JP2004099722A - Abs樹脂用流動性向上剤及びこれを含む熱可塑性樹脂組成物並びにabs樹脂用流動性向上剤の製造方法 - Google Patents

Abs樹脂用流動性向上剤及びこれを含む熱可塑性樹脂組成物並びにabs樹脂用流動性向上剤の製造方法 Download PDF

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Yasuhiko Nabeshima
鍋島 泰彦
Atsunori Koshirai
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Abstract

【課題】ABS樹脂が本来有する優れた特徴を損なうことなく、溶融流動性を改良させるABS樹脂用流動性向上剤及びこれを用いたABS樹脂系熱可塑性樹脂組成物、並びに前記ABS樹脂用流動性向上剤の製造方法を提供すること。
【解決手段】ABS樹脂に非相溶な重合体成分(A)と、ABS樹脂に相溶性または親和性のある重合体成分(B)とを含有し、重合体成分(A)の少なくとも一部と、重合体成分(B)の少なくとも一部とがブロックまたはグラフト重合体を形成しており、その質量平均分子量が5000〜100000であることを特徴とするABS樹脂用流動性向上剤。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ABS樹脂の流動性、成形加工性を向上させるためのABS樹脂用流動性向上剤、およびこれを用いた流動性と耐熱性バランスに優れたABS系熱可塑性樹脂組成物並びにABS樹脂用流動性向上剤の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ABS樹脂は、多くの成形方法に対応して加工性に優れるとともに、耐衝撃性、剛性、表面外観、二次加工性の優れるなどの特性を有する熱可塑性樹脂であり、車両用内外装用途、家電用途、通信・OA機器用途などに幅広く使用されている。
しかし、近年市場のニーズが多様化し、成形品の大型化、薄肉化が望まれている。この場合、従来のABS樹脂は溶融流動性が低く、成形品の加工性が十分とはいえない。また、様々なニーズに対応するために、例えば耐フロン性ABS樹脂やガラス繊維強化ABS樹脂などの特殊グレードが開発されているが、これらの樹脂は更に溶融流動性が悪く、成形加工時の問題の一つになっている。この様な課題を背景に、ABS樹脂の流動性を向上させるための流動性向上剤の開発が望まれている。
ABS樹脂の溶融流動性の改良にあたっては、マトリクス樹脂であるAS樹脂(PAS樹脂)を低分子量化する方法や滑剤を添加する方法が一般的である。また低分子量のAS樹脂を添加する方法(例えば特許文献1参照)やポリカプロラクトンを添加する方法(例えば特許文献2参照)により溶融流動性の改良が報告されている。
【特許文献1】特開平4−332742号公報
【特許文献2】特開平9−12838号公報
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
マトリクス樹脂であるAS樹脂を低分子量化する方法は、流動性が大きく向上するものの、ABS樹脂の優れた耐衝撃性、耐熱性、耐薬品性を損なう傾向にあり、これらのABS樹脂の優れた特徴を保持したまま溶融流動性を向上させるには限界がある。
滑剤の添加によってもある程度の流動性向上が可能であるが、外観等の諸物性を損なう傾向にある。
また、低分子量AS樹脂、ポリカプロラクトンを添加する方法も、ある程度の流動性の改良効果が得られるが、これらの添加剤を相当量添加すると、耐熱性、耐衝撃性が大きく低下するといった問題がある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は前述した課題を解決するためになされたものであり、ABS樹脂が本来有する優れた特徴を損なうことなく、溶融流動性を改良させるABS樹脂用流動性向上剤及びこれを用いたABS樹脂系熱可塑性樹脂組成物、並びに前記ABS樹脂用流動性向上剤の製造方法を提供することを目的とするものである。
即ち、本発明の要旨は、ABS樹脂に非相溶な重合体成分(A)と、ABS樹脂に相溶性または親和性のある重合体成分(B)とを含有し、重合体成分(A)の少なくとも一部と、重合体成分(B)の少なくとも一部とがブロックまたはグラフト重合体を形成しており、その質量平均分子量が5000〜100000であることを特徴とするABS樹脂用流動性向上剤にある。
また、本発明の要旨は、質量平均分子量が1000〜80000である、側鎖または末端に少なくとも1つ以上の不飽和二重結合を有する、ABS樹脂に非相溶な重合体(a)の存在下に、ABS樹脂に相溶性または親和性のある重合体を形成するビニル系単量体またはその混合物(b)を重合させる、ABS樹脂用流動性向上剤の製造方法にある。
更に本発明の要旨は、ABS樹脂(C)100質量部に対し、上記流動性向上剤(D)0.1〜100質量部を配合してなる熱可塑性樹脂組成物にある。
【0005】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
[ABS樹脂用流動性向上剤]
本発明のABS樹脂用流動性向上剤(D)は、ABS樹脂に非相溶な重合体成分(A)とABS樹脂と相溶性または親和性のある重合体成分(B)とを含み、前記重合体成分(A)の少なくとも一部と重合体成分(B)の少なくとも一部とが化学結合してブロックまたはグラフト重合体を形成しており、その質量平均分子量は5000〜200000の範囲内にある。
また、本発明のABS樹脂用流動性向上剤(D)は、ABS樹脂に非相溶な重合体成分(A)とABS樹脂と相溶性または親和性のある重合体成分(B)とを含み、前記重合体成分(A)の少なくとも一部と重合体成分(B)の少なくとも一部とがグラフト結合した重合体であって、クロロホルムに溶解する可溶成分の質量平均分子量が5000〜100000の範囲内にある。
【0006】
