JP2003089881A - 無機潤滑皮膜を有する亜鉛系めっき鋼板とその製造方法 - Google Patents

無機潤滑皮膜を有する亜鉛系めっき鋼板とその製造方法

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JP2003089881A
JP2003089881A JP2001281884A JP2001281884A JP2003089881A JP 2003089881 A JP2003089881 A JP 2003089881A JP 2001281884 A JP2001281884 A JP 2001281884A JP 2001281884 A JP2001281884 A JP 2001281884A JP 2003089881 A JP2003089881 A JP 2003089881A
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Yoshihiro Kawanishi
義博 川西
Yukio Osugi
幸生 大杉
Masahiro Morikawa
雅博 森川
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Sumitomo Metal Industries Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 マスチック型を含む多様な接着剤で接着で
き、プレキュア状態でも十分な接着強度を示し、T字剥
離試験でも高い接着強度を示すと同時に、加工性や溶接
性も十分な、無機潤滑皮膜を形成した亜鉛系めっき鋼板
を提供する。 【解決手段】 亜鉛または亜鉛合金めっき表面に、リン
酸および/またはホウ酸の水溶液に酸化剤として過酸化
物を酸に対するモル比が 0.1〜3.0 となるように添加し
た、pH 0.5〜6.5 の水溶液を接触させ、40〜300 ℃で
乾燥して、リン酸亜鉛および/またはホウ酸亜鉛を主体
とし、最表層におけるZn−O結合に帰属するZnの元素占
有率が16at%以下、Oの元素占有率が64at%以下の無機
潤滑皮膜を10〜1000 mg/m2の付着量となるように形成す
る。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、過酷なプレス成形
にも耐えうる優れた加工性を確保でき、かつ接着性とス
ポット溶接性が低下しない無機潤滑皮膜を設けた、亜鉛
めっき鋼板と亜鉛合金めっき鋼板(この両者を、本発明
では亜鉛系めっき鋼板と総称する)およびその製造方法
に関する。
【0002】本発明に係る無機潤滑皮膜を有する亜鉛系
めっき鋼板は、接着強度の弱い接着剤 (例えば、鋼板補
強シート接着剤、高防錆スポットシーラ用接着剤、高発
泡性充填シール剤等のマスチック型接着剤) を用いた接
着や、仮止め (プレキュア)状態およびT字剥離試験で
も安定した接着性を確保でき、極めて接着性に優れてい
ることを特徴とする。
【0003】
【従来の技術】電気亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼
板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、Zn−Ni合金電気めっき
鋼板、Zn−Al合金溶融めっき鋼板等で代表される亜鉛系
めっき鋼板は、その優れた耐食性から、自動車、家電、
建材等に広く使用されており、今後もその需要はますま
す増大する傾向にある。
【0004】この需要の増大に伴って、亜鉛系めっき鋼
板には、耐食性以外のさまざまな性能が求められるよう
になってきている。例えば、自動車車体に使用する亜鉛
系めっき鋼板には、プレス成形性に加え、組立てに必要
なスポット溶接性や接着性が要求される。
【0005】しかし、亜鉛系めっき鋼板は、軟質な亜鉛
の存在により、めっき剥離や金型焼付きといった現象が
起こり易いので、自動車車体のように高度のプレス成形
性が要求される用途に対しては、加工性が十分ではない
という問題があった。そのため、鋼板と金型の一方また
は両方に潤滑油を塗油して、両者の接触界面に油膜を介
在させ、加工性を高めるという方法が通常は採られる。
ところが、塗油では、加工性が厳しい条件下で金型と鋼
板が接触する際に油膜切れを起こすことから、充分、か
つ安定的な成形性を確保することが困難である。
【0006】このような背景から、例えば特開平1−17
2578号公報、特開平3−183797号公報および特開平3−
249180号公報には、半金属酸化物の無水アルカリ金属
塩、またはMn酸化物中にリン酸とMo、WもしくはVの酸
化物を共存させた皮膜からなる無機系潤滑皮膜を亜鉛系
めっき鋼板表面に形成させて、めっき皮膜と金型との金
属接触を防止することにより、プレス成形性を高めるこ
とが提案されている。
【0007】特許第2,819,427 号には、亜鉛系めっき鋼
板表面にアモルファス状のリン酸化物皮膜を1〜500 mg
/m2 形成してプレス成形性を向上させ、化成処理性を確
保することが開示されている。特許第2,691,797 号と特
許第2,826,902 号には、凝着防止機能を有する金属酸化
物皮膜とコロガリ潤滑機能有するPまたはBの酸化物皮
膜を共存させた被覆を形成した、プレス成形性と化成処
理性に優れた亜鉛系めっき鋼板が提案されている。
【0008】しかし、以上の特許公報に記載されている
従来の無機潤滑皮膜はいずれも、亜鉛系めっき鋼板の加
工性の向上と、さらには化成処理性の確保を目指したも
のであり、接着剤による接着性については何ら検討され
ていない。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】自動車車体用途にとっ
て、亜鉛系めっき鋼板の加工性の向上は非常に重要では
あるが、自動車車体の組立には、溶接に加えて、多種多
様の接着剤が使用されるようになってきているため、接
着剤適合性も求められるようになってきた。具体的に
は、接着剤適合性に優れている自動車車体用の鋼板と同
様、あらゆる接着剤が適用可能となるような広い接着剤
適合性が要求される。
【0010】自動車車体用に使用される接着剤には、大
きく分けて2種類の接着剤がある。即ち、構造用接着剤
や防錆シーラントのような比較的接着強度の高い車体構
造用接着剤と、パネルの補強や溶接部の防錆性の向上を
目的とした比較的接着強度の弱いマスチック型接着剤と
である。
【0011】一般に、前述したような従来の無機潤滑皮
膜は、接着剤との適合性が極めて悪く、このような無機
潤滑処理を施した亜鉛系めっき鋼板を自動車車体用鋼板
として適用する際には、接着性の確保が大きな問題とな
る。
【0012】かかる接着性の改善を目的として、例えば
特開平8−296058号公報には、無機潤滑処理の前に、そ
の前処理としてアルカリ脱脂等でめっき表面を活性化
し、無機潤滑皮膜とめっき層との密着性を向上させて、
接着剤適合性を確保することが提案されている。
【0013】しかし、この活性化前処理は、接着強度の
高い車体構造用接着剤に対しては接着性の改善効果が期
待できるが、接着強度の弱い接着剤、特に合成ゴムを主
