JP2004047406A - 非水電解質二次電池 - Google Patents
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Abstract
【課題】遷移金属及び/または遷移金属化合物(例えば、Cu及び/またはCu化合物など)を含む正極と、非水電解質と、リチウムを吸蔵・放出する材料を含む負極とを備え、LiClが、正極、非水電解質、及び負極の少なくともいずれかに含まれている非水電解質二次電池において、充放電反応により集電体の金属成分が非水電解質に溶解するのを抑制し、充放電可能にする。
【解決手段】正極の集電体として、実質的にNiまたはNi合金からなる集電体を用いることを特徴としている。
【選択図】 なし
【解決手段】正極の集電体として、実質的にNiまたはNi合金からなる集電体を用いることを特徴としている。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、非水電解質二次電池に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
塩化銅は、安価でかつ正極としての理論容量密度が高いため、リチウム電池研究の初期に一次電池用活物質として検討された(特許文献1及び非特許文献1〜3)。しかしながら、電解液の溶媒として有機溶媒を用いると、塩化銅は電解液への溶解性が著しいため、自己放電が非常に大きいという問題があった。
【0003】
本発明者らは、塩化銅が溶解しない電解液を見出し、この問題を解決した(特願2002−148581号)。
【0004】
【特許文献1】
米国特許第4,515,875号明細書
【非特許文献1】
M.L.Bhaskara Rao, J.Electrochem.Soc.114,13(1967)
【非特許文献2】
A.N.Dey, W.L.Bowden, H.C.Kuo, M.L.Gopikanth, C.R.Schloikjer and D.L.Foster, J.Electrochem.Soc.136,1618(1989)
【非特許文献3】
Dampier, F.W.Nelson, E.J.Toomey, L.PROCEEDINGS − ELECTROCHEMICAL SOCIETY PV Lithium Batteries 1998 VOL16,page(s) 500−511
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、塩化銅は、充電の際LiClを生成し、これが電解液に溶解して、Clイオンを発生する。このClイオンは、充電時に集電体の金属と反応して塩化物を生成する。このため、Alなどを集電体として用いることができず、Cuよりもイオン化傾向の低い高価なAuやPtを集電体として用いなければならなかった。
【0006】
本発明の目的は、充放電反応で塩素イオンを発生する非水電解質二次電池において、AuまたはPtを正極集電体として用いる必要がない非水電解質二次電池を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、遷移金属及び/または遷移金属化合物を含む正極と、非水電解質と、リチウムを吸蔵・放出する材料を含む負極とを備え、LiClが、正極、非水電解質、及び負極の少なくともいずれかに含まれている非水電解質二次電池であり、正極の集電体が、実質的にNiまたはNi合金からなることを特徴としている。
【0008】
本発明においては、正極集電体として、実質的にNiまたはNi合金からなる集電体を用いている。Niは、塩素イオンと反応し、NiCl2を生成する。このNiCl2は、環状カーボネートなどの溶媒中で安定であるため、正極集電体の表面に付着する。このため、正極集電体の表面には、安定なNiCl2の被膜が形成され、この被膜により、正極集電体からのNiの溶解が抑制される。このため、安定した充放電を行うことができる。
【0009】
本発明において、LiClは、正極、非水電解質、及び負極の少なくともいずれかに含まれる。非水電解質中に溶解したLiClが、充放電反応に関与するので、非水電解質中にLiClが含まれていることが好ましい。しかしながら、非水電解質には多量のLiClを溶解させることができないので、LiClは正極及び/または負極に含ませることができる。一般には、正極にLiClを含ませることが好ましい。
