JP2003345342A - 鍵盤楽器の鍵盤装置 - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【課題】 鍵盤の前後方向位置を調整する際に、十分な
調整量を確保できるとともに、調整作業を容易に行うこ
とができる鍵盤楽器の鍵盤装置を提供する。 【解決手段】 筬中７と、円形の断面を有し、筬中７に
埋め込まれ、上下方向に延びる棒状の基部５ａ、および
基部５ａから上方に延び、基部５ａに対して偏心した鍵
盤係合部５ｂを有するバランスピン５と、中央部におい
て上下方向に貫通するように形成されたバランスピン孔
４が、バランスピン５の鍵盤係合部５ｂに係合した状態
で、筬中７に揺動自在に支持され、前後方向に延びる鍵
盤２、３と、を備えている。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【発明の属する技術分野】本発明は、鍵盤楽器の鍵盤装
置に関し、特に鍵盤をその中央部でバランスピンにより
支持する鍵盤装置に関する。

【０００２】

【従来の技術】図５は、従来の一般的なアップライトピ
アノの鍵盤装置を示している。この鍵盤装置２０は、複
数の白鍵２および黒鍵３と、これらを支持する筬６など
で構成されている。各白鍵２は、断面矩形の細長い木製
の鍵盤本体２ａと、その前部に取り付けられた白鍵カバ
ー２ｂを有している。また、黒鍵３は、白鍵２の鍵盤本
体２ａより短い断面矩形の木製の鍵盤本体３ａと、その
前部に取り付けられた黒鍵カバー３ｂとを有している。
これらの鍵盤本体２ａ、３ａは、木質材（板目材）から
成るピアノ１台分の鍵盤板（図示せず）を各鍵盤本体２
ａ、３ａの寸法に挽き割ることによって作製される。

【０００３】また、各鍵盤本体２ａ、３ａの中央部に
は、これらを上下方向に貫通するバランスピン孔４が形
成されている。このバランスピン孔４は、底面付近の、
前後方向に幅の小さい小幅部（図示せず）と小幅部に連
なり、鍵盤本体２ａ、３ａの上面に達する、小幅部より
も幅の大きい大幅部（図示せず）で構成されている。そ
して、鍵盤本体２ａ、３ａは、このバランスピン孔４の
小幅部が、バランスピン５にわずかな隙間をもって係合
するとともに、大幅部がバランスピン５の前後に大きな
隙間をもって係合した状態で、揺動自在に支持されてい
る。このバランスピン５は、例えば真鍮で構成され、棚
板（図示せず）上に載置された筬６の筬中７に形成され
た下孔（図示せず）に打ち込まれ、立設されている。こ
のような鍵盤装置２０では、鍵盤２、３の前部は、演奏
者からよく見える部分であるため、外観上、白鍵２およ
び黒鍵３の各前面が左右方向に直線上に並ぶようにする
とともに、白鍵２と黒鍵３との間も、前後方向に所定の
位置関係にすることが必須である。

【０００４】

【発明が解決しようとする課題】ピアノ製造時には、上
述したように、すべての鍵盤本体２ａ、３ａが単一の鍵
盤板から作製されるため、バランスピン５に取り付けた
状態で、鍵盤２、３が前後方向にずれることはなく、そ
の調整をする必要はほとんどない。これに対して、例え
ば一部の鍵盤２、３が破損し、それを交換するときに
は、新しい鍵盤本体２ａ、３ａは、既存のものとは別の
鍵盤板から作製したものであるため、既存の鍵盤２、３
に対して前後方向にずれ易く、その場合には、前後方向
の調整が必要になる。従来、そのような位置調整は、例
えば適当な工具を用い、筬中７に立設されているバラン
スピン５の根元部分を、鍵盤本体２ａ、３ａを移動させ
たい方へ曲げることにより行われている。しかし、この
場合の鍵盤本体２ａ、３ａの調整量は、バランスピン孔
４の小幅部に係合しているバランスピン５の根元部分の
変位量に等しいので、十分な調整量を確保できず、例え
ば０．３ｍｍ程度が限界である。また、バランスピン５
の曲げ作業によって鍵盤本体２ａ、３ａの位置調整を行
うので、曲げ作業の度に鍵盤本体２ａ、３ａを取り外す
必要があるため、所望の調整位置に調整しづらく、非常
に手間を要する。

