JP2004058593A - トウプリプレグの製造方法及びその製造装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】本発明は、端部の繊維が切断されておらず、かつ、繋ぎの混入もないトウプリプレグを、幅精度良く、長時間安定して製造することができるトウプリプレグの製造方法およびその製造装置を提供せんとするものである。
【解決手段】本発明のトウプリプレグの製造方法は、強化繊維ストランドにマトリックス樹脂を含浸した後、溝付き加熱板と幅測定センサーとの間に設けた溝付きの引き取りロールを通過させることにより、該溝付き加熱板で加熱低粘度化したマトリックス樹脂を冷却すると同時にトウプリプレグの幅を所定幅に調整し、固定化することを特徴とするものである。
また、本発明のトウプリプレグの製造装置は、強化繊維ストランドにマトリックス樹脂を含浸する工程と、トウプリプレグのマトリックス樹脂を加熱低粘度化する溝付き加熱板と、該溝付き加熱板と幅測定センサーとの間に設けられた、該マトリックス樹脂を冷却してトウプリプレグの幅を所定幅に調整して固定する溝付きの引き取りロールとで構成されていることを特徴とするものである。
【選択図】図1
【解決手段】本発明のトウプリプレグの製造方法は、強化繊維ストランドにマトリックス樹脂を含浸した後、溝付き加熱板と幅測定センサーとの間に設けた溝付きの引き取りロールを通過させることにより、該溝付き加熱板で加熱低粘度化したマトリックス樹脂を冷却すると同時にトウプリプレグの幅を所定幅に調整し、固定化することを特徴とするものである。
また、本発明のトウプリプレグの製造装置は、強化繊維ストランドにマトリックス樹脂を含浸する工程と、トウプリプレグのマトリックス樹脂を加熱低粘度化する溝付き加熱板と、該溝付き加熱板と幅測定センサーとの間に設けられた、該マトリックス樹脂を冷却してトウプリプレグの幅を所定幅に調整して固定する溝付きの引き取りロールとで構成されていることを特徴とするものである。
【選択図】図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、強化繊維ストランドに所定量のマトリックス樹脂を含浸させると共に幅精度の良好なトウプリプレグの製造方法およびその製造装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
強化繊維補強プラスチック製製品は、通常、強化繊維にマトリックス樹脂を含浸させた、いわゆるプリプレグと呼ばれるシート状中間基材をツール上に積層し、さらに加熱・加圧して賦形・硬化させることにより製造される。従来、かかるプリプレグとしては、複数本の強化繊維ストランドを一方向に並行に配列させたものにマトリックス樹脂を含浸させたシート状一方向プリプレグが主流であったが、近年、強化繊維ストランドの幅程度の細幅のいわゆる、トウプリプレグが、土木建築用の補強材、ワイヤー、さらには航空機の機体用材料として注目されている。特に、航空機の機体部品には、軽量で高強度が求められることから、トウプリプレグを用いた繊維強化プラスチックを採用することが試みられている。たとえば、トウプリプレグを用いて、その多数本を同時に積層する装置(自動トウプレースメントマシン)を利用して、より複雑な形状の部品や大型部品への採用が試みられている。
【0003】
トウプリプレグの製法には、一般に、シート状一方向プリプレグをその繊維軸方向に規定幅にスリットする方法や、強化繊維ストランド一本一本に個別に所定量のマトリックス樹脂を付与して含浸させる方法などがある。
【0004】
前者の製法によるトウプリプレグは、特にスリットトウプリプレグと呼び、後者と区別して扱われる。これは、スリットにより作製されたトウプリプレグは幅精度には優れる反面、端部の繊維の切断による物性低下や、スリット前のプリプレグに存在する繋ぎが混入するといった問題を有するためである。
【0005】
また、後者の製法すなわち、強化繊維ストランド一本一本に個別に所定量のマトリックス樹脂を付与して含浸させる方法により作製されたトウプリプレグは端部の繊維の切断による物性低下がないこと、繋ぎのない長い製品が得られる反面、幅精度の良いものを得るのが容易でないと言った問題があった。
【0006】
トウプリプレグは、複雑な形状を有する成形体や、厚物の成形体を製造する際のフィラメントワインド用としても好適に使用される。また、近年、ファイバープレスメントと呼ばれる複数本のトウプリプレグを引き揃えてテープ状とし、複雑な形状のマンドレル面に配置し、成形体を得る方法が開発された。
【0007】
フィラメントワインドやファイバープレスメントに使用されるトウプリプレグは、複数本の糸条を揃えてマンドレル上に配列する必要があるため、その幅精度が悪い場合、成形体中の補強繊維の配列が影響を受ける。すなわち、幅の広い部分では、積層して成形とする際に、隣接するトウプリプレグの端部同士が重なることにより、厚みのバラツキが発生する。また、交差させて積層する際に、厚みのバラツキが大きな層を交差させて積層した場合、その後加熱加圧して含浸マトリックス樹脂を硬化させるときに、マトリックス樹脂が流動することにより、補強繊維の配列に乱れが生じやすいという問題があった。
【0008】
また、幅の狭い部分では、隣接する糸条との間に空隙を生じた場合には、積層したときに空隙部分を生じ易い。このような空隙部分を有する積層体を加熱加圧して硬化すると、空隙部周辺が十分に加圧されず、加圧ムラにより、ボイドが発生しやすい。このボイドが欠陥となるため、欠陥支配の特性である引張強度が低下するという問題があった。
【0009】
幅精度の良好なトウプリプレグを製造する方法としては、例えば、特開平11−130882号公報に、マトリックス樹脂を含浸した後、巻き取り前に繊維束を規制する固定または回転するガイドに接続する方法が示唆されているが、固定ガイドにおいては、擦過毛羽の蓄積による長時間にわたっての安定性の点で問題があり、また、回転ガイドでは、糸の張力変動による、微妙な糸幅方向のふれの影響を受けやすく、幅精度の不良が不規則に混入するという問題があり、結局、幅精度不良部が混入していない長尺のトウプリプレグを得ることは困難であった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、端部の繊維が切断されておらず、かつ、繋ぎの混入もないトウプリプレグを、幅精度良く、長時間安定して製造することができるトウプリプレグの製造方法およびその製造装置を提供せんとするものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、本発明のトウプリプレグの製造方法は、強化繊維ストランドにマトリックス樹脂を含浸した後、溝付き加熱板と幅測定センサーとの間に設けた溝付きの引き取りロールを通過させることにより、該溝付き加熱板で加熱低粘度化したマトリックス樹脂を冷却すると同時にトウプリプレグの幅を所定幅に調整し、固定化することを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明のトウプリプレグの製造装置は、強化繊維ストランドにマトリックス樹脂を含浸してトウプリプレグを製造する製造装置であって、強化繊維ストランドにマトリックス樹脂を含浸する工程と、トウプリプレグのマトリックス樹脂を加熱低粘度化する溝付き加熱板と、該溝付き加熱板と幅測定センサーとの間に設けられた、該マトリックス樹脂を冷却してトウプリプレグの幅を所定幅に調整して固定する溝付きの引き取りロールとで構成されていることを特徴とするものである。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明は、前記課題、つまり端部の繊維が切断されておらず、かつ、繋ぎの混入のないトウプリプレグを、幅精度良く、長時間安定して製造することができるトウプリプレグの製造方法について、鋭意検討し、トウの樹脂含浸後において、該トウプリプレグを加熱板と引き取りロールのそれぞれ溝を通過させて固定してみたところ、かかる課題を一挙に解決することを究明したものである。
