JP2004002983A - アルミニウム合金製バット - Google Patents
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Abstract
【解決手段】熱処理型7000系アルミニウム合金押出材からなるバットが、Zn:5.7〜8.5%、Mg:1.2〜2.6%、Cu:1.9〜2.6%、Zr:0.08〜0.15%を含み、かつ、Si: 0.12%以下、Fe:0.15%以下、Mn:0.30%以下、Cr:0.20%以下、V:0.05%以下、Ti:0.10%以下とし、残部Alおよび不可避的不純物からなるとともに、人工時効処理後の、引張強度540MPa以上、伸び10%以上の引張特性と、耐力540MPa以上、縦弾性率70000MPa以上の圧縮特性とを有し、かつ、耐SCC応力180MPa以上、剥離腐食性EB以上の耐蝕性を有し、更に、損失係数が1次モードで0.017以下および3次モードで0.010以上である打撃感を有することである。
【選択図】 無し
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、熱処理型7000系アルミニウム合金押出材からなり、打撃感や耐食性に優れた、アルミニウム合金製野球用バットに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から、ソフトボールや軟式野球、あるいは硬式野球などのアルミニウム合金製野球用バットとしては、熱処理型7000系アルミニウム合金押出材が汎用されている。この7000系アルミニウム合金としては、Al−Zn−Mg−Cu系のJIS 7050、7075、7055等が使用されている。
これら熱処理型7000系アルミニウム合金押出材からなるバットは、通常、溶解鋳造後のビレットを、均質化熱処理後、熱間押出後、必要に応じて冷間抽伸ならびに焼鈍を繰り返して、所定のサイズの管にした後、バット形状へ加工された後、溶体化処理および焼き入れ後、最終的なバット形状へ冷間矯正された後、人工時効処理 (人工時効硬化処理)して制作される。
【0003】
そして、これら、熱処理型7000系アルミニウム合金押出材からなるバットは、打球部の構造が単一層の金属部材からなるバットとして、SG規格の強度を満足し、かつ、圧縮の縦弾性率が高いため、打球部の肉厚を薄くし、バット本体の打球部を大きく撓ませることができる点で、打球の反発特性が良好な金属製バットを提供することができる (特許文献1参照)。また、打球部の構造がアルミニウム合金押出材の単一層からなるため、製造コストが安価な金属製バットを提供することができる。
【0004】
【特許文献1】
特開平11−267257号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、これら優れた特徴を有する熱処理型7000系アルミニウム合金押出材からなるバットも、耐食性に起因する耐久性には、今だ改良の余地があった。即ち塗装されて使用するにせよ、裸で使用するにせよ、バットは必然的に、応力や衝撃が負荷された状態で使用される。このため、熱処理型7000系アルミニウム合金では、特に、Zn、Mgなどの元素含有量が高いことと合わせ、バット表面乃至アルミニウム合金押出材表面が腐食しやすくなる。ここにおいて、問題となるのは、耐SCC応力特性 (耐応力腐食割れ性)と耐剥離腐食性である。そして、これらの耐蝕性が劣る場合、バットに必要なSG規格を満足する引張強度や伸びなどの引張特性や、打球の反発特性に必要な耐力や縦弾性率などの圧縮特性、更には、損失係数で表現される打撃感も低くなる。
【0006】
この様な事情に鑑み、本発明は、耐蝕性に優れ、バットに必要な前記引張特性や前記圧縮特性、更には、損失係数で表現される打撃感も優れた、熱処理型7000系アルミニウム合金押出材からなるアルミニウム合金製バットを提供しようとするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
