JP2004027078A - トウプリプレグの製造方法及び製造装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】本発明は、端部の繊維が切断されておらず、かつ、繋ぎの混入のないトウプリプレグを、幅精度良く長時間安定して製造することができるトウプリプレグの製造方法およびその製造装置を提供せんとするものである。
【解決手段】本発明のトウプリプレグの製造方法は、強化繊維ストランドにマトリックス樹脂を含浸した後、加熱板内の溝を通過させることにより、該マトリックス樹脂を加熱低粘度化し、該トウプリプレグ幅を所定幅に調整し、次いで、冷却板内の溝を通過させることにより、マトリックス樹脂を冷却増粘し、該トウプリプレグ幅を固定することを特徴とするものである。
また、かかるトウプリプレグの製造装置は、強化繊維ストランドにマトリックス樹脂を含浸させてトウプリプレグとした後、該トウプリプレグが通過する行程中に少なくとも1つの溝付き加熱板からなる幅調整部と、少なくとも1つの溝付き冷却板からなる幅固定部からなる幅規制機構を設けたことを特徴とするものである。
【選択図】図1
【解決手段】本発明のトウプリプレグの製造方法は、強化繊維ストランドにマトリックス樹脂を含浸した後、加熱板内の溝を通過させることにより、該マトリックス樹脂を加熱低粘度化し、該トウプリプレグ幅を所定幅に調整し、次いで、冷却板内の溝を通過させることにより、マトリックス樹脂を冷却増粘し、該トウプリプレグ幅を固定することを特徴とするものである。
また、かかるトウプリプレグの製造装置は、強化繊維ストランドにマトリックス樹脂を含浸させてトウプリプレグとした後、該トウプリプレグが通過する行程中に少なくとも1つの溝付き加熱板からなる幅調整部と、少なくとも1つの溝付き冷却板からなる幅固定部からなる幅規制機構を設けたことを特徴とするものである。
【選択図】図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、強化繊維ストランド一本一本に個別に所定量のマトリックス樹脂を賦与して含浸させるトウプリプレグに関し、幅精度の良好なトウプリプレグを得るための製造方法及び製造装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
繊維強化プラスチック製部品は、通常、強化繊維にマトリックス樹脂を含浸させた、いわゆるプリプレグと呼ばれるシート状中間基材をツール上に積層し、さらに加熱・加圧して賦形・硬化させることにより製造される。従来、プリプレグとしては、複数本の強化繊維ストランドを一方向に並行して配列させたものにマトリックス樹脂を含浸させたシート状一方向プリプレグが主流であったが、近年、強化繊維ストランドの幅程度の細幅のいわゆる、トウプリプレグが、土木建築用の補強材、ワイヤーや、航空機の機体用材料として注目されている。特に、航空機の機体部品には、軽量で高強度を求められることから、トウプリプレグを用いた繊維強化プラスチックの適用が進んでいる。たとえば、トウプリプレグを用いて、その多数本を同時に積層する装置(自動トウプレースメントマシン)を利用して、より複雑な形状の部品や大型部品への適用が試みられている。
【0003】
トウプリプレグの製法には、一般に、シート状一方向プリプレグをその繊維軸方向に規定幅にスリットする方法や、強化繊維ストランド一本一本に個別に所定量のマトリックス樹脂を賦与して含浸させる方法などがある。前者の製法によるトウプリプレグは、特にスリットトウプリプレグと呼び、後者と区別して扱われる。これは、スリットにより作製されたトウプリプレグは幅精度には優れる反面、端部の繊維の切断による物性低下や、スリット前のプリプレグに存在する繋ぎが混入するといった問題を有するためである。また、後者の製法すなわち、強化繊維ストランド一本一本に個別に所定量のマトリックス樹脂を賦与して含浸させる方法により作製されたトウプリプレグは端部の繊維の切断による物性低下がないこと、つなぎのない長い製品が得られる反面、幅精度の良いものを得るのが容易でないと言った問題があった。
【0004】
トウプリプレグは、複雑な形状を有する成形体や、厚物の成形体を製造する際のフィラメントワインド用としても好適に使用される。また、近年、ファイバープレスメントと呼ばれる複数本のトウプリプレグを引き揃えてテープ状とし、複雑な形状のマンドレル面に配置し、成形体を得る方法が開発された。
【0005】
フィラメントワインドやファイバープレスメントに使用されるトウプリプレグは、複数本のトウプリプレグを揃えてマンドレル上に配列する必要があるため、その幅精度が悪い場合、成形体中の補強繊維の配列が影響を受ける。すなわち、幅の広い部分では、積層して成形とする際に、隣接するトウプリプレグの端部同士が重なることにより、厚みのバラツキが発生する。また、交差させて積層する際に、厚みのバラツキが大きな層を交差させて積層した場合、その後加熱加圧して含浸マトリックス樹脂を硬化させるときにマトリックス樹脂が流動することにより、補強繊維の配列に乱れが生じやすい。
【0006】
また、幅の狭い部分では、隣接するトウプリプレグとの間に空隙を生じた場合には、積層したときに空隙部分を生じ易い。このような空隙部分を有する積層体を加熱加圧して硬化すると、空隙部周辺が十分に加圧されず、加圧ムラにより、ボイドが発生しやすい。このボイドが欠陥となるため欠陥支配の特性である引張強度が低下する。
【0007】
幅精度の良好なトウプリプレグを製造する方法としては、例えば、特開平11−130882号公報に、マトリックス樹脂を含浸した後、巻き取り前にトウプリプレグ幅を規制する固定または回転するガイドに接続する方法が示唆されているが、固定ガイドにおいては擦過毛羽の蓄積による長時間にわたっての安定性の点で問題があり、また回転ガイドではトウプリプレグの張力変動によるトウプリプレグ幅方向のふれの影響を受けやすく、幅精度の不良が不規則に混入するという問題があり、幅精度不良部が混入せず長尺のトウプリプレグを得ることは困難であった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、端部の繊維が切断されておらず、かつ、繋ぎの混入のないトウプリプレグを、幅精度良く長時間安定して製造することができるトウプリプレグの製造方法およびその製造装置を提供せんとするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、本発明のトウプリプレグの製造方法は、強化繊維ストランドにマトリックス樹脂を含浸した後、加熱板内の溝を通過させることにより、該マトリックス樹脂を加熱低粘度化し、該トウプリプレグ幅を所定幅に調整し、次いで、冷却板内の溝を通過させることにより、マトリックス樹脂を冷却増粘し、該トウプリプレグ幅を固定することを特徴とするものである。
【0010】
また、かかるトウプリプレグの製造装置は、強化繊維ストランドにマトリックス樹脂を含浸させてトウプリプレグとした後、巻き取るトウプリプレグの作製装置であって、該トウプリプレグが通過する行程中に少なくとも1つの溝付き加熱板からなる幅調整部と、少なくとも1つの溝付き冷却板からなる幅固定部からなる幅規制機構を設けたことを特徴とするものである。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明は、前記課題、つまり端部の繊維が切断されておらず、かつ、繋ぎの混入のないトウプリプレグを、幅精度良く長時間安定して製造することができるトウプリプレグの製造方法について、鋭意検討し、トウの樹脂含浸後において、該トウプリプレグを加熱板と冷却板のそれぞれ溝を通過させて固定してみたところ、かかる課題を一挙に解決することを究明したものである。
【0012】
すなわち、強化繊維ストランドへのマトリックス樹脂含浸後、溝付きの加熱板を通過させることによる幅調整と溝付きの冷却板を通過させることによる幅固定により構成される幅規制方法およびこれに使用する幅調整部と幅固定部の形状と構成を特定化することを究明したものである。
【0013】
