JP2004058449A - インクジェットヘッドの製造方法、インクジェットヘッド、インクジェットプリンタ及びインクジェット用電極 - Google Patents
インクジェットヘッドの製造方法、インクジェットヘッド、インクジェットプリンタ及びインクジェット用電極 Download PDFInfo
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Abstract
【解決手段】剪断モード型インクジェットヘッド用の圧電性基板2に設けられた複数の溝部203に、金属イオンと、該金属イオンの錯化剤と、還元剤とを含有する無電解メッキ液を反応させることによって、複数の溝部203に電極(メッキ膜206)を形成しインクジェットヘッド1を製造する。無電解メッキ液は、錯化剤の安定度定数(−logK)が1.0〜8.0で、かつ、錯化剤の濃度が0.1〜2.0mol/lであり、酸解離定数(pK)が3.0〜8.0である物質を含有している。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、剪断モード型インクジェットヘッド用の圧電性基板に設けられた複数の溝部に、無電解メッキ液を反応させることによって、前記複数の溝部に電極を形成しインクジェットヘッドを製造するインクジェットヘッドの製造方法、インクジェットヘッド、インクジェットプリンタ及びインクジェット用電極に関する。
【0002】
【従来の技術】
基材の表面に金属被膜を形成して電気的特性を付与する方法として、スパッタリング法、真空蒸着法、電解メッキ法、無電解メッキ法等が使用されている。無電解メッキ法は、溶液中の還元剤をメッキ触媒下で酸化し、このときに放出される電子により金属イオンを還元することによって、被メッキ物の表面にメッキ膜を形成するので、スパッタリング法、真空蒸着法、電解メッキ法に比べ、装置も比較的簡単で常圧下での工程であり、大量に生産でき、製造コストも低いことが知られている。
通常、無電解メッキ法は、析出させる金属の金属イオンと、金属イオンの錯化剤と、触媒の存在下で溶液中の金属イオンを金属元素に還元する還元剤と、その他、pH緩衝剤や安定化剤、界面活性化剤等を含む無電解メッキ液の入ったメッキ槽に、被メッキ物を浸漬し反応させることによって被メッキ物の表面にメッキ膜を形成している。
【0003】
このような無電解メッキ法を利用している一例としては、例えば、インクジェットプリンタの剪断モード型インクジェットヘッドに用いる圧電性基板への電極の設置、サーマルプリンタのサーマルヘッドの基板への発熱体の設置等が挙げられる。
剪断モード型インクジェットヘッドの一例としては、特開昭63−247051号に開示されているように、圧電性基板にインク圧力室用の溝部を切削し、各圧力室の側壁に電極を設け、インク圧力室側の電極に信号電圧を印加し、空気圧力室側の電極を接地して、インク圧力室側から空気圧力室側に電圧をかけることにより、側壁を剪断変形させてインク圧力室の圧力変化でインクを吐き出させる方式が挙げられる。
【0004】
この剪断モード型インクジェットヘッドに用いる圧電性基板は、複数の溝部と溝部につながる平面とを有する微細構造をしている。このため、無電解メッキ法で溝部の内側にメッキ膜(電極)を形成する場合、メッキ液中の金属イオンは溝入口付近から消費されてメッキ膜が形成されるとともに溝底へと拡散されていく。その結果、溝底付近では金属イオンの濃度が低くなり、逆に錯化剤や錯体の濃度は高くなる。そのため、溝入口付近ではメッキ膜の膜厚が厚く、溝底付近では膜厚が薄くなり、膜厚の均一なメッキ膜を得ることができないという問題がある。
このように溝部の側壁に形成したメッキ膜(電極)が不均一になった場合は、側壁の剪断変形が一定に生じなくなる危険があり、これに伴いインクの射出速度及び吐出量が一定でなくなり、印刷品質の低下が生じる危険があるため、剪断モード型インクジェットヘッドに用いる圧電性基板は、溝部の側壁部分と溝部につながる平面とに均一に電極層を形成するのは必須とされている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、例えば、特開昭62−10293号公報のように、物理的な方法によってメッキ液を攪拌して揺動させながらメッキ膜を形成することが開示されている。しかしながら、このようにメッキ液を攪拌させた場合、溝入口付近のメッキ液の揺動が速くなってしまう。無電解メッキは流速が速くなるに従いメッキ膜が析出しにくくなり、ついにはメッキ膜が析出しなくなることが知られている。そのため、溝入口付近でのメッキ膜の膜厚は薄く、溝底付近でのメッキ膜の膜厚は厚くなり、この場合も膜厚の均一なメッキ膜を形成することができない。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされてもので、圧電性基板に設けられた微細な溝部に膜厚の均一なメッキ膜(電極)を容易に形成することができ、また、これによりインクの射出速度及び吐出量を一定にでき、印刷品質の向上を図ることのできるインクジェットヘッドの製造方法、インクジェットヘッド、インクジェットプリンタ及びインクジェット用電極を提供することを課題としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、剪断モード型インクジェットヘッド用の圧電性基板に設けられた複数の溝部に、金属イオンと、該金属イオンの錯化剤と、還元剤とを含有する無電解メッキ液を反応させて、前記複数の溝部に電極を形成することによって、インクジェットヘッドを製造するインクジェットヘッドの製造方法であって、
