JP2004011820A - 捩り振動低減装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】ばね規制片に対するばね部材のエッジ当りを無くし、吸振性能の向上と部品耐久性の向上を図る。
【解決手段】入力側のホールドプレート13の外周縁部の断面略コ字状のばね受容部17にばね部材14を収容して、同プレート13の外周縁部のばね支持壁18にばね部材14の端部を支持させる。出力側のトルク授受相手部材である伝達プレート16の係止爪20をばね部材14の端部に当接させる。伝達プレート16の係止爪20,20の間に、ばね部材14の軸方向変位を規制するばね規制片21を延設する。ばね規制片21の端部をばね部材14と逆側に曲げ変形させて、ばね部材14とばね規制片21のエッジ当りを無くす。
【選択図】 図1
【解決手段】入力側のホールドプレート13の外周縁部の断面略コ字状のばね受容部17にばね部材14を収容して、同プレート13の外周縁部のばね支持壁18にばね部材14の端部を支持させる。出力側のトルク授受相手部材である伝達プレート16の係止爪20をばね部材14の端部に当接させる。伝達プレート16の係止爪20,20の間に、ばね部材14の軸方向変位を規制するばね規制片21を延設する。ばね規制片21の端部をばね部材14と逆側に曲げ変形させて、ばね部材14とばね規制片21のエッジ当りを無くす。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
この出願の発明は、エンジンとトランスミッションの間の動力伝達系等に介装されてその系の捩り振動を低減する捩り振動低減装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
この種の捩り振動低減装置として、特開2002−303469号公報に記載されるようなものがある。
【0003】
この捩り振動低減装置は、トルクコンバータ内のロックアップクラッチとタービンの間に介装されて、ロックアップ時における捩り振動を低減するものであり、ロックアップクラッチの出力側に結合されたホールドプレートと、タービンハブに結合されたトルク授受相手部材である伝達プレートとが、ばね部材を介して回動方向で連結された概略構成となっている。
【0004】
具体的には、ホールドプレートの外周縁部には、径方向に沿って断面略コ字状に屈曲したばね受容部と、このばね受容部の円周方向の前後位置に配置されたばね支持壁とを備え、ばね支持壁を座面とするようにしてばね受容部内にコイルスプリングから成るばね部材が収容されている。そして、一方伝達プレートの外周縁部には、断面略L字状の複数の係止爪と、隣接する各係止爪の間からばね受容部の開口側前面に延出するばね規制片が延設され、各係止爪の先端部側面が座面としてばね部材の端部に当接すると共に、ばね規制片がばね部材の側方変位を規制するようになっている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、この従来の捩り振動低減装置の場合、伝達プレートに切り起こし形成されるばね規制片が円周方向に亙ってほぼ直線状に延出しているため、そのばね規制片の両端部のエッジがばね部材の外周面に近接して配置され、ばね部材が撓んだときに、ばね部材の複数段のばね線のリングがばね規制片のエッジに当接することがある。そして、こうしてばね部材がばね規制片のエッジに当接すると、摩擦トルクの増大によって吸振性能の低下を来すと共に、ばね部材が摩耗して部品寿命の低下を来すことが懸念される。
【0006】
そこでこの出願の発明は、ばね規制片に対するばね部材のエッジ当りを無くし、吸振性能の向上と部品耐久性の向上を図ることのできる捩り振動低減装置を提供しようとするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上述した課題を解決するための手段として、この出願の発明は、入力側回転部と出力側回転部の一方に設けられる部材であって、その外周縁部に、径方向に沿って断面略コ字状に屈曲したばね受容部と、このばね受容部の円周方向の前後位置に配置されたばね支持壁とを有するホールドプレートと、前記ばね支持壁を座面とするように前記ばね受容部内に収容されたばね部材と、入力側回転部と出力側回転部の他方に設けられる部材であって、先端部が軸方向に突出してその側面が前記ばね部材の端面に当接する複数の係止爪と、円周方向で隣接する二つの係止爪の間から前記ばね受容部の開口側前面に延出して前記ばね部材の側方の変位を規制するばね規制片とを有するトルク授受相手部材と、を備え、前記ばね支持壁と係止爪でばね部材を圧縮しつつホールドプレートとトルク授受相手部材の間でトルクの伝達を行い、ばね部材の弾性によって捩り振動を吸収する捩り振動低減装置において、前記ばね規制片の円周方向の端部をばね部材と逆側に曲げ変形させるようにした。
