JP2004076115A - 酸化物系介在物の少ない高窒素含有鋼の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】予め定められた予定時間内で酸化物系介在物の少ない高窒素含有鋼を効率良く製造する方法を提供する。
【解決手段】溶鋼を攪拌しつつ真空脱ガスして精錬するに際し、下記(1)式および(2)式を満足する様に、ArとN2の混合ガスまたはN2ガスを、溶鋼に20分以上吹き込むことにより溶鋼を攪拌する。
【数1】
式中、CN 0 :精錬前における鋼中の窒素濃度(ppm)、CN,aim:精錬終了時における鋼中の目標窒素濃度(ppm)、T:ガス吹き込み時間(min)、但しT≧20、P:真空脱ガス時の真空度(Pa)、QAr:Arガス吹き込み流量(NL/min・溶鋼t)、QN2:N2ガス吹き込み流量(NL/min・溶鋼t)である。
【選択図】 図4
【解決手段】溶鋼を攪拌しつつ真空脱ガスして精錬するに際し、下記(1)式および(2)式を満足する様に、ArとN2の混合ガスまたはN2ガスを、溶鋼に20分以上吹き込むことにより溶鋼を攪拌する。
【数1】
式中、CN 0 :精錬前における鋼中の窒素濃度(ppm)、CN,aim:精錬終了時における鋼中の目標窒素濃度(ppm)、T:ガス吹き込み時間(min)、但しT≧20、P:真空脱ガス時の真空度(Pa)、QAr:Arガス吹き込み流量(NL/min・溶鋼t)、QN2:N2ガス吹き込み流量(NL/min・溶鋼t)である。
【選択図】 図4
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、溶鋼を攪拌しつつ真空脱ガスして精錬する技術に関するものであり、より詳細には、溶鋼を攪拌しつつ真空脱ガスして精錬することにより酸化物系介在物の少ない高窒素含有鋼を製造する技術に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
機械構造用鋼(例えば、歯車用鋼や軸受け用鋼など)や薄鋼板には、高濃度の窒素を含む鋼が用いられる場合がある。窒化物の析出により結晶粒の微細化や、窒素の固溶などにより高強度化が図れるからである。高窒素含有鋼を製造する技術としては、例えば、特開昭52−42410号や特開平7−90345号、同7−216439号、特公平6−68123号などが提案されている。これらの技術では、例えば転炉や電気炉内の溶鋼に、炉底から窒素ガスを吹き込むことにより、溶鋼中の窒素濃度を高めている。
【0003】
また、疲労強度や疲労寿命が要求される機械部品用の鋼は、清浄度の高いものが求められる。鋼中の酸化物系介在物が多くなると、該介在物が疲労破壊の原因となるからである。鋼中の酸化物系介在物量を低減するには、真空脱ガスして精錬すれば良く、例えば特許第3033000号や特開2001−342512号などには、真空脱ガス時における槽内の真空度や処理時間を規定したり、脱酸剤を用いることが提案されている。
【0004】
ところで、近年における機械部品の使用環境はますます過酷になり、鋼材に対する要求特性も厳しくなっている。従って、上述した如く、鋼中の窒素濃度を高めたり、或いは、酸化物系介在物量を低減するだけでは、要求特性を満足しきれなくなっている。そこで、鋼中に高濃度の窒素を含有せしめつつ酸化物系介在物量を低減することが考えられる。ところが、本発明者らが検討したところでは、溶鋼中の窒素濃度を高めた高窒素含有溶鋼を真空脱ガスして精錬すると、鋼中の酸化物系介在物量は低減するものの真空脱ガス時に溶鋼からの脱窒が起こり、窒素含有量が低下する。
【0005】
また、特開昭56−25919号や特開平2−225615号などには、酸化物系介在物の少ない高窒素含有鋼の製造方法が提案されている。これらの技術では、真空脱ガスによる精錬を清浄化期と加窒期に分け、清浄化期では装置内を真空にすると共に、還流ガスとしてN2ガスやArガスを溶鋼内へ吹き込んで溶鋼を攪拌することにより脱酸を進め、一方加窒期には、前記装置内へ窒素ガスを吹き込んでN2ガス雰囲気とすることによって、酸化物系介在物の生成を抑制すると共に窒素量を高めている。しかし、真空脱ガスによる精錬を清浄化期と加窒期に分けて操業すると、精錬に要する時間が長くなり、生産性が低下する。また、前掲の従来技術では、精錬後の溶鋼に含まれる窒素濃度を如何に制御するか、といった具体的な手段までは追求されていない。さらに、鋼の製造過程においては、鋳造や精錬といった各工程に要する時間は予め設定されているのが一般的であるので、精錬に要する時間が予め設定されている予定時間より長くなると後工程の製造スケジュールを設定し直す必要があり、予定時間内で精錬する方法が望まれている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、この様な状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、予め定められた予定時間内で酸化物系介在物の少ない高窒素含有鋼を効率良く製造する方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決することのできた本発明に係る酸化物系介在物の少ない高窒素含有鋼の製造方法とは、溶鋼を攪拌しつつ真空脱ガスして精錬するに際し、下記(1)式および(2)式を満足する様に、ArとN2の混合ガスまたはN2ガスを、溶鋼に20分以上吹き込むことにより溶鋼を攪拌する点に要旨を有する。
