JP2018188707A - 引張強度が1180MPa以上である耐遅れ破壊性に優れた鋼板 - Google Patents

引張強度が1180MPa以上である耐遅れ破壊性に優れた鋼板 Download PDF

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Abstract

【課題】主として自動車、建材用の強度部材に好適な鋼板であって、引張強度1180MPa以上を有する耐遅れ破壊性に優れた鋼板を提供する。【解決手段】引張強度が1180MPa以上の鋼板の表面に、0.1NのNa塩の場合にpH3〜6.5の範囲でpH緩衝性を有するアニオン化合物(x)を含有する無機皮膜または/および有機皮膜を有し、該皮膜中のアニオン化合物(x)の付着量が前記Na塩換算で100mg/m2以上である。好ましくは、鋼板の表面にアニオン化合物(x)を含有する下層皮膜を有し、その上層にアニオン化合物(x)を含有し又は含有しない有機皮膜を有し、皮膜中のアニオン化合物(x)の合計付着量が前記Na塩換算で100mg/m2以上である。さらに好ましくは、下層皮膜がAl、Mg、Ca、Zn、V、Moの中から選ばれる金属の1種以上を含有する。【選択図】なし

Description

本発明は、耐遅れ破壊性に優れた鋼板に関するものであり、詳細には、主として自動車、建材用の強度部材に好適な鋼板であって、耐遅れ破壊性に優れた引張強度1180MPa以上の高強度鋼板に関するものである。
自動車用鋼板には、板厚精度や平担度に関する要求から冷延鋼板が用いられているが、近年、自動車のCO排出量の低減および安全性確保の観点から、自動車用鋼板の高強度化が図られている。
しかしながら、鋼材の強度を高めていくと、遅れ破壊という現象が生じやすくなることが知られており、この遅れ破壊は鋼材強度の増大とともに激しくなり、特に引張り強さ1180MPa以上の高強度鋼で顕著となる。なお、遅れ破壊とは、高強度鋼材が静的な負荷応力(引張り強さ以下の負荷応力)を受けた状態で、ある時間が経過したとき、外見上はほとんど塑性変形を伴うことなく、突然脆性的な破壊が生じる現象である。
この遅れ破壊は、鋼板の場合、プレス加工により所定の形状に成形したときの残留応力と、応力集中部における鋼の水素脆性により生じるものであることが知られている。この遅れ破壊の原因となる水素は、ほとんどの場合、外部環境から鋼中に侵入、拡散した水素であると考えられており、代表的には、鋼板の腐食の際に発生した水素が鋼中に侵入、拡散したものである。
高強度鋼板におけるこのような遅れ破壊を防止するために、例えば、特許文献1では、鋼板の組織や成分を調整することにより、遅れ破壊感受性を弱める検討がなされている。
特開2004−231992号公報
しかし、特許文献1の手法では、外部環境から鋼板内部に侵入する水素量は変化しないため、遅れ破壊の発生を遅らせることは可能であるが、遅れ破壊自体を防止することはできない。
したがって本発明の目的は、以上のような従来技術の課題を解決し、主として自動車、建材用の強度部材に好適な鋼板であって、引張強度1180MPa以上を有する耐遅れ破壊性に優れた鋼板を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、耐遅れ破壊性に優れるとともに、耐食性および溶接性にも優れた鋼板を提供することにある。
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、鋼板内部に侵入する水素を抑制することにより遅れ破壊を防止する手段について、鋭意検討および研究を重ねた。その結果、大気環境で使用される鋼板への水素侵入は腐食過程で形成される水膜のpH低下が主因であることから、鋼板表面にpH緩衝性を有する成分を含有した皮膜を形成することにより、鋼板内部への水素侵入を大幅に抑制し、鋼板の遅れ破壊を効果的に抑制できることを見出した。
また、自動車用鋼板として使用するためには、優れた耐食性とともに、所定の形状に加工された後に組み付けるための溶接性(導電性)が必要とされる。そこで、耐遅れ破壊性とともに、優れた耐食性および溶接性を得るために検討を行った結果、皮膜中のpH緩衝性を有する成分の付着量や皮膜厚を最適化することにより、上述したような優れた耐遅れ破壊性とともに、優れた耐食性と溶接性が得られることを見出した。
本発明は、以上のような知見に基づきなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
[1]引張強度が1180MPa以上の鋼板の表面に、0.1NのNa塩の場合にpH3〜6.5の範囲でpH緩衝性を有するアニオン化合物(x)を含有する皮膜を有し、該皮膜中のアニオン化合物(x)の付着量が前記Na塩換算で100mg/m以上であることを特徴とする引張強度が1180MPa以上である耐遅れ破壊性に優れた鋼板。
[2]引張強度が1180MPa以上の鋼板の表面に、0.1NのNa塩の場合にpH3〜6.5の範囲でpH緩衝性を有するアニオン化合物(x)を含有する有機樹脂層を有し、該有機樹脂層中のアニオン化合物(x)の付着量が前記Na塩換算で100mg/m以上であることを特徴とする引張強度が1180MPa以上である耐遅れ破壊性に優れた鋼板。
