JP2004315878A - ヘム曲げ性及び表面性状に優れた成形加工用アルミニウム合金板の製造方法 - Google Patents
ヘム曲げ性及び表面性状に優れた成形加工用アルミニウム合金板の製造方法 Download PDFInfo
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Abstract
【課題】塗装焼付け硬化性、ヘム曲げ性に優れ、成形加工後もリジング及び肌荒れもない優れた表面性状を有する成形加工用6000系アルミニウム合金板の製造方法を提供する。
【解決手段】Mg、Siを含有し、Mn、Crの1種又は2種を0.1%≦2Mn+Cr≦0.3%を満足する範囲で含有するアルミニウム合金の鋳片を480〜580℃未満に加熱し、350〜500℃で圧下量30%以上の圧延を1回以上行った後、200〜400℃で圧下量70%以下の圧延を1回以上行って冷却し、総圧下量が30%以上の冷間圧延を行い、480〜580℃未満の溶体化処理温度で5分以内保持し、2℃/s以上で50〜150℃未満まで冷却し、安定化処理を施すことを特徴とする製造方法。上記鋳片に、必要に応じて、Cu、Ti、B、Fe、Znの1種又は2種以上を含有させてもよい。
【選択図】 なし
【解決手段】Mg、Siを含有し、Mn、Crの1種又は2種を0.1%≦2Mn+Cr≦0.3%を満足する範囲で含有するアルミニウム合金の鋳片を480〜580℃未満に加熱し、350〜500℃で圧下量30%以上の圧延を1回以上行った後、200〜400℃で圧下量70%以下の圧延を1回以上行って冷却し、総圧下量が30%以上の冷間圧延を行い、480〜580℃未満の溶体化処理温度で5分以内保持し、2℃/s以上で50〜150℃未満まで冷却し、安定化処理を施すことを特徴とする製造方法。上記鋳片に、必要に応じて、Cu、Ti、B、Fe、Znの1種又は2種以上を含有させてもよい。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車ボディシ−ト等、成形加工ならびに塗装焼付け処理を施して用いられる、ヘム曲げ性に優れ、リジングや肌荒れ発生のない成形加工用6000系アルミニウム合金板の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、自動車の燃費向上を目的とした車体軽量化の要望が高まっており、軽量化手段の一つとして自動車ボディパネル等へのアルミニウム合金板が使用されている。
【0003】
熱処理型のAl−Mg−Si系合金(6000系合金という)は、塗装焼付け工程の熱処理により降伏強度が上昇する性質(塗装焼付け硬化性という)を有するため、板厚の薄肉化に有利であり、ボディパネル材として使われることが多くなってきている。
【0004】
しかし、ボディパネル材には、高いプレス成形性や塗装焼付け硬化性が要求されるだけでなく、厳しいプレス成形加工を受けた後にフラットへム加工が行える等、ヘム曲げ性に対する要求も一層高くなっている。ここでヘム曲げ加工とは、自動車のエンジンフードやトランクリッド等の外板パネルの端部を180°曲げる加工をいう。
【0005】
特に、成形性及び塗装焼付硬化性を向上させるためにSi含有量を増加させ、更にCuを添加した6000系合金では、ヘム曲げ性が低下しやすいという問題点がある。
【0006】
このような問題に対して、加工硬化を制御する技術が特許文献1に、晶出物の粒径及び間隔を規制する技術が特許文献2に、極限変形能を規制する技術が特許文献3に開示されている。しかし、これらの方法ではヘム曲げ性が不十分であった。
【0007】
また、本発明者は、特許文献4及び5に、結晶方位を制御してヘム曲げ性を向上させたアルミニウム合金を提案した。しかし、これらの方法では、極めて優れたヘム曲げ性が得られるものの、プレス成形加工後に肌荒れ、リジングが生じて表面品位を損なう場合がある。
【0008】
肌荒れは、成形加工品の表面が梨地状となる現象で、これは結晶粒径が大きい場合に発生する。リジングは、成形加工の際に、板表面の圧延方向に沿って生じる凹凸であり、結晶方位が近い結晶粒の集団の変形量の差異に起因するものである。
【0009】
6000系合金においてリジング及び肌荒れを発生させない方法として、熱延の仕上げ段階で再結晶させる方法が、特許文献6及び7に開示されている。
【0010】
しかし、これらの方法ではヘム曲げ性が不十分であり、結局、自動車の外板パネル用途に要求される成形加工後、優れたヘム曲げ性を有し、リジングや肌荒れの発生による表面性状の劣化がないことを同時に満足する6000系アルミニウム合金は実現されていない。
【0011】
【特許文献1】
特開2000−160274号公報
【特許文献2】
特開2000−144294号公報
【特許文献3】
特開2000−105573号公報
【特許文献4】
特願2002−181732号
【特許文献5】
特願2002−066405号
【特許文献6】
特開2000−282197号公報
【特許文献7】
特開2000−226629号公報
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、特に自動車ボデイパネルの外板等に好適な、塗装焼付け硬化性に優れ、また、耐力が高くなってもフラットヘム加工が可能であるという極めて優れたヘム曲げ性を有し、成形加工後にリジングや肌荒れの発生のない外観品位にも優れたアルミニウム合金板の製造方法を提供するものである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明は、Mn及びCr添加量と熱間圧延における圧下温度、圧下量を適切に組み合わせることによって、熱間圧延での再結晶の促進と加工歪の導入を同時に実現し、表面性状を損なうことなくヘム曲げ性を向上し得るという知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
【0014】
(1) 質量%で、
Mg:0.3〜1.0%、 Si:0.5〜1.5%
を含有し、更に、
Mn:0.01〜0.15%、 Cr:0.001〜0.1%
の1種又は2種を含有し、
0.1%≦2Mn+Cr≦0.3%
を満足し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金の鋳片を480〜580℃未満に加熱し、350〜500℃で圧下量が30%以上の圧延を1回又は2回以上行い、引き続き200〜400℃で圧下量が70%以下の圧延を1回又は2回以上行って冷却し、総圧下量が30%以上の冷間圧延を行った後、480〜580℃未満の溶体化処理温度に加熱して5分以内保持し、2℃/s以上で50〜150℃未満まで冷却し、引き続き50〜150℃未満に2時間以上保持することを特徴とするヘム曲げ性及び表面性状に優れた成形加工用アルミニウム合金板の製造方法。
【0015】
(2) 前記鋳片が、更に、質量%で
Cu:0.1〜1.0%
を含有することを特徴とする前記(1)記載のヘム曲げ性及び表面性状に優れた成形加工用アルミニウム合金板の製造方法。
【0016】
