JP2004141161A - ズブチリシン様プロプロテインコンベルターゼ・pace4に対するモノクローナル抗体及びその利用 - Google Patents

ズブチリシン様プロプロテインコンベルターゼ・pace4に対するモノクローナル抗体及びその利用 Download PDF

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Abstract

【課題】 ズブチリシン様プロプロテインコンベルターゼファミリーに属するPACE4を特異的に認識する抗体を提供する。また、当該抗体の用途、例えばそれが有するPACE4に対する特異的結合性を利用した免疫学的試薬、及び免疫学的検出法を提供する。
【解決手段】 ヒト由来の特定なアミノ酸配列をエピトープ部として有するペプチドに対するモノクローナル抗体であって、ズブチリシン様プロプロテインコンベルターゼのうち、PACE4と反応し、フリン、PC1、PC2、PC4、PC6及びPC8とは反応しないことを特徴とするモノクローナル抗体。
【選択図】 なし

Description

 本発明はトランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β)関連ファミリーに属する因子のプロセシングに関与するズブチリシン様プロプロテインコンベルターゼ・PACE4に特異的に結合するモノクローナル抗体に関する。さらに本発明は、当該モノクローナル抗体の用途に関する。
 多細胞生物において細胞の分化、増殖は、非常に多くの成長及び分化因子の巧妙な作用によって調節されている。これらの成長及び分化因子群の発生時期や、それらの細胞特異的な発現調節機構及び活性化機構の解明は、生命発生の仕組みを明らかにするだけでなく、これらの因子の発現異常に起因して生じる各種の疾患の治療法を確立し、またその治療薬を開発するためにも重要である。
 こうした分化因子群のなかでも、TGFβ−関連ファミリーに属する因子は多様な細胞分化を制御しており、特に神経分化、筋肉分化または骨分化の異常に伴う多くの疾患の治療薬としても有望視されている。図1に示すように、これらの分化因子は不活性な前駆体(prepro-TGF-β、pro-TGF-β)として合成された後、pro-TGF-βのプロペプチド領域が塩基性アミノ酸対(Arg-Arg [R-R]、またはLys-Arg [K-R]など)を認識するプロテアーゼによって切断(プロセッシング)されて、生理活性を有する成熟体に変換される。
 現在、ヒトに関しては、このプロセシングを行うプロテアーゼ(プロセシングプロテアーゼ)として、7種類のもの〔PACE4、フリン、PC1(PC3とも言われる)、PC2、PC4、PC6(PC5とも言われる)及びPC8(PC7とも言われる)〕が同定されている。これらはいずれもバクテリアのプロテアーゼであるズブチリシンと構造類似した触媒領域(ズブチリシン様触媒領域)を有するCa依存性セリンプロテアーゼであり、ズブチリシン様プロプロテインコンベルターゼ(略称して「SPC」と称される)と総称されている(例えば非特許文献1参照)。
 上記7種のズブチリシン様プロプロテインコンベルターゼ(以下、これらを総称して「SPCファミリー」ともいう)は、図2に示すように、シグナルペプチド(SP)、プロペプチド(Pro)、ズブチリシン様触媒領域(SCD)、及びホモBドメイン(HomoB)を互いに共通して有する。中でもプロテアーゼ活性に寄与するズブチリシン様触媒領域(以下、単に「触媒領域」または「SCD」とも称する)のアミノ酸配列は、SPCファミリー間で非常に相同性が高く、プロテアーゼとしての切断特異性も極めて類似している。しかし、ノックアウトマウスの研究など遺伝学的なアプローチによって、これらファミリーの酵素は、それぞれ異なる分化因子の活性化に寄与していることが判明している(例えば非特許文献2及び3参照)。
 本発明者らは既に、これらSPCファミリープロテアーゼの中でも、PACE4は特に脳や神経の分化増殖に重要であり、神経分化転写因子hASH-1によって発現が制御されていることを報告している(例えば非特許文献4参照)。事実PACE4を欠損したマウスは脳が形成されない。また本発明者らは、PACE4は、軟骨分化因子であって且つ血管新生阻害作用を有するコンドロモジュリンの活性化を介して、骨分化や目の形成においても重要な機能を担っていることを明らかにしている。内軟骨性骨分化能を有するATDCV5培養細胞は、石灰化する前にPACE4の発現量が激増し、またCa依存性セリンプロテアーゼの阻害剤でPACE4の活性を阻害するとその軟骨分化が完全に抑制される(例えば非特許文献5参照)。このようにPACE4は、特に神経、骨分化の制御を司る重要なプロセシングプロテアーゼであると考えられる。
 またズブチリシン様プロプロテインコンベルターゼは、ウイルスの感染性を決定するウイルス粒子外殻蛋白の活性化や細菌毒素の活性化にも関与していることが判明しており(例えば非特許文献6及び7参照)、その阻害剤はこれらの感染症の治療薬となる可能性も高い。
 しかしながら、前述するようにSPCファミリーは互いに非常に類似した構造並びに切断特異性を有するため、PACE4のみを選択的に認識する抗体は未だ取得されておらず、ゆえにPACE4の発現およびタンパク機能の研究は遅れているのが実情である。特にPACE4は、微量で生理活性を発揮する分化増殖因子群を基質とすることから予測できるように、タンパクとしての発現量は超微量であり、ヒトの組織や血液中のPACE4量を測定し、病気の診断に利用するためには、PACE4に対して厳密な特異性を有し、抗体価の高い抗体の取得が必須である。また、PACE4に対して高い特異性を有する抗体またはその断片は、PACE4の異常発現及び産生に関連して生じる疾患のための免疫学的治療に有用である。
松田、辻ら、「蛋白質 核酸 酵素」Vol.42, No.14, 2355-2361, (1997) Roebroek,A.J.M., et al.,Development 125, 4863-4876, (1998) Constam,D.B. et al., Genes.Dev.14,(2000) 1146-1155) Matsuda,Y., and Tsuji,A., et al., Biochem.J. 360, 683-689, (2001) 松田、辻ら、第74回日本生化学会大会(2001年10月);生化学,73巻,8号,779頁,(2001) Garten,W., et al., Biochimie 76, 217-225, (1994) Gordon,V.M., et al., Infect. Immun. 65, 3370-3375, (1997)
 従って、本発明の目的は、ズブチリシン様プロプロテインコンベルターゼファミリーに属するPACE4を特異的に認識し、結合する抗体を提供することである。また、本発明は、当該抗体の用途、例えば当該抗体が有するPACE4に対する特異的結合性を利用した免疫学的試薬(例えば、PACE4の特異的検出試薬)、及びPACE4の特異的検出法などを提供することを目的とする。さらに本発明の目的は、PACE4の異常発現に関連して発生する疾患の治療に有用な物質の探索方法を提供することである。
 斯かる事情に鑑み、本発明者らは鋭意研究を行った結果、ズブチリシン様プロプロテインコンベルターゼ・PACE4(単に「PACE4」ともいう)中の特定のアミノ酸配列をエピトープとするペプチドを免疫原として調製されるモノクローナル抗体が、構造的にもまた切断特異性においても、当該PACE4と類似する他のズブチリシン様プロプロテインコンベルターゼファミリー〔フリン、PC1(PC3ともいわれる)、PC2、PC4、PC6(PC5ともいわれる)及びPC8(PC7ともいわれる)〕と反応することなく、PACE4を特異的に認識し反応することを見いだした。そして、当該モノクローナル抗体は、そのヒト化抗体なども含めて、PACE4の異常発現に関連して生じる種々の疾患の診断やその解明に有用であるとともに、当該PACE4関連疾患の治療に有用な薬物の開発に有効に利用できることを確信した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
 すなわち、本発明は下記に掲げるモノクローナル抗体である:
 (1) ズブチリシン様プロプロテインコンベルターゼ(SPC)のうち、PACE4に反応し、フリン、PC1、PC2、PC4、PC6及びPC8とは反応しないことを特徴とするモノクローナル抗体。
 具体的には、当該モノクローナル抗体には下記の態様のものが含まれる:
(1-1) 配列番号1のアミノ酸配列をエピトープ部として有するペプチドに対する抗体であって、ズブチリシン様プロプロテインコンベルターゼ(SPC)のうち、PACE4と反応し、フリン、PC1、PC2、PC4、PC6及びPC8とは反応しないことを特徴とするモノクローナル抗体。
(1-2) 配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドとキャリアタンパクとの結合物を抗原として調製される抗体であって、ズブチリシン様プロプロテインコンベルターゼ(SPC)のうち、PACE4と反応し、フリン、PC1、PC2、PC4、PC6及びPC8とは反応しないことを特徴とするモノクローナル抗体。
(1-3) 受託番号FERM BP−08498(2002年10月1日に寄託したFERM P-19048号より移管)のハイブリドーマ(Mouse Hybridoma-PACE4)によって産生されるモノクローナル抗体。
(1-4) キメラ抗体である上記(1)、(1-1)または(1-2)のいずれかに記載されるモノクローナル抗体。
(1-5) キメラ抗体が、ヒト化抗体である上記(1-4)に記載されるモノクローナル抗体。
(1-6) ヒト化抗体が、ヒト型キメラ抗体またはヒト型CDR移植抗体である上記(1-5)に記載されるモノクローナル抗体。
 当該ヒト化抗体は、PACE4の異常発現に関連して発生する疾患の予防または治療に応用することが可能である。
 また、本発明は、上記(1-3)に記載するモノクローナル抗体の、キメラ抗体、特にヒト化抗体(ヒト型キメラ抗体、ヒト型CDR移植抗体)の調製のための使用に関する。言い換えれば、上記(1-3)に記載するモノクローナル抗体の、キメラ抗体、特にヒト化抗体(ヒト型キメラ抗体、ヒト型CDR移植抗体)の調製のための使用方法;上記(1-3)に記載するモノクローナル抗体を用いて、ズブチリシン様プロプロテインコンベルターゼ(SPC)のうち、PACE4と反応し、フリン、PC1、PC2、PC4、PC6及びPC8とは反応しないキメラ抗体、特にヒト化抗体を製造する方法に関する。
 さらに、本発明は下記に掲げるハイブリド−マ、及びそれを用いたモノクローナル抗体の製造方法である;
