JP3658868B2 - 希土類ボンド磁石の製造方法および希土類ボンド磁石 - Google Patents

希土類ボンド磁石の製造方法および希土類ボンド磁石 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、希土類ボンド磁石の製造方法および希土類ボンド磁石に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
希土類ボンド磁石は、希土類磁石粉末と結合樹脂(有機バインダー)との混合物(コンパウンド)を所望の磁石形状に加圧成形して製造されるものである。この加圧成形による成形方法には、大別して、圧縮成形法、射出成形法および押出成形法がある。
【0003】
圧縮成形法は、前記コンパウンドをプレス金型中に充填し、これを所定温度で圧縮成形して成形体を得、その後、結合樹脂が熱硬化性樹脂である場合にはそれを硬化させて磁石とする方法である。この方法は、他の方法に比べ、結合樹脂の量が少なくても成形が可能であるため、得られた磁石中の樹脂量が少なくなり、磁気特性の向上にとって有利である。
【0004】
押出成形法は、加熱溶融された前記コンパウンドを押出成形機の金型から押し出すとともに冷却固化し、所望の長さに切断して、磁石とする方法である。この方法では、磁石の形状に対する自由度が大きく、薄肉、長尺の磁石をも容易に製造できるという利点があるが、成形時における溶融物の流動性を確保するために、結合樹脂の添加量を圧縮成形法のそれに比べて多くする必要があり、従って、得られた磁石中の樹脂量が多く、磁気特性が低下する傾向があるという欠点がある。
【0005】
射出成形法は、前記コンパウンドを加熱溶融し、十分な流動性を持たせた状態で該溶融物を金型内に注入し、所定の磁石形状に成形する方法である。この方法では、磁石の形状に対する自由度は、押出成形法に比べさらに大きく、特に、異形状の磁石をも容易に製造できるという利点がある。しかし、成形時における溶融物の流動性は、前記押出成形法より高いレベルが要求されるので、結合樹脂の添加量は、押出成形法のそれに比べてさらに多くする必要があり、従って、得られた磁石中の樹脂量が多く、磁気特性が低下する傾向があるという欠点がある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、以上のような各方法の内、最も磁気性能の高い磁石を成形可能な圧縮成形には、次にような欠点がある。
【0007】
第1に、製造された希土類ボンド磁石は、成形体の密度は高いものの空孔率が高くなる傾向を示すため、機械的強度が弱く、耐食性に劣る。そのため、特に圧縮成形法においては、成形圧力を70kgf/mm2 以上と高圧にする高圧成形を活用したり、成形後に防食用コーティング処理を施す等の方法で対処していた。しかしながら、高圧成形は、成形機のへの負担が大きく、また、防食用コーティング処理を行う場合には、そのための工程が追加され、製造工程の複雑化による生産性の低下、製造コストの上昇を招く。
【0008】
第2に、熱硬化性樹脂を使用したコンパウンドは、樹脂が未硬化状態であるため、樹脂の硬化による物性の変化や吸水による物性の変化が生じ、コンパウンドの成形性が経時的に変化する。これにより、同一条件で成形した場合でも成形体の寸法や密度が変わり、安定に成形を行うことが困難となる。また、熱硬化性樹脂を使用した場合には、キュアリング(硬化)工程が必要になり、これによって工程の増加やコストアップにつながるだけでなく、キュアリング時の樹脂の反応による寸法の変化が生じ、目標寸法を確保するためには、金型寸法の補正が必要になり、寸法確保が容易でない。
【0009】
また、従来の圧縮成形の場合、熱硬化性樹脂として室温で固体のものと液状のものの両者が使用される。このうち、前者の固体樹脂を用いたときには、給材性は比較的良好ではあるが成形性が悪く、より空孔率が高くなる傾向を示す。また、樹脂と磁石粉末の分散性が悪く、その結果、機械的強度が低下する。一方、後者の液状樹脂を用いたときには、高密度の成形体を得ることは可能であるが、成形時の環境(温度、湿度)による影響で敏感に樹脂の物性が変化し、金型への充填性が低下する。
【0010】
そのため、磁石の目標寸法に対しバラツキが生じ、すなわち寸法精度が悪く、成形の安定性に欠ける。特に、小型の磁石の場合には、この欠点は顕著となる。このように寸法のバラツキが大きいことから、最終磁石製品の目標寸法を確保するために、目標寸法よりも大きく成形した後、切削・研磨等の二次加工により寸法を調整する必要がある。これにより、工程の増加を招き、加工により不良材料が発生するので、生産性が低下し、製造コストが増加する。また、このような欠点を解消するためには、成形機の構造や成形工程に特殊な工夫を施さねばならず、成形機の消耗も著しく、成形のサイクルタイムも長くなる。
【0011】
さらに、以上のような第1および第2の欠点は、コンパウンドの製造方法、製造条件、成形時の温度条件、成形後の冷却条件等が不適切であるのも原因の一つとなっている。
【0012】
従って、本発明の目的は、成形性、磁気特性、寸法安定性に優れた低空孔率の希土類ボンド磁石を提供すること、また、前記希土類ボンド磁石を容易に製造することができる希土類ボンド磁石の製造方法を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
このような目的は、下記(1)〜(14)の本発明により達成される。
【0014】
(1) 希土類磁石粉末を熱可塑性樹脂よりなる結合樹脂により結合してなる希土類ボンド磁石の製造方法であって、
前記希土類磁石粉末と前記結合樹脂とを混合・混練して混練物を製造する工程と、
前記混練物を造粒または整粒して、平均粒径が10μm 〜2mmである粒状物とする工程と、
前記粒状物を用いて前記結合樹脂が軟化または溶融状態となる第1の温度で加圧成形する工程と、
少なくとも前記第1の温度未満である第2の温度まで加圧状態で冷却する冷却工程とを有し、
前記冷却工程を水冷により行うことを特徴とする希土類ボンド磁石の製造方法。
【0015】
(2) 希土類磁石粉末を熱可塑性樹脂よりなる結合樹脂により結合してなる希土類ボンド磁石の製造方法であって、
前記希土類磁石粉末と前記結合樹脂とを混合・混練して混練物を製造する工程と、
前記混練物を造粒または整粒して、平均粒径が10μm 〜2mmである粒状物とする工程と、
前記粒状物を用いて前記結合樹脂が軟化または溶融状態となる第1の温度で加圧成形する工程と、
少なくとも前記第1の温度未満である第2の温度まで加圧状態で冷却する冷却工程とを有し、
