JP2004082502A - 離型用フィルム - Google Patents
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Abstract
【課題】プリント基板との剥離性やプリント基板への耐汚染性に優れた離型用フィルムを提供する。
【解決手段】シンジオタクチックポリスチレン系樹脂を主成分とするフィルムからなり、このフィルムの少なくとも片面にプリント基板に転写可能な樹脂からなる転写層が設けられ、該転写層を構成する樹脂がポリビニルアルコールを主成分とするとともにその水溶液粘度(JISK6726に準拠して測定)が60cp以下であることを特徴とする離型用フィルム。
【選択図】 なし
【解決手段】シンジオタクチックポリスチレン系樹脂を主成分とするフィルムからなり、このフィルムの少なくとも片面にプリント基板に転写可能な樹脂からなる転写層が設けられ、該転写層を構成する樹脂がポリビニルアルコールを主成分とするとともにその水溶液粘度(JISK6726に準拠して測定)が60cp以下であることを特徴とする離型用フィルム。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はプリント基板のプレス加工時に好適に使用できる離型用フィルムに係り、特にプリント基板との剥離性やプリント基板への耐汚染性に優れた離型用フィルムに関する。
【0002】
【従来の技術及びその課題】
プリント基板の一般的な製造方法として、エポキシ樹脂をガラス繊維布に含浸させたプリプレグ(ガラエポ)を適宜枚数重ね、更に銅箔等の金属箔を載置し、プレス加工機により加熱、加圧して一体化する方法が行われている。
【0003】
上記プレス加工時には、プレス加工機のプレス板と基板の間や、基板同志間に離型用フィルムを介在させ、互いに引付いて作業性が悪くなることを防止している。このような離型用フィルムとして、通常、フッ素系プラスチックフィルムであるETFE(エチレンートリフルオロエチレン共重合体)やPVF(フッ化ビニル)が用いられているが、これらのフィルムは高価であり、また、使用後、焼却処分すると環境上問題となるガスが発生し易いという問題があった。
【0004】
そこで、上記以外の樹脂としてシンジオタクチックポリスチレン樹脂を使用した離型フィルムが種々検討されている(例えば、特許文献1参照)。
通常、シンジオタクチックポリスチレン樹脂を使用したフィルムは樹脂自体の立体構造に起因した低靱性のため機械的強度が低くフィルムの割れや破れが発生し易い欠点を有している。
この欠点を改良する技術としてシンジオタクチックポリスチレン樹脂にスチレン−ブタジエンゴム等の他の熱可塑性樹脂を添加した組成物からなるフィルムが検討されている。
このようなフィルムでは、熱可塑性樹脂の添加により確かに機械的強度は向上するが、シンジオタクチックポリスチレン自身が有する特性を十分発揮できず、プリント基板のプレス加工時に使用すると下記のような問題を生じることが判明した。
【0005】
即ち、低靱性を改良するために熱可塑性樹脂の添加量を増加させると確実に機械的物性は向上するが、本来シンジオタクチックポリスチレン自身が持っている優れたプリント基板との剥離性が低下するだけでなく、添加した熱可塑性樹脂がプリント基板成形時に熱分解してその一部がフィルム表面に出て(ブリードする)プリント基板を汚染する原因になり、この汚染物は除去が困難で後工程に問題を引き起こすことが多い。
また、上記フィルム表面にブリードする汚染物の発生を抑制させるために熱可塑性樹脂量を減らすと、必要とする機械的強度を得ることができず、たとえ機械的強度を上げるためにフィルム厚さを増したとして、シンジオタクチックポリスチレン自身の耐折強度はさほどの向上が見られない。
不具合なく使用するにはフィルム厚さをかなり厚くし、曲げ強さを向上させなければならず、この肉厚のフィルムを離型用フィルムに使用する場合には伝熱が悪くなって加工上の不具合が発生するという問題があった。
【0006】