[3]引張強度が1180MPa以上の鋼板の表面に、0.1NのNa塩の場合にpH3〜6.5の範囲でpH緩衝性を有するアニオン化合物(x)を含有する下層皮膜を有し、該下層皮膜の上層に有機樹脂層を有し、前記下層皮膜中のアニオン化合物(x)の付着量が前記Na塩換算で100mg/m以上であることを特徴とする引張強度が1180MPa以上である耐遅れ破壊性に優れた鋼板。
[4]引張強度が1180MPa以上の鋼板の表面に、0.1NのNa塩の場合にpH3〜6.5の範囲でpH緩衝性を有するアニオン化合物(x)を含有する下層皮膜を有し、該下層皮膜の上層に、0.1NのNa塩の場合にpH3〜6.5の範囲でpH緩衝性を有するアニオン化合物(x)を含有する有機樹脂層を有し、前記下層皮膜及び有機樹脂層中のアニオン化合物(x)の合計付着量が前記Na塩換算で100mg/m以上であることを特徴とする引張強度が1180MPa以上である耐遅れ破壊性に優れた鋼板。
[5]上記[3]または[4]の鋼板において、下層皮膜が、さらに、Al、Mg、Ca、Zn、V、Moの中から選ばれる金属の1種以上を含有し、該金属の合計付着量が10〜2000mg/mであることを特徴とする引張強度が1180MPa以上である耐遅れ破壊性に優れた鋼板。
[6]引張強度が1180MPa以上の鋼板の表面に、Al、Mg、Ca、Zn、V、Moの中から選ばれる金属の1種以上を含有し、該金属の合計付着量が10〜2000mg/mである下層皮膜を有し、該下層皮膜の上層に、0.1NのNa塩の場合にpH3〜6.5の範囲でpH緩衝性を有するアニオン化合物(x)を含有する有機樹脂層を有し、該有機樹脂層中のアニオン化合物(x)の付着量が前記Na塩換算で100mg/m以上であることを特徴とする引張強度が1180MPa以上である耐遅れ破壊性に優れた鋼板。
[7]上記[2]〜[6]のいずれかの鋼板において、有機樹脂層の膜厚が0.3〜4.0μmであることを特徴とする引張強度が1180MPa以上である耐遅れ破壊性に優れた鋼板。
[8]上記[2]〜[7]のいずれかの鋼板において、有機樹脂層の有機樹脂がエポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、エチレン樹脂の中から選ばれる1種以上からなることを特徴とする引張強度が1180MPa以上である耐遅れ破壊性に優れた鋼板。
[9]上記[1]〜[8]のいずれかの鋼板において、アニオン化合物(x)の付着量が前記Na塩換算で5000mg/m以下であることを特徴とする引張強度が1180MPa以上である耐遅れ破壊性に優れた鋼板。
本発明の高強度鋼板は、鋼板内部への水素の侵入が抑制され、遅れ破壊が効果的に抑制される優れた耐遅れ破壊性を有する。また、鋼板の腐食しろの削減により鋼板の板厚も小さくすることができるので、自動車分野、建材分野に適用する強度部材の重量削減が可能となる。
また、本発明の高強度鋼板のなかで、皮膜中のpH緩衝性を有する成分の付着量や皮膜厚を最適化したものは、上述した優れた耐遅れ破壊性とともに、優れた耐食性と溶接性を有する。
実施例で用いた遅れ破壊評価用試験片を模式的に示す図面 実施例において行った複合サイクル腐食試験の工程を示す説明図 実施例で用いた耐食性評価用試験片を模式的に示す図面
本発明の耐遅れ破壊性に優れた鋼板の基材となる鋼板は、引張強度が1180MPa以上の鋼板である。引張強度が1180MPa以上であれば、その化学組成や鋼組織は特に限定されず、また、圧延方法などについても特に限定されず、熱延鋼板、冷延鋼板のいずれでもよい。しかしながら、このうち、自動車分野や建材分野などで用いられる、特に自動車分野などで多く用いられる引張強度が1180MPa以上の高強度冷延鋼板が好ましく、引張強度が1320MPa以上の高強度冷延鋼板がさらに好ましい。引張強度が低い鋼板は、本質的に遅れ破壊が生じにくい。本発明の効果は、引張強度が低い鋼板でも発現されるが、引張強度が1180MPa以上の鋼板で顕著に発現され、引張強度が1320MPa以上の鋼板でより顕著に発現されるためである。
本発明において好ましく用いられる高強度冷延鋼板は、所望の引張強度を有するものであれば、いかなる組成および組織を有するものでもよく、機械特性などの諸特性を向上させるために、例えば、C、Nなどの侵入型固溶元素およびSi、Mn、P、Crなどの置換型固溶元素の添加による固溶体強化、Ti、Nb、V、Alなどの炭・窒化物による析出強化、W、Zr、Hf、Co、B、Cu、希土類元素などの強化元素の添加などの化学組成的改質、再結晶の起こらない温度で回復焼きなましすることによる強化あるいは完全に再結晶させずに未再結晶領域を残す部分再結晶強化、ベイナイトやマルテンサイト単相化あるいはフェライトとこれら変態組織の複合組織化といった変態組織による強化、フェライト粒径をdとしたときのHall-Petchの式:σ=σ+kd-1/2(式中σ:応力、σ,k:材料定数)で表される細粒化強化、圧延などによる加工強化といった組織的ないし構造的改質を単独でまたは複数を組み合わせて行うことができる。