前記冷却工程を、冷却速度が20〜100℃/秒の強制冷却により行うことを特徴とする希土類ボンド磁石の製造方法。
【0016】
(3) 前記混練は、前記結合樹脂の熱変形温度以上の温度で、かつ前記希土類磁石粉末の表面が溶融または軟化した結合樹脂成分により覆われた状態となるように行われる上記(1)または(2)に記載の希土類ボンド磁石の製造方法。
【0017】
(4) 前記混練物中の前記希土類磁石粉末の含有量が90〜99wt%である上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の希土類ボンド磁石の製造方法。
【0018】
(5) 前記造粒または整粒は、粉砕により行われる上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の希土類ボンド磁石の製造方法。
【0019】
(6) 前記加圧成形は、圧縮成形である上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の希土類ボンド磁石の製造方法。
【0020】
(7) 前記第2の温度は、前記結合樹脂の熱変形温度である上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の希土類ボンド磁石の製造方法。
【0021】
(8) 前記第1の温度と前記第2の温度との差が、20℃以上である上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の希土類ボンド磁石の製造方法。
【0022】
(9) 前記加圧状態での冷却は、前記加圧成形の際の加圧を解除することなく連続して行われる上記(1)ないし(8)のいずれかに記載の希土類ボンド磁石の製造方法。
【0023】
(10) 前記加圧成形時の成形圧力に対し、前記加圧状態での冷却時の圧力が同等またはそれ以下である上記(1)ないし(9)のいずれかに記載の希土類ボンド磁石の製造方法。
【0024】
(11) 前記加圧状態での冷却時の圧力は、少なくとも前記第1の温度と第2の温度の間の温度まで一定に保持されている上記(1)ないし(10)のいずれかに記載の希土類ボンド磁石の製造方法。
【0025】
(12) 前記加圧状態での冷却時の冷却速度は、20〜100℃/秒である上記(1)、(3)ないし(12)のいずれかに記載の希土類ボンド磁石の製造方法。
【0026】
(13) 前記加圧成形時の成形圧力は、60kgf/mm2 以下である上記(1)ないし(12)のいずれかに記載の希土類ボンド磁石の製造方法。
【0027】
(14) 上記(1)ないし(13)のいずれかに記載の方法を用いて製造されたことを特徴とする希土類ボンド磁石。
【0031】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の希土類ボンド磁石の製造方法および希土類ボンド磁石について詳細に説明する。
【0032】
本発明の希土類ボンド磁石の製造方法は、主に、以下の工程を有している。
【0033】
<1>希土類ボンド磁石用組成物の混練物の製造
まず、希土類ボンド磁石用組成物(以下単に「組成物」と言う)を調整する。この組成物は、主に、希土類磁石粉末と、結合樹脂(バインダー)とで構成される。また、好ましくは酸化防止剤を含有し、必要に応じその他の添加剤が添加される。これらの各構成成分は、例えば、ヘンシェルミキサー等の混合機や撹拌機を用いて混合され、さらに、後述するように混練されて混練物を得る。
【0034】
以下、これらの各構成成分について説明する。
【0035】
1.希土類磁石粉末
希土類磁石粉末としては、希土類元素と遷移金属とを含む合金よりなるものが好ましく、特に、次の[1]〜[4]が好ましい。
【0036】
[1] Smを主とする希土類元素と、Coを主とする遷移金属とを基本成分とするもの(以下、Sm−Co系合金と言う)。
【0037】
[2] R(ただし、RはYを含む希土類元素のうち少なくとも1種)と、Feを主とする遷移金属と、Bとを基本成分とするもの(以下、R−Fe−B系合金と言う)。
【0038】
[3] Smを主とする希土類元素と、Feを主とする遷移金属と、Nを主とする格子間元素とを基本成分とするもの(以下、Sm−Fe−N系合金と言う)。
【0039】
[4] R(ただし、RはYを含む希土類元素のうち少なくとも1種)とFe等の遷移金属とを基本成分とし、ナノメーターレベルで磁性相を有するもの(以下、「ナノ結晶磁石」と言う)。
【0040】
[5] 前記[1]〜[4]の組成のもののうち、少なくとも2種を混合したもの。この場合、混合する各磁石粉末の利点を併有することができ、より優れた磁気特性を容易に得ることができる。
【0041】
Sm−Co系合金の代表的なものとしては、SmCo5 、Sm2 TM17(ただしTMは、遷移金属)が挙げられる。
【0042】
R−Fe−B系合金の代表的なものとしては、Nd−Fe−B系合金、Pr−Fe−B系合金、Nd−Pr−Fe−B系合金、Ce−Nd−Fe−B系合金、Ce−Pr−Nd−Fe−B系合金、これらにおけるFeの一部をCo、Ni等の他の遷移金属で置換したもの等が挙げられる。
【0043】
Sm−Fe−N系合金の代表的なものとしては、Sm2 Fe17合金を窒化して作製したSm2 Fe173 が挙げられる。
【0044】
磁石粉末における前記希土類元素としては、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、ミッシュメタルが挙げられ、これらを1種または2種以上含むことができる。また、前記遷移金属としては、Fe、Co、Ni等が挙げられ、これらを1種または2種以上含むことができる。また、磁気特性を向上させるために、磁石粉末中には、必要に応じ、B、Al、Mo、Cu、Ga、Si、Ti、Ta、Zr、Hf、Ag、Zn等を含有することもできる。
【0045】
また、磁石粉末の平均粒径は、特に限定されないが、0.5〜100μm 程度が好ましく、1〜50μm 程度がより好ましい。なお、磁石粉末等の粒径は、例えば、F.S.S.S.( Fischer Sub-Sieve Sizer)法により測定することができる。
【0046】
また、磁石粉末の粒径分布は、均一でも、ある程度分散されていても(バラツキがある)よいが、後述するような少量の結合樹脂で成形時の良好な成形性を得るために、後者の方が好ましい。これにより、得られたボンド磁石の空孔率をより低減することもできる。なお、前記[5]の場合、混合する磁石粉末の組成毎に、その平均粒径が異なっていてもよい。
【0047】
