JP2004025190A - 鋳物製品の製造方法および中間製品的鋳造品 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】内壁部の少なくとも一部に凹凸形状が付与された鋳型40と中子とを用いて成形空間(キャビティ)を区画すると共に、その成形空間に金属溶湯を流し込むことで、前記凹凸形状を反映した凹凸を有する取代を含んだ中間製品的鋳造品を鋳造する。その後、その中間製品的鋳造品に切削加工を施して当該鋳造品から前記凹凸を有する取代を削り取ることで、平滑な面(例えば摩擦面)を削り出した最終製品を得る。
【選択図】 図6
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、鋳物製品の製造方法と、その製造過程で生じる中間製品的鋳造品とに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
形状が複雑で且つ高い表面加工精度が求められる鋳物製品として、例えば、ディスクブレーキ用のベンチレーテッドディスクがあげられる。この種のブレーキディスクでは、ディスクの内部に多数の通風孔を確保する必要から、鋳造時には鋳型内に、通風孔をかたどった中子を配置すると共に、鋳型内壁と中子との間にできた成形空間(キャビティ)内に金属溶湯を流し込むことで、中間製品としてのブレーキディスク鋳造品を鋳造している。ブレーキディスクの摩擦面(制動時にシューと接触摺動する面)には優れた平滑性が求められるため、鋳造品の鋳肌をそのままディスクの摩擦面として用いることはあり得ない。それ故、ブレーキディスク鋳造品の表面を所定の取代分だけ削り取ることにより、平滑な摩擦面を削り出して最終製品に仕上げている。つまり、中間製品の鋳造は、その後の切削加工で削り取ることになる取代を見込んだ鋳造となっている(例えば、特開平3−151138号公報参照)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の製造方法で得られる鋳物製品には、キライ不良の発生率が高いという問題があった。キライ(「吹かれ」ともいう)とは、鋳型内の成形空間に金属溶湯を流し込んだときに中子等から発生したガスが気泡となって金属溶湯中に紛れ込み、その気泡を巻き込んだまま金属が冷却固化することで鋳造品内部に形成される細かな穴や空間をいう(図7参照)。鋳造直後の鋳造品の外観を観察しただけではキライの有無はなかなか分からないが、平滑面の削り出しのために鋳造品の表面を切削したときにキライの存在が発覚することが多い。平滑化したい面にとってキライは致命的な凹状欠陥であるから、ブレーキディスク鋳造品にキライが見つかった場合、それはもはや最終製品(良品)とはなり得ず、不良品として廃棄するほかない。製造現場での経験則によれば、鋳鉄製ブレーキディスクにおけるキライ不良の発生率は1.4%以上にものぼる。キライ不良はブレーキディスク量産時の不良原因のうちでも最大のものとなっている。
【0004】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、キライ不良の発生率を従来よりも大幅に低減することが可能な鋳物製品の製造方法を提供することにある。また、その製造方法による製造過程で生じる中間製品的鋳造品を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明は、成形空間を区画するための内壁部の少なくとも一部に凹凸形状が付与された鋳型を用いて、前記凹凸形状を反映した凹凸を有する取代を含んだ中間製品的鋳造品を鋳造する鋳造工程と、前記中間製品的鋳造品から前記凹凸を有する取代を削り取る切削工程とを備えてなることを特徴とする鋳物製品の製造方法である。
【0006】