【0014】
すなわち、強化繊維ストランドにマトリックス樹脂を含浸した後、溝付き加熱板と幅測定センサーとの間に設けた溝付きの引き取りロールを通過させることにより、該溝付き加熱板で加熱低粘度化したマトリックス樹脂を冷却すると同時にトウプリプレグの幅を所定幅に調整し、固定化することを特徴とするトウプリプレグの幅規制方法およびこれに使用する加熱板と引き取りロールの形状と構成を特定化することに着目して完成されたものである。
【0015】
すなわち、該トウプリプレグを該加熱板内の溝を通過させることにより、該トウプリプレグ内のマトリックス樹脂が加熱低粘度化されて、強化繊維を移動し易くすることができ、その結果、それに続く溝付き引き取りロールでマトリックス樹脂を冷却すると同時にトウプリプレグの幅を所定幅に調整し、固定化することが可能となるものである。すなわち、かかる手段を採用したことにより、容易にトウプリプレグを、一定の幅とすることができ、従来問題とされていた、原料強化繊維ストランドの幅の不均一さに起因する幅のバラツキを低減することが、簡単、かつ、確実に達成することができたものである。
【0016】
ここで、本発明において、トウプリプレグの幅のバラツキを低減する操作を、幅規制と定義する。すなわち本発明の幅規制は、幅調整と幅固定とで実施されるものである。
【0017】
本発明においては、かかる溝付き加熱板と溝付き引き取りロールとの組み合わせからなる装置構造を、トウプリプレグが通過する行程内に設けたことにより、前記課題を解決することができたものである。
【0018】
すなわち、かかる溝付き加熱板のみで、溝付き引き取りロールを設置しない場合では、該トウプリプレグが加熱板内の溝を出た後においても、該トウプリプレグ内のマトリックス樹脂が低粘度な状態となっているために、トウプリプレグ中の強化繊維が移動し、原料である強化繊維ストランド固有の幅へと戻ろうとするために、この変化の過程で幅のバラツキが増加する結果が出現し、また、該溝付き加熱板を設置せずに、溝付き引き取りロールのみを設置した場合では、該トウプリプレグ内のマトリックス樹脂が低粘度化されていないため、トウプリプレグ中の強化繊維が移動し難く、原料である強化繊維の幅の不均一さに起因する幅のバラツキが残存することとなり、いずれの場合も、好ましい結果が得られない。
【0019】
ここで、トウプリプレグの幅のバラツキは、工程中に光学的に非接触で幅を測定する装置を設置し、作製時に通過するトウプリプレグの幅を、測定精度10μmで連続して測定した幅(単位:mm)の標準偏差σをもって表す手段を採用した。
【0020】
かかる測定に採用する装置の例としては、センサー部にキーエンス(株)製、型番:LXー132、信号取り込み装置(アナログ−デジタル変換器)として同社製、型番NR−250を用いることができる。かかるセンサーと、該溝付き引き取りロールの位置関係は、該溝付き引き取りロールが該センサーの上流側10cm以上離れた位置に設置することが好ましい。
【0021】
すなわち、後述するようなある条件下で、溝付き引き取りロールの溝通過時にトウプリプレグの端部が折れ畳まれ、溝付き引き取りロールのの溝を出た後畳まれた部分が開いてしまうということが生じ、幅規制効果が得られない場合があるが、10cmまでの位置では、このような場合に畳まれた部分が開くまでに通過してしまい検出できないことがあるためである。
【0022】
サンプリング頻度は、トウプリプレグのライン速度が、例えば10m/分の場合は、2回/秒とするのが好ましく、また、幅の全測定点数は1000点以上とするのが好ましい。
【0023】
なお、幅調整部の加熱板の温度は、マトリックス樹脂粘度が、好ましくは5から60Pa・s(50から600ポアズ)、さらに好ましくは6から30Pa・sとなる温度であることが、トウプリプレグ中の強化繊維を移動し易くし、幅調整が効果的に行えると共に、マトリックス樹脂が潤滑剤として作用し、毛羽の発生が少なく、堆積しないことから好ましい。
【0024】
すなわち、5Pa・s未満では、マトリックス樹脂が低粘度となり過ぎ、溝付き加熱板の入口でしごかれ、該樹脂が絞り出されてしまうことがあり、また、60Pa・sを越える場合は、マトリックス樹脂の粘着性による溝付き加熱板との擦過時の抵抗により、毛羽が発生し、溝中に堆積することにより、経時的にバラツキが増加することがある。
【0025】
該溝付き加熱板のかかる温度コントロールは、ヒーターの内蔵、熱媒循環等の方法を採ることが可能であり、また、溝上面から熱風を吹き付けることも、均一に加熱することができるので好ましく採用される。
【0026】
また、該マトリックス樹脂の粘度をコントロールする温度は、予め既知の方法で測定した温度−粘度曲線より、必要な温度を読みとることができる。
【0027】
かかる温度−粘度曲線は、B型粘度計又はE型粘度計などを用いて、必要な領域数点の温度で測定したマトリックス樹脂の粘度をプロットしても得られるし、粘弾性測定装置を用いて、温度を昇温しながら、
一定間隔で粘度測定をする方法により、精度良く求めることもできる。粘弾性測定装置を用いた温度−粘度曲線測定の一例として、レオメトリック・サイエンティフィック・エフ・イー製、粘弾性測定装置 型番:ARESにて、1〜5℃/分昇温、測定周波数0.5Hz、データ取り込み間隔15秒の測定条件が挙げられる。
【0028】
次に、該溝付き加熱板のトウプリプレグとの接触長は、好ましくは50mmから200mm、さらに好ましくは80mmから150mmの範囲であるのがよい。すなわち、該接触長が、50mmに満たない場合は、マトリックス樹脂が十分に低粘度化しないため、幅調整が不十分となる傾向があり、逆に、200mmを越えると、角度がずれた場合のトウプリプレグの幅方向の振れが大きくなるため、平行度の調整を厳密に行う必要が生じ、作業性・保守性が低下したり、トウプリプレグ作製中の張力の振れによる振動などが調整精度に悪影響を及ぼしやすくなる傾向がある。
【0029】
かかる溝付き加熱板の溝形状は、前半部にトウプリプレグの通過方向に向かって狭まるテーパーを有し、後半部が平行な溝となった形状のものが好ましく使用される。該前半のテーパー部の長さ(Lt)は、好ましくは20mmから50mm、テーパー部のなす角(Rt)は、好ましくは1°から30°、さらに好ましくは2°から20°であるのがよい。
【0030】
かかるテーパー部のなす角(Rt)が、1°に満たない場合、必要なテーパー部の長さが長くなり、平行部の長さが十分に取れないこと、また、30°を越える場合は、トウプリプレグ端部の折れ畳まれが生じ、この折れ畳まれが混入することで成形体作製時プリプレグの拡がり不良が生じ、成形体の厚みむらの原因となることがある。
【0031】
該溝付き加熱板の後半の平行部の溝の幅は、得ようとするトウプリプレグの幅およびマトリックス樹脂粘度に応じて決められるが、目的とする製品幅の0.75倍から0.85倍の範囲に設定するのが好ましい。また、該溝幅が調節できる構造となっていれば、様々な幅のトウプリプレグ製造用として採用することができるので好ましい。
【0032】
かかる溝付き加熱板の溝の深さは、製造するトウプリプレグの幅やマトリックス樹脂粘度とは無関係に決められ、概して2mm以上10mm以下の深さのものが好ましく、さらに好ましくは3mm以上8mm以下の深さのものがよい。
【0033】
すなわち、該溝の深さが、2mm未満では、スタート時の糸かけ作業が難しくなり、また、10mmを越えても実質的に意味がなくなり、また洗浄時の作業性が悪化する傾向がある。
【0034】
かかる加熱板の溝底面の形状は、入り口から出口方向への断面を見たとき直線(底面が平面)であっても良いし、中央が凸となった曲線(底面が曲面)でも良い。溝の入り口から出口方向への断面が、中央が凸となった曲線であれば、溝の入り口から出口に渡って、トウプリプレグをより均一に底面に押し当てる効果があることから好ましいが、凸部の出が大きくなると、押し当てる力が過大となり、摩擦による強化繊維の切断が生じることから、該断面の曲線形状としては、加熱板入り口と出口を結ぶ直線に対し、最凸部との距離が0から10mmであることが好ましい。
