じて、流動性等を調整するために、シリカ等の微粉体等の外添剤を公知の手法(例えば、乾式のミキサー等)により外添処理し、最終のトナーを作製してもよい。
【0097】
本実施形態の製造方法によれば、基本形態の項で詳述した通り、より一層均一な組成(顔料粒子の含有量等)を有し、顔料粒子の含有率が高いトナーを製造することができる。
【0098】
本実施形態の製造方法(後述する実施例2)により製造したトナーと粉砕法により製造したトナーの粒径分布をレーザー回折測定装置により測定した。その結果を図2に示す。前処理した顔料粒子を用いて超臨界流体あるいは亜臨界流体を用いて作製したトナー粒径は小粒径かつ分布の狭いものになった。さらに、TEM(透過型電子顕微鏡)観察により、粉砕法により製造したトナーと本実施形態の製造方法(後述する実施例2)により製造したトナーそれぞれの内部を観察した。その概念図を図3に示す。粉砕法に比べて超臨界流体を用いたトナー製造では、ワックス成分18を含んだ結着樹脂19中に顔料粒子20が一次粒子の状態で均一に高分散されていることが分かった。
【0099】
〔実施の形態2〕
次に、本発明の実施の一形態として、前記顔料粒子を表面処理剤により前処理する方法について説明する。
【0100】
本実施形態にかかるトナーの製造方法では、前記基本形態の製造方法において、前処理工程にて、顔料粒子に対して、顔料粒子の表面活性を下げる表面処理剤を吸着させる表面改質処理(前処理)を施す。
【0101】
上記方法によれば、顔料粒子表面の活性を下げる表面処理剤を前記顔料粒子に吸着させることで、前記顔料粒子表面に、低い表面活性(小さい表面張力)を持つ表面処理剤層(吸着層)が形成される。これにより、立体障害が生まれ、顔料粒子の凝集が防止されるので、前記顔料粒子の分散単位を小さくすることができる。それゆえ、上記方法によれば、本発明の製造方法によるトナーの中でも、結着樹脂中での顔料粒子の分散性に優れたトナーを製造できる。
【0102】
本実施形態の製造方法は、実施の形態1の製造方法と組み合わせることが好ましい。すなわち、本実施形態の製造方法は、好ましくは、顔料前処理装置7にて前記顔料粒子に表面処理剤を吸着させる表面改質処理(前処理)を施した後、処理された顔料粒子を反応容器9に供給する方法である。
【0103】
上記表面処理剤としては、例えば、塩基性表面処理剤や酸性表面処理剤が挙げられる。塩基性表面処理剤としては、変性ポリウレタン溶液等の塩基性高分子分散剤;変性ポリウレタン溶液等の塩基性低分子分散剤等が挙げられる。酸性の表面処理剤としては、変性ポリアクリレート等の酸性高分子分散剤;変性ポリアクリレート等の酸性低分子分散剤等が挙げられる。顔料粒子が酸性顔料粒子である場合には、上記表面処理剤として塩基性表面処理剤を用いることが好ましく、上記表面処理剤として変性ポリウレタンを用いることが好ましく。顔料粒子が塩基性顔料粒子である場合には、上記表面処理剤として塩基性表面処理剤を用いることが好ましく、上記表面処理剤として変性ポリウレタンを用いることが特に好ましい。
【0104】
本実施形態にかかるトナーの製造方法では、前処理される顔料粒子が酸性顔料粒子である場合、前記表面処理剤による前処理工程において、塩基性表面処理剤で前処理を行うことで、前記酸性顔料粒子及び前記塩基性表面処理剤の間に酸−塩基反応を生起させることが好ましい。
【0105】
上記方法によれば、前記酸性顔料粒子と前記塩基性表面処理剤との間に酸−塩基反応を生起させることで、前記酸性顔料粒子表面に前記塩基性表面処理剤が強固に、そして均一に分散した状態となり、したがって、前記塩基性表面処理剤が、剥がれ難く、高い安定性を持つ。それによって、前記酸性顔料粒子の表面活性をより一層下げ、超臨界流体あるいは亜臨界流体中への前記酸性顔料粒子の分散能もより一層向上させることができ、より一層安定な分散を実現することができる。
【0106】
また、上記方法によれば、一次粒子の細かい顔料粒子をできるだけ弱い分散力で短い時間で超臨界流体あるいは亜臨界流体中に分散させることができるので、トナーに加わる衝撃も緩和できる。その結果、製造装置内の分散媒体などの磨耗を防ぐことができると共に、トナーの物性(帯電安定性等)を向上させることができる。