この目的を達成するために、本発明アルミニウム合金製バットの第一の要旨は、熱処理型7000系アルミニウム合金押出材からなるバットであって、7000系アルミニウム合金押出材が、Zn:5.7〜8.5%、Mg:1.2〜2.6%、Cu:1.9〜2.6%、Zr:0.08〜0.15%を含み、かつ、Si: 0.12%以下、Fe:0.15%以下、Mn:0.30%以下、Cr:0.20%以下、V:0.05%以下、Ti:0.10%以下とし、残部Alおよび不可避的不純物からなるとともに、この7000系アルミニウム合金押出材が、115〜145℃で12〜48時間の人工時効処理後に、160〜190℃で6〜12時間の再人工時効処理される2段階の時効処理を、溶体化処理および焼き入れ後に施されており、引張強度が540MPa以上、伸びが10%以上の引張特性と、耐力が540MPa以上、縦弾性率が70000MPa以上の圧縮特性とを有し、かつ、耐SCC応力が180MPa以上、剥離腐食性がEXCOランクでEB以上の耐蝕性を有し、更に、損失係数が周波数700Hzの1次モードで0.017以下および周波数3800Hzの3次モードで0.010以上である打撃感を有することとする。
【0008】
更に、この目的を達成するために、本発明アルミニウム合金製バットの第二の要旨は、熱処理型7000系アルミニウム合金押出材からなるバットであって、7000系アルミニウム合金押出材が、Zn:5.7〜8.5%、Mg:1.2〜2.6%、Cu:1.9〜2.6%、Zr:0.08〜0.15%を含み、かつ、Si: 0.12%以下、Fe:0.15%以下、Mn:0.30%以下、Cr:0.20%以下、V:0.05%以下、Ti:0.10%以下とし、残部Alおよび不可避的不純物からなるとともに、この7000系アルミニウム合金押出材が、115〜145℃で12〜48時間の人工時効処理後に、170〜190℃で1〜4時間の復元処理され、更に115〜145℃で12〜48時間の再人工時効処理される3段階の時効処理を、溶体化処理および焼き入れ後に施されており、引張強度が540MPa以上、伸びが10%以上の引張特性と、耐力が540MPa以上、縦弾性率が70000MPa以上の圧縮特性とを有し、かつ、耐SCC応力が180MPa以上、剥離腐食性がEXCOランクでEB以上の耐蝕性を有し、更に、損失係数が周波数700Hzの1次モードで0.017以下および周波数3800Hzの3次モードで0.010以上である打撃感を有することとする。
【0009】
特定組成の熱処理型7000系アルミニウム合金押出材を溶体化処理および焼き入れ後に、上記2段階あるいは3段階の特定の人工時効処理を施すことによって、この人工時効処理後のミクロ組織として、結晶粒界上のη相の間隔を大きくでき、結晶粒内のη’相のサイズを微細化できる。この結果、耐蝕性に優れ、バットに必要な上記引張特性や上記圧縮特性、更には、上記損失係数で表現される打撃感も優れた、熱処理型7000系アルミニウム合金押出材からなるバットを提供することができる。なお、本発明のアルミニウム合金製バットの上記特性の規定は、全て、上記人工時効処理後について規定している。
【0010】
上記ミクロ組織について、まず、結晶粒界上のη相はアノディックであり溶出し易い。このため、η相の最小間隔が小さい場合、η相が連続化して、バットなどの腐食環境下では、特に連続して溶出し易くなる。この結果、耐SCC応力および耐剥離腐食性が著しく低くなる。
【0011】
また、結晶粒内のη’相のサイズが粗大化した場合、粒内の強度に寄与するGPゾーンの割合が少なくなり、強度が著しく低くなる。このため、バットに必要な上記引張特性や上記圧縮特性、更には、上記損失係数で表現される打撃感も得られない。
【0012】