(2) ズブチリシン様プロプロテインコンベルターゼ(SPC)のうち、PACE4と反応し、フリン、PC1、PC2、PC4、PC6及びPC8とは反応しないことを特徴とするモノクローナル抗体を産生するハイブリド−マ。
 具体的には、当該ハイブリドーマには下記の態様のものが含まれる:
(2-1) 配列番号1のアミノ酸配列をエピトープ部として有するペプチドに対する抗体であって、ズブチリシン様プロプロテインコンベルターゼ(SPC)のうち、PACE4と反応し、フリン、PC1、PC2、PC4、PC6及びPC8とは反応しないことを特徴とするモノクローナル抗体を産生するハイブリド−マ。
(2-2) 配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドとキャリアタンパクとの結合物を抗原として調製される抗体であって、ズブチリシン様プロプロテインコンベルターゼ(SPC)のうち、PACE4と反応し、フリン、PC1、PC2、PC4、PC6及びPC8とは反応しないことを特徴とするモノクローナル抗体を産生するハイブリド−マ。
(2-3) 受託番号FERM BP−08498(2002年10月1日に寄託したFERM P-19048号より移管)のハイブリドーマ(Mouse Hybridoma-PACE4)。
(3) 上記(2)、(2-1)〜(2-3)のいずれかに記載のハイブリド−マを生体内または生体外で培養し、その体液または培養物からPACE4と反応し、フリン、PC1、PC2、PC4、PC6及びPC8とは反応しないモノクローナル抗体を採取することを特徴とする、上記(1)、(1-1)〜(1-3)のいずれかに記載するモノクローナル抗体の製造方法。
 また本発明は下記(4)に記載するPACE4の検出試薬キットである。当該検出試薬キットによれば、PACE4の検出を特異的に且つ容易に行うことが可能となる。
(4)(1)、(1-1)〜(1-6)のいずれかに記載のモノクローナル抗体、PACE4に対して特異的結合性を有するその断片、またはそれらの標識物をPACE4に対する特異的結合試薬または特異的検出試薬として含む、PACE4検出用試薬キット。
 さらに本発明は下記(5)に記載するPACE4に対する結合剤である。当該結合剤は、PACE4に対して特異的に結合することができるので、PACE4の異常発現に関連して発生する疾患の治療または予防に応用することが可能となる。
(5)(1)、(1-1)〜(1-6)のいずれかに記載のモノクローナル抗体、またはPACE4に対して特異的結合性を有するその断片からなるか、またはそれらのいずれかを含む、PACE4に対する結合剤。なお、当該モノクローナル抗体またはその断片は、任意の標識材で標識されていてよい。
 さらに本発明は下記(6)に記載するPACE4の特異的検出方法である。当該検出方法を利用することにより、PACE4の異常発現に関連して発生する疾患の解明並びに診断が可能となる。
(6)(1)、(1-1)〜(1-6)のいずれかに記載のモノクローナル抗体またはその標識物をPACE4に対する特異的結合試薬または特異的検出試薬として用いる工程を有する、PACE4の特異的検出方法。
 さらに本発明は、下記(7)に掲げるPACE4の異常発現に関連する疾患の治療薬の有効成分を探索する方法である。なお、本明細書において「PACE4の異常発現に関連する疾患」には、PACE4の異常発現(発現の増加及び減少の両方を含む、以下同じ)に起因して生じる疾患、及びPACE4の異常発現を伴う疾患の両方が含まれる。
 (7) 下記の(a)、(b)および(c)の工程を含む、PACE4の異常発現に関連する疾患の予防または治療薬の有効成分のスクリーニング方法:
(a) 被験物質をPACE4を発現し得る細胞に接触させる工程、
(b)(1)、(1-1)〜(1-6)のいずれかに記載するモノクローナル抗体を用いて、被験物質を接触させた細胞におけるPACE4の発現量を測定し、同様にして被験物質を接触させない上記に対応する対照細胞におけるPACE4の発現量を測定して、両者を比較する工程、
(c) (b)の比較結果に基づいて、PACE4の発現量を増加または低下させる被験物質を選択する工程。
 以下、本発明を詳細に説明する。
 I.モノクローナル抗体、及びその製造方法
 本発明のモノクローナル抗体は、配列番号1のアミノ酸配列をエピトープ部として有するペプチドを抗原として作成される抗体であって、ズブチリシン様プロプロテインコンベルターゼ・PACE4(PACE4)に対して特異的反応性を有することを特徴とする。
 PACE4は、内分泌系組織では下垂体、大脳、小脳、嗅球及び心筋に、また非内分泌系組織では肝臓に強く発現していることが報告されており(Endocrinology, 136, 357-360, (1995); Biochimie, 76, 197-209, (1994); Hitochem Cell Biol., 108, 95-113, (1997))、また、マウスの発生過程においてステージ特異的に特有の発現パターンを示すことから、BMP等の活性化に寄与している可能性も示唆されている(J.Cell.Biol.,134,181-191(1996))。
 ヒトPACE4には、C末端側のアミノ酸配列の異なる複数のアイソフォームが存在することが知られており、現在8種類(PACE4A-I. PACE4A-II, PACE4B, PACE4C, PACE4CS, PACE4D, PACE4E-I, PACE4E-II)のアイソフォームがcDNAクローニングより同定されている(Biochem.Biophys.Res.Commun.,200,943-950 (1994); J.Biochem.)Tokyo),121,941-948 (1997); FEBS Lett.,396,31-36(1996))。図3に各アイソフォームのドメイン構造を示す。PACE4A-Iは最初に同定されたPACE4であり、シグナルペプチド(SP)、プロペプチド(Pro)、ズブチリシン様触媒領域(SCD)、及びホモBドメイン(ホモB)よりなるSPCファミリーに共通するドメイン構造と、C末端側に存在するCRR領域から構成されている。PACE4BはホモBドメイン及びCRR領域を欠き、PACE4C及びPACE4CSは、ホモBドメインの大部分を含むがCRR領域を欠いている。PACE4Dはシグナルペプチド、プロペプチド及びCRR領域を欠く。PACE4E-Iは、PACE4A-Iと類似したドメイン構造を有するが、CRR領域が短く、C末端側に疎水性クラスターをもつ特有のアミノ酸配列を有する。また、CRR領域の直前で13アミノ酸が欠失したPACE4A-IIとPACE4E-IIも存在する。これらのアイソフォームはいずれも共通のSCDを有し、C末端側に各アイソフォーム特異的なアミノ酸配列を有している。
 本発明が対象とするPACE4は、ヒトPACE4由来のSCD(配列番号2)と同一またはそれと相同するアミノ酸配列からなるSCDを有するものであればよく、由来組織の別やアイソフォームの別を問わない。ゆえに本発明が対象とするPACE4には、ヒト由来のPACE4(PACE4A-I)(配列番号3)、及びその他の各種のアイソフォーム(PACE4A-II、PACE4B、PACE4C、PACE4CS、PACE4D、PACE4E-I、PACE4E-IIなど)が含まれる。
 また、上記の限りにおいてPACE4が由来する生物種の別も問わない。例えば、図4及び図5に、ラットPACE4、マウスPACE4及びヒトPACE4のアミノ酸配列の対比を示す。これから分かるように、ラットPACE4及びマウスPACE4のズブチリシン様触媒領域(SCD)は、ヒトPACE4のSCDと極めて類似したアミノ酸配列を有する。なお、ラットPACE4の全アミノ酸配列を配列番号4に、マウスPACE4の部分アミノ酸配列を配列番号5に示す。このように本発明が対象とするPACE4は、かかるヒトPACE4由来SCD(配列番号2)とアミノ酸配列が相同するSCDを有する生物種に由来するPACE4であってもよい。かかるヒト以外の生物種としては、制限されないが、例えばマウス、ラット、ウサギ、ブタ、ヤギ、ウシまたはサル等の各種の哺乳類を挙げることができる。好ましくはマウス及びラットである。 
 具体的には、そのSCDが、一部に配列番号1に示す「GIRPNYID」のアミノ酸配列を有し、かつSCDの全アミノ酸配列が配列番号2に示すアミノ酸配列(ヒト由来PACE4-IのSCDのアミノ酸配列)と70%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは95%以上の相同性(同一性)を有する、非ヒト動物のPACE4を挙げることができる。
 なお、アミノ酸配列の相同性(同一性)は、既知の方法でただちに計算することができる。かかる方法としては、特に制限されないが、Computational Molecular Biology (A. M. Lesk編、Oxford University Press 1988);Biocomputing:Informatics and Genome Projects(D. W. Smith編、Academic Press 1993);Computer Analysis of Sequence Data(Part 1,A. M. Griffin and H. G .Griffin編、Human Press 1994);G. von Heinle, Sequence Analysis in Molecular Biology(Academic Press 1987));Sequence Analysis Primer(M. Gribskov and J.Devereux編、M. Stockton Press 1991);and Carillら、1998,SIAM J. Applied Math., 48 :1073が挙げられる。相同性を決定する好ましい方法は、試験を行うアミノ酸配列間の一致が最大となるように設計される。相同性を決定する方法は、商業的に入手可能なコンピュータプログラムに記載されている。2つのアミノ酸配列間の相同性を決定する好ましいコンピュータプログラム法は、特に制限されないが、GAP(Devereuxら、1984,Nucleic acid Res.,12:387; Genetics Computer Group, University of Wisconsin, Medison, WI)、BLASTPおよびFASTA(Altschulら、1990,J.Mol.Biol.215:403-410)を含むGCGプログラムパッケージが挙げられる。BLASTXプログラムは、バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information,NCBI)および他の供給源(Altschulら、BlAST Manual(NCB NLM NIH, Bethesda,MD);Altschulら、1990、同上)より入手可能である。既知のスミス・ウォーターマンアルゴリズムも、同一性を決定するのに使用できる。