成分としたマスチック型接着剤においては、充分な接着
強度を確保できないという問題があり、必ずしも接着性
を充分改善できたとは言えない。
【0014】自動車車体における接着剤の適用方法とし
て、比較的焼き付け温度が低い状態で仮止めした後、塗
装後の焼き付けで充分に硬化させて、接着強度を確保す
るという2段焼き付けを行うことがある。この仮止め段
階のプレキュア状態 (接着剤が充分に硬化しておらず、
接着強度が弱い状態) で、従来の無機潤滑処理亜鉛系め
っき鋼板では、その後の取り扱いに耐える充分な接着強
度を確保できない。
【0015】さらに、従来の無機潤滑処理亜鉛系めっき
鋼板は、一般的に実施されているせん断引張り試験のよ
うな、接着剤に局部的な応力集中が起こりにくい試験方
法では、充分に高い接着強度を示す場合があっても、T
字剥離試験のような、接着剤に局部的応力集中がかかり
やすい試験方法では、接着強度が極端に低下するため、
自動車車体の部位によっては必要な接着強度を確保でき
ないことがある。
【0016】本発明は、以上に述べたような亜鉛系めっ
き鋼板の従来の無機潤滑処理技術の問題点が解消され、
マスチック型を含む多様な接着剤で接着した場合に高い
接着強度を確保でき、プレキュア状態でも十分な接着強
度を示し、かつT字剥離試験でも高い接着強度を示すと
同時に、加工性や溶接性も十分な、無機潤滑処理を施し
た亜鉛系めっき鋼板とその製造方法を提供することを課
題とする。
【0017】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、亜鉛系め
っき鋼板の無機潤滑処理の検討にあたって、従来の無機
潤滑皮膜がもつ極めて優れた加工性を損なうことなく、
その問題点であった接着性の改善について検討を行っ
た。
【0018】具体的には、マスチック型接着剤、プレキ
ュア状態、T字剥離試験といった、接着強度の確保が厳
しい接着条件下において、従来の車体用鋼板と同等の接
着強度を確保することができるように接着剤適合性を改
善することを目指して、亜鉛系めっきと酸素酸との反応
により形成される酸素酸塩を主体とする無機潤滑皮膜が
接着性に与える影響を調査し、皮膜の改質を検討した。
【0019】その結果、この種の無機潤滑皮膜を有する
亜鉛系めっき鋼板の接着、剥離試験では、無機潤滑皮膜
/接着剤の界面近傍で剥離が起こっており、無機潤滑皮
膜の表面に亜鉛酸化物を含有する脆弱な表層が存在し、
この表層を起点として、接着剤との界面近傍で剥離が広
がることが判明した。
【0020】この亜鉛酸化物を含有する脆弱な表層は、
次のメカニズムにより無機潤滑皮膜の表面に生成するも
のと推測される。酸素酸塩を主体とする無機潤滑皮膜
は、亜鉛系めっき鋼板のめっき表面を、ホウ酸、リン酸
等の酸素酸の水溶液と接触させることにより形成され
る。使用する酸素酸水溶液が酸性であるため、処理中に
亜鉛系めっき皮膜からZnが溶解し (Zn→Zn2++2e- ) 、
生成したZn2+と酸素酸イオンとが反応して亜鉛酸素酸塩
(リン酸亜鉛、ホウ酸亜鉛等) が生成し、これがめっき
表面に析出することで、亜鉛酸素酸塩を主体とする無機
潤滑皮膜が形成される。しかし、無機潤滑皮膜が析出す
るより多量のZn2+がめっき皮膜の溶解によって供給され
ると、過剰のZn2+は酸素酸イオンと析出反応できないま
ま、酸素酸塩の表面に残留する。この過剰のZn2+は、そ
の後の無機潤滑皮膜の固化段階である焼付け、乾燥時
に、酸素酸イオンと反応しないまま乾燥する際に、過剰
の酸素を含んだ水酸化亜鉛になり、場合によりさらに脱
水して酸化亜鉛になると予想される。そのため、生成し
た無機潤滑皮膜の表層には、酸素酸塩になっていない過
剰の酸素を含んだ亜鉛酸化物(水酸化亜鉛も包含する)
が、表面にブリードした形で生成していると推測され
る。
【0021】この種の無機潤滑皮膜のバルク (本体部
分) は、Zn2+と酸素酸との反応で形成された単量体の酸
素酸塩 (オルト酸塩) および/またはこれが縮合した多
量体の酸素酸塩 (ポリ酸塩もしくはメタ酸塩) を主体と
し、非常に緻密な皮膜となっている。一方、過剰の酸素
を含んだ亜鉛酸化物が混在する表層は、緻密さに欠け、
バルクに比べて脆弱であるため、接着剤との剥離起点と
成りやすい。
【0022】従って、無機潤滑皮膜に良好な接着性を付
与するには、過剰の酸素を含んだ亜鉛酸化物を含有する
表層の生成を可及的に抑制することが必要である。その
ためには、表層での亜鉛酸化物の生成原因である過剰の
Zn2+を極力少なくなるようにすればよい。この過剰のZn
2+の生成を抑えるには、無機潤滑皮膜の形成のために酸
素酸溶液と接触させる際にめっき皮膜の溶解 (Zn2+生成
量) を適度に抑制するか、溶解したZn2+を効果的に酸素
酸塩に変換し、形成された無機潤滑皮膜中に酸素酸塩と
して固定することが必要である。
【0023】めっき皮膜の溶解を抑制するには、接触さ
せる酸素酸水溶液のpHを上げることが効果的である
が、液pHが高くなりすぎると、水溶液に接触した際
に、めっき皮膜から亜鉛の溶解が生じにくくなり、酸素
酸塩の皮膜の形成が困難となって、無機潤滑皮膜の形成
が阻害されるため、めっき皮膜をある程度溶解できる溶
液pHに制御することが必要である。
【0024】Zn2+を無機潤滑皮膜中に固定するには、酸
素酸の皮膜構造変化を利用する方法が有効である。すな
わち、酸素酸塩の皮膜構造は、酸素酸の脱水縮合反応の
程度により、単量体の酸素酸塩 (オルト酸塩) から、縮
合により直鎖状に結合した多量体の酸素酸塩 (ポリ酸
塩) 、さらに縮合が進んでは網目状の3次元構造に結合
した多量体の酸素酸塩 (メタ酸塩) へと変化する。酸素
酸塩の皮膜構造の縮合度が高くなるほど、酸素酸を形成
している中心元素の単位量当たりに対して、析出反応に
必要なZn量が多くなるために、Zn2+を亜鉛塩として皮膜
中に効果的に取り込むことができ、過剰のZn2+量が少な
くなり、接着性が改善される。このような、酸素酸塩の
皮膜構造の縮合度を高めるには、溶液中に酸化剤を添加
するか、または乾燥時に加熱して、脱水縮合反応を促進
させることが有効である。
【0025】乾燥前に存在する過剰のZn2+を少なくする
方法として、無機潤滑皮膜を乾燥する前に水洗すること
も考えられるが、析出した無機潤滑皮膜も洗い流されて
しまうので、適正量の無機潤滑皮膜を形成することが困
難となる。また、水洗により発生する廃棄液の処理の問
題もある。従って、水洗ではなく、前述した液pHの制
御や、酸素酸の皮膜構造の変化を利用した適正Zn量を無
機潤滑皮膜中に取り込む方法が好ましい。
【0026】以上の知見に基づいて完成した本発明は、
亜鉛または亜鉛合金めっき表面に、めっき皮膜との反応
により形成された酸素酸塩を主体とする無機潤滑皮膜を
有する、亜鉛系めっき鋼板であって、前記無機潤滑皮膜
の最表層において、Zn−O結合に帰属するZnの元素占有
率が16at%以下、Oの元素占有率が64at%以下であるこ
とを特徴とする、無機潤滑皮膜を有する亜鉛系めっき鋼
板である。
【0027】好適態様において、形成された無機潤滑皮
膜の付着量は 100〜2000 mg/m2の範囲であり、酸素酸塩