前記無電解メッキ液は、前記錯化剤の安定度定数(−logK)が1.0〜8.0で、かつ、前記錯化剤の濃度が0.1〜2.0mol/lであり、酸解離定数(pK)が3.0〜8.0である物質を含有していることを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載のインクジェットヘッドの製造方法において、
前記無電解メッキ液は、前記錯化剤として、酢酸、りんご酸、エチレンジアミン、グリシン、乳酸、こはく酸、及び酒石酸のうちの少なくとも1つを含有することを特徴とする。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1に記載のインクジェットヘッドの製造方法において、
前記無電解メッキ液は、前記金属イオンとして少なくともニッケルイオンを含有し、前記還元剤として少なくともジメチルアミンボランを含有することを特徴とする。
【0010】
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの製造方法において、
前記還元剤の濃度と前記金属イオンの濃度の比(還元剤の濃度(mol/l)/金属イオンの濃度(mol/l))が、0.5以上2.0以下であることを特徴とする。
【0011】
請求項5の発明は、請求項4に記載のインクジェットヘッドの製造方法において、
前記還元剤の濃度と前記金属イオンの濃度の比(還元剤の濃度(mol/l)/金属イオンの濃度(mol/l))が、0.8以上1.5以下であることを特徴とする。
【0012】
請求項6の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの製造方法において、
前記無電解メッキ液中に酸化バナジウムを含有することを特徴とする。
【0013】
請求項7の発明は、請求項1〜6のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの製造方法において、
前記溝部の幅は5μm〜500μmであることを特徴とする。
【0014】
請求項8の発明は、請求項7に記載のインクジェットヘッドの製造方法において、
前記溝部の深さ/幅の比(アスペクト比)が0〜20であることを特徴とする。
【0015】
請求項9の発明は、請求項1〜8のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの製造方法によって製造されたことを特徴とする。
【0016】
請求項10の発明は、請求項9に記載のインクジェットヘッドを搭載したことを特徴とする。
【0017】
請求項11の発明は、剪断モード型インクジェットヘッド用の圧電性基板に設けられた複数の溝部に、金属イオンと、該金属イオンの錯化剤と、還元剤とを含有する無電解メッキ液を反応させることによって形成されるインクジェット用電極であって、
前記無電解メッキ液は、前記錯化剤の安定度定数(−logK)が1.0〜8.0で、かつ、前記錯化剤の濃度が0.1〜2.0mol/lであり、酸解離定数(pK)が3.0〜8.0である物質を含有していることを特徴とする。
【0018】
【発明の実施の形態】
まず、本発明に係るインクジェットヘッドの製造方法によって製造されるインクジェットヘッドの構成について図1、図2(a),(b)に基づいて説明する。
図1は、一部破断面を有する剪断モード型インクジェットヘッドの一例を示す概略斜視図である。
図1に示すように、剪断モード型インクジェットヘッド1は、下層圧電性基板201と上層圧電性基板202とを接合して形成された圧電性基板2と、天板3と、ノズル板4とを有している。
【0019】
圧電性基板2には、切削加工を施すことによりノズル板4側が開口し、反対側が閉塞している互いに平行な所定の長さを有する複数の溝部203と、溝部203の閉塞した側につながる平坦な面205と、溝部203を形成する側壁204とを有している。複数の溝部203は、交互にインク圧力室用の溝部203aと、空気圧力室用の溝部203bとを備えている。
【0020】
また、圧電性基板2の上面(溝部203)を覆うようにして第1天板304が設けられ、さらに、この第1天板304の上面を覆うようにして第2天板305が設けられている。これら第1天板304及び第2天板305は、平坦な面205の上面には設けられていない。
第2天板305には、インク供給管302からインクが供給されるインク溜301が設けられている。
インク溜301には、各溝部203に連通する各インク供給口303が形成されており、各インク供給口303より各インク圧力室用の溝部203aにインクが供給されるようになっている。このようにして各溝部203は、第1天板304とノズル板4とにより覆われることで複数の密閉されたチャネル(インク圧力室及び空気圧力室)が形成されるようになっている。
また、ノズル板4には、各側壁204の剪断変形に伴い、インク圧力室及び空気圧力室の圧力変化でインクを吐き出させる穴401が形成されている。
【0021】
図2(a)は、図1に示される圧電性基板の概略斜視図であり、図2(b)は、図2(a)のA−A’に沿った概略断面図である。
圧電性基板2は、下層圧電性基板201と上層圧電性基板202とを接合して形成され、これらの下層圧電性基板201と上層圧電性基板202とは、基板の厚さ方向に逆方向に分極されている。203cは溝部203の閉塞されている側の傾斜した面を有する底面を示し、平坦な面205とつながっている。
側壁204の全面には、側壁204を剪断変形させるために、電圧が印加されるメッキ膜(電極)206が形成されている。また、外部のプリント配線基板等への電気的接続のためのリード線接続部となる配線となるメッキ膜(配線)207が形成されている。メッキ膜(電極)206とメッキ膜(配線)207とは連続して形成されている。