(3) 前記鋳片が、更に、質量%で、
Ti:0.005〜0.15%、 B :0.0001〜0.05%、
Fe:0.03〜0.4%、 Zn:0.03〜2.5%
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする前記(1)又は(2)記載のヘム曲げ性及び表面性状に優れた成形加工用アルミニウム合金板の製造方法。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明者は、ヘム曲げ性、即ち、曲げ頂点部における割れ発生挙動について検討を行った。その結果、ヘム曲げ性を改善するためには、硬質の第2相の析出を抑制することが重要であることがわかった。
【0018】
曲げ部の割れの起点は、主に、結晶粒界や結晶粒内に存在する硬質の第2相粒子、即ち、Mg2Si、Si相、Mn、Cr、Alからなる金属間化合物、FeとAlの金属間化合物である。
【0019】
次に、本発明者は、ヘム曲げ時の割れ発生と結晶粒の変形能に相関があると考え、180°曲げ変形後の、曲げ頂点部近傍における結晶粒の変形挙動を調査した。
【0020】
ヘム曲げ性の良否は、JIS Z 2248に準拠して、曲げRを0.5として180°曲げを行い、割れ発生の有無を調査した。この180°曲げ試験後、曲げ変形による伸張度合が最も大きい曲げ頭部の結晶粒径アスペクト比を測定した。
【0021】
結晶粒径アスペクト比は、曲げ頭部の最表面の100μm×100μm領域内において、JIS G 0552に準拠し直線交差線分法を用いて、結晶粒径の板厚方向での平均値Ld、板厚方向に垂直な方向の平均値Lbを測定し、Lb/Ldとして求めた。
【0022】
なお、結晶粒径を評価するためのミクロ組織観察は、鏡面研磨後にNaOH系等の腐食液でエッチングして行った。
【0023】
種々の試料の曲げ部の割れ発生と結晶粒の変形との関係を調査した結果、圧延方向に対して45°の方向(D方向という)の曲げでは、結晶粒径アスペクト比8以上、圧延方向に対して0°の方向(L方向という)、圧延方向に対して90°の方向(C方向という)の曲げでは、結晶粒径アスペクト比で12以上であれば曲げ変形時に割れは発生しないことがわかった。
【0024】
更に、変形能が高い結晶粒の方位を測定した結果、{100}<001>立方体方位を有する結晶粒の変形能が高いことがわかった。即ち、立方体方位を集積させれば、結晶粒の変形能が高くなり、ヘム曲げ性が極めて向上するという知見を得た。
【0025】
また、このような立方体方位を有する結晶粒を多く集積させる、即ち、立方体方位集合組織を発達させるには、熱間圧延、冷間圧延の工程で加工組織を発達させ、溶体化処理を行うことが重要であることがわかった。
【0026】
これには、低温で、圧下量を少なくした熱間圧延を行い、且つ、冷間圧延の途中で中間焼鈍を行わずに、再結晶を抑制することが必要になる。そのため、鋳造時に形成された、結晶方位の近い結晶粒の集団(コロニーという)が残存し、リジングが発生して表面性状を損なうという問題が生じた。
【0027】
そこで、ヘム曲げ性向上のための立方体方位集合組織の発達と、リジングの発生を防止するためのコロニーの抑制を両立させる方法について検討を行った。
【0028】
本発明者は、熱間圧延工程において、高温で再結晶を促進させるための圧延を行って、コロニーの生成を抑制し、その後、低温で圧延して加工組織を形成させる方法を指向した。
【0029】
まず、再結晶を促進させるために成分の検討を行った。その結果、結晶粒径の粗大化の抑制を目的として添加するMn及びCrがAlと微細な析出物を生成し、熱間圧延時の再結晶を遅らせていることを見出した。
【0030】
次に、熱間圧延の条件については、高温での圧下量を大きくすることにより再結晶が促進され、低温で圧下量を小さくすると加工組織が形成されることから、熱間圧延の温度と圧下量を最適化し、立方体方位集合組織の発達とコロニーの抑制を両立させることに成功した。
【0031】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0032】
Mg、Siは、本発明の必須の基本成分であり、優れた塗装焼付け硬化性を得るために含有させる。Mgが0.3%未満、Siが0.5%未満では、塗装焼付け時に形成されるギニエ−プレストン・ゾーン(Guinier−Preston Zone、GPゾーンという)の量が少なく、十分な強度上昇が得られない。
【0033】
また、Mgが1.0%超、Siが1.5%超では、粒界及び粒内に粗大なMg2Siを形成して、ヘム曲げ性が大きく低下する。そのため、Mg量を0.3〜1.0%、Si量を0.5〜1.5%の範囲とした。
【0034】
Mn、Crは、最終製品板の結晶粒を微細化して、肌荒れを防止し、成形性を向上させる元素である。Mn量が0.15%、Cr量が0.1%を超えると、熱間圧延での再結晶を著しく阻害する。
【0035】
一方、Mnが0.01%未満、Crが0.001%未満では、結晶粒が粗大化して肌荒れを生じる。したがって、Mn量を0.01〜0.15%、Cr量を0.001〜0.1%の範囲とした。
【0036】
更に、Mn、Crの単独の添加量が上記の範囲内であっても、2Mn+Crが0.3%を超えると、熱間圧延での再結晶を著しく阻害し、0.1%未満では、結晶粒が粗大化して肌荒れを生じる。したがって、2Mn+Crを0.1〜0.3%の範囲とした。
【0037】
また、必要に応じてCuを含有させてもよい。
【0038】
Cuは、プレス成形性の向上に寄与する元素である。Cu量が0.1%未満では、十分なプレス成形性向上効果が得られず、1.0%超では、耐食性がやや低下し、ヘム曲げ性を損なうことがある。そのため、Cu量を0.1〜1.0%の範囲とすることが好ましい。
【0039】
更に、必要に応じて、Ti、B、Fe、Znの1種又は2種以上を含有させてもよい。
【0040】
Ti、Bは、微量添加により鋳塊の結晶粒を微細化し、プレス成形性、肌荒れ等を改善する効果を有する。Tiが0.005%未満、Bが0.0001%未満では、鋳塊の結晶粒を微細化する効果がやや不十分である。
【0041】
また、Tiが0.15%、Bが0.05%を超えると粗大な晶出物を形成し、成形性が劣化することがある。そのため、Ti量を0.005〜0.15%、B量を0.0001〜0.05%の範囲とすること好ましい。
【0042】
Feは、強度向上と結晶粒の微細化によって成形性を向上させる元素であるが、その効果は、Fe量が0.03%未満ではやや不十分である。一方、Fe量が0.4%を超えると、粗大晶出物が生成し、成形性を低下させることがある。したがって、Fe量を0.03〜0.4%の範囲とすることが好ましい。
【0043】
Znは、強度向上により成形性を向上させる効果を有する。Zn量が0.03%未満では、効果がやや不十分であり、2.5%を超えると強度上昇が大きく、成形性を損なうことがある。そのため、Zn量を0.03〜2.5%の範囲とすることが好ましい。
【0044】
上記元素の他、不可避的不純物が含有されるが、本発明の効果を損なわない範囲の量であれば許容される。