【0035】
かかる加熱板の溝のトウプリプレグの入り口部分と、出口部分の溝底面と、加熱板側面の間の角は、角を丸めてあることが好ましい。角が丸めてない場合は、角で擦過されるため、毛羽が発生するおそれがある。
【0036】
かかる溝付き加熱板に進入する前のトウプリプレグの張力は、1.5kgから4.0kgであることが、安定して幅調整ができることから好ましい。トウプリプレグの張力が1.5kgに満たない場合、トウプリプレグの振動による溝壁面との接圧の左右バラツキなどが生じ、4.0kgを越える場合、幅調整の安定性は良好となるが、毛羽の発生が生じる場合がある。該張力は、マトリックス樹脂の配合、加熱板の温度、加熱板長さにより影響を受けるため、予め張力計で実測した張力が該範囲となるようにクリール張力を設定するのが好ましい。
【0037】
また、本発明において、該トウプリプレグは、該加熱板上に押さえつけられた状態で通過させるのが好ましく、たとえば、溝付き加熱板進入前のトウプリプレグと加熱板上のトウプリプレグ間の角(Rhi)が、好ましくは160°から178°、より好ましくは165°から175°であることが、トウプリプレグと加熱板の溝の位置関係が安定するので好ましい。160°未満では、加熱板に入る部分での擦過により単糸切れが生じ、178°を越えると、トウプリプレグの振動による幅方向の振れなどが生じたときに、加熱板の溝内でトウプリプレグが移動し溝の中心からずれる可能性がある。
【0038】
また、溝付き加熱板上のトウプリプレグと該加熱板を出た後のトウプリプレグ間の角(Rho)は、好ましくは170°から179°、より好ましくは175°から179°の範囲内に制御するのが、溝付き引き取りロール入口での状態が安定するため幅規制精度の点で有利となるため好ましい。かかる角度が170°に満たない場合は、該板出口の角でマトリックス樹脂が低粘度化した状態のトウプリプレグがしごかれることにより、溝付き加熱板出口でトウプリプレグの幅が乱れる傾向がある。
【0039】
また、かかる溝付き引き取りロールの温度は、マトリックス樹脂のガラス転移温度をTg℃と表すと、好ましくは、該マトリックス樹脂の粘度が1000Pa・s(10000ポアズ)以上となる温度からTg−10℃にコントロールすることが、該溝付き引き取りロールでのマトリックス樹脂の冷却による幅固定効果の点から好ましい。
【0040】
かかる溝付き引き取りロール温度が、該マトリックス樹脂の粘度が1000Pa・s(10000ポアズ)以下となる温度であると、幅固定効果が不十分となることがあり、またTg−10℃未満の低温にしても、マトリックス樹脂は十分高粘度化されているので、それより低温にすることは、実質的に意味がない。溝付き冷却板のかかる温度コントロールは、冷媒循環、冷風の吹きつけ等の方法を採ることが可能であり、これらを併用することも好ましい。
【0041】
ここで冷却板の温度決定に用いるガラス転移温度はDSC法にて、昇温速度10℃/分の昇温条件で測定することができる。
【0042】
かかる溝付きの引き取りロールのトウプリプレグとの接触長は500mmから2000mmであることが好ましく、700mmから1500mmがさらに好ましい。かかる接触長が、500mmに満たない場合は、マトリックス樹脂が十分に冷却高粘度化するための冷却条件を強める必要があり、条件範囲が狭くなる。また、かかる接触長は2000mmあれば引き取りや幅固定は十分に機能するので、2000mmを越えても実質的に意味はなく、通糸作業性が低下するため好ましくない。また、該接触長を得るためのロール径やロール数は特に限定されるものではないが、径の大きなロール1本よりは、より径の小さな複数のロールにより構成した方が、精度の高い装置とすることが容易となるため好ましい。すなわち、引き取りロールの径としては、直径50mmから500mmが好ましく、80mmから250mmであればさらに好ましい。直径50mmに満たない場合、必要な接触長を確保するために、必要なロール本数が多数となり、溝の並びの直線性を確保することが困難となるため好ましくなく、また、500mmを越えると、ロール製造時の加工を高精度にすることが困難であること、および、回転軸が振れた場合、トウプリプレグの幅方向のずれ量が大きくなることから好ましくない。
【0043】
かかる引き取りロールの溝の深さは、製造するトウプリプレグの幅やマトリックス樹脂粘度とは無関係に決められ、概して2mm以上10mm以下の範囲のものが好ましく、さらに好ましくは3mm以上8mm以下の範囲のものがよい。すなわち、該溝の深さが2mm未満では、スタート時の糸かけ作業が難しくなり、10mmを越えても、実質的に意味がなくなり、洗浄時の作業性が低下するため好ましくない。
【0044】
引き取りロールを室温以下に冷却する場合、該引き取りロールに、好ましくは乾燥空気或いは窒素ガスなどの乾燥ガスを吹き付けるのがよい。かかる吹き付けにより、溝付きの引き取りロールの結露水のトウプリプレグへの付着を抑えることが可能である。
【0045】
また、このようにして製造したトウプリプレグは、ボビン上に巻き取り、製品とするが、かかるボビンへの巻き取り時は、ガイドがボビンの軸方向にトラバースする、いわゆるガイドトラバースによる巻き取り機構を有するワインダーや、ガイドの位置は固定したまま、ボビンが軸方向にトラバースして巻き取る、いわゆるボビントラバースワインダーがあるが、先の幅規制機構により規制した幅を良好に保ちながら、巻き取ることができる点から、ボビントラバースワインダーを使用することが好ましい。
【0046】
また、さらに、巻き取り前に、冷風を吹き付けるなどの手段により、トウプリプレグを冷却し、トウプリプレグの実温が、マトリックス樹脂のTg以下とした後巻き取れば、巻き取り張力による、いわゆる巻き締まりによる、幅精度への悪影響を減ずることができるため好ましい。
【0047】
また、本発明のトウプリプレグ製造装置は、強化繊維ストランドにマトリックス樹脂を含浸する工程と、トウプリプレグのマトリックス樹脂を加熱低粘度化する溝付き加熱板と、該溝付き加熱板と幅測定センサーとの間に設けられた、該マトリックス樹脂を冷却してトウプリプレグの幅を、所定幅に調整して固定する溝付きの引き取りロールとを有するものである。
【0048】
このような装置の構成とすることにより、幅調整および幅固定からなる幅規制が効果的に可能となることから、端部の繊維が切断されておらず、繋ぎの混入のないトウプリプレグを、幅精度良く、長時間安定して製造することが可能となるものである。
【0049】
図1は、本発明のトウプリプレグの製造装置の一例を示す概略正面図である。図1に示すように、クリール1に仕掛けられた強化繊維ストランド2は引き出されて樹脂付与・含浸部3を経て、溝付き加熱板4、溝付き引き取りロール5により幅規制した後ワインダ7に導かれ巻き取られる。幅規制後の幅評価には、光学的に非接触で幅を測定する幅測定センサ6を使用する。
【0050】
図2は、溝付き加熱板の概略図であり、図3は、その平面図で、図4該溝付き加熱板のテーパー部の形状の説明図である。図2、図3に示すように、溝付き加熱板の溝は、前半部にトウプリプレグの通過方向に向かって狭まるテーパーを有し、後半部が平行な溝の形状を有するものである。このテーパー部の形状は、図4のように、テーパー部のなす角Rtとテーパー部の長さLtで決まる。かかる溝付き加熱板においては、マトリックス樹脂が加熱低粘度化された状態で、該テーパー部を通過させることにより、トウプリプレグの幅を、該加熱板入り口(該テーパー部入り口)の幅から該加熱板後半の平行部の幅へと調整する機能を有するものである。
【0051】