【0022】
図2(a)では、分極化した圧電性基板2が、厚さ方向に分極が逆になるように接合され、溝部203の側壁204の全面にメッキ膜(電極)206が形成され、側壁204の上と下とで剪断変形させる場合を示しているが、溝部203の側壁204の上半分又は下半分だけを分極化した圧電性基板2の側壁204の全面にメッキ膜(電極)206を形成し、側壁204の上半分を剪断変形させる方法であっても構わない。
【0023】
図2(a)で示される構成の圧電性基板2の方が側壁204の上半分に電極を形成する場合よりも効率が良く、同じ電圧の場合、側壁204の剪断変形量が大きいので高い圧力を発生し、射出されたインクの飛翔速度が速いので、着弾ずれを少なくでき画質の大幅な向上が可能である。あるいは必要とする剪断変形量に対して電圧を小さくできるので剪断モード型インクジェットヘッド1の発熱を抑えることができる。
【0024】
圧電性基板2に使用する材料としては、PZT、PLZT等のセラミックスが挙げられ、主にPbOx、ZrOx、TiOxの混合微結晶体にソフト化剤又はハード化剤として知られる微量の金属酸化物、例えばNb、Zn、Mg、Sn、Ni、La、Cr等の酸化物を含むものが好ましい。
【0025】
PZTは、充填密度が大きいので圧電性定数が大きく、加工性が良いので好ましい。PZTは、焼成後、温度を下げると、急に結晶構造が変化して、原子がズレ、片側がプラス、反対側がマイナスという双極子の形の細かい結晶の集まりになる。こうした自発分極は方向がランダムで、極性を互いに打ち消しあっているので、更に分極処理が必要となる。
【0026】
分極処理は、PZTの薄板を電極で挟み、シリコン油中に漬けて、10〜35kv/cm程度の高電解を掛けて分極する。分極したPZTに分極方向に直角に電圧を掛けると、側壁が圧電滑り効果により、斜め方向にくの字形に剪断変形してインク室の容積が膨張するようになっている。
【0027】
圧電性基板2に形成された溝部203は、幅が5〜500μmであることが好ましく、深さが0より大きく2mm以下であることが好ましい。また、溝部の深さ/溝幅の比(アスペクト比)が0〜20であることが好ましい。ここで、幅とは、溝の幅の最小値を言い、深さとは、溝の深さの最大値を言う。
【0028】
圧電性基板2において、メッキ膜(電極)206を形成する部分とメッキ膜(配線)207を形成する部分とは、互いに形状の異なる部分であるが、両者に均等にメッキ層を形成することが好ましい。このために、メッキ液は全ての溝部203の内部と平坦な面205とに均等に供給することが好ましい。
【0029】
なお、第1天板304及び第2天板305の材料は、特に限定されず、例えば有機材料からなっても良いが、アルミナ、窒化アルミニウム、ジルコニア、シリコン、窒化シリコン、シリコンカーバイド、石英、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等が挙げられる。
ノズル板4を構成する基材としては、金属や樹脂が使用される。例えば、ステンレス、ポリイミド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン等が好ましく採用できる。特に好ましくはポリイミド樹脂で、Dupont社性:カプトンや宇部興産(株)製:ユービレックス等が寸法安定性、耐インク性、耐熱性等に優れているので好ましい。
【0030】
ここで、本発明のインクジェットヘッドの製造方法について説明する。
まず、図3(a)に示すように、分極方向の異なる下層圧電性基板201と上層圧電性基板202とをその分極方向を互いに反対に向けて上下に接合して圧電性基板2を構成する(図3(b)参照)。
これら下層圧電性基板201と上層圧電性基板202とを上下に接合する手段としては、エポキシ系接着剤等の接着剤を用いた接合を採用できるが、接合可能であれば特にこれに限定されない。接着剤を用いて接合する場合は、その接着剤層の硬化後の厚みは、1〜50μmの範囲が好ましい。
【0031】
次いで、図4(a)に示すように、圧電性基板2にフォトレジスト層を形成する(フォトレジストパターン形成工程)。
フォトレジストパターン形成工程においては、圧電性基板2の上面全面に液体レジストによるフォトレジスト膜を塗布、もしくは、ドライフィルムによるフォトレジスト膜を被覆した後、マスクをかけて露光現像し、これによりメッキ膜(電極)206とメッキ膜(配線)207とを形成しない部分にフォトレジストパターン208(図4(a)中ドットで示した部分を示す)を形成するものである。その形状は、図4(a)に示すものであり、溝部203の側壁204と溝部203につながる平坦な面205の一部が露出されたフォトレジストパターン208が形成されている。
【0032】
液体レジストとしては、例えばアルカリ可溶のノボラック樹脂、有機溶媒可溶のポリケイ皮酸ビニル、環化ゴム−ビスアジド等のフォトレジスト、メッキ用レジスト等が挙げられる。液体レジストを圧電性基板2の上面に被覆形成するには、スピンコートすることによって一定の厚みに塗布することが好ましい。スピンコートによると、一定の膜厚に精度良く塗設することができる。その後オーブンで塗布液中の溶剤を十分に乾燥させる。液体レジストの乾燥後の膜厚は、1〜100μmの範囲とすることが好ましい。
また、ドライフィルムとしては、例えばDupond社のFX−130等の一般に知られているドライフィルムタイプのフォトレジストを用いることができる。ドライフィルムを圧電性基板2の上面に被覆形成するには、専用のラミネーターを用いることができる。ドライフィルムの厚みとしては、10〜100μmの範囲とすることが好ましい。