【0045】
本発明のアルミニウム合金板の製造方法は、溶製、鋳造、熱間圧延、冷間圧延、溶体化処理からなる。鋳片に均質化焼鈍を施してもよいが、冷間圧延の途中の中間焼鈍は行わない。
【0046】
本発明のアルミニウム合金の鋳片は、常法に従って溶製し、DC鋳造法等によって鋳造される。鋳片に均質化焼鈍を施す場合、加熱温度を480〜580℃未満、保持時間を1〜24時間程度とすることが好ましい。
【0047】
また、均質化焼鈍後、冷却してから再加熱し、熱間圧延を行ってもよいし、冷却せずにそのまま熱間圧延を開始してもよい。いずれの場合も、得られる効果に大きな影響はない。
【0048】
熱間圧延は、本発明において極めて重要であり、コロニーの生成を抑制するために、再結晶を促進させる熱間圧延(再結晶促進熱延という)を行った後、立方体方位集合組織を発達させるために、更に加工組織を形成させる熱間圧延(加工歪導入熱延という)を行うことが必要である。
【0049】
熱間圧延時の再結晶挙動は、温度と圧延の圧下量により変化するため、再結晶促進熱延及び加工歪導入熱延の温度範囲及び圧下量を規定する。
【0050】
なお、再結晶促進熱延及び加工歪導入熱延の圧下量は、圧延1回当たりの加工量であり、1回の圧延前後の板厚の差を圧延前の板厚で除した値を百分率としたものである。
【0051】
熱間圧延の加熱温度は、480℃未満ではMg、Siの固溶が不十分であり、580℃以上では、共晶融解し、結晶粒が粗大化する。そのため、熱間圧延の加熱温度を480〜580℃超とした。
【0052】
再結晶促進熱延の温度範囲は、350〜500℃とした。これは、再結晶促進熱延を500℃超で行うと、結晶粒径が粗大化してリジング抑制効果が不十分になり、350℃未満で行うと、十分な深さと再結晶分率を有する再結晶組織を得ることができないためである。
【0053】
再結晶促進熱延の圧下量は、30%以上とする必要がある。これは、30%未満では、歪の導入が不十分で再結晶の核生成及び粒成長が進行し難くなり、コロニーの生成を抑制できないためである。
【0054】
再結晶促進熱延の圧下量は、50%以上とすることが好ましい。再結晶を促進するためには、圧下量が大きいほど有効であるが、圧下量が90%を超えると噛み込み不良を生じる可能性がある。
【0055】
再結晶を促進させるためには、再結晶の生成核となる歪を導入することが必要であり、これには、350〜500℃において、圧下量が30%以上の圧延を2回以上、好ましくは連続して行うとよい。これは、圧下による歪の蓄積が効率的に行われ、再結晶が促進されるためである。
【0056】
なお、再結晶促進熱延の回数の上限は限定しないが、加工歪導入熱延の圧下量及び冷間圧延の総圧下量を確保できる範囲で行うことが必要がある。
【0057】
この再結晶促進熱延により、表層から板厚の25%までの部分に、結晶粒径が100μm未満の微細な再結晶組織が体積分率で80%以上形成される。これにより、コロニーの生成を抑制することができ、十分なリジング抑制効果が得られる。
【0058】
なお、再結晶促進熱延を開始する板厚が200mm超では、圧延後に再結晶組織となる部位が表層の薄い部分に限られることがあり、リジング抑制の効果がやや不十分になる。
【0059】
また、再結晶促進熱延を開始する板厚が50mm未満では、加工組織を形成させる熱間圧延の圧下量が若干小さくなり、加工組織の形成がやや不十分となって、ヘム曲げ性が低下ことがある。
【0060】
そのためで、再結晶促進熱延を開始する板厚は、50〜200mmの範囲とすることが好ましい。
【0061】
なお、鋳片の板厚と最終製品の板厚との関係から、例えば、鋳片の板厚が再結晶促進熱延を開始するのに好ましい板厚である200mmを超える場合には、圧延温度、圧下量を再結晶促進熱延の範囲外とした熱間圧延を行っても構わない。
【0062】
再結晶促進熱延後、より低温で圧下量の小さい加工歪導入熱延を行う。
【0063】
加工歪導入熱延の温度は、400℃超で行うと、加工組織の発達が不十分になり、200℃未満で行うとエッジ割れが生じる可能性があるため、200〜400℃の範囲とした。
【0064】
また、加工歪導入熱延の圧下量は70%を超えると、再結晶を生じる可能性があるため、70%以下とした。加工歪導入熱延の圧下量の下限は生産性の観点から10%以上とすることが好ましい。
【0065】
加工歪導入熱延後の板厚は、2〜10mmの範囲であることが好ましい。これは、最終製品板厚が1mm前後で用いられる場合が多く、冷間圧延を行う際に必要な総圧下量を確保するためである。
【0066】
冷間圧延の総圧下量は、冷間圧延前の熱延板の板厚と冷間圧延終了後の冷延板の板厚との差を熱延板の板厚で除した値を百分率で表したものである。
【0067】
冷間圧延の総圧下量は、加工組織を十分に発達させるために、30%以上とすることが必要である。しかし、総圧下量が90%を超えると、再結晶後の立方体方位の集積度が低下することがあるため、上限を90%以下とすることが好ましい。
【0068】
冷間圧延後、連続焼鈍炉を用いて溶体化処理を施す。この溶体化処理は、Mg2Si、Si相を固溶させ、塗装焼付け硬化性を確保し、加工組織を再結晶させて立方体方位の発達した再結晶集合組織を得るための重要な工程である。
【0069】
溶体化処理温度は、480℃未満では、Mg2SiやSi相の再固溶が不十分であり、焼付け硬化性が低下するだけでなく、ヘム曲げ性、成形性も劣化する。一方、溶体化処理温度が580℃以上では、共晶融解によってヘム曲げ性及び成形性の低下し、結晶粒が粗大化して肌荒れを生じる。
【0070】
溶体化処理温度に到達後、保持せず、直ちに冷却してもよいが、5分以内保持することによりMg2SiやSi相の再固溶が促進され、焼付け硬化性、ヘム曲げ性、成形性が向上する。しかし、溶体化処理温度での保持時間が5分を超えると、溶質の固溶は飽和し、結晶粒が粗大化する恐れがある。
【0071】
溶体化処理後の冷却速度は、2℃/s未満では冷却過程で結晶粒界にMg2Si、Si相等が析出し、ヘム曲げ性、成形性、塗装焼付け硬化性が劣化するため、下限を2℃/sとした。好ましい下限は10℃/s以上である。
【0072】
冷却速度の上限は、速すぎると板の形状を損なうため、板が変形しやすい400℃までは30℃/s以下、400℃以下は300℃/s以下で冷却することが好ましい。
【0073】
溶体化処理後の冷却温度は、50℃未満ではクラスターが生じ、150℃以上では結晶粒界にMg2SiやSi相を生じて、ヘム曲げ性、成形性、塗装焼付け硬化性が劣化する。
【0074】
冷却後、引き続きその温度域で2時間以上保持する安定化処理を施す。安定化処理は、雰囲気温度が50〜150℃未満の炉内に2時間以上保持してもよく、また、溶体化処理後の冷却中に、50〜150℃の範囲を徐冷し、50〜150℃の温度範囲内を2時間以上経過させても、同等の効果が得られる。
【0075】
安定化処理を施すのは、GPゾーンを予備的に形成させ、板製造後の室温放置中の経時変化を抑制するとともに、塗装焼付け処理でGPゾーンを成長させ、大きな強度上昇を得るためである。