磁石粉末の製造方法は、特に限定されず、例えば、溶解・鋳造により合金インゴットを作製し、この合金インゴットを適度な粒度に粉砕し(さらに分級し)て得られたもの、アモルファス合金を製造するのに用いる急冷薄帯製造装置で、リボン状の急冷薄片(微細な多結晶が集合)を製造し、この薄片(薄帯)を適度な粒度に粉砕し(さらに分級し)て得られたもの等、いずれでもよい。
【0048】
以上のような磁石粉末の混練物中での含有量は、90〜99wt%程度であるのが好ましく、93〜99wt%程度であるのがより好ましく、95〜99wt%程度であるのがより好ましい。磁石粉末の含有量が少な過ぎると、磁気特性(特に磁気エネルギー積)の向上が図れず、また、磁石粉末の含有量が多過ぎると、相対的に結合樹脂の含有量が少なくなり、成形性が低下する。
【0049】
2.結合樹脂(バインダー)
結合樹脂(バインダー)としては、熱可塑性樹脂が用いられる。結合樹脂として熱可塑性樹脂を用いた場合には、熱硬化性樹脂を用いた場合に比べ、低空孔率の磁石を得る上で有利であるが、本発明では、後述する成形時の温度条件、冷却条件と相まって、より低い空孔率を実現することができる。
【0050】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド(例:ナイロン6、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6−12、ナイロン6−66)、熱可塑性ポリイミド、芳香族ポリエステル系樹脂等の液晶ポリマー、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリエーテル、ポリアセタール等、またはこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイ等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0051】
これらのうちでも、成形性に優れ、また機械的強度が強いことから、ポリアミドまたはその共重合体、耐熱性向上の点から、液晶ポリマー、ポリフェニレンサルファイドを主とするもの、成形の容易性や低コストの点で、ポリオレフィンを主とするものが好ましい。また、これらの熱可塑性樹脂は、磁石粉末との混練性にも優れている。
【0052】
用いられる熱可塑性樹脂は、融点が120℃以上のものであるのが好ましく、122℃〜400℃のものであるのがより好ましく、125℃〜350℃のものであるのがさらに好ましい。融点が前記下限値未満のものであると、磁石成形体の耐熱性が低下し、十分な温度特性(磁気的または機械的)を確保することが困難となる。また、融点が前記上限値を超えるものであると、成形時の温度が上昇し、磁石粉末等の酸化が生じ易くなる。
【0053】
また、成形性をより向上させるために、用いられる熱可塑性樹脂の平均分子量(重合度)は、10000〜60000程度であるのが好ましく、10000〜35000程度であるのがより好ましい。
【0054】
以上のような結合樹脂の混練物中での含有量は、1〜10wt%程度であるのが好ましく、1〜8wt%程度であるのが好ましく、1〜5wt%程度であるのがさらに好ましい。結合樹脂の含有量が多過ぎると、磁気特性(特に最大磁気エネルギー積)の向上が図れず、また、寸法精度が低下する傾向を示す。また、結合樹脂の含有量が少な過ぎると、成形性が低下する。
【0055】
3.酸化防止剤
酸化防止剤は、混練物の製造の際等に、希土類磁石粉末の酸化劣化や結合樹脂の酸化による変質(希土類磁石粉末の金属成分が触媒として働くことにより生じる)を防止するために該組成物中に添加される添加剤である。この酸化防止剤の添加は、希土類磁石粉末の酸化を防止し、磁石の磁気特性の向上を図るのに寄与するとともに、希土類ボンド磁石用組成物の混練時、成形時における熱的安定性の向上に寄与し、少ない結合樹脂量で良好な成形性を確保する上で重要な役割を果たしている。
【0056】
この酸化防止剤は、混練時や磁石への成形時等において揮発したり、変質したりするので、製造された希土類ボンド磁石中には、その一部が残留した状態で存在する。
【0057】
酸化防止剤としては、希土類磁石粉末等の酸化を防止または抑制し得るものであればいかなるものでもよく、例えば、アミン系化合物、アミノ酸系化合物、ニトロカルボン酸類、ヒドラジン化合物、シアン化合物、硫化物等の、金属イオン、特にFe成分に対しキレート化合物を生成するキレート化剤が好適に使用される。なお、酸化防止剤の種類、組成等については、これらのものに限定されないことは言うまでもない。
【0058】
このような酸化防止剤を添加する場合、混練物中の酸化防止剤の含有量は、0.1〜2wt%程度とするのが好ましく、0.5〜1.5wt%程度とするのがより好ましい。この場合、酸化防止剤の含有量は、結合樹脂の含有量に対し2〜150%程度であるのが好ましく、30〜100%程度であるのがより好ましい。
【0059】
なお、本発明では、酸化防止剤の添加量は、前記範囲の下限値以下であってもよく、また、無添加であってもよいことは、言うまでもない。
【0060】
前記結合樹脂と酸化防止剤との添加量は、次のようなことに留意して決定される。
【0061】
すなわち、結合樹脂が少ないときには、相対的に磁石粉末量が増加して、混練の際の混練物の粘度が高くなり、混練トルクが増大し、発熱により樹脂の酸化が促進される傾向となる。この時、酸化防止剤量が少ないと、樹脂の酸化を十分に抑制することができなくなり、混練物(樹脂溶融物)の粘度上昇が生じて混練性、成形性が低下し、低空孔率、高機械的強度で寸法安定性に優れた磁石が得られない。また、酸化防止剤量が多いと、相対的に樹脂量が減少し、成形体の機械的強度が低下する傾向を示す。
【0062】
一方、結合樹脂が多いときには、相対的に磁石粉末量が減少して、磁石粉末の樹脂に対する影響が低下して樹脂の酸化が起こりにくくなる。そのため、酸化防止剤が少なくても樹脂の酸化を抑制することが可能となる。
【0063】
このように、結合樹脂の含有量が比較的多ければ、酸化防止剤の含有量を少なくすることができ、逆に、結合樹脂の含有量が少なければ、酸化防止剤の含有量を多くする必要がある。
【0064】
従って、混練物中の結合樹脂と酸化防止剤との合計含有量は、1.0〜8.0wt%であるのが好ましく、2.0〜6.0wt%であるのがより好ましい。このような範囲とすることにより、成形時における成形性、成形の容易性、磁石粉末等の酸化防止の向上に寄与し、低空孔率、高機械的強度、高磁気特性の磁石が得られる。
【0065】
4.その他の添加剤
また、混練物中には、必要に応じ、例えば、可塑剤(例えば、ステアリン酸亜鉛等の脂肪酸塩、脂肪酸)、潤滑剤(例えば、シリコーンオイル、各種ワックス、脂肪酸、アルミナ、シリカ、チタニア等の各種無機潤滑剤)、その他成形助剤等の各種添加剤が添加されていてもよい。