【0107】
なお、上記酸性顔料粒子としては、酸性のカーボンブラック、青色顔料等が挙げられる。
【0108】
また、本実施形態にかかるトナーの製造方法では、前記顔料粒子が塩基性顔料粒子である場合、前記表面処理剤による前処理工程において酸性表面処理剤で前処理を行うことで、前記塩基性顔料粒子及び前記酸性表面処理剤の間に酸−塩基反応を生起させることが好ましい。
【0109】
上記方法によれば、前記塩基性顔料粒子と前記酸性表面処理剤との間に酸−塩基反応を生起させることで、前記塩基性顔料粒子表面に前記酸性表面処理剤が強固に、そして均一に分散した状態となり、したがって、前記酸性表面処理剤が、剥がれ難く、高い安定性を持つ。それによって、前記塩基性顔料粒子の表面活性をより一層下げ、超臨界流体あるいは亜臨界流体中への前記塩基性顔料粒子の分散能もより一層向上させることができ、より一層安定な分散を実現することができる。
【0110】
また、上記方法によれば、一次粒子の細かい顔料粒子をできるだけ弱い分散力で短い時間で超臨界流体あるいは亜臨界流体中に分散させることができるので、トナーに加わる衝撃も緩和できる。その結果、製造装置内の分散媒体などの磨耗を防ぐことができると共に、トナーの物性(帯電安定性等)を向上させることができる。
【0111】
なお、上記塩基性顔料粒子としては、塩基性のカーボンブラック、青色顔料等が挙げられる。
【0112】
さらに、本実施形態にかかるトナーの製造方法では、前記塩基性表面処理剤により酸性顔料粒子を処理する前処理工程において、前記酸性顔料粒子の酸価をk1(mgKOH/g)、前記酸性顔料粒子の使用量(投入量)をX(g)とし、前記塩基性表面処理剤の塩基価をk2(mgKOH/g)、前記塩基性表面処理剤の使用量(投入量)をY(g)としたとき、
Y×k2>X×k1
の関係を満たすように、前記表面処理剤を使用することが好ましい。また、本実施形態にかかるトナーの製造方法では、前記酸性表面処理剤により塩基性顔料粒子を処理する前処理工程において、前記塩基性顔料粒子の塩基価をk1(mgKOH/g)、前記塩基性顔料粒子の使用量(投入量)をX(g)とし、前記酸性表面処理剤の酸価をk2(mgKOH/g)、前記酸性表面処理剤の使用量(投入量)をY(g)としたとき、
Y×k2>X×k1 …(1)
の関係を満たすように、前記表面処理剤を使用することが好ましい。
【0113】
表面処理剤の吸着層では、その密度(あるいは被覆率)が疎の場合と密の場合とがある。上記不等式を満たさない場合、表面処理剤の吸着層が疎となるため、前記表面処理剤が接近しても一方の前記顔料粒子上の前記表面処理剤は妨害を受けずに他方の顔料粒子表面の裸の部分に近づき、この部分に吸着する。こうして、前記表面処理剤が二つの粒子に橋架けする橋架け凝集を起こす。
【0114】
これに対し、上記方法では、上記不等式を満たすように条件設定を行うことにより、表面処理剤の吸着層が密となる。密な吸着層をもった二つの粒子が接近すると、ループの先の方(表面処理剤の分子の先端部)が絡まり始める。そこでは、前記表面処理剤のセグメント濃度が高まり、浸透圧が上昇して反発力を生じ、顔料粒子の分散を助けることができる。
【0115】
さらに、本実施形態にかかるトナーの製造方法では、前記顔料粒子がカーボンブラックである場合には、前処理後のカーボンブラックのpHが4より大きく10未満となるようにカーボンブラックに表面処理剤による処理を施すことが好ましい。
【0116】
前処理後のカーボンブラックのpHが4以下か、あるいは10以上であるときには、製造されるトナーは、十分に帯電させることができないものとなる。そのため、製造されるトナーが正帯電トナーである場合には正帯電トナー中に負帯電トナーが発生し易くなり、製造されるトナーが負帯電トナーである場合には負帯電トナー中に正帯電トナーが発生しやすくなる。そのため、製造されるトナーは、画像形成時に、カブリ、トナー飛散、画像濃度の低下等の問題を生じるものとなる。
【0117】
これに対し、上記方法では、前処理後のカーボンブラックのpHが4より大きく10未満となるようにすることにより、十分に帯電できるトナーを製造することができる。その結果、製造されるトナーは、画像形成時における、カブリ、トナー飛散、画像濃度の低下等の問題を解決することができる。