 また、本発明が対象とするPACE4には、上記限りにおいて、上記ヒト以外の動物(非ヒト動物)に由来するPACE4のアイソフォームもまた含まれる。
 本発明において配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチドは、ヒトPACE4(配列番号3)のアミノ酸番号293〜300の領域(またヒトPACE4のSCD(配列番号2)のアミノ酸番号144〜151の領域)に位置する部分ペプチドである。当該アミノ酸配列からなるペプチドをエピトープ部として有するペプチドとしては、配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドか、またはそれを一部に有するものであって、本発明のモノクローナル抗体を作成し得る抗原特性を有するものであれば特に制限されない。好ましくは、配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチドにキャリアタンパクを結合させたものを挙げることができる。
 ここでキャリアタンパクとしては、ヒト及びその他の哺乳類に存在しないタンパク、またはヒト及びその他の哺乳類に存在するタンパクと同一または類似性のないタンパクであればよく、当業界で通常使用されるものを広く用いることができる。具体的にはスカシガイのヘモシアニン(KLH)やSchistosoma japonicum(日本住血吸虫)由来グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)等を例示することができる。
 本発明のモノクローナル抗体は、例えば、前記ペプチド等を抗原として認識する抗体を産生するクローンを培養することによって製造することができる。このようなクローンは、通常の細胞融合法に従って調製することができる。具体的には、抗体産生細胞と骨髄腫細胞との間に融合ハイブリッドを形成させ、該ハイブリッドをクローン化し、次いでかかるクローンの中から前記ペプチドを抗原として認識する抗体を産生するクローンを選択することによって調製することができる。
 ここで用いる抗体産生細胞としては、配列番号1に示すアミノ酸配列をエピトープとして有するペプチド、特に好ましくは配列番号1に示すアミノ酸配列からなるペプチドまたはそのペプチドとキャリアタンパクとの結合物を抗原(免疫源)として用いて免疫した動物から取得される脾細胞、リンパ節細胞及びBリンパ球を例示することができる。
 かかる抗体産生細胞の調製は、常法に従って行うことができる。例えば、まず当該抗原を注射直前に完全もしくは不完全フロイントアジュバント中で乳化、懸濁させ、動物の皮下又は腹腔内に2〜3週間毎に数回(好ましくは3回)注射を繰り返すことにより動物を免疫させる。免疫させる動物としては、ヒト以外の哺乳動物であれば特に制限されず、例えばマウス、ラット、ウマ、ヤギ、ウサギ、ウシまたはサル等を例示することができる。抗原の静脈内投与による最終免疫より3〜5日後、免疫動物から脾細胞などの抗体産生細胞を分取する。
 骨髄腫細胞としては、マウス、ラット、ウマ、ヤギ、ウサギ、ウシまたはサル等に由来するものが使用されるが、上記抗体産生細胞と同種の動物由来であることが望ましい。例えば、マウス脾細胞の融合の相手としてはP3UI及びSP-2/O-Ag14〔Nature 277, 131-133 (1979)〕等のマウス骨髄腫細胞が用いられる。
 細胞融合は、例えば、Nature 256, 495-497 (1975)に記載の方法や、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78, 5122-5126 (1981)に記載されるUedaらの方法又はこれに準ずる方法によって行われる。通常、30〜50%ポリエチレングリコール(平均分子量1000〜4000)を用いて、30〜40℃で、1〜3分間程度反応させることによって行われる。より好ましくは、30〜50%ポリエチレングリコール(平均分子量4000)を用いて、37℃で、1〜3分間程度反応させることによって行われる。
 細胞融合によって得られたハイブリドーマは、例えば、マイクロプレート中で培養し、HAT培地(ヒポキサンチン100μM、アミノプテリン0.4μM、チミジン16μMを含む基礎培地)等を用いて生育させ、次いで生育したハイブリドーマについて抗原結合性を検定し、さらにPACE4特異抗体産生クローンのスクリーニング工程に供される。
 具体的には、増殖の見られたウエルの培養上清中の抗体価を、抗原ペプチドをスクリーニング用抗原として用いたEIA(Enzyme Immunoassay)法またはELISA(Enzyme-linked immunosorbent assay)法〔Miller, M. E., Lancet, 1,665 (1971)〕等、の酵素抗体法によって測定し、PACE4抗体産生クローンを同定する。次いで同定したクローンの中から、PACE4に反応して、他のズブチリシン様プロプロテインコンベルターゼである、例えばフリン、PC1(PC3)、PC2、PC4、PC6(PC5)及びPC8(PC7)に反応しないPACE4特異抗体産生クローンを、例えばウエスタンブロット法または免疫沈降法等によって確認し選択する。このようにして得られるハイブリドーマの一例として、実施例に詳述する、受託番号FERM BP−08498(2002年10月1日に日本寄託機関に国内寄託したFERM P-19048号よりブタペスト条約上の国際寄託機関に移管)のハイブリドーマ(Mouse Hybridoma-PACE4)を挙げることができる。
 斯くして得られるハイブリドーマクローンを、通常の動物細胞と同様に、生体内または生体外で培養することにより、体液中または培養物中に本発明のモノクローナル抗体が産生される。前者の方法として、具体的には、上記ハイブリドーマクローンを、例えば、あらかじめ0.5mlのプリスタンを投与したBalb/cマウスの腹腔内へ移植することによって行うことができる。移植後7〜14日後にモノクローナル抗体を高濃度に含む腹水が産生されるので、当該腹水より本発明モノクローナル抗体を採取することができる。
 ハイブリドーマクローンの培養物や腹水などの体液から本発明のモノクローナル抗体を回収する方法としては、制限されないが、IgGの精製方法として既知の方法、例えば、陰イオン交換体、ヒドロキシアパタイト、プロテインA又はG固定化カラム及びプロタミン固定化カラム等を用いた各種のカラムクロマトグラフィー、硫安分画法、PEG分画法、エタノール分画法及び低張緩衝液沈殿法等を挙げることができる。
 以上の如くして本発明のモノクローナル抗体は、好適にはIgGとして取得することができる。
 本発明のモノクローナル抗体は、PACE4全体、PACE4のSCDまたはPACE4のホモBドメインを抗原として得られるモノクローナル抗体のいずれでもなく、PACE4のSCDの一部のアミノ酸配列(配列番号1)をエピトープ部とするペプチド(キャリアタンパクとの結合物を含む)を抗原として得られるモノクローナル抗体であることを特徴とする。かかるPACE4のSCD内に存在する特定のペプチド断片を抗原として調製される本発明のモノクローナル抗体は、PACE4全体、PACE4のSCDまたはPACE4のホモBドメインを抗原として調製されるモノクローナル抗体と異なって、PACE4と類似の構造並びに切断特異性を有する他のズブチリシン様プロプロテインコンベルターゼ(SPC)ファミリー、例えばフリン、PC1(PC3)、PC2、PC4、PC6(PC5)及びPC8(PC7)と反応することなく、PACE4に対して特異的に反応する。
 このため、本発明のモノクローナル抗体によれば、免疫測定法を利用して、SPCファミリーの中(またはSPCファミリーが混在する組成物の中)からPACE4を選択的且つ特異的に検出することができる。よって、本発明のモノクローナル抗体は、PACE4発現の組織局在性やその発現の程度を調べたり、被験体中に存在し得るPACE4を検出したり定量するための免疫学的試薬(例えば、免疫電気泳動用試薬や免疫測定用試薬など)として有効に使用することができる。
 本発明が対象とするモノクローナル抗体には、受託番号FERM BP−08498のハイブリドーマ(Mouse Hybridoma-PACE4)が産生するモノクローナル抗体で代表される非ヒト動物由来のモノクローナル抗体だけでなく、当該モノクローナル抗体を遺伝子組み換え技術等を用いて改変した抗体、例えばキメラ抗体が含まれる。かかるキメラ抗体として、好ましくはヒト化抗体であり、かかるヒト化抗体にはヒト型キメラ抗体、及びヒト型相補性決定領域(complementary determining determining:CDR)−移植抗体が含まれる。かかるヒト化抗体は、ヒトに対する免疫原性(抗原性)が低減されているため、本発明のモノクローナル抗体を、例えばPACE4の異常発現に関連して発生する疾患の予防や治療などを目的としてヒトに適用する場合に、好適に使用される態様のものである。中でもヒト型CDR移植抗体は、ヒトに対する免疫原性がより低く、より好適な態様の抗体である(Riechmann, L., et al., Nature 332, 323-327 (1988); Isaacs, JD. et al., Lancet 340, 748-752 (1992))。これらキメラ抗体の基本的な製造方法は、当業界において公知であり(例えば、WO97/07671、特表2000-515372号公報参照のこと)、既に確立した技術になっている。
 なお、超可変領域(variable region)が抗原結合部位の形成に関与していることから、当該超可変領域を相補性決定領域(以下、「CDR」という)と、2つのCDRに挟まれた部分をフレームワーク(frame work region:以下「FR」という。)とそれぞれ呼ばれている。カバトらによって、重鎖、軽鎖の可変領域の一次配列を多数収集し、配列の保存性に基づき、それぞれの一次配列をCDRおよびFRに分類した表が作成されている(カバトら、SEQUENCES OF IMMUNOLOGICAL INTEREST, 5th edition, NIH publication, No.91-3242, E.A.Kabatt et al.参照)。また、各FRは、アミノ酸配列が共通の特徴を有する複数のサブグループに分類されており、ヒトとマウスの間で対応するフレームワークが存在することも見いだされている。
