JP2004128001A - 電磁波吸収体 - Google Patents

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Abstract

【課題】アンテナから放射される電磁波の出力の低下を引き起こすことなしに、人体に放射される高周波磁界の量を低減することができるため、特に移動体通信機器類などにおけるSAR対策用として優れた機能を発揮し得る、新規な電磁波吸収体を提供する。
【解決手段】電磁波吸収体の、複素透磁率μの実数成分μ’と虚数成分μ”とを、1〜3GHzの高周波数領域内の、特定の周波数領域において、μ’>μ”で、かつμ’≧5となるように調整した。具体的には、
(a)  平均粒径1〜200nmの微小球が多数、鎖状に繋がった形状を有する磁性体粉末、および
(b)  平均粒径1〜200nmの微小球状の磁性体粉末
のうちの少なくとも一方を、個別に電気絶縁材料によって電気的に絶縁した状態で多数、集合、一体化させて電磁波吸収体を形成した。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、特に携帯電話などの、ギガヘルツ以上の高周波数領域の電磁波を利用する移動体通信機器類などにおいて、SAR対策として、当該機器類から放射される高周波磁界による人体への影響を軽減するために用いる電磁波吸収体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、携帯電話やコンピュータなどの電子機器類からの、不要輻射ノイズの放射を低減するために、磁性体の磁気損失を利用する方法が注目されている。
磁性体の磁気損失を利用した電磁波吸収(不要輻射ノイズ減衰)のメカニズムは、ノイズ源と磁性体との位置関係などによって異なるものの、磁性体がノイズ伝送路の直近にあることによって、高周波電流の発生が抑制されることが判っている。
【0003】
また、この場合において等価的な抵抗成分の大きさは、磁性体の複素透磁率μ=μ’−jμ”の虚数成分(磁気損失項)μ”の大きさに依存し、磁性体の面積が一定である場合は、上記虚数成分μ”の大きさにほぼ比例することも知られている。
かかる磁性体の機能を利用した、不要輻射ノイズ減衰のために用いる電磁波吸収体の一例としては、磁性体の微細な粉末を樹脂等の結着剤中に分散した複合材料を、シート状などの所定の形状に形成した分散型のものがある(例えば特許文献1〜3、非特許文献1参照)。
【0004】
このうち特許文献1に記載の電磁波吸収体は、磁性体の粉末を扁平化し、扁平化に伴って生じる歪を除去したのち、樹脂等の結着剤中に分散してシート状に形成したものである。
また特許文献2に記載の電磁波吸収体は、粒径1〜100nmの粒状の磁性体粉末を樹脂中に分散して、やはりシート状などに形成したものである。
また特許文献3に記載の電磁波吸収体は、粒径1〜100nmの粒状の磁性体粉末を多数、ごく薄い粒界を介して僅かに接触、一体化させた構造を有する、粒径10〜50μmのナノグラニューラ粉末を、樹脂等の結着剤中に分散させて形成したものである。
【0005】
さらに非特許文献1の図1gには、球状の磁性体粉末を樹脂中に分散させた電磁波吸収体が記載されている。
【0006】
【特許文献1】
特開2002−158488号公報(第0007欄〜第0008欄、第0025欄、図1)
【特許文献2】
特開2001−200305号公報(第0030欄)
【特許文献3】
特開2002−158484号公報(第0015欄〜第0017欄)
【非特許文献1】
橋本修監修「新電波吸収体の最新技術と応用 エレクトロニクス材料・技術シリーズ」、(株)シーエムシー、1999年3月1日発行、第134頁第6行〜第8行、同頁図1g
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
近時、特に携帯電話などの移動体通信機器類において、アンテナやRF発信機の周辺から漏洩する磁化が、人体に対して悪影響を及ぼすことが懸念されており、それに対応するために、その一般的な使用周波数である1〜2GHzの高周波数領域において、また現在開発されつつある次世代携帯電話の使用周波数である2GHz付近の高周波数領域において、それぞれSAR(Specific Absorption Rate、比吸収率)対策が求められるようになってきた。
【0008】
例えば携帯電話や次世代携帯電話の場合、耳に当てた通話状態において、アンテナから漏洩した高周波磁界成分によって脳内に渦電流が流れる。そしてこの渦電流によって脳が発熱するなど、人体にさまざまな悪影響を与えると考えられている。
かかる高周波磁界による悪影響から人体を保護するために求められるのがSAR、すなわち生体が電磁波にさらされることによって単位質量の組織に単位時間に吸収されるエネルギー量(具体的には6分間における人体局所の任意の組織10gにわたり平均化した値)を、できるだけ小さくする対策である。
【0009】
ところが、前記の複合材料からなる従来の、分散型の電磁波吸収体はいずれも、上述した範囲を含む、1〜3GHz程度の高周波数領域における、移動体通信機器類などのSAR対策用としては不適当である。
すなわち、これらの電磁波吸収体はいずれも、特にEMI(Electro MagneticInterferene、不要輻射または電磁波によって発生するノイズ)対策用として、前記のように機器類から放射される電磁波を、虚数成分μ”の働きによって損失させることで、不要輻射ノイズを減衰させる機能に優れている。
