JP2004106380A - 剪断モード型インクジェットヘッド用圧電性基盤及び剪断モード型インクジェットヘッド用圧電性基盤の電極形成方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】剪断モード型インクジェットヘッドを小型化でき、生産性に優れ、低コストの、吐出インク滴を安定にする高密度の圧電性基盤の提供。
【解決手段】複数の溝と、該溝の内面に設けられた電圧を印加する印加用電極と、該印加用電極に接続された配線用電極とを有する剪断モード型インクジェットヘッド用圧電性基盤において、該印加用電極と該配線用電極とが無電解ニッケル・硼素メッキ方法で形成された比抵抗値が2×10−5〜3×10−5Ωcmを有する単層ニッケル・硼素合金メッキ被膜であることを特徴とする剪断モード型インクジェットヘッド用圧電性基盤。
【選択図】 図1
【解決手段】複数の溝と、該溝の内面に設けられた電圧を印加する印加用電極と、該印加用電極に接続された配線用電極とを有する剪断モード型インクジェットヘッド用圧電性基盤において、該印加用電極と該配線用電極とが無電解ニッケル・硼素メッキ方法で形成された比抵抗値が2×10−5〜3×10−5Ωcmを有する単層ニッケル・硼素合金メッキ被膜であることを特徴とする剪断モード型インクジェットヘッド用圧電性基盤。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、インクジェットプリンタに使用される剪断モード型インクジェットヘッド用圧電性基盤及び剪断モード型インクジェットヘッド用圧電性基盤の印加用電極および配線用電極の形成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、インクジェットプリンタに使用されるインクジェットヘッドの動作方式には、バブルジェット(R)方式とインク吐出方式とがある。前者のバブルジェット(R)方式は、サーマルヘッドと同様な構成の発熱素子を有し、この発熱素子からの熱エネルギーによりインクの膜沸騰による急激な体積変化によりノズルからインクを吐出させるものである。また、後者のインク吐出方式は、インク圧力室に圧電素子を備えた振動板を有しており、この振動板によるインク圧力室の圧力変化でインクを吐出させるものである。
【0003】
このインク吐出方式に基づくインクジェットヘッドの一例として、基盤に複数本の溝を互いに平行に形成し、これらの溝を仕切る側壁に印加用電極と溝につながる平面に配線用電極とを形成するとともに溝を閉塞してその溝の内部をインク圧力室とし、このインク圧力室に小径のノズル孔を連通し、印加用電極に印加された電圧パルスにより側壁を剪断変形させる基盤を使用し、この剪断変形によりインク圧力室内の圧力を変化することによりインクを吐出させるようにしたものがある。
【0004】
この様な基盤を使用しインク圧力室を剪断変形させインクを吐出する方式のインクジェットヘッドを剪断モード型インクジェットヘッドと言い(例えば、特許文献1参照。)、本発明では剪断モード型インクジェットヘッドに使用する基盤を剪断モード型インクジェットヘッド用圧電性基盤(以下、単に圧電性基盤という)と称す。圧電性基盤は、複数の溝部と溝部につながる平面とを有する微細構造をしている。溝の構造の一例としては、溝部分の幅は80μm、深さは400μm、溝部分の長さは100mmが挙げられる。
【0005】
最近では、得られる画質の高精緻化の要求に伴い、多くのインク滴を吐出する溝(インク圧力室)を300〜600本有する高密度の圧電性基盤が知られている。
【0006】
圧電性基盤の溝の側壁に設けられた印加用電極および印加用電極につながる配線用電極は、スパッタリング方法、真空蒸着方法、無電解メッキ方法などで形成された金属被膜である。金属被膜を形成する方法の中で無電解メッキ方法はスパッタリング方法、真空蒸着方法に比べ装置が比較的安価で、メッキ処理液の化学反応により金属被膜を形成させ、常圧下での工程で大量に生産できるため製造コストも低く、導電性の低い基材にも金属被膜の形成が可能であることから圧電性基盤の印加用電極および配線用電極の形成に使用されている。
【0007】
高密度の圧電性基盤の溝の側壁に設けられる印加用電極は、1)薄膜であること、2)低い電気抵抗値を有していることが要求されている。
【0008】
印加用電極が薄膜であることの必要性としては次の理由によるものである。高密度圧電性基盤として、インクジェットヘッドを大きくすることなく、多くのインク滴を吐出するには、限られた大きさの中でより多くの一定の容積を有した溝(インク圧力室)を形成することが必要であり、このために溝の側壁の印加用電極を薄膜にすることが有効な手段としてあげられる。
【0009】
印加用電極が低い電気抵抗値を有していることの必要性としては次の理由によるものである。圧電性基盤に設けられた溝(インク圧力室)の側壁を剪断変形させるために高電圧を印加せねばならず、高電圧を印加することで側壁が熱を持つようになる。この結果、インク圧力室内のインクが加熱されることで低粘度になり一定のインク量、一定の大きさのインク滴をノズルの穴より吐出させることが困難となる。側壁の温度上昇を抑えるためには、圧電性基盤の溝(インク圧力室)の側壁に形成された、印加用電極(金属メッキ被膜)の電気抵抗値を出来るだけ低くすることで印加電圧を低くすることができ、これにより温度上昇を抑えることが可能となる。
【0010】
圧電性基盤の溝の側壁に形成された印加用電極および印加用電極につながる配線用電極に使用されている金属被膜としては、無電解メッキ方法により形成された、ニッケル(Ni)・硼素(B)合金メッキ被膜、ニッケル(Ni)・リン(P)合金メッキ被膜等が知られている。Ni・B合金メッキ被膜は、Ni・P合金メッキ被膜よりも低い比抵抗値を有しているのであるが、無電解メッキ方法で薄膜で単層のNi・B合金メッキ被膜を形成する場合、安定した薄膜の単層が得られないため、目標とする低い電気抵抗値を得るため、Ni・B合金メッキ被膜を厚くして対応を取る必要がある。
【0011】
しかしながら、単にNi・B合金メッキ被膜を厚くした場合は、Ni・B合金メッキ被膜が厚くなるほど圧電性基盤の溝の側壁の剪断変形に伴う引っ張り応力にNi・B合金メッキ被膜が耐えられなくなり、Ni・B合金メッキ被膜が剥がれる場合が発生するので、電気抵抗値を低く抑えるために次の方法で対応していることが知られている。
【0012】
例えば、圧電性基盤の溝の側壁にNi・B合金メッキ被膜と逆方向の圧縮応力を持つNi・P合金メッキ被膜の上にNi・B合金メッキ被膜を積層することでNi・B合金メッキ被膜の欠点を補って、電気抵抗値を低く抑える技術が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0013】
しかしながら、特許文献2に開示されている技術は印加用電極および配線用電極を形成するために金属メッキ被膜を2回に分けて積層しなければならないため生産性が劣る欠点を有している。
【0014】
又、溝の側壁に形成する印加用電極として、無電解メッキ法によりNiメッキ被膜を形成した後、電解メッキ法により金(Au)メッキ被膜を形成し、積層被膜にすることで電気抵抗値を低く抑える技術が知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【0015】
しかしながら、特許文献3に開示されている技術は印加用電極および配線用電極を形成するために金属メッキ被膜を2回に分けて積層しなければならないため生産性が劣り、Auメッキ被膜を形成するためコストが高くなる欠点を有している。
【0016】
上記の様に高密度用の圧電性基盤の溝の側壁に設けられる印加用電極(金属メッキ被膜)は、低電気抵抗値を有し、且つ薄膜であることが要求されているのであるが未だ十分な対応がとられていないのが現状である。これらの状況から、圧電性基盤の高密度対応のために剪断モード型インクジェットヘッドを大きくすることなく、生産性を落とさず、コストを上げないで、吐出インク滴を安定にする圧電性基盤の開発が望まれている。