本発明において、「ABS樹脂」とは、ブタジエン系ゴムの存在下、スチレン系単量体、アクリロニトリル系単量体及び必要に応じ不飽和カルボン酸エステル単量体を含む単量体混合物を乳化重合法、塊状重合法、塊状−懸濁重合法、乳化懸濁重合法などの公知の重合法で重合して得られる、いわゆるゴムグラフト共重合樹脂である。
【0007】
本発明において、「ABS樹脂に非相溶な重合体」とは、重合体10質量%とABS樹脂90質量%(併せて100質量%)を二軸押出機により200℃で溶融混練し、射出成形機等によりブレンド体の成形試片を作成した時、表層剥離(層状剥離)が観察されるものをいう。
また、「ABS樹脂と相溶性または親和性のある重合体」とは、同様の方法により成形試片を作成した時、表層剥離(層状剥離)が観察されないものを意味する。
耐表層剥離性(耐剥離性)の評価は、得られた成形品の表面にカッターナイフで1mm のマス目を100個作り、その部分を粘着テープを充分密着させ、勢いよく剥す方法でテープ剥離試験を行い、評価することができる(碁盤目剥離試験:JIS K−5400)。また、簡易的な方法ではあるが、成形試片の突き出しピン跡にカッターナイフで斜め水平に切り込みを入れることで、より一層厳しい評価を目視で充分に確認することが可能である。
本発明における耐表層剥離性(耐剥離性)の評価では、この両評価に合格したものを「ABS樹脂と相溶性または親和性のある重合体」とし、その何れか一方若しくは両方に不合格なものを「ABS樹脂に非相溶な重合体」とする。
【0008】
本発明に有用なABS樹脂に非相溶な重合体成分(A)としては、その構成成分が、例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリジフェニルジメチルシロキサン等のポリオルガノシロキサン、ポリエチルアクリレート、ポリn−ブチルアクリレート、ポリ2−エチルヘキシルアクリレート、ポリラウリルアクリレート、ポリステアリルアクリレート等のポリアルキルアクリレート、ポリスチレン、ポリ−α−メチルスチレン等の芳香族ビニル重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、およびそれらを主成分とする共重合体等が挙げられる。
これらのうちでは、樹脂自体の溶融粘度が低く、ABS樹脂の流動性改良効果が大きいポリジメチルシロキサン、ポリジフェニルジメチルシロキサン等のポリオルガノシロキサンおよびそれらを主成分とする重合体、ポリエチルアクリレート、ポリn−ブチルアクリレート、ポリ2−エチルヘキシルアクリレート、ポリラウリルアクリレート、ポリステアリルアクリレート等のポリアルキルアクリレートおよびそれらを主成分とする重合体がより好ましい。
【0009】
本発明に有用なABS樹脂と相溶性または親和性のある重合体成分(B)としては、その構成成分として、例えば、ポリメチルメタクリレート、(メチルメタクリレート/シクロヘキシルメタクリレート)共重合体、(メチルメタクリレート/フェニルメタクリレート)共重合体等の1種または2種以上のアルキル(メタ)アクリレートからなる単独重合体および共重合体、(スチレン/アクリロニトリル)共重合体、(スチレン/メタクリロニトリル)共重合体等の芳香族アルケニル化合物とシアン化ビニル化合物とからなる共重合体、(スチレン/メタクリル酸)共重合体、(メチルメタクリレート/スチレン)共重合体、(メチルメタクリレート/アクリロニトリル)共重合体等のアルキルメタクリレートとシアン化ビニル化合物または芳香族アルケニル化合物とからなる共重合体、ポリ−ε−カプロラクトン等の脂肪族ポリエステルおよびポリカーボネート、またはそれらを主成分とする重合体が挙げられる。これらのうちでは、ABS樹脂の本来有する優れた特徴(耐熱性、耐衝撃性等)が損なわれることなく、その成形加工性(溶融流動性等)の改良にも有効なポリメチルメタクリレート、(メチルメタクリレート/シクロヘキシルメタクリレート)共重合体、(メチルメタクリレート/フェニルメタクリレート)共重合体等の1種または2種以上のアルキル(メタ)アクリレートからなる単独重合体および共重合体、(スチレン/アクリロニトリル)共重合体、(スチレン/メタクリル酸)共重合体、(スチレン/メタクリロニトリル)共重合体等の芳香族アルケニル化合物とシアン化ビニル化合物とからなる共重合体、(メチルメタクリレート/スチレン)共重合体、(メチルメタクリレート/アクリロニトリル)共重合体等のアルキルメタクリレートとシアン化ビニル化合物または芳香族アルケニル化合物とからなる共重合体またはそれらを主成分とする重合体がより好ましい。
【0010】
本発明の流動性向上剤(D)においては、ABS樹脂に非相溶な重合体成分(A)の少なくとも一部とABS樹脂と相溶性または親和性のある重合体成分(B)の少なくとも一部とが化学結合している必要がある。重合体成分(A)と重合体成分(B)が全く化学結合をしていない場合には、この流動性向上剤およびこれを含むABS樹脂の成形品において、ABS樹脂に非相溶な重合体成分(A)が表層剥離を生じ、外観、衝撃強度、あるいは実用上重要なウエルド外観や面衝撃が低下する。
【0011】
重合体成分(A)は、その全てが重合体成分(B)と化学結合していることが好ましく、その構造としては重合体成分(A)と重合体成分(B)からなるブロックまたはグラフト重合体である。ブロックまたはグラフト重合体の構造例としては、重合体成分(A)を主鎖とし、重合体成分(B)を側鎖とする櫛型グラフト重合体、重合体成分(B)を主鎖とし、重合体(A)を側鎖とする櫛型グラフト重合体、あるいは下記式(I)〜(III)で表されるブロック重合体、あるいは重合体(A)の内層に重合体(B)の外層がグラフトされたコアシェル型の多層構造グラフト重合体を挙げることができる。
(A)−(B)                 (I)
(A)−(B)−(A)            (II)
(B)−(A)−(B)           (III)
また、本発明の流動性向上剤(D)においては、重合体成分(B)の全てが重合体成分(A)と化学結合していることが好ましいが、ABS樹脂が本来有する優れた特徴(耐熱性、耐衝撃性、難燃性等)が損なわれることなく、その成形加工性(流動性等)が改良される範囲においては、重合体(B)の全てが重合体(A)と化学結合していなくても特に問題はない。