は好ましくはリン酸塩および/またはホウ酸塩である。
本発明の無機潤滑皮膜を有する亜鉛系めっき鋼板は、亜
鉛系めっき鋼板 (即ち、亜鉛めっき鋼板または亜鉛合金
めっき鋼板) のめっき表面を、pH 0.6〜5.0の酸素酸
主体の溶液に接触させた後、乾燥することを特徴とする
方法により製造することができる。
【0028】この方法の好適態様において、前記溶液
は、酸素酸としてリン酸および/またはホウ酸を含有
し、さらに酸化剤/酸素酸のモル比が0.05〜1.50となる
割合で酸化剤を含有する。乾燥工程における乾燥温度は
40〜300 ℃の範囲とすることが好ましい。
【0029】前述したように、酸素酸と亜鉛との反応に
より形成された酸素酸塩を主体とする無機潤滑皮膜を有
する亜鉛系めっき鋼板において、その接着性を阻害する
脆弱な表層は、皮膜の乾燥、焼付け時に過剰のZn2+が酸
化亜鉛や水酸化亜鉛に変化することで生成する亜鉛酸化
物を含有している。この表層は、無機潤滑皮膜のバルク
をなす亜鉛酸素酸塩を主体とする皮膜の組成とは異な
り、非常に過剰の酸素を含んだ亜鉛酸化物の混在によ
り、バルク層より酸素量が多い層となっている。
【0030】無機潤滑皮膜の表層に、バルクとは結合状
態が異なっている表層が存在することは、無機潤滑皮膜
の表面を、少しずつ (例、5秒間毎) スパッタリングし
ながら、XPSにより表面分析を行うことで確認するこ
とができる。即ち、XPSにより、各元素結合エネルギ
ーでのスペクトルチャートのピーク面積をもとにした理
論計算から元素占有率を求めることで、無機潤滑皮膜の
深さ方向の皮膜状態が判明する。
【0031】本発明の無機潤滑皮膜におけるZn−O結合
に帰属するZnは、図1に示すように、XPSでのZnLMM
結合エネルギー値が 266〜268 eVの領域に発生するピー
クに相当する。従って、XPS測定にて、ZnLMM スペク
トルチャートを、図1に破線で示すように、261 eV近傍
の金属Znのピークと 266〜268 eV近傍のZn−O結合に帰
属するピーク(図1には「酸化Zn」と表記)とに分離
し、Zn−Oピーク面積から、Zn−O結合に帰属するZnの
元素占有率を測定することができる。
【0032】ここで、Zn−O結合に帰属するZnとは、亜
鉛酸化物と亜鉛酸素酸塩の両方の形態のZnを含む。ま
た、無機潤滑皮膜の表面分析で金属Znが検出されるの
は、無機潤滑皮膜が非常に薄く、かつ樹脂のような連続
被覆ではなく、粒子被覆であるため、基体の亜鉛めっき
被膜中のZnが検出されるためと推測される。
【0033】この無機潤滑皮膜のXPS測定は、下記に
示す条件で行った:XPS測定条件 X線源:Mg−Kα、8kV−30 mA Ar高速イオンエッチング: 50 kV−0.6 mA (スパッタ速度=12〜13Å/sec) 評価方法:5秒間ずつスパッタしながら、各スパッタ後
の元素占有率をピーク面積から定量。Znについては、上
記のようにZn−O結合に帰属するZnと金属Znとに分離。
【0034】酸素酸塩を主体とする無機潤滑皮膜の表層
の亜鉛酸化物の存在状態について、本発明の皮膜と従来
技術の皮膜とのXPS測定結果の相違を、リン酸塩皮膜
を例にとって次に説明する。
【0035】図2(a) および(b) は、それぞれ、本発明
の無機潤滑皮膜 (本発明皮膜) および従来技術の無機潤
滑皮膜 (従来皮膜) における、XPSにより求めた各元
素、およびZn−O結合に帰属するZn (図2には「Zn−
O」と表示) と金属Znの元素占有率の深さ方向の変化を
示す。
【0036】なお、以下の説明において、「元素占有
率」を単に「量」と表記する。また、「Zn−Oに帰属す
るZn」を単に「Zn−O」と表記する。従って、例えば、
「Zn−O量」という表記は「Zn−Oに帰属するZnの元素
占有率」を意味する。
【0037】図2に示すように、本発明皮膜と従来皮膜
のいずれについても、無機潤滑皮膜の表層では、元素組
成が大きく変動し、深さがある程度以上になると、組成
が安定する。この組成が安定に近づいた後の部分がバル
クであり、それより表面側が表層である。表層とバルク
との境界は、図2では、Zn−O量が、初期値と安定値
(バルクのプラトーでの値) との中間値になる点に設定
した。
【0038】やはり、図2に示すように、無機潤滑皮膜
の表層には、最初の5秒間のスパッタで除去される極表
面を含めない。上記条件では、この5秒のスパッタによ
り約60Åの厚さの極表面が除去される。極表面は汚れ等
により正確な定量が困難であるため、測定から除外す
る。
【0039】従って、本発明における無機潤滑皮膜の
「最表層」における元素占有率とは、無機潤滑皮膜を上
記条件下で5秒間スパッタして、極表面を除去した後に
測定された元素占有率のことである。図2から判るよう
に、極表面を除去するスパッタ時間が5秒であれば、ま
だバルクとは異なる表層特有の組織が存在している。
【0040】図2をみると、本発明皮膜および従来皮膜
のいずれも、バルクでは各元素組成が安定化し、Zn−O
量が高い値をとる。これは、皮膜全体が実質的に完全に
リン酸亜鉛の形態となっているためである。
【0041】これ対し、表層では、バルクに比べて、Zn
−O量と金属Zn量が低減し、O量とP量が高くなってい
る。表層は相対的にO量が多く、かつZn−O量が少ない
ことから、リン酸亜鉛とは異なるZn−O結合をもつ化合
物が表層に多く存在していることを示唆している。この
化合物が、過剰の酸素を含んだ亜鉛酸化物である。表層
ではPも多くなっているのは、Znと化合していないリン
酸がそのまま残っていることを示唆している。Oは、Zn
−O結合やP−O結合の形態を含むあらゆる酸素を包含
する。
【0042】図2の(a) と(b) の比較から明らかなよう
に、本発明皮膜は、従来皮膜に比べて、表層のZn−O量
が少なく、かつZn−O量が一定になる部分が表層にほと
んど存在しない。また、深さ方向でのO量の低下速度が
大きい。そのため、表層の厚さが非常に薄い。これは、
表層に生成している、過剰の酸素を含んだ亜鉛酸化物の
量が非常に少ないためである。特に最表層 (5秒スパッ
タ後) の元素占有率の値をみると、本発明皮膜ではZn−
O量が従来皮膜より著しく少ないことがわかる。従っ
て、最表層でのZn−O量 (Zn−O結合に帰属するZnの元
素占有率) を指標として、無機潤滑皮膜の接着性を判断
することが可能となることがわかった。
【0043】図3に、酸素酸塩を主体とする無機潤滑皮
膜の表層のZn−O量とO量とマスチック型接着剤での接
着強度 (測定法と評価基準は実施例に準拠) の関係につ
いて調査した結果を示す。この図から、接着強度が弱
く、厳しい接着性が要求されるマスチック型接着剤にお
いて、接着性を確保するためには、Zn−O量が16at%以
下、かつO量が64at%以下とすることが有効であること
が判る。さらに良好な接着性を確保するには、Zn−O量
が13at%、かつO量が62at%以下である。
【0044】
【発明の実施の形態】本発明の亜鉛系めっき鋼板は、め
っき表面に酸素酸塩を主体とする無機潤滑皮膜を有し、
過剰な酸素を含んだ亜鉛酸化物 (酸化亜鉛、水酸化亜鉛