【0010】
LiClは、放電生成物の形態であり、放電によりLiClをLiとClに分け、Liを放出するとともに、Clを吸蔵する必要がある。放電の際には、LiとClからLiClを生成させる必要がある。
【0011】
本発明において正極に含まれる遷移金属及び遷移金属化合物は、充電の際に生じたClを貯蔵するものである。遷移金属としては、例えば、Cu、Fe、Ni、Mn、Co、Ti、及びMoなどが挙げられる。遷移金属化合物としては、これらの遷移金属の酸化物、硫化物、ハロゲン化物、及び酸素酸塩などが挙げられる。
Clは、以下のようにして遷移金属または遷移金属化合物に貯蔵することができる。
【0012】
(遷移金属及び遷移金属のハロゲン化物)
遷移金属を用いる場合には、遷移金属の塩化物を形成させることによりClを貯蔵することができる。遷移金属としては、Cu、Ni、Fe、Ti、Co、Mnなどが挙げられ、できるだけ貴な金属を用いれば、電位を高くすることができるため都合がよい。但し、Au及びAgのような貴金属は高価なため実用性が失われるので、実用性の観点からはCuが最も好ましい。
【0013】
塩化銅にはCuCl2とCuClの2種類があり、CuCl2は放電によりCuClを経てCuまで還元される。従って、Cu+LiClの代わりに、CuCl+LiClを使ってもよい。
【0014】
また、CuBr、CuBr2、CuI等の遷移金属のハロゲン化物を用いてもよい。
Cl以上の原子量をもつハロゲン元素の銅化合物を用いる場合には、以下のように2つの場合に分けて考えることができる。1つはCuClを用いた場合、もう1つはClより重いハロゲン元素を用いた場合である。CuClを用いた場合、充電の際にCuClがCuCl2に酸化され、放電の際にCuCl2がCuClに還元される反応が生じる。Clより重いハロゲン元素を用いた場合、ハロゲン元素は原子量が大きくなるに従い、酸化性が弱くなるため、充電の際にCl−イオンで酸化されると考えられる。
【0015】
すなわちCuBrを用いた場合には、Cl−1によってCuBrClまたはCuClになると考えられる。CuBr2の場合には、Cl−によってCuBrClまたはCuCl2になると考えられる。
【0016】
充電によりCu+2LiClからCuCl2を生成する場合、その理論容量は361mAh/gとなり、非常に大きいため、高い容量密度の電池を期待することができる。放電電位は3.4Vと2.6Vの2段階となるが、3.4Vの部分のみを使用すれば、約180mAh/gの理論容量が得られる。2.6Vの部分のみを使用すれば、約253mAh/gの理論容量が得られる。
【0017】
(遷移金属の硫化物)
Clは、遷移金属の硫化物に貯蔵してもよい。硫化物に+電荷を与えることにより、イオン性の化合物を形成させて、Cl−を保持することができる。硫化物としては、CuSのような非層間化合物であってもよいし、TiS2及びMoS2のような層間化合物であってもよい。
【0018】
CuSを用いた場合には、充電によりCuSが酸化され、CuS全体で電子が不足する状態となるが、この電荷補償としてCl−が供給され、見かけ上(CuS)x+・xCl−という構造が生成すると考えられる。(CuS)x+は、(Cu2+S2−)x+であると考えられ、その実態は現在のところ不明である。しかしながら、S2−が部分的あるいは全体的に酸化されたものと考えれば、例えばx=2の場合、Cu2+・S・2Cl−と考えることもできる。これは、CuCl2とSの固溶体とも考えられるが、放電電位及び放電曲線の形状がCuCl2と異なることが確認されているため断定はできない。もし、CuCl2が生成するのではなく、Cu2+・S・2Cl−のような状態が生成するなら、この充電生成物の溶解性は、CuCl2と異なることが予想され、CuCl2が溶解するような通常の有機溶媒でも使用できる可能性があると考えられる。
【0019】
CuSのような非層間化合物の場合には、上述のような機構でClが保持されると考えられる。非層間化合物の硫化物としては、CuSの他に、Cu2S、FeS、FeS2、NiS、MnS、CoSなどが挙げられる。
【0020】