すなわち、該トウプリプレグを該加熱板内の溝を通過させることにより、該トウプリプレグ内のマトリックス樹脂が加熱低粘度化されて、強化繊維を移動し易くすることができ、その結果、トウプリプレグ幅を所定幅に調整するものである。また、その後、かかるトウプリプレグを、冷却板内の溝を通過させることにより、該トウプリプレグ内のマトリックス樹脂が冷却されて増粘されて、強化繊維の移動を抑制することができ、その結果、トウプリプレグ幅を固定することができるのである。すなわち、かかる手段を採用したことにより、容易にトウプリプレグを、一定の幅とすることができ、従来問題とされていた、原料強化繊維の幅の不均一さに起因する幅のバラツキを低減することが、簡単、かつ、確実に達成することができたものである。
【0014】
ここで、本発明において、トウプリプレグの幅のバラツキを低減する操作を、幅規制と定義する。すなわち本発明の幅規制は、幅調整と幅固定とで実施されるものである。
【0015】
本発明においては、かかる溝付き加熱板と溝付き冷却板との組み合わせからなる装置構造を、トウプリプレグが通過する行程内に設けたことにより、前記課題を解決することができたものである。
【0016】
すなわち、かかる溝付き加熱板のみで、溝付き冷却板を設置しない場合では、該トウプリプレグが加熱板内の溝を出た後においても、該トウプリプレグ内のマトリックス樹脂が低粘度な状態となっているために、トウプリプレグ中の強化繊維が移動し、加熱板内の溝で調整した幅が、再び元の状態へ戻ってしまったりするために、この変化の過程で幅のバラツキが増加する結果が出現し、また、該溝付き加熱板を設置せずに、溝付き冷却板のみを設置した場合では、該トウプリプレグ内のマトリックス樹脂が低粘度化されていないため、トウプリプレグ中の強化繊維が移動し難く、原料である強化繊維の幅の不均一さに起因する幅のバラツキが残存することとなり、いずれの場合も、好ましい結果が得られない。
【0017】
ここで、トウプリプレグの幅のバラツキは、工程中に光学的に非接触で幅を測定する装置を設置し、作製時に通過するトウプリプレグの幅を、測定精度10μmで連続して測定した幅(単位:mm)の標準偏差σをもって表す手段を採用した。かかる測定に採用する装置の例としては、センサー部にキーエンス(株)製、型番:LXー132、信号取り込み装置(アナログ−デジタル変換器)として同社製、型番NR−250を用いることができる。かかるセンサーは、該溝付き冷却板の下流側10cm以上離れた位置に設置することが好ましい。
【0018】
すなわち、後述するようなある条件下で、溝通過時にトウプリプレグの端部が折れ畳まれ、冷却板の溝を出た後畳まれた部分が開いてしまうということが生じ、幅規制効果が得られない場合があるが、10cmまでの位置では、このような場合に畳まれた部分が開くまでに通過してしまい検出できないことがあるためである。
【0019】
サンプリング頻度は、トウプリプレグのライン速度が、例えば10m/分の場合は、2回/秒とするのが好ましく、また、幅の全測定点数は1000点以上とするのが好ましい。
【0020】
なお、幅調整部の加熱板の温度は、マトリックス樹脂粘度が、好ましくは5から60Pa・s(50から600ポアズ)、さらに好ましくは6から30Pa・sとなる温度であることが、トウプリプレグ中の強化繊維を移動し易くし、幅調整が効果的に行えると共に、マトリックス樹脂が潤滑剤として作用し、毛羽の発生が少なく、堆積しないことからよい。すなわち、5Pa・s未満では、マトリックス樹脂が低粘度となり過ぎ、冷却固定部に到達する前に調整した幅が元の状態へ戻るため、この変化の過程で幅のバラツキが増加することがあり、また、60Pa・sを越える場合は、マトリックス樹脂の粘着性による溝付き加熱板との擦過時の抵抗により毛羽が発生し、溝中に堆積することにより、経時的にバラツキが増加することがある。
【0021】
該溝付き加熱板のかかる温度コントロールは、ヒーターの内蔵、熱媒循環等の方法を採ることが可能であり、また溝上面から熱風を吹き付けることも均一に加熱できることから好ましい。
【0022】
また、該マトリックス樹脂の粘度をコントロールする温度は、予め既知の方法で測定した温度−粘度曲線より、必要な温度を読みとることができる。温度−粘度曲線は、B型粘度計又はE型粘度計などを用いて、必要な領域数点の温度で測定したマトリックス樹脂の粘度をプロットしても得られるし、粘弾性測定装置を用いて、温度を昇温しながら、一定間隔で粘度測定をする方法により、精度良く求めることもできる。粘弾性測定装置を用いた温度−粘度曲線測定の一例として、レオメトリック・サイエンティフィック・エフ・イー製、粘弾性測定装置 型番:ARESにて1〜5℃/分昇温、測定周波数0.5Hz、データ取り込み間隔15秒の測定条件が挙げられる。
【0023】
次に、該溝付き加熱板のトウプリプレグとの接触長は、好ましくは50mmから200mm、さらに好ましくは80mmから150mmの範囲であるのがよい。50mmに満たない場合は、マトリックス樹脂が十分に低粘度化しないため、幅調整が不十分となる傾向があり、200mmを越えると、角度がずれた場合のトウプリプレグの幅方向の振れが大きくなるため、平行度の調整を厳密に行う必要が生じ、作業性・保守性が低下したり、トウプリプレグ作製中の張力の振れによる振動などが調整精度に悪影響を及ぼしやすくなる傾向がある。
【0024】
溝付き加熱板の溝形状は、前半部にトウプリプレグの通過方向に向かって狭まるテーパーを有し後半部が平行な溝となった形状が好ましい。該前半のテーパー部の長さ(Lt)は、好ましくは20mmから50mm、テーパー部のなす角(Rt)は、好ましくは1°から30°、さらに好ましくは2°から20°であるのがよい。テーパー部のなす角(Rt)が1°に満たない場合、必要なテーパー部の長さが長くなり、平行部の長さが十分に取れないこと、30°を越える場合では、強化繊維の幅方向の移動による幅調整ではなく、端部の折れ畳まれが生じ、この折れ畳まれは成形体中の斜行糸が混入する原因となることがある。
【0025】
該溝付き加熱板の後半の平行部の溝の幅は、得ようとするトウプリプレグの幅およびマトリックス樹脂粘度に応じて決められるが、目的とする製品幅の0.75倍から0.85倍とすることが好ましい。また、溝幅が調節できる構造となっていれば、様々な幅のトウプリプレグ製造用として採用することができるので好ましい。
【0026】
かかる溝付き加熱板の溝の深さは、製造するトウプリプレグの幅やマトリックス樹脂粘度とは無関係に決められ、およそ2mm以上10mm以下が好ましく、さらに好ましくは3mm以上8mm以下がよい。2mm未満では、スタート時の糸かけ作業が難しくなり、10mmを越えても実質的に意味がなくなり、また洗浄時の作業性が悪化する傾向がある。
【0027】
掛かる加熱板の溝底面の形状は、入り口から出口方向への断面を見たとき直線(底面が平面)であっても良いし、中央が凸となった曲線(底面が曲面)でも良い。溝の入り口から出口方向への断面が中央が凸となった曲線であれば溝の入り口から出口に渡ってトウプリプレグをより均一に底面に押し当てる効果があることから好ましいが凸部の出が大きくなると押し当てる力が過大となり摩擦による強化繊維の切断が生じることから、該断面の曲線形状としては、加熱板入り口と出口を結ぶ直線に対し最凸部との距離が0から10mmであることが好ましい。
【0028】
かかる加熱板の溝のトウプリプレグの入り口部分と出口部分の溝底面と加熱板側面の間の角は、角を丸めてあることが好ましい。角が丸めてない場合は、角で擦過されるため、毛羽が発生するおそれがある。
【0029】
かかる溝付き加熱板に進入する前のトウプリプレグの張力は、1.5kgから4.0kgであることが、安定して幅調整ができることから好ましい。トウプリプレグの張力が1.5kgに満たない場合、トウプリプレグの振動による溝壁面との接圧の左右バラツキなどが生じ、4.0kgを越える場合、幅調整の安定性は良好となるが、毛羽の発生が生じる場合がある。該張力は、マトリックス樹脂の配合、加熱板の温度および冷却板の温度や、加熱板長さや冷却板長さにより影響を受けるため、予め張力計で実測した張力が該範囲となるようワインダーのダンサーロールに負荷する荷重を設定する。
【0030】