【0017】
【特許文献1】
特開昭63−247051号公報
【0018】
【特許文献2】
特開平8−281957号公報
【0019】
【特許文献3】
特開2000−37869号公報
【0020】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記状況に鑑みなされたもので、その目的は剪断モード型インクジェットヘッドを小型化でき、生産性に優れ、低コストの、吐出インク滴を安定にする高密度の圧電性基盤を提供することである。
【0021】
【課題を解決するための手段】
上記目的は、下記の構成により達成された。
【0022】
1)複数の溝と、該溝の内面に設けられた電圧を印加する印加用電極と、該印加用電極に接続された配線用電極とを有する剪断モード型インクジェットヘッド用圧電性基盤において、該印加用電極と該配線用電極とが無電解ニッケル・硼素メッキ方法で形成された比抵抗値が2×10−5〜3×10−5Ωcmを有する単層ニッケル・硼素合金メッキ被膜であることを特徴とする剪断モード型インクジェットヘッド用圧電性基盤。
【0023】
2)前記溝は、幅が10〜300μm、アスペクト比が3〜10の部分を有していることを特徴とする1)に記載の剪断モード型インクジェットヘッド用圧電性基盤。
【0024】
3)前記単層ニッケル・硼素合金メッキ被膜の厚さが1〜5μmであることを特徴とする1)に記載の剪断モード型インクジェットヘッド用圧電性基盤。
【0025】
4)複数の溝と、該溝につながる平坦な面とを有する剪断モード型インクジェットヘッド用圧電性基盤において、前記溝の側壁及び溝につながる平坦な面に、ニッケル濃度0.1〜0.3mol/Lと、ジメチルアミノボラン濃度がニッケル濃度の1/3〜1倍である無電解ニッケル・硼素メッキ液を使用した無電解ニッケル・硼素メッキ方法により、温度30〜40℃、メッキ析出速度0.5〜1.5μm/hで、該側壁に電圧を印加する印加用電極と、該平坦な面に該印加用電極に接続された配線用電極を形成することを特徴とする剪断モード型インクジェットヘッド用圧電性基盤の電極形成方法。
【0026】
発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討を加えた結果、圧電性基盤の溝部の側壁にNi・B合金メッキ被膜を単層薄膜で形成したとき、電気抵抗値が高くなる原因として、明確なことは判らないが以下に示す如く推定した。即ち、無電解Ni・Bメッキ処理液の濃度と、無電解メッキ処理液の温度(60〜80℃)と、メッキ析出速度(1.5〜3μm/h)とのバランスが崩れていることで、溝の側壁部のメッキ析出不良となり、Ni・B合金メッキ被膜に何らかの欠陥が生じることで比抵抗値が高くなると推定した。
【0027】
これらに対して、圧電性基盤の溝部の側壁にNi・B合金メッキ被膜を形成するとき無電解Ni・Bメッキ処理液の濃度と、無電解メッキ処理液の温度と、メッキ析出速度のバランス見直しを検討した結果、ある特定の条件にすることで理由は明確ではないが低い電気抵抗値の単層薄膜を得られることが実験結果より判り本発明に至った次第である。
【0028】
本発明において、比抵抗値とは印加用電極および配線用電極の金属メッキ被膜の物質定数を示す。電気抵抗値と比抵抗値との関係は次式で表すことができる。
【0029】
電気抵抗値=(電極のメッキ被膜の長さ/電極のメッキ被膜の幅×電極のメッキ被膜の厚さ)×比抵抗値
上式から、電極の金属メッキ被膜の長さおよび電極の金属メッキ被膜の幅が同じの時、比抵抗値が低い金属メッキ被膜からは薄膜でも電気抵抗値が低い金属メッキ被膜の電極が得られることを示している。
【0030】
以下、本発明を図1〜図4を参照しながら詳細に説明する。
図1は、一部破断面を有する剪断モード型インクジェットヘッドの一例を示す概略斜視図である。
【0031】
図中1は、剪断モード型インクジェットヘッドを示す。剪断モード型インクジェットヘッド1は、上層圧電性基盤201と下層圧電性基盤202とを接合して形成された圧電性基盤2と、天板3と、ノズル板4とを有している。
【0032】
圧電性基盤2には、研削加工を施すことによりノズル板4側が開口し、反対側が閉塞している互いに平行な所定の長さを有する複数の溝203と、溝203の閉塞した側につながる平坦な面205と、溝(インク圧力室)203の両側に側壁204とを有している。複数の溝は交互にインク圧力室用の溝と空気圧力室用の溝として使用する場合もある。本図はインク圧力室用として使用した場合を示している。
【0033】
301はインク供給管302から供給されたインクのインク溜を示し、各溝203に連通した各インク供給口303より各インク圧力室用の溝203aに供給される様になっている。304は圧電性基盤2の上面を覆う第1天板を示し、305は第1天板の上面を覆う第2天板を示す。各溝203は第1天板304とノズル板4とにより覆われることで複数の密閉されたチャネル(インク圧力室)が形成される様になっている。401は各側壁の剪断変形に伴い、インク圧力室の圧力変化でインクを吐出させる穴を示す。
【0034】
第1天板304及び第2天板の材料は特に限定されず、例えば有機材料からなっても良いが、アルミナ、窒化アルミニウム、ジルコニア、シリコン、窒化シリコン、シリコンカーバイド、石英、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等が挙げられる。
【0035】
ノズル板4を構成する基材としては、金属や樹脂が使用される。例えばステンレス、ポリイミド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン等が好ましく採用できる。特に好ましくはポリイミド樹脂で、Dupont社製:カプトンや宇部興産(株)製:ユーピレックス等が寸法安定性、耐インク性、耐熱性等に優れているので好ましい。
【0036】
図2は図1に示される圧電性基盤の概略図である。図2の(a)は圧電性基盤の概略斜視図である。図2の(b)は図2の(a)のA−A′に沿った概略断面図である。
【0037】
圧電性基盤2は上層圧電性基盤201と下層圧電性基盤202とを接合して形成され、これらの上層圧電性基盤201と下層圧電性基盤202とは基盤の厚さ方向に逆方向に分極されている。203aは溝203の閉塞されている側の傾斜した面を有する底面を示し、平坦な面205とつながっている。
【0038】
206は側壁の内面に形成され、側壁204を剪断変形させるために、電圧が印加される印加用電極(Ni・B合金メッキ被膜)を示す。207は外部のプリント配線基板等への電気的接続のためのリード線接続部となる印加用電極とつながっている配線用電極(Ni・B合金メッキ被膜)を示す。
【0039】
本図では分極化した圧電性基盤を厚さ方向に分極が逆になるように接合し、溝の側壁の全面に電極(Ni・B合金メッキ被膜)を形成し、側壁の上と下とで剪断変形させる場合を示しているが、溝の側壁の上半分の分極化した圧電性基盤に電極(Ni・B合金メッキ被膜)を形成し、側壁の上半分を剪断変形させる方法であってもかまわない。
【0040】
本図で示される構成の圧電性基盤の方が側壁の上半分に電極を形成した圧電性基盤よりも効率が良く、同じ電圧の場合、側壁の剪断変形量が大きいので高い圧力を発生し、吐出されたインクの飛翔速度が速いので、着弾ずれを少なくでき画質の大幅な向上が可能である。或いは必要とする剪断変形量に対して電圧を小さくできるので剪断モード型インクジェットヘッドの発熱を抑えることが可能である。
【0041】
圧電性基盤に使用する材料としては、PZT、PLZT等のセラミックスが挙げられ、主にPbOx、ZrOx、TiOxの混合微結晶体に、ソフト化剤又はハード化剤として知られる微量の金属酸化物、例えばNb、Zn、Mg、Sn、Ni、La、Cr等の酸化物を含むものが好ましい。
【0042】
PZTは充填密度が大きいので圧電性定数が大きく、加工性が良いので好ましい。PZTは、焼成後、温度を下げると、急に結晶構造が変化して、原子がズレ、片側がプラス、反対側がマイナスという双極子の細かい結晶の集まりになる。こうした自発分極は方向がランダムで、極性を互いに打ち消しあっているので、更に分極処理が必要となる。