このため、熱処理型7000系アルミニウム合金押出材を、バットに成形加工後かまたはバットに成形加工される前に溶体化処理および焼入れ後、上記2段階あるいは3段階の特定の人工時効処理を施す。即ち、これら人工時効処理における、時効処理、復元処理および再時効処理の各条件は、結晶粒界上のη相の間隔、結晶粒内のη相のサイズを制御して、上記した、バットに必要な耐蝕性、引張特性や圧縮特性、更には、上記損失係数で表現される打撃感に優れたものとするための最適な条件を設定している。
【0013】
【発明の実施の形態】
まず、バット素材である押出材の押出方法は、常法にて可であり、上記特定組成の7000系アルミニウム合金を溶解鋳造にてビレット等の鋳塊にした後、均質化熱処理し、熱間押出を行う。その後、通常は、溶体化および水焼入れ処理を行った後、必要に応じてストレッチ等で引張加工し、目的に応じた熱処理 (焼鈍など)が行われる。その後、これら押出材はバットに成形加工され、本発明の熱処理(人工時効処理)が行われる。そして、その後製品バットに仕上げられる。
【0014】
熱処理型7000系アルミニウム合金は析出硬化型の合金であり、溶体化処理および焼入れ後、例えば通常の120℃で24hrなどの条件で人工時効処理すると、粒内にGPゾーンが微細に析出するため、強度は高くなる。しかし、一方で、粒界上にはη相が連続的に析出するようになる。このη相はアノディックであり、バットなどの腐食環境下では特に溶出し易い。このため、前記通常の条件で人工時効処理すると、耐SCC応力および耐層状腐食特性が低くなる。例えば、ASTM−G47に従った耐SCC試験において、耐SCC応力(ST方向)は48N /mm2以下と極めて低い。また、ASTM−G34に従った剥離試験において、耐剥離腐食性はランクEC〜EDと極めて低い。
【0015】
これに対し、本発明の第一の要旨のように、上記特定組成の熱処理型7000系アルミニウム合金押出材を、115〜145℃で12〜48時間人工時効処理後、更に160〜190℃で6〜12時間の過時効条件側での再人工時効処理する2段階(T76)の熱処理法では、粒内のGPゾーンの割合を出来るだけ増やすことで高い強度を得ることができる。また、粒内のη’相の割合を増やすことと、粒界上のη相の間隔を拡げることで高耐食性を実現できる。即ち、溶体化および焼入れ処理後の最初の時効処理で生じた粒内のGPゾーンは、復元処理で一部復元するが、高耐食性に寄与するη’相の析出を促進する。一方、粒界上では、時効処理で生じたη相は、復元処理で粗大化し、間隔が広がるために不連続化し、耐SCC性および剥離腐食特性等の耐食性は高くなる。
【0016】
また、本発明の第二の要旨のように、上記特定組成の熱処理型7000系アルミニウム合金押出材を、溶体化処理および焼き入れ後に、115〜145℃で12〜48時間の人工時効処理後、170〜190℃で1〜4時間の復元処理し、更に115〜145℃で12〜48時間の再人工時効処理する3段階の熱処理法(T77)によって、粒内ではGPゾーンの割合が減少し、η’相の割合が高くなり、またη’相のサイズも大きくなる。GPゾーンの割合が低くなり、η’相の割合が高くなること、またη’相のサイズが大きくなることで、強度は前記通常の人工時効処理に比して低下する。しかしながら、粒界上のη相は粗大化することによって、間隔が広がるために不連続化する。このため、η相は溶出しにくくなり、粒界腐食感受性は低くなり、さらにまた、耐SCC性ならびに剥離腐食性は高くなる。なお、第1段目と第2段目との間の加熱速度、ならびに第2段目と第3段目との間の冷却速度が低速であると、実質的に第2段目の熱処理時間が長時間となる。従って、第1段目と第2段目との間の加熱速度、また第2段目と第3段目との間の冷却速度は、50℃/hr以上であることが望ましい。
【0017】
