JP2004022888A - 静電吸着装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】静電吸着装置は、表面がエンボス加工された誘電体板22を備え、エンボス凹部21cに形成される電極層41a,41bと、この電極層を電圧印加状態または接地状態にする外部電源24と、エンボス凸部21bの基板支持面に形成された導電体層42とから構成されている。エンボス凹部に形成された電極層に電圧が印加されると、基板裏面に電荷が誘起される。基板と接触する部分はエンボス凸部の表面に形成された導体板層であるので、接触部は基板と同電位となり、静電力は生じない。従って擦れに起因するパーティクルの発生を抑制する。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は静電吸着装置に関し、特に、半導体製造工程での基板処理室における基板を固定するための静電吸着装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、半導体製造工程における基板への薄膜形成(スパッタリングやCVD等)や薄膜加工(ドライエッチング等)の基板処理において、基板を固定するため静電吸着装置が頻繁に使用されている。静電吸着による基板固定は、基板表面に接触する部分が存在しないから、基板面内からのデバイス取出し率が高く、デバイス生産の歩留まりも高くすることができる。さらに温度調整部との組合せに基づき温度の精密制御が可能である。
【0003】
図7を参照して従来の静電吸着装置の構成例を説明する。この静電吸着装置は一例としてスパッタリング装置に適用されている。このスパッタリング装置において、金属製の容器11の内部は排気機構(図示せず)によって減圧されている。容器11の天井部にはリング状絶縁部材12に支持された円板状ターゲット13が取り付けられている。容器11の外側であってターゲット13の背面には、ヨーク板14に固定された磁石15が設置されている。容器11の内部の下側には基板支持部16が設けられている。基板支持部16の上面には基板17が搭載されている。基板17は、ターゲット13に対向してターゲット13に平行に配置されている。基板支持部16は容器11の底部に固定されている。基板支持部16は静電吸着装置18と基板温度調整部19を備えている。容器11の周囲壁の内面には円筒形のシールド20が配置される。
【0004】
静電吸着装置18は、エンボス加工によりその表面にエンボス部21が形成された誘電体板22と、その内部に配置された金属電極23とによって構成される。金属電極23は、例えば双極電極の構造を有し、内側電極23aと外側電極23bから成っている。金属電極23は外部直流電源回路24に接続され、一定の電圧が印加されている。外部直流電源回路24にはプラス電圧印加用のバッテリ24aとマイナス電圧印加用のバッテリ24bと接地端子24cとスイッチ24d,24eが設けられている。内側電極23aにはバッテリ24aによってプラス電圧が印加され、外側電極23bにはバッテリ24bによってマイナス電圧が印加される。基板支持部16の上での基板17の固定は、誘電体板22上に基板17が置かれかつ金属電極23に所定の電圧が印加されると、金属電極23と基板(シリコン基板)17の間で働くクーロン力(静電力)によって行われる。クーロン力は誘電体板22の表面に誘起される電荷に基づいて生じる。このクーロン力によって基板17は誘電体板22の表面に吸着される。
【0005】
基板温度調整部19は静電吸着装置18の下側に設けられている。基板温度調整部19は、熱電対25と、電源・制御機構26と、加熱・冷却部27と構成されている。熱電対25と電源・制御機構26によって所要の一定温度に制御された加熱・冷却部27は、その上に設けられた誘電体板22を一定温度に保持する。誘電体板22のエンボス部21の上に載置された基板17の温度は、エンボス部21によって形成された隙間21aにガス供給源28とガス導入経路29によりガスが導入されかつ隙間21a内が一定圧力に保持されると、そのガスの熱伝導によって所定温度に保持される。
【0006】