等) が混在するため、表層が薄く、かつ最表層における
Zn−O量が小さい、即ち、亜鉛酸化物の形成量が少な
く、その存在比が小さいという特徴を有する。表層を脆
弱にする亜鉛酸化物が少ないことが、接着性の改善効果
をもたらす。
【0045】母材の亜鉛系めっき鋼板の種類は特に制限
されない。亜鉛系めっき鋼板は、亜鉛めっき鋼板と亜鉛
合金めっき鋼板のいずれでもよい。めっき方法は、電気
めっき、溶融めっき、気相めっきのいずれでもよい。亜
鉛合金は、溶融Zn−55%Al合金めっきのように、Zn含有
量が少量元素である合金も包含する。合金化溶融亜鉛め
っき鋼板のように、熱処理により合金化した亜鉛系めっ
き鋼板も使用できる。また、2層以上のめっき層を有す
る複層めっき鋼板でもよく、その場合には、最上層が亜
鉛または亜鉛合金めっきであればよい。
【0046】代表的な亜鉛系めっき鋼板としては、電気
亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、電気Zn−Ni合金
めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、溶融Zn−5%
Al合金めっき鋼板等が挙げられるが、これら以外の亜鉛
系めっき鋼板も、もちろん使用できる。めっき付着量も
特に制限されないが、通常は20〜90 g/m2 の範囲であ
る。
【0047】めっき鋼板は両面めっき鋼板と片面めっき
鋼板のいずれでもよい。両面めっき鋼板の場合、本発明
の無機潤滑皮膜は両面のめっき表面に形成することが有
利であるが、片面だけに形成することも可能である。
【0048】無機潤滑皮膜の主体をなす酸素酸塩は、酸
素酸のエッチング効果によりめっきから溶解したZn2+
酸素酸と反応することにより、析出、生成した酸素酸の
亜鉛塩から主に構成される。
【0049】ここで、酸素酸とは、中心元素に結合して
いる原子が全て酸素原子である無機酸であって、その酸
素原子の一部または全てが水素と結合し、その水素が水
溶液中で水素イオン (H+ ) に解離し、酸性を示すもの
である。酸素酸の種類は特に制限されず、硝酸、硫酸等
でもよいが、前述したように、過剰に溶解したZn2+を無
機潤滑皮膜中に効果的に取り込んで表層の亜鉛酸化物を
低減させるためには、脱水縮合反応を起こしてオルト酸
からポリ酸やメタ酸に変化する酸素酸が好ましい。この
ような酸素酸の具体例としては、リン酸およびホウ酸が
ある。2種以上の酸素酸の混酸も使用することができ、
特にリン酸とホウ酸の混酸の使用が好適である。
【0050】無機潤滑皮膜は、酸素酸の亜鉛以外に、他
の成分を含有しうる。例えば、加工性の向上のために、
Mn、Mo、Co、Ni、Ca、Ba、Cr、Ti、Al、Feの1種または
2種以上の金属塩、もしくは、その金属石鹸 (ステアリ
ン酸Zn、ステアリン酸Ca、オレイン酸Na等) 、ならびに
シリカ、アルミナ、チタン等の酸化物コロイドから選ん
だ1種もしくは2種以上を含有しうる。これらの他の成
分は、合計して皮膜中の50質量%未満とし、30質量%以
下の少量にとどめることが好ましい。
【0051】本発明では、酸素酸を主体とする無機潤滑
皮膜に良好な接着性を付与するため、無機潤滑皮膜は、
その最表層において、XPSにより求めたZn−O量 (Zn
−O結合に帰属するZnの元素占有率) が16at%以下、O
量 (Oの元素占有率) が64at%と低い値をとる。これ
は、図2に説明したように、過剰の酸素を含んだ亜鉛酸
化物を含有する表層が薄く、かつその亜鉛酸化物の存在
比が小さいことを意味する。即ち、表層の脆弱さが小さ
く、かつその厚みが小さい。そのため、この表層を起点
とする、接着時の無機潤滑皮膜/接着剤の界面近傍での
剥離が起こりにくく、接着性が改善される。
【0052】最表層のZn−O量が16at%より高いか、ま
たはO量が64at%より高いと、接着強度の弱いマスチッ
ク型接着剤等では、充分な接着強度が確保できない。特
に、上記の界面近傍での剥離を抑制するには、最表層の
Zn−O量が13at%以下、O量が62at%以下であることが
好ましい。
【0053】接着性に影響するのは皮膜の表層であるた
め、無機潤滑皮膜自体は結晶質皮膜であっても、ガラス
状の非晶質皮膜であっても、あるいは、その混層状態で
あってもよい。最表層のZn−O量およびO量が上記のよ
うに低ければ、バルク中の無機潤滑皮膜が結晶質と非晶
質のいずれであっても、良好な接着性を得ることができ
る。
【0054】無機潤滑皮膜の付着量は 100〜2000 mg/m2
の範囲内が好ましい。100 mg/m2 未満になると、効果的
な加工性が確保できない。2000 mg/m2超であると、加工
性は確保できるが、接着試験時に無機潤滑皮膜中で凝集
破壊を生じるようになり、接着性が劣化すると共に、絶
縁物である無機潤滑皮膜が厚く形成されると、スポット
溶接性等が劣化する。この付着量のより好ましい範囲は
200〜1500 mg/m2である。
【0055】上述した無機潤滑皮膜を有する本発明の亜
鉛系めっき鋼板は、亜鉛系めっき鋼板の表面を酸素酸と
接触させた後、乾燥することにより製造される。酸素酸
濃度の好ましい濃度は0.01〜0.6 mol/l の範囲である。
この酸素酸溶液の溶媒は通常、水であるが、溶媒の一部
をアルコール等の有機溶媒で混合したものも使用するこ
ともできる。
【0056】酸素酸溶液は酸性であり、両性金属である
Znはこの溶液に溶解することから、酸素酸溶液は亜鉛系
めっきに対してエッチング作用を示す。従って、めっき
表面が酸素酸溶液と接触すると、めっき皮膜からのZn2+
が溶出し、このZn2+が酸素酸と反応して、酸素酸亜鉛塩
が生成し、これがめっき表面に析出し、乾燥後に酸素酸
亜鉛塩を主体とする皮膜が生成する。
【0057】酸素酸の種類は、酸素酸塩に関して前述し
たように特に制限されるものではないが、脱水縮合反応
を生じるリン酸、ホウ酸などが好ましく、その両者を併
用してもよい。また、リン酸やホウ酸は、オルト酸だけ
でなく、ポリ酸、メタ酸のいずれか、あるいは、これら
の混合液を使用することもできる。
【0058】このような無機潤滑皮膜の形成方法は従来
より知られている。しかし、従来の方法では、めっき表
面のエッチングによりZn2+が過剰に生成して、無機潤滑
皮膜の表層に、過剰の酸素を含んだ亜鉛酸化物が多量に
存在し、脆弱な表層が厚く形成されることから、接着性
が阻害され、接着強度の弱いマスチック型接着剤等では
充分な接着強度が確保できないという問題があった。
【0059】本発明では、過剰なZn2+の溶出に起因する
脆弱な表層の生成を極力抑制し、最表層で測定したZn−
O量が16at%以下、好ましくは13at%以下、O量が64at
%以下、好ましくは62at%以下になるようにする。この
ような無機潤滑皮膜は、(1)酸素酸のエッチング作用を
抑えて、Zn2+の溶解量を制限するか、(2) 生成した過剰
のZn2+を、無機潤滑皮膜中に取り込むように、皮膜構造
を変化させる、あるいは、その両者の方法を組み合わせ
ることにより形成することができる。
【0060】上記(1) の手段として、本発明の方法の1
形態では、酸素酸にアルカリを添加してpHを 0.6〜5.
