JP2004099562A - 生体低分子誘導体 - Google Patents

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Abstract

【課題】これまで生体用接着剤や心臓弁などの医療用デバイス処理に用いられている架橋剤や縮合剤は、人工的に合成された非天然のものであり、生体内で代謝されず生体に対して毒性を示すことが指摘されている。そのため、医療現場で用いる際には用途や使用量が制限されている。
【構成】生体低分子のカルボキシル基をN−ヒドロキシスクシンイミド、N−ヒドロキシスルホスクシンイミド、又はこれらの誘導体によって修飾した生体低分子誘導体とこの誘導体で種々の高分子を架橋することにより得られる高分子架橋体を提供する。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、2個以上のカルボキシル基を持つ生体低分子のカルボキシル基をN−ヒドロキシスクシンイミド、N−ヒドロキシスルホスクシンイミド、又はこれらの誘導体によって修飾した生体低分子誘導体と該誘導体により合成された高分子架橋体に関する。
【0002】
【従来の技術】
これまで、生体接着剤や生体由来の医療用デバイスの処理(例えば、ブタ由来心臓弁)には、人工的に化学合成されたグルタルアルデヒドなどのアルデヒドを有する架橋剤や1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドなどの縮合剤等が用いられていた(例えば、特許文献1〜6、非特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】
特開平7−163650号公報
【特許文献2】
特開平9−249751号公報
【特許文献3】
特開平10−71199号公報
【特許文献4】
特表2000−502380号公報
【特許文献5】
特開平8−53548号公報
【特許文献6】
特表平8−502082号公報
【0004】
【非特許文献1】
Biomaterials,17巻,765頁,(1996)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
これまで医療用デバイスの処理等に用いられている架橋剤や縮合剤は、主に人工的に合成された非天然のものであり、生体内で代謝されず生体に対して毒性を示すことが指摘されている。そのため、医療現場で用いる際には用途や使用量が制限されている。このような問題点を解決するため、生体由来の架橋剤の開発が求められている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、2個以上のカルボキシル基を持つ生体低分子のカルボキシル基をN−ヒドロキシスクシンイミド、N−ヒドロキシスルホスクシンイミド、又はこれらの誘導体によって修飾した生体低分子誘導体とこの誘導体を用いることにより得られた高分子架橋体を提供する。
【0007】
すなわち、本発明は、2個以上のカルボキシル基を持つ生体低分子のカルボキシル基をN−ヒドロキシスクシンイミド、N−ヒドロキシスルホスクシンイミド、又はこれらの誘導体によって少なくとも1つ以上修飾した生体低分子誘導体である。かかる生体低分子誘導体は、人体に対し無害であり、反応基(−COOH基)を2個以上有するために迅速な反応が可能である。
【0008】
また、本発明は、2個以上のカルボキシル基を持つ生体低分子のカルボキシル基をN−ヒドロキシスクシンイミド、N−ヒドロキシスルホスクシンイミド、又はこれらの誘導体によって少なくとも1つ以上修飾した生体低分子誘導体を用いて高分子を架橋することにより得られた高分子架橋体である。
かかる高分子架橋体は生体内に適用後は生体内で代謝され、一定期間経過すると吸収、消失する特性があり、体内に異物として残存することがない。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明で使用する2個以上のカルボキシル基を持つ生体低分子は、クエン酸回路に存在するトリ又はジカルボン酸低分子、例えば、リンゴ酸、オキサル酢酸、クエン酸、cis−アコニット酸、2−ケトグルタル酸、又はこれらの誘導体である。
【0010】
本発明における生体低分子誘導体は、2個以上のカルボキシル基を持つ生体低分子のカルボキシル基にカルボジイミドの併用下に細胞毒性の低いN−ヒドロキシスクシンイミド、N−ヒドロキシスルホスクシンイミド、又はこれらの誘導体を反応させ、活性エステルを導入したものである。
【0011】
かかる反応物は、生体低分子0.001〜10重量%に対し、N−ヒドロキシスクシンイミド、N−ヒドロキシスルホスクシンイミド、又はこれらの誘導体を0.001〜10重量%、カルボジイミド(EDC)を0.001〜20重量%の割合で用い、反応温度0〜100℃、反応時間1〜48時間の適宜の条件を選択して得られる。
【0012】
なお、カルボジイミドとしては、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド・塩酸塩(EDC)、1−シクロヘキシル−3−(2−モルホリノエチル)カルボジイミド・メト−p−トルエンスルホン酸塩、ジシクロヘキシルカルボジイミドを用いることができる。なお、反応溶媒には、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)を用いることができる。
【0013】
図1は、クエン酸とN−ヒドロキシスクシンイミドをEDC存在下の反応により得られたクエン酸誘導体の核磁気共鳴スペクトルのチャートである。aのピークは、クエン酸のメチレンプロトンを示し、bのピークはスクシンイミジル基のメチレンプロトンに由来するものである。残りの2つのピークは、溶媒(重DMSO)である。
【0014】
架橋体を調製する際に用いるタンパク質は、コラーゲン(数10種類のタイプによらない)、アテロコラーゲン(数10種類のタイプによらない)、アルカリ可溶化コラーゲン(数10種類のタイプによらない)、ゼラチン、ケラチン、血清アルブミン、卵白アルブミン、ヘモグロビン、カゼインおよびグロブリン、フィブリノーゲン等アミノ基を有する高分子が含まれる。これらのタンパク質は、由来する生物によらない。
【0015】
架橋体を調製する際に用いるグリコサミノグリカンには、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヒアルロン酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ケラタン硫酸、又はこれらの誘導体がふくまれる。これらのグリコサミノグリカンは、分子量、由来する生物によらない。
【0016】
また、その他の高分子としてキトサン(脱アセチル化度、分子量によらない)、ポリアミノ酸(アミノ酸の種類、分子量によらない)、ポリアルコール(種類、分子量によらない)が含まれる。
【0017】
生体低分子誘導体と高分子との架橋反応は、高分子0.1〜50重量%に対し、生体低分子誘導体0.01〜50重量%、好ましくは、30〜50℃で反応させる。なお、両者の配合に際しては、均一な架橋体を得やすいことから双方適宜濃度の溶液として混合するのが好ましい。なお、かかる溶液を作成するための溶媒としては、蒸留水のほか、生理食塩水、炭酸水素ナトリウム、ホウ酸、リン酸等の緩衝液、有機溶媒(DMF、DMSO、エタノール)等、毒性のないものを用いることができる。