【0010】
このため、かかる電磁波吸収体によって、例えば携帯電話などの移動体通信機器類のSAR対策を施した場合には、不要輻射ノイズだけでなく、アンテナから放射されるべき通信用の電磁波の、出力の低下をも引き起こして、通信そのものが阻害されてしまう。
したがって従来の分散型の電磁波吸収体は、いずれも1〜3GHz程度の高周波数領域における、移動体通信機器類などのSAR対策用としては適していないのである。
【0011】
この発明は、アンテナから放射される電磁波の出力の低下を引き起こすことなしに、人体に放射される高周波磁界の量を低減することができるため、特に移動体通信機器類などにおけるSAR対策用として優れた機能を発揮し得る、新規な電磁波吸収体を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段および発明の効果】
請求項1記載の発明は、複素透磁率μの実数成分μ’と虚数成分μ”とが、1〜3GHzの高周波数領域内の、特定の周波数領域において、μ’>μ”の関係にあることを特徴とする電磁波吸収体である。
請求項1の構成では、上記特定の周波数領域において、外部磁界から時間的な遅れを持つために損失に寄与する、つまり高周波磁界および電界によって磁性体粉末の内部に誘導電流が発生すると、それに追従して発生する磁化を制動して電磁波を吸収、減衰する機能を有する虚数成分μ”を、損失には寄与しないものの複素透磁率μの大きさに関わる実数成分μ’よりも小さく(μ’>μ”)している。
【0013】
このため虚数成分μ”の機能による電磁波の損失を低いレベルに抑えて、アンテナから放射される電磁波の出力の低下を防止することができる。
しかも実数成分μ’の機能によって複素透磁率μを高いレベルに維持して、機器類から放射される高周波磁界の形を変形させて電磁波吸収体内に収束させることによって、人体に放射される高周波磁界の量を大幅に低減することができる。したがって請求項1の構成によれば、特に移動体通信機器類などにおけるSAR対策用として優れた機能を発揮し得る、新規な電磁波吸収体を提供することが可能となる。
【0014】
これに対し従来の、分散型の電磁波吸収体はいずれも、例えば特許文献1の図2や、あるいは非特許文献1の図2などに見るように、ギガヘルツ以上(10Hz以上)の高周波数領域において、両成分が逆にμ’≦μ”の関係にある。これは、前述したように機器類から放射される電磁波を、磁気損失項μ”の働きによって損失させることで、不要輻射ノイズを減衰させる機能を高めるためである。
【0015】
このため従来の電磁波吸収体では、複素透磁率μを高めようとすると虚数成分μ”が大きくなりすぎるため、それに伴って損失が大きくなりすぎて、前述したようにアンテナから放射されるべき電磁波の出力の低下をも引き起こしてしまい、通信そのものが阻害されてしまうのである。
なお特許文献3の第0027欄には、SAR対策として虚数成分μ”の値を大きくするとともに、tan(μ”/μ’)の値を大きくするのが好ましいという記載がある。また、同文献の第0028欄には、これらの対策を施すことによって、携帯電話のアンテナの特性を妨げることなく、SARのみを抑制できるとの記載もある。
【0016】
この記載は、一見すると、請求項1記載の発明の効果と矛盾するかのように見える。
しかしこの記載は、虚数成分μ”が実数成分μ’よりも大きい従来の電磁波吸収体の場合、1/2〔ω×μ”×|H|〕で表されるエネルギー吸収によるエネルギーロスを0にすることはできないので、当該エネルギーロスが最小になる、つまりアンテナから放射されるべき電磁波の出力の低下が最小になるように、電磁波吸収体の貼付位置や面積などの最適値を、試行錯誤を繰り返して見つけ出した上で、SAR対策の効果を向上するために考えられる方針を述べているに過ぎない。
【0017】
これに対し、請求項1に記載のように、複素透磁率μの実数成分μ’と虚数成分μ”とがμ’>μ”の関係にあり、はじめからエネルギーロスがないのが理想的であることは言うまでもない。つまり請求項1の構成によれば、上記のように電磁波吸収体の貼付位置や面積などの最適値を見出す必要がないため、機器類の、設計の自由度をこれまでよりも向上しながら、有効なSAR対策を施すことができるという利点がある。
【0018】
請求項2記載の発明は、複素透磁率μの実数成分μ’が、1〜3GHzの高周波数領域内の、特定の周波数領域において5以上であることを特徴とする請求項1記載の電磁波吸収体である。
請求項2の構成によれば、上述した実数成分μ’の機能による、複素透磁率μを高めて、高周波磁界が人体に放射される量を低減する効果をさらに向上することができる。
【0019】
請求項3記載の発明は、
(a)  平均粒径1〜200nmの微小球が多数、鎖状に繋がった形状を有する磁性体粉末、および
(b)  平均粒径1〜200nmの微小球状の磁性体粉末
のうちの少なくとも一方を、個別に電気絶縁材料によって電気的に絶縁した状態で多数、集合、一体化させた構造を有することを特徴とする請求項1記載の電磁波吸収体である。
【0020】
請求項3の構成によれば、分散型の電磁波吸収体において、前記のように1〜3GHzの高周波数領域内の、機器類が使用する特定の周波数領域における複素透磁率μの虚数成分μ”を実数成分μ’よりも小さくして、アンテナから放射される電磁波の出力の低下を引き起こすことなしに、人体に放射される高周波磁界の量を低減することができる。
例えば(a)の鎖状の磁性体粉末の場合、