0 の範囲に調整する。溶液pHが0.6 より低いと、めっ
き皮膜の溶解が過剰になり、無機潤滑皮膜表層の亜鉛酸
化物生成量を抑制できないため、接着性が劣化する。溶
液pHが5.0 より高くなると、エッチング作用が失われ
て、めっき皮膜の溶解がほとんど起こらず、適正な皮膜
量の形成が困難になり、充分な加工性が確保できなくな
る。接着性が良好な状態を得るための好ましい液pHは
1.0〜3.0 の範囲である。酸素酸溶液のpH調整に使用
するアルカリの種類は特に制限されない。
【0061】簡便な方法として、所定濃度の酸素酸溶液
に酸素酸塩または金属を添加することで、液pHを調整
することも可能である。皮膜中に余分な金属元素を導入
しないようするには、溶解可能な量まで酸素酸亜鉛塩ま
たは金属亜鉛を添加することが考えられる。しかし、こ
の方法では、溶液中にZn2+が存在するため、酸素酸亜鉛
の無機潤滑皮膜の生成は促進されるが、処理液中のZn2+
量が多くなると、前述のように、めっき皮膜のエッチン
グ溶解に伴い発生するZn2+とあわせて、Zn2+量が過剰に
なることがある。従って、金属亜鉛または酸素酸亜鉛塩
を添加する場合、その添加量は、酸素酸イオン濃度に対
するZn2+濃度のモル比 (=Zn2+/酸素酸イオンのモル
比) が1.5 以下になるように抑制することが好ましい。
【0062】酸素酸溶液にアルカリ溶液を添加する方法
もよく、例えば、水酸化ナトリウム溶液を添加する方法
がある。皮膜に余分な金属元素を導入しないようにする
には、水酸化アンモニウム(アンモニア水)や第三級ア
ミン溶液を添加することが好ましい。
【0063】一方、上記(2) の手段としては、酸素酸の
脱水縮合反応を利用して多量体の形態をした酸素酸塩
(ポリ酸塩、メタ酸塩) を形成し、その中に過剰のZn2+
を取り込むことが効果的である。そのために、酸素酸と
して、脱水縮合が可能なリン酸および/またはホウ酸が
溶解した溶液を使用する。そして、この酸素酸溶液に、
酸素酸塩を析出させる際に、脱水縮合反応を促進させる
目的で酸化剤を含有させる。酸化剤の添加量は、酸化剤
/酸素酸のモル比が0.05〜1.50となる割合が好ましく、
さらに好ましくは上記モル比が0.10〜1.00となる割合で
ある。この場合も、酸素酸溶液のpHを上記のように調
整する。
【0064】酸化剤/酸素酸のモル比が低すぎると、脱
水縮合反応が効果的に生じず、皮膜中にZn2+が効果的に
取り込まれにくくなるため、無機潤滑皮膜の表層に亜鉛
酸化物が残り易い。酸素酸溶液に酸化剤を添加すると、
多量体の酸素酸塩の析出反応は促進するが、めっき皮膜
の溶解反応も促進される。そのため、酸化剤の濃度が高
すぎると、多量体酸素酸塩は効率的に進むものの、それ
以上にめっき皮膜の溶解が生じ、やはり無機潤滑皮膜の
表層に亜鉛酸化物が残りやすくなる。また、過剰に酸化
剤を添加すると、酸化剤を取り込んだ形で無機潤滑皮膜
が形成されることになり、接着剤で接着し、焼付ける際
に、無機潤滑皮膜と接着剤の接合点が過剰の酸化剤によ
る酸化反応で分断されることが予想され、接着性が極端
に劣化するという問題も生じる。
【0065】本発明で使用する酸化剤としては、無機過
酸化物が考えられる。無機過酸化物の例としては、ペル
オキソ硫酸、ペルオキソホウ酸、ペルオキソリン酸もし
くはその塩等を挙げることができる。形成される無機潤
滑皮膜中に、不純物として他の元素が入ることは好まし
くないと考えられるので、分解しても無機潤滑皮膜構成
元素としてそのまま取り込まれるる酸素酸の中心元素と
同じペルオキソ酸 (例、ペルオキソリン酸、ペルオキソ
ホウ酸等) が好ましい。しかし、過マンガン酸塩等の他
の酸化剤も使用可能である。
【0066】また、無機潤滑皮膜中に不純物を残さない
酸化剤として、酸化還元反応において、水とガスになっ
て逃散する酸化剤も効果的と考えられ、水と酸素に分解
する過酸化水素水、水と二酸化窒素と酸素に分解する硝
酸およびその塩、さらには亜硝酸およびその塩が挙げら
れる。
【0067】酸素酸溶液を亜鉛系めっき鋼板に無機潤滑
皮膜を形成させる方法は、溶液に接触後に水洗を行わず
に乾燥する塗布型処理、接触後に水洗を行う反応型処
理、溶液中に浸漬して電解で皮膜を形成させる電解型処
理があるが、本発明における表層の亜鉛酸化物の生成を
抑制できる限り、いずれも可能である。
【0068】接触後に水洗を行う反応型処理は、水洗に
より皮膜表面の過剰Zn2+を除去できることから、表層の
亜鉛酸化物を抑制した無機潤滑皮膜の形成に有利である
ように考えられる。しかし、実際には、接触後に水洗を
行うと、適正量の無機潤滑皮膜を形成するためには、浸
漬時間を長くする必要があり、そのようにしても充分な
付着量を確保することが困難となる。また、長時間の浸
漬中に溶液中への過剰のZn2+の溶出と溶出金属に伴う液
pHの急激な上昇が生じるため、溶液の金属濃度やpH
の制御が難かしい。さらに、過剰のZn2+の溶出により溶
液中に酸素酸金属塩がスラッジとして生成するので、溶
液を頻繁に更新しなければならず、スラッジ処理等の廃
液処理にも問題がある。電解型処理は、処理設備と処理
廃液設備等が必要で、コスト高となる。
【0069】従って、水洗による過剰Zn2+の除去が得ら
れなくても、溶液の組成変化が少ない塗布型処理が好ま
しい。塗布型処理の塗布方法は、スプレーリンガー絞り
法、ロールコート法、カーテンフローコート法などが好
適である。
【0070】塗布型処理の場合、無機潤滑皮膜中に効果
的にZnを取り込むため、酸素酸の脱水縮合反応を効率よ
く進行させて多量体の酸素酸塩を形成させるためには、
接触後の乾燥温度も重要である。乾燥温度としては、最
高到達板温として40〜300 ℃が必要である。酸素酸の多
量体への脱水縮合反応は、90℃近傍で生じるため、多量
体の酸素酸塩が効率よく形成するには、最高到達温度と
して50〜160 ℃の範囲がより好ましい。
【0071】乾燥温度が40℃より低いと、多量体の脱水
縮合反応が不充分で、効果的に無機潤滑皮膜中にZnが取
り込まれず、無機潤滑皮膜の表層の亜鉛酸化物が残りや
すくなり、接着性が劣化する。乾燥温度が300 ℃を超え
ると、残っためっき皮膜のエッチングにより残留Zn
2+が、析出反応を起こす前に容易に酸化され、表層の亜
鉛酸化物層が形成されやすくなる。
【0072】酸素酸に接触させる前に、亜鉛系めっき鋼
板をアルカリ水溶液、酸水溶液またはその両者を用いて
前処理してもよい。この前処理により、めっき表面の汚
れや不純物を除去することができる上、表面がエッチン
グされて活性化されるので、酸素酸と接触した際に、Zn
の溶解および酸素酸塩の析出反応が進み、無機潤滑皮膜
の形成が促進される。
【0073】本発明の方法により製造された酸素酸亜鉛
系の無機潤滑皮膜を有する亜鉛系めっき鋼板は、著しく
改善されたプレス成形性を有し、かつ無機潤滑皮膜が存
在しない亜鉛系めっき鋼板と同様の溶接性、接着性を有
している。そのため、多様な形状のプレス成形を行い、
その後、スポット溶接または接着剤接合等で車体が組み
立てられる自動車の鋼板として特に適しているが、成形