このような高強度冷延鋼板の組成としては、例えば、C:0.1〜0.4質量%、Si:0〜2.5質量%、Mn:1〜3質量%、P:0〜0.05質量%、S:0〜0.005質量%、残部がFeおよび不可避的不純物であるもの、さらに、これにCu、Ti、V、Al、Crなどの1種または2種以上を添加したもの、などを例示できる。
また、高強度冷延鋼板として商業的に入手可能なものとしては、例えば、JFE−CA1180、JFE−CA1370、JFE−CA1470、JFE−CA1180SF、JFE−CA1180Y1、JFE−CA1180Y2(以上、JFEスチール(株)製)、SAFC1180D(新日鐵住金(株)製)などが非限定的に例示できる。
また、基材である鋼板の板厚も特に限定されないが、0.8〜2.5mm程度、より好ましくは1.2〜2.0mm程度が適当である。
一般に自動車や建材用の高強度部材には、耐食性を高める目的から亜鉛系めっき鋼板が採用されるが、亜鉛系めっきは腐食過程において多くの水素を発生させるため、遅れ破壊特性に悪影響を与える。このため、亜鉛系めっき鋼板は本発明の基材鋼板として好ましくない。
本発明者らの研究および検討結果によれば、腐食過程における鋼板内部への水素侵入は、乾燥湿潤が繰り返される腐食環境下において、鋼板の乾燥過程におけるpHの低下が大きく寄与していると考えられる。大気環境で鋼板に付着する塩分としては、海水からの飛来塩分や路面の凍結防止剤として散布される融雪塩などが挙げられる。これらの塩分が湿度上昇や路面水の付着により吸水することで水膜を形成し、鋼板を腐食させる。初期の塩水は通常の環境においては中性であるが、腐食反応に伴いpHは約9まで上昇する。その後、湿度低下に伴い水膜が減少し、塩化物濃度が高くなることで溶液のpHは低下し、鋼板への水素侵入量が増加する。すなわち、水素侵入を抑制するためには、腐食過程でのpH低下を抑制することが重要である。
このため本発明の鋼板は、引張強度が1180MPa以上である鋼板表面に、pH緩衝性を有するアニオン化合物を含有する皮膜を形成することで、腐食過程でのpH低下を抑制し、遅れ破壊を抑制できる特性を具備させるようにするものである。ここで、pH緩衝性は物質の種類により大きく異なるが、本発明者らによる検討の結果、0.1NのNa塩の場合(すなわち、アニオン化合物がNa塩のアニオンであると仮定して、その0.1NのNa塩水溶液の場合)にpH3〜6.5の範囲でpH緩衝性を有するアニオン化合物(x)を皮膜中に含有させる必要があることが判った。これは腐食過程において鋼板に付着した水膜がpH9〜pH2の範囲で変化するためであり、pH3未満でpH緩衝性を示す物質の場合には、たとえ腐食過程での水膜がpH緩衝性を示したとしても、割れ発生に十分な量の水素が侵入するため好ましくない。一方、pH6.5より大きい範囲は、水素侵入する量が少ない環境であるため、pH6.5より大きい範囲でpH緩衝性を示す物質の場合は水素侵入の抑制効果が小さいため好ましくない。
このため本発明の高強度鋼板は、引張強度が1180MPa以上の鋼板の表面に、0.1NのNa塩の場合にpH3〜6.5の範囲でpH緩衝性を有するアニオン化合物(x)を含有する皮膜を形成するものである。
ここで、アニオン化合物(x)が有するpH緩衝性は、0.1mol/Lのアニオン化合物のNa塩(水溶液)に0.1mol/Lの塩酸を滴下し、pHが3となる塩酸滴下量が、純水に上記0.1mol/Lの塩酸を滴下した場合の塩酸滴下量に比べて30倍以上であるようなpH緩衝性能であることが好ましい。
なお、本発明において、pH3〜6.5の範囲でpH緩衝性を有するとは、pH3〜6.5の範囲内の任意のpH領域(範囲)においてpH緩衝性を有すればよいことを意味し、pH3〜6.5の全ての領域でpH緩衝性を有する必要はない。
0.1NのNa塩の場合にpH3〜6.5の範囲でpH緩衝性を有するアニオン化合物(x)(以下、説明の便宜上、単に「pH緩衝性を有するアニオン化合物(x)」という)の具体例としては、例えば、モリブデン酸、タングステン酸、メタクリル酸、サリチル酸、マレイン酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸、酢酸などが挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。アニオン化合物がpH3〜6.5の範囲でpH緩衝性を示すかどうかは、当該アニオン化合物を溶解させ、例えば0.1Nの水酸化ナトリウムでpHを上昇させた場合の添加量に対する停滞域で評価できるが、酸解離定数pKaの±1でpH緩衝性が高くなることが知られているため、pKaが3〜6.5の間にあるアニオン化合物のNa塩として判断することもできる。例えば、上述したアニオン化合物のpKaは、それぞれモリブデン酸が[3.6、3.9]、タングステン酸が[4.6、3.5]、メタクリル酸が[4.7]、サリチル酸が[3.0]、マレイン酸が[1.9、6.3]、コハク酸が[4.0、5.2]、リンゴ酸が[3.4、5.1]、クエン酸が[3.1、4.8、6.4]、酢酸が[4.6]であり、多段解離する場合はいずれかのpKaが3〜6.5の範囲であればよい。一方、リン酸のpKaは[2.2、7.2、12.7]であり、いずれも3〜6.5の範囲外である。通常、これらのアニオン化合物(x)は、当該アニオンの金属塩(例えば、Na、Ca、Feなどをカチオンとする金属塩)を皮膜形成用の処理液中に添加することにより、皮膜中に含有させることができる。