【0076】
処理温度が50℃未満ではGPゾーンが形成されずに、塗装焼付け硬化性を損なうクラスターを形成する。一方、150℃以上では結晶粒界にMg2SiやSi相を生じて、ヘム曲げ性や成形性が低下する。
【0077】
なお、クラスターはGPゾーンの前駆状態であり、規則配列構造ではない溶質原子の集団をいう。
【0078】
また、安定化処理の保持時間が2時間未満では、板製造後の室温放置中にクラスターを形成して強度が上昇し、塗装焼付け硬化性も低下する。
【0079】
なお、安定化処理の保持時間の上限は特に規定しないが、48時間を超えると生産性を損なうため、48時間以下とすることが好ましい。
【0080】
【実施例】
(実施例1)
表1に示す成分組成を有する合金を溶解し、DC鋳造法により鋳造した。得られた鋳塊に540℃で5時間の均質化焼鈍を施した後、510℃で熱間圧延を開始し、400℃超で板厚150mmまで圧延し、400℃で圧下量が50%の圧延を1回行い、板厚75mmとした。
【0081】
引き続き350℃まで冷却した後、一回当たりの圧下量が50%以下の圧延を複数回行い、250℃以上で、板厚を5mmとして熱間圧延を終了した。
【0082】
その後1mmまで総圧下量が80%の冷間圧延を行い、540℃に昇温後、保持せずに100℃まで10℃/sで冷却し、100℃で6時間の安定化処理を施した。
【0083】
【表1】
【0084】
これらのアルミニウム合金板を、室温で6ヶ月間自然時効させた。引張特性はL方向、D方向、C方向を長手とするJIS Z 2201の5号試験片を採取して、JIS Z 2241に準拠して引張試験を行い、3方向の面内異方性を考慮した平均値で評価した。
【0085】
塗装焼付け硬化性は、C方向を長手として、引張試験機で2%の塑性歪を与えた後、170℃で20分の熱処理を行い、再び引張試験を行い、0.2%耐力を測定し、熱処理後の耐力が190MPa以上のものを良好として評価した。
【0086】
またヘム曲げ性、リジング、肌荒れは以下の方法で評価を行った。
【0087】
ヘム曲げ性は、L方向、D方向、C方向を長手とするJIS Z 2201の5号試験片に、引張試験機により各試験片に15%の予歪を与え、その後、JIS Z 2248に準拠して、曲げRを0.5として180°まで曲げた後、更に、0.5mm厚の板を挟んで密着させるように曲げて、曲げ部の頂点近傍の割れの発生の有無で評価した。
【0088】
曲げ表面にカラーチェックを施して、ルーペを用いて割れを目視観察した。なお、カラーチェックは、JIS Z 2343に準拠した浸透探傷試験である。
【0089】
3方向で割れ発生の認められない場合をヘム曲げ性良好として○印を付し、1方向でも割れが認められた場合は不良とし、×印を付した。また、3方向の曲げ試験片の曲げ部の断面組織を光学顕微鏡観察し、結晶粒のアスペクト比を評価した。
【0090】
リジングは、防錆油で潤滑し、100mmφの球頭張出試験を行い、板厚減少率20%で張出成形を止め、目視観察によりリジング発生を評価した。筋状のリジング模様が顕著に認められた場合を×、判別が困難な場合を○と判定した。
【0091】
板厚減少率は、成形前と成形後の板厚の差を成形前の板厚で除した値を百分率として評価したものであり、予め成形量と板厚減少率との関係を求めて、板厚減少率が20%となる成形量を決定した。
【0092】
肌荒れは、C方向を長手とするJIS Z 2201の5号試験片を引張試験機により20%引張り、平行部表面を目視観察することによって評価した。梨地状の肌荒れが顕著に認められた場合を×、判別が困難な場合を○と判定した。
【0093】
【表2】
【0094】
表2に試験結果を示すが、製造No.1〜8は、成分及び製造条件が本発明の範囲内であり、ヘム曲げ性に優れ、リジングや肌荒れの発生もなく、良好な塗装焼付け硬化性を示した。
【0095】
一方、製造No.9は、Mg、Si量が本発明の範囲よりも少ないため、塗装焼付け硬化性が低い。製造No.10は、Mg、Si量が本発明の範囲よりも多く、第2相粒子が多くなりヘム曲げ性が低下した。
【0096】
製造No.11は、2Mn+Crが本発明の範囲よりも少ないため、結晶粒径が粗大化し、リジング及び肌荒れが生じた。
【0097】
製造No.12は、Mn、Crの添加量が本発明の範囲よりも多く、製造No.13は、2Mn+Crが本発明の範囲よりも多いため、熱延での再結晶が不十分となりリジングが発生し、製造No.12は、第2相粒子数も多くなり、ヘム曲げ性も低下した。
【0098】
製造No.14はCu、Znの添加量が規定よりも多いために、第2相粒子数が増え、耐力も高くなりヘム曲げ性が劣った。製造No.15は、Feが本発明の範囲よりも多く、第2相粒子数が増え、ヘム曲げ性が悪くなり、また熱延での再結晶が阻害されてリジングが発生した。
【0099】
(実施例2)
表1の本発明合金A、D、E、GをDC鋳造法により鋳造し、540℃で5時間の均質化焼鈍を施し、冷却した。鋳片を510℃に加熱し、熱間圧延を開始した。熱間圧延、冷間圧延、溶体化処理、安定化処理は、表3に示した条件で行った。
【0100】
表3の圧下量は1回当たりの圧下量である。加工歪導入熱延は、複数回行ったため、1回当たりの圧下量の最大値を表3に示した。なお、最終板厚は1mmとした。
【0101】
また、再結晶促進熱延、加工歪導入熱延及び冷間圧延を開始した際の板厚を表4に示した。これらのアルミニウム合金の引張特性、ヘム曲げ性、リジング、肌荒れ、塗装焼付け硬化性を実施例1と同様にして評価し、結果を表5に示した。
【0102】
【表3】
【0103】
【表4】
【0104】
【表5】
【0105】
製造No.16〜22は、製造条件が本発明の範囲内であり、ヘム曲げ性に優れ、リジングや肌荒れの発生もなく、良好な塗装焼付け硬化性を示した。
【0106】
一方、製造No.23は、再結晶促進熱延の圧延温度が本発明の範囲よりも高く、リジングが発生した。製造No.24は、冷間圧延の総圧下量が本発明の範囲よりも少なく、立方体方位の発達が不十分となり、ヘム曲げ性が低下した。
【0107】
製造No.25は、再結晶促進熱延の圧延温度が本発明の範囲よりも低く、圧下量も小さかったため、再結晶が不十分であり、リジングが発生した。製造No.26は、加工歪導入熱延の圧下量が本発明の範囲よりも大きく、圧延により再結晶し、立方体方位の発達が不十分であり、ヘム曲げ性が低下した。
【0108】
製造No.27は、加工歪導入熱延の終了温度が本発明の範囲よりも低く、溶体化処理温度が本発明の範囲よりも高く、保持時間も長かったため、ヘム曲げ性が低下し、結晶粒径が粗大化し、肌荒れが発生した。
【0109】
製造No.28は、溶体化処理後の冷却速度が本発明の範囲よりも遅く、冷却終了温度が低いため、粒界に第2相が析出し、ヘム曲げ性が低下し、十分な塗装焼付け硬化性が得られなかった。
【0110】
【発明の効果】