【0008】
この発明の場合、ばね規制片の端部をばね部材と逆側に曲げたことにより、その端部のエッジがばね部材の外周面から離間し、曲げによる比較的緩やかな曲面がばね部材の外周面に臨むこととなる。
【0009】
また、前記ばね規制片に、ばね部材の外周面形状に沿うように絞り加工部を設ける場合には、その絞り加工部に跨るように軽量化用の肉抜き孔を設けるようにしても良い。
【0010】
一般に、板状部材に軽量化用の肉抜き孔等の精度を要求されない孔を設ける場合、絞りプレス成形や表面の熱処理を施す前に孔あけ加工を行う。したがって、上記のように絞り加工部に跨るように軽量化用の肉抜き孔を設けるようにした場合には、孔あけ加工の後にその孔を跨ぐようにして絞り加工が行われることとなる。このため、絞り加工時には肉抜き孔のある分だけ絞り面積が少なくなり、小さいプレス荷重で精度の高い絞り加工を行うことが可能になる。また、絞り加工の後に熱処理を行うと、プレス時の残留応力と熱処理時に組織変態するときの応力が外周端近くにある肉抜き孔から容易に逃げ、加工後にトルク授受相手部材に歪が残らなくなる。よって、これらのことからばね規制片の製品毎の姿勢のばらつきが少なくなり、ばね規制片の端部を曲げたことと相俟って製品全体の吸振性能が安定的に高まる。
【0011】
【発明の実施の形態】
次に、この出願の発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
図2は、自動変速機の前端部側に配置されるトルクコンバータのロックアップクラッチ部分の断面図である。図2において、1は、図外のトルクコンバータのポンプと一体化されたコンバータハウジングであり、2は、トルクコンバータのタービンシェル、3は、このタービンシェル2に一体に結合されたタービンハブである。コンバータハウジング1は前端部がエンジンの図外のクランクシャフトに結合され、タービンハブ3は自動変速機の図外の入力軸にスプライン結合されている。このトルクコンバータ自体は周知のものであり、クランクシャフトからコンバータハウジング1に入力されたトルクをポンプ、タービン間の流体の作用により、タービンハブ3側に伝達する基本構成となっている。
【0013】
また、同図において、4は、高速運転時等にコンバータハウジング1とタービンハブ3を直結するロックアップクラッチであり、5は、このロックアップクラッチ4に取り付けられたこの出願の発明にかかる捩り振動低減装置である。
【0014】
ロックアップクラッチ4は、コンバータハウジング1の端部壁の内面に突設されたアウタドラム6と、捩り振動低減装置5を介してタービンハブ3側に連結されたインナドラム7と、アウタドラム6の内周側にスプライン係合された複数の駆動クラッチ板8と、インナドラム7の外周側にスプライン係合された状態で駆動クラッチ板8の間に交互に配置された従動クラッチ板9と、油圧によって進退操作されて駆動クラッチ板8を従動クラッチ板9に適宜圧接させるロックアップピストン10とを備えている。尚、11は、アウタドラム6の前端部内面に設けられて駆動クラッチ板8の軸方向変位を規制するストッパであり、12は、コンバータハウジング1の端部壁の内面に突設されてロックアップピストン10を摺動自在に支持する円筒状の支持壁である。
【0015】
捩り振動低減装置5は、内周縁部が前記インナドラム7にリベット固定された略円板状のホールドプレート13と、このホールドプレート13の外周縁部に保持された複数のばね部材14(コイルスプリング)と、内周縁部がタービンハブ3のフランジ3aにリベット固定される一方で、外周縁部がばね部材14を介してホールドプレート13に回動方向で連結された伝達プレート16(この出願の発明におけるトルク授受相手部材)とを備えている。
【0016】