性、溶接性、接着性が要求される家電や建材にももちろ
ん使用できる。
【0074】接着性に関して、例えば自動車車体用に
は、構造用接着剤、防錆シーラントのような比較的接着
強度の高い接着剤と、パネルの補強や溶接部の仮止め、
防錆性の向上を目的とした比較的接着強度の弱いマスチ
ック型接着剤の両方が使われているが、本発明の無機潤
滑皮膜は接着剤適合性に優れているため、いずれの種類
の接着剤でも良好な接着結果を得ることができる。ま
た、改善された接着性を示すため、仮止め段階 (プレキ
ュア状態) やT字剥離試験でも十分な接着力を確保でき
る。もちろん、溶接で組立てることもできる。
【0075】
【実施例】
【0076】
【実施例1】板厚0.80 mm の極低炭素IF鋼に、片面当
たり45 g/m2 目付量で電気亜鉛めっきを施してから熱処
理して得た、両面合金化溶融亜鉛めっき鋼板 (Fe含有量
=10質量%) を母材として使用し、その両面に本発明に
従って無機潤滑皮膜を形成した。
【0077】皮膜形成用の酸素酸溶液 (処理液) とし
て、オルトリン酸を0.5 mol/l を含有するリン酸水溶液
に、金属亜鉛を添加することで、処理液pHを2.5 に調
整した溶液を準備した。この溶液に、酸化剤の硝酸を、
オルトリン酸とのモル比 (=硝酸濃度/オルトリン酸濃
度) が0〜2.00の範囲となるように添加してから処理に
用いた。
【0078】上記めっき鋼板をこの酸素酸溶液 (処理
液) に3秒間浸漬した後、乾燥後の付着量が片面当たり
約800 mg/m2 になるようにロール絞りし、最高到達板温
が90℃となるように5秒間加熱して皮膜を乾燥させ、め
っき鋼板の両面に無機潤滑皮膜を形成した。
【0079】こうして形成した無機潤滑皮膜の付着量
を、5重量%の重クロム酸溶液に3分間浸漬して無機潤
滑皮膜を溶解した後の重量減にて確認した。また、無機
潤滑皮膜の最表層におけるZn−O量とO量は、前述した
XPS法により元素占有率 (at%) として測定した。
【0080】(接着性の評価)接着性は、車体構造用接着
剤 (アドヒーシブシーラー用の塩化ビニル系接着剤:ヘ
ンケル白水製) を使用し、接着試験評価として最も厳し
いT字剥離試験のプレキュア条件(160℃×10分焼き付
け) にて評価した。
【0081】別に、上記接着剤より接着強度が小さく、
接着性に関してより厳しいマスチック型接着剤 (合成ゴ
ム系の防錆スポットシーラー:イイダ産業製) を用いた
接着性の評価も実施した。
【0082】油面接着性を評価するため、各接着剤を塗
布する前に、一般防錆油 (オイルコート:出光製) を2
g/m2の量で試験片の接着面に塗油し、室温内で7日間ス
タックして保管した後、1枚の試験片の所定領域に接着
剤を塗布し、スペーサーを用いて所定の接着剤厚みとな
るように2枚の試験片を重ね合わせ、所定の焼き付けを
行って接着剤を硬化させ、接着強度を調査した。
【0083】各接着試験の試験条件と評価基準は次の通
りである。A. 構造用接着剤によるT字剥離引張試験 [図4(a) 参照] 試験片: 200×25 mm (一般防錆油を2.0 g/m2塗油) 接着面積:25×140 mm スペーサー: 0.15 mm 焼付け条件: 160℃×10分 (プレキュア条件) せん断引張速度: 200 mm/min (評価基準) ◎:せん断引張強度≧27 KPa ○:せん断引張強度=19〜27 KPa ×:せん断引張強度<19 KPa。
【0084】構造用接着剤での接着性評価として最も厳
しいプレキュア条件のT字剥離試験を採用した。無機潤
滑皮膜を形成しなかった同じ合金化溶融亜鉛めっき鋼板
に一般防錆油を2.0 g/m2塗油した時の構造用接着剤の接
着強度が、同じ試験条件で27KPaであった。それから30
%まで (=19KPa)接着強度が落ちても実用上問題ないの
で、上記基準で接着性を評価した (○までが合格) 。
【0085】B. マスチック型接着剤によるせん断引張
試験 [図4(b) 参照] 試験片: 100×25 mm (一般防錆油を2.0 g/m2塗油) 接着面積:25×25 mm スペーサー: 1.0 mm 焼付け条件: 180℃×30分 (フルキュア条件) せん断引張速度: 50 mm/分 (評価基準) ◎:せん断引張強度≧0.20 MPa ○:せん断引張強度=0.14〜0.20 MPa ×:せん断引張強度<0.14 MPa。
【0086】無機潤滑皮膜を形成しなかった同じ合金化
溶融亜鉛めっき鋼板に一般防錆油を2.0 g/m2塗油した時
のマスチック型接着剤による接着強度が0.20 MPaであっ
た。それから30%まで (0.14 MPa) 接着強度が落ちても
実用上問題は生じないので、次の基準で接着性を評価し
た (○までが合格) 。
【0087】また、防錆スポットシーラーでは、接着試
験後の剥離形態も重視されるため、接着剤/めっき面の
界面での剥離状態も観察した。その結果を、接着剤凝集
破壊(記号Cf) と界面剥離 (記号Af) とに分け、接着剤
凝集破壊の面積率により判定した。すなわち、完全に接
着剤凝集破壊を起こした場合は100%Cf (0%Af) であり、
90%Cf (10%Af) までであれば、実用上問題ない。従っ
て、100%Cfを最良とし、90%Cf 以上であれば合格とし
た。
【0088】(加工性評価)加工性は、円筒深絞りプレス
成形において、ブランクホルダー荷重を5kNピッチで増
加させていった時の、成形可能な限界ブランクホルダー
荷重を測定することにより評価した。
【0089】加工条件と評価基準 (○までが合格) は、
次の通りである。 (加工条件) ブランク径:90 mm ポンチ径 :50 mm 成形速度 :200 mm/min 潤滑 :オイルコートSK (塗油量=2.0 g/m2) (評価基準) ◎:>70 kN ○:50〜70 kN ×:<50 kN 亜鉛系めっき鋼板の加工では、加工性確保のために、高
潤滑性の防錆油を使用することが一般的である。参考の
ために、上記と同じ合金化溶融亜鉛めっき鋼板に、高潤
滑性防錆油としてオイルコートSP2(出光製) を2g/m2
油して、同様の試験を実施したところ、成形限界荷重が
50〜70 kN であった。この結果から、加工性の目標レベ
ルを50 kN 以上、好ましくは、70 kN 超に設定した。な
お、本試験では、上記のように一般防錆油である出光製
のオイルコートSKを2g/m2塗油してから、加工性試験に
供した。
【0090】以上の試験結果を処理条件と共に表1に示
す。また、図5に、処理液の酸化剤/酸素酸のモル比
(酸素酸比と表示、本実施例では硝酸濃度/オルトリン
酸濃度の比) に対する、表層のZn−O量とO量、構造用
接着剤強度、マスチック型接着剤強度の変化をそれぞれ
グラフで示す。
【0091】
【表1】
【0092】最表層のZn−O量が16at%以下になると、
構造用接着剤、マスチック型接着剤ともに十分な接着強
度が確保できる。そのためには、処理液中の酸化剤/酸
素酸のモル比が0.05以上であればよい。最表層のO量に
ついては、これが64at%以下で良好な接着性が確保で