静電吸着装置18によって基板17を固定するとき、その吸着力は、隙間21aの圧力と容器11の内部圧力との差圧による反力よりも十分に大きい必要がある。通常のスパッタリング圧力は数ミリトール(mTorr)である。従って、圧力差の値はほぼ隙間21aの圧力となる。この場合、圧力差は約10トール(Torr)である。
【0007】
基板17を吸着する力は誘電体板22の表面と基板17の間で働くクーロン力である。図8と図9を参照してクーロン力について説明する。
【0008】
誘電体板22のエンボス部21の上に基板17は置かれる。図8に示すごとく、金属電極23(内側電極23a)にバッテリ24aによりプラス電圧が印加されると、誘電体板22の表面にプラス電荷が誘起されるが、同時に基板17の裏面にもマイナス電荷が誘起される。
【0009】
金属電極が単極電極の場合には、基板17がプラズマを経由して電源接地部に接続され、閉回路が形成される。金属電極が双極電極の場合には、異符号の内外の各電極電圧に対応して誘電体板22の表面に電荷が現れる。基板17の裏の表面を通じて閉回路が形成されることにより、基板17の裏の表面に電荷が誘起される。
【0010】
誘電体板22の表面と基板17との間に働く力(F)は、単極電極の場合にはF=ε(V2/L2)A/2、双極電極の場合にはF=ε(V2/L2)A/8(電極面積がプラス電極とマイナス電極で同じ場合)である。ここで、εは隙間21aの誘電率、Vは電圧、Lは誘電体板と基板裏面(シリコン基板裏面)との距離、Aは電極面積である。吸着力は印加電圧と電極面積に比例し、基板と誘電体板との距離に反比例する。スパッタリングでは、成膜前に基板を加熱し、一定温度に保持する必要があるため、通常、双極型電極を用いる。
【0011】
一方、基板17と誘電体板22が直接に接触するエンボス部21の凸部21bでは、図9に示すごとく、微視的に基板17や誘電体板22の表面の微細な凹凸によって生ずる微細な隙間30(隙間の距離δ)が生じる。隙間30の距離δは非常に小さく、0.1μm程度であるため、隙間30を挟んで生じる力は非常に大きなものとなる。これはジョンソン・ラーベック効果(JR効果)と呼ばれている。
【0012】
双極電極の場合について吸着力を計算する。直径300mmの基板を処理する場合、誘電体板22の直径は300mmとし、誘電体板22の外周縁1mmとエンボス凸部とによって基板を接触し支持するものとする。この接触部分の表面積が全誘電体板水平面積の1%となっている。金属電極23としては、内側が円形、外側がリング状に二分割された双極電極とする。金属電極23として、計算上は直径298mmの円板とする。金属電極への印加電圧はプラス電極が+200V、マイナス電極が−200Vとする。基板17と誘電体板22との距離Lに相当するエンボスギャップ(凸部と凹部の段差)を7μm、エンボス凸部21bの基板との接触部の微細隙間δを0.1μmとする。また吸着力は誘電体板の表面に垂直方向にのみ働くものとする。
【0013】
エンボス部21の凹部に働く力は500〜600N、凸部21bに働く力は5000〜10000Nとなり、全体で5500〜10600Nとなる。エンボス凸部21bに働く力は非常に大きく、制御する上で重要である。これらの力の合計が基板全体に掛かるが、単位面積あたりの力すなわち圧力では500〜1000Torrとなる。この圧力は、基板17と誘電体板22の隙間の圧力と、容器11の内部圧力との差圧による反力よりも十分に大きいので、基板17は誘電体板22の上に安定して吸着固定される。
【0014】
次に、スパッタリング装置の容器11における基板17のスパッタリング処理を説明する。
【0015】
基板17が容器11内に搬入され、基板支持部16の誘電体板22の上に置かれる。基板17の搬送は、図示されない搬送ロボットとリフトピンによって行われる。次に、外部直流電源回路24から作動し、電極23に所定電圧が印加される。この例では、内側電極23aに+200V、外側電極23bに−200Vが印加される。内側電極23aと外側電極23bには絶対値で同じ電圧が印加される。電極23に電圧が印加されると、上記に説明したように、静電力によって基板17が誘電体板22に吸着されて固定される。基板17が固定されると、基板17と誘電体板22との間に形成される隙間21aに、ガス供給源28からガス導入経路29を介してガスが導入される。