そこで、上記問題を解決するために、中間層をシンジオタクチックポリスチレン樹脂に添加する熱可塑性樹脂量を増やし、外層をシンジオタクチックポリスチレン樹脂単体樹脂層から構成した積層フィルムも検討されている。
このような積層フィルムにより機械的強度や汚染の問題はほぼ解消できるが、プリント基板によっては剥離性が充分でないという問題が生じた。
また、プリプレグの接着性をより強固にするために、IVH(インターシャルバイアホール)基板では銅箔のエッチングを工夫しアンカー効果を上げることがなされており、このようなプリント基板では銅箔表面との剥離性が低下し易く、加工時に使用する離型用フィルムに上記積層フィルムを用いても、離型性が十分に対応できず剥離時にフィルム破断が発生したりするという問題があった。
【0007】
【特許文献1】
特開平11−349703号公報
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記問題を解決するために、シンジオタクチックポリスチレン系樹脂のフィルム面の少なくとも片側に転写層を設け、シンジオタクチックポリスチレン系フィルムと転写層の間で易剥離し、かつ後加工にプリント基板上に転写した転写層が除去可能なプリント基板用転写層付きシンジオタクチックポリスチレン系フィルムを提供しようとするものである。
その要旨は、シンジオタクチックポリスチレン系フィルムの少なくとも片面にプリント基板に転写可能な樹脂からなる転写層を設け、この転写層を構成する樹脂の水溶性粘度が60cp以下のポリビニルアルコールを主成分である樹脂の離型用シンジオタクチックポリスチレン系フィルムを用い、その転写層をプリント基板と接触する面に用いることにより、シンジオタクチックポリスチレン樹脂系フィルムとプリント基板との易剥離することができ、かつプリント基板上の転写層はその後の工程にて除去可能であることが特徴であるプリント基板用離型フィルム及びこの離型用フィルムを用いたプリント基板の製造方法にある。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明におけるフィルム材料の主成分であるシンジオタクチックポリスチレン樹脂とは、立体規則性がシンジオタクチック構造すなわち、炭素−炭素結合からなる形成された主鎖に対して側鎖であるフェニル基や置換フェニル基が交互に反対方向に位置する立体構造を持つものである。
また、機械的強度向上のため上記の主成分のシンジオタクチックポリスチレン樹脂にSBS(スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体)、SEBS(水添スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体)、SEPS(水素添加スチレン−イソプレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体)、PE(ポリエチレン)等の汎用のポリオレフィン樹脂を必要に応じ添加することができる。ここでシンジオタクチックポリスチレン樹脂の含有率はフィルム中75重量%以上、好ましくは95重量%以上である。また、上記シンジオタクチックポリスチレン樹脂からなる層と上記樹脂を混合した層を積層化しても良い。
【0010】
本発明で使用される転写層の構成材料は、水溶液粘度が60cp以下のポリビニルアルコールを主成分とする樹脂であり、このポリビニルアルコールに上記の水溶液粘度の範囲内に入るならば、ゼラチン、アルギン酸塩、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリアクリル酸等をブレンドしてもよい。
【0011】
本発明で規定する水溶性粘度はポリビニルアルコールの重合度を示す値であり、水溶液粘度の値が大きいと重合度は大きく、小さくなると重合度は小さくなる。
水溶液粘度が60cpを超えると重合度が大きくなりすぎるため、プレス時に樹脂の流れが悪くなり、基板表面の凹凸に転写層樹脂が追従できず、プレス後IVHからに樹脂(接着剤)漏れが起こり、表面平滑性が低下する。
