JP2004099949A - 傾斜型2層潤滑皮膜を有する塑性加工用金属材料の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】塑性加工時における潤滑性能が良い塑性加工用金属材料の製造方法を提供する。
【解決手段】塑性加工用金属材料表面に、りん酸塩、硫酸塩、ホウ酸塩、ケイ酸塩、モリブデン酸塩およびタングステン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の無機化合物並びに金属石鹸、ワックス、ポリテトラフルオロエチレン、二硫化モリブデンおよびグラファイトからなる群から選ばれる少なくとも一種の滑剤を主成分として含む水系の処理液を接触させ、次いで乾燥させることにより、金属との界面側に上記無機化合物を主成分とする厚さ0.1〜15μmのベース層が位置し、また表面側に上記滑剤を主成分とする厚さ0.1〜10μmの滑剤層が位置し、且つ滑剤層/ベース層の層厚比が0.2〜3である傾斜型2層潤滑皮膜を形成させ、その後加熱処理して潤滑性を向上させる塑性加工用金属材料の製造方法である。
【解決手段】塑性加工用金属材料表面に、りん酸塩、硫酸塩、ホウ酸塩、ケイ酸塩、モリブデン酸塩およびタングステン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の無機化合物並びに金属石鹸、ワックス、ポリテトラフルオロエチレン、二硫化モリブデンおよびグラファイトからなる群から選ばれる少なくとも一種の滑剤を主成分として含む水系の処理液を接触させ、次いで乾燥させることにより、金属との界面側に上記無機化合物を主成分とする厚さ0.1〜15μmのベース層が位置し、また表面側に上記滑剤を主成分とする厚さ0.1〜10μmの滑剤層が位置し、且つ滑剤層/ベース層の層厚比が0.2〜3である傾斜型2層潤滑皮膜を形成させ、その後加熱処理して潤滑性を向上させる塑性加工用金属材料の製造方法である。
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、表面に、鍛造、伸線、伸管のような塑性加工に優れた潤滑性を発揮する傾斜型2層潤滑皮膜を形成した塑性加工用金属材料の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、鉄鋼、ステンレス等の金属材料を塑性加工する際には、被加工材と工具との金属接触により生ずる焼き付きやかじりを防止する目的で、金属表面に潤滑皮膜を形成させている。この潤滑皮膜としては、潤滑剤を金属表面に物理的に付着させて形成させるタイプのものと、化学反応により金属表面に化成処理皮膜を生成させた後に潤滑剤を付与して形成させるタイプのものがある。金属表面に物理的に付着させて形成させた潤滑皮膜は、金属表面に化成処理皮膜を生成させた後に潤滑剤を付与して形成させた潤滑皮膜に比べ、密着性が劣るため一般に軽加工用として使用される。化成処理皮膜を生成させた後に潤滑皮膜を形成させるタイプでは、表面にキャリアとしての役割を有するリン酸塩皮膜や蓚酸塩皮膜を生成させた後、滑り性のある潤滑剤を使用する。このタイプはキャリア皮膜としての化成皮膜と潤滑剤との二層構造を有しており、非常に高い耐焼き付き性を示す。そのため伸線、伸管、鍛造などの塑性加工分野において非常に広い範囲で使用されてきた。塑性加工の中でも特に加工が厳しい分野には、りん酸塩皮膜や蓚酸塩皮膜を下地にし、その上に潤滑剤を使用する方法が多用されている。
【0003】
化成処理皮膜上に潤滑皮膜を形成させるのに用いられる潤滑剤は、使用方法で大きく二つに分けることが出来る。一つは、化成処理皮膜に潤滑剤を物理的に付着させるタイプのものであり、もう一つは、化成処理皮膜に潤滑剤を反応させて付着させるタイプのものである。前者の潤滑剤としては、鉱油、植物油及び合成油を基油として、その中に極圧剤を添加したもの、または黒鉛、二硫化モリブデン等の固体潤滑剤をバインダー成分とともに水に溶かし、付着、乾燥工程で使用するもの等が挙げられる。これらの潤滑剤はスプレー塗布や浸漬塗布により簡便に使用できるので、液管理も殆ど必要が無いなどの利点があるが、潤滑性が低いため比較的軽い潤滑の場合に使用される事が多い。一方後者の潤滑剤としては、ステアリン酸ナトリウムのような反応型石鹸が用いられている。反応型石鹸は、化成処理皮膜と反応することで高い潤滑性を発揮し、特に高い潤滑性が必要な場合に適する。
【0004】
しかしながら化学反応を伴う反応型石鹸の使用は、液の管理、化学反応を制御するための温度管理、液の劣化による廃棄更新が必要となる。近年の地球環境保全を目的に、産業廃棄物の低減は大きな課題となっている。このために、廃棄物が生じない潤滑剤や処理方法が望まれているのである。また、従来技術は、工程や処理液の管理が複雑であるために簡便な処理が望まれている。このような課題や要望に沿うべく種々の潤滑皮膜形成組成物や形成方法が提案されている。例えば、水溶性高分子またはその水性エマルションを基材とし、固体潤滑剤と化成皮膜形成剤とを配合した潤滑剤組成物(例えば、特許文献1参照)等が示されているが、化成皮膜処理に匹敵するようなものは得られていない。
【0005】
また、本出願人は、先に、(A)水溶性無機塩、(B)固体潤滑剤、(C)鉱油、動植物油脂および合成油から選ばれる少なくとも1種の油成分、(D)界面活性剤ならびに(E)水からなる、固体潤滑剤および油が均一にそれぞれ分散および乳化した金属の冷間塑性加工用水系潤滑剤を提案した(特許文献2)が、この発明による潤滑剤は油成分を乳化しているために工業的に使用するには不安定であり、高い潤滑性を安定的に発揮するには至っていない。また、(A)合成樹脂、(B)水溶性無機塩および水を含有し、この固形分重量比(B)/(A)が0.25/1〜9/1であって、合成樹脂が溶解または分散している、金属材料の塑性加工用潤滑剤組成物を提案した(特許文献3)が、この発明による潤滑剤は合成樹脂を主成分としており、厳しい加工条件では充分な潤滑性を安定的に発揮するには至っていない。また、これらの発明の潤滑剤は成分やその比率を限定しているものの、その潤滑皮膜自体の構造に関しては、なんら記述がなく、その特定はなされていない。
【0006】
更に、本出願人は、表面に、金属との界面側に無機化合物を主成分とする厚さ0.1〜15μmのベース層が位置し、また表面側に滑剤を主成分とする厚さ0.1〜10μmの滑剤層が位置し、且つ滑剤層/ベース層の層厚比が0.2〜3である傾斜型2層潤滑皮膜を有する塑性加工用金属材料を提案した。また、この塑性加工用金属材料を、その表面に無機化合物および滑剤を主成分として含む水系の処理液を接触させ、次いで乾燥させることにより、金属との界面側に無機化合物を主成分とする厚さ0.1〜15μmのベース層が位置し、また表面側に滑剤を主成分とする厚さ0.1〜10μmの滑剤層が位置し、且つ滑剤層/ベース層の層厚比が0.2〜3である傾斜型2層潤滑皮膜を形成させて製造する方法を提案した(特願2001−063483号)。
【0007】
【特許文献1】
特開昭52−20967号公報
【特許文献2】
特開平10−8085号公報
【特許文献3】
特開2000−63880号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、本出願人が特許出願した前述の傾斜型2層潤滑皮膜を有する塑性加工用金属材料について、塑性加工時における潤滑性能を更に向上させた塑性加工用金属材料を製造する方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