【０００５】本発明は、このような課題を解決するため
になされたものであり、鍵盤の前後方向位置を調整する
際に、十分な調整量を確保できるとともに、調整作業を
容易に行うことができる鍵盤楽器の鍵盤装置を提供する
ことを目的とする。

【０００６】

【課題を解決するための手段】この目的を達成するため
に、請求項１に係る発明は、筬中と、円形の断面を有
し、筬中に埋め込まれ、上下方向に延びる棒状の基部、
および基部から上方に延び、基部に対して偏心した鍵盤
係合部を有するバランスピンと、中央部において上下方
向に貫通するように形成されたバランスピン孔が、バラ
ンスピンの鍵盤係合部に係合した状態で、筬中に揺動自
在に支持され、前後方向に延びる鍵盤と、を備えている
ことを特徴とする。

【０００７】この鍵盤楽器の鍵盤装置によれば、筬中に
埋め込まれたバランスピンの基部と、基部から上方に延
び、鍵盤のバランスピン孔が係合する鍵盤係合部とは、
互いに偏心している。したがって、バランスピンの基部
を筬中に対して強制的に回転させると、それに伴って鍵
盤係合部の前後方向および左右方向の位置が変化し、鍵
盤係合部に係合している鍵盤の取付け位置も同様に変化
する。このときの最大調整量は、基部および鍵盤係合部
の軸心間の距離の２倍に等しい。すなわち、鍵盤の前後
方向位置を、バランスピンを回転させる角度に応じて、
基部および鍵盤係合部の軸心間距離の２倍を最大調整量
として、その範囲内で連続的に調整することができる。
したがって、本発明によれば、この調整量がバランスピ
ンの根元部分の曲げ変形量に等しい従来の場合と比較し
て、十分な調整量を確保することができる。また、バラ
ンスピンを回転させるだけで、鍵盤の前後方向位置を容
易に調整することができる。

【０００８】請求項２に係る発明は、請求項１に記載の
鍵盤楽器の鍵盤装置において、バランスピンの鍵盤係合
部の上面に、バランスピンの回転操作用の溝が形成され
ていることを特徴とする。

【０００９】この鍵盤装置によれば、バランスピンの鍵
盤係合部の上面に溝が形成されていることにより、例え
ば、その溝に対応するマイナスドライバなどにより、バ
ランスピンを回転させることによって、鍵盤の前後方向
位置を容易に調整することができる。また、その際に、
鍵盤を取り外す必要がなく、バランスピンに係合させた
状態のままで、バランスピンを回転させ、実際の位置を
確認しながら鍵盤の位置調整を行うことができる。それ
により、鍵盤を所望の前後方向位置に、より容易に調整
することができる。

【００１０】請求項３に係る発明は、請求項２に記載の
鍵盤楽器の鍵盤装置において、バランスピンの溝は、基
部および鍵盤係合部の軸心の双方に直交する直線と平行
に延びていることを特徴とする。

【００１１】この鍵盤装置によれば、製造時において、
バランスピンの基部を筬中に埋め込む際に、鍵盤係合部
の軸心が基部の軸心よりも前側に位置するとともに溝が
前後方向に延びるように、バランスピンの角度を調整す
ると、バランスピンの鍵盤係合部が同じ前後方向位置に
位置決めされる。したがって、この状態で鍵盤をバラン
スピンの鍵盤係合部に係合させると、鍵盤の前後方向位
置を調整することなく揃えることができ、鍵盤を適切な
位置に配置することができる。このように、溝が延びる
方向を、鍵盤の位置決めの基準とすることができる。

