JP2003192631A - 1,3,6−ヘキサントリカルボン酸の製造方法 - Google Patents

1,3,6−ヘキサントリカルボン酸の製造方法

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JP2003192631A JP2001397453A JP2001397453A JP2003192631A JP 2003192631 A JP2003192631 A JP 2003192631A JP 2001397453 A JP2001397453 A JP 2001397453A JP 2001397453 A JP2001397453 A JP 2001397453A JP 2003192631 A JP2003192631 A JP 2003192631A
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hexanetricarboxylic acid
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tricyanohexane
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Takuji Namatame
卓治 生田目
Akiyoshi Shimoda
晃義 下田
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 アクリロニトリルの電解還元反応により得ら
れる1,3,6−トリシアノヘキサンから、簡便、か
つ、工業的な処理操作により高純度、低色相、かつ、熱
安定性に優れた1,3,6−ヘキサントリカルボン酸を
製造する方法を提供する。 【解決手段】 アクリロニトリルの電解還元反応により
得られるアジポニトリルを主成分とする電解液から、
1,3,6−トリシアノヘキサンを主成分とするトリニ
トリル混合物を分離し、混合物中の1,3,6−トリシ
アノヘキサンを加水分解し、次いで、晶析することから
なる1,3,6−ヘキサントリカルボン酸及び/又はそ
の塩の製造方法。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、アクリロニトリル
の電解還元反応によりアジポニトリルを製造する際に、
副生物として得られる1,3,6−トリシアノヘキサン
を加水分解して、1,3,6−ヘキサントリカルボン酸
及び/又はその塩を製造する方法に関する。更に詳しく
は、塗料用途、洗剤、クリーニング剤中のビルダ及び水
あか防止剤として好適に用いることができる低色相、高
純度及び熱安定性の高い1,3,6−ヘキサントリカル
ボン酸及び/又はその塩の製造方法に関する。
【0002】
【従来技術】1,3,6−トリシアノヘキサンは、4−
アミノメチル−1,8−ジアミノオクタンや1,3,6
−ヘキサントリカルボン酸の原料として有用である。中
でも1,3,6−ヘキサントリカルボン酸は水溶性であ
り、生分解性が良好であるため、各種用途への展開が提
案されている。例えば、1,3,6−ヘキサントリカル
ボン酸やその塩は、洗剤調合剤やチェーン潤滑剤等に好
適に使用できることが提案されている。(独国特許出願
公開第19637428号明細書)また1,3,6−ヘ
キサントリカルボン酸は、更に高級アルコールとのエス
テル化により、耐寒性等に優れるハロゲン含有樹脂の可
塑剤として好適に使用できることが、特開平4−342
748号公報において提案されている。
【0003】1,3,6−トリシアノヘキサンのこれら
用途への展開にあたり、製品である1,3,6−ヘキサ
ントリカルボン酸や高級アルコールとのエステル化物に
おいては、着色のない低色相のものが望まれている。例
えば、1,3,6−ヘキサントリカルボン酸が着色した
ものである場合には、そのエステル化物も著しく着色す
る傾向にあり、高級アルコールとのエステル化物のよう
な高沸点の誘導体の場合には蒸留精製等が困難である。
【0004】1,3,6−ヘキサントリカルボン酸の製
造方法としては、従来から様々な方法が知られており、
一般には、アクリロニトリルの電解還元反応によって得
られる1,3,6−トリシアノヘキサンを原料とし、加
水分解により製造する方法がよく知られている。電解還
元反応において得られる1,3,6−トリシアノヘキサ
ンを含有するトリニトリル混合物から1,3,6−トリ
シアノヘキサンの純度を高める目的で、例えば、蒸留精
製を行った場合には、通常、著しく着色しており、黄色
や黒色を呈している。例えば、特開昭62−27055
0号公報において、1,3,6−トリシアノヘキサンを
分子蒸留により精製を行っているが、精製物はハーゼン
値が400以上の黄色の液体である。このような着色を
呈した1,3,6−トリシアノヘキサンを主成分とする
トリニトリル混合物を原料として、加水分解して得た
1,3,6−ヘキサントリカルボン酸は、同様に黄褐色
や赤褐色を呈しており、著しく着色したものである。更
に、このように着色した1,3,6−ヘキサントリカル
ボン酸は、例えば、80℃以上に加熱した場合には、さ
らに着色度を増し、加熱前後の色差(△E)が1を大き
く越える傾向にあり、熱安定性が低いものである。
【0005】例えば、独国特許出願公開第196374
28号明細書には、アクリロニトリルの電解還元反応に
より得たトリシアノヘキサンを20%苛性ソーダで還流
加熱し、冷却後、濃硫酸でカルボン酸化し、得られる反
応混合物を完全に乾燥させて生じたベージュ色の残渣を
ソックスレー(Soxlett)抽出器を用いて酢酸エ
ステルで抽出し、減圧下で酢酸エステルを除去すること
により、無色から淡黄色の1,3,6−ヘキサントリカ
ルボン酸を得る方法が開示されている。
【0006】精製方法としてソックスレー(Soxle
tt)抽出器を用いる方法以外にも、上記反応混合物を
tert−ブチルメチルエーテルで3回抽出し、抽出物
を硫酸マグネシウムで乾燥後、溶剤を蒸留し、残渣をア
セトン及びシクロヘキサンの混合溶液の中に導入し、冷
却により生ずる結晶を濾過により回収することにより、
無色から淡黄色の1,3,6−ヘキサントリカルボン酸
を得ている。さらには、トリシアノヘキサンを濃硫酸と
砕氷片で混合し、140℃で加水分解して得られる水性
混合物を、tert−ブチルメチルエステルで3回抽出
し、エーテル混合物を硫酸マグネシウムで乾燥後、溶剤
を蒸留して無色から淡黄色までの1,3,6−ヘキサン
トリカルボン酸を得ている。
【0007】これらの方法で得られる1,3,6−ヘキ
サントリカルボン酸の純度は、原料中の1,3,6−ト
リシアノヘキサンの含有率に大きく依存し、通常、純度
が95%以下である。さらに、上記に開示されているい
ずれの方法においても、得られる1,3,6−ヘキサン
