JP2004092714A - ピストンとピストンリングの組合せ - Google Patents

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相沢 健
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岸田 学
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Abstract

【課題】高出力ディーゼルエンジンのような高い燃焼温度と燃焼圧力を伴う高出力の内燃機関に好適に使用される耐久性に優れたピストンとピストンリングの組合せを提供する。
【解決手段】少なくともピストンリング溝12の材質がスチールであるピストン11に、少なくとも外周摺動面25に硬質皮膜を形成した鋳鉄製のピストンリング21を装着してなるピストンとピストンリングの組合せ1により、上記課題を解決する。この組合せにおけるピストンリング21としては、片状黒鉛鋳鉄、球状黒鉛鋳鉄、白鋳鉄、可鍛鋳鉄、バーミキュラ鋳鉄及び合金鋳鉄から選択された1の鋳鉄で形成されていることが好ましく、13万MPa〜17万MPaの範囲内の弾性率であることが好ましい。さらに、硬質皮膜がイオンプレーティング皮膜26であること及び/又はそのピストンリングが窒化処理されていることが好ましい。
【選択図】  図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、内燃機関の高出力化に対応したピストンとピストンリングの組合せに関し、更に詳しくは、高出力ディーゼルエンジンのような高い燃焼温度と燃焼圧力を伴う高出力の内燃機関に好適に使用される耐久性に優れたピストンとピストンリングの組合せに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来のディーゼルエンジンは、アルミニウム製ピストン又は耐摩環(トレーガーともいう)を有するアルミニウム製ピストンと、必要に応じて窒化処理され、外周摺動面に硬質皮膜が形成されたスチール製ピストンリングとが組み合わされて使用されていた。
【0003】
しかし、近年、環境対策等の観点から内燃機関の高出力化の要求が高まってきており、上述したアルミニウムベースのピストンでは、高い燃焼温度と燃焼圧力を伴う高出力環境下において、耐久性、耐熱性等の機能が果たせなくなってきている。そのため、高出力環境下でもその機能を担保できるスチール製ピストンが検討されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述したスチール製ピストンとスチール製ピストンリングとをの組合せて使用した場合においては、ピストンリングの下面と、ピストンが備えるピストンリング溝の下面とが焼き付いて凝着が発生する。こうした現象が起こると、シリンダライナに対するピストンリングの追従性が著しく低下し、ピストンリングの本来果たすべき機能が発揮されないという問題が生じる可能性があった。
【0005】
本発明は、上述した問題を解決すべくなされたものであって、その目的は、高出力ディーゼルエンジンのような高い燃焼温度と燃焼圧力を伴う高出力の内燃機関に好適に使用される耐久性に優れたピストンとピストンリングの組合せを提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の現象について研究したところ、高い燃焼圧力を伴う高出力環境下では、ピストンリングの上面とピストンリング溝の上面との明確な接触痕が見られないことから、ピストンリングがピストンリング溝の下面に押しつけられて密着していることを確認した。そして、ピストンリング溝の下面に密着したピストンリングの下面は、その中心部で酸素欠乏状態となっており、その状態で大きな熱負荷とピストンスラップによる微動摩擦を受けることにより、その密着部分で凝着現象を起こし、上述した焼き付きが起こったものと知見した。
【0007】
上記課題を解決するための本発明のピストンとピストンリングの組合せは、上記知見に基づいてなされたものであって、少なくともピストンリング溝の材質がスチールであるピストンに、少なくとも外周摺動面に硬質皮膜を形成した鋳鉄製のピストンリングを装着したことに特徴を有する。
【0008】