【0018】
以上のようにゲル化する生体高分子は、架橋反応を直接患部で行い、生体用接着剤、止血剤、血管塞栓材、動脈瘤の封止剤のいずれかに適用させる。また、一旦架橋反応させた後用いることにより、癒着防止剤、組織再生用足場材料、薬物担体として好適に用いられる。
【0019】
【実施例】
実施例1−1
クエン酸のDMF溶液(5重量%)中に室温にて、N−ヒドロキシスクシンイミドを3.2当量分とEDCを3.1当量分加え、24時間撹拌した。続いて、反応溶液中の有機溶媒であるDMFのみを減圧留去した。得られた残渣をアセトン−n−ヘキサンの展開溶媒を用いて、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、クエン酸の3つのカルボキシル基が、N−ヒドロキシスクシンイミドに修飾された誘導体を合成した。
【0020】
実施例1−2
以下、実施例1−1で合成したクエン酸誘導体を用いて下記の反応により得られるコラーゲンゲルの合成について説明する。
【0021】
【化1】
Figure 2004099562
【0022】
合成したクエン酸誘導体24μlをジメチルスルホキシド溶液976μlで溶解させ、その溶液中より100μl計り取り、1.25重量%のII型コラーゲンりん酸緩衝溶液400μl中に加え、撹拌した。室温にて24時間静置し、架橋剤濃度0.4〜40mMのコラーゲンゲルを合成した。それぞれのゲルの重量を測定した後、凍結乾燥機にて乾燥後、再度ゲルの重量を測定し、ゲルの含水率を調べた。それぞれのゲルの含水率は、表1に示す。
【0023】
【表1】
Figure 2004099562
【0024】
実施例2−1
2−ケトグルタル酸のDMF溶液(5重量%)中に室温にて、N−ヒドロキシスクシンイミドを2.2当量分とEDCを2.1当量分加え、24時間撹拌した。続いて、反応溶液中の有機溶媒であるDMFのみを減圧留去した。得られた残渣をアセトン−n−ヘキサンの展開溶媒を用いて、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、2−ケトグルタル酸の2つのカルボキシル基が、N−ヒドロキシスクシンイミドに修飾された誘導体を合成した。
【0025】
実施例2−2
以下、実施例2−1で合成した2−ケトグルタル酸誘導体を用いて下記の反応により得られるコラーゲンゲルの合成について説明する。
【0026】
【化2】
Figure 2004099562
【0027】
合成した2−ケトグルタル酸誘導体14μlをジメチルスルホキシド溶液986μlで溶解させ、その溶液中より100μl計り取り、1.25重量%のII型コラーゲンりん酸緩衝溶液400μl中に加え、撹拌した。室温にて24時間静置し、架橋剤濃度0.6〜10mMのコラーゲンゲルを合成した。それぞれのゲルの重量を測定した後、凍結乾燥機にて乾燥後、再度ゲルの重量を測定し、ゲルの含水率を調べた。それぞれのゲルの含水率は、表2に示す。
【0028】
【表2】
Figure 2004099562
【0029】
実施例3−1
cis−アコニット酸のDMF溶液(5重量%)中に室温にて、N−ヒドロキシスクシンイミドを3.2当量分とEDCを3.1当量分加え、24時間撹拌した。続いて、反応溶液中の有機溶媒であるDMFのみを減圧留去した。得られた残渣をアセトン−n−ヘキサンの展開溶媒を用いて、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、cis−アコニット酸の3つのカルボキシル基が、N−ヒドロキシスクシンイミドに修飾された誘導体を合成した。
【0030】
実施例3−2
以下、実施例3−1で合成したcis−アコニット酸誘導体を用いて下記の反応により得られるコラーゲンゲルの合成について説明する。
【0031】
【化3】
Figure 2004099562
【0032】
合成したcis−アコニット酸誘導体46μlをジメチルスルホキシド溶液954μlで溶解させ、その溶液中より100μl計り取り、1.25重量%のII型コラーゲンりん酸緩衝溶液400μl中に加え、撹拌した。室温で24時間静置し、架橋剤濃度1〜30mMのコラーゲンゲルを合成した。それぞれのゲルの重量を測定した後、凍結乾燥機にて乾燥後、再度ゲルの重量を測定し、ゲルの含水率を調べた。それぞれのゲルの含水率は、表3に示す。
【0033】
【表3】
Figure 2004099562
【0034】
実施例4−1
リンゴ酸のDMF溶液(5重量%)中に室温にて、N−ヒドロキシスクシンイミドを2.2当量分とEDCを2.1当量分加え、24時間撹拌した。続いて、反応溶液中の有機溶媒であるDMFのみを減圧留去した。得られた残渣をアセトン−n−ヘキサンの展開溶媒を用いて、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、リンゴ酸の2つのカルボキシル基が、N−ヒドロキシスクシンイミドに修飾された誘導体を合成した。
【0035】
以下、実施例4−1で合成したリンゴ酸誘導体を用いて下記の反応により得られるコラーゲンゲルの合成について説明する。
【0036】
【化4】
Figure 2004099562
【0037】
合成したリンゴ酸誘導体32μlをジメチルスルホキシド溶液968μlで溶解させ、その溶液中より100μl計り取り、1.25重量%のII型コラーゲンりん酸緩衝溶液400μl中に加え、撹拌した。室温で24時間静置すると架橋剤濃度3〜50mMのコラーゲンゲルを合成した。それぞれのゲルの重量を測定した後、凍結乾燥機にて乾燥後、再度ゲルの重量を測定し、ゲルの含水率を調べた。それぞれのゲルの含水率は、表4に示す。
【0038】
【表4】
Figure 2004099562
【0039】
実施例5−1
オキサル酢酸のDMF溶液(5重量%)中に室温にて、N−ヒドロキシスクシンイミドを2.2当量分とEDCを2.1当量分加え、24時間撹拌した。続いて、反応溶液中の有機溶媒であるDMFのみを減圧留去した。得られた残渣をアセトン−n−ヘキサンの展開溶媒を用いて、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、オキサル酢酸の2つのカルボキシル基が、N−ヒドロキシスクシンイミドに修飾された誘導体を合成した。
【0040】
実施例5−2
以下、実施例5−1で合成したオキサル酢酸誘導体を用いて下記の反応により得られるコラーゲンゲルの合成について説明する。
【0041】
【化5】
Figure 2004099562
【0042】
合成したオキサル酢酸誘導体16μlをジメチルスルホキシド溶液984μlで溶解させ、その溶液中より100μl計り取り、1.25重量%のII型コラーゲンりん酸緩衝溶液400μl中に加え、撹拌した。室温で24時間静置し、架橋剤濃度2〜40mMのコラーゲンゲルを合成した。それぞれのゲルの重量を測定した後、凍結乾燥機にて乾燥後、再度ゲルの重量を測定し、ゲルの含水率を調べた。それぞれのゲルの含水率は、表5に示す。
【0043】
【表5】
Figure 2004099562