【0043】
分極処理は、PZTの薄板を電極で挟み、シリコン油中に漬けて、10〜35kv/cm程度の高電界を掛けて分極する。分極したPZTに分極方向に直角に電圧を掛けると、側壁が圧電滑り効果により、斜め方向に、くの宇形に、剪断変形して、インク室の容積が膨張する。
【0044】
本図に示される圧電性基盤において、溝203は幅が10〜300μm、溝幅に対する溝の深さ(アスペクト比)が2〜10であることが好ましい。アスペクト比が2未満の場合は、圧電性基盤に使用する材料によっては剪断変形量が少なくなり、必要とするインクの飛翔速度が得られなくなる場合がある。10を越えた場合は、圧電性基盤に使用する材料によっては溝の幅の精度が不安定になり、これに伴い電極(Ni・B合金メッキ被膜)を形成しても、安定した剪断変形量が得られなくなる場合がある。本図では圧電性基盤の概要を説明するために溝の本数は省略してあるが、高密度対応では溝の本数は300〜600本が望ましい。
【0045】
本図に示される圧電性基盤は、印加用電極は各溝の側壁の内面に形成されており、又、配線用電極は各溝の閉塞した側につながる平坦な面に形成されており、互いに形状の異なる部分である。これら互いに形状の異なる箇所に薄膜のNi・B合金メッキ被膜を形成しなければならないため、メッキ析出速度が全ての溝の内部と平坦な面とで等しくすることが必要である。
【0046】
次に、図1、図2に示される複数の溝を有する圧電性基盤に無電解メッキ方法にて印加用電極206と配線用電極207とを形成する方法を図3、図4に基づき説明する。
【0047】
図3はフォトレジストパターンを形成した圧電性基盤の概略斜視図である。
図中、208はフォトレジストパターンを示す。他の符号は図2と同義である。図4はフォトレジストパターンを剥離した後の圧電性基盤の概略斜視図である。
【0048】
図中の符号は図2、図3と同義である。
圧電性基盤の印加用電極および配線用電極は、例えば1)溝研削、2)フォトレジストパターン形成、3)エッチング処理、4)メッキ前処理、5)無電解メッキ処理、6)フォトレジストパターン剥離の各工程を経て形成されることが知られている。
【0049】
以下に図2〜図4を参照し、上記1)〜6)の各工程について説明する。
1)溝研削工程
図2に示す様に、反対方向に分極された、例えば厚さ200μmの上層圧電性基盤(PZT基盤)201と厚さ800μmの下層圧電性基盤(PZT基盤)202を接着して、厚さ1mmの圧電性基盤2を形成する。次に薄い上層圧電性基盤(PZT基盤)201の側から深さ500μmの溝をダイシングソーにより研削することで図2の(b)に示されるように一方が開放し、他方が円弧状の傾斜面の底面を有する溝が形成される。溝の形状は特に限定はなく、例えば溝の底面は直線であってもかまわない。
【0050】
本発明に係る高密度の圧電性基盤の場合は、溝の数は300〜600本が設けられている。
【0051】
2)フォトレジストパターン形成工程
圧電性基盤2にフォトレジスト液を塗布しフォトレジスト層を形成した後、マスクをかけて露光現像し、これにより、印加用電極206及び配線電極207を形成しない部分に図3に示すフォトレジストパターン208(図3のドットで示した部分を示す)を形成する工程である。その形状は、各溝203の各側壁と各溝203につながる平坦な面205の一部が露出され形成されている。
【0052】
3)エッチング処理工程
フォトレジストパターン形成工程が終了した後、印加用電極206及び配線用電極207を形成する箇所(露出された溝203の側壁と溝203につながる平坦な面205の一部)に触媒核の付着をよくするために、酸性フッ化アンモニウム、フッ化水素酸、ホウフッ化水素酸等の0.5%水溶液に漬けてPZTの粒子界面にエッチング処理が行われる。
【0053】
4)メッキ前処理工程
エッチング処理が終了した後、メッキ被膜の形成を促進させるため、塩化第1錫(SnCl2)と塩化パラジウム(PdCl2)を吸着させて、SnCl2+PdCl2→Pd+SnCl4の反応により無電解メッキの触媒である金属パラジウム(Pd)を生成させるメッキ前処理が行われる。
【0054】
5)無電解メッキ処理工程
メッキ前処理を終了した圧電性基盤を無電解Ni・Bメッキ液が入ったメッキ槽に漬けて、Ni・B合金メッキ被膜を形成する。本発明に係わる無電解Ni・Bメッキ処理条件に付いては後述する。
【0055】
6)フォトレジストパターン剥離工程
無電解メッキ処理が終了後、フォトレジストパターン208をアルカリ性溶液で剥離するフォトレジストパターンの剥離が行なわれ、図4に示される溝203の側壁に印加用電極206(図4のドットで示される部分)及び溝203につながる平坦な面205の一部に配線用電極207(図4のドットで示される部分)が形成された圧電性基盤が得られる。
1)〜6)の工程を経ることで複数の溝を有する圧電性基盤にNi・B合金メッキ被膜からできた印加用電極と配線用電極とが形成される。
【0056】
本発明の圧電性基盤の印加用電極及び配線用電極として形成されたNi・B合金メッキ被膜の比抵抗値は2×10−5〜3×10−5Ωcmであり、更に好ましくは2×10−5〜2.5×10−5Ωcmである。2×10−5Ωcm未満の場合は、Bの比率を制御することが困難となり、実用化が困難であるため好ましくない。3×10−5Ωcmを越えた場合は、印加電圧が高くなることに伴い、インク圧力室内の温度が上昇し、インクの粘度が低下し、インク吐出量が異なるため好ましくない。
【0057】
本発明の圧電性基盤の印加用電極及び配線用電極として形成されたNi・B合金メッキ被膜は単層であり、Ni・B合金メッキ被膜中のBの含有量が0.01〜0.3質量%であることが好ましい。
【0058】
本発明の圧電性基盤の印加用電極及び配線用電極として形成されたNi・B合金メッキ被膜の厚さは1〜5μmであることが好ましく、さらに好ましくは1〜2μmである。1μm未満の場合は、圧電性基盤の基材の表面の凹凸の状態によっては、Ni・B合金メッキ被膜による基材表面の被覆抜けが発生する場合がある。5μmを越えた場合は、Ni・B合金メッキ被膜の残留応力が大きくなり、Ni・B合金メッキ被膜が剥がれる場合がある。又、溝の体積が減少し高密度化に必要な数のインク圧力室を設けることが困難となる場合がある。
【0059】
次に、本発明に係わるNi・B合金メッキ被膜を形成する無電解Ni・Bメッキ処理条件について説明する。本発明に使用する無電解Ni・Bメッキ処理液は、ニッケル濃度0.1〜0.3mol/Lと、ジメチルアミノボラン濃度がニッケル濃度の1/3〜1倍である無電解Ni・Bメッキ処理液であり、市販されている無電解Ni・Bメッキ処理液を調製するときに、無電解Ni・Bメッキ処理液キットの内、Ni成分及びB成分の各パートの添加量を変化させることで調整することが可能である。
【0060】
ニッケル濃度が0.1mol/L未満の場合は、ニッケル濃度が不足するため、溝の側壁の底部と上部とでメッキ析出が不均一となるため好ましくない。ニッケル濃度が0.5mol/Lを越えた場合は、無電解Ni・Bメッキ処理液が不安定となり、無電解Ni・Bメッキ処理液が分解し易くなるため好ましくない。
【0061】
ジメチルアミノボラン濃度がニッケル濃度の1/3倍量未満の場合は、メッキが開始されないため好ましくない。1倍量を越えた場合は、無電解Ni・Bメッキ処理液が不安定になり分解するため好ましくない。
【0062】
無電解Ni・Bメッキ処理液を使用して印加用電極及び配線用電極としてNi・B合金メッキ被膜を形成するときの温度は30〜40℃であり、より好ましくは30〜35℃である。30℃未満では、無電解メッキ処理液の種類によってはNi・Bのメッキ析出速度が遅くなり、Ni・B合金メッキ被膜の形成が不安定になるため好ましくない。40℃を越えた場合は、Ni・Bのメッキ析出速度が早くなり、溝の側壁の上部と底部とでNi・B合金メッキ被膜が不均一となるため好ましくない。
【0063】