・ 当該磁性体粉末を形成する微小球を球状に形成し、かつ
・ 微小球の粒径を200nm以下に微小化するとともに、
・ 磁性体粉末間を電気絶縁材料によって電気的に絶縁して、2つ以上の磁性体粉末が塊状に凝集して実質的な粒径が大きくなるのを防止したことによって、
外部磁界が加えられた際に両末端の微小球において発生するはずの渦状の誘導電流を、球の表面に沿って、電子の平均自由行程よりも小さい一点、つまり球と、渦状の誘導電流が発生する平面との接点に収束させることができる。
【0021】
したがって渦状の誘導電流の発生を抑制できるため、当該誘導電流に対する時間的な遅れの成分である、複素透磁率μの虚数成分μ”を著しく小さくすることができる。
また(b)の、微小球状の磁性体粉末においても、
・ 当該磁性体粉末を球状に形成し、かつ
・ その粒径を200nm以下に微小化するとともに、
・ 磁性体粉末間を電気絶縁材料によって電気的に絶縁して、2つ以上の磁性体粉末が塊状に凝集して実質的な粒径が大きくなるのを防止したことによって、
同様に複素透磁率μの虚数成分μ”を著しく小さくすることができる。
【0022】
しかも、上記(a)の鎖状の磁性体粉末を形成する個々の微小球の粒径、および(b)の微小球状の磁性体粉末の粒径は、いずれも1nm以上であるため、個々の磁性体粉末は磁化を失うことなく、磁性体としての機能を維持することができる。つまり複素透磁率μの実数成分μ’は小さくならない。
したがって請求項3の構成によれば、電磁波吸収体の、機器類が使用する特定周波数領域における、複素透磁率μの虚数成分μ”を実数成分μ’よりも小さくして、アンテナから放射される電磁波の出力の低下を引き起こすことなしに、人体に放射される高周波磁界の量を低減することが可能となる。
【0023】
なお、前述した特許文献1に記載の扁平状の磁性体粉末では面方向に誘導電流が発生し、しかも扁平である以上、たとえその粒径を100nm以下に微小化しても、誘導電流を一点に収束させることはできない。
一方、特許文献2に記載の磁性体粉末は球に近い上、その粒径範囲も、請求項3に記載の範囲と重複している。
しかし特許文献2では、磁性体粉末を直接に、結着剤と混合して所定の形状に成形したり、さらにスラリー化したものを塗布したりして電磁波吸収体を形成しているため、多数の磁性体粉末が塊状に凝集して、凝集粒が発生するのを確実に防止することができない。
【0024】
このため特許文献2の電磁波吸収体中には、数個ないし数十個の磁性体粉末が凝集した、不定形の凝集粒が多数、含まれていると考えられる。
そしてかかる凝集粒は、不定形でかつ大きな一つの磁性体粉末として挙動するため、誘導電流を一点に収束させることができない。
つまり誘導電流を一点に収束させるためには、前述したようにその粒径が100μm以下である上、その形状が欠陥のない球状である必要があるが、凝集粒は、実質的な粒径が100μmを超える上、その表面に多数の欠陥部分を有しており、この欠陥部分を囲むように渦状の誘導電流が発生するため、誘導電流を一点に収束させされないのである。
【0025】
それゆえ、特許文献1、2に記載の磁性体粉末では、渦状の誘導電流の発生を抑制することができない。
のみならず、これらの特許文献に記載の電磁波吸収体は、磁性体粉末の粒径を小さくして電気比抵抗を上昇させることによって、かかる渦状の誘導電流に対する遅れの成分としての虚数成分μ”を大きくし、それによって、先に述べたように電磁波を減衰することを目的としたもの、つまり誘導電流を積極的に利用したものである。
【0026】
したがって特許文献1、2に記載の電磁波吸収体はいずれも、請求項3に記載のものとはその機能が全く異なっている。
これらの特許文献に記載の電磁波吸収体では、先に説明したように、複素透磁率μの虚数成分μ”を実数成分μ’よりも小さくして、アンテナから放射される電磁波の出力の低下を引き起こすことなしに、人体に放射される高周波磁界の量を低減することはできない。
【0027】
また特許文献3に記載のナノグラニューラ粉末も、当該粉末を用いた電磁波吸収体の、ギガヘルツ以上の高周波数領域における複素透磁率μの虚数成分μ”を大きくできるとの記載があることから、やはりナノグラニューラ粉末を形成する個々の磁性体粉末は、請求項3に記載のものと粒径範囲が重複しているものの、その機能が全く異なっていることが明らかである。
さらに非特許文献1の図1gに記載の電磁波吸収体は、球状の磁性体粉末を結着剤中に分散した構造を有するが、このものは、磁性体粉末の粒径などについて一切、記載していない上、より周波数の低いMHz領域での利用を目的とするものであることから、やはりその機能が全く異なっていることが明らかである。
【0028】
請求項4記載の発明は、磁性体粉末の表面を電気絶縁被膜で被覆した複合構造を有する多数の複合粉末を、結着剤によって結着して形成したことを特徴とする請求項3記載の電磁波吸収体である。
請求項4の構成によれば、個々の磁性体粉末をいずれも、その表面を被覆した電気絶縁被膜によってより確実に、他の磁性体粉末と絶縁した状態で、電磁波吸収体を形成できる。
【0029】
このため複素透磁率μの実数成分μ’を高いレベルに維持しつつ、虚数成分μ”をさらに小さくすることができ、アンテナから放射される電磁波の出力の低下を引き起こすことなしに、人体に放射される高周波磁界の量を低減する効果をより一層、向上することができる。
請求項5記載の発明は、磁性体粉末を、Fe、CoおよびNiからなる群より選ばれた少なくとも1種を含む合金にて形成したことを特徴とする請求項3記載の電磁波吸収体である。