腐食過程で生成する水素によって低下するpHを抑制する効果を発現するためには、皮膜中でのアニオン化合物(x)の付着量がNa塩換算(当該アニオン化合物(x)がNa塩のアニオンであると仮定した場合のNa塩換算の付着量。以下同様)で100mg/m以上であることが必要である。一方、遅れ破壊を抑制するという観点からは付着量に上限はないが、付着量が多くなり過ぎると自動車などの塗装工程において密着性が劣化するため、自動車用途などに適用する鋼板の場合には、5000mg/m以下の付着量とすることが好ましい。
pH緩衝性を有するアニオン化合物(x)を含有する皮膜を鋼板表面に形成する形態に制限はなく、pH緩衝性を有するアニオン化合物(x)を単独で或いは他の無機成分などとともに含有する皮膜を形成してもよいし、pH緩衝性を有するアニオン化合物(x)を含有する有機皮膜(有機樹脂層)を形成してもよいが、後者の場合には、鋼板が腐食環境に曝されたときに有機樹脂層が腐食環境に対するバリア層として機能するため、特に優れた耐食性が得られるので、より好ましい。
アニオン化合物(x)を含有する有機樹脂層の場合には、有機樹脂層の膜厚が小さいと腐食環境に対するバリア層としての機能が低下するため、膜厚は0.3μm以上とすることが好ましい。一方、自動車用鋼板の場合、プレス加工により所定の形状に加工された後に、スポット溶接により鋼板どうしを組み付ける工程がある。このとき、有機樹脂層が厚すぎると溶接時の電流が流れず溶接不良となる場合があるため、鋼板の接合にスポット溶接を用いるような用途の場合は、有機樹脂層の膜厚は4.0μm以下とすることが好ましい。
ここで、有機樹脂層の膜厚は、皮膜断面を観察し、任意視野の複数箇所(例えば3箇所)で有機樹脂層の厚さ(基材鋼板面から有機樹脂層の表面までの厚さ)を測定し、それらの平均値をもって膜厚とする。断面加工の方法は特に限定されないが、例えばFIB加工などが挙げられる。
有機樹脂層に用いる有機樹脂の種類に特に制限はなく、例えば、エポキシ系樹脂(エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂など)、ウレタン樹脂、アルキド樹脂、アクリル系樹脂、エチレン樹脂(ポリオレフィン樹脂)、ポリエステル樹脂、ポリブタジエン樹脂、アミノ樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂、シリコン樹脂などが挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。また、これらのなかで、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、エチレン系樹脂が、腐食因子である水分や塩化物をバリアする効果が高いため特に好ましい。
また、本発明の高強度鋼板の他の形態としては、以下のようなものが挙げられる。
(i)鋼板の表面に、pH緩衝性を有するアニオン化合物(x)を含有する下層皮膜を有し、その上層に有機樹脂層を有する鋼板。
(ii)鋼板の表面に、pH緩衝性を有するアニオン化合物(x)を含有する下層皮膜を有し、その上層にpH緩衝性を有するアニオン化合物(x)を含有する有機樹脂層を有する鋼板。
(iii)鋼板の表面に、特定の下層皮膜(例えば無機皮膜)を有し、その上層にpH緩衝性を有するアニオン化合物(x)を含有する有機樹脂層を有する鋼板。
上記(i)の鋼板では、下層皮膜中でのpH緩衝性を有するアニオン化合物(x)の付着量はNa塩換算で100mg/m以上であり、好ましくは5000mg/m以下である。また、上記(ii)の鋼板では、下層皮膜と有機樹脂層中でのpH緩衝性を有するアニオン化合物(x)の合計付着量はNa塩換算で100mg/m以上であり、好ましくは5000mg/m以下である。また、上記(iii)の鋼板では、有機樹脂層中でのpH緩衝性を有するアニオン化合物(x)の付着量はNa塩換算で100mg/m以上であり、好ましくは5000mg/m以下である。これらの理由は、上述した通りである。
上述した(i)、(ii)の形態の高強度鋼板において、pH緩衝性を有するアニオン化合物(x)を含有する下層皮膜は、さらにAl、Mg、Ca、Zn、V、Moの中から選ばれる金属の1種以上を含有することができ、これにより、本発明の効果をより高めることができる。その理由は必ずしも明らかではないが、Fe、Al、Mg、Ca、Zn、V、Moのカチオン種自体が遅れ破壊を抑制する効果を発現することに加えて、下層皮膜中に含有させたpH緩衝性を示すアニオン化合物(x)とAl、Mg、Ca、Zn、V、Moの1種以上のカチオン種が結合することで不溶性物質となり、腐食自体を抑制する効果を発現すること、などによるものと考えられる。
このような効果を発現させるためには、当該金属の合計付着量を10mg/m以上とする必要がある。一方、付着量が2000mg/mを超えると、上層側の皮膜との界面の密着性が劣化し、プレス加工時に剥がれを生じる恐れがあるため、付着量は2000mg/m以下とする必要がある。
