JP2013202873A - アルミニウム合金塗装板 - Google Patents

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Abstract

【課題】鋼板との接触面における接触腐食を十分に抑制することができるアルミニウム合金塗装板を提供すること。
【解決手段】鋼板2に接触させて用いられるアルミニウム合金塗装板1である。アルミニウム合金塗装板1は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基板10と、その少なくとも鋼板2側の接触面101に形成された樹脂被膜11とを有する。樹脂被膜11は、樹脂被膜層A12と樹脂被膜層B13とを積層してなる。樹脂被膜層A12は、金属粉末として、少なくとも亜鉛粉末及び/又は亜鉛合金粉末を含有し、表面抵抗が300Ω未満である。樹脂被膜層B13は、エポキシ−フェノール樹脂、エポキシ−ユリア樹脂、及びポリエステル樹脂よりなる群から選択される1種以上の樹脂を樹脂成分の主成分とする。
【選択図】図2

Description

本発明は、鋼板に接触させて用いられるアルミニウム合金塗装板に関する。
鋼材とアルミニウム(合金)材とを組み合わせた部材は、軽量かつ高強度であり、さらに衝突に対する耐性をも兼ね備えるため、近年、自動車及び鉄道車両などの輸送機器分野を中心として、そのニーズが高まっている。
通常、自動車等に鋼材とアルミニウム材を使用する場合には、鋼板とアルミニウム板とを抵抗溶接又は機械的接合などにより接合する。鋼板とアルミニウム板とを突き合せ状に接合する場合は、接合部分が密着するため隙間が生じにくい。一方、鋼板とアルミニウム板とを面で接合する場合は、接合面が完全に密着することはなく、部材自体の歪みや、スポット溶接等によって生じた歪みのため、鋼板とアルミニウム板との間に、様々な間隔の隙間が発生する。この隙間の大きさ(鋼板とアルミニウム板との間隔)が0.1mm程度になると、自動車製造時の下塗り工程で通常使用される電着塗装では、隙間内部まで塗料が入らないため、隙間内部の鋼材面およびアルミニウム材面に未塗装部が生じる。
鋼板とアルミニウム板とを相互に面同士で接合した接合部材を例えば自動車のボディパネル等として使用すると、その使用中に上述の隙間内に水分が侵入するおそれがある。その結果、鋼板の未塗装部とアルミニウム板の未塗装部との間で異種金属接触腐食(ガルバニック腐食)が発生し、鋼より卑なアルミニウムの腐食が促進される。異種金属接触腐食とは、鋼とアルミニウムのような異種金属を接触させた場合、接触面の隙間に侵入した水により形成された電解液を介して、異種金属のうち、卑な金属がアノード、貴な金属がカソードとなって電池を形成して、卑な金属の方の腐食が促進される現象である。すなわち、鋼板/アルミニウム板の異種金属接合構造体では、前記隙間が存在すると、使用中にアルミニウムの腐食が促進され、その腐食速度はアルミニウム単独よりも極めて大きくなって、早期に穴あきなどの損傷が引き起こされる。従って、異種金属を面接合させて形成した部材・部品では、このような異種金属接触腐食を防止する必要がある。
従来、異種金属接触腐食を防止する方法としては、以下のような方法が提案されている。
例えば、異種金属間に絶縁物を介して電気的に絶縁する技術が提案されている(特許文献1参照)。また、予め有機樹脂を塗装したプレコート鋼板とプレコートアルミニウム板を使用し、これらを成形加工後に接着剤にて接合して、組み立てる技術が提案されている(特許文献2参照)。また、アルミニウム材料と鉄鋼材料との間にZn−Al−Mg合金を介在させる技術が提案されている(特許文献3参照)。また、異種金属の接触部を亜硝酸系インヒビターやオキシアニオン系インヒビターを含む組成物で被覆する技術が提案されている(特許文献4参照)。また、鋼板とアルミニウム板とを接合させる際に、鋼板側の表面に、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、及びエポキシ樹脂から選択される1種以上の樹脂と、シリカとを含有する樹脂皮膜を形成する技術が提案されている(特許文献5参照)。アルミニウム材表面に水性ウレタン樹脂とシリカと潤滑剤からなる塗膜を形成し、その塗膜面を鋼材に接合させる技術が提案されている。(特許文献6参照)。
特開2008−80394号公報 特開平5−50173号公報 特開2001−11665号公報 特開平4−160169号公報 特開2011−140067号公報 特開2011−156825号公報
しかしながら、例えば特許文献1のように異種金属間に絶縁物を介して電気的に絶縁する技術においては、構造上や製造上の制約があって実際には実現が困難な場合が多く、実現できたとしても接合強度の面で優位な溶接が適用できなくなるという問題がある。例えば、特許文献1には、異種金属の接触部に予め有機樹脂接着剤を塗布した後、スポット溶接する方法が記載されている。しかし、この方法では、施工に手間がかかる上、塗布状態が不均一になりやすいため、塗布欠陥部から腐食が発生するおそれがある。
また、例えば特許文献2のように、成形加工後に接着剤にて接合する方法においては、確かに接触腐食は起こらないが、接合に接着剤を使用するため施工に手間がかかる上、接合強度に信頼性が持てず、例えば自動車のボディパネル等のような構造部材への適用には問題がある。
また、特許文献3のように、Zn−Al−Mg合金を介在させる方法においては、Zn−Al−Mg合金層をめっき等の手段で形成しなければならず、工程的に煩雑になる。
また、特許文献4のように、インヒビターを含む組成物で被覆する方法は、鋼材よりも電位が貴なステンレス鋼もしくはチタンと一般鋼材との接触腐食抑制には有効であるが、鋼材とそれよりも電位が卑な金属(例えば、アルミニウム等)との接触腐食の抑制には適用できない。
また、特許文献5及び6のように、単一層皮膜にシリカを添加する方法では、防食効果の継続性が低く、十分にアルミニウムの腐食を抑制することが困難であるという問題がある。
鋼板とアルミニウム合金板が接触した状態では、その隙間に水が介在する場合に、電気化学的な性質から、鉄よりも卑な金属であるアルミニウム合金が溶解し、アルミニウム合金板に孔食が生じる。特に、一般的に自動車材に用いられている亜鉛メッキ鋼板や亜鉛−アルミニウムメッキ鋼板などのメッキ鋼板とアルミニウム合金板が接触した状態においては、アルミニウム合金より卑な金属である亜鉛等のメッキ金属成分が亜鉛メッキ鋼板やアルミ−亜鉛メッキ鋼板上から溶解し易い。鋼板から金属メッキ層が消耗すると鉄が露出し、アルミニウム合金が溶解し、最終的にはアルミニウム合金板に孔食が生じるおそれがある。アルミニウムの防食方法としては、亜鉛などの犠牲陽極層をアルミニウム材の表面にクラッドする方法もある。しかし、犠牲陽極層は、強度が低いため、構造材としての強度を保つためには、アルミニウム材の厚さを厚くすることが必要となり、コストが高くなるという問題が生じる。