Ni・Bのメッキ析出速度は0.5〜1.5μm/hであり、より好ましくは0.5〜1.0μm/hである。0.5μm/h未満では、生産性が悪くなるため好ましくない。1.5μm/hを越えた場合は、Ni・Bの析出速度が速いため、無電解メッキ処理液中のジメチルアミノボラン濃度とニッケル濃度とが溝の上部と下部とで安定にならなくなり、溝の側壁の上部と底部とでNi・B合金メッキ被膜の形成が不均一となるため好ましくない。
【0064】
市販されている無電解Ni・Bメッキ処理液としては、例えば奥野製薬(株)製 トップケミアロイ66、上村工業(株)製 BEL801、(株)ワールドメタル製 ニボロン70、ニボロン5等が挙げられる。
【0065】
本発明の圧電性基盤のNi・B合金メッキ被膜形成方法は、生産性を落とさず、コストを上げないで、上記に示した特定の濃度の無電解Ni・Bメッキ処理液を使用し、上記に示した特定の温度と、特定のメッキ析出速度で図2に示した圧電性基盤を無電解Ni・Bメッキ処理液で処理することで、低い比抵抗値を有する単層で薄膜のNi・B合金メッキ被膜を形成することを見出したものである。
【0066】
本発明に係わる無電解Ni・Bメッキ処理条件により単層で薄膜のNi・B合金メッキ被膜の形成が可能になり、低い電気抵抗値を有する印加用電極を形成した溝およびこれらの印加用電極につながる配線用電極を有した高密度の圧電性基盤が得られると同時に、これらの圧電性基盤を使用した剪断モード型インクジェットヘッドではインキ圧力室の温度上昇を抑えることが可能となり、且つ高密度のインキ滴の吐出が可能となり、安定した印字が可能となった。
【0067】
尚、インクと接触する印加用電極に信号電圧を印加して駆動する場合、水系インクを使用すると、印加用の電極表面で水が電気分解されて酸素の気泡が発生し、印加用電極が溶解するため、水系インクも使用できるように、信号電圧が印加される印加用電極と配線用電極とには絶縁膜(図示せず)が設けられるのが好ましい。この絶縁膜としては、有機絶縁膜でも無機絶縁膜でも良いが、溝の側壁が変形することから柔軟な有機絶縁膜が好ましい。有機絶縁膜は、塗布や電着によりメッキ膜上に形成できる。電着は、例えばアクリル系のアニオン電着樹脂、アクリル酸−メタアクリル酸メチル−アクリル酸ブチル−2−ヒドロキシエチルアクリレート共重合体をアミンで中和して、水に溶解し、メラミン硬化剤を添加して、メッキしたヘッドを陽極に、ステンレス板を陰極にして、30ボルトの直流電圧を1分掛けると、数μmの絶縁膜がメッキ膜上に析出する。膜厚は、電圧と電圧印加時間で制御できる。塗布する場合は、電極上にポリマー被膜をスピンコーティングしたり、コンフォールマイコーティングする。但し、塗布の場合マスキングが必要になるので電着の方が好ましい。その他にも、化学蒸着法(CVD法)で製膜するポリパラキシリレン又はその誘導体を絶縁膜として用いることもできる。
【0068】
【実施例】
次に本発明の効果を実施例によって具体的に説明するが、本発明の実施態様はこれらに限定されるものではない。
【0069】
実施例1
以下に示す方法に従って、複数の溝を有する圧電性基盤を作製した。
【0070】
〈圧電性基盤用の基材の作製〉
分極処理を施されたPZTで作られた厚さ100μm、縦50mm、幅50mmの下層基盤と厚さ800μm、縦50mm、幅50mmの上層基盤とを熱硬化性接着剤により接着し圧電性基盤用の基材を作製した。
【0071】
〈溝の形成〉
作製した基材にダイシングソーを使用して図2の(b)に示す断面形状の溝を300本形成した。溝は幅40μm、アスペクト比5、長さ40mmとした。
【0072】
〈触媒核の形成処理〉
溝を形成した基材に電極層を設けるための前準備として、図3に示すようにフォトレジストパターンを形成した後、印加用電極と配線用電極を形成する箇所(露出された溝の側壁と溝につながる平坦な面の一部)に触媒核の付着をよくするために、酸性フッ化アンモニウム、フッ化水素酸、ホウフッ化水素酸等の0.5%水溶液に漬けてPZTの粒子界面をエッチングした。この後、Ni・B合金メッキ被膜の形成を促進させるため、塩化第1錫(SnCl2)と塩化パラジウム(PdCl2)を吸着させて、SnCl2+PdCl2→Pd+SnCl4の反応により無電解Ni・Bメッキ処理の触媒である金属パラジウム(Pd)を吸着させた。
【0073】
〈無電解Ni・Bメッキ処理による圧電性基盤の作製〉
図4に示す印加用電極と配線用電極を形成する箇所に触媒核となるPdを吸着させた基材に表1に示す無電解Ni・Bメッキ処理条件により無電解Ni・Bメッキ処理を行い、単層のNi・B合金メッキ被膜による印加用電極と配線用電極を形成した後、フォトレジストパターンを除去し、圧電性基盤を作製し101〜112とした。
【0074】
無電解Ni・Bメッキ処理液として奥野製薬(株)製 トップケミアロイ66(トップケミアロイ66−M、トップケミアロイ66−1、トップケミアロイ66−2の3液から構成されている)を使用した。ニッケル濃度及びジメチルアミノボラン濃度無電解の変化は以下の方法にて行った。
【0075】
ニッケル濃度変化:メッキ液を調製するとき、トップケミアロイ66−1の配合率を変えて行った。
【0076】
ジメチルアミノボラン濃度変化:メッキ液を調製するとき、トップケミアロイ66−2の配合率を変えて行った。
【0077】
析出速度の測定は、時間毎にサンプリングを行い、得られた試料を切断し、断面を光学顕微鏡(倍率100倍)で観察し、時間毎の膜厚から計算で求めた。
【0078】
〈剪断モード型インクジェットヘッドの作製〉
得られた各圧電性基盤101〜112を使用して、図1に示す剪断モード型インクジェットヘッドを作製し試料101〜112とした。
【0079】
〈評価〉
作製した各試料101〜112に、コニカ(株)製のインクジェット用インキを使用し、電圧20Vを掛けてインクを吐出させ、各溝(300本)からのインクの吐出状態をCCDカメラにより観察した結果及び各試料101〜112の溝の側壁のNi・B合金メッキ被膜の厚さのバラツキを測定した結果を表1に示す。
【0080】
Ni・B合金メッキ被膜の厚さのバラツキの測定は、各試料を切断し、各試料の断面の10箇所を光学顕微鏡(倍率100倍)で測定して以下の計算式より求めた。
【0081】
バラツキ(%)=1箇所のメッキ被膜の厚さ/10箇所のメッキ被膜の厚さの平均値×100
尚、評価は以下に示すランク付けにより行った。
【0082】
吐出状態の評価ランク
○:全ての溝からインクが吐出される場合
×:インクの吐出不良の溝が1本以上あった場合
Ni・B合金メッキ被膜の厚さの評価ランク
○:10箇所のメッキ被膜のバラツキが全て50%未満の場合
×:1箇所でもメッキ被膜のバラツキが50%を超える箇所がある場合
【0083】
【表1】
【0084】
【発明の効果】
剪断モード型インクジェットヘッドを小型化でき、生産性に優れ、低コストの、吐出インク滴を安定にする高密度の圧電性基盤を提供することができ、高精緻化の要求に応えることが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】一部破断面を有する剪断モード型インクジェットヘッドの一例を示す概略斜視図である。
【図2】図1に示される圧電性基盤の概略図である。
【図3】フォトレジストパターンを形成した圧電性基盤の概略斜視図である。
【図4】フォトレジストパターンを剥離した後の圧電性基盤の概略斜視図である。
【符号の説明】
1 剪断モード型インクジェットヘッド
2 圧電性基盤
203 溝
204 側壁
205 平坦な面
206 印加用電極
207 配線用電極
3 天板
301 インク溜
302 インク供給管
4 ノズル板
【発明の属する技術分野】