また、上述した(iii)の形態の高強度鋼板において、下層皮膜は、Al、Mg、Ca、Zn、V、Moの中から選ばれる金属の1種以上を含有することができ、これにより、本発明の効果をより高めることができる。その理由は、Fe、Al、Mg、Ca、Zn、V、Moのカチオン種自体が遅れ破壊を抑制する効果を発現することに加えて、上層の有機皮膜中に含有させたpH緩衝性を示すアニオン化合物(x)とAl、Mg、Ca、Zn、V、Moの1種以上のカチオン種が結合することで不溶性物質となり、腐食自体を抑制する効果を発現すること、などによるものと考えられる。
このような効果を発現させるためには、当該金属の合計付着量を10mg/m以上とする必要がある。一方、付着量が2000mg/mを超えると、上層側の皮膜との界面の密着性が劣化し、プレス加工時に剥がれを生じる恐れがあるため、付着量は2000mg/m以下とする必要がある。
上述したAl、Mg、Caなどの金属は、通常、当該金属を含む金属塩を皮膜形成用の処理液中に添加することにより、皮膜中に含有させることができる。
鋼板表面に、pH緩衝性を有するアニオン化合物(x)を含有する皮膜を形成するには、pH緩衝性を有するアニオン化合物(x)を含有する処理液(水溶液)を鋼板表面にコーティングした後、加熱乾燥させる方法が採られる。
鋼板表面又は下層皮膜表面に、pH緩衝性を有するアニオン化合物(x)を含有する有機樹脂層を形成するには、有機樹脂を溶媒(水および/または有機溶剤)に溶解および/または分散させ、さらにpH緩衝性を有するアニオン化合物(x)を添加した処理液(樹脂溶液)を鋼板表面又は下層皮膜表面にコーティングした後、加熱乾燥させる方法が採られる。
また、処理液にpH緩衝性を有するアニオン化合物(x)を添加するには、当該アニオンの金属塩を処理液中に添加すればよい。
pH緩衝性を有するアニオン化合物(x)を含有する処理液(水溶液又は樹脂溶液)をコーティングする方法に特別な制限はなく、公知の方法、例えば、塗布方式、浸漬方式、スプレー方式のいずれでもよい。塗布方式では、ロールコーター(3ロール方式、2ロール方式など)、スクイズコーター、ダイコーターなどのいずれの塗布手段を用いてもよい。また、スクイズコーターなどによる塗布処理、浸漬処理、スプレー処理の後に、エアナイフ法やロール絞り法により塗布量の調整、外観の均一化、膜厚の均一化を行うことも可能である。コーティングした処理液を加熱乾燥する方法は任意であり、例えば、ドライヤー、熱風炉、高周波誘導加熱炉、赤外線炉等の手段を用いることができる。
皮膜中のpH緩衝性を有するアニオン化合物(x)の付着量は、例えば、(i)アニオン化合物を構成する元素やカチオン種を、蛍光X線を用いて既知の元素量を検量板として算出する方法、(ii)皮膜を塩酸などに溶解させ、ICPにより定量化する方法、などで測定することができる。上記(i)の方法では、皮膜を付与していない鋼板自体の元素量を予め測定しておき、皮膜を付与した後に当該元素を測定することで皮膜量として算出することができる。
また、インヒビターを入れた塩酸に浸漬し、所定時間ごとに質量変化を測定すると、皮膜の溶解と下地鋼板の溶解速度が大きく異なるため、溶解速度の変曲点の質量から皮膜量を算出することができる。
以上の測定法によれば、無機皮膜、有機皮膜にかかわりなく、皮膜中のpH緩衝性を有するアニオン化合物(x)の付着量を測定できる。
本発明において基材として使用される鋼板の製造方法は特に限定されない。本発明の理解を容易にするために、例えば、冷延鋼板の表面にpH緩衝性を有するアニオン化合物(x)を含有する皮膜(有機樹脂層である場合を含む。)を形成する場合における、製鋼からの一連のプロセスについて、一例を挙げて簡単に説明する。但し、基材となる鋼板の製造工程としては、以下の例示に限定されるものではない。
所定の成分組成の鋼を溶製し、常法に従い連続鋳造でスラブとする。次いで、得られたスラブを加熱炉中で1100〜1300℃の温度で加熱し、750〜950℃の仕上げ温度で熱間圧延を行い、500〜650℃にて巻き取る。これに続いて酸洗後、圧下率30〜70%の冷間圧延を行う。その後、必要に応じて、常法に従い、アルカリまたはアルカリと界面活性剤およびキレート剤との混合溶液による洗浄、電解洗浄、温水洗浄、乾燥を行う清浄化処理を行った後、650〜900℃にて加熱処理し、急速冷却を行い、鋼板の引張強度の調整を行う。さらに必要に応じて、常法に従い0.01〜0.5%程度の調質圧延を行うことで所望の引張強度を有する冷延鋼板を得る。
このようにして得られた冷延鋼板表面に、さきに述べた方法で処理液(水溶液又は樹脂溶液)をコーティングした後、加熱乾燥することにより皮膜を形成する。以上により、本発明の耐遅れ破壊性に優れた高強度鋼板を得ることができる。
素材鋼板として、C:0.19質量%、Si:0.4質量%、Mn:1.53質量%、P:0.011質量%、S:0.001質量%、残部Feおよび不可避的不純物からなる成分を有し、引張強度が1480MPa、板厚が1.6mmの冷延鋼板(冷間圧延ままの鋼板)を用いた。この冷延鋼板をトルエンに浸漬して5分間超音波洗浄を行った後、単層皮膜又は下層皮膜と有機樹脂層からなる複層皮膜を形成した。
