JP2004098624A - 耐傷付き性に優れたプレコートアルミニウム合金板 - Google Patents

耐傷付き性に優れたプレコートアルミニウム合金板 Download PDF

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Abstract

【課題】従来よりも耐傷付き性に優れ,かつプレス成形性にも優れたプレコートアルミニウム合金板を提供すること。
【解決手段】アルミニウム合金板よりなる基板2と,基板2の片面又は両面に形成した化成皮膜3と,化成皮膜3上に形成したプレコート層4とよりなる。プレコート層4は,ベース樹脂410中に粒子状合成樹脂よりなる樹脂ビーズ415を分散させてなる上塗り層41を有する。樹脂ビーズ415の粒径Aは3〜90μmであり,上塗り層41における樹脂ビーズ415の存在しない部分の膜厚Bは1〜30μmであり,かつ,A/Bが1〜3の範囲内にある。樹脂ビーズ415の含有重量は,上塗り層41におけるベース樹脂重量に対して30〜200%であり,さらに,上塗り層41は,上塗り層におけるベース樹脂重量に対して0.05〜3%のインナーワックスを含有している。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【技術分野】
本発明は,パソコン等の電子機器や携帯電話等の無線機器,テレビ等の電気機器等の筐体に最適な,優れた耐傷付き性と高成形性を有するプレコートアルミニウム合金板に関する。
【0002】
【従来技術】
従来から,有機樹脂(合成樹脂)系塗料にてコーティングされたアルミニウム塗装板は,耐食性に優れ,軽量であることから,家電やOA機器に広く利用されている。また,プレス成形後の塗装によるポストコートでなく,プレス成形前のアルミニウム合金板製造段階において塗装を施すプレコートの技術も,ポストコートよりもコストダウンが図れることから脚光を浴びている。
【0003】
しかし,有機樹脂系塗料は,傷つきやすいことから,樹脂ビーズを含有させて塗膜を堅牢化することにより耐傷付き性を向上する試みが数多くなされてきた。例えば,下記の特許文献1には,樹脂に硬化剤と非溶融性ビーズを含有させた下塗り樹脂層と,ポリエステル樹脂に硬化剤と熱溶融性ポリエステルビーズを含有させた上塗り樹脂層とからなるプレコート層が示されている。
【0004】
特許文献2には,塗膜表面での窒素濃度2倍以上のポリエステル樹脂塗膜に,焼き付け時に溶融し,かつ塗膜中でポリエステル樹脂とは溶融状態にない樹脂ビーズを含有させた塗膜が示されている。
特許文献3には,下塗り層,中塗り層,上塗り層の3層からなり,それぞれにガラスや透明樹脂粒子を含有させ,上塗り層には固形潤滑剤を添加すると共に,表面粗さと明度を限定し意匠性も考慮したものが示されている。
【0005】
特許文献4には,下塗り層,中塗り層,上塗り層の3層からなり,それぞれに平均粒径の異なる2種類以上の樹脂ビーズを含有させたものが示されている。
特許文献5には,プラズマディスプレイパネル等の表示装置用カバーに用途限定し,最外層に有機樹脂粒子を含有する有機樹脂皮膜を設けたアルミニウム板より構成されたものが示されている。
【0006】
【特許文献1】
特開平10−16129号公報(第2頁)
【特許文献2】
特開平11−104559号公報(第2頁)
【特許文献3】
特開2001−316848号公報(第2−7頁)
【特許文献4】
特開2001−335738号公報(第2−6頁)
【特許文献5】
特開2002−149083号公報(第2頁)
【0007】
【解決しようとする課題】
しかしながら,上述した従来の構成では,耐傷付き性及びプレス成形性が未だ十分とは言えず,更なる耐傷付き性及びプレス成形性の向上が望まれていた。
