JP2004053502A - 分散強化型貴金属熱電対 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】Pt−Rh系貴金属熱電対は、異なる成分からなる一対のPt−Rh系貴金属熱電対素線1、2を接合し、熱接点5を形成したものである。このようなPt−Rh系貴金属熱電対において、Pt−Rh系系合金に粒径0.1μm以下のAl2O3、ZrO2及びMoSi2から選択された微細粒子を分散強化剤として添加することにより、Pt−Rh系合金を分散強化型Pt−Rh系合金とし、これを前記Pt−Rh系貴金属熱電対素線1、2とする。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、異なる成分からなる一対のPt−Rh系貴金属熱電対素線を接合し、熱接点を形成したPt−Rh系貴金属熱電対に関し、特にPt−Rh系合金に粒径0.1μm以下の微細セラミック粒子または金属間化合物を添加した分散強化型Pt−Rh系合金を熱電対素線やシースとして使用した分散強化型貴金属熱電対に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に1000℃を越える高温領域での温度測定に使用される熱電対は、Pt合金系の貴金属熱電対と高融点金属のW−Re合金系の2種が一般的である。Pt系合金は、耐酸化性雰囲気に強く大気中で使われる工業炉の炉内温度計として多く使用されている。一方W−Re系の熱電対材料は酸化に弱いため、真空も含めた非酸化性雰囲気でしか使えないので、高温真空炉やArガス等の不活性ガス雰囲気炉等の特殊用途に限られ、大気中で使用する場合は、酸化して機能がなくなるまでの間の短時間に測温する消耗型の熱電対として使われる。
【0003】
工業用の高温熱電対の中では耐酸化性の優れた貴金属熱電対が一般的である。JISでは、工業上大気中で使用する場合が多い貴金属熱電対の3種(B、R、S)が規格されているが、その他にも幾つかの種類のPt系貴金属熱電対とW−Re合金系の熱電対が市販されている。
【0004】
【発明が解決しようとしている課題】
硬いRhを多く含むPt−Rh系熱電対は強度が高く、蒸発による損耗も少なく、耐熱性が増すが、熱起電力が小さい。Pt−Rh系熱電対であるJISのB型では600℃以下、Pt−40重量%RhvsPt−20重量%Rhでは1100℃以下の測定がしづらくなる。しかも、この貴金属熱電対でも1500℃程度になると蒸発(貴金属自体の蒸発と貴金属酸化物の蒸発)による消耗があり、常用限度は最高使用温度より200℃程度低い値となっていて、JISのB型では1500℃、JISのR型とS型においては1400℃となっている。
【0005】
さらに問題となるのは、貴金属からなる熱電対素線の強度不足であり、汚染に弱いことである。このため強度上、貴金属熱電対を裸のままセラミック碍子の穴に通して数珠つなぎにし、吊り下げて使用するような使用形態がとれないし、さらに碍子の隙間から汚染物質が付着して熱起電力の変化をもたらしてしまう。
【0006】
以上のことから、貴金属熱電対はセラミック製保護管(鞘管)に絶縁碍子と共に挿入したり、熱電対と同じ貴金属管の中に絶縁粉体と共に封入して収めるということが行われ、機械的振動や荷重さらには汚染物質が貴金属熱電対線にかからないよう配慮し、延命を図っている。
【0007】
しかしながら、JISのR型とJISのS型の熱電対のように、−(マイナス)極に純Ptを用いている貴金属熱電対は、Pt自体が1400℃を越えると再結晶が進み結晶粒の粗大化による強度低下が生じ、振動に対して弱くなる。Pt−Mo系の熱電対のPt−0.1重量%Moの−(マイナス)脚も同様である。PtにRhやMoが数重量%以上含有した材料では、元素の移動がしづらくなり、再結晶が起こりにくく、強度低下が起こりにくい。さらにPt−Rh含有の大気中での蒸発損耗は、純Ptより少なく、Rh量が多い方が蒸発損耗が少ない。
