JP2004117480A - 反射型スクリーン及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】特定の可視光を反射する反射層を有し、且つ、保護層や拡散層等の被覆層を形成しても、反射層の反射特性が損なわれない構造をもつ反射型スクリーンを提供する。
【解決手段】基材として、可視光を吸収する可視光吸収体1を用い、この上に、赤色光反射用の微粒子層2として粒子径280nmのシリカ微粒子を積層し、緑色光反射用の微粒子層3として粒子径234.5nmのシリカ微粒子を積層し、青色光反射用の微粒子層4として粒子径212nmのシリカ微粒子を積層し、その上に可視光透過層として粒子径200nmのシリカ微粒子又は粒子径300nmのシリカ微粒子を積層した紫外光反射層5又は赤外光反射層を設け、この可視光透過層の上に光拡散層7等の被覆層を接着材6によって貼り付ける。
【選択図】 図1
【解決手段】基材として、可視光を吸収する可視光吸収体1を用い、この上に、赤色光反射用の微粒子層2として粒子径280nmのシリカ微粒子を積層し、緑色光反射用の微粒子層3として粒子径234.5nmのシリカ微粒子を積層し、青色光反射用の微粒子層4として粒子径212nmのシリカ微粒子を積層し、その上に可視光透過層として粒子径200nmのシリカ微粒子又は粒子径300nmのシリカ微粒子を積層した紫外光反射層5又は赤外光反射層を設け、この可視光透過層の上に光拡散層7等の被覆層を接着材6によって貼り付ける。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えばCRT(Cathode Ray Tube)プロジェクタや液晶プロジェクタ等からの画像の投射に用いて好適な反射型スクリーン、及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、プロジェクタから投射される光を反射して画像を表示する反射型スクリーンとしては、可視部波長領域のすべての光を反射又は散乱する、波長特性のない、白地のスクリーンが用いられてきた。白地のスクリーンでは、画像に関係のない光がスクリーンに入射した場合、画像と同様に反射又は散乱される(以下、本明細書では、プロジェクタ等から投射される画像以外の、画像とは無関係にスクリーンに入射する可視光を外部光と呼ぶことにする。)。その結果、この外部光は画像に重なって観察者の目に入り、画像のコントラストを劣化させる。
【0003】
このため、プロジェクタから白地のスクリーンに画像を投射する場合には、外部光を制限した暗室内で投射するのが一般的である。しかしながら、画像表示が暗室内に限定されることは、スクリーンを用いる表示システムの有用性を著しく損ない、用途を大きく制限する。又、暗室内で投射したとしても、スクリーンからの反射光が暗室内で散乱されてスクリーンに再入射する光、外部から漏れてくる光、及び非常灯など暗室内に残存する光等の外部光の反射によって、画像のコントラストは低下し、画像の暗黒部をスクリーン上で真の暗部として表示することができない。
【0004】
一方、CRTプロジェクタや液晶プロジェクタなどには、赤(R)、緑(G)、青(B)の3原色光をスクリーンに投射し、スクリーン上で混色して各種の色を表示するプロジェクタがある。このようなプロジェクタにおいては、用いられる各3原色光のスペクトル半値幅(FWHM)が60〜100nmと広いため、表現できる色度図上の色再現範囲が狭くなり、正確な色調を再現することが難しいという問題がある。
【0005】
【発明に至る経過】
上記の問題点について鋭意検討した結果、本出願者は、先に、特定の可視光を反射する、波長特性をもつスクリーン及びその製造方法並びにそのスクリーンを用いた画像表示システムを提案した(特願P2001−380670)。即ち、特願P2001−380670に係る発明(以下、先願発明と称する。)の好ましい実施の形態に基づくスクリーンでは、表面に、可視光のうちの3原色光近傍の狭い波長領域の光のみを選択的に反射する反射層が設けられ、その厚み方向下部に、反射層を透過してきた可視光を吸収する吸収層が設けられている。
【0006】
上記のスクリーンに画像を表示する場合には、プロジェクタ等から、赤(R)、緑(G)、青(B)の3原色光をスクリーンに投射し、スクリーン上での混色によって種々の色をもつ画像を形成する。これら3原色光は、スクリーンに設けられた反射層によって反射され、観察者の目に届き、画像として知覚される。
【0007】
一方、外部光には様々な波長の光が含まれていて、その大部分は、反射層が反射できる3原色光近傍の波長領域をはずれた光である。このため、上記のスクリーンに外部光が入射しても、その大部分は反射層によって反射されず、吸収層に吸収されるので、外部光が画像に重なって観察者の目に入ることはほとんどない。この結果、外部光によるコントラストの劣化がわずかになり、画像の暗黒部をスクリーン上に真の暗部として表示することができる。また、照明のある室内や野外など、暗室外でのスクリーン表示も可能になる。
【0008】
上記のように、スクリーン自体が波長によって光を選別するフィルタとしての作用を示すので、次に記す理由で、画像の色再現性も改善される。即ち、CRTプロジェクタや液晶プロジェクタから出射される各3原色光のスペクトル半値幅は、上述したように広い。しかし、これらの光が上記のスクリーンに入射すると、3原色光とその近傍の狭い波長領域の光のみが選択的に反射され、これら以外の光はすべて吸収される。この結果、スクリーンから反射される各3原色光は、スペクトル半値幅の狭い、色純度の良い光に改善される。従って、これらの3原色光の混色によって形成される画像の色再現範囲は拡大し、色調もより正確に再現される。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
先願発明に基づくスクリーンは、上記の優れた特徴を有しているが、特定の波長の光を選択的に反射する反射層は、接着強度などが不十分であり、その表面に保護層が必要である。また、狭くなりがちな視野角特性を広げるための光拡散層や、コントラスト比を向上させるための偏光フィルタ層もあることが望ましい。
【0010】
しかし、これらの被覆層を反射層に接着材層で貼り付けると、反射層と接着材層との屈折率の差は、反射層と空気層との屈折率の差に比べて小さくなるため、反射層の反射特性が低下するという問題が起こる。
【0011】
本発明の目的は、上記のような実情に鑑み、特定の可視光を反射する反射層を有し、且つ、保護層や拡散層等の被覆層を形成しても、反射層の反射特性が損なわれない構造をもつ反射型スクリーンを提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明は、特定の可視光を反射する反射層が設けられ、前記反射層の上に可視光透過層が設けられ、更に前記可視光透過層の上に被覆層が接着されている反射型スクリーンに係わり、又、特定の可視光を反射する反射層を形成する工程と、前記反射層の上に可視光透過層を形成する工程と、前記可視光透過層の上に被覆層を接着する工程とを有する、反射型スクリーンの製造方法に係わるものである。
【0013】
本発明に基づく反射型スクリーンは、前記特定の可視光を反射する反射層を備えているので、波長によって光を選別するフィルタとしての作用を、スクリーン自体が有している。
【0014】
従って、例えば、前記特定の可視光を反射する反射層を、赤(R)、緑(G)、青(B)の3原色光を反射する層とし、プロジェクタ等から3原色光をスクリーンに投射して画像を形成する表示システムとすれば、前記スクリーンに入射する、画像に無関係な外部光の大部分は、前記フィルタ作用によって除かれる。この結果、コントラストが外部光によって劣化することのない表示システムを構築することができ、画像の暗黒部をスクリーン上に真の暗部として表示することができる。また、照明のある室内や野外など、暗室外でのスクリーン表示も可能になる。
【0015】
また、プロジェクタ等から出射される3原色光が、スペクトル半値幅の広いものであっても、前記スクリーンから反射される3原色光は、前記フィルタ作用によって、スペクトル半値幅が狭く色純度の良い光に改善されるので、3原色光の混色によって形成される画像の色調は、より正確に再現される。
【0016】
更に、前記反射層の上に前記可視光透過層が設けられ、この層の上に前記被覆層が接着されているので、前記被覆層を接着する接着材が前記反射層に直接触れることはなく、前記接着材によって前記反射層の反射特性が損なわれる心配はない。前記可視光透過層は、可視光を透過するので、前記反射層の反射特性を変化させることはない。
【0017】
本発明に基づく反射型スクリーンの製造方法は、前記可視光透過層の上に前記被覆層を接着する工程とを有するので、前記反射型スクリーンを歩留まりよく製造できる方法である。
【0018】
【発明の実施の形態】
前記反射層が、赤(R)、緑(G)、青(B)の3原色光の少なくとも1種を反射する、単層又は複層によって形成されているのがよい。
【0019】
また、前記反射層が、可視光の波長に対応する粒子径をもつ微粒子からなる単層又は複層によって形成されていて、前記微粒子が、自己組織化又は最密充填により規則的に配列しているのがよい。
【0020】
あるいは、前記反射層が単層又は複層の誘電体層によって形成されているのがよい。
【0021】
前記可視光透過層が、特定の紫外光又は赤外光を反射する層であるのがよく、特に、紫外光又は赤外光の波長に対応する粒子径をもつ微粒子が複数段に積層されて、前記可視光透過層が形成されているのがよい。
【0022】
前記被覆層が、可視光を拡散する光拡散層であるのがよい。光拡散層は、スクリーンから反射される光を拡散させ、指向性を緩和するとともに、スクリーン全体に均一な輝度を持たせる働きをする。また、光拡散層は保護層として、前記反射層が機械的な衝撃で損傷を受けるのを防止する。
【0023】
また、前記被覆層が、特定の振動方向の光のみを通過させる層(偏光フィルタ層)であるのもよい。このようにすれば、スクリーンへ入射する外部光の偏光成分を前記偏光フィルタ層によって一部カットすることができるので、画像のコントラストを高めることができる。この場合、液晶プロジェクタ等から投射する3原色光は偏光であるので、その振動方向を偏光フィルタ層と同じにすることにより、減衰させずにスクリーンに入射させることができる。
【0024】
前記反射層の厚さ方向下部に、可視光を吸収する吸収体が設けられていて、前記反射層を透過した可視光が前記吸収体によって吸収されるようになっているのがよい。これにより、外部光を吸収するとともに、背後からスクリーンに入射して前方へ抜ける光の透過を阻止することができる。
【0025】