【００１２】

【発明の実施の形態】以下、本発明を適用した実施形態
を、図面を参照しながら詳細に説明する。図１は、本発
明の一実施形態によるアップライトピアノの鍵盤装置１
を示している。なお、この鍵盤装置１の基本的な構成
は、すでに説明した図５の従来の鍵盤装置２０と同じで
あるので、図１以降の図面では、従来と同様の構成要素
については同一の参照番号を付している。

【００１３】同図に示すように、この鍵盤装置１は、複
数の白鍵２および黒鍵３（各１つのみ図示）を備えてい
る。各白鍵２は、鍵盤本体２ａと、その前部に取り付け
られた白鍵カバー２ｂとを備えており、各黒鍵３は、後
述するバランスピン５よりも前側の長さが白鍵２の鍵盤
本体２ａよりも短い鍵盤本体３ａと、その前部に取り付
けられた黒鍵カバー３ｂとを備えている。鍵盤本体２
ａ、３ａの上面後端部には堅木で構成された先座板８、
８がそれぞれ取り付けられ、各先座板８には、キャプス
タン１０が取り付けられている。また、鍵盤本体２ａ、
３ａは、スプルスなどの比較的軽量で、粘り強く、弾力
性に富む木質材（板目材）から成り、矩形の断面を有
し、前後方向に延びている。これらの鍵盤本体２ａ、３
ａは、ピアノ１台分の鍵盤板（図示せず）を、各鍵盤本
体２ａ、３ａの寸法に挽き割ることによって作製され
る。

【００１４】白鍵カバー２ｂは、アクリルなどの合成樹
脂の成形品で構成され、Ｌ字形に形成されていて、鍵盤
本体２ａの上面前半部および前面に、これらを覆うよう
に接着されている。また、黒鍵カバー３ｂは、フェノー
ルなどの合成樹脂の成形品で構成され、鍵盤本体３ａの
上面前部に接着されている。

【００１５】鍵盤本体２ａ、３ａの上面中央部には、堅
木で構成された中座板９、９がそれぞれ接着され、これ
らを上下方向に貫通するようにバランスピン孔４が形成
されている。図３に示すように、このバランスピン孔４
の、底部付近の部分は、前後方向に幅の小さい小幅部４
ａになっており、その上側は大幅部４ｂになっている。
この大幅部４ｂは、小幅部４ａよりも大きな前後方向の
幅を有し、小幅部４ａの上端に連なり、中座板９の上面
に開口している。また、図４に示すように、中座板９の
上面からバランスピン孔４の内面に沿って、ブッシング
クロス１５が貼り付けられている。これは、白鍵２の動
作をなめらかにし、雑音をなくすためのものである。ま
た、黒鍵３の鍵盤本体３ａのバランスピン孔４も同様の
構成である。

【００１６】一方、図示しない棚板には、鍵盤２、３の
中央部から前部に相当する位置に筬６が、鍵盤２、３の
後部に相当する位置に筬後１０が、それぞれ設けられて
いる。筬６の筬中７には、バランスピン５が立設されて
いて、鍵盤本体２ａ、３ａは、バランスピン孔４がバラ
ンスピン５に係合することによって、パンチングクロス
１４を介して筬中７に揺動自在に支持されている。ま
た、筬後１０の上面にはフェルトから成る鍵盤枕１１が
貼り付けられていて、離鍵時に、鍵盤２、３の後部が鍵
盤枕１１に着座するようになっている。

【００１７】バランスピン５は、例えば真鍮で構成され
ており、図２に示すように、基部５ａおよび鍵盤係合部
５ｂから成る。基部５ａは上下方向に長い円柱状であ
り、鍵盤係合部５ｂは、基部５ａよりも大きな径を有す
る円柱状で、基部５ａの軸心から所定の距離、例えば
０．５ｍｍ程度、偏心した状態で、基部５ａの上方に延
びている。また、鍵盤係合部５ｂの上面には、ドライバ
操作用の溝５ｃが形成されている。この溝５ｃは、鍵盤
係合部５ｂの上面の径方向に、且つ基部５ａと鍵盤係合
部５ｂの軸心の双方に直交する直線が延びる方向（以下
「偏心方向」という）と平行に延びている。