本発明は、インクジェットプリンタに使用される剪断モード型インクジェットヘッド用圧電性基盤及び剪断モード型インクジェットヘッド用圧電性基盤の印加用電極および配線用電極の形成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、インクジェットプリンタに使用されるインクジェットヘッドの動作方式には、バブルジェット(R)方式とインク吐出方式とがある。前者のバブルジェット(R)方式は、サーマルヘッドと同様な構成の発熱素子を有し、この発熱素子からの熱エネルギーによりインクの膜沸騰による急激な体積変化によりノズルからインクを吐出させるものである。また、後者のインク吐出方式は、インク圧力室に圧電素子を備えた振動板を有しており、この振動板によるインク圧力室の圧力変化でインクを吐出させるものである。
【0003】
このインク吐出方式に基づくインクジェットヘッドの一例として、基盤に複数本の溝を互いに平行に形成し、これらの溝を仕切る側壁に印加用電極と溝につながる平面に配線用電極とを形成するとともに溝を閉塞してその溝の内部をインク圧力室とし、このインク圧力室に小径のノズル孔を連通し、印加用電極に印加された電圧パルスにより側壁を剪断変形させる基盤を使用し、この剪断変形によりインク圧力室内の圧力を変化することによりインクを吐出させるようにしたものがある。
【0004】
この様な基盤を使用しインク圧力室を剪断変形させインクを吐出する方式のインクジェットヘッドを剪断モード型インクジェットヘッドと言い(例えば、特許文献1参照。)、本発明では剪断モード型インクジェットヘッドに使用する基盤を剪断モード型インクジェットヘッド用圧電性基盤(以下、単に圧電性基盤という)と称す。圧電性基盤は、複数の溝部と溝部につながる平面とを有する微細構造をしている。溝の構造の一例としては、溝部分の幅は80μm、深さは400μm、溝部分の長さは100mmが挙げられる。
【0005】
最近では、得られる画質の高精緻化の要求に伴い、多くのインク滴を吐出する溝(インク圧力室)を300〜600本有する高密度の圧電性基盤が知られている。
【0006】
圧電性基盤の溝の側壁に設けられた印加用電極および印加用電極につながる配線用電極は、スパッタリング方法、真空蒸着方法、無電解メッキ方法などで形成された金属被膜である。金属被膜を形成する方法の中で無電解メッキ方法はスパッタリング方法、真空蒸着方法に比べ装置が比較的安価で、メッキ処理液の化学反応により金属被膜を形成させ、常圧下での工程で大量に生産できるため製造コストも低く、導電性の低い基材にも金属被膜の形成が可能であることから圧電性基盤の印加用電極および配線用電極の形成に使用されている。
【0007】
高密度の圧電性基盤の溝の側壁に設けられる印加用電極は、1)薄膜であること、2)低い電気抵抗値を有していることが要求されている。
【0008】
印加用電極が薄膜であることの必要性としては次の理由によるものである。高密度圧電性基盤として、インクジェットヘッドを大きくすることなく、多くのインク滴を吐出するには、限られた大きさの中でより多くの一定の容積を有した溝(インク圧力室)を形成することが必要であり、このために溝の側壁の印加用電極を薄膜にすることが有効な手段としてあげられる。
【0009】
印加用電極が低い電気抵抗値を有していることの必要性としては次の理由によるものである。圧電性基盤に設けられた溝(インク圧力室)の側壁を剪断変形させるために高電圧を印加せねばならず、高電圧を印加することで側壁が熱を持つようになる。この結果、インク圧力室内のインクが加熱されることで低粘度になり一定のインク量、一定の大きさのインク滴をノズルの穴より吐出させることが困難となる。側壁の温度上昇を抑えるためには、圧電性基盤の溝(インク圧力室)の側壁に形成された、印加用電極(金属メッキ被膜)の電気抵抗値を出来るだけ低くすることで印加電圧を低くすることができ、これにより温度上昇を抑えることが可能となる。
【0010】
圧電性基盤の溝の側壁に形成された印加用電極および印加用電極につながる配線用電極に使用されている金属被膜としては、無電解メッキ方法により形成された、ニッケル(Ni)・硼素(B)合金メッキ被膜、ニッケル(Ni)・リン(P)合金メッキ被膜等が知られている。Ni・B合金メッキ被膜は、Ni・P合金メッキ被膜よりも低い比抵抗値を有しているのであるが、無電解メッキ方法で薄膜で単層のNi・B合金メッキ被膜を形成する場合、安定した薄膜の単層が得られないため、目標とする低い電気抵抗値を得るため、Ni・B合金メッキ被膜を厚くして対応を取る必要がある。
【0011】
しかしながら、単にNi・B合金メッキ被膜を厚くした場合は、Ni・B合金メッキ被膜が厚くなるほど圧電性基盤の溝の側壁の剪断変形に伴う引っ張り応力にNi・B合金メッキ被膜が耐えられなくなり、Ni・B合金メッキ被膜が剥がれる場合が発生するので、電気抵抗値を低く抑えるために次の方法で対応していることが知られている。
【0012】
例えば、圧電性基盤の溝の側壁にNi・B合金メッキ被膜と逆方向の圧縮応力を持つNi・P合金メッキ被膜の上にNi・B合金メッキ被膜を積層することでNi・B合金メッキ被膜の欠点を補って、電気抵抗値を低く抑える技術が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0013】
しかしながら、特許文献2に開示されている技術は印加用電極および配線用電極を形成するために金属メッキ被膜を2回に分けて積層しなければならないため生産性が劣る欠点を有している。
【0014】
又、溝の側壁に形成する印加用電極として、無電解メッキ法によりNiメッキ被膜を形成した後、電解メッキ法により金(Au)メッキ被膜を形成し、積層被膜にすることで電気抵抗値を低く抑える技術が知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【0015】
しかしながら、特許文献3に開示されている技術は印加用電極および配線用電極を形成するために金属メッキ被膜を2回に分けて積層しなければならないため生産性が劣り、Auメッキ被膜を形成するためコストが高くなる欠点を有している。
【0016】
上記の様に高密度用の圧電性基盤の溝の側壁に設けられる印加用電極(金属メッキ被膜)は、低電気抵抗値を有し、且つ薄膜であることが要求されているのであるが未だ十分な対応がとられていないのが現状である。これらの状況から、圧電性基盤の高密度対応のために剪断モード型インクジェットヘッドを大きくすることなく、生産性を落とさず、コストを上げないで、吐出インク滴を安定にする圧電性基盤の開発が望まれている。
【0017】
【特許文献1】
特開昭63−247051号公報
【0018】
【特許文献2】
特開平8−281957号公報
【0019】
【特許文献3】
特開2000−37869号公報
【0020】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記状況に鑑みなされたもので、その目的は剪断モード型インクジェットヘッドを小型化でき、生産性に優れ、低コストの、吐出インク滴を安定にする高密度の圧電性基盤を提供することである。
【0021】
【課題を解決するための手段】
上記目的は、下記の構成により達成された。
【0022】
1)複数の溝と、該溝の内面に設けられた電圧を印加する印加用電極と、該印加用電極に接続された配線用電極とを有する剪断モード型インクジェットヘッド用圧電性基盤において、該印加用電極と該配線用電極とが無電解ニッケル・硼素メッキ方法で形成された比抵抗値が2×10−5〜3×10−5Ωcmを有する単層ニッケル・硼素合金メッキ被膜であることを特徴とする剪断モード型インクジェットヘッド用圧電性基盤。
【0023】
2)前記溝は、幅が10〜300μm、アスペクト比が3〜10の部分を有していることを特徴とする1)に記載の剪断モード型インクジェットヘッド用圧電性基盤。
【0024】
3)前記単層ニッケル・硼素合金メッキ被膜の厚さが1〜5μmであることを特徴とする1)に記載の剪断モード型インクジェットヘッド用圧電性基盤。
【0025】
4)複数の溝と、該溝につながる平坦な面とを有する剪断モード型インクジェットヘッド用圧電性基盤において、前記溝の側壁及び溝につながる平坦な面に、ニッケル濃度0.1〜0.3mol/Lと、ジメチルアミノボラン濃度がニッケル濃度の1/3〜1倍である無電解ニッケル・硼素メッキ液を使用した無電解ニッケル・硼素メッキ方法により、温度30〜40℃、メッキ析出速度0.5〜1.5μm/hで、該側壁に電圧を印加する印加用電極と、該平坦な面に該印加用電極に接続された配線用電極を形成することを特徴とする剪断モード型インクジェットヘッド用圧電性基盤の電極形成方法。