本発明に基づく反射型スクリ−ンは、画像を投射するプロジェクタと一体化された画像表示システムを構成しているのがよい。ここで、プロジェクタから投射されて画像を表示する光の波長と、前記反射層によってスクリーンが反射する光の波長とを一致させるのが、本発明のポイントの1つである。この時、投射光のスペクトル半値幅が狭いほど、投射光の光量を減ずることなく、反射層の反射スペクトルの半値幅を狭めることができ、本発明の効果をよりよく発揮させることができる。
【0026】
スペクトル半値幅の狭い光源としては、発光ダイオードや、とりわけ、半導体レーザがよい。赤色用の半導体レーザとしては、例えばAlGaInP系レーザがよく、緑色用の半導体レーザとしては、例えばInGaN系レーザがよく、青色用の半導体レーザとしては、例えばGaN系レーザがよい。
【0027】
微粒子分散液中に基板を浸漬する第1の工程と、前記基板を気相中に引き上げることにより、その表面を前記微粒子分散液で濡らす第2の工程と、前記微粒子分散液で濡れた前記基板を気相中で乾燥させる第3の工程とによって、前記反射層及び/又は前記可視光透過層を形成するのがよい。
【0028】
この作製方法によって前記反射層と前記可視光透過層とを形成すれば、微粒子の粒子径を変更するだけで2つの層を形成でき、能率的であるばかりでなく、2つの層のなじみもよい。また、この作製方法は、真空装置等の大型の設備が不要であるから、設備コストや運転コストを抑える利点がある。
【0029】
次に、本発明の好ましい実施の形態を図面参照下に具体的に説明する。本発明の実施の形態では、プロジェクタ等からは、赤(R)、緑(G)、青(B)の3原色光がスクリーンに投射され、スクリーン上での混色によって種々の色をもつ画像が形成されるものとし、プロジェクタ等として、例えばCRTプロジェクタや液晶プロジェクタ等を用いるものとする。
【0030】
実施の形態1:反射型スクリーン(1)
ここでは、まず、先願発明の好ましい実施の形態に基づくスクリーンの基本構造を説明し、次に、それを実用的なスクリーンとする場合の問題点を説明し、続いて、本発明の実施の形態1に基づくスクリーンの例を説明する。
【0031】
<スクリーンの基本構造>
図6は、先願発明の好ましい実施の形態に基づく反射型スクリーン30が、画像と外部光とを選別する原理を示す概略断面図である。反射型スクリーン30には、可視光のうち、赤(R)、緑(G)、青(B)の3原色光近傍の狭い波長領域の光のみを選択的に反射する反射層32が設けられ、その厚み方向下部に、反射層を透過してきた可視光を吸収する吸収層31が設けられている。
【0032】
スクリーン30に画像を表示する場合には、プロジェクタ等から、赤(R)、緑(G)、青(B)の3原色光がスクリーンに投射され、スクリーン上での混色によって種々の色をもつ画像が形成される。これら3原色光は、反射層32によって反射され、観察者の目に届き、画像として知覚される。
【0033】
一方、外部光には様々な波長の光が含まれていて、その大部分は、反射層32が反射できる3原色光近傍の波長領域をはずれた光である。このため、スクリーン30に外部光が入射しても、その大部分は反射層32によって反射されず、吸収層31に吸収されるので、外部光が画像に重なって観察者の目に入ることは少ない。この結果、外部光によるコントラストの劣化がわずかになり、画像の鮮明さが向上し、画像の暗黒部をスクリーン上に真の暗部として表示することができる。また、照明のある室内や野外など、暗室外でのスクリーン表示も可能になる。
【0034】
図7は、特定の波長の光のみを選択的に反射する反射層の構造の具体例を示す概略断面図である。
【0035】
図7(a)に示す構造は、基材21上に互いに屈折率nが異なる2種類の誘電体材料からなる膜33及び34を交互に積層した多層膜からなる誘電体層35を形成したもので、干渉効果により特定の波長λ0の光のみが選択的に反射される。各層の厚さLは、それぞれの屈折率n(n1又はn2)に対して、
L=iλ0/4n
である。但し、iは正の整数で、ここでは1とする。
【0036】
図8は、誘電体層35の反射スペクトルを有効フレネル係数法で見積もった計算結果の例である。ここでは、一方の誘電体材料の屈折率をn1=1.2、他方の誘電体材料の屈折率をn2=1.8とし、λ0=520nmとし、積層段数jとして1〜5までを計算した。図8から、積層段数jが増加するほどλ0での反射率Rは増加し、5段に積層すると、反射率Rは90%以上に達することがわかる。但し、λ0での反射率ピークの半値幅は、約200nmと大きい。
【0037】
図7(b)に示す構造は、粒子径を予め選別した球形の微粒子を基材1上に配列させ、微粒子からなる層を複数段に積層したものである。
【0038】
図9に、粒子径が280nmのシリカ微粒子層を、実施の形態3において後述する形成方法によって、自己組織化的に積層させた膜の反射スペクトルを示す。ただし、反射スペクトルは、白色光を微粒子層の面に垂直に入射させ、面に垂直に反射した反射光のスペクトルを測定している。図9から、反射率は、波長625nmにおいて最大になり、その反射率は54%と比較的高く、しかも、そのピークの半値幅は約30nmと狭いことがわかる。
【0039】
結晶を形成している原子や分子によるX線の干渉では、ブラッグの法則が成り立つことが知られている。又、光は、一般に、その波長と同程度の間隔(ピッチ)で繰り返される微粒子の周期的配列構造によって反射を受けやすいことが知られている。そこで、シリカ微粒子層による可視光の反射でも、ブラッグ反射の条件と類似した関係が成り立つとすると、最も反射を受けやすい光の波長λ0と微粒子層の間隔(ピッチ)dの間に
kλ0=2n3d
の関係が成り立つ。但し、ここで、n3 は微粒子の構成材料のモード屈折率であり、kは正の整数である。
【0040】
一方、微粒子の配列構造に関して確定されたものはないが、シリカ微粒子のような剛体球の最もありふれた配列構造は、最密充填構造である。最密充填構造には、面内での粒子の配列位置が異なる3つの微粒子層(A層、B層及びC層)が繰り返される立方最密構造と、面内での粒子の配列位置が異なる2つの微粒子層(A層及びB層)が繰り返される六方最密構造とがあるが、隣接する2つの微粒子層の間隔(ピッチ)dは同じで、微粒子の直径Dとの間に
d=(2×3)1/2 D/3
の関係がある。
【0041】
ここで、シリカ微粒子が最密充填構造をとっているものとし、上記の2つの式に、Dとしてシリカ微粒子の粒子径280nm、n3 としてシリカ微粒子のモード屈折率1.36を代入して、k=1とすると、最も反射されやすい波長として、λ0=622nmを得る。これは、実測値λ0=624.5nmとよく一致する。
【0042】
以上の考察から、自己組織化的に形成された図7(b)のシリカ微粒子層では、少なくとも部分的に最密充填構造からなる周期的な粒子配列が形成され、これが、624.5nmを中心波長とする光の反射の主因になっていると考えられる。
【0043】
構造はともかく、実用的には、シリカ微粒子が自己組織化的に積層した構造によって、図9に示されるような、鋭いピークをもち、半値幅の狭い反射スペクトル特性を示す反射層が形成されるという事実が、より重要である。
【0044】
最密充填構造を単純化したモデル計算では、屈折率1.36、粒子径280nmのシリカ微粒子を用いると、625nm付近に鋭いピークをもつ、半値幅約30nmの反射層が形成できることが示され、この結果は実験値と良く一致する。この計算では、入射した波長625nmの光は、表面から8〜15層目までしか侵入せず、大部分の光はこの付近までに反射されて進行方向を逆転させること、特に11層目付近がその境界であることも示される。この結果から、シリカ微粒子を用いて光反射層を形成する場合、11層程度あれば十分であることがわかる。
【0045】
以上、赤色光(波長625nm)を反射する層について述べてきたが、緑色及び青色の光を反射する層も同様に形成すればよい。上記の考察から、微粒子によって反射される光の波長と微粒子の直径とは、比例関係にあると考えられるので、反射させたい光の波長に応じて、適切な微粒子の直径を選択すればよい。即ち、緑色光(波長525nm)に対しては粒子径235nmのシリカ微粒子を用い、青色光(波長475nm)に対しては粒子径212nmのシリカ微粒子を用いればよい。
【0046】
図10(a)は、以上の結果から導かれた、3原色光のみを反射させる反射型スクリーンの基本構造である。反射層として、赤色光反射用の微粒子層2として粒子径280nmのシリカ微粒子を11層積層し、その上に緑色光反射用の微粒子層3として粒子径234.5nmのシリカ微粒子を11層積層し、更にその上に青色光反射用の微粒子層4として粒子径212nmのシリカ微粒子を積層すれば、3原色光のみを反射させてその他の波長の光を透過させる反射層を形成できる。
【0047】
図10(b)は、反射層2〜4の積層順を逆転したものである。短波長の光ほど散乱されやすいので、散乱される光を減らすためには、青色光反射層4が最上部にある図10(a)の配置の方が望ましい。しかし、図10(a)の配置では、粒子径の大きい微粒子層の上に粒子径の小さい微粒子層が乗る構造になっているので、下層の粒子配列の影響を受けて上層の粒子配列が乱れやすい。それに対し、図10(b)では、粒子径の小さい微粒子層の上に粒子径の大きい微粒子層が乗る構造になっているので、比較的、上層の粒子配列が下層の粒子配列の影響を受けにくくなる。従って、規則正しい粒子配列を形成する上では、図10(b)の配置の方が望ましい。
【0048】
基材としては、可視光を吸収する可視光吸収体1が用いられる。具体的には、例えばカーボン製の黒い基材が好ましい。可視光吸収体1の厚さが厚くなるほど、機械的強度は強くなるが、フレキシビリティは失われる。機械的強度とフレキシビリティとを両立させるには、厚さは20μm〜500μmが好ましく、例えば50μm程度がより好ましい。基材の厚さが50μm程度であると、スクリーンが破れにくく、しかも、フレキシビリティが高くてスクリーンの巻き取りも容易である。また、スクリーンの面積は用途に応じて適宜選ばれる。
【0049】
上記のように、スクリーン自体が波長によって光を選別するフィルタとしての作用を示すので、スクリーン30を用いることによって、次に記す理由で、画像の色再現性も改善される。即ち、前述したように、CRTプロジェクタや液晶プロジェクタから出射される各3原色光のスペクトル半値幅は広い。しかし、これらの光がスクリーン30に入射すると、3原色光とその近傍の狭い波長領域の光のみが選択的に反射層32によって反射され、これら以外の光はすべて吸収層31に吸収される。この結果、スクリーンから反射される各3原色光は、スペクトル半値幅の狭い、色純度の良い光に改善される。従って、これらの3原色光の混色によって形成される画像の色調もより正確に再現されるようになる。