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、鋼板との接触面における接触腐食を十分に抑制することができるアルミニウム合金塗装板を提供しようとするものである。
本発明の一態様は、鋼板に接触させて用いられるアルミニウム合金塗装板であって、
アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基板と、該基板の少なくとも上記鋼板側の接触面に形成された樹脂被膜とを有し、
上記樹脂被膜は、上記基板側から順に樹脂被膜層Aと樹脂被膜層Bとを積層してなり、
上記樹脂被膜層Aは、樹脂成分を含有すると共に、金属粉末として、少なくとも亜鉛粉末及び/又は亜鉛合金粉末を含有し、表面抵抗が300Ω未満であり、
上記樹脂被膜層Bは、エポキシ−フェノール樹脂、エポキシ−ユリア樹脂、及びポリエステル樹脂よりなる群から選択される1種以上の樹脂を樹脂成分の主成分とすることを特徴とするアルミニウム合金塗装板にある(請求項1)。
上記アルミニウム合金塗装板においては、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる上記基板上に樹脂被膜層Aが形成されている。そして、上記樹脂被膜層Aは、上記金属粉末として、亜鉛粉末及び/又は亜鉛合金粉末を含有し、上記樹脂被膜層Aの表面抵抗が300Ω未満になっている。そのため、例えば亜鉛メッキ鋼板又は亜鉛−アルミニウムメッキ鋼板等の鋼板における亜鉛層等の金属メッキ層と上記アルミニウム合金塗装板との接触電位を接近させることができる。それ故、例え樹脂被膜に塗膜欠陥が生じた場合であっても、被水時等における鋼板の金属メッキ層の消耗を抑制し、鉄が露出してアルミニウム又はアルミニウム合金からなる上記基板に孔食が生じることを抑制することができる。
ところで、一般に、亜鉛粉末、又は亜鉛合金粉末等の金属粉末は、塩酸や硝酸等の希酸に溶解しやすく、また、アルカリ溶液にも溶解しやすい。ところが、上記金属粉末を含有した樹脂被覆層Aを有する上記アルミニウム合金塗装板を例えば構造部材に適用する場合、前処理として酸やアルカリで脱脂する工程が行われることがある。この場合には、脱脂工程において、樹脂被覆層A中に含まれる金属粉末が溶出し、樹脂被覆層Aの亜鉛濃度が低下するため十分な防食効果が得られなくなるおそれがある。また、亜鉛が完全に溶出した場合には、その部分が新たな塗膜欠陥となり、耐食性が低下するおそれがある。
上記アルミニウム合金塗装板においては、エポキシ−フェノール樹脂、エポキシ−ユリア樹脂、及びポリエステル樹脂よりなる群から選択される1種以上の樹脂を樹脂成分の主成分とする樹脂被膜層Bが上記樹脂被膜層A上に積層形成されている。そのため、上記樹脂被膜層Bが、耐酸性および耐アルカリ性を発揮し、上述の脱脂工程における亜鉛の消耗を抑制し、所望の腐食寿命を得ることができる。
また、上記基板の表面に形成した樹脂被膜層Aには、形成時の塗装むらや気泡による樹脂被覆層Aを貫通する塗装欠陥(ピンホール)が存在し、樹脂被膜層Aだけではピンホールを防止する効果が弱い。そこで、上記樹脂被膜層A上にさらに上記樹脂被膜層Bを設けることにより、樹脂被膜を完全に貫通したピンホールが発生することを抑制し、樹脂被膜層A中に含まれる亜鉛の消耗を抑制することができる。
したがって、上記アルミニウム合金塗装板は、鋼板との接触面における接触腐食を十分に抑制することができる。
実施例における、アルミニウム合金塗装板の断面構造を示す説明図。 実施例における、鋼板とアルミニウム合金塗装板とを接触させた構造体の断面構造を示す説明図。 実施例における、樹脂被膜層Bに樹脂ビーズを含有するアルミニウム合金塗装板の断面構造を示す説明図。 実施例における、アルミニウム合金塗装板の樹脂被膜層Aの表面抵抗の測定方法を示す説明図。 実施例における、アルミニウム合金塗装板の樹脂被膜の塗装面にクロスカット部を形成した状態を示す説明図。 実施例における、アルミニウム合金塗装板の樹脂被膜の塗膜面と鋼板とを向き合わせて、これらの間に保水層を配置してなる腐食試験用の試験片を示す説明図。 実施例における、アルミニウム合金塗装板をはぜ折り加工する様子を断面構造により示す説明図。 実施例における、プレス加工によりアルミニウム合金塗装板に凸部を形成する様子を断面構造により示す説明図。
次に、上記アルミニウム合金塗装板の好ましい実施形態について説明する。
上記アルミニウム合金塗装板は、鋼板に接触させて用いられる。鋼板としては、亜鉛メッキ鋼板又は亜鉛−アルミニウムメッキ鋼板が好ましい。亜鉛メッキ鋼板又は亜鉛−アルミニウムメッキ鋼板は、アルミニウム合金板が接触した状態において、アルミニウム合金より卑な金属である亜鉛が亜鉛メッキ鋼板やアルミ−亜鉛メッキ鋼板上から溶解し易い。そのため、亜鉛メッキ鋼板や亜鉛−アルミニウムメッキ鋼板から亜鉛層が消耗すると鉄が露出し、アルミニウム合金が溶解し、最終的にはアルミニウム合金板に孔食が生じるおそれがある。したがって、鋼板が亜鉛メッキ鋼板又は亜鉛−アルミニウムメッキ鋼板である場合には、上記樹脂被膜を有する上記アルミニウム合金塗装板が示す上述の接触腐食抑制効果がより顕著になる。
上記アルミニウム合金塗装板は、例えば、亜鉛メッキ鋼板又は亜鉛−アルミニウムメッキ鋼板と接合させて接合構造体を形成するために用いられる。得られる接合構造体は、例えば自動車のドア等のボディパネル等として用いられる。なお、本明細書においては、亜鉛メッキ鋼板又は亜鉛−アルミニウムメッキ鋼板等のメッキ鋼板を、以下適宜、単に「メッキ鋼板」という。亜鉛メッキ鋼板は、鋼を亜鉛又は亜鉛を主成分とする合金でめっきした鋼板であり、亜鉛−アルミニウムメッキ鋼板は、少なくとも亜鉛とアルミニウムを含有し、これらのいずれかを主成分とする合金でめっきした鋼板である。
上記アルミニウム合金塗装板と上記鋼板とを電気的導通を有する状態で接合させることができる。好ましくは、上記アルミニウム合金塗装板は、無塗装の上記鋼板に対して機械的又は化学的に接合して用いられることがよい(請求項13)。この場合には、鋼板単体で構造物を組み上げた場合と比較して重量を大幅に小さくできると共に、アルミニウム合金板単体で構造物を組み上げた場合と比較して高い強度が得られる。また、この場合には、上記アルミニウム合金塗装板の上述の優れた接触腐食抑制効果を顕著に発揮させることができる。上記アルミニウム合金塗装板と上記鋼板とは、例えばカシメ、ネジ止め、リベット、又は接着剤等により接合させることができる。