トリカルボン酸は、明度指数L値が98未満、クロマテ
ィクネス値指数のb値が3以上、80℃で18時間放置
した場合の色差(△E)が2以上、等の性質を1つ以上
有しており、着色したものや、熱安定性が低く、加熱に
よって着色する1,3,6−ヘキサントリカルボン酸し
か得られない。
【0008】さらに、独国特許出願公開第196374
28号明細書に開示されている方法は、いずれの方法も
抽出溶媒を多量に用いるため、工業的に有利な方法では
ない。また、1,3,6−ヘキサントリカルボン酸の製
法として、Houben−Weyl VIII,p.6
97,539に記載のように、まずピナー(Pinne
r)反応にもとづき、ニトリルからトリスイミノエステ
ルを介してトリカルボン酸エステルを調整し、次いで、
加水分解して1,3,6−ヘキサントリカルボン酸を得
ることも可能である。
【0009】しかしながら、ピナー(Pinner)反
応では、ニトリルとアルコールからイミノエステルを製
造する際に乾燥した塩酸ガスを用いる等、収率を向上さ
せるために十分な水分の管理が必要である。さらには、
塩酸ガスを用いること、イミノエステルを加水分解して
エステルとする工程及びエステルを加水分解してカルボ
ン酸とする工程を必要とする等、腐食性ガスを用いた
り、化学反応を伴う製造工程が長く、工業的には多大な
設備を必要とする。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、アク
リロニトリルの電解還元反応において得られる1,3,
6−トリシアノヘキサンから、簡便で、かつ、工業的な
処理操作により、精製された高純度、低色相、かつ、熱
による色相の変化が低減された熱安定性に優れた1,
3,6−ヘキサントリカルボン酸及び/又はその塩を製
造する方法を提供することにある。
【0011】本発明の更なる目的は、高純度、低色相、
かつ、熱による色相の変化が低減された熱安定性の高い
1,3,6−ヘキサントリカルボン酸及び/又はその塩
を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題
を解決するために、アクリロニトリルの電解還元反応に
おいて得られる1,3,6−トリシアノヘキサンを加水
分解することにより得られる1,3,6−ヘキサントリ
カルボン酸及び/又はその塩の精製方法について、鋭意
検討を行った。その結果、アクリロニトリルの電解還元
反応において得られる1,3,6−トリシアノヘキサン
を加水分解して得られる1,3,6−ヘキサントリカル
ボン酸及び/又はその塩に対して晶析操作を行うことに
より、純度の向上はもとより、色相を著しく改善できる
ことを見出した。更に本発明者らは、晶析操作の際に、
特定の溶媒を選択することにより、驚くべきことに、得
られる1,3,6−ヘキサントリカルボン酸及び/又は
その塩の熱安定性を従来技術に比べて著しく改善できる
ことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】すなわち、本発明は以下の通りである。 (1)アクリロニトリルの電解還元反応により得られる
アジポニトリルを主成分とする電解液から、少なくと
も、電解液中に含まれるトリニトリル成分に対して低沸
点成分を除去して、1,3,6−トリシアノヘキサンを
主成分とするトリニトリル混合物を分離し、トリニトリ
ル混合物中の1,3,6−トリシアノヘキサンを加水分
解し、得られた1,3,6−ヘキサントリカルボン酸及
び/又はその塩を晶析することを特徴とする1,3,6
−ヘキサントリカルボン酸及び/又はその塩の製造方
法。 (2)晶析工程で用いられる溶媒が、エーテル系化合
物、エステル系化合物、ケトン系化合物及び水から選ば
れる少なくとも1種であることを特徴とする(1)に記
載の1,3,6−ヘキサントリカルボン酸及び/又はそ
の塩の製造法。 (3)晶析工程で用いられる溶媒が、水、炭酸ジメチ
ル、アセトン、テトラヒドロフラン及びtert−ブチ
ルメチルエーテルから選ばれた少なくとも1種である
(1)に記載の1,3,6−ヘキサントリカルボン酸及
び/又はその塩の製造方法。 (4)溶媒が水である(3)に記載の1,3,6−ヘキ
サントリカルボン酸及び/又はその塩の製造方法。 (5)(1)〜(4)のいずれか1つに記載の方法によ
り得られる1,3,6−ヘキサントリカルボン酸及び/
又はその塩。
【0014】以下、本発明を詳細に説明する。本発明で
用いられるアクリロニトリルの電解還元反応は、一般的
にアジポニトリルを製造する工業的手法であり、この際
に得られる反応液中には、分子内にニトリル基を1個以
上有する有機化合物である各種ニトリル化合物が多種存
在する。ニトリル化合物としては、例えば、主成分は、
電解還元反応の主生成物であるアジポニトリル及び未反
応のアクリロニトリル、副成分は、電解還元反応の副生
物である、プロピオニトリル、α−メチルグルタロニト
リル、ヒドロキプロピオニトリル、サクシノニトリル、
アクリロニトリルの3量体、例えば、1,3,6−トリ
シアノへキサン、3−シアノメチル−1,5−ジシアノ
ペンタン等、さらにはアクリロニトリルが4量体以上と
なった高分子量体等があげられる。
【0015】アクリロニトリルの電解還元反応におい
て、無視しがたい量の1,3,6−トリシアノヘキサン
を主成分とするアクリロニトリルの3量体や、4量体以
上の高分子量体が得られることが、ジャーナル・オブ・
オーガニック・ケミストリー(J.Org.Che
m.)、30(5)1351(1965)に記載されて
いる。一般に、アクリロニトリルの電解還元反応で生成
するアクリロニトリルの3量体は、主成分が1,3,6
−トリシアノヘキサンであり、その他の異性体として3
−シアノメチル−1,5−ジシアノペンタン等が含有さ
れる。
【0016】本発明でいうトリニトリル混合物とは、こ
れらアクリロニトリルの電解還元反応で生成するアクリ
ロニトリルの3量体を80質量%以上含有する、上記ニ
トリル化合物の混合物を意味する。トリニトリル混合物
は、電解還元反応により得られたアジポニトリルを主成
分とするニトリル化合物からなる電解液を、例えば、減
圧蒸留等により、トリニトリル成分に対して低沸点成分
であるアクリロニトリルやアジポニトリル等、及び必要
に応じて、高沸点成分であるアクリロニトリルの4量体
以上の高分子量体を除去することにより得ることができ
る。低沸点成分を除去した液中には、いうまでもなく、
低沸点成分除去によっても除去しきれなかった、トリニ
トリル成分に対して低沸点の成分が残留していてもよ
い。
【0017】トリニトリル混合物に含有される1,3,
6−トリシアノヘキサンの含有率は85質量%以上が好
ましく、より好ましくは90質量%以上である。トリニ