【0033】
このように上面にフォトレジストパターン208が被覆形成された圧電性基板2に対し、上面から円盤状の砥石(ダイシングブレード)等の公知の切削機を用いて所定ピッチで互いに平行な複数列の溝部203を、例えば、幅40μm、深さ0.2mmで、アスペクト比5となるように形成する(図4(a)参照)。
【0034】
次に、メッキ膜(電極)206とメッキ膜(配線)207とを形成する箇所(露出された溝部203の側壁204と溝部203につながる平坦な面205の一部)に触媒核を形成する(メッキ前処理工程)。
メッキ前処理工程としては、まず、圧電性基板2の表面を脱脂処理する。この脱脂処理にあたっては、圧電性基板2を、60℃に加熱した0.1%ノニオン系界面活性剤に3分間浸漬して洗浄した後、表面に付着している汚れ、油分を取り除く。
【0035】
次いで、適当な酸を用いて酸化物被膜を溶解除去するエッチング処理を行う。このエッチング処理によって、被覆されるメッキ膜の密着性を向上させる。例えば、HBF40.1%、HNO31.0%水溶液に圧電性基板2を1分間浸漬する。
【0036】
さらに、還元剤の酸化を開始させるために、触媒金属を用いて圧電性基板2の表面の触媒化・活性化処理を行う。例えば、圧電性基板2を、濃度0.1%の塩化第一スズ水溶液に浸漬して塩化第一スズを吸着させ(センシタイジング)、続いて濃度0.01%の塩化パラジウム水溶液に浸漬して塩化パラジウムを吸着させ(アクチベーティング)、先に吸着した塩化第一スズと塩化パラジウムの間で酸化還元反応(SnCl2+PdCl2→Pd+SnCl4)を起こさせて、金属パラジウムPdを形成する。この金属パラジウムが無電解メッキの触媒となる。
【0037】
なお、触媒化・活性化処理は、上述した方法に限らず、例えば、塩化スズで保護したパラジウムコロイドなどの触媒金属を用い、塩化スズのスズ原子をカップリング剤に配位結合させて、圧電性基板2の表面に前記触媒金属を結合させて触媒化処理を行う。そして、前記塩化スズで保護したパラジウムコロイドから塩化スズを剥離してパラジウム(触媒金属)を露出させて活性化処理を行っても良い。
【0038】
上述したようにメッキ前処理が終了後、メッキ触媒が付与された圧電性基板2を、無電解メッキ液の入ったメッキ槽に浸漬し、所定の膜厚になるまでメッキ処理を行う。メッキ膜形成後、圧電性基板2を取り出し、純水で洗浄した後、窒素ガスで水分を飛ばして乾燥させる。
以上の処理により、圧電性基板2にメッキ膜(電極)206、メッキ膜(配線)207を形成する。メッキ膜206、207の膜厚としては、例えば、0.1〜10μmが好ましい。
【0039】
前記無電解メッキ液は、金属イオンと、金属イオンと錯形成する錯化剤と、金属イオンを還元することによってメッキ膜206,207を形成する還元剤とを含有している。
本発明によりメッキされる金属イオンは、自己触媒的にメッキされる金属、例えば、ニッケル、コバルト、銅、金等があるが、ニッケルや銅が好ましく、特に好ましくはニッケルである。
ニッケルを用いた無電解メッキによる電極形成においては、Ni−Pメッキ又はNi−Bメッキを単独で使用しても良いし、あるいはNi−PとNi−Bを重層しても良い。Ni−PメッキはP含量が高くなると電気抵抗が増大するので、P含量は1〜数%程度が良い。Ni−BメッキのB含量は普通1%以下なので、Ni−PよりNi含量が多く、電気抵抗が低く、かつ外部配線との接続性が良いため、Ni−PよりNi−Bの方が好ましいが、Ni−Bは高価なのでNi−PとNi−Bを組み合わせることも好ましい。
【0040】
金属イオンは、金属塩、例えば塩化物、硫酸塩又は硝酸塩の形態で溶液中に含有され、特に硫酸塩の形態で溶液中に含有されることが好ましい。
金属イオンがニッケルイオンである場合のニッケルイオン源としては、例えば、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、次亜リン酸ニッケル、炭酸ニッケル等を用いることができる。銅イオン源としては、例えば、硫酸銅、塩化銅、水酸化銅等を用いることができる。また、コバルトイオン源としては、例えば、塩化コバルト、グルコン酸コバルト等を用いることができる。
また、メッキ液中の金属イオンの濃度は、0.01mol/l〜0.5mol/lであることが好ましい。金属イオンの濃度がこの範囲よりも低い場合は、メッキ析出速度が遅く、十分なメッキ膜を形成することができず、逆に高い場合には、被メッキ物への金属の析出速度が速く、形成されるメッキ膜の表面が粗くなるためである。
【0041】
還元剤は、金属イオンの酸化還元電位よりも低い酸化還元電位を持っていることと、溶液中における還元剤の酸化速度が小さく、触媒活性な表面上では大きな酸化速度を持つことが好ましい。
このような還元剤としては、例えば、次亜リン酸塩、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、水酸化ホウ素アンモニウム、ジメチルアミンボラン等が挙げられる。特に、次亜リン酸塩はニッケル及びコバルトに対して使用可能であり、ホルムアルデヒド又はパラホルムアルデヒドは銅に対して使用可能である。水酸化ホウ素アンモニウム又はジメチルアミンボランは、銅、ニッケル、コバルトに対して使用可能であるので特に好ましい。
【0042】
メッキ液中の還元剤の濃度は、還元剤に反応させる触媒表面と接触する金属イオンを還元するのに十分な濃度である必要がある。すなわち、還元剤の濃度と金属イオンの濃度の比(還元剤の濃度(mol/l)/金属イオンの濃度(mol/l))が、0.5以上2.0以下であることが好ましく、0.8以上1.5以下であることがより好ましい。