前記復元処理においては、前記範囲を外れて、温度が高すぎたり処理時間が長すぎると、GPゾーンの復元が進行するとともに、粗大なη’相およびη相が析出してしまい、その後の再時効処理を行っても高い強度を得ることは困難である。また、バットに必要な上記引張特性や上記圧縮特性、更には、上記損失係数で表現される打撃感を得ることは困難である。一方、前記範囲を外れて、温度が低すぎたり処理時間が短すぎると粒界上にはη相が連続的に析出するようになり、耐SCC応力および耐層状腐食特性等の耐食性が低下する。
【0018】
また、各人工時効処理においても、温度が高すぎる、あるいは時間が長すぎるなどで、粒内に粗大なη’相およびη相が析出する状態にまで時効析出を進行させてはならない。そのような状態まで時効析出が進行すると、復元処理時に復元するGPゾーンの量が減るため、再時効処理時に最終的に析出するGPゾーンが減り、十分な強度は得られない。逆に、温度が低すぎる、あるいは時間が短すぎるなどで、時効処理が不十分でGPゾーンが僅かしか析出しない場合、この状態で次の復元処理を行っても、上述したように復元処理時に復元するGPゾーンの量が減るため、再時効処理時に最終的に析出するGPゾーンが減る。このため十分な強度は得られない。このように時効処理時には、復元処理時に復元するGPゾーンを十分に析出させる必要があり、前記温度と時間の規定した条件範囲内とする。
【0019】
最初の時効処理温度が高いと短時間で、また時間が長すぎても、η相および粗大なη相が析出しやすくなり、その分GPゾーンが減る。このためバットに必要な上記引張特性や上記圧縮特性、更には、上記損失係数で表現される打撃感は得られない。一方、各時効処理温度が低くても時間が短くても、十分なGPゾーンが析出しない。このため、最初の時効処理は上記特定条件範囲とする。なお、第1段目と第2段目との間の加熱速度が、また第2段目と第3段目との間の冷却速度が低速であると、実質的に第2段目の熱処理が長時間となる。従って、第1段目と第2段目との間の加熱速度、ならびに、第2段目と第3段目との間の冷却速度は50℃/hr以上であることが望ましい。
【0020】
また、各再時効処理においても、粒内にη相および粗大なη相が析出する状態にまで時効析出を進行させてはならず、時効処理温度が高くて、また時間が長すぎて、そのような状態にまで時効析出が進行すると、上記引張特性や上記圧縮特性、更には、上記損失係数で表現される打撃感強度は得られない。また、逆に各時効処理温度が低くても時間が短くても、時効処理が不十分となり、GPゾーンが僅かにしか析出しない。この場合も、上記引張特性や上記圧縮特性、更には、上記損失係数で表現される打撃感強度は得られない。このため、各再時効処理においても、上記特定条件範囲とする。
【0021】
これら溶体化や時効処理などに使用される熱処理炉はバッチ炉、連続焼鈍炉、溶融塩浴炉のいずれを用いてもよいが、結晶粒径を微細にするには5℃/分以上の昇温速度で加熱することがなお望ましい。また焼入れは水浸漬、水噴射、空気噴射のいずれを用いてもよい。更に、溶体化処理および焼入れ後に行われる時効処理、復元処理および再時効処理はバッチ炉、連続焼鈍炉、熱風ファン、オイルバス、温湯浴槽等のいずれを用いてもよい。
【0022】
アルミニウム合金製バットの結晶粒は、等軸状の結晶粒ではなく、熱間押出材とすることで、押出方向に長く伸長した繊維状結晶粒組織とすることができ、バットに必要な上記引張特性や上記圧縮特性、更には、上記損失係数で表現される打撃感を基本的に保証できる。ただ、バット (押出材)のミクロ結晶粒組織を押出方向に長く伸長した繊維状結晶粒組織とミクロ組織としても、バット (押出材)表面には、押出に際して、必然的に等軸状の結晶粒である再結晶層が生じる。そして、この再結晶層の厚さが500μmを越えた場合、耐SCC応力および耐層状腐食特性が著しく低くなり、耐蝕性や、ひいてはバットに必要な上記引張特性や上記圧縮特性、更には、上記損失係数で表現される打撃感も確保できない可能性がある。このため、バット (押出材)表面の再結晶層の厚さは500μm以下とすることが好ましい。なお、前記繊維状結晶粒か等軸状結晶粒かの判別や、バット(押出材)表面の再結晶層の厚さ測定は、バット (押出材)組織の光学顕微鏡による観察によって、簡便にできる。
