JP2004034555A - 液体噴射ヘッドの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】シリコン単結晶基板からなるシリコンウェハ100上に振動板及び圧電素子を形成する工程と、圧電素子を封止する圧電素子保持部を有する封止基板となる封止基板形成材120をシリコンウェハ100上に接合する工程と、封止基材形成材120の少なくとも周縁部に耐アルカリ性を有する材料からなる封止フィルム140を貼着して封止基板形成材120の接合面とは反対側の表面を封止する工程と、シリコンウェハ100をエッチングすることにより圧力発生室を形成する工程と、封止フィルム140を除去する工程と、シリコンウェハ100及び封止基板形成材120を所定の大きさに分割する工程とを有する。
【選択図】 図6
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、液体を噴射するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板の表面に圧電素子を形成して、圧電素子の変位により液体を噴射させる液体噴射ヘッドの製造方法に関し、特に、液体としてインクを吐出するインクジェット式記録ヘッドの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドには、圧電素子の軸方向に伸長、収縮する縦振動モードの圧電アクチュエータを使用したものと、たわみ振動モードの圧電アクチュエータを使用したものの2種類が実用化されている。
【0003】
前者は圧電素子の端面を振動板に当接させることにより圧力発生室の容積を変化させることができて、高密度印刷に適したヘッドの製作が可能である反面、圧電素子をノズル開口の配列ピッチに一致させて櫛歯状に切り分けるという困難な工程や、切り分けられた圧電素子を圧力発生室に位置決めして固定する作業が必要となり、製造工程が複雑であるという問題がある。
【0004】
これに対して後者は、圧電材料のグリーンシートを圧力発生室の形状に合わせて貼付し、これを焼成するという比較的簡単な工程で振動板に圧電素子を作り付けることができるものの、たわみ振動を利用する関係上、ある程度の面積が必要となり、高密度配列が困難であるという問題がある。
【0005】
一方、後者の記録ヘッドの不都合を解消すべく、特開平5−286131号公報に見られるように、振動板の表面全体に亙って成膜技術により均一な圧電材料層を形成し、この圧電材料層をリソグラフィ法により圧力発生室に対応する形状に切り分けて各圧力発生室毎に独立するように圧電素子を形成したものが提案されている。
【0006】
これによれば圧電素子を振動板に貼付ける作業が不要となって、リソグラフィ法という精密で、かつ簡便な手法で圧電素子を高密度に作り付けることができるばかりでなく、圧電素子の厚みを薄くできて高速駆動が可能になるという利点がある。
【0007】
また、一般的に、圧力発生室が形成される流路形成基板の圧電素子側の面には、この圧電素子を封止する圧電素子保持部を有する封止基板が接合されており、これにより、圧電素子の外部環境に起因する破壊が防止されている。
【0008】
このインクジェット式記録ヘッドの製造方法としては、まず流路形成基板となるシリコンウェハの表面に圧電素子を形成し、次いでシリコンウェハ上に封止基板となる封止基板形成材を接合した後、シリコンウェハの封止基板形成材とは反対側の面を異方性エッチングすることによって圧力発生室等を形成する。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
このようなインクジェット式記録ヘッドの製造方法では、シリコンウェハに封止基板形成材を接合後、異方性エッチングによって圧力発生室を形成しているため、圧力発生室を形成する前に、例えば、樹脂材料等を塗布して硬化することによって耐エッチング性を有する保護膜を封止基板形成材の表面に形成している。
【0010】
一般的に、封止基板形成材には、各圧力発生室の共通インク室、あるいは圧電素子の配線を引き出すための連通孔等、封止基板形成材を厚さ方向に貫通する貫通孔が形成されているため、圧力発生室を異方性エッチングによって形成する際にエッチング液による圧電素子等の破壊を防止するために保護膜を設ける必要がある。
【0011】
また、封止基板形成材が、シリコンウェハと同一の材料で形成されている場合には、異方性エッチングによって圧力発生室を形成する際に、封止基板形成材がエッチングされるのを防止するために保護膜を設けておく必要がある。
【0012】
しかしながら、従来の製造方法では、このような保護膜は、封止基板上に樹脂材料等を塗布して硬化させることにより形成しているため、保護膜を形成する作業に比較的手間がかかっていた。また、このような保護膜は、圧力発生室形成後にエッチング等によって除去しているため、保護膜の除去にも手間がかかり、製造効率が低くコストが高くなってしまうという問題がある。