ホールドプレート13の外周縁部には、図1,図2に示すように径方向に沿って断面略コ字状に屈曲したばね受容部17と、ばね部材14の直径よりも狭い幅に同様に断面略コ字状に屈曲したばね支持壁18とが円周方向に沿って交互になるように複数形成され、さらにこれらの外周側に径方向外側に張り出す強度フランジ19が円環状に連続して形成されている。
【0017】
ばね受容部17はタービンシェル2側に開口し、その開口側から前記ばね部材14が両側のばね支持壁18を座面とするようにして挿入装着されている。尚、この実施形態の場合、ばね受容部17は円周方向長さの長いものと短いものが2種類設けられており、その各ばね受容部17にはばね受容部長さに対応したばね部材14が収容されている。図1においては上下の略中央のものが長さの短いばね受容部17(以下、他のもの区別するときには「短受容部」と呼ぶものとする。)となっている。また、ばね支持壁18は、径方向内側と外側に並列に配置された一対の壁18a,18bによって構成されている。
【0018】
一方、伝達プレート16はホールドプレート13と同様に全体が略円板状に形成され、その外周縁部には断面略L字状の複数の係止爪20が円周方向に離間して形成されている。各係止爪20の屈曲部先端側は軸方向に沿ってホールドプレート13の各ばね支持壁18の壁18a,18b間の開口に挿入され、その側端面を座面としてばね部材14の端面に当接するようになっている。
【0019】
また、図1,図3に示すように伝達プレート16の外周縁部のうちの、隣接する係止爪20,20の中間位置には、ホールドプレート13のばね受容部14の開口側前面を覆うように延出してばね部材14の側方の変位を規制するばね規制片21が設けられている。このばね規制片21は、付根部21aから先端側に向かって略扇状に広がって形成され、先端側の幅広領域21bの円周方向の両端部21c,21cが図4に示すようにばね部材14と逆側に緩やかに曲げられている。また、ばね規制片21の付根部21aと幅広領域21bの間にはばね部材14の外周面形状に沿うように湾曲した絞り加工部21dが設けられており、この絞り加工部21dの円周方向略中央には伝達プレート16の一般面から連続するように軽量化用の肉抜き孔22が形成されている。
【0020】
尚、図2において、23は、伝達プレート16と共にタービンハブ3のフランジ3aにリベット止めされて、ホールドプレート13のセンタリングと軸方向の変位規制を行うリングプレートである。
【0021】
以上の構成において、クランクシャフトの回転によってポンプがコンバータハウジング1と一体に回転すると、そのポンプがタービンを回し、その動力をタービンハブ3からトランスミッションへと伝達する。この状態からクランクシャフトの回転速度等が設定制御条件に達すると、支持壁12に設けられた油孔24からロックアップピストン10の前面に油圧が導入され、その油圧によってロックアップピストン10が後方に押圧される。すると、このピストン10によって駆動クラッチ板8が従動クラッチ板9に押し付けられ、コンバータハウジング1の動力がロックアップクラッチ4と捩り振動低減装置5を介してタービンハブ3に直接伝達される。
【0022】
このとき、捩り振動低減装置5においては、ばね部材14の両端部がホールドプレート13と伝達プレート16のばね支持壁18と係止爪20によって夫々支持され、そのばね部材14が両プレート13,16の捩れに応じて伸縮変形することにより伝達系の捩り振動を吸収する。
【0023】
そして、ばね部材14はホールドプレート13と伝達プレート16が捩れ変動(相対回動)するときに、ホールドプレート13側のばね受容部17の三面の壁と、伝達プレート16側のばね規制片21によって同部材14の径方向の変位を規制されるが、このとき、ばね規制片21の端部21cはばね部材14と逆側に曲げられているため、ばね部材14の伸縮作動中に同部材14の外周面(ばね線のリング)がばね規制片21にエッジ当りすることはない。つまり、ばね規制片21の端部21cは曲げによってばね部材14の外周面から離間しており、しかも、曲げ部分は比較的緩やかな湾曲形状となっているため、ばね部材14が伸縮作動中に規制片21の端部21のエッジに直接当らないのは勿論のこと、ばね部材14が曲げ部分に接触したとしても、ばね部材14がその曲げ部分に引っ掛かったり、大きな摩擦抵抗を生じるようなことはない。
