JP2004137569A - リング状鋼部品の焼入方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】リング状鋼部品11の内側にプラグ12を挿入して焼入れを行う焼入方法において、前記プラグ12として、20〜300℃での線膨張係数が16×10−6以上の耐熱性材料、例えばオーステナイト系のステンレス鋼、耐熱鋼等を選択し、かつプラグ12の直径Dと鋼部品11の内径dとの比D/dを、0.9983以上1.0未満に設定する。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、リング状鋼部品の焼入方法に係り、より詳しくはリング状鋼部品の内側に焼入歪防止用プラグを挿入して行う焼入方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、この種の焼入方法としては、特許文献1、特許文献2等に記載された方法がある。特許文献1に記載された方法は、図4に示すように、リング状鋼部品(ここでは、歯車)1の内側に軸状のプラグ2を挿入した状態で焼入れ(浸炭焼入)を行うもので、冷却時に、鋼部品1がプラグ2よりも先に冷却されて収縮することで、両者が一時的に接触し、鋼部品1の内径部がプラグ2により矯正され、その後にプラグ2の冷却が進むことで、両者の間にクリアランスが生じる、としている。
一方、特許文献2に記載された方法は、プラグをリング状鋼部品よりも熱膨張係数(線膨張係数)の小さい材料で形成し、加熱時に、熱膨張差で該プラグを部品内に落とし込ませることにより、冷却時に、鋼部品の内径部をプラグにより矯正するものである。
【0003】
【特許文献1】
特開昭63−195256号公報
【特許文献2】
実開平3−128649号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、焼入れに際しては、マルテンサイト変態に伴って体積膨張が発生し、この変態過程で最も歪が生じ易くなる。したがって、リング状鋼部品の焼入歪を抑制するには、このマルテンサイト変態が開始する温度付近(200〜300℃)で、いかに鋼部品の内径部を拘束(矯正)するかが重要な課題となる。
しかしながら、上記した特許文献1に記載された焼入方法によれば、プラグ材として必要な線膨張係数やプラグの直径と部品の内径との径差などについての明確な規定がないため、前記マルテンサイト変態が開始する温度付近で鋼部品とプラグとが接触しないか、接触してもその程度はわずかとなる虞があり、所望の矯正効果を安定して得ることは困難であった。
一方、上記特許文献2に記載された焼入方法によれば、温度差嵌め方式でプラグをリング状鋼部品に挿入するので、マルテンサイト変態が開始する温度付近における矯正効果も十分となるが、焼入後(常温)においてもプラグが鋼部品に密着する状態を維持するため、外力を加えてプラグを鋼部品から強制的に抜取らなければならず、その抜取り作業に多くの工数を要し、その上、鋼部品の変形や傷付きあるいはプラグの損傷を招く危険があった。
【0005】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたもので、その課題とするところは、マルテンサイト変態が開始する温度付近でも鋼部品とプラグとの接触状態を確実に維持できることはもちろん、焼入れ前後において鋼部品に対するプラグの挿脱を容易に行うことができるようにし、もって寸法形状精度に優れたリング状鋼部品を安定的にかつ効率よく得ることができる焼入方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明は、リング状鋼部品の内側にプラグを挿入して焼入れを行う焼入方法において、前記プラグとして、20〜300℃での線膨張係数が16×10−6/℃以上の耐熱性材料、例えばオーステナイト系のステンレス鋼または耐熱鋼を選択し、かつ前記プラグの直径と前記鋼部品の内径との比を、0.9983以上1.0未満に設定することを特徴とする。
本発明において、上記プラグとして、20〜300℃での線膨張係数が16×10−6/℃以上の耐熱性材料を選択したのは、16×10−6/℃未満の材料を選択すると、鋼部品がマルテンサイト変態を開始する温度付近(200〜300℃)でプラグと鋼部品とが接触しない虞れがあるためである。