【0013】
また、上述したように封止基板形成材には貫通孔等が形成されており形状が複雑であるため、保護膜によって封止基板形成材を完全に保護するのは難しいという問題がある。
【0014】
なお、このような問題は、インクジェット式記録ヘッドに限って発生するものではなく、勿論、他の液体噴射ヘッドにおいても同様に発生する。
【0015】
本発明は、このような事情に鑑み、圧力発生室を良好に形成することができ、且つ製造効率を向上することのできる液体噴射ヘッドの製造方法を提供することを課題とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、ノズル開口に連通する圧力発生室が画成される流路形成基板と、該流路形成基板上に振動板を介して設けられて前記圧力発生室に圧力を付与する圧電素子とを具備する液体噴射ヘッドの製造方法において、シリコン単結晶基板からなるシリコンウェハ上に前記振動板及び前記圧電素子を形成する工程と、前記圧電素子を封止する圧電素子保持部を有する封止基板となる封止基板形成材を前記シリコンウェハ上に接合する工程と、耐アルカリ性を有する材料からなり前記封止基板形成材の接合面とは反対側の表面を覆う封止フィルムを当該封止基板形成材の少なくとも周縁部に貼着することによりその表面を封止する工程と、前記シリコンウェハをエッチングすることにより前記圧力発生室を形成する工程と、前記封止フィルムを除去する工程と、前記シリコンウェハ及び前記封止基板形成材を所定の大きさに分割する工程とを有することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0017】
かかる第1の態様では、シリコンウェハに圧力発生室等をエッチングにより形成する際には、封止基板形成材の表面が封止フィルムにより完全に封止されているため、例えば、KOH等のエッチング液が封止基板形成材に形成された貫通孔を介してシリコンウェハの圧電素子側の面に流れ込むことがない。これにより、所定の領域だけをエッチングでき、各圧力発生室を良好に形成することができる。
【0018】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記封止基板形成材の表面を封止する工程では、前記封止フィルムと前記封止基板形成材の表面との間に保護フィルムを介在させて、前記封止基板形成材の封止基板となる領域と前記封止フィルムとの接触を防止したことを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0019】
かかる第2の態様では、封止フィルムと封止基板形成材の表面との接触を保護フィルムによって防止することができる。これにより、封止フィルムの塵や埃等の異物が封止基板形成材の表面に付着して汚れるのを防止することができる。なお、このように保護フィルムを介在させることは、封止フィルムが封止基板形成材の表面に実質的に接触しない領域を形成することにもなり、封止基板形成材の表面を封止フィルムに付着した異物から保護する作用の他に封止フィルムを除去し易くするという作用もある。
【0020】
本発明の第3の態様は、第2の態様において、前記封止フィルムと前記保護フィルムとを接着することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0021】
かかる第3の態様では、保護フィルムが封止フィルムに接着されているため、封止フィルムを除去する際に保護フィルムも同時に除去することができる。これにより、保護フィルムの除去作業が簡略化できて、製造効率を向上させることができる。
【0022】
本発明の第4の態様は、第2又は3の態様において、前記保護フィルムがフッ素樹脂で形成されていることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0023】
かかる第4の態様では、保護フィルムを封止基板形成材に対して実質的に干渉しない材料、すなわち、封止基板形成材の表面に危害を与えない材料で形成することにより、封止基板形成材の表面を確実に保護できる。
【0024】
本発明の第5の態様は、第1〜4の何れかの態様において、前記封止フィルムを除去する工程では、前記封止フィルムを当該封止フィルムが貼着された領域の内側で切断することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0025】
かかる第5の態様では、封止フィルムを比較的容易に且つ完全に除去でき、これにより、製造効率を向上させることができる。
【0026】
本発明の第6の態様は、第1〜5の何れかの態様において、前記シリコンウェハの前記封止基板形成材との接合面とは反対側の面には犠牲ウェハが予め接合されており、前記封止基板形成材の他方面を封止する工程後に、前記犠牲ウェハをエッチングにより除去する工程を有することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0027】