 ヒト型キメラ抗体は、ヒト以外の動物の抗体重鎖 (H鎖) 可変領域 (V領域) (以下、VHと表記する) および軽鎖 (L鎖) 可変領域 (V領域) (以下、VLと表記する) とヒト抗体のH鎖定常領域 (C領域) (以下、CHと表記する) およびヒト抗体のL鎖C領域 (以下、CLと表記する) とからなる抗体を意味する(例えば、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 81, 6851-6855 (1984)等参照のこと)。本発明が対象とするヒト型キメラ抗体は、PACE4に特異的結合性を有する前述のモノクローナル抗体を生産するハイブリドーマより、VHおよびVLをコードするcDNAを取得し、ヒト抗体CHおよびヒト抗体CLをコードする遺伝子を有する動物細胞用発現ベクターにそれぞれ挿入してヒト型キメラ抗体発現ベクターを構築し、動物細胞へ導入することにより発現させることにより製造することができる。
 ヒト型CDR移植抗体は、ヒト抗体に、非ヒト動物の抗体のVHおよびVLのCDRを非ヒト動物の抗体のCDR配列でそれぞれ置換した抗体を意味する(例えば、P.T.Jones et al., Nature 321, 522, (1986))。本発明が対象とするヒト型CDR移植抗体は、PACE4に特異的結合性を有する非ヒト動物に由来するモノクローナル抗体のVHおよびVLのCDR配列で任意のヒト抗体のVHおよびVLのCDR配列をそれぞれ置換したV領域をコードするcDNAを構築し、ヒト抗体のCHおよびヒト抗体のCLをコードする遺伝子を有する動物細胞用発現ベクターにそれぞれ挿入してヒト型CDR移植抗体発現ベクターを構築し、動物細胞へ導入し、発現させることにより製造することができる。なお、ヒト型CDR移植抗体の作成には、非ヒト動物の抗体のCDR配列全体及びFR配列の一部のアミノ酸残基をヒト抗体に移植するように、可変領域のアミノ酸配列を設計する必要がある。
 この設計は、以下の方法に従って行うことができる。一般に、移植すべきCDRを有する非ヒト哺乳動物由来抗体は「ドナー(donor)」、CDRが移植される側のヒト抗体は「アクセプター(acceptor)」と定義されるが、本発明もこの定義に従う。ヒト化のデザインを行う場合、アクセプターのサブグループの選択指針としては、(1)天然のアミノ酸配列を有する公知のヒト抗体の免疫グロブリン重鎖、軽鎖の天然の組み合わせをそっくりそのまま用いる、(2)重鎖、軽鎖が属するサブグループとして組み合わせは保存するが、重鎖、軽鎖としては、それぞれ異なるヒト抗体に由来し、ドナーの重鎖、軽鎖のアミノ酸配列と同一性が高いアミノ酸配列、またはコンセサス配列を用いる、方法がある。本発明においても、上記の指針に従うことができるが、これらと異なる方法として、(3)サブグループの組み合わせを考慮することなく、ドナーのFRと最も同一性の高い重鎖、軽鎖のFRをヒト抗体の一次配列ライブラリーの中から選択するという方法を採用することも可能である。これらの選択法により、ドナーおよびアクセプター間での、FR部分のアミノ酸の同一性を少なくとも70%以上とすることが可能となる。この方法を採用することにより、ドナーより移植するアミノ酸残基の数をより少なくすることが可能となり、ヒト抗マウス抗体応答(Human antimouse antibody response :HAMA応答)の誘導(シュロッフら、Cancer Res., 45, 879-885 (1985))を減少させることができる。
 本発明のヒト型キメラ抗体およびヒト型CDR移植抗体のヒト抗体部分は、いずれのイムノグロブリン (Ig) クラスに属するものでもよいが、IgG型のものが好適である。IgG型に属するIgG1、IgG2、IgG3、IgG4等のイムノグロブリンのC領域のいずれも用いることができる。
 II.PACE4検出用試薬キット及びそれを用いたPACE4の特異的検出方法
 本発明のモノクローナル抗体は、免疫電気泳動法または免疫測定法を利用してPACE4を検出し測定するにあたって、PACE4に対する特異的結合試薬または特異的検出試薬(免疫学的試薬)として有効に使用することができる。ここで、免疫測定法の例としては、直接または間接の競合アッセイまたは非競合アッセイ(例えば、サンドイッチ法等)挙げることができる。また、免疫電気泳動法または免疫測定法には、ウエスタンブロット法、蛍光抗体法、免疫酵素抗体法(ELISA)、放射性物質標識免疫抗体法(RIA法)、免疫組織染色法や免疫細胞染色法などの免疫組織化学染色法(ABC法、CSA法など)、免疫沈降法などが含まれる(単クローン抗体実験マニュアル、講談社サイエンティフィック(1987);続生化学実験講座5、免疫生化学研究会(東京化学同人(1986)など)。
 本発明は、PACE4を免疫電気泳動法または免疫測定法を利用して特異的に検出または測定するための試薬キットを提供する。当該本発明は、被験試料中のPACE4の存在またはその量を、抗原−抗体反応を利用して検出測定するための試薬キットであり、前述する本発明のモノクローナル抗体をPACE4に対する特異的結合試薬成分または特異的検出試薬成分として含むことを特徴とするものである。また、本発明のモノクローナル抗体に代えて、PACE4に対する特異的結合を有するその部分断片(以下、これを単に「抗体断片」ともいう)を用いることもできる。
 かかる抗体断片としては、PACE4に対する特異的結合性を有するFab (fragment of antigen binding)、F(ab')2、Fab'、一本鎖抗体 (single chain Fv; 以下、scFvと表記する)、2量化体V領域断片 (以下、Diabodyと表記する)、ジスルフィド安定化抗体(disulfide stabilized Fv; 以下、dsFvと表記する)、CDRを含むペプチド等を挙げることができる。
 Fabは、IgGのヒンジ領域で2本のH鎖を架橋している2つのジスルフィド結合 (S-S結合) の上部のペプチド部分を酵素パパインで分解して得られた、H鎖のN末端側約半分とL鎖全体で構成された、分子量約5万の抗原結合活性を有する抗体断片である。本発明で使用されるFabは、上記本発明のモノクローナル抗体をパパイン処理して得ることができる。または、上記本発明のモノクローナル抗体のFabをコードするDNAを動物細胞用発現ベクターに挿入し、該ベクターを動物細胞へ導入することにより発現させることによってもFabを製造することができる。
 F(ab')2は、IgGのヒンジ領域の2個のS-S結合の下部を酵素トリプシンで分解して得られた、2つのFab領域がヒンジ部分で結合して構成された、分子量約10万の抗原結合活性を有する抗体断片である。本発明で使用されるF(ab')2は、上記本発明のモノクローナル抗体をトリプシン処理して得ることができる。または、当該モノクローナル抗体のF(ab')2をコードするDNAを動物細胞用発現ベクターに挿入し、該ベクターを動物細胞へ導入することにより発現させることによってもF(ab')2を製造することができる。
 Fab'は、上記F(ab')2のヒンジ間のS-S結合を切断した分子量約5万の抗原結合活性を有する抗体断片である。本発明で使用されるFab'は、上記本発明のモノクローナル抗体を還元剤ジチオスレイトール処理して得ることができる。または、当該モノクローナル抗体のFab'をコードするDNAを動物細胞用発現ベクターに挿入し、該ベクターを動物細胞へ導入することにより発現させることによってもFab'を製造することができる。
 scFvは、一本のVHと一本のVLとを適当なペプチドリンカー (以下、Pと表記する) を用いて連結した、VH-P-VLないしはVL-P-VHポリペプチドで、抗原活性を有する抗体断片である。本発明で使用されるscFvに含まれるVHおよびVLは、上記本発明のモノクローナル抗体のものであればよい。本発明で使用されるscFvは、本発明のモノクローナル抗体を生産するハイブリドーマよりVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、scFv発現ベクターを構築し、大腸菌、酵母、あるいは動物細胞へ導入することにより発現させ製造することができる。
 dsFvは、VHおよびVL中のそれぞれ1アミノ酸残基をシステイン残基に置換したポリペプチドをS-S結合を介して結合させたものをいう。システイン残基に置換するアミノ酸残基はReiterらにより示された方法 (Protein Engineering, 7, 697 (1994)) に従って、抗体の立体構造予測に基づいて選択することができる。本発明で使用されるdsFvに含まれるVHあるいはVLは、本発明のモノクローナル抗体のものであればよい。本発明で使用されるdsFvは、本発明のモノクローナル抗体を生産するハイブリドーマよりVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、適当な発現ベクターに挿入してdsFv発現ベクターを構築し、該発現ベクターを大腸菌、酵母、あるいは動物細胞へ導入し、発現させることにより製造することができる。
 Diabodyは、抗原結合特異性の同じまたは異なるscFvが2量体を形成した抗体断片で、同じ抗原に対する2価の抗原結合活性または異なる抗原に対する2特異的な抗原結合活性を有する抗体断片である。本発明のDiabodyは、例えば、本発明のモノクローナル抗体に特異的に反応する2価のDiabodyは、本発明のモノクローナル抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、3〜10残基のポリペプチドリンカーを有するscFvをコードするDNAを構築し、該DNAを動物細胞用発現ベクターに挿入し、該発現ベクターを動物細胞へ導入することによりDiabodyを発現させることにより、製造することができる。
 CDRを含むペプチドは、VHまたはVLのCDRの少なくとも1領域以上を含んで構成される。複数のCDRは、直接または適当なペプチドリンカーを介して結合させることができる。本発明で使用されるCDRを含むペプチドは、本発明のモノクローナル抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを取得した後、CDRをコードするDNAを構築し、該DNAを動物細胞用発現ベクターに挿入し、該ベクターを動物細胞へ導入することにより発現させることにより、製造することができる。また、CDRを含むペプチドは、Fmoc法 (フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法 (t-ブチルオキシカルボニル法) 等の化学合成法によって製造することもできる。