図5は、溝付き加熱板と溝付き引き取りロールからなる幅規制部の正面図であり、図6は、その幅規制部の角度の説明図である。これらの図において、溝付き加熱板進入前のトウプリプレグと、加熱板上のトウプリプレグ間の角をRhi、溝付き加熱板上のトウプリプレグと、該加熱板を出た後のトウプリプレグ間の角をRhoとして、それぞれ表す。
【0052】
すなわち、図では、加熱板、冷却板の溝底部のトウプリプレグの進行方向断面(波線)が直線状の場合を示しているが、該断面(波線部)上に凸な曲線であってもよく、この場合は、Rhi、Rho、Rci、Rcoの各角度は、板端部10mmの部分を直線近似した線と、各板に進入前或いは各板から出た後のトウプリプレグとのなす角度とそれぞれ定義する。
【0053】
かかる幅規制部において、トウプリプレグは、溝付き加熱板に押さえつけられた状態で通過するが、そのとき、RhiとRhoを適切な範囲に設定することで、トウプリプレグの幅方向のふれを抑制し幅規制を効果的にすることが可能となる。
【0054】
【実施例】
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に説明する。
【0055】
実施例1
補強繊維として、東レ(株)製、”トレカ”型番T800H(引張強さ:5.6GPa、引張弾性率:294GPa、破壊歪みエネルギー:53000KJ/m3、密度:1.81g/cm3)の12000フィラメントの炭素繊維を使用した。
【0056】
図1の装置を用いて、ガラス転移点(Tg)が5℃であるエポキシ樹脂を、樹脂含有率が35重量%になるよう付与して、トウプリプレグを製造した。
【0057】
すなわち、エポキシ樹脂としては、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンタイプのエポキシ樹脂と、ビスフェノールAのジグリシジルエーテルタイプのエポキシ樹脂、さらに硬化剤として4、4’ジフェニルジアミノスルフォンを使用し、熱可塑性ポリマーとしてポリエーテルスルフォンを添加し、原料樹脂の配合比を調整することにより樹脂の粘度を80℃で9Pa・s(90ポアズ)、ガラス転移点を上述の値に合わせた。
【0058】
この樹脂の粘度をレオメトリック・サイエンティフィック・エフ・イー製粘弾性測定装置ARES等を用い、2℃/分昇温で測定周波数0.5Hz、データ取り込み間隔15秒で測定した。30℃で5000Pa・s(50000ポアズ)、50℃で400Pa・s(4000ポアズ)、60℃で120Pa・s(1200ポアズ)、80℃で9Pa・s(90ポアズ)、110℃で4Pa・s(40ポアズ)であった。
【0059】
樹脂付与・含浸部3で上記樹脂を炭素繊維に80℃にて付与した後、110℃まで加熱含浸しトウプリプレグとし、溝付き加熱板4および溝付きの引き取りロール5により幅規制を実施した。溝付き加熱板4は熱媒を循環することにより、80℃に温度を保ち、溝付きの引き取りロール5は室温(25℃)下空冷した。使用した溝付き加熱板および溝付きの引き取りロールの形状等は以下の通り。
トウプリプレグは、糸速10m/minで走行させた。
【0060】
上記の条件で装置を運転し、クリールのブレーキを調整して、溝付き加熱板前の張力が2.4±0.4kgとなるように設定し、該条件でトウプリプレグを作製した。
【0061】
幅バラツキは、溝付きの引き取りロールの下流側150mmの位置にキーエンス(株)製、型番:LXー132(レーザー式測長センサー)を設置し、該センサーの出力を、同社製、型番NR−250(アナログ−デジタル変換器)に接続して、2回/秒のサンプリング頻度で信号を取り込み統計処理することで算出したところ、スタート直後の1000点のσ=0.04mmと非常に幅バラツキの少ないトウプリプレグを得た。
【0062】
また、同一条件で連続運転し、30分後および1時間後に同サンプリング条件で1000点の幅データを取り込み評価したところ何れもσ=0.04mmとバラツキのレベルは変化していないことが確認できた。
【0063】
実施例2
補強繊維として、東レ(株)製、”トレカ”型番T700S(引張強さ:4.9GPa、引張弾性率:230GPa、破壊歪みエネルギー:52000KJ/m3、密度:1.80g/cm3)の12000フィラメントの炭素繊維(目付0.80g/m)を使用し、溝付き加熱板の平行部の溝幅を3.4mm、溝付きの引き取りロールの溝幅を3.6mmのものを使用した以外は、実施例1と同一条件でトウプリプレグを作製した。
【0064】
実施例1と同一条件で幅バラツキを評価したところ、スタート直後〜1時間後まで何れもσ=0.06mmと非常に幅バラツキの少ないトウプリプレグが得られた。
【0065】
比較例1
溝付き加熱板がない他は実施例1と同一の条件でトウプリプレグを作製した。マトリックス樹脂が十分に低粘度化されていないため、強化繊維の移動が不十分となり、溝付きの引き取りロールのの溝内でトウプリプレグの端部の折れ畳まれが観察された。
【0066】
また、実施例1と同様のバラツキ評価を行ったところ、スタート直後からσ=0.2とバラツキの大きいものであった。
【0067】
比較例2
溝付き加熱板と溝付きの引き取りロールの代わりに以下の条件の溝付き加熱板のみを設置した他は実施例1と同一の条件でトウプリプレグを作製した。
実施例1と同様のバラツキ評価を行ったところ、スタート直後はσ=0.1であったが、30分後σ=0.18、1時間後σ=0.24となった。
【0068】
加熱温度が不十分であるため、樹脂粘度が十分に低下しておらず、強化繊維の移動性が悪いため絶対値としてバラツキが多いと共に、樹脂による該加熱板とプリプレグ間の潤滑効果がないために、毛羽が堆積し経時安定性も悪化したものである。
【0069】
【発明の効果】
本発明は、端部の繊維が切断されておらず、繋ぎの混入のないトウプリプレグを幅精度良く長時間安定して製造する方法および装置を提供せんとするものである。
【0070】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、強化繊維ストランドにマトリックス樹脂を含浸した後、溝付き加熱板と幅測定センサーとの間に設けた溝付きの引き取りロールを通過させることにより、該溝付き加熱板で加熱低粘度化したマトリックス樹脂を冷却すると同時にトウプリプレグの幅を所定幅に調整し、固定化することを特徴とするトウプリプレグの製造方法である。
【0071】
また、本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、強化繊維ストランドにマトリックス樹脂を含浸してトウプリプレグを製造する製造装置であって、強化繊維ストランドにマトリックス樹脂を含浸する工程と、トウプリプレグのマトリックス樹脂を加熱低粘度化する溝付き加熱板と、該溝付き加熱板と幅測定センサーとの間に設けられた、該マトリックス樹脂を冷却してトウプリプレグの幅を所定幅に調整して固定する溝付きの引き取りロールとで構成されていることを特徴とするトウプリプレグの製造装置である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のトウプリプレグの製造装置の一例を示す概略正面図である。
【図2】本発明のトウプリプレグの製造装置の溝付き加熱板の一例を示す概略図である。
【図3】図2の溝付き加熱板の平面図である。
【図4】該溝付き加熱板のテーパー部の形状の説明図である。
【図5】該溝付き加熱板と溝付きの引き取りロールからなる幅規制部の正面図である。
【図6】該溝付き加熱板部分の角度の説明図である。
【符号の説明】
1:クリール
2:強化繊維ストランド
3:樹脂付与・含浸部
4:溝付き加熱板
5:溝付き引き取りロール
6:幅測定センサ
7:ワインダ
【発明の属する技術分野】
本発明は、強化繊維ストランドに所定量のマトリックス樹脂を含浸させると共に幅精度の良好なトウプリプレグの製造方法およびその製造装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