【0066】
可塑剤の添加は、成形時の流動性を向上させるので、より少ない結合樹脂の添加量で同様の特性を得ることができ、また、より低い成形圧で圧縮成形することを可能とする。潤滑剤の添加についても同様である。可塑剤の添加量は、0.01〜0.2wt%程度であるのが好ましく、潤滑剤の添加量は、0.05〜0.5wt%程度であるのが好ましい。
【0067】
以上のような希土類磁石粉末と、結合樹脂と、好ましくは酸化防止剤と、必要に応じその他の添加剤とを混合し、さらに混練して混練物を製造する。
【0068】
混合は、例えば、ヘンシェルミキサー等の混合機や撹拌機を用いて行われる。
【0069】
混練は、例えば2軸押出混練機、ロール式混練機、ニーダー等の混練機を用いて行われる。
【0070】
この混練は、好ましくは用いる結合樹脂の熱変形温度(ASTM D648 による方法で測定)以上の温度、より好ましくは用いる結合樹脂の融点以上の温度で行われる。
【0071】
例えば、結合樹脂としてポリアミド(熱変形温度145℃、融点178℃)を用いた場合には、好ましい混練温度は、150〜280℃程度である。また、混練時間は、結合樹脂の種類や、混練温度等の諸条件により異なるが、通常は、5〜40分程度とされる。
【0072】
また、この混練は、希土類磁石粉末の表面が溶融または軟化した結合樹脂成分により覆われた状態となるように、十分に行われる。前記混練温度で混練した場合、このような状態を得るための混練時間は、結合樹脂の種類や使用する混練機、混練温度等の諸条件により異なるが、通常5〜90分程度とするのが好ましく、5〜60分程度とするのがより好ましい。
【0073】
このような条件で混練することにより、混練の効率が向上し、常温で混練する場合に比べてより短時間で均一に混練することができるとともに、結合樹脂の粘度が下がった状態で混練されるので、希土類磁石粉末の周囲を結合樹脂が均一に覆った状態となり、混練物中の空孔率の減少、すなわち製造された磁石中の空孔率の減少に寄与する。
【0074】
なお、結合樹脂として、n種類の熱可塑性樹脂を混合して用いる場合、前記「用いる結合樹脂の熱変形温度(または融点)」は、例えば、次のようにして換算することができる。
【0075】
熱可塑性樹脂の合計を1重量部としたときの各熱可塑性樹脂の量をそれぞれA1 、A2 ・・・An 重量部、各熱可塑性樹脂の熱変形温度(または融点)をそれぞれT1 、T2 ・・・Tn としたとき、用いる熱可塑性樹脂の熱変形温度(または融点)は、A11 +A22 +・・・An Tn で表される。なお、この換算は、以下の工程において、n種類の熱可塑性樹脂を混合して用いる場合にも同様とする。
【0076】
<2>造粒物の製造
前記<1>で製造された混練物を造粒または整粒し、所定の粒径の粒状物を製造する。
【0077】
造粒または整粒の方法は、特に限定されないが、混練物を粉砕することによりなされるのが好ましい。この粉砕は、例えば、ボールミル、振動ミル、破砕機、ジェットミル、ピンミル等を用いて行われる。
【0078】
また、例えば押出式造粒機のような造粒機を用いて行うこともでき、さらには、造粒機による造粒と、前記粉砕とを組み合わせて行うこともできる。
【0079】
また、粒状物の粒径の調整は、篩い等を用いて分級することにより行うことができる。
【0080】
粒状物の平均粒径は、10μm 〜2mm程度であるのが好ましく、20μm 〜2mm程度であるのがより好ましく、50μm 〜2mm程度であるのがさらに好ましい。粒状物の平均粒径が2mm以上では、特に成形される磁石の寸法が小さい場合に、すなわち成形金型のギャップの寸法が小さい場合に、粒状物の金型への充填量を微妙に調整することが困難となり、定量性が劣るので、ボンド磁石の寸法精度の向上が図れない。一方、平均粒径10μm 以下の粒状物は、製造(造粒)が困難かまたは手間がかかる場合があり、また、平均粒径が小さ過ぎると、得られたボンド磁石の空孔率が上昇する傾向を示す。
【0081】
このような粒状物は、粒径にある程度のバラツキがあるものでもよいが、粒径が均一なものが好ましい。これにより、金型への充填密度が増大し、低空孔率で寸法精度の高いボンド磁石が得られる。
【0082】
なお、ここで言う粒状物は、粒径の大きいペレット(塊状物)とは区別される。
【0083】
<3>加圧成形
前記<2>で得られた粒状物を用いて加圧成形を行う。以下、代表的な圧縮成形について説明する。
【0084】
造粒物を圧縮成形機の金型内(ギャップ)に充填し、磁場中(配向磁場が例えば5〜20kOe 、配向方向は、縦、横、ラジアル方向のいずれも可)または無磁場中で圧縮成形する。
【0085】
この圧縮成形は、温間成形で行われる。すなわち、成形金型を加熱する等により、成形時の材料温度を、用いる熱可塑性樹脂(結合樹脂)が軟化または溶融状態となる所定の温度(第1の温度)とする。
【0086】
この第1の温度は、用いる熱可塑性樹脂の熱変形温度以上の温度とされる。さらには、用いる熱可塑性樹脂の融点以上の温度とされるのが好ましく、融点から(融点+200)℃程度までの範囲の所定の温度とされるのがより好ましく、融点から(融点+130)℃程度までの範囲の所定の温度とされるのがさらに好ましい。
【0087】
例えば、用いる熱可塑性樹脂がポリアミド(融点:178℃)である場合、成形時における特に好ましい材料温度(第1の温度)は、180〜300℃程度とされる。
【0088】
このような温度で成形することにより、金型内での成形材料の流動性が向上し、円柱状、ブロック状のものは勿論のこと、円筒状(リング状)、平板状、湾曲板状等の薄肉部を有する形状のもの、小型のもの、長尺なものでも、低空孔率で、機械的強度が高く、良好かつ安定した形状、寸法のものを量産することができる。
【0089】
圧縮成形における成形圧力は、好ましくは60kgf/mm2 以下、より好ましくは2〜50kgf/mm2 程度、さらに好ましくは5〜40kgf/mm2 程度とされる。本発明では、前述したような第1の温度で成形を行うため、このような比較的低い成形圧力でも、前述したような長所を持つボンド磁石を成形(賦形)することができる。
【0090】
<4>冷却
加圧成形後、成形体を冷却する。この冷却は、少なくとも前記第1の温度未満である所定の温度(第2の温度)まで加圧状態で行う。以下、これを「加圧下冷却」と言う。
【0091】
このような加圧下冷却を行うことにより、成形時の低空孔率な状態がそのまま維持されるので、低空孔率で寸法精度が高く、磁気特性に優れる希土類ボンド磁石が得られる。