【0050】
図11は、先願発明によるスクリーンを用いると、液晶(LCD;Liquid CrystalDisplay)プロジェクタやDLP(Digital Light Processing)プロジェクタによって再現される画像の色再現性が改善されることを示す色度図である。
【0051】
これらのプロジェクタでは、色フィルタを用いて3原色光の波長選択を行っているので、各3原色光のスペクトル半値幅が60〜100nmと大きく、色純度が悪いため、白地のスクリーンに投射した場合には、図11に示すように色再現範囲が限定される。
【0052】
これに対して、図10の先願発明によるスクリーンを用いると、スクリーンで反射された3原色光のスペクトル半値幅は約30nmに狭まるので、図11に示すように色再現範囲が拡大する。
【0053】
<実用的なスクリーンの構造>
図12に示すように、実用的なスクリーンにおいては、微粒子層40の最上部に光拡散層7として光拡散フィルムが接着材6によって貼り付けられている。光拡散フィルムは、表面に2次元マイクロレンズアレイが形成されたマイクロレンズフィルム等に置き換えてもよい。
【0054】
光拡散層7は、光の拡散をはかり、あわせてスクリーンの表面を保護するためのものである。即ち、スクリーンから反射される光を光拡散層7により拡散させることで、指向性を緩和するとともに、スクリーン全体に均一な輝度を持たせることができる。言い換えれば、いわゆるホットスポットをなくすことができる。また、光拡散層7を設けることにより、機械的な衝撃で微粒子層40が剥がれるのを防止することができる。
【0055】
光拡散層7の材料としては、可視光領域において透明な材料で、且つ光を拡散させるものが望ましい。光を拡散させるには、光拡散層7内の場所ごとに屈折率が変化するように光拡散層7に屈折率分布を持たせるか、又はフィルムの表面に凹凸を設けるかする。
【0056】
表面に2次元マイクロレンズアレイが形成されたマイクロレンズフィルムの場合、マイクロレンズは、凸レンズでも凹レンズでも両者の複合でも良い。このマイクロレンズは、画素サイズと同程度かそれより小さければよく、例えば面内に0.1mm程度の直径のレンズを密に配置すればよい。
【0057】
具体的には、例えば光拡散性のあるポリエチレンフィルム(作製上、面内に屈折率分布を持つ。)や、光を拡散することができるように表面に凹凸加工したポリカーボネートフィルム、ポリエチレンテレフタラートフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム等があげられる。この光拡散フィルムの厚さは、通常は5mm以下、望ましくは1mm以下とする。
【0058】
更に、光学特性をよくするために、この光拡散フィルムの表面に、反射防止のための1/4波長コーティングを行ってもよい。この場合、フィルム材の屈折率より低い屈折率の材料でコーティングする必要がある。具体的には、例えば100nmの厚さのSiO2ガラス膜を塗布や蒸着法でコーティングする。
【0059】
接着材6は、透明で、シリカ微粒子と屈折率が近いものがよく、例えばアクリル系接着材がよい。
【0060】
光拡散層7を設けるには、例えば基材である可視光吸収体1の上に反射層2〜4を形成した後に、青色光反射層4の表面に接着材6を塗布等により配置した後、張力を加えながら光拡散フィルム等を青色光反射層4の表面に押しあてて接着する。又は、光拡散フィルム等の裏面に予め接着材を塗布しておき、張力を加えながら光拡散フィルム等を青色光反射層4の表面に押しあてて接着してもよい。
【0061】
しかしながら、いずれにしても、光拡散層7等の被覆層を反射層(図12の例では、青色光反射層4)に接着材6で貼り付けると、反射層に浸透した接着材とシリカ微粒子との屈折率の差は、空気とシリカ微粒子との屈折率の差に比べて小さくなるため、反射層の反射特性が低下するという問題が起こる。
【0062】
接着材6の悪影響を避けるために、青色光反射層4との界面には接着材6を用いずに、光拡散フィルム等の光拡散層7を設ける案が考えられる。しかし、この場合には、光拡散層7と青色光反射層4との間に空気層が入り込み、光拡散層7とこの空気層との界面で、スクリーンへの入射光が全反射を起こすおそれがあるという新しい問題が生じる。
【0063】
<本発明の実施の形態1に基づく、実用的なスクリーンの構造>
図1は、本発明の実施の形態1に基づく、実用的な反射型スクリーン(1)50の主要部拡大概略断面図である。図12との違いは、青色光反射層4の上に可視光透過層として紫外光反射層5が付加され、その上に接着材6で光拡散層7が貼り付けられている点である。紫外光反射層5は、反射層2〜4と同じ形成方法によって、粒子径200nmのシリカ微粒子を11層積層して形成される。
【0064】
スクリーン50では、紫外光反射層5の上に配置された接着材6は、紫外光反射層5に浸透することはあっても、反射層2〜4に触れて反射特性を損なう心配はない。接着材6が紫外光反射層5中に浸透することによって、接着材6が浸透した部分の紫外光反射特性が変化したとしても、紫外光反射層5の可視光透過性に変化は生じないから、スクリーンの3原色光反射特性には影響しない。
【0065】
このように、紫外光反射層5を付加することで、スクリーンの可視光反射特性に影響を与えることなく、光拡散層7等の被覆層を貼り付けることができる。上記の考察からわかるように、原理的には、付加する層は、可視光透過性の層であれば何でもよい。例えば、粒子径300nmのシリカ微粒子を11層積層した赤外光反射層を、紫外光反射層5のかわりに設けてもよい。
【0066】
このように、反射層2〜4がシリカ微粒子によって形成されている場合には、それらと全く同じ形成方法で、単に粒子径を変更するだけで、可視光透過層を形成できる利点は大きい。
【0067】
光拡散層7としては、光拡散フィルムにかえて、表面に2次元マイクロレンズアレイが形成されたマイクロレンズフィルム等を用いてもよい。また、表面にビーズを貼り付けたり、表面をサンドブラスト処理したものでもよい。また、表面をハードコートや無反射コートしてもよい。
【0068】
図2は、本発明の実施の形態1に基づく反射型スクリーン(1)50全体の概略断面図である。微粒子からなる3原色光反射層2〜4は、基材1への接着性も自身の機械的強度も弱いため、保護層を兼ねる光拡散層7が必須である。図2は、光拡散層7と接着材層6によって補強され、反射型スクリーン50の機械的強度が高められている状態を示している。
【0069】
実施の形態1に基づく反射型スクリーンは、紫外光反射層5が付加されていることを除けば、先願発明による反射型スクリーンと同一の構造を有するので、先述した先願発明による反射型スクリーンが有する、優れた特徴を、実施の形態1に基づく反射型スクリーンも有することは、言うまでもない。
【0070】
実施の形態2:反射型スクリーン(2)
図3は、実施の形態1で示した反射型スクリーン(1)に、特定の振動方向の光のみを通過させる層(偏光フィルタ層)として、偏光フィルム8を付加したものである。
【0071】
偏光フィルム8の付加により、光量は半分に低下するものの、コントラストは向上する。
【0072】
その他の点は、反射型スクリーン(1)と全く同じである。紫外光反射層5のかわりに、粒子径300nmのシリカ微粒子を11層積層した赤外光反射層を設けてもよい。また、光拡散層7としては、光拡散フィルムにかえて、表面に2次元マイクロレンズアレイが形成されたマイクロレンズフィルム等を用いてもよい。また、表面をハードコートや無反射コートしてもよい。
【0073】
実施の形態2に基づく反射型スクリーン(2)は、偏光フィルム8が付加されていることを除けば、実施の形態1に基づく反射型スクリーン(1)と同一の構造を有するので、先述した実施の形態1に基づく反射型スクリーン(1)が有する優れた特徴を、実施の形態2に基づく反射型スクリーン(2)も有することは、言うまでもない。
【0074】
実施の形態3:反射型スクリーン(1)の作製
以下、本発明の好ましい実施の形態による反射型スクリーンの製造方法によって、実施の形態1で示した反射型スクリーン(1)を作製する工程を工程順に説明する。
【0075】
工程1
基材としては、可視光を吸収する可視光吸収体1を用いる。具体的には、例えばカーボン製の黒い基材が好ましい。可視光吸収体1の厚さが厚くなるほど、機械的強度は高くなるが、フレキシビリティは失われる。機械的強度とフレキシビリティとを両立させるには、厚さは20μm〜500μmが好ましく、例えば50μm程度がより好ましい。基材の厚さが50μm程度であると、スクリーンが破れにくく、しかも、フレキシビリティが高くてスクリーンの巻き取りも容易である。
【0076】
また、基材として、表面がサンド加工により粗面化処理された黒色の(可視光を吸収することができる)ポリエチレンテレフタラートフィルム(PETフィルム)を用いることもできる。ここで、サンド加工とは、ヤスリ等で擦って、表面を荒らす加工のことである。
【0077】
このときの表面の凹凸の高さは、例えば0.8〜4μmである。サンド加工されたPETフィルムの表面は、濡れ性がよく、微粒子分散液を塗布しやすくなるという利点もある。安価なPETフィルムを用いることは、コスト的にも有利である。
【0078】
また、必ずしも基材自身が可視光を吸収するする必要はなく、ガラス基板やポリカーボネート基板のような透明基材に、カーボン膜のような可視光吸収体をコーティングしてもよい。
【0079】
工程2:反射層2〜4の形成
図1の赤色光反射層2〜青色光反射層4の反射層を構成する微粒子層は、例えば自己組織化技術を用いることにより、容易に製造することができる。即ち、図4に示すように、シリカ微粒子などの微粒子9を水などの分散媒10に分散させた分散液を用い、この分散液から微粒子9を徐々に基材1上に堆積させ、緻密に集合させることにより、微粒子が自己組織化的に配列する。この場合、実施の形態1で前述したように、微粒子は、少なくとも部分的には、最密充填構造を取りながら、規則的に配列していくものと思われる。
【0080】
この自己組織化技術を用いて、まず、粒子径280nmのシリカ微粒子を11層積層して赤色光反射層2を形成し、次に、粒子径235nmのシリカ微粒子を11層積層して緑色光反射層2を形成し、更に、粒子径212nmのシリカ微粒子を11層積層して青色光反射層4を形成して、基材1上に反射層2〜4を順次積層する。
【0081】
上記の方法により、真空装置等の大型の設備を用いずに製膜できるので、設備コストや運転コストを抑えることができる。
【0082】
次に、微粒子層の形成方法について詳しく説明する。一般に、整列した微粒子層の形成方法としては、自然沈降法及び浸漬引き上げ単粒子膜作製法(単粒子膜引き上げ法)などが知られている。