き、それには酸化剤/酸素酸のモル比を2.0 以下とすれ
ばよい。最表層のZn−O量とO量がともに適正である場
合に初めて、幅広い良好な接着性が確保できる接着適合
性に優れた無機潤滑処理の提供が可能になる。
【0093】図5からは、表層の亜鉛酸化物の状態が酸
化剤の添加により大きく変化し、この状態によって、接
着強度も影響を受けることがわかる。最表層のZn−O量
とO量を適正範囲にするには、処理液中の酸化剤/酸素
酸のモル比を0.05〜2.0 の範囲、より好ましくは 0.1〜
1.0 の範囲とすることが有効である。
【0094】
【実施例2】板厚0.80 mm の極低炭素IF鋼に、片面当
たり40 g/m2 目付量で電気亜鉛めっきを施した両面電気
亜鉛めっき鋼板を母材として使用し、その両面に本発明
に従って無機潤滑皮膜を形成した。
【0095】皮膜形成に使用した酸素酸溶液は、酸素酸
としてピロリン酸を0.2 mol/l 含有し、酸化剤としてペ
ルオキソ第一リン酸を、ピロリン酸とのモル比が0.10と
なる割合で添加した溶液 (初期の液pH=0.5)を準備し、
この溶液に水酸化ナトリウムを各種添加量で添加して、
液pHが 0.5〜6.0 となるように調整した。
【0096】これらの各酸素酸溶液に上記電気亜鉛めっ
き鋼板を3秒間浸漬した後、ロール絞りを行い、最高到
達板温が90℃となるように5秒間加熱して皮膜を乾燥さ
せ、めっき鋼板の両面に無機潤滑皮膜を形成した。ロー
ル絞りの絞り量を調整することにより、無機潤滑皮膜の
付着量を変化させた。
【0097】こうして無機潤滑皮膜を形成しためっき鋼
板について、実施例1に記載したのと同様にして、その
無機潤滑皮膜の付着量、最表層のZn−O量、O量、構造
用接着剤によるプレキュア条件でのT字剥離試験とマス
チック型接着剤でのせん断引張試験による接着性、なら
びに加工性を評価した。評価の判断基準も、実施例1と
同様であった。
【0098】これらの評価試験の結果を、処理条件と共
に表2に示す。また、図6に、処理液pHに対する最表層
のZn−O量とO量、および無機潤滑皮膜の付着量の変
化、ならびに付着量に対する加工性の変化をそれぞれグ
ラフで示す。
【0099】
【表2】
【0100】表2と図6からわかるように、液pHの上昇
に伴い急激に付着量が減少し、液pHが5.0 超では加工性
が満足できるでけの付着量の確保ができなくなり、加工
性が満足できる付着量とその時の液pHをみると、付着量
として100 mg/m2 以上、液pHとして5.0 以下である。ま
た、液pHが0.6 より低いと、過剰エッチングに伴って最
表層Zn−O量、O量が多くなり、接着性が低下する。
【0101】
【実施例3】板厚0.80 mm の極低炭素IF鋼に、片面当
たり30 g/m2 の目付量で電気Zn−Ni合金めっき (Ni含有
量=13質量%) を施し、得られた両面電気Zn−Ni合金め
っき鋼板を母材として、本発明に従ってその両面に無機
潤滑皮膜を形成した。
【0102】皮膜形成に使用した酸素酸溶液は、酸素酸
としてオルトホウ酸を0.4 mol/l の量で含有する溶液
に、酸化剤として過酸化水素を、ホウ酸に対するモル比
が0.5となる量で添加し、アンモニア水でpHp2.4 にな
るように調整した、ホウ酸溶液であった。このホウ酸溶
液を、上記電気Zn−Ni合金めっき鋼板の両面に、乾燥後
の付着量が250 mg/m2 となるように、ロール塗布し、各
種の乾燥温度で乾燥して、無機潤滑皮膜を形成した。乾
燥時間は15秒に固定した。
【0103】こうして無機潤滑皮膜を形成しためっき鋼
板について、実施例1と同様に、最表層のZn−O量、O
量、および接着性、加工性について調査した。その結果
を処理条件と共に表3に示す。また、図7に、乾燥温度
と最表層Zn−O量、O量、および接着性との関係につい
てグラフで示す。
【0104】
【表3】
【0105】表3および図7の結果から、最表層のZn−
O量、O量は乾燥温度の影響も受け、乾燥温度が低いと
最表層のZn−O量、O量が上昇し、亜鉛酸化物が増大す
ることがわかる。一方、乾燥温度が高すぎても、加熱酸
化により、最表層のZn−O量、O量が増大する。乾燥温
度が40℃以上、300 ℃以下であると、最表層Zn−O量、
O量を適正範囲に抑制でき、構造用接着剤、マスチック
型接着剤のいずれでも接着性を確保できる。構造用接着
剤、マスチック型接着剤ともに最良の接着性が確保でき
る乾燥温度は50〜160 ℃であり、この温度域では、最表
層Zn−O量が13at%以下、かつO量が62at%以下とな
る。
【0106】
【実施例4】本実施例では、各種亜鉛系めっき鋼板と酸
素酸の種類を変化させて、酸素酸濃度、酸化剤添加量、
皮膜形成方法、皮膜付着量、および形成された皮膜の結
晶構造、最表層のZn−O濃度、O量と各種性能の関係に
ついて調査した。その際の評価項目として、接着性、加
工性とともに、溶接性を評価に加えた。
【0107】板厚0.80 mm の極低炭素IF鋼を被めっき
素材とする下記の両面亜鉛系めっき鋼板 (目付量は片面
当たり) を準備し、その両面に無機潤滑皮膜を形成し
た。 亜鉛系めっき鋼板 記号 めっき種 目付量 EG 電気亜鉛めっき鋼板 40 g/m2 SZ 電気Zn−Ni合金めっき鋼板 (Ni含有量=13%) 30 g/m2 GI 溶融亜鉛めっき鋼板 60 g/m2 GA 合金化溶融亜鉛めっき鋼板 (Fe含有量=9%) 55 g/m2 皮膜形成に用いた酸素酸溶液としては、オルトリン酸と
オルトホウ酸の一方または両方を含有する水溶液に、酸
化剤として過酸化水素、硝酸、または過マンガン酸カリ
ウムを添加してから用いた。酸素酸の濃度、酸化剤の添
加量、および液pH等の処理液組成は表5に示す。その
際の液pHは、酸化亜鉛を添加することにより0.8 から
4.5 まで変化させた。
【0108】処理方法としては、(1) 水溶液に浸漬した
後、直ちにロール絞りで付着量を調整し、最高到達温度
が90℃となるように10秒間乾燥した塗布型処理と、(2)
40℃の水溶液に60秒間浸漬した後、30秒間水洗し、その
後に風乾する反応型処理、の2種類を実施した。
【0109】こうして無機潤滑皮膜を形成した亜鉛系め
っき鋼板について、無機潤滑皮膜の状態として、実施例
1〜3と同様に、付着量、最表層のZn−O量、O量を調
査するとともに、皮膜の結晶構造についても調査を行っ
た。皮膜の結晶構造は、X線回折法により、リン酸亜鉛
結晶であるホパイトの(020) 面の回折ピークが認められ
るものを× (結晶質) 、この結晶ピークが認められない
ものを○ (非晶質) とした。
【0110】また、性能評価の方法としては、実施例1
〜3で実施した評価と同様に、構造用接着剤、マスチッ
ク接着剤での接着強度および加工性の評価を実施した。
本実施例では、参考のために、構造用接着剤の評価にお
いて、フルキュア条件 (焼付け条件:170 ℃×30分) で
の評価も付け加えた。
【0111】さらに、本実施例ではスポット溶接性の評
価も実施した。スポット溶接性は、下記に示す条件で連
続打点試験を実施し、100 打点毎にボタン径をチェック
