JP2004111640A - 異方性射出成形磁石の製造方法及びそれにより得られる射出成形磁石 - Google Patents

異方性射出成形磁石の製造方法及びそれにより得られる射出成形磁石 Download PDF

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Abstract

【課題】磁石の配向性が向上し、磁気特性に優れるだけでなく、そのばらつきを低減しうる異方性射出成形磁石の製造方法及びそれにより得られる射出成形磁石の提供。
【解決手段】磁石粉末と樹脂バインダーを含有する磁石コンパウンドを溶融させて、配向用磁界を印可した射出成形用金型のキャビティ内に射出し成形する異方性射出成形磁石の製造方法において、溶融した磁石コンパウンドの射出率が1キャビティあたり15cm/s以上となり、射出率の立ち上がり時間が0.01秒以下となる条件で磁石コンパウンドを射出することを特徴とする異方性射出成形磁石の製造方法などによって提供。
【選択図】   なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、異方性射出成形磁石の製造方法及びそれにより得られる射出成形磁石に関し、磁石の配向性が向上し、磁気特性に優れるだけでなく、そのばらつきを低減しうる異方性射出成形磁石の製造方法及びそれにより得られる射出成形磁石に関する。
【0002】
【従来技術】
希土類磁石には、希土類−コバルト−系磁石、希土類−鉄−ホウ素系磁石、希土類−鉄−窒素系磁石などがあるが、これらは高磁気特性を有し、従来よりも形状を著しく小型化できることから、近年、音響機器、OA機器などエレクトロニクス製品に組み込む部品として欠かせない材料となっている。
【0003】
特に、樹脂バインダーに希土類磁石粉末を充填した希土類ボンド磁石は、優れた形状加工性を有するだけでなく、薄肉微小成形が可能なことから、年々、その用途を拡大させている。その中でも、異方性希土類ボンド磁石として知られるSmCo系、SmFeN系などのボンド磁石は、磁気特性が特に優れているため多用されている。
【0004】
これらの異方性希土類ボンド磁石は、成形時に磁界をかけて成形し、磁性粉の向きを目的方向にそろえる配向と呼ばれる操作を行うことで、高い磁気特性が得られるようになる。しかし、この配向の操作が不十分であると、本来持っている磁気特性を発揮できず、配向が磁石の場所によってもばらつき、磁石ごとの磁気特性もばらついてしまうという問題があった。
【0005】
このような異方性希土類ボンド磁石の特性を改善し、配向を向上させるために、金型のキャビティ内へ射出した溶融磁石材料を、保圧中に振動させる樹脂磁石材料の射出成形方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、磁石粉末を予め成形磁界より高い磁界で着磁しておき、これと熱可塑性樹脂との混合物(コンパウンド)に磁界を印可しながら射出成形する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。さらに、射出成形金型のキャビティ内に磁性材料コンパウンドを射出した後、配向磁界を反転振動させて、溶融樹脂内に混入した磁性材料を磁気的に撹拌して均一に分散させる方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
【特許文献1】
特開平5−77269号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】
特開平6−244047号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】
特開平1−101612号公報(特許請求の範囲)
【0007】
しかしながら、これらの方法では、射出成形装置に磁石材料を振動させる金型や、磁界を反転振動させるための電源が必要になったり、予め着磁した磁石粉末を含んだコンパウンドが取り扱い難く、磁界を反転振動させるタイミングの調整が困難であるなどの問題点が指摘されていた。
【0008】