pH緩衝性を有するアニオン化合物(x)を含有する皮膜は、アニオン化合物(x)を含有するNa塩水溶液を鋼板に塗布した後、IH加熱炉で到達板温が140℃となるように加熱乾燥して成膜した。このとき、溶液の濃度を変化させることにより成膜後のアニオン化合物(x)の付着量を変化させた。
また、pH緩衝性を有するアニオン化合物(x)を含有しない無機皮膜は、本発明例にあっては、前記アニオン化合物(x)を含有する皮膜の成膜前又は後に硝酸塩水溶液を鋼板に塗布した後、IH加熱炉で到達板温が140℃となるように加熱乾燥して成膜した。また、アニオン化合物(x)を含有しない無機皮膜を有する比較例にあっては、硝酸塩水溶液を鋼板に塗布した後、IH加熱炉で到達板温が140℃となるように加熱乾燥して成膜した。
有機樹脂層用には下記A1〜A4の有機樹脂を用い、いずれかの有機樹脂を含む処理液をロール方式による塗布法で塗布した後、到達板温が120℃となるようにIH加熱炉で加熱することで有機樹脂層を形成した。pH緩衝性を有するアニオン化合物(x)を含有する有機樹脂層を形成する場合には、有機樹脂を含む処理液に当該アニオンの金属塩を添加することで調製された、pH緩衝性を有するアニオン化合物(x)を含有する処理液を用いた。
A1:フッ素樹脂(旭硝子(株)製、商品名:ルミフロン LF552)
A2:ポリオレフィン樹脂(東邦化学工業(株)製、商品名:HYTEC S−3121)
A3:エポキシ系樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製、商品名:jER1009)
A4:エチレンアクリル樹脂(日本パーカライジング社製)
以上のようにして得られた各鋼板について、以下の特性を評価した。その結果を、皮膜構成とともに、表1〜表4に示す。
皮膜中でのpH緩衝性を有するアニオン化合物(x)の付着量の測定は、蛍光X線を用い、付与前後のNa量の差異から算出した。また、皮膜中でのAl、Caなどの金属の付着量の測定も同様に蛍光X線を用い、付与前後の金属量の差異から算出した。
有機樹脂層の膜厚の測定は、FIB加工により得られた断面をSEM観察し、任意視野の3箇所で有機樹脂層の厚さ(基材鋼板面から有機樹脂層の表面までの厚さ)を測定し、それらの平均値を膜厚とした。
(1)加工性の評価
発明例および比較例の鋼板をそれぞれ幅35mm×長さ100mmにせん断した後、せん断時の残留応力を除去するために幅が30mmとなるまで研削加工を施し、試験片を作製した。この試験片に対して、3点曲げ試験機を用いて180°曲げ加工を施し、加工性を評価した。この180°曲げ加工での曲げの曲率半径は4mmRとした。加工性の評価は、曲げ加工後の加工部にダンプロンテープ(「ダンプロン」は登録商標)を接着・剥離し、そのテープを銅板に接着させた後に蛍光X線を用いて前記皮膜量の計測に採用した成分の強度変化を測定し、その強度変化から付与皮膜の剥れ量を求め、以下の基準により評価した。この評価では、○,△を良好とし、×はプレス欠陥となるため不良とした。なお、下記の皮膜量とは単層皮膜、複層皮膜(下層皮膜+有機樹脂層)を問わず皮膜全体の付着量のことである。
〇:皮膜の剥れなし
△:皮膜の剥れ量が皮膜量の5%未満
×:皮膜の剥れ量が皮膜量の5%以上
(2)耐遅れ破壊性の評価
上記(1)と同様にして研削加工を施して作製した試験片を曲率半径4mmRで180°曲げ加工して曲げ試験片とし、図1に示すように、この曲げ試験片1を内側間隔が8mmとなるようにしてボルト2とナット3で拘束して試験片形状を固定し、耐遅れ破壊性評価用試験片を得た。このようにして作製した耐遅れ破壊性評価用試験片に対し、米国自動車技術会で定めたSAE J2334に規定された、乾燥・湿潤・塩水浸漬の工程からなる複合サイクル腐食試験(図2参照)を、最大40サイクルまで実施した。各サイクルの塩水浸漬の工程前に目視により割れの発生の有無を調査し、割れ発生サイクルを測定した。また、本試験は、各鋼板3検体ずつ実施し、その平均値をもって評価を行った。評価はサイクル数から、以下の基準により評価した。なお、表中の割れサイクル数40超とは、本実施例の結果では、割れが発生しなかったことを示す。
◎:30サイクル以上
○:10サイクル以上30サイクル未満
×:10サイクル未満
(3)導電性の評価
溶接性の指標として導電性を評価した。発明例および比較例の鋼板の試験片について、三菱化学アナリテック(株)製「ロレスタGP ASP端子」を用い表面抵抗値を測定し、表面抵抗値が10−4Ω以下となる割合(%)により、以下の判定基準で評価した。
○:80%以上
△:60%以上80%未満
×:60%未満
(4)耐食性の評価
発明例および比較例の鋼板を130mm×70mmと40mm×110mmにせん断して平板試験片とし、この2枚の平板試験片の評価面どうしを重ね合わせてスポット溶接により接合し、図3に示すような耐食性試験用試験片とした。この耐食性試験用試験片に、日本パーカライジング(株)製「パルボンド」を用い、標準条件(35℃、120秒)で浸漬による化成処理を施し、次いで、関西ペイント(株)製の電着塗料「GT−10」を用いた電着塗装と焼付処理を行った。電着塗装の塗膜厚は15μmとし、市販の電磁膜厚計を用いて膜厚の測定を行った。