また、上記アルミニウム合金塗装板は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基板と、該基板の少なくとも上記鋼板側の接触面に形成された樹脂被膜とを有する。
上記基板としては、例えば純アルミニウム、6000系アルミニウムなどの各種アルミニウム合金などを用いることができる。
上記樹脂被膜は、上記基板の片面又は両面に形成することができる。また、上記基板における上記樹脂被膜形成面には、化成皮膜が形成されていることが好ましい。上記樹脂被膜は、上記化成皮膜上に形成することができる。
上記化成皮膜は、上記基板と上記樹脂被膜との間で両者の密着性を高める皮膜である。例えば、リン酸クロメート、リン酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、又はクロム酸クロメート等からなる化成皮膜を形成することができる。
上記樹脂被膜は、上記基板側から順に樹脂被膜層Aと樹脂被膜層Bとを積層してなる。上記樹脂被膜層Aと上記樹脂被膜層Bとにおける樹脂成分は、同じでもよく、異なるものでもよい。
上記樹脂被膜層Bは、エポキシ−フェノール樹脂、エポキシ−ユリア樹脂、及びポリエステル樹脂よりなる群から選択される1種以上の樹脂を樹脂成分の主成分とする。
また、上記樹脂被膜層Bと同様に、上記樹脂被膜層Aは、エポキシ−フェノール樹脂、エポキシ−ユリア樹脂、及びポリエステル樹脂よりなる群から選択される1種以上の樹脂を上記樹脂成分の主成分とすることが好ましい(請求項9)。
この場合には、上記樹脂被膜層Aの耐酸性、耐アルカリ性、耐水性、及び加工性を向上させることができる。また、エポキシ−フェノール樹脂、エポキシ−ユリア樹脂(エポキシ−尿素樹脂)、及びポリエステル樹脂は、工業的に入手も容易である。
上記エポキシ−フェノール樹脂は、エポキシ当量が145g/eq以上かつ450g/eq未満のエポキシ樹脂とレゾール型フェノール樹脂とからなることが好ましい。
エポキシ当量が145g/eq未満の場合には、樹脂が柔らかく、加工時に上記樹脂被膜にきずが発生しやすくなるおそれがある。一方、エポキシ当量が450g/eq以上の場合には、樹脂が硬く、加工性が低下するおそれがある。
また、フェノール樹脂としては、例えばノボラック型フェノール樹脂を用いることもできるが、上記レゾール型フェノール樹脂に比べて上記樹脂被膜の柔軟性が失われ加工性が低下するおそれがある。したがって、レゾール型フェノール樹脂が好ましい。
また、上記エポキシ−ユリア樹脂は、エポキシ当量が145g/eq以上かつ450g/eq未満のエポキシ樹脂とブチル化尿素樹脂とからなることが好ましい。
エポキシ当量が145g/eq未満の場合には、樹脂が柔らかく、加工時に上記樹脂被膜にきずが発生しやすくなるおそれがある。一方、エポキシ当量が450g/eq以上の場合には、樹脂が硬く、加工性が低下するおそれがある。
また、上記ポリエステル樹脂は、数平均分子量が5000〜16000、破断伸びが120〜295%、ガラス転移点が10℃〜60℃であることが好ましい。
上記ポリエステル樹脂の数平均分子量が5000未満の場合には、上記樹脂被膜の柔軟性が低くなり、加工性が低下するおそれがある。上記ポリエステル樹脂の数平均分子量は、10000以上がより好ましく、13000以上がさらに好ましい。一方、数平均分子量が16000を超える場合には、樹脂が柔らかくなり、塗装板同士が張り付くタッキングが発生するおそれがある。
また、上記ポリエステル樹脂の破断伸びが120%未満の場合には、例えば絞り加工時に樹脂被膜が追随できず基板から上記樹脂被膜が剥離するおそれがある。一方、破断伸びが295%を超える場合には、樹脂が柔らか過ぎて、上述のタッキングを発生するおそれがある。上記ポリエステル樹脂の破断伸びは、120〜206%であることがより好ましい。
なお、ポリエステル樹脂の伸び(%)は、該ポリエステル樹脂からなる樹脂被膜の引張試験により測定することができる。引張試験前の樹脂被膜の長さに対する引張試験後の破断時における樹脂被膜の長さの比率を百分率で表したものである。引張試験は、例えば温度25℃にて行うことができる。
また、上記ポリエステル樹脂のガラス転移点が10℃未満の場合には、アルミニウム合金塗装板同士が張り付くというタッキングが起こり易くなるおそれがある。一方、ガラス転移点が60℃を超える場合には、樹脂被膜の柔軟性が低くなり、加工性が低下するおそれがある。より好ましくは、ポリエステル樹脂のガラス転移点は10〜55℃がよい。
次に、上記樹脂被膜層Aは、上記金属粉末として、亜鉛粉末及び/又は亜鉛合金粉末を含有し、表面抵抗が300Ω未満である。
上記樹脂被膜層Aの表面抵抗が300Ω以上の場合には、樹脂被膜層Aに塗装欠陥が生じた場合、その欠陥部に腐食電流が集中し、対極にある上記鋼板の亜鉛層等の金属めっき層が早期に消耗し、鉄が露出することでアルミニウム合金板に孔食が生じるおそれがある。上記樹脂被膜層Aが亜鉛粉末及び/又は亜鉛合金粉末を少なくとも含有し、表面抵抗を300Ω未満にすることにより、上記樹脂被膜Aに塗膜欠陥が生じた場合でも、対極である亜鉛層に腐食電流が集中せず、亜鉛層の消耗を抑制することができる。より好ましくは上記樹脂被膜層Aの表面抵抗は200Ω以下がよく、さらに好ましくは50Ω以下がよく、さらにより好ましくは10Ω以下がよい。上記樹脂被膜層Aの表面抵抗の測定方法については、実施例において後述する。
また、上記樹脂被膜層Aは、上記樹脂成分100質量部に対して上記金属粉末を1〜300質量部含有することが好ましい(請求項3)。
上記金属粉末の含有量が1質量部未満の場合には、接触腐食の抑制効果が小さくなるおそれがある。上記金属粉末の含有量は10質量部以上がより好ましく、20質量部以上がさらに好ましい。一方、上記金属粉末の含有量が300質量部を超える場合には、上記樹脂被膜層A中の樹脂成分の割合が低下し、樹脂被膜層Aが脆くなり例えばヘム加工時の加工性や密着性が低下するおそれがある。上記金属粉末の含有量は、200質量部以下がより好ましく、100質量部以下がより好ましい。
上記樹脂被膜層Aは、金属粉末として、亜鉛粉末及び/又は亜鉛合金粉末を含有するが、さらにアルミニウム粉末、アルミニウム合金粉末等のその他の金属粉末を含有することができる。この場合においても、これらの金属粉末の合計量を、上述のごとく1〜300質量部にすることが好ましい。