また、プリント基板に転写した樹脂の重合度が大きいとプレス後に行われる洗浄工程において、転写した樹脂が溶解しにくくなり、洗浄液中にスケールとして残ってしまう。
【0012】
本発明のポリビニルアルコールの水溶性粘度は60cp以下と規定しているが、市販されている最も水溶性粘度の低いポリビニルアルコールの水溶性粘度は3cp程度であるため、実際には3cp以上60cp以下が最適な範囲である。
なお、この水溶液粘度はJIS K 6726(ポリビニルアルコール試験方法)に準拠して測定した数値である。
【0013】
転写層に水溶性樹脂のみをシンジオタクチックポリスチレン系樹脂フィルムに塗布させた場合、シンジオタクチックポリスチレン樹脂は濡れ性の低い材料のため、低濃度での水溶性樹脂水溶液を均一に塗布することが困難である。その場合には、必要に応じあらかじめ若干の界面活性剤を、転写層である水溶性樹脂の水溶液に添加し塗布することが好ましい。
これに使用できる界面活性剤とは、脂肪酸多価アルコールエステル、ポリオキシエチレンの非イオン系、スルホン酸、ホスフェート塩の陰イオン系、四級アンモニウム塩のカチオン系、ベタイン塩、アラニン塩の両性系が使用可能だが非イオン系界面活性剤が好適である。添加量としては上記水溶液中0.1〜2重量%程度が好ましい。
【0014】
本発明のフィルムの製膜法は、特に制限はなく、例えば、押出しキャスト法で製造する場合には、シンジオタクチックポリスチレン層の押出機シリンダー温度を270〜350℃に設定して押出し成形することができる。また、中間層に合わせ押出しラミネート法やフィードブロック、マルチマニホールドダイを使用して多層化しても良い。
なお、耐熱性等を得るためにはシンジオタクチックポリスチレン層を十分に結晶化する必要があり、公知の熱処理装置により結晶化処理を行う必要がある。
例えば、テンター装置を使用し乾燥機中にてフィルムを熱固定する等の方法や、熱処理ロールを使用し150〜220℃近辺で熱処理を行えばよい。
【0015】
次に、転写層の塗布についても特に制限はないが、製膜時にスプレー塗布、グラビアロールにて溶液コートさせる方法等があり、インライン、アウトラインは問わず実施することが可能である。
また、フィルムの結晶化処理と同時に塗膜乾燥を実施することも可能である。
塗布厚みに関しては、実用上10μm未満が好ましく、さらには5μm以下が最適であり、10μm以上の厚みになると後工程で除去することが困難になる。
例えば、除去作業の時間が必要になったり、プリント基板上に樹脂残りを発生させたり等の不具合を生じ、生産性の低下やプリント基板でのパターン形成工程でに不具合を生じ易い。
【0016】
転写層については、水溶性樹脂を使用しているため、後工程におけるプリント基板洗浄工程にて、当該基板上の転写層の除去が可能である。
プリント基板に転写した転写層の除去は、プリント基板の洗浄工程(水洗研磨、ソフトエッチング)で容易に除去が可能で、一般的な熱プレス成形後のプリント基板洗浄工程で十分に除去ができる。
洗浄工程の一般的手法としては、プレス後に水で簡単に洗浄、バフ掛けし、その後ソフトエッチング液(硫酸−過酸化水素水混合液)にて銅表面の還元処理を実施する。
【0017】
【実施例】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
(実施例1)
シンジオタクチックポリスチレン樹脂(出光石油化学社製「ザレック 30A」)90質量部にSBS(旭化成工業社製「タフテック1052」)を10質量部添加しマスターペレットを作製し、押出しキャスト法(シリンダー温度を270〜300℃)にて50μmのフィルムを作製し、テンター装置を使用し乾燥機(機内温度180℃)中にてフィルムを熱固定し結晶化フィルムを得た。
次に、転写層の塗布についてはグラビアロールにて、5%濃度のポリビニルアルコール(日本合成化学社製「ゴーセノールGL05」,水溶液粘度:5.8cp)水溶液と非イオン系界面活性剤0.2重量%濃度で混合水溶液を作製し溶液コートを乾燥後の膜厚みが0.5μmになるように上記結晶化フィルムの片面に塗布し、離型用フィルムを作成した。
【0018】