トリル混合物中の1,3,6−トリシアノヘキサンの含
有率が85質量%未満の場合は、上記の低沸点成分や、
アクリロニトリルの4量体以上の高分子量体からなる高
沸点成分、さらには定量がし難い量の着色成分が多く含
有されるため、加水分解反応後の本発明の晶析による精
製効率や収率が低下する傾向にある。
【0018】本発明で用いられるトリニトリル混合物に
は、3−シアノメチル−1,5−ジシアノペンタンが、
通常、0.01〜10質量%の範囲で含有される。本発
明では、この範囲に限定はないが、1,3,6−ヘキサ
ントリカルボン酸及び/又はその塩を高純度、かつ、高
収率で得るには、含有率は、好ましくは0.01〜5質
量%、より好ましくは0.01〜3質量%である。以
下、アクリロニトリルの電解還元反応について説明す
る。
【0019】アクリロニトリルの電解還元反応は、アク
リロニトリルを原料とし、1対の陰極と陽極とが陽イオ
ン交換膜で仕切られた陰極室と陽極室とからなる、いわ
ゆる隔膜電解槽を用いて得られる他、イオン交換膜のな
い単一電解槽を用いても得ることができる。これらの電
解法は、例えば、特公昭45−24128号公報、特開
昭59−59888号公報、特開昭59−185788
号公報等において知られている。
【0020】例えば、隔膜電解槽を用いた電解は次のよ
うにして行われる。陰極は、一般に水素過電圧の高いも
のが使用可能であり、例えば、鉛、カドミウム又はこれ
らを主成分とする合金が好適に用いられる。陽極は、
鉛、鉛合金、白金等、耐食性の高いものがよく、鉛又は
鉛合金が好適に用いられる。隔膜として、一般に陽イオ
ン交換膜が用いられ、陽極液として、硫酸水溶液が用い
られる。陰極液は、その反応中は、アクリロニトリル、
アジポニトリル、トリニトリル化合物、その他の副生
物、水、及び伝導性支持塩からなり、油相と水相に分離
したエマルジョンになるか、アクリロニトリルが過剰に
なることによって均一溶液になっているか、いずれかの
状態である。
【0021】伝導性支持塩は、下記一般式 [NR1234]+- (式中、R1、R2、R3は炭素数1〜5のアルキル基、
4は炭素数1〜16のアルキル基、X-は硫酸、炭酸、
アルキル硫酸、リン酸等のアニオン、又は有機酸、有機
多価酸の残基である)で示される第4級アンモニウム塩
が好ましく用いられる。
【0022】陰極液のpHは、通常5〜12の範囲にあ
る。電解還元反応時における電槽内の電解液温度は、通
常、40〜60℃の範囲であり、電流密度は、陰極表面
1dm2あたり、通常、5〜50アンペアの範囲であ
る。陰極と陽極の距離は、隔膜を介して、通常、1〜2
0mmであり、陰極液、陽極液をそれぞれ、通常、0.
1〜10.0m/秒の線速度で通過させる。隔膜である
イオン交換膜のない単一電解槽を用いてアクリロニトリ
ルの電解還元反応を行う場合は、陰極としては、鉛、カ
ドミウム、水銀又はこれらを1種以上含有する合金が好
ましく用いられ、陽極としては、鉄、ニッケル、又はこ
れらの合金が用いられる。
【0023】電解液は、アルカリ金属塩、上記第4級ア
ンモニウム塩、及び水を主成分とし、反応中は、電解液
にアクリロニトリル、アジポニトリル、トリニトリル化
合物、その他副生物が、エマルジョン又は均一溶解した
状態で存在する。アルカリ金属塩のカチオンとしては、
例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム
などが挙げられ、アニオンはリン酸、硼酸、炭酸、硫酸
等の無機塩又は多価酸の残基が使用される。
【0024】反応終了後の電解液からトリニトリル混合
物を得る方法には制限はなく、一般的な抽出法、蒸留法
又はその組み合わせが用いられる。すなわち、電解還元
反応終了後の電解液が油水のエマルジョンになっている
場合、未反応のアクリロニトリル及び副生物のプロピオ
ニトリル等の低沸点成分を蒸留除去後、エマルジョン破
壊を行い、油水の2層に分離する。水層には無機物や4
級アンモニウム塩が分配し、油層には若干の水、低沸点
成分、アジポニトリル、トリニトリル化合物及びその他
の高沸点成分が分配する。
【0025】一方、電解還元反応終了後の電解液が均一
溶液となっている場合には、例えば、水及び塩化メチレ
ン等の非水系有機溶媒を添加し、水層に無機塩や4級ア
ンモニウム塩を抽出し、油層にニトリル化合物及びその
他高沸点成分を抽出する。それぞれの場合とも、アジポ
ニトリル等のトリニトリル成分に対して低沸点成分を、
一般的な蒸留法等により除去することによって、トリニ
トリル混合物を含む高沸点成分残渣が得られる。前述の
ように、トリニトリル混合物を含む高沸点成分残渣中に
は、低沸点成分の除去操作によっても除去されなかった
アジポニトリル等の低沸点成分をはじめ、アクリロニト
リルの4量体以上の高沸物が含まれる。
【0026】本発明においては、高沸物残渣の組成にお
いて、トリニトリル混合物が80質量%未満の場合に
は、例えば、除去されなかったアジポニトリル等の低沸
点成分や、必要に応じて高沸点成分を除去する目的でさ
らなる蒸留を1回以上行い、結果的にトリニトリル化合
物の含有率が80質量%以上となるトリニトリル混合物
を得てもよい。さらなる蒸留法としては、例えば、特開
昭62−270550号公報に記載されているような分
子蒸留法や薄膜蒸留法も好適に利用できる。また、トリ
ニトリル化合物の含有率を85質量%以上とする目的
で、必要に応じて、上記高沸物残渣に対し、選択的にト
リニトリル化合物を溶解するような溶媒を用いて抽出
し、後工程で溶媒を除去することにより、トリニトリル
混合物を得てもよい。
【0027】本発明の1,3,6−ヘキサントリカルボ
ン酸及び/又はその塩は、上記で説明したトリニトリル
混合物を、アルカリ又は酸と、水及び/又はアルコール
の存在下で加水分解して得られるものである。以下、本
発明の加水分解について説明する。加水分解に用いられ
る上記のアルカリとは、水溶液においてアルカリ性を示
す化合物であり、例えば、アルカリ金属系化合物、アル
カリ土類金属系化合物、窒素系化合物等が挙げられる。
【0028】アルカリ金属系化合物としては、例えば、
水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、
水酸化ルビジウム、水酸化セシウムなどのアルカリ金属
水酸化物、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウ
ム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウムなどのアルカリ金属
炭酸塩、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸
水素カリウム、炭酸水素ルビジウム、炭酸水素セシウム