【0008】
【数2】
【0009】
式中、CN 0:精錬前における鋼中の窒素濃度(ppm)、CN,aim:精錬終了時における鋼中の目標窒素濃度(ppm)、T:ガス吹き込み時間(min)、但しT≧20、P:真空脱ガス時の真空度(Pa)、QAr:Arガス吹き込み流量(NL/min・溶鋼t)、QN2:N2ガス吹き込み流量(NL/min・溶鋼t)である。
【0010】
【発明の実施の形態】
溶鋼内に生成した酸化物系介在物は、還流ガスで溶鋼を攪拌することにより除去される。この際、溶鋼内の酸素を効率良く除去するための方法として汎用されているのは、溶鋼へArガスを吹き込んで溶鋼を攪拌する方法である。しかし、上述した様に、転炉や電気炉などで高濃度の窒素を含有させた高窒素含有溶鋼を真空脱ガスして精錬すると、溶鋼からの脱窒が起こって溶鋼中の窒素濃度が低下する。そこで、真空脱ガスして精錬する際に、Arガスの代わりにN2ガスを使用して溶鋼を攪拌すると、酸化物系介在物を除去しつつ、N2ガスが溶鋼へ溶解するので窒素量の低下を抑えることができる。
【0011】
しかし、精錬時にArガスの代わりにN2ガスを使用すると、例えば、第124回日本鉄鋼協会生産部門製鋼部会資料(平成13年3月16日、P.1〜14)に記載されている様に、N2ガスはArガスよりも溶鋼を攪拌する能力が劣るため、攪拌不足となり脱ガスが不充分になって、酸化物系介在物の生成を抑制できない場合がある。また、溶鋼へN2ガスを吹き込む時間を長くして、溶鋼を攪拌する時間を長くすることにより酸化物系介在物の除去を促進する方法も考えられるが、上述した様に、精錬に要する時間を予め設定されている予定時間よりも長くすると、後工程の製造スケジュールを変更しなければならず、操作が煩雑となる。
【0012】
ところが、本発明者らが検討を重ねたところ、溶鋼を攪拌しつつ真空脱ガスして精錬するに際し、精錬前における鋼中の窒素濃度、精錬終了後における鋼中の目標窒素濃度および予め設定されているガス吹き込み時間に応じて、溶鋼内へ吹き込むガスの流量と混合比および真空脱ガス時の真空度を適切に制御すれば上記課題が見事達成されることを見出し、本発明を完成した。以下、本発明の構成および作用効果を詳細に説明していく。
【0013】
本発明では、上記(1)式および(2)式を満足する様に、ArとN2の混合ガスまたはN2ガスを溶鋼内へ吹き込むことが重要である。これらの式を定めた理由は、下記の通りである。
【0014】
上記(1)式の関係を定めた理由を以下に説明する。
【0015】
成分組成として、C:0.01〜1%(「質量%」の意味。以下同じ。)、Si:0.01〜1%、Mn:0.01〜2%、Al:0.001〜0.1%および不可避不純物を含む溶鋼を、転炉から取鍋へ240トン出鋼し、RH式脱ガス精錬装置を用いて精錬した。
【0016】
このとき、真空脱ガス時におけるRH式脱ガス精錬装置内の真空度Pと、溶鋼へ吹き込むガスの混合比を変化させた。溶鋼へ吹き込むガスとしては、ArとN2の混合ガスまたはN2ガスを用い、真空脱ガス時の真空度Pに占める窒素分圧と、精錬前後における鋼中の窒素濃度の変化量との関係を調べた。溶鋼へのガス吹き込み時間は、製造過程における精錬工程として予め設定されている予定時間通りとした。
【0017】
精錬前における鋼中の窒素濃度CN 0と精錬終了時における鋼中の窒素濃度CN,endを夫々測定し、精錬に要した時間(ガス吹き込み時間)T(min)における窒素濃度の変化量を求めた。鋼中に含まれている窒素濃度は、堀場製作所製RMGA−520を用いて不活性ガス−インパルス加熱溶解法で測定した。結果を図1に示す。図中、X軸は真空脱ガス時における真空度Pに占める窒素分圧、Y軸は精錬前後における単位時間当たりの窒素濃度の変化量を夫々示しており、Y軸が正の値のときは、精錬前における鋼中の窒素量が精錬により減少したことを示し、Y軸が負の値のときは、精錬前における鋼中の窒素量が精錬により増加したことを示している。
【0018】
図1から明らかな様に、真空脱ガス時における真空度Pに占める窒素分圧と、精錬前後における単位時間当たりの窒素濃度の変化量との間には明らかに相関関係が認められ、図中の直線は下記▲1▼式で示される。
【0019】
【数3】
【0020】
そして、精錬終了時における鋼中の窒素濃度(CN,end)を、精錬終了時における鋼中の目標窒素濃度(CN,aim)に置き換えると、上記▲1▼式から下記▲2▼式が導かれる。
【0021】
【数4】
【0022】
そして、CN,endをCN,aim以上にするためには、前記図1に示した直線より右上の領域に制御すればよいので、下記(1)式を満足する様に真空脱ガス時における真空度Pに占める窒素分圧を制御すれば、予め定められた予定時間内で精錬終了時の鋼中に目標窒素濃度以上の窒素を確実に含有させることができる。
【0023】
【数5】
【0024】
次に、前記RH式脱ガス精錬装置の浸漬管から吹き込むガスの流量と混合比を適宜変化させ、溶鋼へのガス吹き込みが酸化物系介在物の生成に及ぼす影響について検討した。
【0025】