【0012】
本発明の流動性向上剤(D)における重合体成分(A)と重合体成分(B)の割合については、重合体成分(A)と重合体成分(B)の両方が存在する範囲においては、特に制限はない。しかしながら、流動性と機械物性のバランスを考慮すると、重合体成分(A)1〜80質量%、重合体成分(B)20〜99質量%からなることが好ましい。重合体成分(A)が1質量%未満の場合には、流動性改質効果が低下する傾向にある。また、重合体(A)が80質量部を越える場合、重合体成分(A)の全てが重合体成分(B)と化学結合を生成することが困難となり、上記流動性向上剤(D)およびこれを含むABS樹脂の成形品において、ABS樹脂に非相溶な重合体成分(A)が表層剥離が生じ、外観、衝撃強度、あるいは実用上重要なウエルド外観や面衝撃が低下する傾向にある。流動性と機械物性のバランスを考慮すると、重合体成分(A)を5〜70質量%、さらに好ましくは重合体成分(A)が10〜40質量%含有することが好ましい。
【0013】
また、本発明の流動性向上剤(D)が重合体成分(A)と重合体成分(B)からなるブロックまたはグラフト重合体であり、その重合体が非架橋であることが好ましい。
本発明の流動性向上剤(D)が非架橋である場合は、その質量平均分子量が5000〜100000であることが好ましい。質量平均分子量が5000未満であると、相対的に低分子量物が多くなるため、耐熱性や剛性等が低下する傾向にある。また、成形時の発煙、ミスト、機械汚れ、フィッシュアイ等の外観不良が発生するおそれがある。成形性と物性のバランスを考慮すると、好ましい質量平均分子量は10000以上であり、より好ましくは20000以上であり、さらに好ましくは30000以上である。
一方、質量平均分子量が100000を越えると、流動性向上剤(D)自体の溶融粘度も高くなり、流動性改質効果が低下する傾向にある。樹脂組成物の成形性(溶融流動性等)を考慮すると、好ましい質量平均分子量は80000以下であり、より好ましくは50000以下、さらに好ましくは30000以下である。
【0014】
また、本発明の流動性向上剤(D)が重合体成分(A)と重合体成分(B)からなるグラフト重合体である場合、グラフト重合体の全てが非架橋のグラフト重合体であることが望ましい。しかしながらその優れた流動性改質の特性を損なわない範囲であれば、グラフト重合体の全てが非架橋である必要はなく、クロロホルムやアセトン等の有機溶媒に不溶の架橋重合体が一部存在していても特に問題はない。
流動性向上剤(D)中のクロロホルム不溶部の含量はできるだけ少ないことが好ましく、好ましくは30質量%以下である。クロロホルム不溶部の含量が30質量%を超えると、流動性向上剤自体の溶融粘度が高くなり、改質効果が低下する傾向にある。より好ましいクロロホルム不溶部の含量は10質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以下である。
本発明の流動性向上剤(D)がクロロホルム不溶部を含有するグラフト重合体である場合、そのクロロホルム可溶部の質量平均分子量は、5000〜100000の範囲内にあることが好ましい。上記可溶部の質量平均分子量が5000未満であると、相対的に低分子量物が多くなるため、耐熱性や剛性等が低下する傾向にある。また、成形時の発煙、ミスト、機械汚れ、フィッシュアイ等の外観不良が起こりやすくなる傾向にある。成形性と物性のバランスを考慮すると、好ましい質量平均分子量は10000以上であり、より好ましくは20000以上であり、さらに好ましくは30000以上である。
一方、上記可溶部の質量平均分子量が100000を越えると、流動性向上剤(D)自体の溶融粘度も高くなり、流動性改質効果が低下する傾向にある。樹脂組成物の成形性(溶融流動性等)を考慮すると、好ましい質量平均分子量は80000以下であり、より好ましくは50000以下、さらに好ましくは30000以下である。
【0015】
本発明の流動性向上剤(D)は、ABS樹脂に非相溶な重合体成分(A)の少なくとも一部とABS樹脂と相溶性または親和性のある重合体成分(B)の少なくとも一部とが化学結合していれば、その製造方法については特に制限はない。具体的な製造方法としては、例えば、乳化重合、懸濁重合、溶液重合、バルク重合におけるリビングアニオン重合や、TEMPO系、RAFT系、ATRP系といったリビングラジカル重合等により、重合体成分(A)と重合体成分(B)を連続的に合成する方法や、重合体成分(A)と重合体成分(B)を別々に合成し、両者を化学的に反応させて化学結合を形成する方法、重合体成分(A)の側鎖または末端に少なくとも1つ以上の不飽和二重結合を有するマクロモノマーを合成し、その存在下で重合体(B)を合成する方法、重合体成分(B)の側鎖または末端に少なくとも1つ以上の不飽和二重結合を有するマクロモノマーを合成し、その存在下で重合体(A)を合成する方法等が挙げられる。
【0016】
本発明の流動性向上剤(D)の製造方法のより好ましい実施形態としては、例えば、側鎖または末端に少なくとも1つ以上の不飽和二重結合を有する、ABS樹脂に非相溶な重合体(a)の存在下に、ABS樹脂と相溶性または親和性のある重合体を形成するビニル系単量体またはその混合物(b)を重合させる方法が挙げられる。
側鎖または末端に少なくとも1つ以上の不飽和二重結合を有するABS樹脂に非相溶な重合体(a)としては、本発明におけるABS樹脂に非相溶な重合体成分(A)を構成する重合体の側鎖または末端に少なくとも1つ以上の不飽和二重結合を有する重合体が挙げられ、例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリジフェニルジメチルシロキサン等のポリオルガノシロキサン、ポリエチルアクリレート、ポリn−ブチルアクリレート、ポリ2−エチルヘキシルアクリレート、ポリラウリルアクリレート、ポリステアリルアクリレート等のポリアルキルアクリレート、ポリスチレン、ポリ−α−メチルスチレン等の芳香族ビニル重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、およびそれらを主成分とする共重合体等の側鎖または末端に少なくとも1つ以上の不飽和二重結合を有する重合体が挙げられる。これらのうちでは、ABS樹脂の流動性改良効果が大きいポリジメチルシロキサン、ポリジフェニルジメチルシロキサン等のポリオルガノシロキサンおよびそれらを主成分とする重合体、ポリエチルアクリレート、ポリn−ブチルアクリレート、ポリ2−エチルヘキシルアクリレート、ポリラウリルアクリレート、ポリステアリルアクリレート等のポリアルキルアクリレートおよびそれらを主成分とする重合体の側鎖または末端に少なくとも1つ以上の不飽和二重結合を有する重合体がより好ましい。