この方法によれば、中間製品的鋳造品の鋳造工程で用いられる鋳型は、鋳造時の成形空間を区画するための内壁部の少なくとも一部に凹凸形状が付与された鋳型であり、凹凸形状の付与によって当該内壁部の表面積は、凹凸が無い場合(即ち平らな内壁面)に比べて非常に大きくなっている。従って、成形空間内に金属溶湯を流し込むことで、凹凸形状が付与された当該内壁部に金属溶湯が接したときも、その接触面積は従来になく大きいので、金属溶湯から鋳型の内壁部へのガス移動性が飛躍的に向上する。このため、成形空間内に金属溶湯を流し込んだ際にガスが発生し、そのガスが気泡となって金属溶湯中に紛れ込んだとしても、そのガスの多くは金属溶湯が固化する前に凹凸形状が付与された内壁部を介して溶湯中から鋳型の方へ移動し、あるいは取代の領域内に移動する。故に、中間製品的鋳造品にあっては、取代以外の部位(即ち最終製品となるべき部分)には、キライがあまり残らない。鋳造工程後の切削工程で、中間製品的鋳造品から前記凹凸を有する取代を削り取ることで、目的とする鋳物製品を得ることができる。鋳造工程の工夫により、中間製品的鋳造品の取代以外の部位にはキライがあまり残らないので、取代を削り取って得た製品がキライ不良となる確率は、従来よりも大幅に低減する。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の鋳物製品の製造方法において、前記鋳型は所定の通気性を有することを特徴とする。
【0008】
鋳型が所定の通気性を有することで、成形空間内に金属溶湯を流し込んだ際に金属溶湯中に紛れ込んだガスが、溶湯中から鋳型あるいは取代の領域内に向けて移動し易くなり、中間製品的鋳造品の奥深くにキライが残存する事態を効果的に防止できる。従って、キライ不良の発生率を従来よりも大幅に低減することが可能となる。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の鋳物製品の製造方法において、前記鋳造工程では、前記鋳型と共に中子を用いることを特徴とする。
【0010】
発明が解決しようとする課題の欄で説明したように、中子がキライの原因となるガスの発生源となることが多いことから、鋳造工程で中子を併用する場合には特に本発明の有用性が高い。なお、「前記中子が砂を有機材料で固めて形成したものである」とき、金属溶湯の熱で有機材料が燃焼し、その燃焼ガスがキライの原因となることから、そのような場合には尚更、本発明の有用性が高まる。
【0011】
請求項4の発明は、後加工により削り取られるべき取代を含んだ中間製品的鋳造品であって、前記取代の少なくとも一部には、鋳造時に鋳型との接触面積を確保する目的で付与された凹凸が残されていることを特徴とする中間製品的鋳造品である。
【0012】
この中間製品的鋳造品は、請求項1〜3の製造方法における鋳造工程を経て得られる中間製品である。この中間製品的鋳造品に対して適切な後加工(例えば切削加工)を施し、凹凸付きの取代を削り取れば、キライ不良のない鋳物製品をほぼ確実に得ることができる。
【0013】
なお、上記中間製品的鋳造品の取代に残された凹凸としては、例えば、「取代の表面に同心円状に複数設けられた円弧状の溝」、「取代の表面に渦巻き状に設けられた螺旋溝」又は「取代の表面にディンプル状に複数設けられた凹部」を例示することができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明をディスクブレーキ用のベンチレーテッドディスクの製造に具体化した一実施形態について図面を参照しつつ説明する。最終製品としてのベンチレーテッドディスクは、図4(半径方向断面)に示すように、第1及び第2の摩擦面11,12を有する略円盤状のディスク本体部10、取付フランジ部20、並びに、ディスク本体部10と取付フランジ部20とを連結する円筒状のハット部30を備えている。ディスク本体部10には、複数の通風孔13(一つのみ図示)が半径方向に沿って放射状に貫通形成されている。取付フランジ部20は、その中心位置のインロー孔21と、複数のボルト挿通孔(図示略)とを備えている。図4のディスク製品は、鋳型及び中子を用いた鋳造工程と、その後の切削工程とを経て製造される。
【0015】