硫化物が層間化合物である場合には、層間にCl−が挿入され、これを脱離することができると考えられる。このような層間化合物の硫化物としては、TiS2、MoS2などが挙げられる。
また、金属の表面をこれらの金属硫化物で覆うことにより、溶解しやすい金属の溶解を抑制し、充放電効率を向上させ得ると考えられる。
【0021】
(遷移金属の酸化物)
Clは、遷移金属の酸化物に貯蔵させてもよい。遷移金属酸化物は、遷移金属の価数を変化させることができるので、充電によって酸化されて増加する酸化数は遷移金属の価数変化により受け入れることができる。従って、その価数変化に応じてClを保持することが可能である。例えば、Clではなく、Liイオンの場合、このような現象は数多く観察されており、MnO2、MoO3、MoO2などにLiイオンを可逆的に保持させ得ることが確認されている。酸化物がLiイオンを保持する場合、酸化物は還元されることになる。酸化物は酸化されている状態で安定であるから、これが還元された場合、安定性は減少することになる。しかしながら、Clを保持させる場合、酸化物は酸化されることになり、安定性が減少するとは考えにくい。従って、Liイオンを保持する場合より安定性が高くなるので、可逆性の高い化合物が得られる可能性が高い。充電により酸化されるので、酸化数が低い遷移金属酸化物の方がより多くのClを保持できると考えられる。酸化数が低い遷移金属酸化物としては、MoO2、MnO、Mn2O3、Mn3O4、Fe3O4などが挙げられる。酸化数が高い酸化物であっても、その遷移金属がとり得る最高酸化数でない場合には、Clを保持できると考えられる。例えば、MnO2のMnの酸化数は4価であるが、Mnは7価までとり得るから、これを酸化することが可能であり、Clを保持することが可能であると考えられる。この場合、遷移金属の酸化数が高いので、放電電位がより高くなることが期待できる。高い酸化数の酸化物としては、MoO3、MnO2などが挙げられる。
【0022】
(遷移金属の酸素酸塩)
また、遷移金属の酸素酸塩にClを貯蔵させることができる。この種の化合物は、上述の遷移金属酸化物と同様の機構でClを貯蔵することができると考えらる。酸素酸塩としては、リン酸塩、硫酸塩、ホウ酸塩、炭素酸塩などが挙げられる。Clの貯蔵量の観点からは、酸化数の低いものが好ましく、放電電位の観点からは高い酸化数のものが好ましいと考えられる。しかしながら、電位が高すぎると、電解液の分解が優先して生じるので、電位が高すぎるものは好ましくない。Clを保持させることができる遷移金属の酸素酸塩としては、FeSO4、Fe3(PO4)2、FePO4、CoPO4、NiPO4、MnPO4などが挙げられる。
【0023】
また、本発明に従う他の局面においては、遷移金属の塩化物が正極に含まれていてもよい。
すなわち、本発明の他の局面に従う非水電解質二次電池は、遷移金属の塩化物を含む正極と、非水電解質と、リチウムを吸蔵・放出する材料を含む負極とを備え、正極の集電体が、実質的にNiまたはNi合金からなることを特徴としている。
【0024】
本発明において、遷移金属としては、特にCuが好ましく用いられる。従って、遷移金属の塩化物としては、CuCl2及び/またはCuClが好ましく用いられる。
【0025】
本発明において、正極集電体は、実質的にNiまたはNi合金からなる。Ni合金としては、ニッケル・クロム合金、ニッケル・アルミニウム合金、ニッケル・シリコン合金、ニッケル・コバルト合金、ニッケル・銅合金、ニッケル・鉄合金、ニッケル・チタニウム合金、ニッケル・モリブデン合金、ニッケル・クロム・鉄合金、ニッケル・クロム・シリコン合金、ニッケル・クロム・アルミニウム合金などが挙げられる。
【0026】
本発明において用いる非水電解質には、塩素を含むリチウム塩が溶質てして含有されていることが好ましい。塩素を含むリチウム塩としては、LiAlCl4、LiCl・LiPF6、及びLiCl・(C6F5)3Bなどが挙げられる。
【0027】