本発明により、自動車のエンジンフード、トランクリッド等、蓋物部品の外板に好適な、厳しい成形加工を受けた後でも優れたヘム曲げ性を有し、成形加工後のリジングや肌荒れの発生による表面性状の劣化が少ない6000系アルミニウム合金の製造方法を提供することが可能になり、産業上の貢献が極めて顕著である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車ボディシ−ト等、成形加工ならびに塗装焼付け処理を施して用いられる、ヘム曲げ性に優れ、リジングや肌荒れ発生のない成形加工用6000系アルミニウム合金板の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、自動車の燃費向上を目的とした車体軽量化の要望が高まっており、軽量化手段の一つとして自動車ボディパネル等へのアルミニウム合金板が使用されている。
【0003】
熱処理型のAl−Mg−Si系合金(6000系合金という)は、塗装焼付け工程の熱処理により降伏強度が上昇する性質(塗装焼付け硬化性という)を有するため、板厚の薄肉化に有利であり、ボディパネル材として使われることが多くなってきている。
【0004】
しかし、ボディパネル材には、高いプレス成形性や塗装焼付け硬化性が要求されるだけでなく、厳しいプレス成形加工を受けた後にフラットへム加工が行える等、ヘム曲げ性に対する要求も一層高くなっている。ここでヘム曲げ加工とは、自動車のエンジンフードやトランクリッド等の外板パネルの端部を180°曲げる加工をいう。
【0005】
特に、成形性及び塗装焼付硬化性を向上させるためにSi含有量を増加させ、更にCuを添加した6000系合金では、ヘム曲げ性が低下しやすいという問題点がある。
【0006】
このような問題に対して、加工硬化を制御する技術が特許文献1に、晶出物の粒径及び間隔を規制する技術が特許文献2に、極限変形能を規制する技術が特許文献3に開示されている。しかし、これらの方法ではヘム曲げ性が不十分であった。
【0007】
また、本発明者は、特許文献4及び5に、結晶方位を制御してヘム曲げ性を向上させたアルミニウム合金を提案した。しかし、これらの方法では、極めて優れたヘム曲げ性が得られるものの、プレス成形加工後に肌荒れ、リジングが生じて表面品位を損なう場合がある。
【0008】
肌荒れは、成形加工品の表面が梨地状となる現象で、これは結晶粒径が大きい場合に発生する。リジングは、成形加工の際に、板表面の圧延方向に沿って生じる凹凸であり、結晶方位が近い結晶粒の集団の変形量の差異に起因するものである。
【0009】
6000系合金においてリジング及び肌荒れを発生させない方法として、熱延の仕上げ段階で再結晶させる方法が、特許文献6及び7に開示されている。
【0010】
しかし、これらの方法ではヘム曲げ性が不十分であり、結局、自動車の外板パネル用途に要求される成形加工後、優れたヘム曲げ性を有し、リジングや肌荒れの発生による表面性状の劣化がないことを同時に満足する6000系アルミニウム合金は実現されていない。
【0011】
【特許文献1】
特開2000−160274号公報
【特許文献2】
特開2000−144294号公報
【特許文献3】
特開2000−105573号公報
【特許文献4】
特願2002−181732号
【特許文献5】
特願2002−066405号
【特許文献6】
特開2000−282197号公報
【特許文献7】
特開2000−226629号公報
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、特に自動車ボデイパネルの外板等に好適な、塗装焼付け硬化性に優れ、また、耐力が高くなってもフラットヘム加工が可能であるという極めて優れたヘム曲げ性を有し、成形加工後にリジングや肌荒れの発生のない外観品位にも優れたアルミニウム合金板の製造方法を提供するものである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明は、Mn及びCr添加量と熱間圧延における圧下温度、圧下量を適切に組み合わせることによって、熱間圧延での再結晶の促進と加工歪の導入を同時に実現し、表面性状を損なうことなくヘム曲げ性を向上し得るという知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
【0014】
(1) 質量%で、
Mg:0.3〜1.0%、 Si:0.5〜1.5%
を含有し、更に、
Mn:0.01〜0.15%、 Cr:0.001〜0.1%
の1種又は2種を含有し、
0.1%≦2Mn+Cr≦0.3%
を満足し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金の鋳片を480〜580℃未満に加熱し、350〜500℃で圧下量が30%以上の圧延を1回又は2回以上行い、引き続き200〜400℃で圧下量が70%以下の圧延を1回又は2回以上行って冷却し、総圧下量が30%以上の冷間圧延を行った後、480〜580℃未満の溶体化処理温度に加熱して5分以内保持し、2℃/s以上で50〜150℃未満まで冷却し、引き続き50〜150℃未満に2時間以上保持することを特徴とするヘム曲げ性及び表面性状に優れた成形加工用アルミニウム合金板の製造方法。
【0015】
(2) 前記鋳片が、更に、質量%で
Cu:0.1〜1.0%
を含有することを特徴とする前記(1)記載のヘム曲げ性及び表面性状に優れた成形加工用アルミニウム合金板の製造方法。
【0016】
(3) 前記鋳片が、更に、質量%で、
Ti:0.005〜0.15%、 B :0.0001〜0.05%、
Fe:0.03〜0.4%、 Zn:0.03〜2.5%
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする前記(1)又は(2)記載のヘム曲げ性及び表面性状に優れた成形加工用アルミニウム合金板の製造方法。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明者は、ヘム曲げ性、即ち、曲げ頂点部における割れ発生挙動について検討を行った。その結果、ヘム曲げ性を改善するためには、硬質の第2相の析出を抑制することが重要であることがわかった。
【0018】
曲げ部の割れの起点は、主に、結晶粒界や結晶粒内に存在する硬質の第2相粒子、即ち、Mg2Si、Si相、Mn、Cr、Alからなる金属間化合物、FeとAlの金属間化合物である。
【0019】
次に、本発明者は、ヘム曲げ時の割れ発生と結晶粒の変形能に相関があると考え、180°曲げ変形後の、曲げ頂点部近傍における結晶粒の変形挙動を調査した。
【0020】
ヘム曲げ性の良否は、JIS Z 2248に準拠して、曲げRを0.5として180°曲げを行い、割れ発生の有無を調査した。この180°曲げ試験後、曲げ変形による伸張度合が最も大きい曲げ頭部の結晶粒径アスペクト比を測定した。
【0021】
結晶粒径アスペクト比は、曲げ頭部の最表面の100μm×100μm領域内において、JIS G 0552に準拠し直線交差線分法を用いて、結晶粒径の板厚方向での平均値Ld、板厚方向に垂直な方向の平均値Lbを測定し、Lb/Ldとして求めた。
【0022】