このような状況下、特殊な金型や振動用電源を必要とせず、しかも射出成形装置の操作が容易であって、磁石の配向性や磁気特性に優れた異方性射出成形磁石を効率的に製造しうる方法の出現が切望されていた。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、前述した従来技術の問題点に鑑み、磁石の配向性が向上し、磁気特性に優れるだけでなく、そのばらつきを低減しうる異方性射出成形磁石の製造方法及びそれにより得られる射出成形磁石を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、射出成形用金型のキャビティ内に配向用磁界を印可しつつ、磁石粉末を含有する溶融樹脂磁石コンパウンドをキャビティ内に高速で射出し、該磁石コンパウンドの粘度が十分に低い状態でキャビティ内に充填すると、キャビティ内圧が下げられ、結果として磁石粉末の配向度を上げることができ、異方性射出成形磁石の磁気特性が向上し、さらには、そのばらつきも低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明の第1の発明によれば、磁石粉末と樹脂バインダーを含有する磁石コンパウンドを溶融させて、配向用磁界を印可した射出成形用金型のキャビティ内に射出し成形する異方性射出成形磁石の製造方法において、溶融した磁石コンパウンドの射出率が1キャビティあたり15cm/s以上となり、射出率の立ち上がり時間が0.01秒以下となる条件で磁石コンパウンドを射出することを特徴とする異方性射出成形磁石の製造方法が提供される。
【0012】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、磁石粉末が、希土類磁石粉末又は異方性フェライト磁石粉末のいずれか1種以上であることを特徴とする異方性射出成形磁石の製造方法が提供される。
【0013】
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、磁石粉末が、希土類−鉄−窒素系の希土類磁石粉末であることを特徴とする異方性射出成形磁石の製造方法が提供される。
【0014】
また、本発明の第4の発明によれば、第1の発明において、樹脂バインダーが、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、又はそれらの変性樹脂から選ばれた1種以上の熱可塑性樹脂であることを特徴とする異方性射出成形磁石の製造方法が提供される。
【0015】
また、本発明の第5の発明によれば、第1の発明において、磁石コンパウンドの射出率が、1キャビティあたり20〜1000cm/sであることを特徴とする異方性射出成形磁石の製造方法が提供される。
【0016】
さらに、本発明の第6の発明によれば、第1の発明において、射出率の立ち上がり時間が、0.003〜0.008秒であることを特徴とする異方性射出成形磁石が提供される。
【0017】
一方、本発明の第7の発明によれば、第1〜5のいずれかの方法で得られる異方性射出成形磁石であって、表面磁束密度のばらつきが10%以下で、配向度指数が3.0以上であることを特徴とする射出成形磁石が提供される。
【0018】
また、本発明の第8の発明によれば、第7の発明において、表面磁束密度のばらつきが7%以下で、配向度指数が3.5以上であることを特徴とする射出成形磁石が提供される。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の異方性射出成形磁石の製造方法及びそれにより得られる射出成形磁石について詳細に説明する。
【0020】
1.異方性射出成形磁石の製造方法
本発明は、射出成形用金型のキャビティ内に配向用磁界を印可しつつ、磁石粉末を含有する磁石コンパウンドをキャビティ内に射出し成形する異方性射出成形磁石の製造方法において、溶融した磁石コンパウンドを特定の射出率(すなわち、一秒あたりに射出成形機のシリンダーから金型に充填するコンパウンドの体積)以上、かつ射出率の立ち上がり時間(すなわち、設定した射出率に達するまでの時間)を短くしてキャビティ内に射出し成形する異方性射出成形磁石の製造方法である。
【0021】
(1)磁石コンパウンド
本発明において、磁石コンパウンドは、磁石粉末(A)と樹脂バインダー(B)を主成分とする磁石用組成物であって、異方性射出成形用磁石組成物であれば特に制限されず、市販されている異方性射出成形用磁石コンパウンドの殆ど全てを使用することができる。
【0022】
A 磁石粉末
磁石粉末としては、希土類磁性粉末又は異方性フェライト磁石粉末のいずれか1種以上であれば制限されず、希土類磁性粉末は、異方性のSmCo系、SmFeN系、NdFeB系などの希土類−遷移金属系の磁性粉末を用いることができる。
【0023】
希土類−遷移金属系磁石合金であれば、例えば、希土類−鉄−窒素系の各種磁石粉末等を使用でき、希土類元素としては、Sm、Gd、Tb、又はCeの内、少なくとも一種あるいは、さらにPr、Nd、Dy、Ho、Er、Tm、又はYbの内、一種以上を含むものが好ましい。中でもSmが含まれる場合、本発明の効果を著しく発揮させることが可能となる。希土類元素は、単独若しくは混合物として使用でき、その含有量は、5〜40at.%、好ましくは11〜35at.%とすることが好ましい。