【0024】
したがって、この捩り振動低減装置5においては、ばね部材14がばね規制片21にエッジ当りすることによる大きな摩擦トルクの発生を無くすことができ、このことからこの摩擦トルクに起因する吸振性能の低下やばね部材14の劣化を確実に防止することができる。
【0025】
また、この捩り振動低減装置5は、伝達プレート16に肉抜き孔22を設けたために伝達プレート16全体の重量をその孔分だけ軽量化することができるが、肉抜き孔22は伝達プレート16のうちでも、ばね規制片21の絞り加工部21dに跨るように形成してあるため、ばね規制片21の姿勢のばらつきをより少なくできる、という利点がある。
【0026】
即ち、絞り加工部となる領域に肉抜き孔22を形成し、その肉抜き孔22に跨るように絞りプレス成形を行う場合、肉抜き孔22の分だけ絞り面積が小さくなる結果、比較的小さいプレス荷重でもってばね規制片21に精度良く絞り加工を施すことが可能になる。また、これとは別に肉抜き孔22が伝達プレート16の外周端にのばね規制片21部分にあるため、絞り加工の後に伝達プレート16に熱処理(浸炭窒化等の表面処理を含む。)を行うときに、プレス時の残留応力や熱処理時の組織変態による応力を肉抜き孔22から確実に逃がすことができる。したがって、伝達プレート16には応力の残留による歪が生じなくなる。
【0027】
よって、これらのことからばね規制片21の姿勢のばらつきを確実に無くし、ばね部材14とばね規制片21の間の接触摩擦の増大をさらに確実に防止することができる。
【0028】
また、この実施形態の捩り振動低減装置5は、トルクコンバータ内の油中で用いられるため、伝達プレート16のばね規制片21に形成された肉抜き孔22を通してタービンシェル2の前面側から作動油をばね部材14の周域に円滑に導入することができる。特に、この実施形態の伝達プレート16の場合、肉抜き孔21dが、ばね規制片21のうちでも伝達プレート16の一般面からタービンシェル2側に膨出する部分(絞り加工部21d)に形成されているため、コンバータハウジング1の内部の作動油をその回転に伴なう遠心力によって肉抜き孔22からばね部材22の周域へと効率良く導入することができる。さらに、ばね規制片21の幅広領域21bの両端部21c,21cは前述のようにばね部材14と逆側のタービンシェル2側に緩やかに曲げられているため、この曲げ部分が作動油をばね部材14の周域に誘導するフィンとしても機能する。
【0029】
したがって、この実施形態の装置5の場合、以上の理由からばね部材14の周域に作動油を効率良く循環供給することができるため、ばね部材14やその周域の部材に付着した摩耗粉を効率良く外部に排出することができる。よって、ばね部材14やその周域の部材に摩耗粉が付着することによるさらなる部材摩耗の促進を防止できる。
【0030】
尚、この出願の発明の実施形態は以上で説明したものに限るものではなく、例えば、ばね部材を保持するホールドプレートを出力側に配置し、係止爪を有するトルク授受相手部材を入力側に配置することも可能であり、また、捩り振動低減装置の適用部位もトルクコンバータ内に限らず、トルクコンバータの外部やトルクコンバータを採用しない車両の他の動力伝達部であっても良い。
【0031】
【発明の効果】
以上のように、この出願の発明は、ばね規制片の円周方向の端部をばね部材と逆側に曲げ変形させたため、ばね規制片に対するばね部材のエッジ当りを無くすことができ、その結果、装置の吸振性能の向上と部品耐久性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この出願の発明の第1の実施形態を示す図2の矢印A方向から見た部分破断正面図。
【図2】同実施形態を示す図1のB−B断面に対応する断面図。
【図3】同実施形態を示す図2の矢印A方向から見た伝達プレートの正面図。
【図4】同実施形態を示す図3のC−C断面に対応する拡大断面図。
【符号の説明】
5…捩り振動低減装置
13…ホールドプレート
14…ばね部材
16…伝達プレート(トルク授受相手部材)
17…ばね受容部
18…ばね支持壁
20…係止爪
21…ばね規制片
21c…端部
21d…絞り加工部
22…肉抜き孔
【発明の属する技術分野】