強化繊維補強プラスチック製製品は、通常、強化繊維にマトリックス樹脂を含浸させた、いわゆるプリプレグと呼ばれるシート状中間基材をツール上に積層し、さらに加熱・加圧して賦形・硬化させることにより製造される。従来、かかるプリプレグとしては、複数本の強化繊維ストランドを一方向に並行に配列させたものにマトリックス樹脂を含浸させたシート状一方向プリプレグが主流であったが、近年、強化繊維ストランドの幅程度の細幅のいわゆる、トウプリプレグが、土木建築用の補強材、ワイヤー、さらには航空機の機体用材料として注目されている。特に、航空機の機体部品には、軽量で高強度が求められることから、トウプリプレグを用いた繊維強化プラスチックを採用することが試みられている。たとえば、トウプリプレグを用いて、その多数本を同時に積層する装置(自動トウプレースメントマシン)を利用して、より複雑な形状の部品や大型部品への採用が試みられている。
【0003】
トウプリプレグの製法には、一般に、シート状一方向プリプレグをその繊維軸方向に規定幅にスリットする方法や、強化繊維ストランド一本一本に個別に所定量のマトリックス樹脂を付与して含浸させる方法などがある。
【0004】
前者の製法によるトウプリプレグは、特にスリットトウプリプレグと呼び、後者と区別して扱われる。これは、スリットにより作製されたトウプリプレグは幅精度には優れる反面、端部の繊維の切断による物性低下や、スリット前のプリプレグに存在する繋ぎが混入するといった問題を有するためである。
【0005】
また、後者の製法すなわち、強化繊維ストランド一本一本に個別に所定量のマトリックス樹脂を付与して含浸させる方法により作製されたトウプリプレグは端部の繊維の切断による物性低下がないこと、繋ぎのない長い製品が得られる反面、幅精度の良いものを得るのが容易でないと言った問題があった。
【0006】
トウプリプレグは、複雑な形状を有する成形体や、厚物の成形体を製造する際のフィラメントワインド用としても好適に使用される。また、近年、ファイバープレスメントと呼ばれる複数本のトウプリプレグを引き揃えてテープ状とし、複雑な形状のマンドレル面に配置し、成形体を得る方法が開発された。
【0007】
フィラメントワインドやファイバープレスメントに使用されるトウプリプレグは、複数本の糸条を揃えてマンドレル上に配列する必要があるため、その幅精度が悪い場合、成形体中の補強繊維の配列が影響を受ける。すなわち、幅の広い部分では、積層して成形とする際に、隣接するトウプリプレグの端部同士が重なることにより、厚みのバラツキが発生する。また、交差させて積層する際に、厚みのバラツキが大きな層を交差させて積層した場合、その後加熱加圧して含浸マトリックス樹脂を硬化させるときに、マトリックス樹脂が流動することにより、補強繊維の配列に乱れが生じやすいという問題があった。
【0008】
また、幅の狭い部分では、隣接する糸条との間に空隙を生じた場合には、積層したときに空隙部分を生じ易い。このような空隙部分を有する積層体を加熱加圧して硬化すると、空隙部周辺が十分に加圧されず、加圧ムラにより、ボイドが発生しやすい。このボイドが欠陥となるため、欠陥支配の特性である引張強度が低下するという問題があった。
【0009】
幅精度の良好なトウプリプレグを製造する方法としては、例えば、特開平11−130882号公報に、マトリックス樹脂を含浸した後、巻き取り前に繊維束を規制する固定または回転するガイドに接続する方法が示唆されているが、固定ガイドにおいては、擦過毛羽の蓄積による長時間にわたっての安定性の点で問題があり、また、回転ガイドでは、糸の張力変動による、微妙な糸幅方向のふれの影響を受けやすく、幅精度の不良が不規則に混入するという問題があり、結局、幅精度不良部が混入していない長尺のトウプリプレグを得ることは困難であった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、端部の繊維が切断されておらず、かつ、繋ぎの混入もないトウプリプレグを、幅精度良く、長時間安定して製造することができるトウプリプレグの製造方法およびその製造装置を提供せんとするものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、本発明のトウプリプレグの製造方法は、強化繊維ストランドにマトリックス樹脂を含浸した後、溝付き加熱板と幅測定センサーとの間に設けた溝付きの引き取りロールを通過させることにより、該溝付き加熱板で加熱低粘度化したマトリックス樹脂を冷却すると同時にトウプリプレグの幅を所定幅に調整し、固定化することを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明のトウプリプレグの製造装置は、強化繊維ストランドにマトリックス樹脂を含浸してトウプリプレグを製造する製造装置であって、強化繊維ストランドにマトリックス樹脂を含浸する工程と、トウプリプレグのマトリックス樹脂を加熱低粘度化する溝付き加熱板と、該溝付き加熱板と幅測定センサーとの間に設けられた、該マトリックス樹脂を冷却してトウプリプレグの幅を所定幅に調整して固定する溝付きの引き取りロールとで構成されていることを特徴とするものである。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明は、前記課題、つまり端部の繊維が切断されておらず、かつ、繋ぎの混入のないトウプリプレグを、幅精度良く、長時間安定して製造することができるトウプリプレグの製造方法について、鋭意検討し、トウの樹脂含浸後において、該トウプリプレグを加熱板と引き取りロールのそれぞれ溝を通過させて固定してみたところ、かかる課題を一挙に解決することを究明したものである。
【0014】
すなわち、強化繊維ストランドにマトリックス樹脂を含浸した後、溝付き加熱板と幅測定センサーとの間に設けた溝付きの引き取りロールを通過させることにより、該溝付き加熱板で加熱低粘度化したマトリックス樹脂を冷却すると同時にトウプリプレグの幅を所定幅に調整し、固定化することを特徴とするトウプリプレグの幅規制方法およびこれに使用する加熱板と引き取りロールの形状と構成を特定化することに着目して完成されたものである。
【0015】
すなわち、該トウプリプレグを該加熱板内の溝を通過させることにより、該トウプリプレグ内のマトリックス樹脂が加熱低粘度化されて、強化繊維を移動し易くすることができ、その結果、それに続く溝付き引き取りロールでマトリックス樹脂を冷却すると同時にトウプリプレグの幅を所定幅に調整し、固定化することが可能となるものである。すなわち、かかる手段を採用したことにより、容易にトウプリプレグを、一定の幅とすることができ、従来問題とされていた、原料強化繊維ストランドの幅の不均一さに起因する幅のバラツキを低減することが、簡単、かつ、確実に達成することができたものである。
【0016】
ここで、本発明において、トウプリプレグの幅のバラツキを低減する操作を、幅規制と定義する。すなわち本発明の幅規制は、幅調整と幅固定とで実施されるものである。
【0017】
本発明においては、かかる溝付き加熱板と溝付き引き取りロールとの組み合わせからなる装置構造を、トウプリプレグが通過する行程内に設けたことにより、前記課題を解決することができたものである。
【0018】
すなわち、かかる溝付き加熱板のみで、溝付き引き取りロールを設置しない場合では、該トウプリプレグが加熱板内の溝を出た後においても、該トウプリプレグ内のマトリックス樹脂が低粘度な状態となっているために、トウプリプレグ中の強化繊維が移動し、原料である強化繊維ストランド固有の幅へと戻ろうとするために、この変化の過程で幅のバラツキが増加する結果が出現し、また、該溝付き加熱板を設置せずに、溝付き引き取りロールのみを設置した場合では、該トウプリプレグ内のマトリックス樹脂が低粘度化されていないため、トウプリプレグ中の強化繊維が移動し難く、原料である強化繊維の幅の不均一さに起因する幅のバラツキが残存することとなり、いずれの場合も、好ましい結果が得られない。