【0008】
Pt系貴金属合金にRhやMoのように硬い金属を入れるとPt合金が硬くなり、強度が増す。Pt系貴金属熱電対を他の金属や非金属汚染から守るために、保護管の中に封入ないしは挿入しても−(マイナス)極に純Ptを用いる貴金属熱電対では、1400℃前後の高温になると、+(プラス)極のRhやMoが一対の熱電対素線を接合した熱接点を通じて純Pt側に拡散したり、或いはRhやMoの蒸気が純Pt側に拡散する現象が起こる。これにより、純Ptが僅かながら合金化し、Rh合金ないしはMo合金となって、一対の熱電対素線間のRhやMoの濃度差が小さくなり、熱起電力低下をもたらす。よってRhやMoを純Pt側に数重量%以上入れてやるとRhやMoの拡散もしづらくなり、高温において熱起電力の安定性が増す。このことから−(マイナス)極の純PtにRhを入れ安定化したのが前述したJISのB型熱電対である。
【0009】
Pt−Mo系の熱電対は、Moが耐酸化特性が悪いので、非酸化性雰囲気で使用する必要がある。これに対して、大気雰囲気中での使用を必要とする工業炉ではPt−Rh系熱電対が適している。ただ中性子が当たる原子炉内部ではRhが核変換して、Pdに変わるので、Pt−Rh系の熱電対より、Pt−Mo系の熱電対が利用されている。これは不活性ガスであるHeを熱媒体とする高温ガス炉にも適用されている。
【0010】
大気雰囲気中で使用される多くの工業炉には、耐酸化性の優れたPt−Rh系熱電対が多く利用されている。しかし、Pt−Rh系熱電対も1000℃以上の温度で長時間使用した場合、熱接点を通して一方の熱電対素線の高濃度のRhが低濃度の熱電対側へ拡散していき、熱電対のRh濃度が変化する。もちろん、熱電対自体の金属が蒸発して、碍子の継ぎ目等から高濃度Rhの熱電対素線側から低濃度Rhの熱電対素線側へとRhが拡散していく。これらの拡散によって熱電対材料が均質化して起電力が低下して行く。
【0011】
本発明は、従来のPt−Rh系貴金属熱電対における課題に鑑み、高濃度Rhの熱電対素線側から低濃度Rhの熱電対素線側へとRhが拡散するのを防止し、高温下での使用における起電力の低下を小さくし、併せてPt−Rh系貴金属熱電対の強度の増大を図り、その寿命を向上させることを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明では、前記の目的を達成するため、分散強化型のPt−Rh系貴金属熱電対素線を使用することで、前記のような高濃度Rhの熱電対素線側から低濃度Rhの熱電対素線側へのRhの拡散を防止するようにしたものである。より具体的には、アルミナ(Al2O3)、ジルコニア(ZrO2)、二ケイ化モリブデン(MoSi2)の微細粒子を分散強化剤としてPt−Rh系貴金属熱電対素線の材料中に均一に添加したものである。
【0013】
これらの分散強化剤の粒子の大きさは細かい方が良く、粒径が0.1μ以下でなければならない。この分散強化剤の粒子のサイズが大きすぎると、却って熱電対素線の強度が低下してしまうので、細い熱電対素線を得ることが出来なくなってしまう。
【0014】
このようなセラミック微粒子分散型のPt−Rh系貴金属熱電対材を作るには、Pt、Rh及び前記分散強化材の粉体を用い、これらを十分に混練し、粉体をプレスで固めて焼結する。通常、貴金属の製錬後の形状は粉体であることが多いので、この貴金属粉体を材料として使用するが、この粉体をボールミルでさらに粒径10μ以下に微細化してから、混練し、粉体をプレスで固めて焼結する。
【0015】
焼結体を作るには、高圧にて棒状のものを作り、これを還元雰囲気にて焼結し、焼結後はスェージとダイスによる伸縮と焼鈍を繰り返し、線材を作る。パイプを作るには焼結後スェージと焼鈍を繰り返し、φ20位の棒を作ってからドリルにて穴をあけ、マンドレルにて伸線し、さらにプラグを入れてφ6〜φ10のパイプに仕上げる。