(実施例2)
転写層に用いたポリビニルアルコールを日本合成化学社製「ゴーセノールGM14」,(水溶液粘度:24.5cp)に変更した以外はすべて実施例1と同様にして離型用フィルムを作成した。
【0019】
(実施例3)
転写層に用いたポリビニルアルコールを日本合成化学社製「ゴーセノールGH17」,(水溶液粘度:33cp)に変更した以外はすべて実施例1と同様にして離型用フィルムを作成した。
【0020】
(実施例4)
転写層に用いたポリビニルアルコールを日本合成化学社製「ゴーセノールGH20」,(水溶液粘度:46cp)に変更した以外はすべて実施例1と同様にして離型用フィルムを作成した。
【0021】
(実施例5)
転写層に用いたポリビニルアルコールを日本合成化学社製「ゴーセノールGH23」,(水溶液粘度:56cp)に変更した以外はすべて実施例1と同様にして離型用フィルムを作成した。
【0022】
(比較例1)
転写層に用いたポリビニルアルコールを日本合成化学社製「ゴーセノールNH26」,(水溶液粘度:68cp)に変更した以外はすべて実施例1と同様にして離型用フィルムを作成した。
【0023】
(比較例2)
実施例1において転写層を塗工せずに離型用フィルムを作成した。
【0024】
上記の実施例1から6および比較例1、2で得られたフィルムを所定のサイズに裁断後、プリント基板プレス用の離型フィルムとして用いた。
次に、下記の条件でプレスを行い、プレスされたプリント基板の洗浄を行って、▲1▼基板の樹脂漏れ、▲2▼基板の表面平滑性、▲3▼基板との剥離性、▲4▼洗浄水への溶解性を評価した。評価結果を表1に示した。
【0025】
[プリント基板成形方法]
基板成形用のプレス機を用いて、下記内容で装置内にセットした。
使用材料:
クッション材/SUS化粧板/離型フィルム/積層成形材料(外層用銅張り積層板、内層用銅張り積層板、エポキシ樹脂含浸ガラスクロス入りプリプレグ(FR−4)/離型フィルム/SUS化粧板/クッション材
プレス条件:
プレス温度 175℃
プレス時間 60分
プレス圧力 30kg/m2
【0026】
▲1▼基板の樹脂漏れ
プレス加工時に発生するIVH等の穴周囲部の樹脂(接着剤)のはみ出し状態を目視で評価した。
◎:はみ出しは見られない。○:わずかにはみ出しが見られるが、使用上の問題はない。
△:はみ出しはあるが、使用上の問題はない。×:はみ出しが多く、使用上の問題がある。
【0027】
▲2▼基板の表面平滑性
プレス加工時に発生するIVH等の穴周囲部の樹脂(接着剤)のはみ出しにより発生した基板の凹凸状態を目視で評価した。
◎:凹凸はなく、平滑である。○:わずかに凹凸がある程度で使用上の問題はない。
△:凹凸はあるが、使用上の問題はない。×:全面に凹凸があり、使用上の問題がある。
【0028】
▲3▼基板との剥離性
プレス加工し、常温まで冷却した後、基板から離型用フィルムをはがした時の剥離性を評価した。
◎:剥離が非常に軽く、フィルムが破れない。○:剥離は重いが、フィルムは破れない。
△:剥離が重く、わずかにフィルムに破れは発生するが、使用上の問題はない。
×:剥離する際、フィルムが破れ、剥離できず、使用上の問題がある。
【0029】
▲4▼洗浄水への溶解性
プレス加工後の基板を30℃の硫酸−過酸化水素水溶液でスプレー圧力7.85×104Paのシャワーで30sec洗浄し、基板表面に付着した転写層の洗浄状態を目視で評価した。
◎:洗浄後、転写層が完全除去される。○:洗浄後、わずかに転写層が残るが、研磨により除去できる。
△:洗浄後、転写層は残るが、研磨により除去できる。×:洗浄後、研磨で除去できないほど転写層は残る。
【0030】
▲5▼総合評価
◎:きわめて良好 ○:良好 △:使用上問題はない。 ×:使用できない。
【0031】
【表1】
【0032】
以上の結果より、転写層を構成する樹脂に水溶液粘度が60cp以下のポリビニルアルコールを使用することにより高性能なプリント基板向けの離型用フィルムを得ることができることが分かる。
【0033】
【発明の効果】