前述の傾斜型2層皮膜を設けた塑性加工用金属材料は優れた潤滑性を示すが、本発明者らは、乾燥して形成させた傾斜型2層潤滑皮膜を更に加熱処理することによって、該皮膜の塑性加工時の潤滑性を更に向上し得ること、特にスパイクエジェクト荷重を大幅に低減し得ることを知見し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、塑性加工用金属材料表面に、りん酸塩、硫酸塩、ホウ酸塩、ケイ酸塩、モリブデン酸塩およびタングステン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の無機化合物並びに金属石鹸、ワックス、ポリテトラフルオロエチレン、二硫化モリブデンおよびグラファイトからなる群から選ばれる少なくとも一種の滑剤を主成分として含む水系の処理液を接触させ、次いで乾燥させることにより、金属との界面側に上記無機化合物を主成分とする厚さ0.1〜15μmのベース層が位置し、また表面側に上記滑剤を主成分とする厚さ0.1〜10μmの滑剤層が位置し、且つ滑剤層/ベース層の層厚比が0.2〜3である傾斜型2層潤滑皮膜を形成させ、その後加熱処理して潤滑性を向上させることを特徴とする傾斜型2層潤滑皮膜を有する塑性加工用金属材料の製造方法である。上記金属材料は、鉄、鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、チタン、チタン合金、銅、銅合金、錫、錫合金などが好ましい。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明は、表面にベース層と滑剤層からなる傾斜型2層潤滑皮膜を有する塑性加工用金属材料の製造方法に関する。本発明における傾斜型2層潤滑皮膜の傾斜型とは、皮膜層中で濃度勾配を有することを意味する。すなわち、完全に成分が2分化(2層化)されたものではなく、皮膜の最表面から金属界面に向かって、滑剤の濃度は減少し、反対にベース成分濃度は増加していくものである。本発明において、ベース層は、塑性加工時の追従性が良く、滑剤を保持し、金型との焼付きに対する硬さと強度を付与させるためのものである。一方、滑剤層は皮膜の滑り性を良くし摩擦係数を軽減させる作用を有するものである。金属側にベース層、表面側に滑剤層の2つの層を存在させることが重要であり、どちらか一方では、塑性加工に耐えうる潤滑性を発揮しない。
【0012】
本発明の傾斜型2層潤滑皮膜は、塑性加工用金属材料表面に、ベース層の主成分となる無機化合物および滑剤層の主成分となる滑剤を含む水系の処理液を接触させ、次いで乾燥させることにより形成させる。上記の接触の際の接触方法は、浸漬方法、フローコート方法、スプレ−方法などを使用することができ、接触時間、接触温度等は特に限定されない。乾燥方法は、特に限定されないが、予め処理を施す金属材料ワークを加温しておき、この熱を利用して乾燥する方法、乾燥空気を利用する方法、熱風を吹き付ける方法などを使用することができる。
【0013】
ベース層の主成分となる無機化合物は、傾斜型2層皮膜を生成しうることが可能であり、且つ潤滑皮膜としてのベース層に求められる追従性、密着性、強度および滑剤層に求められる滑り性を考慮して選択した結果、りん酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩、ホウ酸塩、モリブデン酸塩、タングステン酸塩よりなる群から選ばれる少なくとも一種の無機化合物を使用する。一例として、りん酸亜鉛、りん酸カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、ケイ酸カリウム、ホウ酸ナトリウム(四ホウ酸ナトリウム)、ホウ酸カリウム(四ホウ酸カリウム等)、ホウ酸アンモニウム(四ホウ酸アンモニウム等)、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、タングステン酸ナトリウムなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせてもよい。
【0014】
また、滑剤層の主成分となる滑剤は、金属石鹸、ワックス、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、二硫化モリブデンおよびグラファイトからなる群から選ばれる少なくとも一種の滑剤を使用する。特に、傾斜型2層潤滑皮膜を形成させるには、疎水性の高い、金属石鹸、ワックス、PTFEなどのフッ素樹脂を用いるのが、より好ましい。具体的には、金属石鹸としては、炭素数12〜26の飽和脂肪酸と亜鉛、カルシウム、バリウム、アルミニウム、マグネシウム、及びリチウムから成る群から選ばれた少なくとも一種の金属を反応させて得られたもの、例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸リチウムなどが挙げられる。ワックスとしては、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、カルナウバワックス等を挙げることが出来る。
【0015】
本発明の対象となる金属材料としては、鉄、鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、チタン、チタン合金、銅、銅合金、錫、錫合金などが好ましい。金属材料の形状としては、棒材やブロック材等の素材だけでなく、鍛造後の形状物(ギヤやシャフト等)でもよく、特に限定されない。塑性加工用金属材料を上記の処理液に接触させる前に、ショットブラスト、サンドブラスト、アルカリ脱脂および酸洗浄から成る群から選ばれる少なくとも1種の清浄化処理を行うことが好ましい。ここでの清浄化とは、焼鈍等により成長した酸化スケールや各種の汚れ(油など)を除去することを目的とするものである。
【0016】
本発明の乾燥後に形成される傾斜型2層皮膜について、ベース層の厚さは、0.1〜15μmの範囲であり、2〜8μmの範囲がより好ましい。ベース層の厚さが0.1μm未満では充分な滑剤保持性が発揮されない。また、ベース層の厚さが15μmを超えると膜が厚すぎ加工時に押し込みキズなどを作りやすくなるために好ましくない。また滑剤層の厚さは、0.1μm〜10μmの範囲であり、1μm〜6μmの範囲がより好ましい。滑剤層の厚さが、0.1μm未満では充分な滑り性が得られなく、10μmを超えると加工時に余剰カス(金型などに付着)を生じるようになり好ましくない。滑剤層/ベース層の層厚比は0.2〜3の範囲内である。0.2未満では、皮膜全体として硬すぎて、滑り性が劣り、好ましくない。また、3以上では保持性が劣り、全体としての追従性が不充分となり好ましくない。潤滑皮膜の全膜厚は、ベース層と滑剤層の厚さの合計であり、0.2〜25μmの範囲である。全膜厚が0.2μm未満では潤滑性が不充分であり、厳しい加工度の塑性加工に耐えられない。また、25μmを超えると余剰カスが多くなることとコストが高くなり好ましくない。
【0017】
潤滑皮膜の全膜厚、ベース層および滑剤層の厚さは、皮膜形成後の金属材料を切断し、この断面を研磨し、分析することにより測定する。全膜厚は、特に高度な分析機器は必要とせず、顕微鏡で観察し得る。ベース層および滑剤層の厚さは、EPMAを使用し測定する。断面の皮膜部分を定量分析するが、先ず、ベース層と滑剤層の主成分の代表元素を設定する。例えば、ベース層の主成分がりん酸亜鉛であるならばリンを代表元素に設定するのが適当であり、また滑剤層の主成分がワックスであれば炭素を代表元素に設定するのが適当である。この2つの元素の定量分析を表面から金属界面へ線分析する。次いで、この2つの存在比率をモル分率で計算する。モル分率がC/Pが1以上までを滑剤層、1未満をベース層とする。実際の測定では、当然のことながら、データのバラツキおよび皮膜の不均一(皮膜の部位によるバラツキ)を補正する目的で、この線分析は皮膜の部位を変え、5回以上行い、この平均化したものにより、最終的にベース層、滑剤層の膜厚を算出する。