【0019】
ここで、トウプリプレグの幅のバラツキは、工程中に光学的に非接触で幅を測定する装置を設置し、作製時に通過するトウプリプレグの幅を、測定精度10μmで連続して測定した幅(単位:mm)の標準偏差σをもって表す手段を採用した。
【0020】
かかる測定に採用する装置の例としては、センサー部にキーエンス(株)製、型番:LXー132、信号取り込み装置(アナログ−デジタル変換器)として同社製、型番NR−250を用いることができる。かかるセンサーと、該溝付き引き取りロールの位置関係は、該溝付き引き取りロールが該センサーの上流側10cm以上離れた位置に設置することが好ましい。
【0021】
すなわち、後述するようなある条件下で、溝付き引き取りロールの溝通過時にトウプリプレグの端部が折れ畳まれ、溝付き引き取りロールのの溝を出た後畳まれた部分が開いてしまうということが生じ、幅規制効果が得られない場合があるが、10cmまでの位置では、このような場合に畳まれた部分が開くまでに通過してしまい検出できないことがあるためである。
【0022】
サンプリング頻度は、トウプリプレグのライン速度が、例えば10m/分の場合は、2回/秒とするのが好ましく、また、幅の全測定点数は1000点以上とするのが好ましい。
【0023】
なお、幅調整部の加熱板の温度は、マトリックス樹脂粘度が、好ましくは5から60Pa・s(50から600ポアズ)、さらに好ましくは6から30Pa・sとなる温度であることが、トウプリプレグ中の強化繊維を移動し易くし、幅調整が効果的に行えると共に、マトリックス樹脂が潤滑剤として作用し、毛羽の発生が少なく、堆積しないことから好ましい。
【0024】
すなわち、5Pa・s未満では、マトリックス樹脂が低粘度となり過ぎ、溝付き加熱板の入口でしごかれ、該樹脂が絞り出されてしまうことがあり、また、60Pa・sを越える場合は、マトリックス樹脂の粘着性による溝付き加熱板との擦過時の抵抗により、毛羽が発生し、溝中に堆積することにより、経時的にバラツキが増加することがある。
【0025】
該溝付き加熱板のかかる温度コントロールは、ヒーターの内蔵、熱媒循環等の方法を採ることが可能であり、また、溝上面から熱風を吹き付けることも、均一に加熱することができるので好ましく採用される。
【0026】
また、該マトリックス樹脂の粘度をコントロールする温度は、予め既知の方法で測定した温度−粘度曲線より、必要な温度を読みとることができる。
【0027】
かかる温度−粘度曲線は、B型粘度計又はE型粘度計などを用いて、必要な領域数点の温度で測定したマトリックス樹脂の粘度をプロットしても得られるし、粘弾性測定装置を用いて、温度を昇温しながら、
一定間隔で粘度測定をする方法により、精度良く求めることもできる。粘弾性測定装置を用いた温度−粘度曲線測定の一例として、レオメトリック・サイエンティフィック・エフ・イー製、粘弾性測定装置 型番:ARESにて、1〜5℃/分昇温、測定周波数0.5Hz、データ取り込み間隔15秒の測定条件が挙げられる。
【0028】
次に、該溝付き加熱板のトウプリプレグとの接触長は、好ましくは50mmから200mm、さらに好ましくは80mmから150mmの範囲であるのがよい。すなわち、該接触長が、50mmに満たない場合は、マトリックス樹脂が十分に低粘度化しないため、幅調整が不十分となる傾向があり、逆に、200mmを越えると、角度がずれた場合のトウプリプレグの幅方向の振れが大きくなるため、平行度の調整を厳密に行う必要が生じ、作業性・保守性が低下したり、トウプリプレグ作製中の張力の振れによる振動などが調整精度に悪影響を及ぼしやすくなる傾向がある。
【0029】
かかる溝付き加熱板の溝形状は、前半部にトウプリプレグの通過方向に向かって狭まるテーパーを有し、後半部が平行な溝となった形状のものが好ましく使用される。該前半のテーパー部の長さ(Lt)は、好ましくは20mmから50mm、テーパー部のなす角(Rt)は、好ましくは1°から30°、さらに好ましくは2°から20°であるのがよい。
【0030】
かかるテーパー部のなす角(Rt)が、1°に満たない場合、必要なテーパー部の長さが長くなり、平行部の長さが十分に取れないこと、また、30°を越える場合は、トウプリプレグ端部の折れ畳まれが生じ、この折れ畳まれが混入することで成形体作製時プリプレグの拡がり不良が生じ、成形体の厚みむらの原因となることがある。
【0031】
該溝付き加熱板の後半の平行部の溝の幅は、得ようとするトウプリプレグの幅およびマトリックス樹脂粘度に応じて決められるが、目的とする製品幅の0.75倍から0.85倍の範囲に設定するのが好ましい。また、該溝幅が調節できる構造となっていれば、様々な幅のトウプリプレグ製造用として採用することができるので好ましい。
【0032】
かかる溝付き加熱板の溝の深さは、製造するトウプリプレグの幅やマトリックス樹脂粘度とは無関係に決められ、概して2mm以上10mm以下の深さのものが好ましく、さらに好ましくは3mm以上8mm以下の深さのものがよい。
【0033】
すなわち、該溝の深さが、2mm未満では、スタート時の糸かけ作業が難しくなり、また、10mmを越えても実質的に意味がなくなり、また洗浄時の作業性が悪化する傾向がある。
【0034】
かかる加熱板の溝底面の形状は、入り口から出口方向への断面を見たとき直線(底面が平面)であっても良いし、中央が凸となった曲線(底面が曲面)でも良い。溝の入り口から出口方向への断面が、中央が凸となった曲線であれば、溝の入り口から出口に渡って、トウプリプレグをより均一に底面に押し当てる効果があることから好ましいが、凸部の出が大きくなると、押し当てる力が過大となり、摩擦による強化繊維の切断が生じることから、該断面の曲線形状としては、加熱板入り口と出口を結ぶ直線に対し、最凸部との距離が0から10mmであることが好ましい。
【0035】
かかる加熱板の溝のトウプリプレグの入り口部分と、出口部分の溝底面と、加熱板側面の間の角は、角を丸めてあることが好ましい。角が丸めてない場合は、角で擦過されるため、毛羽が発生するおそれがある。
【0036】
かかる溝付き加熱板に進入する前のトウプリプレグの張力は、1.5kgから4.0kgであることが、安定して幅調整ができることから好ましい。トウプリプレグの張力が1.5kgに満たない場合、トウプリプレグの振動による溝壁面との接圧の左右バラツキなどが生じ、4.0kgを越える場合、幅調整の安定性は良好となるが、毛羽の発生が生じる場合がある。該張力は、マトリックス樹脂の配合、加熱板の温度、加熱板長さにより影響を受けるため、予め張力計で実測した張力が該範囲となるようにクリール張力を設定するのが好ましい。
【0037】
また、本発明において、該トウプリプレグは、該加熱板上に押さえつけられた状態で通過させるのが好ましく、たとえば、溝付き加熱板進入前のトウプリプレグと加熱板上のトウプリプレグ間の角(Rhi)が、好ましくは160°から178°、より好ましくは165°から175°であることが、トウプリプレグと加熱板の溝の位置関係が安定するので好ましい。160°未満では、加熱板に入る部分での擦過により単糸切れが生じ、178°を越えると、トウプリプレグの振動による幅方向の振れなどが生じたときに、加熱板の溝内でトウプリプレグが移動し溝の中心からずれる可能性がある。
【0038】
また、溝付き加熱板上のトウプリプレグと該加熱板を出た後のトウプリプレグ間の角(Rho)は、好ましくは170°から179°、より好ましくは175°から179°の範囲内に制御するのが、溝付き引き取りロール入口での状態が安定するため幅規制精度の点で有利となるため好ましい。かかる角度が170°に満たない場合は、該板出口の角でマトリックス樹脂が低粘度化した状態のトウプリプレグがしごかれることにより、溝付き加熱板出口でトウプリプレグの幅が乱れる傾向がある。
【0039】