隙間21a内の圧力は1〜10Torrの範囲の或る一定圧力に制御されている。このガスによって、基板温度調整部19により一定温度に保持された誘電体板22から基板17に熱が伝わる。この結果、基板17も昇温し、一定温度に保持される。基板温度が一定になると、容器11内にArガスが導入され、容器11内の圧力は一定圧力に保持される。次に、基板17に対向するターゲット13にスパッタ電源31から高い電圧が印加され、容器11の内部に放電が生じ、ターゲット13に対するスパッタリング作用で基板17の上に所望の薄膜が形成される。成膜終了後、容器11内のガス導入と隙間21aへのガス供給が停止される。十分に圧力が低下した後に、電極23への電圧印加が停止される。次に、図示しないリフトピンで基板17を誘電体板22のエンボス部21から離し、同じく図示しない搬送ロボットにより基板17を容器11の外へ搬出する。
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
前述した従来の静電吸着装置では、誘電体板22のエンボス部21の吸着力が強く設定されているため、吸着開始時などに基板17の裏面と誘電体板22とが擦れて基板17が削れ、パーティクルが大量に発生し、発塵源となり、歩留まり低下の原因になるという問題が生じる。この問題を解決するためには、エンボス凸部21bの基板接触部の面積を減少させればよい。しかし、湾曲する基板を支持する支持体としての役割を有するので、面積減少には限界がある。
【0017】
さらに誘電体板22の表面に誘起された電荷は、基板17を処理した後、金属電極23への印加電圧をなくした後であっても残留するので、吸着力は直ぐには消えない。そのため、基板17を容器11の外へ搬送する目的でリフトピンで基板17を誘電体板22から離そうとするとき、基板が振動などを起こして位置ずれを起こす。この結果、後段の基板処理において分布悪化や搬送不能などの問題を起こし、歩留まり低下あるいは装置稼動率の低下の問題を引き起こす。
【0018】
上記の問題に関連する従来技術として、さらに特開平11−251416号公報に開示される静電チャックを挙げる。この静電チャックでは、良好な被吸着体の離脱性を実現している。
【0019】
本発明の目的は、上記問題に鑑み、パーティクルの発生を低減し、基板の取外しおよび搬送を容易かつ安定に行い、高い歩留まりと装置稼動率を実現する静電吸着装置を提供することにある。
【0020】
【課題を解決するための手段および作用】
本発明に係る静電吸着装置は、上記目的を達成するために、次の通り構成される。
【0021】
第1の静電吸着装置(請求項1に対応)は、表面がエンボス加工された誘電体板を備える静電吸着装置であり、エンボス凹部に形成される電極層と、この電極層を電圧印加状態または接地状態にする外部電源と、エンボス凸部の基板支持面に形成された導電体層とを備えるように構成される。
【0022】
上記の静電吸着装置はスパッタリング装置等の基板処理装置に適用される。静電吸着装置で固定される基板はシリコン基板等である。誘電体板の表面にエンボス加工でエンボス部が形成される。エンボス部には凸部と凹部と外周縁突起部が形成されている。エンボス凹部に形成された電極層に電圧が印加されると、基板裏面に電荷が誘起される。基板と接触する部分はエンボス凸部の表面に形成された導体板層であるので、接触部は基板と同電位となり、静電力は生じない。従って擦れに起因するパーティクルの発生を抑制することが可能となる。なお外周縁突起部の表面についても同様に導電体層が形成される。上記のエンボス凸部は外周縁突起部を概念的に含むものとする。また基板処理後において電極層を接地状態にすると、誘起された電荷を急速に逃がすことができる。
【0023】
第2の静電吸着装置(請求項2に対応)は、上記の第1の構成において、好ましくは、電極層と導電体層の間に形成される段差は5〜30μmの範囲に含まれることを特徴とする。当該段差は数μmから数十μmの範囲の距離が好ましいが、より好ましくは5〜30μmの範囲である。
【0024】