溶鋼内へガスを吹き込む時間は20分とし、真空脱ガス時におけるRH式脱ガス精錬装置内の真空度は200〜30000Paとした。精錬後の溶鋼からサンプルを採取し、断面をEPMAで観察して酸化物系介在物の個数を測定した。EPMAとは、電子線マイクロプローブX線分析計(Electron Probe X−ray Micro Analysis)であり、島津製作所製EPMA−8705を用いた。EPMA観察は、加速電圧20kV、試料電流0.01μA、観察視野面積3〜5cm2で行い、特性X線の波長分散分光により介在物中央部の定量分析を行なった。定量対象元素は、Al,Mn,Si,Mg,Ca,Zr,Oとし、既知物質を用いて各元素のX線強度と元素濃度との関係を予め検量腺として求めておき、観察対象介在物から得られるX線強度に基づき検量腺からその元素濃度を定量した。本発明では、最大径が10μm以上の介在物であって、EPMA分析したときにO元素(酸素元素)濃度が10質量%以上の介在物を「酸化物系介在物」としている。観察視野内における酸化物系介在物の個数を測定し、これを観察視野面積で割って単位観察視野面積当たりの酸化物系介在物の生成量(個/cm2)を算出した。結果を図2に示す。なお、図中X軸は溶鋼へのN2ガス吹き込み流量、Y軸は溶鋼へのArガス吹き込み流量を夫々示しており、最大径が10μm以上の酸化物系介在物の生成量が30個/cm2未満の場合を●で、30個/cm2以上の場合を□で夫々示した。
【0026】
Arガス吹き込み流量をQAr、N2ガス吹き込み流量をQN2とすると、図2から明らかな様に、最大径が10μm以上の酸化物系介在物の生成量を30個/cm2未満に低減するには、下記(2)式を満足する必要がある。すなわち、N2ガスはArガスに比べて溶鋼に対する攪拌力が弱いので、ArガスとN2ガスの混合比が下記(2)式を満足しない場合は、溶鋼の攪拌が不充分となり、脱ガス不足により酸化物系介在物が生成し易くなる。
QAr+0.6×QN2≧4 ・・・(2)
なお、最大径が10μm以上の酸化物系介在物の生成量を30個/cm2未満と定めた理由は、酸化物系介在物が30個/cm2以上となると、鋼材の疲労強度や疲労寿命が明らかに劣化してくるからである。
【0027】
ここで、図2の結果を、X軸を上記(2)式の左辺の値、Y軸を酸化物系介在物の生成量としてプロットし直すと、図3の様になる。図3から明らかな様に、上記(2)式の左辺の値が4以上であれば、溶鋼の攪拌による脱ガスが充分に促進され、酸化物系介在物の生成を抑制できることが分かる。好ましくは、下記▲3▼式を満足するのが望ましい。
QAr+0.6×QN2≧5 ・・・▲3▼
尚、本発明において、吹き込みガスとしてArとN2の混合ガスまたはN2ガスを用いる理由は、少なくともN2ガスを含む不活性ガスを溶鋼へ吹き込んで溶鋼を攪拌することで、鋼内へ高濃度の窒素を含有させることができるからであり、また、所定量のガスを溶鋼へ吹き込むことで、溶鋼からの脱ガスを促進でき、酸化物系介在物の生成を抑制できるからである。
【0028】
但し、N2ガスを単独で用いると、Arガスを併用するとき以上の流量でN2ガスを吹き込む必要があるので、好ましくはArとN2の混合ガスを用いるのが良い。このとき、ArとN2の混合比は、上記(1)式および(2)式を満足する範囲内であれば特に限定されないが、例えば、混合比[Ar/N2]を0.5〜2程度とすれば良い。
【0029】
なお、Arガスのみを溶鋼へ吹き込んで操業した場合は、ガス吹き込み精錬による窒素濃度の上昇が調整できなくなり、高窒素含有鋼が得られなくなるので採用できない。また、Ar以外の不活性ガス(例えば、Heガス)をN2ガスと共に吹き込むこともできるが、例えばHeガスは非常に高価なので実操業に耐えない。
【0030】
本発明において、ArガスおよびN2ガスの吹き込み流量は、上記要件を満足すれば特に限定されないが、溶鋼への吹き込みガス流量が多過ぎると溶鋼の飛散が激しくなったり、耐火物の損耗が著しく進行したりするので、吹き込みガス流量の上限は全体で20NL/min・溶鋼t以下とするのが好ましく、より好ましくは15NL/min・溶鋼t以下とするのが望ましい。
【0031】
本発明では、上記要件に加えて、ArとN2の混合ガスまたはN2ガスを、溶鋼に20分以上吹き込んで溶鋼を攪拌することが重要となる。ちなみに、吹き込み時間が20分未満では、溶鋼の攪拌が不充分となり、吹き込み条件が上記(1)式および(2)式を満足したとしても、脱ガス不足となって酸化物系介在物の生成を充分に抑制できなくなる。しかも、溶鋼へのN2ガス吹き込み時間が短じか過ぎるため、鋼内に充分量の窒素を含有させることができず、本発明の目的を達成できない。溶鋼へガスを吹き込む時間の上限は特に限定されず、実操業プロセスで許容される範囲内で適宜設定すればよいが、一般的には一時間程度である。
【0032】
本発明において、溶鋼を攪拌しつつ真空脱ガスする工程とは、転炉や電気炉などから取鍋に受鋼した後、RH式脱ガス精錬装置を用いて精錬する場合や、DH式やASEA式精錬装置を用いて精錬する場合などを指す。なお、本発明に用いることのできる鋼種は特に限定されず、種々のものが採用できる。例えば、歯車用鋼や軸受け用鋼、建築用鋼、造船用鋼などである。
【0033】
以上の様に、本発明によると、所期の窒素濃度以上で、且つ、最大径が10μm以上の酸化物系介在物が30個/cm2未満に抑制された酸化物系介在物の少ない高窒素含有鋼材を得ることができ、疲労強度や疲労寿命が良好で且つ高強度の鋼材を提供できる。
【0034】