上記樹脂被膜層Aは、上記亜鉛粉末を上記金属粉末の主成分とすることが好ましい(請求項4)。
また、上記樹脂被膜層Aは、上記亜鉛合金粉末を上記金属粉末の主成分とすることが好ましい(請求項5)。
上記亜鉛粉末又は上記亜鉛合金粉末を上記金属粉末の主成分とする場合には、上記鋼板との接触腐食をより十分に抑制することができる。
なお、上記亜鉛粉末は、純Znの粉末であり、上記亜鉛合金粉末は、Znを50質量%以上含有する合金の粉末や、Znを主成分とする合金の粉末である。亜鉛合金粉末としては、Znの他に、さらにAl、Sn等のZn以外の金属成分を1種以上含有する合金の粉末を用いることができる。
亜鉛粉末としては、例えばハクスイテック(株)製の「R末」、「F末」、「UF末」、本荘ケミカル(株)製の「F−3000」、東洋金属(株)製の「鱗片状亜鉛末(200mesh pass)」等を用いることができる。
亜鉛合金粉末としては、例えばヒカリ素材工業(株)製のZn−22.3Al、Zn−2Al、Zn−50Sn等を用いることができる。
上記樹脂被膜層Aは、上記金属粉末として、さらにアルミニウム粉末及び/又はアルミニウム合金粉末を含有することが好ましい(請求項6)。
この場合には、上記樹脂被膜層Aの電位をより貴な状態にすることができ、上記鋼板の亜鉛層等の金属層と上記アルミニウム合金塗装板との接触電位をより一層接近させることができる。アルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末は、金属粉末の選択成分として用いることがき、その含有量は0質量部にすることもできる。添加する場合であっても、アルミニウム粉末とアルミニウム合金粉末との合計量(質量部)は、亜鉛粉末と亜鉛合金粉末との合計量(質量部)よりも少なくすることが好ましい。アルミニウム粉末とアルミニウム合金粉末との合計量の割合が多くなると、樹脂被膜層A中に含まれる亜鉛とアルミニウムとの接触機会が増加し、自己腐食により早期に亜鉛が消耗し、防食性が低下するおそれがある。より好ましくは、上記樹脂被膜層Aにおいては、0≦(アルミニウム粉末の含有量(質量部)+アルミニウム合金粉末の含有量(質量部))/(亜鉛粉末の含有量(質量部)+亜鉛合金粉末の含有量(質量部))≦0.99であることがよい。
アルミニウム粉末は、純Alの粉末であり、アルミニウム合金粉末は、Alを主成分とする合金の粉末である。
アルミニウム粉末としては、例えばミナルコ(株)製の「#500F」、「#600F」、「#700F」、「#800F」、「#900F」、「#1000F」等を用いることができる。
アルミニウム合金粉末としては、例えばヒカリ素材工業(株)製の「Al−25Si−30Zn」、「Al−30Si−5Zn」、「Al−12Si−2Mg」、「Al−5Si」、「Al−10.5Si」、「Al−20Si」、「Al−25Si」、「Al−12Si」、「Al−15Si」、「Al−8Si」等を用いることができる。
上記樹脂被膜層Aは、上記樹脂成分100質量部に対して、安息香酸塩、グルタミン酸塩、アニシジン、グリシン、キノリノール、フタル酸塩、アジピン酸塩、及び酢酸塩よりなる群から選択される1種以上の腐食抑制剤を25質量部以下含有することが好ましい(請求項7)。
この場合には、上記アルミニウム合金塗装板の耐食性をより向上させることができる。
即ち、この場合には、例えばプレスによる曲げ加工時や張出し成形時における金型との接触やハンドリングにより上記樹脂皮膜に欠陥を生じても、被水時には、上記腐食抑制剤が上記樹脂被膜層Aから水中に溶け出し、乾燥の過程で腐食抑制剤が濃縮し、上記アルミニウム合金塗装板の表面に疎水性を持つ吸着層を形成することができる。この吸着層は、アルミニウム合金塗装板の耐食性向上に寄与し、欠陥発生部の腐食を抑制することができる。
上記腐食抑制剤としては、上述のごとく、安息香酸塩、グルタミン酸塩、アニシジン、グリシン、キノリノール、フタル酸塩、アジピン酸塩、及び酢酸塩よりなる群から選択される1種以上を用いることができる。これらのうち、塩としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、又はアンモニウム塩を用いることができる。より具体的には、例えば安息香酸アンモニウム、安息香酸ナトリウム、グルタミン酸ナトリウム、フタル酸アンモニウム、フタル酸カリウム、アジピン酸アンモニウム、酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、酢酸カリウム等を用いることができる。
上記腐食抑制剤は、疎水性を持つ有機鎖部分と、金属面に吸着しやすい官能基部分を有する。そのため、被水時に、腐食抑制剤が水中に溶け出し、乾燥の過程で腐食抑制剤が濃縮し、アルミニウム合金塗装板の表面に疎水性を持つ吸着層を形成し易い。この吸着層により、耐食性を向上させることができる。特に、上記アルミニウム合金塗装板に対してヘム加工を施す場合においては、加工部分では金属板の接合部が袋状の構造となり、一般的な電着塗料が析出せず、上述の貫通欠陥などの欠陥発生部に有効な防食効果が得られにくいが、上記樹脂被膜層Aには腐食抑制剤を含有しているため、上記吸着層の形成によって耐食性を向上させることができる。
好ましくは、上記樹脂被膜層Aは、腐食抑制剤として、少なくとも安息香酸塩を含有することがよい。この場合には、腐食抑制効果をより向上させることができる。
上記樹脂被膜層A中の腐食抑制剤の含有量が上記樹脂成分100質量部に対して25質量部を超える場合には、上記樹脂被膜層Aを例えば焼き付けにより形成する時に、上記腐食抑制剤が発泡するおそれがある。その結果、上記樹脂被膜層Aの密着性が低下したり、耐食性が低下したりするおそれがある。また、上記腐食抑制剤は、選択的に添加することがき、その含有量は0質量部にすることもできる。しかし、その添加効果を十分に得るためには、上記樹脂成分100質量部に対して上記腐食抑制剤の含有量を5質量部以上にすることが好ましく、15質量部以上にすることがより好ましい。
また、上記樹脂被膜層A中の上記金属粉末の含有量をa質量部とし、上記樹脂被膜層A中の上記腐食抑制剤の含有量をb質量部とすると、0≦b/a≦25を満足することが好ましい(請求項8)。
b/a>25の場合には、ヘム加工時などの加工性が低下するおそれがある。
次に、上記樹脂被膜層Bは、該樹脂被膜層B中の上記樹脂成分100質量部に対してイオン交換型シリカからなる防錆剤を25質量部以下含有することが好ましい(請求項2)。