【0024】
遷移金属には、Fe、Co、Ni、又はMnが一般的に用いられるが、特に限定はされない。遷移金属として、特に好ましくはFeを用いることができ、さらに磁気特性を損なうことなく磁石の温度特性を改善する目的で、Feの一部をCoで置換してもよい。これらの中では、特に、Feを50〜90at.%含有するものが好ましい。
【0025】
また、保磁力の向上、生産性の向上並びに低コスト化のために、Mn、Ca、Cr、Nb、Mo、Sb、Ge、Zr、V、Si、Al、Ta又はCu等から選ばれた一種以上を添加してもよい。この場合、添加量は、遷移金属全重量に対して7重量%以下とすることが望ましい。また、不可避的不純物としてCあるいはB等が5重量部%以下含有されていてもよい。
希土類−遷移金属系磁石には、フェライト、アルニコなど通常、ボンド磁石の原料となる各種の磁石粉末を混合してもよく、異方性磁場(HA)が、50kOe(4.0MA/m)以上の磁石粉末が好ましい。
【0026】
本発明において希土類−遷移金属系磁石粉末は、平均粒径が1〜10μm、特に2〜8μmである。平均粒径が1μm未満では粉末の凝集度を低く維持できず、ボンド磁石を形成する際、成形性が悪化するという問題がある。一方、10μmを超えると、磁気特性が低下するので好ましくない。
【0027】
本発明の磁石粉末として、特に好ましい希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末は、還元拡散法によって得られた希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の粗粉末を微粉砕し、特定の平均粒径、粒度分布をもつ微粉末となるように粒度を揃えることによって製造される。
【0028】
原料として用いる遷移金属粉末は、一般的にアトマイズ法、電解法等により製造されるが、粉末状の遷移金属であれば、その製法は限定されない。遷移金属、希土類元素、また、保磁力の向上、生産性の向上並びに低コスト化のために添加する元素は、前記のとおりである。還元剤としては、Caなどのアルカリ土類金属が用いられる。上記還元剤の粒度は、5mm以下の塊状になっていることが好ましい。
【0029】
上記希土類元素を含む希土類酸化物粉末原料と、その粒径が10μm〜100μmの範囲に粒度調整された遷移金属粉末原料および、その他原料粉末を秤量して混合し、さらに希土類元素を還元するのに十分な量の還元剤を添加し混合した後、この混合物を非酸化性雰囲気(すなわち、酸素が実質的に存在しない雰囲気)中において、還元剤が溶融する温度以上で、かつ、目的とする希土類−遷移金属系合金が溶融しない温度まで昇温保持して加熱焼成する。これにより、上記希土類酸化物が希土類元素に還元されると共に、還元時の発熱温度を用いて、この希土類元素が遷移金属に拡散され、希土類−遷移金属系合金が合成される。
【0030】
次に、この希土類−遷移金属系合金を室温まで冷却する。冷却した焙焼物を純水中に投じ、水素イオン濃度pHが10以下となるまで、攪拌とデカンテーションとを繰り返す。そして、pHがおよそ5となるまで水中に酢酸または塩酸を添加し、この状態で攪拌を行う。その後、得られた希土類−遷移金属系合金を乾燥して粉末状にした後、この粉末状の希土類−遷移金属合金を窒化処理することで、所望の希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末が製造される。
【0031】
得られた希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末は、粉砕装置に入れ、有機媒体、粉砕媒体によって希土類−遷移金属系合金を微粉砕する。磁石粉末を、その平均粒径が1〜10μmとなるように微粉砕することで、優れた磁気特性の磁石粉末を製造することができる。
【0032】
本発明で磁石粉末を微粉砕するには、固体を取り扱う各種の化学工業において広く使用され、種々の材料を所望の程度に粉砕するための粉砕装置であれば、特に限定されるわけではないが、その中でも、粉末の組成や粒子径を均一にしやすい点で優れた、媒体攪拌ミルまたはビーズミルの湿式分散粉砕方法によることが好適である。
【0033】
媒体攪拌ミルは、有機溶媒中の磁石粉末を混合して形成されたスラリーを微粉砕するものであり、通常の湿式分散粉砕法に用いる媒体攪拌ミルに適用される粉砕機であれば、いかなるものでもよい。例えば、ボール、ビーズ等の粉砕媒体を充填したミルを、攪拌棒、回転ディスク等によって強制的に攪拌することにより、粉砕を行う装置が挙げられる。