【0017】
重合体(a)の製造方法としては、特に制限はないが、例えば、エチレングリコールジ(メタクリレート)、アリル(メタ)アクリレート等の重合性官能基を2つ以上有する単量体の存在下でビニル単量体を重合する方法、公知のマクロモノマー合成法、γ−メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、p−ビニルフェニルメチルジメトキシシラン等のグラフト交鎖剤の存在下に環状オルガノシロキサンを重合する方法を挙げることができる。
重合体(a)の質量平均分子量は、特に制限はないが、流動性や諸物性のバランスを考えると1000〜80000であることが好ましい。質量平均分子量が1000未満であると、相対的に低分子量物が多くなるため、耐熱性や剛性等の種々の機能を低下させる傾向にある。また、成形時の発煙、ミスト、機械汚れ、フィッシュアイ等の外観不良が発生しやすくなる傾向にある。また、高流動効果を発現する非相溶な重合体成分の寄与が小さくなり、充分な流動性改良効果が得られないおそれがある。好ましい質量平均分子量は5000以上であり、より好ましくは20000以上である。一方、質量平均分子量が80000を越えると溶融粘度が高くなり、流動性改質効果が低下する傾向にある。また、相溶性成分の寄与が小さくなるため耐剥離性やそれに伴う諸物性が低下するおそれがある。これらの成形性と流動性のバランスを考慮すると、好ましい質量平均分子量は50000以下であり、より好ましくは30000以下である。
【0018】
ABS樹脂と相溶性または親和性のある重合体を形成するビニル系単量体またはその混合物(b)としては、メチルメタクリレート単量体、(メチルメタクリレート/シクロヘキシルメタクリレート単量体混合物)、(メチルメタクリレート/フェニルメタクリレート単量体混合物)等のアルキルメタクリレートから選ばれる単量体混合物、(アクリロニトリル/スチレン)等の芳香族アルケニル化合物とシアン化ビニル化合物から選ばれるビニル系単量体混合物、(メチルメタクリレート/スチレン単量体混合物)、(スチレン/メタクリル酸単量体混合物)、(メチルメタクリレート/アクリロニトリル単量体混合物)等のアルキルメタクリレートとシアン化ビニル化合物または芳香族アルケニル化合物から選ばれるビニル系単量体混合物、ε−カプロラクトン等の脂肪族ポリエステル単量体をおよびポリカーボネートを形成するビスフェノールAとジフェニルカーボネート単量体混合体およびそれらを主成分とする単量体混合物が挙げられる。これらのうちでは、ABS樹脂が本来有する優れた特徴(耐熱性、耐衝撃性、難燃性等)を損なうことなく、またその成形加工性(流動性等)の改良にも有効な、メチルメタクリレート単量体、(メチルメタクリレート/シクロヘキシルメタクリレート単量体混合物)、(メチルメタクリレート/フェニルメタクリレート単量体混合物)、(アクリロニトリル/スチレン単量体混合物)、(メチルメタクリレート/スチレン単量体混合物)、(スチレン/メタクリル酸単量体混合物)、(メチルメタクリレート/アクリロニトリル単量体混合物)等を用いることが好ましい。
【0019】
本発明において、流動性向上剤の重合体(a)とビニル系単量体または混合物(b)の割合については、特に制限はないが、流動性と機械物性のバランスを考慮すると、重合体(a)1〜80質量%、ビニル系単量体または混合物(b)20〜99質量%とすることが好ましい。重合体(a)が1質量部未満である場合、充分な流動性改質効果が低下する傾向にある。重合体(a)が80質量部を越える場合、この流動性向上剤およびこれを含むABS樹脂の成形品において、ABS樹脂に非相溶な重合体成分(a)が表層剥離を生じ、外観、衝撃強度、あるいは実用上重要なウエルド外観や面衝撃が低下するおそれがある。流動性と機械物性のバランスのより好ましい範囲は、重合体(a)が5〜70質量%であり、さらに好ましくは重合体(a)が10〜40質量%である。
【0020】
本発明の流動性向上剤(D)の製造方法の具体例としては、例えば、乳化ラジカル重合による合成が挙げられる。水、乳化剤、ポリアルキルアクリレートを主成分とする重合体(A−1)を形成する単量体混合物またはポリオルガノシロキサンを主成分とする重合体(A−2)を形成する単量体混合物、不飽和基を2つ以上有する単量体等のグラフト交鎖剤、重合開始剤、連鎖移動剤等からなる混合物に、必要に応じて重合触媒を添加し、高温下で単量体を第一段目重合させればよい。そして、この乳化ラジカル重合を行った後の重合系中に、1種または2種以上のアルキル(メタ)アクリレートからなるビニル系単量体またはその混合物(b−1)、または芳香族アルケニル化合物とシアン化ビニル化合物からなるビニル系単量体混合物(b−2)、またはアルキル(メタ)アクリレートとシアン化ビニル化合物または芳香族アルケニル化合物からなるビニル系単量体混合物(b−3)等のビニル系単量体またはその混合物(b)を供給し、第二段目重合を行えば、流動性向上剤(D)を得ることができる。
ラジカル重合の重合開始剤としては、例えば、tert−ブチルヒドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系開始剤、酸化剤と還元剤を組み合わせたレドックス系開始剤が挙げられる。レドックス系開始剤の具体例としては、硫酸第一鉄、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩、ロンガリット、ヒドロパーオキサイドを組み合わせたスルホキシレート系開始剤が挙げられる。