【0083】
自然沈降法では、低濃度の微粒子溶液を基板上に滴下するか、低濃度の微粒子溶液中に基板を立てる。このとき、基板上に沈降した微粒子が、溶媒の蒸発とともに基板上に自己組織化的に整列する。自然沈降法は、1回の操作で3次元的に配列した微粒子層を作製できる方法である。
【0084】
一方、単粒子膜引き上げ法は、低濃度の微粒子溶液中に浸漬した基板を気相中に引き上げ、溶媒を蒸発させ、微粒子が平面状に配列した単粒子層の薄膜を作製する。単粒子膜引き上げ法は、基板の浸漬と引き上げと乾燥の1サイクルで、微粒子が2次元平面状に配列した1層分の微粒子配列を形成する方法である。従って、このサイクルを繰り返すことにより、単粒子層の薄膜を積層し、任意の厚さの3次元的な微粒子層を形成する。
【0085】
自然沈降法では、溶媒の蒸発に長時間を要すること、基板上から溶媒が均等に蒸発しないため、大面積の薄膜を作製する際には、厚さむらを生じること等の難点がある。単粒子膜引き上げ法では、1層ごとに積層するため、工程が複雑で作製に長時間を要すること、規則的な2次元配列をもつ大面積の単粒子膜を作製するには難しい制御が必要であること等の難点がある。
【0086】
そこで、本実施の形態では、3次元の配列が1回の操作で形成できる自然沈降法の利点と、厚さむらの少ない単粒子膜引き上げ法の利点とを両立させ、更に、作製時間を大幅に短縮できる微粒子層の形成方法として、引き上げ回転法を用いる。
【0087】
引き上げ回転法は、単粒子膜引き上げ法と同様に、基板の浸漬と引き上げと乾燥によって微粒子層を形成する。しかし、単粒子膜引き上げ法が、低濃度の微粒子溶液を用いるため、基板の浸漬と引き上げと乾燥の1サイクルで1層分の微粒子配列しか形成できないのに対して、引き上げ回転法では、高濃度の微粒子溶液を用いることによって、基板の浸漬と引き上げと乾燥の1サイクルで複層の微粒子配列を形成することができ、作製工程に要する時間を大幅に短縮できる。
【0088】
高濃度の微粒子溶液中に基板を浸漬し、気相中へ引き上げて、乾燥を行うと、乾燥が遅く溶液の濡れ量が多い部分に微粒子が集積することによって厚さむらが生じやすくなる。この厚さむらは、基板の鉛直方向下方及び水平方向左右端から生じる。そこで、引き上げ回転法では、浸漬前、浸漬中、引き上げ直後のいずれかの時に基板を面内で回転させることにより濡れ量を制御するのが、引き上げ回転法の特徴である。これにより、面内の厚さむらを減少させ、厚さが面内で均一な薄膜を作製することができる。
【0089】
次に、図5を用いて引き上げ回転法による微粒子層の形成方法について、具体的に説明する。
【0090】
図5(a)に示すように、分散液槽12中に高濃度(例えば、2〜50質量%)の微粒子分散液11を入れたものを用意する。ここで、基材1の向きを一定方向に設定する。
【0091】
次に、図5(b)に示すように、分散液槽12の上方から基板1を下降させ、微粒子分散液11中に浸漬する。続いて、図5(c)に示すように、基板1を高速(例えば、30μm/以上)で引き上げる。引き上げ速度が大きいほど、基板1を濡らす微粒子分散液の量が多くなり、1サイクルで形成される微粒子層の厚さが厚くなる。
【0092】
次に、図5(d)に示すように、気相中にて溶媒を蒸発させ、基板1を自然乾燥させる。基板1に付着している微粒子分散液11は、乾燥すると同時に重力によって下方に移動するため、微粒子の分布は基板1の下方に偏る。この結果、乾燥後には、鉛直方向に関して下方が厚く、上方が薄いという厚さが面内に分布をもった薄膜が形成される。
【0093】
この鉛直方向に関する微粒子層の厚さの偏りを解消するために、次のサイクルでは、例えば図5(a)の段階で、基材1の向きを180度回転した向きに設定して、1サイクルの工程を行う。次のサイクルは90度回転させて1サイクルの工程を行い、更に次のサイクルは180度回転させて1サイクルの工程を行う。
【0094】
このようにして、基材1の向きによって生じる、微粒子層の厚さの面内の偏りや厚さむらを抑えることができる。
【0095】
基材1上に微粒子層を形成する他の方法として、例えばインクジェット方式で反射層2〜4用の各粒子径の微粒子の分散液11を基材1上に塗布してもよい。また、印刷法で塗布してもよい。
【0096】
工程3:紫外光反射層5の形成
図1の紫外光反射層5を可視光透過層として形成する。紫外光反射層5は、粒子径200nmのシリカ微粒子を用いて、反射層2〜4と同様に形成することができる。
【0097】
このように、微粒子の粒子径を変更するだけで、反射層2〜4と紫外光反射層5とが同じ方法で形成できるため、能率的であるばかりでなく、反射層2〜4と紫外光反射層5とのなじみもよい利点がある。
【0098】
工程4:光拡散層7の形成
光拡散層7を設けるには、紫外光反射層5の表面に接着材6を塗布等により配置した後、張力を加えながら光拡散フィルム7を紫外光反射層5の表面に押しあてて接着する。又は、光拡散フィルム7の裏面に予め接着材6を塗布しておき、張力を加えながら光拡散フィルム7を紫外光反射層5の表面に押しあてて、光拡散フィルム7を接着してもよい。
【0099】
光拡散フィルム7としては、例えば光拡散性のあるポリエチレンフィルム(作製上、面内に屈折率分布を持つ。)や、光を拡散することができるように表面に凹凸加工したポリカーボネートフィルム、ポリエチレンテレフタラートフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム等を用いる。この光拡散フィルムの厚さは、通常は5mm以下、望ましくは1mm以下とする。
【0100】
接着材6は、透明で、シリカ微粒子と屈折率が近いものがよく、例えばアクリル系接着材がよい。
【0101】
実施の形態3に基づく反射型スクリーンの製造方法は、可視光透過層としての紫外光反射層5の上に光拡散層7等の被覆層を接着するので、接着材によって反射層2〜4の反射特性が損なわれることがなく、反射型スクリーンを歩留まりよく製造できる。
【0102】
また、微粒子の粒子径を変更するだけで、反射層2〜4と紫外光反射層5とが同じ方法で形成できるため、能率的であるばかりでなく、反射層2〜4と紫外光反射層5とのなじみもよい利点がある。
【0103】
【発明の作用効果】
本発明に基づく反射型スクリーンは、特定の可視光を反射する反射層を備えているので、スクリーン自体が波長によって光を選別するフィルタとしての作用を有している。
【0104】
従って、例えば、特定の可視光を反射する反射層を、赤(R)、緑(G)、青(B)の3原色光を反射する層とし、プロジェクタ等から3原色光をスクリーンに投射して画像を形成する表示システムとすれば、スクリーンに入射する、画像に無関係な外部光の大部分は、スクリーンのフィルタ作用によって除かれる。この結果、外部光によってコントラストが劣化することのない表示システムを構築することができ、画像の暗黒部をスクリーン上に真の暗部として表示することができる。また、照明のある室内や野外など、暗室外でのスクリーン表示も可能になる。
【0105】
また、プロジェクタ等から出射される3原色光が、スペクトル半値幅の広いものであっても、スクリーンから反射される3原色光は、前記反射型スクリーンのフィルタ作用によって、スペクトル半値幅が狭く色純度の良い光に改善されるので、3原色光の混色によって形成される画像の色調は、より正確に再現される。
【0106】
更に、反射層の上に可視光透過層が設けられ、この層の上に被覆層が接着されているので、被覆層を接着する接着材が反射層に直接触れることはなく、接着材によって反射層の反射特性が損なわれる心配はない。可視光透過層は、可視光を透過するので、反射層の反射特性を変化させることはない。
【0107】
本発明に基づく反射型スクリーンの製造方法は、可視光透過層の上に被覆層を接着する工程とを有するので、反射型スクリーンを歩留まりよく製造できる方法である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態1に基づく実用的な反射型スクリーンの要部拡大概略断面図である。
【図2】同、実用的な反射型スクリーン全体の概略断面図である。
【図3】本発明の実施の形態2に基づく実用的な反射型スクリーンの要部拡大概略断面図である。
【図4】微粒子層の形成方法を示す説明図である。
【図5】先願発明の好ましい実施の形態に基づく微粒子層の形成方法を示す説明図である。
【図6】同、反射型スクリーンが、画像と外部光とを選別する原理を示す概略断面図である。
【図7】特定の波長の光を選択的に反射する反射層の構造の具体例を示す概略断面図である。
【図8】誘電体層の反射スペクトルを有効フレネル係数法で見積もった計算結果の例である。
【図9】粒子径が280nmのシリカ微粒子層を、自己組織化的に積層させた膜の反射スペクトルである。
【図10】3原色光のみを反射させる反射型スクリーンの基本構造の要部拡大概略断面図である。
【図11】先願発明の実施の形態に基づく反射型スクリーンによって色再現範囲が改善されることを示す色度図である。
【図12】同、実用的な反射型スクリーンの要部拡大概略断面図である。
【符号の説明】
1…可視光吸収体(基材)、2…赤色光反射用の微粒子層、
3…緑色光反射用の微粒子層、4…青色光反射用の微粒子層、
5…紫外光反射層、6…接着材層、7…光拡散層、8…偏光フィルム、
9…微粒子、10…分散媒、11…微粒子分散液、12…分散液槽、
21…基材、30…先願発明の実施の形態に基づく反射型スクリーン、
31…可視光を吸収する吸収層、
32…3原色光近傍の狭い波長領域の光のみを選択的に反射する反射層、
33、34…誘電体材料からなる膜、35…誘電体層、40…微粒子層、
50…本発明の実施の形態1に基づく反射型スクリーン
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えばCRT(Cathode Ray Tube)プロジェクタや液晶プロジェクタ等からの画像の投射に用いて好適な反射型スクリーン、及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、プロジェクタから投射される光を反射して画像を表示する反射型スクリーンとしては、可視部波長領域のすべての光を反射又は散乱する、波長特性のない、白地のスクリーンが用いられてきた。白地のスクリーンでは、画像に関係のない光がスクリーンに入射した場合、画像と同様に反射又は散乱される(以下、本明細書では、プロジェクタ等から投射される画像以外の、画像とは無関係にスクリーンに入射する可視光を外部光と呼ぶことにする。)。その結果、この外部光は画像に重なって観察者の目に入り、画像のコントラストを劣化させる。
【0003】