かかる第6の態様では、シリコンウェハの剛性が向上し取り扱いが容易になる。また、犠牲ウェハをエッチングにより除去する際には、封止基板形成材の表面が封止フィルムにより完全に封止されているため、エッチング液が封止基板形成材に形成された貫通孔を介してシリコンウェハの圧電素子側の面に流れ込むことがない。したがって、所定の領域だけをエッチングでき、犠牲ウェハを確実に除去できる。
【0028】
本発明の第7の態様は、第1〜6の何れかの態様において、前記封止フィルムをエポキシ系接着剤を介して前記封止基板形成材の周縁部に接着することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0029】
かかる第7の態様では、エポキシ系接着剤は耐アルカリ性を有しているため、封止フィルムと封止基板形成材の周縁部との接合部分にエッチング液が接触してもその接合部分は剥離されず、封止基板形成材の表面を封止フィルムによって完全に封止した状態を維持することができる。
【0030】
本発明の第8の態様は、第1〜7の何れかの態様において、前記封止フィルムがPPSで形成されていることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0031】
かかる第8の態様では、封止フィルムが、例えば、KOH等のエッチング液により溶解されないため、封止フィルム内にエッチング液が入り込むことを防止することができる。したがって、封止基板形成材の表面を完全に封止することができる。
【0032】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0033】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの概略を示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及び断面図である。
【0034】
図示するように、流路形成基板10は、本実施形態では面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり、その一方面には予め熱酸化により形成した二酸化シリコンからなる、厚さ1〜2μmの弾性膜50が形成されている。
【0035】
この流路形成基板10には、シリコン単結晶基板をその一方面側から異方性エッチングすることにより、複数の隔壁11によって区画された圧力発生室12が幅方向に並設されている。また、その長手方向外側には、後述する封止基板30のリザーバ部31と連通される連通部13が形成されている。また、この連通部13は、各圧力発生室12の長手方向一端部でそれぞれインク供給路14を介して連通されている。
【0036】
ここで、異方性エッチングは、シリコン単結晶基板のエッチングレートの違いを利用して行われる。例えば、本実施形態では、シリコン単結晶基板をKOH等のアルカリ溶液に浸漬すると、徐々に侵食されて(110)面に垂直な第1の(111)面と、この第1の(111)面と約70度の角度をなし且つ上記(110)面と約35度の角度をなす第2の(111)面とが出現し、(110)面のエッチングレートと比較して(111)面のエッチングレートが約1/180であるという性質を利用して行われる。かかる異方性エッチングにより、二つの第1の(111)面と斜めの二つの第2の(111)面とで形成される平行四辺形状の深さ加工を基本として精密加工を行うことができ、圧力発生室12を高密度に配列することができる。
【0037】
本実施形態では、各圧力発生室12の長辺を第1の(111)面で、短辺を第2の(111)面で形成している。この圧力発生室12は、流路形成基板10をほぼ貫通して弾性膜50に達するまでエッチングすることにより形成されている。ここで、弾性膜50は、シリコン単結晶基板をエッチングするアルカリ溶液に侵される量がきわめて小さい。また各圧力発生室12の一端に連通する各インク供給路14は、圧力発生室12より浅く形成されており、圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。すなわち、インク供給路14は、シリコン単結晶基板を厚さ方向に途中までエッチング(ハーフエッチング)することにより形成されている。なお、ハーフエッチングは、エッチング時間の調整により行われる。
【0038】
このような圧力発生室12等が形成される流路形成基板10の厚さは、圧力発生室12を配設する密度に合わせて最適な厚さを選択することが好ましい。例えば、1インチ当たり180個(180dpi)程度に圧力発生室12を配置する場合には、流路形成基板10の厚さは、180〜280μm程度、より望ましくは、220μm程度とするのが好適である。また、例えば、360dpi程度と比較的高密度に圧力発生室12を配置する場合には、流路形成基板10の厚さは、100μm以下とするのが好ましい。これは、隣接する圧力発生室12間の隔壁11の剛性を保ちつつ、配列密度を高くできるからである。本実施形態では、圧力発生室12の配列密度を360dpi程度としているため、流路形成基板10の厚さを約70μmとしている。