この電着塗装を施した耐食性試験用試験片に対し、米国自動車技術会で定めたSAE J2334に規定された、乾燥・湿潤・塩水浸漬の工程からなる複合サイクル腐食試験(図2参照)を30サイクル実施し、下記の手順で耐食性の評価を行った。
(1)スポット溶接部を打ち抜き、合わせ構造部を分解する
(2)塗装の剥離(ネオス社製「デスコート300」15分浸漬)
(3)めっき・錆の除去(希薄塩酸浸漬)
(4)合わせ構造部に生じた最大侵食深さをポイントマイクロメーターで測定
耐食性は、冷延鋼板ままの最大侵食深さを1とした場合の最大侵食深さ比(A)を算出し、以下のように評価した。
◎:A≦0.6
○:0.6<A≦0.95
△:0.95<A≦1.2
×:1.2<A
Figure 2018188707
Figure 2018188707
Figure 2018188707
Figure 2018188707
表1〜表4において、No.1の鋼板は、pH緩衝性を有するアニオン化合物(x)を含む皮膜を形成していない比較例(冷延鋼板ままの比較例)であるが、早期に遅れ破壊が発生しており、遅れ破壊特性が低いことが判る。
No.2〜13の鋼板は、pH緩衝性を有するアニオン化合物(x)を含有する単層皮膜を形成した例である。このうち、No.2〜9の鋼板は、pH緩衝性を有するアニオン化合物(x)としてクエン酸を含む皮膜を塗布法により形成したものであるが、発明例であるNo.3〜8の鋼板は、いずれも皮膜剥れがなく、耐遅れ破壊性も良好である。これに対して、pH緩衝性を有するアニオン化合物(x)の付着量が本発明条件を下回るNo.2の鋼板は、冷延鋼板ままの比較例であるNo.1の鋼板に較べて、耐遅れ破壊性が若干向上しているが、発明例であるNo.3〜8の鋼板に較べて耐遅れ破壊性が劣っている。また、pH緩衝性を有するアニオン化合物(x)の付着量が本発明の好適条件を超えるNo.9の鋼板は、曲げ加工で皮膜の剥れが認められることから、プレス加工がなされる鋼板には適していないことが判る。
No.10〜13の鋼板は、皮膜中のpH緩衝性を有するアニオン化合物(x)としてクエン酸以外のものを用いた発明例であるが、いずれも良好な耐遅れ破壊性と加工性が得られている。また、No.14の鋼板は、pH緩衝性を有するアニオン化合物(x)を含有する単層皮膜を浸漬法で形成した発明例であるが、良好な耐遅れ破壊性と加工性が得られている。
No.15の鋼板は、pH3〜6の範囲でpH緩衝性を有するアニオン化合物(x)ではないリン酸を含有する皮膜を形成した比較例であり、また、No.16〜18の鋼板は、Al、Mg又はCa(いずれも硝酸塩として添加)のみを含有する無機皮膜を形成した比較例であるが、いずれも早期に遅れ破壊が発生しており、遅れ破壊特性が低いことが判る。
No.19〜30、No.37〜39の鋼板は、pH緩衝性を有するアニオン化合物(x)を含有する有機樹脂層を形成した実施例である。このうち、No.19〜22、No.24、No.25、No.28〜30の鋼板は、有機樹脂がエポキシ系樹脂であって、pH緩衝性を有するアニオン化合物(x)としてクエン酸を含有する発明例であり、いずれも良好な耐遅れ破壊性と加工性が得られているが、膜厚が0.3μm以上の場合に特に優れた耐食性が得られており、より好ましいことが判る。一方、有機樹脂層の膜厚が4.5μmであるNo.30は、導電性が低いためスポット溶接を適用する用途には不向きであることが判る。No.26、No.27の鋼板は、有機樹脂層中のpH緩衝性を有するアニオン化合物(x)としてクエン酸以外のものを用いた発明例であるが、いずれも良好な耐遅れ破壊性と加工性が得られている。一方、No.23の鋼板は、pH緩衝性を有するアニオン化合物(x)の付着量が本発明条件を下回る比較例であるが、発明例であるNo.22の鋼板に較べて耐遅れ破壊性が劣っている。
No.37〜39の鋼板は、エポキシ樹脂以外の有機樹脂を用いた発明例であるが、いずれも良好な耐遅れ破壊性と加工性が得られている。ただし、フッ素樹脂を用いたNo.39の鋼板の耐食性は、皮膜を付与しない場合に比べ十分向上しているが、エポキシ系樹脂やアクリル系樹脂を用いた他の発明例に比べ若干劣っている。
No.31〜36の鋼板は、鋼板表面にCa(硝酸塩として添加)を含有する無機皮膜を形成した上で、No.22の鋼板と同様のpH緩衝性を有するアニオン化合物(x)を含有する有機樹脂層を形成した発明例であるが、加工性は良好であり、かつ遅れ破壊が全く発生せず、より優れた耐遅れ破壊性が得られることが判る。