この出願の発明は、エンジンとトランスミッションの間の動力伝達系等に介装されてその系の捩り振動を低減する捩り振動低減装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
この種の捩り振動低減装置として、特開2002−303469号公報に記載されるようなものがある。
【0003】
この捩り振動低減装置は、トルクコンバータ内のロックアップクラッチとタービンの間に介装されて、ロックアップ時における捩り振動を低減するものであり、ロックアップクラッチの出力側に結合されたホールドプレートと、タービンハブに結合されたトルク授受相手部材である伝達プレートとが、ばね部材を介して回動方向で連結された概略構成となっている。
【0004】
具体的には、ホールドプレートの外周縁部には、径方向に沿って断面略コ字状に屈曲したばね受容部と、このばね受容部の円周方向の前後位置に配置されたばね支持壁とを備え、ばね支持壁を座面とするようにしてばね受容部内にコイルスプリングから成るばね部材が収容されている。そして、一方伝達プレートの外周縁部には、断面略L字状の複数の係止爪と、隣接する各係止爪の間からばね受容部の開口側前面に延出するばね規制片が延設され、各係止爪の先端部側面が座面としてばね部材の端部に当接すると共に、ばね規制片がばね部材の側方変位を規制するようになっている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、この従来の捩り振動低減装置の場合、伝達プレートに切り起こし形成されるばね規制片が円周方向に亙ってほぼ直線状に延出しているため、そのばね規制片の両端部のエッジがばね部材の外周面に近接して配置され、ばね部材が撓んだときに、ばね部材の複数段のばね線のリングがばね規制片のエッジに当接することがある。そして、こうしてばね部材がばね規制片のエッジに当接すると、摩擦トルクの増大によって吸振性能の低下を来すと共に、ばね部材が摩耗して部品寿命の低下を来すことが懸念される。
【0006】
そこでこの出願の発明は、ばね規制片に対するばね部材のエッジ当りを無くし、吸振性能の向上と部品耐久性の向上を図ることのできる捩り振動低減装置を提供しようとするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上述した課題を解決するための手段として、この出願の発明は、入力側回転部と出力側回転部の一方に設けられる部材であって、その外周縁部に、径方向に沿って断面略コ字状に屈曲したばね受容部と、このばね受容部の円周方向の前後位置に配置されたばね支持壁とを有するホールドプレートと、前記ばね支持壁を座面とするように前記ばね受容部内に収容されたばね部材と、入力側回転部と出力側回転部の他方に設けられる部材であって、先端部が軸方向に突出してその側面が前記ばね部材の端面に当接する複数の係止爪と、円周方向で隣接する二つの係止爪の間から前記ばね受容部の開口側前面に延出して前記ばね部材の側方の変位を規制するばね規制片とを有するトルク授受相手部材と、を備え、前記ばね支持壁と係止爪でばね部材を圧縮しつつホールドプレートとトルク授受相手部材の間でトルクの伝達を行い、ばね部材の弾性によって捩り振動を吸収する捩り振動低減装置において、前記ばね規制片の円周方向の端部をばね部材と逆側に曲げ変形させるようにした。
【0008】
この発明の場合、ばね規制片の端部をばね部材と逆側に曲げたことにより、その端部のエッジがばね部材の外周面から離間し、曲げによる比較的緩やかな曲面がばね部材の外周面に臨むこととなる。
【0009】
また、前記ばね規制片に、ばね部材の外周面形状に沿うように絞り加工部を設ける場合には、その絞り加工部に跨るように軽量化用の肉抜き孔を設けるようにしても良い。
【0010】
一般に、板状部材に軽量化用の肉抜き孔等の精度を要求されない孔を設ける場合、絞りプレス成形や表面の熱処理を施す前に孔あけ加工を行う。したがって、上記のように絞り加工部に跨るように軽量化用の肉抜き孔を設けるようにした場合には、孔あけ加工の後にその孔を跨ぐようにして絞り加工が行われることとなる。このため、絞り加工時には肉抜き孔のある分だけ絞り面積が少なくなり、小さいプレス荷重で精度の高い絞り加工を行うことが可能になる。また、絞り加工の後に熱処理を行うと、プレス時の残留応力と熱処理時に組織変態するときの応力が外周端近くにある肉抜き孔から容易に逃げ、加工後にトルク授受相手部材に歪が残らなくなる。よって、これらのことからばね規制片の製品毎の姿勢のばらつきが少なくなり、ばね規制片の端部を曲げたことと相俟って製品全体の吸振性能が安定的に高まる。