【実施例】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0035】
溶銑を240トン転炉で一次精錬する際に、転炉の底部からN2ガスを吹き込み転炉出鋼時の溶鋼窒素濃度を76〜132ppmに調整した。窒素濃度調整後の溶鋼を取鍋に受鋼した後、RH式脱ガス精錬装置を用いて二次精錬し、下記表1に示す成分組成に調整した。なお、本実施例では、成分調整の際に窒化マンガンや窒化カルシウムなどの窒素を含む合金は使用していない。
【0036】
【表1】
【0037】
二次精錬は、ArとN2の混合ガスまたはN2ガスを、表2に示す流量(NL/min・溶鋼t)で浸漬管から取鍋内の溶鋼へ吹き込んだ。このときのRH式脱ガス精錬装置内における真空脱ガス時の真空度P(Pa)を表2に併記する。
【0038】
ガス吹き込み時間T(min)は、予め設定されている予定吹き込み時間(min)通りとした。表2に、予め設定されている予定吹き込み時間と、実際にガスを溶鋼へ吹き込んだときのガス吹き込み時間T(min)を夫々示した。但し、表中のNo.に「*」を付した実施例は、予定吹き込み時間よりも長くガスを吹き込んだ例を示している。
【0039】
精錬前における鋼中の窒素濃度CN 0を、堀場製作所製EMGA−520を用いて不活性ガス−インパルス加熱融解法で測定し、測定結果を表2に示す。また、精錬終了時における鋼中へ含有させる目標窒素濃度CN,aimを表2に示す。
【0040】
【表2】
【0041】
表2に示した精錬前における鋼中の窒素濃度CN 0、精錬終了時における鋼中の目標窒素濃度CN,aimおよびガス吹き込み時間Tから前記(1)式の左辺の値、表2に示した真空度Pと溶鋼へのガス吹き込み流量から前記(1)式の右辺の値、表2に示した溶鋼へのガス吹き込み流量から前記(2)式の左辺の値を夫々算出し、算出結果を表3に示す。
【0042】
二次精錬後の溶鋼からサンプルを採取し、精錬終了時における鋼中の窒素濃度と酸化物系介在物の生成量を測定した。窒素濃度は堀場製作所製EMGA−520を用いて、不活性ガス−インパルス加熱融解法で測定した。酸化物系介在物の生成量は、サンプル断面をEPMAで観察して酸化物系介在物の個数を測定し、これを観察視野面積で割って単位観察視野面積当たりの酸化物系介在物の生成量(個/cm2)を算出した。EPMA観察には島津製作所製EPMA−8705を用いて、加速電圧20kV、試料電流0.01μA、観察視野面積3〜5cm2で行い、特性X線の波長分散分光により介在物中央部の定量分析を行なった。酸化物系介在物は、前掲した方法により特定した。精錬終了時における鋼中の窒素濃度と酸化物系介在物の生成量を表3に合わせて示す。
【0043】
【表3】
【0044】
精錬終了時における鋼中の窒素濃度(ppm)に対して酸化物系介在物の生成量(個/cm2)をプロットしたものを図4として示す。なお、図中、○はNo.1〜9の結果であり、●はNo.10〜25の結果である。なお、No.21*〜No.25*の結果はプロットしていない。
【0045】
表3および図4から次の様に考察できる。No.1〜9は、本発明の要件を満足する本発明例であり、溶鋼を攪拌しつつ真空脱ガスすることにより予め定められた予定時間内で酸化物系介在物の少ない高窒素含有鋼が得られる。すなわち、No.1〜9は、真空脱ガスにより酸化物系介在物の生成量を30個/cm2未満に低減できているにもかかわらず、精錬終了時における鋼中の窒素濃度は目標窒素濃度以上となり高窒素含有鋼を予め定められた予定時間内で実現できている。
【0046】
一方、No.10〜25は、本発明の何れかの要件を満足しない比較例であり、予め定められた予定時間内では、酸化物系介在物の少ない高窒素含有鋼は得られない。すなわち、No.10〜25は、少なくとも真空脱ガスにより酸化物系介在物の生成量を30個/cm2未満に低減できていないか、精錬終了時における鋼中の窒素濃度が目標窒素濃度以上とならず、予め定められた予定時間内では酸化物系介在物の少ない高窒素含有鋼を得ることができない。
【0047】
これに対し、No.21*〜25*は参考例であり、No.21〜25に示した条件においてガス吹き込み時間Tを予め定められた予定吹き込み時間よりも長くすると、酸化物系介在物の生成量を低減でき、且つ、精錬終了時における鋼中の窒素濃度を目標窒素濃度以上にできる。しかし、この場合は、予定吹き込み時間内での操業ができないので、後工程の製造スケジュールを変更しなければならず、操作が煩雑となる。
【0048】
【発明の効果】
上記のような構成を採用すると、精錬終了時における鋼中に含まれる窒素濃度を目標窒素濃度以上に制御できると共に、酸化物系介在物の生成量を低減できるので、酸化物系介在物の少ない高窒素含有鋼を予め設定された予定時間内で効率良く製造する方法を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】真空脱ガス時における真空度Pに占める窒素分圧と、精錬前後における単位時間当たりの窒素濃度の変化量との関係を示したグラフである。
【図2】Arガス吹き込み流量およびN2ガス吹き込み流量と、酸化物系介在物の生成量との関係を示したグラフである。
【図3】Arガス吹き込み流量およびN2ガス吹き込み流量と、酸化物系介在物の生成量との関係を示したグラフである。