本発明によれば、プリント基板のプレス加工時に好適に使用できる離型用フィルムであって、特にプリント基板との剥離性やプリント基板への耐汚染性に優れた離型用フィルムが得られる。
【発明の属する技術分野】
本発明はプリント基板のプレス加工時に好適に使用できる離型用フィルムに係り、特にプリント基板との剥離性やプリント基板への耐汚染性に優れた離型用フィルムに関する。
【0002】
【従来の技術及びその課題】
プリント基板の一般的な製造方法として、エポキシ樹脂をガラス繊維布に含浸させたプリプレグ(ガラエポ)を適宜枚数重ね、更に銅箔等の金属箔を載置し、プレス加工機により加熱、加圧して一体化する方法が行われている。
【0003】
上記プレス加工時には、プレス加工機のプレス板と基板の間や、基板同志間に離型用フィルムを介在させ、互いに引付いて作業性が悪くなることを防止している。このような離型用フィルムとして、通常、フッ素系プラスチックフィルムであるETFE(エチレンートリフルオロエチレン共重合体)やPVF(フッ化ビニル)が用いられているが、これらのフィルムは高価であり、また、使用後、焼却処分すると環境上問題となるガスが発生し易いという問題があった。
【0004】
そこで、上記以外の樹脂としてシンジオタクチックポリスチレン樹脂を使用した離型フィルムが種々検討されている(例えば、特許文献1参照)。
通常、シンジオタクチックポリスチレン樹脂を使用したフィルムは樹脂自体の立体構造に起因した低靱性のため機械的強度が低くフィルムの割れや破れが発生し易い欠点を有している。
この欠点を改良する技術としてシンジオタクチックポリスチレン樹脂にスチレン−ブタジエンゴム等の他の熱可塑性樹脂を添加した組成物からなるフィルムが検討されている。
このようなフィルムでは、熱可塑性樹脂の添加により確かに機械的強度は向上するが、シンジオタクチックポリスチレン自身が有する特性を十分発揮できず、プリント基板のプレス加工時に使用すると下記のような問題を生じることが判明した。
【0005】
即ち、低靱性を改良するために熱可塑性樹脂の添加量を増加させると確実に機械的物性は向上するが、本来シンジオタクチックポリスチレン自身が持っている優れたプリント基板との剥離性が低下するだけでなく、添加した熱可塑性樹脂がプリント基板成形時に熱分解してその一部がフィルム表面に出て(ブリードする)プリント基板を汚染する原因になり、この汚染物は除去が困難で後工程に問題を引き起こすことが多い。
また、上記フィルム表面にブリードする汚染物の発生を抑制させるために熱可塑性樹脂量を減らすと、必要とする機械的強度を得ることができず、たとえ機械的強度を上げるためにフィルム厚さを増したとして、シンジオタクチックポリスチレン自身の耐折強度はさほどの向上が見られない。
不具合なく使用するにはフィルム厚さをかなり厚くし、曲げ強さを向上させなければならず、この肉厚のフィルムを離型用フィルムに使用する場合には伝熱が悪くなって加工上の不具合が発生するという問題があった。
【0006】
そこで、上記問題を解決するために、中間層をシンジオタクチックポリスチレン樹脂に添加する熱可塑性樹脂量を増やし、外層をシンジオタクチックポリスチレン樹脂単体樹脂層から構成した積層フィルムも検討されている。
このような積層フィルムにより機械的強度や汚染の問題はほぼ解消できるが、プリント基板によっては剥離性が充分でないという問題が生じた。
また、プリプレグの接着性をより強固にするために、IVH(インターシャルバイアホール)基板では銅箔のエッチングを工夫しアンカー効果を上げることがなされており、このようなプリント基板では銅箔表面との剥離性が低下し易く、加工時に使用する離型用フィルムに上記積層フィルムを用いても、離型性が十分に対応できず剥離時にフィルム破断が発生したりするという問題があった。
【0007】
【特許文献1】
特開平11−349703号公報
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記問題を解決するために、シンジオタクチックポリスチレン系樹脂のフィルム面の少なくとも片側に転写層を設け、シンジオタクチックポリスチレン系フィルムと転写層の間で易剥離し、かつ後加工にプリント基板上に転写した転写層が除去可能なプリント基板用転写層付きシンジオタクチックポリスチレン系フィルムを提供しようとするものである。