【0026】
発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討を加えた結果、圧電性基盤の溝部の側壁にNi・B合金メッキ被膜を単層薄膜で形成したとき、電気抵抗値が高くなる原因として、明確なことは判らないが以下に示す如く推定した。即ち、無電解Ni・Bメッキ処理液の濃度と、無電解メッキ処理液の温度(60〜80℃)と、メッキ析出速度(1.5〜3μm/h)とのバランスが崩れていることで、溝の側壁部のメッキ析出不良となり、Ni・B合金メッキ被膜に何らかの欠陥が生じることで比抵抗値が高くなると推定した。
【0027】
これらに対して、圧電性基盤の溝部の側壁にNi・B合金メッキ被膜を形成するとき無電解Ni・Bメッキ処理液の濃度と、無電解メッキ処理液の温度と、メッキ析出速度のバランス見直しを検討した結果、ある特定の条件にすることで理由は明確ではないが低い電気抵抗値の単層薄膜を得られることが実験結果より判り本発明に至った次第である。
【0028】
本発明において、比抵抗値とは印加用電極および配線用電極の金属メッキ被膜の物質定数を示す。電気抵抗値と比抵抗値との関係は次式で表すことができる。
【0029】
電気抵抗値=(電極のメッキ被膜の長さ/電極のメッキ被膜の幅×電極のメッキ被膜の厚さ)×比抵抗値
上式から、電極の金属メッキ被膜の長さおよび電極の金属メッキ被膜の幅が同じの時、比抵抗値が低い金属メッキ被膜からは薄膜でも電気抵抗値が低い金属メッキ被膜の電極が得られることを示している。
【0030】
以下、本発明を図1〜図4を参照しながら詳細に説明する。
図1は、一部破断面を有する剪断モード型インクジェットヘッドの一例を示す概略斜視図である。
【0031】
図中1は、剪断モード型インクジェットヘッドを示す。剪断モード型インクジェットヘッド1は、上層圧電性基盤201と下層圧電性基盤202とを接合して形成された圧電性基盤2と、天板3と、ノズル板4とを有している。
【0032】
圧電性基盤2には、研削加工を施すことによりノズル板4側が開口し、反対側が閉塞している互いに平行な所定の長さを有する複数の溝203と、溝203の閉塞した側につながる平坦な面205と、溝(インク圧力室)203の両側に側壁204とを有している。複数の溝は交互にインク圧力室用の溝と空気圧力室用の溝として使用する場合もある。本図はインク圧力室用として使用した場合を示している。
【0033】
301はインク供給管302から供給されたインクのインク溜を示し、各溝203に連通した各インク供給口303より各インク圧力室用の溝203aに供給される様になっている。304は圧電性基盤2の上面を覆う第1天板を示し、305は第1天板の上面を覆う第2天板を示す。各溝203は第1天板304とノズル板4とにより覆われることで複数の密閉されたチャネル(インク圧力室)が形成される様になっている。401は各側壁の剪断変形に伴い、インク圧力室の圧力変化でインクを吐出させる穴を示す。
【0034】
第1天板304及び第2天板の材料は特に限定されず、例えば有機材料からなっても良いが、アルミナ、窒化アルミニウム、ジルコニア、シリコン、窒化シリコン、シリコンカーバイド、石英、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等が挙げられる。
【0035】
ノズル板4を構成する基材としては、金属や樹脂が使用される。例えばステンレス、ポリイミド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン等が好ましく採用できる。特に好ましくはポリイミド樹脂で、Dupont社製:カプトンや宇部興産(株)製:ユーピレックス等が寸法安定性、耐インク性、耐熱性等に優れているので好ましい。
【0036】
図2は図1に示される圧電性基盤の概略図である。図2の(a)は圧電性基盤の概略斜視図である。図2の(b)は図2の(a)のA−A′に沿った概略断面図である。
【0037】
圧電性基盤2は上層圧電性基盤201と下層圧電性基盤202とを接合して形成され、これらの上層圧電性基盤201と下層圧電性基盤202とは基盤の厚さ方向に逆方向に分極されている。203aは溝203の閉塞されている側の傾斜した面を有する底面を示し、平坦な面205とつながっている。
【0038】
206は側壁の内面に形成され、側壁204を剪断変形させるために、電圧が印加される印加用電極(Ni・B合金メッキ被膜)を示す。207は外部のプリント配線基板等への電気的接続のためのリード線接続部となる印加用電極とつながっている配線用電極(Ni・B合金メッキ被膜)を示す。
【0039】
本図では分極化した圧電性基盤を厚さ方向に分極が逆になるように接合し、溝の側壁の全面に電極(Ni・B合金メッキ被膜)を形成し、側壁の上と下とで剪断変形させる場合を示しているが、溝の側壁の上半分の分極化した圧電性基盤に電極(Ni・B合金メッキ被膜)を形成し、側壁の上半分を剪断変形させる方法であってもかまわない。
【0040】
本図で示される構成の圧電性基盤の方が側壁の上半分に電極を形成した圧電性基盤よりも効率が良く、同じ電圧の場合、側壁の剪断変形量が大きいので高い圧力を発生し、吐出されたインクの飛翔速度が速いので、着弾ずれを少なくでき画質の大幅な向上が可能である。或いは必要とする剪断変形量に対して電圧を小さくできるので剪断モード型インクジェットヘッドの発熱を抑えることが可能である。
【0041】
圧電性基盤に使用する材料としては、PZT、PLZT等のセラミックスが挙げられ、主にPbOx、ZrOx、TiOxの混合微結晶体に、ソフト化剤又はハード化剤として知られる微量の金属酸化物、例えばNb、Zn、Mg、Sn、Ni、La、Cr等の酸化物を含むものが好ましい。
【0042】
PZTは充填密度が大きいので圧電性定数が大きく、加工性が良いので好ましい。PZTは、焼成後、温度を下げると、急に結晶構造が変化して、原子がズレ、片側がプラス、反対側がマイナスという双極子の細かい結晶の集まりになる。こうした自発分極は方向がランダムで、極性を互いに打ち消しあっているので、更に分極処理が必要となる。
【0043】
分極処理は、PZTの薄板を電極で挟み、シリコン油中に漬けて、10〜35kv/cm程度の高電界を掛けて分極する。分極したPZTに分極方向に直角に電圧を掛けると、側壁が圧電滑り効果により、斜め方向に、くの宇形に、剪断変形して、インク室の容積が膨張する。
【0044】
本図に示される圧電性基盤において、溝203は幅が10〜300μm、溝幅に対する溝の深さ(アスペクト比)が2〜10であることが好ましい。アスペクト比が2未満の場合は、圧電性基盤に使用する材料によっては剪断変形量が少なくなり、必要とするインクの飛翔速度が得られなくなる場合がある。10を越えた場合は、圧電性基盤に使用する材料によっては溝の幅の精度が不安定になり、これに伴い電極(Ni・B合金メッキ被膜)を形成しても、安定した剪断変形量が得られなくなる場合がある。本図では圧電性基盤の概要を説明するために溝の本数は省略してあるが、高密度対応では溝の本数は300〜600本が望ましい。
【0045】
本図に示される圧電性基盤は、印加用電極は各溝の側壁の内面に形成されており、又、配線用電極は各溝の閉塞した側につながる平坦な面に形成されており、互いに形状の異なる部分である。これら互いに形状の異なる箇所に薄膜のNi・B合金メッキ被膜を形成しなければならないため、メッキ析出速度が全ての溝の内部と平坦な面とで等しくすることが必要である。
【0046】
次に、図1、図2に示される複数の溝を有する圧電性基盤に無電解メッキ方法にて印加用電極206と配線用電極207とを形成する方法を図3、図4に基づき説明する。
【0047】
図3はフォトレジストパターンを形成した圧電性基盤の概略斜視図である。