などのアルカリ金属炭酸水素塩、重炭酸リチウム、重炭
酸ナトリウム、重炭酸カリウム、重炭酸ルビジウム、重
炭酸セシウムなどのアルカリ金属重炭酸塩、カリウムブ
トキシド、カリウムエトキシド、カリウムメトキシド、
ナトリウムブトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリ
ウムメトキシド、リチウムブトキシド、リチウムエトキ
シド、リチウムメトキシドなどのアルカリ金属アルコキ
シド等が挙げられる。
【0029】アルカリ土類金属系化合物としては、水酸
化ベリリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウ
ム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、水酸化ラ
ジウムなどのアルカリ土類金属水酸化物、炭酸ベリリウ
ム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロン
チウム、炭酸バリウム、炭酸ラジウムなどのアルカリ土
類金属炭酸塩、炭酸水素ベリリウム、炭酸水素マグネシ
ウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素ストロンチウム、
炭酸水素バリウム、炭酸水素ルビジウムなどのアルカリ
土類金属炭酸水素塩、重炭酸ベリリウム、重炭酸マグネ
シウム、重炭酸カルシウム、重炭酸ストロンチウム、重
炭酸バリウム、重炭酸ラジウムなどのアルカリ土類金属
重炭酸塩等が挙げられる。また、窒素系化合物としては
アンモニアや各種アミン系化合物等が挙げられる。
【0030】これらアルカリは単独で用いてもよく、ま
た2種以上で用いてもよい。加水分解に用いられる酸と
しては、水溶液で酸性を示す化合物であり、塩酸、硫
酸、硝酸等の無機酸や各種カルボン酸やスルホン酸系の
有機酸が挙げられる。加水分解でアルカリを水溶液とし
て使用するときのアルカリ水溶液の濃度は本発明におい
ては制限はないが、通常、1.0〜50質量%の範囲で
ある。例えば、アルカリとして水酸化ナトリウムを用い
て、大気圧下で加水分解を行う場合は、通常、2.0〜
40.0質量%、好ましくは10.0〜30.0質量%
の範囲である。濃度が2.0質量%未満では反応速度が
遅く、40.0質量%を超える範囲では1,3,6−ト
リシアノヘキサンの反応場である水への溶解度が極端に
低くなり、加水分解速度が著しく低下する低下する傾向
にある。
【0031】1,3,6−トリシアノヘキサンとアルカ
リとの当量比は、ニトリル基に対して塩基として理論的
には1.00当量以上であるが、十分な反応速度を得る
目的で、好ましくは1.01〜3.00当量、より好ま
しくは1.03〜2.00当量の範囲である。3.00
当量を超える場合には、過剰のアルカリ量が多く反応系
に残留し、アルカリを除去するために副生物として塩が
多量に生成する。一方、酸を用いて加水分解する場合、
その濃度は酸の種類によって異なるが、通常、1〜98
質量%の範囲である。例えば、塩酸の場合は、通常、2
〜37質量%、好ましくは20〜37質量%の範囲であ
る。濃度が2.0質量%未満では反応速度が遅くなる傾
向にあり、37質量%を越えるものは工業的に入手が困
難である。硫酸の場合は、通常、2〜75質量%の範
囲、好ましくは20〜60質量%である。2質量%未満
では反応速度が遅くなる傾向にあり、75質量%を超え
ると加水分解に要する水の量を確保するため、必要以上
に多くの硫酸を必要とする。
【0032】1,3,6−トリシアノヘキサンと酸との
当量比は、ニトリル基に対し、塩基として、通常、1.
01〜5.0当量、好ましくは1.05〜3.0当量の
範囲である。当量比が1.01未満では反応速度が遅く
なり、反応時間が長くなる。5.0当量を超える場合に
は、用いた過剰の酸が反応系に多く残留し、酸を除去す
るために副生物として塩が多量に生成する。反応温度
は、アルカリ、酸いずれの場合も、通常、50〜250
℃、好ましくは80〜140℃の範囲である。反応温度
が50℃未満では反応速度が遅く、250℃を越えると
分解等の副反応を併発する傾向にある。
【0033】反応時間は、通常、1〜200時間の範囲
である。反応時の圧力には制限は無く、加圧下、大気圧
下、さらには減圧下でおこなってもよい。反応時の雰囲
気は、副反応を併発しないものであれば制限はなく、例
えば、窒素等の不活性気体の存在下や空気中でもよい。
また、例えば、大気圧下で加水分解を行う場合には、反
応容器は、蒸発する水を系内に戻すための冷却装置や、
液相を窒素ガス又は空気などのガスによりバブリングし
溶存しているアンモニアを系外に追い出す装置を有して
いてもよい。加圧条件下で行う場合は、副生するアンモ
ニアを系外に逃がすことができる装置を具備した装置で
あることが望ましい。
【0034】加水分解は、1段の反応で行ってもよく、
例えば、アルカリによる加水分解後、反応系内に中間体
としてアミド化合物が存在する場合には、引き続き他の
アルカリや酸を用いて加水分解を行ってもよい。本発明
の特徴は、加水分解により得られる1,3,6−ヘキサ
ントリカルボン酸及び/又はその塩を晶析することにあ
る。1,3,6−ヘキサントリカルボン酸の塩とは、
1,3,6−ヘキサントリカルボン酸と、ナトリウム、
カリウム等のアルカリ金属やアルカリ土類金属等との金
属イオンとの塩、又はアンモニア等とのアンモニウム
塩、アミン化合物とのアミン塩である。
【0035】晶析とは、「物理学辞典」(培風館、初
版、1984)で定義されているものであり、本発明で
いう晶析操作とは、上記加水分解によって得られる1,
3,6−ヘキサントリカルボン酸及び/又はその塩を主
成分とする反応生成物を溶媒に溶解させた溶液を作り、
次いで、過飽和状態とすることにより1,3,6−ヘキ
サントリカルボン酸及び/又はその塩を析出させる操作
をいう。溶液とは、前記の辞典に定義されているよう
に、2種以上の化学物質の混合物で、完全に均一な液体
になっているもののことである。
【0036】上記溶液を過飽和状態とする方法は、例え
ば、温度を変化させる方法や、溶媒を蒸発させることに
より濃度を変化させる方法がある。温度を変化させる場
合には、温度による溶解度の変化の大小にしたがって、
溶液を適当な方法を用いて冷却し、1,3,6−ヘキサ
ントリカルボン酸及び/又はその塩を析出させる。濃度
を変化させる方法としては、溶液から加熱蒸発濃縮によ
って溶媒を留去することによって過飽和溶液を作り、
1,3,6−ヘキサントリカルボン酸又はその塩の析出
物を得る方法が挙げられる。
【0037】上記溶媒としては、溶媒の沸点以下におい
て、1,3,6−ヘキサントリカルボン酸及び/又はそ
の塩を3質量%以上溶解する溶媒が好ましく使用され