【図4】精錬終了時における鋼中の窒素濃度に対して酸化物系介在物の生成量をプロットしたグラフである。
【発明の属する技術分野】
本発明は、溶鋼を攪拌しつつ真空脱ガスして精錬する技術に関するものであり、より詳細には、溶鋼を攪拌しつつ真空脱ガスして精錬することにより酸化物系介在物の少ない高窒素含有鋼を製造する技術に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
機械構造用鋼(例えば、歯車用鋼や軸受け用鋼など)や薄鋼板には、高濃度の窒素を含む鋼が用いられる場合がある。窒化物の析出により結晶粒の微細化や、窒素の固溶などにより高強度化が図れるからである。高窒素含有鋼を製造する技術としては、例えば、特開昭52−42410号や特開平7−90345号、同7−216439号、特公平6−68123号などが提案されている。これらの技術では、例えば転炉や電気炉内の溶鋼に、炉底から窒素ガスを吹き込むことにより、溶鋼中の窒素濃度を高めている。
【0003】
また、疲労強度や疲労寿命が要求される機械部品用の鋼は、清浄度の高いものが求められる。鋼中の酸化物系介在物が多くなると、該介在物が疲労破壊の原因となるからである。鋼中の酸化物系介在物量を低減するには、真空脱ガスして精錬すれば良く、例えば特許第3033000号や特開2001−342512号などには、真空脱ガス時における槽内の真空度や処理時間を規定したり、脱酸剤を用いることが提案されている。
【0004】
ところで、近年における機械部品の使用環境はますます過酷になり、鋼材に対する要求特性も厳しくなっている。従って、上述した如く、鋼中の窒素濃度を高めたり、或いは、酸化物系介在物量を低減するだけでは、要求特性を満足しきれなくなっている。そこで、鋼中に高濃度の窒素を含有せしめつつ酸化物系介在物量を低減することが考えられる。ところが、本発明者らが検討したところでは、溶鋼中の窒素濃度を高めた高窒素含有溶鋼を真空脱ガスして精錬すると、鋼中の酸化物系介在物量は低減するものの真空脱ガス時に溶鋼からの脱窒が起こり、窒素含有量が低下する。
【0005】
また、特開昭56−25919号や特開平2−225615号などには、酸化物系介在物の少ない高窒素含有鋼の製造方法が提案されている。これらの技術では、真空脱ガスによる精錬を清浄化期と加窒期に分け、清浄化期では装置内を真空にすると共に、還流ガスとしてN2ガスやArガスを溶鋼内へ吹き込んで溶鋼を攪拌することにより脱酸を進め、一方加窒期には、前記装置内へ窒素ガスを吹き込んでN2ガス雰囲気とすることによって、酸化物系介在物の生成を抑制すると共に窒素量を高めている。しかし、真空脱ガスによる精錬を清浄化期と加窒期に分けて操業すると、精錬に要する時間が長くなり、生産性が低下する。また、前掲の従来技術では、精錬後の溶鋼に含まれる窒素濃度を如何に制御するか、といった具体的な手段までは追求されていない。さらに、鋼の製造過程においては、鋳造や精錬といった各工程に要する時間は予め設定されているのが一般的であるので、精錬に要する時間が予め設定されている予定時間より長くなると後工程の製造スケジュールを設定し直す必要があり、予定時間内で精錬する方法が望まれている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、この様な状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、予め定められた予定時間内で酸化物系介在物の少ない高窒素含有鋼を効率良く製造する方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決することのできた本発明に係る酸化物系介在物の少ない高窒素含有鋼の製造方法とは、溶鋼を攪拌しつつ真空脱ガスして精錬するに際し、下記(1)式および(2)式を満足する様に、ArとN2の混合ガスまたはN2ガスを、溶鋼に20分以上吹き込むことにより溶鋼を攪拌する点に要旨を有する。
【0008】
【数2】
【0009】
式中、CN 0:精錬前における鋼中の窒素濃度(ppm)、CN,aim:精錬終了時における鋼中の目標窒素濃度(ppm)、T:ガス吹き込み時間(min)、但しT≧20、P:真空脱ガス時の真空度(Pa)、QAr:Arガス吹き込み流量(NL/min・溶鋼t)、QN2:N2ガス吹き込み流量(NL/min・溶鋼t)である。
【0010】
【発明の実施の形態】
溶鋼内に生成した酸化物系介在物は、還流ガスで溶鋼を攪拌することにより除去される。この際、溶鋼内の酸素を効率良く除去するための方法として汎用されているのは、溶鋼へArガスを吹き込んで溶鋼を攪拌する方法である。しかし、上述した様に、転炉や電気炉などで高濃度の窒素を含有させた高窒素含有溶鋼を真空脱ガスして精錬すると、溶鋼からの脱窒が起こって溶鋼中の窒素濃度が低下する。そこで、真空脱ガスして精錬する際に、Arガスの代わりにN2ガスを使用して溶鋼を攪拌すると、酸化物系介在物を除去しつつ、N2ガスが溶鋼へ溶解するので窒素量の低下を抑えることができる。
【0011】