図1に示すように、鋳造用の鋳型としては上鋳型40と下鋳型50とが組み合わせて使用される。各鋳型は、砂とベントナイトとの混練物を圧縮して付き固めるながらそれぞれの形状に成形したものである。使用する砂の性質や配合割合を調節することで、各鋳型の通気性(通気度)をコントロールしている。また、図1から分かるように、上鋳型40の内壁部にはディスク製品の第1摩擦面11と対応する位置において、凹凸形状(即ち、断面波々形状)が付与されている。具体的には、上鋳型40の内壁部の当該位置には、鋳型の中心軸線を同心円状に取り囲む複数の溝41が形成されている。上鋳型40を下から見上げたとき、各溝41は周方向に延び円形状をなしている。
【0016】
図2に示すように、鋳造に際しては上下鋳型40,50の他に中子60が使用される。この中子60は、各通風孔13の内部形状や取付フランジ部20及びハット部30の内側形状をかたどったものであり、砂をレジンで固めて成形したものである。尚、レジンとは有機材料の一種であり、接着材として使用している。図2に示すように、上下両鋳型40,50間に中子60を配置した状態で両鋳型40,50を接合することにより、鋳型内には、成形空間(キャビティ)が区画される。この成形空間の形状及び大きさは、後述の切削加工により削り取られるべき取代を含んだ中間製品的鋳造品の形状及び大きさに対応する。
【0017】
鋳型の成形空間内に金属(例えば鋳鉄)の溶湯を流し込み、冷却固化後、上下鋳型40,50から型外しすることで、取代を含んだ中間製品的鋳造品(図3及び図6参照)が得られる。図3に示すように、その鋳造品には、第1摩擦面11に対応する取代部分の表面において、上鋳型内壁部の同心円状の溝41の形状を反映した同心円状の凹凸形状(図3の半径方向断面では波々形状)が付与されている。
【0018】
成形空間内に金属溶湯を流し込むことにより、その熱で中子60を構成するレジンが燃焼し、及び/又は、中子60に含まれる湿気が水蒸気と化す。流し込まれた金属溶湯が凹凸形状を付与した上鋳型40の内壁部に接したときも、その接触面積は、凹凸形状がない場合(即ち図7に示す平らな内壁面の場合)に比べて大きい。このため、上記燃焼ガスや水蒸気が気泡となって金属溶湯中に紛れ込んだとしても、それらのガスの多くは、金属溶湯が固化する前に凹凸形状が付与された内壁部を介して上鋳型40の方へ移動し、あるいは取代の領域内に移動する(図6参照)。従って、冷却固化後の中間製品的鋳造品において、取代以外の部位には、キライがあまり残らない。
【0019】
鋳造工程後、図3の中間製品的鋳造品に対しては、旋盤を用いて切削加工が施される。この切削加工を通じて、前記断面波々の凹凸形状が付与された取代が削り取られ、図4に示すような最終製品としてのベンチレーテッドディスクが完成する。前述のように、上鋳型40の内壁部の形状を断面波々形状とすることにより、中間製品的鋳造品の取代以外の部位にはキライがあまり残らないので、取代を削り取って得た製品がキライ不良となる確率は低い。
【0020】
(製造実験1及び2並びに比較実験)
図5に示すように、中間製品的鋳造品の取代に付与される凹凸形状において、断面略台形状の凸部の高さをa、その凸部の上辺の幅(即ち溝41の幅)をb、隣り合う凸部間の間隔をcとする。そして、製造実験1及び製造実験2として、a,b及びcの各値が表1に記載の値(単位はmm)となるような鋳造品を上記実施形態の手順でそれぞれ1000個ずつ製造する実験を行った。また、比較実験として、取代に凹凸がない従来の鋳造品(即ちa=0mm)を従来の製造手順で1000個製造する実験を行った。
【0021】
【表1】
【0022】
表1は各実験の結果を示す。表1中、表面積とは、ディスクの第1摩擦面11に対応する取代部分の表面の表面積を比較した値であり、比較実験の鋳造品の表面積を100とした場合における相対値を示す。キライ不良率とは、切削加工により第1摩擦面11にキライが露出して不良品と判定された個体数の割合を示す。例えば比較実験における1.4%とは、1000個中14個にキライ不良があったことを示す。主軸の電流値とは、鋳造品に切削を施す際の旋盤の主軸にかかる電気的負荷の大きさ(平均値)を示し、その値は切削抵抗の大きさを間接的に示している。
【0023】