【0039】
なお、このような流路形成基板10は、図3に示すように、シリコン単結晶基板からなるシリコンウェハ100に複数個が一体的に形成され、詳しくは後述するが、このシリコンウェハ100に圧力発生室12等を形成した後、このシリコンウェハ100を分割することによって形成される。
【0040】
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側で連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が接着剤や熱溶着フィルム等を介して固着されている。
【0041】
一方、流路形成基板10の開口面とは反対側の弾性膜50の上には、厚さが例えば、約0.2μmの下電極膜60と、厚さが例えば、約1μmの圧電体層70と、厚さが例えば、約0.1μmの上電極膜80とが、後述するプロセスで積層形成されて、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70、及び上電極膜80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされた何れか一方の電極及び圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部という。本実施形態では、下電極膜60は圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。何れの場合においても、各圧力発生室毎に圧電体能動部が形成されていることになる。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせて圧電アクチュエータと称する。
【0042】
また、このような各圧電素子300の上電極膜80には、例えば、金(Au)等からなるリード電極85がそれぞれ接続されている。このリード電極85は、各圧電素子300の長手方向端部近傍から引き出され、インク供給路14に対応する領域の弾性膜50上までそれぞれ延設されている。
【0043】
流路形成基板10の圧電素子300側には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を確保した状態で、その空間を密封可能な圧電素子保持部32を有する封止基板30が接合され、圧電素子300はこの圧電素子保持部32内に密封されている。
【0044】
また、封止基板30には、各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ90の少なくとも一部を構成するリザーバ部31が設けられ、このリザーバ部31は、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ90を構成している。
【0045】
さらに、封止基板30の圧電素子保持部32とリザーバ部31との間、すなわちインク供給路14に対応する領域には、この封止基板30を厚さ方向に貫通する接続孔33が設けられている。また、封止基板30の圧電素子保持部32側とは反対側の表面には外部配線34が設けられている。さらに、この外部配線34上には、各圧電素子300を駆動するための駆動IC35が実装されている。そして、各圧電素子300から引き出されたリード電極85は、この接続孔33まで延設されており、例えば、ワイヤボンディング等により外部配線34と接続される。
【0046】
封止基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料(例えば、厚さが6μmのポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム)からなる。また、固定板42は、金属等の硬質の材料(例えば、厚さが30μmのステンレス鋼(SUS)等)で形成される。この固定板42のリザーバ90に対向する領域には、厚さ方向に完全に除去された開口部43が形成され、リザーバ90の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0047】
なお、このようなインクジェット式記録ヘッドは、図示しない外部インク供給手段からインクを取り込み、リザーバ90からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、図示しない駆動回路からの記録信号に従い、外部配線34を介して圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加し、弾性膜50、下電極膜60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0048】