しかし、精錬時にArガスの代わりにN2ガスを使用すると、例えば、第124回日本鉄鋼協会生産部門製鋼部会資料(平成13年3月16日、P.1〜14)に記載されている様に、N2ガスはArガスよりも溶鋼を攪拌する能力が劣るため、攪拌不足となり脱ガスが不充分になって、酸化物系介在物の生成を抑制できない場合がある。また、溶鋼へN2ガスを吹き込む時間を長くして、溶鋼を攪拌する時間を長くすることにより酸化物系介在物の除去を促進する方法も考えられるが、上述した様に、精錬に要する時間を予め設定されている予定時間よりも長くすると、後工程の製造スケジュールを変更しなければならず、操作が煩雑となる。
【0012】
ところが、本発明者らが検討を重ねたところ、溶鋼を攪拌しつつ真空脱ガスして精錬するに際し、精錬前における鋼中の窒素濃度、精錬終了後における鋼中の目標窒素濃度および予め設定されているガス吹き込み時間に応じて、溶鋼内へ吹き込むガスの流量と混合比および真空脱ガス時の真空度を適切に制御すれば上記課題が見事達成されることを見出し、本発明を完成した。以下、本発明の構成および作用効果を詳細に説明していく。
【0013】
本発明では、上記(1)式および(2)式を満足する様に、ArとN2の混合ガスまたはN2ガスを溶鋼内へ吹き込むことが重要である。これらの式を定めた理由は、下記の通りである。
【0014】
上記(1)式の関係を定めた理由を以下に説明する。
【0015】
成分組成として、C:0.01〜1%(「質量%」の意味。以下同じ。)、Si:0.01〜1%、Mn:0.01〜2%、Al:0.001〜0.1%および不可避不純物を含む溶鋼を、転炉から取鍋へ240トン出鋼し、RH式脱ガス精錬装置を用いて精錬した。
【0016】
このとき、真空脱ガス時におけるRH式脱ガス精錬装置内の真空度Pと、溶鋼へ吹き込むガスの混合比を変化させた。溶鋼へ吹き込むガスとしては、ArとN2の混合ガスまたはN2ガスを用い、真空脱ガス時の真空度Pに占める窒素分圧と、精錬前後における鋼中の窒素濃度の変化量との関係を調べた。溶鋼へのガス吹き込み時間は、製造過程における精錬工程として予め設定されている予定時間通りとした。
【0017】
精錬前における鋼中の窒素濃度CN 0と精錬終了時における鋼中の窒素濃度CN,endを夫々測定し、精錬に要した時間(ガス吹き込み時間)T(min)における窒素濃度の変化量を求めた。鋼中に含まれている窒素濃度は、堀場製作所製RMGA−520を用いて不活性ガス−インパルス加熱溶解法で測定した。結果を図1に示す。図中、X軸は真空脱ガス時における真空度Pに占める窒素分圧、Y軸は精錬前後における単位時間当たりの窒素濃度の変化量を夫々示しており、Y軸が正の値のときは、精錬前における鋼中の窒素量が精錬により減少したことを示し、Y軸が負の値のときは、精錬前における鋼中の窒素量が精錬により増加したことを示している。
【0018】
図1から明らかな様に、真空脱ガス時における真空度Pに占める窒素分圧と、精錬前後における単位時間当たりの窒素濃度の変化量との間には明らかに相関関係が認められ、図中の直線は下記▲1▼式で示される。
【0019】
【数3】
【0020】
そして、精錬終了時における鋼中の窒素濃度(CN,end)を、精錬終了時における鋼中の目標窒素濃度(CN,aim)に置き換えると、上記▲1▼式から下記▲2▼式が導かれる。
【0021】
【数4】
【0022】
そして、CN,endをCN,aim以上にするためには、前記図1に示した直線より右上の領域に制御すればよいので、下記(1)式を満足する様に真空脱ガス時における真空度Pに占める窒素分圧を制御すれば、予め定められた予定時間内で精錬終了時の鋼中に目標窒素濃度以上の窒素を確実に含有させることができる。
【0023】
【数5】
【0024】
次に、前記RH式脱ガス精錬装置の浸漬管から吹き込むガスの流量と混合比を適宜変化させ、溶鋼へのガス吹き込みが酸化物系介在物の生成に及ぼす影響について検討した。
【0025】
溶鋼内へガスを吹き込む時間は20分とし、真空脱ガス時におけるRH式脱ガス精錬装置内の真空度は200〜30000Paとした。精錬後の溶鋼からサンプルを採取し、断面をEPMAで観察して酸化物系介在物の個数を測定した。EPMAとは、電子線マイクロプローブX線分析計(Electron Probe X−ray Micro Analysis)であり、島津製作所製EPMA−8705を用いた。EPMA観察は、加速電圧20kV、試料電流0.01μA、観察視野面積3〜5cm2で行い、特性X線の波長分散分光により介在物中央部の定量分析を行なった。定量対象元素は、Al,Mn,Si,Mg,Ca,Zr,Oとし、既知物質を用いて各元素のX線強度と元素濃度との関係を予め検量腺として求めておき、観察対象介在物から得られるX線強度に基づき検量腺からその元素濃度を定量した。本発明では、最大径が10μm以上の介在物であって、EPMA分析したときにO元素(酸素元素)濃度が10質量%以上の介在物を「酸化物系介在物」としている。観察視野内における酸化物系介在物の個数を測定し、これを観察視野面積で割って単位観察視野面積当たりの酸化物系介在物の生成量(個/cm2)を算出した。結果を図2に示す。なお、図中X軸は溶鋼へのN2ガス吹き込み流量、Y軸は溶鋼へのArガス吹き込み流量を夫々示しており、最大径が10μm以上の酸化物系介在物の生成量が30個/cm2未満の場合を●で、30個/cm2以上の場合を□で夫々示した。
【0026】