【0018】
金属材料表面に形成させる傾斜型2層皮膜の皮膜厚は、処理液の塗布量および処理液中の無機化合物および滑剤の濃度を適宜コントロールすることにより、規定の膜厚になるように調整する。塗布量は特に限定されるものではないが、一般的に10〜100g/m2である。また、無機化合物および滑剤の濃度も特に限定されるものではないが、一般的に0.1〜30重量%である。傾斜型2層潤滑皮膜は次のような理論で形成されると考えられる。先ず、ベース層成分と滑剤層成分とを均一に溶解あるいは分散させた処理液を調製する。この処理液を金属材料表面に塗布する。金属材料表面に処理液の薄膜ができる。そして、▲1▼ 金属材料を予め処理液の温度より高く加温してから処理液を塗布した場合には、金属材料の温度が処理液の温度より高いので、処理液の薄膜内では、固液界面の温度が高く、気液界面の温度が低くなり、処理液の薄膜内に温度差ができ、溶媒となる水が揮発するために薄膜内で微小の対流がおきる。また、▲2▼ 常温の金属材料に常温の処理液を塗布し、金属材料表面に処理液の薄膜を作り、その後温風を送風することにより乾燥する場合には、気液界面の温度が高くなり、この界面での表面張力が低下し、これを緩和するために処理液の薄膜内で微小の対流が生じ、いわゆるベナール・セルが生じる。
【0019】
上記の▲1▼、▲2▼のいずれの場合も、対流が生じるとともに、空気との親和力の高い成分と金属や水との親和性の高い成分とに分離するようになる。そして、徐々に水が揮発して最終的な膜となった時に、成分の濃度勾配を生じた傾斜皮膜、すなわち金属との界面側とその反対の表面側とでは、特定の成分がリッチとなることに起因して成分差が生じる。また、傾斜型2層潤滑皮膜の形成を助長する目的で、必要に応じて処理液中に公知の増粘剤や界面活性剤を添加してもよい。例えば、平滑性を向上させ、皮膜ムラを抑制する場合などには増粘剤は有効である。また、皮膜の密着性を上げるためにバインダー成分として、高分子化合物などを添加してもよい。
【0020】
本発明の方法においては、乾燥によって溶媒である水が揮発した後の成膜した状態においても、適当な温度に加温することにより、膜内を特定の物質が皮膜内拡散(ブリード)してより安定な状態になろうとするため成分差が生じる。そして、乾燥して形成させた傾斜型2層潤滑皮膜を更に加熱処理することによって、該皮膜の塑性加工時の潤滑性を更に向上させること、特にスパイクエジェクト荷重を大幅に低減させることができる。これは、乾燥後の加熱処理によって、滑剤層中の滑剤が最表面に移動して最表面における滑剤の被覆割合が大きくなり、そのため潤滑性が向上し、殊にスパイクエジェクト荷重が低減するものと考えられる。乾燥後の加熱処理温度は、乾燥温度より高温が好ましい。金属石鹸、ワックス、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの融点を有する滑剤を用いた場合、乾燥温度や乾燥後の加熱温度は融点未満の温度でも融点を超える温度でもよいが、融点付近の温度を採用するのが好ましい。
【0021】
塑性加工用金属材料に傾斜型2層潤滑皮膜を形成させるに当たっては、少数ずつ処理するのではなく、一度にまとめて多数の塑性加工用金属材料を、無機化合物および滑剤を主成分として含む水系の処理液で塗布処理し、乾燥させて潤滑皮膜を形成する方法を採るのが生産効率上好ましい。また、多種類の塑性加工用金属材料を作り置きしておき、納期に応じ必要量だけ塑性加工したほうが作業効率が良好である。しかし、一度にまとめて多数あるいは多種の塑性加工用金属材料を処理する場合には、乾燥に長い時間が必要となるので、生産効率が上がりにくい問題がある。そこで可能な限り乾燥時間を短縮して対応するが、その場合には、数量の変動による乾燥条件の調整が困難であり、また乾燥時に多量の被処理材料の全てをほぼ均一な温度にするのが困難であって、これに伴い、傾斜型2層潤滑皮膜の最表面における滑剤の被覆割合が変動し、また最表面における滑剤の被覆割合が不均一になり、潤滑性能を一定させるのが困難になる。本発明の乾燥後の加熱処理の手段を採用すると、加熱処理によって最表面における滑剤の被覆割合を調整できるので、この問題点を解消できる。
【0022】
乾燥後に加熱処理する方法としては、一度乾燥した塑性加工用金属材料を別の加熱装置で加熱させる方法が考えられるが、新たな加熱設備投資や、塑性加工用金属材料の移動など余分な工程が発生する。そこで、乾燥によって傾斜型2層潤滑皮膜を形成させた塑性加工用金属材料を、塑性加工するときに、その塑性加工工程の前工程装置内において加熱するのが好ましい。この加熱は、輻射熱を利用したり、熱風を直接吹き付けたり、熱伝導を利用して加熱してもよい。例えば、塑性加工の前工程装置を加熱し、その中を塑性加工用金属材料が通過する際に、塑性加工用金属材料が接触する前工程装置から熱伝導により急速に加熱する。この塑性加工の前工程装置としてはパーツフィーダー、貯蔵箱、貯蔵機能が付与されているコンベアを含む搬送コンベア等からなる前工程装置であれば、材質および様式は問わない。ただし、材質については耐熱性、耐久性、熱伝導性から金属が好ましい。
【0023】
この加熱方法は、既存の前工程装置に簡易な加熱装置を取り付けることで足りるので、比較的に安価で対応可能である。塑性加工用金属材料は、前工程装置の中で一時的に貯留する場合があるが、その場合には加熱効果は一段と高まる。加熱温度に関しては、塑性加工用金属材料の形状や、通過速度により異なるが、塑性加工用金属材料の物温が60〜200℃、より望ましくは70〜140℃である。200℃を超えると、前工程装置の搬送部分などが短時間で故障する可能性がある。また、60℃未満だと加熱の効果がほとんどない。加熱時間に関して、塑性加工用金属材料の形状や、通過速度により異なるので、特に限定されないが、望ましくは1〜30分、より望ましくは、1〜5分である。加熱時間が短すぎると充分に塑性加工用金属材料を加熱できない場合があり、また加熱時間が長すぎると処理時間が長くなり過ぎて生産性が低下するなど不具合が発生する。
【0024】
また、前工程装置の加熱方法は、例えば、電気ヒーター、灯油ファンヒーター、ガスヒーター、セラミックヒーターによる熱風、蒸気を利用した熱交換による加熱や、誘導加熱、プロパンなどの燃焼ガスによる直火加熱、または、ニクロム線等を前工程装置に貼り付け、または、巻き付けることによる熱伝導でも構わない。前工程装置の周囲に仕切りを設けたり、耐熱性材料で構成された箱や蓋で前工程装置を蓋っても構わない。また、上述した加熱方法のうち、電気ヒーターによる熱風は、灯油ヒーターなどと比較して、炭酸ガスや水分を排出しないですむ他、灯油などの燃料補給が不必要という作業環境や、作業性の観点で勝り、昨今の環境対応の目的にも合致する。
【0025】
【実施例】
本発明の実施例を比較例と共に挙げ、その効果をより具体的に説明する。
A.試験材料
1.後方せん孔試験片
後方せん孔試験に供した材料は市販のS45C球状化焼鈍材であり、試験片の形状は円柱状であり、直径30mmφで、高さが18〜40mmまで2mm単位で変えたものである。
2.スパイク試験片
スパイク試験に供した材料は市販のS45C球状化焼鈍材であり、試験片の形状は円柱状であり、直径25mmφで、高さが30mmである。
【0026】
B.処理液
処理液1.