以下、このような本実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドの製造方法について説明する。なお、図4〜図8は、インクジェット式記録ヘッドの製造工程を説明する図であり、シリコンウェハの概略断面図である。
【0049】
まず、図4(a)に示すように、複数の流路形成基板となるシリコンウェハ100を約1100℃の拡散炉で熱酸化して弾性膜50を構成する二酸化シリコン膜55を全面に形成する。この二酸化シリコン膜55は、詳しくは後述するが、弾性膜50を構成すると共にシリコンウェハ100をエッチングする際のマスクとして用いられるものである。
【0050】
次いで、図4(b)に示すように、シリコンウェハ100の一方面の二酸化シリコン膜55上に、シリコンウェハ100と略同一径の単結晶シリコンからなる犠牲ウェハ110を接合する。
【0051】
ここで、この犠牲ウェハ110は、圧電素子300等を形成する際のシリコンウェハ100の剛性を確保するためのものである。詳しくは、流路形成基板10となるシリコンウェハ100の厚さは、本実施形態では、約70μmと比較的薄いため剛性が低くシリコンウェハ100自体では取り扱いが困難であるため、シリコンウェハ100に犠牲ウェハ110を接合することによりシリコンウェハ100の剛性を確保している。勿論、シリコンウェハ100のみで所定の剛性を確保できれば、この犠牲ウェハ110は設けなくてもよい。
【0052】
次に、図4(c)に示すように、シリコンウェハ100の犠牲ウェハ110とは反対側の面、すなわち、弾性膜50となる二酸化シリコン膜55上にスパッタリングで下電極膜60を形成すると共に、所定形状にパターニングする。この下電極膜60の材料としては、白金(Pt)等が好適である。これは、スパッタリング法やゾル−ゲル法で成膜する後述の圧電体層70は、成膜後に大気雰囲気下又は酸素雰囲気下で600〜1000℃程度の温度で焼成して結晶化させる必要があるからである。すなわち、下電極膜60の材料は、このような高温、酸化雰囲気下で導電性を保持できなければならず、殊に、圧電体層70としてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いた場合には、酸化鉛の拡散による導電性の変化が少ないことが望ましく、これらの理由から白金が好適である。
【0053】
次に、図4(d)に示すように、下電極膜60上に圧電体層70を成膜する。この圧電体層70は、結晶が配向していることが好ましい。例えば、本実施形態では、金属有機物を触媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて形成することにより、結晶が配向している圧電体層70とした。圧電体層70の材料としては、チタン酸ジルコン酸鉛系の材料がインクジェット式記録ヘッドに使用する場合には好適である。なお、この圧電体層70の成膜方法は、特に限定されず、例えば、スパッタリング法で形成してもよい。
【0054】
さらに、ゾル−ゲル法又はスパッタリング法等によりチタン酸ジルコン酸鉛の前駆体膜を形成後、アルカリ水溶液中での高圧処理法にて低温で結晶成長させる方法を用いてもよい。
【0055】
何れにしても、このように成膜された圧電体層70は、バルクの圧電体とは異なり結晶が優先配向しており、且つ本実施形態では、圧電体層70は、結晶が柱状に形成されている。なお、優先配向とは、結晶の配向方向が無秩序ではなく、特定の結晶面がほぼ一定の方向に向いている状態をいう。また、結晶が柱状の薄膜とは、略円柱体の結晶が中心軸を厚さ方向に略一致させた状態で面方向に亘って集合して薄膜を形成している状態をいう。勿論、優先配向した粒状の結晶で形成された薄膜であってもよい。なお、このように薄膜工程で製造された圧電体層70の厚さは、一般的に0.2〜5μmである。
【0056】
次に、図5(a)に示すように、圧電体層70上に上電極膜80を成膜する。上電極膜80は、導電性の高い材料であればよく、アルミニウム、金、ニッケル、白金等の多くの金属や、導電性酸化物等を使用できる。本実施形態では、白金をスパッタリングにより成膜している。
【0057】
次に、図5(b)に示すように、圧電体層70及び上電極膜80のみをエッチングして圧電素子300のパターニングを行う。
【0058】
次いで、図5(c)に示すように、リード電極85を流路形成基板10の全面に亘って形成すると共に圧電素子300毎にパターニングする。
【0059】
次に、図5(d)に示すように、シリコンウェハ100の圧電素子300側に圧電素子300を封止する圧電素子保持部32を有する封止基板30となる封止基板形成材120を接合する。
【0060】
なお、この封止基板形成材120は、例えば、400μm程度の厚さを有するため、封止基板形成材120を接合することによってシリコンウェハ100の剛性は著しく向上することになる。