乳化剤としては、例えば、ノニオン性乳化剤、アニオン性乳化剤、カチオン性乳化剤、両性イオン乳化剤が挙げられる。ノニオン性乳化剤の具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ジアルキルフェノキシポリ(エチレンオキシ)エタノール、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、アルキルセルロースが挙げられる。アニオン性乳化剤の具体例としては、脂肪酸塩類、高級アルコール硫酸エステル塩類、液体脂肪油硫酸エステル塩類、脂肪族アミンおよび脂肪族アミドの硫酸塩類、脂肪アルコールリン酸エステル塩類、二塩基性脂肪酸エステルのスルホン塩類、脂肪酸アミドスルホン酸塩類、アルキルアリールスルホン酸塩類、ホルマリン縮合物のナフタリンスルホン酸塩類等が挙げられる。カチオン性乳化剤の具体例としては、脂肪族アミン塩類、第四アンモニウム塩類、アルキルピリジニウム塩等が挙げられる。両性イオン乳化剤の具体例としては、アルキルベタイン等が挙げられる。連鎖移動剤としては、例えば、n−オクチルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタン等が挙げられる。
【0021】
本発明で用いるアルキルアクリレートは、炭素数が2〜20のアルキル基を有するのがよく、そのアルキル基は直鎖でも分岐鎖でもよい。その具体例としては、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−メチルブチルアクリレート、3−メチルブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、トリデシルアクリレート、セチルアクリレート、ステアリルアクリレート、エイコシルアクリレート等が挙げられる。これらは、1種または2種以上を用いることができる。
樹脂組成物の流動性およびコストを考慮すると、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、トリデシルアクリレート、ステアリルアクリレートが好ましい。これらのうちでは、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートが特に好ましい。
不飽和基を2つ以上有する単量体の具体例としては、アリル(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレートを挙げることができるが、樹脂組成物の流動性を考慮するとアリル(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等の反応性の異なる2種以上の不飽和基を有する単量体が好ましい。トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートは3つのアリル基を有するが、最初に反応するアリル基の反応性と、二番目、三番目に反応するアリル基の反応性とは異なる。
また、これら以外にも、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン,o−メトキシスチレン、2,4−ジメチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン等の芳香族ビニル単量体、エチレン、プロピレン等のα−オレフィン、酢酸ビニル等のビニルアルコールのエステル、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基を含有する化合物、無水マレイン酸等のジカルボン酸無水物、アミノ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、カルボン酸基、カルボン酸無水物、ジカルボン酸、ハロゲン基、ハロゲン化カルボニル等の官能基を含有するビニル単量体、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート等の共重合可能な成分の1種または2種以上を、重合成分全体の50重量%以下となるように併用することができる。
【0022】
ポリオルガノシロキサンの調製に用いられるオルガノシロキサンとしては、3員環以上の環状オルガノシロキサンが用いられ、3〜6員環のものが好ましく用いられる。このような環状オルガノシロキサンの例としてはヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、トリメチルトリフェニルシクロトリシロキサン、テトラメチルテトラフェニルシクロテトラシロキサン、オクタフェニルシクロテトラシロキサン等を挙げることができ、これらは単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
ポリオルガノシロキサンにおけるグラフト交叉剤とは、ポリオルガノシロキサンを調製する際には反応せず、その後のグラフトの際に反応する官能基を有するシロキサンであり、その具体例としては次式1〜4
【化1】
Figure 2004099722
【化2】
Figure 2004099722
【化3】
Figure 2004099722
【化4】
Figure 2004099722
(各式中、R 、Rはメチル基、エチル基、プロピル基またはフェニル基を表し、R は水素原子またはメチル基を表し、nは0、1または2であり、pは1〜6の整数であり)
で表される化合物を示すことができる。
【0023】
これらのなかでは、上記式(1)で表される単位を形成し得る(メタ)アクリロイルオキシアルキルシロキサンは、グラフト効率が高いため効率的にグラフト鎖を形成することが可能であり、これを用いた本発明の組成物の耐衝撃性がより優れたものになるので好ましい。(メタ)アクリロイルオキシアルキルシロキサンのなかでは、メタクリロイルオキシアルキルシロキサンが好ましく、その具体例としてδ−メタクリロイルオキシエチルジメトキシメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメトキシジメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルエトキシジエトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルジエトキシメチルシラン、δ−メタクリロイルオキシブチルジエトキシメチルシラン等が挙げられる。