なお、結晶粒径を評価するためのミクロ組織観察は、鏡面研磨後にNaOH系等の腐食液でエッチングして行った。
【0023】
種々の試料の曲げ部の割れ発生と結晶粒の変形との関係を調査した結果、圧延方向に対して45°の方向(D方向という)の曲げでは、結晶粒径アスペクト比8以上、圧延方向に対して0°の方向(L方向という)、圧延方向に対して90°の方向(C方向という)の曲げでは、結晶粒径アスペクト比で12以上であれば曲げ変形時に割れは発生しないことがわかった。
【0024】
更に、変形能が高い結晶粒の方位を測定した結果、{100}<001>立方体方位を有する結晶粒の変形能が高いことがわかった。即ち、立方体方位を集積させれば、結晶粒の変形能が高くなり、ヘム曲げ性が極めて向上するという知見を得た。
【0025】
また、このような立方体方位を有する結晶粒を多く集積させる、即ち、立方体方位集合組織を発達させるには、熱間圧延、冷間圧延の工程で加工組織を発達させ、溶体化処理を行うことが重要であることがわかった。
【0026】
これには、低温で、圧下量を少なくした熱間圧延を行い、且つ、冷間圧延の途中で中間焼鈍を行わずに、再結晶を抑制することが必要になる。そのため、鋳造時に形成された、結晶方位の近い結晶粒の集団(コロニーという)が残存し、リジングが発生して表面性状を損なうという問題が生じた。
【0027】
そこで、ヘム曲げ性向上のための立方体方位集合組織の発達と、リジングの発生を防止するためのコロニーの抑制を両立させる方法について検討を行った。
【0028】
本発明者は、熱間圧延工程において、高温で再結晶を促進させるための圧延を行って、コロニーの生成を抑制し、その後、低温で圧延して加工組織を形成させる方法を指向した。
【0029】
まず、再結晶を促進させるために成分の検討を行った。その結果、結晶粒径の粗大化の抑制を目的として添加するMn及びCrがAlと微細な析出物を生成し、熱間圧延時の再結晶を遅らせていることを見出した。
【0030】
次に、熱間圧延の条件については、高温での圧下量を大きくすることにより再結晶が促進され、低温で圧下量を小さくすると加工組織が形成されることから、熱間圧延の温度と圧下量を最適化し、立方体方位集合組織の発達とコロニーの抑制を両立させることに成功した。
【0031】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0032】
Mg、Siは、本発明の必須の基本成分であり、優れた塗装焼付け硬化性を得るために含有させる。Mgが0.3%未満、Siが0.5%未満では、塗装焼付け時に形成されるギニエ−プレストン・ゾーン(Guinier−Preston Zone、GPゾーンという)の量が少なく、十分な強度上昇が得られない。
【0033】
また、Mgが1.0%超、Siが1.5%超では、粒界及び粒内に粗大なMg2Siを形成して、ヘム曲げ性が大きく低下する。そのため、Mg量を0.3〜1.0%、Si量を0.5〜1.5%の範囲とした。
【0034】
Mn、Crは、最終製品板の結晶粒を微細化して、肌荒れを防止し、成形性を向上させる元素である。Mn量が0.15%、Cr量が0.1%を超えると、熱間圧延での再結晶を著しく阻害する。
【0035】
一方、Mnが0.01%未満、Crが0.001%未満では、結晶粒が粗大化して肌荒れを生じる。したがって、Mn量を0.01〜0.15%、Cr量を0.001〜0.1%の範囲とした。
【0036】
更に、Mn、Crの単独の添加量が上記の範囲内であっても、2Mn+Crが0.3%を超えると、熱間圧延での再結晶を著しく阻害し、0.1%未満では、結晶粒が粗大化して肌荒れを生じる。したがって、2Mn+Crを0.1〜0.3%の範囲とした。
【0037】
また、必要に応じてCuを含有させてもよい。
【0038】
Cuは、プレス成形性の向上に寄与する元素である。Cu量が0.1%未満では、十分なプレス成形性向上効果が得られず、1.0%超では、耐食性がやや低下し、ヘム曲げ性を損なうことがある。そのため、Cu量を0.1〜1.0%の範囲とすることが好ましい。
【0039】
更に、必要に応じて、Ti、B、Fe、Znの1種又は2種以上を含有させてもよい。
【0040】
Ti、Bは、微量添加により鋳塊の結晶粒を微細化し、プレス成形性、肌荒れ等を改善する効果を有する。Tiが0.005%未満、Bが0.0001%未満では、鋳塊の結晶粒を微細化する効果がやや不十分である。
【0041】
また、Tiが0.15%、Bが0.05%を超えると粗大な晶出物を形成し、成形性が劣化することがある。そのため、Ti量を0.005〜0.15%、B量を0.0001〜0.05%の範囲とすること好ましい。
【0042】
Feは、強度向上と結晶粒の微細化によって成形性を向上させる元素であるが、その効果は、Fe量が0.03%未満ではやや不十分である。一方、Fe量が0.4%を超えると、粗大晶出物が生成し、成形性を低下させることがある。したがって、Fe量を0.03〜0.4%の範囲とすることが好ましい。
【0043】
Znは、強度向上により成形性を向上させる効果を有する。Zn量が0.03%未満では、効果がやや不十分であり、2.5%を超えると強度上昇が大きく、成形性を損なうことがある。そのため、Zn量を0.03〜2.5%の範囲とすることが好ましい。
【0044】
上記元素の他、不可避的不純物が含有されるが、本発明の効果を損なわない範囲の量であれば許容される。
【0045】
本発明のアルミニウム合金板の製造方法は、溶製、鋳造、熱間圧延、冷間圧延、溶体化処理からなる。鋳片に均質化焼鈍を施してもよいが、冷間圧延の途中の中間焼鈍は行わない。
【0046】
本発明のアルミニウム合金の鋳片は、常法に従って溶製し、DC鋳造法等によって鋳造される。鋳片に均質化焼鈍を施す場合、加熱温度を480〜580℃未満、保持時間を1〜24時間程度とすることが好ましい。
【0047】
また、均質化焼鈍後、冷却してから再加熱し、熱間圧延を行ってもよいし、冷却せずにそのまま熱間圧延を開始してもよい。いずれの場合も、得られる効果に大きな影響はない。
【0048】
熱間圧延は、本発明において極めて重要であり、コロニーの生成を抑制するために、再結晶を促進させる熱間圧延(再結晶促進熱延という)を行った後、立方体方位集合組織を発達させるために、更に加工組織を形成させる熱間圧延(加工歪導入熱延という)を行うことが必要である。
【0049】
熱間圧延時の再結晶挙動は、温度と圧延の圧下量により変化するため、再結晶促進熱延及び加工歪導入熱延の温度範囲及び圧下量を規定する。
【0050】
なお、再結晶促進熱延及び加工歪導入熱延の圧下量は、圧延1回当たりの加工量であり、1回の圧延前後の板厚の差を圧延前の板厚で除した値を百分率としたものである。
【0051】
熱間圧延の加熱温度は、480℃未満ではMg、Siの固溶が不十分であり、580℃以上では、共晶融解し、結晶粒が粗大化する。そのため、熱間圧延の加熱温度を480〜580℃超とした。
【0052】
再結晶促進熱延の温度範囲は、350〜500℃とした。これは、再結晶促進熱延を500℃超で行うと、結晶粒径が粗大化してリジング抑制効果が不十分になり、350℃未満で行うと、十分な深さと再結晶分率を有する再結晶組織を得ることができないためである。