この場合には、被水時において、上記樹脂被膜層B中に含まれる上記防錆剤が、上記アルミニウム合金塗装板を接触させる鋼板側からの亜鉛等の金属成分の溶解を防止する役割を果たすことができる。その結果、上記鋼板側からの金属成分の溶解によって引き起こされるアルミニウム又はアルミニウム合金からなる上記基板の腐食を防止することができる。また、被水時においては、イオン交換型シリカよりなる上記防錆剤が上記樹脂被膜層Bから水中に溶出して有効濃度に達することで、上記鋼板の表面に鉄と複合したイオン交換シリカ吸着層を形成することができる。その結果、カソード防食の効果が得られ、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる上記基板の腐食をさらに抑制することができる。また、上記防錆剤はイオン交換型シリカからなるため、上記アルミニウム合金塗装板においては上記樹脂被膜層Bに導電性を生じさせることができる。そのため、例え鋼板から金属成分が溶解しても、上記アルミニウム合金塗装板の上記樹脂被膜層Bに導電性があるため、塗膜欠陥によるピンホール効果が出にくくなり、アルミニウムの局部腐食を低減することができる。さらに、上記アルミニウム合金塗装板が上記防錆剤を含有する上記樹脂被膜層Bを有する場合には、上記アルミニウム合金塗装板に接触させる上記鋼板としては、予め塗装などを行っていない鋼板を用いることができる。例えば、自動車のドア材等の用途として、アルミニウム合金塗装板と鋼板とを接合させる場合には、ドア材として必要な強度を得るため、様々な厚さの鋼板を溶接した後に、アルミニウム合金塗装板と接合する場合がある。このような場合においても、塗装等が行われておらず、樹脂被膜層が形成されていない鋼板を用いることができるため、容易に鋼板同士の溶接を行うことができる。
イオン交換型シリカは、好ましくは、カルシウムイオン交換型シリカがよい。
イオン交換シリカとしては、具体的には、例えば富士シリシア化学(株)製の「サイロマスク02」、「サイロマスク35」、「サイロマスク55」、「サイロマスク52M」、W.R.Grace&Co.製の「SHIELDEX」、日本化学工業(株)製の「粉末珪酸ソーダ1号」、「粉末珪酸ソーダ2号」、「粉末珪酸ソーダ3号」、「メタ珪酸ソーダ(9水塩)」、「メタ珪酸ソーダ(5水塩)」、「無水メタ珪酸ソーダ」、「粒状メタ珪酸ソーダ」等を用いることができる。
上記防錆剤の含有量が25質量部を超える場合には、上記樹脂被膜層Bが硬化し、上記アルミニウム合金塗装板の加工性が低下するおそれがある。
上記樹脂被膜層B中の上記防錆剤は選択成分であり、その含有量は0質量部にすることができる。上記樹脂被膜層Bが上記防錆剤を含有する場合には、その上述の添加効果を十分に得るために、上記樹脂被膜層B中の上記樹脂成分100質量部に対して上記防錆剤を1質量部以上含有することが好ましく、5質量部以上がより好ましく、15質量部以上がさらに好ましい。
上記樹脂被膜層Aと上記樹脂被膜層Bとを積層してなる上記樹脂被膜は、その合計厚さが7〜30μmであることが好ましい(請求項10)。
厚さが7μm未満の場合には、多層化による貫通孔形成防止効果が小さくなるおそれがある。また、上記樹脂被膜層A又は上記樹脂被膜層Bを形成することによって得られる上述の作用効果を十分に得ることが困難になるおそれがある。より好ましくは、上記樹脂被膜の厚さは、上記樹脂被膜層Aと上記樹脂被膜層Bとの合計で12μm以上がよく、さらに好ましくは15μm以上がよい。一方、厚さが30μmを超える場合には、上記樹脂被膜と基板との密着性が低下し、加工時に剥離が起こるおそれがある。また、30μmを超えて厚みを大きくしても、防食効果はもはやほとんど向上しなくなるため、コストに見合った効果が得られなくなる。より好ましくは、上記樹脂被膜の厚さは、上記樹脂被膜層Aと上記樹脂被膜層Bとの合計で25μm以下がよい。
また、上記樹脂被膜層Aと上記樹脂被膜層Bとの合計の厚みは、上述のごとく7〜30μmが好ましいが、上記樹脂被膜層Aの厚みは6〜24μmが好ましい。上記樹脂被膜層Aの厚みが大きくなりすぎると、亜鉛粉末等の金属粉末が沈殿して樹脂被膜層Aの表面の抵抗値が高くなり、耐食性が低下するおそれがあるからである。上記樹脂被膜層Bの厚みは1〜24μmが好ましい。
上記樹脂被膜層Bは、該第樹脂被膜層B中の上記樹脂成分100質量部に対して、平均粒子径5〜130μmの樹脂ビーズを50質量部以下含有することが好ましい(請求項11)。
この場合には、例えばヘム加工時において、ヘム加工部にきずが発生することを防止することができる。
上記樹脂ビーズとしては、中空タイプ又は中実(充填)タイプを用いることができる。クッション効果が高く、傷防止効果が高いという観点からは中空タイプが望ましい。
上記樹脂ビーズについては、その平均粒子径が5μm未満の場合には、上述のきず防止効果が十分に得られなくなるおそれがある。一方、平均粒子径が130μmを超える場合には、ヘム加工部においてビーズ同士が接触し、樹脂被膜層が剥離しやすくなるおそれがある。なお、「平均粒子径」は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径を示す。
また、上記樹脂ビーズの含有量が上記樹脂被膜層B中の上記樹脂成分100質量部に対して50質量部を超える場合には、上記樹脂被膜層の柔軟性が失われて加工性が低下するおそれがある。
また、上記樹脂ビーズは選択的成分であり、その含有量は0であってもよい。上記樹脂ビーズを添加する場合にはその添加効果を十分に得るために、含有量は1質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましい。
また、上記樹脂ビーズを用いる場合には、好ましくは、上記樹脂ビーズの上記樹脂被膜層Bの厚さとの関係を、0.1<樹脂ビーズの平均粒子径/樹脂被膜層Bの厚さ<12の範囲内にすることが好ましい。
上記樹脂被膜層Bの厚さに対する上記樹脂ビーズの平均粒子径の比が0.1以下になると、ヘム加工部のきず防止性が低下するおそれがある。一方、上記樹脂被膜層Bの厚さに対する上記樹脂ビーズの平均粒子径の比が12以上になると、上記樹脂被膜層Bから樹脂ビーズが脱落するおそれがある。より好ましくは、0.1<樹脂ビーズの平均粒子径/樹脂被膜層Bの厚さ<5がよい。