上記式(2)で表される単位を形成し得るビニルシロキサンとしては、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等が挙げられる。式(3)で表される単位を形成し得るメルカプトシロキサンとしては、γ−メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルジエトキシエチルシラン等を挙げることができる。また、式(4)で表される単位を形成し得る化合物としては、p−ビニルフェニルメチルジメトキシシラン等を挙げることができる。
【0024】
[ABS樹脂]
本発明において用いられるABS樹脂(C)とは、ブタジエン系ゴムの存在下、スチレン系単量体、アクリロニトリル系単量体及び必要に応じ不飽和カルボン酸エステル単量体を含む単量体及び必要に応じ不飽和カルボン酸エステルエステル単量体を含む単量体混合物を乳化重合法、塊状重合法、塊状−懸濁重合法、乳化懸濁重合法などの公知の重合法で重合して得られる、いわゆるゴムグラフト共重合樹脂である。
本発明のABS樹脂を構成するスチレン系単量体には、主としてスチレンが使われるが、その一部をα−メチルスチレン、パラメチルスチレンで代替しても差し支えない。また、アクリロニトリル単量体とはアクリロニトリルが主として選ばれるが、その一部をメタアクリロニトリルで置き換えても差し支えない。必要に応じて共重合成分とされる不飽和カルボン酸エステル単量体は、メチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどが適用できる。また、ABS樹脂中のブタジエン系ゴムとしてはポリブタジエンゴム、スチレン・ブタジエン共重合ゴム、ブタジエン・アクリロニトリルゴム、ブタジエン・アクリルゴム、あるいはスチレン・ブタジエンブロック共重合ゴムなどが適用できる。
ABS樹脂を構成する単量体などの組成比率は特に制限はないが、最終組成物の物性面、特に耐熱性・耐衝撃性・流動性・耐熱安定性などを考慮してブタジエン系ゴム5〜70重量%、スチレン系単量体20〜70重量%、アクリロニトリル単量体10〜40重量%そして必要に応じて用いられる不飽和カルボン酸エステル単量体は0〜30重量%(これらの合計は100重量%)の範囲であることが好ましい。
【0025】
[熱可塑性樹脂組成物]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上述した流動性向上剤(D)およびABS樹脂(C)を含有する組成物である。両者の割合は、ABS樹脂本来の性能(耐熱性、衝撃強度等)を低下させることなく有効な流動性改良効果を得るため、ABS樹脂(C)100質量部を基準として、流動性向上剤(D)0.1〜100質量部、より好ましくは1〜30質量部、さらに好ましくは2〜10質量部配合されることが好ましい。
さらに、本発明の熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて、従来より知られている各種の添加剤、安定剤、強化剤、無機フィラー、耐衝撃性改質剤、難燃剤、フルオロオレフィン等を配合してもよい。例えば、成形品の強度、剛性、さらには難燃性を向上させるために、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維などを含有させることができる。さらに、耐薬品性などの改良のためにポリエチレンテレフタレートなどの他の熱可塑性樹脂組成物、耐衝撃性を向上させるためのコアシェル2層構造からなるゴム状弾性体等を配合してもよい。
また、予め流動性向上剤の比率を大きくして流動性向上剤とABS樹脂を混合したマスターバッチを調製し、その後このマスターバッチとABS樹脂とを再度混合し、所望の組成物を得ることもできる。
【0026】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、例えば、上述した各成分を混合することにより得られる。混合の方法としては、従来より知られている各種の配合方法および混練方法を用いることができる。例えば、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、2本ロール、ニーダー、ブラベンダー等を使用する方法が挙げられる。
このようにして得られた本発明の熱可塑性樹脂組成物を原料として用い、例えば、射出成形、中空成形、押出成形、圧縮成形、カレンダー成形などの、従来より知られている各種の成形法により成形を行えば、流動性と衝撃強度のバランスに優れた各種の成形品が得られる。
本発明の流動性向上剤(D)を含有したABS樹脂から得られる射出成形品は、複写機、ファックス、テレビ、ラジオ、テープレコーダー、ビデオデッキ、パソコン、プリンター、電話機、情報端末機、冷蔵庫、電子レンジなどのOA機器、情報・通信機器、家庭電化機器のハウジングや各種部品、さらには自動車部品などの他の分野にも用いられる。
【0027】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、以下の記載において、「部」および「%」は特に断らない限り「質量部」および「質量%」を意味する。
【0028】
(製造例1)
冷却管および攪拌装置を備えたセパラブルフラスコに、アニオン系乳化剤(「ラテムルASK」、花王(株)製)(固形分28%)1.0部(固形分)、蒸留水290部を仕込み、窒素雰囲気下に水浴中で80℃まで加熱した。次いで、硫酸第一鉄0.0004部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.0012部、ロンガリット0.5部を蒸留水5部に溶かして加え、その後ブチルアクリレート10部、アリルメタクリレート0.1部、t−ブチルヒドロパーオキサイド0.05部、n−オクチルメルカプタン0.1部の混合物を18分かけて滴下した。その後60分間攪拌し、第一段目の重合を完了した。