本発明はかかる従来の問題点に鑑みてなされたもので,従来よりも耐傷付き性に優れ,かつプレス成形性にも優れたプレコートアルミニウム合金板を提供しようとするものである。
【0008】
【課題の解決手段】
本発明は,アルミニウム合金板よりなる基板と,該基板の片面又は両面に形成した化成皮膜と,該化成皮膜上に形成したプレコート層とよりなり,
該プレコート層は,ベース樹脂中に粒子状合成樹脂よりなる樹脂ビーズを分散させてなる上塗り層を有し,
上記樹脂ビーズの粒径Aは3〜90μmであり,上記上塗り層における上記樹脂ビーズの存在しない部分の膜厚Bは1〜30μmであり,かつ,A/Bが1〜3の範囲内にあり,
上記樹脂ビーズの含有重量は,上記上塗り層におけるベース樹脂重量に対して30〜200%であり,
さらに,上記上塗り層は,該上塗り層におけるベース樹脂重量に対して0.05〜3%のインナーワックスを含有していることを特徴とする耐傷付き性に優れたプレコートアルミニウム合金板にある(請求項1)。
【0009】
本発明のプレコートアルミニウム合金板は,上記のごとく,特定の粒径Aを有する樹脂ビーズと特定の膜厚Bを有するベース樹脂とよりなる上塗り層を有しており,さらに,これに上記インナーワックスを特定量含有させてある。そして,これらをすべて同時に具備することによって,従来よりも優れた耐傷付き性を有すると共に優れたプレス成形性を有するプレコートアルミニウム合金板を得ることができる。
【0010】
なお,上記樹脂ビーズの粒径が3μm未満の場合には,樹脂ビーズの存在による耐傷付き性向上効果が十分に得られないという問題がある。一方,樹脂ビーズの粒径が90μmを超える場合には,上塗り層から脱落しやすくなるという問題がある。
【0011】
また,上塗り層における上記樹脂ビーズの存在しない部分の膜厚Bが1μm未満の場合には,樹脂ビーズが脱落しやすいという問題があり,一方,30μmを超えると,塗料焼き付け時に乾燥しにくく健全な塗膜形成ができず,成形時にこの部分で割れが発生しやすくなって,プレス成形性が低下するという問題がある。
【0012】
また,上記樹脂ビーズの含有重量が上記ベース樹脂重量に対して30%未満の場合には,十分な耐傷付き性が得られないという問題があり,一方,200%を超える場合には,樹脂ビーズに対するベース樹脂の割合が少なすぎて,曲げ加工時に塗膜割れが発生しやすくなるという問題がある。
【0013】
また,上記樹脂ビーズの粒径Aと,上塗り層における上記樹脂ビーズの存在しない部分の膜厚Bとの関係は,上記のごとく,A/Bが1〜3の範囲内にある。ここでA/Bが1未満の場合には,耐傷付き性が十分に得られず,一方,3を超える場合には,樹脂ビーズが上塗り層から脱落し易いという問題がある。
【0014】
また,上記インナーワックスの含有量が0.05%未満の場合には滑り性が悪化して成形性が低下するという問題があり,一方,3%を超えると,上記プレコートアルミニウム合金板を量産する際の製造過程においてコイルアップ等した場合に,インナーワックスが染み出して生産性を低下させる等の問題がある。
【0015】
【発明の実施の形態】
上記上塗り層の表面粗さRaは0.5〜5μmであることが好ましい(請求項2)。上記表面粗さが0.5μm未満の場合には,耐傷付き性が十分に得られないという問題がある。一方,上記表面粗さが5μmを超える場合には,滑り性が悪くなり,成形性が悪化するという問題がある。
【0016】
また,上記上塗り層の表面の摩擦係数は0.05〜0.5であることが好ましい(請求項3)。上記摩擦係数が0.05未満の場合には,耐傷付き性が低下するという問題があり,一方,0.5を超える場合には,成形性が低下するという問題がある。
【0017】