【0030】
請求項5の構成によれば、磁性体粉末を、上述した磁気特性に優れた磁性体材料によって形成することで複素透磁率μを大きくするとともに、電磁波吸収体の飽和磁束密度を高めて、人体に放射される高周波磁界の量を低減する効果をより一層、向上することができる。
請求項6記載の発明は、磁性体粉末を形成する複数の金属元素のイオンを含む液中から、3価のTiイオンが4価に酸化する際の還元作用によってイオンを金属に還元して析出させることで、磁性体粉末を形成したことを特徴とする請求項3記載の電磁波吸収体である。
【0031】
請求項6の還元析出法において、Tiイオンの還元作用によってイオンを金属に還元すると、磁性体粉末のもとになる合金からなるナノメーターオーダーの微小球が多数、液中に析出する。
そして析出初期の微小球は単結晶構造か、もしくはそれに近い構造を有するため単純に2極に分極し、自動的に鎖状に繋がって鎖状の磁性体粉末を形成する。よって請求項6の構成によれば、前記(a)の鎖状の磁性体粉末の製造が容易であり、電磁波吸収体の生産効率の向上やコストダウンなどが可能である。
【0032】
また還元析出法によって形成される微小球は粒径が小さく、その形状が真球状に近い上、個々の粒径が揃っており、粒度分布がシャープである。
このため複素透磁率μの実数成分μ’を高いレベルに維持しつつ、虚数成分μ”をさらに小さくすることができ、アンテナから放射される電磁波の出力の低下を引き起こすことなしに、人体に放射される高周波磁界の量を低減する効果をより一層、向上することができる。
【0033】
請求項7記載の発明は、磁性体粉末を形成する複数の金属のイオンを含む液中に、当該液に可溶である、電気絶縁被膜のもとになる電気絶縁材料を溶解した状態で、イオンを金属に還元して析出させることによって、磁性体粉末の表面を電気絶縁被膜で被覆した複合粉末を形成したことを特徴とする請求項6記載の電磁波吸収体である。
請求項7の構成によれば、液中に溶解した電気絶縁材料が、還元析出法によって析出した個々の微小球同士の間に介在して、当該微小球同士が成長の初期に鎖状に繋がるのを防止する。このため液中には、前記(b)の微小球状の磁性体粉末が成長する。また、成長した微小球状の磁性体粉末を液からロ別して乾燥させると、個々の磁性体粉末の表面に電気絶縁材料が析出して電気絶縁被膜が形成される。
【0034】
よって請求項7の構成によれば、前記(b)の微小球状の磁性体粉末の表面を電気絶縁被膜で被覆した複合粉末の製造が容易であり、電磁波吸収体の生産効率の向上やコストダウンなどが可能である。
しかも、還元析出法によって形成される微小球状の磁性体粉末は粒径が小さく、その形状が真球状に近い上、個々の粒径が揃っており、粒度分布がシャープである。
【0035】
このため複素透磁率μの実数成分μ’を高いレベルに維持しつつ、虚数成分μ”をさらに小さくすることができ、アンテナから放射される電磁波の出力の低下を引き起こすことなしに、人体に放射される高周波磁界の量を低減する効果をより一層、向上することができる。
【0036】
【発明の実施の形態】
以下に、この発明を詳細に説明する。
〔電磁波吸収体〕
この発明の電磁波吸収体は、前述したように複素透磁率μの実数成分μ’と虚数成分μ”とが、1〜3GHzの高周波数領域内の、機器類が使用する特定の周波数領域において、μ’>μ”の関係にあることを特徴とするものである。
【0037】
複素透磁率μの実数成分μ’と虚数成分μ”とを上記μ’>μ”の関係に限定する理由は、先に説明したとおりである。
なお実数成分μ’は、その機能による、複素透磁率μを高めて、高周波磁界が人体に放射される量を低減する効果をさらに向上することを考慮すると、先に述べたように、機器類が使用する特定の周波数領域において5以上であるのが好ましく、8以上であるのがさらに好ましい。
【0038】
また虚数成分μ”は、実数成分μ’より小さければよいが、当該虚数成分μ”の機能による電磁波の損失を低いレベルに抑えて、アンテナから放射される電磁波の出力の低下を抑制する効果をさらに向上することを考慮すると、機器類が使用する特定の周波数領域において、5未満であるのがさらに好ましい。
磁性体の物理現象として、例えば図1に示すように実数成分μ’は、周波数fが一定値f以上になると、それ以上の高周波磁界に追従できずに低下を開始する。またそれに代わって、虚数成分μ”が急激に大きくなって、上記周波数fの近傍の、周波数fの位置でピーク値を示す。この周波数fを磁気共鳴周波数という。
【0039】
かかる周波数f、fは、例えば微細な磁性体粉末を樹脂等の結着剤中に分散した分散型の電磁波吸収体の場合、磁性体粉末の異方性磁界Haを調整することによって変化させることができる。
すなわち磁性体の磁気共鳴周波数fと異方性磁界Haとは式:
=νHa/2π
〔式中νはジャイロ磁気定数、πは円周率である。〕
に示す関係にあり、異方性磁界Haを大きくすると、磁気共鳴周波数fを大きくすることができる。またそれに伴って周波数fを大きくすることもできる。そしてそれによって、図中に示した破線に相当する、μ’=μ”となる周波数をも変化させることができる。つまり図上で、周波数f、f、および破線を、それぞれ横軸方向に移動させることができる。
【0040】
したがって周波数f、fを調整することによって破線を移動させて、SAR対策の対象である、1〜3GHzの高周波数領域内の、機器類が使用する特定の周波数領域が、破線の左側の、μ’>μ”の関係を示す範囲内(破線自体は含まない)に入るように調整してやると、電磁波吸収体を、上記特定周波数領域の高周波に対するSAR対策用として有効に機能させることが可能となる。