 本発明のモノクローナル抗体または上記各種の抗体断片は、免疫測定用の試薬として、そのままで使用されても、また固体支持体に結合した形態で使用することもできる。ここでこれらのモノクローナル抗体及び抗体断片を結合させる固体支持体としては、当業界で周知のものを任意に使用することができ、例えばガラス、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、デキストラン、ナイロン、アミラーゼ、天然/変性セルロース、ポリアクリルアミド、寒天およびマグネタイトなどを挙げることができる。なお、これらの固体支持体には、反応トレイのウエル、試験管、ポリスチレンビーズ、マグネチックビーズ、ニトロセルロースストリップ、膜、ラテックス粒子等が含まれる。これらの固体支持体へのモノクローナル抗体等の結合方法も公知であり、本発明もまた当該公知の方法を適用することができる。
 また本発明のモノクローナル抗体及びその断片は、免疫電気泳動用及び免疫測定用などの免疫学的試薬として、そのままでもよいし、また任意の標識剤で標識された標識物の形態で使用することもできる。本発明で使用可能な標識剤としては、モノクローナル抗体への結合標識剤として当業界で公知の酵素(例えばアルカリホスファターゼ(ALP)、ペルオキシダーゼ(HRP)等)、放射性同位体(例えば、125I、3H、14C等)、蛍光性化合物(例えばフルオレセインイソチオシアネート(FITC)、テトラメチルローダミンイソチオシアネート(RITC)等)、化学発光性化合物、生物発光性化合物及び1N−(2,2,6,6−テトラメチル−1−オキシル−4−ピペリジル)−5N−(アスパルテート)−2,4−ジニトロベンゼン(TOPA)等を広く挙げることができる。なお、これらを標識剤として使用する免疫測定法は、エンザイムイムノアッセイ(EIA)、エンザイムイムノメトリックアッセイ(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RI)、蛍光イムノアッセイ、発光イムノアッセイ、スピンイムノアッセイ等と称されている。好ましくは、酵素、蛍光性化合物、及び化学発光性化合物である。尚、これらの標識剤による標識方法や間接的な標識化による修飾方法、並びにそれらの検出方法等は、自体公知の方法に従って行うことができる(「単クローン抗体」岩崎辰夫他著、講談社サイエンティフィク、1984;「酵素免疫測定法」第2版、石川栄治 他著、医学書院、1982等)。
 本発明の試薬キットには、上記本発明のモノクローナル抗体、その抗体断片またはそれら標識物のほか、免疫電気泳動法または免疫測定法などその用途に応じて、更に適当な反応液、希釈液、洗浄液、転写溶液、泳動溶液、反応停止液、抗体検出試薬、標識活性測定試薬、染色液、反応プレート、ニトロセルロースフィルター、ポリアクリルアミドゲル等が含まれていてもよい。なお、ここで抗体検出試薬としては、本発明のモノクローナル抗体と結合する二次抗体、例えば放射性物質や酵素などで標識した抗IgG抗体やプロテインA等を挙げることができる。
 本発明のモノクローナル抗体、抗体断片またはそれらの標識物を結合または検出試薬として含む上記試薬キットを利用することにより、一般の免疫電気泳動法及び免疫測定法に従い、PACE4を特異的に且つ簡便に検出及び測定することができる。
 ゆえに本発明は、本発明のモノクローナル抗体、抗体断片またはそれらの標識物をPACE4に対する特異的結合試薬または特異的検出試薬として用いるPACE4の特異的検出方法をも提供するものである。
 本発明の検出方法は、本発明のモノクローナル抗体、抗体断片またはそれらの標識物をPACE4に対する特異的結合試薬または特異的検出試薬として使用することを必須とするものであって、その限りにおいて、他の基本的操作等は特に制限されることなく、通常の免疫電気泳動法または免疫測定法における慣用の方法を広く採用することができる。故に、本発明のモノクローナル抗体等を利用した抗原−抗体反応、及び生じた抗原−抗体結合物と抗体検出試薬との反応条件も特に制限されず、通常の免疫反応における条件が採用される。通常、45℃以下、好ましくは約4〜40℃、より好ましくは25〜40℃程度の温度条件下、pHが約5〜9程度の下で、約0.5〜40時間、好ましくは1〜20時間程度放置するかもしくはインキュベーションする方法を挙げることができる。
 本発明のモノクローナル抗体及びその抗体断片はPACE4を特異的に認識するため、当該抗体を含む上記試薬キットを利用したPACE4検出法は、被験試料(例えば、血液、尿、骨髄液、唾液等)や各種組織中のPACE4の特異的検出やそれによるPACE4発現組織の分布測定、及びアフィニティーを利用したPACE4の精製に利用されるほか、PACE4発現の異常を伴う(またはPACE4発現の異常に起因する)種々の疾患の免疫化学的及び免疫組織学的診断に有用である。
 PACE4を欠損したマウスは前頭部の形成不全、単眼症を呈し、エンブリオのままで死亡することが報告されている(Costam,D.B.,et al., Genes.Dev.14, 1146-1155 (2000))。またPACE4遺伝子は、神経発生に不可欠であるβHLH型転写因子hASH−1の標的遺伝子であることも分かってきている(Biochemical J. Vol.360, pp.683-689, 2001)。また、PACE4遺伝子は軟骨分化因子であり、血管新生阻害作用を有するコンドロモジュリンの活性化を介して骨分化や目の形成においても重要な働きを担っていることが報告されている(第74回日本生化学会大会(2001年10月);生化学,73巻,8号,779頁,(2001))。こうした従来の研究から、PACE4は神経細胞や骨細胞の増殖や分化の制御を司っており、その発現異常(亢進、低下)は、例えば神経変性疾患、内軟骨腫、及び軟骨形成不全等の疾患の発症に関連していると考えられる。
 また、最近、皮膚ケラチノサイト(角化細胞)にPACE4発現ベクターを導入し、PACE4を過剰発現するようにすると、細胞が転移性の高い癌細胞に変化することが報告されている(Carcinogenesis, Vol.23, No.4, pp.565-672,(2002))。このことから、PACE4を異常発現(過剰発現)は、皮膚癌、特に転移性の皮膚癌の発生と関連していると考えられる。この場合、PACE4を異常発現(過剰発現)を抑制/低減することによって、当該疾患の発生を予防し、また改善することができると期待される。
 ゆえに、前述するPACE4の異常発現(発現亢進、発現不全/減少)に関連して生じる疾患としては、例えばパーキンソン病やハンチントン病などの神経変性疾患、軟骨過形成症、軟骨骨形成異常症、内軟骨腫及び変形性骨関節症などの骨疾患、並びに皮膚癌、乳癌、腺癌、扁平癌及び神経芽腫などの癌疾患を挙げることができる。
 III.PACE4結合剤、及びその利用
 本発明のモノクローナル抗体は、前述するように、ズブチリシン様プロプロテインコンベルターゼ(SPC)のうち、フリン、PC1、PC2、PC4、PC6及びPC8とは反応せず、PACE4を特異的に認識し結合するものである。また上記本発明が対象とする抗体断片も、その結合特異性を備えるものである。従って、本発明のモノクローナル抗体及びその抗体断片は、PACE4に対する特異的結合剤(結合用製剤)として、またその有効成分として、in vitroのみならず、in vivo及びex vivoにおいて有効に使用することができる。
 当該結合剤のin vivo及びex vivoでの使用は、PACE4の異常発現(発現亢進、発現不全/減少)に関連して生じる種々の疾患の予防または治療に有用である。この場合、本発明のモノクローナル抗体及びその抗体断片は、ヒトまたは非ヒト動物に投与できるように、単独もしくは薬学上許容される担体または添加剤とともに、製剤学の技術分野において公知の任意方法によって製造された医薬製剤として提供される。投与経路は、治療に際して適した経路を採用することができ、経口投与、または口腔内(舌下)、気道内等の経口投与、直腸内、皮下、皮内、筋肉、腹腔内、静脈内等など非経口投与を挙げることができる。消化分解を考慮すれば、望ましくは静脈内などの非経口投与経路である。投与形態としては、上記投与経路に応じて、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤、噴霧剤、乳剤、坐剤、注射剤、貼付剤、クリーム剤、軟膏剤などを挙げることができる。かかる製剤形態には、その形態に応じて、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、及びコーティング剤など、医薬の技術分野において通常使用される担体や補助剤を用いて調製することができる。
 ヒトまたは非ヒト動物への投与量や投与回数は、予防・治療目的とする疾患の種類、その程度、投与方法、年齢や体重などによって異なり、これらを考慮して適宜設定することができる。
 IV. ズブチリシン様プロプロテインコンベルターゼ・PACE4の異常発現に関連する疾患の治療に有効な物質のスクリーニング方法
 本発明は、PACE4の異常発現に起因するか又はPACE4の異常発現を伴う疾患の治療に有効な物質(候補物質)のスクリーニング方法を提供する。
 本発明のスクリーニング方法は、次の(a)、(b)および(c)の工程を含む:(a) 被験物質をPACE4を発現し得る細胞に接触させる工程、
(b) 本発明のモノクローナル抗体を用いて、被験物質を接触させた細胞におけるPACE4の発現量を測定し、同様にして被験物質を接触させない上記に対応する対照細胞におけるPACE4の発現量を測定して、両者を比較する工程、
(c) (b)の比較結果に基づいて、PACE4の発現量を増加または低下させる被験物質を選択する工程。
 かかるスクリーニングに用いられる細胞としては、PACE4またはそのアイソフォームの遺伝子を有する細胞を、ヒト及びその他の哺乳動物(例えば、マウス、ラットなど)等の生物種の別を問わず挙げることができる。具体的には、ヒト胎児腎臓由来HEK293細胞、ヒト胎児肝癌由来HepG2細胞、ヒト神経芽細胞種培養細胞、ヒト巨大球由来Dami細胞、サル腎臓由来Cos-1細胞、ラット下垂体由来GH4C1細胞、マウス下垂体由来AtT-20細胞などのPACE4/アイソフォーム発現可能な細胞を挙げることができる。
 上記候補物質となり得るものとしては、制限されないが、核酸、ペプチド、タンパク、有機化合物、無機化合物などであり、スクリーニングは、具体的にはこれらの候補物質となり得る被験物質を含む試料(被験試料)を上記細胞またはその集合体(組織)と接触させて行うことができる。かかる被験試料としては、細胞抽出物、遺伝子ライブラリーの発現産物、合成低分子化合物、合成ペプチド、天然化合物などが挙げられるが、これらに制限されない。