この発明によれば、少なくともピストンリング溝の材質がスチールであるピストンに鋳鉄製のピストンリングを装着したので、ピストンリング溝の下面にピストンリングの下面が密着した状態で大きな熱負荷と微動摩擦を受けた場合であっても、ピストンリングの下面が備える鋳鉄特有の黒鉛の存在により表面に凹凸が形成され、凹凸が油溜まりに寄与し、また、黒鉛が自己潤滑物質として作用し、相手材であるスチール材質からなるピストンリング溝との間で凝着現象を起こさない。その結果、高出力ディーゼルエンジンのような高い燃焼温度と燃焼圧力を伴う高出力の内燃機関に好適に使用される耐久性に優れたピストンとピストンリングの組合せを提供できる。
【0009】
本発明のピストンとピストンリングの組合せにおいて、前記ピストンリングが、片状黒鉛鋳鉄、球状黒鉛鋳鉄、白鋳鉄、可鍛鋳鉄、バーミキュラ鋳鉄及び合金鋳鉄から選択された1の鋳鉄で形成されていることが好ましい。
【0010】
また、本発明のピストンとピストンリングの組合せにおいて、前記ピストンリングが、13万MPa〜17万MPaの範囲内の弾性率であることが好ましい。この発明によれば、ピストンリングの弾性率が上記範囲内にあるので、シリンダライナに対して追従し易く、高出力の内燃機関に好適に使用される耐久性に優れたピストンとピストンリングの組合せを提供できる。
【0011】
また、本発明のピストンとピストンリングの組合せにおいて、前記硬質皮膜がイオンプレーティング皮膜であること、及び/又は、前記ピストンリングが窒化処理されていることが好ましい。ピストンリングにこうした硬質処理を施すことにより、ディーゼルエンジン等の高負荷環境下であっても耐摩耗性及び耐久性に優れたピストンとピストンリングの組合せとすることができる。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のピストンとピストンリングの組合せ1について、図1及び図2を参照しつつ説明する。
【0013】
(ピストン)
本発明を構成するピストン11としては、少なくともピストンリング溝12の材質がスチールであるものが適用される。例えば、ピストン全体がスチール製のもの、ピストンリング溝12がスチール製でその他の部分はアルミニウム合金等の金属からなるもの、等を挙げることができる。スチール材質については、従来よりピストン用として使用されているものであれば特に限定されないが、例えば、SKD6(JIS記号、熱間金型用鋼)、SUS304(JIS記号、オーステナイト系ステンレス鋼)、SUS630(JIS記号、析出硬化系ステンレス鋼)等のような耐摩耗性と硬さが要求される材質を挙げることができる。
【0014】
(ピストンリング)
本発明を構成するピストンリング21は、鋳鉄製であればよく、その種類は特に限定されないが、片状黒鉛鋳鉄、球状黒鉛鋳鉄、白鋳鉄、可鍛鋳鉄、バーミキュラ鋳鉄及び合金鋳鉄から選択された1の鋳鉄を好ましく挙げることができる。なお、特に好ましくは、後述する弾性率に基づく追従性と強度の観点から球状黒鉛鋳鉄である。鋳鉄製のピストンリングを製造する手段(製造手順、熱処理等)については、従来から行われている方法を適用することができる。
【0015】
鋳鉄で作製されたピストンリング21は、その表面に鋳鉄特有の黒鉛の存在により凹凸が形成されているので、ピストンリングの下面23とピストンリング溝の下面13とが密着した場合であっても、その凹凸が油だまりとして作用したり、その黒鉛が自己潤滑物質として作用し、相手材であるスチール材質のピストンリング溝12との間で微動摩擦を受けても凝着現象を起こさない。
【0016】
これらのピストンリング21のうち、弾性率が13万MPa〜17万MPaの範囲内の鋳鉄で作製したものが追従性向上の観点からより好ましく用いられる。更に望ましくは、15万MPa〜17万MPaの球状黒鉛鋳鉄が好ましく用いられる。こうした弾性率を有する鋳鉄で作製されたピストンリング21は、ピストン11の上下運動時にシリンダライナ30に対して優れた追従性を示すことができる。なお、弾性率は、引張試験により応力−歪み線図を作成して算出した。
【0017】
弾性率が17万MPaを超える場合には、シリンダライナ30に対するピストンリング21の追従性がやや劣ることがあり、弾性率が13万MPa未満の場合は、ピストンリングが柔軟になりすぎて、この場合もシリンダライナ30に対するピストンリング21の追従性がやや劣ることがある。
【0018】
なお、ディーゼルエンジンのように高い燃焼温度や燃焼圧力を伴う高負荷での運転においては、ピストンリングの各部で温度差が生じ、特に合い口部の温度が高くなる。従来のスチール製のピストンリング21においては、弾性率が20万MPa前後と大きいので、膨張した合い口端部がシリンダライナ30に強く当たって異常摩耗を起こし易かった。しかし、本発明を構成するピストンリング21においては、ピストンリング21の弾性率が上記範囲であり、ピストンリング21がシリンダライナ30の内周形状にならい易いので、膨張した合い口端部がシリンダライナ30の内周面に強く当たって異常摩耗を起こることが抑制されるという効果もある。