なお異方性磁界Haを変化させるためには、たとえば磁性体粉末の組成や形状、結晶構造等を変化させたり、磁性体粉末の作製工程における外部磁場の強さなどを調整したりすればよい。例えば(a)の鎖状の磁性体粉末の場合は、還元析出法による製造時のかく拌条件を調整するなどして、鎖の長さを調整することによって、異方性磁界Haを変化させることができる。
【0041】
また、上記分散型の電磁波吸収体においては、例えば前述した(a)の鎖状の磁性体粉末を形成する末端の微小球の粒径を、前記の範囲内でもより小さくするほど、またその形状を真球状に近づけるほど、あるいは複数の磁性体粉末における末端の微小球の粒度分布を単分散に近づけるほど、前述したメカニズムにより、ギガヘルツ以上の高周波数領域での複素透磁率μの虚数成分μ”を小さくすることができる。
【0042】
同様に、(b)の微小球状の磁性体粉末の場合も、その粒径を前記の範囲内でもより小さくするほど、またその形状を真球状に近づけるほど、あるいは複数の磁性体粉末の粒度分布を単分散に近づけるほど、ギガヘルツ以上の高周波数領域での複素透磁率μの虚数成分μ”を小さくすることができる。
したがって、後述する還元析出法などによる磁性体粉末製造の条件を調整するなどして、微小球に関する上記のパラメータを変化させることによっても、機器類が使用する特定周波数領域における、複素透磁率μの虚数成分μ”を、実数成分μ’より小さくすることができる。
【0043】
〔磁性体粉末〕
分散型の電磁波吸収体を形成する磁性体粉末としては、先に述べたように、
(a)  平均粒径1〜200nmの微小球が多数、鎖状に繋がった形状を有する磁性体粉末、および
(b)  平均粒径1〜200nmの微小球状の磁性体粉末
のうちの少なくとも一方を用いる。
【0044】
かかる磁性体粉末は、種々の磁性材料にて形成することができるが、特に前述したように複素透磁率μを大きくするとともに、電磁波吸収体の飽和磁束密度を高めて、人体に放射される高周波磁界の量を低減する効果を向上することを考慮すると、Fe、CoおよびNiからなる群より選ばれた少なくとも1種を含む合金にて形成するのが好ましい。
中でも特にNi−Fe合金やFe−Co合金がさらに好ましい。またNi−Fe合金は、例えばCo、Mo、Cr、C、Pなどの第3元素を含んでもよい。またFe−Co合金も、例えばNi、Mo、Cr、C、Pなどの第3元素を含んでもよい。
【0045】
(a)の鎖状の磁性体粉末を形成する個々の微小球、特に鎖の両末端の微小球の平均粒径は、上記のように1〜200nmであるのが好ましい。また(b)の、微小球状の磁性体粉末の平均粒径も、同様に1〜200nmであるのが好ましい。これらの理由は先に述べたとおりである。
かかる磁性体粉末は、従来公知の種々の製造方法によって製造することができるが、特に磁性体粉末のもとになる1種または2種以上の金属のイオンを含む水溶液中で、当該イオンを還元剤によって金属に還元することで液中に析出させる、還元析出法によって形成するのが好ましい。
【0046】
還元析出法によれば、先に述べたように、多数の微小球が鎖状に繋がった、前記(a)の鎖状の磁性体粉末を自動的に製造できるという利点がある。
また還元析出法によって製造される磁性体粉末は、これも先に述べたように、個々の微小球の形状が真球状に近く、かつ個々の粒径が揃っており、しかも粒度分布がシャープであるため、複素透磁率μの虚数成分μ”を小さくする効果に優れるという利点もある。
【0047】
また電磁波吸収体の周波数特性は、微小球の粒径に依存する。そして微小球の粒度分布のばらつきが大きいと、周波数特性が粉末間で平均化されるため、電磁波吸収体は、特定周波数の電磁波に対して先鋭なピークを有するのでなく、幅広い周波数領域にわたるブロードな分布を有するものとなる。このため特定周波数の電磁波に対する吸収効率が低下する。
これに対し、還元析出法によって製造された、上記のように粒度分布がシャープな微小球からなる磁性体粉末を使用した場合には、電磁波吸収体は、特定周波数の電磁波に対して先鋭なピークを有するものとなり、特定周波数の電磁波に対する吸収効率が向上するという利点もある。
【0048】
還元析出法に用いる還元剤としては、3価のチタンイオン(Ti3+)が好ましい。
還元剤として3価のチタンイオンを用いた場合には、磁性体粉末を形成した後の、チタンイオンが4価に酸化した水溶液を電解再生して、チタンイオンを再び3価に還元することによって繰り返し、磁性体粉末の製造に利用可能な状態に再生できるという利点がある。
【0049】
また還元剤として3価のチタンイオンを用いた還元析出法としては、四塩化チタンなどの、4価のチタン化合物の水溶液を電解して、4価のチタンイオンの一部を3価に還元して還元剤水溶液を調製した後、この還元剤水溶液と、磁性体粉末のもとになる金属のイオンを含む水溶液(反応液)とを混合して、3価のチタンイオンが4価に酸化する際の還元作用によって金属のイオンを還元、析出させて磁性体粉末を製造する方法が好ましい。
【0050】
この方法においては、還元析出時に、あらかじめ系中に存在する4価のチタンイオンが、微小球の成長を抑制する成長抑制剤として機能する。
また還元剤水溶液中で、3価のチタンイオンと4価のチタンイオンとは、複数個ずつがクラスターを構成して、全体として水和および錯体化した状態で存在する。