 また、スクリーニングに際して、被験物質と細胞とを接触させる条件は、特に制限されないが、細胞が死滅せず、且つPACE4が発現できる培養条件(温度、pH、培地組成)を選択するのが好ましい。
 PACE4の発現を抑制/低減する物質を探索する本発明のスクリーニング方法は、にPACE4の異常発現(発現亢進)に関連して発生する疾患、例えば、前述するPACE4の異常発現(発現亢進、発現不全/減少)に関連して生じる疾患としては、例えばパーキンソン病やハンチントン病などの神経変性疾患、軟骨過形成症、軟骨骨形成異常症、内軟骨腫及び変形性骨関節症などの骨疾患、並びに皮膚癌、乳癌、腺癌、扁平癌及び神経芽腫などの癌疾患の予防または改善薬の有効成分となる候補物質の取得に有効に利用することができる。
 こうした候補物質のスクリーニングは、具体的には下記のようにして行うことができる。すなわち、PACE4が発現している細胞を用いる場合には、該細胞に被験物質を接触させた場合に、当該被験物質を接触させた細胞のPACE4の発現レベルが、被験物質を接触させない対照細胞のPACE4発現レベルに比して低くなること、またPACE4の発現に発現誘導物質を必要とする細胞を用いる場合には、発現誘導物質存在下で被験物質を接触させた細胞のPACE4発現が、発現誘導物質存在下で被験物質を接触させない対照細胞のPACE4発現よりも低くなることをもって、当該被験物質を候補物質として選択することができる。
 PACE4の発現を抑制/低減する物質を探索する本発明のスクリーニング方法は、皮膚癌等のようにPACE4を異常発現(発現亢進)に関連して発生する疾患の予防または改善薬の有効成分となる候補物質の取得に有効に利用することができる。
 一方、PACE4の発現不全または低下に関連して発生する疾患の予防または改善薬の有効成分となる候補物質のスクリーニングは、下記のようにして行うことができる。すなわち、PACE4が発現している細胞を用いる場合には、該細胞に被験物質を接触させた場合に、当該被験物質を接触させた細胞のPACE4の発現レベルが、被験物質を接触させない対照細胞のPACE4の発現レベルに比して高くなること、またPACE4の発現に発現誘導物質を必要とする細胞を用いる場合には、発現誘導物質存在下で被験物質を接触させた細胞のPACE4発現が、発現誘導物質存在下で被験物質を接触させない対照細胞のPACE4発現よりも高くなることをもって、当該被験物質を候補物質として選択することができる。
 このような本発明のスクリーニング方法におけるPACE4の発現量の測定は、本発明のモノクローナル抗体またはその標識物を検出試薬として用いて行うことができる。具体的には、前記細胞の細胞画分、好ましくは細胞抽出物中のPACE4(タンパク)の量を本発明のモノクローナル抗体、その抗体断片またはそれらの標識物を利用して検出定量する方法を挙げることができる。
 斯くして被験物質の中から選択取得される物質は、PACE4の発現異常(発現亢進、発現不全/低下)に関連する疾患、例えばPACE4の過剰異常に関連して発症するパーキンソン病やハンチントン病などの神経変性疾患、軟骨過形成症、軟骨骨形成異常症、内軟骨腫及び変形性骨関節症などの骨疾患、並びに皮膚癌、乳癌、腺癌、扁平癌及び神経芽腫などの癌疾患を予防、緩和、抑制(改善、治療)する薬物の有力な候補物質となる。
 上記本発明のスクリーニング方法によって選別される候補物質は、さらに疾患モデル動物を用いた薬効試験、安全性試験、さらに臨床試験に供されることにより、より実用的な予防薬や治療薬を取得することができる。このようにして選別された物質は、さらにその構造解析結果に基づいて、化学合成、生物学合成(発酵)または遺伝子学的操作によって、工業的に製造することができる。
 本発明のモノクローナル抗体は、ズブチリシン様プロプロテインコンベルターゼ・PACE4を特異的に認識し反応するため、当該PACE4の特異的検出及び特異的結合に有用である。かかる本発明のモノクローナル抗体(これを含むPACE4検出試薬)並びにそれを利用したPACE4の特異的検出によれば、生体組織におけるPACE4の発現分布を免疫化学的に調べることができ、PACE4の生理学的作用並びに意義をより詳細に解明することが可能となる。また、本発明のモノクローナル抗体(これを含むPACE検出試薬)並びにそれを利用したPACE4の特異的検出法は、PACE4の異常発現(発現亢進、発現不全/減少)に関連して生じる種々の疾患の免疫化学的及び免疫組織学的診断に有用である。これらの疾患としては、例えばパーキンソン病やハンチントン病などの神経変性疾患、軟骨過形成症、軟骨骨形成異常症、内軟骨腫及び変形性骨関節症などの骨疾患、並びに皮膚癌、乳癌、腺癌、扁平癌及び神経芽腫などの癌疾患を挙げることができる。
 本発明のモノクローナル抗体、特に後述する実施例に具体的に記載するマウス由来のモノクローナル抗体は、PACE4に特異的結合性を有するヒト化抗体、特にヒト型キメラ抗体やヒト型CDR移植抗体の調製のために好適に使用することができる。かかるヒト型キメラ抗体やヒト型CDR移植抗体は、PACE4の異常発現に関連して生じる種々の疾患の予防または治療に利用することが可能である。
 以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1
(1)抗原ペプチドの調製
 配列番号1に記載するアミノ酸配列を有するペプチド〔GIRPNYID:PACE4のアミノ酸配列(配列番号3)293〜300位領域〕を固相法により合成し、次いでこれをヘモシアニンに架橋して、抗原ペプチドを調製した。なお、ヘモシアニンは予めN-ethylmaleimideで処理し、ヘモシアニンのSH基をブロックした後、ペプチドとの架橋反応に用いた。架橋反応は、市販されている同仁化学研究所のGMBS 〔N-(4-Maleimidobutyryloxy)succinimide〕を用いて、そのマニュアルに従って行った。
 (2)ハイブリドーマの調製
(1)で調製した抗原ペプチドの水溶液(2ml PBSに溶解、精製ペプチド0.275mgに相当)を等量のフロイント完全アジュバントと混合し、これを用いて8週齢のBALB/cマウス雌(日本クレア社製)3匹を免疫した。具体的には、マウスl匹あたりそれぞれ精製ペプチド91.7μgに相当する量を0.656mlの溶液として腹腔内に投与した。1回目の免疫から25日後にフロイント不完全アジュバントと等量混合した抗原ペプチド溶液(精製ペプチド86μgに相当)を腹腔に追加免疫した。さらに初回免疫から40日後、抗原ペプチド溶液0.2ml(精製ペプチド50μgに相当)をマウスの尾静脈に注射し最終免疫とした。その3日後に、マウスの脾臓を取り出し、5mlの増殖培地(ウシ胎児血清と抗生物質を含まないDMEM)中でホモジナイズし、次いで遠心分離によって脾細胞を分離取得した。
 斯くして得られた脾細胞にミエローマ細胞〔ATCC コード;CRL-1581 (細胞名:
Sp2/0-Ag14)〕を細胞数が10:1になるように混合して細胞懸濁液を調製し、遠心分離により得られた細胞を1mlのポリエチレングリコール(PEG)50%(w/w)含むDMEM(PEG4000溶液)に懸濁し、徐々にDMEM培地10mlで希釈してPEG濃度を5%とし、細胞を遠心分離機で分離した。細胞をHT培地45mlに懸濁し(3×106/ml)、96穴プレート5枚に0.1ml/ウエルの割合で植えた。5%CO2存在下で12時問培養した後、HA2T培地(0.8μM アミノプテリン含有HT培地)を0.1ml/ウエルの割合で加え、5%CO2存在下、37℃でコロニーが形成されるまで静置培養した。
 1週間後、432個形成されたコロニーの数と大きさを各ウエルごとに確認し、直径が1mm以上のコロニーを含むウエルの抗体価をEIA法で調べ、限界希釈法で抗体産生細胞をクローニングした。
 (3)PACE4特異抗体産生クローンの調製
 (3-1)EIA法
 上記のハイブリドーマ培養上清について、上記抗原ペプチド(GIRPNYID)を用いて酵素結合イムノアッセイ(EIA法)を行い、PACE4抗体産生陽性クローンをスクリーニングした。
 具体的には、96穴EIA用マイクロタイタープレートの各ウエルに上記抗原ペプチド溶液(GIRPNYID)(10μg/ml)を50μlずつ加え、37℃で一晩放置した。次に1%ウシ血清アルブミン(Sigma社、PBSに溶解)を300μlずつ加え、室温で反応した。反応30分後、各ウエルをPBS300μlで3回洗浄した。次にクローン化したハイブリドーマ細胞の培養上清を各々50μl加え、室温で1時間反応した。反応後300μlのPBSで各ウエルを6回洗浄し、1000倍希釈したヤギ抗マウスIg(G+A+M)抗体(Cappel製)を各ウエルに50μlずつ加え、室温で1時間反応した。次いで300μlのPBSで各ウエルを6回洗浄し、ペルオキシダーゼ基質混液(50mMリン酸ナトリウム、pH4.5、0.02% 過酸化水素、2mM ABTS(2,2'-Azino-bis(3-ethylbenzothiazolin-6-sulfonic acid diammonium salt))を各ウエルに50ml加え、室温で20分発色させた。反応終了後マイクロタイターリーダーで415nmの吸光度を測定し、PACE4抗体産生クローンをスクリーニングした。
 斯くして同定されたPACE4抗体産生クローン(陽性クローン)について、次にウエスタンブロット法を用いて、酵母に発現したヒトPACE4 〔Δ680、アミノ酸番号64-679の領域(プロペプチド、ズブチリシン用触媒領域及びホモB領域を含む)のアミノ酸配列からなるPACE4〕、およびヒト胎児腎臓由来HEK293細胞に発現したヒトPACE4に対する反応性を確認した。
 (3-2) ウエスタンブロット法
(i)酵母での組換えヒトPACE4(Δ680)の発現
 酵母(メタノール資化性酵母、Pichia Pastoris,インビトロゲン社製)を宿主として、遺伝子組換え法によりプロペプチドから679番目のアミノ酸を含むPACE4(Δ680)を発現産生させた。具体的にはpQE30ベクターに組み込まれたプロペプチドから679番目のアミノ酸を含むPACE4をPCR法で増幅し、C末端にHis-Tagを含むpro PACE4Δ680断片を調製した。次にこの断片をXhoI, BamHIで消化した酵母発現ベクターpHILS-1(インビトロゲン社製)に組み込み、大腸菌にトランスフォームした。目的ベクターproPACE4Δ680/pHILS-1を含むクローンを選択後、培養したクローンからプラスミドをアルカリSDS法にて精製した。酵母は30時間YPD培地(1% yeast extract, 2% pepton, 2% glucose)で培養後、そのうち0.7mlの培養液を遠心して得られた沈殿を水で懸濁し、さらに遠心した沈殿にSalIで直鎖化したproPACE4Δ680/pHILS-1プラスミドと混合し、PLATE溶液(40% polyethyleneglycol, 0.1M LiCl, 10mM Tris-HCl, pH7.5, 1mM EDTA)と混合し、室温で10時間反応した。反応後、RD培地(1M glucitol, 1% dextrose, 1.34% YNB, 4x10-5 biotin, 0.005 % amino acids)に植菌し、30℃、13日間反応した。