【0092】
第2の温度(除圧温度)は、得られたボンド磁石の空孔率の低減および寸法精度の向上にとって、できるだけ低い温度であるのが好ましく、本発明では、用いる熱可塑性樹脂の融点またはそれ以下の温度であるのが好ましく、用いる熱可塑性樹脂の熱変形温度(軟化点)またはそれ以下の温度であるのがより好ましい。
【0093】
また、前記第1の温度と第2の温度との差は、20℃以上であるのが好ましく、50℃以上であるのがより好ましい。この温度差が大きい程、空孔率の低減および寸法精度の向上の効果が大きい。
【0094】
なお、磁石粉末の含有量が比較的多い場合には、第2の温度をより高く設定しても低空孔率のボンド磁石を得易い。従って、例えば、混練物中の磁石粉末の含有量が例えば94wt%以上の場合には、第2の温度を、用いる熱可塑性樹脂の融点付近の温度または融点以上の温度(〜融点+10℃程度)としても、空孔率を低く(4.5%以下または4.0%以下)することができる。
【0095】
また、加圧下冷却は、加圧成形時の加圧を一旦解除または緩和した後、行ってもよいが、加圧成形時の加圧を解除することなく連続して行われるのが、工程の簡素化および寸法精度の向上等のために好ましい。
【0096】
また、加圧下冷却の際の圧力は、一定でも変化してもよいが、少なくとも用いる熱可塑性樹脂の融点(特に熱変形温度)までは一定に保持されているのが好ましい。加圧下冷却の際の圧力が変化する場合、例えば、圧力が連続的または段階的に増加または減少するようなパターンを含んでいてもよい。
【0097】
また、加圧下冷却の際の圧力(該圧力が経時変化する場合にはその平均圧力)は、加圧成形時の成形圧力と同等またはそれ以下であるのが好ましく、少なくとも用いる熱可塑性樹脂の融点までは加圧成形時の成形圧力と同等であるのがより好ましい。用いる熱可塑性樹脂の融点から熱変形温度までの間も加圧下で冷却する場合は、その間の圧力は、加圧成形時の成形圧力の40〜100%程度とするのが好ましく、50〜80%程度とするのがより好ましい。
【0098】
なお、本発明では、加圧下冷却の後(除圧後)に、非加圧下(常圧下)で冷却を続行してもよいことは、言うまでもない。また、非加圧下冷却を行った後、再度加圧下冷却を行ってもよい。
【0099】
加圧下冷却の際の冷却速度(冷却速度が経時変化する場合にはその平均値)は、特に限定されないが、0.5〜100℃/秒であるのが好ましく、1〜80℃/秒であるのがより好ましい。冷却速度が速過ぎると、冷却に伴う急速な収縮により、成形体内部に微細なクラックが発生し、機械的強度の低下を招くおそれがあり、また、冷却により内部応力が増大し、金型からの除材時に応力緩和によるひずみや変形が生じて、寸法精度が低下することがある。一方、冷却速度が遅過ぎると、成形のサイクルタイムが増加し、生産性が低下する。
【0100】
また、除圧後にも冷却を続行する場合、その冷却速度は特に限定されず、前記と同様の冷却速度とすることができる。
【0101】
なお、加圧下冷却の際および除圧後の冷却の際の冷却速度は、それぞれ、一定でも変化してもよい。
【0102】
なお、本工程において、冷却の方法は、例えば、強制空冷、水冷、油冷、水冷と空冷の組み合わせ等を採用することができる。
【0103】
以上のような本発明の方法で製造された希土類ボンド磁石は、次のような優れた特性を有する。すなわち、空孔率が低く、好ましくは4.5%( vol%)以下、より好ましくは3.5%以下、さらに好ましくは2.0%以下とすることができる。このように、空孔率が低い(=密度が高い)ので、機械的強度が高く、耐食性に優れ、また、寸法精度が高く、量産した場合にも寸法のバラツキが少なく、寸法安定性に優れている。
【0104】
さらに、磁気特性に優れており、特に、磁石粉末の組成、磁石粉末の含有量の多さ等から、等方性磁石であっても、優れた磁気特性を有する。
【0105】
すなわち、無磁場中で成形された希土類ボンド磁石の場合、最大磁気エネルギー積(BH)max が好ましくは6MGOe以上、より好ましくは8MGOe以上であり、磁場中で成形された希土類ボンド磁石の場合、最大磁気エネルギー積(BH)max が12MGOe以上、より好ましくは13MGOe以上である。
【0106】
なお、本発明により得られた希土類ボンド磁石の形状、寸法等は特に限定されず、例えば、形状に関しては、例えば、円柱状、角柱状、円筒状、円弧状(かわら状)、平板状、湾曲板状等のあらゆる形状のものが可能であり、その大きさも、大型のものから超小型のものまであらゆる大きさのものが可能である。
【0107】
【実施例】
以下、本発明の具体的実施例について説明する。
【0108】
(参考例1)
下記の磁石粉末と結合樹脂(熱可塑性樹脂)と添加剤とを混合し、該混合物を混練し、該混練物を造粒(整粒)して粒状物を得、該粒状物を成形機の金型内に充填して無磁場中で圧縮成形(温間成形)し、成形時の加圧状態を同圧で維持しつつ冷却して、結合樹脂の固化により磁石粉末同士が結合された希土類ボンド磁石(サンプルNo. 1〜9)を製造した。なお、各物質の含有量は、いずれも混練物中の量を示す。
【0109】
・構成
Nd−Fe−B系磁石粉末:Nd12.0Fe77.8Co4.35.9 、96.0wt%
熱可塑性樹脂:表1中に記載のA〜G、各々2.8wt%
酸化防止剤:ヒドラジン系酸化防止剤、1.2wt%
混合:ヘンシェルミキサーを用いて混合。
【0110】
混練:2軸押出混練機により混練。混練温度は表2参照。
【0111】
スクリュー回転数100〜300rpm 。混練時間5〜15分
造粒(整粒):混練物を粉砕と分級により平均粒径0.8mmの粒に調整。
【0112】
成形:粒状物を金型に投入し、所定の成形温度(第1の温度)に加熱したところで加圧成形した。
【0113】
成形温度、成形圧力は表2を参照。
【0114】
冷却:加圧状態を維持しつつ除圧温度(第2の温度)まで冷却し、除圧後さらに常温まで冷却して、サンプルを取り出した。
【0115】
冷却方法は空冷とした。除圧温度は表2参照。
【0116】
加圧下冷却での冷却速度は1℃/秒。
【0117】
Figure 0003658868
得られた希土類ボンド磁石について、磁気性能(磁束密度Br、保磁力iHc 、最大磁気エネルギー積(BH)max )、密度、空孔率、機械的強度、耐食性を調べたところ、下記表3に示す通りであった。
【0118】
なお、表3中の各測定項目の評価は、以下の方法に従った。
【0119】
磁気性能:40kOe でパルス着磁した後、最大印加磁場25kOe で直流磁気測定機により測定。または、成形サンプルから5mm角×厚さ1mmの磁石片を切り出した後、VSMで測定。
【0120】