【0019】
ピストンリング21には、少なくとも外周摺動面25に硬質皮膜が形成されており、その硬質皮膜がイオンプレーティング皮膜26であることが好ましい。イオンプレーティング皮膜26としては、Cr−N系、Cr−B−N系等を好ましく挙げることができる。こうしたイオンプレーティング皮膜26を外周摺動面25に有するピストンリング21は、ディーゼルエンジンのような高負荷環境下においても、優れた耐摩耗性を発揮できる。なお、それらのイオンプレーティング皮膜26の硬さは、ビッカース硬度で通常Hv1000〜Hv2200の範囲にある。なお、イオンプレーティング皮膜26の好ましい厚さは、10〜70μmである。
【0020】
また、イオンプレーティング皮膜26が形成されたピストンリング21には、図2(a)〜(c)に示すように、必要に応じて窒化層27が形成されていることが好ましい。その窒化層27は、ピストンリング21の全周であっても(図2(a)を参照)、上下面及び内周面のみであってもよく(図2(b)(c)を参照)、任意に選択されて設けられる。窒化層27を上下面と内周面のみに設ける方法としては、▲1▼鋳鉄製のピストンリング母材22に窒化処理27を施し、外周摺動面25の窒化層27をとりのぞき、イオンプレーティング皮膜26を形成する方法(図2(b)を参照)、▲2▼鋳鉄製のピストンリング母材22の外周摺動面25にイオンプレーティング皮膜26を形成した後、窒化処理を行って上下面と内周面のみに窒化層を形成する方法(図2(c)を参照)、等を例示することができる。窒化層27は、ガス窒化、イオン窒化、塩浴窒化、プラズマ窒化等の従来から行われている窒化手段で形成できる。窒化層27の好ましい厚さは、およそ5〜10μmである。
【0021】
なお、ピストンリング21の外周摺動面25には、イオンプレーティング皮膜26に代えて、硬質炭素皮膜やCrめっき皮膜を形成することもできるが、イオンプレーティング皮膜26が、生産性、摺動特性から望ましい。
【0022】
こうしたピストンリング21は、トップリング、セカンドリング、オイルリングの何れかであってもまたはそれらの全てであってもよい。特に、トップリングには好適に使用される。
【0023】
(ピストンとピストンリングの組合せ)
本発明に係るピストンとピストンリングの組合せ1は、上述したように、少なくともピストンリング溝12の材質がスチールであるピストン11に、少なくとも外周摺動面に硬質皮膜を形成した鋳鉄製のピストンリング21を装着したことに特徴を有するものである。こうした組合せ構造とすることにより、ピストンリング溝の下面13にピストンリングの下面23が密着した状態で大きな熱負荷と微動摩擦を受けた場合であっても、ピストンリングの下面23が備える鋳鉄特有の黒鉛の影響による凹凸表面が油だまりとなり、また、黒鉛自身が自己潤滑物質として作用し、相手材であるスチール材質のピストンリング溝12との間で凝着現象を起こさないという格別の効果を奏する。
【0024】
なお、本発明の組合せ態様は、ピストンとピストンリングとの間の凝着現象を有効に抑制できるものであるが、類似の問題を有した摺動部材に対しても、本発明の技術的思想を適用してその問題を解決できる。
【0025】
【実施例】
実施例と比較例を挙げて、本発明を更に詳しく説明する。以下において、組成を示す「%」は、質量%を意味する。
【0026】
(実施例1〜8)
SKD6(JIS記号)で作製したピストン11と、片状黒鉛鋳鉄(C:2.9%、Si:1.3%、Mn:0.8%、P:0.2%、S:0.05%、Ni:0.5%、Cr:0.17%、Mo:0.5%、残部:鉄)又は球状黒鉛鋳鉄(C:2.5%、Si:1.8%、Mn:0.7%、P:0.2%、S:0.05%、Cr:0.3%、残部:鉄)で作製したピストンリング21をそれぞれを組合せ、各種の試験を行った。表1に示すように、実施例1〜10で使用したピストンリング21には、イオンプレーティング皮膜26を形成し、必要に応じて窒化層27を形成した。
【0027】
イオンプレーティング皮膜26は、イオンプレーティング装置により、ピストンリング21の外周摺動面25に厚さ3μmのCr−N系皮膜(積分強度比(%)でCr:5.7%、Cr2 N:7.9%、CrN:86.4%)又はCr−B−N系皮膜(Cr:78.5%、B:1.2%、N:20.3%)を形成した。窒化層27は、塩浴窒化処理(条件:580℃×30min)により、深さ10μmとなるように形成した。