また、本発明において、該トウプリプレグは、該加熱板上に押さえつけられた状態で通過させるのが好ましく、たとえば、溝付き加熱板進入前のトウプリプレグと加熱板上のトウプリプレグ間の角(Rhi)が、好ましくは160°から178°、より好ましくは165°から175°であることが、トウプリプレグと加熱板の溝の位置関係が安定するので好ましい。160°未満では、加熱板に入る部分での擦過により単糸切れが生じ、178°を越えると、トウプリプレグの振動による幅方向の振れなどが生じたときに、加熱板の溝内でトウプリプレグが移動し溝の中心からずれる可能性がある。
【0031】
また、溝付き加熱板上のトウプリプレグと該加熱板を出た後のトウプリプレグ間の角(Rho)は、好ましくは170°から179°、より好ましくは175°から179°の範囲内に制御するのが、折角調整したトウプリプレグの幅に乱れを生じないようにする上からよい。かかる角度が170°に満たない場合は、該板出口の角でマトリックス樹脂が低粘度化した状態のトウプリプレグがしごかれることにより、加熱板上で調整した幅が乱れる傾向がある。
【0032】
また、かかる溝付き冷却板の温度は、マトリックス樹脂のガラス転移温度をTg℃と表すと、好ましくはTg℃からTg−10℃にコントロールすることが、該冷却板へのマトリックス樹脂の付着を防止することができるのでよい。かかる溝付き冷却板温度が、マトリックス樹脂のガラス転移温度を越える温度であると、マトリックス樹脂の粘着性のため、該冷却板上へのマトリックス樹脂の付着が生じる傾向があり、またTg−10℃未満の低温にしても、マトリックス樹脂の付着は十分防止することができるので、それより低温にすることは、実質的に意味がない。溝付き冷却板のかかる温度コントロールは、冷媒循環、冷風の吹きつけ等の方法を採ることが可能であり、これらを併用することも好ましい。
【0033】
ここで冷却板の温度決定に用いるガラス転移温度はDSC法にて、昇温速度10℃/分の昇温条件で測定することができる。
【0034】
なお、かかる溝付き冷却板のトウプリプレグとの接触長は50mmから200mmであることが好ましく、80mmから150mmがさらに好ましい。50mmに満たない場合は、マトリックス樹脂が十分に高粘度化しないため、幅固定後の行程中での幅変動が大きくなり、200mm以上であると角度がずれた場合のトウプリプレグの幅方向の振れが大きくなるため、平行度の調整を厳密に行う必要が生じ、作業性・保守性が低下すること、トウプリプレグ作製中の張力の振れによる振動などが精度に悪影響を及ぼしやすくなる。
【0035】
かかる冷却板の溝形状は、平行な溝となった形状が好ましい。入り口にトウプリプレグの通過方向に向かって狭まるテーパーを有しても良いが必ずしも必要ではなく、テーパーを付ける場合、20mm以下とすることが好ましい。
【0036】
平行部の溝の幅は、得ようとするトウプリプレグの幅およびマトリックス樹脂粘度に応じて決められるが、目的とする製品幅の0.8倍から0.9倍とすることが好ましい。また、溝幅が調節できる構造となっていれば、様々な幅のトウプリプレグ製造に採用可能であるため好ましい。
【0037】
冷却板の溝の深さは、製造するトウプリプレグの幅やマトリックス樹脂粘度とは無関係に決められ、およそ2mm以上10mm以下が好ましく、さらに好ましくは3mm以上8mm以下がよい。2mm未満では、スタート時の糸かけ作業が難しくなり、10mmを越えても実質的に意味がなくなり、洗浄時の作業性が低下する傾向がある。
【0038】
掛かる冷却板の溝底面の形状は、入り口から出口方向への断面を見たとき直線(底面が平面)であっても良いし、中央が凸となった曲線(底面が曲面)でも良い。溝の入り口から出口方向への断面が中央が凸となった曲線であれば溝の入り口から出口に渡ってトウプリプレグをより均一に底面に押し当てる効果があることから好ましいが凸部の出が大きくなると押し当てる力が過大となり摩擦による強化繊維の切断が生じることから、該断面の曲線形状としては、加熱板入り口と出口を結ぶ直線に対し最凸部との距離が0から10mmであることが好ましい。
【0039】
かかる冷却板の溝のトウプリプレグの入り口部分と出口部分の溝底面と冷却板側面の間の角は、前記加熱板の場合と同様に、角を丸めてあることが好ましい。角が丸めてない場合は角で擦過されるため、毛羽が発生するおそれがある。
【0040】
該溝付き冷却板進入前のトウプリプレグと該冷却板上のトウプリプレグ間の角(Rci)が、好ましくは170°から179°、より好ましくは175°から179°の範囲であることが、溝付き加熱板で調整したトウプリプレグの幅を乱れにくくする上からよい。かかる角度が170°に満たない場合は、冷却板入り口の角でマトリックス樹脂が低粘度化した状態のトウプリプレグがしごかれることにより該加熱板上で調整した幅が乱れる傾向がある。
【0041】
溝付き冷却板上のトウプリプレグと該冷却板を出た後のトウプリプレグ間の角(Rco)は、好ましくは160°から178°、より好ましくは165°から175°の範囲であれば、張力変動等による幅方向のふれを抑えることができ、トウプリプレグと冷却板の溝の位置関係が安定するのでよい。かかる角度が160°未満である場合は、該冷却板の出口部分での擦過により、単糸切れが生じ、178°を越えると、トウプリプレグの振動による幅方向の振れなどが生じたときに、該冷却板の溝内でトウプリプレグが移動し溝の中心からずれる可能性がある。
【0042】
トウプリプレグが通過する溝内に乾燥空気或いは窒素ガスなどの乾燥ガスを吹き付ければ、溝付き冷却板の結露水のトウプリプレグへの付着を抑えることが可能であるので好ましい。
【0043】
また、このようにして作製したトウプリプレグは、ボビン上に巻き取り、製品とすることが好ましく行われる。かかるボビンへの巻き取り時は、ガイドがボビンの軸方向にトラバースする、いわゆるガイドトラバースによる巻き取り機構を有するワインダーや、ガイドの位置は固定したまま、ボビンが軸方向にトラバースして巻き取る、いわゆるボビントラバースワインダーを採用することができるが、先の幅規制機構により規制した幅を良好に保ちながら巻き取ることができる点から、ボビントラバースワインダーを使用することが好ましい。
【0044】
さらに、巻き取り前に、冷風を吹き付けるなどの手段により、トウプリプレグを冷却し、トウプリプレグの実温がマトリックス樹脂のTg以下とした後巻き取れば、巻き取り張力による、いわゆる巻き締まりによる幅精度への悪影響を減ずることができるため好ましい。
【0045】
また、本発明のトウプリプレグの製造装置は、行程中に少なくとも1つの溝付き加熱板からなる幅調整部と、少なくとも1つの冷却板からなる幅固定部を有するものである。このような装置の構成とすることにより、幅調整を効果的に実施でき、かつ調整した幅が悪化するまでに固定できることから、端部の繊維が切断されておらず、繋ぎの混入のないトウプリプレグを幅精度良く長時間安定して製造することが可能となるものである。
【0046】
図1は、本発明のトウプリプレグの製造装置の一例を示す概略正面図である。図1に示すように、クリール1に仕掛けられた強化繊維ストランド2は引き出されて樹脂付与・含浸部3、駆動ロール4を経て、溝付き加熱板5、溝付き冷却板6のより幅規制した後ワインダ8に導かれ巻き取られる。幅規制後の幅評価には、光学的に非接触で幅を測定する幅測定センサ7を使用する。
【0047】
図2は、溝付き加熱(冷却)板の概略図であり、図3は、その平面図で、図4該溝付き加熱(冷却)平板のテーパー部の形状の説明図である。図2、図3に示すように、溝付き加熱(冷却)板の溝は、前半部にトウプリプレグの通過方向に向かって狭まるテーパーを有し、後半部が平行な溝の形状を有するものである。このテーパー部の形状は、図4のように、テーパー部のなす角Rtとテーパー部の長さLtで決まる。かかる溝付き加熱板においては、マトリックス樹脂が加熱低粘度化された状態で、該テーパー部を通過させることにより、トウプリプレグの幅を、該加熱板入り口(該テーパー部入り口)の幅から該加熱板後半の平行部の幅へと調整する機能を有するものである。これに対して、溝付き冷却板においては、トウプリプレグが、そのテーパー部の溝内を通過させることにより、マトリックス樹脂を冷却増粘させ、その状態でテーパー部後、つまり該冷却板の平行部へと導き、該平行部の幅にトウプリプレグ幅を固定する機能を有するものである。
【0048】