【００１８】このバランスピン５は、筬中７にあらかじ
め形成された下孔１６に基部５ａを打ち込むことによっ
て、基部５ａの全体が筬中７に埋め込まれるように取り
付けられている。また、この打込みの際には、鍵盤係合
部５ｂの軸心が基部５ａの軸心よりも前側に位置すると
ともに、溝５ｃの延びる方向が前後方向となるようにバ
ランスピン５の角度が調整される。それにより、製造時
には、鍵盤係合部５ｂの前後位置が揃った状態で、バラ
ンスピン５が取り付けられる。また、鍵盤本体２ａ、３
ａは、バランスピン孔４の小幅部４ａが、バランスピン
５の鍵盤係合部５ｂの根元部分にわずかな隙間をもって
係合するとともに、大幅部４ｂが鍵盤係合部５ｂの他の
部分に前後に大きな隙間をもって係合した状態で、揺動
自在に支持されている。また、鍵盤係合部５ｂの上端部
は、中座板９の上面から若干、突出している。

【００１９】キャプスタン１３は、従来と同様、鍵盤本
体２ａ、３ａの上面後端部に、先座板８およびポストワ
イヤー１２を介して取り付けられており、このキャプス
タン１３上にアクション（図示せず）が載置される。ポ
ストワイヤー１２は鉄製で、その下端部が先座板８に差
し込まれている。また、キャプスタン１３は、プラスチ
ックなどから円柱状に形成され、ポストワイヤー９の上
端部に進退自在にねじ込まれていて、ポストワイヤー９
に対して回すことによって、キャプスタン１０の高さが
調整される。

【００２０】以上の構成により、鍵盤２、３の前部を押
鍵すると、鍵盤２、３がバランスピン５を中心として揺
動するとともに、これに伴い、アクションがキャプスタ
ン１３で突き上げられ、作動することで、ハンマーが回
動して弦（いずれも図示せず）を叩くことによって、ピ
アノ音が発生する。

【００２１】以上のように、本実施形態の鍵盤装置１に
よれば、鍵盤本体２ａ、３ｂが係合しているバランスピ
ン５の鍵盤係合部５ｂが、筬中７に打ち込まれた基部５
ａに対して偏心している。したがって、バランスピン５
を、その鍵盤係合部５ｂの溝５ｃを介してマイナスドラ
イバなどによって強制的に回転させると、鍵盤係合部５
ｂは、基部５ａの軸心を中心として回転する。

【００２２】本実施形態では、基部５ａと鍵盤係合部５
ｂの軸心間の距離が０．５ｍｍ程度であることにより、
前後方向についてみると、鍵盤係合部５ｂの移動範囲
は、１．０ｍｍ程度である。すなわち、バランスピン５
を強制的に回転させることによって、鍵盤係合部５ｂに
係合している鍵盤本体２ａの位置は、図３（ａ）に示す
最前位置と、図３（ｂ）に示す最後位置との間で、およ
そ１．０ｍｍを最大調整量として、前後方向に連続的に
調整することができる。それにより、例えば一部の鍵盤
２、３を交換する際、その前後方向の位置調整が必要な
ときに、十分な調整量を確保することができる。また、
バランスピン５の上面の溝５ｃを利用することによっ
て、バランスピン５を容易に回転させることができると
ともに、鍵盤本体２ａ、３ａを、それぞれのバランスピ
ン５に係合させた状態のままで、実際の位置を確認しな
がら鍵盤２、３の位置調整を連続的に行うことができ
る。それにより、鍵盤２、３を、所望の前後方向位置に
容易に調整することができる。