る。中でも、水、エーテル系化合物、エステル系化合
物、ケトン系化合物を溶媒として用いた場合、純度の向
上はもとより、色相が著しく改善されるので好ましい。
上記エーテル系化合物としては、例えば、エチレングリ
コールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチ
ルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル等のジア
ルキルエーテル類、テトラヒドロフラン、1,4‐ジオ
キサン等の環状エーテル類が挙げられる。また、上記エ
ステル系化合物としては、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル
等の炭酸エステル類、酢酸エチル、酢酸メチル、安息香
酸メチル等の脂肪族や芳香族のアルキルエステル類が挙
げられる。また、上記ケトン系化合物としては、メチル
エチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトン等が
挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いてもよく、2
種以上の混合溶媒として用いてもよい。
【0038】本発明の製造方法において、溶媒として用
いられる、水、炭酸ジメチル、tert−ブチルメチル
エーテル、アセトン、テトラヒドロフランに対する1,
3,6−ヘキサントリカルボン酸及びその塩の溶解度
は、25℃において10%以上あるため、少量の溶媒量
で効率的に晶析操作を行うことが可能であるので好まし
い。中でも、本発明において、水は1,3,6−ヘキサ
ントリカルボン酸やその塩に対し、高温で極めて高い溶
解度を持ち、かつ、少量で晶析操作を行うことが可能で
あること、さらには1,3,6−ヘキサントリカルボン
酸やその塩に対し、晶析操作を行う上で十分な溶解度の
温度依存性を有し、得られる1,3,6−ヘキサントリ
カルボン酸及びその塩の熱安定性が著しく向上すること
からより好ましい。
【0039】本発明の1,3,6−ヘキサントリカルボ
ン酸及び/又はその塩を晶析する工程においては、固体
を析出させるにあたり、溶液を撹拌状態又は静置状態の
いずれの状態で実施してもよい。撹拌状態の場合には、
結晶核の生成が促され、晶析の速度が向上する傾向にあ
る。静置状態で行う場合には、撹拌を行う場合と比較し
て、晶析速度が低下する傾向にある反面、より低色相の
1,3,6−ヘキサントリカルボン酸及び/又はその塩
を得ることができる傾向にある。更に、晶析工程におい
て、例えば、晶析速度を向上させる目的で、結晶核とな
る1,3,6−ヘキサントリカルボン酸及び/又はその
塩の種結晶を導入することも可能である。
【0040】本発明の1,3,6−ヘキサントリカルボ
ン酸及び/又はその塩を晶析する工程において、均一な
溶液を調製するために、使用する溶媒の沸点以下の範囲
において加熱することが可能である。晶析操作に際し、
溶液が凝固しない範囲において冷却することができる。
例えば、溶媒として水を用いて1,3,6−ヘキサント
リカルボン酸及び/又はその塩を晶析する場合、均一な
溶液を調整する温度には制限はないが、通常、20〜1
00℃であり、結晶を析出させる温度は−10〜50℃
の範囲である。
【0041】晶析工程において、析出した1,3,6−
ヘキサントリカルボン酸及び/又はその塩を濾過する方
法には制限はなく、各種フィルターを用いた吸引濾過
法、加圧濾過法、又は遠心分離機を用いた方法等が好ま
しく利用できる。1,3,6−ヘキサントリカルボン酸
を塩の状態で晶析操作を行った場合には、後工程とし
て、例えば、陽イオン交換樹脂によりカルボン酸とする
方法や、硫酸や塩酸等の無機酸を用いて溶液を酸性と
し、次いで、生じた無機塩を分離する方法等により、
1,3,6−ヘキサントリカルボン酸を得ることができ
る。
【0042】晶析操作の前工程又は後工程として、その
他の一般的な精製方法を組み合わせて実施してもよい。
本発明により得られる1,3,6−ヘキサントリカルボ
ン酸及び/又はその塩は、その色相が著しく改善された
ものであり、例えば、水を標準物質とし、濃度0.1g
/mlの水溶液として25℃において測定された明度指
数L値は98以上であり、クロマティクネス指数のa値
は−2.0〜2.0、b値は−2.0〜3.0である。
【0043】本発明により得られる1,3,6−ヘキサ
ントリカルボン酸及びその塩は優れた熱安定性を有し、
例えば、80℃で18時間保持した前後の色差(△E)
は、通常、2以下である。本発明で色相を表すのに用い
られるL値、a値及びb値は、JIS規格Z8722の
方法にしたがい、分光測定器により標準の光Cを用い、
380〜780nmの波長範囲で、透過法によりXYZ
系における三刺激値X、Y、Z値を求める。この値に基
づいて、 JIS規格Z8730で規定された、下式に
示すハンターの色差式により、 L値、a値及びb値が
計算される。L値は、ハンターの色差式における明度指
数、a及びb値は、ハンターの色差式におけるクロマテ
ィクネス指数と呼ばれるものである。
【0044】L=10Y0.5 a=17.5(1.02X−Y)/Y0.5 b=7.0(Y−0.847Z)/ Y0.5 一般に、明度指数L値は100が上限であり、その数値
が増加するにしたがい被測定物質の色相が白色度を、ま
たその数値が低下するにしたがい黒色度を増すことを意
味する。クロマティクネス指数であるa値は0を基準
に、数値がマイナスになる場合は被測定物質の色相が緑
色度を、プラスになる場合は赤色度を増すことを意味す
る。クロマティクネス指数であるb値は0を基準に、数
値がマイナスになる場合は被測定物質の色相が青色度
を、プラスになる場合は黄色度を増すことを意味する。
【0045】すなわち、本発明でいう低色相とは、L値
が100に近く、a値及びb値が0に近いことを意味す
る。色差(△E)とは、例えば、加熱処理等を行う前後
の1,3,6−ヘキサントリカルボン酸及び/又はその
塩に対して得た、上記L、a、及びb値から、下式によ
り求められる値であり、0に近いものほど熱安定性が高
いことを意味する。
【0046】 △E=√(△L)2+(△a)2+(△b)2 (式中、△L値は、加熱処理前後の明度指数L値の差、
△a値は、加熱処理前後のクロマティクネス指数a値の
差、△b値は、加熱処理前後のクロマティクネス指数b
値の差を表す。) 本発明において得られる1,3,6−ヘキサントリカル
ボン酸及び/又はその塩は、L値が好ましくは98.0
0以上、より好ましくは99.00以上、最も好ましく
は99.55以上である。本発明の1,3,6−ヘキサ
ントリカルボン酸及び/又はその塩は、a値は−2.0
〜2.0であり、−1.0〜1.0が好ましく、−0.