図5は、溝付き加熱板と溝付き冷却板からなる幅固定部からなる幅規制部の正面図であり、図6は、その幅規制部の角度の説明図である。これらの図において、溝付き加熱板進入前のトウプリプレグと、加熱板上のトウプリプレグ間の角をRhi、溝付き加熱板上のトウプリプレグと、該加熱板を出た後のトウプリプレグ間の角をRho、溝付き冷却板進入前のトウプリプレグと、該冷却板上のトウプリプレグ間の角をRci、溝付き冷却板上のトウプリプレグと、該冷却板を出た後のトウプリプレグ間の角をRcoとして、それぞれ表す。
すなわち、図では、加熱板、冷却板の溝底部のトウプリプレグの進行方向断面(波線)が直線状の場合を示しているが、該断面(波線部)上に凸な曲線であっても良く、この場合は、Rhi、Rho、Rci、Rcoの各角度は板端部10mmの部分を直線近似した線と各板に進入前或いは各板から出た後のトウプリプレグとのなす角度とそれぞれ定義する。
【0049】
かかる幅固定部において、トウプリプレグは、溝付き加熱板と溝付き冷却板からなる幅固定部からなる幅規制部に押さえつけられた状態で通過するが、そのとき、RhiとRcoを適切な範囲に設定することで、幅規制部にトウプリプレグを押しつけた状態で通過せしめることが可能となる。また、RhoとRciを適切な範囲に設定することで、幅調整後のマトリックス樹脂が低粘度な状態で幅が悪化することを防止するという機能を、それぞれ有するものである。
【0050】
【実施例】
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に説明する。
【0051】
実施例1
補強繊維として、東レ(株)製、”トレカ”(R)型番T800H(引張強さ:5.6GPa、引張弾性率:294GPa、破壊歪みエネルギー:53000KJ/m3、密度:1.81g/cm3)の12000フィラメントの炭素繊維を使用した。
【0052】
図1の装置を用いて、ガラス転移点(Tg)が5℃であるエポキシ樹脂を、樹脂含有率が35重量%になるよう付与して、トウプリプレグを製造した。
【0053】
すなわち、エポキシ樹脂としては、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン樹脂と、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル樹脂を用い、さらに硬化剤として4、4’ジフェニルジアミノスルフォンを使用し、熱可塑性ポリマーとしてポリエーテルスルフォンを添加し、原料樹脂の配合比を調整することにより樹脂の粘度を80℃で9Pa・s(90ポアズ)、ガラス転移点を上述の値に合わせた。
【0054】
この樹脂の粘度をレオメトリック・サイエンティフィック・エフ・イー製粘弾性測定装置ARES等を用い、2℃/分昇温で測定周波数0.5Hz、データ取り込み間隔15秒で測定した。30℃で5000Pa・s(50000ポアズ)、50℃で400Pa・s(4000ポアズ)、60℃で120Pa・s(1200ポアズ)、80℃で9Pa・s(90ポアズ)、110℃で4Pa・s(40ポアズ)であった。
【0055】
樹脂付与・含浸部3で上記樹脂を炭素繊維に80℃にて付与した後、110℃まで加熱含浸しトウプリプレグとし、引き取りロールの後に設置した溝付き加熱板5および溝付き冷却板6を通過せしめることで幅規制を実施した。溝付き加熱板5は熱媒を循環することにより、80℃に温度を保ち、溝付き冷却板6は冷媒を循環することで1℃に温度を保った。
【0056】
使用した溝付き加熱板および溝付き冷却板の形状およびトウプリプレグとのなす角は以下の通りである。
溝付き加熱板:テーパー部長さ(Lt) 50 mm
平行部長さ 50 mm
テーパー角度 2°
平行部溝幅 2.5mm
溝底部の断面形状 直線
入角度(Rhi) 170°
出角度(Rho) 178°
溝付き冷却板:テーパー部長さ(Lt) 5 mm
平行部長さ 95 mm
テーパー角度 10°
平行部溝幅 2.7mm
溝底部の断面形状 直線
入角度(Rci) 178°
出角度(Rco) 170°
トウプリプレグは、ライン速度10m/minで走行させた。
【0057】
上記の条件で装置を運転し、ワインダーダンサーの荷重を調整して、溝付き加熱板前の張力が2.0±0.4kgとなるように設定し、該条件でトウプリプレグを得た。
【0058】
幅バラツキは、溝付き冷却板の下流側150mmの位置にキーエンス(株)製、型番:LXー132(レーザー式測長センサー)を設置し、該センサーの出力を、同社製、型番NR−250(アナログ−デジタル変換器)に接続して、2回/秒のサンプリング頻度で信号を取り込み統計処理することで算出したところ、スタート直後の1000点のσ=0.05mmと非常に幅バラツキの少ないトウプリプレグを得た。
【0059】
また、同一条件で連続運転し、30分後および1時間後に同サンプリング条件で1000点の幅データを取り込み評価したところ何れもσ=0.05mmとバラツキのレベルは変化していないことが確認された。
【0060】
実施例2
補強繊維として、東レ(株)製、”トレカ”型番T700S(引張強さ:4.9GPa、引張弾性率:230GPa、破壊歪みエネルギー:52000KJ/m3、密度:1.80g/cm3)の12000フィラメントの炭素繊維(目付0.80g/m)を使用し、溝付き加熱板の平行部の溝幅を3.4mm、溝付き冷却板の溝幅を3.6mmとした以外は、実施例1と同一条件でトウプリプレグを作製した。
【0061】
実施例1と同一条件で幅バラツキを評価したところ、スタート直後〜1時間後まで何れもσ=0.06mmと非常に幅バラツキの少ないトウプリプレグが得られた。
【0062】
比較例1
溝付き加熱板と溝付き冷却板の代わりに以下の条件の溝付き冷却板のみを設置した他は実施例1と同一の条件でトウプリプレグを作製した。
冷却板:温度 1℃
テーパー部長さ(Lt) 50 mm
平行部長さ 50 mm
テーパー角度 2°
平行部溝幅 2.5mm
溝底部の断面形状 直線
入角度(Rhi) 170°
出角度(Rho) 170°
その結果、冷却と同時に幅を狭めているため、強化繊維の移動が不十分となり、冷却板の溝内でトウプリプレグの端部の折れ畳まれが観察された。
また、実施例1と同様のバラツキ評価を行ったところ、スタート直後からσ=0.2とバラツキの大きいものであった。
【0063】
比較例2
溝付き加熱板と溝付き冷却板の代わりに以下の条件の溝付き加熱板のみを設置した他は実施例1と同一の条件でトウプリプレグを作製した。
溝付き加熱板:温度 50℃
テーパー部長さ(Lt) 50 mm
平行部長さ 50 mm
テーパー角度 2°
平行部溝幅 2.5mm
溝底部の断面形状 直線
入角度(Rhi) 170°
出角度(Rho) 170°
実施例1と同様のバラツキ評価を行ったところ、スタート直後はσ=0.1であったが、30分後σ=0.18、1時間後σ=0.24となった。
【0064】
加熱温度が不十分であるため、樹脂粘度が十分に低下しておらず、強化繊維の移動性が悪いため絶対値としてバラツキが多いと共に、樹脂による該加熱板とプリプレグ間の潤滑効果がないために、毛羽が堆積し経時安定性も悪化したものであった。
【0065】
【発明の効果】
本発明によれば、簡単な装置で、高品質の、つまり端部の繊維が切断されておらず、繋ぎの混入のないトウプリプレグを幅精度良く長時間安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のトウプリプレグの製造装置の一例を示す概略正面図である。
【図2】本発明のトウプリプレグの製造装置の溝付き加熱(冷却)板の一例を示す概略図である。
【図3】本発明のトウプリプレグの製造装置の溝付き加熱(冷却)板の一例を示す平面図である。
【図4】本発明のトウプリプレグの製造装置の溝付き加熱(冷却)板のテーパー部の形状の一例を示す説明図である。
【図5】本発明のトウプリプレグの製造装置の溝付き加熱板と溝付き冷却板からなる幅固定部からなる幅規制部の一例を示す正面図である。
【図6】本発明のトウプリプレグの製造装置の幅規制部の角度の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
1:クリール
2:強化繊維ストランド
3:樹脂付与・含浸部
4:駆動ロール
5:溝付き加熱板
6:溝付き冷却板
7:幅測定センサ
8:ワインダ
【発明の属する技術分野】