本発明において用いる非水電解質の溶媒としては、フッ素を含む溶媒が好ましく用いられる。フッ素を含む溶媒としては、トリフルオロプロピレンカーボネート(TFPC)のようなフッ素化炭酸エステル、及びH(CF2)4CH2−O−CF2CF2Hのようなフッ素化エーテル等のフッ素化された有機溶媒が、挙げられる。本発明者は、これらの有機溶媒が、塩化銅を溶解しないことを見出している。TFPCは、環状炭酸エステルであるプロピレンカーボネート(PC)をフッ素化したものであるが、同じ炭酸エステルであるエチレンカーボネート(EC)をフッ素化したものや、鎖状の炭酸エステルをフッ素化したもの、さらにはγ−ブチロラクトン(γBL)などのエステルやTHFなどのエーテルをフッ素化したものも塩化銅を溶解しない溶媒として使用できる可能性がある。
【0028】
本発明における負極材料は、リチウムを吸蔵・放出し得る材料であれば特に限定されるものではないが、炭素材料や、ケイ素、ゲルマニウム及び錫などのリチウムと合金化し得る材料が好ましく用いられる。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において適宜変更して実施することが可能なものである。
【0030】
(実施例1)
20mm×20mm×0.02mm(厚み)のNi箔70mgを作用極とし、対極及び参照極にリチウム金属を用いて、試験セルを作製した。電解液としては、1モル/リットルのLiAlCl4を含有したTFPC(トリフルオロプロピレンカーボネート)に、500mg/リットルのLiClを溶解させた電解液を用いた。作用極と対極の間にセパレータを挟み、参照極とともにこの電解液に浸漬し、試験セルとした。
【0031】
電位走査速度2V/時間、電位走査範囲3.0〜5.0V(vs.Li/Li+)で電位走査試験を行った。得られたサイクリックボルタモグラムを図1に示す。
【0032】
図1から明らかなように、1サイクル目に、4.7V(vs.Li/Li+)以上で、Niの溶解と考えられる酸化電流が急激に流れたが、2サイクル目には、5.0V(vs.Li/Li+)までほとんど電流が流れなかった。これは、1サイクル目にNi箔の表面にNiCl2の被膜が形成され、この被膜がNiの溶解を抑制するためであると考えられる。
以上の結果から、Ni箔を集電体として用いることにより、少なくとも4.5V(vs.Li/Li+)まで充電を行えることがわかった。
【0033】
(実施例2)
Cu粉末5mgと、LiCl15mgと、導電材としての黒鉛15mgと、結着剤としてのポリテトラフルオロエチレン5mgとを混合し、150kg/cm2の成形圧力でプレスして、ペレット電極を作製した。このペレット電極をNi箔からなる集電体の上に貼り付けて作用極とした。対極及び参照極としては、リチウム金属を用い、電解液としては、実施例1で作製したものと同様のものを用いた。作用極と対極の間にセパレータを挟み、参照極とともに電解液に浸漬し、試験セルを組み立てた。充放電電流は0.1mAとし、充電時間11時間、放電終止電圧1.5V(vs.Li/Li+)として、充電及び放電の順で充放電試験を行った。
【0034】
図2は、このときの充放電特性を示す図である。図2から明らかなように、放電容量は、190mAh/gであり、放電電位はCuCl2の放電に対応する3.4V(vs.Li/Li+)とCuClの放電に対応する2.6V(vs.Li/Li+)の2段が確認された。また、充放電効率は95%と高く、Niはほとんど溶解していないことがわかる。
【0035】
以上の結果から、Ni箔を正極集電体として用いることにより、充放電が可能であることがわかった。
【0036】
【発明の効果】
本発明によれば、充放電反応で塩素イオンを発生する非水電解質二次電池において、集電体の金属が電解液に溶解することなく、充放電可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に従う実施例1におけるサイクリックボルタモグラムを示す図。
【図2】本発明に従う実施例2における充放電特性を示す図。
【発明の属する技術分野】
本発明は、非水電解質二次電池に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
塩化銅は、安価でかつ正極としての理論容量密度が高いため、リチウム電池研究の初期に一次電池用活物質として検討された(特許文献1及び非特許文献1〜3)。しかしながら、電解液の溶媒として有機溶媒を用いると、塩化銅は電解液への溶解性が著しいため、自己放電が非常に大きいという問題があった。
【0003】
本発明者らは、塩化銅が溶解しない電解液を見出し、この問題を解決した(特願2002−148581号)。