上記樹脂ビーズとしては、松本油脂製薬株式会社製の「マツモトマイクロスフィアF−36」、「マツモトマイクロスフィアF−36LV」、「マツモトマイクロスフィアF−48」、「マツモトマイクロスフィアFN−80GS」、「マツモトマイクロスフィアF−50」、「マツモトマイクロスフィアF−65」、「マツモトマイクロスフィアFN−100SS」、「マツモトマイクロスフィアFN−100S」、「マツモトマイクロスフィアF−100M」、「マツモトマイクロスフィアFN−100M」、「マツモトマイクロスフィアFN−100」、「マツモトマイクロスフィアFN−105」、マツモトマイクロスフィアFN−180SS」、「マツモトマイクロスフィアFN−180S」、「マツモトマイクロスフィアFN−180」、「マツモトマイクロスフィアMFL−81GCA」、「マツモトマイクロスフィアMFL−HD30CA」、「マツモトマイクロスフィアMFL−HD60CA」、「マツモトマイクロスフィアFN−80SDE」、「マツモトマイクロスフィアF−80DE」等を用いることができる。また、ガンツ化成株式会社の「ガンツパールGM−0801」、「ガンツパールGM−1001」、「ガンツパールGM−2001」、「ガンツパールGM−2801」、「ガンツパールGM−4003」、「ガンツパールGM−5003」、「ガンツパールGB−05S」、「ガンツパールGB−08S」、「ガンツパールGB−10S」、「ガンツパールGB−15S」、「ガンツパールGB−22S」、「ガンツパールGB−28」、及び「ガンツパールGB−55」等を用いることもできる。
また、上記樹脂被膜層Bは、該第樹脂被膜層B中の上記樹脂成分100質量部に対して、ラノリン、カルナウバ、ポリエチレン、及びマイクロクリスタリンから選ばれる1種以上のインナーワックスを75質量部以下含有することが好ましい(請求項12)。
この場合には、プレス加工時における金型との接触や、運搬時における接触などによってキズ(当たりキズ)が発生することを防止することができる。また、曲げ加工等の加工性を向上させることができる。
インナーワックスの含有量が75質量部を超える場合には、樹脂被膜層の表面へのインナーワックスの析出量が増加し、成形時に金型等にワックスが堆積し易くなるおそれがある。より好ましくは50質量部以下がよい。
また、上記インナーワックスは選択的成分であり、その含有量は0であってもよい。上記インナーワックスを添加する場合にはその添加効果を十分に得るために、含有量は2質量部以上が好ましく、20質量部以上がより好ましい。また、カルナウバとポリエチレン等の上述のインナーワックスを2種以上混合して用いてもよく、その混合比(重量比)は任意で設定することができる。例えばカルナウバとポリエチレンを混合して用いる場合には、0:100〜75:25(カルナウバ:ポリエチレン)にすることが好ましい。
上記樹脂被膜層A及び樹脂被膜層Bは、それぞれ上述の配合成分を含有する液状の塗料を上記基板上に塗布し焼き付けることにより形成することができる。
(実施例1)
本例においては、実施例及び比較例にかかる複数のアルミニウム合金塗装板(試料1〜65)を作製し、その評価を行う。
図1に示すごとく、実施例にかかるアルミニウム合金塗装板1は、アルミニウム合金からなる基板10と、その少なくとも一方の面101に形成された樹脂成分を主成分とする樹脂被膜11とを有する。図2に示すごとく、アルミニウム合金塗装板1は、鋼板2に接触させて用いられるものである。樹脂被膜11は、基板10の少なくとも鋼板2側の接触面101に形成されている。
基板10と樹脂被膜11との間には、化成皮膜(図示略)が形成されている。
樹脂被膜11は、基板10側から順に樹脂被膜層A12と樹脂被膜層B13とを積層してなる。
樹脂被膜層A12は、樹脂成分を主成分とし、さらに金属粉末として、少なくとも亜鉛粉末及び/又は亜鉛合金粉末を含有する。樹脂被膜層A12の表面抵抗(電気抵抗)は、300Ω未満である。
また、樹脂被膜層B13は、エポキシ−フェノール樹脂、エポキシ−ユリア樹脂、及びポリエステル樹脂よりなる群から選択される1種以上の樹脂を樹脂成分とする。
また、本例においては、図3に示すごとく、樹脂被膜層B13に、樹脂ビーズ135、イオン交換型シリカ(図示略)、インナーワックス(図示略)等を含有するアルミニウム合金塗装板3を作製した。
以下、本例について具体的に説明する。
本例においては、後述の表1〜表12に示すごとく、65種類のアルミニウム合金塗装板(試料1〜65)を作製した。
具体的には、まず、基板10として、アルミニウム合金板(材質:6083、質別:T4、板厚:1.0mm)を準備した。次に、この基板10を脱脂した後、化成処理を施して化成皮膜を形成した。本例においては、リン酸クロメート処理によって、クロム量が20mg/m2となるように反応型クロメート皮膜(リン酸クロメート皮膜)を形成した。具体的には、化成処理液に試料を浸漬する方法により化成処理を行い、その後、約100℃の雰囲気で乾燥させた。基板10上に形成した化成処理皮膜の種類を後述の表1〜6に示す。
次に、化成皮膜の上に、表1〜表6に示す組成を含む樹脂被膜層A用の塗料と、樹脂被膜層B用の塗料をそれぞれ焼き付けることにより、樹脂被膜11を形成した。
樹脂被膜層A用の塗料は、金属粉末などの添加剤成分を、後述の表1〜表6に示す配合割合となるように混合し、溶媒として脱イオン水を用いて作製した。
樹脂被膜層B用の塗料は、樹脂成分、イオン交換型シリカ、その他の添加剤(樹脂ビーズ又はインナーワックス)等を後述の表7〜12に示す配合割合となるように混合し、溶媒として脱イオン水を用いて作製した。
本例においては、バーコート法により樹脂被膜層A用の塗料を塗布し、温度250℃で30秒加熱して硬化させた後、バーコート法により樹脂被膜層B用の塗料を塗布し、温度250℃で30秒加熱して硬化させ、樹脂被膜層A12及び樹脂被膜層B13を積層してなる樹脂被膜11を形成した。
樹脂被膜層A及び樹脂被膜層Bについて、樹脂の種類、各種添加剤の種類、これらの配合割合、樹脂被膜層Aの厚さ、樹脂被膜層Bの厚さ、及び樹脂被膜層Aと樹脂被膜層Bとの合計厚さを後述の表1〜表12に示す。
なお、後述の表1〜12において、「ポリエステル」は、数平均分子量15000、破断伸びが125%、ガラス転移点が17℃のポリエステル樹脂である。
また、「エポキシ・ユリア」は、エポキシ当量が210g/eqで、エポキシ樹脂とブチル化尿素樹脂とのエポキシ−ユリア樹脂である。
また、「エポキシ・フェノール」は、エポキシ当量が210g/eqで、エポキシ樹脂とレゾール型フェノール樹脂とのエポキシ−フェノール樹脂である。
また、本例においては、実施例における金属粉末として、亜鉛粉末、亜鉛合金粉末、アルミニウム粉末、アルミニウム合金粉末を用いた。
亜鉛粉末としては、ハクスイテック(株)製の「R末」、「F末」、又は「UF末」を用いた。
また、亜鉛合金粉末としては、ヒカリ素材工業(株)製の「Zn−22.3Al」、「Zn−2Al」、「Zn−50Sn」を用いた。