密度:アルキメデス法(水中法)により測定。
【0121】
空孔率:秤量組成と成形体の密度の測定値から算出。
【0122】
機械的強度:打ち抜きせん断試験により測定。試験機は(株)島津製作所製オートグラフを用い、円形ポンチ(外径3mm)により剪断速度1.0mm/minで行った。
【0123】
試料には平板形状の磁石を使用。
【0124】
耐食性:温度80℃、湿度90%の恒温恒湿槽に、成形磁石を投入し、磁石表面に錆が発生するまでの時間を測定。表面観察は50時間毎に槽から取り出して光学顕微鏡(×10倍)で観察。500時間後は、500時間おきに観察を行った。
【0125】
【表1】
Figure 0003658868
【0126】
【表2】
Figure 0003658868
【0127】
【表3】
Figure 0003658868
【0132】
(比較例1)
下記の磁石粉末と結合樹脂(熱硬化性樹脂)とを混合し、該混合物を混練し、該混練物を造粒(整粒)して粒状物を得、該粒状物を成形機の金型内に充填して無磁場中で圧縮成形(冷間成形または温間成形)し、その後、結合樹脂を硬化させて、希土類ボンド磁石(サンプルNo. 10〜15)を製造した。なお、各物質の含有量は、いずれも混練物中の量を示す。
【0133】
・構成
Nd−Fe−B系磁石粉末:Nd12.0Fe77.8Co4.35.9 、96.0wt%
熱硬化性樹脂:表4中に記載のもの、4.0wt%(硬化剤を含む)
混合:室温で固体の樹脂を用いた場合は、V型混合機で混合。
【0134】
室温で液状の樹脂を用いた場合は、撹拌機で混合。
【0135】
混練:ニーダーを用いて混練。混練温度は表5を参照。
【0136】
ニーダー回転数50〜250rpm 。混練時間30分。
【0137】
造粒(整粒):混練物を粉砕と分級により平均粒径0.8mm以下の粒に調整。
【0138】
成形:粒状物を金型に投入し、所定の成形温度で加圧成形した。
【0139】
成形温度、成形圧力は表5を参照。
【0140】
冷却:除圧温度まで冷却し(サンプルNo. 10、11を除く)、除圧後さらに常温まで冷却して、サンプルを取り出した。
【0141】
冷却方法は空冷とした。除圧温度は表5参照。
【0142】
冷却速度は2℃/秒。
【0143】
熱処理:仮成形品を恒温槽に入れ、熱硬化性樹脂の硬化を行う。
【0144】
硬化条件は表4を参照。
【0145】
成形品形状:円筒形状(外径φ30mm×内径φ28mm×高さ7mm)
平板形状(20mm角×厚さ3mm)(機械的強度測定用)
得られた希土類ボンド磁石について、磁気性能(最大磁気エネルギー積(BH)max )、密度、空孔率、機械的強度、耐食性を調べたところ、下記表6に示す通りであった。なお、各項目の評価方法は、参考例1と同様である。
【0146】
【表4】
Figure 0003658868
【0147】
【表5】
Figure 0003658868
【0148】
【表6】
Figure 0003658868
【0149】
表6から明らかなように、結合樹脂として熱硬化性樹脂を用いた比較例の磁石(サンプルNo. 10〜15)では、成形圧力を20kgf/mm2 としたときは勿論のこと、成形圧力を70kgf/mm2 としたときでも、空孔率が高く、磁石成形体の密度が低い。この結果、磁石の機械的強度が低く、また耐食性も低い。
【0150】
サンプルNo. 10〜15の各磁石について、その切断面の電子顕微鏡写真(SEM)を撮影し、観察を行ったところ、内部に空孔が多く存在していた。また、その空孔の分布は、加圧成形時の圧力伝達の関係で、中心部に空孔が多く、表面付近に少ないと言うように不均一な状態となっていた。また、樹脂成分が偏析しているのが観察された。
【0151】
また、成形圧力を20kgf/mm2 としたときには、サンプル内での機械的強度のバラツキが大きく、そのため円形ポンチによって荷重をかけた場所以外のところで割れやクラックを生じたため、正確な機械的強度の測定ができなかった。一方、成形圧力を70kgf/mm2 としたときには、混練物中の樹脂成分が漏れ、これによるバリが発生した。
【0152】
(実施例1)
下記の磁石粉末と結合樹脂(熱可塑性樹脂)と添加剤とを混合し、該混合物を混練し、該混練物を造粒(整粒)して粒状物を得、該粒状物を成形機の金型内に充填して磁場中で圧縮成形(温間成形)し、成形時の加圧状態を同圧で維持しつつ冷却して、希土類ボンド磁石(サンプルNo. 16〜19)を製造した。なお、各物質の含有量は、いずれも混練物中の量を示す。
【0153】
・構成
Figure 0003658868
熱可塑性樹脂:PPS樹脂、4.2wt%
酸化防止剤:ヒドラジン系酸化防止剤、0.8wt%
混合:V型混合機を用いて混合。
【0154】
混練:各種混練機を使用。混練条件は表7を参照。
【0155】
造粒(整粒):混練物を粉砕と分級により平均粒径0.8mmの粒に調整。
【0156】
成形:粒状物を金型に投入し、所定の成形温度(第1の温度)に加熱したところで、横磁場(15kOe )を印加しながら加圧成形した。
【0157】
成形温度は320℃、成形圧力は20kgf/mm2 とした。
【0158】
冷却:加圧状態を維持しつつ除圧温度(第2の温度)150℃まで冷却し、除圧後さらに常温まで冷却して、サンプルを取り出した。
【0159】
冷却方法は空冷とした。
【0160】
加圧下冷却での冷却速度は5℃/秒。
【0161】
成形品形状:直方体(縦11mm×横8mm×高さ7mm、高さ方向が配向方向。)
平板形状(20mm角×厚さ3mm)(機械的強度測定用)
得られた希土類ボンド磁石について、磁気性能(最大磁気エネルギー積(BH)max )、密度、空孔率、機械的強度、耐食性を調べたところ、下記表8に示す通りであった。なお、各項目の評価方法は、参考例1と同様である。
【0162】
【表7】
Figure 0003658868
【0163】
【表8】
Figure 0003658868
【0164】
表8から明らかなように、本発明による希土類ボンド磁石(サンプルNo. 16〜19)は、いずれも、空孔率が1%以下と低く、高密度のボンド磁石が得られ、この結果、機械的強度および耐食性が高いものであった。
【0165】
また、サンプルNo. 16〜19の各磁石について、前記と同様に電子顕微鏡写真(SEM)を撮影し、観察を行ったところ、空孔はほとんど観察されず、磁石粉末の周辺を結合樹脂成分が均一に分散しているのが確認された。
【0166】
さらに、最大磁気エネルギー積(BH)max が高く、優れた磁気特性であることがわかる。
【0167】
(比較例2)