ベース層成分:りん酸亜鉛
滑剤層成分:マイクロクリスタリンワックス
滑剤/無機化合物比:0.3
固形分濃度:4重量%
処理液2.
ベース層成分:四ホウ酸カリウム+リン酸亜鉛(重量比1:2)
滑剤層成分:ステアリン酸亜鉛+ポリエチレンワックス(重量比1:1)
滑剤/無機化合物比:0.3
固形分濃度:20重量%
処理液3.
ベース層成分:4硼酸ナトリウム
滑剤層成分:なし
固形分濃度:10重量%
処理液4
ベース層成分:なし
滑剤層成分:PTFE
固形分濃度:10重量%
【0027】
実施例1
前記の試験材料を500個とり、市販の脱脂剤(登録商標 ファインクリーナー4360,日本パーカライジング(株)製)で濃度20g/L、温度60℃、浸漬10分にて脱脂処理し、60℃の水道水で30秒間浸せき水洗した。次いで、各材料を60℃の前記の処理液1に10秒間浸せきし、引き上げ、液が付着したままの状態で、乾燥用回転式バレルに投入し、乾燥用回転式バレルを回転させながら、60℃の温風を吹き付けて、材料が60℃になってから4分間保持し、水分を揮発させた。その後、電気ヒーターの熱風により110℃に加熱した円盤状のパーツフィーダーに乗せ、パーツフィーダーの円板を回転させ、処理済みの材料を110℃で1分間加熱した。
【0028】
実施例2
前記の試験材料を450個とり、市販の脱脂剤(登録商標 ファインクリーナー4360,日本パーカライジング(株)製)で濃度20g/L、温度60℃、浸漬10分にて脱脂処理し、60℃の水道水で30秒間浸せき水洗した。次いで、各材料を40℃の前記の処理液2に10秒間浸せきし、引き上げ、液が付着したままの状態で、乾燥用回転式バレルに投入し、乾燥用回転式バレルを回転させながら、60℃の温風を吹き付けて、材料が60℃になってから4分間保持し、水を揮発させた。その後、灯油ファンヒーターの熱風により120℃に加熱した円盤状のパーツフィーダーに乗せ、パーツフィーダーの円板を回転させ、処理済みの材料を120℃で1分間加熱した。
【0029】
比較例1〜2
前記の試験材料を500個とり、市販の脱脂剤(登録商標 ファインクリーナー4360,日本パーカライジング(株)製)で濃度20g/L、温度60℃、浸漬10分にて脱脂処理し、60℃の水道水で30秒間浸せき水洗した。次いで、各材料を60℃の前記の処理液1又は処理液2にそれぞれ10秒間浸せきし、引き上げ、液が付着したままの状態で、乾燥用回転式バレルに投入し、乾燥用回転式バレルを回転させながら、60℃の温風を吹き付けて、材料が60℃になってから4分間保持し、水分を揮発させた。
【0030】
比較例3〜4
前記の試験材料を500個とり、市販の脱脂剤(登録商標 ファインクリーナー4360,日本パーカライジング(株)製)で濃度20g/L、温度60℃、浸漬10分にて脱脂処理し、60℃の水道水で30秒間浸せき水洗した。次いで、各材料を60℃の前記の処理液3又は処理液4にそれぞれ10秒間浸せきし、引き上げ、液が付着したままの状態で、乾燥用回転式バレルに投入し、乾燥用回転式バレルを回転させながら、60℃の温風を吹き付けて、材料が60℃になってから4分間保持し、水分を揮発させた。その後、電気ヒーターの熱風により110℃に加熱した円盤状のパーツフィーダーに乗せ、パーツフィーダーの円板を回転させ、処理済みの材料を110℃で1分間加熱した。
【0031】
比較例5
前記の試験材料を500個とり、市販の脱脂剤(登録商標 ファインクリーナー4360,日本パーカライジング(株)製)で濃度20g/L、温度60℃、浸漬10分にて脱脂処理し、60℃の水道水で30秒間浸せき水洗した。次いで、各材料を60℃の前記の処理液1に10秒間浸せきし、引き上げ、エアーブロー(空気圧0.3MPa)して充分に液切りを行い、乾燥用回転式バレルに投入し、乾燥用回転式バレルを回転させながら、60℃の温風を吹き付けて、材料が60℃になってから4分間保持し、水分を揮発させた。その後、電気ヒーターの熱風により110℃に加熱した円盤状のパーツフィーダーに乗せ、パーツフィーダーの円板を回転させ、処理済みの材料を110℃で1分間加熱した。
【0032】
実施例1〜3、比較例1〜5で処理して得た各試験片について、下記に示す方法で潤滑皮膜の全膜厚、ベース層の厚さ及び潤滑層の厚さを測定した。また、下記に示す方法で、後方せん孔試験およびスパイク試験を行った。この測定および試験の結果を表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
表1から明らかなように、実施例1〜2および比較例1〜2は、後方穿孔試験及びスパイク高さ試験は優れた結果を示すが、実施例1と比較例1及び実施例2と比較例2を対比すると明らかなように、乾燥処理したものを加熱処理したもの(実施例1、2)は、乾燥処理のみのもの(比較例1、2)より、スパイクインジェクト荷重が著しく低減している。一方、潤滑層の層厚と滑剤層/ベース層の比が本発明の範囲外である比較例3は潤滑性が劣っていた。特にスパイクテストでは金型に焼き付きを生じ、成形できなかった。また、ベース層の層厚と潤滑層/ベース層の比が本発明の範囲外である比較例4も潤滑性が劣っていた。さらに、ベース層および滑剤層の層厚が本発明の範囲外である比較例5も潤滑性が劣っていた。
【0035】
測定・試験方法
(1)全膜厚、ベース層の厚さ及び滑剤層の厚さの測定方法
市販のEPMA(島津製作所(株)製 8705L型)を用い、皮膜の断面観察によってベース層および滑剤層の層厚を測定した。測定に当って、代表元素には、測定元素は、処理液1はPとC、処理液2はKとCにした。なお、測定は部位を変え、5回行い、この平均値を示した。
【0036】
(2)後方せん孔試験
後方せん孔試験は、200トンクランクプレスを用い、金型をセットし外周部を拘束した円柱状試験片の上に、50%の減面率になるような直径のパンチにて上方から打ち付け、カップ状の成型物を得る方法で行った。この時プレスの下死点は試験片底部の残し代が10mmとなるよう調整した。後方せん孔試験は試験片を高さの低いものから順番に加工を行い、加工面に傷が入るまで試験した。評価は内面に傷が入らなかった試験片のカップ内高さを良好せん穿孔深さ(mm)とした。
金型 :SKD11
パンチ :HAP40、ランド径21.21mmφ
減面率 :4、6、8、10、12、14%
加工速度:30ストローク/分
【0037】
(3)スパイク試験
スパイク試験は特開平5−7969号の発明に準じて行った。試験後のスパイク高さ(mm)と成形後のエジェクト荷重(kg)にて潤滑性を評価した。スパイク高さが高い程、また、スパイクエジェクト荷重が低いほど潤滑性に優れる。
【0038】
【発明の効果】
本発明によると、無機化合物及び滑剤を主成分として含む水系の処理液を接触させ、次いで乾燥させて表面に無機化合物及び滑剤の特定の層構成の傾斜型2層潤滑皮膜を形成させた塑性加工用金属材料を、更に加熱処理することによって、潤滑性、殊にスパイクエジェクト荷重を著しく低減できる。そのため、成形後の金型からの成形品の取出しが容易になり作業性が向上する。
【発明の属する技術分野】