また、アルミニウム粉末としては、ミナルコ(株)製の「#1000F」を用いた。
また、アルミニウム合金粉末としては、ヒカリ素材工業(株)製の「Al−25Si−30Zn」を用いた。
また、比較例においては、金属粉末として、Sn粉末、Mg粉末、Ni粉末を用いたが、これらも市販品を用いた。
Figure 2013202873
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次に、試料1〜試料65のアルミニウム合金塗装板について、各種性能評価試験を実施した。
<表面抵抗>
図4に示すごとく、台座8に、各試料のアルミニウム合金塗装板1を樹脂被膜層A12が形成された塗装面を上に向けて配置した。そして、アルミニウム合金塗装板1の塗装面上に、縦100mm×横100mm×厚み0.5mmに成形した銅板電極81を配置し、さらに銅板電極81上に質量1000gの錘82を配置することにより、銅板電極81を1000gの荷重でアルミニウム合金板1に接触させた。マルチメータ85のリード線851、852をそれぞれアルミニウム合金塗装板1と銅板電極81に接続し、マルチメータ85により、アルミニウム合金塗装板1の樹脂被膜層A12の表面の電気抵抗を測定した。測定は、樹脂被膜層A12上の任意の5点について行い、その平均を求めた。その結果を後述の表13及び表14に示す。
なお、樹脂被膜層A12の表面抵抗の測定にあたっては、樹脂被膜層B13を形成する前の、樹脂被膜層A12のみが形成された状態において、樹脂被膜層A12の表面抵抗を測定した。また、説明の便宜のため、図5においては、アルミニウム合金塗装板と銅板電極と錘とを断面図で示し、その他の構成は側面図で示している。
<腐食試験>
図5に示すように、各試料のアルミニウム合金塗装板1(3)の塗装面の一部に、JIS−K5400(1979年)の7.8(3)に基づいてクロスカットを行って、クロスカット部4を形成した。クロスカット部4は、塗装面に部分的に形成されており、クロスカット部4が形成されていない領域は平滑な平板部5となっている。
次に、図6に示すように、アルミニウム合金塗装板1(3)の樹脂被膜11の塗装面とガルバニック鋼板2(ガルバリウム鋼板)とを向き合わせ、その間に保水層6としてのガーゼを挟み、アルミニウム合金塗装板1とガルバニック鋼板(ガルバリウム鋼板)を金属製クリップ65で固定し、試験片とした。
この試験片について、JIS−K5400(1979年)の7.8に基づく塩水噴霧試験を行った。試験槽の温度は35℃とし、食塩水の濃度は5質量%とし、噴霧時間は2時間とした。その後、恒温恒湿試験を行った。恒温恒湿試験は、温度50℃、湿度85%RHの恒温恒湿試験機の中に72時間放置して行った。この塩水噴霧試験と恒温恒湿試験の組み合わせを1サイクルとし、各試料について4サイクル繰り返し行った。
試験後のアルミニウム合金塗装板1(3)の表面を目視観察した後、光学顕微鏡で100倍の倍率で焦点深度を測定し腐食深さとした。腐食深さは、クロスカット部4における3点を測定すると共に、クロスカットを入れていない部分(平板部5)において任意の5点を測定し、その平均値を求めた。その結果を表13及び表14に示す。
<塗膜密着性>
図7に示すごとく、各試料のアルミニウム合金塗装板1(3)を、樹脂被膜層11の塗装面を内側にして180°はぜ折り(0T曲げ)、厚み1mmの板を挟んで180°はぜ折り(1T曲げ)、厚み2mmの板を挟んで180°はぜ折り(2T曲げ)の3段階で加工した。即ち、図8における間隔Dが0mm、1mm、又は2mmとなるように、アルミニウム合金板1(3)を樹脂被膜11の塗装面を内側にして180°はぜ折り加工した。その後、アルミニウム合金塗装板1(3)を樹脂埋めし、その断面から樹脂被膜11の状態を観察した。樹脂被膜11の剥離が無ければ合格とし、剥離が観察された場合を不合格とした。その結果を表13及び表14に示す。
<成形性>
図8に示すように、各試料のアルミニウム合金塗装板1(3)に、部分的に、樹脂被膜11の形成面とは反対側に突出する凸部18を形成するプレス加工を樹脂被膜11が破断するまで行い、破断時の成形高さを測定する。
具体的には、図8に示すように、各試料のアルミニウム合金塗装板1(3)をプレス加工機7のダイス71としわ押さえ72間にしわ押さえ荷重40kNで狭持して拘束した。ダイス71にはポンチ73が通る穴710が設けられている。そして、図8に示すように、アルミニウム合金塗装板1(3)の樹脂被膜11の形成面にポンチ73を当接し、ポンチ103をダイス71の穴710内へ押し上げることにより、アルミニウム合金塗装板1(3)を樹脂被膜11の形成側と反対側に逆U字状に突出させ、アルミニウム合金塗装板1(3)に、部分的に凸部18を形成した。そして、アルミニウム合金塗装板1の樹脂被膜11が破断するまでポンチ73を上昇させ、破断時のポンチの上昇高さを測定した。その結果を表13及び表14に示す。成形高さ18cm以上の成形性を有することが好ましい。
なお、プレス加工は、潤滑剤として市販のプレス加工油を樹脂被膜11の形成面に塗油し、しわ押さえ荷重:40kN、ポンチの直径φ50mm、r:25mm、ポンチの押し上げ速度:120mm/分、温度:25℃という条件で行った。
<ワックス堆積>
上述の成形性の評価試験における樹脂被膜が破断するまでのプレス加工を20回繰り返し行った。そして、プレス加工機7のポンチ73の先端を拡大鏡(倍率4倍)で観察し、ワックスの堆積の有無を調べた。ワックスの堆積が観察されない場合を合格とし、ワックスの堆積が観察された場合を不合格として評価した。その結果を表13及び表14に示す。
<鉛筆硬度>
JIS−K5400(1979年)に規定の鉛筆引掻試験にしたがって、各試料のアルミニウム合金塗装板の樹脂被膜の鉛筆硬度を測定した。その結果を表13及び表14に示す。鉛筆硬度は2H以上が好ましい。
Figure 2013202873
Figure 2013202873
表1〜表14より知られるごとく、金属粉末として、少なくとも亜鉛粉末及び/又は亜鉛合金粉末を含有し、表面抵抗が300Ω未満の樹脂被膜層A12と、樹脂被膜層Bとを積層形成してなる樹脂被膜11がアルミニウム合金からなる基板10上に形成されたアルミニウム合金塗装板1(3)は、鋼板2との接触腐食を十分に抑制できることがわかる(図1〜図3参照)。