また、プラグの直径と鋼部品の内径との比(径比)を、0.9983以上1.0未満に設定したのは、該径比が0.9983未満では、鋼部品がマルテンサイト変態を開始する温度付近(200〜300℃)でプラグと鋼部品とが接触しない虞れがあり、一方、該径比が1.0以上では、焼入前における鋼部品に対するプラグの挿入、焼入後における鋼部品からのプラグの抜き取りが困難になるためである。
上記したように行うリング状鋼部品の焼入方法においては、プラグの線膨張係数を厳密に規定すると共に、プラグの直径と鋼部品の内径との比を厳密に規定しているので、マルテンサイト変態が開始する温度付近でも鋼部品とプラグとの接触状態が確実に維持され、プラグによる鋼部品の矯正効果が十分に発揮される。しかも、常温付近では、部品とプラグとの間にクリアランスが生じるので、鋼部品に対するプラグの挿脱を容易に行うことができる。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
本発明の実施に際しては、図1に示すように、リング状鋼部品11の内側に軸状のプラグ12を挿入した状態で焼入れを行う。
【0008】
上記リング状鋼部品11は、マルテンサイト変態を起こして硬化する材料であれば、その材種は任意であり、炭素鋼はもとより、クロム、ニッケル、モリブデン、バナジウム等を比較的少量含む低合金鋼、あるいは前記した合金元素を比較的多量に含む高合金鋼を選択することができる。一方、プラグ12としては、20〜300℃での線膨張係数が16×10−6/℃以上であり、しかも耐熱性に優れた材料を選択する。このような条件を満たす材料としては、オーステナイト系のステンレス鋼および耐熱鋼(鋳鋼を含む)があるが、これらは、何れも丸棒素材として入手容易であり、プラグ12にかかるコスト負担もわずかで済む。。
また、ここでは、上記プラグ12の直径Dと鋼部品11の内径dとの比D/dを、0.9983以上1.0未満の範囲に設定する。すなわち、プラグ12は、鋼部品11の内面との間にわずかのクリアランスを形成するようにその直径Dが設定されている。
【0009】
上記したようにリング状鋼部品11にプラグ12を挿入した状態で焼入温度まで加熱すると、プラグ12の膨張度合が鋼部品11の膨張度合よりも大きいため、図2に示すように加熱途中からプラグ12が鋼部品11の内面11aに接触する。すなわち、鋼部品11は、その内径部がプラグ12により拘束され、したがって、この加熱中、鋼部品11に生じる熱歪(熱変形)が矯正される。
一方、冷却時には、鋼部品11が200〜300℃付近でマルテンサイト変態を開始するが、この温度付近でも鋼部品11とプラグ12とが接触状態を維持するので、鋼部品11に生じる大きな変態歪が矯正される。
さらに、鋼部品11の変態開始後、常温までは鋼部品11の収縮よりもプラグ12の収縮が進むので、両者の間には初期設定とほぼ同じクリアランスが形成され、これにより鋼部品11からプラグ12を容易に抜き取ることができる。
すなわち、本発明の方法によれば、マルテンサイト変態の開始付近を含めて広い温度範囲で鋼部品11の内径部がプラグ12により拘束されるので、鋼部品11の熱歪および変態歪が著しく抑制され、結果として寸法形状精度に優れた鋼部品が安定して得られるようになる。
【0010】
【実施例】
表1に示すように、SCr420(JIS)から形成した前記形状の鋼部品11(図1)と、20〜300℃での線膨張係数が15.3×10−6〜18.4×10−6/℃の範囲で種々に異なる材料から形成した前記形状のプラグ12(図1)とを用意し、プラグ12の外径Dと鋼部品11の内径dとの比D/dが0.9982〜0.9995の範囲で種々に異なるように両者を組合せて5つの焼入区分を確立し、各焼入区分について、図1に示したように鋼部品11の内側にプラグ12を挿入した状態で焼入れを行った。焼入れは、図3に示すように、SCr420の標準焼入温度である870℃まで4分で炉中加熱し、その温度に18分間保持した後、40℃まで20秒で強制冷却する条件で行った。そして、この焼入れ後、鋼部品11からプラグ12を抜き取って鋼部品11の内径を測定し、真円度を求めた。なお、真円度の値としては、最大値と最小値との差(mm)を採用した。