 得られた酵母をMGY培地(1.34% YNB,l% glycerol,4x10-5% biotin)で培養し、zymolyaseで処埋したのち、SDSで溶菌後、5M酢酸カリウムと反応した。遠心後得られた上清をイソプロパノール沈殿後、RNase処理、フェノール抽出、クロロホルム抽出、エタノール沈殿によってゲノムDNAを分離した。
 proPACE4Δ680/pHILS-1プラスミドを含む酵母クローンをPCR法によってスクリーニングし、目的酵母クローンを得た。形質転換した酵母を、BMGY培地(1% yeast extract, 2% pepton, 0.1M potassium phosphate, pH6.0, 1.34% YNB, 4x10-5% biotin, 1% glycerol)で30℃で振盪培養し、これを濁度が1になるようにBMMY培地(1% yeast extract, 2% pepton, 0.1M potassium phosphate, pH6.0, 1.34% YNB, 4x10-5% biotin, 1%methanol)に加え、30℃で48時間培養した。菌体を遠心操作により集めSDS-PAGE試料液で可溶化後、ウエスタンブロット用試料とした。酵母組換えヒトPACE4は分子量780kDaのタンパクとして同定された。
 (ii)哺乳類細胞発現用ヒトPACE4発現ベクターの作製と発現
 ヒトPACE4cDNAは、ヒト胎盤cDNAライブラリーよりクローニングした(Mori, K., et al., J. Biochem. 121, 941-948 (1997))。完全長ヒトPACE4cDNAはSalIで消化後、pALTERMAX(プロメガ社製)にクローニングした。発現ベクターはFuGene(ロッシュ社製)を用いて、メーカーのプロトコールに従ってヒト胎児腎臓由来培養細胞(HEK293)にトランスフェクトした。
 48時間後、培養液をOpti-MEM(Gibco Life Science社製)に交換し、さらに24時間反応した。培養液を遠心後、限外ろ過にて濃縮し、ウエスタンブロット用試料とした。PACE4発現量は、抗SCD抗体、抗PACE4HomoB抗体を用いたウエスタンブロット法にて確認した。
 (iii)ウエスタンブロット法による組換えヒトPACE4に対するモノクローナル抗体の反応性確認
 上記(i)PACE4発現酵母細胞の溶解液、または(ii)PACE4発現ベクターをトランスフェクトしたHEK293細胞の培養濃縮液をSDS電気泳動にかけ、ニトロセルロース膜に転写し、次いで膜を3%スキムミルク溶液(10mM Tris-HCl,pH7.5, 0.15M NaClに溶解)でブロッキングした。次いでTTBS(10mM Tris-HCl, pH7.5, 0.15M NaCl, 0.05% Tween20)で洗浄した。斯くして調製したニトロセルロース膜に(3-1)で確認したハイブリドーマ培養上清と室温で15時間反応させ、次いでTTBS(10mM Tris-HCl, pH7.5, 0.15M NaCl, 0.05% Tween20)溶液で2回膜を洗浄後、2次抗体としてペルオキシダーゼ架橋ヤギ抗マウス免疫グロブリンIgG,M,A抗体(2000倍、Cappel社)と室温で3時問反応させた。得られたニトロセルロース膜をTBS及びTTBSで洗浄し、Pierce Super Signal発色キット(Pierce社製)を用いて化学発色させて、上記(3-2)でEIA法でクローニングしたPACE4抗体産生クローンについて、PACE4に対する抗体産生を確認した。
 (3-3) 免疫沈降法
 次いで、上記でPACE4に対する抗体産生が確認された各PACE4抗体産生クローンについて、さらにPACE4特異抗体産生クローンを選別するため、免疫沈降法を用いてPACE4及びこれと構造が類似する他のSPCファミリープロテアーゼ(フリン、PC1、PC6A、PC6B、PC8)との反応性を調べた。
 なお、SPCファミリープロテアーゼに属する他の酵素PC2及びPC4については、そのアミノ酸配列やその組織発現局在性からPACE4抗体産生クローンと反応性を示さないと考えられるため実験を行っていない。具体的には、(1)本発明のモノクローナル抗体の作成において抗原ペプチドとして使用したエピトープ領域(GIRPNYID)に相当するPC2及びPC4のアミノ酸配列は、それぞれ「SHMPQLID」及び「SLQPQHIH」であり、上記抗原ペプチドと相同性がないこと、(2)PC2は膵臓ランゲルハンス島などの内分泌細胞のみに、PC4は睾丸のみに発現しており、PACE4が発現する細胞と明確に区別できること等を理由として挙げることができる。
 免疫沈降法は、具体的には下記の手順に従って行った。
1)発現ベクターの構築
 フリン、PC1、PC6A、PC6B及びPC8の発現ベクターは、実施例1(3)(3-2)(ii)の「哺乳類細胞発現用ヒトPACE4発現ベクターの作製」の欄に記載する方法に従って作製することができる。ここでは、フリン、PC1、PC6A及びPC6Bの発現ベクターとして、それぞれ中山和久博士(筑波大学)から供与されたTrancated mouse furin(C末の膜結合領域を欠失)発現ベクターΔ704/pAC、mouse PC1発現ベクター(PC1/pCMV)、mousePC6A及びPC6B発現ベクター(PC6A/pRcCMV,PC6B/pRcCMV)を用いた。またPC8の発現ベクターは、Dr.T.J.Martin(メルボルン大学、オーストラリア)から供与されたPC8 cDNAをpALTERMAX(Promega社)に組み込んで作製した。
2) 次いで、調製した各酵素発現ベクターを、それぞれHEK293細胞(ATCCより入手)にFuGene(Roche社)を用いてトランスフェクトした。
3) トランスフェクトから48時間後 培養液をメチオニン、システインを含まないMEM培養液に交換し、1時間反応した。
4) 次いで、100・Ci/mlになるように[35S]-メチオニン溶液及びシステイン溶液を加え、一晩(16時間)反応し、[35S]-メチオニンで標識した。
5) 培養液から、細胞抽出液(c)と培養上清(m)をそれぞれ回収し、それぞれに4X 免疫沈降バッファー(1.6M KCl, 4% Triton X-100, 0.4M Tris-HCl, pH 7.5, 2.5 mM EDTA, 5 mg/ml プロテアーゼインヒビター, leupeptin, E-64、pepstatin, chymostatin )を培養液容量の3分の1加え、さらにこれらの中に、上記で得られたPACE4抗体産生クローンを加えて、4℃にて一晩反応した。
6) これらに二次抗体としてProtein A-Sepharoseを10μl加え、4℃にて1時間反応させ、上記で生成した抗原-抗体複合体をProtein A-Sepharoseに結合させた。
7) 遠心(12,000rpm,1分)して上清を除き、残ったProtein A-Sepharoseゲルを1X 免疫沈降バッファーでサスペンドして、上記と同様に遠心して上清を除去する操作を9回繰り返した。
8) 最後に得られたProtein A-Sepharoseゲルを100μlのPBSで遠心洗浄し、ゲルにSDS試料溶液(4%SDS、10%β-メルカプトエタノール、0.125M Tris-HCl,pH6.8, 20%グリセロール、0.002%ブロモフェノールブルー)を20μl添加して100℃で2分間処理した。
9) これを遠心して上清をSDS-PAGEにかけた。電気泳動後、クマシーブルーでゲルを染色し、脱色して、増感剤でゲルを30分間処理してゲルドライヤーで乾燥させた。
10) 調製したゲルをX線フィルムに感光させて(−80℃で数日)、現像した。
11) なお、比較試験として、上記ペプチド(GIRPNYID)に対する抗体産生クローン(PACE4抗体産生クローン:)に代えて、PACE4触媒領域に対する抗体(anti-SCD)を用いて、同様にして各酵素に対して免疫沈降試験を行った。
 上記免疫沈降法の結果、PACE4とのみ反応し、他のSPCファミリー(フリン、PC1、PC6A、PC6B、及びPC8)と全く反応しない抗体を産生する2つのハイブリドーマクローン(1-D-1、1-D-6)を分離した。図6にこれら2つのハイブリドーマクローンの酵母細胞発現PACE4(Δ680)に対するウエスタンブロットの結果を、また図7に1-D-6クローンのHEK293細胞発現PACE4に対するウエスタンブロットの結果を示す。また、図8(A)〜(C)に免疫沈降の結果を示す。
 図8(A)に示すように、比較試験で抗SCD抗体(anti-SCD)を抗体として使用した場合は、PC1,PC6A、及びPACE4(いずれも分泌酵素)の発現細胞はいずれもその細胞抽出物(c)と培養上清の両方にanti-SCDと反応するバンドが確認された。また、フリン、PC6B、及びPC8(いずれも膜結合酵素)の発現細胞のいずれにもその細胞抽出物(c)に抗SCD抗体(anti-SCD)と反応するバンドが確認された(PC6Bは僅かに可溶化されたsheddinng formが培養上清(m)に検出された)。なお、分子量約68kDaのバンドはMock(外来遺伝子を挿入しない空の発現ベクター)も含めて全ての細胞抽出液(c)に認められることから、細胞抽出液に由来する非特異的バンドであると判断された。
 以上のことから、PACE4の触媒領域(SCD)を抗原として作製された抗体(抗SCD抗体(anti-SCD))は、全てのSPCファミリーと反応して、PACE4に対して特異的でないことが確認された。なお、PACE4の触媒領域(SCD)のC末端側に位置するホモBドメインを抗原として作製した抗体(抗HomoB抗体)も、PACE4(PACE4-II, PACE4-I)だけでなく、他のSPCファミリー(フリン、PC1、PC2、PC6A、PC6B、及びPC8)とも反応して、PACE4に対して特異的でないことが判明している(図9)。