このため、プロジェクタから白地のスクリーンに画像を投射する場合には、外部光を制限した暗室内で投射するのが一般的である。しかしながら、画像表示が暗室内に限定されることは、スクリーンを用いる表示システムの有用性を著しく損ない、用途を大きく制限する。又、暗室内で投射したとしても、スクリーンからの反射光が暗室内で散乱されてスクリーンに再入射する光、外部から漏れてくる光、及び非常灯など暗室内に残存する光等の外部光の反射によって、画像のコントラストは低下し、画像の暗黒部をスクリーン上で真の暗部として表示することができない。
【0004】
一方、CRTプロジェクタや液晶プロジェクタなどには、赤(R)、緑(G)、青(B)の3原色光をスクリーンに投射し、スクリーン上で混色して各種の色を表示するプロジェクタがある。このようなプロジェクタにおいては、用いられる各3原色光のスペクトル半値幅(FWHM)が60〜100nmと広いため、表現できる色度図上の色再現範囲が狭くなり、正確な色調を再現することが難しいという問題がある。
【0005】
【発明に至る経過】
上記の問題点について鋭意検討した結果、本出願者は、先に、特定の可視光を反射する、波長特性をもつスクリーン及びその製造方法並びにそのスクリーンを用いた画像表示システムを提案した(特願P2001−380670)。即ち、特願P2001−380670に係る発明(以下、先願発明と称する。)の好ましい実施の形態に基づくスクリーンでは、表面に、可視光のうちの3原色光近傍の狭い波長領域の光のみを選択的に反射する反射層が設けられ、その厚み方向下部に、反射層を透過してきた可視光を吸収する吸収層が設けられている。
【0006】
上記のスクリーンに画像を表示する場合には、プロジェクタ等から、赤(R)、緑(G)、青(B)の3原色光をスクリーンに投射し、スクリーン上での混色によって種々の色をもつ画像を形成する。これら3原色光は、スクリーンに設けられた反射層によって反射され、観察者の目に届き、画像として知覚される。
【0007】
一方、外部光には様々な波長の光が含まれていて、その大部分は、反射層が反射できる3原色光近傍の波長領域をはずれた光である。このため、上記のスクリーンに外部光が入射しても、その大部分は反射層によって反射されず、吸収層に吸収されるので、外部光が画像に重なって観察者の目に入ることはほとんどない。この結果、外部光によるコントラストの劣化がわずかになり、画像の暗黒部をスクリーン上に真の暗部として表示することができる。また、照明のある室内や野外など、暗室外でのスクリーン表示も可能になる。
【0008】
上記のように、スクリーン自体が波長によって光を選別するフィルタとしての作用を示すので、次に記す理由で、画像の色再現性も改善される。即ち、CRTプロジェクタや液晶プロジェクタから出射される各3原色光のスペクトル半値幅は、上述したように広い。しかし、これらの光が上記のスクリーンに入射すると、3原色光とその近傍の狭い波長領域の光のみが選択的に反射され、これら以外の光はすべて吸収される。この結果、スクリーンから反射される各3原色光は、スペクトル半値幅の狭い、色純度の良い光に改善される。従って、これらの3原色光の混色によって形成される画像の色再現範囲は拡大し、色調もより正確に再現される。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
先願発明に基づくスクリーンは、上記の優れた特徴を有しているが、特定の波長の光を選択的に反射する反射層は、接着強度などが不十分であり、その表面に保護層が必要である。また、狭くなりがちな視野角特性を広げるための光拡散層や、コントラスト比を向上させるための偏光フィルタ層もあることが望ましい。
【0010】
しかし、これらの被覆層を反射層に接着材層で貼り付けると、反射層と接着材層との屈折率の差は、反射層と空気層との屈折率の差に比べて小さくなるため、反射層の反射特性が低下するという問題が起こる。
【0011】
本発明の目的は、上記のような実情に鑑み、特定の可視光を反射する反射層を有し、且つ、保護層や拡散層等の被覆層を形成しても、反射層の反射特性が損なわれない構造をもつ反射型スクリーンを提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明は、特定の可視光を反射する反射層が設けられ、前記反射層の上に可視光透過層が設けられ、更に前記可視光透過層の上に被覆層が接着されている反射型スクリーンに係わり、又、特定の可視光を反射する反射層を形成する工程と、前記反射層の上に可視光透過層を形成する工程と、前記可視光透過層の上に被覆層を接着する工程とを有する、反射型スクリーンの製造方法に係わるものである。
【0013】
本発明に基づく反射型スクリーンは、前記特定の可視光を反射する反射層を備えているので、波長によって光を選別するフィルタとしての作用を、スクリーン自体が有している。
【0014】
従って、例えば、前記特定の可視光を反射する反射層を、赤(R)、緑(G)、青(B)の3原色光を反射する層とし、プロジェクタ等から3原色光をスクリーンに投射して画像を形成する表示システムとすれば、前記スクリーンに入射する、画像に無関係な外部光の大部分は、前記フィルタ作用によって除かれる。この結果、コントラストが外部光によって劣化することのない表示システムを構築することができ、画像の暗黒部をスクリーン上に真の暗部として表示することができる。また、照明のある室内や野外など、暗室外でのスクリーン表示も可能になる。
【0015】
また、プロジェクタ等から出射される3原色光が、スペクトル半値幅の広いものであっても、前記スクリーンから反射される3原色光は、前記フィルタ作用によって、スペクトル半値幅が狭く色純度の良い光に改善されるので、3原色光の混色によって形成される画像の色調は、より正確に再現される。
【0016】
更に、前記反射層の上に前記可視光透過層が設けられ、この層の上に前記被覆層が接着されているので、前記被覆層を接着する接着材が前記反射層に直接触れることはなく、前記接着材によって前記反射層の反射特性が損なわれる心配はない。前記可視光透過層は、可視光を透過するので、前記反射層の反射特性を変化させることはない。
【0017】
本発明に基づく反射型スクリーンの製造方法は、前記可視光透過層の上に前記被覆層を接着する工程とを有するので、前記反射型スクリーンを歩留まりよく製造できる方法である。
【0018】
【発明の実施の形態】
前記反射層が、赤(R)、緑(G)、青(B)の3原色光の少なくとも1種を反射する、単層又は複層によって形成されているのがよい。
【0019】
また、前記反射層が、可視光の波長に対応する粒子径をもつ微粒子からなる単層又は複層によって形成されていて、前記微粒子が、自己組織化又は最密充填により規則的に配列しているのがよい。
【0020】
あるいは、前記反射層が単層又は複層の誘電体層によって形成されているのがよい。
【0021】
前記可視光透過層が、特定の紫外光又は赤外光を反射する層であるのがよく、特に、紫外光又は赤外光の波長に対応する粒子径をもつ微粒子が複数段に積層されて、前記可視光透過層が形成されているのがよい。
【0022】
前記被覆層が、可視光を拡散する光拡散層であるのがよい。光拡散層は、スクリーンから反射される光を拡散させ、指向性を緩和するとともに、スクリーン全体に均一な輝度を持たせる働きをする。また、光拡散層は保護層として、前記反射層が機械的な衝撃で損傷を受けるのを防止する。
【0023】
また、前記被覆層が、特定の振動方向の光のみを通過させる層(偏光フィルタ層)であるのもよい。このようにすれば、スクリーンへ入射する外部光の偏光成分を前記偏光フィルタ層によって一部カットすることができるので、画像のコントラストを高めることができる。この場合、液晶プロジェクタ等から投射する3原色光は偏光であるので、その振動方向を偏光フィルタ層と同じにすることにより、減衰させずにスクリーンに入射させることができる。
【0024】
前記反射層の厚さ方向下部に、可視光を吸収する吸収体が設けられていて、前記反射層を透過した可視光が前記吸収体によって吸収されるようになっているのがよい。これにより、外部光を吸収するとともに、背後からスクリーンに入射して前方へ抜ける光の透過を阻止することができる。
【0025】
本発明に基づく反射型スクリ−ンは、画像を投射するプロジェクタと一体化された画像表示システムを構成しているのがよい。ここで、プロジェクタから投射されて画像を表示する光の波長と、前記反射層によってスクリーンが反射する光の波長とを一致させるのが、本発明のポイントの1つである。この時、投射光のスペクトル半値幅が狭いほど、投射光の光量を減ずることなく、反射層の反射スペクトルの半値幅を狭めることができ、本発明の効果をよりよく発揮させることができる。
【0026】
スペクトル半値幅の狭い光源としては、発光ダイオードや、とりわけ、半導体レーザがよい。赤色用の半導体レーザとしては、例えばAlGaInP系レーザがよく、緑色用の半導体レーザとしては、例えばInGaN系レーザがよく、青色用の半導体レーザとしては、例えばGaN系レーザがよい。
【0027】
微粒子分散液中に基板を浸漬する第1の工程と、前記基板を気相中に引き上げることにより、その表面を前記微粒子分散液で濡らす第2の工程と、前記微粒子分散液で濡れた前記基板を気相中で乾燥させる第3の工程とによって、前記反射層及び/又は前記可視光透過層を形成するのがよい。
【0028】
この作製方法によって前記反射層と前記可視光透過層とを形成すれば、微粒子の粒子径を変更するだけで2つの層を形成でき、能率的であるばかりでなく、2つの層のなじみもよい。また、この作製方法は、真空装置等の大型の設備が不要であるから、設備コストや運転コストを抑える利点がある。
【0029】
次に、本発明の好ましい実施の形態を図面参照下に具体的に説明する。本発明の実施の形態では、プロジェクタ等からは、赤(R)、緑(G)、青(B)の3原色光がスクリーンに投射され、スクリーン上での混色によって種々の色をもつ画像が形成されるものとし、プロジェクタ等として、例えばCRTプロジェクタや液晶プロジェクタ等を用いるものとする。
【0030】
実施の形態1:反射型スクリーン(1)
ここでは、まず、先願発明の好ましい実施の形態に基づくスクリーンの基本構造を説明し、次に、それを実用的なスクリーンとする場合の問題点を説明し、続いて、本発明の実施の形態1に基づくスクリーンの例を説明する。
【0031】
<スクリーンの基本構造>
図6は、先願発明の好ましい実施の形態に基づく反射型スクリーン30が、画像と外部光とを選別する原理を示す概略断面図である。反射型スクリーン30には、可視光のうち、赤(R)、緑(G)、青(B)の3原色光近傍の狭い波長領域の光のみを選択的に反射する反射層32が設けられ、その厚み方向下部に、反射層を透過してきた可視光を吸収する吸収層31が設けられている。