【0023】
次に、本発明バット (押出材)用アルミニウム合金組成は、上記人工時効処理によって、上記ミクロ組織となって、上記引張特性と圧縮特性、耐蝕性とを各々有し、更に、上記打撃感を得られるものとする。このための7000系アルミニウム合金押出材の組成は、Zn:5.7〜8.5%、Mg:1.2〜2.6%、Cu:1.9〜2.6%、Zr:0.08〜0.15%を主要元素として含み、かつ、Si: 0.12%以下、Fe:0.15%以下、Mn:0.30%以下、Cr:0.20%以下、V:0.05%以下、Ti:0.10%以下に各々規制した、残部Alおよび不可避的不純物からなる組成とする。なお、本発明における元素量の%表示は全て質量%である。
【0024】
Zn、Mg、Cu、Zrの含有量が、各々上記含有量範囲の下限未満では、上記人工時効処理によっても、アルミニウム合金製バットとしての上記引張特性と圧縮特性、更に上記打撃感が各々得られない。また、上記含有量範囲の上限を越えて各々含有した場合アルミニウム合金製バットとしての上記耐蝕性が得られない。
そして、Si、Fe、Mn、Cr、V、Tiを、上記各含有量上限を越えて各々含有した場合、アルミニウム合金製バットとしての上記耐蝕性が得られない。また、上記引張特性や圧縮特性なども低下する。
【0025】
【実施例】
次に、本発明の実施例を説明する。表1に示す組成を含み残部不純物とアルミニウムとからなる7000系アルミニウム合金を、溶湯中水素濃度0.02ml/100mlアルミニウムまで脱ガス後,溶解鋳造しφ400 mmの鋳塊ビレットとした。次に450℃で24hrの均熱処理を施した後,φ380mmまで面削した後、430℃に再加熱し、外径85mmφ×内径75mmφ、肉厚10mmtの断面形状に押し出した。その後、400℃×2hrの焼鈍で軟質材とした後、冷間抽伸で外径73.8mmφ×内径67mmφにし、さらに400℃×2hrの焼鈍で軟質材とした。
【0026】
その後、打球部の肉厚が3mmのバットの形状に加工した。溶体化処理は、硝石炉で450℃×40分間保持した後、水焼き入れした。焼き入れによる歪みを冷間矯正で修正した後、表2中の人工時効条件(1段階〜3段階)の熱処理を行った。表2の合金番号は表1の合金番号である。ここで、本発明の第一の要旨の115〜145℃で12〜48時間人工時効処理後、更に160〜190℃で6〜12時間の過時効条件側での再人工時効処理する2段階の熱処理法は発明T76と言う。また、本発明の第二の要旨のように、115〜145℃で12〜48時間の人工時効処理後、170〜190℃で1〜4時間の復元処理し、更に115〜145℃で12〜48時間の再人工時効処理する3段階の熱処理法は発明T77と言う。また、従来のT6およびT77の熱処理法は従来T6および従来T77として、これらの調質種別を各々表2に示す。なお、焼き入れ後、人工時効までの室温での経過時間は12〜72時間である。なお、これらの複合人工時効処理時の加熱および冷却速度は、試料の実体で100℃/hrで行った。
【0027】
これらの複合人工時効処理後のアルミニウム合金製バットの、引張強度と伸びの引張特性、圧縮耐力と縦弾性率の圧縮特性、耐SCC応力と剥離腐食性の耐蝕性、損失係数による打撃感を調査、測定した。これらの結果を表3に示す。なお、これらの複合人工時効処理後のバット(押出材)表面の再結晶層の厚さは、全て500μm以下であった。
【0028】
0.2%耐力(MPa)と伸び(%)の引張特性は、アルミニウム合金製バット打撃部(外径67mm、肉厚3.0 mm)より、長さ150mm(バット長手方向)のJIS 12B試験片を採取し、JIS−Z2241の引張試験法に従い、引張特性を測定した。なお、引張試験片の平行部中央部はバット先端(打撃部)から80mmの位置となる。