図中、208はフォトレジストパターンを示す。他の符号は図2と同義である。図4はフォトレジストパターンを剥離した後の圧電性基盤の概略斜視図である。
【0048】
図中の符号は図2、図3と同義である。
圧電性基盤の印加用電極および配線用電極は、例えば1)溝研削、2)フォトレジストパターン形成、3)エッチング処理、4)メッキ前処理、5)無電解メッキ処理、6)フォトレジストパターン剥離の各工程を経て形成されることが知られている。
【0049】
以下に図2〜図4を参照し、上記1)〜6)の各工程について説明する。
1)溝研削工程
図2に示す様に、反対方向に分極された、例えば厚さ200μmの上層圧電性基盤(PZT基盤)201と厚さ800μmの下層圧電性基盤(PZT基盤)202を接着して、厚さ1mmの圧電性基盤2を形成する。次に薄い上層圧電性基盤(PZT基盤)201の側から深さ500μmの溝をダイシングソーにより研削することで図2の(b)に示されるように一方が開放し、他方が円弧状の傾斜面の底面を有する溝が形成される。溝の形状は特に限定はなく、例えば溝の底面は直線であってもかまわない。
【0050】
本発明に係る高密度の圧電性基盤の場合は、溝の数は300〜600本が設けられている。
【0051】
2)フォトレジストパターン形成工程
圧電性基盤2にフォトレジスト液を塗布しフォトレジスト層を形成した後、マスクをかけて露光現像し、これにより、印加用電極206及び配線電極207を形成しない部分に図3に示すフォトレジストパターン208(図3のドットで示した部分を示す)を形成する工程である。その形状は、各溝203の各側壁と各溝203につながる平坦な面205の一部が露出され形成されている。
【0052】
3)エッチング処理工程
フォトレジストパターン形成工程が終了した後、印加用電極206及び配線用電極207を形成する箇所(露出された溝203の側壁と溝203につながる平坦な面205の一部)に触媒核の付着をよくするために、酸性フッ化アンモニウム、フッ化水素酸、ホウフッ化水素酸等の0.5%水溶液に漬けてPZTの粒子界面にエッチング処理が行われる。
【0053】
4)メッキ前処理工程
エッチング処理が終了した後、メッキ被膜の形成を促進させるため、塩化第1錫(SnCl2)と塩化パラジウム(PdCl2)を吸着させて、SnCl2+PdCl2→Pd+SnCl4の反応により無電解メッキの触媒である金属パラジウム(Pd)を生成させるメッキ前処理が行われる。
【0054】
5)無電解メッキ処理工程
メッキ前処理を終了した圧電性基盤を無電解Ni・Bメッキ液が入ったメッキ槽に漬けて、Ni・B合金メッキ被膜を形成する。本発明に係わる無電解Ni・Bメッキ処理条件に付いては後述する。
【0055】
6)フォトレジストパターン剥離工程
無電解メッキ処理が終了後、フォトレジストパターン208をアルカリ性溶液で剥離するフォトレジストパターンの剥離が行なわれ、図4に示される溝203の側壁に印加用電極206(図4のドットで示される部分)及び溝203につながる平坦な面205の一部に配線用電極207(図4のドットで示される部分)が形成された圧電性基盤が得られる。
1)〜6)の工程を経ることで複数の溝を有する圧電性基盤にNi・B合金メッキ被膜からできた印加用電極と配線用電極とが形成される。
【0056】
本発明の圧電性基盤の印加用電極及び配線用電極として形成されたNi・B合金メッキ被膜の比抵抗値は2×10−5〜3×10−5Ωcmであり、更に好ましくは2×10−5〜2.5×10−5Ωcmである。2×10−5Ωcm未満の場合は、Bの比率を制御することが困難となり、実用化が困難であるため好ましくない。3×10−5Ωcmを越えた場合は、印加電圧が高くなることに伴い、インク圧力室内の温度が上昇し、インクの粘度が低下し、インク吐出量が異なるため好ましくない。
【0057】
本発明の圧電性基盤の印加用電極及び配線用電極として形成されたNi・B合金メッキ被膜は単層であり、Ni・B合金メッキ被膜中のBの含有量が0.01〜0.3質量%であることが好ましい。
【0058】
本発明の圧電性基盤の印加用電極及び配線用電極として形成されたNi・B合金メッキ被膜の厚さは1〜5μmであることが好ましく、さらに好ましくは1〜2μmである。1μm未満の場合は、圧電性基盤の基材の表面の凹凸の状態によっては、Ni・B合金メッキ被膜による基材表面の被覆抜けが発生する場合がある。5μmを越えた場合は、Ni・B合金メッキ被膜の残留応力が大きくなり、Ni・B合金メッキ被膜が剥がれる場合がある。又、溝の体積が減少し高密度化に必要な数のインク圧力室を設けることが困難となる場合がある。
【0059】
次に、本発明に係わるNi・B合金メッキ被膜を形成する無電解Ni・Bメッキ処理条件について説明する。本発明に使用する無電解Ni・Bメッキ処理液は、ニッケル濃度0.1〜0.3mol/Lと、ジメチルアミノボラン濃度がニッケル濃度の1/3〜1倍である無電解Ni・Bメッキ処理液であり、市販されている無電解Ni・Bメッキ処理液を調製するときに、無電解Ni・Bメッキ処理液キットの内、Ni成分及びB成分の各パートの添加量を変化させることで調整することが可能である。
【0060】
ニッケル濃度が0.1mol/L未満の場合は、ニッケル濃度が不足するため、溝の側壁の底部と上部とでメッキ析出が不均一となるため好ましくない。ニッケル濃度が0.5mol/Lを越えた場合は、無電解Ni・Bメッキ処理液が不安定となり、無電解Ni・Bメッキ処理液が分解し易くなるため好ましくない。
【0061】
ジメチルアミノボラン濃度がニッケル濃度の1/3倍量未満の場合は、メッキが開始されないため好ましくない。1倍量を越えた場合は、無電解Ni・Bメッキ処理液が不安定になり分解するため好ましくない。
【0062】
無電解Ni・Bメッキ処理液を使用して印加用電極及び配線用電極としてNi・B合金メッキ被膜を形成するときの温度は30〜40℃であり、より好ましくは30〜35℃である。30℃未満では、無電解メッキ処理液の種類によってはNi・Bのメッキ析出速度が遅くなり、Ni・B合金メッキ被膜の形成が不安定になるため好ましくない。40℃を越えた場合は、Ni・Bのメッキ析出速度が早くなり、溝の側壁の上部と底部とでNi・B合金メッキ被膜が不均一となるため好ましくない。
【0063】
Ni・Bのメッキ析出速度は0.5〜1.5μm/hであり、より好ましくは0.5〜1.0μm/hである。0.5μm/h未満では、生産性が悪くなるため好ましくない。1.5μm/hを越えた場合は、Ni・Bの析出速度が速いため、無電解メッキ処理液中のジメチルアミノボラン濃度とニッケル濃度とが溝の上部と下部とで安定にならなくなり、溝の側壁の上部と底部とでNi・B合金メッキ被膜の形成が不均一となるため好ましくない。
【0064】
市販されている無電解Ni・Bメッキ処理液としては、例えば奥野製薬(株)製 トップケミアロイ66、上村工業(株)製 BEL801、(株)ワールドメタル製 ニボロン70、ニボロン5等が挙げられる。
【0065】
本発明の圧電性基盤のNi・B合金メッキ被膜形成方法は、生産性を落とさず、コストを上げないで、上記に示した特定の濃度の無電解Ni・Bメッキ処理液を使用し、上記に示した特定の温度と、特定のメッキ析出速度で図2に示した圧電性基盤を無電解Ni・Bメッキ処理液で処理することで、低い比抵抗値を有する単層で薄膜のNi・B合金メッキ被膜を形成することを見出したものである。
【0066】
本発明に係わる無電解Ni・Bメッキ処理条件により単層で薄膜のNi・B合金メッキ被膜の形成が可能になり、低い電気抵抗値を有する印加用電極を形成した溝およびこれらの印加用電極につながる配線用電極を有した高密度の圧電性基盤が得られると同時に、これらの圧電性基盤を使用した剪断モード型インクジェットヘッドではインキ圧力室の温度上昇を抑えることが可能となり、且つ高密度のインキ滴の吐出が可能となり、安定した印字が可能となった。
【0067】