【0034】
一方、媒体攪拌ミルの一種であるビーズミルは、本発明で使用する小さな粒径の磁石粉末の粉砕に適したミルであり、バッチ法または連続法で操作される典型的なビーズミルであれば特に限定されず、垂直流動もしくは水平流動を支持するように設計された任意の装置を採用することができる。
【0035】
上記のSmFeN系などの希土類−遷移金属−窒素系磁石粉末の他に、同じく還元拡散法によって得られたSmCo系合金粗粉を粉砕して得られる合金微粉末、Nd−Fe−B系の液体急冷法によって得られた合金粉末、又はHDDR(Hydrogenation−Disproportionation−Desorption−Recombination)法によって得られた異方性Nd−Fe−B系合金粉末、等を用いても優れた磁気特性を有する本発明の射出成形磁石を得ることができる。
【0036】
なお、希土類−遷移金属系磁石粉末には、公知のリン酸系化合物、各種カップリング剤や被覆剤(有機化合物)などによって表面処理を施すことができ、これによって、耐酸化性、熱安定性などを向上させることが可能となる。
【0037】
有機化合物としては、Ti系カップリング剤、Si系反応性モノマ−またはオリゴマー、飽和脂肪酸またはその誘導体、不飽和脂肪酸またはその誘導体、アビエチン酸またはその誘導体、パラフィン系炭化水素またはその誘導体、芳香族系炭化水素またはその誘導体の中から選ばれる少なくとも1種もしくは2種以上を用いることができる。
【0038】
B 樹脂バインダー
本発明において、樹脂バインダーは、磁性粉末の結合剤として働く熱可塑性樹脂またはゴム、熱硬化性樹脂のいずれかであるが、特に熱可塑性樹脂を用いて、下記の条件で射出成形を行った場合に、本発明の優れた射出成形磁石を容易に製造することができる。
【0039】
熱可塑性樹脂系バインダーとしては、例えば、6ナイロン、6,6ナイロン、11ナイロン、12ナイロン、6,12ナイロン、芳香族系ナイロン、これらの分子を一部変性、または共重合化した変性樹脂等のポリアミド樹脂;直鎖型ポリフェニレンサルファイド樹脂、架橋型ポリフェニレンサルファイド樹脂、セミ架橋型ポリフェニレンサルファイド樹脂、これらの分子を一部変性、または共重合化した変性樹脂等のポリフェニレンサルファイド樹脂;低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン樹脂、高密度ポリエチレン樹脂、超高分子量ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン−エチルアクリレート共重合樹脂、アイオノマー樹脂、ポリメチルペンテン樹脂等のポリオレフィン系樹脂;ポリスチレン樹脂、アクリロニトリルーブタジエンースチレン共重合樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、メタクリル樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリ三フッ化塩化エチレン樹脂、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合樹脂、エチレン−四フッ化エチレン共重合樹脂、四フッ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリアリルエーテルアリルスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリレート樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、酢酸セルロース樹脂、前出各樹脂系エラストマー等が挙げられ、これらの単重合体や他種モノマーとのランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体、他の物質での末端基変性品などが挙げられる。
【0040】
これらの中では、得られる成形体の種々の特性やその製造方法の容易性から、6ナイロン、12ナイロン、芳香族ナイロン等のポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂又はこれらの変性樹脂の使用が好ましい。これら熱可塑性樹脂の2種類以上をブレンドして使用することも当然可能である。
【0041】
また、原料としての形状は、パウダー、ビーズ、ペレット等、特に限定されないが、磁性粉末との均一混合性から考えるとパウダー状が望ましい。
これら熱可塑性樹脂バインダーは、磁石粉末に添加、混合、混練することで射出成形用の原料コンパウンドとなる。
【0042】