その要旨は、シンジオタクチックポリスチレン系フィルムの少なくとも片面にプリント基板に転写可能な樹脂からなる転写層を設け、この転写層を構成する樹脂の水溶性粘度が60cp以下のポリビニルアルコールを主成分である樹脂の離型用シンジオタクチックポリスチレン系フィルムを用い、その転写層をプリント基板と接触する面に用いることにより、シンジオタクチックポリスチレン樹脂系フィルムとプリント基板との易剥離することができ、かつプリント基板上の転写層はその後の工程にて除去可能であることが特徴であるプリント基板用離型フィルム及びこの離型用フィルムを用いたプリント基板の製造方法にある。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明におけるフィルム材料の主成分であるシンジオタクチックポリスチレン樹脂とは、立体規則性がシンジオタクチック構造すなわち、炭素−炭素結合からなる形成された主鎖に対して側鎖であるフェニル基や置換フェニル基が交互に反対方向に位置する立体構造を持つものである。
また、機械的強度向上のため上記の主成分のシンジオタクチックポリスチレン樹脂にSBS(スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体)、SEBS(水添スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体)、SEPS(水素添加スチレン−イソプレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体)、PE(ポリエチレン)等の汎用のポリオレフィン樹脂を必要に応じ添加することができる。ここでシンジオタクチックポリスチレン樹脂の含有率はフィルム中75重量%以上、好ましくは95重量%以上である。また、上記シンジオタクチックポリスチレン樹脂からなる層と上記樹脂を混合した層を積層化しても良い。
【0010】
本発明で使用される転写層の構成材料は、水溶液粘度が60cp以下のポリビニルアルコールを主成分とする樹脂であり、このポリビニルアルコールに上記の水溶液粘度の範囲内に入るならば、ゼラチン、アルギン酸塩、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリアクリル酸等をブレンドしてもよい。
【0011】
本発明で規定する水溶性粘度はポリビニルアルコールの重合度を示す値であり、水溶液粘度の値が大きいと重合度は大きく、小さくなると重合度は小さくなる。
水溶液粘度が60cpを超えると重合度が大きくなりすぎるため、プレス時に樹脂の流れが悪くなり、基板表面の凹凸に転写層樹脂が追従できず、プレス後IVHからに樹脂(接着剤)漏れが起こり、表面平滑性が低下する。
また、プリント基板に転写した樹脂の重合度が大きいとプレス後に行われる洗浄工程において、転写した樹脂が溶解しにくくなり、洗浄液中にスケールとして残ってしまう。
【0012】
本発明のポリビニルアルコールの水溶性粘度は60cp以下と規定しているが、市販されている最も水溶性粘度の低いポリビニルアルコールの水溶性粘度は3cp程度であるため、実際には3cp以上60cp以下が最適な範囲である。
なお、この水溶液粘度はJIS K 6726(ポリビニルアルコール試験方法)に準拠して測定した数値である。
【0013】
転写層に水溶性樹脂のみをシンジオタクチックポリスチレン系樹脂フィルムに塗布させた場合、シンジオタクチックポリスチレン樹脂は濡れ性の低い材料のため、低濃度での水溶性樹脂水溶液を均一に塗布することが困難である。その場合には、必要に応じあらかじめ若干の界面活性剤を、転写層である水溶性樹脂の水溶液に添加し塗布することが好ましい。