また、かかる溝付き引き取りロールの温度は、マトリックス樹脂のガラス転移温度をTg℃と表すと、好ましくは、該マトリックス樹脂の粘度が1000Pa・s(10000ポアズ)以上となる温度からTg−10℃にコントロールすることが、該溝付き引き取りロールでのマトリックス樹脂の冷却による幅固定効果の点から好ましい。
【0040】
かかる溝付き引き取りロール温度が、該マトリックス樹脂の粘度が1000Pa・s(10000ポアズ)以下となる温度であると、幅固定効果が不十分となることがあり、またTg−10℃未満の低温にしても、マトリックス樹脂は十分高粘度化されているので、それより低温にすることは、実質的に意味がない。溝付き冷却板のかかる温度コントロールは、冷媒循環、冷風の吹きつけ等の方法を採ることが可能であり、これらを併用することも好ましい。
【0041】
ここで冷却板の温度決定に用いるガラス転移温度はDSC法にて、昇温速度10℃/分の昇温条件で測定することができる。
【0042】
かかる溝付きの引き取りロールのトウプリプレグとの接触長は500mmから2000mmであることが好ましく、700mmから1500mmがさらに好ましい。かかる接触長が、500mmに満たない場合は、マトリックス樹脂が十分に冷却高粘度化するための冷却条件を強める必要があり、条件範囲が狭くなる。また、かかる接触長は2000mmあれば引き取りや幅固定は十分に機能するので、2000mmを越えても実質的に意味はなく、通糸作業性が低下するため好ましくない。また、該接触長を得るためのロール径やロール数は特に限定されるものではないが、径の大きなロール1本よりは、より径の小さな複数のロールにより構成した方が、精度の高い装置とすることが容易となるため好ましい。すなわち、引き取りロールの径としては、直径50mmから500mmが好ましく、80mmから250mmであればさらに好ましい。直径50mmに満たない場合、必要な接触長を確保するために、必要なロール本数が多数となり、溝の並びの直線性を確保することが困難となるため好ましくなく、また、500mmを越えると、ロール製造時の加工を高精度にすることが困難であること、および、回転軸が振れた場合、トウプリプレグの幅方向のずれ量が大きくなることから好ましくない。
【0043】
かかる引き取りロールの溝の深さは、製造するトウプリプレグの幅やマトリックス樹脂粘度とは無関係に決められ、概して2mm以上10mm以下の範囲のものが好ましく、さらに好ましくは3mm以上8mm以下の範囲のものがよい。すなわち、該溝の深さが2mm未満では、スタート時の糸かけ作業が難しくなり、10mmを越えても、実質的に意味がなくなり、洗浄時の作業性が低下するため好ましくない。
【0044】
引き取りロールを室温以下に冷却する場合、該引き取りロールに、好ましくは乾燥空気或いは窒素ガスなどの乾燥ガスを吹き付けるのがよい。かかる吹き付けにより、溝付きの引き取りロールの結露水のトウプリプレグへの付着を抑えることが可能である。
【0045】
また、このようにして製造したトウプリプレグは、ボビン上に巻き取り、製品とするが、かかるボビンへの巻き取り時は、ガイドがボビンの軸方向にトラバースする、いわゆるガイドトラバースによる巻き取り機構を有するワインダーや、ガイドの位置は固定したまま、ボビンが軸方向にトラバースして巻き取る、いわゆるボビントラバースワインダーがあるが、先の幅規制機構により規制した幅を良好に保ちながら、巻き取ることができる点から、ボビントラバースワインダーを使用することが好ましい。
【0046】
また、さらに、巻き取り前に、冷風を吹き付けるなどの手段により、トウプリプレグを冷却し、トウプリプレグの実温が、マトリックス樹脂のTg以下とした後巻き取れば、巻き取り張力による、いわゆる巻き締まりによる、幅精度への悪影響を減ずることができるため好ましい。
【0047】
また、本発明のトウプリプレグ製造装置は、強化繊維ストランドにマトリックス樹脂を含浸する工程と、トウプリプレグのマトリックス樹脂を加熱低粘度化する溝付き加熱板と、該溝付き加熱板と幅測定センサーとの間に設けられた、該マトリックス樹脂を冷却してトウプリプレグの幅を、所定幅に調整して固定する溝付きの引き取りロールとを有するものである。
【0048】
このような装置の構成とすることにより、幅調整および幅固定からなる幅規制が効果的に可能となることから、端部の繊維が切断されておらず、繋ぎの混入のないトウプリプレグを、幅精度良く、長時間安定して製造することが可能となるものである。
【0049】
図1は、本発明のトウプリプレグの製造装置の一例を示す概略正面図である。図1に示すように、クリール1に仕掛けられた強化繊維ストランド2は引き出されて樹脂付与・含浸部3を経て、溝付き加熱板4、溝付き引き取りロール5により幅規制した後ワインダ7に導かれ巻き取られる。幅規制後の幅評価には、光学的に非接触で幅を測定する幅測定センサ6を使用する。
【0050】
図2は、溝付き加熱板の概略図であり、図3は、その平面図で、図4該溝付き加熱板のテーパー部の形状の説明図である。図2、図3に示すように、溝付き加熱板の溝は、前半部にトウプリプレグの通過方向に向かって狭まるテーパーを有し、後半部が平行な溝の形状を有するものである。このテーパー部の形状は、図4のように、テーパー部のなす角Rtとテーパー部の長さLtで決まる。かかる溝付き加熱板においては、マトリックス樹脂が加熱低粘度化された状態で、該テーパー部を通過させることにより、トウプリプレグの幅を、該加熱板入り口(該テーパー部入り口)の幅から該加熱板後半の平行部の幅へと調整する機能を有するものである。
【0051】
図5は、溝付き加熱板と溝付き引き取りロールからなる幅規制部の正面図であり、図6は、その幅規制部の角度の説明図である。これらの図において、溝付き加熱板進入前のトウプリプレグと、加熱板上のトウプリプレグ間の角をRhi、溝付き加熱板上のトウプリプレグと、該加熱板を出た後のトウプリプレグ間の角をRhoとして、それぞれ表す。
【0052】
すなわち、図では、加熱板、冷却板の溝底部のトウプリプレグの進行方向断面(波線)が直線状の場合を示しているが、該断面(波線部)上に凸な曲線であってもよく、この場合は、Rhi、Rho、Rci、Rcoの各角度は、板端部10mmの部分を直線近似した線と、各板に進入前或いは各板から出た後のトウプリプレグとのなす角度とそれぞれ定義する。
【0053】
かかる幅規制部において、トウプリプレグは、溝付き加熱板に押さえつけられた状態で通過するが、そのとき、RhiとRhoを適切な範囲に設定することで、トウプリプレグの幅方向のふれを抑制し幅規制を効果的にすることが可能となる。
【0054】
【実施例】
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に説明する。
【0055】
実施例1
補強繊維として、東レ(株)製、”トレカ”型番T800H(引張強さ:5.6GPa、引張弾性率:294GPa、破壊歪みエネルギー:53000KJ/m3、密度:1.81g/cm3)の12000フィラメントの炭素繊維を使用した。
【0056】
図1の装置を用いて、ガラス転移点(Tg)が5℃であるエポキシ樹脂を、樹脂含有率が35重量%になるよう付与して、トウプリプレグを製造した。
【0057】
すなわち、エポキシ樹脂としては、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンタイプのエポキシ樹脂と、ビスフェノールAのジグリシジルエーテルタイプのエポキシ樹脂、さらに硬化剤として4、4’ジフェニルジアミノスルフォンを使用し、熱可塑性ポリマーとしてポリエーテルスルフォンを添加し、原料樹脂の配合比を調整することにより樹脂の粘度を80℃で9Pa・s(90ポアズ)、ガラス転移点を上述の値に合わせた。
【0058】
この樹脂の粘度をレオメトリック・サイエンティフィック・エフ・イー製粘弾性測定装置ARES等を用い、2℃/分昇温で測定周波数0.5Hz、データ取り込み間隔15秒で測定した。30℃で5000Pa・s(50000ポアズ)、50℃で400Pa・s(4000ポアズ)、60℃で120Pa・s(1200ポアズ)、80℃で9Pa・s(90ポアズ)、110℃で4Pa・s(40ポアズ)であった。