また,上記上塗り層の上記ベース樹脂には,顔料が含有されていることが好ましい(請求項4)。この場合には,プレコート層の色調を顔料により調整することができ,高級感を引き出すことができる。
【0018】
また,上記ベース樹脂は,ポリエステル樹脂,アクリル樹脂,エポキシ樹脂,ポリウレタン樹脂のいずれかよりなり,かつ,上記樹脂ビーズは,アクリル樹脂又はフッ素樹脂よりなることが好ましい。これらの樹脂を組み合わせることにより,上述した優れた耐傷付き性と成形性とが得られるプレコート層を形成することができる。
【0019】
また,上記上塗り層の上記ベース樹脂には,さらに電気的導電性を有する導電性物質を含有していることが好ましい(請求項6)。この場合には,上記導電性物質の存在によってプレコート層に導電性能を付与することができ,電気・電子機器筐体などに採用した際の特性を向上させることができる。上記導電性物質としては,例えば,Ni被覆グラファイト,Ni,金属酸化物,グラファイト,カーボンブラック等の公知の導電性物質を適用することができる。
【0020】
また,上記上塗り層の上記ベース樹脂には,さらに電磁波遮断機能を有する磁性体を含有していることが好ましい(請求項7)。この場合には,プレコート層に電磁波遮断機能を付与することができ,特に,電気・電子機器筐体に採用した際の特性を向上させることができる。上記電磁波遮断機能を有する磁性体としては,例えば,フェライト,パーマロイ,センダスト,チタン酸バリウム等の公知の電磁波遮断物質を適用することができる。
【0021】
また,上記プレコート層は,上記上塗り層の下層に,第2ベース樹脂中に顔料を分散させてなる下塗り層を有することが好ましい(請求項8)。この場合には,上記下塗り層と上塗り層の両者の存在によって,アルマイト色調に類似した深みのある色調を容易に得ることができる。
【0022】
また,上記下塗り層の膜厚は1〜30μmであることが好ましい(請求項9)。上記膜厚が1μm未満の場合には,顔料添加による効果が発揮されないという問題があり,一方,30μmを超える場合には深みのある色調が得られにくくなり,塗膜外観を損なうという問題がある。
【0023】
また,上記第2ベース樹脂は,ポリエステル樹脂,アクリル樹脂,エポキシ樹脂,ポリウレタン樹脂のいずれかよりなることが好ましい(請求項10)。この場合には,下地である化成皮膜との密着性及び上塗り層との密着性に優れた下塗り層を得ることができる。
【0024】
【実施例】
本発明の実施例に係る耐傷付き性に優れたプレコートアルミニウム合金板につき,さらに具体的に説明する。
本例では,後述する表6に示すごとく,本発明例としての11種類の試料D1〜D11と,比較例としての9種類の試料R1〜R9を作製し,種々の性能評価試験を実施した。
【0025】
試料D1〜D11及び試料R1〜R9のプレコートアルミニウム合金板は,モデルとして模式的に表した図1〜図3に示す3種類の構造のいずれかを有している。
なお,図1〜図3は,いずれも一例であって,樹脂ビーズ415をベース樹脂410が完全に覆っている場合を示したが,樹脂ビーズ415の頂部がベース樹脂410から露出する場合等,様々な態様を取りうる。これらについては図示を省略する。
【0026】
図1に示す第1のタイプのプレコートアルミニウム合金板1は,アルミニウム合金板よりなる基板2と,基板2の片面に形成した化成皮膜3と,化成皮膜3上に形成したプレコート層4とよりなる。プレコート層4は,ベース樹脂410中に粒子状合成樹脂よりなる樹脂ビーズ415を分散させてなる上塗り層41を有する。そして,ベース樹脂410中には顔料を含んでいない。
【0027】
図2に示す第2のタイプのプレコートアルミニウム合金板102は,上記第1のタイプのプレコートアルミニウム合金板と基本的に同じ構造であるが,ベース樹脂410中に顔料419を含有させた点が異なる。