【0011】
【発明の実施の形態】
次に、この出願の発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
図2は、自動変速機の前端部側に配置されるトルクコンバータのロックアップクラッチ部分の断面図である。図2において、1は、図外のトルクコンバータのポンプと一体化されたコンバータハウジングであり、2は、トルクコンバータのタービンシェル、3は、このタービンシェル2に一体に結合されたタービンハブである。コンバータハウジング1は前端部がエンジンの図外のクランクシャフトに結合され、タービンハブ3は自動変速機の図外の入力軸にスプライン結合されている。このトルクコンバータ自体は周知のものであり、クランクシャフトからコンバータハウジング1に入力されたトルクをポンプ、タービン間の流体の作用により、タービンハブ3側に伝達する基本構成となっている。
【0013】
また、同図において、4は、高速運転時等にコンバータハウジング1とタービンハブ3を直結するロックアップクラッチであり、5は、このロックアップクラッチ4に取り付けられたこの出願の発明にかかる捩り振動低減装置である。
【0014】
ロックアップクラッチ4は、コンバータハウジング1の端部壁の内面に突設されたアウタドラム6と、捩り振動低減装置5を介してタービンハブ3側に連結されたインナドラム7と、アウタドラム6の内周側にスプライン係合された複数の駆動クラッチ板8と、インナドラム7の外周側にスプライン係合された状態で駆動クラッチ板8の間に交互に配置された従動クラッチ板9と、油圧によって進退操作されて駆動クラッチ板8を従動クラッチ板9に適宜圧接させるロックアップピストン10とを備えている。尚、11は、アウタドラム6の前端部内面に設けられて駆動クラッチ板8の軸方向変位を規制するストッパであり、12は、コンバータハウジング1の端部壁の内面に突設されてロックアップピストン10を摺動自在に支持する円筒状の支持壁である。
【0015】
捩り振動低減装置5は、内周縁部が前記インナドラム7にリベット固定された略円板状のホールドプレート13と、このホールドプレート13の外周縁部に保持された複数のばね部材14(コイルスプリング)と、内周縁部がタービンハブ3のフランジ3aにリベット固定される一方で、外周縁部がばね部材14を介してホールドプレート13に回動方向で連結された伝達プレート16(この出願の発明におけるトルク授受相手部材)とを備えている。
【0016】
ホールドプレート13の外周縁部には、図1,図2に示すように径方向に沿って断面略コ字状に屈曲したばね受容部17と、ばね部材14の直径よりも狭い幅に同様に断面略コ字状に屈曲したばね支持壁18とが円周方向に沿って交互になるように複数形成され、さらにこれらの外周側に径方向外側に張り出す強度フランジ19が円環状に連続して形成されている。
【0017】
ばね受容部17はタービンシェル2側に開口し、その開口側から前記ばね部材14が両側のばね支持壁18を座面とするようにして挿入装着されている。尚、この実施形態の場合、ばね受容部17は円周方向長さの長いものと短いものが2種類設けられており、その各ばね受容部17にはばね受容部長さに対応したばね部材14が収容されている。図1においては上下の略中央のものが長さの短いばね受容部17(以下、他のもの区別するときには「短受容部」と呼ぶものとする。)となっている。また、ばね支持壁18は、径方向内側と外側に並列に配置された一対の壁18a,18bによって構成されている。
【0018】
一方、伝達プレート16はホールドプレート13と同様に全体が略円板状に形成され、その外周縁部には断面略L字状の複数の係止爪20が円周方向に離間して形成されている。各係止爪20の屈曲部先端側は軸方向に沿ってホールドプレート13の各ばね支持壁18の壁18a,18b間の開口に挿入され、その側端面を座面としてばね部材14の端面に当接するようになっている。
【0019】