【0061】
次に、このような封止基板形成材120の周縁部に、図6(a)及び図6(b)に示すように、保護フィルム130を間に介在させた状態で封止フィルム140を貼着することにより、封止基板形成材120の表面を封止フィルム140で覆って封止する。ここで、封止基板形成材120の周縁部とは、封止基板形成材120の表面の周縁部はもちろん、シリコンウェハ100又は封止基板形成材120の外周面を含み、例えば、本実施形態では、封止基板形成材120の表面の周縁部に封止フィルム140を貼着した。
【0062】
具体的には、熱硬化性を示すエポキシ系接着剤を介して、封止フィルム140を保護フィルム130に仮接着すると共に封止基板形成材120の表面の周縁部に仮接着した後、所定温度で加熱処理してエポキシ系接着剤を硬化させ、封止フィルム140と保護フィルム130及び封止基板形成材120とを接着固定した。
【0063】
なお、本実施形態では、封止フィルム140には、その一方面の全面にエポキシ系接着剤が予め塗られている。勿論、反対に、保護フィルム130及び封止基板形成材120側にエポキシ系接着剤を塗っていてもよい。
【0064】
ここで、封止基板形成材120には、リザーバ部31、接続孔33等が厚さ方向に貫通して形成されているため、これらリザーバ部31、接続孔33等によってシリコンウェハ100の表面が露出している。しかしながら、本実施形態では、このような封止基板形成材120の表面に封止フィルム140を接着固定することにより、シリコンウェハ100の表面は完全に封止されることになる。
【0065】
なお、このような封止フィルム140を形成する材料としては、耐アルカリ性を有し且つ所定の弾力性を有する高分子材料を用いることが好ましく、本実施形態では、ポリフェニレンサルファイド(PPS)を用いた。
【0066】
このように、本実施形態では、後述する各工程での異方性エッチングの際に、封止フィルム140の内部にエッチング液が入り込むことを確実に防止できる。
【0067】
また、封止フィルム140は所定の弾性力も有しているため、例えば、エポキシ系接着剤を加熱硬化させる際に封止フィルム140の内部にある空気が膨張しても、その空気の膨張を封止フィルム140の弾性変形により吸収することができる。したがって、シリコンウェハ100及び封止基板形成材120の内部空間、例えば、圧電素子保持部32等の封止された空間が破壊されるのを防止することができる。
【0068】
さらに、本実施形態では、封止フィルム140と封止基板形成材120との接触は、保護フィルム130を介在させて防止しているため、例えば、封止フィルム140の塵や埃等の異物が封止基板形成材120の表面に付着するのを防止している。また、保護フィルム130は、封止フィルム140と封止基板形成材120の表面に設けられた外部配線34との接触を防止し、外部配線34の剥離や損傷を防止する効果もある。
【0069】
なお、このような保護フィルム130を形成する材料としては、封止基板形成材120の表面に干渉しない高分子材料、すなわち、封止基板形成材120の表面に危害を与えない材料であることが好ましく、例えば、フッ素樹脂等を挙げることができる。本実施形態では、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を用いた。
【0070】
また、本実施形態では、保護フィルム130の外周の縁部近傍に封止フィルム140と封止基板形成材120とが接合していない空間Aが形成されている。これにより、詳しくは後述するが、封止フィルム140を除去し易くする作用もある。
【0071】
次に、図6(c)に示すように、犠牲ウェハ110を、例えば、KOH等のアルカリ溶液でエッチングすることによって除去する。上述したように、本実施形態では、封止基板形成材120の表面が封止フィルム140により完全に封止されているため、異方性エッチングの際に、封止フィルム140がエッチング液に溶解して除去されることはなく、封止フィルム140の内部にエッチング液が入り込むことを確実に防止することができる。これにより、シリコンウェハ100又は圧電素子300が破壊されるのを確実に防止して、犠牲ウェハ110を比較的容易に且つ確実に除去することができる。
【0072】
次いで、図7(a)に示すように、シリコンウェハ100上に形成されている二酸化シリコン膜55を所定形状にパターニングすることによりマスクパターン150を形成する。
【0073】
そして、図7(b)に示すように、このマスクパターン150を介して、前述したアルカリ溶液による異方性エッチングを行うことにより、シリコンウェハ100に圧力発生室12、連通部13及びインク供給路14等を形成する。なお、その後は、連通部13とリザーバ部31との境界にある弾性膜50及び下電極膜60を除去することにより、リザーバ部31から圧力発生室12までのインク流路を形成する。