図3に示す第3のタイプのプレコートアルミニウム合金板103は,プレコート層4を上塗り層41と下塗り層42の二層構造としたタイプである。なお,同図には,上塗り層41と下塗り層42の両方のベース樹脂410,420中に,それぞれ顔料419,429を含有させた例を示してあるが,少なくとも一方の顔料の添加を省略することも可能である。
【0028】
また,各試料における樹脂ビーズ415の粒径A(図1),上塗り層41における樹脂ビーズ415の存在しない部分の膜厚B(図1),及びその他の構成は後述する表6に示すごとく,各試料毎に変化させた。
【0029】
これらの試料D1〜D11及びR1〜R9を作製するに当たっては,まず,アルミニウム合金板よりなる基板2として,表1に示す化学成分を有する高強度材(GC150)よりなる板厚1.0mm,調質Oの材料を準備した。
次に,この基板2に,脱脂処理を施した後,化成皮膜3を形成する化成皮膜処理を施した。表2には,本例で採用した5種類の化成処理(a〜e)を示す。
化成処理aは,リン酸クロメート処理によって,クロム量が20mg/mとなるように反応型クロメート皮膜を形成するものである。具体的には,化成処理液に試料を浸漬するどぶ漬け法により化成処理を行い,その後約100℃の雰囲気で乾燥させた。
【0030】
化成処理bは,クロム酸クロメート処理によって,クロム量が100mg/mとなるように反応型クロメート皮膜を形成するものである。処理方法は上記化成処理aと同様である。
化成処理cは,ジルコニウム処理によって,ジルコニウム量が20mg/mとなるように反応型ノンクロメート皮膜を形成するものである。処理方法は上記化成処理aと同様である。
【0031】
化成処理dは,塗布型クロメート処理によって,クロム量が20mg/mとなるように塗布型クロメート皮膜を形成するものである。具体的には,基板の脱脂処理を行った後,バーコート法により処理剤を塗布し,その後約100℃の雰囲気で乾燥させた。
化成処理eは,塗布型ジルコニウム処理によって,ジルコニウム量が20mg/mとなるように塗布型ノンクロメート皮膜を形成するものである。処理方法は上記化成処理dと同様である。
【0032】
次に,化成皮膜3の上に,プレコート層4を形成した。プレコート層4が上塗り層41のみのタイプの場合(図1,図2)には,上塗り層用塗料を上記化成皮膜3上に直接塗布し,焼き付け乾燥させた。塗装方法としては塗料の塗装方法としては様々な方法があるが,本例では,バーコート法により行い,その後,基板2の表面温度が約230℃となるように240℃のオーブン内に40秒保持する焼き付け処理を行って硬化させた。
【0033】
また,プレコート層4が下塗り層42と上塗り層41の二層タイプの場合(図3)には,上記化成皮膜3の上に直接下塗り層用塗料を塗布し,これを焼き付け乾燥させた後,上塗り層用塗料を下塗り層42上に直接塗布し,焼き付け乾燥させた。塗装方法は,上塗り層41も下塗り層42もバーコート法により行った。また,焼き付け条件も,いずれも基板2の表面温度が約230℃となるように240℃のオーブン内に40秒保持する条件で行った。
【0034】
また,上記上塗り層用又は下塗り装用のベース樹脂となる有機樹脂系塗料(合成樹脂塗料)としては,表3に示すごとく,4種類のもの(A〜D)を準備した。
合成樹脂塗料Aはポリアクリル樹脂系塗料,合成樹脂塗料Bはポリエステル樹脂系塗料,合成樹脂塗料Cはエポキシ樹脂系塗料,合成樹脂塗料Dはウレタン樹脂系塗料である。
【0035】
また,上記上塗り層に含有させる樹脂ビーズとしては,表4に示すごとく,9種類のタイプのものを準備した。第1〜第4及び第8,第9のタイプの樹脂ビーズは,いずれもアクリル樹脂よりなり,その粒径は1〜150μmの範囲で変化させたものである。第5,第6のタイプの樹脂ビーズは,いずれもフッ素樹脂よりなり,その粒径を20μmと90μmに変化させたものである。