Arガス吹き込み流量をQAr、N2ガス吹き込み流量をQN2とすると、図2から明らかな様に、最大径が10μm以上の酸化物系介在物の生成量を30個/cm2未満に低減するには、下記(2)式を満足する必要がある。すなわち、N2ガスはArガスに比べて溶鋼に対する攪拌力が弱いので、ArガスとN2ガスの混合比が下記(2)式を満足しない場合は、溶鋼の攪拌が不充分となり、脱ガス不足により酸化物系介在物が生成し易くなる。
QAr+0.6×QN2≧4 ・・・(2)
なお、最大径が10μm以上の酸化物系介在物の生成量を30個/cm2未満と定めた理由は、酸化物系介在物が30個/cm2以上となると、鋼材の疲労強度や疲労寿命が明らかに劣化してくるからである。
【0027】
ここで、図2の結果を、X軸を上記(2)式の左辺の値、Y軸を酸化物系介在物の生成量としてプロットし直すと、図3の様になる。図3から明らかな様に、上記(2)式の左辺の値が4以上であれば、溶鋼の攪拌による脱ガスが充分に促進され、酸化物系介在物の生成を抑制できることが分かる。好ましくは、下記▲3▼式を満足するのが望ましい。
QAr+0.6×QN2≧5 ・・・▲3▼
尚、本発明において、吹き込みガスとしてArとN2の混合ガスまたはN2ガスを用いる理由は、少なくともN2ガスを含む不活性ガスを溶鋼へ吹き込んで溶鋼を攪拌することで、鋼内へ高濃度の窒素を含有させることができるからであり、また、所定量のガスを溶鋼へ吹き込むことで、溶鋼からの脱ガスを促進でき、酸化物系介在物の生成を抑制できるからである。
【0028】
但し、N2ガスを単独で用いると、Arガスを併用するとき以上の流量でN2ガスを吹き込む必要があるので、好ましくはArとN2の混合ガスを用いるのが良い。このとき、ArとN2の混合比は、上記(1)式および(2)式を満足する範囲内であれば特に限定されないが、例えば、混合比[Ar/N2]を0.5〜2程度とすれば良い。
【0029】
なお、Arガスのみを溶鋼へ吹き込んで操業した場合は、ガス吹き込み精錬による窒素濃度の上昇が調整できなくなり、高窒素含有鋼が得られなくなるので採用できない。また、Ar以外の不活性ガス(例えば、Heガス)をN2ガスと共に吹き込むこともできるが、例えばHeガスは非常に高価なので実操業に耐えない。
【0030】
本発明において、ArガスおよびN2ガスの吹き込み流量は、上記要件を満足すれば特に限定されないが、溶鋼への吹き込みガス流量が多過ぎると溶鋼の飛散が激しくなったり、耐火物の損耗が著しく進行したりするので、吹き込みガス流量の上限は全体で20NL/min・溶鋼t以下とするのが好ましく、より好ましくは15NL/min・溶鋼t以下とするのが望ましい。
【0031】
本発明では、上記要件に加えて、ArとN2の混合ガスまたはN2ガスを、溶鋼に20分以上吹き込んで溶鋼を攪拌することが重要となる。ちなみに、吹き込み時間が20分未満では、溶鋼の攪拌が不充分となり、吹き込み条件が上記(1)式および(2)式を満足したとしても、脱ガス不足となって酸化物系介在物の生成を充分に抑制できなくなる。しかも、溶鋼へのN2ガス吹き込み時間が短じか過ぎるため、鋼内に充分量の窒素を含有させることができず、本発明の目的を達成できない。溶鋼へガスを吹き込む時間の上限は特に限定されず、実操業プロセスで許容される範囲内で適宜設定すればよいが、一般的には一時間程度である。
【0032】
本発明において、溶鋼を攪拌しつつ真空脱ガスする工程とは、転炉や電気炉などから取鍋に受鋼した後、RH式脱ガス精錬装置を用いて精錬する場合や、DH式やASEA式精錬装置を用いて精錬する場合などを指す。なお、本発明に用いることのできる鋼種は特に限定されず、種々のものが採用できる。例えば、歯車用鋼や軸受け用鋼、建築用鋼、造船用鋼などである。
【0033】
以上の様に、本発明によると、所期の窒素濃度以上で、且つ、最大径が10μm以上の酸化物系介在物が30個/cm2未満に抑制された酸化物系介在物の少ない高窒素含有鋼材を得ることができ、疲労強度や疲労寿命が良好で且つ高強度の鋼材を提供できる。
【0034】
【実施例】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0035】
溶銑を240トン転炉で一次精錬する際に、転炉の底部からN2ガスを吹き込み転炉出鋼時の溶鋼窒素濃度を76〜132ppmに調整した。窒素濃度調整後の溶鋼を取鍋に受鋼した後、RH式脱ガス精錬装置を用いて二次精錬し、下記表1に示す成分組成に調整した。なお、本実施例では、成分調整の際に窒化マンガンや窒化カルシウムなどの窒素を含む合金は使用していない。
【0036】
【表1】
【0037】
二次精錬は、ArとN2の混合ガスまたはN2ガスを、表2に示す流量(NL/min・溶鋼t)で浸漬管から取鍋内の溶鋼へ吹き込んだ。このときのRH式脱ガス精錬装置内における真空脱ガス時の真空度P(Pa)を表2に併記する。
【0038】
ガス吹き込み時間T(min)は、予め設定されている予定吹き込み時間(min)通りとした。表2に、予め設定されている予定吹き込み時間と、実際にガスを溶鋼へ吹き込んだときのガス吹き込み時間T(min)を夫々示した。但し、表中のNo.に「*」を付した実施例は、予定吹き込み時間よりも長くガスを吹き込んだ例を示している。
【0039】
精錬前における鋼中の窒素濃度CN 0を、堀場製作所製EMGA−520を用いて不活性ガス−インパルス加熱融解法で測定し、測定結果を表2に示す。また、精錬終了時における鋼中へ含有させる目標窒素濃度CN,aimを表2に示す。
【0040】
【表2】
【0041】