【0032】
スクリーン30に画像を表示する場合には、プロジェクタ等から、赤(R)、緑(G)、青(B)の3原色光がスクリーンに投射され、スクリーン上での混色によって種々の色をもつ画像が形成される。これら3原色光は、反射層32によって反射され、観察者の目に届き、画像として知覚される。
【0033】
一方、外部光には様々な波長の光が含まれていて、その大部分は、反射層32が反射できる3原色光近傍の波長領域をはずれた光である。このため、スクリーン30に外部光が入射しても、その大部分は反射層32によって反射されず、吸収層31に吸収されるので、外部光が画像に重なって観察者の目に入ることは少ない。この結果、外部光によるコントラストの劣化がわずかになり、画像の鮮明さが向上し、画像の暗黒部をスクリーン上に真の暗部として表示することができる。また、照明のある室内や野外など、暗室外でのスクリーン表示も可能になる。
【0034】
図7は、特定の波長の光のみを選択的に反射する反射層の構造の具体例を示す概略断面図である。
【0035】
図7(a)に示す構造は、基材21上に互いに屈折率nが異なる2種類の誘電体材料からなる膜33及び34を交互に積層した多層膜からなる誘電体層35を形成したもので、干渉効果により特定の波長λ0の光のみが選択的に反射される。各層の厚さLは、それぞれの屈折率n(n1又はn2)に対して、
L=iλ0/4n
である。但し、iは正の整数で、ここでは1とする。
【0036】
図8は、誘電体層35の反射スペクトルを有効フレネル係数法で見積もった計算結果の例である。ここでは、一方の誘電体材料の屈折率をn1=1.2、他方の誘電体材料の屈折率をn2=1.8とし、λ0=520nmとし、積層段数jとして1〜5までを計算した。図8から、積層段数jが増加するほどλ0での反射率Rは増加し、5段に積層すると、反射率Rは90%以上に達することがわかる。但し、λ0での反射率ピークの半値幅は、約200nmと大きい。
【0037】
図7(b)に示す構造は、粒子径を予め選別した球形の微粒子を基材1上に配列させ、微粒子からなる層を複数段に積層したものである。
【0038】
図9に、粒子径が280nmのシリカ微粒子層を、実施の形態3において後述する形成方法によって、自己組織化的に積層させた膜の反射スペクトルを示す。ただし、反射スペクトルは、白色光を微粒子層の面に垂直に入射させ、面に垂直に反射した反射光のスペクトルを測定している。図9から、反射率は、波長625nmにおいて最大になり、その反射率は54%と比較的高く、しかも、そのピークの半値幅は約30nmと狭いことがわかる。
【0039】
結晶を形成している原子や分子によるX線の干渉では、ブラッグの法則が成り立つことが知られている。又、光は、一般に、その波長と同程度の間隔(ピッチ)で繰り返される微粒子の周期的配列構造によって反射を受けやすいことが知られている。そこで、シリカ微粒子層による可視光の反射でも、ブラッグ反射の条件と類似した関係が成り立つとすると、最も反射を受けやすい光の波長λ0と微粒子層の間隔(ピッチ)dの間に
kλ0=2n3d
の関係が成り立つ。但し、ここで、n3 は微粒子の構成材料のモード屈折率であり、kは正の整数である。
【0040】
一方、微粒子の配列構造に関して確定されたものはないが、シリカ微粒子のような剛体球の最もありふれた配列構造は、最密充填構造である。最密充填構造には、面内での粒子の配列位置が異なる3つの微粒子層(A層、B層及びC層)が繰り返される立方最密構造と、面内での粒子の配列位置が異なる2つの微粒子層(A層及びB層)が繰り返される六方最密構造とがあるが、隣接する2つの微粒子層の間隔(ピッチ)dは同じで、微粒子の直径Dとの間に
d=(2×3)1/2 D/3
の関係がある。
【0041】
ここで、シリカ微粒子が最密充填構造をとっているものとし、上記の2つの式に、Dとしてシリカ微粒子の粒子径280nm、n3 としてシリカ微粒子のモード屈折率1.36を代入して、k=1とすると、最も反射されやすい波長として、λ0=622nmを得る。これは、実測値λ0=624.5nmとよく一致する。
【0042】
以上の考察から、自己組織化的に形成された図7(b)のシリカ微粒子層では、少なくとも部分的に最密充填構造からなる周期的な粒子配列が形成され、これが、624.5nmを中心波長とする光の反射の主因になっていると考えられる。
【0043】
構造はともかく、実用的には、シリカ微粒子が自己組織化的に積層した構造によって、図9に示されるような、鋭いピークをもち、半値幅の狭い反射スペクトル特性を示す反射層が形成されるという事実が、より重要である。
【0044】
最密充填構造を単純化したモデル計算では、屈折率1.36、粒子径280nmのシリカ微粒子を用いると、625nm付近に鋭いピークをもつ、半値幅約30nmの反射層が形成できることが示され、この結果は実験値と良く一致する。この計算では、入射した波長625nmの光は、表面から8〜15層目までしか侵入せず、大部分の光はこの付近までに反射されて進行方向を逆転させること、特に11層目付近がその境界であることも示される。この結果から、シリカ微粒子を用いて光反射層を形成する場合、11層程度あれば十分であることがわかる。
【0045】
以上、赤色光(波長625nm)を反射する層について述べてきたが、緑色及び青色の光を反射する層も同様に形成すればよい。上記の考察から、微粒子によって反射される光の波長と微粒子の直径とは、比例関係にあると考えられるので、反射させたい光の波長に応じて、適切な微粒子の直径を選択すればよい。即ち、緑色光(波長525nm)に対しては粒子径235nmのシリカ微粒子を用い、青色光(波長475nm)に対しては粒子径212nmのシリカ微粒子を用いればよい。
【0046】
図10(a)は、以上の結果から導かれた、3原色光のみを反射させる反射型スクリーンの基本構造である。反射層として、赤色光反射用の微粒子層2として粒子径280nmのシリカ微粒子を11層積層し、その上に緑色光反射用の微粒子層3として粒子径234.5nmのシリカ微粒子を11層積層し、更にその上に青色光反射用の微粒子層4として粒子径212nmのシリカ微粒子を積層すれば、3原色光のみを反射させてその他の波長の光を透過させる反射層を形成できる。
【0047】
図10(b)は、反射層2〜4の積層順を逆転したものである。短波長の光ほど散乱されやすいので、散乱される光を減らすためには、青色光反射層4が最上部にある図10(a)の配置の方が望ましい。しかし、図10(a)の配置では、粒子径の大きい微粒子層の上に粒子径の小さい微粒子層が乗る構造になっているので、下層の粒子配列の影響を受けて上層の粒子配列が乱れやすい。それに対し、図10(b)では、粒子径の小さい微粒子層の上に粒子径の大きい微粒子層が乗る構造になっているので、比較的、上層の粒子配列が下層の粒子配列の影響を受けにくくなる。従って、規則正しい粒子配列を形成する上では、図10(b)の配置の方が望ましい。
【0048】
基材としては、可視光を吸収する可視光吸収体1が用いられる。具体的には、例えばカーボン製の黒い基材が好ましい。可視光吸収体1の厚さが厚くなるほど、機械的強度は強くなるが、フレキシビリティは失われる。機械的強度とフレキシビリティとを両立させるには、厚さは20μm〜500μmが好ましく、例えば50μm程度がより好ましい。基材の厚さが50μm程度であると、スクリーンが破れにくく、しかも、フレキシビリティが高くてスクリーンの巻き取りも容易である。また、スクリーンの面積は用途に応じて適宜選ばれる。
【0049】
上記のように、スクリーン自体が波長によって光を選別するフィルタとしての作用を示すので、スクリーン30を用いることによって、次に記す理由で、画像の色再現性も改善される。即ち、前述したように、CRTプロジェクタや液晶プロジェクタから出射される各3原色光のスペクトル半値幅は広い。しかし、これらの光がスクリーン30に入射すると、3原色光とその近傍の狭い波長領域の光のみが選択的に反射層32によって反射され、これら以外の光はすべて吸収層31に吸収される。この結果、スクリーンから反射される各3原色光は、スペクトル半値幅の狭い、色純度の良い光に改善される。従って、これらの3原色光の混色によって形成される画像の色調もより正確に再現されるようになる。
【0050】
図11は、先願発明によるスクリーンを用いると、液晶(LCD;Liquid CrystalDisplay)プロジェクタやDLP(Digital Light Processing)プロジェクタによって再現される画像の色再現性が改善されることを示す色度図である。
【0051】
これらのプロジェクタでは、色フィルタを用いて3原色光の波長選択を行っているので、各3原色光のスペクトル半値幅が60〜100nmと大きく、色純度が悪いため、白地のスクリーンに投射した場合には、図11に示すように色再現範囲が限定される。
【0052】
これに対して、図10の先願発明によるスクリーンを用いると、スクリーンで反射された3原色光のスペクトル半値幅は約30nmに狭まるので、図11に示すように色再現範囲が拡大する。
【0053】
<実用的なスクリーンの構造>
図12に示すように、実用的なスクリーンにおいては、微粒子層40の最上部に光拡散層7として光拡散フィルムが接着材6によって貼り付けられている。光拡散フィルムは、表面に2次元マイクロレンズアレイが形成されたマイクロレンズフィルム等に置き換えてもよい。
【0054】
光拡散層7は、光の拡散をはかり、あわせてスクリーンの表面を保護するためのものである。即ち、スクリーンから反射される光を光拡散層7により拡散させることで、指向性を緩和するとともに、スクリーン全体に均一な輝度を持たせることができる。言い換えれば、いわゆるホットスポットをなくすことができる。また、光拡散層7を設けることにより、機械的な衝撃で微粒子層40が剥がれるのを防止することができる。
【0055】
光拡散層7の材料としては、可視光領域において透明な材料で、且つ光を拡散させるものが望ましい。光を拡散させるには、光拡散層7内の場所ごとに屈折率が変化するように光拡散層7に屈折率分布を持たせるか、又はフィルムの表面に凹凸を設けるかする。
【0056】
表面に2次元マイクロレンズアレイが形成されたマイクロレンズフィルムの場合、マイクロレンズは、凸レンズでも凹レンズでも両者の複合でも良い。このマイクロレンズは、画素サイズと同程度かそれより小さければよく、例えば面内に0.1mm程度の直径のレンズを密に配置すればよい。
【0057】
具体的には、例えば光拡散性のあるポリエチレンフィルム(作製上、面内に屈折率分布を持つ。)や、光を拡散することができるように表面に凹凸加工したポリカーボネートフィルム、ポリエチレンテレフタラートフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム等があげられる。この光拡散フィルムの厚さは、通常は5mm以下、望ましくは1mm以下とする。