【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、クエン酸誘導体の核磁気共鳴スペクトルのチャートである。

Claims (7)

  1. 2個以上のカルボキシル基を持つ生体低分子のカルボキシル基をN−ヒドロキシスクシンイミド、N−ヒドロキシスルホスクシンイミド、又はこれらの誘導体によって少なくとも1つ以上修飾したことを特徴とする生体低分子誘導体。
  2. 2個以上のカルボキシル基を持つ生体低分子がクエン酸回路に存在する低分子およびその誘導体であることを特徴とする請求項1記載の生体低分子誘導体。
  3. 2個以上のカルボキシル基を持つ生体低分子が、リンゴ酸、オキサル酢酸、クエン酸、cis−アコニット酸、2−ケトグルタル酸、又はこれらの誘導体であることを特徴とする請求項1記載の生体低分子誘導体。
  4. 請求項1記載の生体低分子誘導体を用いて高分子を架橋することにより得られたことを特徴とする高分子架橋体。
  5. 高分子がタンパク質、グリコサミノグリカン、キトサン、ポリアミノ酸、ポリアルコール、又はこれらの2つ又はそれ以上組み合わせであることを特徴とする請求項4記載の高分子架橋体。
  6. 高分子がコンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヒアルロン酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ケラタン硫酸、又はこれらの誘導体からなるグリコサミノグリカンであることを特徴とする請求項4記載の高分子架橋体。
  7. 高分子がコラーゲン、アテロコラーゲン、アルカリ可溶化コラーゲン、ゼラチン、ケラチン、血清アルブミン、卵白アルブミン、ヘモグロビン、カゼインおよびグロブリン、フィブリノーゲン、又はこれらの誘導体からなるタンパク質であることを特徴とする請求項4記載の高分子架橋体。
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