【0118】
なお、前処理後のカーボンブラックのpHが4より大きく10未満となるようにするには、処理前のカーボンブラックのpHが4より大きく10未満である場合には、pHが4以下とならない使用量で酸性の表面処理剤を用いてもよく、pHが10を超えない使用量で塩基性の表面処理剤を用いてもよく、中性の表面処理剤を用いてもよい。また、処理前のカーボンブラックのpHが4以下、あるいは10より大きい場合には、pHが4より大きく10未満となるように塩基性の表面処理剤あるいは酸性の表面処理剤を適量用いればよい。
【0119】
また、前処理後のカーボンブラックのpHが4より大きく10未満となるようにカーボンブラックに前処理を施す製造方法は、表面処理剤を用いた前処理以外の前処理を行う場合にも有効である。
【0120】
〔実施の形態3〕
本実施形態にかかるトナーの製造方法では、前記基本形態の製造方法において、前処理工程にて、カップリング剤を前記顔料粒子表面に反応させる。
【0121】
上記方法によれば、カップリング剤を前記顔料粒子表面に反応させることで、前記顔料粒子表面に低い表面活性を持つ疎水基が存在することとなる。これにより、顔料粒子の凝集を防止することができる。それゆえ、上記方法によれば、本発明の製造方法によるトナーの中でも、結着樹脂中での顔料粒子の分散性に優れたトナーを製造できる。
【0122】
上記カップリング剤としては、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤、シランカップリング剤等を用いることができるが、チタネート系カップリング剤が特に好ましい。
【0123】
〔実施の形態4〕
本実施形態にかかるトナーの製造方法では、実施の形態1の製造方法において、顔料前処理装置7として、粉砕媒体が内部に充填された攪拌ミルを用い、この攪拌ミルに少なくとも顔料粒子および液体溶剤を入れ、該攪拌ミルにより内容物を撹拌することで湿式粉砕処理する。
【0124】
上記方法によれば、少なくとも顔料粒子を含む被処理物を液体溶剤中に分散させた状態で、攪拌ミルによる湿式粉砕処理によって分散媒体間に生じる剪断作用や摩擦作用等により機械的な剪断力を被処理物に与え、前記顔料粒子を微粒子化して分散することができる。
【0125】
上記攪拌ミルとしては、図4に示すように、顔料粒子を含む被処理物と液体溶剤とを収容する容器16と、容器の内部に設けられた、容器16の内容物を撹拌するための回転可能な攪拌羽根17とを備える撹拌ミルを用いることができる。また、上記粉砕媒体としては、ボールやビーズを用いることができるが、ビーズを用いることがより好ましい。
【0126】
さらに、本実施形態にかかるトナーの製造方法では、少なくとも前記顔料粒子および液体溶剤を顔料前処理装置7(媒体攪拌ミル)の容器16内部に供給し、図4に示す顔料前処理装置7の容器16内部に回転可能に設けられる攪拌羽根17を、周速25m/s以上の速度で回転させて遠心力を発生し、前記顔料粒子及び液体溶剤を遠心力で容器16の内壁に押付け混合することが好ましい。
【0127】
前記湿式粉砕処理は、顔料粒子を液体溶剤中に分散させた状態で顔料粒子に対して剪断力を機械的に与えることによって顔料粒子を微粒子化するものであるため、処理時間がかかると、液体溶剤が揮発してしまうことが懸念される。
【0128】
上記方法では、容器の内部に攪拌羽根を回転可能に設けた撹拌ミル(撹拌槽型撹拌ミル等)を使用し、攪拌羽根の周速を25m/s以上にしたことで、より大きい遠心力を発生し、顔料粒子及び液体溶剤を遠心力で容器の内壁に押付け混合することができる。これにより、処理時間を短くし、効率的に前記顔料粒子を微粒子化して分散させることができる。
【0129】
本実施形態の製造方法は、実施の形態2または実施の形態3の方法と組み合わせることがより好ましい。すなわち、上記湿式粉砕処理においては、前記顔料粒子および液体溶剤と共に前記表面処理剤を顔料前処理装置7(攪拌ミル)に入れ、混合・分散させることがより好ましい。これにより、前記顔料粒子の分散性をより一層向上させることができる。また、攪拌羽根を周速25m/s以上の速度で回転させる方法においては、前記顔料粒子および液体溶剤と共に前記表面処理剤も容器16の内壁に押付け混合することができ、前記顔料粒子の分散性をより一層向上させることができる。