【0074】
次に、図8(a)に示すように、封止フィルム140だけを空間Aで切断することにより、封止フィルム140及び保護フィルム130を除去する。
【0075】
具体的には、保護フィルム130の外周の縁部近傍に形成された封止フィルム140と封止基板形成材120との間に形成された空間Aで封止フィルム140を切断することにより、封止フィルム140及び保護フィルム130を除去する。
【0076】
このように、封止フィルム140だけを切断し、封止フィルム140と共に保護フィルム130を除去するようにすれば、封止フィルム140の除去に必要な時間を著しく短縮することができ、製造効率を大幅に向上することができる。
【0077】
ここで、封止フィルム140を除去する際には、少なくとも封止フィルム140と封止基板形成材120の周縁部との接合部分の内側で切断すればよいが、本実施形態のように前述した空間Aに対応する位置で切断すれば、作業効率を向上させることができる。具体的には、このような空間Aでは、封止フィルム140は封止基板形成材120に実質的に貼着されておらず、また、保護フィルム130は封止基板形成材120に接合されておらず封止フィルム140と接着固定されているためである。したがって、保護フィルム130を封止フィルム140と共に比較的容易に除去することができ、作業効率をさらに向上させることができる。これにより、製造コストを低く抑えることができる。
【0078】
次いで、図8(b)に示すように、封止フィルム140で封止されていた封止基板30となる領域と封止フィルム140が貼着されていた領域との境界部分で、シリコンウェハ100及び封止基板形成材120を厚さ方向に切断することにより、封止フィルム140が貼着された領域を除去する。
【0079】
このようにして封止フィルム140を完全に除去した後は、流路形成基板10の封止基板形成材120とは反対側の面にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、封止基板形成材120にコンプライアンス基板40を接合し、シリコンウェハ100等各基板を図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10毎に分割することによって、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドとする。
【0080】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、勿論、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではない。
【0081】
例えば、上述した実施形態では、封止フィルム140を封止基板形成材120の表面の周縁部に貼着するようにしたが、これに限定されず、封止フィルム140を封止基板形成材120の外周面、またはシリコンウェハ100の外周面に貼着するようにしてもよい。
【0082】
また、上述した実施形態では、封止フィルム140と封止基板形成材120との間に保護フィルム130を介在させたが、これに限定されず、封止フィルムと封止基板形成材との間に保護フィルムを挟まなくてもよい。この場合には、例えば、封止フィルムの周縁部だけにエポキシ系接着剤を塗るようにすればよい。そして、このように封止フィルムの周縁部だけに接着剤を塗り、封止基板形成材に接着固定する場合には、例えば、アルコール等で洗浄した封止フィルムや、熱処理した封止フィルム等を用いることが好ましい。これにより、封止フィルムの一方面に付着した塵や埃等の異物が除去され、封止基板形成材の表面が汚れるのを防止することができる。
【0083】
さらに、上述した実施形態では、シリコンウェハ100上に接合した後の封止基板形成材120の表面の周縁部に封止フィルム140を接合するようにしたが、これに限定されず、シリコンウェハ100上に接合する前に、封止基板形成材120の表面の周縁部に封止フィルム140を接合してもよい。
【0084】
ここで、上述した実施形態においては、本発明の液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを説明したが、液体噴射ヘッドの基本的構成は上述したものに限定されるものではない。本発明は、広く液体噴射ヘッドの全般を対象としたものであり、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(面発光ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等にも適用することができる。
【0085】
【発明の効果】