第3の静電吸着装置(請求項3に対応)は、上記の第1の構成において、好ましくは、電極層は、平面的形態において分割されており、互いに絶縁された複数の電極層部分から成ることを特徴とする。この構成では、好ましくは、内側電極層と外側電極層からなる双極型の電極層である。
【0025】
第4の静電吸着装置(請求項4に対応)は、上記の第1の構成において、好ましくは、導電体層が形成される範囲がエンボス凸部の表面範囲よりも内側である。この構成によって、導電体層の縁部と電極層の縁部が高さ方向において直線上に配置されるの防止するようにしている。
【0026】
第5の静電吸着装置(請求項5に対応)は、上記の第1の構成において、好ましくは、導電体層が形成される範囲がエンボス凸部の表面範囲よりも内側であり、かつエンボス凸部の周囲に前記電極層が形成されないことを特徴とする。この構成によっても、導電体層の縁部と電極層の縁部が高さ方向において直線上に配置されるの防止するようにしている。
【0027】
第6の静電吸着装置(請求項6に対応)は、上記の各構成において、好ましくは、電極層と導電体層の材料は、タングステン、モリブデン、タンタル、炭素系導電体のいずれかであることを特徴とする。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0029】
実施形態で説明される構成、形状、大きさおよび配置関係については本発明が理解・実施できる程度に概略的に示したものにすぎず、また数値および各構成要素の組成(材質)については例示にすぎない。従って本発明は、以下に説明される実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示される技術的思想の範囲を逸脱しない限り様々な形態に変更することができる。
【0030】
この実施形態では、基板成膜装置としてのスパッタリング装置に適用された静電吸着装置の例について説明する。
【0031】
図1〜図3に従ってスパッタリング装置の構成を概説する。スパッタリング装置の構成の基本的部分は図7を参照して説明した従来装置と同じである。図7で説明した要素と同一の要素には同一の符号を付している。
【0032】
スパッタリング装置は、外部の排気機構(図示せず)により内部が減圧された容器11と、容器11の天井部にリング状絶縁部材12を介して設けられたターゲット13と、ターゲット13の裏面側に設けられかつヨーク板14に固定された磁石15と、ターゲット13に対向する位置に設置されかつ容器11の底部に固定された基板支持部16と、基板支持部16に設けられた静電吸着装置18と基板温度調整部19とから構成されている。ターゲット13にはスパッタ電源31から電圧が印加されている。容器11の周壁の内面に沿って筒状シールド部材20が配置される。図1において、基板搬送ロボット、搬入・搬出ゲート、基板支持部16で基板17の載置または取外し用のリフトピン、放電発生に関連する機構、放電用Arガスの導入機構等の図示は省略されている。
【0033】
基板支持部16の上側に設けられた静電吸着装置18は、表面がエンボス加工された誘電体板22と、誘電体板22の表面に設けられた金属等の電極層41と、電極層41に一定の電圧を印加する外部直流電源回路24とから構成されている。
【0034】
誘電体板22の表面のエンボス部21は、複数の凸部21bと、凹部21cと、外周縁突起部21dとから成っている。凸部21bは円柱形状をなしている。外周縁突起部21dはリング状の形状を有している。外周縁突起部21dも概念的に凸部に含まれる。誘電体板22のエンボス部21によって、基板17の裏面側に隙間21aが形成される。誘電体板22のエンボス部21では、複数の凸部21bのすべての先端面(基板支持面)には導電体層42を設けている。誘電体板22の材質としては、熱伝導度の良好なAIN(窒化アルミニウム)を用いている。
【0035】
電極層41はエンボス部21の凹部21cの底面に配置される。電極層41は、双極電極の構造を有し、円板状の内側電極層41aとリング状の外側電極層41bから成っている。電極層41は、誘電体板22と同程度の熱膨張率を有するタングステン、モリブデン、タンタルなどの金属、あるいは炭素系導電体で作られている。
【0036】