【0004】
【特許文献1】
米国特許第4,515,875号明細書
【非特許文献1】
M.L.Bhaskara Rao, J.Electrochem.Soc.114,13(1967)
【非特許文献2】
A.N.Dey, W.L.Bowden, H.C.Kuo, M.L.Gopikanth, C.R.Schloikjer and D.L.Foster, J.Electrochem.Soc.136,1618(1989)
【非特許文献3】
Dampier, F.W.Nelson, E.J.Toomey, L.PROCEEDINGS − ELECTROCHEMICAL SOCIETY PV Lithium Batteries 1998 VOL16,page(s) 500−511
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、塩化銅は、充電の際LiClを生成し、これが電解液に溶解して、Clイオンを発生する。このClイオンは、充電時に集電体の金属と反応して塩化物を生成する。このため、Alなどを集電体として用いることができず、Cuよりもイオン化傾向の低い高価なAuやPtを集電体として用いなければならなかった。
【0006】
本発明の目的は、充放電反応で塩素イオンを発生する非水電解質二次電池において、AuまたはPtを正極集電体として用いる必要がない非水電解質二次電池を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、遷移金属及び/または遷移金属化合物を含む正極と、非水電解質と、リチウムを吸蔵・放出する材料を含む負極とを備え、LiClが、正極、非水電解質、及び負極の少なくともいずれかに含まれている非水電解質二次電池であり、正極の集電体が、実質的にNiまたはNi合金からなることを特徴としている。
【0008】
本発明においては、正極集電体として、実質的にNiまたはNi合金からなる集電体を用いている。Niは、塩素イオンと反応し、NiCl2を生成する。このNiCl2は、環状カーボネートなどの溶媒中で安定であるため、正極集電体の表面に付着する。このため、正極集電体の表面には、安定なNiCl2の被膜が形成され、この被膜により、正極集電体からのNiの溶解が抑制される。このため、安定した充放電を行うことができる。
【0009】
本発明において、LiClは、正極、非水電解質、及び負極の少なくともいずれかに含まれる。非水電解質中に溶解したLiClが、充放電反応に関与するので、非水電解質中にLiClが含まれていることが好ましい。しかしながら、非水電解質には多量のLiClを溶解させることができないので、LiClは正極及び/または負極に含ませることができる。一般には、正極にLiClを含ませることが好ましい。
【0010】
LiClは、放電生成物の形態であり、放電によりLiClをLiとClに分け、Liを放出するとともに、Clを吸蔵する必要がある。放電の際には、LiとClからLiClを生成させる必要がある。
【0011】
本発明において正極に含まれる遷移金属及び遷移金属化合物は、充電の際に生じたClを貯蔵するものである。遷移金属としては、例えば、Cu、Fe、Ni、Mn、Co、Ti、及びMoなどが挙げられる。遷移金属化合物としては、これらの遷移金属の酸化物、硫化物、ハロゲン化物、及び酸素酸塩などが挙げられる。
Clは、以下のようにして遷移金属または遷移金属化合物に貯蔵することができる。
【0012】
(遷移金属及び遷移金属のハロゲン化物)
遷移金属を用いる場合には、遷移金属の塩化物を形成させることによりClを貯蔵することができる。遷移金属としては、Cu、Ni、Fe、Ti、Co、Mnなどが挙げられ、できるだけ貴な金属を用いれば、電位を高くすることができるため都合がよい。但し、Au及びAgのような貴金属は高価なため実用性が失われるので、実用性の観点からはCuが最も好ましい。
【0013】
塩化銅にはCuCl2とCuClの2種類があり、CuCl2は放電によりCuClを経てCuまで還元される。従って、Cu+LiClの代わりに、CuCl+LiClを使ってもよい。
【0014】
また、CuBr、CuBr2、CuI等の遷移金属のハロゲン化物を用いてもよい。