以上説明したように本発明の製造方法では、封止基板形成材上に封止フィルムを接合して封止基板形成材の表面を封止するようにしたので、シリコンウェハに圧力発生室を形成する際、あるいは犠牲ウェハを除去する際等に、エッチング液がシリコンウェハの圧電素子側の面に浸入するのを封止フィルムにより確実に防止でき、エッチング液による圧電素子等の破壊を防止することができる。また、封止フィルムを比較的容易且つ短時間で除去することができるため、製造効率を向上することができる。したがって、製造コストを低く抑えることができる。さらに、封止基板形成材の表面に設けられた外部配線を封止フィルムによりエッチング液から確実に保護することができるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの概略を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの要部を示す平面図及び断面図である。
【図3】本発明の実施形態1に係るシリコンウェハを示す斜視図である。
【図4】本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図5】本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図6】本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図7】本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図8】本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【符号の説明】
10 流路形成基板
11 隔壁
12 圧力発生室
13 連通部
14 インク供給路
20 ノズルプレート
21 ノズル開口
30 封止基板
50 弾性膜
60 下電極膜
70 圧電体層
80 上電極膜
100 シリコンウェハ
110 犠牲ウェハ
120 封止基板形成材
130 保護フィルム
140 封止フィルム
300 圧電素子
Claims (8)
- ノズル開口に連通する圧力発生室が画成される流路形成基板と、該流路形成基板上に振動板を介して設けられて前記圧力発生室に圧力を付与する圧電素子とを具備する液体噴射ヘッドの製造方法において、
シリコン単結晶基板からなるシリコンウェハ上に前記振動板及び前記圧電素子を形成する工程と、前記圧電素子を封止する圧電素子保持部を有する封止基板となる封止基板形成材を前記シリコンウェハ上に接合する工程と、耐アルカリ性を有する材料からなり前記封止基板形成材の接合面とは反対側の表面を覆う封止フィルムを当該封止基板形成材の少なくとも周縁部に貼着することによりその表面を封止する工程と、前記シリコンウェハをエッチングすることにより前記圧力発生室を形成する工程と、前記封止フィルムを除去する工程と、前記シリコンウェハ及び前記封止基板形成材を所定の大きさに分割する工程とを有することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。 - 請求項1において、前記封止基板形成材の表面を封止する工程では、前記封止フィルムと前記封止基板形成材の表面との間に保護フィルムを介在させて、前記封止基板形成材の封止基板となる領域と前記封止フィルムとの接触を防止したことを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
- 請求項2において、前記封止フィルムと前記保護フィルムとを接着することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
- 請求項2又は3において、前記保護フィルムがフッ素樹脂で形成されていることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
- 請求項1〜4の何れかにおいて、前記封止フィルムを除去する工程では、前記封止フィルムを当該封止フィルムが貼着された領域の内側で切断することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
- 請求項1〜5の何れかにおいて、前記シリコンウェハの前記封止基板形成材との接合面とは反対側の面には犠牲ウェハが予め接合されており、前記封止基板形成材の他方面を封止する工程後に、前記犠牲ウェハをエッチングにより除去する工程を有することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
- 請求項1〜6の何れかにおいて、前記封止フィルムをエポキシ系接着剤を介して前記封止基板形成材の周縁部に接着することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
- 請求項1〜7の何れかにおいて、前記封止フィルムがPPSで形成されていることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
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