熱可塑性樹脂バインダーは、磁性粉末100重量部に対して4重量部以上50重量部までの割合で添加されるが、好ましくは5重量部以上20重量部以下、さらに、6重量部以上15重量部以下がより好ましい。添加量が該磁性粉末100重量部に対して4重量部未満の場合は、著しい混練トルクの上昇、流動性の低下を招いて成形困難になり、また、50重量部を超える場合は、所望の磁気特性が得られないので好ましくない。
【0043】
本発明の組成物は、これらの必須成分の他にも、熱可塑性樹脂に用いられる各種添加剤、すなわち希釈剤、変性剤、増粘剤、滑剤、離型剤、紫外線吸収剤、難燃剤や種々の熱安定剤等を添加することができる。
本発明においては、射出率が大きく、射出率の立ち上がり時間が短くなるような磁石コンパウンドの使用が望ましく、そのような磁石コンパウンドは、通常よりも希釈剤或いは滑剤の量を増やし、増粘剤の量を減らすことで容易に得ることができる。
【0044】
希釈剤としては、例えば、エタノール、イソプロパノール等のアルコールなどが挙げられる。
また、滑剤としては、例えばパラフィンワックス、流動パラフィン、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、エステルワックス、カルナウバ、マイクロワックス等のワックス類;ステアリン酸、1,2−オキシステアリン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、オレイン酸等の脂肪酸類;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、ラウリン酸カルシウム、リノール酸亜鉛、リシノール酸カルシウム、2−エチルヘキソイン酸亜鉛等の脂肪酸塩(金属石鹸類);ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘン酸アミド、パルミチン酸アミド、ラウリン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、ジステアリルアジピン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、ジオレイルアジピン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド等脂肪酸アミド類;ステアリン酸ブチル等の脂肪酸エステル、エチレングリコール、ステアリルアルコール等のアルコール類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、及びこれら変性物からなるポリエーテル類、ジメチルポリシロキサン、シリコングリース等のポリシロキサン類、弗素系オイル、弗素系グリース、含弗素樹脂粉末といった弗素化合物、窒化珪素、炭化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、二酸化珪素、二硫化モリブデン等の無機化合物粉体が挙げられる。
【0045】
磁性粉末と樹脂バインダーとの混合方法は、特に限定されず、例えばリボンブレンダー、タンブラー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー等の混合機あるいは、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、ニーダールーダー、単軸押出機、二軸押出機等の混練機を用いて実施され、磁石材料(コンパウンド)が製造される。
【0046】
(2)射出成形
本発明の射出成形磁石は、磁石粉末、樹脂バインダーなど各成分を混合することで塊状となった磁石コンパウンドを、射出成形機を用いて射出・成形して製造することができる。
【0047】
本発明で射出成形磁石を製造するには、磁石コンパウンドを溶融する可塑化装置、キャビティーを有する金型、射出ノズルを有する射出装置、及び一連の工程を制御する制御装置などから構成された一般的な射出成形装置を用いればよい。金型は1以上のキャビティを有し、その内部で磁場配向が必要な方向に磁界が印可しうるものであれば、特に限定されない。
【0048】
磁石コンパウンドは、先ず射出成形装置の可塑化装置に送られ、樹脂バインダーが溶融する温度に加熱され、磁石粉末と均一に混練、溶融された状態でシリンダーから金型に充填される。このときに充填される金型キャビティ内部で、磁石の磁場配向が所定の方向になるよう磁界が印可される。金型に充填された磁石コンパウンドは、金型内部で一定時間保圧され、樹脂が固まると金型から取り出され、射出成形磁石が出来上がる。
成形材料である磁石コンパウンドがシリンダーから押出されて(射出開始)、金型内に充填されるまで(射出完了)に要する時間(射出時間)は、キャビティ容積と射出率、射出率の立ち上がり時間によって決まる。