【0036】
インナーワックスとしてはポリエチレンとカルナバの2種類を準備した。
顔料としては赤色顔料,青色顔料,白色顔料の3種類を準備した。
その他,オプションとして上塗り層に含有させるための導電性物質として,粒径が30μmの15%Ni被覆グラファイトを準備し,電磁波遮断物質として粒径20μmのフェライトを準備した。
【0037】
そして,本例では,表5に示すごとく,上述した合成樹脂塗料,樹脂ビーズ,ワックスを組み合わせ,さらにオプションとして導電性物質,電磁波遮断物質,又は顔料を添加した13種類の塗料(TA〜TM)を,上塗り層用塗料として調合して用いた。
また,表5に示すごとく,上述した合成樹脂塗料に顔料を添加した2種類の塗料(TN,TO)を,下塗り用塗料として調合して用いた。
【0038】
表6には,各試料D1〜D12及びR1〜R9の構成,即ち,下地処理の種類,上塗り層及び下塗り層の塗料に適用した塗料の種類,上塗り層における樹脂ビーズが存在しない部分の膜厚B,下塗り層の膜厚,樹脂ビーズの粒径A,樹脂ビーズと塗膜厚の比であるA/Bを示した。
【0039】
次に,本例では,表6に示す21種類の試料(D1〜D12及びR1〜R9)に対して,表7に示すごとく,各種の評価試験等を行った。
<塗膜表面の表面粗さ>
塗膜表面の表面粗さは,JIS B0601に基づき表面粗さRaを測定し,この値で評価した。
【0040】
<耐傷付き性>
耐傷付き性は,図4に示されるバウデン試験にて行った。即ち,荷重500gで直径1/4インチの硬球51を,サンプル台59上に載置した試料50のプレコート層の表面において100回摺動させた時の,摺動痕跡の幅寸法にて評価した。
評価点は5段階とし,上記幅寸法が0.1mm未満の場合を5点,0.1mm以上0.3mm未満の場合を4点,0.3mm以上0.5mm未満の場合を3点,0.5mm以上1.0mm未満の場合を2点,1.0mm以上の場合を1点とした。この場合は3点以上が合格点である。
【0041】
<曲げ加工性>
曲げ加工性は,0T曲げ,即ち,曲げ加工部の内面の曲率半径を可能な限り0に近づけるように密着曲げを行い,曲げ加工部外面の塗膜割れの幅寸法により評価した。
評価点は5段階とし,割れ幅が0.1mm未満の場合を5点,0.1mm以上0.2mm未満の場合を4点,0.2mm以上0.5mm未満の場合を3点,0.5mm以上1.0mm未満の場合を2点,1.0mm以上の場合を1点とした。この場合は3点以上が合格点である。
【0042】
<潤滑性>
潤滑性も,図4に示されるバウデン試験により評価した。即ち,荷重500gで直径1/4インチの硬球51を,サンプル台59上に載置した試料50のプレコート層の表面において100回摺動させた時の摩擦係数を測定した。摩擦係数が小さいほど潤滑性に優れる。
評価点は5段階とし,摩擦係数が0.05以上0.1未満の場合を5点,0.1以上0.3未満の場合を4点,0.3以上0.5未満の場合を3点,0.5以上0.7未満の場合を2点,0.7以上の場合を1点とした。また,この場合は3点以上が合格点である。
【0043】
<導電性>
導電性は,円柱状電極法により電気抵抗値を測定することにより評価した。
評価点は5段階とし,電気抵抗値が1Ω未満の場合を5点,1Ω以上10Ω未満の場合を4点,10Ω以上50Ω未満の場合を3点,50Ω以上100Ω未満の場合を2点,100Ω以上の場合を1点とした。
【0044】
<電磁波遮断性>
電磁波遮断性は,簡易型電磁波吸収測定用ボックスを用い,100MHzの電磁波を,各試料にプレコート層側からあて,反射した電磁波の電界および磁界強度を測定し,無塗装のアルミニウム板の電界および磁界強度との比から,それぞれ減衰量を求め,電界と磁界の減衰量の和である合計減衰量にて評価を行った。評価点は5段階とし,合計減衰量が15dB以上の場合を5点,10dB以上15dB未満の場合を4点,5dB以上10dB未満の場合を3点,1dB以上5dB未満の場合を2点,1dB未満の場合を1点とした。