本発明は、強化繊維ストランド一本一本に個別に所定量のマトリックス樹脂を賦与して含浸させるトウプリプレグに関し、幅精度の良好なトウプリプレグを得るための製造方法及び製造装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
繊維強化プラスチック製部品は、通常、強化繊維にマトリックス樹脂を含浸させた、いわゆるプリプレグと呼ばれるシート状中間基材をツール上に積層し、さらに加熱・加圧して賦形・硬化させることにより製造される。従来、プリプレグとしては、複数本の強化繊維ストランドを一方向に並行して配列させたものにマトリックス樹脂を含浸させたシート状一方向プリプレグが主流であったが、近年、強化繊維ストランドの幅程度の細幅のいわゆる、トウプリプレグが、土木建築用の補強材、ワイヤーや、航空機の機体用材料として注目されている。特に、航空機の機体部品には、軽量で高強度を求められることから、トウプリプレグを用いた繊維強化プラスチックの適用が進んでいる。たとえば、トウプリプレグを用いて、その多数本を同時に積層する装置(自動トウプレースメントマシン)を利用して、より複雑な形状の部品や大型部品への適用が試みられている。
【0003】
トウプリプレグの製法には、一般に、シート状一方向プリプレグをその繊維軸方向に規定幅にスリットする方法や、強化繊維ストランド一本一本に個別に所定量のマトリックス樹脂を賦与して含浸させる方法などがある。前者の製法によるトウプリプレグは、特にスリットトウプリプレグと呼び、後者と区別して扱われる。これは、スリットにより作製されたトウプリプレグは幅精度には優れる反面、端部の繊維の切断による物性低下や、スリット前のプリプレグに存在する繋ぎが混入するといった問題を有するためである。また、後者の製法すなわち、強化繊維ストランド一本一本に個別に所定量のマトリックス樹脂を賦与して含浸させる方法により作製されたトウプリプレグは端部の繊維の切断による物性低下がないこと、つなぎのない長い製品が得られる反面、幅精度の良いものを得るのが容易でないと言った問題があった。
【0004】
トウプリプレグは、複雑な形状を有する成形体や、厚物の成形体を製造する際のフィラメントワインド用としても好適に使用される。また、近年、ファイバープレスメントと呼ばれる複数本のトウプリプレグを引き揃えてテープ状とし、複雑な形状のマンドレル面に配置し、成形体を得る方法が開発された。
【0005】
フィラメントワインドやファイバープレスメントに使用されるトウプリプレグは、複数本のトウプリプレグを揃えてマンドレル上に配列する必要があるため、その幅精度が悪い場合、成形体中の補強繊維の配列が影響を受ける。すなわち、幅の広い部分では、積層して成形とする際に、隣接するトウプリプレグの端部同士が重なることにより、厚みのバラツキが発生する。また、交差させて積層する際に、厚みのバラツキが大きな層を交差させて積層した場合、その後加熱加圧して含浸マトリックス樹脂を硬化させるときにマトリックス樹脂が流動することにより、補強繊維の配列に乱れが生じやすい。
【0006】
また、幅の狭い部分では、隣接するトウプリプレグとの間に空隙を生じた場合には、積層したときに空隙部分を生じ易い。このような空隙部分を有する積層体を加熱加圧して硬化すると、空隙部周辺が十分に加圧されず、加圧ムラにより、ボイドが発生しやすい。このボイドが欠陥となるため欠陥支配の特性である引張強度が低下する。
【0007】
幅精度の良好なトウプリプレグを製造する方法としては、例えば、特開平11−130882号公報に、マトリックス樹脂を含浸した後、巻き取り前にトウプリプレグ幅を規制する固定または回転するガイドに接続する方法が示唆されているが、固定ガイドにおいては擦過毛羽の蓄積による長時間にわたっての安定性の点で問題があり、また回転ガイドではトウプリプレグの張力変動によるトウプリプレグ幅方向のふれの影響を受けやすく、幅精度の不良が不規則に混入するという問題があり、幅精度不良部が混入せず長尺のトウプリプレグを得ることは困難であった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、端部の繊維が切断されておらず、かつ、繋ぎの混入のないトウプリプレグを、幅精度良く長時間安定して製造することができるトウプリプレグの製造方法およびその製造装置を提供せんとするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、本発明のトウプリプレグの製造方法は、強化繊維ストランドにマトリックス樹脂を含浸した後、加熱板内の溝を通過させることにより、該マトリックス樹脂を加熱低粘度化し、該トウプリプレグ幅を所定幅に調整し、次いで、冷却板内の溝を通過させることにより、マトリックス樹脂を冷却増粘し、該トウプリプレグ幅を固定することを特徴とするものである。
【0010】
また、かかるトウプリプレグの製造装置は、強化繊維ストランドにマトリックス樹脂を含浸させてトウプリプレグとした後、巻き取るトウプリプレグの作製装置であって、該トウプリプレグが通過する行程中に少なくとも1つの溝付き加熱板からなる幅調整部と、少なくとも1つの溝付き冷却板からなる幅固定部からなる幅規制機構を設けたことを特徴とするものである。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明は、前記課題、つまり端部の繊維が切断されておらず、かつ、繋ぎの混入のないトウプリプレグを、幅精度良く長時間安定して製造することができるトウプリプレグの製造方法について、鋭意検討し、トウの樹脂含浸後において、該トウプリプレグを加熱板と冷却板のそれぞれ溝を通過させて固定してみたところ、かかる課題を一挙に解決することを究明したものである。
【0012】
すなわち、強化繊維ストランドへのマトリックス樹脂含浸後、溝付きの加熱板を通過させることによる幅調整と溝付きの冷却板を通過させることによる幅固定により構成される幅規制方法およびこれに使用する幅調整部と幅固定部の形状と構成を特定化することを究明したものである。
【0013】
すなわち、該トウプリプレグを該加熱板内の溝を通過させることにより、該トウプリプレグ内のマトリックス樹脂が加熱低粘度化されて、強化繊維を移動し易くすることができ、その結果、トウプリプレグ幅を所定幅に調整するものである。また、その後、かかるトウプリプレグを、冷却板内の溝を通過させることにより、該トウプリプレグ内のマトリックス樹脂が冷却されて増粘されて、強化繊維の移動を抑制することができ、その結果、トウプリプレグ幅を固定することができるのである。すなわち、かかる手段を採用したことにより、容易にトウプリプレグを、一定の幅とすることができ、従来問題とされていた、原料強化繊維の幅の不均一さに起因する幅のバラツキを低減することが、簡単、かつ、確実に達成することができたものである。
【0014】
ここで、本発明において、トウプリプレグの幅のバラツキを低減する操作を、幅規制と定義する。すなわち本発明の幅規制は、幅調整と幅固定とで実施されるものである。
【0015】
本発明においては、かかる溝付き加熱板と溝付き冷却板との組み合わせからなる装置構造を、トウプリプレグが通過する行程内に設けたことにより、前記課題を解決することができたものである。
【0016】
すなわち、かかる溝付き加熱板のみで、溝付き冷却板を設置しない場合では、該トウプリプレグが加熱板内の溝を出た後においても、該トウプリプレグ内のマトリックス樹脂が低粘度な状態となっているために、トウプリプレグ中の強化繊維が移動し、加熱板内の溝で調整した幅が、再び元の状態へ戻ってしまったりするために、この変化の過程で幅のバラツキが増加する結果が出現し、また、該溝付き加熱板を設置せずに、溝付き冷却板のみを設置した場合では、該トウプリプレグ内のマトリックス樹脂が低粘度化されていないため、トウプリプレグ中の強化繊維が移動し難く、原料である強化繊維の幅の不均一さに起因する幅のバラツキが残存することとなり、いずれの場合も、好ましい結果が得られない。
【0017】
ここで、トウプリプレグの幅のバラツキは、工程中に光学的に非接触で幅を測定する装置を設置し、作製時に通過するトウプリプレグの幅を、測定精度10μmで連続して測定した幅(単位:mm)の標準偏差σをもって表す手段を採用した。かかる測定に採用する装置の例としては、センサー部にキーエンス(株)製、型番:LXー132、信号取り込み装置(アナログ−デジタル変換器)として同社製、型番NR−250を用いることができる。かかるセンサーは、該溝付き冷却板の下流側10cm以上離れた位置に設置することが好ましい。