これに、さらに硫酸第一鉄0.0004部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.0012部、ロンガリット0.5部を、蒸留水5部に溶かして加え、その後アクリロニトリル27部、スチレン63部、t−ブチルヒドロパーオキサイド0.45部、n−オクチルメルカプタン1.8部の混合物を162分かけて滴下した。その後60分間攪拌し、第二段目の重合を完了してエマルションを得た。
この得られたエマルションの固形分を測定したところ24.2%であった。また、このエマルションを希硫酸水溶液中に注ぎ、生じた沈殿物を乾燥したところ、クロロホルムへの可溶成分の質量平均分子量(Mw)は、22000であった。
【0029】
(製造例2)
冷却管および攪拌装置を備えたセパラブルフラスコに、アニオン系乳化剤(「ラテムルASK」、花王製)(固形分28%)1.0部(固形分)、蒸留水290部を仕込み、窒素雰囲気下に水浴中で80℃まで加熱した。次いで、硫酸第一鉄0.0004部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.0012部、ロンガリット0.5部を蒸留水5部に溶かして加え、その後ブチルアクリレート30部、アリルメタクリレート0.3部、t−ブチルヒドロパーオキサイド0.15部、n−オクチルメルカプタン0.3部の混合物を54分かけて滴下した。その後60分間攪拌し、第一段目の重合を完了した。
これに、さらに硫酸第一鉄0.0004部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.0012部、ロンガリット0.5部を、蒸留水5部に溶かして加え、その後アクリロニトリル21部、スチレン49部、t−ブチルヒドロパーオキサイド0.35部、n−オクチルメルカプタン1.4部の混合物を126分かけて滴下した。その後60分間攪拌し、第二段目の重合を完了してエマルションを得た。
上記エマルションの固形分を測定したところ24.6%であった。また、このエマルションを希硫酸水溶液中に注ぎ、生じた沈殿物を乾燥したところ、クロロホルムへの可溶成分の質量平均分子量(Mw)は、22000であった。
【0030】
(製造例3)
環状ジメチルシロキサンオリゴマー100部、グラフト交叉剤であるγ−メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン2部の混合液に、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1部を溶解した蒸留水310部を添加し、ホモミキサーにて10000rpmで2分間攪拌した後、ホモジナイザーに20MPaの圧力で2回通し、安定な予備混合オルガノシロキサンラテックスを得た。
一方、コンデンサーおよび攪拌翼を備えたセパラブルフラスコにドデシルベンゼンスルホン酸10部と蒸留水90部とを仕込み、10質量%のドデシルベンゼンスルホン酸水溶液を調製した。この水溶液を85℃に加熱した状態で、上記予備混合オルガノシロキサンラテックスを4時間かけて滴下し、滴下終了後1時間上記温度を維持した後に冷却した。次いで、この反応物を室温で12時間保持した後、5%水酸化ナトリウム水溶液で中和して、ラテックスを得た。このようにして得られたラテックスの固形分濃度は18.5%であり、粒子径分布は単一のピークを示し、質量平均粒子径は60nmであった。
冷却管および攪拌装置を備えたセパラブルフラスコに、ラテックスL−1を30部(固形分)計り取り、蒸留水295部を仕込み、窒素雰囲気下に水浴中で80℃まで加熱した。次いで、硫酸第一鉄0.0004部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.0012部、ロンガリット0.5部を蒸留水5部に溶かして加え、その後アクリロニトリル21部、スチレン49部、t−ブチルヒドロパーオキサイド0.35部、n−オクチルメルカプタン1.4部の混合物を126分かけて滴下した。その後60分間攪拌し、第二段目の重合を完了してエマルションを得た。
上記エマルションの固形分を測定したところ24.5%であった。また、このエマルションを酢酸カルシウム水溶液中に注ぎ、生じた沈殿物を乾燥したところ、クロロホルムへの可溶成分の質量平均分子量(Mw)は30000であった。
【0031】
(製造例4)
冷却管および攪拌装置を備えたセパラブルフラスコに、アニオン系乳化剤(「ラテムルASK」、花王製)(固形分28%)1.0部(固形分)、蒸留水290部を仕込み、窒素雰囲気下に水浴中で80℃まで加熱した。次いで、硫酸第一鉄0.0004部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.0012部、ロンガリット0.5部を蒸留水5部に溶かして加え、その後ブチルアクリレート30部、アリルメタクリレート0.3部、t−ブチルヒドロパーオキサイド0.15部の混合物を54分かけて滴下した。その後60分間攪拌し、第一段目の重合を完了した。
これに、さらに硫酸第一鉄0.0004部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.0012部、ロンガリット0.5部を、蒸留水5部に溶かして加え、その後アクリロニトリル21部、スチレン49部、t−ブチルヒドロパーオキサイド0.35部、n−オクチルメルカプタン0.35部の混合物を126分かけて滴下した。その後60分間攪拌し、第二段目の重合を完了してエマルションを得た。
得られたエマルションの固形分を測定したところ24.6%であった。また、このエマルションを希硫酸水溶液中に注ぎ、生じた沈殿物を乾燥したところ、クロロホルムへの可溶成分の質量平均分子量(Mw)は、120000であった。
【0032】