5〜0.5の範囲がより好ましく、b値は−2.0〜
3.0であり、−1.0〜2.0が好ましく、−0.5
〜0.5の範囲がより好ましい。
【0047】本発明において、熱安定性の非常に高い
1,3,6−ヘキサントリカルボン酸及び/又はその塩
は、△E値が1.0以下であることが好ましく、0.5
以下がより好ましい。1,3,6−ヘキサントリカルボ
ン酸及び/又はその塩において、L値、a値及びb値が
好ましいとされる範囲からはずれる場合には、トリカル
ボン酸及び/又はその塩の着色が明らかに肉眼で確認で
き、各種用途に用いた場合に、得られる製品が類似の着
色を呈する傾向にある。
【0048】
【発明の実施の形態】以下、実施例により本発明を具体
的に説明する。本発明で用いられる測定方法は以下の通
りである。 [トリニトリルの測定法]トリニトリル混合物の純度
は、下記方法によるガスクロマトグラフィーの測定及び
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GP
C、と略す)による測定により求める。トリニトリル混
合物に含有されるアクリロニトリルの4量体以上の高分
子量体の含有率は、GPCにより求める。色相は、透過
法によるUV測定から求める。
【0049】各測定は以下の装置及び条件の下で行う。 ガスクロマトグラフィー測定: 装置:(株)島津製作所製GC−14B カラム:GL Science Inc.社製キャピラ
リーカラム TC−1(0.25mmI.D.、長さ30m) キャリアガス:He 検出:FID カラム温度条件:120℃から20℃/minで200
℃まで昇温し、5分間保持した後、10℃/minで2
50℃まで昇温させ10分間保持する 試料溶解溶媒:アセトン GPC測定:各化合物2.0mgをテトラヒドロフラン
2.0gで溶解し、0.5μmフィルターで濾過を行
い、下記の条件で展開、検出することにより分析を行
う。
【0050】測定装置:東ソー(株)製HLC−812
0GPC 検出器 :RI 展開液 :テトラヒドロフラン 展開液流速:1.0ml/min カラム :東ソー(株)製TSKgel(登録商標)G
MHHR−N1本及びTSKgelG1000HXL2本を
直列に設置 カラム温度:40℃ 色相の測定法:トリニトリル混合物0.40gをホール
ピペットで定量されたジエチレングリコールエーテル4
mlに溶解し、下記方法の透過法によりUV測定を行
い、得られる三刺激値からハンターの式にしたがいL
値、a値、及びb値を求める。
【0051】測定装置:(株)島津製作所製UV250
0PC サンプルセル:石英製、外寸12.4mm×12.4m
m×高さ45mm、光路長10.0mm ジエチレングリコールジメチルエーテル: 和光純薬
(株)製、特級試薬 測定温度:25±2℃ 波長範囲:380〜780nm 波長送り速度:低速レンジ(約140nm/分) [ヘキサントリカルボン酸の測定法]ヘキサントリカル
ボン酸の純度は、下記方法による高速液体クロマトグラ
フィー(以下、LC、と略す)による測定により求め
る。色相は、透過法によるUV測定から求める。
【0052】各測定は以下の装置及び条件で行う。 LC測定: 装置:東ソー(株)製LC−10A カラム:(株)島津製作所製SCR−101Hを1本 検出器:RI及びUV(波長210nm) 展開液:過塩素酸でpH2.2〜2.4の範囲(25℃
におけるpH) カラム温度:40℃ 展開液流速:1.0ml/min 過塩素酸:和光純薬(株)製(60%濃度、精密分析
用) 色相の測定法:トリカルボン酸0.40gをホールピペ
ットで定量されたジ蒸留水4mlに溶解し、下記方法の
透過法によりUV測定を行い、得られる三刺激値からハ
ンターの式に従いL値、a値及びb値を求める。 測定装置:(株)島津製作所製UV2500PC サンプルセル:石英製、外寸12.4mm×12.4m
m×高さ45mm、光路長10.0mm 蒸留水:和光純薬(株)製 測定温度:25±2℃ 波長範囲:380〜780nm 波長送り速度:低速レンジ(約140nm/分)
【0053】
【実施例1】1,3,6−トリシアノヘキサンの精製 単一電解槽には、1cm×90cmの通電面を有する鉛
合金を陰極とし、同じ通電面を有する炭素鋼を陽極とし
て用い、陽極と陰極を2mmの間隔に保った。電解液は
10質量部の油相及び90質量部の水相でエマルジョン
をなしており、水相の組成はアクリロニトリル約2.0
質量%、K2HPO4約10質量%、K247約3質量
%、エチルトリブチルアンモニウムエチル硫酸塩0.3
質量%、及び若干のアジポニトリル、プロピオニトリ
ル、1,3,6−トリシアノヘキサンを含んだ水溶液で
あり、リン酸でpHを約8に調整した。油相は水相と溶
解平衡をなしており、その組成はアクリロニトリル約2
8質量%、アジポニトリル約62質量%である。
【0054】このエマルジョンを電解面で線速1m/s
ecになるように単一電解槽に循環供給し、電流密度2
0A/dm2、50℃で電解を行った。電解を始めると
同時に、電解液タンクから油水分離器に送られたエマル
ジョンの水相を、約50℃に保温したイミノジ酢酸タイ
プのキレート樹脂(Lewatit(商標)TP20
7、バイエル(株)製)K+型200CCで6CC/A
Hの割合で処理を始め、電解液タンクに循環した。
【0055】同時に油相を連続的に抜き出し、前記電解
液組成を保つようにアクリロニトリル及び水を連続的に
添加し、油相に溶解して抜き出されたエチルトリブチル
アンモニウムエチル硫酸を随時添加した。このようにし
て2000時間電解を行った結果、初期電解電圧は3.
9Vで安定に推移し、発生ガスに含まれる水素は電解終
了時で0.16vol%、陰極の消耗速度は0.21m
g/AH、陽極の消耗速度は0.23mg/AHであ
り、不均一の陽極腐食物はまったくなかった。消費アク
リロニトリルに対するアジポニトリルの収率は90%、
1,3,6−トリシアノヘキサンの収率は7.5%であ
った。
【0056】次に、上記電解で得られた油相を集め、水
抽出処理を行い、アクリロニトリル、プロピオニトリ
ル、水を蒸留除去し、次いで、減圧蒸留によりアジポニ
トリルを除去した。この残渣中のアジポニトリルは1
1.5質量%であった。この残渣液からのアジポニトリ
ルの除去は、径32mmφ、実段数5段の真空外套付蒸
留塔を用いて、アジポニトリルを主成分として含む留分
をバッチ蒸留し、真空度2.0mmHgで塔頂温度12
0〜210℃までの留分を初溜カットすることによって
行い、蒸留残渣(A)を得た。
【0057】この蒸留残渣(A)は、アジポニトリル
4.0質量%、1,3,6−トリシアノヘキサン84.