このため1つのクラスター中で、3価のチタンイオンによる、微小球を成長させる機能と、4価のチタンイオンによる、微小球の成長を抑制する機能とが、1つの同じ微小球に作用しながら、微小球と、それが多数繋がった磁性体粉末とが形成される。
【0051】
したがって微小球の真球度をさらに高めることができる上、前述した、平均粒径が200nm以下という微細な微小球を、容易に製造することができる。
しかもこの製造方法では、電解条件を調整して、還元剤水溶液中における、3価のチタンイオンと4価のチタンイオンとの存在比率を調整することによって、上述した、クラスター中での両イオンの、相反する機能の割合を制御できるため、微小球の粒径を任意に制御することも可能である。
【0052】
また(b)の、微小球状の磁性体粉末は、上記のようにして製造した鎖状の磁性体粉末を、種々の方法によって個々の微小球ごとに分離することで製造できる。
〔複合粉末〕
磁性体粉末を多数、電気絶縁材料によって電気的に絶縁した状態で多数、集合、一体化させた電磁波吸収体としては種々考えられるが、個々の磁性体粉末間をより確実に絶縁するためには、前述したように磁性体粉末の表面を電気絶縁被膜で被覆した複合構造を有する複合粉末を作製し、それを多数、集合、一体化させた構造に形成するのが好ましい。
【0053】
また、かかる構造の電磁波吸収体を形成する複合粉末は、種々の方法によって形成することができる。
しかし、特に(b)の、微小球状の磁性体粉末の表面を電気絶縁被膜で被覆した複合粉末は、先に述べたように還元析出法によって磁性体粉末を製造するにあたり、磁性体粉末を形成する複数の金属のイオンを含む液中に、当該液に可溶である、電気絶縁被膜のもとになる樹脂等の電気絶縁材料を溶解しておき、それによって液中に析出した微小球が鎖状に繋がるのを防止するとともに、磁性体粉末のロ別、乾燥と同時に、その表面を電気絶縁被膜で被覆して形成するのが好ましい。
【0054】
かかる電気絶縁材料としては、上記の液が通常は水溶液であるため、例えばポリビニルピロリドン等の水溶性の樹脂が好ましい。
また(b)の、微小球状の磁性体粉末の表面を電気絶縁被膜で被覆した複合粉末を製造するためには、例えばスプレードライヤを用いた噴霧乾燥法などを採用することもできる。
噴霧乾燥法では、前述した還元析出法によって製造した、鎖状に繋がった微小球を適当な溶媒中に分散するとともに、樹脂等の電気絶縁材料を溶解して噴霧液を調整する。
【0055】
次いでこの噴霧液を、スプレードライヤを用いて、液滴が個々の微小球の大きさとなるように噴霧条件を調整した状態で、所定の温度に設定した雰囲気中に噴霧して乾燥させる。
そうすると噴霧時に、鎖状に繋がった多数の微小球がばらばらに分離されるとともに、個々の微小球の表面が電気絶縁被膜によって被覆されて、複合粉末が得られる。
【0056】
さらに(a)の、鎖状の磁性体粉末の表面を電機絶縁被膜で被覆した複合粉末を製造するためには、前述したように還元析出法によって製造した鎖状の磁性体粉末を、電気絶縁被膜のもとになる、前記ポリビニルピロリドン等の電気絶縁材料を溶解した液中に分散したのち、磁性体粉末のロ別、乾燥と同時に、その表面を電気絶縁被膜で被覆してやればよい。
これらの構造を有する複合粉末において、電気絶縁被膜の、複合粉末の総量に対する体積百分率で表される被覆率は、10〜50体積%であるのが好ましい。
【0057】
電気絶縁被膜の被覆率が10体積%未満では、磁性体粉末間を電気絶縁被膜によって絶縁する効果が不十分になるおそれがある。また被覆率が50体積%を超える場合には、相対的に磁性体粉末の量が少なくなって、電磁波吸収体における磁性体粉末の充てん率が低下するおそれがある。
これに対し、被覆率が10〜50体積%の範囲内であれば、電磁波吸収体における磁性体粉末の充てん率を低下させることなく、磁性体粉末間を、電気絶縁被膜によってより確実に絶縁することが可能となる。
【0058】
〔電磁波吸収体の製造〕
上記複合粉末を用いて電磁波吸収体を形成するには、まず複合粉末を適当な分散媒中に分散するとともに、当該分散媒に溶解する樹脂等の結着剤を加えてスラリーを調製する。
そしてこのスラリーを、ドクターブレード法などの塗布法によって下地上に塗布し、加熱して分散媒を乾燥、除去するとともに、多数の複合粉末を結着剤によって一体に固着した後、下地からはく離することによって、所定の厚みを有するシート状の電磁波吸収体を製造することができる。
【0059】
なお電気絶縁被膜を樹脂によって形成した複合粉末を用いる場合は、樹脂が溶解して磁性体粉末が露出するのを防止するために、分散媒として、上記樹脂の貧溶媒を用いるのが好ましい。
【0060】
【実施例】
以下にこの発明を、実施例、比較例に基づいて説明する。
実施例1
〔複合粉末の作製〕
(還元剤水溶液の調製)
四塩化チタンの20%塩酸酸性水溶液を作製した。四塩化チタンの量は、当該水溶液を次工程で陰極電解処理して得た還元剤水溶液を、次項で述べる反応液と所定の割合で混合するとともに、pH調整剤や、あるいは必要に応じてイオン交換水を加えて所定量の混合液を作製した際に、当該混合液の総量に対する、3価および4価のチタンイオンの、合計のモル濃度が0.2mol/Lとなるように設定した。液のpHは2であった。
【0061】
次にこの水溶液を、旭硝子(株)製の陰イオン交換膜で仕切った2槽式の電解槽の、片方の槽に注入した。また上記電解槽の、反対側の槽にはモル濃度0.1mol/Lの硫酸ナトリウム水溶液を入れた。