【0016】
分散強化材の微粒子を分散した熱電対素線の材料は、高温において元素の移動がしづらくなり、再結晶が阻止される。即ち、Pt中のRhがセラミック微粒子の添加(分散)によって金属中の拡散が遅くなってくる。このことによって熱電対の熱接点を介してなされるRhの拡散を遅らせ、熱電対の熱起電力低下を防止することが出来、寿命が延びることになる。寿命は1.5〜2倍に延びる。
さらに、このセラミック微粒子分散した材料を使用してシースを作れば、シースも高温時の再結晶が防止され、高温での強度とクリープ特性が改善され、機械的強度における寿命が延びる。寿命の延びは2〜4倍になる。
【0017】
【発明の実施の形態】
次に、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について、具体的且つ詳細に説明する。
図1に本発明によるPt−Rh系貴金属熱電対であって、特に、一対以上の熱電対素線1、2が無機絶縁粉体3と共にシース4に封入されたシース型熱電対の構造を示している。
【0018】
Pt−Rh系熱電対はガスタービン等の複雑な装置の温度測定用の熱電対としては、取付の容易性からPt−Rh系合金で保護された図1のようなシース型熱電対が多く利用されている。このシース型熱電対は、Pt−Rh系合金からなるチューブ状のシース4の中にアルミナやマグネシアの無機絶縁粉体3と共に一対以上の熱電対素線1、2を封入した構造となっている。熱電対素線1、2の先端は溶接等の手段で接合され熱接点5を形成している。また、シース4の先端も溶接等の手段で封止6され、閉じられている。
【0019】
これに対し、単なる電気炉等の温度測定用の熱電対としては、バーナーがないため振動が少ないので、SiO2 (石英)ガラスやAl2O3(アルミナ)のセラミックス等の鞘管の中にアルミナ碍子によって絶縁された状態で挿入されている。石英ガラスでの保護管は耐熱性の関係から1000℃位までしか使えない。アルミナ保護管は1500℃までは十分使える。
【0020】
以下の実施形態では、図1に示すように、Pt−Rhのシース4の中に無機絶縁粉末3と共にPt−Rhからなる熱電対素線1、2を封入したシース型Pt−Rh系熱電対について説明する。
シースにPt−Rh合金を使うのは、Ptより強度が強く、1400℃程度の高温でも再結晶が起こりにくく、クリープ強度が純Ptより4倍位大きいためである。また、Rhが多く入ったPt−Rh合金の方が蒸発損耗が少ないからである。
【0021】
ただRhが25重量%以上含むPt−Rh合金は硬いので加工がしづらく、加工硬化も大きいので、頻繁に焼鈍を繰り返しながら、伸線をしなければならない。
加工を簡単にするため、シース4の材料としてはPt−5重量%Rh〜20重量%Rh程度のものがよく、またPt−30重量%Rh〜40重量%Rhでもよい。熱電対素線1、2は、JISのR型(Pt−13重量%Rhの素線とPtの素線を組み合わせたもの)、JISのB型(Pt−30重量%Rhの素線とPt6重量%Rhの素線を組み合わせたもの)或いはPt−40重量%RhとPt−20重量%Rhの組み合わせの3種が温度によって使用出来る。
【0022】
一般にPt−RhシースのPt−Rh熱電対は、アルミナ等のセラミック保護管に挿入しただけのPt−Rh熱電対より、シース側のRhの拡散による影響を受けるため、高温安定性が悪い。従ってPt−RhシースのPt−Rh熱電対は、内部の熱電対にJISのR型を用いた場合は1200℃、JISのB型を用いた場合は1400℃、Pt−20重量%RhとPt−40重量%Rhの組み合わせの熱電対では1600℃の温度条件でそれぞれ使用可能である。さらにアルミナ管の保護管を用いたものは、これらの数値より200℃高い範囲まで使える。
【0023】