【0018】
すなわち、後述するようなある条件下で、溝通過時にトウプリプレグの端部が折れ畳まれ、冷却板の溝を出た後畳まれた部分が開いてしまうということが生じ、幅規制効果が得られない場合があるが、10cmまでの位置では、このような場合に畳まれた部分が開くまでに通過してしまい検出できないことがあるためである。
【0019】
サンプリング頻度は、トウプリプレグのライン速度が、例えば10m/分の場合は、2回/秒とするのが好ましく、また、幅の全測定点数は1000点以上とするのが好ましい。
【0020】
なお、幅調整部の加熱板の温度は、マトリックス樹脂粘度が、好ましくは5から60Pa・s(50から600ポアズ)、さらに好ましくは6から30Pa・sとなる温度であることが、トウプリプレグ中の強化繊維を移動し易くし、幅調整が効果的に行えると共に、マトリックス樹脂が潤滑剤として作用し、毛羽の発生が少なく、堆積しないことからよい。すなわち、5Pa・s未満では、マトリックス樹脂が低粘度となり過ぎ、冷却固定部に到達する前に調整した幅が元の状態へ戻るため、この変化の過程で幅のバラツキが増加することがあり、また、60Pa・sを越える場合は、マトリックス樹脂の粘着性による溝付き加熱板との擦過時の抵抗により毛羽が発生し、溝中に堆積することにより、経時的にバラツキが増加することがある。
【0021】
該溝付き加熱板のかかる温度コントロールは、ヒーターの内蔵、熱媒循環等の方法を採ることが可能であり、また溝上面から熱風を吹き付けることも均一に加熱できることから好ましい。
【0022】
また、該マトリックス樹脂の粘度をコントロールする温度は、予め既知の方法で測定した温度−粘度曲線より、必要な温度を読みとることができる。温度−粘度曲線は、B型粘度計又はE型粘度計などを用いて、必要な領域数点の温度で測定したマトリックス樹脂の粘度をプロットしても得られるし、粘弾性測定装置を用いて、温度を昇温しながら、一定間隔で粘度測定をする方法により、精度良く求めることもできる。粘弾性測定装置を用いた温度−粘度曲線測定の一例として、レオメトリック・サイエンティフィック・エフ・イー製、粘弾性測定装置 型番:ARESにて1〜5℃/分昇温、測定周波数0.5Hz、データ取り込み間隔15秒の測定条件が挙げられる。
【0023】
次に、該溝付き加熱板のトウプリプレグとの接触長は、好ましくは50mmから200mm、さらに好ましくは80mmから150mmの範囲であるのがよい。50mmに満たない場合は、マトリックス樹脂が十分に低粘度化しないため、幅調整が不十分となる傾向があり、200mmを越えると、角度がずれた場合のトウプリプレグの幅方向の振れが大きくなるため、平行度の調整を厳密に行う必要が生じ、作業性・保守性が低下したり、トウプリプレグ作製中の張力の振れによる振動などが調整精度に悪影響を及ぼしやすくなる傾向がある。
【0024】
溝付き加熱板の溝形状は、前半部にトウプリプレグの通過方向に向かって狭まるテーパーを有し後半部が平行な溝となった形状が好ましい。該前半のテーパー部の長さ(Lt)は、好ましくは20mmから50mm、テーパー部のなす角(Rt)は、好ましくは1°から30°、さらに好ましくは2°から20°であるのがよい。テーパー部のなす角(Rt)が1°に満たない場合、必要なテーパー部の長さが長くなり、平行部の長さが十分に取れないこと、30°を越える場合では、強化繊維の幅方向の移動による幅調整ではなく、端部の折れ畳まれが生じ、この折れ畳まれは成形体中の斜行糸が混入する原因となることがある。
【0025】
該溝付き加熱板の後半の平行部の溝の幅は、得ようとするトウプリプレグの幅およびマトリックス樹脂粘度に応じて決められるが、目的とする製品幅の0.75倍から0.85倍とすることが好ましい。また、溝幅が調節できる構造となっていれば、様々な幅のトウプリプレグ製造用として採用することができるので好ましい。
【0026】
かかる溝付き加熱板の溝の深さは、製造するトウプリプレグの幅やマトリックス樹脂粘度とは無関係に決められ、およそ2mm以上10mm以下が好ましく、さらに好ましくは3mm以上8mm以下がよい。2mm未満では、スタート時の糸かけ作業が難しくなり、10mmを越えても実質的に意味がなくなり、また洗浄時の作業性が悪化する傾向がある。
【0027】
掛かる加熱板の溝底面の形状は、入り口から出口方向への断面を見たとき直線(底面が平面)であっても良いし、中央が凸となった曲線(底面が曲面)でも良い。溝の入り口から出口方向への断面が中央が凸となった曲線であれば溝の入り口から出口に渡ってトウプリプレグをより均一に底面に押し当てる効果があることから好ましいが凸部の出が大きくなると押し当てる力が過大となり摩擦による強化繊維の切断が生じることから、該断面の曲線形状としては、加熱板入り口と出口を結ぶ直線に対し最凸部との距離が0から10mmであることが好ましい。
【0028】
かかる加熱板の溝のトウプリプレグの入り口部分と出口部分の溝底面と加熱板側面の間の角は、角を丸めてあることが好ましい。角が丸めてない場合は、角で擦過されるため、毛羽が発生するおそれがある。
【0029】
かかる溝付き加熱板に進入する前のトウプリプレグの張力は、1.5kgから4.0kgであることが、安定して幅調整ができることから好ましい。トウプリプレグの張力が1.5kgに満たない場合、トウプリプレグの振動による溝壁面との接圧の左右バラツキなどが生じ、4.0kgを越える場合、幅調整の安定性は良好となるが、毛羽の発生が生じる場合がある。該張力は、マトリックス樹脂の配合、加熱板の温度および冷却板の温度や、加熱板長さや冷却板長さにより影響を受けるため、予め張力計で実測した張力が該範囲となるようワインダーのダンサーロールに負荷する荷重を設定する。
【0030】
また、本発明において、該トウプリプレグは、該加熱板上に押さえつけられた状態で通過させるのが好ましく、たとえば、溝付き加熱板進入前のトウプリプレグと加熱板上のトウプリプレグ間の角(Rhi)が、好ましくは160°から178°、より好ましくは165°から175°であることが、トウプリプレグと加熱板の溝の位置関係が安定するので好ましい。160°未満では、加熱板に入る部分での擦過により単糸切れが生じ、178°を越えると、トウプリプレグの振動による幅方向の振れなどが生じたときに、加熱板の溝内でトウプリプレグが移動し溝の中心からずれる可能性がある。
【0031】
また、溝付き加熱板上のトウプリプレグと該加熱板を出た後のトウプリプレグ間の角(Rho)は、好ましくは170°から179°、より好ましくは175°から179°の範囲内に制御するのが、折角調整したトウプリプレグの幅に乱れを生じないようにする上からよい。かかる角度が170°に満たない場合は、該板出口の角でマトリックス樹脂が低粘度化した状態のトウプリプレグがしごかれることにより、加熱板上で調整した幅が乱れる傾向がある。
【0032】
また、かかる溝付き冷却板の温度は、マトリックス樹脂のガラス転移温度をTg℃と表すと、好ましくはTg℃からTg−10℃にコントロールすることが、該冷却板へのマトリックス樹脂の付着を防止することができるのでよい。かかる溝付き冷却板温度が、マトリックス樹脂のガラス転移温度を越える温度であると、マトリックス樹脂の粘着性のため、該冷却板上へのマトリックス樹脂の付着が生じる傾向があり、またTg−10℃未満の低温にしても、マトリックス樹脂の付着は十分防止することができるので、それより低温にすることは、実質的に意味がない。溝付き冷却板のかかる温度コントロールは、冷媒循環、冷風の吹きつけ等の方法を採ることが可能であり、これらを併用することも好ましい。
【0033】
ここで冷却板の温度決定に用いるガラス転移温度はDSC法にて、昇温速度10℃/分の昇温条件で測定することができる。
【0034】
なお、かかる溝付き冷却板のトウプリプレグとの接触長は50mmから200mmであることが好ましく、80mmから150mmがさらに好ましい。50mmに満たない場合は、マトリックス樹脂が十分に高粘度化しないため、幅固定後の行程中での幅変動が大きくなり、200mm以上であると角度がずれた場合のトウプリプレグの幅方向の振れが大きくなるため、平行度の調整を厳密に行う必要が生じ、作業性・保守性が低下すること、トウプリプレグ作製中の張力の振れによる振動などが精度に悪影響を及ぼしやすくなる。