この濃度比は、反応中のメッキ液中の濃度比であり、反応時間の100%がこの比であることが最も好ましいが、50%以上であれば、インクジェットヘッドとしての性能に大きな影響はない。
前記濃度比が、0.5よりも小さい場合は、還元反応が十分に起こらず十分なメッキ膜の析出が得にくいためであり、逆に2.0よりも大きい場合は、不均化反応の進行を促進し、メッキ液中に金属粉が多く析出することとなるためである。
【0043】
錯化剤は、メッキ液中で遊離の金属イオン濃度を低下させることによって沈殿生成を防止し、安定な可溶性錯体を形成する。この錯化剤の安定度定数(−logK)は1.0〜8.0であることが好ましい。特に、安定度定数が3.0〜4.0であることが好ましい。
ここで、安定度定数を1.0〜8.0としたのは、安定度定数が1.0未満であると、メッキ液中では錯形成がほとんどされておらず不安定な状態となっており、遊離した金属イオンの濃度は高いので、メッキ反応速度が過度に速くなる。すなわち、このようなメッキ液に複数の溝部203を有する圧電性基板2を浸漬すると、溝入口付近から速やかに金属イオンがメッキ膜を形成するとともに溝底付近へと拡散していくので、溝底付近では金属イオンの濃度が低くなり、これによって溝底付近に形成されるメッキ膜の膜厚が溝入口付近のメッキ膜に比して薄くなり、膜厚の均一なメッキ膜を得ることができない。
一方、安定度定数が8.0を越えると、メッキ液中において錯体の濃度が高く、遊離した金属イオンの濃度が低くなるので、メッキ反応速度が遅くなり、実用的なメッキ液にならない。
上述した安定度定数を有する錯化剤としては、例えば、酢酸、乳酸、マロン酸、りんご酸、しゅう酸、こはく酸、酒石酸、チオグリコール酸、アンモニア、トリエタノールアミン、グリシン、アラニン、グルタミン酸、エチレンジアミン等が挙げられる。
【0044】
メッキ液中の錯化剤の濃度は、金属を溶液中に溶解して維持するのに十分な量でなければならず、溶液中に含有される金属イオンのモル量の、約1〜20倍がより好ましい。0.1〜2.0mol/lであることが好ましく、特に、0.2〜1.2mol/lであることが好ましい。
ここで、錯化剤の濃度を0.1〜2.0mol/lとしたのは、濃度が0.1mol/l未満であると、メッキ液中で遊離した金属イオンの濃度が高く、メッキ析出速度が過度に速くなる。すなわち、上述したようにメッキ液を圧電性基板2に浸漬すると、溝入口付近でのメッキ膜の膜厚が厚く、溝底付近での膜厚は薄くなり、結果として膜厚の均一なメッキ膜を得ることができない。一方、2.0mol/lを越えると、錯形成する金属イオンの濃度が高く、メッキ液中で遊離した金属イオンの濃度が低いので、メッキ析出速度が遅く、実用的なメッキ液にならない。
【0045】
また、無電解メッキでは、反応の進行に伴って金属イオンが減少するとともに、還元剤の酸化反応によって水素イオン濃度が増大し、メッキ液のpHが低下して酸性化する。これにより、メッキ反応速度が遅くなり、被覆されるメッキ膜の物性に影響を及ぼす。これらの欠点を防止するために、無電解メッキ液中に、酸解離定数(pK)が3.0〜8.0である物質、いわゆるpH緩衝剤を含有させることが好ましい。特に、酸解離定数が5.0〜7.1であることが好ましい。
ここで、酸解離定数を3.0〜8.0としたのは、酸解離定数が3.0未満であると、メッキ液中のpHを十分に上げることができず、メッキ反応速度が遅くなりpH緩衝剤としての作用を得ることができないためである。
このような物質としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、アクリル酸、トリメチル酢酸、こはく酸、ギ酸、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、イタコン酸、グリコール酸、乳酸、サリチル酸、酒石酸、クエン酸等が挙げられる。
なお、酢酸、乳酸、こはく酸、マロン酸、酒石酸等は、pH緩衝剤として作用する以外に上述した錯化剤としての作用も兼ねる。
【0046】
したがって、錯化剤の安定度定数及び濃度、酸解離定数を上述した範囲とすることで、メッキ液中で金属イオンと錯体とが程良く解離した状態となり、圧電性基板2を浸漬した際に、溝入口付近から穏やかに金属イオンがメッキ膜を形成するとともに溝底付近へと徐々に拡散していき、溝底付近までメッキ膜が形成される。よって、溝入口付近と溝底付近とで膜厚の均一なメッキ膜を得ることが可能となる。これにより、圧電性基板2に設けられた複数の溝部203の側壁204の剪断変形量を全て一定に合わせることができ、インクの射出速度及び吐出量が安定し、印刷品質の向上を図ることができる。
また、このように、錯化剤の安定度定数及び濃度、酸解離定数をコントロールすることによって、従来のように物理的な方法で攪拌することなく、メッキ液に圧電性基板2を浸漬することによって容易に膜厚の均一なメッキ膜を形成することができる。さらに、形成されるメッキ膜も緻密で高機能な膜とすることができる。
【0047】
また、本発明の無電解メッキ液に含有されるその他の添加物としては、無電解メッキ液を安定化させるための安定剤、メッキ膜の性状を改良するための改良剤が挙げられる。
安定剤は、還元反応が被メッキ物の表面以外で起こったり、メッキ液内に粉末状の金属微粒子が析出することによってメッキ液が不安定となりメッキ液が分解するのを抑制し、緻密なメッキ膜を形成するために添加される。安定剤としては、例えば、チオ尿素、鉛イオン、酸化バナジウム等を使用することができる。特に酸化バナジウムを用いることが望ましい。