Cl以上の原子量をもつハロゲン元素の銅化合物を用いる場合には、以下のように2つの場合に分けて考えることができる。1つはCuClを用いた場合、もう1つはClより重いハロゲン元素を用いた場合である。CuClを用いた場合、充電の際にCuClがCuCl2に酸化され、放電の際にCuCl2がCuClに還元される反応が生じる。Clより重いハロゲン元素を用いた場合、ハロゲン元素は原子量が大きくなるに従い、酸化性が弱くなるため、充電の際にCl−イオンで酸化されると考えられる。
【0015】
すなわちCuBrを用いた場合には、Cl−1によってCuBrClまたはCuClになると考えられる。CuBr2の場合には、Cl−によってCuBrClまたはCuCl2になると考えられる。
【0016】
充電によりCu+2LiClからCuCl2を生成する場合、その理論容量は361mAh/gとなり、非常に大きいため、高い容量密度の電池を期待することができる。放電電位は3.4Vと2.6Vの2段階となるが、3.4Vの部分のみを使用すれば、約180mAh/gの理論容量が得られる。2.6Vの部分のみを使用すれば、約253mAh/gの理論容量が得られる。
【0017】
(遷移金属の硫化物)
Clは、遷移金属の硫化物に貯蔵してもよい。硫化物に+電荷を与えることにより、イオン性の化合物を形成させて、Cl−を保持することができる。硫化物としては、CuSのような非層間化合物であってもよいし、TiS2及びMoS2のような層間化合物であってもよい。
【0018】
CuSを用いた場合には、充電によりCuSが酸化され、CuS全体で電子が不足する状態となるが、この電荷補償としてCl−が供給され、見かけ上(CuS)x+・xCl−という構造が生成すると考えられる。(CuS)x+は、(Cu2+S2−)x+であると考えられ、その実態は現在のところ不明である。しかしながら、S2−が部分的あるいは全体的に酸化されたものと考えれば、例えばx=2の場合、Cu2+・S・2Cl−と考えることもできる。これは、CuCl2とSの固溶体とも考えられるが、放電電位及び放電曲線の形状がCuCl2と異なることが確認されているため断定はできない。もし、CuCl2が生成するのではなく、Cu2+・S・2Cl−のような状態が生成するなら、この充電生成物の溶解性は、CuCl2と異なることが予想され、CuCl2が溶解するような通常の有機溶媒でも使用できる可能性があると考えられる。
【0019】
CuSのような非層間化合物の場合には、上述のような機構でClが保持されると考えられる。非層間化合物の硫化物としては、CuSの他に、Cu2S、FeS、FeS2、NiS、MnS、CoSなどが挙げられる。
【0020】
硫化物が層間化合物である場合には、層間にCl−が挿入され、これを脱離することができると考えられる。このような層間化合物の硫化物としては、TiS2、MoS2などが挙げられる。
また、金属の表面をこれらの金属硫化物で覆うことにより、溶解しやすい金属の溶解を抑制し、充放電効率を向上させ得ると考えられる。
【0021】
(遷移金属の酸化物)
Clは、遷移金属の酸化物に貯蔵させてもよい。遷移金属酸化物は、遷移金属の価数を変化させることができるので、充電によって酸化されて増加する酸化数は遷移金属の価数変化により受け入れることができる。従って、その価数変化に応じてClを保持することが可能である。例えば、Clではなく、Liイオンの場合、このような現象は数多く観察されており、MnO2、MoO3、MoO2などにLiイオンを可逆的に保持させ得ることが確認されている。酸化物がLiイオンを保持する場合、酸化物は還元されることになる。酸化物は酸化されている状態で安定であるから、これが還元された場合、安定性は減少することになる。しかしながら、Clを保持させる場合、酸化物は酸化されることになり、安定性が減少するとは考えにくい。従って、Liイオンを保持する場合より安定性が高くなるので、可逆性の高い化合物が得られる可能性が高い。充電により酸化されるので、酸化数が低い遷移金属酸化物の方がより多くのClを保持できると考えられる。酸化数が低い遷移金属酸化物としては、MoO2、MnO、Mn2O3、Mn3O4、Fe3O4などが挙げられる。酸化数が高い酸化物であっても、その遷移金属がとり得る最高酸化数でない場合には、Clを保持できると考えられる。例えば、MnO2のMnの酸化数は4価であるが、Mnは7価までとり得るから、これを酸化することが可能であり、Clを保持することが可能であると考えられる。この場合、遷移金属の酸化数が高いので、放電電位がより高くなることが期待できる。高い酸化数の酸化物としては、MoO3、MnO2などが挙げられる。