して、ボタンが形成できなくなる (ナゲット径が得られ
なくなる) までの連続打点限界数を求めることにより評
価した。比較対照となる、EG、SZ、GIおよびGA
の各亜鉛系めっき鋼板に、高潤滑性防錆油である出光製
オイルコートSP2を2g/m2塗油して同じ条件でスポット
溶接性を試験した時の連続打点限界数が1500〜4000打点
であることから、1500打点以上、好ましくは3000打点以
上を目標レベルとした。本試験において、無機潤滑処理
を施した亜鉛系めっき鋼板については、一般防錆油であ
る出光製オイルコートSKを2g/m2塗油してから試験に供
した。
【0112】(溶接条件) 電極材質:Cu−1%Cr 電極形状:CF型 (先端径=5mm) 加圧力: 200 kgf スクイズ時間:15サイクル (鋼板を押さえてから通電するまでの時間) 通電時間:10サイクル 保持時間:15サイクル (通電完了してから、電極が開放されるまでの時間) 設定電流:10.5 kA 打点速度:1秒/点 (評価基準) ◎:>3000打点 ○:1500〜3000打点 ×:<1500打点 以上の試験結果を、亜鉛系めっき鋼板の種別、処理液の
組成や処理条件と共に表4にまとめて示す。
【0113】
【表4】
【0114】表4からわかるように、無機潤滑皮膜の付
着量が2000 mg/m2を超えると、スポット溶接性が不充分
である。また、最表層のZn−O量、O量が適正範囲内
で、表層の亜鉛酸化物量が少なくても、皮膜付着量が多
い場合には接着性が低くなる。付着量の下限に関して
は、付着量が100 mg/m2 未満では、目標とする加工性の
確保が困難である。より好適な付着量としては、加工性
から200 mg/m2 以上、スポット溶接性から1500 mg/m2
下である。
【0115】塗布型と反応型の処理方法を比較すると、
同一処理液を使用しても、反応型では充分な付着量の確
保が困難であり、塗布型処理が好適である。従って、反
応型処理では溶液コストがかかり、濃度増大に伴うめっ
き皮膜の過剰のエッチングによる溶液の劣化が懸念され
る。但し、反応型処理では、水洗によりエッチングで生
じた過剰のZn2+が除去されるので、表層の亜鉛酸化物が
抑制される傾向が認められる。適正な最表層Zn−O量、
O量および付着量が確保できれば、本発明の期待効果で
ある接着性と加工性とスポット溶接性が確保できる。
【0116】また、酸化剤の種類を変化させても同様の
結果が得られている。即ち、脱水縮合反応時に分解する
ような過酸化水素や硝酸以外に、過マンガン酸カリウム
のような金属元素を含有する酸化剤でも同様の効果が期
待できる。
【0117】無機潤滑皮膜の結晶構造に関しては、酸素
酸溶液との接触時間が長い反応型処理では、結晶質が生
成しやすい傾向が認められる。しかし、皮膜の構造が、
結晶質、非晶質、あるいはそれらの混相状態であって
も、表層亜鉛酸化物量が抑制できなければ、良好な接着
性は確保できない。付着量が適正であれば、本発明の目
標とする加工性、スポット溶接性確保できるが、結晶を
含んだ皮膜は加工性がやや低下する傾向が認められる。
【0118】
【発明の効果】本発明によって、無機潤滑皮膜の表層の
亜鉛酸化物を制御することにより、加工性が向上し、ス
ポット溶接性も確保できるとともに、従来の潤滑皮膜で
は困難であった接着性の大幅な改善を図ることが可能と
なった。
【0119】特に、本発明の無機潤滑皮膜を形成した亜
鉛系めっき鋼板を適用することにより、自動車車体の組
立に使用される各種接着剤 (車体構造用接着剤だけでな
く、接着強度の弱いマスチック型接着剤も含む) 、焼付
け条件の甘い仮止め状態 (プレキュア条件) での接着強
度、各種形状での接着強度等がいずれも良好となり、き
わめて広範囲な接着適合性を有する無機潤滑処理鋼板の
提供が可能となり、従来の亜鉛系めっき鋼板と同じよう
に接着剤を使用できることが可能となった。なおかつ、
亜鉛系めっき皮膜のままでは問題となることが多かった
加工性を改善でき、従来と同様に溶接も可能であること
から、多様な方法のいずれでも組立て可能な自動車車体
用鋼板の素材として最適であり、産業界における有用性
は多大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】XPSにおいて、Zn−O結合に帰属するZn [Zn
−O] と金属Znとを、ピーク分離により別個に測定する
方法を示す図である。
【図2】本発明に係る無機潤滑皮膜 [図2(a)]と従来の
同様な無機潤滑皮膜 [図2(b)]の、深さ方向における元
素組成比をXPSで測定した結果を示す。
【図3】最表層のZn−O量およびO量と接着性との関係
を示す図である。
【図4】接着試験におけるT字剥離引張り試験方法 [図
4(a)]と、せん断引張試験方法[図4(b)]とを示す説明
図である。
【図5】実施例の結果を示すグラフである。
【図6】実施例の結果を示すグラフである。
【図7】実施例の結果を示すグラフである。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 森川 雅博 茨城県鹿嶋市大字光3番地 住友金属工業 株式会社鹿島製鉄所内 Fターム(参考) 4K026 AA07 AA11 AA22 BB04 BB09 BB10 CA13 CA26 CA35 DA11

Claims (6)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 亜鉛系めっき鋼板のめっき表面に、めっ
    き皮膜との反応により形成された、酸素酸塩を主体とす
    る無機潤滑皮膜を有する、亜鉛系めっき鋼板であって、
    前記無機潤滑皮膜の最表層において、Zn−O結合に帰属
    するZnの元素占有率が16at%以下、Oの元素占有率が64
    at%以下であることを特徴とする、無機潤滑皮膜を有す
    る亜鉛系めっき鋼板。
  2. 【請求項2】 無機潤滑皮膜の付着量が 100〜2000 mg/
    m2である請求項1記載の亜鉛系めっき鋼板。
  3. 【請求項3】 酸素酸塩がリン酸塩および/またはホウ
    酸塩である、請求項1または2記載の亜鉛系めっき鋼
    板。
  4. 【請求項4】 亜鉛系めっき鋼板のめっき表面を、pH
    0.6〜5.0 の酸素酸主体の溶液に接触させた後、乾燥す
    ることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の
    亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
  5. 【請求項5】 前記溶液が、酸素酸としてリン酸および
    /またはホウ酸を含有し、さらに酸化剤/酸素酸のモル
    比が0.05〜1.50となる割合で酸化剤を含有する、請求項
    4記載の方法。
  6. 【請求項6】 乾燥を40〜300 ℃の温度で行う、請求項
    4または5記載の方法。
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