表1から分かるように、本発明に従う製造実験1及び2では、キライ不良率を比較実験(従来の方法)の場合よりも大幅に低減することができた。また、主軸の電流値も製造実験1及び2の方が比較実験の場合よりも小さくなっており、本発明によれば、切削加工時における切削抵抗の低減ひいてはエネルギー消費の低減を図ることができる。
【0024】
なお、比較実験並びに製造実験1及び2では、取代をいずれも2.5mmとしたが、製造実験1及び2に関しては凹凸付与の関係で、2.5mm厚の取代の全領域が金属で満たされるわけではない。製造実験2の中間製品的鋳造品について仮に取代部分の凹凸を均一にならして平坦化したならば、その場合の取代の厚みは約1.9mmに換算される。つまり、切削工程で削り取られる金属の量は、製造実験2の鋳造品では比較実験の鋳造品の1.9/2.5=76%に過ぎない。削り取られた金属は回収して再溶解(再利用)することになるが、再溶解に回す量が少ないほど、エネルギー効率及び生産効率が良いことは言うまでもない。この点で、製造実験1及び2は比較実験よりもエネルギー効率及び生産効率がよいと言える。
【0025】
(変更例)本発明の実施形態を以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、鋳型40の内壁部に付与する凹凸形状を、鋳型40の中心軸線を同心円状に取り囲む複数の円弧状溝41で構成した。これに代えて、鋳型の中心軸線を渦巻き状に取り巻く1条の螺旋溝を採用してもよい。あるいは、これらの溝に代えて、鋳型40の内壁部に、例えばディンプル状の凹部を複数形成し、その内壁面をデコボコした凹凸形状としてもよい。
【0026】
・上記実施形態では、ブレーキディスクのディスク本体部10の第1摩擦面11に対応する位置において、上鋳型40の内壁部に凹凸形状を付与した。これに代えて又はこれと共に、ディスク本体部10の第2摩擦面12に対応する位置において、下鋳型50の内壁部に凹凸形状を付与してもよい。また、ブレーキディスクの取付フランジ部20の上端面に対応する位置において、上鋳型40の内壁部に凹凸形状を付与してもよい。
【0027】
【発明の効果】
以上詳述したように本発明の鋳物製品の製造方法によれば、キライ不良の発生率を従来よりも大幅に低減することが可能となる。また、本発明の中間製品的鋳造品によれば、これに適切な後加工(例えば切削加工)を施して凹凸付きの取代を削り取れば、キライ不良のない鋳物製品をほぼ確実に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】ブレーキディスク鋳造用の鋳型の半径方向断面図。
【図2】中子を配置した状態での鋳型の半径方向断面図。
【図3】中間製品的鋳造品の半径方向断面図。
【図4】最終製品としてのブレーキディスクの半径方向断面図。
【図5】中間製品的鋳造品における凹凸形状の寸法の説明図。
【図6】本発明におけるキライの発生状況を概念的に示す図。
【図7】従来例におけるキライの発生状況を概念的に示す図。
【符号の説明】
10…ディスク本体部、11…第1摩擦面、12…第2摩擦面、13…通風孔、40…上鋳型、41…溝(鋳型内壁部における凹凸形状を構成する)、50…下鋳型、60…中子。
Claims (4)
- 成形空間を区画するための内壁部の少なくとも一部に凹凸形状が付与された鋳型を用いて、前記凹凸形状を反映した凹凸を有する取代を含んだ中間製品的鋳造品を鋳造する鋳造工程と、
前記中間製品的鋳造品から前記凹凸を有する取代を削り取る切削工程と
を備えてなることを特徴とする鋳物製品の製造方法。 - 前記鋳型は所定の通気性を有することを特徴とする請求項1に記載の鋳物製品の製造方法。
- 前記鋳造工程では、前記鋳型と共に中子を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の鋳物製品の製造方法。
- 後加工により削り取られるべき取代を含んだ中間製品的鋳造品であって、前記取代の少なくとも一部には、鋳造時に鋳型との接触面積を確保する目的で付与された凹凸が残されていることを特徴とする中間製品的鋳造品。
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