図1〜図3に示すごとく、本例の実施例にかかるアルミニウム合金塗装板1(3)においては、樹脂被膜層A12が、金属粉末として、亜鉛粉末及び/又は亜鉛合金粉末を含有し、樹脂被膜層Aの表面抵抗が300Ω未満になっている。そのため、金属メッキ鋼板2の亜鉛層等の金属層(図示略)とアルミニウム合金塗装板1(3)との接触電位を接近させることができる。それ故、例え樹脂被膜11に塗膜欠陥が生じた場合であっても、被水時等における鋼板2の金属層の消耗を抑制し、鉄が露出してアルミニウム又はアルミニウム合金からなる基板10に孔食が生じることを抑制することができる。
ところで、一般に、亜鉛粉末、又は亜鉛合金粉末等の金属粉末は、塩酸や硝酸等の希酸に溶解しやすく、また、アルカリ溶液にも溶解しやすい。ところが、上記金属粉末を含有した樹脂被覆層A12を有するアルミニウム合金塗装板1(3)を例えば構造部材に適用する場合、前処理として酸やアルカリで脱脂する工程が行われることがある。この場合には、脱脂工程において、樹脂被覆層A12中に含まれる金属粉末が溶出し、樹脂被覆層A12の亜鉛濃度が低下するため十分な防食効果が得られなくなるおそれがある。また、亜鉛が完全に溶出した場合には、その部分が新たな塗膜欠陥となり、耐食性が低下するおそれがある。
本例の実施例にかかるアルミニウム合金塗装板1(3)においては、ポキシ−フェノール樹脂、エポキシ−ユリア樹脂、及びポリエステル樹脂よりなる群から選択される1種以上の樹脂を樹脂成分の主成分とする樹脂被膜層B13が樹脂被膜層A12上に積層形成されている。そのため、樹脂被膜層B13が、耐酸性および耐アルカリ性を発揮し、上述の脱脂工程における亜鉛の消耗を抑制し、所望の腐食寿命を得ることができる。
また、アルミニウム合金塗装板1(3)は、樹脂被膜層A12と樹脂被膜層B13とを積層してなる樹脂被膜11を有する。そのため、樹脂被膜11の形成時に発生しやすい貫通孔120、130(ピンホール120、130)が樹脂被膜11を完全に貫通して形成されてしまうことを防止することができる。即ち、樹脂被膜11を例えば工業的に普及しているロールコーター法によって形成すると、塗料中への気泡の巻き込みや、溶剤揮発時の発泡により樹脂被膜11を貫通する塗膜欠陥が生じやすい。実施例にかかるアルミニウム合金塗装板1(3)においては、上記のごとく、樹脂被膜層A12及び樹脂被膜層B13という2層以上の塗膜層の多層化によって樹脂被膜11が形成されているため、貫通欠陥の発生を防止することができる。
このように、実施例にかかるアルミニウム合金塗装板1(3)においては、鋼板2との接触面における接触腐食を十分に抑制することができる。
1 アルミニウム合金塗装板
10 基板
11 樹脂被膜
12 樹脂被膜層A
13 樹脂被膜層B

Claims (13)

  1. 鋼板に接触させて用いられるアルミニウム合金塗装板であって、
    アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基板と、該基板の少なくとも上記鋼板側の接触面に形成された樹脂被膜とを有し、
    上記樹脂被膜は、上記基板側から順に樹脂被膜層Aと樹脂被膜層Bとを積層してなり、
    上記樹脂被膜層Aは、樹脂成分を含有すると共に、金属粉末として、少なくとも亜鉛粉末及び/又は亜鉛合金粉末を含有し、表面抵抗が300Ω未満であり、
    上記樹脂被膜層Bは、エポキシ−フェノール樹脂、エポキシ−ユリア樹脂、及びポリエステル樹脂よりなる群から選択される1種以上の樹脂を樹脂成分の主成分とすることを特徴とするアルミニウム合金塗装板。
  2. 請求項1に記載のアルミニウム合金塗装板において、上記樹脂被膜層Bは、該樹脂被膜層B中の上記樹脂成分100質量部に対してイオン交換型シリカからなる防錆剤を25質量部以下含有することを特徴とするアルミニウム合金塗装板。
  3. 請求項1又は2に記載のアルミニウム合金塗装板において、上記樹脂被膜層Aは、上記樹脂成分100質量部に対して上記金属粉末を1〜300質量部含有することを特徴とするアルミニウム合金塗装板。
  4. 請求項1〜3のいずれか一項に記載のアルミニウム合金塗装板において、上記樹脂被膜層Aは、上記亜鉛粉末を上記金属粉末の主成分とすることを特徴とするアルミニウム合金塗装板。
  5. 請求項1〜3のいずれか一項に記載のアルミニウム合金塗装板において、上記樹脂被膜層Aは、上記亜鉛合金粉末を上記金属粉末の主成分とすることを特徴とするアルミニウム合金塗装板。
  6. 請求項1〜5のいずれか一項に記載のアルミニウム合金塗装板において、上記樹脂被膜層Aは、上記金属粉末として、さらにアルミニウム粉末及び/又はアルミニウム合金粉末を含有することを特徴とするアルミニウム合金塗装板。
  7. 請求項1〜6のいずれか一項に記載のアルミニウム合金塗装板において、上記樹脂被膜層Aは、上記樹脂成分100質量部に対して、安息香酸塩、グルタミン酸塩、アニシジン、グリシン、キノリノール、フタル酸塩、アジピン酸塩、及び酢酸塩よりなる群から選択される1種以上の腐食抑制剤を25質量部以下含有することを特徴とするアルミニウム合金塗装板。
  8. 請求項7に記載のアルミニウム合金塗装板において、上記樹脂被膜層A中の上記金属粉末の含有量をa質量部とし、上記樹脂被膜層A中の上記腐食抑制剤の含有量をb質量部とすると、0≦b/a≦25を満足することを特徴とするアルミニウム合金塗装板。
  9. 請求項1〜8のいずれか一項に記載のアルミニウム合金塗装板において、上記樹脂被膜層Aは、エポキシ−フェノール樹脂、エポキシ−ユリア樹脂、及びポリエステル樹脂よりなる群から選択される1種以上の樹脂を上記樹脂成分の主成分とすることを特徴とするアルミニウム合金塗装板。
  10. 請求項1〜9のいずれか一項に記載のアルミニウム合金塗装板において、上記樹脂被膜層Aと上記樹脂被膜層Bとの合計厚さが7〜30μmであることを特徴とするアルミニウム合金塗装板。
  11. 請求項1〜10のいずれか一項に記載のアルミニウム合金塗装板において、上記樹脂被膜層Bは、該第樹脂被膜層B中の上記樹脂成分100質量部に対して、平均粒子径5〜130μmの樹脂ビーズを50質量部以下含有することを特徴とするアルミニウム合金塗装板。
  12. 請求項1〜11のいずれか一項に記載のアルミニウム合金塗装板において、上記樹脂被膜層Bは、該第樹脂被膜層B中の上記樹脂成分100質量部に対して、ラノリン、カルナウバ、ポリエチレン、及びマイクロクリスタリンから選ばれる1種以上のインナーワックスを75質量部以下含有することを特徴とするアルミニウム合金塗装板。
  13. 請求項1〜12のいずれか一項に記載のアルミニウム合金塗装板は、無塗装の上記鋼板に対して機械的又は化学的に接合して用いられることを特徴とするアルミニウム合金塗装板。
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