【0029】
圧縮耐力と縦弾性率の圧縮特性は、アルミニウム合金製バット打撃部(外径67mm、肉厚3.0 mm)より、長さ15mm(バット長手方向)、幅8mm(バット円周方向)、厚さ3mm(肉厚)の試料を採取した後、長さ15mm(バット長手方向),幅8mm(バット円周方向),厚2.5mm(肉厚)の直方体の試料に加工した。そして、この試料の15mm×8 mmの中央部両面に、歪ゲージを接着し、8mm×2.5mmの面に円周方向に圧縮力を付加し、歪および応力値より縦弾性率(圧縮)ならびに耐力(圧縮)を測定した。なお、測定点は、バット先端(打撃部)から80mmの位置である。
【0030】
耐SCC応力の測定は、クロム酸促進法による耐SCC(応力腐食割れ)試験によって、円周方向(LT)に引っ張り応力を付加して行った。即ち、アルミニウム合金製バット打撃部(外径67mm、肉厚3.0mm)より,幅15mmのCリング状の試験片を採取し、所定の引張応力値を付加した後、直ちに、沸騰したSCC試験溶液に360分浸漬し、割れの発生しない試料を○、割れの発生した試料を×として評価した。なお、応力の付加は、ボルトとナットを締めますことで、試料外表面に引張応力を発生させ、応力値はこの外表面に接着した歪ゲージを用いて、各試料毎に測定した。また、SCC試験溶液(1リットル当たり)、食塩3g、2クロム酸カリウム30g、酸化クロム36gに蒸留水に加えることで作製した。Cリングは、バット先端(打球部)から50〜110mmの範囲で採取した。
【0031】
剥離腐食性試験は、アルミニウム合金製バット打撃部(外径67mm、肉厚3.0mm)より、長さ60mm(バット長手方向)、幅30mm(バット円周方向)、厚3mm(肉厚)の試料を採取し、ASTM−G34−90剥離腐食性試験によるEXCOテストを実施し、試験完了後、ASTM−G34−90に定める腐食程度の基準(最も優れるNから順に、P、EA、EB、EC、ED)を用いて、各試料を評価した。EC、ED以下が特に剥離腐食性が劣ると評価される。なお、試料は、バット先端(打球部)から50〜110mmの範囲で採取した。
【0032】
打撃感は、周波数約700Hzの1次モードでの損失係数が大きいことと、周波数約3800Hzの3次モードでの損失係数が小さいことで評価される。アルミニウム合金製バット打撃部(外径67mm、肉厚3.0mm)より、長さ124mm(バット長手方向)、幅12mm(バット円周方向)、厚3mm(肉厚)の試料を採取し、室温大気中にて、中央加振法で、周波数5000Hzまでの伝達関数を測定し、これより、周波数約700Hzの1次モード、周波数約3800Hzの3次モードでの損失係数を測定、評価した。なお、中央加振法で試料を保持する位置は、試料中心部となり、この位置は、バット先端(打撃部)から80mmの位置である。
【0033】
本発明組成を満足する表1の発明例1〜8までのアルミニウム合金製バットは表2の通り本発明条件で発明T76または発明T77の複合人工時効処理されており、表3の通り、引張強度が540MPa以上、伸びが10%以上の引張特性と、耐力が540MPa以上、縦弾性率が70000MPa以上の圧縮特性とを有し、かつ、耐SCC応力が180MPa以上、剥離腐食性がEXCOランクでEB以上の耐蝕性を有し、更に、損失係数が周波数700Hzの1次モードで0.017以下および周波数3800Hzの3次モードで0.010以上である打撃感を有する。
【0034】
一方、比較例において、表1の通り、Mn、Zrの含有量が高すぎる比較例9、Si、Feの含有量が高すぎる比較例10、Znの含有量が高すぎる比較例12、Mgの含有量が高すぎる比較例14は、各々表2の通り本発明条件での複合人工時効処理T77あるいはT76が施されているにも関わらず、表3の通り、各々アルミニウム合金製バットとしての耐SCC応力や剥離腐食性が、発明例に比して著しく劣る。また、各々上記引張特性と圧縮特性、打撃感なども低い。