【0058】
更に、光学特性をよくするために、この光拡散フィルムの表面に、反射防止のための1/4波長コーティングを行ってもよい。この場合、フィルム材の屈折率より低い屈折率の材料でコーティングする必要がある。具体的には、例えば100nmの厚さのSiO2ガラス膜を塗布や蒸着法でコーティングする。
【0059】
接着材6は、透明で、シリカ微粒子と屈折率が近いものがよく、例えばアクリル系接着材がよい。
【0060】
光拡散層7を設けるには、例えば基材である可視光吸収体1の上に反射層2〜4を形成した後に、青色光反射層4の表面に接着材6を塗布等により配置した後、張力を加えながら光拡散フィルム等を青色光反射層4の表面に押しあてて接着する。又は、光拡散フィルム等の裏面に予め接着材を塗布しておき、張力を加えながら光拡散フィルム等を青色光反射層4の表面に押しあてて接着してもよい。
【0061】
しかしながら、いずれにしても、光拡散層7等の被覆層を反射層(図12の例では、青色光反射層4)に接着材6で貼り付けると、反射層に浸透した接着材とシリカ微粒子との屈折率の差は、空気とシリカ微粒子との屈折率の差に比べて小さくなるため、反射層の反射特性が低下するという問題が起こる。
【0062】
接着材6の悪影響を避けるために、青色光反射層4との界面には接着材6を用いずに、光拡散フィルム等の光拡散層7を設ける案が考えられる。しかし、この場合には、光拡散層7と青色光反射層4との間に空気層が入り込み、光拡散層7とこの空気層との界面で、スクリーンへの入射光が全反射を起こすおそれがあるという新しい問題が生じる。
【0063】
<本発明の実施の形態1に基づく、実用的なスクリーンの構造>
図1は、本発明の実施の形態1に基づく、実用的な反射型スクリーン(1)50の主要部拡大概略断面図である。図12との違いは、青色光反射層4の上に可視光透過層として紫外光反射層5が付加され、その上に接着材6で光拡散層7が貼り付けられている点である。紫外光反射層5は、反射層2〜4と同じ形成方法によって、粒子径200nmのシリカ微粒子を11層積層して形成される。
【0064】
スクリーン50では、紫外光反射層5の上に配置された接着材6は、紫外光反射層5に浸透することはあっても、反射層2〜4に触れて反射特性を損なう心配はない。接着材6が紫外光反射層5中に浸透することによって、接着材6が浸透した部分の紫外光反射特性が変化したとしても、紫外光反射層5の可視光透過性に変化は生じないから、スクリーンの3原色光反射特性には影響しない。
【0065】
このように、紫外光反射層5を付加することで、スクリーンの可視光反射特性に影響を与えることなく、光拡散層7等の被覆層を貼り付けることができる。上記の考察からわかるように、原理的には、付加する層は、可視光透過性の層であれば何でもよい。例えば、粒子径300nmのシリカ微粒子を11層積層した赤外光反射層を、紫外光反射層5のかわりに設けてもよい。
【0066】
このように、反射層2〜4がシリカ微粒子によって形成されている場合には、それらと全く同じ形成方法で、単に粒子径を変更するだけで、可視光透過層を形成できる利点は大きい。
【0067】
光拡散層7としては、光拡散フィルムにかえて、表面に2次元マイクロレンズアレイが形成されたマイクロレンズフィルム等を用いてもよい。また、表面にビーズを貼り付けたり、表面をサンドブラスト処理したものでもよい。また、表面をハードコートや無反射コートしてもよい。
【0068】
図2は、本発明の実施の形態1に基づく反射型スクリーン(1)50全体の概略断面図である。微粒子からなる3原色光反射層2〜4は、基材1への接着性も自身の機械的強度も弱いため、保護層を兼ねる光拡散層7が必須である。図2は、光拡散層7と接着材層6によって補強され、反射型スクリーン50の機械的強度が高められている状態を示している。
【0069】
実施の形態1に基づく反射型スクリーンは、紫外光反射層5が付加されていることを除けば、先願発明による反射型スクリーンと同一の構造を有するので、先述した先願発明による反射型スクリーンが有する、優れた特徴を、実施の形態1に基づく反射型スクリーンも有することは、言うまでもない。
【0070】
実施の形態2:反射型スクリーン(2)
図3は、実施の形態1で示した反射型スクリーン(1)に、特定の振動方向の光のみを通過させる層(偏光フィルタ層)として、偏光フィルム8を付加したものである。
【0071】
偏光フィルム8の付加により、光量は半分に低下するものの、コントラストは向上する。
【0072】
その他の点は、反射型スクリーン(1)と全く同じである。紫外光反射層5のかわりに、粒子径300nmのシリカ微粒子を11層積層した赤外光反射層を設けてもよい。また、光拡散層7としては、光拡散フィルムにかえて、表面に2次元マイクロレンズアレイが形成されたマイクロレンズフィルム等を用いてもよい。また、表面をハードコートや無反射コートしてもよい。
【0073】
実施の形態2に基づく反射型スクリーン(2)は、偏光フィルム8が付加されていることを除けば、実施の形態1に基づく反射型スクリーン(1)と同一の構造を有するので、先述した実施の形態1に基づく反射型スクリーン(1)が有する優れた特徴を、実施の形態2に基づく反射型スクリーン(2)も有することは、言うまでもない。
【0074】
実施の形態3:反射型スクリーン(1)の作製
以下、本発明の好ましい実施の形態による反射型スクリーンの製造方法によって、実施の形態1で示した反射型スクリーン(1)を作製する工程を工程順に説明する。
【0075】
工程1
基材としては、可視光を吸収する可視光吸収体1を用いる。具体的には、例えばカーボン製の黒い基材が好ましい。可視光吸収体1の厚さが厚くなるほど、機械的強度は高くなるが、フレキシビリティは失われる。機械的強度とフレキシビリティとを両立させるには、厚さは20μm〜500μmが好ましく、例えば50μm程度がより好ましい。基材の厚さが50μm程度であると、スクリーンが破れにくく、しかも、フレキシビリティが高くてスクリーンの巻き取りも容易である。
【0076】
また、基材として、表面がサンド加工により粗面化処理された黒色の(可視光を吸収することができる)ポリエチレンテレフタラートフィルム(PETフィルム)を用いることもできる。ここで、サンド加工とは、ヤスリ等で擦って、表面を荒らす加工のことである。
【0077】
このときの表面の凹凸の高さは、例えば0.8〜4μmである。サンド加工されたPETフィルムの表面は、濡れ性がよく、微粒子分散液を塗布しやすくなるという利点もある。安価なPETフィルムを用いることは、コスト的にも有利である。
【0078】
また、必ずしも基材自身が可視光を吸収するする必要はなく、ガラス基板やポリカーボネート基板のような透明基材に、カーボン膜のような可視光吸収体をコーティングしてもよい。
【0079】
工程2:反射層2〜4の形成
図1の赤色光反射層2〜青色光反射層4の反射層を構成する微粒子層は、例えば自己組織化技術を用いることにより、容易に製造することができる。即ち、図4に示すように、シリカ微粒子などの微粒子9を水などの分散媒10に分散させた分散液を用い、この分散液から微粒子9を徐々に基材1上に堆積させ、緻密に集合させることにより、微粒子が自己組織化的に配列する。この場合、実施の形態1で前述したように、微粒子は、少なくとも部分的には、最密充填構造を取りながら、規則的に配列していくものと思われる。
【0080】
この自己組織化技術を用いて、まず、粒子径280nmのシリカ微粒子を11層積層して赤色光反射層2を形成し、次に、粒子径235nmのシリカ微粒子を11層積層して緑色光反射層2を形成し、更に、粒子径212nmのシリカ微粒子を11層積層して青色光反射層4を形成して、基材1上に反射層2〜4を順次積層する。
【0081】
上記の方法により、真空装置等の大型の設備を用いずに製膜できるので、設備コストや運転コストを抑えることができる。
【0082】
次に、微粒子層の形成方法について詳しく説明する。一般に、整列した微粒子層の形成方法としては、自然沈降法及び浸漬引き上げ単粒子膜作製法(単粒子膜引き上げ法)などが知られている。
【0083】
自然沈降法では、低濃度の微粒子溶液を基板上に滴下するか、低濃度の微粒子溶液中に基板を立てる。このとき、基板上に沈降した微粒子が、溶媒の蒸発とともに基板上に自己組織化的に整列する。自然沈降法は、1回の操作で3次元的に配列した微粒子層を作製できる方法である。
【0084】
一方、単粒子膜引き上げ法は、低濃度の微粒子溶液中に浸漬した基板を気相中に引き上げ、溶媒を蒸発させ、微粒子が平面状に配列した単粒子層の薄膜を作製する。単粒子膜引き上げ法は、基板の浸漬と引き上げと乾燥の1サイクルで、微粒子が2次元平面状に配列した1層分の微粒子配列を形成する方法である。従って、このサイクルを繰り返すことにより、単粒子層の薄膜を積層し、任意の厚さの3次元的な微粒子層を形成する。
【0085】
自然沈降法では、溶媒の蒸発に長時間を要すること、基板上から溶媒が均等に蒸発しないため、大面積の薄膜を作製する際には、厚さむらを生じること等の難点がある。単粒子膜引き上げ法では、1層ごとに積層するため、工程が複雑で作製に長時間を要すること、規則的な2次元配列をもつ大面積の単粒子膜を作製するには難しい制御が必要であること等の難点がある。
【0086】
そこで、本実施の形態では、3次元の配列が1回の操作で形成できる自然沈降法の利点と、厚さむらの少ない単粒子膜引き上げ法の利点とを両立させ、更に、作製時間を大幅に短縮できる微粒子層の形成方法として、引き上げ回転法を用いる。
【0087】
引き上げ回転法は、単粒子膜引き上げ法と同様に、基板の浸漬と引き上げと乾燥によって微粒子層を形成する。しかし、単粒子膜引き上げ法が、低濃度の微粒子溶液を用いるため、基板の浸漬と引き上げと乾燥の1サイクルで1層分の微粒子配列しか形成できないのに対して、引き上げ回転法では、高濃度の微粒子溶液を用いることによって、基板の浸漬と引き上げと乾燥の1サイクルで複層の微粒子配列を形成することができ、作製工程に要する時間を大幅に短縮できる。
【0088】
高濃度の微粒子溶液中に基板を浸漬し、気相中へ引き上げて、乾燥を行うと、乾燥が遅く溶液の濡れ量が多い部分に微粒子が集積することによって厚さむらが生じやすくなる。この厚さむらは、基板の鉛直方向下方及び水平方向左右端から生じる。そこで、引き上げ回転法では、浸漬前、浸漬中、引き上げ直後のいずれかの時に基板を面内で回転させることにより濡れ量を制御するのが、引き上げ回転法の特徴である。これにより、面内の厚さむらを減少させ、厚さが面内で均一な薄膜を作製することができる。