本発明は、表面に、鍛造、伸線、伸管のような塑性加工に優れた潤滑性を発揮する傾斜型2層潤滑皮膜を形成した塑性加工用金属材料の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、鉄鋼、ステンレス等の金属材料を塑性加工する際には、被加工材と工具との金属接触により生ずる焼き付きやかじりを防止する目的で、金属表面に潤滑皮膜を形成させている。この潤滑皮膜としては、潤滑剤を金属表面に物理的に付着させて形成させるタイプのものと、化学反応により金属表面に化成処理皮膜を生成させた後に潤滑剤を付与して形成させるタイプのものがある。金属表面に物理的に付着させて形成させた潤滑皮膜は、金属表面に化成処理皮膜を生成させた後に潤滑剤を付与して形成させた潤滑皮膜に比べ、密着性が劣るため一般に軽加工用として使用される。化成処理皮膜を生成させた後に潤滑皮膜を形成させるタイプでは、表面にキャリアとしての役割を有するリン酸塩皮膜や蓚酸塩皮膜を生成させた後、滑り性のある潤滑剤を使用する。このタイプはキャリア皮膜としての化成皮膜と潤滑剤との二層構造を有しており、非常に高い耐焼き付き性を示す。そのため伸線、伸管、鍛造などの塑性加工分野において非常に広い範囲で使用されてきた。塑性加工の中でも特に加工が厳しい分野には、りん酸塩皮膜や蓚酸塩皮膜を下地にし、その上に潤滑剤を使用する方法が多用されている。
【0003】
化成処理皮膜上に潤滑皮膜を形成させるのに用いられる潤滑剤は、使用方法で大きく二つに分けることが出来る。一つは、化成処理皮膜に潤滑剤を物理的に付着させるタイプのものであり、もう一つは、化成処理皮膜に潤滑剤を反応させて付着させるタイプのものである。前者の潤滑剤としては、鉱油、植物油及び合成油を基油として、その中に極圧剤を添加したもの、または黒鉛、二硫化モリブデン等の固体潤滑剤をバインダー成分とともに水に溶かし、付着、乾燥工程で使用するもの等が挙げられる。これらの潤滑剤はスプレー塗布や浸漬塗布により簡便に使用できるので、液管理も殆ど必要が無いなどの利点があるが、潤滑性が低いため比較的軽い潤滑の場合に使用される事が多い。一方後者の潤滑剤としては、ステアリン酸ナトリウムのような反応型石鹸が用いられている。反応型石鹸は、化成処理皮膜と反応することで高い潤滑性を発揮し、特に高い潤滑性が必要な場合に適する。
【0004】
しかしながら化学反応を伴う反応型石鹸の使用は、液の管理、化学反応を制御するための温度管理、液の劣化による廃棄更新が必要となる。近年の地球環境保全を目的に、産業廃棄物の低減は大きな課題となっている。このために、廃棄物が生じない潤滑剤や処理方法が望まれているのである。また、従来技術は、工程や処理液の管理が複雑であるために簡便な処理が望まれている。このような課題や要望に沿うべく種々の潤滑皮膜形成組成物や形成方法が提案されている。例えば、水溶性高分子またはその水性エマルションを基材とし、固体潤滑剤と化成皮膜形成剤とを配合した潤滑剤組成物(例えば、特許文献1参照)等が示されているが、化成皮膜処理に匹敵するようなものは得られていない。
【0005】
また、本出願人は、先に、(A)水溶性無機塩、(B)固体潤滑剤、(C)鉱油、動植物油脂および合成油から選ばれる少なくとも1種の油成分、(D)界面活性剤ならびに(E)水からなる、固体潤滑剤および油が均一にそれぞれ分散および乳化した金属の冷間塑性加工用水系潤滑剤を提案した(特許文献2)が、この発明による潤滑剤は油成分を乳化しているために工業的に使用するには不安定であり、高い潤滑性を安定的に発揮するには至っていない。また、(A)合成樹脂、(B)水溶性無機塩および水を含有し、この固形分重量比(B)/(A)が0.25/1〜9/1であって、合成樹脂が溶解または分散している、金属材料の塑性加工用潤滑剤組成物を提案した(特許文献3)が、この発明による潤滑剤は合成樹脂を主成分としており、厳しい加工条件では充分な潤滑性を安定的に発揮するには至っていない。また、これらの発明の潤滑剤は成分やその比率を限定しているものの、その潤滑皮膜自体の構造に関しては、なんら記述がなく、その特定はなされていない。
【0006】
更に、本出願人は、表面に、金属との界面側に無機化合物を主成分とする厚さ0.1〜15μmのベース層が位置し、また表面側に滑剤を主成分とする厚さ0.1〜10μmの滑剤層が位置し、且つ滑剤層/ベース層の層厚比が0.2〜3である傾斜型2層潤滑皮膜を有する塑性加工用金属材料を提案した。また、この塑性加工用金属材料を、その表面に無機化合物および滑剤を主成分として含む水系の処理液を接触させ、次いで乾燥させることにより、金属との界面側に無機化合物を主成分とする厚さ0.1〜15μmのベース層が位置し、また表面側に滑剤を主成分とする厚さ0.1〜10μmの滑剤層が位置し、且つ滑剤層/ベース層の層厚比が0.2〜3である傾斜型2層潤滑皮膜を形成させて製造する方法を提案した(特願2001−063483号)。
【0007】
【特許文献1】
特開昭52−20967号公報
【特許文献2】
特開平10−8085号公報
【特許文献3】
特開2000−63880号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、本出願人が特許出願した前述の傾斜型2層潤滑皮膜を有する塑性加工用金属材料について、塑性加工時における潤滑性能を更に向上させた塑性加工用金属材料を製造する方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
前述の傾斜型2層皮膜を設けた塑性加工用金属材料は優れた潤滑性を示すが、本発明者らは、乾燥して形成させた傾斜型2層潤滑皮膜を更に加熱処理することによって、該皮膜の塑性加工時の潤滑性を更に向上し得ること、特にスパイクエジェクト荷重を大幅に低減し得ることを知見し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、塑性加工用金属材料表面に、りん酸塩、硫酸塩、ホウ酸塩、ケイ酸塩、モリブデン酸塩およびタングステン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の無機化合物並びに金属石鹸、ワックス、ポリテトラフルオロエチレン、二硫化モリブデンおよびグラファイトからなる群から選ばれる少なくとも一種の滑剤を主成分として含む水系の処理液を接触させ、次いで乾燥させることにより、金属との界面側に上記無機化合物を主成分とする厚さ0.1〜15μmのベース層が位置し、また表面側に上記滑剤を主成分とする厚さ0.1〜10μmの滑剤層が位置し、且つ滑剤層/ベース層の層厚比が0.2〜3である傾斜型2層潤滑皮膜を形成させ、その後加熱処理して潤滑性を向上させることを特徴とする傾斜型2層潤滑皮膜を有する塑性加工用金属材料の製造方法である。上記金属材料は、鉄、鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、チタン、チタン合金、銅、銅合金、錫、錫合金などが好ましい。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明は、表面にベース層と滑剤層からなる傾斜型2層潤滑皮膜を有する塑性加工用金属材料の製造方法に関する。本発明における傾斜型2層潤滑皮膜の傾斜型とは、皮膜層中で濃度勾配を有することを意味する。すなわち、完全に成分が2分化(2層化)されたものではなく、皮膜の最表面から金属界面に向かって、滑剤の濃度は減少し、反対にベース成分濃度は増加していくものである。本発明において、ベース層は、塑性加工時の追従性が良く、滑剤を保持し、金型との焼付きに対する硬さと強度を付与させるためのものである。一方、滑剤層は皮膜の滑り性を良くし摩擦係数を軽減させる作用を有するものである。金属側にベース層、表面側に滑剤層の2つの層を存在させることが重要であり、どちらか一方では、塑性加工に耐えうる潤滑性を発揮しない。