表2に示した精錬前における鋼中の窒素濃度CN 0、精錬終了時における鋼中の目標窒素濃度CN,aimおよびガス吹き込み時間Tから前記(1)式の左辺の値、表2に示した真空度Pと溶鋼へのガス吹き込み流量から前記(1)式の右辺の値、表2に示した溶鋼へのガス吹き込み流量から前記(2)式の左辺の値を夫々算出し、算出結果を表3に示す。
【0042】
二次精錬後の溶鋼からサンプルを採取し、精錬終了時における鋼中の窒素濃度と酸化物系介在物の生成量を測定した。窒素濃度は堀場製作所製EMGA−520を用いて、不活性ガス−インパルス加熱融解法で測定した。酸化物系介在物の生成量は、サンプル断面をEPMAで観察して酸化物系介在物の個数を測定し、これを観察視野面積で割って単位観察視野面積当たりの酸化物系介在物の生成量(個/cm2)を算出した。EPMA観察には島津製作所製EPMA−8705を用いて、加速電圧20kV、試料電流0.01μA、観察視野面積3〜5cm2で行い、特性X線の波長分散分光により介在物中央部の定量分析を行なった。酸化物系介在物は、前掲した方法により特定した。精錬終了時における鋼中の窒素濃度と酸化物系介在物の生成量を表3に合わせて示す。
【0043】
【表3】
【0044】
精錬終了時における鋼中の窒素濃度(ppm)に対して酸化物系介在物の生成量(個/cm2)をプロットしたものを図4として示す。なお、図中、○はNo.1〜9の結果であり、●はNo.10〜25の結果である。なお、No.21*〜No.25*の結果はプロットしていない。
【0045】
表3および図4から次の様に考察できる。No.1〜9は、本発明の要件を満足する本発明例であり、溶鋼を攪拌しつつ真空脱ガスすることにより予め定められた予定時間内で酸化物系介在物の少ない高窒素含有鋼が得られる。すなわち、No.1〜9は、真空脱ガスにより酸化物系介在物の生成量を30個/cm2未満に低減できているにもかかわらず、精錬終了時における鋼中の窒素濃度は目標窒素濃度以上となり高窒素含有鋼を予め定められた予定時間内で実現できている。
【0046】
一方、No.10〜25は、本発明の何れかの要件を満足しない比較例であり、予め定められた予定時間内では、酸化物系介在物の少ない高窒素含有鋼は得られない。すなわち、No.10〜25は、少なくとも真空脱ガスにより酸化物系介在物の生成量を30個/cm2未満に低減できていないか、精錬終了時における鋼中の窒素濃度が目標窒素濃度以上とならず、予め定められた予定時間内では酸化物系介在物の少ない高窒素含有鋼を得ることができない。
【0047】
これに対し、No.21*〜25*は参考例であり、No.21〜25に示した条件においてガス吹き込み時間Tを予め定められた予定吹き込み時間よりも長くすると、酸化物系介在物の生成量を低減でき、且つ、精錬終了時における鋼中の窒素濃度を目標窒素濃度以上にできる。しかし、この場合は、予定吹き込み時間内での操業ができないので、後工程の製造スケジュールを変更しなければならず、操作が煩雑となる。
【0048】
【発明の効果】
上記のような構成を採用すると、精錬終了時における鋼中に含まれる窒素濃度を目標窒素濃度以上に制御できると共に、酸化物系介在物の生成量を低減できるので、酸化物系介在物の少ない高窒素含有鋼を予め設定された予定時間内で効率良く製造する方法を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】真空脱ガス時における真空度Pに占める窒素分圧と、精錬前後における単位時間当たりの窒素濃度の変化量との関係を示したグラフである。
【図2】Arガス吹き込み流量およびN2ガス吹き込み流量と、酸化物系介在物の生成量との関係を示したグラフである。
【図3】Arガス吹き込み流量およびN2ガス吹き込み流量と、酸化物系介在物の生成量との関係を示したグラフである。
【図4】精錬終了時における鋼中の窒素濃度に対して酸化物系介在物の生成量をプロットしたグラフである。
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JP2002239822A JP2004076115A (ja) | 2002-08-20 | 2002-08-20 | 酸化物系介在物の少ない高窒素含有鋼の製造方法 |
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JP2006249551A (ja) * | 2005-03-14 | 2006-09-21 | Jfe Steel Kk | 高清浄鋼の製造方法 |
JP2011089180A (ja) * | 2009-10-23 | 2011-05-06 | Sumitomo Metal Ind Ltd | 高強度・高耐食性油井管用鋼材の溶製方法 |
CN102787215A (zh) * | 2011-05-19 | 2012-11-21 | 宝山钢铁股份有限公司 | 搪瓷钢的rh增氮控制方法 |
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2002
- 2002-08-20 JP JP2002239822A patent/JP2004076115A/ja not_active Withdrawn
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