【0130】
〔実施の形態5〕
本実施形態にかかるトナーの製造方法は、実施の形態1と実施の形態2とを組み合わせた方法、あるいは実施の形態1と実施の形態3とを組み合わせた方法において、顔料前処理装置7にて、前記顔料粒子と前記カップリング剤または前記表面処理剤とを超臨界流体中あるいは亜臨界流体中において攪拌混合し顔料粒子を分散させた後、上記超臨界流体あるいは前記亜臨界流体を気化させると共に、分散された前記顔料粒子を反応容器9に供給する。
【0131】
上記超臨界流体あるいは前記亜臨界流体の気化は、例えば、前記顔料粒子と前記カップリング剤または前記表面処理剤とを超臨界流体中あるいは亜臨界流体中において攪拌混合して超臨界流体あるいは亜臨界流体分散液とし、この超臨界流体あるいは亜臨界流体分散液を乾燥空気中に放出して乾燥空気と接触させる方法で前処理を行うことで、容易に実現できる。
【0132】
その後は、実施の形態1と同様であり、反応容器9において、結着樹脂成分と超臨界流体中あるいは亜臨界流体中にて溶解して、上記超臨界流体中あるいは亜臨界流体中における結着樹脂成分の溶解度を低下せしめて、上記結着樹脂成分を結着樹脂成分の内部に前記顔料粒子を分散させながら粒子状に析出させる。
【0133】
実施の形態4の表面処理剤を用いた湿式粉砕処理等のような液体溶剤を用いた表面処理剤による前処理では、液体溶剤が前記表面処理剤の前記顔料粒子への輸送を容易にするが、最終的に処理した顔料粒子から液体溶剤を分離する必要がある。従って、コストのかかる面倒な液体溶剤を分離するステップが必要となる。また、表面処理剤を用いた湿式粉砕処理等のような液体溶剤を用いた表面処理剤による前処理では、前記顔料粒子が、液体溶剤中に分散した分散液の状態でカップリング剤または表面処理剤と混合され、この分散液は粘性が高くなるため、顔料粒子とカップリング剤との反応速度や、顔料粒子への表面処理剤の吸着速度が多少遅くなる。その結果、反応時間や吸着時間が長くなるため、前処理を更に面倒なものにしている。また、液体溶剤を使用することは、取扱い及び保存に関して幾つかの衛生及び安全上の問題をもたらす。また、表面処理剤を用いた湿式粉砕処理等のような液体溶剤を用いた表面処理剤による前処理では、前処理された顔料粒子から液体溶剤を除去した後でさえも、前記顔料粒子の表面状態及び形態が悪くなる場合がある。更に、前記顔料粒子が、液体溶剤との接触によって凝集を起こし、粒子サイズ及びサイズ分布を大幅に大きくすることがある。従って、トナーの表面上に適切に分散することができるさらさらした粉末の形で、前処理された顔料粒子を得るために、湿式粉砕処理等の前処理の後に、粉砕及び処理工程が必要となり、これらの設備が必要となることがある。
【0134】
これに対し、上記方法では、顔料粒子と前記カップリング剤あるいは表面処理剤とを超臨界流体中あるいは亜臨界流体中で混合することで、液体溶剤を用いることなく前記カップリング剤あるいは表面処理剤を充分に分散させて、前記カップリング剤あるいは表面処理剤の前記顔料粒子への輸送を容易にすることができる。したがって、顔料粒子とカップリング剤との反応や、顔料粒子への表面処理剤の吸着を速やかに行うことができ、前処理を高速に行うことが可能となる。
【0135】
さらに、カップリング剤あるいは表面処理剤を分散させるために使用した超臨界流体あるいは亜臨界流体は、顔料粒子と前記カップリング剤との反応(表面処理反応)あるいは顔料粒子への表面処理剤の吸着が完了した後に、前述した乾燥空気中に放出して乾燥空気と接触させる方法等により気化させることで、低コストで容易にかつ速やかに顔料前処理装置7の容器16内からほぼ完全に除去することができる。したがって、溶剤廃棄物を全く生じないか又は殆ど生じない前処理顔料粒子を低コストで容易にかつ速やかに生成することができる。また、液体溶剤によって顔料粒子が凝集したり、顔料粒子の表面状態及び形態が悪くなったりする現象も回避できる。
【0136】
【実施例】
以下、本発明について具体的な実施例および比較例に基づき説明するが、本発明は、以下の各実施例に限定されるものではない。