そしてそれぞれの液にカーボンフェルト電極を浸漬して、四塩化チタンの水溶液側を陰極、硫酸ナトリウム水溶液側を陽極として、3.5Vの直流電流を、定電圧制御で通電して水溶液を陰極電解処理することで、還元剤水溶液を調製した。
【0062】
陰極電解処理により、還元剤水溶液中の、4価のチタンイオンの約60%が3価に還元され、液のpHは4となった。
(反応液の調製)
塩化ニッケルと硫酸鉄とクエン酸三ナトリウムとをイオン交換水に溶解して反応液を調製した。各成分の量は、前述した混合液の総量に対するモル濃度が、塩化ニッケル:0.04mol/L、硫酸鉄:0.12mol/L、クエン酸三ナトリウム:0.3mol/Lとなるように調整した。
【0063】
(磁性体粉末の作製)
前記還元剤水溶液を反応槽に入れ、液温を50℃に維持しつつ、500rpmでかく拌下、pH調整剤としての炭酸ナトリウムの飽和水溶液を加えて液のpHを5.2に調整するとともに、反応液を徐々に加えた後、さらに必要に応じてイオン交換水を加えて所定量の混合液を作製した。反応液およびイオン交換水は、あらかじめ50℃に暖めておいたものを用いた。
【0064】
そして混合液の液温を50℃に維持しながら数分間、かく拌を続けると沈殿が析出したので、かく拌を停止して沈殿を直ちにロ別、水洗した後、乾燥させて粉末を得た。
得られた粉末は、微小球が多数、鎖状に繋がった形状を有する磁性体粉末であった。その組成をICP発光分析法によって測定したところ、52Ni−48Fe合金であることが確認された。
【0065】
また磁性体粉末を形成する多数の微小球の平均粒径を、ゼータ電位・粒子径測定装置〔マルバーン社製の商品名ゼータサイザー3000HS〕を用いて測定したところ60nmであった。
また磁性体粉末の、鎖の平均長さを、レーザー回折式粒度分布測定装置〔マルバーン社製の商品名マスターサイザーマイクロ・プラス〕を用いて測定したところ4μmであった。
【0066】
(複合粉末の作製)
上記の磁性体粉末100gを、濃度2cc/Lのポリビニルピロリドン水溶液1L中に投入し、かく拌して分散させた後、10分間、静置した。
そうすると磁性体粉末が沈殿したので直ちにロ別、水洗した後、乾燥させて粉末を得た。
得られた粉末は、鎖状の磁性体粉末の表面を、ポリビニルピロリドンからなる電気絶縁被膜によって被覆した複合構造を有していた。
【0067】
電気絶縁被膜の被覆率を、比重の測定結果から求めたところ、約3体積%であった。
〔電磁波吸収体の製造〕
上記の複合粉末72重量部を、結着剤としての塩素化ポリエチレン20重量部、および分散媒としてのキシレン50重量部と配合してスラリーを作製した。
そしてこのスラリーを、ドクターブレード法によって、離型剤を塗布したポリエチレンテレフタレート製の基材フィルム上に、厚み0.05mmとなるように塗布し、次いで60℃の乾燥炉中で2時間、乾燥させた後、基材フィルムからはく離してシート状の電磁波吸収体を製造した。
【0068】
実施例2
〔複合粉末の作製〕
(反応液の調製)
塩化ニッケルと硫酸鉄とクエン酸三ナトリウムとをイオン交換水に溶解し、さらにポリビニルピロリドンを加えて反応液を調製した。各成分の量は、前述した混合液の総量に対するモル濃度が、塩化ニッケル:0.04mol/L、硫酸鉄:0.12mol/L、クエン酸三ナトリウム:0.3mol/Lとなるように調整した。またポリビニルピロリドンの量は、上記各成分中の金属(NiおよびFe)の総量に対して10体積%とした。
【0069】
(複合粉末の作製)
実施例1で作製したのと同じ還元剤水溶液を反応槽に入れ、液温を50℃に維持しつつ、500rpmでかく拌下、pH調整剤としての炭酸ナトリウムの飽和水溶液を加えて液のpHを5.2に調整するとともに、上記の反応液を徐々に加えた後、さらに必要に応じてイオン交換水を加えて所定量の混合液を作製した。反応液およびイオン交換水は、あらかじめ50℃に暖めておいたものを用いた。
【0070】
そして混合液の液温を50℃に維持しながら数分間、かく拌を続けると沈殿が析出したので、かく拌を停止して沈殿を直ちにロ別、水洗した後、乾燥させて粉末を得た。
得られた粉末は、微小球状の磁性体粉末の表面を、ポリビニルピロリドンからなる電気絶縁被膜によって被覆した複合構造を有していた。
このうち磁性体粉末の組成をICP発光分析法によって測定したところ、52Ni−48Fe合金であることが確認された。
【0071】
また磁性体粉末の平均粒径を、ゼータ電位・粒子径測定装置〔マルバーン社製の商品名ゼータサイザー3000HS〕を用いて測定したところ60nmであった。
さらに電気絶縁被膜の被覆率を、比重の測定結果から求めたところ、約3体積%であった。
〔電磁波吸収体の製造〕
上記の複合粉末72重量部を、結着剤としての塩素化ポリエチレン20重量部、および分散媒としてのキシレン50重量部と配合してスラリーを作製した。
【0072】
そしてこのスラリーを用いたこと以外は実施例1と同様にして、シート状の電磁波吸収体を製造した。
比較例1
〔複合粉末の作製〕
(磁性体粉末の作製)
実施例1で作製したのと同じ還元剤水溶液を反応槽に入れ、液温を50℃に維持しつつ、全くかく拌しない静置状態で、pH調整剤としての炭酸ナトリウムの飽和水溶液を加えて液のpHを5.2に調整するとともに、実施例1で作製したのと同じ反応液を徐々に加えた後、さらに必要に応じてイオン交換水を加えて所定量の混合液を作製した。反応液およびイオン交換水は、あらかじめ50℃に暖めておいたものを用いた。
【0073】
そして混合液の液温を50℃に維持しながら数分間、静置すると沈殿が析出したので、直ちにロ別、水洗した後、乾燥させて粉末を得た。