【0035】
かかる冷却板の溝形状は、平行な溝となった形状が好ましい。入り口にトウプリプレグの通過方向に向かって狭まるテーパーを有しても良いが必ずしも必要ではなく、テーパーを付ける場合、20mm以下とすることが好ましい。
【0036】
平行部の溝の幅は、得ようとするトウプリプレグの幅およびマトリックス樹脂粘度に応じて決められるが、目的とする製品幅の0.8倍から0.9倍とすることが好ましい。また、溝幅が調節できる構造となっていれば、様々な幅のトウプリプレグ製造に採用可能であるため好ましい。
【0037】
冷却板の溝の深さは、製造するトウプリプレグの幅やマトリックス樹脂粘度とは無関係に決められ、およそ2mm以上10mm以下が好ましく、さらに好ましくは3mm以上8mm以下がよい。2mm未満では、スタート時の糸かけ作業が難しくなり、10mmを越えても実質的に意味がなくなり、洗浄時の作業性が低下する傾向がある。
【0038】
掛かる冷却板の溝底面の形状は、入り口から出口方向への断面を見たとき直線(底面が平面)であっても良いし、中央が凸となった曲線(底面が曲面)でも良い。溝の入り口から出口方向への断面が中央が凸となった曲線であれば溝の入り口から出口に渡ってトウプリプレグをより均一に底面に押し当てる効果があることから好ましいが凸部の出が大きくなると押し当てる力が過大となり摩擦による強化繊維の切断が生じることから、該断面の曲線形状としては、加熱板入り口と出口を結ぶ直線に対し最凸部との距離が0から10mmであることが好ましい。
【0039】
かかる冷却板の溝のトウプリプレグの入り口部分と出口部分の溝底面と冷却板側面の間の角は、前記加熱板の場合と同様に、角を丸めてあることが好ましい。角が丸めてない場合は角で擦過されるため、毛羽が発生するおそれがある。
【0040】
該溝付き冷却板進入前のトウプリプレグと該冷却板上のトウプリプレグ間の角(Rci)が、好ましくは170°から179°、より好ましくは175°から179°の範囲であることが、溝付き加熱板で調整したトウプリプレグの幅を乱れにくくする上からよい。かかる角度が170°に満たない場合は、冷却板入り口の角でマトリックス樹脂が低粘度化した状態のトウプリプレグがしごかれることにより該加熱板上で調整した幅が乱れる傾向がある。
【0041】
溝付き冷却板上のトウプリプレグと該冷却板を出た後のトウプリプレグ間の角(Rco)は、好ましくは160°から178°、より好ましくは165°から175°の範囲であれば、張力変動等による幅方向のふれを抑えることができ、トウプリプレグと冷却板の溝の位置関係が安定するのでよい。かかる角度が160°未満である場合は、該冷却板の出口部分での擦過により、単糸切れが生じ、178°を越えると、トウプリプレグの振動による幅方向の振れなどが生じたときに、該冷却板の溝内でトウプリプレグが移動し溝の中心からずれる可能性がある。
【0042】
トウプリプレグが通過する溝内に乾燥空気或いは窒素ガスなどの乾燥ガスを吹き付ければ、溝付き冷却板の結露水のトウプリプレグへの付着を抑えることが可能であるので好ましい。
【0043】
また、このようにして作製したトウプリプレグは、ボビン上に巻き取り、製品とすることが好ましく行われる。かかるボビンへの巻き取り時は、ガイドがボビンの軸方向にトラバースする、いわゆるガイドトラバースによる巻き取り機構を有するワインダーや、ガイドの位置は固定したまま、ボビンが軸方向にトラバースして巻き取る、いわゆるボビントラバースワインダーを採用することができるが、先の幅規制機構により規制した幅を良好に保ちながら巻き取ることができる点から、ボビントラバースワインダーを使用することが好ましい。
【0044】
さらに、巻き取り前に、冷風を吹き付けるなどの手段により、トウプリプレグを冷却し、トウプリプレグの実温がマトリックス樹脂のTg以下とした後巻き取れば、巻き取り張力による、いわゆる巻き締まりによる幅精度への悪影響を減ずることができるため好ましい。
【0045】
また、本発明のトウプリプレグの製造装置は、行程中に少なくとも1つの溝付き加熱板からなる幅調整部と、少なくとも1つの冷却板からなる幅固定部を有するものである。このような装置の構成とすることにより、幅調整を効果的に実施でき、かつ調整した幅が悪化するまでに固定できることから、端部の繊維が切断されておらず、繋ぎの混入のないトウプリプレグを幅精度良く長時間安定して製造することが可能となるものである。
【0046】
図1は、本発明のトウプリプレグの製造装置の一例を示す概略正面図である。図1に示すように、クリール1に仕掛けられた強化繊維ストランド2は引き出されて樹脂付与・含浸部3、駆動ロール4を経て、溝付き加熱板5、溝付き冷却板6のより幅規制した後ワインダ8に導かれ巻き取られる。幅規制後の幅評価には、光学的に非接触で幅を測定する幅測定センサ7を使用する。
【0047】
図2は、溝付き加熱(冷却)板の概略図であり、図3は、その平面図で、図4該溝付き加熱(冷却)平板のテーパー部の形状の説明図である。図2、図3に示すように、溝付き加熱(冷却)板の溝は、前半部にトウプリプレグの通過方向に向かって狭まるテーパーを有し、後半部が平行な溝の形状を有するものである。このテーパー部の形状は、図4のように、テーパー部のなす角Rtとテーパー部の長さLtで決まる。かかる溝付き加熱板においては、マトリックス樹脂が加熱低粘度化された状態で、該テーパー部を通過させることにより、トウプリプレグの幅を、該加熱板入り口(該テーパー部入り口)の幅から該加熱板後半の平行部の幅へと調整する機能を有するものである。これに対して、溝付き冷却板においては、トウプリプレグが、そのテーパー部の溝内を通過させることにより、マトリックス樹脂を冷却増粘させ、その状態でテーパー部後、つまり該冷却板の平行部へと導き、該平行部の幅にトウプリプレグ幅を固定する機能を有するものである。
【0048】
図5は、溝付き加熱板と溝付き冷却板からなる幅固定部からなる幅規制部の正面図であり、図6は、その幅規制部の角度の説明図である。これらの図において、溝付き加熱板進入前のトウプリプレグと、加熱板上のトウプリプレグ間の角をRhi、溝付き加熱板上のトウプリプレグと、該加熱板を出た後のトウプリプレグ間の角をRho、溝付き冷却板進入前のトウプリプレグと、該冷却板上のトウプリプレグ間の角をRci、溝付き冷却板上のトウプリプレグと、該冷却板を出た後のトウプリプレグ間の角をRcoとして、それぞれ表す。
すなわち、図では、加熱板、冷却板の溝底部のトウプリプレグの進行方向断面(波線)が直線状の場合を示しているが、該断面(波線部)上に凸な曲線であっても良く、この場合は、Rhi、Rho、Rci、Rcoの各角度は板端部10mmの部分を直線近似した線と各板に進入前或いは各板から出た後のトウプリプレグとのなす角度とそれぞれ定義する。
【0049】
かかる幅固定部において、トウプリプレグは、溝付き加熱板と溝付き冷却板からなる幅固定部からなる幅規制部に押さえつけられた状態で通過するが、そのとき、RhiとRcoを適切な範囲に設定することで、幅規制部にトウプリプレグを押しつけた状態で通過せしめることが可能となる。また、RhoとRciを適切な範囲に設定することで、幅調整後のマトリックス樹脂が低粘度な状態で幅が悪化することを防止するという機能を、それぞれ有するものである。
【0050】
【実施例】
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に説明する。
【0051】
実施例1
補強繊維として、東レ(株)製、”トレカ”(R)型番T800H(引張強さ:5.6GPa、引張弾性率:294GPa、破壊歪みエネルギー:53000KJ/m3、密度:1.81g/cm3)の12000フィラメントの炭素繊維を使用した。
【0052】
図1の装置を用いて、ガラス転移点(Tg)が5℃であるエポキシ樹脂を、樹脂含有率が35重量%になるよう付与して、トウプリプレグを製造した。
【0053】