【0137】
〔実施例1〕
本実施例に関わるトナーの製造方法には、図1に示すトナー製造装置を用いた。反応容器9としては、容積が1000cm3のものを用いた。本実施例では、超臨界流体とするガスとして二酸化炭素(CO2)を用いた。また、エントレーナーとしては、エタノール(一般的な試薬用の市販品である)を用いた。
【0138】
まず、顔料前処理装置7において、顔料粒子としての酸性のカーボンブラック(三菱化学株式会社製、商品名:MA100、酸価3.5mgKOH/g、pH=3.5)表面に対してチタネート系カップリング剤(味の素ファインテクノ株式会社製、商品名:KR TTS)を反応させる前処理を施し、前処理されたカーボンブラックを得た。
【0139】
次いで、結着樹脂成分としてはポリエステル系樹脂(三洋化成工業株式会社製、商品名:EP208)を50g、反応容器9内に投入した。また、前処理されたカーボンブラックを2.5g(ポリエステル系樹脂の重量を100重量部とした場合に5重量部となる量)、反応容器9内に投入した。なお、常温・常圧条件下において、上記エントレーナーは、結着樹脂成分と非相溶な関係のものである。なお、前処理されたカーボンブラックの使用量は、ポリエステル系樹脂の重量を100重量部とした場合に2重量部以上30重量部以下となるように設定するとよい。
【0140】
次に、二酸化炭素ガスを、ガスボンベ1より供給し、加圧ポンプ2にて昇圧し、バルブ6を介して反応容器9に導入した。エントレーナー3であるエタノールも、加圧ポンプ4を介して反応容器9に200ml導入した。
【0141】
ここで、排出用の減圧バルブ11は閉じたままであり、高圧状態の二酸化炭素導入により、反応容器9内の圧力が上昇する。また、ヒーター10にて反応容器9内の温度を320Kに調整した。
【0142】
反応容器9内の圧力が7.3MPa以上にて、反応容器9内は超臨界状態となる。また、各バルブ5、6を調整して反応容器9内の圧力を20MPaに設定し、反応容器9内の、少なくとも結着樹脂成分を溶解させた状態に設定した。
【0143】
この状態を、例えば20分間維持した後、減圧バルブ11を開けて、反応容器9内の混合溶液をノズル12より粒子捕集箱13内に排出することで急速膨張させると、略球状に析出した結着樹脂成分中に顔料粒子がほぼ均一に分散されて含有されたトナー微粒子は粒子捕集箱13内に堆積して捕集される。
【0144】
このとき、上記混合溶液に含まれている超臨界流体としての二酸化炭素と、エントレーナーとしてのエタノールは、図示していない回収機構により二酸化炭素とエタノールとに互いに分離され、それぞれ再利用される。
【0145】
本実施例1では、常温・常圧条件下において、結着樹脂成分と非相溶なエントレーナーを使用しているため、仮に、得られたトナー微粒子の表面にエントレーナーが微量付着していても、各トナー微粒子同士の合一(つまり相互間での結合)が発生せず、微細な状態のままでトナー微粒子を得ることができる。この後、流動性等を調整するために、トナー微粒子100重量部に対し0.1重量部のシリカ(日本エアロジル株式会社製、商品名:R742)を公知の手法(例えば、乾式のミキサー等)により外添処理し、最終のトナーを得た。
【0146】
〔比較例1〕
実施例1の製造装置における顔料前処理装置7を省いた点、およびカーボンブラックをカップリング剤で前処理する工程を省いた点以外は、実施例1と同様の製造装置および方法によりトナーを製造した。
【0147】
〔実施例2〕
前記の酸性のカーボンブラックをカップリング剤で前処理するのに代えて、前記の酸性のカーボンブラック(商品名:MA100)に塩基性高分子分散剤(エフカアディティブズ(商品名:EFKA(登録商標)−4047)を吸着させる前処理を行った点以外は、前記実施例1と同様の製造装置および方法にて、トナーを作製した。
【0148】
なお、上記の塩基性高分子分散剤は、有効成分として変性ポリウレタンを34〜36重量%含み、液体溶剤として酢酸ブチル/酢酸メトキシプロピル/sec−ブタノールを含む変性ポリウレタン溶液である。
【0149】