【００２３】一方、バランスピン５を回転させるときに
は、鍵盤係合部５ｂは、前後方向だけでなく左右方向に
も移動するので、それに伴い鍵盤本体２、３も左右方向
に移動することになる。しかし、この左右方向の移動
は、その移動量に比べて鍵盤２、３間の隙間が大きいこ
と、およびバランスピン５と鍵盤本体２ａ、３ａの間に
介在するブッシングクロス１５によって吸収されること
から特に問題にはならない。

【００２４】また、バランスピン５は、その溝５ｃが、
バランスピン５の偏心方向に延びているとともに、製造
時において、鍵盤係合部５ｂの軸心が基部５ａの軸心よ
りも前側に位置し、且つ溝５ｃの延びる方向が前後方向
となるように取り付けられることにより、鍵盤係合部５
ｂの前後方向位置が揃った状態になっている。それによ
り、製造時において、鍵盤２、３をバランスピン５に係
合させるだけで、鍵盤２、３の前後方向位置を調整する
ことなく揃えることができ、鍵盤２、３を適切な位置に
配置することができる。

【００２５】なお、本実施形態では、筬中７へのバラン
スピン５の取付けを、筬中７にあらかじめ形成した下孔
１６への打込みによって行うものとして説明したが、そ
の他の方法、例えば、基部５ａに雄ねじを形成し、筬中
７の下孔１６にねじ込む方法によって行ってもよい。ま
た、本実施形態では、アップライトピアノの鍵盤装置へ
の適用例を示したが、これに限定されることなく、バラ
ンスピンおよびこれに係合する鍵盤を有するすべての鍵
盤楽器に適用することができる。

【００２６】

【発明の効果】以上のように、本発明の鍵盤楽器の鍵盤
装置は、鍵盤の前後方向位置を調整する際に、十分な調
整量を確保できるとともに、調整作業を容易に行うこと
ができる、などの効果を有する。

【図面の簡単な説明】

【図１】本発明の一実施形態によるアップライトピアノ
の鍵盤装置を示す斜視図である。

【図２】バランスピンを互いに異なる向きから見た斜視
図である。

【図３】バランスピンと鍵盤との係合部を示す、鍵盤が
（ａ）最前位置、および（ｂ）最後位置にある状態の部
分縦断面図である。

【図４】バランスピンと鍵盤との係合部を示す横断面図
である。

【図５】従来のアップライトピアノの鍵盤装置を示す斜
視図である。

【符号の説明】

１ 鍵盤装置 ２ａ 鍵盤本体 ３ａ 鍵盤本体 ４ バランスピン孔 ４ａ 小幅部 ４ｂ 大幅部 ５ バランスピン ５ａ 基部 ５ｂ 鍵盤係合部 ５ｃ 溝 ７ 筬中

───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.⁷ 識別記号 ＦＩ テーマコート゛(参考）

Claims (3)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 筬中と、 円形の断面を有し、前記筬中に埋め込まれ、上下方向に
   延びる棒状の基部、および当該基部から上方に延び、前
   記基部に対して偏心した鍵盤係合部を有するバランスピ
   ンと、 中央部において上下方向に貫通するように形成されたバ
   ランスピン孔が、前記バランスピンの前記鍵盤係合部に
   係合した状態で、前記筬中に揺動自在に支持され、前後
   方向に延びる鍵盤と、 を備えていることを特徴とする鍵盤楽器の鍵盤装置。
2. 【請求項２】 前記バランスピンの前記鍵盤係合部の上
   面に、前記バランスピンの回転操作用の溝が形成されて
   いることを特徴とする請求項１に記載の鍵盤楽器の鍵盤
   装置。
3. 【請求項３】 前記バランスピンの前記溝は、前記基部
   および前記鍵盤係合部の軸心の双方に直交する直線と平
   行に延びていることを特徴とする請求項２に記載の鍵盤
   楽器の鍵盤装置。