改良剤としては、メッキ膜に光沢を与える光沢剤や、ぬれ性を良くする界面活性剤(湿潤剤)が挙げられる。この界面活性剤には、例えば、アニオン系のアルキル硫酸エステル塩等を使用することができる。
【0048】
なお、無電解メッキ処理により析出させたメッキ膜206、207上に、必要に応じて更に電解メッキや置換メッキを施しても良い。この電解メッキや置換メッキには、無電解メッキと異なる金属を用いることもできる。
【0049】
無電解メッキ処理の後、図4(b)に示すように、フォトレジストパターン208をアルカリ性溶液で剥離し(フォトレジストパターン剥離工程)、溝部203の側壁204の内面にメッキ膜(電極)206と溝部203につながる平坦な面205の一部にメッキ膜(配線)207を形成する。
図4(b)中のドットで示した部分は、メッキ膜(電極)206とメッキ膜(配線)207とが形成された箇所を示す。
なお、このようなマスクを用いずに、各側壁204の上面に析出したメッキ膜をエッチングや研磨等で後から取り除くようにしても良い。
【0050】
次いで、圧電性基板2の上面に第1天板304を接着して(図4(c)参照)、ダイシングソーにより中央部で2つに切断し(図5(a)参照)、前側端面にノズル板4を接着する(図5(b)参照)。図5(b)中、ノズル板4に形成された穴401は図示を省略した。さらに、第1天板304の上面に第2天板を接着する(図示しない)。次いで、圧電性基板2の底面に各電極206に電圧を印加するための駆動制御基板に設けられたフレキシブルプリント回路(FPC)(図示しない)を、異方性導電フィルム(ACF)(図示しない)を用いて電極206、配線207と電気的に接続して図1に示すインクジェットヘッド1を構成する。
【0051】
なお、上記製造されたインクジェットヘッド1は、印刷装置として搭載することによってインクジェットプリンタに使用することが可能である。
【0052】
【実施例】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
以下に示す方法に従って、まず、溝部を有する圧電性基板を作製し、圧電性基板に前処理を行った後、作製した無電解メッキ液によってメッキ処理を施しメッキ膜(電極)を形成した。そして、このメッキ膜付き圧電性基板を使用してヘッドの状態に構成した。
【0053】
(基板の作製)
PZT圧電性基板を、洗浄剤バンライズD20(常磐化学工業社製)7%希釈水で50℃、1分間超音波洗浄した。その後、純水で1分間超音波をかけてすすぎ、更に純水の流水ですすぎ、窒素ガスで乾燥した。次いで、PZT基板の上面にスピンコーターで感光性レジストPMER−LA900PM(東京応化社製)を平均膜厚20μm塗布してフォトレジストパターンを形成した。
次いで、このフォトレジストパターン付きPZT基板にダイシングソー(DISCO社製 DAD561)で両端部に切削加工し溝部を形成した。溝部は、幅40〜80μm、深さ0〜0.8mm、アスペクト比2〜20とし、下記表1に示すような溝部の種類に応じてヘッド1〜4を作製した。さらに、これらヘッド1〜4を、後述する本発明の実施例1〜11、比較例1、2の無電解メッキ液に浸漬するために、11枚ずつ用意した。また、切削加工で発生したPZT基板(ヘッド1〜4)の削り屑を超音波洗浄機で30秒純水洗浄した。
【表1】
(脱脂処理)
PZT基板の切削粉や指紋、汚れを取るためにアルカリ洗浄剤エースクリーンA−220により脱脂、洗浄を行い、純水で十分にすすぎを行った。
(エッチング及び鉛抜き処理)
HBF40.1%、HNO31.0%水溶液に1分間浸漬し、PZT基板のエッチングと表面の鉛除去を行った。
(触媒化・活性化処理)
センシタイジング−アクチベーティング処理という塩化スズ塩酸溶液と塩化パラジウム溶液による2段階活性化で処理を行い、PZT基板の表面に金属パラジウムを付着させた。以下に示す組成のセンシタイジング液に浸漬後は純水で十分にすすぎを行い、アクチベーター液に浸漬後も純水で十分にすすぎを行った。
センシタイザー液:SnCl2 10g/l、HCl 5cc/l
アクチベーター液:PdCl2 0.5g/l
【0054】
(無電解メッキ液の作製)
以下に示すように、本発明の実施例1〜実施例11、比較例1、2の無電解メッキ液を作製した。
[本発明の実施例1]
金属塩として硫酸ニッケルを0.1mol/l、錯化剤としてりんご酸塩0.67mol/l及び酢酸1mol/l、還元剤としてジメチルアミンボラン0.05mol/lを使用して無電解メッキ液を作製した。
[本発明の実施例2]
金属塩として硫酸ニッケルを0.1mol/l、錯化剤としてりんご酸塩0.67mol/l、緩衝剤としてホウ酸0.5mol/l、還元剤としてジメチルアミンボラン0.05mol/lを使用して無電解メッキ液を作製した。
[本発明の実施例3]
金属塩として硫酸ニッケルを0.1mol/l、錯化剤としてグリシン0.5mol/l、緩衝剤としてホウ酸0.5mol/l、還元剤としてジメチルアミンボラン0.05mol/lを使用して無電解メッキ液を作製した。
[本発明の実施例4]
金属塩として硫酸ニッケルを0.1mol/l、錯化剤としてエチレンジアミン0.5mol/l、緩衝剤としてホウ酸0.5mol/l、還元剤としてジメチルアミンボラン0.05mol/lを使用して無電解メッキ液を作製した。
[本発明の実施例5]
金属塩として硫酸ニッケルを0.1mol/l、錯化剤としてこはく酸塩0.67mol/l、緩衝剤としてホウ酸0.5mol/l、還元剤としてジメチルアミンボラン0.05mol/lを使用して無電解メッキ液を作製した。
[本発明の実施例6]