得られた粉末は、微小球が多数、鎖状に繋がった形状を有する磁性体粉末であった。その組成をICP発光分析法によって測定したところ、52Ni−48Fe合金であることが確認された。
また磁性体粉末を形成する多数の微小球の平均粒径を、ゼータ電位・粒子径測定装置〔マルバーン社製の商品名ゼータサイザー3000HS〕を用いて測定したところ60nmであった。
【0074】
また磁性体粉末の、鎖の平均長さを、レーザー回折式粒度分布測定装置〔マルバーン社製の商品名マスターサイザーマイクロ・プラス〕を用いて測定したところ20μmであった。
(複合粉末の作製)
上記の磁性体粉末100gを、濃度2cc/Lのポリビニルピロリドン水溶液1L中に投入し、かく拌して分散させた後、10分間、静置した。
【0075】
そうすると磁性体粉末が沈殿したので直ちにロ別、水洗した後、乾燥させて粉末を得た。
得られた粉末は、鎖状の磁性体粉末の表面を、ポリビニルピロリドンからなる電気絶縁被膜によって被覆した複合構造を有していた。
電気絶縁被膜の被覆率を、比重の測定結果から求めたところ、約3体積%であった。
【0076】
〔電磁波吸収体の製造〕
上記の複合粉末72重量部を、結着剤としての塩素化ポリエチレン20重量部、および分散媒としてのキシレン50重量部と配合してスラリーを作製した。
そしてこのスラリーを用いたこと以外は実施例1と同様にして、シート状の電磁波吸収体を製造した。
比較例2
〔磁性体粉末の作製〕
磁性体粉末として、アトマイズ法で製造された、平均粒径50μmの粒状の、45Ni−55Fe合金製の粉末を用意した。
【0077】
そしてこの磁性体粉末を、アトライタを用いて粉砕加工して扁平状に変形させた後、歪を取るために窒素雰囲気下、650℃で2時間加熱して焼鈍処理を行って扁平状の磁性体粉末を作製した。
〔電磁波吸収体の製造〕
上記の磁性体粉末をチタネート系カップリング剤で処理後、その72重量部を、結着剤としての塩素化ポリエチレン20重量部、および分散媒としてのキシレン50重量部と配合してスラリーを作製した。
【0078】
そしてこのスラリーを用いたこと以外は実施例1と同様にして、シート状の電磁波吸収体を製造した。
上記実施例、比較例で製造した電磁波吸収体の特性を、ネットワークアナライザを用いた同軸導波管法によって測定した。
なおこれらの例では、周波数1〜3GHzの高周波数領域の全域を、移動体通信機器類などが使用する特定周波数領域と設定して評価を行った。
すなわち、上記同軸導波管法による測定結果に基づいて、特定周波数領域の下限である1GHzと、上限である3GHzにおける、複素透磁率μの実数成分μ’と虚数成分μ”の値を求め、その両方においてμ’>μ”であるもののみを、移動体通信機器類などにおけるSAR対策用として適したものとして評価した。
結果を表1に示す。
【0079】
【表1】
Figure 2004128001
【0080】
表に見るように、比較例1、2の電磁波吸収体はいずれも、周波数3GHzにおいて、複素透磁率μの実数成分μ’と虚数成分μ”とがμ’≦μ”の関係にあることから、移動体通信機器類などにおけるSAR対策用として適していないことが判った。
これに対し実施例1、2の電磁波吸収体はともに、周波数1GHzおよび3GHzにおいて、複素透磁率μの実数成分μ’と虚数成分μ”とがμ’>μ”の関係にあることから、移動体通信機器類などにおけるSAR対策用として好適に使用できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【図1】磁性体における、周波数fと複素透磁率μとの関係を示すグラフである。

Claims (7)

  1. 複素透磁率μの実数成分μ’と虚数成分μ”とが、1〜3GHzの高周波数領域内の、特定の周波数領域において、μ’>μ”の関係にあることを特徴とする電磁波吸収体。
  2. 複素透磁率μの実数成分μ’が、1〜3GHzの高周波数領域内の、特定の周波数領域において5以上であることを特徴とする請求項1記載の電磁波吸収体。
  3. (a)  平均粒径1〜200nmの微小球が多数、鎖状に繋がった形状を有する磁性体粉末、および
    (b)  平均粒径1〜200nmの微小球状の磁性体粉末
    のうちの少なくとも一方を、個別に電気絶縁材料によって電気的に絶縁した状態で多数、集合、一体化させた構造を有することを特徴とする請求項1記載の電磁波吸収体。
  4. 磁性体粉末の表面を電気絶縁被膜で被覆した複合構造を有する多数の複合粉末を、結着剤によって結着して形成したことを特徴とする請求項3記載の電磁波吸収体。
  5. 磁性体粉末を、Fe、CoおよびNiからなる群より選ばれた少なくとも1種を含む合金にて形成したことを特徴とする請求項3記載の電磁波吸収体。
  6. 磁性体粉末を形成する複数の金属元素のイオンを含む液中から、3価のTiイオンが4価に酸化する際の還元作用によってイオンを金属に還元して析出させることで、磁性体粉末を形成したことを特徴とする請求項3記載の電磁波吸収体。
  7. 磁性体粉末を形成する複数の金属のイオンを含む液中に、当該液に可溶である、電気絶縁被膜のもとになる電気絶縁材料を溶解した状態で、イオンを金属に還元して析出させることによって、磁性体粉末の表面を電気絶縁被膜で被覆した複合粉末を形成したことを特徴とする請求項6記載の電磁波吸収体。
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