PtやPt−Rh合金に分散強化剤としてAl2O3の微細粉末を添加した場合の、その添加量と引っ張り強さの関係を図2に示す。この図2から明らかな通り、PtやPt−Rh合金に分散強化剤としてAl2O3の微細粉末を添加すると強度が向上する。
【0024】
但し、PtやPt−Rh合金に多量のAl2O3の微細粉末を添加することは技術上困難であり、特にPt−Rh合金ではRhの含有割合が多い程添加出来るAl2O3の微細粉末の量は少なくなる。PtやPt−Rh合金にAl2O3の微細粉末を添加することが出来る量は概ね1.5重量%が限界であり、1.5重量%以上のAl2O3の微細粉末を添加すれば、添加しない場合に比べて約1.5〜数倍の強度向上が図れる。他方、或る程度の強度向上を図るためには、Al2O3の微細粉末を0.1重量%以上添加する必要がある。従って熱電対の製作の容易性等を考慮すると、Al2O3の微細粉末の量は0.1〜1.5重量%の範囲が好ましい。
【0025】
シース4を形成するためのセラミック微粉分散Pt−Rh材料は、まずPt、Rh、Al2O3 の粉体を用意してPt−10重量%Rh−1.5重量%Al2O3 になるように混練して焼結する。この場合の粉体の粒径は、Pt、Rhの場合10μ以下、Al2O3 の場合0.1μ以下とする。混練して成形体にするにはCIP(cold isostatic pressing:冷間等加圧成形)にてφ30位の太い丸棒を成形し、水素ガス中(還元雰囲気中)にて1550℃の温度で2時間加熱して焼成し、その後冷却した後、スェージングと1100℃の温度での焼鈍を繰り返し、φ20程度の径にする。その後、ドリルにて中心軸方向に穴をあけ、その後はダイスを用いた伸線と焼鈍を繰り返して、φ6位のパイプに仕上げる。
【0026】
一方熱電対素線1、2を形成するためのセラミック微粉分散Pt−Rh材料は熱起電力をJISのR型とかJISのB型に合わせなければいけないので、初めにPt−Rh合金成分分量に合わせておいてそれにAl2O3 微細粉末を追加する。例えばPt−6重量%RhとPt−30重量%Rhを組み合わせたJISのB型の場合、Pt−6重量%RhとPt−30重量%Rhの混合パウダーを作っておいて、それにAl2O3 微細粉末を添加する。微細粉末を添加することによって、最終的な成分分量はPt−5.95重量%Rh−0.83重量%Al2O3とPt−29.71重量%Rh−1.00重量%Al2O3 となっている。なおここでは、双方の材料にAl2O3 微粉末を1.5原子%づつ添加し、重量%に換算した形で表示してある。
【0027】
伸線の方法はほぼシース用の材料と同じであるが、熱電対素線の場合は単なる細かい線棒を作るので、素材寸法もφ15位からで十分であり、パイプ状にする必要もない。焼成後スェージングして焼鈍し、その後ダイスで伸線をして焼鈍を繰り返して、φ1.0以下の所定寸法まで仕上げる。
なお、Pt−30重量%Rh系の焼成温度はRhが多いために1700℃位の温度が必要であり、焼鈍温度も1100℃〜1200℃の温度が必要である。次第に細くなれば、焼鈍温度は1000℃程度でも良い。
【0028】
セラミック微粒子分散型シース熱電対を作るには、セラミック微粒子分散型シース用のパイプに高純度Al2O3 やMgO粉体とセラミック微粒子分散型熱電対、例えば前述のPt−5.95重量%Rh−0.83重量%Al2O3 とPt−29.71重量%Rh−1.00重量%Al2O3 の熱電対素線用線材を入れて、スェージング及びダイスによる伸線加工し、加工硬化をなくすために、加工途中に焼鈍を行う。仕上がり寸法はφ1.6が多い。
【0029】
セラミック微粒子を分散させてRhの拡散が遅く(緩慢)なるのは、金属の結晶粒界にセラミックが存在する為に、粒界を通って拡散するRhを防止すると考えられる。これによって一般的なPt−Rhシース型Pt−Rh熱電対より、
セラミック微粒子分散型シース熱電対の起電力低下が半分以下となる。
【0030】