【0012】
本発明の傾斜型2層潤滑皮膜は、塑性加工用金属材料表面に、ベース層の主成分となる無機化合物および滑剤層の主成分となる滑剤を含む水系の処理液を接触させ、次いで乾燥させることにより形成させる。上記の接触の際の接触方法は、浸漬方法、フローコート方法、スプレ−方法などを使用することができ、接触時間、接触温度等は特に限定されない。乾燥方法は、特に限定されないが、予め処理を施す金属材料ワークを加温しておき、この熱を利用して乾燥する方法、乾燥空気を利用する方法、熱風を吹き付ける方法などを使用することができる。
【0013】
ベース層の主成分となる無機化合物は、傾斜型2層皮膜を生成しうることが可能であり、且つ潤滑皮膜としてのベース層に求められる追従性、密着性、強度および滑剤層に求められる滑り性を考慮して選択した結果、りん酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩、ホウ酸塩、モリブデン酸塩、タングステン酸塩よりなる群から選ばれる少なくとも一種の無機化合物を使用する。一例として、りん酸亜鉛、りん酸カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、ケイ酸カリウム、ホウ酸ナトリウム(四ホウ酸ナトリウム)、ホウ酸カリウム(四ホウ酸カリウム等)、ホウ酸アンモニウム(四ホウ酸アンモニウム等)、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、タングステン酸ナトリウムなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせてもよい。
【0014】
また、滑剤層の主成分となる滑剤は、金属石鹸、ワックス、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、二硫化モリブデンおよびグラファイトからなる群から選ばれる少なくとも一種の滑剤を使用する。特に、傾斜型2層潤滑皮膜を形成させるには、疎水性の高い、金属石鹸、ワックス、PTFEなどのフッ素樹脂を用いるのが、より好ましい。具体的には、金属石鹸としては、炭素数12〜26の飽和脂肪酸と亜鉛、カルシウム、バリウム、アルミニウム、マグネシウム、及びリチウムから成る群から選ばれた少なくとも一種の金属を反応させて得られたもの、例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸リチウムなどが挙げられる。ワックスとしては、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、カルナウバワックス等を挙げることが出来る。
【0015】
本発明の対象となる金属材料としては、鉄、鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、チタン、チタン合金、銅、銅合金、錫、錫合金などが好ましい。金属材料の形状としては、棒材やブロック材等の素材だけでなく、鍛造後の形状物(ギヤやシャフト等)でもよく、特に限定されない。塑性加工用金属材料を上記の処理液に接触させる前に、ショットブラスト、サンドブラスト、アルカリ脱脂および酸洗浄から成る群から選ばれる少なくとも1種の清浄化処理を行うことが好ましい。ここでの清浄化とは、焼鈍等により成長した酸化スケールや各種の汚れ(油など)を除去することを目的とするものである。
【0016】
本発明の乾燥後に形成される傾斜型2層皮膜について、ベース層の厚さは、0.1〜15μmの範囲であり、2〜8μmの範囲がより好ましい。ベース層の厚さが0.1μm未満では充分な滑剤保持性が発揮されない。また、ベース層の厚さが15μmを超えると膜が厚すぎ加工時に押し込みキズなどを作りやすくなるために好ましくない。また滑剤層の厚さは、0.1μm〜10μmの範囲であり、1μm〜6μmの範囲がより好ましい。滑剤層の厚さが、0.1μm未満では充分な滑り性が得られなく、10μmを超えると加工時に余剰カス(金型などに付着)を生じるようになり好ましくない。滑剤層/ベース層の層厚比は0.2〜3の範囲内である。0.2未満では、皮膜全体として硬すぎて、滑り性が劣り、好ましくない。また、3以上では保持性が劣り、全体としての追従性が不充分となり好ましくない。潤滑皮膜の全膜厚は、ベース層と滑剤層の厚さの合計であり、0.2〜25μmの範囲である。全膜厚が0.2μm未満では潤滑性が不充分であり、厳しい加工度の塑性加工に耐えられない。また、25μmを超えると余剰カスが多くなることとコストが高くなり好ましくない。
【0017】
潤滑皮膜の全膜厚、ベース層および滑剤層の厚さは、皮膜形成後の金属材料を切断し、この断面を研磨し、分析することにより測定する。全膜厚は、特に高度な分析機器は必要とせず、顕微鏡で観察し得る。ベース層および滑剤層の厚さは、EPMAを使用し測定する。断面の皮膜部分を定量分析するが、先ず、ベース層と滑剤層の主成分の代表元素を設定する。例えば、ベース層の主成分がりん酸亜鉛であるならばリンを代表元素に設定するのが適当であり、また滑剤層の主成分がワックスであれば炭素を代表元素に設定するのが適当である。この2つの元素の定量分析を表面から金属界面へ線分析する。次いで、この2つの存在比率をモル分率で計算する。モル分率がC/Pが1以上までを滑剤層、1未満をベース層とする。実際の測定では、当然のことながら、データのバラツキおよび皮膜の不均一(皮膜の部位によるバラツキ)を補正する目的で、この線分析は皮膜の部位を変え、5回以上行い、この平均化したものにより、最終的にベース層、滑剤層の膜厚を算出する。
【0018】