上記製造例1〜4で用いたモノマー組成(部)および得られた流動性改良剤の質量平均分子量(Mw)をまとめて表1に示す。
【0033】
【表1】
Figure 2004099722
【0034】
なお、表1中において、BAはブチルアクリレート、AMAはアリルメタクリレート、ANはアクリロニトリル、Stはスチレンを示す。
【0035】
(実施例1〜6、比較例1〜5)
各成分を表2に示す割合(質量比)で混合し、二軸押出機(機種名「TEM−35」、東芝機械製)に供給し、200℃で溶融混練し、熱可塑性樹脂組成物を得た。
(実施例7〜12、比較例6〜10)
各成分を表3に示す割合(質量比)で混合し、二軸押出機(機種名「TEM−35」、東芝機械製)に供給し、260℃で溶融混練し、熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0036】
【表2】
Figure 2004099722
【0037】
【表3】
Figure 2004099722
【0038】
以下、表中の略号および使用した材料について記す。
ABS−1:ABS樹脂(三菱レイヨン(株)製ダイヤペットABS 3001)
ABS−2:耐熱ABS樹脂(三菱レイヨン(株)製バルクサム TM−25)
SAN−1:SAN樹脂(宇部サイコン株式会社製SR 05B、Mw6.3万)
得られた樹脂組成物について、後述の(1)〜(6)の方法によりその評価を行った。
(性能評価方法)
(1)固形分
重合後のエマルションを170℃で30分間乾燥した後、質量を測定し、固形分を求めた。
(2)質量平均分子量(Mw)
ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)を用いて、溶離液クロロホルム、ポリメチルメタクリレート換算で測定した。
(3)溶融流動性
得られた組成物のスパイラルフロー長さSFLを、射出成形機(東芝機械(株)製IS−100)を用いて評価した。なお、成形温度は200℃または260℃、金型温度は60℃、射出圧力は98MPaとした。また、成形品の肉厚は2mm、幅は15mmとした。
(4)表層剥離(耐剥離性)
得られた組成物を用い、射出成形機(東芝機械(株)製IS−100)により、1辺が10cmで厚みが2mmの平板成形品を得た。なお、成形温度は200℃または260℃、金型温度は60℃とした。
得られた成形品の突き出しピン跡にカッターナイフで切り込みを入れ、表層の剥理状態を目視により観察し、下記基準に基づいて評価した。
○:剥離なく良好
×:表層剥離見られる
(5)荷重たわみ温度
得られた組成物を用い、射出成形機(東芝機械(株)製IS−100)により、肉厚1/4インチの試験片を得た。得られた成形品の荷重たわみ温度をASTM D648に準拠して測定した。なお、アニールは行わず、荷重は1.82MPaとした。
(6)Iz衝撃強度
得られた組成物を用い、射出成形機(東芝機械(株)製IS−100)により、肉厚1/8インチの試験片を得た。得られた成形品のIz衝撃強度をASTM D256に準拠して測定した。なお、測定温度は23℃とした。
【0039】
表2および表3から明らかなように、実施例1〜6で得られた熱可塑性樹脂組成物は、流動性、耐熱性、耐剥離性、及び衝撃強度のバランスに非常に優れていた。
一方、比較例1および4で得られた熱可塑性樹脂組成物は、使用された流動性改良剤において、クロロホルムへの可溶成分の質量平均分子量が大きすぎるため、実施例1〜6で得られた熱可塑性樹脂組成物に比べ、充分な流動性が得られなかった。
また、比較例2および5で得られた熱可塑性樹脂組成物は、使用された流動性改良剤がSAN−1であったため、実施例1〜6で得られた熱可塑性樹脂組成物に比べ、充分な流動性が得られなかった。
また、比較例3または6では、流動性改良剤を使用していないため、得られた熱可塑性樹脂組成物は、実施例1〜6で得られた熱可塑性樹脂組成物に比べ、充分な流動性が得られなかった。
【0040】
【発明の効果】
本発明の熱可塑性樹脂組成物によれば、ABS樹脂が本来有する優れた耐熱性、耐剥離性、耐衝撃性、難燃性等の特性を損なうことなく、その溶融流動性(成形加工性)が改良され、それらの特性のバランスに優れたABS樹脂を提供することが可能となり、工業的に非常に有益である。

Claims (6)

  1. ABS樹脂に非相溶な重合体成分(A)と、ABS樹脂に相溶性または親和性のある重合体成分(B)とを含有し、重合体成分(A)の少なくとも一部と、重合体成分(B)の少なくとも一部とがブロックまたはグラフト重合体を形成しており、その質量平均分子量が5000〜100000であることを特徴とするABS樹脂用流動性向上剤。
  2. ABS樹脂に非相溶な重合体成分(A)と、ABS樹脂に相溶性または親和性のある重合体成分(B)とを含有し、重合体成分(A)の少なくとも一部と、重合体成分(B)の少なくとも一部とがグラフト結合した重合体であって、クロロホルムに溶解する可溶成分の質量平均分子量が5000〜100000であることを特徴とするABS樹脂用流動性向上剤。
  3. 重合体成分(A)が、ポリアルキルアクリレートを主成分とする重合体(A−1)またはポリオルガノシロキサンを主成分とする重合体(A−2)であることを特徴とする請求項1または2記載の流動性向上剤。
  4. 重合体成分(B)が、芳香族アルケニル化合物単量体単位とシアン化ビニル化合物単量体単位とからなる共重合体であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項記載の流動性向上剤。
  5. 質量平均分子量が1000〜80000である、側鎖または末端に少なくとも1つ以上の不飽和二重結合を有する、ABS樹脂に非相溶な重合体(a)の存在下に、ABS樹脂に相溶性または親和性のある重合体を形成するビニル系単量体またはその混合物(b)を重合させる、ABS樹脂用流動性向上剤の製造方法。
  6. ABS樹脂(C)100質量部に対し、請求項1〜4記載の流動性向上剤(D)0.1〜100質量部を配合してなる熱可塑性樹脂組成物。
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