図3は、1450℃の高温下での耐熱試験でのテストデータである。シースと熱電対素線は前述のものを使用し、シース径は1.6φである。また比較のため、セラミックを分散させない従来のJISのB型シース型熱電対についても同様の試験を行った。その結果、使用温度1450℃での500時間後の測定温度低下(熱起電力の低下)は、前者のものが後者の約1/2であった。
【0031】
前記の例では分散強化剤としてAl2O3の微細粉末を例に挙げた。Pt−Rh系貴金属熱電対の分散強化剤に使用する材料は、耐熱性(高融点、高強度)、耐酸化性、化学的安定性の良いものが必要であり、さらに分散強化剤として貴金属との馴染み性の良好なものを選択すべきである。
【0032】
例えば、酸化物で2000℃以上の融点を持つものとしては、Al2O3(融点2,053℃)、MgO(融点2,800℃)、ZrO2(融点2,900℃)、BeO(融点2,520℃)、ThO2(融点3,050℃)等がある。このうち、MgOは強度が弱く、破砕性がある。また、BeOには毒性があり、ThO2(トリア)は放射性がある。そのため、それらは一般に使用出来ない。従って酸化物系セラミックスで使用可能な分散強化剤は、Al2O3とZrO2となる。
【0033】
珪化物系セラミックスにおいては、融点が2000℃以上のものとしてMoSi2があり、これは耐酸化性もあるので、Pt−Rh系貴金属熱電対の分散強化剤としてAl2O3やZrO2と同様にして使用することが出来る。
他方、それ以外の珪化物、炭化物、硼化物系等のセラミックスは、前述した耐熱性、耐酸化性、化学的安定性の何れ少なくとも1つ以上の要請が欠如しており、使用することは出来ない。
【0034】
結論として、Pt−Rh系貴金属熱電対の分散強化剤に使用可能な酸化物系セラミック材としては、酸化物ではAl2O3とZrO2、珪化物ではMoSi2となる。
但し、酸化物であるAl2O3とZrO2は、基本的に絶縁材であるので、Pt−Rh系貴金属に添加してもPt−Rh系貴金属との間に熱起電力が生じない。これに対し、MoSi2は導電性を有するため、Pt−Rh系貴金属との間に熱起電力を生じる。PtとMoSi2との間の熱起電力を図4に示す。
【0035】
このような理由から、酸化物であるAl2O3とZrO2をPt−Rh系貴金属熱電対に添加する場合は、その添加に起因する熱起電力の発生の問題は生じないが、導電性を有するMoSi2を添加する場合は、一対の熱電対素線の双方に同じ量(同じ分子濃度または原子濃度)を添加しないと、添加しない熱電対と熱起電力が異なってくる。
【0036】
例えば、JISのR型熱電対の場合、1000℃において±0.25%の起電力誤差が生じる場合の一対の熱電対素線のMoSi2の濃度差は0.06at%(at%はatomic%の略称で、原子%と同じであり、以後at%で記載する)である。また、JISのB型熱電対の場合、1000℃において±0.25%の起電力誤差が生じる場合の一対の熱電対素線のMoSi2の濃度差は0.03at%である。実際の使用に当たっては、安全率を見込んでこれらの濃度差の1/3〜1/2の濃度差に抑える必要がある。
【0037】
他方、このようなMoSi2の特質を利用し、Pt−Rh系貴金属熱電対の熱起電力特性を修正することも出来る。
例えば、JISのB型熱電対では、600℃以下の温度での熱起電力が小さく、その温度域での分解能が悪く、利用出来ない。具体的には、JISのB型熱電対の500℃での熱起電力は約1.2mVであり、これはJISのK型熱電対の30℃における熱起電力に相当する。JISのB型熱電対の500℃での温度に対する熱起電力の分解能は、JISのK型熱電対の1/16である。さらに温度が下がると、JISのB型熱電対の熱起電力は下がり、100℃では温度に対する熱起電力の分解能は、JISのK型熱電対の1/124となってしまう。さらに40℃以下では、JISのB型熱電対の熱起電力は+(プラス)になったり−(マイナス)になったり温度に対して三次曲線的な変化を示すため、測定不能である。