【0049】
本発明の最大の特徴点は、この磁石コンパウンドの充填時に、射出率(一秒あたりに射出成形機のシリンダーから金型に充填するコンパウンドの体積)が15cm/s(1.5×10−5/s)以上で、かつ射出率の立ち上がり時間(設定した射出率に達するまでの時間)が0.01秒以下になる条件で射出成形するようにしたことである。
【0050】
射出成形においては、高温(150〜400℃)で溶融したコンパウンドをシリンダーから金型に押し出し、コンパウンドを冷却しながら充填してゆく。充填された異方性の磁石材料を配向するには、配向磁界がかかっているキャビティ内で、充分にコンパウンドの粘度を低くしておき、コンパウンド内での磁石粉末の回転が妨げられないようにする必要がある。充填されたコンパウンドは、そのまま金型で冷却されるため、時間がたつほど温度は下がっていく。コンパウンドの温度が下がれば粘度は上昇する。
【0051】
従って、配向性良く異方性磁石を成形するためには、コンパウンドの温度が下がらない、できるだけ短時間のうちにキャビティ内に充填を完了する必要がある。すなわち、射出時間を短くすることが望ましく、特に、設定した射出率に達するまでの時間(射出率の立ち上がり時間)を短くすることが重要である。
こうすることで、高温のコンパウンドがキャビティに入り、キャビティ内圧を下げることが可能となり、磁石粉末の配向度が上がると共に、キャビティ内の温度分布も小さくでき、温度分布による配向度のばらつきに起因する磁気特性のばらつきも低減できる。ここで、キャビティ内圧とは、一般に保圧と呼ばれ、0〜40MPa、好ましくは5〜20MPaに設定される。
【0052】
射出率は、15cm/sよりも小さいと、コンパウンドの粘度上昇が顕著となり、成形品内の磁石粉の配向バラツキが大きくなってしまうので好ましくない。射出率は大きければ大きいほどよいが、1000cm/s以上を達成しようとすると射出成形機の機構部分に特殊な装備が必要となってコストアップにつながり、工業製品の製造には相応しなくなってくる。このようなことから、磁石コンパウンドの射出率は、1キャビティあたり20〜1000cm/sであることが好ましい。
【0053】
また、射出率の立ち上がり時間についても、0.01秒よりも大きくなると、成形品内における磁石粉の配向バラツキが大きくなるので好ましくない。一方、立ち上がり時間を0.003秒よりも小さくしようとすると、射出率を高めようとする場合と同様に、射出成形機の機構部分に特殊な装備が必要となるという問題が発生する。したがって、射出率の立ち上がり時間は、0.003〜0.008秒が特に好ましい。
【0054】
なお、本発明においては、上記の射出率、射出率の立ち上がり時間を達成しうる磁石コンパウンドを採用する限り、ゲートの断面積、ランナーの長さなどによって特に限定されることはなく、小型から大型まで様々な大きさの射出成形磁石を製造することができる。
また、プランジャーの前進速度(圧力)が大きければ射出率が大きくなり、プランジャーの前進速度が大きくなれば、射出率の立ち上がり時間を短くすることができる。
【0055】
2.異方性射出成形磁石
本発明は、上記の方法で射出成形して得られる異方性射出成形磁石であり、その表面磁束密度のばらつきが10%以下で、配向度指数が3.0以上という優れた性能を有するものである。特に、実用上、表面磁束密度のばらつきが7%以下で、配向度指数が3.5以上であるものが好ましい。
【0056】
上記の射出成形磁石は、優れた配向性、磁気特性を有するものであり、異方性希土類磁石の場合、配向度指数は3.0以上で、磁化(Br)は0.70〜0.90T、角型性(Hk)は300〜500kA/mの値を示す。また、比重は4.0〜5.5である。一方、異方性フェライト磁石の場合、配向度指数は3.0以上で、磁化(Br)は0.2〜0.3T、角型性(Hk)は150〜200kA/mの値を示す。また、比重は3.0〜4.0であって、高密度に充填されたものである。
【0057】
本発明によれば、一般に製造されている円筒形、角形又はリング状の射出成形磁石の他、これまでは製造が困難であった薄肉や複雑形状の磁石でも容易に得ることができる。
【0058】
【実施例】
以下、本発明の具体的な構成を実施例により詳しく説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0059】
磁石コンパウンド:
・SmFeN系磁石材料 住友金属鉱山製「SmFeNコンパウンドS3A−12M」
熱可塑性樹脂(12ナイロン、10重量%)
SmFeN系磁石(平均粒径2.7μm、90重量%)