【0053】
再結晶促進熱延の圧下量は、30%以上とする必要がある。これは、30%未満では、歪の導入が不十分で再結晶の核生成及び粒成長が進行し難くなり、コロニーの生成を抑制できないためである。
【0054】
再結晶促進熱延の圧下量は、50%以上とすることが好ましい。再結晶を促進するためには、圧下量が大きいほど有効であるが、圧下量が90%を超えると噛み込み不良を生じる可能性がある。
【0055】
再結晶を促進させるためには、再結晶の生成核となる歪を導入することが必要であり、これには、350〜500℃において、圧下量が30%以上の圧延を2回以上、好ましくは連続して行うとよい。これは、圧下による歪の蓄積が効率的に行われ、再結晶が促進されるためである。
【0056】
なお、再結晶促進熱延の回数の上限は限定しないが、加工歪導入熱延の圧下量及び冷間圧延の総圧下量を確保できる範囲で行うことが必要がある。
【0057】
この再結晶促進熱延により、表層から板厚の25%までの部分に、結晶粒径が100μm未満の微細な再結晶組織が体積分率で80%以上形成される。これにより、コロニーの生成を抑制することができ、十分なリジング抑制効果が得られる。
【0058】
なお、再結晶促進熱延を開始する板厚が200mm超では、圧延後に再結晶組織となる部位が表層の薄い部分に限られることがあり、リジング抑制の効果がやや不十分になる。
【0059】
また、再結晶促進熱延を開始する板厚が50mm未満では、加工組織を形成させる熱間圧延の圧下量が若干小さくなり、加工組織の形成がやや不十分となって、ヘム曲げ性が低下ことがある。
【0060】
そのためで、再結晶促進熱延を開始する板厚は、50〜200mmの範囲とすることが好ましい。
【0061】
なお、鋳片の板厚と最終製品の板厚との関係から、例えば、鋳片の板厚が再結晶促進熱延を開始するのに好ましい板厚である200mmを超える場合には、圧延温度、圧下量を再結晶促進熱延の範囲外とした熱間圧延を行っても構わない。
【0062】
再結晶促進熱延後、より低温で圧下量の小さい加工歪導入熱延を行う。
【0063】
加工歪導入熱延の温度は、400℃超で行うと、加工組織の発達が不十分になり、200℃未満で行うとエッジ割れが生じる可能性があるため、200〜400℃の範囲とした。
【0064】
また、加工歪導入熱延の圧下量は70%を超えると、再結晶を生じる可能性があるため、70%以下とした。加工歪導入熱延の圧下量の下限は生産性の観点から10%以上とすることが好ましい。
【0065】
加工歪導入熱延後の板厚は、2〜10mmの範囲であることが好ましい。これは、最終製品板厚が1mm前後で用いられる場合が多く、冷間圧延を行う際に必要な総圧下量を確保するためである。
【0066】
冷間圧延の総圧下量は、冷間圧延前の熱延板の板厚と冷間圧延終了後の冷延板の板厚との差を熱延板の板厚で除した値を百分率で表したものである。
【0067】
冷間圧延の総圧下量は、加工組織を十分に発達させるために、30%以上とすることが必要である。しかし、総圧下量が90%を超えると、再結晶後の立方体方位の集積度が低下することがあるため、上限を90%以下とすることが好ましい。
【0068】
冷間圧延後、連続焼鈍炉を用いて溶体化処理を施す。この溶体化処理は、Mg2Si、Si相を固溶させ、塗装焼付け硬化性を確保し、加工組織を再結晶させて立方体方位の発達した再結晶集合組織を得るための重要な工程である。
【0069】
溶体化処理温度は、480℃未満では、Mg2SiやSi相の再固溶が不十分であり、焼付け硬化性が低下するだけでなく、ヘム曲げ性、成形性も劣化する。一方、溶体化処理温度が580℃以上では、共晶融解によってヘム曲げ性及び成形性の低下し、結晶粒が粗大化して肌荒れを生じる。
【0070】
溶体化処理温度に到達後、保持せず、直ちに冷却してもよいが、5分以内保持することによりMg2SiやSi相の再固溶が促進され、焼付け硬化性、ヘム曲げ性、成形性が向上する。しかし、溶体化処理温度での保持時間が5分を超えると、溶質の固溶は飽和し、結晶粒が粗大化する恐れがある。
【0071】
溶体化処理後の冷却速度は、2℃/s未満では冷却過程で結晶粒界にMg2Si、Si相等が析出し、ヘム曲げ性、成形性、塗装焼付け硬化性が劣化するため、下限を2℃/sとした。好ましい下限は10℃/s以上である。
【0072】
冷却速度の上限は、速すぎると板の形状を損なうため、板が変形しやすい400℃までは30℃/s以下、400℃以下は300℃/s以下で冷却することが好ましい。
【0073】
溶体化処理後の冷却温度は、50℃未満ではクラスターが生じ、150℃以上では結晶粒界にMg2SiやSi相を生じて、ヘム曲げ性、成形性、塗装焼付け硬化性が劣化する。
【0074】
冷却後、引き続きその温度域で2時間以上保持する安定化処理を施す。安定化処理は、雰囲気温度が50〜150℃未満の炉内に2時間以上保持してもよく、また、溶体化処理後の冷却中に、50〜150℃の範囲を徐冷し、50〜150℃の温度範囲内を2時間以上経過させても、同等の効果が得られる。
【0075】
安定化処理を施すのは、GPゾーンを予備的に形成させ、板製造後の室温放置中の経時変化を抑制するとともに、塗装焼付け処理でGPゾーンを成長させ、大きな強度上昇を得るためである。
【0076】
処理温度が50℃未満ではGPゾーンが形成されずに、塗装焼付け硬化性を損なうクラスターを形成する。一方、150℃以上では結晶粒界にMg2SiやSi相を生じて、ヘム曲げ性や成形性が低下する。
【0077】
なお、クラスターはGPゾーンの前駆状態であり、規則配列構造ではない溶質原子の集団をいう。
【0078】
また、安定化処理の保持時間が2時間未満では、板製造後の室温放置中にクラスターを形成して強度が上昇し、塗装焼付け硬化性も低下する。
【0079】
なお、安定化処理の保持時間の上限は特に規定しないが、48時間を超えると生産性を損なうため、48時間以下とすることが好ましい。
【0080】
【実施例】
(実施例1)
表1に示す成分組成を有する合金を溶解し、DC鋳造法により鋳造した。得られた鋳塊に540℃で5時間の均質化焼鈍を施した後、510℃で熱間圧延を開始し、400℃超で板厚150mmまで圧延し、400℃で圧下量が50%の圧延を1回行い、板厚75mmとした。
【0081】
引き続き350℃まで冷却した後、一回当たりの圧下量が50%以下の圧延を複数回行い、250℃以上で、板厚を5mmとして熱間圧延を終了した。
【0082】
その後1mmまで総圧下量が80%の冷間圧延を行い、540℃に昇温後、保持せずに100℃まで10℃/sで冷却し、100℃で6時間の安定化処理を施した。
【0083】
【表1】
【0084】
これらのアルミニウム合金板を、室温で6ヶ月間自然時効させた。引張特性はL方向、D方向、C方向を長手とするJIS Z 2201の5号試験片を採取して、JIS Z 2241に準拠して引張試験を行い、3方向の面内異方性を考慮した平均値で評価した。
【0085】