【0022】
(遷移金属の酸素酸塩)
また、遷移金属の酸素酸塩にClを貯蔵させることができる。この種の化合物は、上述の遷移金属酸化物と同様の機構でClを貯蔵することができると考えらる。酸素酸塩としては、リン酸塩、硫酸塩、ホウ酸塩、炭素酸塩などが挙げられる。Clの貯蔵量の観点からは、酸化数の低いものが好ましく、放電電位の観点からは高い酸化数のものが好ましいと考えられる。しかしながら、電位が高すぎると、電解液の分解が優先して生じるので、電位が高すぎるものは好ましくない。Clを保持させることができる遷移金属の酸素酸塩としては、FeSO4、Fe3(PO4)2、FePO4、CoPO4、NiPO4、MnPO4などが挙げられる。
【0023】
また、本発明に従う他の局面においては、遷移金属の塩化物が正極に含まれていてもよい。
すなわち、本発明の他の局面に従う非水電解質二次電池は、遷移金属の塩化物を含む正極と、非水電解質と、リチウムを吸蔵・放出する材料を含む負極とを備え、正極の集電体が、実質的にNiまたはNi合金からなることを特徴としている。
【0024】
本発明において、遷移金属としては、特にCuが好ましく用いられる。従って、遷移金属の塩化物としては、CuCl2及び/またはCuClが好ましく用いられる。
【0025】
本発明において、正極集電体は、実質的にNiまたはNi合金からなる。Ni合金としては、ニッケル・クロム合金、ニッケル・アルミニウム合金、ニッケル・シリコン合金、ニッケル・コバルト合金、ニッケル・銅合金、ニッケル・鉄合金、ニッケル・チタニウム合金、ニッケル・モリブデン合金、ニッケル・クロム・鉄合金、ニッケル・クロム・シリコン合金、ニッケル・クロム・アルミニウム合金などが挙げられる。
【0026】
本発明において用いる非水電解質には、塩素を含むリチウム塩が溶質てして含有されていることが好ましい。塩素を含むリチウム塩としては、LiAlCl4、LiCl・LiPF6、及びLiCl・(C6F5)3Bなどが挙げられる。
【0027】
本発明において用いる非水電解質の溶媒としては、フッ素を含む溶媒が好ましく用いられる。フッ素を含む溶媒としては、トリフルオロプロピレンカーボネート(TFPC)のようなフッ素化炭酸エステル、及びH(CF2)4CH2−O−CF2CF2Hのようなフッ素化エーテル等のフッ素化された有機溶媒が、挙げられる。本発明者は、これらの有機溶媒が、塩化銅を溶解しないことを見出している。TFPCは、環状炭酸エステルであるプロピレンカーボネート(PC)をフッ素化したものであるが、同じ炭酸エステルであるエチレンカーボネート(EC)をフッ素化したものや、鎖状の炭酸エステルをフッ素化したもの、さらにはγ−ブチロラクトン(γBL)などのエステルやTHFなどのエーテルをフッ素化したものも塩化銅を溶解しない溶媒として使用できる可能性がある。
【0028】
本発明における負極材料は、リチウムを吸蔵・放出し得る材料であれば特に限定されるものではないが、炭素材料や、ケイ素、ゲルマニウム及び錫などのリチウムと合金化し得る材料が好ましく用いられる。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において適宜変更して実施することが可能なものである。
【0030】
(実施例1)
20mm×20mm×0.02mm(厚み)のNi箔70mgを作用極とし、対極及び参照極にリチウム金属を用いて、試験セルを作製した。電解液としては、1モル/リットルのLiAlCl4を含有したTFPC(トリフルオロプロピレンカーボネート)に、500mg/リットルのLiClを溶解させた電解液を用いた。作用極と対極の間にセパレータを挟み、参照極とともにこの電解液に浸漬し、試験セルとした。
【0031】
電位走査速度2V/時間、電位走査範囲3.0〜5.0V(vs.Li/Li+)で電位走査試験を行った。得られたサイクリックボルタモグラムを図1に示す。
【0032】