次いで、前記塩基性高分子分散剤による前処理工程において、前記の酸性カーボンブラック(酸価3.5mgKOH/g)の投入量を5(g)とし、前記塩基性高分子分散剤(塩基価17mgKOH/g)の投入量を5(g)となるように設定した。したがって、この場合、前記不等式(1)における左辺(Y×k2)は、
5×17=85
前記式(1)における右辺(X×k1)は、
5×3.5=17.5
となり、前記不等式を満足する。
【0150】
〔実施例3〕
前記塩基性高分子分散剤による前処理工程において、前記の酸性カーボンブラック(商品名:MA100、酸価3.5mgKOH/g)の投入量を5(g)に変更し、前記塩基性高分子分散剤(商品名:EFKA(登録商標)−4047、塩基価17mgKOH/g)の投入量を1(g)に変更した点以外は、前記実施例2と同様の製造装置および方法にて、トナーを作製した。
【0151】
したがって、この場合、前記不等式(1)における左辺(Y×k2)は、
1×17=17
前記式(1)における右辺(X×k1)は、
5×3.5=17.5
となり、前記不等式を満足しない。
【0152】
〔実施例4〕
前記の酸性のカーボンブラック(商品名:MA100、pH=3.5)6gに前記の塩基性高分子分散剤(商品名:EFKA(登録商標)−4047)6gを吸着させて、吸着後のカーボンブラックのpHが8となるように設定した点以外は、前記実施例3と同様の製造装置および方法にて、トナーを作製した。
【0153】
〔実施例5〕
前記の酸性のカーボンブラック(商品名:MA100、pH=3.5)6gに前記の酸性高分子分散剤(商品名:マリアリムAAB−0851)4gを吸着させて、吸着後のカーボンブラックのpHが1となるように設定した点以外は、前記実施例3と同様の製造装置および方法にて、トナーを作製した。
【0154】
〔実施例6〕
前記の酸性のカーボンブラック(商品名:MA100、pH=3.5)6gに前記の酸性高分子分散剤(商品名:マリアリムAAB−0851)6gを吸着させて、吸着後のカーボンブラックのpHが0.5となるように設定した点以外は、前記実施例3と同様の製造装置および方法にて、トナーを作製した。
【0155】
〔実施例7〕
前記の酸性のカーボンブラック(商品名:MA100、pH=3.5)6gに前記の塩基性高分子分散剤(商品名:EFKA(登録商標)−4047)8gを吸着させて、吸着後のカーボンブラックのpHが10となるように設定した点以外は、前記実施例3と同様の製造装置および方法にて、トナーを作製した。
【0156】
〔実施例8〕
前記の酸性のカーボンブラック(商品名:MA100、pH=3.5)8gに前記の塩基性高分子分散剤(商品名:EFKA(登録商標)−4047)10gを吸着させて、吸着後のカーボンブラックのpHが11となるように設定した点以外は、前記実施例3と同様の製造装置および方法にて、トナーを作製した。
【0157】
〔実施例9〕
顔料前処理装置7として、容器16の内部に粉砕媒体としてのビーズが充填され、かつ、攪拌羽根17が回転可能に設けられた攪拌ミル(図4参照)を用い、該攪拌ミルにより顔料粒子を湿式粉砕処理した。
【0158】
本実施例では、顔料粒子としての前記の酸性のカーボンブラック(商品名:MA100)6g、前記の塩基性高分子分散剤(商品名:EFKA(登録商標)−4047)6g、及び液体溶剤としてのトルエン 40mlを容器16内に入れ、攪拌羽根17を、周速30m/sの速度で回転させて遠心力を発生し、カーボンブラック、塩基性高分子分散剤、および液体溶剤を遠心力で容器16の内壁に押付け混合することによって、前処理されたカーボンブラックを得た。その後は、前述の実施例1と同様に操作してトナーを作製した。
【0159】
〔実施例10〕
攪拌羽根17の周速10m/sに変更する点以外は実施例9と同様にして、前記カーボンブラック、前記塩基性高分子分散剤、及び溶剤を遠心力で反応容器の内壁に押付け混合することによって、トナーを作製した。
【0160】
こうして実施例1〜10および比較例1で作製されたトナーは、顔料粒子の含有量が高く、かつ、顔料粒子の分散性が優れていることから、少量でも所望の印字濃度が得られ、所定の印字枚数を得るのに必要なトナー量も、超臨界法以外の従来公知の方法(例えば公知の溶融混練粉砕法)で作製されたトナーに比べ、数分の1で済み、トナー交換サイクルを短くすることなく、使い勝手の良い、小型の画像形成装置を提供することができた。