図3は誘電体板22の平面図を示し、エンボス凸部21bの形成パターンと電極層41の配置パターンとを示している。図3でエンボス凸部21bの径などは分かりやすいように実際より大きく描いている。図3において電極層41の領域は斜線で示されている。電極層41は、内側の円板状電極層41aと外側のドーナツ状電極層41bの2つの部分から成っている。電極層41は、誘電体板22の表面のエンボス凹部21cの箇所に設けられている。なおエンボス凸部21bの上には導電体層42が形成されているので、図3ではエンボス凸部21bの場所には円形の導電体層42が示されている。さらに誘電体板22の外側の縁部分にはリング状の外周縁突起部21dが形成され、かつその上にもリング状の導電体層43が形成されている。
【0037】
電極層41はイオンプレーティングなどによって形成され、厚みは数μmから数十μm程度である。電極層41は誘電体板22に対して密着性がよく、温度の昇降において剥がれを起こさない。各電極層41a,41bのそれぞれには外部回路を通じて直流電源が接続される。すなわち電極層41は外部直流電源回路24に接続され、一定の電圧が印加されている。外部直流電源回路24にはプラス電圧を印加するバッテリ24aとマイナス電圧を印加するバッテリ24bと接地端子24cとスイッチ24d,24eが設けられている。内側電極層41aにはバッテリ24aとスイッチ24dと導線43によってプラス電圧が印加され、外側電極層41bにはバッテリ24bとスイッチ24eと導線44によってマイナス電圧が印加される。また電極層41a,41bは外部直流電源回路24の接地端子24cによって接地されるようになっている。
【0038】
内側電極層41aと外側電極層41bのそれぞれにはバッテリ24aによるプラス電圧およびバッテリ24bによるマイナス電圧が印加されると、誘電体板22のエンボス凸部21bの表面に各電極電圧に対応する符号の電荷が現れる。
【0039】
電極層41は、誘電体板22の上に成膜によって形成されることから、基板温度調整部19に対して電気的に絶縁されている。また外部直流電源回路24との電気的接続関係を形成する導線43,44等も気温温度調整部19や容器11と電気的に絶縁されている。
【0040】
図2に拡大して示されるように、エンボス凸部21bの先端面に導電体層42が形成されている。導電体層42は、誘電体板22と同程度の熱膨張率を持つ金属であり、例えばタングステン、モリブデン、タンタルか、金属以外では炭素系材料でもよい。導電体層42は電極層41と電気的に絶縁されている。導電体層42は同様にイオンプレーティングなどによって形成され、厚さも数μmから数十μm程度である。誘電体板22に対して密着性がよく、温度の昇降においても剥がれを起こさない。エンボス凸部21bの先端面は、本来、基板17と直接的に接触する部分である。導電体層42は、エンボス凸部21b以外に、基板17と接触する誘電体板22のリング状の外周縁突起部21dの表面にも形成されている。
【0041】
電極層41(41a,41b)と導電体層42の間の絶縁を図るためには、図4および図5に示すごとく、導電体層42が形成される範囲をエンボス凸部21bの先端面範囲よりも内側にするか、または導電体層42が形成される範囲をエンボス凸部21bの先端面範囲よりも内側にし、電極層をエンボス段差の周囲付近に形成しないことが望ましい。すなわち、電極層の縁部分と導電体層の縁部分とが段差が形成される箇所で高さ方向にて直線上に配置されないようにすることが好ましい。
【0042】
基板温度調整部19は、熱電対25と、電源・制御機構26と、加熱・冷却部27によって構成される。
【0043】
また誘電体板22と基板17の間に形成される隙間21aには、ガス供給源28からガス導入経路29を経由してガスが導入される。導入されたガスによって隙間51内の圧力は一定圧力に保持される。またガスの熱伝導によって基板17は所定温度に保持される。
【0044】
本実施形態に係るスパッタリング装置による基板処理は、従来装置で説明した内容と基本的に同じである。この実施形態では、好ましくは、電極層41の内側電極層41aには+200〜+1000Vの範囲の電圧が印加され、外側電極層41bには−200〜−1000Vの範囲の電圧が印加される。双極型電極である電極層41の内外の電極層には絶対値で同じ電圧が印加される。電極層41a,41bに電圧が印加されると、図6に示すごとく、対向する基板17の裏面上に電極電位の符号とは異符号の電荷が誘起され、静電力によって基板17が吸着され、誘電体板22の上に固定される。