下記の磁石粉末と結合樹脂(熱可塑性樹脂)と添加剤とを混合し、該混合物を成形機の金型内に充填して磁場中で圧縮成形(温間成形)し、希土類ボンド磁石(サンプルNo. 20、21)を製造した。なお、各物質の含有量は、いずれも混合物中の量を示す。
【0168】
・構成
Figure 0003658868
【0169】
成形:混合物を金型に投入し、所定の成形温度に加熱したところで、横磁場(15kOe )を印加しながら加圧成形した。
【0170】
成形温度は320℃、成形圧力は20kgf/mm2 とした。
【0171】
冷却:温度150℃まで冷却し、サンプルを取り出した。
【0172】
冷却方法は空冷とした。
【0173】
冷却速度は5℃/秒。
【0174】
Figure 0003658868
サンプルNo. 20および21の磁石は、いずれも、成形時に樹脂漏れが生じ、成形品のエッジや端面部が成形機のパンチに付着することにより、成形品のえぐれが生じたり、エッジ等のかけが生じて、所望の形状を得ることができかった。
【0175】
成形された部分の電子顕微鏡写真(SEM)を撮影し、観察を行ったところ、結合樹脂成分の分散は不均一となっており、磁石粉末部分と結合樹脂部分が混在した状態であった。
【0176】
また、上述したように、サンプルNo. 20および21の磁石は、いずれも、不良品であったため、機械的強度等の有効な測定はできなかった。
【0177】
(実施例2)
下記の磁石粉末(2種)と結合樹脂(熱可塑性樹脂)と添加剤とを混合し、該混合物を混練し、該混練物を造粒(整粒)して粒状物を得、該粒状物を成形機の金型内に充填して磁場中で圧縮成形(温間成形)し、成形時の加圧状態を同圧で維持しつつ冷却して、希土類ボンド磁石(サンプルNo. 22〜30)を製造した。なお、各物質の含有量は、いずれも混練物中の量を示す。
【0178】
・構成
Figure 0003658868
【0179】
混練:2軸押出混練機により混練。混練温度は150〜300℃。
【0180】
スクリュー回転数100〜300rpm 。混練時間10分
造粒(整粒):混練物を粉砕と分級により表9に示す粒度に調整。
【0181】
成形:粒状物をすり切り方式で金型に投入し、220℃(第1の温度)に加熱したところで、横磁場(15kOe )を印加しながら加圧成形した。成形圧力は10kgf/mm2 とした。
【0182】
冷却:加圧状態を維持しつつ除圧温度(第2の温度)100℃まで冷却し、サンプルを取り出した。
【0183】
冷却方法は水冷とした。
【0184】
加圧下冷却での冷却速度は20℃/秒。
【0185】
成形品形状:平板形状(幅15mm×厚さ2.5mm×高さ5mm、高さ方向 が配向方向)
得られた希土類ボンド磁石について、磁石の重量、密度、空孔率、高さを測定したところ、下記表9に示す通りであった。
【0186】
【表9】
Figure 0003658868
【0187】
表9から明らかなように、粒状物の粒径の設定により、優れた定量性が得られ、低空孔率でかつ寸法精度の高いボンド磁石が得られる。特に、粒状物の粒径が0.01〜2mmの範囲である場合には、超低空孔率(1%以下)と、高い寸法精度(寸法誤差が±5/100mm以内)と両立することができた。
【0188】
(実施例3、比較例3)
下記の磁石粉末と結合樹脂(熱可塑性樹脂)と添加剤とを混合し、該混合物を混練し、該混練物を造粒(整粒)して粒状物を得、該粒状物を成形機の金型内に充填して磁場中で圧縮成形(温間成形)し、成形時の加圧状態を同圧で維持しつつ冷却して、希土類ボンド磁石(サンプルNo. 31〜42)を製造した。なお、各物質の含有量は、いずれも混練物中の量を示す。
【0189】
・構成
Nd−Fe−B系磁石粉末:Nd12.6Fe69.3Co12.06.0 Zr0.1 、97.0wt%
熱可塑性樹脂:表1中のAまたはF、各々1.5wt%
酸化防止剤:ヒドラジン系酸化防止剤、1.4wt%
潤滑剤:ステアリン酸亜鉛、0.1wt%
混合:ヘンシェルミキサーを用いて混合。
【0190】
混練:2軸押出混練機により混練。混練温度は150〜350℃。
【0191】
スクリュー回転数100〜300rpm 。混練時間5分
造粒(整粒):混練物を粉砕と分級により平均粒径0.3mmの粒に調整。
【0192】
成形:粒状物を金型に投入し、表10に示す成形温度(第1の温度)に加熱したところで、ラジアル磁場(15kOe )を印加しながら加圧成形した。成形圧力は15kgf/mm2 とした。
【0193】
冷却:加圧状態を維持しつつ除圧温度(第2の温度)100℃まで冷却し、除圧後さらに常温まで冷却して、サンプルを取り出した。
【0194】
冷却方法は水冷とした。
【0195】
加圧下冷却での冷却速度は30℃/秒。
【0196】
成形品形状:円筒形状(外径φ20mm×内径φ18mm×高さ5mm、高さ方
向に加圧)
平板形状(20mm角×厚さ3mm)(機械的強度測定用)
得られた希土類ボンド磁石(実施例3:サンプルNo. 32〜36、38〜42、比較例3:サンプルNo. 31、37)について、磁気性能(最大磁気エネルギー積(BH)max )、密度、空孔率、機械的強度を調べたところ、下記表10に示す通りであった。なお、各項目の評価方法は、参考例1と同様である。
【0197】
【表10】
Figure 0003658868
【0198】
表10中のサンプルNo. 32〜36、38〜42(実施例3)のように、成形温度が結合樹脂の熱変形温度以上のときには、成形時に結合樹脂が軟化または溶融状態となり、成形が可能であった。
【0199】
特に、サンプルNo. 33〜36、40、42のように、成形温度が結合樹脂の融点以上のときには、得られた磁石の空孔率がさらに低減し、磁気性能もより高くなる。
【0200】
これに対し、サンプルNo. 31、37(比較例3)のように、成形温度が結合樹脂の熱変形温度未満のときには、成形時に結合樹脂が軟化しないため、粒状物が互いに固着せず、そのため、形状を保持することができず、成形不能または成形不良であった。従って、各測定項目についても、測定不能であった。
【0201】
(実施例4、比較例4)
下記の磁石粉末と結合樹脂(熱可塑性樹脂)と添加剤とを混合し、該混合物を混練し、該混練物を造粒(整粒)して粒状物を得、該粒状物を成形機の金型内に充填して無磁場中で圧縮成形(温間成形)し、成形時の加圧状態を同圧で維持しつつ冷却して、希土類ボンド磁石(サンプルNo. 43〜52)を製造した。なお、各物質の含有量は、いずれも混練物中の量を示す。
【0202】
・構成
ナノ結晶Nd−Fe−B系磁石粉末:Nd5.5 Fe6618.5Co5 Cr5 、98.0wt%
熱可塑性樹脂:表1中のAまたはG、各々1.0wt%
酸化防止剤:ヒドラジン系酸化防止剤 1.0wt%