金属塩として硫酸ニッケルを0.1mol/l、錯化剤として酢酸を1.5mol/l、還元剤としてジメチルアミンボラン0.05mol/lを使用して無電解メッキ液を作製した。
[本発明の実施例7]
金属塩として硫酸ニッケルを0.1mol/l、錯化剤としてりんご酸塩0.67mol/l、緩衝剤としてホウ酸0.5mol/l、還元剤としてジメチルアミンボラン0.1mol/lを使用して無電解メッキ液を作製した。
[本発明の実施例8]
金属塩として硫酸ニッケルを0.1mol/l、錯化剤としてりんご酸塩0,67mol/l、緩衝剤としてホウ酸0.5mol/l、還元剤としてジメチルアミンボラン0.05mol/lを使用し、その他、酸化バナジウム0.1mg/lを含有した無電解メッキ液を作製した。
[本発明の実施例9]
金属塩として硫酸ニッケルを0.1mol/l、錯化剤としてりんご酸塩0.67mol/l及び酢酸1mol/l、還元剤としてジメチルアミンボラン0.1を使用し、その他、酸化バナジウム0.1mg/lを含有した無電解メッキ液を作製した。
[本発明の実施例10]
金属塩として硫酸ニッケルを0.1mol/l、錯化剤として乳酸0.67mol/l、緩衝剤としてホウ酸0.5mol/l、還元剤としてジメチルアミンボラン0.1mol/lを使用して無電解メッキ液を作製した。
[本発明の実施例11]
金属塩として硫酸ニッケルを0.1mol/l、錯化剤として酒石酸0.5mol/l、緩衝剤としてホウ酸0.5mol/l、還元剤としてジメチルアミンボラン0.1mol/lを使用して無電解メッキ液を作製した。
[比較例1]
金属塩として硫酸ニッケルを0,1mol/l、錯化剤としてグリシン0.5mol/l、還元剤としてジメチルアミンボラン0.05mol/lを使用して無電解メッキ液を作製した。
[比較例2]
金属塩として硫酸ニッケルを0.1mol/l、錯化剤としてクエン酸0.5mol/l、還元剤としてジメチルアミンボラン0.1mol/lを使用して無電解メッキ液を作製した。
【0055】
(無電解メッキ処理)
前記活性化処理を行い触媒核であるPdが吸着したPZT基板(ヘッド1〜4)を、溝部の開口部が上側を向くように治具にセットし、治具ごと作製した無電解メッキ液(本発明の実施例1〜11、比較例1、2)の入ったメッキ槽に静かに浸漬し、PZT基板を全く動かすことなく静置してメッキを行った。なお、無電解メッキ液の浴温は60℃、pH6.0であり、形成されるメッキ膜の厚みが3μmとなる条件(時間)を予め求めておき、その条件でメッキを行った。
メッキ終了後、PZT基板を取り出し、純水で十分にすすいだ後、窒素ガスで水分を飛ばして乾燥し、超音波洗浄機でアセトンによりフォトレジストパターンを剥離した。
【0056】
(メッキ膜の評価)
乾燥したメッキ膜PZT基板(ヘッド1〜4)をダイシングソーで2つに切断し、断面(ノズル板貼り付け面)を観察し、溝入口付近(図2(a)の点a1〜anで示す点)の膜厚の平均と、底部(図2(a)の点b1〜bnで示す点)の膜厚の平均の比を測定し、その結果を表2に示した。
また、メッキの析出状態を確認した後、保護膜製膜工程を行い、フレキシブルプリント回路(FPC)を、異方性導電フィルム(ACF)を用いて電極、配線と電気的に接続し、インクを射出できるヘッドの状態にして射出試験を行った。射出試験では射出安定性を測定し、その結果を表2に示した。なお、ヘッド4に関しては射出試験を行わなかった。
評価基準
・射出安定性:以下の条件で射出速度を測定し、全ノズルにおける射出速度のばらつきを評価した。ここで、溝部内の電極が底部まで十分に形成されていない場合は、射出電圧の波形のなまりや壁の変形が不均一なため、インク液滴の射出速度にばらつきを与える。
インク…油系ダミーインク(鉱物油(飽和炭化水素))2種を用い粘度10.0cPsとなるように調整したもの。
射出条件…各ヘッドの液適量を、ヘッド1を5pl、ヘッド2を15pl、ヘッド3を20plとし、射出速度(初速)8m/secとなるように各ヘッド1〜4を作製し、駆動周波数7.0kHzで射出を行った。
・評価
○…全ノズル射出 射出速度が±10%未満
×…全ノズル射出 射出速度が±10%以上
【0057】
【表2】
表2の結果より、錯化剤の安定度定数及び錯化剤の濃度が上述した範囲で、かつ、酸解離定数が上述した範囲の物質を含有する本発明の実施例1〜11においては、アスペクト比を0〜20に変化させた場合でも、溝入口付近と底部とにおけるメッキ膜の膜厚比がほぼ1に近いことから、ほぼ一定の膜厚でメッキ膜が形成されたことがわかる。また、射出速度も全ノズルにおいて±10%未満となり、射出速度が安定していることがわかる。
一方、酸解離定数が上述した範囲の物質を含有していないメッキ液を使用した比較例1、2においては、アスペクト比0〜20に変化させた場合、メッキ膜の膜厚比がほぼ0に近いことから、溝入口付近と底部とでは膜厚の均一なメッキ膜が形成されなかったことがわかる。また。射出速度も全ノズルにおいて±10%以上となり、射出速度が不安定であることがわかる。
また、特に、酸化バナジウムを添加した本発明の実施例8、9においては、膜厚比が1に極めて近く、その効果が確認された。
【0058】
【発明の効果】
本発明によれば、無電解メッキ液は、錯化剤の安定度定数(−logK)が1.0〜8.0で、かつ、錯化剤の濃度が0.1〜2.0mol/lであり、酸解離定数(pK)が3.0〜8.0である物質を含有しているので、金属イオンと錯体とが程良く解離した状態となり、溝入口付近から穏やかにメッキ膜が形成されて、圧電性基板の設けられた微細な溝部に膜厚の均一なメッキ膜(電極)を容易に形成することができる。また、これによりインクの射出速度及び吐出量を一定にでき、印刷品質の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】一部破断面を有する剪断モード型インクジェットヘッドの一例を示す概略斜視図である。