すなわち、エポキシ樹脂としては、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン樹脂と、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル樹脂を用い、さらに硬化剤として4、4’ジフェニルジアミノスルフォンを使用し、熱可塑性ポリマーとしてポリエーテルスルフォンを添加し、原料樹脂の配合比を調整することにより樹脂の粘度を80℃で9Pa・s(90ポアズ)、ガラス転移点を上述の値に合わせた。
【0054】
この樹脂の粘度をレオメトリック・サイエンティフィック・エフ・イー製粘弾性測定装置ARES等を用い、2℃/分昇温で測定周波数0.5Hz、データ取り込み間隔15秒で測定した。30℃で5000Pa・s(50000ポアズ)、50℃で400Pa・s(4000ポアズ)、60℃で120Pa・s(1200ポアズ)、80℃で9Pa・s(90ポアズ)、110℃で4Pa・s(40ポアズ)であった。
【0055】
樹脂付与・含浸部3で上記樹脂を炭素繊維に80℃にて付与した後、110℃まで加熱含浸しトウプリプレグとし、引き取りロールの後に設置した溝付き加熱板5および溝付き冷却板6を通過せしめることで幅規制を実施した。溝付き加熱板5は熱媒を循環することにより、80℃に温度を保ち、溝付き冷却板6は冷媒を循環することで1℃に温度を保った。
【0056】
使用した溝付き加熱板および溝付き冷却板の形状およびトウプリプレグとのなす角は以下の通りである。
溝付き加熱板:テーパー部長さ(Lt) 50 mm
平行部長さ 50 mm
テーパー角度 2°
平行部溝幅 2.5mm
溝底部の断面形状 直線
入角度(Rhi) 170°
出角度(Rho) 178°
溝付き冷却板:テーパー部長さ(Lt) 5 mm
平行部長さ 95 mm
テーパー角度 10°
平行部溝幅 2.7mm
溝底部の断面形状 直線
入角度(Rci) 178°
出角度(Rco) 170°
トウプリプレグは、ライン速度10m/minで走行させた。
【0057】
上記の条件で装置を運転し、ワインダーダンサーの荷重を調整して、溝付き加熱板前の張力が2.0±0.4kgとなるように設定し、該条件でトウプリプレグを得た。
【0058】
幅バラツキは、溝付き冷却板の下流側150mmの位置にキーエンス(株)製、型番:LXー132(レーザー式測長センサー)を設置し、該センサーの出力を、同社製、型番NR−250(アナログ−デジタル変換器)に接続して、2回/秒のサンプリング頻度で信号を取り込み統計処理することで算出したところ、スタート直後の1000点のσ=0.05mmと非常に幅バラツキの少ないトウプリプレグを得た。
【0059】
また、同一条件で連続運転し、30分後および1時間後に同サンプリング条件で1000点の幅データを取り込み評価したところ何れもσ=0.05mmとバラツキのレベルは変化していないことが確認された。
【0060】
実施例2
補強繊維として、東レ(株)製、”トレカ”型番T700S(引張強さ:4.9GPa、引張弾性率:230GPa、破壊歪みエネルギー:52000KJ/m3、密度:1.80g/cm3)の12000フィラメントの炭素繊維(目付0.80g/m)を使用し、溝付き加熱板の平行部の溝幅を3.4mm、溝付き冷却板の溝幅を3.6mmとした以外は、実施例1と同一条件でトウプリプレグを作製した。
【0061】
実施例1と同一条件で幅バラツキを評価したところ、スタート直後〜1時間後まで何れもσ=0.06mmと非常に幅バラツキの少ないトウプリプレグが得られた。
【0062】
比較例1
溝付き加熱板と溝付き冷却板の代わりに以下の条件の溝付き冷却板のみを設置した他は実施例1と同一の条件でトウプリプレグを作製した。
冷却板:温度 1℃
テーパー部長さ(Lt) 50 mm
平行部長さ 50 mm
テーパー角度 2°
平行部溝幅 2.5mm
溝底部の断面形状 直線
入角度(Rhi) 170°
出角度(Rho) 170°
その結果、冷却と同時に幅を狭めているため、強化繊維の移動が不十分となり、冷却板の溝内でトウプリプレグの端部の折れ畳まれが観察された。
また、実施例1と同様のバラツキ評価を行ったところ、スタート直後からσ=0.2とバラツキの大きいものであった。
【0063】
比較例2
溝付き加熱板と溝付き冷却板の代わりに以下の条件の溝付き加熱板のみを設置した他は実施例1と同一の条件でトウプリプレグを作製した。
溝付き加熱板:温度 50℃
テーパー部長さ(Lt) 50 mm
平行部長さ 50 mm
テーパー角度 2°
平行部溝幅 2.5mm
溝底部の断面形状 直線
入角度(Rhi) 170°
出角度(Rho) 170°
実施例1と同様のバラツキ評価を行ったところ、スタート直後はσ=0.1であったが、30分後σ=0.18、1時間後σ=0.24となった。
【0064】
加熱温度が不十分であるため、樹脂粘度が十分に低下しておらず、強化繊維の移動性が悪いため絶対値としてバラツキが多いと共に、樹脂による該加熱板とプリプレグ間の潤滑効果がないために、毛羽が堆積し経時安定性も悪化したものであった。
【0065】
【発明の効果】
本発明によれば、簡単な装置で、高品質の、つまり端部の繊維が切断されておらず、繋ぎの混入のないトウプリプレグを幅精度良く長時間安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のトウプリプレグの製造装置の一例を示す概略正面図である。
【図2】本発明のトウプリプレグの製造装置の溝付き加熱(冷却)板の一例を示す概略図である。
【図3】本発明のトウプリプレグの製造装置の溝付き加熱(冷却)板の一例を示す平面図である。
【図4】本発明のトウプリプレグの製造装置の溝付き加熱(冷却)板のテーパー部の形状の一例を示す説明図である。
【図5】本発明のトウプリプレグの製造装置の溝付き加熱板と溝付き冷却板からなる幅固定部からなる幅規制部の一例を示す正面図である。
【図6】本発明のトウプリプレグの製造装置の幅規制部の角度の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
1:クリール
2:強化繊維ストランド
3:樹脂付与・含浸部
4:駆動ロール
5:溝付き加熱板
6:溝付き冷却板
7:幅測定センサ
8:ワインダ
Claims (7)
- 強化繊維ストランドにマトリックス樹脂を含浸した後、加熱板内の溝を通過させることにより、該マトリックス樹脂を加熱低粘度化し、該トウプリプレグ幅を所定幅に調整し、次いで、冷却板内の溝を通過させることにより、マトリックス樹脂を冷却増粘し、該トウプリプレグ幅を固定することを特徴とするトウプリプレグの製造方法。
- 該マトリックス樹脂の粘度が、5から60Pa・s(50から600ポアズ)となる温度に、該加熱板の温度をコントロールすることを特徴とする、請求項1に記載のトウプリプレグの製造方法。
- 該トウプリプレグを、該加熱板上に押さえつけながら通過させることを特徴とする請求項1または2に記載のトウプリプレグの製造方法。
- 該冷却板の温度を、該マトリックス樹脂のガラス転移温度以下にコントロールすることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のトウプリプレグの製造方法。
- 強化繊維ストランドにマトリックス樹脂を含浸させてトウプリプレグとした後、巻き取るトウプリプレグの作製装置であって、該トウプリプレグが通過する行程中に少なくとも1つの溝付き加熱板からなる幅調整部と、少なくとも1つの溝付き冷却板からなる幅固定部からなる幅規制機構を設けたことを特徴とする、トウプリプレグの製造装置。
- 該加熱板が、通過する該トウプリプレグを該加熱板上に押さえつける角度となる位置に設けられていることを特徴とする請求項5に記載のトウプリプレグの製造装置。
- 該押さえつける角度が、該加熱板に進入前の該トウプリプレグと該加熱板上のトウプリプレグとの間の角度で表したとき、160°から178°の範囲内である請求項6に記載のトウプリプレグの製造装置。
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JP2017533983A (ja) * | 2014-10-24 | 2017-11-16 | ポルシェ アンデュストリ | 静電的方法により駆動されるストランド |
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