塗装焼付け硬化性は、C方向を長手として、引張試験機で2%の塑性歪を与えた後、170℃で20分の熱処理を行い、再び引張試験を行い、0.2%耐力を測定し、熱処理後の耐力が190MPa以上のものを良好として評価した。
【0086】
またヘム曲げ性、リジング、肌荒れは以下の方法で評価を行った。
【0087】
ヘム曲げ性は、L方向、D方向、C方向を長手とするJIS Z 2201の5号試験片に、引張試験機により各試験片に15%の予歪を与え、その後、JIS Z 2248に準拠して、曲げRを0.5として180°まで曲げた後、更に、0.5mm厚の板を挟んで密着させるように曲げて、曲げ部の頂点近傍の割れの発生の有無で評価した。
【0088】
曲げ表面にカラーチェックを施して、ルーペを用いて割れを目視観察した。なお、カラーチェックは、JIS Z 2343に準拠した浸透探傷試験である。
【0089】
3方向で割れ発生の認められない場合をヘム曲げ性良好として○印を付し、1方向でも割れが認められた場合は不良とし、×印を付した。また、3方向の曲げ試験片の曲げ部の断面組織を光学顕微鏡観察し、結晶粒のアスペクト比を評価した。
【0090】
リジングは、防錆油で潤滑し、100mmφの球頭張出試験を行い、板厚減少率20%で張出成形を止め、目視観察によりリジング発生を評価した。筋状のリジング模様が顕著に認められた場合を×、判別が困難な場合を○と判定した。
【0091】
板厚減少率は、成形前と成形後の板厚の差を成形前の板厚で除した値を百分率として評価したものであり、予め成形量と板厚減少率との関係を求めて、板厚減少率が20%となる成形量を決定した。
【0092】
肌荒れは、C方向を長手とするJIS Z 2201の5号試験片を引張試験機により20%引張り、平行部表面を目視観察することによって評価した。梨地状の肌荒れが顕著に認められた場合を×、判別が困難な場合を○と判定した。
【0093】
【表2】
【0094】
表2に試験結果を示すが、製造No.1〜8は、成分及び製造条件が本発明の範囲内であり、ヘム曲げ性に優れ、リジングや肌荒れの発生もなく、良好な塗装焼付け硬化性を示した。
【0095】
一方、製造No.9は、Mg、Si量が本発明の範囲よりも少ないため、塗装焼付け硬化性が低い。製造No.10は、Mg、Si量が本発明の範囲よりも多く、第2相粒子が多くなりヘム曲げ性が低下した。
【0096】
製造No.11は、2Mn+Crが本発明の範囲よりも少ないため、結晶粒径が粗大化し、リジング及び肌荒れが生じた。
【0097】
製造No.12は、Mn、Crの添加量が本発明の範囲よりも多く、製造No.13は、2Mn+Crが本発明の範囲よりも多いため、熱延での再結晶が不十分となりリジングが発生し、製造No.12は、第2相粒子数も多くなり、ヘム曲げ性も低下した。
【0098】
製造No.14はCu、Znの添加量が規定よりも多いために、第2相粒子数が増え、耐力も高くなりヘム曲げ性が劣った。製造No.15は、Feが本発明の範囲よりも多く、第2相粒子数が増え、ヘム曲げ性が悪くなり、また熱延での再結晶が阻害されてリジングが発生した。
【0099】
(実施例2)
表1の本発明合金A、D、E、GをDC鋳造法により鋳造し、540℃で5時間の均質化焼鈍を施し、冷却した。鋳片を510℃に加熱し、熱間圧延を開始した。熱間圧延、冷間圧延、溶体化処理、安定化処理は、表3に示した条件で行った。
【0100】
表3の圧下量は1回当たりの圧下量である。加工歪導入熱延は、複数回行ったため、1回当たりの圧下量の最大値を表3に示した。なお、最終板厚は1mmとした。
【0101】
また、再結晶促進熱延、加工歪導入熱延及び冷間圧延を開始した際の板厚を表4に示した。これらのアルミニウム合金の引張特性、ヘム曲げ性、リジング、肌荒れ、塗装焼付け硬化性を実施例1と同様にして評価し、結果を表5に示した。
【0102】
【表3】
【0103】
【表4】
【0104】
【表5】
【0105】
製造No.16〜22は、製造条件が本発明の範囲内であり、ヘム曲げ性に優れ、リジングや肌荒れの発生もなく、良好な塗装焼付け硬化性を示した。
【0106】
一方、製造No.23は、再結晶促進熱延の圧延温度が本発明の範囲よりも高く、リジングが発生した。製造No.24は、冷間圧延の総圧下量が本発明の範囲よりも少なく、立方体方位の発達が不十分となり、ヘム曲げ性が低下した。
【0107】
製造No.25は、再結晶促進熱延の圧延温度が本発明の範囲よりも低く、圧下量も小さかったため、再結晶が不十分であり、リジングが発生した。製造No.26は、加工歪導入熱延の圧下量が本発明の範囲よりも大きく、圧延により再結晶し、立方体方位の発達が不十分であり、ヘム曲げ性が低下した。
【0108】
製造No.27は、加工歪導入熱延の終了温度が本発明の範囲よりも低く、溶体化処理温度が本発明の範囲よりも高く、保持時間も長かったため、ヘム曲げ性が低下し、結晶粒径が粗大化し、肌荒れが発生した。
【0109】
製造No.28は、溶体化処理後の冷却速度が本発明の範囲よりも遅く、冷却終了温度が低いため、粒界に第2相が析出し、ヘム曲げ性が低下し、十分な塗装焼付け硬化性が得られなかった。
【0110】
【発明の効果】
本発明により、自動車のエンジンフード、トランクリッド等、蓋物部品の外板に好適な、厳しい成形加工を受けた後でも優れたヘム曲げ性を有し、成形加工後のリジングや肌荒れの発生による表面性状の劣化が少ない6000系アルミニウム合金の製造方法を提供することが可能になり、産業上の貢献が極めて顕著である。
Claims (3)
- 質量%で、
Mg:0.3〜1.0%、
Si:0.5〜1.5%
を含有し、更に、
Mn:0.01〜0.15%、
Cr:0.001〜0.1%
の1種又は2種を含有し、
0.1%≦2Mn+Cr≦0.3%
を満足し、残部がAl及び不可避不純物からなるアルミニウム合金の鋳片を480〜580℃未満に加熱し、350〜500℃で圧下量が30%以上の圧延を1回又は2回以上行い、引き続き200〜400℃で圧下量が70%以下の圧延を1回又は2回以上行って冷却し、総圧下量が30%以上の冷間圧延を行った後、480〜580℃未満の溶体化処理温度に加熱して5分以内保持し、2℃/s以上で50〜150℃未満まで冷却し、引き続き50〜150℃未満に2時間以上保持することを特徴とするヘム曲げ性及び表面性状に優れた成形加工用アルミニウム合金板の製造方法。 - 前記鋳片が、更に、質量%で
Cu:0.1〜1.0%
を含有することを特徴とする請求項1記載のヘム曲げ性及び表面性状に優れた成形加工用アルミニウム合金板の製造方法。 - 前記鋳片が、更に、質量%で、
Ti:0.005〜0.15%、
B :0.0001〜0.05%、
Fe:0.03〜0.4%、
Zn:0.03〜2.5%
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1又は2記載のヘム曲げ性及び表面性状に優れた成形加工用アルミニウム合金板の製造方法。
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