また、図1,図3に示すように伝達プレート16の外周縁部のうちの、隣接する係止爪20,20の中間位置には、ホールドプレート13のばね受容部14の開口側前面を覆うように延出してばね部材14の側方の変位を規制するばね規制片21が設けられている。このばね規制片21は、付根部21aから先端側に向かって略扇状に広がって形成され、先端側の幅広領域21bの円周方向の両端部21c,21cが図4に示すようにばね部材14と逆側に緩やかに曲げられている。また、ばね規制片21の付根部21aと幅広領域21bの間にはばね部材14の外周面形状に沿うように湾曲した絞り加工部21dが設けられており、この絞り加工部21dの円周方向略中央には伝達プレート16の一般面から連続するように軽量化用の肉抜き孔22が形成されている。
【0020】
尚、図2において、23は、伝達プレート16と共にタービンハブ3のフランジ3aにリベット止めされて、ホールドプレート13のセンタリングと軸方向の変位規制を行うリングプレートである。
【0021】
以上の構成において、クランクシャフトの回転によってポンプがコンバータハウジング1と一体に回転すると、そのポンプがタービンを回し、その動力をタービンハブ3からトランスミッションへと伝達する。この状態からクランクシャフトの回転速度等が設定制御条件に達すると、支持壁12に設けられた油孔24からロックアップピストン10の前面に油圧が導入され、その油圧によってロックアップピストン10が後方に押圧される。すると、このピストン10によって駆動クラッチ板8が従動クラッチ板9に押し付けられ、コンバータハウジング1の動力がロックアップクラッチ4と捩り振動低減装置5を介してタービンハブ3に直接伝達される。
【0022】
このとき、捩り振動低減装置5においては、ばね部材14の両端部がホールドプレート13と伝達プレート16のばね支持壁18と係止爪20によって夫々支持され、そのばね部材14が両プレート13,16の捩れに応じて伸縮変形することにより伝達系の捩り振動を吸収する。
【0023】
そして、ばね部材14はホールドプレート13と伝達プレート16が捩れ変動(相対回動)するときに、ホールドプレート13側のばね受容部17の三面の壁と、伝達プレート16側のばね規制片21によって同部材14の径方向の変位を規制されるが、このとき、ばね規制片21の端部21cはばね部材14と逆側に曲げられているため、ばね部材14の伸縮作動中に同部材14の外周面(ばね線のリング)がばね規制片21にエッジ当りすることはない。つまり、ばね規制片21の端部21cは曲げによってばね部材14の外周面から離間しており、しかも、曲げ部分は比較的緩やかな湾曲形状となっているため、ばね部材14が伸縮作動中に規制片21の端部21のエッジに直接当らないのは勿論のこと、ばね部材14が曲げ部分に接触したとしても、ばね部材14がその曲げ部分に引っ掛かったり、大きな摩擦抵抗を生じるようなことはない。
【0024】
したがって、この捩り振動低減装置5においては、ばね部材14がばね規制片21にエッジ当りすることによる大きな摩擦トルクの発生を無くすことができ、このことからこの摩擦トルクに起因する吸振性能の低下やばね部材14の劣化を確実に防止することができる。
【0025】
また、この捩り振動低減装置5は、伝達プレート16に肉抜き孔22を設けたために伝達プレート16全体の重量をその孔分だけ軽量化することができるが、肉抜き孔22は伝達プレート16のうちでも、ばね規制片21の絞り加工部21dに跨るように形成してあるため、ばね規制片21の姿勢のばらつきをより少なくできる、という利点がある。
【0026】
即ち、絞り加工部となる領域に肉抜き孔22を形成し、その肉抜き孔22に跨るように絞りプレス成形を行う場合、肉抜き孔22の分だけ絞り面積が小さくなる結果、比較的小さいプレス荷重でもってばね規制片21に精度良く絞り加工を施すことが可能になる。また、これとは別に肉抜き孔22が伝達プレート16の外周端にのばね規制片21部分にあるため、絞り加工の後に伝達プレート16に熱処理(浸炭窒化等の表面処理を含む。)を行うときに、プレス時の残留応力や熱処理時の組織変態による応力を肉抜き孔22から確実に逃がすことができる。したがって、伝達プレート16には応力の残留による歪が生じなくなる。
【0027】
よって、これらのことからばね規制片21の姿勢のばらつきを確実に無くし、ばね部材14とばね規制片21の間の接触摩擦の増大をさらに確実に防止することができる。