 一方、図8(B)及び(C)に示すように、ハイブリドーマクローン(1D−1、1D−6)の培養上清(m)を抗体として免疫沈降反応を行うと、68kDaの非特異バンド以外に検出されたバンドは、PACE4の発現細胞(細胞抽出液(c)110kDa、培養上清(m)103kDa)だけであった。また、これらのバンドは、分子量から、抗SCD抗体(anti-SCD)について得られたPACE4のバンドと一致した。この結果から、上記ハイブリドーマ(1D−1、1D−6)は、SPCファミリーのうちPACE4とのみ結合する特異性の高いモノクローナル抗体を産生していることが確認できた。また、SDS変性条件下で行ったウエスタンブロットの結果(図6、7)から考えて、上記モノクローナル抗体は、SDS変性状態及び未変性状態の両方でPACE4と特異的に反応する抗体であることがわかる。
 なお、上記で得られたハイブリドーマ(1-D-1)を、「Mouse Hybridoma−PACE4」と命名し、2002年10月1日付けで、日本国茨城県つくば市東1丁目1番1中央第6に住所を有する独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに、微生物の表示:(寄託者が付した識別のための表示)Mouse Hybridoma−PACE4、(受託番号)FERM P−19048として国内寄託した。そして、それを2003年9月29日にブタペスト条約に基づく国際寄託に移管し、(受託番号)FERM BP−08498として受託された。
 (4)PACE4モノクローナル抗体の精製
 上記で得られたハイブリドーマクローン(1D−1、1D−6)から、下記の方法に従ってPACE4モノクローナル抗体を精製した。
 まずハイブリドーマを4.5g/L グルコース及び10%ウシ胎児血清、及び抗生物質(ペニシリンG 10万単位/L、硫酸ストレプトマイシン0.1g/L、ゲンタマイシン10 mg/L、 アンテホリンB 0.2 mg/L)を含むDMEM培地(Sigma社)で培養した。コンフルエントに達した後、細胞をPBSで2回遠心洗浄し、ウシ胎児血清フリーの4.5g/Lグルコースと抗生物質を含むDMEM培地(Sigma社)に細胞密度が2〜3x106/mlになるように移し、生存率が10%以下であることを確認した後、培養上清を回収した。遠心操作で不溶物を除去後、限外ろ過、硫安分画によって濃縮した。濃縮した培養液をPBSで透析し、Protein G-Sepharoseカラム(Amersham-Pharmacia社)にかけ、20mM sodium phosphate buffer, pH7.0で洗浄後、抗体を0.1M Glycine-HCl、pH2.7で溶出した。直ちに1M Tris-HCl,pH9.0で中和した後、PBSで透析し、限外ろ過法で濃縮した。
 本発明のモノクローナル抗体は、ズブチリシン様プロプロテインコンベルターゼ・PACE4を特異的に認識し反応するため、当該PACE4の特異的検出及び特異的結合に有用である。かかる本発明のモノクローナル抗体、その抗体断片またはこれらの標識物を利用したPACE4の特異的検出によれば、生体組織におけるPACE4の発現分布を免疫化学的に調べることができ、PACE4の生理学的作用並びに意義をより詳細に解明することが可能となる。また、本発明のモノクローナル抗体、その抗体断片またはこれらの標識物を利用したPACE4の特異的検出法は、PACE4の異常発現(発現亢進、発現不全/減少)に関連して生じる種々の疾患の免疫化学的及び免疫組織学的診断に有用である。
 本発明のモノクローナル抗体、特に後述の実施例に具体的に記載するマウス由来のモノクローナル抗体は、PACE4に特異的結合性を有するヒト化抗体、特にヒト型キメラ抗体やヒト型CDR移植抗体の調製のために好適に使用することができる。かかるヒト型キメラ抗体やヒト型CDR移植抗体は、PACE4の異常発現に関連して生じる種々の疾患の予防または治療に利用することが可能である。
TGFβ関連分化因子のプロセシングプロテアーゼ(ズブチリシン様プロプロテインコンベルターゼ)による活性化機構を示す図面である。 ズブチリシン様プロプロテインコンベルターゼのファミリー(フリン、PC2、PC1/3、PC4、PACE4、PC5/6、PC7/8)の各ドメイン領域を示す構造模式図である。図中、SPはシグナルペプチド、Proはプロペプチド、SCDはズブチリシン様触媒領域、HomoBはホモBドメイン、CRRはシステインリッチドメイン、TMDは膜結合ドメインを示す。 ヒトPACE4の各種アイソフォームの各ドメイン領域を示す構造模式図を示す。 PACE4のアミノ酸配列を、ラット(上段)、マウス(中段)、及びヒト(下段)(PACE4A-I)についてそれぞれ対比した図面である(図5に続く)。なお、図中、「・」、「:」及び「★」は、それぞれ3種の哺乳類間のアミノ酸が、類似した性質を有するアミノ酸(「・」)、同じ液性または極性を有するアミノ酸(塩基性アミノ酸、酸性アミノ酸、疎水性アミノ酸など)(「:」)、及び同一のアミノ酸(「★」)であることを示す(図5において同じ)。なお、ヒトPACE4のアミノ酸配列において、N末端から数えて、シグナルペプチド領域はアミノ酸番号1〜63位、プロペプチド領域はアミノ酸番号64〜149位、ズブチリシン様触媒領域はアミノ酸番号150〜454位、ホモB領域はアミノ酸番号496〜634位、システインリッチ領域はアミノ酸番号695〜969位に位置する。 PACE4のアミノ酸配列を示す図4の続きである。 実施例1(3-2)(i)(iii)における実験の結果、すなわち、PACE4特異抗体産生クローン(1-D-1、1-D-6)について、酵母細胞発現PACE4(Δ680)を抗原としてウエスタンブロッティングを行った結果を示す(各クローンについて「Δ680」で示すレーン)。また対照として、「Mock」に示すレーンに、PACE4遺伝子を挿入しない空の発現ベクター(Mock)を抗原としてウエスタンブロッティングを行った結果を併せて示す。この結果から、PACE4特異抗体産生クローン(1-D-1、1-D-6)は、酵母細胞(Mock)に由来する蛋白質とは反応せず、PACE4(Δ680)(分子量76kDa)並びにその分解産物と特異的に反応することがわかる。 実施例1(3-2)(ii)(iii)における実験の結果、すなわち、PACE4特異抗体産生クローン(1-D-6)について、HEK293細胞発現PACE4を抗原としてウエスタンブロッティングを行った結果を示す(PACE4レーン)。また対照として、PACE4遺伝子を挿入しない空の発現ベクターを抗原としてウエスタンブロッティングを行った結果を併せて示す(Mockレーン)。この結果から、PACE4特異抗体産生クローン(1-D-6)は、酵母細胞(Mock)に由来する蛋白質とは反応せず、PACE4(分子量103kDa)と特異的に反応することがわかる。 実施例1(3-3)における免疫沈降法の結果を示す。すなわち、PACE4特異抗体産生クローン(1D−1、1D−6)(図B、C)及びPACE4のSCDを抗原として作製したモノクローナル抗体(抗SCD抗体(anti-SCD))(図A)と、各酵素(PC1,フリン、PC6A,PC6B,PACE4,PC8)を発現するHEK293細胞、及び発現ベクターを導入したHEK293細胞(Mock)の各細胞抽出液(c)と培養上清(m)との反応性(免疫沈降反応)をみた結果を示す。 PACE4の触媒領域(SCD)のC末端側に位置するホモBドメインを抗原として作製したモノクローナル抗体(抗HomoB抗体)について、各種のSPCファミリー(左レーンからMock、フリン、PC1、PC2、PC6A、PC6B、PC8、PACE4A-I,及びPACE4A-II)との反応性を、免疫沈降法によって調べた結果を示す図である。

Claims (11)

  1. ズブチリシン様プロプロテインコンベルターゼのうち、PACE4と反応し、フリン、PC1、PC2、PC4、PC6及びPC8とは反応しないことを特徴とするモノクローナル抗体。
  2. 配列番号1のアミノ酸配列をエピトープ部として有するペプチドに対するモノクローナル抗体である、請求項1に記載するモノクローナル抗体。
  3. 受託番号FERM BP−08498のハイブリドーマによって産生される請求項1または2に記載のモノクローナル抗体。
  4. ヒト化抗体である、請求項1または2に記載のモノクローナル抗体。
  5. ズブチリシン様プロプロテインコンベルターゼのうち、PACE4に反応し、フリン、PC1、PC2、PC4、PC6及びPC8とは反応しないことを特徴とするモノクローナル抗体を産生するハイブリド−マ。
  6. 受託番号FERM BP−08498のハイブリドーマ(Mouse Hybridoma-PACE4)。
  7. 請求項1乃至4のいずれかに記載のモノクローナル抗体、PACE4に対して特異的結合性を有するその断片、またはそれらの標識物をズブチリシン様プロプロテインコンベルターゼ・PACE4に対する特異的結合試薬または特異的検出試薬として含む、ズブチリシン様プロプロテインコンベルターゼ・PACE4検出用試薬キット。
  8. 請求項1乃至4のいずれかに記載のモノクローナル抗体、PACE4に対して特異的結合性を有するその断片、またはそれらの標識物を含有する、ズブチリシン様プロプロテインコンベルターゼ・PACE4に対する特異的結合剤。
  9. 請求項1乃至4のいずれかに記載のモノクローナル抗体、PACE4に対して特異的結合性を有するその断片、またはそれらの標識物を、ズブチリシン様プロプロテインコンベルターゼ・PACE4に対する特異的結合試薬または特異的検出試薬として用いる工程を有する、ズブチリシン様プロプロテインコンベルターゼ・PACE4の特異的検出方法。
  10. 下記の(a)、(b)および(c)の工程を含む、ズブチリシン様プロプロテインコンベルターゼ・PACE4の異常発現に関連する疾患の治療に有効な物質のスクリーニング方法:
    (a) 被験物質をズブチリシン様プロプロテインコンベルターゼ・PACE4を発現し得る細胞に接触させる工程、
    (b) 請求項1乃至4のいずれかに記載のモノクローナル抗体、PACE4に対して特異的結合性を有するその断片、またはそれらの標識物を用いて、上記被験物質を接触させた細胞におけるズブチリシン様プロプロテインコンベルターゼ・PACE4の発現量を測定し、同様にして被験物質を接触させない上記に対応する対照細胞におけるズブチリシン様プロプロテインコンベルターゼ・PACE4の発現量を測定して、両者を比較する工程、
    (c) (b)の比較結果に基づいて、ズブチリシン様プロプロテインコンベルターゼ・PACE4の発現量を増加または低下させる被験物質を選択する工程。
  11. ズブチリシン様プロプロテインコンベルターゼのうち、PACE4と反応し、フリン、PC1、PC2、PC4、PC6及びPC8とは反応しないヒト化抗体の調製のための、請求項3に記載するモノクローナル抗体の使用。
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