5質量%、3−シアノメチル−1,5−ジシアノペンタ
ン5.0質量%、高分子量体6.5質量%であるトリニ
トリル化合物を主成分とするトリニトリル混合物(B)
であった。この蒸留残渣(A)からのトリニトリル混合
物の単離をスミス式実験室用分子蒸留装置(神鋼ファウ
ドラー(株)製、2型、電熱面積0.032m2、ガラ
ス製)を用いて行った。真空度0.1mmHg、外壁面
加熱温度180℃、蒸留残渣(A)の供給速度2g/m
inで操作し、供給量2000g、溜出量1150g、
蒸留残渣900gであった。溜出液は、組成が1,3,
6−トリシアノヘキサン93.3質量%、3−シアノメ
チル−1,5−ジシアノペンタン5.8質量%、アジポ
ニトリル0.9質量%からなる黄色のトリニトリル混合
物(C)であった。
【0058】得られたトリニトリル混合物(C)の色相
を測定した結果、L値は98.2、a値は−1.18、
b値は3.68であった。また、トリニトリル混合物の
ハーゼン値は400であった。300mlのナス型フラ
スコに、上記得られたトリニトリル混合物(C)100
g、30%過酸化水素水80gを仕込み、室温で100
時間激しく撹拌することにより処理を行った。液は油水
2相系であり、撹拌後油相を分離し、油相を無水硫酸マ
グネシウムで乾燥した。油相の組成を測定した結果、用
いたトリニトリル混合物(C)と変化はなく、また色相
を測定した結果、L値は99.8、a値は−0.20、
b値は0.11、ハーゼン値は100以下であった。外
観上殆ど無色透明である低色相のトリニトリル混合物で
あった。
【0059】
【実施例2】加水分解反応液の作製 還流冷却器を取り付けた1Lガラス製四ッ口フラスコ
に、実施例1の方法で精製した1,3,6−トリシアノ
ヘキサンを主成分として含む混合物161.2g(1.
0mol)、20%水酸化ナトリウム水溶液780.0
g(3.9mol)、テフロン(登録商標)コートされ
た回転子を加えてオイルバスを用いて110℃に加熱
し、マ0グネティックスターラーで撹拌しつつ、24時
間反応させた。その後、反応液を室温まで冷却した。
【0060】
【実施例3】水を用いた晶析 実施例2で得られた反応溶液を、スルホン酸基を有する
スチレン系陽イオン交換樹脂(アンバーリスト(登録商
標)15WET、ロームアンドハース(株)製)400
0mlを充填したカラムに通液し、更に蒸留水を通液し
てイオン交換されたものを排出させ、排出された水溶液
のpHが6付近になるまでに得られた溶液をエバポレー
ターを用いて加熱濃縮し、1,3,6−ヘキサントリカ
ルボン酸を主成分とする混合物の50質量%水溶液とし
た。
【0061】この水溶液を恒温槽を用いて徐々に冷却
し、最終的に3〜10℃まで冷却することにより晶析を
行った。その際、スリーワンモーターを用いて50〜7
00rpmで撹拌を行う、もしくは静置して冷却を行っ
た。生じた析出物をメンブレンフィルターを用いて吸引
濾過により分離した。白色粉末として1,3,6−ヘキ
サントリカルボン酸161.2 g(収率73.9%)
が得られた。
【0062】得られた1,3,6−ヘキサントリカルボ
ン酸を、前記の東ソー(株)製LC−10A及び、
(株)島津製作所製UV2500PCを用いて分析した
ところ、純度99.6%、L値は99.16、a値は
0.05、b値は0.28であった。更に80℃で18
時間熱安定性試験を行い、同様の方法で色差を測定した
ところL値は98.94、a値は0.02、b値は0.
61であった。また△Eは0.36であった。
【0063】
【実施例4】炭酸ジメチルを用いた晶析 実施例2で得られた反応溶液を、スルホン酸基を有する
スチレン系陽イオン交換樹脂(アンバーリスト(登録商
標)15WET、ロームアンドハース(株)製)400
0mlを充填したカラムに通液し、更に蒸留水を通液す
ることでイオン交換されたものを排出させ、排出された
水溶液のpHが6付近になるまでに得られた溶液をエバ
ポレーターを用いて水を除去した後、真空乾燥機を用い
て完全に乾燥させた。
【0064】得られた1,3,6−ヘキサントリカルボ
ン酸を主成分とする混合物に炭酸ジメチル1800gを
加え、撹拌しつつ70℃に加熱し完全に溶解させた後、
恒温槽を用いて徐々に冷却し、最終的に3〜10℃まで
冷却することにより晶析操作を行った。その際、スリー
ワンモーターを用いて50〜700rpmで撹拌、又は
静置して冷却を行った。生じた析出物をメンブレンフィ
ルターを用いて吸引濾過により分離した。
【0065】白色粉末として1,3,6−ヘキサントリ
カルボン酸195.7g(収率89.7%)が得られ
た。得られた1,3,6−ヘキサントリカルボン酸を、
前記東ソー(株)製LC−10A及び(株)島津製作所
製UV2500PCを用いて分析したところ、純度9
9.1%、L値は99.90、a値は0.18、b値は
0.33であった。更に、80℃で18時間熱安定性試
験を行い、同様の方法で色差を測定したところ、L値は
99.81、a値は0.16、b値は0.84であっ
た。また△Eは0.52であった。
【0066】
【実施例5】tert−ブチルメチルエーテルを用いた
晶析 実施例2で得られた反応溶液を、スルホン酸基を有する
スチレン系陽イオン交換樹脂(アンバーリスト(登録商
標)15WET、ロームアンドハース(株)製)400
0mlを充填したカラムに通液し、更に蒸留水を通液す
ることによりイオン交換されたものを排出させ、排出さ
れた水溶液のpHsが6付近になるまでに得られた溶液
をエバポレーターを用いて水を除去した後、真空乾燥機
を用いて完全に乾燥させた。
【0067】得られた1,3,6−ヘキサントリカルボ
ン酸を主成分とする混合物にtert−ブチルメチルエ
ーテル2000gを加え、撹拌しつつ70℃に加熱し、
完全に溶解させた後、不溶物をメンブレンフィルターを
用いて濾過し取り除き、均一な溶液のみを恒温槽を用い
て徐々に冷却し、最終的に3〜10℃まで冷却すること
により晶析操作を行った。その際、スリーワンモーター
を用いて50〜700rpmで撹拌又は静置して冷却を
行った。生じた析出物をメンブレンフィルターを用いて
吸引濾過により分離した。
【0068】白色粉末として1,3,6−ヘキサントリ
カルボン酸188.5g(収率86.4%)が得られ
た。得られた1,3,6−ヘキサントリカルボン酸を、
前記の東ソー(株)製LC−10A及び(株)島津製作
所製UV2500PCを用いて分析したところ、純度9
9.4%、L値は99.76、a値は0.12、b値は
0.39であった。更に、80℃で18時間熱安定性試
験を行い、同様の方法で色差を測定したところ、L値は
99.59、a値は0.10、b値は0.78であっ
た。また△Eは0.43であった。
【0069】
【実施例6】塩酸法 実施例2で得られた反応溶液を、36%塩酸400ml
(4.0mol)を加え、pHが1以下にあることを確
認した後、得られた溶液からエバポレーターを用いて水
を留去した。次に乾燥したアセトン用いて1,3,6−
ヘキサントリカルボン酸の抽出を行った。溶媒留去後、
1,3,6−ヘキサントリカルボン酸を主成分とする混
合物に精製水218.0gを加え、80℃に加熱して溶
解させ、50%水溶液とした後、恒温槽を用いて徐々に
冷却し、最終的に3〜10℃まで冷却することにより晶
析を行った。その際、スリーワンモーターを用いて50
〜700rpmで撹拌又は静置して冷却を行った。生じ
た析出物をメンブレンフィルターを用いて吸引濾過によ
り分離した。
【0070】白色粉末として1,3,6−ヘキサントリ
カルボン酸163.7g(収率75.0%)が得られ
た。得られた1,3,6−ヘキサントリカルボン酸を、
前記東ソー(株)製LC−10A及び(株)島津製作所
製UV2500PCを用いて分析したところ、純度9
9.3%、L値は99.29、a値は0.03、b値は
0.68であった。更に、80℃で18時間熱安定性試
験を行い、同様の方法で色差を測定したところL値は9
9.51、a値は0.02、b値は0.96であった。
また△Eは0.36であった。
【0071】
【比較例1】還流冷却器を取り付けた1Lガラス製四ッ
口フラスコに、1,3,6−トリシアノヘキサン20.