・SmCo系磁石材料 住友金属鉱山製「SmCoコンパウンドWellmaxP9」
熱可塑性樹脂(12ナイロン、10重量%)
SmCo系磁石(平均粒径3.5μm、90重量%)
・フェライト系磁石材料 メイト社製「フェライトコンパウンドFGS−1220」
熱可塑性樹脂(12ナイロン、10重量%)
フェライト系磁石(平均粒径1.5μm、90重量%)
【0060】
金型:
高さ4mm、外径22mm、内径20mmのリング状のキャビティを一つ又は4つ有する金型を用い、各キャビティのラジアル方向に磁界がかかるよう磁気回路を構成した。
【0061】
成形条件:
磁石コンパウンドをノズルおよびシリンダー温度250℃にて、金型温度100℃の金型に射出した。金型の保圧は10MPaとした。
【0062】
なお、実施例、比較例における射出成形磁石の磁気特性は、下記の方法に依って測定した。
磁気特性:
得られたリング状成形体1をラジアル方向(リング側面に垂直の方向であり、図1の矢印rで示す着磁磁界方向)に一様に着磁した後、高さh方向の中心の表面磁束密度を、ホール素子2をセンサーとするガウスメータで全周測定し、その平均値を求めた(図1(a)、(b)を参照)。このときの着磁磁界は約1600kA/m(20kOe)とした。表面磁束密度が表1の値以上であれば合格とした。
【0063】
磁気特性のばらつき:
上記表面磁束密度の最大値と最小値の差を計算し、全周の表面磁束の平均値との割合を表面磁束密度のばらつきとして用いた。ばらつきが表1に示す値以下であれば合格とした。
【0064】
【表1】
Figure 2004111640
【0065】
配向度指数:
X線回折により被検試料のピークを測定し、その数値からウイルソンの配向度指数を算出した。
ウイルソンの配向度指数は、X線回折の標準データのピーク強度比に対して被検試料の各ピーク強度比がどの程度異なっているかを定量的に評価できる方法であり、各X線回折ピークの配向度指数(K)は、次の式(1)により求めることができる。
【0066】
【数1】
Figure 2004111640
【0067】
式(1)中、KS1は被検試料の1番目のピークの配向度指数、IS1、IS2、IS3、…は被検試料の各ピークの強度、ID1、ID2、ID3、…は標準データの各ピークの強度を示す。
求められたKの値が全て1の時が全く配向の無いことを表し、逆にある面のKの値が著しく高い場合は、その面に配向していることを意味する。
実際には、着磁した被検試料のX線回折ピークを測定し、SmCo系磁石、SmFeN系磁石、六方晶フェライト系磁石であれば、結晶のc軸が磁化容易方向であるので、(00n)面を含めて代表的な面指数のピークを5〜10程度選定し、式(1)を用いて配向度指数(K)を算出する。
【0068】
(実施例1)
日精樹脂製の射出成形機「UH−1000−40」を使用し、これにキャビティを一つ有する金型を取り付け、そのキャビティに560kA/m(7kOe)の印可磁界を加えつつ、溶融したコンパウンドを金型に射出し、ラジアル異方性を持ったリング磁石を成形した。磁石コンパウンドには住友金属鉱山製「SmFeNコンパウンドS3A−12M」を用いた。
このときの射出率は20cm/s(2×10−5/s)とし、射出率の立ち上がり時間が0.007秒となるような射出条件を採用した。結果を表2に示す。
【0069】
【表2】
Figure 2004111640
【0070】
(実施例2)
射出率を80cm/s(8×10−5/s)、射出率の立ち上がり時間が0.009秒となるような射出条件とした以外は実施例1と同様にして、SmFeN系磁石材料を成形した。結果を表2に示す。
【0071】
(実施例3)
日本製鋼所製の射出成形機「J55ELII−UPS」を使用し、キャビティを一つ有する金型を取り付け、そのキャビティに560kA/m(7kOe)の印可磁界を加え、溶融したコンパウンドを金型に射出し、ラジアル異方性を持ったリング磁石を成形した。磁石材料には住友金属鉱山製「SmFeNコンパウンドS3A−12M」を用いた。
このとき射出率が20cm/s、射出率の立ち上がり時間が0.004秒となるような射出条件を採用した。結果を表3に示す。
【0072】
【表3】
Figure 2004111640
【0073】
(実施例4)
キャビティを4つ有する金型に代えた以外は実施例3と同様にして、ラジアル異方性を持ったリング磁石を成形した。磁石材料には住友金属鉱山製「SmFeNコンパウンドS3A−12M」を用い、キャビティに560kA/m(7kOe)の印可磁界を加えた。
射出率が100cm/s(10×10−5/s)とし、射出率の立ち上がり時間が0.006秒となるような射出条件で成形した。このとき、一キャビティあたりの射出率は25cm/s(2.5×10−5m/s)となる。結果を表3に示す。