【0161】
超臨界法以外の従来公知の方法(例えば公知の溶融混練粉砕法)で、実施例1〜10および比較例1のような高濃度の顔料粒子を含有させて作製したトナーの場合、画像品位としては地カブリの発生や、使用環境によりトナー帯電量の不安定さが増し、良好な画像形成装置が阻害される。また、超臨界法以外の従来公知の方法(例えば公知の溶融混練粉砕法)では、長期使用によりトナー粒子が粉砕して微紛が発生したり、粒径分布が変化し、画像品位が劣化するという不具合を生じる。しかしながら、実施例1〜10および比較例1の製造方法(超臨界法)により作製されたトナーでは、上記のような不具合を防止でき、良好な画像形成が安定して得られた。
【0162】
実施例1〜10および比較例1で作成した各トナー4質量部に対し、平均粒径80μmのフェライトキャリア100質量部を配合し、トナー濃度4%の二成分現像剤を作成した。得られた現像剤を、電子写真複写機(型番「AR−450M」、シャープ(株)製)によって、初期および原稿濃度6%の原稿を10000枚連続複写したのちに、50mm×50mmのべた画像の画像出力を行い、その画像部および非画像部の濃度を濃度計(型番「RD−918」、マクベス社製)にて測定を行った。また、上記初期および10000枚連続複写した後の現像剤を電子写真複写機の現像器内よりサンプリングし、その帯電量をブローオフ法によって測定した。さらに、帯電安定性とは初期および10000枚連続複写後における帯電量の変化率の少なさを示した。
【0163】
画像濃度については、1.4以上を「◎」(極めて良好)、1.2以上1.4未満「○」(良好)、1.2未満を「×」(不良)として3段階で評価した。また、カブリについても、0.8未満を「◎」(極めて良好)、0.8以上1.2未満を「○」(良好)、1.2以上を「×」(不良)として3段階で評価した。さらに、帯電安定性については、1万枚目の帯電量が初期の帯電量の80%以上100%以下の場合を「◎」(極めて良好)、80%未満60%以上を「○」(良好)、60%未満を「×」(不良)とし、3段階で評価した。
【0164】
トナーの製造方法と画像品位との関係を表1にまとめた。
【0165】
【表1】
【0166】
表1に示すように、顔料粒子を前処理した実施例1の方が、顔料粒子を前処理しなかった比較例1と比較して、画像濃度、カブリ、帯電安定性について極めて良好であった。
【0167】
顔料粒子の酸価及び表面処理剤の塩基価と画像品位との関係を表2にまとめた。
【0168】
【表2】
【0169】
表2に示すように、実施例3に比べて実施例2で作成したトナーのほうが画像濃度、カブリ、帯電安定性について極めて良好であった。
【0170】
前処理後のカーボンブラックのpHと画像品位との関係を表3にまとめた。
【0171】
【表3】
【0172】
表3に示すように、前処理後のカーボンブラックのpHが1より大きく7未満の場合(実施例4)、画像濃度、カブリ、帯電安定性の全てについて極めて良好であった。
【0173】
攪拌羽根の周速と画像品位との関係を表4にまとめた。
【0174】
【表4】
【0175】
表4に示すように、攪拌羽根の周速を10m/sで行って作成した実施例10のトナーよりも、攪拌羽根の周速を30m/sで行って作成した実施例9のトナーの方が、画像濃度、カブリ、帯電安定性の全てについて優れていた。
【0176】
【発明の効果】
以上のように、本発明のトナーの製造方法は、結着樹脂成分を、超臨界流体中あるいは亜臨界流体中にて溶解して、顔料粒子と混合する混合工程と、上記混合工程の後に、上記超臨界流体中あるいは亜臨界流体中における結着樹脂成分の溶解度を低下せしめて、上記結着樹脂成分の内部に顔料粒子を分散させながら結着樹脂成分を顔料粒子上に析出させる析出工程とを含むトナーの製造方法において、上記混合工程の前に、顔料粒子に対して、顔料粒子の分散性を向上させる処理を施す前処理工程を含む方法である。
【0177】