No.40〜56の鋼板は、pH緩衝性を有するアニオン化合物(x)を含有する下層皮膜を形成し、その上層に有機樹脂層を形成した実施例であるが、発明例であるNo.40〜49、No.51〜56の鋼板は、いずれも良好な耐遅れ破壊性と加工性が得られている。このうち、No.44〜49、No.51〜56の鋼板は、鋼板表面にNo.40の鋼板と同様のpH緩衝性を有するアニオン化合物(x)を含有し、さらにAl、Mg、Caなど(いずれも硝酸塩として添加)の金属を含有する下層皮膜と有機樹脂層(上層皮膜)を形成した発明例であるが、適量の金属を含有することにより、加工性は良好であり、かつ遅れ破壊が全く発生せず、より優れた耐遅れ破壊性が得られることが判る。No.46〜49、No.51〜53の鋼板は、Caの付着量を変えた発明例であるが、Ca量が10〜2000mg/mの場合には遅れ破壊が全く発生せず、より好適な遅れ破壊特性が得られることが判る。これに対して、Caの付着量が2000mg/mを超えるNo.53の鋼板は、プレス加工時に問題になる量ではないが、Caの付着量が多いため一部剥離が発生し、遅れ破壊特性もNo.52(Caの付着量2000mg/m)の鋼板に比べて劣っていることが判る。これは、皮膜の一部が脱離することで腐食が発生したためであると考えられる。ただし、実用上問題のない遅れ破壊特性である。一方、No.50の鋼板は、pH緩衝性を有するアニオン化合物(x)の付着量が本発明条件を下回る比較例であるが、発明例であるNo.49の鋼板に較べて耐遅れ破壊性が劣っている。
No.57〜62の鋼板は、鋼板表面にpH緩衝性を有するアニオン化合物(x)を含有する下層皮膜を形成し、その上層にpH緩衝性を有するアニオン化合物(x)を含有する有機樹脂層を形成した発明例であり、いずれも良好な耐遅れ破壊性と加工性が得られている。また、No.60〜62の鋼板は、鋼板表面にNo.57〜59の鋼板と同様のpH緩衝性を有するアニオン化合物(x)を含有し、さらにCa(硝酸塩として添加)を含有する下層皮膜とpH緩衝性を有するアニオン化合物(x)を含有する有機樹脂層(上層皮膜)を形成した発明例であるが、加工性は良好であり、かつ遅れ破壊が全く発生せず、より優れた耐遅れ破壊性が得られることが判る。
また、No.39と同様に、有機樹脂層にフッ素樹脂を用いたNo.59、No.62の鋼板の耐食性は、エポキシ系樹脂やアクリル系樹脂を用いた他の発明例に比べ若干劣っている。
1 試験片
2 ボルト
3 ナット

Claims (9)

  1. 引張強度が1180MPa以上の鋼板の表面に、0.1NのNa塩の場合にpH3〜6.5の範囲でpH緩衝性を有するアニオン化合物(x)を含有する皮膜を有し、該皮膜中のアニオン化合物(x)の付着量が前記Na塩換算で100mg/m以上であることを特徴とする引張強度が1180MPa以上である耐遅れ破壊性に優れた鋼板。
  2. 引張強度が1180MPa以上の鋼板の表面に、0.1NのNa塩の場合にpH3〜6.5の範囲でpH緩衝性を有するアニオン化合物(x)を含有する有機樹脂層を有し、該有機樹脂層中のアニオン化合物(x)の付着量が前記Na塩換算で100mg/m以上であることを特徴とする引張強度が1180MPa以上である耐遅れ破壊性に優れた鋼板。
  3. 引張強度が1180MPa以上の鋼板の表面に、0.1NのNa塩の場合にpH3〜6.5の範囲でpH緩衝性を有するアニオン化合物(x)を含有する下層皮膜を有し、該下層皮膜の上層に有機樹脂層を有し、前記下層皮膜中のアニオン化合物(x)の付着量が前記Na塩換算で100mg/m以上であることを特徴とする引張強度が1180MPa以上である耐遅れ破壊性に優れた鋼板。
  4. 引張強度が1180MPa以上の鋼板の表面に、0.1NのNa塩の場合にpH3〜6.5の範囲でpH緩衝性を有するアニオン化合物(x)を含有する下層皮膜を有し、該下層皮膜の上層に、0.1NのNa塩の場合にpH3〜6.5の範囲でpH緩衝性を有するアニオン化合物(x)を含有する有機樹脂層を有し、前記下層皮膜及び有機樹脂層中のアニオン化合物(x)の合計付着量が前記Na塩換算で100mg/m以上であることを特徴とする引張強度が1180MPa以上である耐遅れ破壊性に優れた鋼板。
  5. 下層皮膜が、さらに、Al、Mg、Ca、Zn、V、Moの中から選ばれる金属の1種以上を含有し、該金属の合計付着量が10〜2000mg/mであることを特徴とする請求項3又は4に記載の引張強度が1180MPa以上である耐遅れ破壊性に優れた鋼板。
  6. 引張強度が1180MPa以上の鋼板の表面に、Al、Mg、Ca、Zn、V、Moの中から選ばれる金属の1種以上を含有し、該金属の合計付着量が10〜2000mg/mである下層皮膜を有し、該下層皮膜の上層に、0.1NのNa塩の場合にpH3〜6.5の範囲でpH緩衝性を有するアニオン化合物(x)を含有する有機樹脂層を有し、該有機樹脂層中のアニオン化合物(x)の付着量が前記Na塩換算で100mg/m以上であることを特徴とする引張強度が1180MPa以上である耐遅れ破壊性に優れた鋼板。
  7. 有機樹脂層の膜厚が0.3〜4.0μmであることを特徴とする請求項2〜6のいずれかに記載の引張強度が1180MPa以上である耐遅れ破壊性に優れた鋼板。
  8. 有機樹脂層の有機樹脂がエポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、エチレン樹脂の中から選ばれる1種以上からなることを特徴とする請求項2〜7のいずれかに記載の引張強度が1180MPa以上である耐遅れ破壊性に優れた鋼板。
  9. アニオン化合物(x)の付着量が前記Na塩換算で5000mg/m以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の引張強度が1180MPa以上である耐遅れ破壊性に優れた鋼板。
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