【0045】
<着色効果>
着色効果は,ミノルタ製CR200色差計にて測定したa値(赤−緑)およびb値(黄−青)の絶対値において大きい方の値で評価した。
評価点は5段階とし,上記評価値が10以上の場合を5点,7以上10未満の場合を4点,5以上7未満の場合を3点,2以上5未満の場合を2点,2未満の場合を1点とした。
【0046】
表7に評価結果を示す。
表7より知られるごとく,本発明例である試料D1〜D12は,いずれも耐傷付き性と曲げ加工性の両方が合格レベルにあり,耐傷付き性と成形性の両者を兼ね備えた特性を有していることがわかった。また,導電性物質を含有している試料D6は導電性にも優れ,また,電磁波遮断物質を含有している試料D7は電磁波遮断特性にも優れていることがわかった。さらに,上塗り層に顔料を含有するもの或いは下塗り層を有するものは,着色効果にも優れていることがわかった。
【0047】
これに対し,比較例である試料R1〜R9は,その殆どが,耐傷付き性と曲げ加工性のいずれか一方が劣っていた。
即ち,試料R1は,上塗り層の塗膜厚Bが薄すぎると共にA/Bが上限を超えるものであり,曲げ加工時などに樹脂ビーズの脱落が生じ,耐傷付き性が低いことがわかった。
【0048】
また,試料R2は,塗膜厚Bが厚すぎるものであるが,樹脂ビーズが上塗り層のベース樹脂内に埋没してしまい,耐傷付き性が低かった。またこの場合には,その表面粗さRaは0.3μmと非常に小さい値を示した。
また,試料R3は,樹脂ビーズの粒径Aが大きすぎると共にA/Bが上限を超えるものであるがは,曲げ加工時などに樹脂ビーズの脱落が生じ,耐傷付き性が低いことがわかった。
【0049】
また,試料R4は,樹脂ビーズの粒径Aが小さすぎると共にA/Bが下限を切るものであるが,樹脂ビーズが上塗り層のベース樹脂内に埋没してしまい,耐傷付き性が低かった。またこの場合には,その表面粗さRaは0.3μmと非常に小さい値を示した。
【0050】
また,試料R5は,樹脂ビーズの含有量が上限を超えるものであり,耐傷付き性には優れたが,曲げ加工性が非常に悪かった。
また,試料R6は,樹脂ビーズの粒径が上限を超えるために,潤滑性,曲げ加工性が悪く,更に樹脂ビーズの添加量が下限を下回るために,耐傷付き性も低かった。
また,試料R7は,インナーワックス量が多すぎるものであるが,曲げ加工時の塗膜割れが激しく,耐久性が低かった。
また,試料R9は,塗膜厚Bと樹脂ビーズの粒径Aが共に大きすぎるものであるが,これも曲げ加工時の塗膜割れが激しく,耐久性が低かった。
また,試料R8は,塗膜厚Bが薄すぎ,かつ,樹脂ビーズの粒径がAが小さすぎ,下塗り層の塗膜厚が薄すぎるために,着色効果が少なかった。
【0051】
以上の結果から,少なくとも,樹脂ビーズの粒径A,上塗り層における樹脂ビーズの存在しない部分の膜厚B,A/B,樹脂ビーズの含有重量,インナーワックス含有量をすべて上述した特定の範囲に収めることによって,はじめて,優れた耐傷付き性と成形性を併せ持ち耐久性のあるプレコートアルミニウム合金板が得られることがわかる。
【0052】
【表1】
Figure 2004098624
【0053】
【表2】
Figure 2004098624
【0054】
【表3】
Figure 2004098624
【0055】
【表4】
Figure 2004098624
【0056】
【表5】
Figure 2004098624
【0057】
【表6】
Figure 2004098624
【0058】
【表7】
Figure 2004098624