上記方法によれば、結着樹脂成分が溶解した超臨界流体中あるいは亜臨界流体中における前記顔料粒子の分散性が向上する。また、超臨界中において、顔料粒子同士の凝集の低減及び顔料粒子と超臨界流体との相溶性が向上し、顔料粒子の均一な分散が可能となる。その結果、より一層均一な組成を有するトナーを製造することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るトナーの製造方法に用いるトナー製造装置の一例を示す模式図である。
【図2】本発明の製造方法により製造したトナーと粉砕法により製造したトナーとの粒径分布の比較を示すグラフである。
【図3】本発明の実施の一例(実施例3)に係る製造方法により製造したトナーと粉砕法により製造したトナーとをTEM観察した結果を示す概略図であって、(a)は粉砕法により製造したトナーの場合、(b)は本発明の実施の一例に係る製造方法(超臨界法)により製造したトナーの場合を示す。
【図4】本発明に係るトナーの製造方法に用いる顔料前処理装置の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
1 ガスボンベ
2 加圧ポンプ
3 エントレーナー
4 加圧ポンプ
5・6 バルブ
7 顔料前処理装置
8 処理バルブ
9 反応容器
10 ヒーター
11 減圧バルブ
12 ノズル
13 粒子捕集箱
14 温度計
15 圧力計
16 容器
17 攪拌羽根
18 ワックス成分
19 結着樹脂
20 顔料粒子
Claims (10)
- 結着樹脂成分を、超臨界流体中あるいは亜臨界流体中にて溶解して、顔料粒子と混合する混合工程と、
上記混合工程の後に、上記超臨界流体中あるいは亜臨界流体中における結着樹脂成分の溶解度を低下せしめて、上記結着樹脂成分の内部に顔料粒子を分散させながら結着樹脂成分を顔料粒子上に析出させる析出工程とを含むトナーの製造方法において、
上記混合工程の前に、顔料粒子に対して、顔料粒子の分散性を向上させる処理を施す前処理工程を含むことを特徴とするトナーの製造方法。 - 前記前処理工程では、カップリング剤を前記顔料粒子表面に反応させることを特徴とする請求項1記載のトナーの製造方法。
- 前記前処理工程では、前記顔料粒子に対して、顔料粒子の表面活性を下げる表面処理剤を吸着させることを特徴とする請求項1記載のトナーの製造方法。
- 前記顔料粒子として酸性顔料粒子を用い、
前記前処理工程では、上記酸性顔料粒子を塩基性表面処理剤で処理することを特徴とする請求項3記載のトナーの製造方法。 - 前記顔料粒子として塩基性顔料粒子を用い、
前記前処理工程では、上記塩基性顔料粒子を酸性表面処理剤で処理することを特徴とする請求項3記載のトナーの製造方法。 - 前記表面処理剤による前処理工程において、
前記顔料粒子の酸価あるいは塩基価をk1(mgKOH/g)、前記顔料粒子の使用量をX(g)とし、前記表面処理剤の塩基価あるいは酸価をk2(mgKOH/g)、前記表面処理剤の使用量をY(g)としたとき、
Y×k2>X×k1 …(1)
の関係を満たすように、前記表面処理剤を使用することを特徴とする請求項4または5に記載のトナーの製造方法。 - 前記顔料粒子としてカーボンブラックを用い、
前記前処理工程では、前処理後のカーボンブラックのpHが4より大きく10未満となるようにカーボンブラックに表面改質処理を施すことを特徴とする請求項1記載のトナーの製造方法。 - 前記前処理工程では、少なくとも顔料粒子および液体溶剤を、粉砕媒体が内部に充填された攪拌ミルに入れ、該攪拌ミルにより内容物を撹拌することで湿式粉砕処理することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のトナーの製造方法。
- 上記湿式粉砕処理では、容器の内部に攪拌羽根を回転可能に設けた撹拌ミルを使用し、上記容器の内部に少なくとも前記顔料粒子および液体溶剤を供給し、上記攪拌羽根を周速25m/s以上の速度で回転させることを特徴とする請求項8記載の製造方法。
- 前記前処理工程では、顔料粒子と前記カップリング剤または表面処理剤とを超臨界流中あるいは亜臨界流体中で混合した後、上記超臨界流体あるいは上記亜臨界流体を気化させることを特徴とする請求項2または3に記載の製造方法。
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