【0074】
(実施例5)
磁石材料に住友金属鉱山製「SmCoコンパウンドWellmaxP9」を用いた以外は実施例3と同様にして、SmCo系磁石材料を成形した。結果を表3に示す。
【0075】
(実施例6)
磁石材料にメイト社製「フェライトコンパウンドFGS−1220」を用いた以外は実施例3と同様にして、フェライト系磁石材料を成形した。結果を表3に示す。
【0076】
(比較例1)
射出率の立ち上がり時間が0.03秒となるような射出条件とした以外は実施例1と同様にして、SmFeN系磁石材料を成形した。結果を表2に示す。
【0077】
(比較例2)
射出率が10cm/s(1×10−5/s)、射出率の立ち上がり時間が0.01秒となるような射出条件とした以外は実施例1と同様にして、SmFeN系磁石材料を成形した。結果を表2に示す。
【0078】
(比較例3)
射出率が10cm/s(1×10−5/s)、射出率の立ち上がり時間0.1秒となるような射出条件とした以外は実施例1と同様にして、SmFeN系磁石材料を成形した。結果を表2に示す。
【0079】
(比較例4)
射出率を10cm/s(1×10−5/s)、射出率の立ち上がり時間0.01秒となるような射出条件とした以外は実施例5と同様にして、SmCo系磁石材料を成形した。結果を表3に示す。
【0080】
(比較例5)
射出率が10cm/s(1×10−5/s)、射出率の立ち上がり時間が0.01秒となるような射出条件とした以外は実施例6と同様にして、フェライト系磁石材料を成形した。結果を表3に示す。
【0081】
以上の結果から、実施例1〜6は、本発明の特定の射出条件で磁石コンパウンドを射出しているために、表面磁束密度が大きく、そのばらつきが小さい優れた射出成形磁石が得られるのに対して、比較例1〜5は、本発明から外れた射出条件で磁石粉末を射出しているために、表面磁束密度が小さくなり、そのばらつきも拡大してしまうので所望の射出成形磁石が得られないことが分かる。
【0082】
【発明の効果】
本発明によれば、配向性、磁気特性に優れ、磁気特性のばらつきが低減した異方性射出成形磁石を容易かつ効率的に製造でき、かかる射出成形磁石は、軽量小型の音響機器、OA機器をはじめとするエレクトロニクス製品などの部品として幅広く使用できることから、その工業的価値は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】射出成形磁石の表面磁束密度を測定する方法を示した説明図である。
【符号の説明】
1 射出成形磁石
2 ホール素子

Claims (8)

  1. 磁石粉末と樹脂バインダーを含有する磁石コンパウンドを溶融させて、配向用磁界を印可した射出成形用金型のキャビティ内に射出し成形する異方性射出成形磁石の製造方法において、
    溶融した磁石コンパウンドの射出率が1キャビティあたり15cm/s以上となり、射出率の立ち上がり時間が0.01秒以下となる条件で磁石コンパウンドを射出することを特徴とする異方性射出成形磁石の製造方法。
  2. 磁石粉末が、希土類磁石粉末又は異方性フェライト磁石粉末のいずれか1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の異方性射出成形磁石の製造方法。
  3. 磁石粉末が、希土類−鉄−窒素系の希土類磁石粉末であることを特徴とする請求項1又は2に記載の異方性射出成形磁石の製造方法。
  4. 樹脂バインダーが、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、又はそれらの変性樹脂から選ばれた1種以上の熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の異方性射出成形磁石の製造方法。
  5. 磁石コンパウンドの射出率が、1キャビティあたり20〜1000cm/sであることを特徴とする請求項1に記載の異方性射出成形磁石の製造方法。
  6. 射出率の立ち上がり時間が、0.003〜0.008秒であることを特徴とする請求項1に記載の異方性射出成形磁石の製造方法。
  7. 請求項1〜5のいずれかに記載の方法で得られる異方性射出成形磁石であって、表面磁束密度のばらつきが10%以下で、配向度指数が3.0以上であることを特徴とする射出成形磁石。
  8. 表面磁束密度のばらつきが7%以下で、配向度指数が3.5以上であることを特徴とする請求項7に記載の射出成形磁石。
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