0g(0.124mol)、20%水酸化ナトリウム水
溶液130.0g(0.707mol)、及びテフロン
(登録商標)コートされた回転子を加えてマグネティッ
クスターラーを用いて撹拌しつつ加熱還流し、5時間反
応させた。 得られた反応混合物の冷却後、氷で冷却し
ながら、濃硫酸68.7g(0.70mol)を滴下し
た。この場合、反応混合物の温度は、20℃を超えない
ようにした。次いで、反応混合物を3回、それぞれte
rt−ブチルメチルエーテル50mlで抽出し、エーテ
ル抽出物を硫酸マグネシウム上で乾燥した。
【0072】エバポレーターを用いて溶媒を留去した
後、残渣をアセトン35ml及びシクロヘキサン50m
lの混合溶媒中に撹拌しつつ導入し、冷却し生じた析出
物をメンブレンフィルターを用いて吸引濾過した。淡黄
色から白色の色相を持った粉末として1,3,6−ヘキ
サントリカルボン酸19.6g(収率72.7%)が得
られた。得られた1,3,6−ヘキサントリカルボン酸
を、前記の東ソー(株)製LC−10A及び(株)島津
製作所製UV2500PCで分析したところ、純度9
2.9%、L値は96.70、a値は1.76、b値は
4.07であった。更に、80℃で18時間熱安定性試
験を行い、同様の方法で色差を測定したところ、L値は
95.40、a値は1.16、b値は8.46であっ
た。また△Eは4.62であった。
【0073】
【比較例2】実施例2で得られた反応溶液に、36%塩
酸 400ml(4.0mol)を加え、pHが1以下
にあることを確認した後、得られた溶液からエバポレー
ターを用いて水を完全に留去した。次に、乾燥したTH
Fを用いてヘキサン‐1,3,6−トリカルボン酸を主
成分とする混合物を抽出し、抽出液を硫酸マグネシウム
を用いて乾燥させた。その後、エバポレーターを用いて
溶媒を留去し、真空乾燥機を用いて完全に乾燥した。
【0074】黄色から白色の色相を持った粉末として
1,3,6−ヘキサントリカルボン酸214.1g(収
率98.1%)が得られた。得られた1,3,6−ヘキ
サントリカルボン酸を、前記の東ソー(株)製LC−1
0A及び(株)島津製作所製UV2500PCを用いて
分析したところ、純度95.6%、L値は95.82、
a値は2.72、b値は11.71であった。更に、8
0℃で18時間熱安定性試験を行い、同様の方法で色差
を測定したところ、L値は94.03、a値は2.3
7、b値は13.27であった。また△Eは2.40で
あった。
【0075】
【比較例3】実施例2で得られた反応溶液を、スルホン
酸基を有するスチレン系陽イオン交換樹脂(アンバーリ
スト(登録商標)15WET、ロームアンドハース
(株)製)4000mlを充填したカラムに通液し、更
に蒸留水でイオン交換されたものを排出させ、排出され
た水溶液のpHが6付近になるまでに得られた溶液を、
エバポレーターを用いて水を留去し、真空乾燥機を用い
て完全に乾燥させた。
【0076】淡黄色から白色の色相を持った粉末として
1,3,6−ヘキサントリカルボン酸207.7g(収
率95.2%)が得られた。得られた1,3,6−ヘキ
サントリカルボン酸を、前記の東ソー(株)製LC−1
0A及び(株)島津製作所製UV2500PCを用いて
分析したところ、純度98.6%、L値は96.39、
a値は0.04、b値は7.32であった。更に、80
℃で18時間熱安定性試験を行い、同様の方法で色差を
測定したところ、L値は95.33、a値は0.11、
b値は8.64であった。また△Eは1.69であっ
た。
【0077】
【発明の効果】本発明の方法において、晶析操作を用い
ることにより、脱色された着色のほとんど無い1,3,
6−ヘキサントリカルボン酸の精製物を得ることができ
る。得られた1,3,6−ヘキサントリカルボン酸は純
度が高く、しかも熱安定性に優れており、加熱用途にも
好適に使用可能である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き Fターム(参考) 4H006 AA02 AC13 AC46 AD15 BB15 BB16 BB17 BB25 BB31 BS10 4K021 AC13 BA06 BA17 BA18 BB02 BB03 BC03 DA13 DB18 DB22 DB31

Claims (5)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 アクリロニトリルの電解還元反応により
    得られるアジポニトリルを主成分とする電解液から、少
    なくとも、電解液中に含まれるトリニトリル成分に対し
    て低沸点成分を除去して、1,3,6−トリシアノヘキ
    サンを主成分とするトリニトリル混合物を分離し、トリ
    ニトリル混合物中の1,3,6−トリシアノヘキサンを
    加水分解し、得られた1,3,6−ヘキサントリカルボ
    ン酸及び/又はその塩を晶析することを特徴とする1,
    3,6−ヘキサントリカルボン酸及び/又はその塩の製
    造方法。
  2. 【請求項2】 晶析工程で用いられる溶媒が、エーテル
    系化合物、エステル系化合物、ケトン系化合物及び水か
    ら選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求
    項1記載の1,3,6−ヘキサントリカルボン酸及び/
    又はその塩の製造法。
  3. 【請求項3】 晶析工程で用いられる溶媒が、水、炭酸
    ジメチル、アセトン、テトラヒドロフラン及びtert
    −ブチルメチルエーテルから選ばれた少なくとも1種で
    ある請求項1記載の1,3,6−ヘキサントリカルボン
    酸及び/又はその塩の製造方法。
  4. 【請求項4】 溶媒が水である請求項3記載の1,3,
    6−ヘキサントリカルボン酸及び/又はその塩の製造方
    法。
  5. 【請求項5】 請求項1〜4のいずれか1項に記載の方
    法により得られる1,3,6−ヘキサントリカルボン酸
    及び/又はその塩。
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