【図面の簡単な説明】
【図1】実施例における,第1のタイプのプレコートアルミニウム合金板の構造の一例を示す説明図。
【図2】実施例における,第2のタイプのプレコートアルミニウム合金板の構造の一例を示す説明図。
【図3】実施例における,第3のタイプのプレコートアルミニウム合金板の構造の一例を示す説明図。
【図4】実施例における,耐傷付き性の評価方法であるバウデン試験方法を示す説明図。
【符号の説明】
1...耐傷付き性に優れたプレコートアルミニウム合金板,
2...基板,
3...化成皮膜,
4...プレコート層,
41...上塗り層,
410...ベース樹脂,
415...樹脂ビーズ,
419...顔料,
42...下塗り層,
420...第2ベース樹脂,
429...顔料,

Claims (10)

  1. アルミニウム合金板よりなる基板と,該基板の片面又は両面に形成した化成皮膜と,該化成皮膜上に形成したプレコート層とよりなり,
    該プレコート層は,ベース樹脂中に粒子状合成樹脂よりなる樹脂ビーズを分散させてなる上塗り層を有し,
    上記樹脂ビーズの粒径Aは3〜90μmであり,上記上塗り層における上記樹脂ビーズの存在しない部分の膜厚Bは1〜30μmであり,かつ,A/Bが1〜3の範囲内にあり,
    上記樹脂ビーズの含有重量は,上記上塗り層におけるベース樹脂重量に対して30〜200%であり,
    さらに,上記上塗り層は,該上塗り層におけるベース樹脂重量に対して0.05〜3%のインナーワックスを含有していることを特徴とする耐傷付き性に優れたプレコートアルミニウム合金板。
  2. 請求項1において,上記上塗り層の表面粗さRaは0.5〜5μmであることを特徴とする耐傷付き性に優れたプレコートアルミニウム合金板。
  3. 請求項1又は2において,上記上塗り層の表面の摩擦係数は0.05〜0.5であることを特徴とする耐傷付き性に優れたプレコートアルミニウム合金板。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項において,上記上塗り層の上記ベース樹脂には,顔料が含有されていることを特徴とする耐傷付き性に優れたプレコートアルミニウム合金板。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項において,上記ベース樹脂は,ポリエステル樹脂,アクリル樹脂,エポキシ樹脂,ポリウレタン樹脂のいずれかよりなり,かつ,上記樹脂ビーズは,アクリル樹脂又はフッ素樹脂よりなることを特徴とする耐傷付き性に優れたプレコートアルミニウム合金板。
  6. 請求項1〜5のいずれか1項において,上記上塗り層の上記ベース樹脂には,さらに電気的導電性を有する導電性物質を含有していることを特徴とする耐傷付き性に優れたプレコートアルミニウム合金板。
  7. 請求項1〜6のいずれか1項において,上記上塗り層の上記ベース樹脂には,さらに電磁波遮断機能を有する磁性体を含有していることを特徴とする耐傷付き性に優れたプレコートアルミニウム合金板。
  8. 請求項1〜7のいずれか1項において,上記プレコート層は,上記上塗り層の下層に,第2ベース樹脂中に顔料を分散させてなる下塗り層を有することを特徴とする耐傷付き性に優れたプレコートアルミニウム合金板。
  9. 請求項8において,上記下塗り層の膜厚は1〜30μmであることを特徴とする導電性プレコートアルミニウム合金板。
  10. 請求項8又は9において,上記第2ベース樹脂は,ポリエステル樹脂,アクリル樹脂,エポキシ樹脂,ポリウレタン樹脂のいずれかよりなることを特徴とする導電性プレコートアルミニウム合金板。
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