図1から明らかなように、1サイクル目に、4.7V(vs.Li/Li+)以上で、Niの溶解と考えられる酸化電流が急激に流れたが、2サイクル目には、5.0V(vs.Li/Li+)までほとんど電流が流れなかった。これは、1サイクル目にNi箔の表面にNiCl2の被膜が形成され、この被膜がNiの溶解を抑制するためであると考えられる。
以上の結果から、Ni箔を集電体として用いることにより、少なくとも4.5V(vs.Li/Li+)まで充電を行えることがわかった。
【0033】
(実施例2)
Cu粉末5mgと、LiCl15mgと、導電材としての黒鉛15mgと、結着剤としてのポリテトラフルオロエチレン5mgとを混合し、150kg/cm2の成形圧力でプレスして、ペレット電極を作製した。このペレット電極をNi箔からなる集電体の上に貼り付けて作用極とした。対極及び参照極としては、リチウム金属を用い、電解液としては、実施例1で作製したものと同様のものを用いた。作用極と対極の間にセパレータを挟み、参照極とともに電解液に浸漬し、試験セルを組み立てた。充放電電流は0.1mAとし、充電時間11時間、放電終止電圧1.5V(vs.Li/Li+)として、充電及び放電の順で充放電試験を行った。
【0034】
図2は、このときの充放電特性を示す図である。図2から明らかなように、放電容量は、190mAh/gであり、放電電位はCuCl2の放電に対応する3.4V(vs.Li/Li+)とCuClの放電に対応する2.6V(vs.Li/Li+)の2段が確認された。また、充放電効率は95%と高く、Niはほとんど溶解していないことがわかる。
【0035】
以上の結果から、Ni箔を正極集電体として用いることにより、充放電が可能であることがわかった。
【0036】
【発明の効果】
本発明によれば、充放電反応で塩素イオンを発生する非水電解質二次電池において、集電体の金属が電解液に溶解することなく、充放電可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に従う実施例1におけるサイクリックボルタモグラムを示す図。
【図2】本発明に従う実施例2における充放電特性を示す図。
Claims (9)
- 遷移金属及び/または遷移金属化合物を含む正極と、非水電解質と、リチウムを吸蔵・放出する材料を含む負極とを備え、LiClが、前記正極、前記非水電解質、及び前記負極の少なくともいずれかに含まれている非水電解質二次電池において、
前記正極の集電体が、実質的にNiまたはNi合金からなることを特徴とする非水電解質二次電池。 - 前記遷移金属がCuであることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池。
- 前記遷移金属化合物がCu化合物であることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池。
- 遷移金属の塩化物を含む正極と、非水電解質と、リチウムを吸蔵・放出する材料を含む負極とを備える非水電解質二次電池において、
前記正極の集電体が実質的にNiまたはNi合金からなることを特徴とする非水電解質二次電池。 - 遷移金属の塩化物が、CuCl2及び/またはCuClであることを特徴とする請求項4に記載の非水電解質二次電池。
- 前記非水電解質が、塩素を含むリチウム塩を溶質として含有していることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
- 前記塩素を含むリチウム塩が、LiAlCl4、LiCl・LiPF6、及びLiCl・(C6F5)3Bから選ばれる少なくとも1種のリチウム塩であることを特徴とする請求項6に記載の非水電解質二次電池。
- 前記非水電解質が、フッ素を含む溶媒を含有していることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
- 前記負極材料が、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、及び錫から選ばれる少なくとも1種からなることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
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