【0035】
また、Zrの含有量が低すぎる比較例11、Znの含有量が低過ぎる比較例13、Mgの含有量が低過ぎる比較例15、Cuの含有量が低過ぎる比較例16は、各々表2の通り本発明条件での複合人工時効処理されているにも関わらず、表3の通り、各々上記引張特性と圧縮特性、打撃感なども発明例に比して著しく低い。更に、本発明条件から外れる従来のT77の人工時効処理されている比較例17は、本発明範囲内の合金8を用いているにもかかわらず、T77における復元処理温度が高すぎ、アルミニウム合金製バットとしての耐SCC応力や剥離腐食性が発明例に比して著しく劣る。また、上記引張特性と圧縮特性、打撃感なども発明例に比して劣る。
【0036】
したがって、以上の結果から、本発明要件の臨界的な意義が分かる。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】
【0040】
【発明の効果】
本発明によれば、耐蝕性に優れ、バットに必要な前記引張特性や前記圧縮特性、更には、損失係数で表現される打撃感も優れた、熱処理型7000系アルミニウム合金押出材からなるアルミニウム合金製バットを提供することができる。したがって、熱処理型7000系アルミニウム合金押出材の用途の拡大を図ることができる点で、多大な工業的な価値を有するものである。
Claims (2)
- 熱処理型7000系アルミニウム合金押出材からなるバットであって、7000系アルミニウム合金押出材が、Zn:5.7〜8.5%、Mg:1.2〜2.6%、Cu:1.9〜2.6%、Zr:0.08〜0.15%を含み、かつ、Si: 0.12%以下、Fe:0.15%以下、Mn:0.30%以下、Cr:0.20%以下、V:0.05%以下、Ti:0.10%以下とし、残部Alおよび不可避的不純物からなるとともに、この7000系アルミニウム合金押出材が、115〜145℃で12〜48時間の人工時効処理後に、160〜190℃で6〜12時間の再人工時効処理される2段階の時効処理を、溶体化処理および焼き入れ後に施されており、引張強度が540MPa以上、伸びが10%以上の引張特性と、耐力が540MPa以上、縦弾性率が70000MPa以上の圧縮特性とを有し、かつ、耐SCC応力が180MPa以上、剥離腐食性がEXCOランクでEB以上の耐蝕性を有し、更に、損失係数が周波数700Hzの1次モードで0.017以下および周波数3800Hzの3次モードで0.010以上である打撃感を有するアルミニウム合金製バット。
- 熱処理型7000系アルミニウム合金押出材からなるバットであって、7000系アルミニウム合金押出材が、Zn:5.7〜8.5%、Mg:1.2〜2.6%、Cu:1.9〜2.6%、Zr:0.08〜0.15%を含み、かつ、Si: 0.12%以下、Fe:0.15%以下、Mn:0.30%以下、Cr:0.20%以下、V:0.05%以下、Ti:0.10%以下とし、残部Alおよび不可避的不純物からなるとともに、この7000系アルミニウム合金押出材が、115〜145℃で12〜48時間の人工時効処理後に、170〜190℃で1〜4時間の復元処理され、更に115〜145℃で12〜48時間の再人工時効処理される3段階の時効処理を、溶体化処理および焼き入れ後に施されており、引張強度が540MPa以上、伸びが10%以上の引張特性と、耐力が540MPa以上、縦弾性率が70000MPa以上の圧縮特性とを有し、かつ、耐SCC応力が180MPa以上、剥離腐食性がEXCOランクでEB以上の耐蝕性を有し、更に、損失係数が周波数700Hzの1次モードで0.017以下および周波数3800Hzの3次モードで0.010以上である打撃感を有するアルミニウム合金製バット。
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