金属材料表面に形成させる傾斜型2層皮膜の皮膜厚は、処理液の塗布量および処理液中の無機化合物および滑剤の濃度を適宜コントロールすることにより、規定の膜厚になるように調整する。塗布量は特に限定されるものではないが、一般的に10〜100g/m2である。また、無機化合物および滑剤の濃度も特に限定されるものではないが、一般的に0.1〜30重量%である。傾斜型2層潤滑皮膜は次のような理論で形成されると考えられる。先ず、ベース層成分と滑剤層成分とを均一に溶解あるいは分散させた処理液を調製する。この処理液を金属材料表面に塗布する。金属材料表面に処理液の薄膜ができる。そして、▲1▼ 金属材料を予め処理液の温度より高く加温してから処理液を塗布した場合には、金属材料の温度が処理液の温度より高いので、処理液の薄膜内では、固液界面の温度が高く、気液界面の温度が低くなり、処理液の薄膜内に温度差ができ、溶媒となる水が揮発するために薄膜内で微小の対流がおきる。また、▲2▼ 常温の金属材料に常温の処理液を塗布し、金属材料表面に処理液の薄膜を作り、その後温風を送風することにより乾燥する場合には、気液界面の温度が高くなり、この界面での表面張力が低下し、これを緩和するために処理液の薄膜内で微小の対流が生じ、いわゆるベナール・セルが生じる。
【0019】
上記の▲1▼、▲2▼のいずれの場合も、対流が生じるとともに、空気との親和力の高い成分と金属や水との親和性の高い成分とに分離するようになる。そして、徐々に水が揮発して最終的な膜となった時に、成分の濃度勾配を生じた傾斜皮膜、すなわち金属との界面側とその反対の表面側とでは、特定の成分がリッチとなることに起因して成分差が生じる。また、傾斜型2層潤滑皮膜の形成を助長する目的で、必要に応じて処理液中に公知の増粘剤や界面活性剤を添加してもよい。例えば、平滑性を向上させ、皮膜ムラを抑制する場合などには増粘剤は有効である。また、皮膜の密着性を上げるためにバインダー成分として、高分子化合物などを添加してもよい。
【0020】
本発明の方法においては、乾燥によって溶媒である水が揮発した後の成膜した状態においても、適当な温度に加温することにより、膜内を特定の物質が皮膜内拡散(ブリード)してより安定な状態になろうとするため成分差が生じる。そして、乾燥して形成させた傾斜型2層潤滑皮膜を更に加熱処理することによって、該皮膜の塑性加工時の潤滑性を更に向上させること、特にスパイクエジェクト荷重を大幅に低減させることができる。これは、乾燥後の加熱処理によって、滑剤層中の滑剤が最表面に移動して最表面における滑剤の被覆割合が大きくなり、そのため潤滑性が向上し、殊にスパイクエジェクト荷重が低減するものと考えられる。乾燥後の加熱処理温度は、乾燥温度より高温が好ましい。金属石鹸、ワックス、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの融点を有する滑剤を用いた場合、乾燥温度や乾燥後の加熱温度は融点未満の温度でも融点を超える温度でもよいが、融点付近の温度を採用するのが好ましい。
【0021】
塑性加工用金属材料に傾斜型2層潤滑皮膜を形成させるに当たっては、少数ずつ処理するのではなく、一度にまとめて多数の塑性加工用金属材料を、無機化合物および滑剤を主成分として含む水系の処理液で塗布処理し、乾燥させて潤滑皮膜を形成する方法を採るのが生産効率上好ましい。また、多種類の塑性加工用金属材料を作り置きしておき、納期に応じ必要量だけ塑性加工したほうが作業効率が良好である。しかし、一度にまとめて多数あるいは多種の塑性加工用金属材料を処理する場合には、乾燥に長い時間が必要となるので、生産効率が上がりにくい問題がある。そこで可能な限り乾燥時間を短縮して対応するが、その場合には、数量の変動による乾燥条件の調整が困難であり、また乾燥時に多量の被処理材料の全てをほぼ均一な温度にするのが困難であって、これに伴い、傾斜型2層潤滑皮膜の最表面における滑剤の被覆割合が変動し、また最表面における滑剤の被覆割合が不均一になり、潤滑性能を一定させるのが困難になる。本発明の乾燥後の加熱処理の手段を採用すると、加熱処理によって最表面における滑剤の被覆割合を調整できるので、この問題点を解消できる。
【0022】
乾燥後に加熱処理する方法としては、一度乾燥した塑性加工用金属材料を別の加熱装置で加熱させる方法が考えられるが、新たな加熱設備投資や、塑性加工用金属材料の移動など余分な工程が発生する。そこで、乾燥によって傾斜型2層潤滑皮膜を形成させた塑性加工用金属材料を、塑性加工するときに、その塑性加工工程の前工程装置内において加熱するのが好ましい。この加熱は、輻射熱を利用したり、熱風を直接吹き付けたり、熱伝導を利用して加熱してもよい。例えば、塑性加工の前工程装置を加熱し、その中を塑性加工用金属材料が通過する際に、塑性加工用金属材料が接触する前工程装置から熱伝導により急速に加熱する。この塑性加工の前工程装置としてはパーツフィーダー、貯蔵箱、貯蔵機能が付与されているコンベアを含む搬送コンベア等からなる前工程装置であれば、材質および様式は問わない。ただし、材質については耐熱性、耐久性、熱伝導性から金属が好ましい。
【0023】
この加熱方法は、既存の前工程装置に簡易な加熱装置を取り付けることで足りるので、比較的に安価で対応可能である。塑性加工用金属材料は、前工程装置の中で一時的に貯留する場合があるが、その場合には加熱効果は一段と高まる。加熱温度に関しては、塑性加工用金属材料の形状や、通過速度により異なるが、塑性加工用金属材料の物温が60〜200℃、より望ましくは70〜140℃である。200℃を超えると、前工程装置の搬送部分などが短時間で故障する可能性がある。また、60℃未満だと加熱の効果がほとんどない。加熱時間に関して、塑性加工用金属材料の形状や、通過速度により異なるので、特に限定されないが、望ましくは1〜30分、より望ましくは、1〜5分である。加熱時間が短すぎると充分に塑性加工用金属材料を加熱できない場合があり、また加熱時間が長すぎると処理時間が長くなり過ぎて生産性が低下するなど不具合が発生する。
【0024】
また、前工程装置の加熱方法は、例えば、電気ヒーター、灯油ファンヒーター、ガスヒーター、セラミックヒーターによる熱風、蒸気を利用した熱交換による加熱や、誘導加熱、プロパンなどの燃焼ガスによる直火加熱、または、ニクロム線等を前工程装置に貼り付け、または、巻き付けることによる熱伝導でも構わない。前工程装置の周囲に仕切りを設けたり、耐熱性材料で構成された箱や蓋で前工程装置を蓋っても構わない。また、上述した加熱方法のうち、電気ヒーターによる熱風は、灯油ヒーターなどと比較して、炭酸ガスや水分を排出しないですむ他、灯油などの燃料補給が不必要という作業環境や、作業性の観点で勝り、昨今の環境対応の目的にも合致する。
【0025】
【実施例】
本発明の実施例を比較例と共に挙げ、その効果をより具体的に説明する。
A.試験材料
1.後方せん孔試験片
後方せん孔試験に供した材料は市販のS45C球状化焼鈍材であり、試験片の形状は円柱状であり、直径30mmφで、高さが18〜40mmまで2mm単位で変えたものである。
2.スパイク試験片
スパイク試験に供した材料は市販のS45C球状化焼鈍材であり、試験片の形状は円柱状であり、直径25mmφで、高さが30mmである。
【0026】
B.処理液
処理液1.
ベース層成分:りん酸亜鉛
滑剤層成分:マイクロクリスタリンワックス
滑剤/無機化合物比:0.3
固形分濃度:4重量%
処理液2.
ベース層成分:四ホウ酸カリウム+リン酸亜鉛(重量比1:2)
滑剤層成分:ステアリン酸亜鉛+ポリエチレンワックス(重量比1:1)
滑剤/無機化合物比:0.3
固形分濃度:20重量%
処理液3.