これに使用できる界面活性剤とは、脂肪酸多価アルコールエステル、ポリオキシエチレンの非イオン系、スルホン酸、ホスフェート塩の陰イオン系、四級アンモニウム塩のカチオン系、ベタイン塩、アラニン塩の両性系が使用可能だが非イオン系界面活性剤が好適である。添加量としては上記水溶液中0.1〜2重量%程度が好ましい。
【0014】
本発明のフィルムの製膜法は、特に制限はなく、例えば、押出しキャスト法で製造する場合には、シンジオタクチックポリスチレン層の押出機シリンダー温度を270〜350℃に設定して押出し成形することができる。また、中間層に合わせ押出しラミネート法やフィードブロック、マルチマニホールドダイを使用して多層化しても良い。
なお、耐熱性等を得るためにはシンジオタクチックポリスチレン層を十分に結晶化する必要があり、公知の熱処理装置により結晶化処理を行う必要がある。
例えば、テンター装置を使用し乾燥機中にてフィルムを熱固定する等の方法や、熱処理ロールを使用し150〜220℃近辺で熱処理を行えばよい。
【0015】
次に、転写層の塗布についても特に制限はないが、製膜時にスプレー塗布、グラビアロールにて溶液コートさせる方法等があり、インライン、アウトラインは問わず実施することが可能である。
また、フィルムの結晶化処理と同時に塗膜乾燥を実施することも可能である。
塗布厚みに関しては、実用上10μm未満が好ましく、さらには5μm以下が最適であり、10μm以上の厚みになると後工程で除去することが困難になる。
例えば、除去作業の時間が必要になったり、プリント基板上に樹脂残りを発生させたり等の不具合を生じ、生産性の低下やプリント基板でのパターン形成工程でに不具合を生じ易い。
【0016】
転写層については、水溶性樹脂を使用しているため、後工程におけるプリント基板洗浄工程にて、当該基板上の転写層の除去が可能である。
プリント基板に転写した転写層の除去は、プリント基板の洗浄工程(水洗研磨、ソフトエッチング)で容易に除去が可能で、一般的な熱プレス成形後のプリント基板洗浄工程で十分に除去ができる。
洗浄工程の一般的手法としては、プレス後に水で簡単に洗浄、バフ掛けし、その後ソフトエッチング液(硫酸−過酸化水素水混合液)にて銅表面の還元処理を実施する。
【0017】
【実施例】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
(実施例1)
シンジオタクチックポリスチレン樹脂(出光石油化学社製「ザレック 30A」)90質量部にSBS(旭化成工業社製「タフテック1052」)を10質量部添加しマスターペレットを作製し、押出しキャスト法(シリンダー温度を270〜300℃)にて50μmのフィルムを作製し、テンター装置を使用し乾燥機(機内温度180℃)中にてフィルムを熱固定し結晶化フィルムを得た。
次に、転写層の塗布についてはグラビアロールにて、5%濃度のポリビニルアルコール(日本合成化学社製「ゴーセノールGL05」,水溶液粘度:5.8cp)水溶液と非イオン系界面活性剤0.2重量%濃度で混合水溶液を作製し溶液コートを乾燥後の膜厚みが0.5μmになるように上記結晶化フィルムの片面に塗布し、離型用フィルムを作成した。
【0018】
(実施例2)
転写層に用いたポリビニルアルコールを日本合成化学社製「ゴーセノールGM14」,(水溶液粘度:24.5cp)に変更した以外はすべて実施例1と同様にして離型用フィルムを作成した。
【0019】
(実施例3)
転写層に用いたポリビニルアルコールを日本合成化学社製「ゴーセノールGH17」,(水溶液粘度:33cp)に変更した以外はすべて実施例1と同様にして離型用フィルムを作成した。
【0020】
(実施例4)
転写層に用いたポリビニルアルコールを日本合成化学社製「ゴーセノールGH20」,(水溶液粘度:46cp)に変更した以外はすべて実施例1と同様にして離型用フィルムを作成した。
【0021】
(実施例5)
転写層に用いたポリビニルアルコールを日本合成化学社製「ゴーセノールGH23」,(水溶液粘度:56cp)に変更した以外はすべて実施例1と同様にして離型用フィルムを作成した。
【0022】
(比較例1)
転写層に用いたポリビニルアルコールを日本合成化学社製「ゴーセノールNH26」,(水溶液粘度:68cp)に変更した以外はすべて実施例1と同様にして離型用フィルムを作成した。