【0028】
こうして実施例1〜8のピストン11とピストンリング21とを組合せて供試材とし、凝着評価のための往復動摩擦試験を行った。また、ピストンリング21を供試材とし、強度評価のための撓み疲労強度試験、耐摩耗性評価のための摩耗試験、密着性評価のための衝撃試験をそれぞれ行った。
【0029】
(比較例1〜4)
SKD6(JIS記号)で作製したピストン11と、SUS440(JIS記号、17Crステンレス鋼)で作製したピストンリング21とを組み合わせ、各種の試験を行った。それ以外は上述した実施例と同様とした。
【0030】
(往復動摩擦試験)
凝着評価のための往復動摩擦試験は、図3に示す往復動摩擦試験機31を使用した。この往復動摩擦試験機において、ピストンリング材である供試材32(ブロック形状:7mm×8mm×5mm)は固定ブロック33で支持され、その供試材32は、上方から油圧シリンダ34で下向き荷重が負荷され、ピストン材である供試材35(平盤形状:20mm×15mm×3mm)を押圧した。その供試材35は、可動ブロック36により支持され、クランク機構37により水平、面内を往復運動させた。ピストンリングである供試材32としては、実施例1〜8及び比較例1〜4のピストンリングを使用した。一方、ピストンである供試材33としては、何れにもSKD6を使用した。
【0031】
試験条件は、摺動速度0.5Hz、負荷10kgf、時間30分、無潤滑とし、焼き付きによる凝着の発生は、摩擦係数の異常上昇を摩擦力の変動としてロードセル16を介して及び拡大鏡での目視観察により確認することにした。
【0032】
表1に示すように、実施例1〜8の組合せにおいては、凝着の発生は確認されなかった。一方、比較例1〜4の組合せにおいては、摩擦係数の異常上昇がロードセルを介して観察され、凝着が発生した。
【0033】
(撓み疲労強度試験)
ピストンリングの強度評価のための撓み疲労強度試験は、特開2001−208650により公知のピストンリング性能評価装置を使用した(図4を参照)。この撓み疲労強度試験機において、供試材42であるピストンリングの180°部(合い口部の反対側)下面最外周に歪みゲージを貼付し、そのピストンリングの上方から、図4に示す治具41により30Hzのsin波の繰り返し荷重を負荷した。なお、その繰り返し荷重は、図示しない油圧制御式疲労強度試験機で行った。供試材としては、表1に示す実施例1〜10および比較例1〜5のピストンリングを使用した。
【0034】
結果は撓み疲労強度指数で評価した。比較例1の撓み疲労強度指数を100とすると、表1に示したように、実施例1〜8及び比較例2〜4の何れの供試材においても、撓み疲労強度指数は99〜101であり、何れも十分な強度を示していた。
【0035】
(摩耗試験)
ピストンリングの耐摩耗性の評価のための摩耗試験は、図5に示すアムスラー型摩耗試験機51を使用した。この摩耗試験機51において、ピストンリングである供試材52(18mm×12mm×6mm)を固定片とし、シリンダライナに相当する相手材53(回転片)にはドーナツ状(外径40mm、内径16mm、厚さ10mm)のものを用い、供試材52と相手材53を接触させ、荷重Pを負荷して行った。供試材52としては、実施例1〜8および比較例1〜4の供試材を使用した。各供試材52を用いた摩耗係数試験条件は、潤滑油:軸受け油、油温:80℃、周速:1m/秒(478rpm)、荷重:150kgf、試験時間:7時間の条件下でボロン鋳鉄を相手材53として行った。なお、摩耗量の測定は、粗さ計による段差プロフィールで摩耗量(μm)を測定することにより行った。
【0036】
供試材52であるピストンリングとしては、表1に示す実施例1〜8および比較例1〜4のピストンリングを使用した。なお、表1には各ピストンリングの外周摺動面に形成された硬質皮膜のビッカース硬さも併せて示した。
【0037】
摩耗指数は、実施例1〜8および比較例2〜4の各供試材の摩耗量を、比較例1の供試材の摩耗量に対しての相対比として算出し、摩耗指数とした。従って、各供試材の摩耗指数が100より小さいほど摩耗量が少なく耐摩耗性に優れていることを表す。表1に示すように、イオンプレーティング皮膜を形成した場合の摩耗指数は、何れも98〜100であり、何れも十分な耐摩耗性を示していた。また、イオンプレーティング皮膜においては、硬度に差があっても、摩耗量に大きな影響は見られず、何れも優れた耐摩耗性を示していた。
【0038】
(衝撃試験)