ベース層成分:4硼酸ナトリウム
滑剤層成分:なし
固形分濃度:10重量%
処理液4
ベース層成分:なし
滑剤層成分:PTFE
固形分濃度:10重量%
【0027】
実施例1
前記の試験材料を500個とり、市販の脱脂剤(登録商標 ファインクリーナー4360,日本パーカライジング(株)製)で濃度20g/L、温度60℃、浸漬10分にて脱脂処理し、60℃の水道水で30秒間浸せき水洗した。次いで、各材料を60℃の前記の処理液1に10秒間浸せきし、引き上げ、液が付着したままの状態で、乾燥用回転式バレルに投入し、乾燥用回転式バレルを回転させながら、60℃の温風を吹き付けて、材料が60℃になってから4分間保持し、水分を揮発させた。その後、電気ヒーターの熱風により110℃に加熱した円盤状のパーツフィーダーに乗せ、パーツフィーダーの円板を回転させ、処理済みの材料を110℃で1分間加熱した。
【0028】
実施例2
前記の試験材料を450個とり、市販の脱脂剤(登録商標 ファインクリーナー4360,日本パーカライジング(株)製)で濃度20g/L、温度60℃、浸漬10分にて脱脂処理し、60℃の水道水で30秒間浸せき水洗した。次いで、各材料を40℃の前記の処理液2に10秒間浸せきし、引き上げ、液が付着したままの状態で、乾燥用回転式バレルに投入し、乾燥用回転式バレルを回転させながら、60℃の温風を吹き付けて、材料が60℃になってから4分間保持し、水を揮発させた。その後、灯油ファンヒーターの熱風により120℃に加熱した円盤状のパーツフィーダーに乗せ、パーツフィーダーの円板を回転させ、処理済みの材料を120℃で1分間加熱した。
【0029】
比較例1〜2
前記の試験材料を500個とり、市販の脱脂剤(登録商標 ファインクリーナー4360,日本パーカライジング(株)製)で濃度20g/L、温度60℃、浸漬10分にて脱脂処理し、60℃の水道水で30秒間浸せき水洗した。次いで、各材料を60℃の前記の処理液1又は処理液2にそれぞれ10秒間浸せきし、引き上げ、液が付着したままの状態で、乾燥用回転式バレルに投入し、乾燥用回転式バレルを回転させながら、60℃の温風を吹き付けて、材料が60℃になってから4分間保持し、水分を揮発させた。
【0030】
比較例3〜4
前記の試験材料を500個とり、市販の脱脂剤(登録商標 ファインクリーナー4360,日本パーカライジング(株)製)で濃度20g/L、温度60℃、浸漬10分にて脱脂処理し、60℃の水道水で30秒間浸せき水洗した。次いで、各材料を60℃の前記の処理液3又は処理液4にそれぞれ10秒間浸せきし、引き上げ、液が付着したままの状態で、乾燥用回転式バレルに投入し、乾燥用回転式バレルを回転させながら、60℃の温風を吹き付けて、材料が60℃になってから4分間保持し、水分を揮発させた。その後、電気ヒーターの熱風により110℃に加熱した円盤状のパーツフィーダーに乗せ、パーツフィーダーの円板を回転させ、処理済みの材料を110℃で1分間加熱した。
【0031】
比較例5
前記の試験材料を500個とり、市販の脱脂剤(登録商標 ファインクリーナー4360,日本パーカライジング(株)製)で濃度20g/L、温度60℃、浸漬10分にて脱脂処理し、60℃の水道水で30秒間浸せき水洗した。次いで、各材料を60℃の前記の処理液1に10秒間浸せきし、引き上げ、エアーブロー(空気圧0.3MPa)して充分に液切りを行い、乾燥用回転式バレルに投入し、乾燥用回転式バレルを回転させながら、60℃の温風を吹き付けて、材料が60℃になってから4分間保持し、水分を揮発させた。その後、電気ヒーターの熱風により110℃に加熱した円盤状のパーツフィーダーに乗せ、パーツフィーダーの円板を回転させ、処理済みの材料を110℃で1分間加熱した。
【0032】
実施例1〜3、比較例1〜5で処理して得た各試験片について、下記に示す方法で潤滑皮膜の全膜厚、ベース層の厚さ及び潤滑層の厚さを測定した。また、下記に示す方法で、後方せん孔試験およびスパイク試験を行った。この測定および試験の結果を表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
表1から明らかなように、実施例1〜2および比較例1〜2は、後方穿孔試験及びスパイク高さ試験は優れた結果を示すが、実施例1と比較例1及び実施例2と比較例2を対比すると明らかなように、乾燥処理したものを加熱処理したもの(実施例1、2)は、乾燥処理のみのもの(比較例1、2)より、スパイクインジェクト荷重が著しく低減している。一方、潤滑層の層厚と滑剤層/ベース層の比が本発明の範囲外である比較例3は潤滑性が劣っていた。特にスパイクテストでは金型に焼き付きを生じ、成形できなかった。また、ベース層の層厚と潤滑層/ベース層の比が本発明の範囲外である比較例4も潤滑性が劣っていた。さらに、ベース層および滑剤層の層厚が本発明の範囲外である比較例5も潤滑性が劣っていた。
【0035】
測定・試験方法
(1)全膜厚、ベース層の厚さ及び滑剤層の厚さの測定方法
市販のEPMA(島津製作所(株)製 8705L型)を用い、皮膜の断面観察によってベース層および滑剤層の層厚を測定した。測定に当って、代表元素には、測定元素は、処理液1はPとC、処理液2はKとCにした。なお、測定は部位を変え、5回行い、この平均値を示した。
【0036】
(2)後方せん孔試験
後方せん孔試験は、200トンクランクプレスを用い、金型をセットし外周部を拘束した円柱状試験片の上に、50%の減面率になるような直径のパンチにて上方から打ち付け、カップ状の成型物を得る方法で行った。この時プレスの下死点は試験片底部の残し代が10mmとなるよう調整した。後方せん孔試験は試験片を高さの低いものから順番に加工を行い、加工面に傷が入るまで試験した。評価は内面に傷が入らなかった試験片のカップ内高さを良好せん穿孔深さ(mm)とした。
金型 :SKD11
パンチ :HAP40、ランド径21.21mmφ
減面率 :4、6、8、10、12、14%
加工速度:30ストローク/分
【0037】
(3)スパイク試験
スパイク試験は特開平5−7969号の発明に準じて行った。試験後のスパイク高さ(mm)と成形後のエジェクト荷重(kg)にて潤滑性を評価した。スパイク高さが高い程、また、スパイクエジェクト荷重が低いほど潤滑性に優れる。
【0038】
【発明の効果】
本発明によると、無機化合物及び滑剤を主成分として含む水系の処理液を接触させ、次いで乾燥させて表面に無機化合物及び滑剤の特定の層構成の傾斜型2層潤滑皮膜を形成させた塑性加工用金属材料を、更に加熱処理することによって、潤滑性、殊にスパイクエジェクト荷重を著しく低減できる。そのため、成形後の金型からの成形品の取出しが容易になり作業性が向上する。
Claims (2)
- 塑性加工用金属材料表面に、りん酸塩、硫酸塩、ホウ酸塩、ケイ酸塩、モリブデン酸塩およびタングステン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の無機化合物並びに金属石鹸、ワックス、ポリテトラフルオロエチレン、二硫化モリブデンおよびグラファイトからなる群から選ばれる少なくとも一種の滑剤を主成分として含む水系の処理液を接触させ、次いで乾燥させることにより、金属との界面側に上記無機化合物を主成分とする厚さ0.1〜15μmのベース層が位置し、また表面側に上記滑剤を主成分とする厚さ0.1〜10μmの滑剤層が位置し、且つ滑剤層/ベース層の層厚比が0.2〜3である傾斜型2層潤滑皮膜を形成させ、その後加熱処理して潤滑性を向上させることを特徴とする傾斜型2層潤滑皮膜を有する塑性加工用金属材料の製造方法。
- 金属材料が、鉄、鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、チタン、チタン合金、銅、銅合金、錫、錫合金である請求項1記載の傾斜型2層潤滑皮膜を有する塑性加工用金属材料の製造方法。
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