【0023】
(比較例2)
実施例1において転写層を塗工せずに離型用フィルムを作成した。
【0024】
上記の実施例1から6および比較例1、2で得られたフィルムを所定のサイズに裁断後、プリント基板プレス用の離型フィルムとして用いた。
次に、下記の条件でプレスを行い、プレスされたプリント基板の洗浄を行って、▲1▼基板の樹脂漏れ、▲2▼基板の表面平滑性、▲3▼基板との剥離性、▲4▼洗浄水への溶解性を評価した。評価結果を表1に示した。
【0025】
[プリント基板成形方法]
基板成形用のプレス機を用いて、下記内容で装置内にセットした。
使用材料:
クッション材/SUS化粧板/離型フィルム/積層成形材料(外層用銅張り積層板、内層用銅張り積層板、エポキシ樹脂含浸ガラスクロス入りプリプレグ(FR−4)/離型フィルム/SUS化粧板/クッション材
プレス条件:
プレス温度 175℃
プレス時間 60分
プレス圧力 30kg/m2
【0026】
▲1▼基板の樹脂漏れ
プレス加工時に発生するIVH等の穴周囲部の樹脂(接着剤)のはみ出し状態を目視で評価した。
◎:はみ出しは見られない。○:わずかにはみ出しが見られるが、使用上の問題はない。
△:はみ出しはあるが、使用上の問題はない。×:はみ出しが多く、使用上の問題がある。
【0027】
▲2▼基板の表面平滑性
プレス加工時に発生するIVH等の穴周囲部の樹脂(接着剤)のはみ出しにより発生した基板の凹凸状態を目視で評価した。
◎:凹凸はなく、平滑である。○:わずかに凹凸がある程度で使用上の問題はない。
△:凹凸はあるが、使用上の問題はない。×:全面に凹凸があり、使用上の問題がある。
【0028】
▲3▼基板との剥離性
プレス加工し、常温まで冷却した後、基板から離型用フィルムをはがした時の剥離性を評価した。
◎:剥離が非常に軽く、フィルムが破れない。○:剥離は重いが、フィルムは破れない。
△:剥離が重く、わずかにフィルムに破れは発生するが、使用上の問題はない。
×:剥離する際、フィルムが破れ、剥離できず、使用上の問題がある。
【0029】
▲4▼洗浄水への溶解性
プレス加工後の基板を30℃の硫酸−過酸化水素水溶液でスプレー圧力7.85×104Paのシャワーで30sec洗浄し、基板表面に付着した転写層の洗浄状態を目視で評価した。
◎:洗浄後、転写層が完全除去される。○:洗浄後、わずかに転写層が残るが、研磨により除去できる。
△:洗浄後、転写層は残るが、研磨により除去できる。×:洗浄後、研磨で除去できないほど転写層は残る。
【0030】
▲5▼総合評価
◎:きわめて良好 ○:良好 △:使用上問題はない。 ×:使用できない。
【0031】
【表1】
【0032】
以上の結果より、転写層を構成する樹脂に水溶液粘度が60cp以下のポリビニルアルコールを使用することにより高性能なプリント基板向けの離型用フィルムを得ることができることが分かる。
【0033】
【発明の効果】
本発明によれば、プリント基板のプレス加工時に好適に使用できる離型用フィルムであって、特にプリント基板との剥離性やプリント基板への耐汚染性に優れた離型用フィルムが得られる。
Claims (2)
- プリント基板のプレス加工時に用いられる離型用フィルムがシンジオタクチックポリスチレン系樹脂を主成分とするフィルムからなり、このフィルムの少なくとも片面にプリント基板に転写可能な樹脂からなる転写層が設けられ、該転写層を構成する樹脂がポリビニルアルコールを主成分とするとともにその水溶液粘度(JISK6726に準拠して測定)が60cp以下であることを特徴とする離型用フィルム。
- プリント基板のプレス加工時に請求項1記載の離型用フィルムを用いてプレス加工し、フィルムと転写層の間で剥離することを特徴とするプリント基板の製造方法。
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Cited By (2)
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