ピストンリングの外周摺動面に形成した硬質皮膜の密着性評価のための衝撃試験は、図6に示すNPR式衝撃試験機61を使用した。この衝撃試験機61において、矢印で示すように、当て金64で支持したピストンリング62の外周摺動面に圧子63を介して1回当たり43.1mJ(4.4kgf・mm)の衝撃エネルギーを加え、剥離発生までの衝撃回数で評価した。供試材としては、表1に示す実施例1〜8および比較例1〜4のピストンリングを使用した。各供試材を用いて衝撃試験を行い、耐剥離性の評価を行った。剥離の有無は、表面を15倍に拡大して観察し、評価した。
【0039】
剥離指数は、比較例1の供試材の剥離発生までの衝撃回数を100とし、実施例1〜8及び比較例2〜4の供試材の剥離発生までの衝撃回数を比較例1の衝撃回数と対比させて算出した。従って、剥離指数が100よりも大きくなると、比較例1の供試材よりも多い衝撃回数で剥離が発生することとなるので、耐剥離性に優れることとなる。表1に示すように、剥離指数は何れも100〜102であり、大きな影響は見られず、何れも優れた耐摩耗性を示していた。
【0040】
【表1】
Figure 2004092714
【0041】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のピストンとピストンリングの組合せによれば、ピストンリング溝の下面にピストンリングの下面が密着した状態で大きな熱負荷と微動摩擦を受けた場合であっても、ピストンリングの下面が備える鋳鉄特有の黒鉛の影響による凹凸表面が油だまりとして作用し、また、その黒鉛が自己潤滑物質として作用し、相手材であるスチール材質からなるピストンリング溝との間で凝着現象を起こさないので、高出力ディーゼルエンジンのような高い燃焼温度と燃焼圧力を伴う高出力の内燃機関に好適に使用される耐久性に優れたピストンとピストンリングの組合せを提供できる。
【0042】
また、本発明のピストンとピストンリングの組合せにおいて、ピストンリングの弾性率を所定の範囲内とすることにより、シリンダライナに対する追従性をより向上させることができ、高出力の内燃機関に好適に使用される耐久性に優れたピストンとピストンリングの組合せを提供できる。
【0043】
また、本発明のピストンとピストンリングの組合せにおいて、ピストンリングの外周摺動面にイオンプレーティング皮膜を形成したり窒化処理することにより、ディーゼルエンジン等の高負荷環境下であっても耐摩耗性及び耐久性に優れたピストンとピストンリングの組合せとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のピストンとピストンリングの組合せの一例を示す断面図である。
【図2】本発明のピストンとピストンリングの組合せの他の例を示す断面図である。
【図3】往復動摩擦試験機の概略構成図である。
【図4】撓み疲労強度試験機の概略構成図である。
【図5】アムスラー型摩耗試験機の概略構成図である。
【図6】NPR式衝撃試験機の概略構成図である。
【符号の説明】
1 ピストンとピストンリングの組合せ
11 ピストン
12 ピストンリング溝
13 ピストンリング溝の下面
14 ピストンリング溝の上面
21 ピストンリング
22 ピストンリング母材
23 ピストンリングの下面
24 ピストンリングの上面
25 ピストンリングの外周摺動面
26 イオンプレーティング皮膜
27 窒化層
30 シリンダライナ

Claims (5)

  1. 少なくともピストンリング溝の材質がスチールであるピストンに、少なくとも外周摺動面に硬質皮膜を形成した鋳鉄製のピストンリングを装着したことを特徴とするピストンとピストンリングの組合せ。
  2. 前記ピストンリングが、片状黒鉛鋳鉄、球状黒鉛鋳鉄、白鋳鉄、可鍛鋳鉄、バーミキュラ鋳鉄及び合金鋳鉄から選択された1の鋳鉄で形成されていることを特徴とする請求項1に記載のピストンとピストンリングの組合せ。
  3. 前記ピストンリングが、13万MPa〜17万MPaの範囲内の弾性率であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のピストンとピストンリングの組合せ。
  4. 前記硬質皮膜が、イオンプレーティング皮膜であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のピストンとピストンリングの組合せ。
  5. 前記ピストンリングが、窒化処理されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載のピストンとピストンリングの組合せ。
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