【0045】
次に、図6を参照して静電吸着装置18による基板吸着作用について詳しく説明する。
【0046】
基板(例えばシリコン基板)17が誘電体板22の上に置かれ、内外の電極層41a,41bに所定の電圧が印加されると、基板17の裏の表面には対応する電極の電位に応じた符号の電荷が誘起され、その結果、静電力によって基板17が誘電体板22に固定される。基板17は抵抗が比較的に低いため、内外の電極層41a,41bに所定電圧が印加されると、基板17の裏の表面付近で電流が移動しやすく、プラス電極層に対向する基板裏面部分でマイナス電荷が生じ、マイナス電極層に対向する基板裏面部分ではプラス電荷が生じ、基板の電位は電極層41の電位と絶対値がほぼ同じとなる。基板17の裏面で電荷の移動が生じるとき、電源回路24と基板17との間で閉回路が形成され、この閉回路で電荷の流れが起きる。
【0047】
一方、エンボス凸部21bの先端面が基板17の裏面と接触するが、凸部21bの導電体層42は接触する基板17の裏面部分と同電位になる。従って、エンボス凸部21bの表面と基板17との間で静電力は生ぜず、静電力は働かない。このため、基板17と誘電体板22のエンボス部21との接触部であるエンボス表面でのジョンソン・ラーベック効果が生じることなく、強い力が働かないので、擦れによるパーティクル発生は非常に少なくなる。
【0048】
ここで、エンボス凸部21bの先端面の導電体層42は基板17とほぼ同電位になっている(図6ではマイナス電位)が、その下部の誘電体板22との界面(エンボス凸部の先端面との界面)の誘電体板側に誘起されている異符号の電荷(図6ではプラス電荷)の存在によって、当該界面では電界の移動・消滅、および当該界面でのジョンソン・ラーベック効果による力が生じている。しかし、この界面で生じている現象は基板の吸着には関係ない。
【0049】
本実施形態における基板17を吸着させる力を計算する。働く力は、前述の通りF=ε(V2/L0 2)A0/8(電極層の面積がプラス電極層とマイナス電極層とで同じ場合)である。ここで、εは誘電率、Vは電圧、L0は電極層の表面と基板裏面との距離、A0はほぼ電極層41の面積である。吸着力は印加電圧の二乗と電極面積に比例し、基板と誘電体板表面との距離の二乗に反比例する。
【0050】
直径300mmの基板を処理する場合、基板支持体である誘電体板22の直径も300mm、電極層41の面積が直径298mmの円板とし、幅1mmの外周縁突起部と直径1mmのエンボス凸部が基板に接触するとして全体面積の1%となる場合を想定する。
【0051】
印加電圧が200〜500Vの場合に働く力は500〜3200Nであり、圧力では60〜370Torrとなり、隙間21aにガスを導入することによって生ずる圧力と容器11の内部圧力との圧力差による反力を十分上回り、安定して吸着固定が可能となる。
【0052】
ただし、基板の表面がSi02で覆われている場合は、基板接触部で電荷の移動がSi02層の電荷移動に律速され、Si基板だけの場合ほど容易ではない。またエンボス部で基板と誘電体板とが同電位にはなりにくいので、本計算は必ずしも正確ではない。しかし、誘電体同士の接触の場合のように電荷移動が起こらないわけではないので、従来に比べてエンボス部での吸着力は低減する。
【0053】
基板17の処理が終了した後、電極層41への電圧印加が停止され、電極層41が外部回路の切換スイッチ24d,24eによってこれらが接地部24cに接続される。電極41が接地電位になると、対向する基板17内部では静電誘導による電荷の分離が解消し、基板裏面に誘起していた電荷が消滅する。その結果、電極層41と基板17の間で働いていた静電力は急速に減少し、吸着力は消滅する。
【0054】
ただし、エンボス部21の凸部21bの表面で誘電体板部分に誘起されていた電荷は残留するので、凸部21b付近の基板の裏面部分には異符号の電荷が残留する。しかし依然としてエンボス凸部21bの表面に形成あれた導電体層42は基板17とほぼ同電位であるので、基板と誘電体板の間に静電力は働かず、吸着力は生じない。当該部分の残留電荷によって基板と誘電体板の間に吸着力は生じない。