【0028】
また、この実施形態の捩り振動低減装置5は、トルクコンバータ内の油中で用いられるため、伝達プレート16のばね規制片21に形成された肉抜き孔22を通してタービンシェル2の前面側から作動油をばね部材14の周域に円滑に導入することができる。特に、この実施形態の伝達プレート16の場合、肉抜き孔21dが、ばね規制片21のうちでも伝達プレート16の一般面からタービンシェル2側に膨出する部分(絞り加工部21d)に形成されているため、コンバータハウジング1の内部の作動油をその回転に伴なう遠心力によって肉抜き孔22からばね部材22の周域へと効率良く導入することができる。さらに、ばね規制片21の幅広領域21bの両端部21c,21cは前述のようにばね部材14と逆側のタービンシェル2側に緩やかに曲げられているため、この曲げ部分が作動油をばね部材14の周域に誘導するフィンとしても機能する。
【0029】
したがって、この実施形態の装置5の場合、以上の理由からばね部材14の周域に作動油を効率良く循環供給することができるため、ばね部材14やその周域の部材に付着した摩耗粉を効率良く外部に排出することができる。よって、ばね部材14やその周域の部材に摩耗粉が付着することによるさらなる部材摩耗の促進を防止できる。
【0030】
尚、この出願の発明の実施形態は以上で説明したものに限るものではなく、例えば、ばね部材を保持するホールドプレートを出力側に配置し、係止爪を有するトルク授受相手部材を入力側に配置することも可能であり、また、捩り振動低減装置の適用部位もトルクコンバータ内に限らず、トルクコンバータの外部やトルクコンバータを採用しない車両の他の動力伝達部であっても良い。
【0031】
【発明の効果】
以上のように、この出願の発明は、ばね規制片の円周方向の端部をばね部材と逆側に曲げ変形させたため、ばね規制片に対するばね部材のエッジ当りを無くすことができ、その結果、装置の吸振性能の向上と部品耐久性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この出願の発明の第1の実施形態を示す図2の矢印A方向から見た部分破断正面図。
【図2】同実施形態を示す図1のB−B断面に対応する断面図。
【図3】同実施形態を示す図2の矢印A方向から見た伝達プレートの正面図。
【図4】同実施形態を示す図3のC−C断面に対応する拡大断面図。
【符号の説明】
5…捩り振動低減装置
13…ホールドプレート
14…ばね部材
16…伝達プレート(トルク授受相手部材)
17…ばね受容部
18…ばね支持壁
20…係止爪
21…ばね規制片
21c…端部
21d…絞り加工部
22…肉抜き孔
Claims (2)
- 入力側回転部と出力側回転部の一方に設けられる部材であって、その外周縁部に、径方向に沿って断面略コ字状に屈曲したばね受容部と、このばね受容部の円周方向の前後位置に配置されたばね支持壁とを有するホールドプレートと、
前記ばね支持壁を座面とするように前記ばね受容部内に収容されたばね部材と、
入力側回転部と出力側回転部の他方に設けられる部材であって、先端部が軸方向に突出してその側面が前記ばね部材の端面に当接する複数の係止爪と、円周方向で隣接する二つの係止爪の間から前記ばね受容部の開口側前面に延出して前記ばね部材の側方の変位を規制するばね規制片とを有するトルク授受相手部材と、を備え、
前記ばね支持壁と係止爪でばね部材を圧縮しつつホールドプレートとトルク授受相手部材の間でトルクの伝達を行い、ばね部材の弾性によって捩り振動を吸収する捩り振動低減装置において、
前記ばね規制片の円周方向の端部をばね部材と逆側に曲げ変形させたことを特徴とする捩り振動低減装置。 - 前記ばね規制片に、ばね部材の外周面形状に沿うように絞り加工部が設けられている請求項1に記載の捩り振動低減装置において、前記絞り加工部に跨るように軽量化用の肉抜き孔を設けたことを特徴とする捩り振動低減装置。
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- 2002-06-10 JP JP2002168112A patent/JP2004011820A/ja active Pending
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