【0059】
樹脂付与・含浸部3で上記樹脂を炭素繊維に80℃にて付与した後、110℃まで加熱含浸しトウプリプレグとし、溝付き加熱板4および溝付きの引き取りロール5により幅規制を実施した。溝付き加熱板4は熱媒を循環することにより、80℃に温度を保ち、溝付きの引き取りロール5は室温(25℃)下空冷した。使用した溝付き加熱板および溝付きの引き取りロールの形状等は以下の通り。
トウプリプレグは、糸速10m/minで走行させた。
【0060】
上記の条件で装置を運転し、クリールのブレーキを調整して、溝付き加熱板前の張力が2.4±0.4kgとなるように設定し、該条件でトウプリプレグを作製した。
【0061】
幅バラツキは、溝付きの引き取りロールの下流側150mmの位置にキーエンス(株)製、型番:LXー132(レーザー式測長センサー)を設置し、該センサーの出力を、同社製、型番NR−250(アナログ−デジタル変換器)に接続して、2回/秒のサンプリング頻度で信号を取り込み統計処理することで算出したところ、スタート直後の1000点のσ=0.04mmと非常に幅バラツキの少ないトウプリプレグを得た。
【0062】
また、同一条件で連続運転し、30分後および1時間後に同サンプリング条件で1000点の幅データを取り込み評価したところ何れもσ=0.04mmとバラツキのレベルは変化していないことが確認できた。
【0063】
実施例2
補強繊維として、東レ(株)製、”トレカ”型番T700S(引張強さ:4.9GPa、引張弾性率:230GPa、破壊歪みエネルギー:52000KJ/m3、密度:1.80g/cm3)の12000フィラメントの炭素繊維(目付0.80g/m)を使用し、溝付き加熱板の平行部の溝幅を3.4mm、溝付きの引き取りロールの溝幅を3.6mmのものを使用した以外は、実施例1と同一条件でトウプリプレグを作製した。
【0064】
実施例1と同一条件で幅バラツキを評価したところ、スタート直後〜1時間後まで何れもσ=0.06mmと非常に幅バラツキの少ないトウプリプレグが得られた。
【0065】
比較例1
溝付き加熱板がない他は実施例1と同一の条件でトウプリプレグを作製した。マトリックス樹脂が十分に低粘度化されていないため、強化繊維の移動が不十分となり、溝付きの引き取りロールのの溝内でトウプリプレグの端部の折れ畳まれが観察された。
【0066】
また、実施例1と同様のバラツキ評価を行ったところ、スタート直後からσ=0.2とバラツキの大きいものであった。
【0067】
比較例2
溝付き加熱板と溝付きの引き取りロールの代わりに以下の条件の溝付き加熱板のみを設置した他は実施例1と同一の条件でトウプリプレグを作製した。
実施例1と同様のバラツキ評価を行ったところ、スタート直後はσ=0.1であったが、30分後σ=0.18、1時間後σ=0.24となった。
【0068】
加熱温度が不十分であるため、樹脂粘度が十分に低下しておらず、強化繊維の移動性が悪いため絶対値としてバラツキが多いと共に、樹脂による該加熱板とプリプレグ間の潤滑効果がないために、毛羽が堆積し経時安定性も悪化したものである。
【0069】
【発明の効果】
本発明は、端部の繊維が切断されておらず、繋ぎの混入のないトウプリプレグを幅精度良く長時間安定して製造する方法および装置を提供せんとするものである。
【0070】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、強化繊維ストランドにマトリックス樹脂を含浸した後、溝付き加熱板と幅測定センサーとの間に設けた溝付きの引き取りロールを通過させることにより、該溝付き加熱板で加熱低粘度化したマトリックス樹脂を冷却すると同時にトウプリプレグの幅を所定幅に調整し、固定化することを特徴とするトウプリプレグの製造方法である。
【0071】
また、本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、強化繊維ストランドにマトリックス樹脂を含浸してトウプリプレグを製造する製造装置であって、強化繊維ストランドにマトリックス樹脂を含浸する工程と、トウプリプレグのマトリックス樹脂を加熱低粘度化する溝付き加熱板と、該溝付き加熱板と幅測定センサーとの間に設けられた、該マトリックス樹脂を冷却してトウプリプレグの幅を所定幅に調整して固定する溝付きの引き取りロールとで構成されていることを特徴とするトウプリプレグの製造装置である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のトウプリプレグの製造装置の一例を示す概略正面図である。
【図2】本発明のトウプリプレグの製造装置の溝付き加熱板の一例を示す概略図である。
【図3】図2の溝付き加熱板の平面図である。
【図4】該溝付き加熱板のテーパー部の形状の説明図である。
【図5】該溝付き加熱板と溝付きの引き取りロールからなる幅規制部の正面図である。
【図6】該溝付き加熱板部分の角度の説明図である。
【符号の説明】
1:クリール
2:強化繊維ストランド
3:樹脂付与・含浸部
4:溝付き加熱板
5:溝付き引き取りロール
6:幅測定センサ
7:ワインダ
Claims (6)
- 強化繊維ストランドにマトリックス樹脂を含浸した後、溝付き加熱板と幅測定センサーとの間に設けた溝付きの引き取りロールを通過させることにより、該溝付き加熱板で加熱低粘度化したマトリックス樹脂を冷却すると同時にトウプリプレグの幅を所定幅に調整し、固定化することを特徴とするトウプリプレグの製造方法。
- 該マトリックス樹脂の粘度を5〜60Pa・s(50から600ポアズ)となる温度に、該溝付き加熱板の温度をコントロールすることを特徴とする、請求項1に記載のトウプリプレグの製造方法。
- 該溝付き加熱板へ進入前のトウプリプレグと、該溝付き加熱板上のトウプリプレグ間の角度が160°から178°に制御して、該トウプリプレグを該溝付き加熱板の溝の底面に押さえ込むことを特徴とする請求項1または2に記載のトウプリプレグの製造方法。
- 該溝付きの引き取りロールが、該マトリックス樹脂の粘度が1000Pa・s(10000ポアズ)以上となる温度以下に冷却されている請求項1〜3のいずれかに記載のトウプリプレグの製造方法。
- 該溝付きの引き取りロールとトウプリプレグとの接触長の合計が500〜2000mmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のトウプリプレグの製造方法。
- 強化繊維ストランドにマトリックス樹脂を含浸してトウプリプレグを製造する製造装置であって、強化繊維ストランドにマトリックス樹脂を含浸する工程と、トウプリプレグのマトリックス樹脂を加熱低粘度化する溝付き加熱板と、該溝付き加熱板と幅測定センサーとの間に設けられた、該マトリックス樹脂を冷却してトウプリプレグの幅を所定幅に調整して固定する溝付きの引き取りロールとで構成されていることを特徴とするトウプリプレグの製造装置。
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- 2002-07-31 JP JP2002223257A patent/JP2004058593A/ja active Pending
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EP3885113A1 (en) | 2020-03-25 | 2021-09-29 | Subaru Corporation | Composite material manufacturing apparatus |
JP2021154505A (ja) * | 2020-03-25 | 2021-10-07 | 株式会社Subaru | 複合材製造装置 |
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