【0055】
以上によって、内外の電極層41a,41bへの電圧印加の停止から瞬時に基板吸着力は衰え、残留電荷による吸着力が長く続くことはない。従って金属電極42への電圧印加停止後、直ちに基板の搬出を開始しても基板が振動するようなことはなく、位置ずれを起こすこともない。
【0056】
本発明による静電吸着装置によれば、実験的に検査したところ、従来では直径が300mmの基板の処理において裏面で発塵するパーティクルが約5万個であったものが、約5千個以下に低下した。これにより生産の歩溜まりも非常に向上した。
【0057】
以上の本実施形態に係る静電吸着装置は、スパッタリングの他に薄膜を基板上に形成するCVD(化学的気相成長)や薄膜を加工するドライエッチングに適用することも可能である。また本実施形態では双極型電極について述べたが、単極型電極についても同様に適用することができる。
【0058】
【発明の効果】
以上の説明で明らかなように本発明によれば、誘電体板のエンボス表面と基板裏面との間のクーロン力で基板を吸着固定する静電吸着装置において、エンボス凹部の表面に電極層を形成し、かつ複数のエンボス凸部の先端面を導電体層を形成したため、基板との接触部が同電位に保たれ、基板と誘電体板との間の接触部に強い力が働かず、擦れによるパーティクル発生を抑制することができる。基板処理が終了した後、電圧印加の停止の後に瞬時に吸着力を衰えさせることができ、基板の安定した取出しおよび搬送が可能となる。これによって歩留りが高く、稼動率が高い基板処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る静電吸着装置が適用されたスパッタリング装置を示す縦断面図である。
【図2】誘電体板のエンボス部と基板との接触状態を示す拡大縦断面図である。
【図3】誘電体板のエンボス部と電極層の配置パターンを示す平面図である。
【図4】誘電体板のエンボス部と基板との接触状態の他の例を示す拡大縦断面図である。
【図5】誘電体板のエンボス部と基板との接触状態の他の例で、基板が離れた状態を示す拡大縦断面図である。
【図6】誘電体板のエンボス表面と基板との接触状態において印加電圧と誘起電荷を示す拡大縦断面図である。
【図7】従来の静電吸着装置を備えたスパッタリング装置を示す縦断面図である。
【図8】誘電体板とのエンボス部と基板の接触関係を説明するための部分拡大縦断面図である。
【図9】エンボス凸部と基板の接触関係を説明するための部分拡大縦断面図である。
【符号の説明】
11 容器
13 ターゲット
15 磁石
16 基板支持部
17 基板
18 静電吸着装置
19 基板温度調整部
21 エンボス部
21b 凸部
21c 凹部
21d 外周縁突起部
22 誘電体板
41 電極層
42 導電体層
Claims (6)
- 表面がエンボス加工された誘電体板を備える静電吸着装置において、エンボス凹部に形成される電極層と、この電極層を電圧印加状態または接地状態にする外部電源と、エンボス凸部の基板支持面に形成された導電体層とを備えることを特徴とする静電吸着装置。
- 前記電極層と前記導電体層の間に形成される段差は5〜30μmの範囲に含まれることを特徴とする請求項1記載の静電吸着装置。
- 前記電極層は、平面的形態において分割されており、互いに絶縁された複数の電極層部分から成ることを特徴とする請求項1記載の静電吸着装置。
- 前記導電体層が形成される範囲が前記エンボス凸部の表面範囲よりも内側であることを特徴とする請求項1記載の静電吸着装置。
- 前記導電体層が形成される範囲が前記エンボス凸部の表面範囲よりも内側であり、かつ前記エンボス凸部の周囲に前記電極層が形成されないことを特徴とする請求項1記載の静電吸着装置。
- 前記電極層と前記導電体層の材料は、タングステン、モリブデン、タンタル、炭素系導電体のいずれかであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の静電吸着装置。
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