【0089】
次に、図5を用いて引き上げ回転法による微粒子層の形成方法について、具体的に説明する。
【0090】
図5(a)に示すように、分散液槽12中に高濃度(例えば、2〜50質量%)の微粒子分散液11を入れたものを用意する。ここで、基材1の向きを一定方向に設定する。
【0091】
次に、図5(b)に示すように、分散液槽12の上方から基板1を下降させ、微粒子分散液11中に浸漬する。続いて、図5(c)に示すように、基板1を高速(例えば、30μm/以上)で引き上げる。引き上げ速度が大きいほど、基板1を濡らす微粒子分散液の量が多くなり、1サイクルで形成される微粒子層の厚さが厚くなる。
【0092】
次に、図5(d)に示すように、気相中にて溶媒を蒸発させ、基板1を自然乾燥させる。基板1に付着している微粒子分散液11は、乾燥すると同時に重力によって下方に移動するため、微粒子の分布は基板1の下方に偏る。この結果、乾燥後には、鉛直方向に関して下方が厚く、上方が薄いという厚さが面内に分布をもった薄膜が形成される。
【0093】
この鉛直方向に関する微粒子層の厚さの偏りを解消するために、次のサイクルでは、例えば図5(a)の段階で、基材1の向きを180度回転した向きに設定して、1サイクルの工程を行う。次のサイクルは90度回転させて1サイクルの工程を行い、更に次のサイクルは180度回転させて1サイクルの工程を行う。
【0094】
このようにして、基材1の向きによって生じる、微粒子層の厚さの面内の偏りや厚さむらを抑えることができる。
【0095】
基材1上に微粒子層を形成する他の方法として、例えばインクジェット方式で反射層2〜4用の各粒子径の微粒子の分散液11を基材1上に塗布してもよい。また、印刷法で塗布してもよい。
【0096】
工程3:紫外光反射層5の形成
図1の紫外光反射層5を可視光透過層として形成する。紫外光反射層5は、粒子径200nmのシリカ微粒子を用いて、反射層2〜4と同様に形成することができる。
【0097】
このように、微粒子の粒子径を変更するだけで、反射層2〜4と紫外光反射層5とが同じ方法で形成できるため、能率的であるばかりでなく、反射層2〜4と紫外光反射層5とのなじみもよい利点がある。
【0098】
工程4:光拡散層7の形成
光拡散層7を設けるには、紫外光反射層5の表面に接着材6を塗布等により配置した後、張力を加えながら光拡散フィルム7を紫外光反射層5の表面に押しあてて接着する。又は、光拡散フィルム7の裏面に予め接着材6を塗布しておき、張力を加えながら光拡散フィルム7を紫外光反射層5の表面に押しあてて、光拡散フィルム7を接着してもよい。
【0099】
光拡散フィルム7としては、例えば光拡散性のあるポリエチレンフィルム(作製上、面内に屈折率分布を持つ。)や、光を拡散することができるように表面に凹凸加工したポリカーボネートフィルム、ポリエチレンテレフタラートフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム等を用いる。この光拡散フィルムの厚さは、通常は5mm以下、望ましくは1mm以下とする。
【0100】
接着材6は、透明で、シリカ微粒子と屈折率が近いものがよく、例えばアクリル系接着材がよい。
【0101】
実施の形態3に基づく反射型スクリーンの製造方法は、可視光透過層としての紫外光反射層5の上に光拡散層7等の被覆層を接着するので、接着材によって反射層2〜4の反射特性が損なわれることがなく、反射型スクリーンを歩留まりよく製造できる。
【0102】
また、微粒子の粒子径を変更するだけで、反射層2〜4と紫外光反射層5とが同じ方法で形成できるため、能率的であるばかりでなく、反射層2〜4と紫外光反射層5とのなじみもよい利点がある。
【0103】
【発明の作用効果】
本発明に基づく反射型スクリーンは、特定の可視光を反射する反射層を備えているので、スクリーン自体が波長によって光を選別するフィルタとしての作用を有している。
【0104】
従って、例えば、特定の可視光を反射する反射層を、赤(R)、緑(G)、青(B)の3原色光を反射する層とし、プロジェクタ等から3原色光をスクリーンに投射して画像を形成する表示システムとすれば、スクリーンに入射する、画像に無関係な外部光の大部分は、スクリーンのフィルタ作用によって除かれる。この結果、外部光によってコントラストが劣化することのない表示システムを構築することができ、画像の暗黒部をスクリーン上に真の暗部として表示することができる。また、照明のある室内や野外など、暗室外でのスクリーン表示も可能になる。
【0105】
また、プロジェクタ等から出射される3原色光が、スペクトル半値幅の広いものであっても、スクリーンから反射される3原色光は、前記反射型スクリーンのフィルタ作用によって、スペクトル半値幅が狭く色純度の良い光に改善されるので、3原色光の混色によって形成される画像の色調は、より正確に再現される。
【0106】
更に、反射層の上に可視光透過層が設けられ、この層の上に被覆層が接着されているので、被覆層を接着する接着材が反射層に直接触れることはなく、接着材によって反射層の反射特性が損なわれる心配はない。可視光透過層は、可視光を透過するので、反射層の反射特性を変化させることはない。
【0107】
本発明に基づく反射型スクリーンの製造方法は、可視光透過層の上に被覆層を接着する工程とを有するので、反射型スクリーンを歩留まりよく製造できる方法である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態1に基づく実用的な反射型スクリーンの要部拡大概略断面図である。
【図2】同、実用的な反射型スクリーン全体の概略断面図である。
【図3】本発明の実施の形態2に基づく実用的な反射型スクリーンの要部拡大概略断面図である。
【図4】微粒子層の形成方法を示す説明図である。
【図5】先願発明の好ましい実施の形態に基づく微粒子層の形成方法を示す説明図である。
【図6】同、反射型スクリーンが、画像と外部光とを選別する原理を示す概略断面図である。
【図7】特定の波長の光を選択的に反射する反射層の構造の具体例を示す概略断面図である。
【図8】誘電体層の反射スペクトルを有効フレネル係数法で見積もった計算結果の例である。
【図9】粒子径が280nmのシリカ微粒子層を、自己組織化的に積層させた膜の反射スペクトルである。
【図10】3原色光のみを反射させる反射型スクリーンの基本構造の要部拡大概略断面図である。
【図11】先願発明の実施の形態に基づく反射型スクリーンによって色再現範囲が改善されることを示す色度図である。
【図12】同、実用的な反射型スクリーンの要部拡大概略断面図である。
【符号の説明】
1…可視光吸収体(基材)、2…赤色光反射用の微粒子層、
3…緑色光反射用の微粒子層、4…青色光反射用の微粒子層、
5…紫外光反射層、6…接着材層、7…光拡散層、8…偏光フィルム、
9…微粒子、10…分散媒、11…微粒子分散液、12…分散液槽、
21…基材、30…先願発明の実施の形態に基づく反射型スクリーン、
31…可視光を吸収する吸収層、
32…3原色光近傍の狭い波長領域の光のみを選択的に反射する反射層、
33、34…誘電体材料からなる膜、35…誘電体層、40…微粒子層、
50…本発明の実施の形態1に基づく反射型スクリーン
Claims (22)
- 特定の可視光を反射する反射層が設けられ、前記反射層の上に可視光透過層が設けられ、更に前記可視光透過層の上に被覆層が接着されている反射型スクリーン。
- 前記反射層が、赤(R)、緑(G)、青(B)の3原色光の少なくとも1種を反射する単層又は複層によって形成されている、請求項1に記載した反射型スクリーン。
- 前記反射層が、可視光の波長に対応する粒子径をもつ微粒子からなる単層又は複層によって形成されている、請求項2に記載した反射型スクリーン。
- 前記反射層が、単層又は複層の誘電体層によって形成されている、請求項2に記載した反射型スクリーン。
- 前記微粒子が、自己組織化又は最密充填により規則的に配列している、請求項3に記載した反射型スクリーン。
- 前記可視光透過層が、特定の紫外光又は赤外光を反射する層である、請求項1に記載した反射型スクリーン。
- 紫外光又は赤外光の波長に対応する粒子径をもつ微粒子が複数段に積層されて、前記可視光透過層が形成されている、請求項6に記載した反射型スクリーン
- 前記被覆層が、可視光を拡散させる層である、請求項1に記載した反射型スクリーン。
- 前記被覆層が、特定の振動方向の光のみを通過させる層である、請求項1に記載した反射型スクリーン。
- 前記反射層の厚さ方向下部に、可視光を吸収する吸収体が設けられている、請求項1に記載した反射型スクリーン。
- プロジェクタから投射される画像を表示する画像表示システムを構成している、請求項1に記載した反射型スクリーン。
- 特定の可視光を反射する反射層を形成する工程と、前記反射層の上に可視光透過層を形成する工程と、前記可視光透過層の上に被覆層を接着する工程とを有する、反射型スクリーンの製造方法。
- 前記反射層を、赤(R)、緑(G)、青(B)の3原色光の少なくとも1種を反射する単層又は複層として形成する、請求項12に記載した反射型スクリーンの製造方法。
- 前記反射層を、可視光の波長に対応する粒子径をもつ微粒子からなる単層又は複層によって形成する、請求項13に記載した反射型スクリーンの製造方法。
- 前記反射層を、単層又は複層の誘電体層によって形成する、請求項13に記載した反射型スクリーンの製造方法。
- 前記微粒子を、自己組織化又は最密充填により規則的に配列させる、請求項14に記載した反射型スクリーンの製造方法。
- 前記可視光透過層を、特定の紫外光又は赤外光を反射する層によって形成する、請求項12に記載した反射型スクリーンの製造方法。
- 紫外光又は赤外光の波長に対応する粒子径をもつ微粒子を複数段に積層して、前記可視光透過層を形成する、請求項12に記載した反射型スクリーンの製造方法。
- 微粒子分散液中に基板を浸漬する第1の工程と、前記基板を気相中に引き上げることにより、その表面を前記微粒子分散液で濡らす第2の工程と、前記微粒子分散液で濡れた前記基板を気相中で乾燥させる第3の工程とによって、前記反射層及び/又は前記可視光透過層を形成する、請求項14又は18に記載した反射型スクリーンの製造方法。
- 前記被覆層を、可視光を拡散する層とする、請求項12に記載した反射型スクリーンの製造方法。
- 前記被覆層を、特定の振動方向の光のみを通過させる層とする、請求項12に記載した反射型スクリーンの製造方法。
- 前記反射層の厚さ方向下部に、可視光を吸収する吸収体を設ける、請求項12に記載した反射型スクリーンの製造方法。
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