尚、インクと接触する印加用電極に信号電圧を印加して駆動する場合、水系インクを使用すると、印加用の電極表面で水が電気分解されて酸素の気泡が発生し、印加用電極が溶解するため、水系インクも使用できるように、信号電圧が印加される印加用電極と配線用電極とには絶縁膜(図示せず)が設けられるのが好ましい。この絶縁膜としては、有機絶縁膜でも無機絶縁膜でも良いが、溝の側壁が変形することから柔軟な有機絶縁膜が好ましい。有機絶縁膜は、塗布や電着によりメッキ膜上に形成できる。電着は、例えばアクリル系のアニオン電着樹脂、アクリル酸−メタアクリル酸メチル−アクリル酸ブチル−2−ヒドロキシエチルアクリレート共重合体をアミンで中和して、水に溶解し、メラミン硬化剤を添加して、メッキしたヘッドを陽極に、ステンレス板を陰極にして、30ボルトの直流電圧を1分掛けると、数μmの絶縁膜がメッキ膜上に析出する。膜厚は、電圧と電圧印加時間で制御できる。塗布する場合は、電極上にポリマー被膜をスピンコーティングしたり、コンフォールマイコーティングする。但し、塗布の場合マスキングが必要になるので電着の方が好ましい。その他にも、化学蒸着法(CVD法)で製膜するポリパラキシリレン又はその誘導体を絶縁膜として用いることもできる。
【0068】
【実施例】
次に本発明の効果を実施例によって具体的に説明するが、本発明の実施態様はこれらに限定されるものではない。
【0069】
実施例1
以下に示す方法に従って、複数の溝を有する圧電性基盤を作製した。
【0070】
〈圧電性基盤用の基材の作製〉
分極処理を施されたPZTで作られた厚さ100μm、縦50mm、幅50mmの下層基盤と厚さ800μm、縦50mm、幅50mmの上層基盤とを熱硬化性接着剤により接着し圧電性基盤用の基材を作製した。
【0071】
〈溝の形成〉
作製した基材にダイシングソーを使用して図2の(b)に示す断面形状の溝を300本形成した。溝は幅40μm、アスペクト比5、長さ40mmとした。
【0072】
〈触媒核の形成処理〉
溝を形成した基材に電極層を設けるための前準備として、図3に示すようにフォトレジストパターンを形成した後、印加用電極と配線用電極を形成する箇所(露出された溝の側壁と溝につながる平坦な面の一部)に触媒核の付着をよくするために、酸性フッ化アンモニウム、フッ化水素酸、ホウフッ化水素酸等の0.5%水溶液に漬けてPZTの粒子界面をエッチングした。この後、Ni・B合金メッキ被膜の形成を促進させるため、塩化第1錫(SnCl2)と塩化パラジウム(PdCl2)を吸着させて、SnCl2+PdCl2→Pd+SnCl4の反応により無電解Ni・Bメッキ処理の触媒である金属パラジウム(Pd)を吸着させた。
【0073】
〈無電解Ni・Bメッキ処理による圧電性基盤の作製〉
図4に示す印加用電極と配線用電極を形成する箇所に触媒核となるPdを吸着させた基材に表1に示す無電解Ni・Bメッキ処理条件により無電解Ni・Bメッキ処理を行い、単層のNi・B合金メッキ被膜による印加用電極と配線用電極を形成した後、フォトレジストパターンを除去し、圧電性基盤を作製し101〜112とした。
【0074】
無電解Ni・Bメッキ処理液として奥野製薬(株)製 トップケミアロイ66(トップケミアロイ66−M、トップケミアロイ66−1、トップケミアロイ66−2の3液から構成されている)を使用した。ニッケル濃度及びジメチルアミノボラン濃度無電解の変化は以下の方法にて行った。
【0075】
ニッケル濃度変化:メッキ液を調製するとき、トップケミアロイ66−1の配合率を変えて行った。
【0076】
ジメチルアミノボラン濃度変化:メッキ液を調製するとき、トップケミアロイ66−2の配合率を変えて行った。
【0077】
析出速度の測定は、時間毎にサンプリングを行い、得られた試料を切断し、断面を光学顕微鏡(倍率100倍)で観察し、時間毎の膜厚から計算で求めた。
【0078】
〈剪断モード型インクジェットヘッドの作製〉
得られた各圧電性基盤101〜112を使用して、図1に示す剪断モード型インクジェットヘッドを作製し試料101〜112とした。
【0079】
〈評価〉
作製した各試料101〜112に、コニカ(株)製のインクジェット用インキを使用し、電圧20Vを掛けてインクを吐出させ、各溝(300本)からのインクの吐出状態をCCDカメラにより観察した結果及び各試料101〜112の溝の側壁のNi・B合金メッキ被膜の厚さのバラツキを測定した結果を表1に示す。
【0080】
Ni・B合金メッキ被膜の厚さのバラツキの測定は、各試料を切断し、各試料の断面の10箇所を光学顕微鏡(倍率100倍)で測定して以下の計算式より求めた。
【0081】
バラツキ(%)=1箇所のメッキ被膜の厚さ/10箇所のメッキ被膜の厚さの平均値×100
尚、評価は以下に示すランク付けにより行った。
【0082】
吐出状態の評価ランク
○:全ての溝からインクが吐出される場合
×:インクの吐出不良の溝が1本以上あった場合
Ni・B合金メッキ被膜の厚さの評価ランク
○:10箇所のメッキ被膜のバラツキが全て50%未満の場合
×:1箇所でもメッキ被膜のバラツキが50%を超える箇所がある場合
【0083】
【表1】
【0084】
【発明の効果】
剪断モード型インクジェットヘッドを小型化でき、生産性に優れ、低コストの、吐出インク滴を安定にする高密度の圧電性基盤を提供することができ、高精緻化の要求に応えることが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】一部破断面を有する剪断モード型インクジェットヘッドの一例を示す概略斜視図である。
【図2】図1に示される圧電性基盤の概略図である。
【図3】フォトレジストパターンを形成した圧電性基盤の概略斜視図である。
【図4】フォトレジストパターンを剥離した後の圧電性基盤の概略斜視図である。
【符号の説明】
1 剪断モード型インクジェットヘッド
2 圧電性基盤
203 溝
204 側壁
205 平坦な面
206 印加用電極
207 配線用電極
3 天板
301 インク溜
302 インク供給管
4 ノズル板
Claims (4)
- 複数の溝と、該溝の内面に設けられた電圧を印加する印加用電極と、該印加用電極に接続された配線用電極とを有する剪断モード型インクジェットヘッド用圧電性基盤において、該印加用電極と該配線用電極とが無電解ニッケル・硼素メッキ方法で形成された比抵抗値が2×10−5〜3×10−5Ωcmを有する単層ニッケル・硼素合金メッキ被膜であることを特徴とする剪断モード型インクジェットヘッド用圧電性基盤。
- 前記溝は、幅が10〜300μm、アスペクト比が3〜10の部分を有していることを特徴とする請求項1に記載の剪断モード型インクジェットヘッド用圧電性基盤。
- 前記単層ニッケル・硼素合金メッキ被膜の厚さが1〜5μmであることを特徴とする請求項1に記載の剪断モード型インクジェットヘッド用圧電性基盤。
- 複数の溝と、該溝につながる平坦な面とを有する剪断モード型インクジェットヘッド用圧電性基盤において、前記溝の側壁及び溝につながる平坦な面に、ニッケル濃度0.1〜0.3mol/Lと、ジメチルアミノボラン濃度がニッケル濃度の1/3〜1倍である無電解ニッケル・硼素メッキ液を使用した無電解ニッケル・硼素メッキ方法により、温度30〜40℃、メッキ析出速度0.5〜1.5μm/hで、該側壁に電圧を印加する印加用電極と、該平坦な面に該印加用電極に接続された配線用電極を形成することを特徴とする剪断モード型インクジェットヘッド用圧電性基盤の電極形成方法。
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JP2007190892A (ja) * | 2006-01-23 | 2007-08-02 | Toshiba Tec Corp | インクジェットプリンタヘッド及びインクジェットプリンタヘッド製造方法 |
JP2015033799A (ja) * | 2013-08-09 | 2015-02-19 | セイコーエプソン株式会社 | 液体噴射ヘッド、および、液体噴射装置 |
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2002
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