【0011】
【表1】
【0012】
表1に示す結果より、プラグ12の材料として、20〜300℃での線膨張係数が16×10−6以上である材料を選択し、かつプラグ12の直径Dと鋼部品11の内径dとの比D/dを、0.9983以上1.0未満に設定して焼入れを行った焼入区分1、2、3(本発明)に属する鋼部品11の真円度は、何れも0.05mm以下の小さい値となっており、マルテンサイト変態が開始する温度付近(200〜300℃)においても、鋼部品11とプラグ12とが十分なる接触状態を維持していたと推定される。
これに対し、プラグ材12の材料として、20〜300℃での線膨張係数が15.3×10−6/℃である材料を用いた焼入区分4(比較)およびプラグ12の直径Dと鋼部品11の内径dとの比D/dを0.9982に設定した焼入区分5(比較)に属する鋼部品11の真円度の値は、0.8mm、0.7mmと大きくなっている。このように焼入区分4および5に属する鋼部品の真円度が悪化したのは、前記マルテンサイト変態が開始する温度付近において、鋼部品11とプラグ12とが、接触しないかわずか接触する状態にあり、矯正効果が十分に発揮されなかったため、と推定される。
【0013】
【発明の効果】
以上、説明したように、本発明に係るリング状鋼部品の焼入方法によれば、プラグの線膨張係数を厳密に規定すると共に、プラグの直径と鋼部品の内径との比を厳密に規定しているので、マルテンサイト変態が開始する温度付近を含めて広い温度範囲で鋼部品とプラグとの接触状態が維持され、プラグによる鋼部品の矯正効果が十分に発揮されて、寸法形状精度に優れたリング状鋼部品が安定的に得られるようになる。しかも、常温付近では、部品とプラグとの間にクリアランスが生じるので、鋼部品に対するプラグの挿脱を容易に行うことができ、生産能率の向上を達成できることはもちろん、鋼部品およびプラグの損傷を未然に防止することができるようになり、本発明の奏する効果は、総じて大なるものがある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る焼入方法の実施状況を示したもので、リング状部品とプラグとの組合せ状態を示す断面図である。
【図2】本焼入方法の実施状況を示したもので、リング状部品とプラグとの加熱途中の状態を示す断面図である。
【図3】本発明の実施例における焼入曲線を示すグラフである。
【図4】従来の焼入方法の実施状況を示したもので、リング状部品とプラグとの組合せ状態を示す断面図である。
【符号の説明】
11 リング状部品
12 プラグ
Claims (2)
- リング状鋼部品の内側にプラグを挿入して焼入れを行う焼入方法において、前記プラグとして、20〜300℃での線膨張係数が16×10−6/℃以上の耐熱性材料を選択し、かつ前記プラグの直径と前記鋼部品の内径との比を、0.9983以上1.0未満に設定することを特徴とするリング状鋼部品の焼入方法。
- 耐熱性材料が、オーステナイト系のステンレス鋼または耐熱鋼であることを特徴とする請求項1に記載の焼入方法。
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JP2002304227A JP3940915B2 (ja) | 2002-10-18 | 2002-10-18 | リング状鋼部品の焼入方法 |
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JP2007262578A (ja) * | 2006-03-27 | 2007-10-11 | Snecma | 筐体焼き戻し用モノブロックのサイジング方法および方法を実施する装置 |
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- 2002-10-18 JP JP2002304227A patent/JP3940915B2/ja not_active Expired - Fee Related
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