混合:ヘンシェルミキサーを用いて混合。
【0203】
混練:2軸押出混練機により混練。混練温度は150〜350℃。
【0204】
スクリュー回転数100〜300rpm 。混練時間10分
造粒(整粒):混練物を粉砕と分級により平均粒径0.1mmの粒に調整。
【0205】
成形:粒状物を金型に投入し、所定の成形温度(第1の温度)に加熱したところで、加圧成形した。成形温度は、200℃(樹脂A)および300℃(樹脂G)、成形圧力は25kgf/mm2 とした。
【0206】
冷却:加圧状態を維持しつつ、表11に示す除圧温度(第2の温度)まで冷却し、サンプルを取り出した。冷却方法は水冷とした。
【0207】
加圧下冷却での冷却速度は50℃/秒。
【0208】
成形品形状:円筒形状(外径φ10mm×内径φ7mm×高さ7mm、高さ方向に加圧)
得られた希土類ボンド磁石(実施例4:サンプルNo. 44〜47、49〜52、比較例4:サンプルNo. 43、48)について、磁気性能(最大磁気エネルギー積(BH)max )、密度、空孔率、外径を調べたところ、下記表11に示す通りであった。なお、各項目の評価方法は、参考例1と同様である。
【0209】
【表11】
Figure 0003658868
【0210】
表11中のサンプルNo. 44〜47、49〜52(実施例4)のように、除圧温度が結合樹脂の融点以下または除圧温度と成形温度との差が20℃以上のときには、得られた磁石の空孔率が低く、密度が高く、磁気性能が高く、寸法精度が高い(寸法誤差が±5/100mm以内)。このような特性は、除圧温度が低いほど、向上している。
【0211】
特に、サンプルNo. 46、47、50、51のように、除圧温度が結合樹脂の熱変形温度以下のときには、ほぼ理論密度に近い密度を達成することができ、磁石粉末の特性を十分に発揮させることが可能な極めて優れた磁気性能の磁石となる。
【0212】
これに対し、サンプルNo. 43、48(比較例4)のように、除圧温度と成形温度が同一である場合、寸法精度が低く、空孔率も前記サンプルNo. 44〜47、49〜52に比べて高い。
【0213】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば、混練物の粒状物を用いて温間成形により加圧成形を行うこと、さらには、温間成形の後、所定温度まで加圧状態で冷却を行うことにより、少ない結合樹脂量でも成形性に優れ、低空孔率で、機械的強度が高く、また、寸法安定性(寸法精度)が高く、磁気特性に優れた希土類ボンド磁石を提供することができる。
【0214】
この場合、粒状体の粒径が所望の範囲である場合には、空孔率が極めて低く、しかも、寸法安定性がさらに向上する。
【0215】
また、熱可塑性樹脂を軟化または溶融状態として加圧成形するので、比較的低い成形圧力で上記特性の希土類ボンド磁石を製造することができ、製造が容易である。
【0216】
特に、冷却時における第2の温度(除圧温度)が、用いる熱可塑性樹脂の融点以下の温度、さらには熱変形温度以下の温度である場合や、第1の温度と所定温度以上乖離している場合には、空孔率が極めて低くかつ寸法安定性が極めて高い希土類ボンド磁石を提供することができる。

Claims (14)

  1. 希土類磁石粉末を熱可塑性樹脂よりなる結合樹脂により結合してなる希土類ボンド磁石の製造方法であって、
    前記希土類磁石粉末と前記結合樹脂とを混合・混練して混練物を製造する工程と、
    前記混練物を造粒または整粒して、平均粒径が10μm 〜2mmである粒状物とする工程と、
    前記粒状物を用いて前記結合樹脂が軟化または溶融状態となる第1の温度で加圧成形する工程と、
    少なくとも前記第1の温度未満である第2の温度まで加圧状態で冷却する冷却工程とを有し、
    前記冷却工程を水冷により行うことを特徴とする希土類ボンド磁石の製造方法。
  2. 希土類磁石粉末を熱可塑性樹脂よりなる結合樹脂により結合してなる希土類ボンド磁石の製造方法であって、
    前記希土類磁石粉末と前記結合樹脂とを混合・混練して混練物を製造する工程と、
    前記混練物を造粒または整粒して、平均粒径が10μm 〜2mmである粒状物とする工程と、
    前記粒状物を用いて前記結合樹脂が軟化または溶融状態となる第1の温度で加圧成形する工程と、
    少なくとも前記第1の温度未満である第2の温度まで加圧状態で冷却する冷却工程とを有し、
    前記冷却工程を、冷却速度が20〜100℃/秒の強制冷却により行うことを特徴とする希土類ボンド磁石の製造方法。
  3. 前記混練は、前記結合樹脂の熱変形温度以上の温度で、かつ前記希土類磁石粉末の表面が溶融または軟化した結合樹脂成分により覆われた状態となるように行われる請求項1または2に記載の希土類ボンド磁石の製造方法。
  4. 前記混練物中の前記希土類磁石粉末の含有量が90〜99wt%である請求項1ないし3のいずれかに記載の希土類ボンド磁石の製造方法。
  5. 前記造粒または整粒は、粉砕により行われる請求項1ないし4のいずれかに記載の希土類ボンド磁石の製造方法。
  6. 前記加圧成形は、圧縮成形である請求項1ないし5のいずれかに記載の希土類ボンド磁石の製造方法。
  7. 前記第2の温度は、前記結合樹脂の熱変形温度である請求項1ないし6のいずれかに記載の希土類ボンド磁石の製造方法。
  8. 前記第1の温度と前記第2の温度との差が、20℃以上である請求項1ないし7のいずれかに記載の希土類ボンド磁石の製造方法。
  9. 前記加圧状態での冷却は、前記加圧成形の際の加圧を解除することなく連続して行われる請求項1ないし8のいずれかに記載の希土類ボンド磁石の製造方法。
  10. 前記加圧成形時の成形圧力に対し、前記加圧状態での冷却時の圧力が同等またはそれ以下である請求項1ないし9のいずれかに記載の希土類ボンド磁石の製造方法。
  11. 前記加圧状態での冷却時の圧力は、少なくとも前記第1の温度と第2の温度の間の温度まで一定に保持されている請求項1ないし10のいずれかに記載の希土類ボンド磁石の製造方法。
  12. 前記加圧状態での冷却時の冷却速度は、20〜100℃/秒である請求項1、3ないし11のいずれかに記載の希土類ボンド磁石の製造方法。
  13. 前記加圧成形時の成形圧力は、60kgf/mm2 以下である請求項1ないし12のいずれかに記載の希土類ボンド磁石の製造方法。
  14. 請求項1ないし13のいずれかに記載の方法を用いて製造されたことを特徴とする希土類ボンド磁石。
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