【0038】
このようなJISのB型熱電対の600℃以下での温度特性の悪さを改善するため、JISのB型熱電対の熱電対素線にMoSi2を分散させる濃度を調整する。例えば、Pt6重量%Rhの熱電対素線側にMoSi2を0.1at%添加し、Pt30重量%Rhの熱電対素線側にMoSi2を1.1at%添加し、それら熱電素線に1at%の濃度差を与える。このMoSi2を添加したJISのB型熱電対と添加してないJISのB型熱電対の温度−起電力特性を図5に示す。前者の起電力特性が後者に比べて改善されている。
【0039】
なお、MoSi2は、水素を含む不活性ガス雰囲気のような還元雰囲気で使用すると、分解してSiが遊離し、800℃程度の低融点金属を作ったり、起電力が変化してしまう。このため、MoSi2を分散強化剤として添加したPt−Rh系貴金属熱電対は、還元雰囲気では使用出来ない。
【0040】
【発明の効果】
以上説明した通り、本発明による分散強化型Pt−Rh系貴金属熱電対では、熱電対素線やシースへの分散強化剤の添加により、高温において元素の移動がしづらくなり、再結晶が阻止されるため、高温下での使用における起電力の低下を小さくし、耐熱性の向上を図ることが出来る。併せてPt−Rh系貴金属熱電対の強度の増大を図ることが出来ると共に、その寿命を向上させることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明によるシース型Pt−Rh系貴金属熱電対の先端部分を示す縦断側面図である。
【図2】本発明によるシース型Pt−Rh系貴金属熱電対において、分散強化剤としてAl2O3の微細粉末を添加した場合のその添加量と引っ張り強さの関係を示すグラフである。
【図3】Pt−10重量%RhシースにAl2O3の微細粉末を添加して分散したものとそうでないものとの高温下での時間と見かけ上の測定温度との関係を示すグラフである。
【図4】PtとMoSi2との間の温度と熱起電力との関係示すグラフである。
【図5】熱電素線に1at%の濃度差を与えてMoSi2を添加したJISのB型熱電対と添加してないJISのB型熱電対の温度−起電力特性を示すグラフである。
【符号の説明】
1 熱電対素線
2 熱電対素線
3 無機絶縁粉体
4 シース
5 熱接点
Claims (4)
- 異なる成分からなる一対のPt−Rh系貴金属熱電対素線(1)、(2)を接合し、熱接点(5)を形成したPt−Rh系貴金属熱電対において、Pt−Rh系系合金に粒径0.1μm以下のAl2O3、ZrO2及びMoSi2から選択された微細粒子を分散強化剤として添加することにより、Pt−Rh系合金を分散強化型Pt−Rh系合金とし、これを前記Pt−Rh系貴金属熱電対素線(1)、(2)としたことを特徴とする分散強化型貴金属熱電対。
- Pt−Rh系貴金属熱電対素線(1)、(2)は金属シース(4)の中に収められると共に、金属シース(4)の中に充填した無機絶縁粉体(3)により絶縁され、金属シース(4)もPt−Rh系貴金属熱電対素線(1)、(2)と同様にAl2O3、ZrO2及びMoSi2から選択された微細粒子からなる分散強化剤が添加された分散強化型Pt−Rh系合金であることを特徴とする請求項1に記載の分散強化型貴金属熱電対。
- Pt−Rh系貴金属熱電対素線(1)、(2)及び/または金属シース(4)に、Al2O3、MgO、MoSi2から選択された微細粒子が0.1〜2原子%添加されていることを特徴とする請求項1または2に記載の分散強化型貴金属熱電対。
- Pt−Rh系貴金属熱電対素線(1)、(2)に導電性微細セラミックスであるMoSi2の微細粒子を配合比を変え、常温近傍の出力特性を向上させることを特徴とする請求項1、2または3に記載の分散強化型貴金属熱電対。
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