【図2】(a)は、図1の圧電性基板の概略斜視図、(b)は、(a)のA−A’に沿った概略断面図である。
【図3】(a)、(b)は、圧電性基板の作製を示す概略斜視図である。
【図4】(a)は、フォトレジストパターンが形成された圧電性基板の概略斜視図、(b)は、フォトレジストパターンを剥離した後の圧電性基板の概略斜視図、(c)は、天板が接着された圧電性基板の概略斜視図である。
【図5】(a)は、圧電性基板の切断を示す概略斜視図、(b)は、ノズル板が接着された圧電性基板の概略斜視図である。
【符号の説明】
1 剪断モード型インクジェットヘッド
2 圧電性基板
201 下層圧電性基板
202 上層圧電性基板
203 溝部
204 側壁
205 平坦な面
206 メッキ膜(電極)
207 メッキ膜(配線)
3 天板
301 インク溜
302 インク供給管
4 ノズル板
Claims (11)
- 剪断モード型インクジェットヘッド用の圧電性基板に設けられた複数の溝部に、金属イオンと、該金属イオンの錯化剤と、還元剤とを含有する無電解メッキ液を反応させて、前記複数の溝部に電極を形成することによって、インクジェットヘッドを製造するインクジェットヘッドの製造方法であって、
前記無電解メッキ液は、前記錯化剤の安定度定数(−logK)が1.0〜8.0で、かつ、前記錯化剤の濃度が0.1〜2.0mol/lであり、酸解離定数(pK)が3.0〜8.0である物質を含有していることを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。 - 請求項1に記載のインクジェットヘッドの製造方法において、
前記無電解メッキ液は、前記錯化剤として、酢酸、りんご酸、エチレンジアミン、グリシン、乳酸、こはく酸、及び酒石酸のうちの少なくとも1つを含有することを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。 - 請求項1に記載のインクジェットヘッドの製造方法において、
前記無電解メッキ液は、前記金属イオンとして少なくともニッケルイオンを含有し、前記還元剤として少なくともジメチルアミンボランを含有することを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。 - 請求項1〜3のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの製造方法において、
前記還元剤の濃度と前記金属イオンの濃度の比(還元剤の濃度(mol/l)/金属イオンの濃度(mol/l))が、0.5以上2.0以下であることを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。 - 請求項4に記載のインクジェットヘッドの製造方法において、
前記還元剤の濃度と前記金属イオンの濃度の比(還元剤の濃度(mol/l)/金属イオンの濃度(mol/l))が、0.8以上1.5以下であることを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。 - 請求項1〜5のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの製造方法において、
前記無電解メッキ液中に酸化バナジウムを含有することを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。 - 請求項1〜6のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの製造方法において、
前記溝部の幅は5μm〜500μmであることを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。 - 請求項7に記載のインクジェットヘッドの製造方法において、
前記溝部の深さ/幅の比(アスペクト比)が0〜20であることを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。 - 請求項1〜8のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの製造方法によって製造されたことを特徴とするインクジェットヘッド。
- 請求項9に記載のインクジェットヘッドを搭載したことを特徴とするインクジェットプリンタ。
- 剪断モード型インクジェットヘッド用の圧電性基板に設けられた複数の溝部に、金属イオンと、該金属イオンの錯化剤と、還元剤とを含有する無電解メッキ液を反応させることによって形成されるインクジェット用電極であって、
前記無電解メッキ液は、前記錯化剤の安定度定数(−logK)が1.0〜8.0で、かつ、前記錯化剤の濃度が0.1〜2.0mol/lであり、酸解離定数(pK)が3.0〜8.0である物質を含有していることを特徴とするインクジェット用電極。
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JP2017071121A (ja) * | 2015-10-07 | 2017-04-13 | エスアイアイ・プリンテック株式会社 | 液体噴射ヘッドの製造方法 |
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-
2002
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